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特許7445744高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法
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  • 特許-高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240229BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20240229BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20240229BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/50
C21D9/46 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022507549
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 KR2020001718
(87)【国際公開番号】W WO2021025248
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0095077
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,イル チャン
(72)【発明者】
【氏名】キム,フェ フン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ハン ジン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-264652(JP,A)
【文献】特表2011-526654(JP,A)
【文献】特開2019-002053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/28
C22C 38/50
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005~0.03%、N:0.005~0.03%、Si:0.05~0.9%、Mn:0.05~0.9%、Cr:14.0~19.0%、Ti:0.1~0.6%、Nb:0.1~0.6%、Cu:0.1~0.6%、P:0.01~0.04%、S:0.01%以下(0は除外)を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
下記の式(1)、式(2)を満たし、
フェライトステンレス鋼の厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域で、Nb、FeおよびCrを含む、サイズが5~500nmの析出物が7*10個/mm以上分布することを特徴とする高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板
式(1):0.5≦Nb/Cu≦3
式(2):20≦[2Nb+Ti]/[C+N]
(ここで、Nb、Cu、Ti、C、Nは、各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
900℃、100時間の条件でのクリープ変形率が50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板
【請求項3】
重量%で、Al:0.001~0.1%、およびNi:0.001~0.6%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法であって、
重量%で、C:0.005~0.03%、N:0.005~0.03%、Si:0.05~0.9%、Mn:0.05~0.9%、Cr:14.0~19.0%、Ti:0.1~0.6%、Nb:0.1~0.6%、Cu:0.1~0.6%、P:0.01~0.04%、S:0.01%以下(0は除外)を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)、式(2)を満たす冷延鋼鈑を製造する段階と、
前記冷延鋼鈑を冷延焼鈍する段階と、
冷延焼鈍鋼板を650~750℃に急冷する冷却段階と、
急冷後、5分以上維持する保熱段階と、を含み、
前記冷却段階で、冷却速度が10℃/sec以上であることを特徴とする高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
式(1):0.5≦Nb/Cu≦3
式(2):20≦[2Nb+Ti]/[C+N]
(ここで、Nb、Cu、Ti、C、Nは各元素の含有量(重量%)を意味する。)
【請求項5】
前記保熱段階が5分~20分間行われることを特徴とする請求項4に記載の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項6】
保熱段階後、微細組織内に7*10個/mm以上のNb、FeおよびCrを含む析出物が分布することを特徴とする請求項4に記載の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【請求項7】
重量%で、Al:0.001~0.1%、およびNi:0.001~0.6%をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ステンレス鋼は、化学成分や金属組織によって分類する。金属組織による場合、ステンレス鋼は、オーステナイト(Austenite)系、フェライト(Ferrite)系、マルテンサイト(Martensite)系、および二相(Dual Phase)系に分類することができる。
