IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファーストリテイリングの特許一覧

<>
  • 特許-マスク 図1
  • 特許-マスク 図2
  • 特許-マスク 図3
  • 特許-マスク 図4
  • 特許-マスク 図5
  • 特許-マスク 図6
  • 特許-マスク 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021192508
(22)【出願日】2021-11-26
(65)【公開番号】P2023079080
(43)【公開日】2023-06-07
【審査請求日】2022-10-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398056827
【氏名又は名称】株式会社ファーストリテイリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】石川(鶴見) 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 徳仁
【審査官】佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-141922(JP,A)
【文献】特開2001-037894(JP,A)
【文献】登録実用新案第3231698(JP,U)
【文献】特開2011-078619(JP,A)
【文献】実開昭53-004799(JP,U)
【文献】特開2007-159796(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156157(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111616436(CN,A)
【文献】特開2009-000200(JP,A)
【文献】特許第6912851(JP,B1)
【文献】特許第6821286(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
A62B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面生地と裏面生地を備えるマスクにおいて、
前記裏面生地の前記表面生地側の表面と前記表面生地の前記裏面生地側の表面にそれぞれ層状の芯地を備え、
前記芯地は、前記裏面生地又は前記表面生地の前記表面に対し、熱圧着により接合され
前記表面生地側の前記芯地と前記裏面生地側の前記芯地との間にフィルターを更に備え
ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記表面生地と前記裏面生地は前中心において圧着接合され、前記圧着接合される前記表面生地と前記裏面生地の接合部が前記表面生地から前側に露出する
ことを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記表面生地及び前記裏面生地は、上端部が左右に連続し、前記上端部よりも下方が左右に分離している形状を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記表面生地及び前記裏面生地は、前記左右に分離された生地部分が前中心において接合されている
ことを特徴とする請求項3に記載のマスク。
【請求項5】
前記裏面生地の前記前中心の下方に補強テープを備え、
前記補強テープは、前記左右に分離された生地部分を跨いで前記裏面生地に接合されている
ことを特徴とする請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
前記表面生地の端部は、前記裏面生地の端部と熱圧着により接合されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項7】
記フィルターの端部は、前記表面生地及び前記裏面生地の各端部と熱圧着により接合されている
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鼻及び口を覆うマスクの素材としては、不織布の他、ガーゼのような織布又は編地等の生地が用いられている。不織布は密度が高いため、フィルター機能に優れるが、肌触りは柔らかい生地の方が良好である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3221095号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルター性能と肌触りを両立させる場合に多層構造にする手法があるが、肌に触れる部分に柔らかい生地を用いたマスクは、型崩れしやすい。そのため、マスクを着用して口から息を吸ったときに生地の一部が口に張り付いてしまい、呼吸しにくいことがある。
