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特許7445778硬質クロム層及び改善された慣らし運転挙動を有するピストンリング
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  • 特許-硬質クロム層及び改善された慣らし運転挙動を有するピストンリング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】硬質クロム層及び改善された慣らし運転挙動を有するピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/26 20060101AFI20240229BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F16J9/26 C
F02F5/00 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022551588
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2021053826
(87)【国際公開番号】W WO2021170460
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】102020105003.8
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509098102
【氏名又は名称】フェデラル-モグル・ブルシャイト・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL-MOGUL BURSCHEID GMBH
【住所又は居所原語表記】Buergermeister‐Schmidt‐Strasse 17, 51399 Bursheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】バルケ,ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】リュエア,シュテファン
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19752720(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00909839(EP,A1)
【文献】米国特許第06503642(US,B1)
【文献】独国実用新案第202009009206(DE,U1)
【文献】中国特許出願公開第101498256(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 9/26
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を有するピストンリングであって、ここで前記基体は、内周表面、第一側面表面、第二側面表面及び外周表面を有し、網状クラックを有する第一硬質クロム層が前記外周表面に適用され、ここで前記第一硬質クロム層の網状クラックが1mm当たり10~250個のクラックのクラック密度を有し、0.01~10μmの平均粒子径を有する固体粒子が前記第一硬質クロム層のクラックに埋め込まれており、網状クラックを有する第二硬質クロム層が前記第一硬質クロム層に適用され、前記第二硬質クロム層の網状クラックのクラック密度が1mm当たり10~250個であり、前記第二硬質クロム層のクラック中には固体粒子が埋め込まれておらず、前記第二硬質クロム層の表面上のクラックが1~15μmの平均幅を有し、前記第二硬質クロム層の表面上のクラックが電解的に拡張されてなり、そして前記第二硬質クロム層の表面上のクラックの表面比率が前記第二硬質クロム層の総面積を基準として3~25%であることを特徴とする、ピストンリング。
【請求項2】
前記第二硬質クロム層の表面上のクラックの平均幅が2~10μmであり、前記第二硬質クロム層のクラック密度が1mm当たり30~200個のクラックであることを特徴とする請求項1記載のピストンリング。
【請求項3】
前記第二硬質クロム層の表面上のクラックの面積比率が5~20%であることを特徴とする、請求項1又は2記載のピストンリング。
【請求項4】
前記第一硬質クロム層の厚さが60~200μmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項記載のピストンリング。
【請求項5】
前記第二硬質クロム層の厚さが5~150μmであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項記載のピストンリング。
【請求項6】
前記ピストンリングの直径が120~1000mmであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項記載のピストンリング。
【請求項7】
