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特許7445759アルロース製造用組成物及びそれを用いたアルロース製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】アルロース製造用組成物及びそれを用いたアルロース製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/02 20060101AFI20240229BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20240229BHJP
   A23L 27/30 20160101ALN20240229BHJP
   A23L 33/125 20160101ALN20240229BHJP
【FI】
C07H3/02
C07H1/00
A23L27/30 A
A23L33/125
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022530303
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 KR2020016551
(87)【国際公開番号】W WO2021107522
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0156761
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソンギュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,テクボム
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンギョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソンボ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウンジョン
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0328014(US,A1)
【文献】国際公開第2018/127669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルロース二糖類を含むアルロース製造用組成物であって、
前記アルロース二糖類は、下記化学式(1):
【化1】
(1)
で示される、組成物。
【請求項2】
前記アルロース二糖類は、
下記化学式(2):
【化2】
(2)
または下記化学式(3):
【化3】
(3)
で示される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルロース二糖類を含む組成物を加熱するステップを含むアルロース製造方法であって、
前記アルロース二糖類は、下記化学式(1):
【化4】
(1)
で示される、方法。
【請求項4】
前記アルロース二糖類は、
下記化学式(2):
【化5】
(2)
または下記化学式(3):
【化6】
(3)
で示される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱は、60℃以上100℃以下の温度で行われるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記アルロース二糖類を含む組成物は、アルロースをさらに含むものである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物に含まれる前記アルロース二糖類がアルロースの前駆体である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
アルロース二糖類のアルロース前駆体としての使用であって、
前記アルロース二糖類は、下記化学式(1):
【化7】
(1)
で示される、使用。
【請求項9】
アルロース二糖類のアルロース前駆体としての使用であって、
前記アルロース二糖類は、
下記化学式(2):
【化8】
(2)
または下記化学式(3):
【化9】
(3)
で示される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、アルロース製造用組成物及びその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖類を安定して保管、流通するために、糖類の製造のための前駆体の開発(活用)に関する研究が行われてきた。例えば、特許文献1においては、化学的又は酵素的方法では合成や精製が困難な母乳オリゴ糖成分を高純度で製造するための前駆体組成物が開示されている。しかし、低カロリー糖類として近年脚光を浴びている素材であるアルロースを製造するための前駆体組成物に関する研究は全く行われていない現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/113405号
【文献】米国特許出願公開第2018/0327796号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした背景の下、本発明者らは、新規な化合物がアルロース製造の前駆体として用いられることを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願は、新規なアルロース製造用組成物及びそれを用いたアルロース製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本出願のアルロース前駆体は、アルロースに変換することが容易であり、アルロース以外の他の物質に変換されるレベルが低いので、アルロースを含む食品組成物の品質安定性を改善するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】アルロース製造過程で生成された二糖類においてサイズ排除カラム(Biorad Aminex HPX-87C)で分析したHPLCクロマトグラムである。
図2】アルロース製造過程で生成された二糖類においてサイズ排除カラムで分取した混合物の形態の物質を順相カラム(YMC Pack Polyamine II)で分析したD1及びD2のHPLCクロマトグラムである。
図3】アルロース二糖類であるD1の立体構造を示す図である。
図4】アルロースの構造と炭素番号付けを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0009】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0010】
本出願の一態様は、新規なアルロース前駆体を提供する。
【0011】
本出願のアルロース前駆体は、アルロース二糖類を含むものであってもよい。本出願のアルロース前駆体は、アルロース二糖類の構造を有するものであってもよい。
【0012】
本出願における「アルロース二糖類」とは、「アルロース2分子がグリコシド結合で連結された化合物」を意味する。「アルロース二糖類」は、「アルロース二量体(dimer)」、「アルロース二倍体」、「二糖類アルロース」ともいう。
【0013】
具体的には、前記アルロース二糖類は、アルロース2分子がグリコシド結合(glycosidic bond)で連結されたものであってもよく、前記グリコシド結合は、前記アルロース2分子のうちのアルロース1分子の2位の炭素(C2)のヒドロキシ基が他のアルロース1分子の1位~6位の炭素(C1~C6)のいずれかの炭素のヒドロキシ基にグリコシド結合(glycosidic bond)されたものであってもよい。
