IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社インターネットイニシアティブの特許一覧

特許7445816移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム
<>
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図1
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図2
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図3
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図4
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図5
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図6
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図7
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図8
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図9
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図10
  • 特許-移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 36/08 20090101AFI20240229BHJP
   H04W 4/42 20180101ALI20240229BHJP
   H04W 48/16 20090101ALI20240229BHJP
【FI】
H04W36/08
H04W4/42
H04W48/16 134
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023189457
(22)【出願日】2023-11-06
【審査請求日】2023-11-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397036309
【氏名又は名称】株式会社インターネットイニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】柿島 純
【審査官】吉村 真治▲郎▼
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-126441(JP,A)
【文献】特開2011-113515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
G06N 20/00
G10L 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザ端末との間で無線通信可能な複数の基地局を含む移動通信システムにおける移動制御装置であって、
前記複数のユーザ端末の各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値ベクトルをもつ観測データを生成する状態観測部と、
混合ベルヌーイ分布のEM(Expectation-Maximization)アルゴリズムによる最尤推定法により推定された最尤パラメータと前記観測データとに基づいて、前記観測データの当該2値ベクトルが複数のクラスタにそれぞれ所属する割合を表す負担率を算出し、前記観測データを、前記複数のクラスタについてそれぞれ算出された当該負担率のうち最も高い負担率に対応するクラスタに分類するクラスタリング部と、
前記複数の基地局のうち、前記観測データが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局を当該ユーザ端末の識別子に割り当てることにより、前記複数のユーザ端末の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータを生成する割り当て部と
を備えることを特徴とする移動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動制御装置であって、
前記状態観測部は、前記各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちの一連の基地局のセルに在圏した時間を表すタイムスタンプの系列を用いて、予め定められた複数の移動方向のうち前記ユーザ端末が移動する移動方向を推定するように構成され、
前記クラスタリング部は、前記複数の移動方向の各移動方向ごとに前記観測データをクラスタに分類するように構成されている、移動制御装置。
【請求項3】
請求項に記載の移動制御装置であって、
前記複数の基地局は、鉄道線の上り線及び下り線に沿って配置されており、