【0005】
本発明は、フィルター性能と肌触りを両立させた多層構造のマスクについて、より呼吸しやすく快適に着用できるマスクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、表面生地と裏面生地を備えるマスクである。マスクは、裏面生地の表面生地側の表面と、表面生地の裏面生地側の表面にそれぞれ層状の芯地を備える。また、この芯地は、裏面生地又は表面生地の表面に対し、熱圧着により接合される。また、表面生地側の芯地と裏面生地側の芯地との間に、フィルターを更に備える。
【0007】
本発明の他の一態様は、少なくとも一部が左右に分離している表面生地及び裏面生地について、左右に分離された生地部分が前中心において圧着接合され、その接合部が表面生地から露出するマスクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フィルター性能と肌触りを両立させた多層構造のマスクについて、より呼吸しやすく快適に着用できるマスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のマスクを前側から見た斜視図である。
図2】マスクを後側から見た斜視図である。
図3】本体部の層構造を示す分解図である。
図4】表面生地の展開図である。
図5】A-A線における上端部の断面図である。
図6】B-B線における上端部より下方の断面図である。
図7】耳掛け部の他の接合例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のマスクの実施の形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0011】
なお本明細書において、右とは図面中の方向X1をいい、左とは図面中の方向X2をいう。上とは図面中の方向Z1をいい、下とは図面中の方向Z2をいう。前とは図面中の方向Y1をいい、後ろとは図面中の方向Y2をいう。
【0012】
(マスク)
図1は、本実施形態のマスク10を前側から見た斜視図である。図2は、マスク10を後側から見た斜視図である。
本実施形態のマスク10は、本体部1と耳掛け部2とを備える。本体部1は、着用者の顔及び口を覆う。耳掛け部2は着用者の耳に掛けられ、本体部1を着用者の顔に固定する。
【0013】
(本体部)
本体部1は、マスク10の前中心Mが前側に膨出する立体形状を有する。また本体部1は、多層構造を有する。
【0014】
図3は、本体部1の層構造を示す。
本体部1は、前から後ろに向かって、表面生地11、芯地14a、フィルター13、芯地14b及び裏面生地12をこの順に備える。裏面生地12が着用者の顔と接する。
【0015】
表面生地11の端部は裏面生地12の端部と接合されている。フィルター13は表面生地11と裏面生地12の間に配置され、その端部が表面生地11と裏面生地12の端部に接合されている。
【0016】
各端部は、常温で接着剤により接合されていてもよいが、本実施形態においては熱圧着によって接合されている。熱圧着により接合され、縫製がないマスク10は、ウィルスや花粉等の侵入口となる針孔がなく、縫製された場合に比べてフィルター機能に優れる。接着強度を高めるために、フィルム状の樹脂素材等を接合部分に挟み込み熱圧着するようにしてもよい。
【0017】
熱圧着による接合部は、熱圧着により生地はやや溶融した後、固化するため、各生地の接合部は熱圧着前に比べて硬い。接着剤層がある場合は接着剤が硬化するため、より硬くなりやすい。そのため、接合部は着用者の顔の形状に沿ってフィットしやすく、マスク10の着用感が向上する。
【0018】
表面生地11は、最も前側に配置される編地である。裏面生地12は、最も後側に配置される編地で着用者に触れる面積が一番多い部材である。編地の柔軟性及び平滑性は不織布よりも高く、着用時の肌触りが良好である。
【0019】
編地の素材としては特に限定されず、1種又は2種以上の素材を組み合わせて使用できる。使用できる素材例としては、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリウレタン等の合成繊維が挙げられる。
【0020】
