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特許7445809緑内障の治療のためのシステム、方法及び器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】緑内障の治療のためのシステム、方法及び器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
A61F9/007 160
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023110024
(22)【出願日】2023-07-04
(62)【分割の表示】P 2019568712の分割
【原出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2023118852
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】62/518,944
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505181479
【氏名又は名称】インフォーカス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド ピンチュク
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4521210(US,A)
【文献】米国特許第5601094(US,A)
【文献】米国特許第6004302(US,A)
【文献】特表2015-506748(JP,A)
【文献】特開2012-125606(JP,A)
【文献】特表2007-524477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0165840(US,A1)
【文献】特表2008-504063(JP,A)
【文献】特開2016-052571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位端部から近位端部まで軸線方向に延在する、管腔を有しない細長の本体を備える緑内障排水装置であって、
記遠位端部が、テーパー状であり、先端の遠位縁を有する楔として形成され、
該本体が、平坦な上側外面及び下側外面を有し、前記近位端部又は該近位端部の近傍から該本体の遠位端部に向かって延在する開放溝を有し
該開放溝が該楔の両側に配置され
前記細長の本体が、眼の前房からの房水が該眼の前房から該眼の脈絡膜上腔まで前記開放溝に沿って流れることを可能とすべく、該眼の脈絡膜上腔に留まり且つ該眼の前房内に延在するように構成される、緑内障排水装置。
【請求項2】
前記本体が、前記平坦な上側外面及び下側外面の両面に配置された複数のかかり部を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数のかかり部が、前記平坦な上側外面及び下側外面を横断して横方向に延在する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記本体が、前記平坦な上側外面及び下側外面の両面に配置されたかかり部を有しない、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記本体が、ショア30A~60Aの硬度を有する材料から形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記本体が、ポリ(スチレンブロックイソブチレンブロックスチレン)(SIBS)、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、ポリヘキセン、ポリプロピレン及びポリエチレンの少なくとも一つから形成される、請求項に記載の装置。
【請求項7】
請求項1に記載の緑内障排水装置と、
前記緑内障排水装置に結合される挿入器であって、前記緑内障排水装置を前記脈絡膜上腔に送達して位置付け、且つ該緑内障排水装置から分離して該緑内障排水装置を該脈絡膜上腔において展開するように構成された挿入器と
を備える、緑内障装置キット。
【請求項8】
前記挿入器が、ハンドルと、該ハンドルに対して長手方向に並進するように構成された少なくとも一つのロッドとを含み、該少なくとも一つのロッドが前記緑内障排水装置の本体の前記少なくとも一つの開放溝において長手方向に並進するように構成され、前記挿入器が前記緑内障排水装置に結合されると、前記少なくとも一つのロッドが、該ロッドが前記緑内障排水装置の本体の前記開放溝の一部に少なくとも配置される伸長形態になる、請求項に記載のキット。