【0014】
具体的には、アルロース2分子の少なくとも1分子が環型アルロースであり、前記環型アルロースの2位の炭素のヒドロキシ基と、他のアルロース1分子の1位~6位の炭素のいずれかの炭素のヒドロキシ基がグリコシド結合で連結された化合物であってもよい。前記グリコシド結合は、1つ又は2つであり、具体的には1つである。
【0015】
一実施例において、前記環型アルロースの2位の炭素のヒドロキシ基と、他のアルロースの6位の炭素のヒドロキシ基のグリコシド結合であってもよい。
【0016】
一実施例において、前記アルロース前駆体において、アルロース2分子のうち1分子はプシコフラノース(psicofuranose)の形態であり、他の1分子はプシコピラノース(psicopyranose)形態であってもよい。一実施例において、アルロース前駆体は、化学式(1)で表される化合物であってもよい。
【0017】
【化1】
・・(1)
【0018】
一実施例において、本出願のアルロース前駆体は、2-(ヒドロキシメチル)-2-((3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール(2-(hydroxymethyl)-2-((3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよく、より具体的には、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
前記(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールは、プシコフラノースの形態によって、6-O-β-D-プシコピラノシル-α-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psico furanose)、又は6-O-β-D-プシコピラノシル-β-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psico furanose)と命名される化合物を総称するものであってもよい。
【0020】
前記(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールは、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R,5S)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R,5S)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよく、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R,5R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R,5R)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
具体的には、化学式(1)の化合物は、化学式(2)及び/又は化学式(3)の2つの形態で存在する。
【0022】
【化2】
・・(2)
【0023】
【化3】
・・(3)
【0024】
化学式(2)の化合物を6-O-β-D-プシコピラノシル-α-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranose)といい、化学式(3)の化合物を6-O-β-D-プシコピラノシル-β-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranose)という。
【0025】
本出願のアルロース前駆体は、加熱によりアルロースに変換されるものであってもよい。
【0026】
前記加熱は、60℃以上100℃以下の温度で行われるものであってもよく、より具体的には、60℃以上95℃以下、65℃以上95℃以下、70℃以上95℃以下の温度で行われるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0027】
前記加熱は、0時間超108時間以下の時間をかけて行われるものであってもよく、具体的には、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間又は12時間以上行われるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本出願のアルロース前駆体がアルロースに変換される場合、初期アルロース前駆体100重量部に対して、20重量部以上がアルロースに変換される。具体的には、初期アルロース前駆体100重量部に対して、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90、95又は99重量部以上変換されるか、又は100重量部、すなわち全てのアルロース前駆体がアルロースに変換されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
一方、前記変換は、0時間超108時間以下の時間をかけて行われるものであってもよく、具体的には、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間又は12時間以上行われるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本出願のアルロース前駆体がアルロースに変換される場合、目的とするアルロース以外に、生成される副産物の量は、組成物全体100重量部に対して、10重量部以下である。具体的には、10、9、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5又は1重量部以下である。あるいは、組成物全体100重量部に対して、0重量部すなわち副産物が生成されないが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本出願の他の態様は、アルロース二糖類のアルロース前駆体としての使用を提供する。
【0032】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類を含むアルロース前駆体組成物を提供する。
【0033】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類のアルロース製造への使用を提供する。
【0034】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類を含むアルロース製造用組成物を提供する。
【0035】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類を加熱するステップを含むアルロース製造方法を提供する。
【0036】
前述したとおり、本出願のアルロース二糖類はアルロースに変換されるので、アルロース二糖類をアルロースの製造に適用することができる。アルロース二糖類、前駆体及び加熱については前述した通りである。
【0037】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類を含む組成物を加熱するステップを含むアルロース製造方法を提供する。
【0038】
前述したとおり、本出願のアルロース二糖類はアルロースに変換されるので、アルロース二糖類を含む組成物をアルロースの製造に適用することができる。アルロース二糖類、前駆体及び加熱については前述した通りである。
【0039】