前記複数の移動方向は、前記上り線の方向及び前記下り線の方向を含む、移動制御装置。
【請求項4】
請求項に記載の移動制御装置であって、前記ハンドオーバデータは、前記複数のユーザ端末の識別子と、次のハンドオーバ先である基地局と、ユーザ端末の移動方向との間の対応関係を示すデータである、移動制御装置。
【請求項5】
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の移動制御装置と、
前記移動制御装置から供給されたハンドオーバデータを用いてハンドオーバ制御を行う通信装置と
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項6】
複数のユーザ端末との間で無線通信可能な複数の基地局を含む移動通信システムにおいて実行される移動制御方法であって、
前記移動通信システムにおける移動制御装置が、前記複数のユーザ端末の各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値ベクトルをもつ観測データを生成するステップと、
前記移動制御装置が、混合ベルヌーイ分布のEM(Expectation-Maximization)アルゴリズムによる最尤推定法により推定された最尤パラメータと前記観測データとに基づいて、前記観測データの当該2値ベクトルが複数のクラスタにそれぞれ所属する割合を表す負担率を算出し、前記観測データを、前記複数のクラスタについてそれぞれ算出された当該負担率のうち最も高い負担率に対応するクラスタに分類するステップと、
前記移動制御装置が、前記複数の基地局のうち、前記観測データが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局を当該ユーザ端末の識別子に割り当てることにより、前記複数のユーザ端末の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータを生成するステップと
を備えることを特徴とする移動制御方法。
【請求項7】
請求項に記載の移動制御方法であって、
前記移動制御装置が、前記各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちの一連の基地局のセルに在圏した時間を表すタイムスタンプの系列を用いて、予め定められた複数の移動方向のうち前記各ユーザ端末が移動する移動方向を推定するステップをさらに備え、
前記観測データは、前記複数の移動方向の各移動方向ごとにクラスタに分類される、移動制御方法。
【請求項8】
請求項に記載の移動制御方法であって、前記ハンドオーバデータは、前記複数のユーザ端末の識別子と、次のハンドオーバ先である基地局と、ユーザ端末の移動方向との間の対応関係を示すデータである、移動制御方法。
【請求項9】
請求項に記載の移動制御方法であって、前記移動通信システムにおける通信装置が、前記移動制御装置から供給されたハンドオーバデータを用いてハンドオーバ制御を行うステップをさらに備える移動制御方法。
【請求項10】
単数または複数のプロセッサを備えた少なくとも1つのコンピュータ用のコンピュータプログラムであって、前記単数または複数のプロセッサにより実行されると、請求項からのうちのいずれか1項に記載の移動制御方法を前記単数または複数のプロセッサに実施させるように構成されたコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体とともに移動するユーザ端末のハンドオーバを管理し制御する無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムを利用する移動中のユーザ端末は、当該ユーザ端末の接続先の基地局を切り替えるためにハンドオーバを行うことが知られている。ハンドオーバの手順に関する先行技術は、たとえば、非特許文献1(「3GPP TS 23.502 V17.2.1」)に開示されている。非特許文献1は、3GPP(3rd Generation Partnership Project)と呼ばれる標準化団体が策定した技術仕様書(Technical Specification)である。
【0003】
ユーザ端末が基地局に対して比較的速い相対速度で移動する場合は、基地局間のハンドオーバが頻繁に行われることになる。この場合には、当該切り替え時の通信ロスを抑制するためのシームレスなハンドオーバを実現することが重要となる。たとえば、列車で移動中のユーザ端末のハンドオーバを制御する技術は、特許文献1(特開2018-182711号公報)に開示されている。特許文献1には、列車で移動中の複数のユーザ端末がそれぞれ基地局のセルにハンドオーバ(ハンドイン)した時刻に基づいてユーザ端末のグループ化を行い、グループ単位でユーザ端末の次のハンドオーバの優先度を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-182711号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】3GPP TS 23.502 V17.2.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、新幹線などの高速鉄道に代表される高速輸送システムの普及に伴い、従来よりも高速でシームレスなハンドオーバ制御を実現することが求められている。