【請求項9】
前記挿入器が、前記伸長形態から、前記ロッドが前記緑内障排水装置の開放溝の一部に配置されない格納形態に前記少なくとも一つのロッドを再構成することによって前記緑内障排水装置から分離するように構成される、請求項に記載のキット。
【請求項10】
前記少なくとも一つのロッドが、ユーザの手によって作動されるように構成されたスライド部材に結合され、前記挿入器のハンドルが、該ハンドルの長さに沿って軸線方向に延在し且つ前記少なくとも一つのロッドと平行な長手方向のスロットを画定し、前記スライド部材が前記スロット内で摺動して前記伸長形態と前記格納形態との間で前記ロッドを移動させるように構成される、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2017年6月13日に出願された米国仮特許出願第62/518944の優先権を主張し、この全内容は参照によって本明細書に取り込まれる。
【0002】
本開示は、緑内障の治療に関し、特に、眼内の圧力が低下するように房水を眼の前房の外側に迂回させるための排水経路を作成するための医療装置及び医療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
房水は、眼の毛様体によって生成され、毛様体から前房内に流れ、小柱網と称される眼の前方における海綿状組織を通って排水管内に流れ出す。健康な眼では、房水の連続的な排水によって眼内圧が正常なレベルに保たれる。しかしながら、ほとんどのタイプの緑内障では、房水の適切な循環が妨げられ、眼内圧のレベルの上昇が引き起こされる。開放隅角緑内障では、流体が小柱網を通して自由に流れず、眼内圧の増加、視神経の損傷及び視力損失が引き起こされる。眼内圧の低下は、治療されない場合に失明に至る可能性がある視神経の損傷の進行を止める手段である。
【0004】
脈絡膜上腔は胸膜と脈絡膜との間にある眼内の空間である。脈絡膜上腔の房水は、脈絡膜上腔から排出され、眼内圧の低下を引き起こすことが知られている。房水が脈絡膜上腔に達した時点で房水がどこに排出されるかよく理解されていないが、脈絡膜血管、強膜の静脈叢及び強膜上静脈に房水が排出されることについての参考文献が存在する。
【0005】
テキサス州フォートワースのアルコンラボラトリーズ社は、眼の前房から眼の脈絡膜上腔に房水を排出して眼の眼内圧を下げる、内部管腔を有する管状本体を含むCypass(登録商標)マイクロステントを開発した。
【発明の概要】
【0006】
脈絡膜と強膜との間の空間(脈絡膜上腔又は毛様体上腔(supraciliary space))を広げることによって、房水が脈絡膜上腔に入って脈絡膜上腔から眼の代替排水路を通って排出され、眼内圧が低下する。用語「脈絡膜上腔」及び「毛様体上腔」は眼の同じ空間を指し、このため、これら二つの用語は交換可能である。本開示の一つの態様によれば、眼内圧を低下させるべく眼の前房から眼の脈絡膜上腔への房水の排水を促進するために眼の脈絡膜上腔に埋め込まれる装置が提供される。ab interno(眼の内側からの)アプローチを使用して眼の脈絡膜上腔に挿入され、脈絡膜上腔を囲む組織(すなわち強膜及び脈絡膜)の曲率に適合し、且つ所定の位置に長期間留まることができる可撓性且つ生体不活性の生体適合性材料から装置を作ることができる。
【0007】
更なる詳細が本明細書において説明される一つの態様によれば、装置は、遠位端部から近位端部まで軸線方向に延在する細長の本体を含む。細長の本体の遠位端部は、先端の遠位縁を有する楔を形成する。眼の脈絡膜上腔に装置を埋め込む間、先端の遠位縁を有する楔は眼の脈絡膜上腔の組織に貫通し且つ眼の脈絡膜上腔の組織を広げて開くことを促進することができる。細長の本体は、近位端部又は近位端部の近傍から本体の遠位端部に向かって延在する少なくとも一つの開放溝を画定する一つ以上の外面を有する。細長の本体の遠位端部が眼の脈絡膜上腔に配置され且つ細長の本体の遠位端部が眼の前房内に延在した状態で、少なくとも一つの開放溝は、房水が開放溝に沿って眼の前房から眼の脈絡膜上腔まで流れるように構成される。開放溝の開いた性質によって、開放溝に沿って流れる房水の流路は、開放溝の長さに沿って開放溝に隣接して配置された眼組織によって境界付けられ得る。
【0008】
実施形態において、装置の本体は少なくとも一つの開放溝の遠位端部において当接部を画定する。また、実施形態において、本体は、実質的に平面形状である上方外面及び下方外面を有する。一つの実施形態において、かかり部が上面及び下面から延在する。かかり部は、一方の方向における挿入を可能とし且つ反対の方向における除去に抗するように先細にされ得る。
【0009】