前記固体粒子がダイヤモンド、炭化タングステン、炭化クロム、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は立方晶窒化ホウ素を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項記載のピストンリング。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のピストンリングを製造する方法であって、
(a)内周表面、第一側面表面、第二側面表面、外周表面を含む基体を有するピストンリングを、クロム化合物及び0.01~10μmの平均粒径を有する固体粒子を含む電解質中に配置するステップ、
(b)第一硬質クロム層が前記外周表面上に電解堆積され、ここでその層が網状クラックを有するステップ、
(c)電流の方向を反転させてクラックが拡張され、そして前記固体粒子が前記クラック中に堆積されるステップ、
(d)ステップ(b)及び(c)が少なくとも1回繰り返され、その結果、前記固体粒子を前記クラック中に含む第一硬質クロム層が形成されるステップ、
(e)クロム化合物を含み固体粒子を含まない電解質中にピストンリングを配置し、そして第二硬質クロム層が前記第一硬質クロム層上に電解堆積され、前記第二硬質クロム層が、クラック密度が1mm当たり10~250個のクラックを有する網状クラックを有するステップ、及び
(f)電流方向を反転させ、ここで前記第二硬質クロム層の表面上に形成されたクラックが平均幅1~15μmに拡張し、そして前記クラックの面積比率が前記第二硬質クロム層の全体の面積を基準として3~25%であるステップ
を含む、ピストンリングを製造する方法。
【請求項9】
内燃機関、特に船舶用ディーゼルエンジンにおける、請求項1~7いずれか1項記載のピストンリングの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り面上に硬質クロム層を有し、改善された慣らし運転挙動を有するピストンリング、及びそのようなピストンリングを製造するための方法並びに内燃機関におけるその使用に関する。
【0002】
内燃機関のためのピストンリングは、高摩擦及び高温に晒されることから、摩耗及び焼付きに対する高い耐性に加えて、耐火性及び良好な摺動特性も有する表面を有する必要がある。この目的のために、前記ピストンリングの外周表面(滑り面)は、通常、例えば電解堆積をした硬質クロム層の形態の摩耗保護コーティングが施されている。
【0003】
耐摩耗性及び耐焼付き性を改善するために、ガルバニック硬質クロム層に固体粒子を埋め込むことができる。ドイツ特許第3531410 A1号及び欧州特許0217126 A1号には、網状クラックを有し、そのクラック中に固体粒子が埋め込まれているガルバニック硬質クロム層が記載されている。
【0004】
しかし、そのような硬質クロム固体粒子層の耐摩耗性は非常に高く、そのためピストンリングの慣らし運転に、通常、2000時間以上の長時間を要する。その間、内燃機関は故障しやすく、油の高い消費を示す。これは、船舶用エンジンにおいて使用されるような大きなピストンリングの場合に特に重要である。大きなピストンリングとは、一般的に約120~1000mmの直径を有するピストンリングを指す。
【0005】
したがって、本発明の目的は、先行技術における上記の欠点を克服し、慣らし運転挙動が改善されたピストンリングを提供することである。さらに、本発明の目的は、このようなピストンリングを製造する方法を提供することである。
【0006】
本発明によれば、この課題は、基体を有するピストンリングであって、ここで前記基体は、内周表面、第一側面表面、第二側面表面及び外周表面を有し、網状クラックを有する第一硬質クロム層が前記外周表面に適用され、ここで前記第一硬質クロム層の網状クラックが1mm当たり10~250個のクラックのクラック密度を有し、0.01~10μmの平均粒子径を有する固体粒子が前記第一硬質クロム層のクラックに埋め込まれており、網状クラックを有する第二硬質クロム層が前記第一硬質クロム層に適用され、前記第二硬質クロム層の網状クラックのクラック密度が1mm当たり10~250個であり、前記第二硬質クロム層のクラック中には固体粒子が埋め込まれておらず、前記第二硬質クロム層の表面上のクラックが1~15μmの平均幅を有し、前記第二硬質クロム層の表面上のクラックが電解的に拡張されてなり、そして前記第二硬質クロム層の表面上のクラックの表面比率が前記第二硬質クロム層の総面積を基準として3~25%である、ピストンリングによって解決される。
【0007】
この課題はさらに、ピストンリングを製造するための以下のステップ:
(a)内周表面、第一側面表面、第二側面表面、外周表面を含む基体を有するピストンリングを、クロム化合物及び0.01~10μmの平均粒径を有する固体粒子を含む電解質中に配置すること、
(b)網状クラックを有する第一硬質クロム層を外周表面に電解堆積させること、
(c)電流の方向を反転させること、ここで、形成したクラックが拡張し、前記固体粒子が前記クラック中に堆積すること、
(d)ステップ(b)及び(c)を少なくとも1回繰り返し、その結果、前記固体粒子を前記クラック中に含む第一硬質クロム層を形成すること、
(e)クロム化合物を含み固体粒子を含まない電解質中にピストンリングを配置し、そして網状クラックを含む第二硬質クロム層を、前記第一硬質クロム層上に電解堆積させること、及び