【0007】
上記に鑑みて本開示の目的は、移動体とともに移動するユーザ端末のハンドオーバの制御を高速かつ効率的に行うことを可能とする移動制御装置、通信システム、移動制御方法、及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様による移動制御装置は、複数のユーザ端末との間で無線通信可能な複数の基地局を含む移動通信システムにおける移動制御装置であって、前記複数のユーザ端末の各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値系列をもつ観測データを生成する状態観測部と、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布に基づいて、前記観測データを複数のクラスタのうちの1つのクラスタに分類するクラスタリング部と、前記複数の基地局のうち、前記観測データが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局を当該ユーザ端末の識別子に割り当てることにより、前記複数のユーザ端末の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータを生成する割り当て部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本開示の第2の態様による通信システムは、第1の態様による移動制御装置と、当該移動制御装置から供給されたハンドオーバデータを用いてハンドオーバ制御を行う通信装置とを備える。
【0010】
本開示の第3の態様による移動制御方法は、複数のユーザ端末との間で無線通信可能な複数の基地局を含む移動通信システムにおいて実行される移動制御方法であって、前記複数のユーザ端末の各ユーザ端末が前記複数の基地局のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値系列をもつ観測データを生成するステップと、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布に基づいて、前記観測データを複数のクラスタのうちの1つのクラスタに分類するステップと、前記複数の基地局のうち、前記観測データが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局を当該ユーザ端末の識別子に割り当てることにより、前記複数のユーザ端末の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータを生成するステップとを備える。
【0011】
本開示の第4の態様によるコンピュータプログラムは、単数または複数のプロセッサを備えた少なくとも1つの装置用のコンピュータプログラムであって、前記単数または複数のプロセッサにより実行されると、第3の態様による移動制御方法を前記少なくとも1つの装置に実施させるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本開示の第1ないし第4の態様により、移動体とともに移動するユーザ端末のハンドオーバの制御を高速かつ効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示に係る一実施形態の移動(モバイル)通信ネットワークシステムの構成例を概略的に示すブロック図である。
図2】一実施形態の通信システムの構成要素を実現するハードウェア構成例の概略構成図である。
図3】一実施形態の通信システムの全体の処理シーケンスの一形態を示す図である。
図4】一実施形態の移動制御装置によるハンドオーバ生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図5図5A及び図5Bは、ユーザ端末がいずれの基地局(AP)のセルに在圏しているかの状態を表す図である。
図6】加入者プロファイルの一部の例を概略的に示す図である。
図7】基地局群の配置情報を示すルックアップテーブルの例を表す概略図である。
図8】リストテーブル形式のハンドオーバデータの構造の一例を表す概略図である。
図9】ハンドオーバ完了後の通信システムの全体の処理シーケンスの一形態を示す図である。
図10】リストテーブルデータの構造の一例を表す概略図である。
図11】一実施形態に係るパラメータ生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る種々の実施形態について詳細に説明する。なお、図面全体において同一の参照符号を付された構成要素は、同一構成及び同一機能を有するものとする。
【0015】
