(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】半導体光検出素子
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240229BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20240229BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01L31/10 A
B82Y20/00
G01J1/02 B
G01J1/02 G
(21)【出願番号】P 2022095569
(22)【出願日】2022-06-14
(62)【分割の表示】P 2017044179の分割
【原出願日】2017-03-08
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】大藤 和人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将師
(72)【発明者】
【氏名】柴山 勝己
(72)【発明者】
【氏名】坂本 明
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133183(WO,A1)
【文献】特開2009-060051(JP,A)
【文献】国際公開第2009/093698(WO,A1)
【文献】特開2010-283328(JP,A)
【文献】Kehang Cui et al.,"Air-stable high-efficiency solar cells with dry-transferred single-walled carbon nanotube films",Journal of Materials Chemistry A,Vol.2,2014年,pp.11311-11318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
G01J 1/02-1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を受ける受光領域を含む表面を有し、前記受光領域に入射した前記入射光を光電変換する半導体部と、
前記表面上に設けられた金属部と、
前記受光領域上に設けられ、多数のカーボンナノチューブが堆積してなるカーボンナノチューブ膜と、を備え、
前記カーボンナノチューブ膜は
、前記受光領域
上に設けられた主部と、前記金属部の上面
上に設けられた乗り上げ部と、前記主部と前記乗り上げ部とを繋ぐ立ち上がり部と、を有し、
前記カーボンナノチューブ膜の前記立ち上がり部は、前記金属部の内側面と接しており、
前記カーボンナノチューブ膜に含まれる前記多数のカーボンナノチューブの長さが、前記表面を基準とする前記金属部の前記上面の高さ以上である、半導体光検出素子。
【請求項2】
前記多数のカーボンナノチューブは、バンドル状のカーボンナノチューブと、非バンドル状のカーボンナノチューブとによって構成される、請求項1に記載の半導体光検出素子。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ膜のシート抵抗が10
4Ω/□以上である、請求項1または2に記載の半導体光検出素子。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ膜に含まれる前記多数のカーボンナノチューブの長さが1μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体光検出素子。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ膜に含まれる単層カーボンナノチューブの割合が多層カーボンナノチューブの割合よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体光検出素子。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ膜に含まれる多層カーボンナノチューブの割合が単層カーボンナノチューブの割合よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体光検出素子。
【請求項7】
400nm以下の波長域における前記カーボンナノチューブ膜の透過率が85%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体光検出素子。
【請求項8】
200nm以上の波長域における前記カーボンナノチューブ膜の透過率が85%以上である、請求項7に記載の半導体光検出素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光検出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光に対するモニタ精度が使用回数の増加に伴って低下することを抑制できる半導体光検出素子が開示されている。この半導体光検出素子は、入射光に感応してキャリアを発生する半導体光検出素子であって、シリコン基体と、貴金属膜と、下地層とを備える。シリコン基体は、第2導電型であり、第1の表面に設けられた第1導電型の不純物領域を含む。貴金属膜は、シリコン基体の第1及び第2の表面のうち少なくとも一方の表面上に設けられる。下地層は、貴金属膜とシリコン基板との間に設けられておりシリコン基板に対する密着性が貴金属膜よりも高い層である。このように、シリコン基体の表面上に貴金属膜が設けられることにより、シリコン基体の表面に光が入射した際のチャージアップが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体光検出素子を用いて紫外光を検出する場合、検出感度の劣化(照射前の検出感度に対する、継続照射による検出感度の低下)が問題となる。