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特許7445686黒鉛化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】黒鉛化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240229BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240229BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20240229BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/14
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021575471
(86)(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2020001133
(87)【国際公開番号】W WO2021149849
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リム,ナム-スク
(72)【発明者】
【氏名】パク,イン-ギュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン,セ-ホン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン-グ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-131187(JP,A)
【文献】特開平10-072639(JP,A)
【文献】特開2003-105485(JP,A)
【文献】特開2019-112711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/06
C21D 9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.6%~0.9%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.1~0.6%、P:0.015%以下、S:0.03%以下、Al:0.01~0.05%、Ti:0.01~0.02%、B:0.0005~0.002%、N:0.003~0.015%、O:0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足し、
100nm以下のサイズを有するTiNの個数が100μm当たり10個以上であり、
パーライトの面積分率が95%以上であり、
引張強度が1100MPa以下であることを特徴とする黒鉛化熱処理用線材。
式(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【請求項2】
重量%で、C:0.6%~0.9%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.1~0.6%、P:0.015%以下、S:0.03%以下、Al:0.01~0.05%、Ti:0.01~0.02%、B:0.0005~0.002%、N:0.003~0.015%、O:0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足するビレットを製造するステップ、
前記ビレットを再加熱するステップ、
前記再加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造するステップ、
前記線材を巻き取るステップ、及び
前記巻き取られた線材を冷却するステップ、を含み、
前記再加熱するステップは、1050~1150℃の温度範囲で60分以上維持する熱処理を含み、
前記熱間圧延して線材に製造するステップは、900℃超過1000℃以下の温度範囲での熱間圧延を含み、
前記巻き取るステップは、800℃以上の温度範囲の巻き取りを含み、
巻き取られた線材を冷却するステップは、0.2~5.0℃/sの冷却速度で600℃までの冷却を含むことを特徴とする黒鉛化熱処理用線材の製造方法。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【請求項3】
重量%で、C:0.6%~0.9%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.1~0.6%、P:0.015%以下、S:0.03%以下、Al:0.01~0.05%、Ti:0.01~0.02%、B:0.0005~0.002%、N:0.003~0.015%、O:0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足し、
微細組織でフェライト基地に黒鉛粒が分布しており、黒鉛化率が100%であり、
前記黒鉛粒の平均結晶粒のサイズは、10μm以下であり、
前記黒鉛粒が1000個/mm以上の密度で分布していることを特徴とする黒鉛鋼。
式(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【請求項4】
