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7445647樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、並びに、これらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、並びに、これらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20240229BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240229BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20240229BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08L23/04
C08L27/12
C08K5/524
C08K5/134
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021511528
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013252
(87)【国際公開番号】W WO2020203528
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019067611
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安本 憲朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大石 真之
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066584(WO,A1)
【文献】特表2016-518512(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/04
C08L 27/12
C08K 5/524
C08K 5/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(A)と、
分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B)と、
分子内に下記式(1)で示される構造を1つ、又は、3つ以上有するフェノール系酸化防止剤(C)と、を含み、且つ、
フェノール系酸化防止剤として、分子内に下記式(1)で示される構造を1つ、又は、3つ以上有するフェノール系酸化防止剤のみを含有する、
を含む樹脂組成物。
(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を示し、*は、結合部位を示す。)
【請求項2】
前記ホスファイト系酸化防止剤(B)は、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、分子内にフェノール性水酸基を有する他のホスファイト系酸化防止剤(B’)を含み、
前記ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量が、組成物中のホスファイト系酸化防止剤の全量100質量部に対して、60質量部以上である請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記フェノール系酸化防止剤(C)は、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、及び、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量が、組成物中の酸化防止剤の全量100質量部に対して、25~100質量部である請求項1~請求項のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形した成形体。
【請求項7】
シート状又はフィルム状である、請求項に記載の成形体。
【請求項8】
二次加工が施された請求項又は請求項に記載の成形体。
【請求項9】
請求項~請求項のいずれか一項に記載の成形体を用いた膜構造物。
【請求項10】
請求項~請求項のいずれか一項に記載の成形体を用いた建造物。
【請求項11】
基材として、請求項~請求項8のいずれか一項に記載の成形体を用いた粘着成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、並びに、これらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体に関する。更に詳細には、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂組成物、樹脂組成物を用いた成形体、それらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(以下、「ECTFE」と称することがある。)は、耐候性、耐薬品性、耐汚染性、撥水性、絶縁性、低摩擦性、電気絶縁性の他、低吸湿性、水蒸気バリア性、低薬品透過性、難燃性、耐延焼性などに優れることから、半導体製造機器の構造部品、各種耐蝕ライニング等に使用されている。また、ECTFEは、フィルム成形が可能であることから、表面保護フィルム、太陽電池用部材フィルム、離形フィルム、膜構造物用フィルム等の各種用途に幅広く使用されている。
【0003】
また、ECTFEは、対象物を覆うために用いられるシート等用の材料として用いられることが多い。このため、対象物を、シートを介して視認できるように優れた透明性が求められている。また、ECTFEは、シート状等に押出成形するときの高温条件下で酸性ガスが発生しやすいという問題があり、酸化防止剤等の各種安定剤の添加が行われていた(例えば、下記特許文献1~7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-270969号