前記アルロース二糖類を加熱するステップは、アルロース二糖類がアルロースに変換されるステップであるか、又はアルロースが生成されるステップであるが、これらに限定されるものではない
前記組成物は、糖類を含むものであってもよい。具体的には、アルロースをさらに含むものであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0040】
前記アルロース二糖類を含む組成物において、アルロース二糖類の含有量は、組成物に含まれる糖類全体100重量部に対して、アルロース二糖類を0重量部超15重量部以下の含有量で含むものであってもよい。具体的には、糖類全体100重量部に対して、アルロース二糖類を0.0001重量部超、0.001重量部超、0.01重量部超、0.1重量部超もしくは0.15重量部超であると共に15重量部以下の含有量で含むものであり、かつ/又は糖類全体100重量部に対して、アルロース二糖類を15重量部以下、13重量部以下、11重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下、2重量部以下もしくは1重量部以下であると共に0重量部超の含有量で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
前記組成物は、食品組成物であってもよい。
【0042】
前記食品組成物は、アルロースが用いられる食品であれば、いかなるものでもよい。具体的には、一般食品、健康食品及び医療用(又は患者用)食品組成物が含まれるが、これらに限定されるものではない。具体的には、本出願の食品組成物は、飲料(例えば、炭酸飲料、果汁飲料、果実野菜飲料、食物繊維飲料、炭酸水、ミスッカル、茶、コーヒーなど)、アルコール飲料、パン、ソース(例えば、ケチャップ、トンカツソースなど)、乳加工品(例えば、発酵乳、加工乳など)、肉加工品(例えば、ハム、ソーセージ、ジャーキーなど)、チョコレート加工品、ガム、キャンディー、ゼリー、アイスクリーム、シロップ、ドレッシング、スナック(例えば、クッキー、クラッカー、ビスケットなど)、果菜漬け(例えば、砂糖漬け、フルーツ漬け、紅参エキス、紅参切片など)、食事代替食品(例えば、冷凍食品、レトルト食品、HMR(home meal replacement)など)又は加工食品であってもよい。ただし、これらは一例であり、これらに限定されるものではない。
【0043】
本出願の食品組成物は、様々な香味剤や天然炭水化物などを追加成分として含有してもよい。前述した天然炭水化物は、グルコース、フルクトース、アルロースなどの単糖類、マルトース、スクロースなどの二糖類、デキストリン、シクロデキストリンなどの多糖類、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としては、ソーマチン、ステビア抽出物などの天然甘味剤や、スクラロース、サッカリン、アスパルテームなどの合成甘味剤などを用いることができる。
【0044】
前記以外に、本出願の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド、増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる酸味剤及び塩味剤などを含有してもよい。その他に、本出願の食品組成物は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有してもよい。これらの成分は、独立して又は組み合わせて用いることができる。また、食品組成物に通常含まれる物質を当業者が適宜選択して添加することができ、これらの添加剤の割合は、本出願の食品組成物100重量部当たり0.001~1重量部又は0.01~0.20重量部の範囲から選択されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本出願のさらに他の態様は、アルロース二糖類を含む食品組成物を加熱するステップを含む、食品の品質安定性向上方法を提供する。
【0046】
前記食品は、アルロースを含むものであってもよい。
【0047】
前記「品質安定性向上」とは、流通、保管及び加工過程において起こり得るあらゆる変性、それによる品質の低下を抑制したり、既に起こった変性及び品質低下のレベルを低くすることを意味する。具体的には、前記変性には、結晶化、褐変、酸化/還元反応など、アルロースがアルロース以外の物質に変化したり、その物性などが変化する現象が含まれる。
【0048】
アルロース又はそれを含む組成物を長期間保存すると、アルロースの結晶化などの変性により食品の品質が低下するという問題が生じるが、本出願のアルロース前駆体を食品に添加すると、それを加熱して所望の時期にアルロースを得ることができるので、食品の品質安定性を向上させる用途にも用いることができる。
【0049】
前記食品については前述した通りである。
【実施例
【0050】
以下、実施例及び実験例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
アルロース前駆体の分離
特許文献2に開示されているアルロース製造過程において、HPLCにより新規な物質を分離した。
【0052】
具体的には、表1のHPLCクロマトグラム分析条件において目的とする二糖類成分が生成されることが確認され、原液から、図1のように、アルロース以外に、従来は知られていない新規な物質(unknown)が生成されることが確認された。アルロースは21.1分に確認され、新規な物質は31.7分に確認された。
【0053】
【表1】
【0054】
生成された新規な物質を分離するために、HPLC及び順相カラムを用いて、表2の条件で再度精密に分離した。
【0055】
【表2】
【0056】
その結果、表1のHPLC条件では1つのピークを示した物質が表2の分離条件では2つのピークを示すことを確認し、分離した(図2)。22.5分に確認されたピークを示す物質をD1と命名し、17.7分に確認されたピークを示す物質をD2と命名した。
【0057】
D1に対して、ESI-MS、1H NMR及び13C NMRの追加分析を行った。
【0058】
Major 6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranoseは、白色無定形粉末であった。
ESI-MS m/z 365 [M+Na]+; 1H NMR (850 MHz, D2O) δH 3.44 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.47 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.56 (1H, dd, J = 11.0, 5.0 Hz), 3.60 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.62 (1H, dd, J = 11.0, 2.5 Hz), 3.70 (1H, br d, J = 12.5 Hz), 3.75 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.75 (1H, br ma), 3.82 (1H, br d, J = 12.5 Hz), 3.84 (1H, br s), 3.92 (1H, t, J = 3.0 Hz), 3.97 (1H, d, J = 5.5 Hz), 4.09 (1H, t, J = 5.5 Hz), 4.13 (1H, br m) [D2O signal δH 4.70]; 13C NMR signalsb δC 57.6, 60.4, 62.9, 64.7, 64.9, 69.1, 68.9, 70.2, 70.3, 81.2, 101.8, 103.4.
