(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】耐汚染性分岐鎖状ポリアミド
(51)【国際特許分類】
C08G 69/42 20060101AFI20240229BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C08G69/42
D01F6/60 361A
(21)【出願番号】P 2022549593
(86)(22)【出願日】2021-02-16
(86)【国際出願番号】 US2021018268
(87)【国際公開番号】W WO2021167912
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-10-14
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517213094
【氏名又は名称】アドバンシックス・レジンズ・アンド・ケミカルズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ADVANSIX RESINS & CHEMICALS LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ネリアッパン,ビーラ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ターレビー,ファルザネ
(72)【発明者】
【氏名】ウェストン,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ストシェレツキ,メアリー
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-500502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/42
D01F 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式を有し、
【化1】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、
a=6乃至10、
b=6乃至10、
c=4乃至10、
d=4乃至10、
n=1乃至20、
p=1乃至1000、
m=1乃至400、及び
x=4乃至200、であるポリアミド組成物。
【請求項2】
5-スルホイソフタル酸の塩の残基を含む、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項3】
前記スルホイソフタル酸の塩が、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸リチウム、及び5-スルホイソフタル酸カリウムから成る群より選択される、請求項2に記載のポリアミド組成物。
【請求項4】
前記スルホイソフタル酸の塩の前記残基の濃度が、前記ポリアミド組成物の総重量に基づいて、0.1重量%乃至15重量%である、請求項2に記載のポリアミド組成物。
【請求項5】
各々が6個以上の炭素を有する2つの炭素鎖を含むダイマー酸の残基を含む、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項6】
前記ダイマー酸の残基の濃度が、前記ポリアミド組成物の総重量に基づいて、6重量%乃至18重量%である、請求項5に記載のポリアミド組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド組成物の総アミン末端基濃度が、約5ミリモル/キログラム乃至約50ミリモル/キログラムである、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項8】
前記ポリアミド組成物の相対粘度(RV)が、GB/T 12006.1-2009/ISO 307:2007によって特定した場合、約2.0乃至約7.0RVである、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド組成物のギ酸粘度が、ASTM D-789-07によって測定した場合、約200FAV乃至約950FAVである、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項10】
CIE DE2000に従う色差ΔEが、10未満である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【請求項11】
3.0乃至7.0グラム/デニールのテナシティを有する、請求項1に記載のポリアミド組成物から形成された繊維。
【請求項12】
6.0乃至7.0グラム/デニールのテナシティを有する、請求項11に記載の繊維。
【請求項13】
以下の式を有するポリアミド組成物の製造方法であって、
【化2】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、a=6乃至10、b=6乃至10、c=4乃至10、d=4乃至10、n=1乃至20、p=1乃至1000、m=1乃至400、及びx=4乃至200であり、
カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び、5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つを反応器に供給することと、
前記カプロラクタム、前記ダイマー酸、前記ジアミン、並びに5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの前記少なくとも1つを前記反応器中で一緒に混合することと、
前記カプロラクタム、前記ダイマー酸、前記ジアミン、並びに5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの前記少なくとも1つを前記反応器中、反応温度で反応させることと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記供給工程において、5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの前記少なくとも1つが、前記ポリアミド組成物の総重量に基づいて、0.1重量%乃至15重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記供給工程において、5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの前記少なくとも1つが、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸リチウム、及び5-スルホイソフタル酸カリウムから成る群より選択される5-スルホイソフタル酸塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記供給工程において、前記ジアミンが、ヘキサメチレンジアミンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記供給工程において、前記ダイマー酸が、前記ポリアミド組成物の総重量に基づいて、6重量%乃至18重量%である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記反応工程において、前記反応器が、前記反応工程の一部分で加圧される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記反応工程において、前記反応器が、前記反応工程の一部分で真空下とされる、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記反応工程において、前記反応温度が、約225℃乃至約290℃である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に援用される、2020年2月19日に出願された米国仮特許出願第62/978,465号の優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、望ましい加工性及び耐汚染性を有する分岐鎖状ポリアミドを提供する。
【背景技術】
【0003】
高分子量ポリアミドは、広く様々な用途において望ましい基材である。しかし、そのようなポリマーの合成は、多量のエネルギー及び労力を要し得る組成物からの水の除去が必要であることにより、困難なものである。さらに、分子量が増加するに従って、粘度が増加する。ポリアミドが溶融加工などの加工条件に掛けられる場合、基材のさらなる重合が発生し得る。重合が継続するに従って、粘度が上昇し、このことは、高速紡糸などの用途において、設備の損傷及び一貫性のない加工挙動に繋がる可能性がある。
【0004】
他方、多くの場合高速である紡糸が、ナイロン繊維の製造に一般的には用いられる。そうして製造されたナイロン繊維は、物質で繊維が濡れた場合に汚染され得る。いくつかの耐汚染性繊維が入手可能であるが、これらの現在用いられている繊維は、加工性及び/又はより高強度の繊維のためのより高い延伸率の実現における困難さという欠点を有する。利用可能な製造技術を用いて容易に加工される高耐汚染性繊維を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、以下の一般式に従うポリアミド組成物及びポリアミド組成物の製造方法を提供し、
【0006】
【0007】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、a=6~10、b=6~10、c=4~10、d=4~10、n=1~20、p=1~1000、m=1~400、及びx=4~200である。
【0008】
その1つの形態では、本開示は、以下の式を含むポリアミド組成物を提供し、
【0009】
【0010】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、a=6~10、b=6~10、c=4~10、d=4~10、n=1~20、p=1~1000、m=1~400、及びx=4~200である。
【0011】