【0003】
フェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素が少なく添加されながらも、耐食性に優れていて、オーステナイト系ステンレス鋼と比べて価格競争力が高い。特に、14~19%のクロム(Cr)を含む高Crフェライト系ステンレス鋼は、常温~900℃の排ガス(flue gas)温度範囲で適用される自動車排気系部品など(Muffler、Ex-manifold、Collector cone、SCR(Selective Catalyst Reduction)など)の素材に用いられている。
【0004】
一定の荷重が加えられる高温の環境に使用される素材は、耐熱性だけでなく、耐クリープ性に優れていなければならない。クリープ(creep)とは、物体が高温環境下で一定の応力により時間に応じて変形が発生する現象を言い、このようなクリープによる変形は、温度、時間、結晶粒径および応力に影響を受けることが知られている。したがって、高温環境下で高温腐食と共にクリープによる変形が発生する場合、応力を支持しないか、数値変形を惹起させて、素材本来の機能を行うことができない。
【0005】
耐クリープ性は、一般的に、析出物の生成や結晶粒径に依存する。析出物の生成を用いた耐クリープ性の制御は、析出物により耐クリープ性が向上するが、微細な析出物に起因して結晶粒がかえって小さくなる。このような小さい結晶粒径に起因して耐クリープ性が低下するが、析出物の存在による耐クリープ性の向上効果が相対的にさらに大きいので、全体的には析出物が形成されると、耐クリープ性が向上する。
【0006】
最近、エンジン出力の向上による排ガス温度が増加するにつれて、排気系部品に適用される素材の高温耐クリープ特性を向上させる必要がある。したがって、高温環境下で応力を支持できる、高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板は、重量%で、C:0.005~0.03%、N:0.005~0.03%、Si:0.05~0.9%、Mn:0.05~0.9%、Cr:14.0~19.0%、Ti:0.1~0.6%、Nb:0.1~0.6%、Cu:0.1~0.6%、P:0.01~0.04%、S:0.01%以下(0は除外)を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)、式(2)を満たすことを特徴とする。
式(1):0.5≦Nb/Cu≦3
式(2):20≦[2Nb+Ti]/[C+N]
ここで、Nb、Cu、Ti、C、Nは各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0009】
また、本発明はフェライトステンレス冷延焼鈍鋼板の厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域で、Nb、FeおよびCrを含む析出物が7*10個/mm以上分布することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、析出物のサイズが5~500nmであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、900℃、100時間の条件でのクリープ変形率が50%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、重量%で、Al:0.001~0.1%、およびNi:0.001~0.6%をさらに含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.03%、N:0.005~0.03%、Si:0.05~0.9%、Mn:0.05~0.9%、Cr:14.0~19.0%、Ti:0.1~0.6%、Nb:0.1~0.6%、Cu:0.1~0.6%、P:0.01~0.04%、S:0.01%以下(0は除外)を含み、残部がFeおよび不可避な不純物からなり、下記の式(1)、式(2)を満たす冷延鋼鈑を製造する段階と、前記冷延鋼鈑を冷延焼鈍する段階と、冷延焼鈍鋼板を650~750℃に急冷する冷却段階と、急冷後、5分以上維持する保熱段階とを含むことを特徴とする。
式(1):0.5≦Nb/Cu≦3
式(2):20≦[2Nb+Ti]/[C+N]
ここで、Nb、Cu、Ti、C、Nは各元素の含有量(重量%)を意味する。
【0014】
前記冷却段階で、冷却速度が10℃/sec以上であることを特徴とする。
【0015】
前記保熱段階が5分~20分間行われることを特徴とする。
【0016】
保熱段階後、微細組織内に7*10個/mm以上のNb、FeおよびCrを含む析出物が分布することを特徴とする。
【0017】
重量%で、Al:0.001~0.1%、およびNi:0.001~0.6%をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】厚さ方向を基準として、特定領域での微細な析出物の分布を説明するための断面図と特定領域での析出物微細組織の写真である。
図2】高温耐クリープ特性を示すために導入した、クリープたわみ量の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されることもできる。図面は、本発明を明確にするために説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現することができる。
【0021】
明細書全般において、或る部分が任意の構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0022】