検出感度の劣化は、高いエネルギーを有する紫外光の照射により半導体表面において発生した電荷が、半導体表面をチャージアップさせてしまうことにより引き起こされる。半導体光検出素子の検出感度が劣化すると、或る強度の紫外光に対して出力されるキャリアの数が次第に減少するので、紫外光の検出精度が徐々に低下することとなる。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1に記載された半導体光検出素子では、半導体表面上に下地層を介して貴金属膜を設け、この貴金属膜を通じて電荷を逃がすことにより、半導体表面のチャージアップを防いでいる。しかしながら、貴金属膜における紫外光の反射及び吸収により、半導体表面に入射する紫外光の光量が大きく減少し、その結果、検出感度が低下するという課題がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、半導体表面のチャージアップを抑制しつつ、貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を抑えることができる半導体光検出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明による半導体光検出素子は、入射光を受ける受光領域を含む表面を有し、受光領域に入射した入射光を光電変換する半導体部と、表面上に設けられた金属部と、受光領域上に設けられ、多数のカーボンナノチューブが堆積してなるカーボンナノチューブ膜と、を備える。カーボンナノチューブ膜は、受光領域の上面から金属部の上面に乗り上げている。カーボンナノチューブ膜に含まれる多数のカーボンナノチューブの長さは、半導体部の表面を基準とする金属部の上面の高さ以上である。
【0008】
この半導体光検出素子では、多数のカーボンナノチューブが堆積してなるカーボンナノチューブ膜が、受光領域上に設けられている。カーボンナノチューブは、半導体部の表面において発生した電荷を逃がすために十分な導電性を有する。従って、貴金属膜を設ける場合と同様に、半導体部の表面のチャージアップを好適に防ぐことができる。更に、カーボンナノチューブは、貴金属と比較して高い透光性を有する。従って、紫外光の反射及び吸収を少なくし、半導体部の表面に入射する紫外光の光量の減少を抑えることができる。故に、この半導体光検出素子によれば、貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を抑えることができる。
【0009】
また、この半導体光検出素子では、半導体部の表面上に金属部が設けられている。一例では、この金属部は、半導体部と電気的に導通した電極である。他の一例では、この金属部は、受光領域以外に光が入射することを防ぐ為の遮光膜である。そして、カーボンナノチューブ膜は、受光領域の上面から金属部の上面に乗り上げている。これにより、半導体部の表面からカーボンナノチューブ膜に移動した電荷を、金属部を通じて好適に逃がすことができる。また、このような構成を例えば特許文献1の貴金属膜において実現しようとすると、半導体部の表面と金属部との段差において、貴金属膜が段切れによる導通不良を起こしてしまう虞がある。多くの場合、貴金属膜は気相成長(物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)など)によって形成されるが、側面には貴金属が付着しにくいからである。これに対し、カーボンナノチューブ膜では長尺の繊維状のカーボンナノチューブが半導体部の表面から金属部の上面にわたって延在できるので、半導体部の表面と金属部との段差においても好適に導通させることができる。
【0010】
また、この半導体光検出素子では、カーボンナノチューブ膜に含まれる多数のカーボンナノチューブの長さが、表面を基準とする金属部の上面の高さ以上である。これにより、半導体部の表面と金属部との段差におけるカーボンナノチューブ膜の段切れによる導通不良をより効果的に防ぐことができる。
【0011】
上記の半導体光検出素子において、多数のカーボンナノチューブは、バンドル状のカーボンナノチューブと、非バンドル状のカーボンナノチューブとによって構成されてもよい。このような場合であっても、上記の作用を奏するカーボンナノチューブ膜を好適に実現できる。
【0012】
上記の半導体光検出素子において、カーボンナノチューブ膜のシート抵抗は104Ω/□以上であってもよい。カーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブの密度を小さくすることで(すなわち単位体積当たりのカーボンナノチューブの量を減らすことで)紫外線の透過率が向上する。一方でシート抵抗は大きくなるが、上記のカーボンナノチューブ膜は、半導体部の表面において発生した電荷を逃がすことができればよい。従って、いわゆる透明電極のような高い導電性はカーボンナノチューブ膜に必ずしも必要ではなく、カーボンナノチューブ膜が比較的大きなシート抵抗を有する構成とすれば、高い紫外線透過性と充分な導電性を両立させることが出来る。
【0013】
上記の半導体光検出素子において、カーボンナノチューブ膜に含まれる多数のカーボンナノチューブの長さは1μm以上であってもよい。半導体部の表面を基準とする金属部の上面の高さは典型的には1μm以下なので、これにより、半導体部の表面と金属部との段差におけるカーボンナノチューブ膜の段切れによる導通不良をより効果的に防ぐことができる。
【0014】
上記の半導体光検出素子において、カーボンナノチューブ膜に含まれる単層カーボンナノチューブの割合は多層カーボンナノチューブの割合よりも大きくてもよい。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較して同程度の導電性を有しながら、多層カーボンナノチューブよりも高い透光性を有する。従って、このような構成によれば、半導体部の表面のチャージアップを好適に防ぎつつ、半導体光検出素子の検出感度の低下をより効果的に抑えることができる。
【0015】