ポリアミド組成物は、5-スルホイソフタル酸の塩の残基を含み得る。スルホイソフタル酸の塩は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸リチウム、及び5-スルホイソフタル酸カリウムから成る群より選択され得る。スルホイソフタル酸の塩の残基の濃度は、ポリアミド組成物の総重量に基づいて、0.1重量%~15重量%であり得る。
【0012】
ポリアミド組成物は、各々が6個以上の炭素を有する2つの炭素鎖を含むダイマー酸の残基を含み得る。ダイマー酸の残基の濃度は、ポリアミド組成物の総重量に基づいて、6重量%~18重量%であり得る。ポリアミド組成物の総アミン末端基濃度は、約5ミリモル/キログラム~約50ミリモル/キログラムであり得る。
【0013】
ポリアミド組成物の相対粘度(RV)は、GB/T 12006.1-2009/ISO 307:2007によって特定した場合、約2.0~約7.0RVであり得る。ポリアミド組成物のギ酸粘度は、ASTM D-789-07によって測定した場合、約200FAV~約950FAVであり得る。CIE DE2000に従う色差ΔEは、10未満であり得る。
【0014】
その別の形態では、本開示は、上記で列挙したポリアミド組成物のいずれかから形成される繊維を提供し、繊維は、4.8~7.0グラム/デニールのテナシティを有する。繊維は、6.0~7.0グラム/デニールのテナシティを有し得る。
【0015】
その別の形態では、本開示は、以下の式を有するポリアミド組成物の製造方法を提供し、
【0016】
【0017】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、a=6~10、b=6~10、c=4~10、d=4~10、n=1~20、p=1~1000、m=1~400、及びx=4~200である。方法は、カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つを反応器に供給することと;カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、並びに5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つを反応器中で一緒に混合することと、カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、並びに5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つを反応器中、反応温度で反応させることと、を含む。
【0018】
供給工程において、5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つは、ポリアミド組成物の総重量に基づいて、0.1重量%~15重量%であり得る。供給工程において、5-スルホイソフタル酸塩及び5-スルホイソフタル酸のうちの少なくとも1つは、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸リチウム、及び5-スルホイソフタル酸カリウムから成る群より選択される5-スルホイソフタル酸塩であり得る。供給工程において、ジアミンは、ヘキサメチレンジアミンを含み得る。供給工程において、ダイマー酸は、ポリアミド組成物の総重量に基づいて、6重量%~18重量%であり得る。
【0019】
反応工程において、反応器は、反応工程の一部分で加圧され得る。反応工程において、反応器は、反応工程の一部分で真空下とされ得る。反応工程において、反応温度は、約225℃~約290℃であり得る。
【0020】
その別の形態では、本開示は、繊維の製造方法を提供する。方法は、上記で述べたようにして製造されたポリアミド組成物を押出すこと、及び押出したポリアミド組成物を約200メートル毎分~約2000メートル毎分の巻き取り速度で紡糸すること、を含む。巻き取り速度は、約400メートル毎分~約1600メートル毎分であり得る。
【0021】
本発明の上述の及び他の特徴、並びにそれらを達成する方法は、以下の記述を参照することによって、より明らかとなり、本発明自体も、より良く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、繊維又はフィラメントの押出し、紡糸、及び延伸を行うためのシステムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ポリアミド組成物は、カプロラクタムなどの前駆体から、加水分解、付加重合、及び重縮合の反応を介して形成され得る。これらの材料がカプロラクタムから形成される場合、ラクタム環が開環されて、1つのアミンと1つのカルボン酸又はカルボキシレートとの2つの末端基が形成される。付加重合によってラクタムモノマーが組み合わされて、中間分子量のオリゴマーとなり、重縮合によってオリゴマーが組み合わされて、より高分子量のポリマーとなる。
【0024】
重縮合によって水が生成される。水の除去によって、より高分子量のポリマーの形成が推進される。水を除去するための1つの方法は、高分子量ポリマーが所望される場合に、真空度を高めながら適用することを含む。しかし、長い時間にわたって真空度を高めながら適用することは実用的ではなく、なぜなら、混合物中の水が少なくなるために、抽出することがより困難となるからである。