単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0023】
以下、本発明による実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼の高温耐クリープ特性を向上させるために、多様な検討を行った結果、以下の知見を得ることができた。
【0025】
一般的に、排気系用フェライト系ステンレス鋼には、高温強度を確保するために、Nbが添加される。Nbの固溶強化効果を通じて常温および高温で転位(Dislocation)の動きを妨害することによって高温強度を向上させることである。
【0026】
しかしながら、最大900℃の排ガス環境では、クリープ変形も同時に起こる。クリープ変形は、結晶粒界のスライディングおよび合金元素の拡散により発生し、このようなクリープ変形を抑制するためには、転位の動きを妨害する固溶Nbを確保することよりは、微細な析出物を形成することが効果的である。
【0027】
また、強度が互いに異なるサンドイッチ構造のパネルまたはタイヤゴムの内部にタイヤコード芯を導入して強度を確保することに着目して、フェライト系ステンレス鋼の厚さ方向を基準として、特定領域だけで微細な析出相を形成する場合、高温でのクリープ挙動を効果的に制御できることを発見した。
【0028】
一般的に、Nb添加フェライト系ステンレス鋼の初期凝固組織は、等軸晶および柱状晶に分類することができる。特に、等軸晶と柱状晶の界面(厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域)でNbを緻密に濃化させて、Nbを含む微細な析出相を形成できると、高温耐クリープ性を向上させることができることを発見し、これによって、厚さ位置による析出物の分布を導き出した。
【0029】
図1は、厚さ方向を基準として、特定領域での微細な析出物の分布を説明するための断面図と特定領域での析出物微細組織の写真である。
【0030】
特定厚さ方向での析出物を分布させるためには、フェライト系ステンレス鋼の合金成分、成分関係式を制御し、これと共に、冷延焼鈍後、特定の熱処理パターンを導入することによって達成することができる。
【0031】
本発明の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、N:0.005~0.03%、Si:0.05~0.9%、Mn:0.05~0.9%、Cr:14.0~19.0%、Ti:0.1~0.6%、Nb:0.1~0.6%、Cu:0.1~0.6%、P:0.01~0.04%、S:0.01%以下(0は除外)を含み、残部はFeおよび不可避な不純物からなる。
【0032】
以下、本発明の合金成分含有量の数値限定理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
【0033】
Cの含有量は、0.005~0.03%である。
炭素(C)は、侵入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の強度を向上させる役割をする。なお、C含有量を極低に制御するためには、製鋼VOD工程費用が増加するという点を考慮して、Cの下限は、0.005%に限定することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、Crと結合することによってCr23などCr炭化物の粒界析出を誘導し、局部的なCr枯渇を起こして高温酸化性が低下する問題があるので、その上限を0.03%に限定することができる。
【0034】
Nの含有量は、0.005~0.03%である。
窒素(N)は、炭素と同様に、侵入型固溶強化元素であって、フェライト系ステンレス鋼の強度を向上させる役割をする。なお、含有量を極低に制御するためには、製鋼VOD工程費用が増加するという点を考慮して、Nの下限は、0.005%に限定することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、Crと結合することによってCrN析出物が生成され、局部的なCr枯渇を起こして高温酸化性が低下する点、フェライト系ステンレス鋼においてN含有量が0.015%超過の場合には、固溶Nの濃度が飽和するという点を考慮して、Nの上限を0.03%に限定することができる。
【0035】
Siの含有量は、0.05~0.9%である。
シリコン(Si)は、製鋼工程中に脱酸剤の役割をし、フェライト相を安定化する元素である。本発明では、フェライト系ステンレス鋼の強度と耐食性を確保するために、Siを0.05%以上添加することが好ましい。ただし、その含有量が過剰の場合、軟性および成形性が低下する問題があるので、本発明では、その上限を0.9%に限定する。
【0036】
Mnの含有量は、0.05~0.9%である。
マンガン(Mn)は、オーステナイト安定化元素であって、本発明では、耐食性の確保のために、0.05%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、熱間圧延または冷間圧延後、焼鈍熱処理過程でオーステナイト逆変態が発生して、伸び率を低下させる問題があるので、その上限を0.9%に限定することができる。
【0037】
Crの含有量は、14.0~19.0%である。
クロム(Cr)は、酸化を抑制する不動態被膜を形成し、フェライトを安定化する元素である。本発明では、耐食性を確保し、高温酸化を抑制するために、14.0%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、製造費用が上昇し、成形性が劣化する問題があるので、その上限を19.0%に限定することができる。
【0038】
Tiの含有量は、0.1~0.6%である。