図1は、本開示に係る一実施形態の移動(モバイル)通信ネットワークシステム1の構成例を概略的に示すブロック図である。図1に示されるように、移動通信ネットワークシステム1は、鉄道輸送システム3の鉄道線60の近傍に配置された基地局群20と、基地局群20に接続された通信システム21とを備えて構成されている。
【0016】
鉄道輸送システム3は、上り線60U及び下り線60Dを有する鉄道線60と、鉄道線60に沿って設けられた多数の駅施設STN,STN,…,STNP-2,STNP-1,STNと、上り線60Uを走行する鉄道車両61Uと、下り線60Dを走行する鉄道車両61Dとを備える(添字Pは、正整数)。鉄道車両61U,61Dの各々には、移動通信ネットワークシステム1のサービスを利用する加入者が搭乗しており、鉄道車両61U,61Dとともに当該加入者のユーザ端末(UE:User Equipment)11,11,…,11,11n+1,…,11が移動したり、いずれかの駅施設にて停止したりする(添字N,nは、正整数)。上り線60Uにおける鉄道車両61U内のUE11~11の移動方向は、下り線60Dにおける鉄道車両61D内のUE11n+1~11の移動方向とは逆方向である。
【0017】
図1の例では、説明の便宜上、上り線60Uにおける1つの鉄道車両61U内にUE11~11が存在し、下り線60Dにおける1つの鉄道車両61D内にUE11n+1~11が存在しているが、これに限定されるものではない。上り線60U及び下り線60Dにおける多数の鉄道車両内にUE11~11がランダムに存在していてもよい。鉄道輸送システム3の鉄道車両は、運行管理システムに従い、原則として規則的に運行され制御されている。
【0018】
UE11~11としては、たとえば、スマートフォン、携帯電話機、タブレット端末、ウェアラブル端末、及びラップトップコンピュータが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
基地局群20は、図1に示されるように、鉄道線60に沿って配置された複数の基地局(AP)20,20,…,20,20k+1,…,20K-2,20K-1,20を備えている(添字K,kは、正整数)。基地局20~20は、無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)のノードである。基地局は、当該基地局の通信セル(以下、単に「セル」という。)内に位置するUE(ユーザ端末)と通信することができる。基地局20~20の各々は、通信システム21と接続されている。ここで、セルとは、移動通信ネットワークシステム1とUEとの間で無線信号の送受信を行うエリア単位をいう。
【0020】
図1の移動通信ネットワークシステム1は、第5世代(5G)通信規格に準拠するように構成されており、通信システム21は、5G移動通信ネットワークシステムのコアネットワークを含む。図1に示されるように通信システム21は、アクセスモビリティ管理機能(AMF:Access and Mobility Management Function)22と、統合データ管理部(UDM:Unified Data Management)23と、統合データリポジトリ部(UDR:Unified Data Repository)24と、セッション管理機能部(SMF:Session Management Function)25と、ユーザプレーン機能部(UPF:User Plane Function)26と、移動制御装置27と、パラメータ生成装置28とを含む。AMF22、UDM23、UDR24、SMF25及びUPF26は、5G通信規格に準拠するコアネットワークを構成している。コアネットワークは、さらに、ポリシー制御機能部(PCF:Policy Control Function)などの複数の機能部を含むが、これら機能部は図1では省略されている。
【0021】
AMF22は、たとえば、モビリティ管理、接続管理、及びSUCI(Subscription Concealed Identifier:暗号化された加入者識別子)を利用したプライマリ認証を行うノードである。UDM23は、UDR24の保管情報を利用して加入者情報(サブスクリプションデータ)などの情報の管理を行うノードである。UDR24は、加入者情報とUEの状態などのコンテキスト情報の保管を行うノードである。
【0022】
UDR24には、加入者のUE11(nは任意の番号)の位置登録情報が保管されている。UE11は、移動通信ネットワークシステム1のサービスを利用するために、たとえば、当該UE11の電源投入時、位置登録エリアの変更時あるいは定期的に位置登録要求を基地局(AP)に向けて発信する。当該位置登録要求は、基地局、AMF22及びUDM23を経由してUDR24によって受信される。UDR24は、当該位置登録要求に応じて位置登録処理を実行し、当該位置登録処理に成功すればUE11の位置登録情報を保管することとなる。また、UDR24は、UE11の位置登録情報に基づいて加入者プロファイルを生成する機能を有している。加入者プロファイルは、加入者の契約情報、ユーザ設定情報、及び在圏情報などのサービス制御に必要な情報である。
【0023】