(f)電流方向を反転させること、ここで前記第二硬質クロム層の表面上に形成されたクラックが平均幅1~15μmに拡張し、そして前記クラックの面積比率が前記第二硬質クロム層の全体の面積を基準として3~25%であること
を含む方法により解決される。
【0008】
上記のピストンリングは、表面上に拡張された広い面積を構成するクラックを有し、それ結果、クラックが潤滑剤の貯留層として機能することができるという利点を有する。同時に、本発明によるピストンリングは、表面上に粒子を含まない硬質クロム層を有しており、それは固体粒子を有する第一硬質クロム層(硬質クロム-固体粒子層)ほどには耐摩耗性に優れておらず、その結果、慣らし運転挙動が全体的に短く大幅に改善される。具体的に、これは、運転開始から約2000時間の油の消費を削減する。さらに、上述の粒子を含まない表層部は、ピストンリングに特に好適であることが証明されている硬質クロム層である。表層部の粒子を含まない硬質クロム層が慣らし運転の段階で摩損し、その結果、ピストンリングの慣らし運転後に、公知且つ有利な硬質クロム固体粒子層すなわち第一硬質クロム層が、内燃機関における摩擦パートナーとしてその役割りを引き継ぐことができる。ステップ(e)及び(f)は、必要に応じ複数回繰り返されてもよい。このように、粒子のない硬質クロム層の厚さを要件に適合させることができる。
【0009】
内周及び外周表面及び側面表面を有するピストンリングの基本構造は、例えばドイツ特許10 2011 084 052A1号に記載されている。
【0010】
本発明の意味において、硬質クロム層は、電解的(ガルバニック)に適応したクロム層であると理解される。この硬質クロム層を形成するために、ピストンリングは、電解質中に配置された陰極として動作される。固体粒子の有無にかかわらず、硬質クロム層の形成は公知であり、例えば欧州特許第2 825 682 A1号及び欧州特許第2 260 127 A1号に記載されている。
【0011】
ピストンリングに対しては、連続電流又は脈動連続電流が適用される。堆積ステップ(b)において、硬質クロム層は、網状クラック(マイクロ網状クラック)と共に形成される。固体粒子を網状クラック中に堆積させるために、電解質は固体粒子を含み、そして極性反転ステップ(c)では、ピストンリングが陽極として動作され、それによりクラックが拡張され、その広がったマイクロクラック中に固体粒子が堆積される。固体粒子は、電解質中の懸濁液に優先的に保持される。ステップ(b)及び(c)が繰り返されるときには、次の堆積ステップ(b)においてクラックが閉じ、そしてさらにマイクロクラック化した硬質クロム層のさらなる層が堆積し、その層は再び新たなクラックを有し、そのクラックは、次々に拡張されて、粒子で充填され得る。
【0012】
それぞれのクロム層(クロム堆積物)は、好ましくは、約6~20μmの厚みを有し、そして電流の方向を反転(極性反転)させて数回堆積させることにより、前記第一硬質クロム層の厚さを所望の用途に適合させることができる。
【0013】
前記第一硬質クロム層の堆積に続いて、第二硬質クロム層がステップ(e)において堆積し、これはいかなる固体粒子も含まない。堆積の最後に、ステップ(f)において、極性を再び反転させて(電流の方向を反転させて)、表面上のクラックが拡張され、その結果、クラックは、特定の平均幅を有し且つそれに対応した高い面積比率を占める。
【0014】
前記第二硬質クロム層の表面で、クラックの平均幅(クラック幅)は、クラック経路に対しほぼ直角に測定することにより、表面における少なくとも10個のランダムに選択されたクラックの幅を測定し、そしてこれらの少なくとも10個の測定したクラック幅の算術平均値を得ることによって決定される。表面の顕微鏡画像、具体的には滑り面研磨の顕微鏡画像を測定するために使用し、以下の実施例に記載するように製造することができる。
【0015】
前記第二硬質クロム層の表面上のクラックの平均幅は、1~15μm、好ましくは1.5~12μm、より好ましくは2~10μm、最も好ましくは3~9μmである。
【0016】
また、前記第二硬質クロム層の表面内又は表面上のクラックの表面部分は、表面の顕微鏡画像、具体的には表面のトレッド部の顕微鏡画像から決定される。前記クラックは、その他の硬質クロム層とは色が異なり、図1に示すようにより暗色を有する。クラックの表面積を決定するために、少なくとも40μm×40μmの面積をとり、暗色の比率、すなわち、総面積に対する表面上のクラックの比率が、測定することにより決定される上で決定され、その算術平均が、これら三つの測定値から決定される。このようにして決定した値が、第二硬質クロム層の表面におけるクラックの面積比率である。
【0017】
前記第二硬質クロム層の表面におけるクラックの面積比率は、第二硬質クロム層の全体の面積を基準として、いずれの場合も、3~25%、好ましくは5~20%、より好ましくは6~18%である。
【0018】