【0059】
Minor 6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranoseは、白色無定形粉末であった。
ESI-MS m/z 365 [M+Na]+; 1H NMR (850 MHz, D2O) δH 3.49 (1H, d, J = 13.0 Hz), 3.73 (1H, d, J = 13.0 Hz), 3.58 (1H, ma), 3.68 (1H, dd, J = 11.0, 2.5 Hz), 3.62 (1H, ma), 3.71 (1H, br d, J = 12.0 Hz), 3.82 (1H, br d, J = 12.0 Hz), 3.76 (1H, br ma), 3.78 (1H, ma), 3.87 (1H, br s), 3.98 (1H, t, J = 3.0 Hz), 3.95 (1H, d, J = 4.5 Hz), 4.00 (1H, br m), 4.34 (1H, dd, J = 8.0, 4.5 Hz) [D2O signal δH 4.70]; 13C NMR signalsb δC 57.7, 61.4, 62.2, 64.7, 64.8, 69.0, 69.2, 70.8, 74.4, 80.8, 101.8, 105.9.
【0060】
その結果、D1は、アルロース2分子が結合した新規な化合物であり、化学式(1)の構造を有することが確認された。
【0061】
【化4】
・・(1)
【0062】
また、D1は、major又はminor formの2つの形態であり(図3)、major formである6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranoseは化学式(2)の構造を有し、minor formである6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranoseは化学式(3)の構造を有することが確認された。
【0063】
【化5】
・・(2)
【0064】
【化6】
・・(3)
【0065】
化学式(2)の化合物(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranose)を化合物Aと命名し、化学式(3)の化合物(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranose)を化合物Bと命名した。
【0066】
また、D2は、化学式(1)の化合物とは構造異性体の関係にあり、アルロースの2位の炭素(C2;図4の炭素番号付けによる)のヒドロキシ基と、他のアルロース1分子の1位~6位の炭素(C1~C6)のいずれかの炭素のヒドロキシ基のグリコシド結合(glycosidic bond)を有する新規なアルロース二糖類であることが確認された。
【0067】
以下の実験においては、新規な化合物であるD1、D2をアルロース前駆体として用いることができるか否かを確認した。
【実施例2】
【0068】
アルロース前駆体を用いたアルロース生成
実施例2-1:アルロース二糖類の加熱変換反応の比較
前述したように実施例1で分離した2種類の二糖類、D1及びD2に不純物のない超純水を添加して1%(w/w)の濃度の試料を作製し、それぞれ実験例1及び2として用いた。加熱条件による分解反応の比較のために、最も普遍的な二糖類(二量体)としてグルコース及びフルクトース各1分子で構成された砂糖(CJ第一製糖,純度99%以上)を選択し、同様に超純水を添加して1%(w/w)の濃度の試料を作製し、比較例1として用いた。
【0069】
作製した各試料を密閉されたガラス試薬瓶に入れ、70、80、90、95℃に予熱した恒温水槽(Water bath, 大韓科学)において湯煎で加熱した。加熱した試料を12時間間隔で回収してサンプリングし、HPLCにより表1の条件でその変化を分析した。全ての実験を3回繰り返した。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
※各文字列A、B、Cは、横方向の実験例1、実験例2、比較例1に有意差(p<0.05)があることを示す。
※単糖類及び二糖類の%は、分析した糖類全体に対する重量比(%,w/w)を示す。これら以外はその他の糖類に分類した。
【0071】
その結果、全般的に、同一レベルの熱ダメージ(温度,時間)において、単糖類への変換率は、D1が有意に高く、次にD2、砂糖の順に変換率が高いことが確認された。
【0072】
具体的には、最も高い温度条件である95℃において、D1は、12時間経過すると約74%が目的成分であるアルロース(単糖類)に変換され、24時間経過すると98%以上が変換され、アルロースが製造されることが確認されたのに対して、D2は、12時間経過すると約58%、24時間経過すると89%が変換され、砂糖は、それぞれ23%、40%のレベルであり、単糖類への変換が相対的に僅かであることが確認された。