UPF26は、5G通信規格に準拠したユーザプレーン(U-plane)通信を処理する機能を有し、UE11とインターネットなどのデータネットワーク(DN)2との間のユーザ通信のアンカーポイントとなるノードである。SMF25は、たとえば、PDUセッションの管理や、QoS(Quality of Service)及びポリシーの実施のためのUPF26の制御を行うノードである。ここで、PDUセッションとは、UE11とDN2との間のデータのやり取りを行うための仮想的なデータ通信路をいう。
【0024】
移動制御装置27は、データ格納部31、状態観測部35、クラスタリング部36、及び割り当て部37を備えている。データ格納部31には、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布のパラメータ群を示すパラメータデータ32と、基地局(AP)20~20(基地局群20)の配置情報を表すルックアップテーブル33と、クラスタリング(クラスタ分類)用のルックアープテーブル34とが格納されている。移動制御装置27の構成については、後に詳述する。
【0025】
パラメータ生成装置28は、訓練データセット42が格納されている訓練データ格納部41と、訓練データセット42を用いて混合確率分布に基づく機械学習を実行して当該混合確率分布の最尤パラメータを推定する機械学習部40と、推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布のパラメータ群を示すパラメータデータ44を格納するパラメータ格納部43とを備えている。訓練データセット41は、移動制御装置27用のパラメータデータ32の生成のために使用されるデータセットである。パラメータ生成装置28は、適当なタイミングでパラメータデータ44を移動制御装置27に供給する。移動制御装置27は、当該パラメータデータ44をパラメータデータ32としてデータ格納部31に格納し利用することができる。パラメータ生成装置28の構成については、後に詳述する。
【0026】
上記した通信システム21の構成要素(AMF22、UDM23、UDR24、SMF25、UPF26、移動制御装置27、及びパラメータ生成装置28)の全部または一部は、通信路を介して相互接続された複数台のコンピュータで実現されてもよいし、あるいは、1つ以上のプロセッサを含む1台のコンピュータで実現されてもよい。通信システム21の構成要素の全部または一部の機能は、不揮発性メモリ(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)から読み出されたコンピュータプログラムのコード(命令群)による処理を実行する1つまたは複数の演算装置(Processing Units)を含む1つ以上のプロセッサで実現可能である。たとえば、演算装置としては、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)が使用できる。
【0027】
図2は、通信システム21の構成要素を実現するハードウェア構成例である情報処理装置(コンピュータ)100の概略構成図である。情報処理装置100は、複数個のプロセッサコアpc,…,pcを含むプロセッサ101と、ランダムアクセスメモリ(RAM:Random Access Memory)102と、不揮発性メモリ103と、大容量メモリ104と、入出力インタフェース105と、信号路106とを含んで構成されている。信号路106は、プロセッサ101、RAM102、不揮発性メモリ103、大容量メモリ104及び入出力インタフェース105を相互に接続するためのバスである。RAM102は、プロセッサ101がディジタル信号処理を実行する際に使用されるデータ記憶領域である。不揮発性メモリ103は、プロセッサ101により実行されるコンピュータプログラムのコード(命令群)が格納されているデータ記憶領域を有する。
【0028】
次に、図3図10を参照しつつ、図1の移動制御装置27の機能について以下に詳細に説明する。図3は、通信システム21の全体の処理シーケンスの一形態を示す図であり、図4は、移動制御装置27によるハンドオーバ生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0029】
移動制御装置27は、図1に示したようにデータ格納部31、状態観測部35、クラスタリング部36、及び割り当て部37を備えている。図3を参照すると、鉄道輸送システム3の少なくとも1つの鉄道車両内のUE11~11(UE群)とDN2との間で、移動元基地局(在圏基地局)及びUPF26を介したデータ通信が実行されている。この状況で、UDR24は、鉄道輸送システム3の少なくとも1つの鉄道車両内のUE11~11(UE群)から、加入者識別子をキーとする位置登録要求信号群RS0を受信すると、当該受信された位置登録要求信号群RS0に基づいて加入者プロファイルをリアルタイムに生成する。位置登録要求信号群RS0には、UE11~11の各々がいずれの基地局のセルに在圏しているかを示す情報が含まれている。UDR24は、生成された加入者プロファイルSPDを移動制御装置27に送信する。移動制御装置27は、加入者プロファイルSPDに基づいたハンドオーバデータ生成処理を実行することができる。