【文献】特表2013-543027号
【文献】特開平10-77318号
【文献】特開昭60-188447号
【文献】米国特許US5051460号明細書
【文献】米国特許US4775709号明細書
【文献】米国特許US4539354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ECTFEを用いたシート等の成形体は、屋外で用いた場合、太陽光や紫外線に曝されることによって成形体に含まれる酸化防止剤が経時的に劣化、黄変し、シートの透明性、外観が損なわれる課題がある。また、酸化防止剤を添加しない場合や酸化防止剤の種類によっては、同環境下でシートが白濁するという課題がある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決すべく、太陽光及び紫外線に曝された場合でも、優れた透明性を維持でき、白濁、黄変を生じにくい樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、並びに、これらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するべく鋭意研究を行った結果、分子内にフェノール基を有さない、即ちフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤を含有するエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂組成物を用いたときに、上述の課題が解決し得ることを見出し、以下に例示される本発明に至った。特に好ましい態様として、本発明の樹脂組成物中のホスファイト系酸化防止剤の分子内にフェノール基を有さないことが、従来の同種の樹脂組成物とは異なる点であり、本発明による課題解決のための大きな要因であると考えられる。
【0008】
<1> エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(A)と、
分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B)と、
を含む樹脂組成物。
<2> 前記ホスファイト系酸化防止剤(B)は、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシンから選ばれる少なくとも1種である、前記<1>に記載の樹脂組成物。
<3> さらに、分子内にフェノール性水酸基を有する他のホスファイト系酸化防止剤(B’)を含み、前記ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量が、組成物中のホスファイト系酸化防止剤の全量100質量部に対して、60質量部以上である、前記<1>又は前記<2>に記載の樹脂組成物。
<4> さらに、分子内に下記式(1)で示される構造を1つ、又は、3つ以上有するフェノール系酸化防止剤(C)を含む、前記<1>~前記<3>のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を示し、*は、結合部位を示す。)
<5> 前記フェノール系酸化防止剤(C)は、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]から選ばれる少なくとも1種である前記<4>に記載の樹脂組成物。
<6> 前記ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量が、組成物中の酸化防止剤の全量100質量部に対して、25~100質量部である前記<1>~前記<5>のいずれかに記載の樹脂組成物。
<7> 前記<1>~前記<6>のいずれかに記載の樹脂組成物を成形した成形体。
<8> シート状又はフィルム状である、前記<7>に記載の成形体。
<9> 二次加工が施された前記<7>又は前記<8>に記載の成形体。
<10> 前記<7>~前記<9>のいずれかに記載の成形体を用いた膜構造物。
<11> 前記<7>~前記<9>のいずれかに記載の成形体を用いた建造物。
<12> 基材として、前記<7>~前記<9>のいずれかに記載の成形体を用いた粘着成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、太陽光及び紫外線に曝された場合でも、優れた透明性を維持でき、白濁、黄変を生じにくい樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、並びに、これらを用いた膜構造物、建造物及び粘着成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<ECTFE樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(A)と、分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B)と、を含む。以下、ECTFEを含む樹脂組成物を「ECTFE樹脂組成物」と称することがある。
本実施形態の樹脂組成物によって、上述のような白濁(白化)及び黄変抑制効果が得られる理由については明らかではない。しかし、後述する実施例と比較例との対比からわかるように、種々のホスファイト系酸化防止剤を用いたECTFE樹脂組成物の評価を実施した際、分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤を用いたECTFE樹脂組成物が紫外線に曝されても、優れた透明性を維持でき、白濁、黄変を生じにくいという実験結果を得た。この結果から、ホスファイト系酸化防止剤の分子内にフェノール性水酸基(フェノール基)が含まれていると、ホスファイトの加水分解によって分子量の小さいフェノール性物質が生成し、それらが紫外線によって励起されて二量化することで、黄変の原因物質が生成するものと考えられる。また、ECTFE樹脂組成物に酸化防止剤を添加しない場合は、太陽光や紫外線等によって樹脂の分解が促進され、分解物が樹脂組成物内部で発泡することで白濁すると考えられる。本実施形態の樹脂組成物を用いると、酸化防止剤の添加の点から、相反する現象である白濁の発生と黄変とを、両方とも抑制することができる。特に、本実施形態の樹脂組成物を用いると長期にわたり白濁発生抑制効果を発揮することができる。
