(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】X線照射システム、X線照射方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/02 20060101AFI20240229BHJP
G21K 5/10 20060101ALI20240229BHJP
A61J 3/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
G21K5/02 X
G21K5/10 F
A61J3/00 300B
(21)【出願番号】P 2023135944
(22)【出願日】2023-08-24
【審査請求日】2023-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】澤柳 宏憲
(72)【発明者】
【氏名】石上 伸也
(72)【発明者】
【氏名】松永 惟
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0369335(US,A1)
【文献】特開2023-029327(JP,A)
【文献】米国特許第06083387(US,A)
【文献】特開2018-148938(JP,A)
【文献】特開2002-526169(JP,A)
【文献】米国特許第04400270(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00 - 7/00
A61L 2/00 - 2/28
11/00 - 12/14
A61J 1/00 - 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体にX線を照射するX線照射システムであって、
X線を出射するX線装置と、
平面状の載置部と、前記X線を前記載置部に照射するように前記X線装置を前記載置部の鉛直上部に保持する保持部と、を含む載置台と、
均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路と、を備え、
前記柱状流通路を前記載置部に所定の面積で、所定回数渦巻き状に、隣接する柱状流通路同士の間に隙間を有する様に周回させて渦巻流路を形成し、前記渦巻流路の中心部が前記X線装置のX線照射部の下側に位置するように配置し、
前記渦巻流路の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域に前記X線を照射することにより、前記所定の面積の大きさで、前記柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールすることを特徴とするX線照射システム。
【請求項2】
流体にX線を照射するX線照射システムであって、
X線を出射するX線装置と、
平面状の載置部と、前記X線を前記載置部に照射するように前記X線装置を前記載置部の鉛直上部に保持する保持部と、を含む載置台と、
均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路と、を備え、
前記柱状流通路を前記載置部に所定の面積で、所定回数渦巻き状に、隣接する柱状流通路同士が接触する様に周回させて渦巻流路を形成し、前記渦巻流路の中心部が前記X線装置のX線照射部の下側に位置するように配置し、
前記渦巻流路の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域に前記X線を照射すること
により、前記所定の面積の大きさで、前記柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールするとともに、
前記載置台に配設した透過X線のX線量を計測するセンサにより透過X線量を計測し、基準値と計測値との間に所定量以上の偏差が生じた場合には、前記偏差をゼロとするように前記X線装置の出力を調整することを特徴とするX線照射システム。
【請求項3】
請求項2に記載のX線照射システムであって、
前記渦巻流路の一方の端部で前記流体を吸入する吸入口に接続して前記渦巻流路に前記流体を供給する供給装置と、
前記X線装置と前記供給装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記供給装置から前記渦巻流路に前記流体の供給を開始する前段階において前記X線装置から前記流通域への前記X線の照射を開始し、前記供給装置から前記渦巻流路への前記流体の供給が終了して前記流通域に存在する全ての前記流体が排出されるまで前記流通域に連続的にX線を照射することを特徴とするX線照射システム。