【0025】
ポリアミド組成物は、アミン末端基とカルボン酸又はカルボキシレート末端基とが互いに反応を継続する場合も、経時で分子量を継続的に増加させ得る。この分子量の不安定性は、ポリアミド組成物の粘度を増加させる可能性があり、例えば高速紡糸用途などにおいて変動する又は一貫性のない加工をもたらす結果となり得る。
【0026】
本開示は、耐汚染性分岐鎖状ポリアミド組成物を提供する。ポリアミド組成物は、ダイマー酸残基を含む。ダイマー酸残基は、ポリアミド組成物に分岐鎖構造を付与する。分岐鎖状ポリアミド組成物は、より高い分子量の直鎖状ポリマーに類似する特性を呈する。加えて、分岐鎖状ポリアミドからの水の除去は、高分子量ポリマーからの場合よりも非常に容易である。したがって、分岐鎖状ポリアミドの製造は、残留水による困難さが引き起こされることなく、高分子量ポリマーの望ましい特性を有するポリアミド組成物が得られる結果となり得る。
【0027】
ポリアミド組成物は、5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸の残基をさらに含む。5-スルホイソフタル酸又は5-スルホイソフタル酸塩を分岐鎖状ポリアミド組成物中に組み込むことによって、利用可能な製造技術を用いてポリアミド組成物から容易に加工することができる高耐汚染性繊維が得られることが見出された。典型的には、ナイロンコポリマーにおいて、ジカルボン酸は、ジアミンと化学量論的に釣り合っている。しかし、ダイマー酸及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸を過剰に用いることによって、アミン末端基の濃度を低下させることができる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、アミン末端基の濃度を低下させることによって、主として酸性の性質である食品汚染がポリアミド組成物と結合し得る利用可能な部位が減少するものと考えられる。
【0028】
アミン末端基の濃度を低下させることはまた、ポリアミド組成物の分子量を安定化させるものでもあり、なぜなら、カルボン酸又はカルボキシレート末端が、反応を起こす相手であるアミン末端基が存在しないことで、さらなる付加重合又は重縮合反応を起こさなくなるからである。5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸が組み込まれると共に分岐鎖が組み込まれたポリアミド組成物は、繊維などの高耐汚染性製品に、より一貫性をもって、及び予想通りに加工される。
【0029】
本開示は、以下の式を有するポリアミド組成物を提供し、
【0030】
【0031】
式中、Mは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は水素イオンであり、a=6~10、b=6~10、c=4~10、d=4~10、n=1~20、p=1~1000、m=1~400、及びx=4~200である。式Iで表されるポリアミド組成物がランダムコポリマーであることは理解される。
【0032】
本開示によって提供されるポリアミド組成物は、カプロラクタム、1又は複数のダイマー酸、1又は複数のジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸から形成され得る。得られるポリアミド組成物は、カプロラクタムの残基、ダイマー酸の残基、ジアミンの残基、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸の残基を含む。
【0033】
カプロラクタム(ヘキサノ-6-ラクタム、アゼパン-2-オン、及びε-カプロラクタムとも称される)を以下に示す。
【0034】
【0035】
ダイマー酸は、以下に示される通りであってよく、
【0036】
【0037】
式中、a及びbは、各々独立して、6~10の範囲内であってよく、c及びdは、各々独立して、4~10の範囲内であってよい。ダイマー酸は、飽和であってよく、又は1若しくは複数の不飽和結合を含んでいてもよい。式IIIの炭素原子数c及びdによって識別される2つの炭素鎖は、式Iに示されるように、主ポリマー鎖から分岐し、したがって、式Iのポリマー組成物を分岐鎖状ポリアミド組成物としている。2つの分岐炭素鎖は、各々、4~10個の炭素原子を有し得る。短鎖(10個以下の炭素)分岐を有するポリアミド組成物は、その対応する非分岐鎖状物と比較して、より高い溶融粘度を、さらには低せん断速度において比較的高い複素粘度、及び高いせん断速度において比較的低い複素粘度を呈することが見出された。
【0038】
二量体化脂肪酸とも称されるダイマー酸は、不飽和脂肪酸を二量体化することによって製造されるジカルボン酸である。ダイマー酸に関するさらなる情報は、Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, Volume 2, pp. 1-13に見出すことができる。ダイマー酸としては、例えば、Croda International Plc,Edison,NJから入手可能であるPripol(商標)1013、又はThe Chemical Company,Jamestown,RIから入手可能であるC36ダイマー酸が挙げられ得る。