また編地の素材としては、しっとりとした肌触りを付与できるセルロース繊維等も使用できる。セルロース繊維としては、キュプラと呼ばれる銅アンモニアレーヨン(例えば、旭化成社製のベンベルク(登録商標)等)、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン、又は精製セルロース繊維等が挙げられる。
【0021】
熱圧着により生地同士を接合できる素材であれば、上記合成繊維にセルロース繊維やコットン等の天然繊維等を組み合わせた複合繊維も使用できる。
【0022】
編地の編組織としては、フライス、スムース、天竺、ベア天竺、鹿の子、片袋、ポンチローマ、ミラノリブ、又はパール編等が例示される。着用のしやすさの観点からは、伸度及び弾力性が高い緯編地が好ましい。マスク10のフィット性を高める観点からは、ベア天竺が好ましい。
【0023】
表面生地11及び裏面生地12は、通気性に優れた編地であることが好ましい。マスク10内部に呼気がこもりにくく、着用時の不快感を減らすことができる。通気性は、使用する繊維、繊維の細さ、又は編組織等によって高めることができる。
【0024】
例えば、キュプラ等のセルロース繊維の割合を減らし、ポリエステル等の合成繊維の割合を増やした編地は通気性に優れ、表面生地11及び裏面生地12の編地として好ましく使用することができる。
【0025】
通気性に優れた編組織としては、例えばハニカムメッシュ、ダブルフェイス、鹿の子等が挙げられる。
【0026】
着用者の顔に接する裏面生地12は、接触冷感を有してもよい。接触冷感は、上述したポリアミド、ポリオレフィン、又はポリウレタン等の合成繊維を用いることにより高めることができる。
【0027】
接触冷感を有し、かつ肌触りも良好な編地としては、例えば、単糸繊度が0.8~4dtexのセルロース繊維を20質量%以上使用した編地であって、編地の充填密度が0.26~0.5g/mの編地を使用してもよい。この編地は、吸湿性及び消臭機能にも優れる。
【0028】
他にも、セルロース繊維と合成繊維とが混繊された複合糸条と、合成繊維の糸条とが交編されたベア天竺の編地であって、編地におけるセルロース繊維の割合が20%以上の編地を使用してもよい。
【0029】
マスク10は、裏面生地12の表面に芯地14bを備え、芯地14bによって裏面生地12のコシ又は剛度が高められている。本体部1は前側に膨出し、裏面生地12と着用者の口の間には一定の空間が形成されている。柔らかい裏面生地12は呼吸時の空間内の圧力変化によって変形しやすいが、芯地14bによってこの変形を抑えて呼吸しやすい空間を保つことができる。
【0030】
芯地14bは、裏面生地12の前側、つまり裏面生地12と表面生地11の間に配置される。芯地14bと着用者の肌が接することはないため、裏面生地12の優れた肌触りを阻害することもない。
【0031】
本実施形態において、マスク10は、表面生地11の表面にも芯地14aを備える。これにより、表面生地11の変形も抑えることができ、本体部1の前側へ膨出する形状の保形性がさらに高まる。
【0032】
芯地14aは、表面生地11の後側、つまり表面生地11と裏面生地12の間に配置される。よって、表面生地11の外観を維持することができる。
【0033】
芯地14a及び14bとしては、例えば織布又は不織布を使用することができ、本体部1の立体形状の保形性の観点からは不織布が好ましい。不織布は、一般的に繊維がランダムに配向し、繊維の移動が少ない。そのため、規則的な織構造を有する織布に比べて変形しにくく、保形性が高い。また不織布は、ランダムに配向する繊維がフィルターとしても機能する点からも好ましい。
【0034】
芯地14a及び14bの繊維素材としては、例えばレーヨン等のセルロース繊維、コットン等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル又はナイロン等の合成繊維が挙げられる。不織布の製造が容易な点からは合成繊維が好ましく、保形性の観点からは機械的強度に優れたポリプロピレンがより好ましい。
【0035】
本実施形態において、芯地14aは表面生地11の表面に熱圧着され、芯地14bは裏面生地12の表面に熱圧着される。保形性の観点から、芯地14a又は14bは、表面の全面に熱圧着されることが好ましい。また剥がれ抑制の観点からは、芯地14aと表面生地11の間又は芯地14bの間に接着剤層が介在してもよい。
【0036】