或いは、上記の半導体光検出素子において、カーボンナノチューブ膜に含まれる多層カーボンナノチューブの割合は単層カーボンナノチューブの割合よりも大きくてもよい。一般的に、多層カーボンナノチューブの製造工程は単層カーボンナノチューブの製造工程よりも単純であり、多層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブよりも低いコストで製造することができる。従って、このような構成によれば、製造が容易であり低コストの半導体光検出素子を提供できる。
【0016】
上記の半導体光検出素子において、400nm以下の波長域におけるカーボンナノチューブ膜の透過率は85%以上であってもよい。これにより、紫外光に対して十分な検出感度を有する半導体光検出素子を提供できる。この場合、200nm以上の波長域におけるカーボンナノチューブ膜の透過率が85%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による半導体光検出素子によれば、半導体表面のチャージアップを抑制しつつ、貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態による光検出装置の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示された光検出装置のII-II線に沿った断面図である。
【
図3】半導体光検出素子の内部構成を示す断面図である。
【
図4】CNT膜の周縁部を拡大して示す断面図である。
【
図5】試作した半導体光検出素子のCNT膜を示す顕微鏡写真である。
【
図6】試作した半導体光検出素子のCNT膜を示す顕微鏡写真である。
【
図7】CNT膜に含まれるカーボンナノチューブの様子を表す拡大模式図である。
【
図8】CNT膜の作製方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】試作した半導体光検出素子の分光感度特性を測定した結果を示すグラフである。
【
図10】受光領域上に導電膜を設けない場合、貴金属膜を設けた場合、及びCNT膜を設けた場合のそれぞれについて、紫外光の照射前、200秒照射後、400秒照射後、及び800秒照射後における検出感度を測定した結果を示すグラフである。
【
図11】本発明の第2実施形態による半導体光検出素子として、固体撮像素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明による半導体光検出素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による光検出装置1の構成を示す平面図である。
図2は、
図1に示された光検出装置1のII-II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態の光検出装置1は、パッケージ2と、パッケージ2に収容された半導体光検出素子10Aとを備える。本実施形態の光検出装置1は、主に紫外光の強度を検出するための装置である。
【0021】
パッケージ2は、例えば四角形といった平面形状を有しており、凹状の収容空間を有している。この収容空間には、半導体光検出素子10Aが収容されている。半導体光検出素子10Aは、パッケージ2の収容空間を画成する底面2a上に搭載されている。半導体光検出素子10Aは、例えば四角形といった平面形状を有しており、半導体部13と、半導体部13の表面上に設けられたカソード電極11及び第1アノード電極12と、半導体部13の裏面上に設けられた第2アノード電極(不図示)と、を備える。半導体部13の表面上には、入射光を受ける受光領域10aが設けられている。受光領域10aは、半導体光検出素子10Aと同様に、例えば四角形といった平面形状を有する。カソード電極11は、受光領域10aを囲んでおり、例えば四角枠状といった平面形状を有している。第1アノード電極12は、受光領域10aの周方向の一部に設けられており、カソード電極11の外側に設けられている。
【0022】
パッケージ2は、パッケージ2の底板部分2bを貫通する金属製の一対のピン3,4を有する。ピン3,4の各一端は底面2a上においてパッケージ2の収容空間内に位置し、各他端は底面2aの裏側においてパッケージ2の収容空間外に位置している。ピン3の一端は、ボンディングワイヤ5を介して半導体光検出素子10Aの第1アノード電極12と電気的に接続され、また第2アノード電極とも電気的に接続されている。ピン4の一端は、ボンディングワイヤ6を介して、半導体光検出素子10Aのカソード電極11と電気的に接続されている。一実施例では、ピン3の一端部と、ピン4の一端部との間に、半導体光検出素子10Aが配置されている。
【0023】
図3は、半導体光検出素子10Aの内部構成を示す断面図であって、
図1のII-II線に沿った半導体光検出素子10Aの断面を示している。半導体光検出素子10Aは、pn接合型のフォトダイオードである。
図3に示されるように、本実施形態の半導体光検出素子10Aは、上述したカソード電極11、第1アノード電極12、半導体部13及び第2アノード電極19に加えて、保護膜20及びカーボンナノチューブ(CNT)膜21を更に備える。
【0024】
半導体部13は、pn接合部13cを内部に有しており、入射光を光電変換する。すなわち、光電変換部として機能するpn接合部13cへの光の入射に感応して発生したキャリアが電気信号として取り出される。半導体部13は、例えばシリコン基板である。半導体部13は、厚さ方向に互いに対向する平坦な表面13a及び裏面13bを有する。表面13aは受光領域10aを含む。更に、半導体部13は、高濃度p型半導体領域(p+領域)14、p型半導体領域(p領域)15、低濃度p型半導体領域(p-領域)16、高濃度p型半導体領域(p+領域)17、及び高濃度n型半導体領域(n+領域)18を有する。なお、「高濃度」とは、不純物の濃度が例えば1×1017cm-3以上であることを意味し、「低濃度」とは、不純物の濃度が例えば1×1015cm-3以下であることを意味する。