【請求項4】
請求項3に記載のX線照射システムであって、
前記供給装置は、前記流体を蓄積する蓄積装置と、
突出口を前記吸入口に接続して所定の突出圧で前記蓄積装置から前記流体を前記渦巻流路に供給する供給ポンプと、を有し、
前記空洞断面に隙間を作ることなく前記流体を前記渦巻流路に連続的に供給することを特徴とするX線照射システム。
【請求項5】
請求項4に記載のX線照射システムであって、
前記X線照射システムを本運用する前段階のテスト運用において、任意に設定した量の前記流体に本運用で使用する生体物質を混入したサンプル流体の全量を連続的に前記供給装置から前記渦巻流路に供給し、前記サンプル流体の流通方向の先端部が前記始端部を通過してから前記サンプル流体の流通方向の後端部が前記終端部を通過するまでの間に、前記サンプル流体に存在する前記生体物質が一様に不活化するように設定した前記X線装置のX線出射出力と、前記柱状流通路の長さと、前記渦巻流路の周回数と、前記空洞断面の大きさと、前記供給ポンプの前記所定の突出圧と、を有することを特徴とするX線照射システム。
【請求項6】
請求項3に記載のX線照射システムであって、
前記吸入口と異なる前記渦巻流路の他方の端部で前記流体を排出する排出口に接続して、前記渦巻流路を流通して排出される前記流体を回収する回収装置を備えることを特徴とするX線照射システム。
【請求項7】
請求項6に記載のX線照射システムであって、
前記始端部を、前記吸入口と同じ位置に設定するか、又は、前記吸入口に対して前記流体が流通する方向を示す流通方向の後側で、かつ、前記終端部より前記流通方向の前側に設定するとともに、前記終端部を、前記排出口と同じ位置に設定するか、又は、前記排出口より前記流通方向の前側に設定することを特徴とするX線照射システム。
【請求項8】
請求項1に記載のX線照射システムであって、
前記載置台に配設した透過X線のX線量を計測するセンサにより透過X線量を計測し、基準値と計測値との間に所定量以上の偏差が生じた場合には、前記偏差をゼロとするように前記X線装置の出力を調整することを特徴とするX線照射システム。
【請求項9】
流体にX線を照射するX線照射システムであって、
X線を出射するX線装置と、
平面状の載置部と、前記X線を前記載置部に照射するように前記X線装置を前記載置部の鉛直上部に保持する保持部と、を含む載置台と、
均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路と、を備え、
前記柱状流通路を前記載置部に所定の面積を有して面的に載置し、前記所定の面積の大きさで、前記柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールし、
前記載置台に配設した透過X線のX線量を計測するセンサにより透過X線量を計測し、基準値と計測値との間に所定量以上の偏差が生じた場合には、前記偏差をゼロとするように前記X線装置の出力を調整することを特徴とするX線照射システム。
【請求項10】
流体にX線を照射するX線照射方法であって、
(a)均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路を所定回数渦巻き状に周回して形成する渦巻流路を平面上に載置して、前記渦巻流路の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域の全体に前記X線を連続的に照射するX線照射ステップと、
(b)前記流体を蓄積する蓄積装置に接続した供給ポンプの突出口を前記渦巻流路の一方の端部で前記流体を吸入する吸入口に接続して、前記空洞断面に隙間を作ることなく、前記流体を前記渦巻流路に連続的に供給する流体供給ステップと、
(c)前記吸入口と異なる前記渦巻流路の他方の端部で前記流体を排出する排出口に回収装置を接続して、前記渦巻流路を流通して排出される前記流体を回収する流体回収ステップと、
(d)前記流体の最も後ろの部位を示す後端部が前記終端部を通過した後に、前記流通域への前記X線の照射を停止する停止ステップと、
を有し、
前記(a)ステップの前に、(e)任意に設定した量の前記流体に本運用で使用する生体物質を混入したサンプル流体の全量を連続的に供給装置から前記渦巻流路に供給し、前記サンプル流体の流通方向の先端部が前記始端部を通過してから前記サンプル流体の流通方向の後端部が前記終端部を通過するまでの間に、前記サンプル流体に存在する前記生体物質が一様に不活化するように、X線装置のX線出射出力と、前記柱状流通路の長さと、前記渦巻流路の周回数と、前記空洞断面の大きさと、前記供給ポンプの所定の突出圧と、を設定するテスト運用ステップを有することを特徴とするX線照射方法。