前記黒鉛粒の縦横比(長軸/短軸)が2.0以下であることを特徴とする請求項に記載の黒鉛鋼。
【請求項5】
前記黒鉛粒の面積分率が2.0%以上で分布していることを特徴とする請求項に記載の黒鉛鋼。
【請求項6】
硬度値が70~85HRBであることを特徴とする請求項に記載の黒鉛鋼。
【請求項7】
重量%で、C:0.6%~0.9%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.1~0.6%、P:0.015%以下、S:0.03%以下、Al:0.01~0.05%、Ti:0.01~0.02%、B:0.0005~0.002%、N:0.003~0.015%、O:0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足する線材を製造するステップ、及び
前記製造された線材を冷間伸線するステップを行った後、黒鉛化熱処理するステップ、を含み、
前記冷間伸線するステップは、減面率10~20%で冷間伸線することを含み、
前記黒鉛化熱処理するステップは、740~780℃の温度範囲で2時間以内熱処理することを含むことを特徴とする黒鉛鋼の製造方法。
式(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒煙化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは産業機械又は自動車などの機械部品の素材として活用が可能な黒鉛化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、被削性が要求される機械部品などの素材としては、Pb、Bi、Sなどの被削性付与元素を添加した快削鋼が用いられる。最も代表的な快削鋼であるPb添加快削鋼の場合には、切削作業時に有毒性フューム(fume)などの有害物質を排出するので、人体に非常に有害であり、鋼材のリサイクルにおいても非常に不利となる問題がある。
【0003】
このような問題から、Pb添加快削鋼を代替するために、S、Bi、Te、Snなどの添加が提案されたが、Biを添加した鋼材は、製造時にクラックが容易に発生し、生産が非常に難しい問題があり、S、Te及びSnなども熱間圧延時にクラック発生を引き起こすという点で問題がある。
【0004】
上記のような問題を解決するために黒鉛鋼が提案されたが、鋼に炭素を添加すると、黒鉛が安定相であるにもかかわらず、準安定相であるセメンタイトとして析出されて別途の数十時間以上の長期間の熱処理なしは黒鉛を析出させることが困難であり、このような長期間の熱処理過程で脱炭が起きて最終製品の性能に悪影響を及ぼす弊害が発生する。
【0005】
また、黒鉛化熱処理を通じて黒鉛粒を析出させても鋼の基地内の黒鉛が粗大に析出される場合、クラックが発生する可能性が高くなり、球形ではない不規則な形状で不均一に分布している場合、切削時に物性分布が不均一なのでチップ処理性や表面粗度が非常に悪くなり、工具寿命も短縮されて黒鉛鋼の長所を得にくい問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が目的とするところは、黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮すると共に、熱処理時に微細黒鉛粒を基地内に均一に分布させ得る黒鉛化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足することを特徴とする。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0008】
また、本発明は、100nm以下のサイズを有するTiNの個数が100μm当たり10個以上であり、
パーライトの面積分率が95%以上であり、
引張強度が1100MPa以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明による黒鉛化熱処理用線材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足するビレットを製造するステップ、前記ビレットを再加熱するステップ、前記再加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造するステップ、前記線材を巻き取るステップ及び前記巻き取られた線材を冷却するステップを含むことを特徴とする。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0010】
前記再加熱するステップは、1050~1150℃の温度範囲で60分以上維持して熱処理することを含み、
前記熱間圧延して線材に製造するステップは、900℃超過1000℃以下の温度範囲で熱間圧延することを含み、
前記巻き取るステップは、800℃以上の温度範囲で巻き取ることを含み、
前記冷却するステップは、0.2~5.0℃/sの冷却速度で600℃まで冷却することを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明による黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足し、微細組織でフェライト基地に黒鉛粒が分布しており、黒鉛化率が100%であることを特徴とする。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0012】