実施形態において、装置は柔軟な可撓性ポリマー材料から形成される。斯かる柔軟な可撓性ポリマー材料の例は、ポリ(スチレンブロックイソブチレンブロックスチレン)(SIBS)、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、ポリヘキセン、ポリプロピレン、ポリエチレン及びこれらの組合せを含む。材料はショア30A~60Aの硬度を有することができる。
【0010】
更なる詳細が本明細書において説明される別の態様によれば、システムは、装置と、装置に結合される挿入器とを含む。挿入器は、脈絡膜上腔に装置の遠位端部を位置決めする間、装置を保持し、且つ装置から分離して脈絡膜上腔の所望の位置において装置を展開するように構成される。挿入器は、ハンドルと、ハンドルに対して長手方向に並進するように構成された少なくとも一つの硬質部材とを含むことができる。各硬質部材は、装置の対応する開放溝において長手方向に並進するように構成される。硬質部材が装置の対応する開放溝の少なくとも一部に沿って延在する伸長形態において、挿入器は各硬質部材で装置を保持する。実施形態において、挿入器は、伸長形態から、硬質部材が装置の開放溝から除去される格納形態に各硬質部材を再構成することによって装置から分離するように構成される。
【0011】
本明細書において使用されるとき、「硬質」は、以下により詳細に説明されるように、挿入器が眼内に導入されるときにユーザの手によって挿入器に与えられる可能性のある力(例えば軸線方向及び径方向の圧縮力)の範囲の下で挿入器が曲がったり座屈しないことを意味する。また、本明細書において使用されるとき、「可撓性」は、装置が、挿入器によって支持されていない場合に、挿入器の使用中に挿入器に与えられる可能性のある軸線方向及び径方向の圧縮力の下、曲がり又は座屈することを意味する。
【0012】
実施形態において、少なくとも一つのロッドは、ユーザの手によって作動されるように構成されたスライド部材に結合される。挿入器のハンドルは、ハンドルの長さに沿って軸線方向に延在し且つ少なくとも一つのロッドと平行な長手方向のスロットを画定し、スライド部材はスロット内で摺動して伸長形態と格納形態との間でロッドを移動させるように構成される。
【0013】
更なる詳細が本明細書において説明される更に別の態様によれば、装置を埋め込む方法は、挿入器に結合された装置を提供するステップと、眼の外側にハンドルを維持しつつ装置を眼内に導入するステップと、脈絡膜上腔の所望の埋込位置に装置を位置決めするステップと、装置が所望の埋込位置に位置決めされた状態で、挿入器を装置から分離するステップとを含む。実施形態において、装置を脈絡膜上腔の所望の埋込位置に位置決めするステップは、装置の遠位端部を脈絡膜上腔に位置決めし、装置の近位端部を前房内に位置決めすることを含む。所望の位置において、装置は前房内に約0.5mm~1mm延在することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、眼の前部の断面図である。
図2図2は、点線の円によって囲まれた図1の部分の分解図である。
図3A図3Aは、本開示に係る緑内障排水装置の実施形態の等角図である。
図3B図3Bは、図3Aの断面3B-3Bに沿って見たときの図3Aの緑内障排水装置の断面図である。
図4図4は、本開示に係る緑内障排水装置の別の実施形態の等角図である。
図5図5は、埋め込まれた形態における図3Aの緑内障排水装置を示す。
図6図6は、埋め込まれた形態における図3Bの緑内障排水装置を示す。
図7図7は、本開示に係る緑内障排水装置の他の実施形態の代替的な断面を示す。
図8図8は、本開示に係る緑内障排水装置の他の実施形態の代替的な断面を示す。
図9図9は、伸長形態における展開工具の実施形態の一部を示す。
図10図10は、格納形態における図9の展開工具の一部を示す。
図11図11は、図3A及び図3Bの緑内障排水装置に結合された、伸長形態における図9の展開工具の一部を示す。
図12図12は、展開工具のハンドルが図3A及び図3Bの緑内障排水装置に結合された状態の図9図11の展開工具を示す。
図13図13は、図9図12の展開工具の代替的な実施形態及び図3A及び図3Bの緑内障排水装置の代替的な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、眼の前部の詳細を示す。眼1の前部は、角膜2、前房3、虹彩4、水晶体5、結膜6、テノン嚢7、強膜8、毛様筋9、脈絡膜10及び脈絡膜上腔11を含む。脈絡膜上腔11は脈絡膜10と強膜8との間に境界を有する。脈絡膜10は、毛様体9の上部を貫通する血管を含む。これら血管は前房3のより後方においてより明確な層内により組織化される。透明角膜切開13又は角膜2において使用される正確に関節連結された切開部が、白内障手術のような前眼部手術(ab interno anterior segment surgery)中に前房3にアクセスするのに使用される。メス又はレーザを用いて透明角膜切開13を作成することができる。前房3は、典型的には、白内障手術及びこの種類の処置中に粘弾性材料で満たされる。