保形のために、芯地14a及び14bをフィルター13に接合することは難しい。フィルター13を直接熱圧着すると溶融してそのシート形状が失われやすく、また接着剤を使用すると目詰まりし、そのフィルター機能が失われやすいためである。マスク10は、編地である表面生地11及び裏面生地12を備えるため、これらに芯地14a及び14bを熱圧着することが可能である。
【0037】
フィルター13は、表面生地11又は裏面生地12よりも密度が高く、花粉等の異物の遮蔽率を高めることができる。
【0038】
本実施形態のフィルター13は単層構造であるが、フィルター13は多層構造であってもよい。複数のフィルター13は、着用者に近いほどろ過効率が高くなるように配置され得る。
【0039】
衛生性の観点からは、フィルター13のバクテリア(細菌)ろ過効率(BFE:Bacterial Filtration Efficiency)が高いことが好ましい。BFEは、ASTM規格 F2101に準拠して測定される。
【0040】
花粉拡散を抑える観点からは、フィルター13の花粉ろ過効率が高いことが好ましい。飛沫拡散を抑える観点からは、微粒子ろ過効率(PFE:Particle Filtration Efficiency)が高いことが好ましい。PFEは、ASTM規格 F2299に準拠して測定される。
【0041】
フィルター13の例としては、nm単位の極細繊維、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のナノファイバーを用いた不織布シート、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成繊維の不織布シート等が挙げられる。
【0042】
本実施形態において、マスク10は、本体部1の前中心Mの下方に補強テープ15を備える。補強テープ15は、裏面生地12の表面に接合される。補強テープ15としては、裏面生地12と同じ生地を用いることができる。
【0043】
(耳掛け部)
耳掛け部2は、本体部1の左右両端に設けられるループ状のテープ部材である。例えば、テープ部材は伸縮性を有するゴムひも等である。本体部1の左右の端部において、テープ部材の一端が本体部1の上側に接合され、他端が本体部1の下側に接合されて、ループが形成される。
【0044】
耳掛け部2は、アジャスター20を備えることができる。例えば、アジャスター20は、リング部材であるスライダー21とストッパー22とを備える。テープ部材は、ストッパー22のリング内に通されている。ストッパー22付近を起点にテープ部材は折り返され、束ねられたテープ部材の両端がスライダー21のリング内に通されている。
【0045】
テープ部材の長さ方向に沿ってこのスライダー21をスライドすることにより、テープ部材のループ部分の長さを調整することができる。スライダー21のスライド位置はストッパー22によって係止されるため、テープ部材21からのスライダー21の脱落を防止できる。
【0046】
(マスクの製造方法)
マスク10は、本体部1を形成し、当該本体部1に耳掛け部2を接合することにより、形成され得る。本体部1は、本体部1を構成する各生地を積層し、その端部を接合することにより、形成される。
【0047】
接合前の表面生地11、裏面生地12、フィルター13、芯地14a及び14bは、前中心Mにおいて左右対称の形状を有する。
【0048】
図4は、表面生地11の展開図である。裏面生地12、フィルター13、芯地14a及び14bも、表面生地11と同じ形状を有する。
【0049】
表面生地11は、上端部1aが前中心Mにおいて左右に連続し、上端部1aより下方が前中心Mにおいて左右に分離されている形状を有する。
【0050】
左右に分離された生地部分w1及びw2の離間距離dは、下方に向かうほど長い。そのため、生地部分w1及びw2の前中心M側の側端1bは、湾曲する形状を有する。
【0051】
まず表面生地11に芯地14aが重ねられ、熱圧着される。裏面生地12にも芯地14bが重ねられて熱圧着される。表面生地11に接合された芯地14aの表面にフィルター13が重ねられる。フィルター13上には、芯地14bがフィルター13と対面するように裏面生地12が重ねられ、5層の積層体が形成される。なお、フィルター13は裏面生地12と圧着するようにしてもよい。その場合は後側から裏面生地12、芯地14b、フィルター13の3層を順に圧着すればよい。
【0052】
上記積層体は、側端1bを除く端部が熱圧着された後、前中心Mに沿って折り返される。このとき、裏面生地12の生地部分w1の側端1bと裏面生地12の生地部分w2の側端1bとが、互いに対面する。折り返された状態で、積層体の前中心Mの下方、つまり側端1bの端部が熱圧着される。