好ましい実施態様では、硬質クロム層を堆積するための電解質中のクロム化合物は、Cr(III)化合物又はCr(VI)化合物、特にCr(VI)化合物である。好ましくは、前記電解質はクロム化合物、具体的には100~400g/L、特に150~300g/Lのクロム酸無水物に相当する量のCr(VI)化合物を含む。さらに、前記電解質は、1~26g/L、特に2~25g/Lの1つ以上の酸、例えば硫酸及び/又は脂肪族スルホン酸を含むことが望ましい。好ましくは、1~6個の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸が電解質中に存在し、具体的に1~18g/Lの量で存在する。特に好ましくは、1~4の炭素原子を有する脂肪族スルホン酸であり、その中でもメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メタンジスルホン酸及び/又はエタンジスルホン酸が好ましい。最も好ましくは、メタンスルホン酸である。前記電解質はさらに、通常の電解助剤及びクロムの堆積を助長する触媒を含んでもよい。これらは、電解質中に通常量存在してもよい。上記で開示された電解質中の個々の成分の量は、全体として電解質であることを示す。クロム板鋳鉄にクロムメッキを行うには、前記電解質は、さらに、フッ化物、例えばフッ化カリウム又はヘキサフルオロケイ酸カリウムを含んでもよい。
【0019】
堆積ステップ(b)及び(e)における電流密度は、いずれの場合も、好ましくは10~200A/dmであり、特に好ましくは20~100A/dmであり、そして最も好ましくは40~80A/dmである。電解堆積(ガルバニック堆積)の間の温度は、20~95℃、好ましくは40~80℃であることができる。極性反転ステップ(c)及び(f)における電流密度は、いずれの場合もまた、好ましくは10~200A/dm、特に好ましくは20~100A/dm、そして最も好ましくは40~80A/dmである。
【0020】
反転ステップ(c)の継続時間は、好ましくは30~240秒であり、より好ましくは5~120秒である。ステップ(f)におけるクラックの拡張の継続時間は、好ましくは60~300秒であり、特に好ましくは、120~240秒である。
【0021】
堆積ステップ(b)及び(e)の継続時間は、それぞれの硬質クロム層の所望の厚さの関数として選択され、ここで前記層は、堆積時間と同様に、電流密度及び電流収量が高いほどより厚くなる。本発明の意味では、硬質クロム層は、電着したクロム層であると理解される。
【0022】
前記第一硬質クロム層における固体粒子の均一な分布を達成するために、ステップ(b)及び(c)のステップが繰り返されるが、ここでは1~50回の繰り返し、特に10~30の繰り返しが好ましいことが証明されている。好ましくは、前記第一硬質クロム層は、約50~300μmの層厚を有することが好ましい。60~200μmの層厚、特に80~180μmの層厚が好ましい。
【0023】
前記第一硬質クロム層は固体粒子を含むので、この層は、本発明の文脈において硬質クロム固体粒子層とも呼ばれる。ピストンリングの基体は、好ましくは金属又は金属合金でできており、その上に前記第一硬質クロム層が直接堆積している。前記第一硬質クロム層を堆積させる前に、プライマーとしてさらなる金属層を基体に最初に適用してもよい。好ましい実施態様において、ピストンリングの基体は、10重量パーセント(wt%)よりも多いクロムを含むクロム鋼を含む。
【0024】
前記粒子を含まない硬質クロム層、すなわち前記第二硬質クロム層の層厚は、好ましくは5~150μm、特に好ましくは10~50μmである。好ましくは、前記第二硬質クロム層は、前記第一硬質クロム層に直接適用される。これは、この好ましい実施態様において、第一硬質クロム層と第二硬質クロム層との間にさらなる層がないことを意味する。必要に応じて、前記第二硬質クロム層の外側に、例えばPVD層又はCVD層などの慣らし運転層を適用することができる。
【0025】
前記第一硬質クロム層の高い耐摩耗性を達成するために、好ましくは硬質材料粒子が固体粒子として使用される。本発明の意味において、硬質材料粒子は、9以上のモース硬度を有する材料の粒子であると理解される。これらの中で、9.2~10のモース硬度を有する硬質材料粒子が好ましく、そして9.4~10のモース硬度を有するものが特に好ましい。前記モース硬度は、先行技術で公知のモース硬度試験により決定される。特に好ましい硬質の粒子は、ダイヤモンド、炭化タングステン、炭化クロム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は立方晶窒化ホウ素からつくられるものである。
【0026】
本発明によるプロセスにおいて電解質中に含まれる固体粒子の量は、広範囲にわたって変化させることができる。前記電解質は、0.1~200g/L、特に1~100g/Lの固体粒子を含むのが有利であることがわかっている。
【0027】
本発明の意味における網状クラックは、クロムの電解堆積の間に形成する公知の網状クラックである。このプロセスでは、クロム層中に、ある間隔でランダムにクラックが形成され、その後の堆積の間にクロムで充填される。前記クラックは、電解的に堆積した硬質クロム層全体をあらゆる方向に貫通している。
【0028】