【0012】
[エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(A)]
エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(A)(ECTFE)は、エチレン(以下、「Et」と称することがある)とクロロトリフルオロエチレン(別名「三フッ化塩化エチレン」、以下、「CTFE」と称することがある)の共重合体である。
本実施形態において、ECTFEは、EtモノマーとCTFEモノマーとのみからなる共重合体に限定されない。本実施形態におけるECTEFには、Etモノマー、CTFEモノマーの他に、例えば、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン、[4-(ヘプタフルオロイソプロピル)パーフルオロブチル]エチレン等を、第3モノマーとして使用した共重合体等も含まれる。
【0013】
EtとCTFEとの共重合における各構成単位の組成比(モル比)は、19F NMR、FT-IR等の手法で測定することができる。ECTFE中のEtとCTFEとの比(Et/CTFE比)は、特に限定されないが、好ましくは30/70~70/30であり、より好ましくは40/60~60/40である。Etモノマー比率が70以下であると、相対的にCTFEのモノマー比率が低下し過ぎないため、フッ素樹脂の特徴である透明性、耐候性、防汚性等を損なわないようにすることができる。また、CTFEモノマー比率が70以下であると、高温使用時における酸性ガス発生量が高くなり過ぎないようにすることができる。
【0014】
本実施形態に用いるECTFEは、任意のEt/CTFE比のECTFEを単独で使用してもよいし、2種類以上の異なるEt/CTFE比のECTFEと混合して使用してもよい。
本実施形態において、ECTFEの樹脂組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、透明性維持の観点から、70~99.9質量%であることが好ましく、80~99.9質量%であることがさらに好ましく、90~99.9質量%であることが特に好ましい。
更に、本実施形態のECTFE樹脂組成物の透明性を阻害しない範囲で、必要に応じECTFE以外の樹脂を添加してもよい。ECTFE以外の樹脂として、例えば、エチレンとクロロトリフルオロエチレンとそれ以外の第3モノマーとのターポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのターポリマー等が挙げられる。
【0015】
[酸化防止剤]
(分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B))
本実施形態のECTFE樹脂組成物は、少なくとも、分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B)を含有する。ここで、「ホスファイト系酸化防止剤」とは、分子内に亜リン酸エステル構造を有する酸化防止剤を意味する。
ホスファイト系酸化防止剤(B)は、特に限定されるものではないが、特に、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-6-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が好ましい。
ホスファイト系酸化防止剤(B)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
これらのホスファイト系酸化防止剤(B)をECTFEに添加することにより、太陽光等に対する白化及び黄変抑制効果に加えて、高い耐熱性と、ECTFEとの相溶性とを両立することができる。
【0016】
また、本実施形態に用いるホスファイト系酸化防止剤は、融点が好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上である。融点が100℃以上であると、製膜時にホスファイト系酸化防止剤がシート表面にブリードアウトするおそれや、ホスファイト系酸化防止剤の分解による着色のおそれを回避することができる。
【0017】
また、後述のように、フェノール系酸化防止剤など他の酸化防止剤を用いた場合、フェノール系酸化防止剤や他の酸化防止剤が酸化防止剤としての役目を果たして酸化物となると、当該酸化物によって着色が生じることがある。このような場合、ホスファイト系酸化防止剤(B)がこれら酸化物を還元することで樹脂組成物又はその硬化物の着色を防止することができる。したがって、特に限定はされるものではないが、フェノール系酸化防止剤など他の酸化防止剤を用いる場合、ホスファイト系酸化防止剤(B)による他の酸化防止剤の還元効果(着色防止)の観点で、ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量は、組成物中の酸化防止剤の全量100質量部に対して、25~100質量部であることが好ましく、50~100質量部であることが更に好ましく、75~100質量部であることが特に好ましい。
【0018】
なお、本実施形態の樹脂組成物は、ホスファイト系酸化防止剤(B)に加えて、他の酸化防止剤として、分子内にフェノール性水酸基を有する他のホスファイト系酸化防止剤(B’)を含んでもよい。但し、太陽光等に対する白化及び黄変抑制効果を十分に発揮させる観点から、組成物中のホスファイト系酸化防止剤の全量(即ち、ホスファイト系酸化防止剤(B)と(B’)との総量)100質量部に対する、ホスファイト系酸化防止剤(B)の含有量が、60質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部であることが特に好ましい。