【0016】
点線の円12が、本開示の関心事の部分を示し、図2により詳細に示される。脈絡膜上腔11は強膜棘20の直下に位置する。ゴニオレンズ(図示せず)を介して角膜2を通して前房3をのぞき込む外科医は、強膜棘20と脈絡膜上腔11への入口とを容易に識別することができる。
【0017】
図3Aは、以下「楔(wedge)」と称される緑内障排水装置30の実施形態を示し、緑内障排水装置30は、例えば図5に示されるように脈絡膜上腔11に挿入されるように構成され、以下により詳細に説明される。示された実施形態では、楔30は、以下「ロッド」と称される細長の本体31から構成され、細長の本体31はテーパ状の遠位端部32を有するフィレット状の(filleted)矩形ロッドとして示される。ロッド31は、近位端部50又は近位端部50の近傍から遠位端部32に向かって延在する少なくとも一つの開放溝又は開放チャネル33を画定する外面42(上面)及び外面43(下面)を有する。溝又はチャネル33は長手方向軸線A-Aに平行に延在する。上面42及び下面43は、楔30が平坦な面に置かれて外力を受けないときに、平面である。当然のことながら、開放溝又は開放チャネル33は、上面42及び下面43のいずれか又は両方にも形成されてもよく、又は、代替的に上面42及び下面43のいずれか又は両方に形成されてもよい。
【0018】
図示されない一つの代替的な実施形態では、遠位端部32のテーパ角度は、テーパが更に延在する(近位端部50まで全体的に延在してもよい)ように、図3Aに示されたものよりも浅い。用語「近位」及び「遠位」は図3Aの軸線A-Aに沿った位置を指している。スロット33は、楔30の全長に亘って連続的であってもよく、又は、楔30の長さに沿った任意の場所において、例えばロッド31の遠位端部32若しくは遠位端部32の近傍における当接部(abutment)34において終端していてもよい。
【0019】
図3Bは、図3Aの断面3B-3Bに沿った楔30の断面を示し、楔30の両側の二つのスロット33a、33bを示す。断面は、垂直ウェブによって垂直方向に離間された、上部及び下部の二つの水平フランジを有するIビームの外観を有する。楔30は管腔を有さず(lumen-less)、ロッド31の外面に形成された溝又はチャネル33は開放されている。以下により詳細に説明されるように、溝又はチャネル33は、流体が楔30の外面に沿って流れて前房3から脈絡膜上腔11に拡散することを可能とする。
【0020】
遠位端部32から近位端部50まで軸線A-Aに沿って測定された楔30の軸線方向の長さは、3mm~10mmであり、好ましくは6mmである。図3Bに描かれた断面の寸法は、0.5mm~1mm、好ましくは0.75mmの幅37を有する。高さ36は、0.4mm~0.8mm、好ましくは0.5mmである。38として示されるスロット33の幅は、0.05mm~0.25mm、好ましくは0.15mmである。楔30内へのスロット33の窪み又は深さ39は、楔30の幅37の40%未満であり、0.05mm~0.4mmの範囲、好ましくは0.25mmである。図面には遠位端部32における楔30の先端の縁が鋭利な縁として示されているが、縁は約0.127mm(0.005インチ)の半径を有していてもよい。
【0021】
楔30が図3BではIビーム形状の断面として示されているが、図7及び図8に例示されるような他の断面形状が使用されてもよい。例えば、図7は、二つのローブ(lobes)70a、70bを有する楔70の断面を示し、二つのローブ70a、70bは、交差し、このことによって楔70の外面に一組の開放溝又は開放チャネル73a、73bを画定する。また、図8は、三つのローブ80a、80b、80cを有する楔80の断面を示し、三つのローブ80a、80b、80cは交差して楔80の外面に一組の三つの開放溝又は開放チャネル83a、83b、83cを画定する。
【0022】