【請求項11】
請求項10に記載のX線照射方法であって、
前記(a)ステップの前に、(f)前記始端部を、前記吸入口と同じ位置に設定するか、又は、前記吸入口に対して前記流体が流通する方向を示す流通方向の後側で、かつ、前記終端部より前記流通方向の前側に設定するとともに、前記終端部を、前記排出口と同じ位置に設定するか、又は、前記排出口より前記流通方向の前側に設定する流通域設定ステップを有することを特徴とするX線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体にX線を照射するX線照射システムの構成とその照射方法に係り、特に、流体に対して連続的かつ均一なX線照射が求められるX線照射システムに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線装置の用途のひとつとして、動植物への照射を対象とした実験・研究用途のX線照射装置がある。このようなX線照射装置では、培養細胞や微生物、植物などを対象にX線を照射する。例えば、細胞等の生体物質にX線を照射して生体物質を不活化させる等の目的で利用される。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「ターンテーブル上に複数の血液バッグを載置し、X線を照射することによって、血液バッグ内の血液を均一に放射線照射処理することが可能な血液バッグ用放射線照射装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、細胞等の生体物質にX線を照射して、生体物質を全体的に不活化するためには、生体物質に対して、連続的に均一にX線を照射する必要がある。
【0006】
生体物質に連続的に均一にX線を照射する方法として、液状媒体に生体物質を混入し、その液状媒体を均一な所定の断面積を有する柱状のチューブで構成する柱状流通路内を所定速度で流通してX線を照射することが考えられる。
【0007】
しかしながら、単に柱状流通路を直線状にして液状媒体を流通しても、生体物質を不活化するためには長い距離が必要となり現実的ではない。
【0008】
上記特許文献1に記載されたターンテーブルを用いれば、ターンテーブルを所定回数回転することにより、ターンテーブル上に置いた第1グループの血液を均一に放射線照射処理することができる。
【0009】
しかしながら、続けて第2グループの血液バッグを処理するときには、ターンテーブルの回転を停止し、第1グループの血液バッグをターンテーブル上から排除して、第2グループの血液バッグをターンテーブル上に載置する工程が生じる。これは、大量に放射線処理を行うケースでは、適切な処理ではない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、比較的簡単な構成で、流体に対して連続的かつ均一にX線を照射することができるX線照射システム及びX線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、流体にX線を照射するX線照射システムであって、X線を出射するX線装置と、平面状の載置部と、前記X線を前記載置部に照射するように前記X線装置を前記載置部の鉛直上部に保持する保持部と、を含む載置台と、均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路と、を備え、前記柱状流通路を前記載置部に所定の面積で、所定回数渦巻き状に、隣接する柱状流通路同士の間に隙間を有する様に周回させて渦巻流路を形成し、前記渦巻流路の中心部が前記X線装置のX線照射部の下側に位置するように配置し、前記渦巻流路の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域に前記X線を照射することにより、前記所定の面積の大きさで、前記柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、流体にX線を照射するX線照射方法であって、(a)均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路を所定回数渦巻き状に周回して形成する渦巻流路を平面上に載置して、前記渦巻流路の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域の全体に前記X線を連続的に照射するX線照射ステップと、(b)前記流体を蓄積する蓄積装置に接続した供給ポンプの突出口を前記渦巻流路の一方の端部で前記流体を吸入する吸入口に接続して、