前記黒鉛粒の平均結晶粒のサイズは、10μm以下であり、
前記黒鉛粒の縦横比(長軸/短軸)が2.0以下であり、
前記黒鉛粒が面積分率で2.0%以上で分布しており、
前記黒鉛粒1000個/mm以上の密度で分布しており、
硬度値が70~85HRBであることを特徴とする。
【0013】
本発明による黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足する線材を製造するステップ及び前記製造された線材を冷間伸線するステップを行った後、黒鉛化熱処理するステップを含むことを特徴とする。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0014】
前記冷間伸線するステップは、減面率10~20%で冷間伸線することを含み、
前記黒鉛化熱処理するステップは、740~780℃の温度範囲で2時間以内で熱処理することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、黒鉛化を促進する合金組成と黒鉛粒生成の核として作用するTiNを活用して黒鉛化を促進し、適正な減面率の冷間伸線を通じて格子欠陥を誘導して黒鉛化を一層促し得るので、黒鉛化熱処理時間を大幅に縮めることができる。
また、黒鉛化後に微細な黒鉛粒が基地内に均一に分布する黒鉛鋼を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足することを特徴とする。

(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0017】
以下では、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は、多様な形態に変形され、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0018】
本出願で用いる用語は、単に特定の例示を説明するために用いられるものである。したがって、たとえば単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。また、本出願で用いる「含む」又は「具備する」などの用語は、明細書上に記載した特徴、ステップ、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指称するために用いられるのもであって、他の特徴やステップ、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除しようと用いられるものではないことに留意する必要がある。
【0019】
一方、特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者により一般的に理解される意味と同一の意味を有するものと見なければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味で解釈されてはいけない。例えば、本明細書で単数の表現は、文脈上明白に例外のない限り、複数の表現を含む。
【0020】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0021】
黒鉛鋼は、鋼に炭素を添加すると、黒鉛が安定相であるにもかかわらず、準安定相であるセメンタイトとして析出されて別途の数十時間以上の長期間の熱処理なしは黒鉛を析出させることが困難であり、このような長期間の熱処理過程で脱炭が起きて最終製品の性能に悪影響を及ぼす弊害が発生する。
【0022】
また、黒鉛化熱処理を通じて黒鉛粒を析出させても鋼の基地内の黒鉛が粗大に析出される場合、クラックが発生する可能性が高くなり、球形ではない不規則な形状で不均一に分布している場合、切削時に物性分布が不均一なのでチップ処理性や表面粗度が非常に悪くなり、工具寿命も短縮されて黒鉛鋼の長所を得にくい問題点がある。
【0023】
上述した問題点を解決するために、本発明は、黒鉛化熱処理時間を大幅に短縮すると共に、熱処理時に微細黒鉛粒を基地内に均一に分布させ得る黒鉛化熱処理用線材と黒鉛鋼及びその製造方法を提供する。
【0024】
本発明によると、黒鉛化熱処理用線材は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなる。
【0025】
一方、前記黒鉛化熱処理用線材を同一の合金組成を有した黒鉛鋼で製造するので、黒鉛鋼の合金組成を限定した理由に対する重複説明は省略するが、当該技術分野において通常の技術者が明確に理解できる範囲で黒鉛化熱処理用線材の合金組成を限定した理由と同一に解釈される。
【0026】
以下では、前記合金組成を限定した理由について具体的に説明する。下記成分組成は、特に記載のない限り、全て重量%を意味する。
【0027】
炭素(C):0.6~0.9重量%
炭素は、黒鉛粒を形成するために必須的な元素である。前記炭素の含量が0.6重量%未満である場合には、被削性の向上効果が十分ではなく、黒鉛化の完了時にも黒鉛粒の分布が不均一である。