【0030】
以下、図4を参照しつつハンドオーバデータ生成処理の手順について説明する。先ず、状態観測部35は、UDR24から受信された加入者プロファイルSPDを取得する(ステップS11)。次に、状態観測部35は、加入者プロファイルSPDに含まれている情報を用いて、UE11~11の各UE11が基地局20~20のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値系列をもつ観測データxを生成する(図4のステップS12)。
【0031】
図5A及び図5Bは、UEがいずれの基地局(AP)のセルに在圏しているかの状態を表す図である。図5A及び図5B中、白抜きの丸印(「○」)は、UEが在圏していないセルの状態を示し、このときの観測データ値として「0」が割り当てられている。一方、黒く塗りつぶされた丸印(「●」)は、UEが在圏しているセルの状態を示し、このときの観測データ値として「1」が割り当てられている。図5Aの例は、n番目のUE11が(k+1)番目の基地局20k+1のセルに在圏している状態を表し、図5Bの例は、(n+1)番目のUE11n+1がk番目の基地局20のセルに在圏している状態を表している。観測データx,xn+1は、「0」または「1」の値をとる2値変数を要素とする2値ベクトルとして表現されている。
【0032】
観測データxの生成(ステップS12)の後は、状態観測部35は、基地局群の配置情報を示すルックアップテーブル33を参照し、当該加入者プロファイルSPDに含まれるタイムスタンプの系列に基づいて、各UE(ユーザ端末)11が移動する移動方向を推定する(ステップS13)。各UE11の移動方向は、下り線60Dの方向または上り線60Uの方向のいずれか一方である。タイムスタンプは、UE11~11の各々が基地局のセルに在圏した時間を表す情報である。この時間を表す情報は、日付と時刻とを含むものであればよい。
【0033】
図6は、加入者プロファイルSPDの一部の例を概略的に示す図である。図6に示されるように、加入者プロファイルSPDは、UE11~11の加入者識別子#1,#2,…,#999,…,#Nの各々について、基地局識別子とタイムスタンプとの組{基地局識別子,ts[基地局識別子]}の系列を含む。図6の例では、説明の便宜上、基地局識別子が数字で表されているが、これに限定されるものではなく、任意の符号で表現可能である。加入者識別子#1~#Nには、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)に相当するSUPI(Subscription Permanent Identifier)が使用可能である。SUPIは、MCC(Mobile Country Code)部分と、MNC(Mobile Network Code)部分と、MSIN(Mobile Subscriber Identification Number)部分とを含む。MSIN部分を暗号化することにより、SUCI(Subscription Concealed Identifier)と呼ばれる暗号化された状態の加入者識別子が生成され、SUCIがネットワークに流される。
【0034】
図7は、基地局群の配置情報を示すルックアップテーブル33の例を表す概略図である。図7の例では、基地局(AP)20~20の基地局識別子に対して一対一対応の配置番号a[1]~a[K]が割り当てられている。配置番号a[k](kは1~Kの範囲内の任意整数)は、基地局の地理的な配置位置を示す固有の値、または、当該基地局の地理的な配置位置に応じて割り当てられた固有の値を意味する。状態観測部35は、加入者プロファイルSPDからUE11のタイムスタンプの系列を取得すると、当該タイムスタンプの系列に対応してUE11が在圏してきたセルをもつ一連の基地局(たとえば、基地局20,20k+1,…)の識別子(基地局識別子)の時系列を決定することができる。状態観測部35は、当該決定された基地局識別子の時系列を用いてルックアップテーブルに基づき、UE11の移動方向を推定することができる(図4のステップS13)。
【0035】
上述したようにパラメータ生成装置28は、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布のパラメータ群を示すパラメータデータ44を移動制御装置27に供給し、移動制御装置27は、当該パラメータデータ44をパラメータデータ32として利用することができる。クラスタリング部36は、データ格納部31からパラメータデータ32を取得し、当該パラメータデータ32で示される混合確率分布のパラメータ群を用いたクラスタリング(クラスタ分類)を実行することができる。
【0036】
具体的には、UE11の移動方向の推定(ステップS13)の後、クラスタリング部36は、各移動方向ごとに、当該パラメータデータ32で示される混合確率分布に基づいて、観測データxをK個のクラスタのうちの1つのクラスタに分類することができる(図4のステップS14)。ここで、Kは、クラスタの総数を示す整数である。説明の便宜上、本実施形態では、K個のクラスタは、K個の基地局(AP)20~20と一対一で対応している。データ格納部31内のルックアープテーブル34には、クラスタと基地局(AP)20~20との間の対応関係が定められている。