前記第一硬質クロム層及び第二硬質クロム層のクラック密度は、いずれの場合も1mm当たり10~250個、特に好ましくは1mm当たり20~220個、さらに好ましくは1mm当たり30~200個、そして最も好ましくは1mm当たり40~180個である。これを測定するためには、トレッド部の顕微鏡画像上に、少なくとも1mmの長さの、少なくとも2本のカッティングラインを異なる方向に配置し、計数することによりクラック密度を測定し、少なくとも2回の計数からその算術平均を求める。好適なトレッド部の画像の例を図1に示す。
【0029】
ステップ(f)において、クラックを拡張することにより、クラックを拡張しない場合と比較して、クラックが占める面積比率が有意により高くなり、そしてクラックを、潤滑剤、特にオイルで充填することができ、それにより本発明によるピストンリングのより良好な摺動特性が確保され、そして何等かの潤滑不足が発生した場合の緊急滑り特性も向上する。前記第二硬質クロム層の表面上のクラックは、電解(ガルバニック)拡張により、もはやクロムで満たされなくなり、すなわち開口する。クラックは、5~20%の面積比率が特に好ましいことが証明されており、なかでも特に6~18%が好ましい。
【0030】
前記固体粒子の平均粒径(粒径)は、0.01~10μmであり、好ましくは0.1~3μm、特に好ましくは0.2~2μm、なかでも特に好ましくは0.2~1μmである。平均粒径(d50)は、乾式分散器中のレーザー回折(装置:Scirocco分散ユニットを備えたMalvern Mastersizer)により決定される。平均粒径(d50)とは、体積比で50%がその特定された値よりも小さい粒径を有し、体積比で50%がその特定された値よりも大きい粒径を有する値である。
【0031】
第一硬質クロム層の総体積に対する固体粒子の比率は、好ましくは体積比で0.1~20%であり、特に好ましくは体積比で0.2~10%であり、なかでも特に好ましくは体積比で0.3~5%である。前記固体粒子は、好ましくはダイヤモンド、炭化タングステン、炭化クロム、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、立方晶窒化ホウ素からなる群より選択される。
【0032】
本発明はまた、内燃機関における本発明によるピストンリングの使用に関する。この目的のために、本発明によるピストンリングは、当業者に公知の方法で内燃機関のピストンに挿入される。好ましい使用は、船舶用ディーゼルエンジンにおける使用である。そこでは、好ましくは120~1000mm(ミリメートル)の直径を有する大きなピストンリングが使用される。
【0033】
上記の特徴、及び以下に説明する特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、示された組み合わせだけでなく、他の組み合わせでも使用されるか、又は単独で使用され得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】表面上に拡張したクラックを有する、本発明による硬質クロム層のトレッド部の顕微鏡画像を示す。
【0035】
本発明を以下の実施例においてより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されない。
実施例
次の組成:
250g/L CrO3(クロム酸)
3.0g/L HSO(硫酸)
4.2mL/L メタンスルホン酸
を有するクロム電解質を調製する。
【0036】
このクロム電解質中に、60℃で、0.2~0.4μmの平均粒径を有する50g/Lの単結晶ダイヤモンド粒子を撹拌により分散させ、クロムめっきの間、懸濁状態に保ち、クロム鋼のピストンリングを電解質に導入する。クロムメッキされるピストンリングは、第一ステップにおいて、まず陰極として動作され、60A/dm2の電流密度で10分間クロムメッキされる。第二ステップにおいて極性が反転され、60A/dm2の電流密度で1分間ピストンリングを陽極として動作させることにより、あらかじめ堆積したクロム層の網状クラックが拡張され、ダイヤモンド粒子で充填される。このサイクル、すなわち10分間の陰極クロムめっき及び1分間の陽極エッチングを、合計15回繰り返し、約120μmの厚さを有する硬質クロムダイヤモンド粒子層を得た。クラック密度は1mm当たり約125個のクラックである。
【0037】
次に、ピストンリングを、ダイヤモンド粒子を含まないこと以外は上記と同じ組成を有する電解質中に配置し、まずピストンリングを最初に陰極として動作させ、60A/dmの電流密度で30分間クロムメッキする。次に、極性を反転させて、電流密度60A/dmでピストンリングを陽極として動作させることにより、表面の網状クラックを拡張させる。表面でのクラック密度は、1mm当たり121個のクラックであり、クラックの平均幅は4μmである。
【0038】
表面の顕微鏡画像を作成するために、ピストンリングの滑り面の研磨を行う。この目的のために、ピストンリングは、SiC湿式研削紙であって次の粒度を有するSiC湿式研削紙を用いて、順次表面が研削される。
粒度 220
粒度 320
粒度 600
粒度 1200
粒度 4000
【0039】
研磨は、1μmのダイヤモンド懸濁液を用いて、試料に傷がなく輪郭が鋭くなるまで実施される。
【0040】
その後、トレッド表面の顕微鏡画像を撮影する。
図1