【0025】
p+領域14は、裏面13bを含む半導体部13内の領域に設けられた不純物領域である。p+領域14は、例えば半導体部13のベースとなるp型シリコン基板の裏面側からp型不純物をイオン注入することにより形成される。p領域15は、p+領域14とp-領域16との間に位置する領域であり、p型シリコン基板がそのまま残存する領域である。p-領域16は、半導体部13内の表面13a側に設けられた不純物領域である。p-領域16は、例えばp型シリコン基板の表面側から少量のn型不純物をイオン注入することにより形成される。p+領域17は、表面13aを含む半導体部13内の領域に設けられた不純物領域である。p+領域17は、例えばp-領域16に対してp型不純物をイオン注入することにより形成される。
【0026】
n+領域18は、表面13aを含む半導体部13内の領域に設けられた不純物領域である。半導体部13の内部におけるn+領域18とp-領域16との界面には、pn接合部13cが形成される。半導体部13の厚さ方向から見て、pn接合部13cは受光領域10aと重なる。n+領域18は、例えばp-領域16に対して多量のn型不純物をイオン注入することにより形成される。n+領域18は、半導体部13の厚さ方向から見て受光領域10a及びカソード電極11と重なる。n+領域18は、例えば四角形といった平面形状を有する。p+領域17は、半導体部13の厚さ方向から見てn+領域18の周囲を囲んでいる。n+領域18の厚さ(すなわち、表面13aからのpn接合部13cの深さ)は、例えば70nm~150nmである。
【0027】
第2アノード電極19は、半導体部13の裏面13b上の全面に設けられ、p+領域14とオーミック接触を成している。第2アノード電極19は、例えばTi/Ni/Auといった積層構造を有する。保護膜20は、絶縁性を有する誘電体膜であり、例えばシリコン酸化膜である。保護膜20は、半導体部13の表面13aのうち、受光領域10aを除く領域を覆っている。言い換えれば、保護膜20に形成された開口20aの内側が、受光領域10aとなっている。開口20aの内側では、n+領域18が保護膜20から露出している。保護膜20の厚さは、例えば100nm~300nmである。
【0028】
カソード電極11は、半導体部13の表面13a上に設けられた金属部の例である。本実施形態のカソード電極11は、保護膜20上に設けられており、保護膜20に形成された開口を介してn+領域18とオーミック接触を成している。カソード電極11は、例えばアルミニウム(Al)といった金属からなる。カソード電極11の内側(受光領域10a側)の側面は、保護膜20の開口20aを画成する側面と面一に形成されている。言い換えれば、カソード電極11の内側の側面は、受光領域10aの外縁を規定している。保護膜20の上面を基準とするカソード電極11の厚さは、例えば700nm~1000nmである。従って、表面13aを基準とするカソード電極11の上面の高さは、例えば800nm~1300nmである。第1アノード電極12は、保護膜20上に設けられており、保護膜20に形成された開口を介してp+領域17とオーミック接触を成している。第1アノード電極12は、例えばアルミニウム(Al)といった金属からなる。
【0029】
CNT膜21は、多数のカーボンナノチューブが堆積してなる導電性の膜である。CNT膜21は、n+領域18の表面のチャージアップを抑制するために、受光領域10aの全体を覆うように受光領域10a上に設けられ、n+領域18の表面と接している。また、CNT膜21の一部は、カソード電極11上に設けられ、カソード電極11と接している。これにより、CNT膜21はn+領域18の表面とカソード電極11とを互いに導通させる。半導体光検出素子10Aに入射した光は、CNT膜21を透過して半導体部13に達する。
【0030】
この半導体光検出素子10Aが使用される際には、カソード電極11はピン4(
図1,
図2参照)を介して接地電位(GND電位)に接続される。そして、光がCNT膜21を透過して表面13aの受光領域10aから半導体部13に入射すると、この入射光の一部が、pn接合部13cの近傍に形成される空乏層内に至る。この空乏層内では、入射光に感応してキャリアが発生し、このキャリアは第2アノード電極19及びピン3(
図1,
図2参照)を介して光検出装置1の外部へ出力される。
【0031】
ここで、本実施形態のCNT膜21について更に説明する。受光領域10a上におけるCNT膜21の膜厚は、例えば10~50nmである。n+領域18の表面上に蓄積される電荷を好適に逃がすために、CNT膜21のシート抵抗は例えば108Ω/□以下とされる。但し、透明電極ほどの導電性までは要求されず、CNT膜21のシート抵抗は例えば104Ω/□以上とされる。なお、半導体装置において通常用いられる透明電極のシート抵抗は、一般に102~103Ω/□程度である。従って、透明電極に用いられるCNT膜と比べて、CNT膜21のカーボンナノチューブの密度は小さく(疎であって)、シート抵抗が高めになる一方で紫外線が透過しやすい。なお、出願人が試作したCNT膜21のシート抵抗は105Ω/□であった。
【0032】
一例では、CNT膜21に含まれる単層カーボンナノチューブの割合は、多層カーボンナノチューブの割合よりも大きい。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較して同程度の導電性を有する。単層カーボンナノチューブも多層カーボンナノチューブも、1本当たりで同程度の導電性を示すからである。また、単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブよりも高い透光性を有する。多層カーボンナノチューブでは、外層だけでなく内層においても光が吸収されるからである。従って、単層カーボンナノチューブの割合を大きくすることにより、CNT膜21の光透過率を下げずに低抵抗化することが可能となる。好適な単層カーボンナノチューブの割合は例えば90%以上である。