前記空洞断面に隙間を作ることなく、前記流体を前記渦巻流路に連続的に供給する流体供給ステップと、(c)前記吸入口と異なる前記渦巻流路の他方の端部で前記流体を排出する排出口に回収装置を接続して、前記渦巻流路を流通して排出される前記流体を回収する流体回収ステップと、(d)前記流体の最も後ろの部位を示す後端部が前記終端部を通過した後に、前記流通域への前記X線の照射を停止する停止ステップと、を有し、前記(a)ステップの前に、(e)任意に設定した量の前記流体に本運用で使用する生体物質を混入したサンプル流体の全量を連続的に供給装置から前記渦巻流路に供給し、前記サンプル流体の流通方向の先端部が前記始端部を通過してから前記サンプル流体の流通方向の後端部が前記終端部を通過するまでの間に、前記サンプル流体に存在する前記生体物質が一様に不活化するように、X線装置のX線出射出力と、前記柱状流通路の長さと、前記渦巻流路の周回数と、前記空洞断面の大きさと、前記供給ポンプの所定の突出圧と、を設定するテスト運用ステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比較的簡単な構成で、流体に対して連続的かつ均一にX線を照射することができるX線照射システム及びX線照射方法を実現することができる。
【0014】
これにより、流体に照射するX線のエネルギーを一様にすることができ、例えば、流体内に混入した細胞等の生体物質を一様に不活化することが可能となる。
【0015】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係るX線照射システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のX線装置1とX線照射範囲を示す図である。
【
図4A】渦巻流路3におけるサンプル流体23の通過状況を示す図である。
【
図4B】渦巻流路3におけるサンプル流体23の通過状況を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るX線照射方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例2に係る渦巻流路3を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0018】
また、本明細書では、対象物にX線を当てる「照射」に対して、X線装置(X線源)からのX線の放出を「出射」と呼ぶ。
【実施例1】
【0019】
図1から
図5を参照して、本発明の実施例1に係るX線照射システム及びX線照射方法について説明する。
【0020】
図1は、本実施例のX線照射システムの概略構成を示す図である。
【0021】
本発明のX線照射システムは、流体に連続的に途切れることなくX線を照射して、流体に付与するX線エネルギーを均一化することを目的とする。
【0022】
図1に示すように、本実施例のX線照射システムは、主要な構成として、X線を出射するX線装置1と、載置台2と、渦巻流路3と、流体を供給する供給装置4と、流体を回収する回収装置5と、制御部6とを備えている。
【0023】
載置台2は、平面状の載置部7と、X線8を載置部7に照射するようにX線装置1を載置部7の鉛直上部に保持する保持部9とを含んで構成されている。
【0024】
渦巻流路3は、均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路を、所定回数渦巻き状に周回して構成されており、載置部7上に載置されている。なお、柱状の形状は、円柱であっても角柱であってもよいが、円柱状のほうが加工しやすい。
【0025】
供給装置4は、流体を蓄積する蓄積装置10と、蓄積装置10から渦巻流路3へ所定の突出圧で流体を供給する供給ポンプ11とを含んで構成されており、流体を蓄積及び供給する。なお、供給ポンプ11の突出圧は、渦巻流路3の空洞断面に隙間を作ることなく流体を供給するように設定する。
【0026】
制御部6は、X線装置1のON/OFF及びX線8の出射量を制御するとともに、供給ポンプ11のON/OFFを制御する。
【0027】
渦巻流路3の一方の端部は、吸入口12として供給ポンプ11に接続され、供給ポンプ11を介して蓄積装置10から渦巻流路3へ流体が供給される。
【0028】
渦巻流路3の他方の端部は、排出口13として回収装置5に接続され、渦巻流路3から回収装置5へ流体が回収される。
【0029】
図2は、
図1のX線装置1とそのX線照射範囲を示す図である。
【0030】