一方、その含量が0.9量%を超過して過多な場合、黒鉛粒が粗大に生成されて縦横比が大きくなるので、切削性、特に表面粗度が低下する恐れがある。したがって、本発明で炭素の含量は、0.6~0.9重量%に制御することが好ましい。
【0028】
シリコン(Si):2.0~2.5重量%
シリコンは、溶鋼製造時に脱酸剤として必要な成分であり、鋼中でセメンタイトを不安定にして炭素が黒鉛として析出されるようにする黒鉛化促進元素であるので、積極添加する。本発明でこのような効果を示すためには、2.0重量%以上含むことが好ましい。
一方、その含量が2.5重量%を超過して過多な場合、黒鉛化促進効果が飽和するだけでなく、固溶強化効果によって硬度が増加して切削時に工具摩耗が加速化し、非金属介在物の増加による脆性を誘発し、熱間圧延時に過度な脱炭を誘発する恐れがある。したがって、本発明でシリコンの含量は、2.0~2.5重量%に制御することが好ましい。
【0029】
マンガン(Mn):0.1~0.6重量%
マンガンは、鋼材の強度及び衝撃特性を向上させ、鋼中で硫黄と結合してMnS介在物を形成して切削性の向上に寄与する。本発明でこのような効果を示すためには、0.1量%以上含まれることが好ましい。

一方、その含量が0.6重量%を超過して過多な場合、黒鉛化を阻害して黒鉛化完了時間が遅延される恐れがあり、強度及び硬度を上昇させて切削性を低下させ得る。したがって、本発明でマンガンの含量は、0.1~0.6重量%に制御することが好ましい。
【0030】
リン(P):0.015重量%以
リンは、不可避に含有される不純物である。例えば、リンは、鋼の粒界を脆弱にして切削性をある程度助けるが、相当な固溶強化効果によってフェライトの硬度を増加させ、鋼材の靭性及び遅延破断抵抗性を減少させ、表面キズの発生を助長するので、その含量をできるだけ低く管理することが好ましい。
理論上、リンの含量は、0重量%に制御することが有利であるが、製造工程上、必然的に含有される。したがって、その上限を管理することが重要であり、本発明では、リンの上限を0.015重量%に管理する。
【0031】
硫黄(S):0.03重量%以下

硫黄は、MnS介在物を生成して切削性の向上に寄与するが、鋼中の炭素の黒鉛化を大きく阻害するだけでなく、結晶粒界に偏析されて靭性を低下させ、低融点硫化物を形成させて熱間圧延性を阻害し、圧延によって延伸されたMnSにより機械的な異方性が現われ得るので、その含量はできるだけ低く管理することが好ましい。
理論上、硫黄の含量は、0重量%に制御することが有利であるが、製造工程上、必然的に含有される。したがって、その上限を管理することが重要であり、本発明では、硫黄の上限を0.03重量%に管理する。
【0032】
アルミニウム(Al):0.01~0.05重量%
アルミニウムは、シリコンの次に黒鉛化を促進させる元素である。これは、アルミニウムが固溶Alで存在するときセメンタイトを不安定にするからであり、したがって、固溶Alで存在する必要がある。本発明でこのような効果を示すためには、0.01重量%以上含まれることが好ましい。
一方、その含量が0.05重量%を超過して過多な場合、その効果が飽和するだけでなく、連鋳時にノズルの詰まりを誘発させ得、オーステナイト粒界にAlNが生成され、これを核にした黒鉛粒が粒界に不均一に分布することになる。したがって、本発明でアルミニウムの含量は、0.01~0.05重量%に制御することが好ましい。
【0033】
チタン(Ti):0.01~0.02重量%
チタンは、ボロン、アルミニウムなどのように窒素と結合してTiN、BN、AlNなどの窒化物を生成する。前記窒化物は、恒温熱処理時に黒鉛粒生成の核として作用する。BN、AlNなどは、生成温度が低いためオーステナイトが形成された後に粒界に不均一に析出されることに比べ、TiNは、生成温度がAlNやBNより高いためオーステナイトの生成が完了する前に晶出されるので、オーステナイト粒界及び粒内に均一に分布することになる。したがって、TiNを核生成源として生成された黒鉛粒も微細で且つ均一に分布することになる。このような効果を示すためには、0.01重量%以上含まれることが好ましい。
一方、その含量が0.02重量%を超過して過多に添加される場合、粗大な炭窒化物となって黒鉛形成に必要な炭素を消耗することで、黒鉛化を阻害させる。したがって、本発明でチタンの含量は、0.01~0.02重量%に制御することが好ましい。
【0034】
ボロン(B):0.0005~0.002%

ボロンは、鋼中で窒素と結合してBNを形成する。BNは、黒鉛粒の生成の核として作用して黒鉛化を促進する。このような効果を示すためには、0.0005重量%以上含まれることが好ましい。
一方、その含量が0.002重量%を超過して過多に添加される場合、BNがオーステナイト粒界に過多に生成されて黒鉛化熱処理後に黒鉛粒の不均一な分布を引き起こすだけでなく、粒界を脆弱にして熱間圧延性を顕著に低下させる問題を発生させる。したがって、本発明でボロンの含量は、0.0005~0.002重量%に制御することが好ましい。
【0035】
窒素(N):0.003~0.015重量%