【0019】
本実施形態における酸化防止剤の樹脂組成物への添加方法としては、ECTFE原料の造粒工程で予め添加してもよいし、ECTFE樹脂組成物のシートを製造する工程で、未添加のECTFE原料と溶融混合しながら添加してもよい。
ホスファイト系酸化防止剤(B)の樹脂組成物中の含有量は、本実施形態において特に限定されないが、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%である。前記含有量が1.0質量%以下であると、ECTFE樹脂組成物の透明性が低下し過ぎることを防ぐことができる。また、前記含有量が0.01質量%以上であると、十分な酸性ガス低減効果が得られる。
【0020】
(フェノール系酸化防止剤)
本実施形態の樹脂組成物は、ホスファイト系酸化防止剤に加えて、フェノール系酸化防止剤を更に含有することができる。ホスファイト系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とは、樹脂の酸化防止機構が異なるため、それらを併用することが酸性ガス発生量低減の観点からより好ましい。ここで、フェノール系酸化防止剤とは、フェノール構造(COH)を有する酸化防止剤を意味する。但し、本実施形態においては、フェノール構造とホスファイト構造との両者を含む酸化防止剤については、ホスファイト系酸化防止剤とみなす。
【0021】
フェノール系酸化防止剤としては、特に限定はないが、分子内に下記式(1)で示される構造を1つ又は3つ以上有するフェノール系酸化防止剤(C)が好ましく、より好ましくは式(1)で示される構造を3つ以上有するフェノール系酸化防止剤である。
【化2】

(式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を示し、*は、結合部位を示す。)
【0022】
式(1)において、Rは、水素原子、又は、炭素数1~4のアルキル基を示す。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基が挙げられ、メチル基、t-ブチル基が好ましい。また、2つのRはお互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
黄変の抑制の観点から、式(1)で示される構造例としては、以下の構造(A)~(D)が好ましく、構造(D)が特に好ましい。
【0023】
(A)一方のRがメチル基で、他方のRが水素又は他のアルキル基である式(1)で示される構造
(B)一方のRがt-ブチル基で、他方のRが水素又は他のアルキル基である式(1)で示される構造
(C)2つのRが共にメチル基である式(1)で示される構造
(D)2つのRが共にt-ブチル基である式(1)で示される構造
【0024】
構造(D)はフェノール基の近傍に2つのtert-ブチル基が存在するヒンダードタイプのものであり、黄変の原因となる二量化を起こしにくいと考えられる。式(1)で示される構造が1つの場合は比較的分子が小さく、樹脂中に均一に分散させることができる。また、必ずしも明らかではないが、式(1)で示される構造を3つ以上有するフェノール系酸化防止剤は、樹脂分解の原因となるラジカル等の分解生成物を効率的に捕捉することができると推測される。
【0025】
フェノール系酸化防止剤(C)としては、例えばヒンダード又はセミヒンダード系酸化防止剤が挙げられる。この中でも、フェノール系酸化防止剤(C)としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル、1,6-ヘキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等が好ましい。
なお、フェノール系酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
フェノール系酸化防止剤(C)として、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]を用いると、酸性ガス発生量の低減、高透明性、酸化防止剤の耐熱性、耐候性、黄変のし難さに優れる。
また、フェノール系酸化防止剤(C)として、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリルを用いると、黄変のし難さに優れ、かつ酸性ガス発生量低減効果と高透明性とを両立することができる。
【0027】
本実施形態で使用するフェノール系酸化防止剤は、融点が好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃である。融点が100℃以上であると、製膜時にフェノール系酸化防止剤がシート表面にブリードアウトするおそれや、フェノール系酸化防止剤の分解による着色のおそれを回避することができる。
【0028】
フェノール系酸化防止剤の樹脂組成物への添加方法としては、ECTFE原料の造粒工程で予め添加してもよいし、樹脂組成物のシートを製造する工程で、未添加のECTFE原料と溶融混合しながら添加してもよい。
本実施形態の樹脂組成物中のフェノール系酸化防止剤(C)の含有量は、本実施形態において特に限定されないが、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%である。前記含有量が1.0質量%以下であると、本実施形態の樹脂組成物の黄変を抑えかつ透明性が低下し過ぎることを防ぐことができる。また、前記含有量が0.01質量%以上であると、十分な酸性ガス低減効果が得られる。
【0029】
[他の添加剤]