図2に示すように、本実施例のX線装置1では、陽極(アノード)20から出射されたX線8は、遮蔽カバー14の一部に設けられた照射口21の形状と面積によって、X線照射範囲の形状と大きさを設定することが可能である。
【0031】
本システムの構造では、保持部9の高さと照射口21の大きさによってX線照射範囲の大きさを調整可能であるが、保持部9の高さを高くすると照射されるX線8のエネルギーに影響を与えるため、保持部9を一定の位置に固定し、照射口21の形状と面積を調整してX線照射範囲の大きさを設定する。
【0032】
図3は、
図1の渦巻流路3を示す平面図である。X線照射範囲として、始端部と終端部を吸入口12と排出口13の内側に設定した場合の例を示している。
【0033】
図3に示すように、渦巻流路3に始端部と終端部を設定し、始端部から終端部までの流通範囲を流通域に設定する。なお、始端部は、吸入口12と同じ位置に設定するか、又は、吸入口12に対して流体22が流通する方向を示す流通方向の後側(下流側)で、かつ、終端部より流通方向の前側(上流側)に設定するとともに、終端部を、排出口13と同じ位置に設定するか、又は、排出口13より流通方向の前側(上流側)に設定する。
【0034】
すなわち、柱状流通路を、所定範囲において、面的に配置する。面的に配置した柱状流通路を、液状媒体を所定速度で流通させてX線を照射し、面的に配置した柱状流通路を所定量の液状媒体が流通している間に生体物質を不活化する。面的範囲の大きさは、その範囲内で所定量の生体物質の全量が不活化するように設定する。
【0035】
面的形状は、円形、または、長軸と短軸との割合が極端に大きくない楕円形等の渦巻状にする。つまり、均一な所定断面積を有する柱状流通路で渦巻流通路を形成するのである。柱状流通路を面的に配置する場合、のこぎり波形のようにすることも可能であるが、この場合、柱状流通路を折り曲げる加工が容易ではないこと、折り曲げた箇所の耐久性の問題等があり、現実的ではない。従って、本発明では、渦巻流通路にして面的配置するのである。
【0036】
また、渦巻流通路の周回数は次のように設定する。渦巻流通路を所定量の生体物資を混入した液状媒体を流通している間に、生体物質全量が不活化する様に、渦巻流通路の周回数を設定する。生体物質の所定量が大きい場合は、渦巻流通路の周回数を大きくし、生体物質の所定量が小さい場合には渦巻流通路の周回数を小さくするのである。
【0037】
また、渦巻流通路の断面積の大きさを調整することも一方法である。但し、渦巻流通路の断面積を大きくすることで、X線の透過量に大きく影響してはならないので、注意が必要である。渦巻流通路の断面積を大きくすると、X線の減衰が大きくなり、透過量が小さくなってしまう。
【0038】
このように、本発明では、渦巻流通路の周回数、すなわち渦巻流通路を配置する面的大きさを示すX線照射範囲と、渦巻流通路の断面積の大きさによって液状媒体及び混入物に対するX線の照射量をコントロールすることを可能とする。
【0039】
以上の構成により、本実施例のX線照射システムでは、次のように、渦巻流路3内の流通域を流通する流体22にX線8を照射する。
【0040】
供給装置4内の蓄積装置10に、目的とする流体22を必要量だけ蓄積する。
【0041】
次に、制御部6からの指令によりX線装置1をON動作して、所定のエネルギーでX線8を出射し、渦巻流路3の流通域にX線8を照射する。
【0042】
次に、制御部6からの指令により供給装置4内の供給ポンプ11をON動作して、所定の突出圧で流体22を渦巻流路3に供給する。
【0043】
X線装置1から出射されたX線8は、流体22の最も後ろの部位を示す後端部が終端部を通過するまでの間、連続的に途切れることなく流通域に照射される。
【0044】
以上の操作により、流通域を流通する流体22に均一にX線8を照射する。なお、均一というのは、できるだけ全体に同量のX線を照射するものであり、若干の誤差を許容する。流体22が終端部を通過したした後、X線を照射した流体22を回収装置5に回収する。
【0045】
流体全体にX線8を均一に照射するために、流体22の最も前の部位を示す先端部が始端部を通過する前段階で、流通域にX線8の照射を開始する必要がある。本実施例のX線照射システムでは、供給装置4から流体22の供給を開始する前段階でX線8を流通域に照射しているが、これは、コスト的に有利だからである。他の方法としては、吸入口12と始端部との間にセンサを配設し、センサで流体22の供給を検知し、その信号をトリガにX線8の照射を開始しても良いが、センサを配設するコストと、センサ信号を取得してX線装置1をON動作するソフトウェアを制作するコストが必要となり、コスト的に不利になる。
【0046】
図4A及び