【0039】
ポリアミド組成物は、ダイマー酸の残基を、低くは4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、若しくは12重量%、又は高くは13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、若しくは18重量%、又は例えば4重量%~18重量%、5重量%~17重量%、6重量%~16重量%、7重量%~15重量%、8重量%~14重量%、9重量%~13重量%、10重量%~12重量%、12重量%~14重量%、若しくは10重量%~13重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の量で含み得る。本明細書で列挙されるすべての重量パーセントは、ポリアミド組成物の総重量に基づいている。
【0040】
ジアミンは、例えばC4~C6直鎖状又は分岐鎖状ジアミンであり得る。ジアミンは、例えばSigma-Aldrich Corp,St.Louis,MOから入手可能であるヘキサメチレンジアミンを含み得る。
【0041】
ポリアミド組成物は、ジアミンの残基を、低くは0.5重量%、0.6重量%、0.8重量%、1重量%、1.2重量%、1.5重量%、2重量%、2.5重量%、若しくは3重量%、又は高くは3.5重量%、4重量%、5重量%、6重量%、8重量%、10重量%、15重量%、若しくは20重量%、又は例えば0.5重量%~20重量%、0.6重量%~15重量%、0.8重量%~10重量%、1重量%~8重量%、1.2重量%~6重量%、1.5重量%~5重量%、2重量%~4重量%、2.5重量%~3.5重量%、1重量%~3重量%、2重量%~6重量%、若しくは4重量%~10重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の量で含み得る。
【0042】
5-スルホイソフタル酸の塩は、5-スルホイソフタル酸リチウム、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、又はこれらの組み合わせであり得る。5-スルホイソフタル酸リチウムを以下に示す。
【0043】
【0044】
5-スルホイソフタル酸ナトリウムを以下に示す。
【0045】
【0046】
5-スルホイソフタル酸カリウムを以下に示す。
【0047】
【0048】
ポリアミド組成物は、5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸の残基を、低くは0.1重量パーセント(重量%)、0.5重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、2.5重量%、3重量%、4重量%、若しくは5重量%、又は高くは6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、12重量%、若しくは15重量%、又は例えば0.1重量%~15重量%、0.5重量%~12重量%、1重量%~10重量%、1.5重量%~9重量%、2重量%~8重量%、2.5重量%~7重量%、3重量%~6重量%、4重量%~5重量%、0.5重量%~5重量%、6重量%~15重量%、8重量%~12重量%、若しくは0.5重量%~1.5重量%などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の量で含み得る。
【0049】
このポリアミド組成物は、非常に優れた耐汚染特性を呈することが示された。上記で述べたように、コーヒー、ワイン、及び食品の着色分などの一般的な汚染は、酸性の性質である。これらの物質は、ナイロン(ポリアミド)繊維を、ナイロンポリマー中の末端塩基性アミン基に結合することによって汚染し得る。ポリマー中の負に荷電した基は、酸性物質を寄せ付けない補助となることができ、繊維を耐汚染性とすることができる。理論に束縛されるものではないが、5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸の残基が、ポリマー組成物の負電荷を増加させることによって耐汚染性を高めるものと考えられる。
【0050】
耐汚染性の1つの尺度は、全色差ΔEである。ΔEは、CIE DE2000に従う、標準色サンプルと比較した汚染サンプルの視知覚の変化の尺度である。0のΔE値は、汚染サンプルと標準色サンプルとの間に測定可能な差が存在しないことを意味する。およそ2のΔE値が、一般的に、人間の眼によって知覚可能な最小色差と見なされている。
【0051】
ポリアミド組成物のΔEは、10未満、9未満、8未満、7未満、6未満、5未満、4未満、3未満、若しくは2未満、又は上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内のいずれかの値未満であり得る。
【0052】