【0033】
別の例では、CNT膜21に含まれる多層カーボンナノチューブの割合は、単層カーボンナノチューブの割合よりも大きい。一般的に、多層カーボンナノチューブの製造工程は単層カーボンナノチューブの製造工程よりも単純であり、多層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブよりも低いコストで製造することができる。この場合、好適な多層カーボンナノチューブの割合は例えば90%以上である。
【0034】
本実施形態において、200nm以上400nm以下の波長域(すなわち紫外域)におけるCNT膜21の透過率は、例えば85%以上であり、一実施例では93%である。紫外域では可視域と比較して物体に対する光の透過力が低く、また、半導体部13内の受光感度も紫外域では可視域よりも低い。従って、CNT膜21を透過する紫外光の光量を十分に確保することが望ましく、そのためには、薄く、カーボンナノチューブの密度が小さいCNT膜21であることが好ましい。なお、出願人が試作したCNT膜21の光透過率は、波長200nm~1600nmで93%以上であった。
【0035】
CNT膜21の光透過率は、CNT膜21を構成するカーボンナノチューブの密度、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの各割合、及びCNT膜21の膜厚によって概ね決定される。カーボンナノチューブの密度が小さいほどCNT膜21の光透過率は高くなり、カーボンナノチューブの密度が大きいほどCNT膜21の光透過率は低くなる。また、単層カーボンナノチューブの割合が大きいほどCNT膜21の光透過率は高くなり、多層カーボンナノチューブの割合が大きいほどCNT膜21の光透過率は低くなる。また、膜厚が薄いほどCNT膜21の光透過率は高くなり、膜厚が厚いほどCNT膜21の光透過率は低くなる。紫外光は、紫外光よりも波長が長い可視光と比較して物体に対する透過率が低い。そのため、可視光に対する透明電極の光透過性と同等以上の紫外線に対する光透過性を確保するためには、透明電極と比較して単位面積当たりのカーボンナノチューブの本数を少なく(例えば膜厚を薄く)することが望ましい。
【0036】
また、CNT膜21の周縁部は、カソード電極11の上面に乗り上げている。本実施形態ではカソード電極11は四角形の閉じた枠状を呈しているので、CNT膜21は、枠の内側からカソード電極11の上面に乗り上げるように形成されている。すなわち、受光領域10a上のCNT膜21の上面はカソード電極11の上面よりも低い位置にあり、CNT膜21は受光領域10a上からカソード電極11の上面に乗り上げるように連続的に延在している。
図4は、CNT膜21の周縁部を拡大して示す断面図である。
図4に示されるように、CNT膜21の端縁を含む乗り上げ部21bは、カソード電極11の上面11a上に設けられている。乗り上げ部21bの厚さt1は、CNT膜21のうち受光領域10a上に設けられた主部21cの厚さt2と略等しい。
【0037】
CNT膜21は、乗り上げ部21bと主部21cとの間に設けられた立ち上がり部21dを更に有する。立ち上がり部21dは、カソード電極11の内側面11b上、及び保護膜20の開口20aの側面上(すなわちカソード電極11及び保護膜20の段差部分)に設けられており、乗り上げ部21bと主部21cとを繋いでいる。カソード電極11の内側面11b、及び保護膜20の開口20aの側面は表面13aの法線Vaに対して略平行であるが、立ち上がり部21dの表面は、法線Vaに対して傾斜する斜面21aとなっている。具体的には、斜面21aは、表面13aから離れるほどカソード電極11に近づくようにスロープ状に傾斜している。言い換えれば、立ち上がり部21dの厚さは、表面13aに近づくほど厚くなっている。その結果、立ち上がり部21dの厚さt3は、主部21cの厚さt2よりも厚くなっている。なお、
図5及び
図6は、試作した半導体光検出素子のCNT膜を示す顕微鏡写真である。これらの図を参照すると、CNT膜21がカソード電極の段差部分に斜面21aを有することが理解できる。
【0038】
図4では立ち上がり部21dがカソード電極11の内側面11b及び保護膜20の開口20aの側面と接しているが、立ち上がり部21dとカソード電極11の内側面11bとの間、及び立ち上がり部21dと保護膜20の開口20aの側面との間のうち少なくとも一方には空隙が形成されてもよい。
【0039】
図7は、CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブの様子を表す拡大模式図である。
図7に示されるように、CNT膜21においてカーボンナノチューブが多数存在する場合、分子間力によって複数本のカーボンナノチューブが凝集し、バンドルを形成する(図中のB1。以下、このようなバンドルを、バンドル状のカーボンナノチューブと称する)。また、一部はバンドルを形成せず、単一の状態で存在する(図中のB2。以下、このようなカーボンナノチューブを、非バンドル状のカーボンナノチューブと称する)。CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブは、バンドル状のカーボンナノチューブと、非バンドル状のカーボンナノチューブとによって構成されてもよい。バンドル状のカーボンナノチューブは非バンドル状のカーボンナノチューブよりも長尺となるので、カソード電極11の段差をより乗り越えやすくなる。CNT膜21に含まれるカーボンナノチューブの長さの上限は、非バンドル状のカーボンナノチューブでは例えば5μm以下であり、バンドル状のカーボンナノチューブでは例えば8μm以下である。
【0040】
CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブの長さは、表面13aを基準とするカソード電極11の上面11aの高さh1以上である。典型的には高さh1は1μm以下であり、その場合、CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブの好適な長さは1μm以上である。これにより、カソード電極11の段差をカーボンナノチューブが好適に乗り越えることができる。ここで、「CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブの長さ」とは、CNT膜21に含まれる多数のカーボンナノチューブの平均長さを指す。また、多数のカーボンナノチューブがバンドル状のカーボンナノチューブと非バンドル状のカーボンナノチューブとによって構成されている場合、多数のカーボンナノチューブの平均長さとは、バンドル状のカーボンナノチューブの長さと、非バンドル状のカーボンナノチューブの長さとから算出された平均長さを指す。
【0041】
上記の構成を有するCNT膜21は、例えばスピンコートにより形成され得る。
図8は、CNT膜21の作製方法の一例を示すフローチャートである。まず、チャンバ内にて化学気相成長法により多数のカーボンナノチューブを合成する(ステップS1)。このときの反応温度は、例えば600℃~800℃である。次に、多数のカーボンナノチューブを、添加材を加えた溶媒中に入れて攪拌することによりCNT分散液を生成する(ステップS2)。続いて、保護膜20及びカソード電極11が形成された半導体部13の表面13a上に、CNT分散液を塗布する(ステップS3)。このときの塗布方法としては、均一な膜厚のCNT膜21を形成するために、例えばスピンコート、スプレーコート、或いはブレードコートが好適である。なお、滴下後の分散液の厚さは、保護膜20及びカソード電極11の合計厚さよりも十分に厚い。スピンコート、及びブレードコートでは、滴下後に余剰分散液が除去され、分散液の厚さは、電極よりも薄いか同程度となる。続いて、塗布されたCNT分散液を加熱して乾燥させる(ステップS4)。これにより、水分及び添加物が蒸発し、カーボンナノチューブのみが表面13a上に膜状に残存する。このように、カーボンナノチューブを含む分散液を塗布・乾燥することにより、低温で半導体部13上にCNT膜21を形成できる。続いて、通常のフォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術を用いて、カソード電極11よりも外側に位置するCNT膜21を除去する(ステップS5)。このようにして、本実施形態のCNT膜21が作製される。
【0042】
以上に説明した本実施形態の半導体光検出素子10Aによって得られる効果について説明する。半導体光検出素子10Aでは、多数のカーボンナノチューブが堆積してなるCNT膜21が、受光領域10a上に設けられている。カーボンナノチューブは、半導体部13の表面13a(具体的にはn+領域18の表面)において発生した電荷を、CNT膜21を通じて、接地電位に接続されたカソード電極11へと逃がすために十分な導電性を有する。従って、特許文献1のような貴金属膜を設ける場合と同様に、半導体部13の表面13aのチャージアップを好適に防ぐことができる。故に、紫外光を検出する際の検出感度の劣化を抑えることができる。更に、カーボンナノチューブは、貴金属と比較して高い透光性を有する。従って、紫外光の反射及び吸収を少なくし、半導体部13の表面13aに入射する紫外光の光量の減少を抑えることができる。故に、この半導体光検出素子10Aによれば、貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を抑えることができる。
【0043】
図9は、試作した半導体光検出素子の分光感度特性を測定した結果を示すグラフである。
図9において、実線のグラフG1a,G2a及びG3aは紫外光の照射前を示し、破線のグラフG1b,G2b及びG3bは紫外光(Xeエキシマランプ光)を800秒照射した後を示す。また、グラフG1a,G1bは受光領域上にCNT膜を形成した半導体光検出素子の分光感度特性を示し、グラフG2a,G2bは受光領域上に貴金属膜を形成した半導体光検出素子の分光感度特性を示し、グラフG3a,G3bは受光領域上に導電膜を備えない半導体光検出素子の分光感度特性を示す。グラフG3a,G3bに示されるように、受光領域上に導電膜を設けない場合であっても、400nmより大きい波長域では紫外光の照射前と照射後とで検出感度に殆ど変化は見られなかった。しかし、400nm以下の波長域では、紫外光の照射前に対し照射後では検出感度が大きく劣化した。また、受光領域上に貴金属膜を設けた場合には、グラフG2a,G2bに示されるように、400nm以下の波長域においても検出感度の劣化が効果的に抑制され、照射前と照射後とで検出感度に殆ど変化は見られなかった。しかしながら、導電膜を設けない場合と比べて、検出感度が大きく低下する結果となった。これに対し、受光領域上にCNT膜を設けた場合、グラフG1a,G1bに示されるように、400nm以下の波長域において照射前と照射後とで検出感度に殆ど変化が見られず、且つ、貴金属膜を設けた場合と比べて、検出感度の低下の度合いが僅かであった。
【0044】
図10は、受光領域上に導電膜を設けない場合、貴金属膜を設けた場合、及びCNT膜を設けた場合のそれぞれについて、紫外光(Xeエキシマランプ光)の照射前、200秒照射後、400秒照射後、及び800秒照射後における波長200nmの検出感度を測定した結果を示すグラフである。
図10に示されるように、導電膜を設けない場合、照射前には80(mA/W)程度であった検出感度が、200秒照射後には60(mA/W)程度まで劣化した。また、貴金属膜を設けた場合、800秒照射後においても検出感度は殆ど劣化しなかったが、照射前の検出感度が10(mA/W)程度となり、導電膜を設けない場合と比べて大きく低下した。これに対し、CNT膜を設けた場合には、800秒照射後においても検出感度が殆ど劣化しなかったのみならず、照射前の検出感度が40(mA/W)程度となり、貴金属膜を設けた場合と比べて大きく改善した。
【0045】
図9及び