【0073】
基本的に、実験例1、2及び比較例1の全てにおいて、加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど二糖類が分解され、単糖類に変換されるのは同じ傾向であるが、とりわけ実験例1において、二糖類(D1)から単糖類(Allulose)への変換が有意に速く、変換された単糖類の純度が高く維持され、その変換効率が高いことが確認された。
【0074】
特に、D1において、アルロース二糖類であるD2と比較すると、アルロース変換がより速く、高い純度の結果物を確保できることが確認された。
【0075】
実施例2-2:アルロースを含む食品モデルにおけるアルロース前駆体の活用
前駆体単独ではなく、混合物内に存在する形態でも目的成分への変換が円滑であるか、アルロースを主原料として含む食品モデルに二糖類であるD1を追加して検証した。
【0076】
具体的には、不純物が最小限に抑えられた純粋なアルロース結晶(CJ第一製糖,純度99.8%以上)及び前述したように分離した二糖類のうちのD1を浄水に溶解して飲料モデルを作製した(実験例3)。作製した実験例3を通常の飲料加工条件の一つである95℃で約1時間加熱処理した。加熱処理前後に実験例3に添加した二糖類がアルロースに変換されるか否かは、HPLCを用いて表1の条件で分析した。各試料の詳細な組成比率と加熱前後の変化を表4に示す。同様に、全ての実験を3回繰り返した。
【0077】
【表4】
【0078】
その結果、アルロースにアルロース前駆体としてD1を添加した実験例3において、D1が目的とする成分であるアルロースに変換され、アルロースの純度が高まることが確認された。具体的には、実験例3において、固形分全体に対して約4.7%の割合で含まれるD1が加熱処理後に約1.5%の割合に減少(-3.2%)したのに対して、目的成分であるアルロースは同レベルに増加した。
【0079】
すなわち、D1は、一般的な加工(加熱)処理条件で目的成分であるアルロースに変換され、同時に非意図的な生成物が発生しないようにし、前駆体として適した特性を有することが確認された。
【0080】
さらに、前駆体としてD1が熱エネルギーを受け取るにつれて、有用成分であるアルロースが過剰な熱ダメージに晒され、変性(消失)することをある程度抑制するという肯定的な効果も予想される。
【0081】
実施例2-3:各温度及び固形分濃度条件における前駆体活用の比較
D1のアルロースへの変換特性をさらに様々な温度及び固形分濃度条件の実験により比較した。前述したように実験した実施例2-2と同様に、純粋なアルロース単糖類に分離された前駆体であるD1を追加し、浄水を用いて固形分の濃度を調節した。作製した実験例4~6の詳細な組成を表5と表6に示す。
【0082】
まず、温度条件を40℃、60℃、80℃に変え、24時間加熱したときのD1の変換率を比較した(表5)。
【0083】
【表5】
※縦方向の各文字列A、B、Cは、同じ試料において作製時と比較して有意差(p<0.05)があることを示す。
【0084】
前述した実験と同様に、全ての温度条件において、D1が目的とする成分であるアルロースに変換され、アルロースの純度が高まることが確認された。特に、60~80℃の条件で加熱したときに、ほとんどがアルロースに変換されたことが確認された。
【0085】
次に、固形分の濃度を10%、30%(w/w,g/100g)に変え、高温(121℃)で短期間(15分)加熱したときのD1の変換率を比較した(表6)。
【0086】
【表6】
※縦方向の各文字列A、B、Cは、同じ試料において作製時と比較して有意差(p<0.05)があることを示す。
【0087】
前述した実験と同様に、全ての濃度条件において、加熱処理を施すとD1が目的とする成分であるアルロースに変換され、アルロースの純度が高まることが確認された。特に、固形分の総量が少ないほど加熱処理後にD1がアルロースに変換される効率が相対的に高いことが確認された。
【0088】
これらの実験により、本出願のアルロース二糖類は、消費者に有益な高付加価値素材であるアルロースに変換される前駆体として高効率の活用性を有することが確認された。
【0089】
特に、複雑な変換反応ではなく、単純な加熱反応(通常の加工工程レベル)により最終段階の目的物質であるアルロースが生成されることが確認され、非意図的な不純物の生成がなく、アルロースが過剰な熱ダメージに晒されないように保存することのできる可能性が確認された。これらの効果から、飲食品においてアルロースの純度を高め、保存することのできる前駆体としてのD1の活用が期待される。
【0090】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4