アミン末端基濃度(AEG)は、70%フェノール及び30%メタノールの溶媒中のポリアミド組成物サンプルを滴定するのに要する塩酸(0.1Nの標準HCl)の量により、以下の式1に従って特定することができる。
【0053】
【0054】
ポリアミド組成物は、低くは約5ミリモル毎キログラム(mmol/kg)、約10mmol/kg、約15mmol/kg、約20mmol/kg、若しくは約25mmol/kg、又は高くは約30mmol/kg、約35mmol/kg、約40mmol/kg、約45mmol/kg、若しくは約50mmol/kg、又は例えば約5mmol/kg~約50mmol/kg、約10mmol/kg~約45mmol/kg、約15mmol/kg~約40mmol/kg、約20mmol/kg~約35mmol/kg、約25mmol/kg~約30mmol/kg、約10mmol/kg~約35mmol/kg、約10mmol/kg~約20mmol/kg、若しくは約30mmol/kg~約40mmol/kgなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の総アミン末端基濃度を有し得る。
【0055】
ポリアミド組成物は、低くは約2.0RV、約2.5RV、約3.0RV、約3.5RV、約4.0RV、約4.5RV、又は高くは約5.0RV、約5.5RV、約6.0RV、約6.5RV、約7.0RV、又は例えば約2.0RV~約7.0RV、約2.5RV~約6.5RV、約3.0RV~約6.0RV、約3.5RV~約5.5RV、約4.0RV~約5.0RV、約4.5RV~約5.0RV、約2.0RV~約4.5RV、若しくは約5.0RV~約7.0RVなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の相対粘度(RV)を有し得る。本明細書におけるすべての相対粘度測定値は、GB/T 12006.1-2009/ISO 307:2007によって測定された場合である。
【0056】
ポリアミド組成物は、低くは約200FAV、約250FAV、約300FAV、約350FAV、約400FAV、約450FAV、約500、又は高くは約550FAV、約600FAV、約650FAV、約700FAV、約750FAV、約800FAV、約850FAV、約900FAV、若しくは約950FAV、又は例えば約200FAV~約950FAV、約250FAV~約900FAV、約300FAV~約850FAV、約350FAV~約800FAV、約400FAV~約750FAV、約450FAV~約700FAV、約500FAV~約650FAV、約550FAV~約600FAV、約350FAV~約550FAV、約300FAV~約600FAV、若しくは約400FAV~約500FAVなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内のギ酸粘度(FAV)を有し得る。本明細書におけるすべてのFAV測定値は、ASTM D-789-07によって測定された場合である。
【0057】
ポリアミド組成物は、ASTM D-6869によって測定した場合、低い水分レベルを有し得る。水分レベルは、約1500ppm未満、約1200ppm未満、約1000ppm未満、約800ppm未満、約600ppm未満、約500ppm未満、若しくは約400ppm未満、又は上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の水分含有量未満であり得る。
【0058】
耐汚染性分岐鎖状ポリアミド組成物は、カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸、及び水を反応器に供給することと;カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸を反応器中で一緒に混合することと、カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸を反応器中、反応温度で反応させることと、によって合成することができる。ジアミンは、水溶液として供給され得る。水は、カプロラクタム、ダイマー酸、ジアミン、及び5-スルホイソフタル酸塩又は5-スルホイソフタル酸を反応器中で反応させる前に反応器に投入され得る。反応器は、反応工程の少なくとも一部分の過程で、反応圧力下とされ得る。反応工程の過程で発生した水を除去するために、反応器に真空が適用され得る。混合は、反応工程の少なくとも一部分の過程で、連続され得る。
【0059】
反応温度は、低くは約225℃、約230℃、約235℃、又は高くは約260℃、約270℃、約280℃、約290℃、又は例えば約225℃~約290℃、約230℃~約280℃、約235℃~約270℃、約230℃~約260℃、約260℃~約280℃、若しくは約260℃~約270℃などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内であり得る。
【0060】