チタン(Ti)は、炭素(C)と窒素(N)のような侵入型元素と優先的に結合して析出物(炭窒化物)を形成することによって、鋼中固溶Cおよび固溶Nの量を低減し、Cr枯渇領域の形成を抑制して、鋼の耐食性の確保に効果的な元素であり、本発明では、0.1%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、Ti系介在物を形成して製造上に困難があり、表層部のTi成分が酸素と反応して黄色に変色する表面欠陥が発生する問題があるので、その上限を0.6%に限定することができる。
【0039】
Nbの含有量は、0.1~0.6%である。
ニオビウム(Nb)は、微細なNb析出相により高温耐クリープ特性を向上させる元素であって、本発明では、固溶Nbを通した高温強度を確保するために、0.1%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、かえって粗大なNb析出相を形成して脆性破壊を起こし、高温特性が低下する問題があるところ、その上限を0.6%に限定することができる。
【0040】
Cuの含有量は、0.1~0.6%である。
銅(Cu)は、ニオビウム(Nb)のように微細なCu析出相を形成して高温耐クリープ特性を向上させ、高温強度に寄与する元素であって、0.1%以上添加することができる。ただし、その含有量が過剰の場合、素材費用の上昇だけでなく、熱間加工性を低下させる問題点があるので、その上限を0.6%に限定することができる。
【0041】
Pの含有量は、0.01~0.04%である。
リン(P)は、鋼中に不可避に含有される不純物であって、酸洗時に粒界腐食を起こしたり、熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるから、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記P含有量を0.01~0.04%に制御する。
【0042】
Sの含有量は、0.01%以下(0は除外)である。
硫黄(S)は、 鋼中に不可避に含有される不純物であって、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるから、その含有量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記S含有量の上限を0.01%に制御する。
【0043】
また、開示された実施例による高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼は、Al:0.001~0.1%、およびNi:0.001~0.6%をさらに含んでもよい。
【0044】
Alの含有量は、0.001~0.1%である。
アルミニウム(Al)は、強力な脱酸剤であって、溶鋼中の酸素の含有量を低減する役割をし、本発明では、0.001%以上添加する。ただし、その含有量が過剰の場合、表層部のAlが酸素と反応して不均一な酸化層を形成することによって高温耐酸化性を劣化させるところ、0.1%以下に限定することができる。
【0045】
Niの含有量は、0.001~0.6%である。
ニッケル(Ni)は、オーステナイト安定化元素であって、製鋼工程で鉄くずから不可避に搬入される元素であって、本発明では、不純物として管理する。Niは、C、Nのようにオーステナイト相を安定化させる元素であって、腐食速度を遅らせて耐食性を向上させる元素であるが、スクラップ溶解過程で一部混入する可能性を考慮して、その下限を0.001%に限定することができる。Niの含有量が過剰の場合、熱間圧延または冷間圧延後、焼鈍熱処理過程でオーステナイト逆変態が発生して、伸び率を低下させる問題があるので、その上限を0.6%に限定することができる。
【0046】
本発明の残部の成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、すべての内容を特に本明細書において言及してはいない。
【0047】
なお、本発明の耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼は、下記の式(1)および(2)を満たすことができる。
【0048】
式(1):0.5≦Nb/Cu≦3.0
【0049】
前述したように、フェライト系ステンレス鋼の厚さ方向を基準として、特定領域(厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域)だけでNbを含む微細な析出相を形成できると、高温耐クリープ性を向上させることができることを確認した。
【0050】
Cuを添加して、Nbの固溶度を低減することによって、初期鋳片の連鋳時に柱状晶と等軸晶の界面にNb濃化を最大化することができる。これによって、最終冷延焼鈍時にNbを含む微細な析出物を形成することができる。
【0051】
Nb/Cu値が0.5未満なら、Nb析出物の代わりにCu析出物が生成されるので、高温耐クリープ性が発現しにくく、Nb/Cu値が3.0を超過する場合には、Nb析出物が早く粗大化する問題があるので、析出物の密度が減少し、これによって、Nbを含む析出物による高温耐クリープ性が発現しにくい。
【0052】
したがって、本発明では、Nb/Cu値を0.5~3.0に限定しようとする。
【0053】
式(2):20≦(2Nb+Ti)/(C+N)
【0054】
一般的に、フェライト系ステンレス鋼に含まれるNbとTiは、C、Nと結合してNb(C、N)およびTi(C、N)炭窒化物を形成する。C、Nの含有量がNbと比べて相対的に多い場合、粗大なNb(C、N)析出物を形成する傾向にある。これより、前述したように、フェライト系ステンレス鋼の厚さ方向を基準として、特定領域(厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域)で、微細なNb(Fe、Cr)析出物を形成することができない。