【0037】
本実施形態では、観測データxの要素である2値変数の各々は、ベルヌーイ分布に従うと考えることができることから、パラメータデータ32で示されるK個のクラスタを実現するための混合確率分布として混合ベルヌーイ分布が使用できる。機械学習としては、EM(Expectation-Maximization)アルゴリズムによる尤度推定法が使用可能である。
【0038】
混合ベルヌーイ分布のEMアルゴリズムによる最尤推定法によれば、観測データxがk番目のクラスタに所属する割合は、負担率(Responsibility)と呼ばれる値γnkを用いて計算可能である。負担率γnkは、2値ベクトルxがk番目のクラスタに所属する割合を表している。負担率γnkは、次式(1)で表される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、π,μは、EMアルゴリズムによる最尤推定法により推定された最尤パラメータである。負担率γnkについては、後に詳述する。
【0041】
クラスタリング部36は、観測データxを、負担率γn1,…,γnKのうちの最も高い負担率に対応するクラスタに分類することができる(図4のステップS14)。
【0042】
パラメータデータ32は、移動方向ごとのサブパラメータデータを含み、サブパラメータデータごとにK個のクラスタを実現するための混合確率分布を定めるものである。このため、パラメータデータ32は、上り線60Uの方向用の第1のサブパラメータデータと、下り線60Dの方向用の第2のサブパラメータデータとを含む。観測データxが上り線60Uにおける鉄道車両61U内のUE11から得られたデータであるときは、クラスタリング部36は、第1のサブパラメータデータで示される混合確率分布に基づいて、当該観測データxをK個のクラスタのうちの1つのクラスタに分類する。一方、観測データxが下り線60Dにおける鉄道車両61D内のUE11から得られたデータであるときは、クラスタリング部36は、第2のサブパラメータデータで示される混合確率分布に基づいて、当該観測データxをK個のクラスタのうちの1つのクラスタに分類することとなる。
【0043】
データ格納部31内のルックアープテーブル34には、クラスタと次のハンドオーバ(HO)先である基地局(ターゲット基地局)との間の対応関係が予め定められているので、割り当て部37は、各移動方向ごとにルックアープテーブル34の内容を参照して、観測データxが分類された当該クラスタに対応付けされている次のHO先である基地局を決定することができる(図4のステップS15)。ここで、ルックアップテーブル34は、移動方向ごとのサブルックアップテーブルを含む。このため、パラメータデータ32は、上り線60Uの方向用の第1のサブルックアップテーブルと、下り線60Dの方向用の第2のサブルックアップテーブルとを含む。観測データxが上り線60Uにおける鉄道車両61U内のUE11から得られたデータであるときは、割り当て部37は、第1のサブルックアープテーブルを参照して、観測データxが分類された当該クラスタに対応付けされている次のHO先を決定する。一方、観測データxが下り線60Dにおける鉄道車両61D内のUE11から得られたデータであるときは、割り当て部37は、第2のサブルックアープテーブルを参照して、観測データxが分類された当該クラスタに対応付けされている次のHO先を決定することとなる。
【0044】
次のHO先である基地局の決定(図4のステップS15)の後は、割り当て部37は、当該決定された次のHO先である基地局を当該UEの加入者識別子に割り当てることにより、UE11~11の加入者識別子と次のHO先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータHODを生成する(ステップS16)。図8は、リストテーブル形式のハンドオーバデータHODの構造の一例を表す概略図である。図8に示されるようにハンドオーバデータHODは、クラスタを一意に特定するK個のクラスタID(クラスタ識別子)の各クラスタIDについて、加入者識別子と、次のHO先の基地局識別子と、移動方向種別とが対応付けされている。
【0045】
そして、割り当て部37は、生成されたハンドオーバデータHODをSMF25に供給する(図4のステップS17)。SMF25は、ハンドオーバデータHODを用いてハンドオーバ制御を行う機能をもつ通信装置である。その後、移動制御装置27は、処理を続行する場合には(ステップS18のYES)、ステップS11に処理を戻し、次に受信された加入者プロファイルSPDに基づくステップS11~S17の処理を実行する。一方、処理を続行しない場合には(ステップS18のNO)、移動制御装置27は、以上のハンドオーバデータ生成処理を終了する。
【0046】