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて更に、公知の熱安定剤や安定化助剤等を含有してもよい。熱安定剤としては、有機イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシアミン、有機スズ化合物、β-ジケトンなどが挙げられる。
なお、熱安定剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
熱安定剤、安定化助剤等の本実施形態の樹脂組成物への添加方法としては、ECTFE原料の造粒工程で予め添加してもよいし、本実施形態の樹脂組成物のシートを製造する工程で、未添加のECTFE原料と溶融混合しながら添加してもよい。
熱安定剤、安定化助剤の樹脂組成物中の含有量としては、特に限定はないが、総量として0.01~1.0質量%とすることができる。1.0質量%以下であると、ECTFE樹脂組成物の透明性が低下し過ぎること防ぐことができる。0.01質量%以上であると、十分な酸性ガス低減効果が得られる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物は、透明性、色調、光沢性、耐熱性、耐候性、黄変のし難さシート外観等を、実用上損なわない範囲で、さらに、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、受酸剤、帯電防止剤、防曇剤、流滴剤、親水剤撥液剤等を添加することができる。添加方法としては、樹脂組成物を混練する際に添加しても良いし、本実施形態の樹脂組成物からシートを製造した後にシート表面に塗布してもよい。
【0032】
また、本実施形態の樹脂組成物は、黄変のし難さや透明性を損なわない範囲で、必要に応じ顔料を添加することができる。好適な顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸金属塩、シリカ、カーボンブラック、アセチレンブラック、クロムイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等が挙げられるが、特に限定されない。
【0033】
<ペレット状樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、様々な方法で作製できる。ここでは、ペレット状樹脂組成物の製造方法について述べる。
【0034】
ペレット状樹脂組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、押出機を用いた溶融混練法等により製造する方法が挙げられる。ECTFE樹脂及び酸化防止剤をそれぞれが未溶融の状態で予備混合させた後、押出機内で溶融させ、均一に混合させる。その後、ストランド状に押し出し、混練物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化することにより、ペレット状のECTFE樹脂組成物ができる。押出機としては、単軸スクリュー型、二軸スクリュー型、タンデム型等が一般的なものとして使用できるが、ECTFE樹脂と酸化防止剤との均一分散の観点から、二軸スクリュー型押出機が好ましい。
【0035】
<成形体>
本実施形態の樹脂組成物は、様々な形状に成形し成形体とすることができる。例えば、本実施形態の樹脂を用いた成形体は、シート状又はフィルム状など目的に応じて種々の形状とすることができる。また、本実施形態の成形体には、目的に応じて、二次加工を施すことができる。二次加工については後述する。
以下、シート状の成形体(以下、単に「シート」と称することがある)を例として本実施形態の成形体及びその製造方法について述べる。
【0036】
シートの製造方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、押出機とフィードブロックダイ又はマルチマニホールドダイ等の各種Tダイとを用いた溶融押出し法等により成形する方法が挙げられる。押出機としては、単軸スクリュー型、二軸スクリュー型、タンデム型等が一般的なものとして使用できるが、押出機系内における樹脂の滞留を防止する点で、単軸スクリュー型押出機が好ましい。また押出機を複数台用い、本実施形態の樹脂組成物と前記添加剤とを含む他のECTFE樹脂組成物を共押出し、積層してもよい。
【0037】
前記単軸押出機に使用するスクリュー形状としては、過度なせん断発熱を伴わない構成であれば、特に限定されないが、過剰なせん断をかけずに溶融押出しする上で、フルフライトスクリューがより好ましい。
【0038】
前記スクリューの圧縮比の範囲は、好ましくは1.8~3.0、より好ましくは2.1~2.7である。当該圧縮比が1.8~3.0の範囲内にあると、ECTFEが十分に可塑化されず、一部の樹脂が未溶融物のままスクリーンメッシュに捕捉され、目が詰まる事で樹脂圧が上がり易くなったり、シート中に未溶融物が欠点として混入することを抑制することができ、また、過剰なせん断発熱により、酸性ガス発生量が多くなり過ぎてしまう抑制することができる。
【0039】
前記押出機のスクリュー長(L)とスクリュー(バレル)径(D)の比(L/D)は、ECTFEの可塑化に必要十分なL/Dを備えた押出機であれば、特に限定されないが、好ましくは20~40、より好ましくは25~35である。L/Dが20~40の範囲内にあると、樹脂がスクリュー領域で十分可塑化しきらず、未溶融物が発生し、欠点としてシート中に混入することを抑制でき、また、過剰なせん断を与えて酸性ガス発生量の増加に繋がることを抑制することができる。
【0040】
押出機のスクリュー先端と前記Tダイとの間には、ブレーカープレートが備えられる。ブレーカープレートの開口率は好ましくは40~60%、より好ましくは42~58%である。ブレーカープレートの開口率を40%以上とすることで、樹脂への背圧を抑え樹脂の押出機内の滞留を抑えることができる。また、開口率を60%以下とすることで、シートの欠点数を長時間に渡り、安定的に低く保つことが可能となる。
なお、開口率とは押出機の樹脂流通部に露出する部分を基準とし、樹脂貫通孔も含めた全体の面積に対して、樹脂貫通孔が形成された部分の面積を意味する。