楔30は、ポリオレフィンを含む任意の生体材料、例えば、ポリ(スチレンブロックイソブチレンブロックスチレン)(SIBS)、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、ポリヘキセン、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びこれらの均等物、並びに上記のコポリマーから作られる。楔30を構成する他の材料は、限定されるものではないが、シリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルシロキサン及びこれらのコポリマー)、ポリウレタン、例えば、ポリエーテルウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリシリコンウレタン、ポリイソブチレンウレタン、及び医療インプラントに用いられる他のポリウレタンを含むことができ、ポリフッ化ビニル(PVDF)及び上記のフッ素化バージョンのようなフッ素化ポリマーも使用することができる。この実施形態に使用可能な他の材料は、PEEK、ポリイミド、ポリスルホン、畝のある(ridged)ポリウレタン、ポリイミド等のような硬質材料を含む。架橋ゼラチン(豚、馬、牛、猫等)、架橋多糖類(ゲレン、ペクチン、ヒアルロン酸、メチルセルロース及びこれらの均等物)のような生体材料も楔に使用することができる。しかしながら、好ましい材料は、生体適合性を有し且つ脈絡膜上腔の形状をとるために顕著な可撓性を有する材料である。楔30を形成するのに使用されるべき好ましい材料は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9101444号、9044301号、7837644号、7594899号及び7431709号において詳細に説明されるような、ショア30A~60Aの硬度のポリ(スチレンブロックイソブチレンブロックスチレン)(SIBS)である。楔30は、所定長さに切断可能な長い輪郭のあるモノフィラメントとして押し出されうる。押し出されて切断されたモノフィラメントは、その後、押し出し及び切断によって形成されなかった楔30の特徴(例えば当接部34及び遠位端部32のテーパ)を形成すべく、一方の端部(例えば遠位端部32)において熱成形されうる。
【0023】
図4は、上面42’及び下面43’に複数のかかり部(barbs)を有する楔30’の別の実施形態を示す。かかり部41は、脈絡膜上腔11を画定する組織と係合するように構成されて、楔30’が脈絡膜上腔11に導入されたときに、かかり部41が、楔30’の埋込位置に楔30’を保持して固定するのを助け、脈絡膜上腔11の外側に戻る楔30’の移動又は排出を阻止する。かかり部41が図4には(上面42’及び下面43’に平行な)平坦な外面41aを有するように示されているが、かかり部は、他の方向への除去に抗しつつ脈絡膜上腔11への容易な挿入を可能とするように、上面42’及び下面43’に対してゼロ以外の角度で延在する外面41aを有していてもよい。かかり部41が楔30’の表面から突出して示されているが、かかり部41は、表面に形成された窪み、隆起又は溝(図示せず)であってもよい。
【0024】
上記のように、楔30は脈絡膜上腔11に少なくとも部分的に埋め込まれるように構成される。好ましくは、完全に埋め込まれた形態にあるとき、図5に示されるように、楔30の遠位端部32は脈絡膜上腔11に配置され、近位端部50は前房3に配置される。図5に示されるように、楔30が、眼の湾曲に平行な脈絡膜上腔11の湾曲形状に適合することに留意されたい。完全に埋め込まれた形態では、楔30は前房3内に0.5mm~1mm延在することができる。この間隔は、楔30の近位端部50周りの脈絡膜上腔11の閉鎖を防止するのを助けることができ、脈絡膜上腔11が閉鎖された場合には、前房3から脈絡膜上腔11への流体の流れが遮断されるだろう。
【0025】
図6は、光干渉断層法(OTC)を使用して前房3から見たときの、図5に示された埋め込まれた形態における(近位端部50から遠位方向に見たときの)楔30の端面図60を示す。脈絡膜上腔11への楔30の挿入は、強膜8、脈絡膜10、小柱網14及び強膜棘20の一つ以上の部分の間の裂開又は拡がりを引き起こし、組織と楔30との間に裂け目61を形成し、このことは、前房3と脈絡膜上腔11との間の流体開口部の大きさを増大させて前房3から脈絡膜上腔11への房水の流れを促進する。
【0026】
楔30を単独で又は一つ以上の治療薬と併せて埋め込ことができる。これら治療薬は、手術時に眼内に注入され、又は装置から溶出するように装置にコーティングされ若しくは装置内に埋め込まれることができる。加えて、楔の埋め込み後に定期的にこれら治療薬を注入することができる。また、楔30は、生分解性ポリマーマトリックスから形成され又は生分解性ポリマーマトリックスでコーティングされてもよく、生分解性ポリマーマトリックスには、経時的にマトリックスから眼内に放出可能な治療薬が充填される。生分解性ポリマーマトリックスは生体内で(眼内の埋込位置において)経時的に分解され、斯かる分解は、マトリックスから眼内への治療薬の所望の放出速度を経時的に実現するのに必要とされうる。