【0053】
積層体の圧着には高周波溶着を用いるようにしてもよい。高周波溶着とはプラスチック素材、フィルム、シートなどの熱可塑性の絶縁体に、電波の一種である高周波の強い電界を与え、自己発熱によってフィルムやシート等を融合、溶着させる技術である。
【0054】
これにより、表面生地11、芯地14a、フィルター13、芯地14b及び裏面生地12が前中心Mと外周において接合され、本体部1が形成される。図4中の点線は、接合部の端部を示す。
【0055】
側端1bの接合部は、マスク10の着用時に前中心Mに位置し、表面生地11から前側に露出する。側端1bの接合部は、他の箇所よりも硬く湾曲した状態を保つことが可能であるため、前中心Mに沿って前側に膨出する立体形状が形成される。これにより、裏面生地12と着用者の口の間に空間が形成され、呼吸がしやすくなる。
【0056】
また前中心Mの熱圧着により、本体部1の前中心Mに折り目ができるため、顔から外したマスク10を机の上に置いたときに自然にマスク10が折りたたまれる。顔と接触するマスク10の裏面生地12が露出しにくく、衛生性に優れる。
【0057】
接合された側端1bの下端部においては、裏面生地12の上に補強テープ15が接合される。接合方法は接着剤でも熱圧着でもよい。補強テープ15は、前中心Mにおいて接合された生地部分w1及びw2を跨いで裏面生地に接合されるため、生地部分w1及びw2の裂けを抑えることができ、耐久性が高いマスク10を提供できる。
【0058】
次いで、耳掛け部2のテープ部材にアジャスター20が取り付けられる。このテープ部材の両端部が、本体部1の左端部の上側と下側にそれぞれ熱圧着される。本体部1の右端部においても同様にテープ部材が熱圧着され、耳掛け部2が形成される。着用者の肌との接触を避けるため、通常、テープ部材は表面生地11の表面に接合される。
【0059】
上記テープ部材の熱圧着時、エンボス加工により凹凸構造を有する接合部を形成することが好ましい。テープ部材には伸縮による負荷が加わりやすいが、凹凸構造によって耳掛け部2のテープ部材と表面生地11とが係合し、テープ部材の剥がれを抑えることができる。
【0060】
側端1b及び耳掛け部2の圧着には例えば超音波溶着を用いる。超音波溶着は、超音波振動を一方の部材に与え圧着面の摩擦熱により樹脂を溶融させながら圧着する手法である。高周波溶着も超音波溶着も、溶着対象でない部材まで加熱し変質させてしまうことを抑制しながら、比較的短時間で熱可塑性素材を溶着させることが可能である。
【0061】
図5は、A-A線における断面図である。A-A線は、本体部1の上端部1aを前中心Mにおいて切断する。図6は、B-B線における断面図である。B-B線は、本体部1の上端部1aより下方を前中心Mにおいて前中心Mに直交する方向に切断する。
【0062】
表面生地11の上端部1aは裏面生地12の上端部1aと、フィルター13の上端部1aを挟んで接合されている。よって、上端部1aにおいて重ねられる生地の枚数は、芯地14a及び14bを含めて5枚である。
【0063】
一方、上端部1aより下方においては、表面生地11、フィルター13及び裏面生地12の積層体同士が重ねられる。よって、前中心Mにおいては芯地14a及び14bを含めて合計10枚の生地が重ねられる。
【0064】
縫製により接合する場合、生地の端処理のため、重ね合わせる生地を内側に折り込んで縫製することが一般的である。生地の折り込みによって端部が厚くなりやすい。特に、上端部1aが前中心Mにおいて左右に連続しておらず、上端部1aより下方の領域と同様に分離されている場合、折り返しにより、2倍の枚数の生地が重ねられることになる。
【0065】
これに対し、本実施形態のように熱圧着により接合する場合、生地の端部は溶融して固まるため、端処理が不要である。よって、生地の折り返しも不要であり、芯地14a及び14bを用いても端部を薄くすることができる。特に、着用者の鼻に当接する上端部1aが薄いと、突出する鼻及び湾曲する頬の形状に合わせて変形しやすく、凹凸を有する顔のラインに沿って密着する。したがって、鼻に当接する部分にワイヤ等を設けることなく、フィット性に優れたマスク10を提供できる。
【0066】
上端部1aの領域は、適宜設定することができる。例えば、上端部1aは、本体部1の上端から1.5~5.0cm程度の領域である。なかでも上端部1aは上端から2.5~4.0cmの領域であることが好ましい。上端から1.5cm以上であれば、十分なフィット性が得られやすく、上端から5.0cm以下であれば前中心Mの接合部が鼻より下に位置しやすく、呼吸しやすい空間が形成されやすい。