【0041】
ブレーカープレートの樹脂貫通口径は、好ましくは3.7mm~7.0mmである。樹脂貫通口径を3.7mm以上とすることで、樹脂への背圧を抑え樹脂の押出機内の滞留を抑えることができる。また7.0mm以下とすることで、シートの欠点数を長時間に渡り、安定的に低く保つことが可能となる。
【0042】
ブレーカープレートに配置されたスクリーンメッシュは、目開きが異なる2枚以上のスクリーンメッシュを組み合わせることが好ましい。スクリーンメッシュは、目開きが同じスクリーンメッシュを併用することもできる。一般には樹脂流通部の上流側(スクリリュー近傍側)から下流側(ブレーカープレート開口側)に向かい、目開きの大きいスクリーンメッシュ、目開きの小さいスクリーンメッシュの順に配置することが好ましい。更に、目開きが最少のメッシュの下流には、樹脂圧力によるメッシュの破れを防止する目的で、当該メッシュより粗いメッシュを配置することが好ましい。本実施形態の樹脂組成物のシートの製造方法では、スクリーンメッシュの最小の目開きは、好ましくは0.03mm~0.2mm、より好ましくは0.03mm~0.15mmである。スクリーンメッシュの最小の目開きを0.03mm以上とすることで、樹脂の剪断発熱による劣化を抑制することができる。また、スクリーンメッシュの最小の目開きを0.2mm以下とすることで、樹脂中に混入するコンタミネーション、原料の劣化物等を低減することができる。
目開きの大きいスクリーンメッシュは、粗大な欠点を取り除く役割を担い、目開きは、好ましくは0.15mm~0.6mmである。更に、スクリーンメッシュが樹脂圧により破けるのを防ぐ目的で、目開きが最小のスクリーンメッシュの下流側に、それより目開きが大きい粗いスクリーンメッシュを導入してもよい。前記スクリーンメッシュの配置位置としては、スクリュー先端部から10mm~100mm下流側に設置されることが好ましい。
【0043】
シート製造に用いるTダイの流路は、樹脂が滞留し難い仕様であれば、その形状において特に限定されないが、好適に使用することが可能な例として、コートハンガーダイが挙げられる。樹脂の吐出方向としては、水平方向に横出しする形態と水平方向に直行する方向に下出しする形態とが主なものとして挙げられるが、どちらの形態も好適に用いることができる。
【0044】
シート製造に係る押出機の温度設定は、ECTFE原料の種類と流動性とによって様々であるが、押出機下流部において、好ましくは220~300℃、より好ましくは230~290℃である。当該温度が、220~300℃の範囲内にあると、十分に樹脂を可塑化させることでき、過剰な加熱により酸性ガスの発生量が高くなり過ぎることを抑制することができる。
【0045】
Tダイより押し出されたシートは、直ぐにダイスに近接した冷却ロールに接触し、冷却されながら引き取られることにより、冷却される。ECTFEは結晶性樹脂であることから、優れた透明性を発現する上で、溶融状態から結晶化が進行する前に冷却ロールで急冷させることが好ましい。Tダイの出口とシートとが冷却ロールに接触する点を最短距離で結んだ距離は、通常200mm以下程度であり、好ましくは150mm以下、より好ましくは100mm以下である。当該距離が200mm以下であれば、必要以上に結晶化が進行し、シートの透明性が低下するのを抑制することができる。
【0046】
冷却ロールによる冷却方式としては、ハードクロムメッキ等の硬質表面のロール2本を、任意のシート厚みを得るのに適した隙間を設け、その間にシート状の溶融樹脂を接触させながら引き取ることで冷却する方法、前記硬質表面のロールとシリコン等のゴムロールとを圧着させ、その間にシート状の溶融樹脂を接触させながら引き取ることで冷却する方法のいずれも用いることができる。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物を用いたシートの製造に用いるロール材料は、特に限定されないが、表面粗さの一つの指標となる最大高さ(Ry)が、好ましくは1s以下、より好ましくは0.3s未満である。Ryが1sを上回ると、シート状の溶融樹脂を冷却ロールに接触させた際、ロールの凹凸形状がシート表面に転写し易くなり、外部ヘイズが高くなることがある。
【0048】
上述の冷却ロールの温度は、好ましくは20℃~150℃、より好ましくは50℃~120℃である。当該温度が20℃~150℃であると、ロール表面が結露しにくく、シート外観を損なう危険性を低減できるほか、周囲の雰囲気温度低下に繋がって、優れた透明性が得られ難くなることを抑制したり、シートが十分冷却されずにロールに粘着することを抑制することができる。
【0049】
上述のようにして引き取られたシートは、シート表面に傷を与えない範囲で、適宜ガイドロールを通過し、任意のシート幅にスリットした後、十分冷却された状態で紙管に巻き取られる。紙管の材質については特に限定されないが、ロール保管後に再使用する際の巻き癖が発生し難い径の紙管を適用することが好ましい。
【0050】
シートの厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.005mm~1.0mm、より好ましくは0.01mm~0.5mmである。当該厚みが0.005~1.0mmの範囲内にあると、シートが破れにくく実用に供しやすくなり、また、シートの透明性が低下し過ぎてしまうのを抑制することができる。
【0051】
なお、本明細書において「シート」とは、一般的に「フィルム」と呼ばれるものを含み、シートは厚め、フィルムは薄めのものを指すにとどまり、「シート」と「フィルム」とを明確に区別しない。
【0052】
シートの幅は、特に限定されないが、通常300mm~3000mmの範囲が取扱いの点から好ましい。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物を主体とする樹脂シートは、例えば、以下の物性を示すことが好ましい。
- 示唆走査熱量分析において、10℃/minの昇温速度で23℃から300℃迄の昇温過程で得られる結晶融解熱量が30J/g未満、