【0055】
したがって、本発明では、Nb元素がNb(C、N)析出物を形成せず、最大限Nb(Fe、Cr)析出相を形成するように、C、NとNbおよびTi間の成分関係式を導き出したのである。
【0056】
(2Nb+Ti)/(C+N)が20未満の場合、500nm以上のNb(C、N)析出物を形成して、相対的に微細Nb(Fe、Cr)析出物の形成が抑制されることを実験的に確認した。
【0057】
また、前記Nb(Fe、Cr)析出物のサイズは、5~500nmであってもよい。Nbを含む析出物のサイズが粗大な場合、析出物の密度が減少して、Nbを含む析出物による高温耐クリープ性が発現しにくい。したがって、高温耐クリープ性を最大化するために、析出物のサイズは500nm以下に制御することが好ましい。
【0058】
前記合金元素の組成範囲および成分関係式を満たす本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域で、Nb、FeおよびCrを含む析出物が7*10個/mm以上分布することができる。
【0059】
例えば、Nb、FeおよびCrを含む析出物のサイズは5~500nmであってもよい。
【0060】
5~500nmのNb、FeおよびCrを含む析出物を7*10個/mm以上含む本発明のフェライト系ステンレス鋼は、800℃、100時間の条件でのクリープ変形量が5mm以下と示されて、高温で耐クリープ性を確保することができる。これによって、フェライト系ステンレス鋼のクリープ変形による高温強度低下現象を最小化することができる。
【0061】
次に、本発明の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
【0062】
本発明の高温耐クリープ性が向上したフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、通常の製造工程を実施して冷延鋼板に製造することができ、上述した合金成分組成を含んで式(1)および式(2)を満たす冷延鋼鈑を製造する段階と、前記冷延鋼鈑を冷延焼鈍する段階と、冷延焼鈍鋼板を650~750℃に急冷する冷却段階と、急冷後、5分以上維持する保熱段階と、を含む。
【0063】
例えば、上述した合金成分の組成を含むスラブを熱間圧延し、熱間圧延した熱延鋼板を焼鈍熱処理し、冷間圧延して、冷延鋼板に製造することができる。
【0064】
冷延鋼板は、冷延焼鈍工程で通常の再結晶熱処理過程を実施する。
【0065】
例えば、前記冷延鋼板をオーステナイト-フェライト変態温度(Ac1)より10℃低い温度以下の温度範囲で冷延焼鈍することができる。本発明のCr含有量の範囲では、オーステナイト相が一部存在するので、逆変態を防止するために、焼鈍温度を(Ac1-10)℃以下に制限する。前記温度範囲で基地内にC、Nを十分に固溶させることができるように焼鈍する。
【0066】
冷延鋼板は、冷延焼鈍工程で通常の再結晶熱処理後に、650~750℃の温度範囲まで急冷する冷却段階を実施する。
【0067】
本発明では、Nbを含む微細な析出物を確保するために、冷却終了温度を750℃以下に制御することが好ましい。しかしながら、過度に低い温度で熱処理を行う場合、残留応力が発生する問題があるので、冷延焼鈍後に冷却熱処理パターンの温度範囲を650℃以上に限定しようとする。
【0068】
この際、冷却速度は、10℃/sec以上であってもよい。冷却速度が10℃/sec未満の場合、Nbを含む析出物のサイズが粗大化する温度範囲を経由する時間が増加し、Nbを含む析出物のサイズが粗大化して、それによる分布密度が減少するので、高温耐クリープ性を確保しにくい問題点がある。
【0069】
急冷後、5分以上維持する保熱段階は、Nb析出物を適正サイズに均一に分布するようにする過程である。保熱時間が5分未満の場合、微細なNbを含む析出物の形成には有利であるが、群集して分布することがあり、保熱時間が20分超過の場合、Nbを含む析出物のサイズが粗大化することはもちろん、熱処理時間の増加によって工程効率が減少し、製造費用が増加する短所がある。
【0070】
冷延焼鈍後、Cr炭窒化物の生成抑制のために、冷延焼鈍後に650~750℃の温度範囲に急冷が要求され、前記温度範囲で5分以上維持する熱処理を通じてNb、FeおよびCrを含む析出物の個数を増加させて、高温での耐クリープ性を最大化することができる。
【0071】
このように、合金成分の制御とともに、冷延焼鈍後、熱処理パターンを導入して、同一成分系でNbを含む微細な析出物の形成を増加させることができ、高温強度も確保することができる。
【0072】
これによる冷延焼鈍鋼板は、厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域で、Nb、FeおよびCrを含む析出物が7*10個/mm以上分布することができる。
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0074】
表1に示した多様な合金成分範囲について、インゴット(Ingot)溶解を通じてスラブを製造し、1,200℃で再加熱して、6mmに熱間圧延後、1,100℃で熱延焼鈍を実施し、2.0mmに冷間圧延後、1,100℃で焼鈍熱処理して、冷延焼鈍鋼板を製造した。
【0075】
各実験鋼種に対する合金組成(重量%)と式(1)の値および式(2)の値を下記の表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
一部の実施例のみについて熱処理後に700℃まで15℃/secの速度で急冷して10分程度維持した後、空冷して、冷延焼鈍鋼板を製造し、残りの実施例および比較例は、焼鈍熱処理後に空冷した。