供給工程において、縮合触媒が供給され得る。適切な縮合触媒としては、例えば次亜リン酸塩又は次亜リン酸ナトリウムが挙げられる。縮合触媒は、低くは約50ppm、約100ppm、若しくは約150ppm、又は高くは約200ppm、約250ppm、若しくは約300ppm、又は例えば約50ppm~約300ppm、100ppm~約250ppm、150ppm~約200ppm、約50ppm~約150ppm、若しくは約150ppm~約250ppmなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の濃度で供給され得る。
【0061】
図は、本明細書で開示されるポリアミド組成物から繊維又はフィラメントを形成するためのシステム及びプロセス120を示す模式図である。図に例示的に示されるように、ポリアミド組成物は、押出機124のホッパーにフィード122として供給され、続いて押出機中で溶融され、紡糸口金126を通して繊維128として押出される。加熱されたポリアミド組成物は、円形又は三角形断面の個々の繊維128を形成するための1又は複数の出口部を含み得る紡糸口金126を用いて紡糸される。個々の繊維128は、次に、132で回収されて、1又は複数の延伸ローラー134上で延伸されてよく、その後、得られた繊維136は、巻き取りボビン138で回収される(テキスタイル及びカーペット繊維として)。各繊維136は、少なくは30、32、34、又は多くは56、58、60のフィラメント、又は例えば30~60、32~58、若しくは34~56のフィラメントなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内のフィラメントを含有し得る。
【0062】
上記で述べた方法によって製造されたポリアミド組成物は、押出され、紡糸されて、中程度の巻き取り速度及び増加する延伸率で半延伸糸(POY)及び延伸糸(FDY)の繊維が形成され、このことにより、より高強度の繊維の製造が可能となる。
【0063】
繊維は、低くは200メートル毎分(m/分)、300m/分、400m/分、若しくは500m/分、又は高くは1200m/分、1400m/分、1600m/分、1800m/分、若しくは2000m/分、又は例えば200m/分~2000m/分、300m/分~1800m/分、400m/分~1600m/分、500m/分~1400m/分、1600m/分~2000m/分、600m/分~1200m/分、若しくは1200m/分~2000m/分などの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内の巻き取り速度で形成され得る。
【0064】
繊維は、低くは3.0グラム/デニール(gpd)、3.2gpd、3.4gpd、3.6gpd、3.8gpd、4.0gpd、4.2gpd、4.4gpd、4.6gpd、4.8gpd、若しくは5.0gpd、又は高くは5.2gpd、5.4gpd、5.6gpd、5.8gpd、6.0gpd、6.2gpd、6.4gpd、6.6gpd、6.8gpd、若しくは7.0gpd、又は例えば3.0gpd~7.0gpd、3.2gpd~6.8gpd、3.4gpd~6.6gpd、3.6gpd~6.4gpd、3.8gpd~6.2gpd、4.0gpd~6.0gpd、4.2gpd~5.8gpd、4.4gpd~5.6gpd、4.6gpd~5.4gpd、4.8gpd~5.2gpd、4.8gpd~7.0gpd、若しくは5.0gpd~6.0gpdなどの上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内のテナシティを有し得る。
【0065】
本発明を例示的な設計に関して記載してきたが、本発明は、本開示の趣旨及び範囲内でさらに改変されてよい。さらに、本出願は、本発明が属する技術分野における公知の又は慣習的な実践の範囲内に含まれるような本開示からの逸脱も包含することを意図している。
【0066】
本明細書で用いられる場合、「上記の値のいずれか2つの間で定められるいずれかの範囲内」の句は、文字通り、値が列挙の低い値の方にあるか、又は列挙の高い値の方にあるかにかかわらず、その句の前に列挙された値のいずれか2つからのいずれの範囲が選択されてもよいことを意味する。例えば、値の対は、低い方の値2つ、高い方の値2つ、又は低い方の値及び高い方の値、から選択され得る。
【0067】
実施例
例1 - 5-スルホイソフタル酸塩の残基を含む分岐鎖状ポリアミド組成物の製造(分岐鎖状SIPAポリアミド)
この例では、5-スルホイソフタル酸塩(SIPA)の残基を含む分岐鎖状ポリアミド組成物の製造について示す。反応器は、12Lのステンレス鋼容器にらせん型撹拌器を取り付けることで準備した。反応器に供給した反応物は、4760グラムのカプロラクタム(AdvanSix Resins and Chemicals LLC,Parsippany,NJ)、672グラムのPripol(商標)1013ダイマー酸(Croda Incorporated,Wilmington DE)、39.8グラムの5-スルホイソフタル酸ナトリウム(Sigma-Aldrich Corp.,St.Louis,MO)、及び70重量%のヘキサメチレンジアミン及び30重量%の水から本質的に成る195グラムの溶液(Sigma-Aldrich Corp.,St.Louis,MO)を含んでいた。縮合触媒も、次亜リン酸塩の形態で約100ppmの濃度で反応器に供給し、さらには100グラムの脱イオン水も供給した。