- JIS K7136に従い、測定されるヘイズ値が15%未満、
- JIS Z8741に従い、入射角60°で測定される光沢度が100以上。
【0054】
前記結晶融解熱量が30J/g未満であると、シートの結晶性の増加に伴い、透明性の低下を抑えることができる。
【0055】
ヘイズメーターによりJIS K7136に準拠して測定されるシートのヘイズ値は、好ましくは10%以下、より好ましくは2%以下である。ヘイズ値が10%以下であると、膜構造物、太陽電池用フロントシートをはじめとした高透明性が求められる用途における意匠性の低下、集光効率の低下を抑制することができる。
【0056】
グロスメーターによりJIS Z8741に準拠して測定される光線入射角60°における光沢度は、好ましくは100以上、より好ましくは120以上である。光沢度が100以上であると、膜構造物をはじめとする優れた意匠性を求める用途に好適である。
【0057】
上述のように本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートは、上述のように分子内にフェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤(B)を含有する。当該ホスファイト系酸化防止剤(B)としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。
【0058】
また、本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートは、融点100℃以上かつ式(1)で示す構造を1つ又は3つ以上有するフェノール系酸化防止剤を含有することが好ましい。当該フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が挙げられる。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートは、優れた可視光透過性能、意匠性が求められる用途に好適に使用することができる。その中でも特に、建造物として屋根材等にシートを使用する膜構造物に使用できる。シートは、単味をそのまま膜構造物用シートとして用いることも可能であり、他の基材との積層物として用いることも可能である。また、積層したシート同士の一部を結着させて、結着していない部分のシート間に空気を入れて膨らませ、種々の形状を作ることもできる。
【0060】
ここで、膜構造物にECTFE樹脂組成物シートを単味で適用する場合、長期間の屋外曝露に耐え得る耐候性能が求められる。
耐候性能を判断する方法としては、例えば、波長300~400nm、強度150mW/cmの紫外線を照射しながら、(i)温度63℃、相対湿度50%RHの条件下で紫外線を10時間照射、(ii)シャワー20秒、(iii)暗黒2時間からなるサイクル996時間繰り返し行う、紫外線照射による老化促進試験が挙げられる。試験方法は、これに限定されないが、屋外で長期間使用することを反映させた試験であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物シートの耐候性能は、前記紫外線照射による老化促進試験後のヘイズ変化が好ましくは10%以下、より好ましくは2%以下である。
【0061】
また、本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートは、前記紫外線照射による老化促進試験後におけるシートにおいて、色差計より測定されるL表色系の内のbが、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.0以下である。bが5.0以下であると、巨視的にシート自身の黄色度が認められにくく、膜構造物用シートとして使用する際の意匠性の低下を抑制することができる。
【0062】
更にまた、本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートを押出成形等の高温下で製造するときの酸性ガスの発生低減効果は、任意の場所における酸性ガス濃度を測定する装置を用いて確認することができる。装置は、十分な定量精度を有するものであれば、特に限定されない。使用可能な測定装置の一例としては、ガラス管内に酸性ガスの吸収剤が充填され、ガスの定量回収及びそのガス濃度を得られる酸性ガス濃度検知器が挙げられる。
【0063】
前記酸性ガス濃度の測定は、具体的には、前述の本実施形態の樹脂組成物を用いたシートの製造方法に用いられるTダイのリップから、直線距離で100mm離れた箇所における酸性ガスの合算濃度を計測することにより行う。酸性ガス濃度は、好ましくは30ppm未満、より好ましくは20ppm未満である。当該ガス濃度が30ppm未満であると、ダイスを含む周辺の設備鋼材に腐食を生じるのを抑制でき、長時間に渡り安定的な生産に供することができる。
【0064】
<膜構造物、建造物、粘着成形体>
本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシート及びシートを二次加工した成形体は、高い透明性を実現し、意匠性に優れ、膜構造物、建造物に好適に使用することができる。
構造物としては、前記成形体を用いた、例えば、プール、アスレチック、サッカースタジアム、ベースボールスタジアム、体育館、高速道路、歩道、カーポート、バスターミナル、バス及びタクシー乗り場、空港、駅、倉庫、集会場、展示場、商業施設、観光施設、養殖施設、園芸施設、農業ハウス等の建造物が挙げられる。
また、膜構造物としては、上述の建造物、自動車、船等の外壁、ボディー、屋根、窓等の部分的な箇所に上述のシート(成形体)を使用したものが挙げられる。さらに、本実施形態のECTFE樹脂組成物を成形して得られた成形体を基材として、粘着剤・接着剤を塗布した粘着成形体、いわゆるテープは、膜構造物の補修テープとして好適に使用することができる。