窒素は、チタン、ボロン、アルミニウムと結合してTiN、BN、AlNなどを生成することになるが、特に、BN、AlNなどの窒化物は、主にオーステナイト粒界に形成される。黒鉛化熱処理時にこのような窒化物を核として黒鉛粒が均一な分布で形成される。これのために本発明では、0.003重量%以上添加する。

ただし、窒素添加量が0.015重量%を超過して過多に添加される場合、窒化物が過度に形成されて黒鉛粒が不均一な分布で形成されるか、窒化物の形成元素と結合せず鋼中に固溶状態で存在して強度を高めてセメンタイトを安定化させて黒鉛化を遅延させる有害な作用をすることになる。したがって、本発明で窒素の含量は、0.003~0.015重量%に制御することが好ましい。
【0036】
酸素(O):0.005重量%以下
本発明において酸素の役目は重要である。酸素は、アルミニウムと結合して酸化物を形成する。このような酸化物の生成は、固溶アルミニウムの有効濃度を減少させて黒鉛化作用を妨害する結果を誘発する。また、多量の酸素が含有されることで形成されるアルミナ酸化物は、切削時に切削工具を損傷させるので、被削性の低下をもたらす。このような理由から、酸素の含量は可能であれば低く管理することが好ましい。しかし、酸素を過度に低く管理する場合、製鋼工程の精錬負荷を引き起こすので、その上限を0.005重量%以下に制御することが好ましい。
【0037】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲の環境から意図しない不純物が不可避に混入されるので、これを排除できない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるので、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0038】
本発明によると、上記の合金成分で、以下の式(1)を満足することが好ましい。
(1)-0.003<[N]-[Ti]/3.43-[B]/0.77<0.003
前記式(1)で、[Ti]、[N]、[B]は、それぞれチタン、窒素、ボロンの重量%を意味する。
【0039】
式(1)は、微細な黒鉛粒の生成誘導と黒鉛化に要求される時間を顕著に短縮するための関係式であって、前記範囲に限定したその具体的な理由は以下の通りである。
式(1)の値が-0.003以下になると、鋼中に過多に残ったTi又はBにより粗大なTiN又はBNを形成することになって適切な黒鉛粒生成の核として作用しにくく、微細で且つ均一な分布の黒鉛粒を期待することができない。一方、式(1)の値が0.003以上になると、鋼中の固溶窒素含量が高いため、黒鉛化時間を顕著に遅延させるので、好ましくない。したがって、本発明で式(1)の値は、-0.003超過0.003未満に管理することが好ましい。
【0040】
上述した合金組成の範囲及び式(1)を満足する本発明の黒鉛化熱処理用線材は、100nm以下のサイズを有するTiNの個数が100μm当たり10個以上であってもよい。本発明で、TiNは、黒鉛化熱処理過程で黒鉛粒生成の主要核として作用するため、均一で且つ微細な黒鉛粒を得るためには、微細なTiNが高密度に分布することが有利であるので、個数の上限を特に限定しない。
【0041】
また、黒鉛化熱処理用線材は、パーライトの面積分率が95%以上であってもよい。本発明で、黒鉛粒は、パーライトが分解されて生成されるので、パーライトの分率が低いと、黒鉛粒の分率も低くなり、不均一な分布を示して好ましくない。パーライトの面積分率は、高いことが均一で且つ微細な黒鉛粒の確保のために有利であるので、その上限を特に限定しない。
【0042】
また、黒鉛化熱処理用線材は、引張強度が1100MPa以下であってもよい。本発明で、黒鉛化の追加促進のための格子欠陥を誘導する冷間伸線のためには、線材の強度が1100MPaを超過しないことが好ましいので、その下限を特に限定しない。
【0043】
以下では、本発明の黒鉛化熱処理用線材の製造方法について先に説明した後、黒鉛鋼の製造方法に対して詳しく説明する。
【0044】
本発明の一例による黒鉛化熱処理用線材の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足するビレットを製造するステップ、前記ビレットを再加熱するステップ、前記再加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造するステップ、前記線材を巻き取るステップ及び前記巻き取られた線材を冷却するステップを含む。
【0045】
以下、本発明の黒鉛化熱処理用線材の製造方法の各ステップについて説明する。
再加熱するステップ
本発明の一例によると、再加熱するステップは、ビレットを熱間圧延する前に1050~1150℃の温度範囲で60分以上維持して熱処理する。
ビレットの加熱温度が1050℃未満では、TiNが粗大に析出して密度が減り、AlがAlNとして析出して黒鉛化を促進させる固溶Alの量が減る。また、ビレットの加熱温度が1150℃を超過する場合には、コストが上昇するだけでなく、脱炭が加速化して脱炭層が厚くなって最終製品の品質を悪化させ得るので、好ましくない。したがって、本発明では、再加熱温度範囲を1050~1150℃に制御することが好ましい。
熱処理の維持時間を60分未満にすると、熱間圧延のためのビレットの内外部の温度を均一に確保しにくいので、本発明では、熱処理維持時間を60分以上に制御することが好ましい。