【0078】
析出物の個数は、析出物をレプリカ抽出法を用いて採取した後、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope,TEM)を通じて析出物の個数を測定した。前記析出物の個数は、1mm当たり観察される析出物を厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域と母材平均領域に区分して計測して、表2に記載した。
【0079】
図2は、高温耐クリープ特性を示すために導入した、クリープたわみ量の測定方法を説明する図である。
【0080】
高温耐クリープ特性は、厚さ2.0mmの冷延焼鈍鋼板を800℃で100時間の間維持した後に測定されたクリープたわみ量(Creepage,mm)で示した。図2に示すとおり、クリープたわみ量は、250mm間隔の保持台の上に厚さ2.0mmの実施例および比較例による冷延焼鈍鋼板を載置し、800℃/100時間条件の熱処理前/後における鋼板のたわみ程度の差で示した。
【0081】
具体的に、図2に示すとおり、初期たわみ量は、[Hi(a)+Hi(b)-2*Hi(c)]/2で示し、熱処理後のたわみ量は、[Hf(a)+Hf(b)-2*Hf(c)]/2で示し、クリープたわみ量(Creepage)は、初期たわみ量と熱処理後のたわみ量との差で計算した。ここで、Hi(a、b、c)とHf(a、b、c)は、それぞれ、熱処理前(initial)/後(final)の長さデータを意味する。前記クリープたわみ量は、800℃で一定荷重により変形した程度を示すので、その数値が低いほど、耐クリープ性に優れていることを意味する。
【0082】
本発明では、鋼板のクリープたわみ量10mmを基準(クリープ変形率100%)として、実施例および比較例のクリープ変形率を表2に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すとおり、本発明が提示する合金組成と式(1)の値および式(2)の値の範囲を満たす実施例1~8の場合、フェライト系ステンレス鋼の厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域でNb、FeおよびCrを含む析出物が7*10個/mm以上分布し、900℃、100時間の条件でのクリープ変形量が5mm以下であり、クリープ変形率が50%以下であることが示されて、比較例と比べて約40~80%耐クリープ性に優れていることを確認できた。
【0085】
比較例1および4の場合、Cuを0.1%未満で含み、これによって、式(1)の範囲を超過する鋼種9および12を使用した場合であり、T/3からT/5までの領域でNb、FeおよびCrを含む析出物がそれぞれ3.4*10個/mm、4.3*10個/mmの密度で分布した。これは、Nb、FeおよびCrを含む析出物を形成するためのCu含有量が不十分であることに起因したと判断される。
【0086】
比較例2および6は、式(2)の(2Nb+Ti)/(C+N)値が20に達しない鋼種10および14を使用した場合であり、T/3からT/5までの領域でNb、FeおよびCrを含む析出物の分布が7*10個/mmに達しなかった。比較例2および6は、式(1)を満たすが、相対的に高い含有量のTiおよびNbがC、Nと反応してNb(C、N)析出物を形成することによって固溶C、Nを低減し、微細なNb(Fe、Cr)析出物の形成を抑制したと判断される。
【0087】
比較例3および5は、Ti、Nb、Cuを含む本発明の成分系の範囲および式(2)を満たすが、Nbと比べてCu含有量が高いため、式(1)の値が0.5に達しない鋼種11および13を使用した場合であり、Nb(Fe、Cr)析出物を形成しても、Nb(Fe、Cr)析出物が粗大化したのである。析出物が粗大化すると、本発明において提案する析出物の密度を確保できない問題が発生するが、比較例5は、本発明の成分系の範囲を満たすにもかかわらず、T/3からT/5までの領域だけでなく、母材平均のNb(Fe、Cr)析出物の密度が最も低く、これによって、高温耐クリープ特性が最も劣位に導き出されたことを確認することができる。
【0088】
なお、表2に示すとおり、冷延焼鈍後、特定の熱処理パターンを導入した実施例1~4は、実施例5~8と比較して、T/3からT/5までの領域でのNb、FeおよびCrを含む析出物を多量確保することができた。特に、実施例2は、T/3からT/5までの領域でNb、FeおよびCrを含む析出物が19.5*10個/mmの密度で分布し、これによって、900℃、100時間の条件でのクリープ変形量が1.9mmと測定された。
【0089】
このように、開示された実施例によれば、合金成分、成分関係式を制御することによって、特定領域(厚さTを基準として、T/3からT/5までの領域)でNb、FeおよびCrを含む微細な析出相を形成して、高温耐クリープ性を向上させたフェライト系ステンレス鋼を製造することができる。
【0090】
以上のように、本発明は、たとえ限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明は、これによって限定されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって本発明の技術思想と下記に記載される特許請求範囲の均等範囲内で多様な修正および変形が可能であることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、フェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板の高温耐クリープ性を向上させて、一定の荷重が加えられる高温の環境にも適用が可能である。
図1
図2