【0067】
表面生地11、芯地14a、フィルター13、芯地14b及び裏面生地12のサイズは、上記上端部1aの領域のサイズに熱圧着により接合する領域のサイズを考慮して決定することができる。
【0068】
以上のように、本実施形態によれば、表面生地11と裏面生地12を備えるマスク10において、裏面生地12に芯地14bが接合される。芯地14bによって呼吸時の裏面生地12の変形を抑えることができるため、着用者の口に裏面生地12が張り付きにくく、呼吸しやすいマスク10を提供することができる。表面生地11にも芯地14aを接合することにより、本体部1の立体形状をより維持しやすく、呼吸のしやすさがさらに高まる。
【0069】
本体部1を構成する表面生地11、裏面生地12及びフィルター13は、上端部1aが左右に連続し、上端部1aより下方が左右に分離する形状を有する。左右に分離された生地部分w1及びw2を前中心Mにおいて接合することにより、前中心Mにおいて前側に膨出する本体部1の立体形状を形成することができる。
【0070】
この立体形状によって着用者の口と本体部1との間に空間を確保することができ、呼吸しやすくなる。上記芯地14bによって本体部1の保形性を高めることにより、より呼吸がしやすいマスク10を提供することが可能である。
【0071】
不織布よりも柔らかい編地を用いたマスクは、前側に膨出する立体形状を維持することは難しく、通常は長方形状の生地を重ねて縫製しただけの平面状に形成される。もしくは、多数の生地を重ねる等して厚みを増すことによって立体形状を維持する強度を高めている。これに対し、本実施形態によれば、薄い編地を用いた場合でも立体形状の保形性が高いマスク10を提供することができる。
【0072】
マスク10は、本体部1に編地を使用しており、洗濯可能である。汚れを落として繰り返し使用した場合も衛生性を維持することができる。また補強テープ15により前中心Mにおける本体部1の裂けが抑えられるため、繰り返しの洗濯に強いマスク10を提供できる。
【0073】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、種々の変形及び変更が可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態において、耳掛け部2の端部は、本体部1の端部と重なる領域すべてにおいて接合されていたが、耳掛け部2の接合はこれに限られない。図7に示すように、表面生地11から裏面生地12までが接合された本体部1の外周の端部より内側の領域において、耳掛け部2の端部が接合されてもよい。
【0075】
これにより、本体部1の形成時に熱圧着されなかった本体部1の領域に耳掛け部2を熱圧着することができ、耳掛け部2の接合強度を高めて耳掛け部2の剥がれを抑えることができる。
【0076】
耳掛け部2の接合部は楕円形状であってもよい。これにより、耳掛け部2への負荷が複数の方向から均等に加わりやすく、負荷が一方向から集中することによる耳掛け部2の剥がれを抑えやすい。
【0077】
本体部1の前中心Mにおいて側端1bの接合部は下方に位置するため、よりマスクのフィット性を高める観点から、接合されていない上端部1aに鼻当て部材が配置されてもよい。鼻当て部材としては、例えば熱可塑性樹脂でコーティングされたワイヤ部材を用いることができる。このようなワイヤ部材は、上端部1aにおいて表面生地11の後側に芯地14aを圧着した後、当該芯地14aの面に圧着して設けることができる。
【0078】
また本体部1に用いられる生地は、上端部1aが前中心Mにおいて左右に連続するが、この上端部1aも前中心Mに沿って圧着されてもよい。これにより、前中心Mに沿って表面生地11から前側に露出する接合部が形成され、前中心Mに膨出する形状がより維持されやすい。
【0079】
接合部の強度を高める観点からは、接合部に沿って本体部1の各生地の一部又は全部が縫着されていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
10・・・マスク、1・・・本体部、11・・・表面生地、12・・・裏面生地、1a・・・上端部、w1、w2・・・分離された生地部分、1b・・・分離された生地部分の側端、13・・・フィルター、14a、14b・・・芯地、15・・・補強テープ、2・・・耳掛け部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7