図4Bは、渦巻流路3におけるサンプル流体23の通過状況を示す図である。
【0047】
図4A及び
図4Bを用いて、X線8の照射条件の設定について説明する。
【0048】
本実施例のX線照射システムにおいては、本運用する前段階のテスト運用において、任意に設定した量の流体に本運用で使用する細胞等の生体物質を混入したサンプル流体23を準備する。このサンプル流体23の全量を連続的に供給装置4から渦巻流路3に供給する。
【0049】
サンプル流体23の先端部24が始端部を通過してから、サンプル流体23の後端部25が終端部を通過するまでの間に、サンプル流体23に含まれる生体物質が一様に不活化するように、X線装置1のX線出射出力と、渦巻流路3の柱状流通路の長さと、渦巻流路3の周回数と、渦巻流路3の空洞断面の大きさと、供給ポンプ11の突出圧とを設定する。
【0050】
具体的には、次の手順によりそれぞれの照射条件の値を設定する。
【0051】
(1)全量がQであるサンプル流体23を供給装置4内の蓄積装置10に蓄積して準備する。
【0052】
(2)過去の実績から、使用する生体物質に適切と思われる空洞断面の大きさと長さを有する柱状流通路を所定回数渦巻き状に周回して渦巻流路3を準備し、載置部7にセットする。
【0053】
(3)X線装置1のX線出射出力を設定する。
【0054】
(4)この渦巻流路3にサンプル流体23を流通させたときに、空洞断面に隙間が生じることが無いように、供給ポンプ11の突出圧を設定する。
【0055】
(5)制御部6からの指令により、X線装置1をON動作して流通域に向けてX線8の照射を開始する。
【0056】
(6)制御部6からの指令により、供給装置4内の供給ポンプ11をON動作して、供給装置4からサンプル流体23の全量Qを連続的に渦巻流路3に供給する。
【0057】
(7)サンプル流体23の後端部25が渦巻流路3の終端部を通過するまで、連続的に途切れることなく流通域にX線8を照射する。
【0058】
(8)サンプル流体23の全量Qが回収装置5に回収されたら、サンプル流体23に内在する生体物質が一様に不活化したかを確認する。この確認方法は、サンプル流体23に含まれる生体物質の種類に応じて所定の方法を適宜選択する。
【0059】
生体物質が一様に不活化したことを確認できた場合は、上記(1)から(8)の手順で設定した、X線装置1のX線出射出力と、柱状流通路の長さと、渦巻流路3の周回数と、空洞断面の大きさと、供給ポンプ11の突出圧とを本運用において使用する。
【0060】
生体物質が一様に不活化していない場合は、X線装置1のX線出射出力、柱状流通路の長さ、渦巻流路3の周回数、空洞断面の大きさ、及び供給ポンプ11の突出圧の全ての値を変えるか、一部の値を変えて、上記(1)から(8)の手順を繰り返して生体物質が一様に不活化する値を求める。
【0061】
なお、保持部9の高さは、X線照射システムを設置する場所の環境や、X線装置1を遮蔽する遮蔽装置(図示せず)の大きさ等の条件で設定すれば良い。
【0062】
図5は、
図1のX線照射システムを用いた本実施例のX線照射方法を示すフローチャートである。
【0063】
先ず、X線照射ステップS1において、均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路を所定回数渦巻き状に周回して形成する渦巻流路3を平面上(載置部7)に載置して、渦巻流路3の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域の全体にX線8を連続的に照射する。
【0064】
次に、流体供給ステップS2において、流体22を蓄積する蓄積装置10に接続した供給ポンプ11の突出口を渦巻流路3の一方の端部で流体22を吸入する吸入口12に接続して、渦巻流路3の空洞断面に隙間を作ることなく、流体22を渦巻流路3に連続的に供給する。
【0065】
ここまでのステップにより、渦巻流路3内の流通域を流通する流体22に均一にX線8を照射することを可能とする。
【0066】
次に、流体回収ステップS3において、吸入口12と異なる渦巻流路3の他方の端部で流体22を排出する排出口13に回収装置5を接続して、渦巻流路3を流通して排出される流体22を回収する。
【0067】
本ステップにより、X線8を照射した流体22を回収する。
【0068】
最後に、停止(終了)ステップにおいて、流体22の最も後ろの部位を示す後端部が渦巻流路3の終端部を通過した後に、流通域へのX線8の照射を停止する。
【0069】
なお、X線出射出力と、柱状流通路の長さと、渦巻流路3の周回数と、空洞断面の大きさと、供給ポンプ11の所定の突出圧とを、X線照射ステップS1の前段階である流通域設定ステップS0において設定する。