【0046】
再加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造するステップ
本発明の一例によると、熱間圧延して線材に製造するステップは、再加熱されたビレットを900℃超過1000℃以下の温度範囲で熱間圧延して線材に製造する。
熱間圧延温度が900℃以下では、熱間圧延時に表面キズの発生可能性が高くなり、1000℃を超過する場合には、AGS(Austenite Grain Size)が粗大になるため線材圧延後の冷間伸線時に断線が発生する。したがって、本発明では、熱間圧延の温度範囲を900℃超過1000℃以下に制御することが好ましい。
熱間圧延で製造される線材の直径は、30mm以下に制御することが好ましい。これは、加熱炉から抽出されるビレットの脱炭面積は、線材熱間圧延後に線材の脱炭面積に比例するので、線径が大きいほど脱炭層が厚くなるからである。
【0047】
線材を巻き取るステップ
本発明の一例によると、線材を巻き取るステップは、800℃以上の温度範囲で巻き取る。
巻取温度が800℃未満である場合には、巻取時に素材の剛性が大きくなって表面キズの発生可能性が高くなり、巻取形状の確保が難しいことがある。したがって、本発明では、巻取温度範囲を800℃以上に制御することが好ましい。
【0048】
巻き取られた線材を冷却するステップ
本発明の一例によると、巻き取られた線材は、0.2~5.0℃/sの冷却速度で600℃まで冷却する。
冷却速度が5.0℃/sを超過する場合には、過冷されたオーステナイトから生成されたマルテンサイトのような硬質相が発生して冷間伸線中に断線が発生し得るので、好ましくなく、0.2℃/s未満の冷却速度では、硝石相が過度に生成されてパーライトの分率が減るため、黒鉛化熱処理後に生成された黒鉛粒が不均一な分布を有し得るので、好ましくない。したがって、本発明では、冷却速度を0.2~5.0℃/sに制御することが好ましい。
【0049】
上述した製造過程で製造される本発明の黒鉛化熱処理用線材は、100nm以下のサイズを有するTiNの個数が100μm当たり10個以上であってもよい。本発明で、TiNは、黒鉛化熱処理過程で黒鉛粒生成の主要核として作用するため、均一で且つ微細な黒鉛粒を得るためには、高密度の微細なTiNが均一に分布することが有利であるので、個数の上限を特に限定しない。
また、製造された黒鉛化熱処理用線材は、パーライトの面積分率が95%以上であってもよい。
また、製造された黒鉛化熱処理用線材は、引張強度が1100MPa以下であってもよい。本発明で、黒鉛化の追加促進のための格子欠陥を誘導する冷間伸線のためには、線材の強度が1100MPaを超過しないことが好ましく、その下限を特に限定しない。
【0050】
以下では、本発明の黒鉛鋼の製造方法について詳しく説明する。
本発明の一例による黒鉛鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足するビレットを製造するステップ、前記ビレットを再加熱するステップ、前記再加熱されたビレットを熱間圧延して線材に製造するステップ、前記線材を巻き取るステップ、前記巻き取られた線材を冷却するステップ及び前記冷却された線材を冷間伸線するステップを行った後、黒鉛化熱処理するステップを含む。
ここで、ビレットを製造、再加熱、熱間圧延して線材に製造するステップ、線材を巻取、冷却するステップは、黒鉛化熱処理用線材の製造方法で説明した内容と同一なので、重複を避けるために以下説明を省略する。上述した製造方法で製造された線材を冷間伸線するステップ及び黒鉛化熱処理するステップを以下でそれぞれ説明する。
【0051】
冷却された線材を冷間伸線するステップ
本発明で冷却した線材を冷間伸線するステップは、高密度の微細なTiNなど黒鉛粒生成の追加核を生成するための重要なステップのうち一つに該当する。前記ステップでは、冷間伸線を通じて線材内部に格子欠陥を誘導して黒鉛粒生成の追加核を生成することができる。
本発明の一例によると、冷却した線材を冷間伸線するステップは、減面率10~20%に冷間伸線し得る。
減面率が10%未満である場合には、冷間伸線を通じて線材の内部に格子欠陥を十分に作られないので、黒鉛粒生成の追加核として活用できず、減面率を20%超過して付加する時には、伸線中に断線が発生し得る。したがって、本発明で冷間伸線するステップは、減面率10~20%に冷間伸線することが好ましい。
【0052】
黒鉛化熱処理するステップ
本発明では、冷間伸線するステップを行った後、黒鉛化熱処理を実施する。黒鉛化熱処理を通じて、鋼中に添加された炭素を黒鉛化して黒鉛鋼を形成する。
本発明の一例によると、黒鉛化熱処理するステップは、740~780℃の温度範囲で2時間以内熱処理する。前記温度範囲は、恒温変態曲線(TTT:Time-Temperature-Transformation)で黒鉛生成ノーズ(nose)付近に該当する温度範囲であって、熱処理時間が最も短い温度範囲に該当する。
黒鉛化熱処理温度が740℃未満である場合には、黒鉛化熱処理時間が長くなり、780℃を超過する場合には、黒鉛化熱処理時間が長くなり、パーライトの逆変態によってオーステナイトが生成され、冷却中に再びパーライトが生成され得るので、好ましくない。したがって、本発明では、黒鉛化熱処理の温度範囲を740~780℃に制御することが好ましい。