【0027】
実施形態において、ポリマー、コポリマー及びブロックポリマーのような様々な組合せの一つ以上の生分解性ポリマーから成る群から生分解性ポリマーマトリックスを選択することができる。斯かる生分解性ポリマーのいくつかの例は、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバケート、ポリカーボネート、例えば、ポリ(P-ヒドロキシアルカノエート)(PHA)及び誘導化合物のようなチロシン由来のバイオポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリジオキサノン、合成物(hybrids)、複合材料、成長調節因子を有するコラーゲンマトリックス、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、真空形成SIS(小腸粘膜化組織)、繊維、キチン及びデキストランを含む。これら生分解性ポリマーのいずれかを単独で又はこれら若しくは他の様々な組成の生分解性ポリマーと併せて使用することができる。生分解性ポリマーマトリックスは、好ましくは、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)ポリマー、ポリ(e-カプロラクトン)(PCL)、ポリアクリレート、ポリメタクリラート又は他のコポリマーのような生分解性ポリマーを含む。生分解性ポリマーマトリックス全体に調合薬を分散させてもよい。調合薬は生分解性ポリマーマトリックスから外に拡散して薬を溶出し、且つ/又は、調合薬は、生分解性ポリマーマトリックス内から隔てられ、生分解性ポリマーマトリックスから外に拡散して薬を溶出してもよい。斯かる生分解性ポリマーマトリックスの例が米国特許第8685435号(Nivaggioli等)において説明され、この全内容は参照によって本明細書に取り込まれる。
【0028】
治療薬は、例えばDNAの複製を阻止することによって、且つ/又は紡錘糸形成(spindle fiber formation)を阻止することによって、且つ/又は細胞移動を阻止することによって細胞分裂を防止し又は遅らせる坑増殖剤、又は線維症を最小にする他の薬剤を含むことができる。斯かる治療薬の例は以下の通りである。
【0029】
治療薬の代表例には、Visudyne、Lucentis(rhuFab V2 AMD)、Combretastatin A4 Prodrug、SnET2、H8、VEGF Trap、Cand5、LS11(Taporfin Sodium)、AdPEDF、RetinoStat、Integrin、Panzem、Retaane、Anecortave Acetate、VEGFR-1 mRNA、ARGENT cell-signalling technology、アンジオテンシンII阻害剤(Angiotensin II Inhibitor)、失明用のアキュテイン(Accutane for Blindness)、マクジェン(Macugen)(PEG化アプタマー)、PTAMD、オプトリン(Optrin)、AK-1003、NX 1838、avb3及びavb5のアンタゴニスト(Antagonists)、ネオバスタット(Neovastat)、Eos 200-F及びその他のVEGF阻害剤が含まれる。
【0030】
マイトマイシンC、5-フルオロウラシル、デキサメタゾン、コルチコステロイド(コルチコステロイドトリアムシノロンアセトニドが最も一般的)、修飾毒素(modified toxins)、メトトレキサート、アドリアマイシン、(例えば、その全体を参照することによって本明細書に取り込まれる米国特許第4897255号に開示されるような)放射性核種、プロテインキナーゼ阻害剤(プロテインキナーゼC阻害剤であるスタウロスポリン、並びに、タモキシフェン及び機能的等価物の誘導体、例えば、プラスミン、ヘパリン、レベルを低下させ又はリポプロテインLp(a)若しくはその糖タンパク質アポリポタンパク質を不活性化することができる化合物を含む、ジインドロアルカロイド及びTGF-βの産生又は活性化の刺激剤)、一酸化窒素放出化合物(例えばニトログリセリン)又はその類似体若しくは機能的等価物、パクリタキセル又はその類似体若しくは機能的等価物(例えばタキソテール、又は有効成分がパクリタキセルであるタキソール(登録商標)に基づく薬剤)、特定の酵素の阻害剤(例えば核酵素DNAトポイソメラーゼII及びDANポリメラーゼ、RNAポリエルマーゼ、アデングアニルシクラーゼ)、スーパーオキシドジスムターゼ阻害剤、末端デオキシヌクレオチジルトランスファー、逆転写酵素、細胞増殖を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド、血管新生阻害剤(例えば、エンドスタチン、アンジオスタチン及びスクアラミン)、ラパマイシン又はシロリムス及びその誘導体、例えばエベロリムス又はゾルタロリムス、セリバスタチン、フラボピリドール及びスラミン、並びにこれらの均等物のような他の治療薬を使用することができる。