図10に示された結果からも明らかなように、本実施形態の半導体光検出素子10Aによれば、貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を効果的に抑えることができる。
【0046】
また、この半導体光検出素子10Aでは、半導体部13の表面13a上にカソード電極11が設けられている。そして、CNT膜21は、このカソード電極11の上面11aに乗り上げている。これにより、CNT膜21とカソード電極11との接触面積が大きくなり、半導体部13の表面13aからCNT膜21に移動した電荷を、カソード電極11を通じて好適に逃がすことができる。このような構成を例えば特許文献1の貴金属膜において実現しようとすると、半導体部13の表面13aとカソード電極11との段差において、貴金属膜が段切れによる導通不良を起こしてしまう虞がある。多くの場合、貴金属膜は気相成長によって形成されるが、側面には貴金属が付着しにくいからである。これに対し、CNT膜21では長尺の繊維状のカーボンナノチューブが半導体部13の表面13aからカソード電極11の上面11aにわたって延在できるので(
図5及び
図6参照)、半導体部13の表面13aとカソード電極11との段差においてもこれらを好適に導通させることができる。
【0047】
また、本実施形態のように、CNT膜21の多数のカーボンナノチューブは、バンドル状のカーボンナノチューブと、非バンドル状のカーボンナノチューブとによって構成されてもよい。このような場合であっても、上記の作用を奏するCNT膜21を好適に実現できる。なお、CNT膜21の多数のカーボンナノチューブは、非バンドル状のカーボンナノチューブのみによって構成されてもよい。
【0048】
また、本実施形態のように、CNT膜21のシート抵抗は104Ω/□以上であってもよい。CNT膜21は、半導体部13の表面13aにおいて発生した電荷を逃がすことができればよい。従って、いわゆる透明電極のような高い導電性はCNT膜21に必ずしも求められず、CNT膜21はこのように比較的大きなシート抵抗を有しても良い。
【0049】
また、本実施形態のように、CNT膜21に含まれるカーボンナノチューブの長さは、表面13aを基準とするカソード電極11の上面11aの高さh1以上であってもよい。これにより、半導体部13の表面13aとカソード電極11との段差におけるCNT膜21の段切れによる導通不良をより効果的に防ぐことができる。
【0050】
また、本実施形態のように、CNT膜21に含まれるカーボンナノチューブの長さは1μm以上であってもよい。半導体部13の表面13aを基準とするカソード電極11の上面11aの高さh1は、典型的には1μm以下である。従って、カーボンナノチューブの長さが1μm以上であることにより、CNT膜21の段切れによる導通不良をより効果的に防ぐことができる。
【0051】
また、前述したように、CNT膜21に含まれる単層カーボンナノチューブの割合は多層カーボンナノチューブの割合よりも大きくてもよい。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較して同程度の導電性を有しながら、多層カーボンナノチューブよりも高い透光性を有する。従って、このような構成によれば、半導体部13の表面13aのチャージアップを好適に防ぎつつ、半導体光検出素子10Aの検出感度の低下をより効果的に抑えることができる。或いは、前述したように、CNT膜21に含まれる多層カーボンナノチューブの割合は単層カーボンナノチューブの割合よりも大きくてもよい。一般的に、多層カーボンナノチューブの製造工程は単層カーボンナノチューブの製造工程よりも単純であり、多層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブよりも低いコストで製造することができる。従って、このような構成によれば、製造が容易であり低コストの半導体光検出素子10Aを提供できる。
【0052】
また、本実施形態のように、400nm以下の波長域におけるCNT膜21の透過率は85%以上であってもよい。これにより、紫外光に対して十分な検出感度を有する半導体光検出素子10Aを提供できる。また、この場合、200nm以上の波長域におけるCNT膜21の透過率が85%以上であってもよい。
【0053】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態による半導体光検出素子として、固体撮像素子10Bの構成を示す断面図である。固体撮像素子10Bは、主に紫外光像を撮像するための裏面入射型CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。
図11に示されるように、固体撮像素子10Bは、半導体部30を備える。半導体部30は、p
+型半導体基板22と、p
+型半導体基板22の一方の面上にエピタキシャル成長したp
-型半導体層23とを有する。p
+型半導体基板22及びp
-型半導体層23は、例えば不純物が添加されたシリコン結晶からなる。
【0054】
半導体部30の一方の面30a上には、ゲート絶縁膜24,25,26が設けられている。ゲート絶縁膜24,26は、例えばシリコン酸化膜であり、ゲート絶縁膜25は、例えばシリコン窒化膜である。すなわち、ゲート絶縁膜24,25,26は、ONO(酸化膜-窒化膜-酸化膜)構造を有している。ゲート絶縁膜24,25,26上には、信号読出回路27が設けられている。つまり、信号読出回路27は、ゲート絶縁膜24,25,26を介して半導体部30の一方の面30a上に設けられている。信号読出回路27は、複数の電荷転送電極を含んでいる。信号読出回路27上には、信号読出回路27に対する信号入出力用の金属配線28が設けられている。金属配線28は、例えばアルミニウムからなる。金属配線28上には、はんだバンプを設けるためのUBM(Under Bump Metal)29が設けられている。
【0055】