ここで、「二次加工」とは、透明性、色調、光沢性、耐熱性、耐候性、黄変のし難さシート外観等を実用上損なわない範囲で熱板溶着、超音波・高周波ウェルダー溶着、レーザー溶着、熱風溶着、積層、切削・スリット、プレス成形、真空成形等の加工を施すことを示す。
なお、本実施形態の樹脂組成物を成形して得られたシートは、透明性、色調、光沢性、耐熱性、耐候性、黄変のし難さシート外観等を実用上損なわない範囲で、印刷等を施してもよい。印刷方法としては、予め、コロナ処理、プラズマ処理を印刷面に施したECTFE樹脂組成物のシートの表面に、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の、目的と用途の適性にあった印刷方法を選択し、印刷を行う方法が挙げられる。印刷を施すことにより、シートや膜構造物に審美性等を付与することができる。
【実施例
【0065】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0066】
<原料>
本実施例及び比較例に使用した原料を以下に示す。
・エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)
Solvay社製 “Halar ECTFE 700HC”
融点202℃,MFR9.0g/10min
(ASTM D1238 275℃/2.16kg荷重)
【0067】
(酸化防止剤)
ホスファイト系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤は以下の表1に示す市販品を使用した。
【0068】
【表1】
【0069】
以下、表中のホスファイト系酸化防止剤の構造式を示す。
【0070】
【化3】
【0071】
<実施例1>
ECTFE100質量部に対し、ADEKA社製「アデカスタブ2112」(ホスファイト系酸化防止剤)を0.4質量部予備混合した後、(株)東洋精機製作所製「ラボプラストミルマイクロ」を用い、250℃で溶融混合し、厚み0.25mmの溶融樹脂シートを得た。
【0072】
<実施例2~9、比較例1~7>
実施例1の方法に従い、表3~5に記載の原料添加量に基づいて各実施例比較例のシートを作製した。
【0073】
<シート評価>
下記に従って、耐候性試験前後の樹脂シートの“透明性”“黄変度”を評価した。耐候性試験前後のシート評価(透明度、黄変度)を、下記表2~表5に示す。
【0074】
(透明性の評価)
樹脂シートの透明性は、樹脂シートのヘイズ値を測定し、下記表2に記載の基準に従って評価した。具体的には、ヘイズ値を、JIS K7136に従い、日本電色工業(株)製のヘイズMeter“NDH7000”を使用して測定した。次いで、測定したヘイズ値を基づいて、表2に記載の基準に従ってシートの透明性を判定した。なお、ヘイズ値の測定に際しては、樹脂シートから任意の5点から切り出した試料を用い、その算術平均値を採用した。透明性の評価は、後述する耐候性試験を行う前の樹脂シート、及び、行った後の樹脂シートのそれぞれについて行った。
なお、耐候性試験前の樹脂シートに比して耐候性試験後の樹脂シートの透明性が劣っている(ヘイズ値が高くなっている)場合には、シートが白濁しており、「白化」が生じていることを意味する。
【0075】
(黄変度の評価)
樹脂シートの黄変度の評価は、日本電色工業(株)製の測色色差計「ZE6000」を使用し、L表色系の内のbを透過法にて測定した。計測したb値に基づいて、下記の表2の基準に従って耐候性試験後の樹脂シートの黄変度を判定した。黄変度の評価は、後述する耐候性試験を行う前の樹脂シート、及び、行った後の樹脂シートのそれぞれについて行った。
なお、耐候性試験前の樹脂シートに比して耐候性試験後の樹脂シートの黄変度が劣っている(bが高くなっている)場合には、シートの「黄変」が生じていることを意味する。
【0076】
(耐候性試験)
樹脂シートの耐候性試験は、超促進耐候性試験機(岩崎電気(株)製の「アイスーパーUVテスターSUV-W161」)を用いた。当該測定においては、波長300~400nm、強度150mW/cmの紫外線を照射しながら、(i)温度63℃、相対湿度50%RHの条件下で紫外線を10時間照射、(ii)シャワー20秒間、(iii)暗黒下で2時間静置、からなるサイクルを996時間繰り返した。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
実施例1~3の結果から、フェノール性水酸基を有さないホスファイト系酸化防止剤をECTFEに添加することにより、これを用いて形成された樹脂シートにおいて、透明性に優れ、耐候性評価における黄変(b)の抑制効果が認められた。
また、実施例4~9の結果から、ホスファイト系酸化防止剤に加えてフェノール系酸化防止剤も添加することにより、これを用いて形成された樹脂シートにおいて、透明性に優れ、耐候性評価における白化及び黄変抑制効果が認められた。
【0082】
比較例1の結果から、分子内にフェノール性水酸基を有するホスファイト系酸化防止剤の添加のみでは、耐候性評価における白化抑制効果は見られるものの、十分な黄変抑制効果が得られないことがわかった。
また、比較例2~6において、フェノール系酸化防止剤を単独でECTFEに添加したところ、十分に白化及び黄変抑制できないことがわかった。比較例7において、酸化防止剤を添加しない場合は、白化及び黄変が生じ透明性が維持できないことがわかった。
【0083】
上述のように、本発明の樹脂組成物を用いた樹脂シートは、優れた透明性を発揮しながら、耐候性試験後においても優れた透明性が保持、及び、黄変が抑制されていた。この結果から、本発明の樹脂組成物を用いた樹脂シート(成形体)は、長期間、屋外に曝される膜構造物、建造物用途、又は、粘着成形体においても好適に使用することができる。
【0084】
2019年3月29日に出願された日本国特許出願2019-067611号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。