【0031】
治療薬の他の例には、ペプチド又は模倣阻害剤、例えば、アンタゴニスト、アゴニスト、又は細胞若しくは周皮細胞の増殖を誘発する可能性のある細胞因子の競合的阻害剤若しくは非競合的阻害剤(例えば、サイトカイン(例えばIL-1のようなインターロイキン)、成長因子(例えば、PDGF、TGF-α又はβ、腫瘍壊死因子、平滑筋、及びエンドセリン又はFGFのような内皮由来の成長因子)、ホーミング受容体(例えば血小板又は白血球の)、及び細胞外マトリックス受容体(例えばインテグリン)が含まれる。
【0032】
治療薬の更に他の例には、ヘパリンのサブフラグメント、トリアゾロピリミジン(例えば、PDGFアンタゴニストであるトラピジル)、ロバスタチン、及びプロスタグランジンE1又は12が含まれる。
【0033】
図9図13は、眼の直径方向反対側の透明角膜切開13(図1)を介したab interno(眼の内側からの)アプローチを用いて、眼の一方の側の脈絡膜上腔11に楔30を挿入するのに使用可能な挿入器90を示す。挿入器90はハンドル100(図12)を含み、ハンドル100は、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、ABS、ポリメチルメタクリレート及びこれらの均等物のような医療グレードのポリマー又は金属を含むことができる硬質材料から作られる。金属は、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、金、白金及びこれらの合金を含むことができる。
【0034】
挿入器は細長のガイドロッド91を含み、細長のガイドロッド91は、ハンドル100に結合され、ハンドル100の遠位端部における近位端部96から、近位端部96から軸線A-Aに沿って軸線方向に離間された遠位端部97まで延在する。スロット93がガイドロッド91の両側に形成され、スロットはハンドル100内に延在することができる。挿入器はロッド92を含み、ロッド92は、ハンドル100と、スロット93内で並進するように構成された領域とに結合される。ロッド92及びガイドロッド91は、金属(例えばアルミニウム、ステンレス鋼、チタン)から形成されることができ、以下により詳細に説明されるように、眼における楔30の位置決めを容易にするために平面であり、予め曲げられ、又は湾曲していてもよい。各ロッド92は、開放溝又は開放チャネル33に嵌合し且つ開放溝又は開放チャネル33に対して摺動するのに十分な厚さ及び幅を有する。また、ロッドは、開放溝又は開放チャネル33の幅39くらいの幅を有することができる。
【0035】
親指スライド(thumb slide)94は、ハンドル100内でロッド92に固く取り付けられ、ロッド92と共に並進するように構成される。具体的には、ハンドルは、親指スライド94が並進するスロット95を画定する。ハンドル100、スロット95、93及びロッド92は軸線A-Aに平行に延在する。スロット95内の親指スライド94の並進移動はスロット93内のロッド92の対応する移動を引き起こす。ロッド92は、親指スライド94がスロット95の遠位端部に向かって移動せしめられる、図9及び図11に示される伸長位置と、親指スライド94が反対側のスロット95の近位端部に向かって移動せしめられる、図10に示されるような格納形態との間に位置することができる。以下により詳細に説明されるように、親指スライド94及びロッド92を移動させることによって楔30を脈絡膜上腔11に埋め込むことができる。
【0036】
一つの実施形態では、挿入器90は以下のように機能する。例えば図11に示されるように、挿入器90及び楔30は互いに結合される。延長ロッド93のスロット93は、図11及び図12に示されるようにロッド92が伸長形態においてスロット33、93に架かって楔30を挿入器90に結合するように、楔30の開放溝又は開放スロット33に整列するように構成される。図11を見ると、挿入器90のロッド92は、ロッド92の遠位端部92a(図9)が楔30の当接部34と係合するように、楔30のスロット33a、33bに受容される。楔30が挿入器90に結合されると、楔30の近位端部50は延長ロッド91の遠位端部97と係合し又はそうでなければ延長ロッド91の遠位端部97に当接する。楔30は挿入器90と共に予め組み立てられてキットとしてユーザに提供されることができる。