半導体部30の他方の面30b(本実施形態における半導体部の表面)には、凹部30cが設けられている。凹部30cは、半導体部30の一方の面30a側とは反対側に向かって広がる錐台状(例えば四角錘台状)の形状を有している。凹部30cの底面30eは、p-型半導体層23により構成されている。半導体部30では、凹部30cの底面30eが、入射光を受ける受光領域となる。また、凹部30cの底部分である薄化部分30dが撮像領域となり、底面30eに入射した光は薄化部分30dにおいて光電変換される。
【0056】
p-型半導体層23のうち凹部30cの底面30eに対応する部分には、バックサイドウェルをなくすためのアキュムレーション層31が形成されている。アキュムレーション層31は、p-型半導体層23のうち底面30eに対応する部分にp型不純物をイオン注入又は拡散させることにより形成される。半導体部30では、p-型半導体層23のうちアキュムレーション層31から半導体部30の一方の面30aに至る領域が光電変換領域として機能する。なお、図示は省略されているが、光電変換領域における一方の面30a側の部分には、信号読出回路27の各電荷転送電極と対向するn型の埋め込みチャネル、光電変換領域で発生した電子を蓄積するためのn型の蓄積部等が形成されている。
【0057】
半導体部30の他方の面30b上には、金属層33が形成されている。金属層33には、凹部30cの底面30eを金属層33から露出させる開口33aが設けられている。金属層33は、底面30e以外への光の入射を遮る遮光層として機能する。半導体部30の厚さ方向から見て、開口33aの形状は、底面30eの形状と一致している。金属層33は、例えば、めっきによって数μm~数十μmの厚さに形成される。めっきの一例は、無電解金属めっきである。この場合、金属層33は、めっき層である。めっき層は、例えば、無電解Ni/Auめっきによって、ニッケルからなる厚さ10μm程度の下地層上に、金からなる厚さ0.05μm程度の表層が形成されることで、構成されている。
【0058】
固体撮像素子10Bは、CNT膜32を更に備える。CNT膜32は、多数のカーボンナノチューブが堆積してなる導電性の膜である。CNT膜32は、底面30eのチャージアップを抑制するために、底面30e上に設けられ、底面30eと接している。また、CNT膜32の一部は、金属層33上に設けられ、金属層33と接している。これにより、CNT膜32は底面30eと金属層33とを互いに導通させ、受光領域である底面30e上で発生した電荷をCNT膜32を通じて、例えば接地電位に接続された金属層33へと逃がすことが出来る。固体撮像素子10Bに入射した光は、CNT膜32を透過して半導体部30の底面30eに達する。また、CNT膜32の周縁部は、金属層33の上面33bに乗り上げている。本実施形態では金属層33は閉じた枠状を呈しているので、CNT膜32は、枠の内側から金属層33の上面33bに乗り上げるように形成されている。なお、上記以外のCNT膜32の詳細な構造、形状及び特性は第1実施形態のCNT膜21と同様なので、説明を省略する。
【0059】
以上に説明した本実施形態の固体撮像素子10Bによって得られる効果について説明する。固体撮像素子10Bでは、多数のカーボンナノチューブが堆積してなるCNT膜32が、半導体部30の底面30e上に設けられている。従って、第1実施形態と同様に、半導体部30の底面30eのチャージアップを好適に防ぐことができる。故に、紫外光を検出する際の検出感度の劣化を抑えることができる。更に、カーボンナノチューブは、貴金属と比較して高い透光性を有する。従って、紫外光の反射及び吸収を少なくし、半導体部30の底面30eに入射する紫外光の光量の減少を抑えることができる。故に、この固体撮像素子10Bによれば、底面30e上に貴金属膜を設ける場合と比較して検出感度の低下を抑えることができる。
【0060】
また、この固体撮像素子10Bでは、半導体部30の底面30e上に金属層33が設けられている。そして、CNT膜32は、この金属層33の上面33bに乗り上げている。これにより、CNT膜32と金属層33との接触面積が大きくなり、半導体部30の底面30eからCNT膜32に移動した電荷を、金属層33を通じて好適に逃がすことができる。そして、CNT膜32では長尺の繊維状のカーボンナノチューブが半導体部30の底面30eから金属層33の上面33bにわたって延在できるので、半導体部30の底面30eと金属層33との段差においてもこれらを好適に導通させることができる。
【0061】
本発明による半導体光検出素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、第1実施形態ではカソード電極が四角形の枠状を呈しており受光領域を囲んでいるので、受光領域が広い場合であっても入射位置による応答速度の差を小さくすることができる。しかしながら、受光領域が比較的小さい場合には、カソード電極は受光領域を囲んでいなくてもよく、例えば四角形の受光領域の一辺のみに沿って設けられてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…光検出装置、2…パッケージ、2a…底面、2b…底板部分、3,4…ピン、5,6…ボンディングワイヤ、10A…半導体光検出素子、10B…固体撮像素子、10a…受光領域、11…カソード電極、11a…上面、11b…内側面、12…第1アノード電極、13…半導体部、13a…表面、13b…裏面、13c…pn接合部、14…p+領域、15…p領域、16…p-領域、17…p+領域、18…n+領域、19…第2アノード電極、20…保護膜、20a…開口、21…CNT膜、21a…斜面、21b…乗り上げ部、21c…主部、21d…立ち上がり部、22…p+型半導体基板、23…p-型半導体層、24,25,26…ゲート絶縁膜、27…信号読出回路、28…金属配線、30…半導体部、30a…一方の面、30b…他方の面、30c…凹部、30d…薄化部分、30e…底面(受光領域)、31…アキュムレーション層、32…CNT膜、33…金属層、33a…開口、33b…上面、Va…法線。