【0053】
上述した黒鉛化熱処理ステップを通じて黒鉛化率が100%である黒鉛鋼を製造することができる。ここで、黒鉛化率とは、鋼に添加された炭素含量に対して黒鉛状態で存在する炭素含量の比を意味するもので、下記式(2)によって定義される。
(2)黒鉛化率(%)=(1-未分解パーライト内の炭素含量/鋼中の炭素含量)X100
黒鉛化率が100%とは、添加された炭素が全て消耗されて黒鉛を生成したという意味であって、未分解パーライトが存在しないことを意味し、言い換えれば、フェライトの基地に黒鉛粒が分布する微細組織を意味する。ここで、フェライト内の固溶炭素及び微細炭化物に固溶された炭素量は、極めて少ないので考慮しない。
【0054】
以下では、本発明の一例による黒鉛鋼について説明する。
本発明の一例による黒鉛鋼は、重量%で、炭素(C):0.6%~0.9%、シリコン(Si):2.0~2.5%、マンガン(Mn):0.1~0.6%、リン(P):0.015%以下、硫黄(S):0.03%以下、アルミニウム(Al):0.01~0.05%、チタン(Ti):0.01~0.02%、ボロン(B):0.0005~0.002%、窒素(N):0.003~0.015%、酸素(O):0.005%以下を含み、残部がFe及び不可避な不純物からなり、下記式(1)を満足し、微細組織でフェライト基地に黒鉛粒が分布しており、黒鉛化率が100%である。
【0055】
また、黒鉛鋼のフェライト基地に分布する黒鉛粒の平均結晶粒サイズは、10μm以下であってもよい。ここで、平均結晶粒のサイズとは、黒鉛鋼の一断面を観察して検出した粒子の等価円直径(Equivalent Circular Diameter、ECD)を意味する。平均結晶粒のサイズが小さいほど切削時の表面粗度に有利なので、その下限に対しては特に限定しない。
また、黒鉛粒の縦横比(長軸/短軸)が2.0以下であってもよい。黒鉛粒の縦横比が2.0を超過すると、微細組織に異方性が発生して衝撃靭性など機械的特性が低下するだけでなく、切削中の表面粗度に悪影響を及ぼし得る。
【0056】
また、黒鉛粒の面積分率が2.0%以上で1000個/mm以上の密度で分布し得る。黒鉛粒の面積分率と密度が高いほど被削性が向上するので、その下限に対しては特に限定しない。
また、本発明の一例による黒鉛鋼は、硬度値が70~85HRBであってもよい。
上記のように黒鉛鋼内に微細黒鉛粒が均一に分布する場合、形成された黒鉛粒が切削摩擦を減少させ、クラック開始源として作用することで、切削性を顕著に向上させ得る。
【0057】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載した事項とそこから合理的に類推される事項によって決定されるからである。
【0058】
<実施例>
表1の成分を有するビレット(断面:160mm×160mm)を再加熱温度条件で90分間維持して高速熱間圧延し、27mmの直径を有する黒鉛化熱処理用線材に製造した。この時の再加熱温度、線材の圧延温度、巻取温度、600℃までの冷却速度は、表2に示した。また、製造された黒鉛化熱処理用線材に対して、100nm以下サイズに該当するTiNの個数、パーライトの面積分率、引張強度、線材の圧延性に対する備考を表2に一緒に示した。
【0059】
製造された黒鉛化熱処理用線材に対して、冷間伸線した後、黒鉛化熱処理を行って黒鉛鋼を製造した。この時の冷間伸線の減面率に対して表3に示し、黒鉛化熱処理は、各発明例及び比較例を全て760℃で2時間熱処理した。また、製造された黒鉛鋼に対して黒鉛化の完了有無、黒鉛粒の平均サイズ、縦横比(長軸/短軸)、黒鉛粒の面積分率、黒鉛粒の密度、硬度を表3に一緒に示した。
【0060】
表1~3で、発明鋼は、本発明の合金組成の範囲及び式(1)を満足する発明鋼種に該当し、比較鋼は、本発明の合金組成の範囲又は式(1)を満足しない比較鋼種に該当する。
発明例1~4は、本発明の黒鉛化熱処理用線材及び黒鉛鋼に該当し、比較例1~12は、比較鋼1~12で製造した黒鉛化熱処理用線材及び黒鉛鋼に該当する。比較例13~17は、発明鋼1の鋼種を用いたが、黒鉛化熱処理用線材の製造条件を本発明が開示する条件とは相違するようにして製造した黒鉛化熱処理用線材及び黒鉛鋼である。比較例18~19は、発明鋼1の鋼種を用い、黒鉛化熱処理用線材の製造条件を本発明が開示する条件と同一にして製造したが、冷間伸線条件の減面率を本発明が開示する条件と相違するようにして製造した黒鉛化熱処理用線材及び黒鉛鋼に該当する。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
以下、表1~3を参照して各発明例及び比較例を評価する。
表1~3を参照すると、本発明の合金組成の範囲及び式(1)を満足し、製造条件も満足した結果、発明例1~4の黒鉛化熱処理用線材は、100nm以下のサイズを有するTiNの個数が100μm当たり10個以上であり、パーライトの面積分率が95%以上であり、引張強度が1100MPa以下であることが確認できる。また、発明例1~4の黒鉛鋼は、微細組織でフェライト基地に黒鉛粒が分布しており、黒鉛化率が100%で完了されており、黒鉛粒の平均結晶粒のサイズは、10μm以下であり、黒鉛粒の縦横比(長軸/短軸)が2.0以下であり、黒鉛粒の面積分率が2.0%以上で分布しており、黒鉛粒が1000個/mm以上の密度で分布しており、硬度値が70~85HRBであることが確認できる。