【0070】
具体的には、任意に設定した量の流体22に本運用で使用する細胞等の生体物質を混入したサンプル流体23の全量を連続的に供給装置4から渦巻流路3に供給し、サンプル流体23の流通方向の先端部24が渦巻流路3の始端部を通過してからサンプル流体23の後端部25が渦巻流路3の終端部を通過するまでの間に、サンプル流体23に含まれる生体物質が一様に不活化するように、X線装置1のX線出射出力と、柱状流通路の長さと、渦巻流路3の周回数と、空洞断面の大きさと、供給ポンプ11の突出圧とを設定する。
【0071】
渦巻流路3の始端部と終端部は、流通域設定ステップS0において次のように設定する。始端部を、吸入口12と同じ位置に設定するか、又は、吸入口12に対して流体22が流通する方向を示す流通方向の後側(下流側)で、かつ、終端部より流通方向の前側(上流側)に設定し、終端部を、排出口13と同じ位置に設定するか、又は、排出口13より流通方向の前側(上流側)に設定する。
【0072】
以上説明したように、本実施例のX線照射システムは、X線8を出射するX線装置1と、平面状の載置部7と、X線8を載置部7に照射するようにX線装置1を載置部7の鉛直上部に保持する保持部9とを含む載置台2と、均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路とを備えており、柱状流通路を載置部7に所定の面積を有して面的に載置し、所定の面積の大きさで、柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールする。
【0073】
そして、柱状流通路を所定回数渦巻き状に、隣接する柱状流通路同士の間に隙間(空間)を有する様に、或いは、実施例2(
図6)で後述するように、隣接する柱状流通路同士が接触する様に周回させて渦巻流路3を形成し、渦巻流路3の中心部がX線装置1のX線照射部の下側に位置するように配置し、渦巻流路3の所定の位置に設定した始端部から始めて終端部で終わる区間を示す流通域にX線8を照射する。
【0074】
これにより、流体22に対して連続的かつ均一にX線8を照射することができる。
【0075】
なお、載置台2に、渦巻流路3を透過した透過X線のX線量を計測するセンサを配設して、このセンサにより透過X線量を計測し、基準値と計測値との間に所定量以上の偏差が生じた場合には、偏差をゼロとするようにX線装置1の出力を調整するようにしても良いい。
【実施例2】
【0076】
図6を参照して、本発明の実施例2に係るX線照射システムについて説明する。
【0077】
【0078】
実施例1(
図3)では、渦巻流路3を構成する柱状流通路を、隣り合う柱状流通路同士の間に隙間(空間)を持たせて周回させているのに対して、本実施例(
図6)では、隣り合う柱状流通路同士を隙間なく密着させて周回させている点において実施例1(
図3)と異なっている。その他の構成は、実施例1(
図3)と同様である。
【0079】
本実施例(
図6)のように、隣り合う柱状流通路同士を隙間なくくっつけて周回させることで、同じ面的範囲内において、柱状流通路の周回数を増やすことができ、実施例1(
図3)よりも流体22に対して長い時間X線8を照射することができる。
【0080】
その結果、流体22内に混入した細胞等の生体物質をより確実に不活化することが可能となる。
【0081】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1…X線装置、2…載置台、3…渦巻流路、4…供給装置、5…回収装置、6…制御部、7…載置部、8…X線、9…保持部、10…蓄積装置、11…供給ポンプ、12…吸入口、13…排出口、14…遮蔽カバー、15…X線管、16…フィラメント、17…陰極(カソード)、18…熱電子、19…ターゲット(タングステン)、20…陽極(アノード)、21…照射口、22…流体、23…サンプル流体、24…先端部、25…後端部。
【要約】
【課題】
比較的簡単な構成で、流体に対して連続的かつ均一にX線を照射することができるX線照射システムを提供する。
【解決手段】
流体にX線を照射するX線照射システムであって、X線を出射するX線装置と、平面状の載置部と、前記X線を前記載置部に照射するように前記X線装置を前記載置部の鉛直上部に保持する保持部とを含む載置台と、均一な所定の空洞断面で所定の長さを有する柱状流通路と、を備え、前記柱状流通路を前記載置部に所定の面積を有して面的に載置し、前記所定の面積の大きさで、前記柱状流通路を流通する液状媒体へのX線照射量をコントロールすることを特徴とする。
【選択図】
図1