【0037】
図11に示されるように楔30が挿入器90に結合された状態で、ユーザは、ゴニオスコープ(図示せず)と、前房3を開いた状態に維持するための前房3内の粘性流体(図示せず)とを用いて楔30の遠位端部32を最初に透明角膜切開13に導入する間、挿入器90を保持する。楔30が眼内に導入された後、延長ロッド91の遠位端部97は楔30に続いて眼内に導入される。延長ロッド91の軸線方向の長さは、挿入器90の使用中、ハンドル100が常に眼の外側に留まるのに十分である。延長ロッド91の幅及び高さは、延長ロッド91が、楔30の埋め込み中に楔30の位置決めによってもたらされる眼の通路を拡大しないように、好ましくは楔30の幅37及び高さ36以下である。
【0038】
楔30の遠位端部32は、延長ロッド91及びロッド92の少なくとも一方によって押圧され、角膜切開13から強膜棘20に向かって直径方向に前房3を横切って前進せしめられる。楔30の遠位端部32は、小柱網14及び強膜棘20と毛様体との界面の間を通って、最終的に脈絡膜上腔11(図5ではそのすぐ左側)内に前進せしめられる。前房3を横断するとき、楔30の上面42及び下面43の平面を虹彩の平面と平行に維持することが有用であり得る。ロッド92の端部92aを当接部34に押し付けることによって且つ/又は延長ロッド91の遠位端部97を楔30の近位端部50に押し付けることによって、楔30を脈絡膜上腔11に押し込むことができる。楔30が図5に示される完全に埋め込まれた形態になった時点で、親指スライド94はスロット95内で近位方向に後退せしめられ、このことによってロッド92も溝33a、33bから近位方向に後退する。ロット92が楔30の近位端部50から完全に離れた時点で、図5に示される埋め込まれた形態で眼内に楔30を埋め込んだまま、挿入器の延長ロッド91を眼から後退させることができる。
【0039】
一つの実施形態では、挿入器90は、親指スライド94が押圧されたとき(すなわち図11において下向きに押圧されたとき)に親指スライド94を伸長位置から自動的に後退させるためのバネ又は他の作動機構を含む。加えて、一つの実施形態では、挿入器90は、図11に示された伸長形態において親指スライド94の位置をロックして楔90の不注意による展開又は分離を防止するように構成されたロック機構を含むことができる。ユーザの親指が親指スライド94を作動させることができるように、ユーザの手に挿入器のハンドル100を把持して保持することができる。ロッド92の部分は、スロット33の寸法よりも大きい寸法を有することができる(すなわち、ロッド92は、溝33の外側にある径方向外側部分を有することができる)。例えば、ロッドは、「T」字状の断面を有することができ、スロット33に受容されたロッドの部分に垂直な平面に沿って延びる外側ビーム部分を有することができる。外側ビーム部分は、(スロット33がより大きく屈曲するであろう)より高い円柱強度をロッド92に提供すべく、スロット33の寸法よりも大きい寸法を有することができる。
【0040】
図13は挿入器90及び楔30の別の代替的な実施形態を示し、この実施形態では、楔30”が楔30のように形成されるが当接部34を有さず、端部92a”が、楔30”の遠位端部32”の遠位方向に延在する鋭利な切断面で形成される。延長ロッド91”の遠位端部が眼内の楔30”の近位端部50”を押し付けるとき、端部92”の鋭利な切断面は楔30”の遠位端部32”における傾斜面の前方の組織の切断を促進することができる。
【0041】
本明細書において、眼楔インプラント及び楔インプラントの埋め込み方法のいくつかの実施形態が説明されて示されてきた。インプラント及び方法の特定の実施形態が説明されてきたが、本発明が当該技術分野で許される程度の広い範囲を有し且つ明細書も同様に読まれることが意図されているため、本発明が特定の実施形態に限定されることは意図されていない。このため、特定の楔インプラントが開示されてきたが、他の楔インプラントも同様に使用できることが理解されるだろう。加えて、楔の組成について特定の種類の材料が開示されてきたが、同じ材料特性を有する他の材料を使用できることが理解されるだろう。また、楔を埋め込むために挿入器を使用することが好ましいが、任意の特定の挿入器を用いることなく楔を挿入して埋め込むことができることが認識されるだろう。したがって、本発明の思想及び特許請求の範囲から逸脱することなく、提供された発明に対する更に他の修正が可能であることが当業者によって理解されるだろう。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13