【0065】
一方、合金組成の範囲又は式(1)を満足しない比較例1~12は、上述した発明例1~4とは異なり、TiN密度、パーライトの面積分率、線材の引張強度を満足しないか、黒鉛化率が完了されないか、黒鉛粒の平均結晶粒のサイズが10μmを超過して粗大であるか、黒鉛粒の面積分率が2.0%以下で分布するか、黒鉛粒の密度が少ないか、硬度範囲を満足しなかった。
【0066】
比較例1は、Cが1.02重量%で添加炭素量が過多なので、線材の引張強度が1100MPaを超過し、これによって、冷間伸線中に断線が発生した。比較例2は、Cが0.32重量%で添加炭素量が少ないので、パーライトの分率が少なかった。黒鉛粒は、パーライトが分解されて発生するので、パーライトの分率が低いと、黒鉛粒の分率も低くなるしかなく、比較例2の黒鉛鋼は、黒鉛粒の面積分率が1.3%、黒鉛粒の密度が682個/mmと少なかった。
【0067】
比較例3は、Siが1.00重量%で添加シリコン量が少ないため黒鉛化を十分に促進しないので、黒鉛化が2時間以内に完了しなかった。また、これによって、黒鉛粒の面積分率、黒鉛粒の密度が低く、硬度が大きかった。比較例4は、Siが2.91重量%で添加シリコン量が過度なので、線材の引張強度が1100MPaを超過し、これによって、冷間伸線中に断線が発生した。
【0068】
比較例5は、Mnが0.82重量%で添加マンガン量が過多なので、黒鉛化を阻害することによって、黒鉛化が2時間以内に完了しなかった。また、マンガン量が過多で線材の引張強度が1100MPaを超過し、硬度が大きかった。
【0069】
比較例6は、Mnが0.05重量%で添加マンガン量が少ないため冷間伸線中に断線が発生した。
【0070】
比較例7は、Tiが0.0022重量%で添加チタン量が少ないためTiNの密度(個/100mm)が少ないので、微細でかつ均一な黒鉛粒の生成のための核として十分に作用しなかった。これによって、黒鉛粒のサイズが粗大となり、黒鉛粒の密度は低かった。
【0071】
比較例8は、Tiが0.0231重量%で添加チタン量が過多なので、粗大なTiNに形成されてTiNの密度が少ないため微細でかつ均一な黒鉛粒の生成のための核として十分に作用しなかった。これによって、黒鉛粒のサイズが粗大となり、黒鉛粒の密度は低かった。
【0072】
比較例9は、式(1)の値が-0.003以下となって鋼中に過多に残ったTi又はBにより粗大なTiN又はBNを形成することになって適切な黒鉛粒生成の核として作用しにくかった。これによって、黒鉛粒のサイズが粗大となり、黒鉛粒の密度は低かった。
【0073】
比較例10は、式(1)の値が0.003以上となって鋼中の固溶窒素含量が高いので、黒鉛化時間を顕著に遅延させた。これによって、黒鉛化が2時間以内に完了しなかった。
【0074】
比較例11は、Bが0.004重量%で添加ホウ素量が過多なので、式(1)の値を満足しなかった。これによって、黒鉛粒のサイズが粗大となり、黒鉛粒の密度が低かった。
【0075】
比較例12は、Nが0.0221重量%で添加窒素量が過多なので、式(1)を満足せず、過多な固溶窒素により線材の引張強度値も高くなった。固溶窒素は、黒鉛化を遅延させて2時間内に黒鉛化が完了せず、これによって、硬度範囲を満足しなかった。
【0076】
比較例13は、再加熱温度が1000℃で低く、TiN又はBNが粗大に形成された結果、適切な黒鉛粒生成の核として作用しにくかった。これによって、黒鉛粒のサイズが粗大となり、黒鉛粒の密度は低かった。
【0077】
比較例14は、熱間圧延温度が900℃で低く、熱間圧延時の表面キズが発生した。
比較例15は、巻取温度が750℃で低く、巻取形状の不良が発生した。
【0078】
比較例16は、冷却速度が0.1℃/sで低いため硝石相が過多に発生してパーライトの面積分率を満足しなかった。これによって、黒鉛化熱処理後に生成された黒鉛粒の密度が低かった。比較例17は、冷却速度が8.0℃/sで高いため過冷されたオーステナイトから生成された硬組織により冷間伸線中に断線が発生した。
【0079】
比較例18は、冷間伸線時の減面率が20%を超過して断線が発生し、比較例19は、減面率が10%以下で小さいため十分に格子欠陥を発生させないので、黒鉛化を2時間以内に完了しなかった。これによって、黒鉛化熱処理後に生成された黒鉛粒の密度が低かった。
【0080】
また、上述した結果から、本発明は、黒鉛化を促進する合金組成と黒鉛粒の核生成サイトとして作用するTiNを活用して黒鉛化を促進し得、適正な減面率の冷間伸線を通じて格子欠陥を誘導して黒鉛化を一層促進し得るので、黒鉛化の熱処理時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0081】
また、本発明は、黒鉛化後に微細な黒鉛粒が基地内に均一に分布する黒鉛鋼を提供し得ることが分かる。
【0082】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明による黒鉛鋼は、産業機械又は自動車などの機械部品の素材として活用可能である。