【0068】
反応物、触媒、及び水を反応器中で一緒に混合した。反応器を約230℃の反応温度まで加熱し、反応物を1時間混合した。約6.5バールの反応器圧が観察された。1時間後、反応器を排気して、圧力を開放した。反応温度を230℃に維持して1時間保持し、同時に反応器に窒素を通し(2L/分)、内容物をらせん型撹拌器で混合して、ポリアミド組成物の分子量を増加させた。1時間後、ポリアミド組成物を真空蒸留し、らせん型撹拌器が約55Nmのトルク限界値に到達するまで混合した。ポリマー組成物を、反応器から水槽中に押出して、ポリアミド組成物を冷却した。冷却したポリアミド組成物を、ペレタイザーでペレット化して、ポリアミド組成物のチップを形成した。チップを、約15psiの圧力下、120℃で1時間の脱イオン水中での浸出に3回掛け、合計3時間で未反応カプロラクタムを除去した。このリンスしたポリアミド組成物を、80℃及び28水銀柱インチの真空度の真空オーブン中で乾燥して、水分含有量約800ppmのポリアミド組成物を製造した。
【0069】
例2 - 分岐鎖及び5-スルホイソフタル酸塩残基がある場合とない場合でのポリアミド組成物の比較
この例では、例1の分岐鎖状SIPAポリアミド組成物の性能を、二重末端封止ポリアミドポリマーDTPP(Aegis(登録商標)MBM、AdvanSix Incorporated,Parsippany,NJから入手可能)、非末端封止ナイロン-6(Aegis(登録商標)H55ZIE、AdvanSix Incorporatedから入手可能)、及び市販の耐汚染性ポリアミドポリマーと比較する。例1の分岐鎖状SIPAポリアミド組成物のマルチフィラメント繊維を、6~12ポンド/時間の速度で一軸押出機から分岐鎖状SIPAポリアミド組成物を押出すことによって製造した。押出機は、2インチの軸径及び27対1の長さ対軸径比を有する混合を伴うものであった。押出機のゾーン温度は、約750psigの押出機圧力(3500-1~7000秒-1のキャピラリーせん断粘度(capillary shear viscosity))のために、255℃~265℃に設定した。クロスフローエアクエンチング(cross flow air quenching)(40%フロー、24℃、50%相対湿度)を伴う0.4mm径キャピラリーを有する紡糸口金を用いて、紡糸口金の出口部から最初の駆動巻き取りロールまで約10フィートのスタック高さ(stack height)で繊維を紡糸した。
【0070】
例1の分岐鎖状SIPAポリアミド組成物のマルチフィラメント繊維を、400mpm~1600mpmの巻き取り速度で加工して様々なPOY及びFDYサンプルを製造した場合の紡糸加工性能及び得られる引張特性について評価した。製造したPOY/FDYサンプル繊維は、繊維あたり36の個別のフィラメントを有し、70~2700デニールであった。
【0071】
分岐鎖状SIPAポリアミド組成物の繊維を、テナシティ及び引張伸び率について評価した。DTPP、ナイロン-6、及び市販の耐汚染性ポリアミドポリマーから製造した繊維も紡糸し、比較のために評価した。結果を以下の表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示されるように、例1の分岐鎖状SIPAポリアミド組成物から製造したPOY/FDY繊維は、DTPP又はナイロン-6から製造した繊維と同等又はそれより良好な機械的延伸率及びテナシティを達成し、テナシティは、市販の耐汚染性ポリアミドよりも非常に良好であった。
【0074】
分岐鎖状SIPAポリアミド組成物及び比較ポリアミドポリマーを、全色差ΔEによって示される耐汚染性について評価した。FD&C Red 40染料の溶液100mgを200mLの水に溶解し、クエン酸を添加して約2.8のpHとした。サンプルをRed 40染料溶液中に30秒間入れ、続いて水でリンスした。これらの汚染サンプルを、90℃の真空オーブン中に24時間入れて乾燥させた。汚染サンプル及び非汚染オリジナルサンプルの両方を白色の板紙製カードに巻き付け、分光光度計(コニカミノルタCM-5分光光度計)で色を測定して、CIE Lab色空間のL、a、及びbの値を特定した。標準ΔE値を、色測定値に基づいて式2を用いて算出した。標準ΔEは、染料取り込みによる汚染に起因する色変化の尺度となる。
式2:
ΔE=((ΔL2)+(Δa2)+(Δb2))0.5
標準ΔEは、染料取り込みによる汚染に起因する色変化の尺度となる。ポリマーチップ、及びポリマーチップから形成した繊維の両方について測定した。結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
分岐鎖状SIPAポリアミド繊維の繊維は、驚くべきことに、市販の耐汚染性ポリアミドポリマーと比較した場合であっても、優れた耐汚染性を示す。したがって、比較ポリアミドポリマーのいずれとも異なり、分岐鎖状SIPAポリアミドにより、非常に優れた機械的延伸率及びテナシティ、さらには非常に優れた耐汚染性を有する繊維が製造される。