図3を参照すると、SMF25は、移動制御装置27からハンドオーバデータHODを受信すると、当該ハンドオーバデータHODを保持する。次いでSMF25は、当該ハンドオーバデータHODをUPF26に送信する。UPF26は、当該ハンドオーバデータHODに基づいて、次のハンドオーバ(HO)先である基地局へのデータ通信路(PDUセッション)を事前に設定する。たとえば、1つのクラスタに1000個の加入者識別子が対応付けされているとすれば、UPF26は、クラスタ単位で1000個のデータ通信路を事前に設定することができる。その後、ハンドオーバ要求が発生したときは、事前に設定されたデータ通信路を用いて、クラスタ単位でUE群の基地局間ハンドオーバ(移動元基地局からHO先の基地局へのハンドオーバ)を高速かつ効率的に実行することができる。これにより、高速でシームレスなハンドオーバが実現される。
【0047】
図9は、ハンドオーバ完了後の通信システム21の全体の処理シーケンスの一形態を示す図である。図9に示されるように、UDR24は、UE11~11(UE群)から、HO先の基地局、AMF22及びUDM23を介して、加入者識別子をキーとする位置登録要求信号群RS1を受信すると、当該位置登録要求信号群RS1をSMF25に転送する。SMF25は、以前から保持していたハンドオーバデータHOD(図3)と、転送された位置登録要求信号群RS1とに基づいて、ハンドオーバデータHODの中から、いずれの基地局のセルにも在圏していないUEの加入者識別子とこれに対応するクラスタとを特定する。そして、SMF25は、当該特定された加入者識別子に割り当てられている移動元の基地局を介したデータ通信路の情報をクラスタ単位で削除する。そして、UPF26は、当該特定された加入者識別子と、対応するクラスタIDと、削除対象の基地局識別子との間の対応関係を示すリストテーブルデータLDを生成し、当該リストテーブルデータLDをUPF26に送信する。UPF26は、リストテーブルデータLDに基づいて、移動元の基地局を介したデータ通信路をクラスタ単位で削除することができる。図10は、リストテーブルデータLDの構造の一例を表す概略図である。図10に示されるようにリストテーブルデータLDは、クラスタIDと、加入者識別子と、削除対象の基地局識別子との間の対応関係が定められている。
【0048】
以上に説明したように移動制御装置27では、状態観測部35は、移動体である鉄道車両とともに移動するUE11~11の各UE11が、基地局20~20のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値系列をもつ観測データxを生成する。クラスタリング部36は、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布に基づいて、観測データxを複数のクラスタのうちの1つのクラスタに分類する。割り当て部37は、観測データxが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局をUE11の加入者識別子に割り当てることにより、UE11~11の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータHODを生成することができる。したがって、ハンドオーバ制御を行う通信装置であるSMF25及びUPF26は、ハンドオーバデータHODを用いて、クラスタ単位でUE群の基地局間ハンドオーバを高速かつ効率的に実行することができる。これにより、高速でシームレスなハンドオーバが実現される。
【0049】
次に、図11を参照しつつ、パラメータ生成装置28について以下に詳細に説明する。図11は、パラメータ生成装置28によるパラメータ生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0050】
訓練データセット42は、図4A及び図4Bに例示した観測データに相当する訓練データxの集合からなる。訓練データxには、それぞれ、予め基地局(AP)の識別子または基地局(AP)のセルの識別子が対応付けされている。以下、訓練データセット42に基づくパラメータデータ44の生成方法について説明する。
【0051】
機械学習部40は、訓練データ格納部41から訓練データセット42を読み出し(図11のステップS21)、当該訓練データセット42を用いて、混合確率分布に基づく機械学習を実行して当該混合確率分布の最尤パラメータを推定することができる(図11のステップS22)。その後、機械学習部40は、推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布のパラメータ群をパラメータデータ44としてパラメータ格納部43に格納する(図11のステップS23)。
【0052】
図11のステップS22では、混合ベルヌーイ分布のEMアルゴリズムによる最尤推定法を実施することができる。以下、EMアルゴリズムによる最尤推定法の手順を説明する。
【0053】
N個の2値ベクトルx,x,…,xの集合すなわち2値データセットXが、K個のパラメータベクトルμ,μ,…,μの集合すなわちパラメータデータセットμをもつ混合ベルヌーイ分布に従うものとする。2値データセットXとパラメータデータセットμとは、それぞれ次式のように表される(Tは転置記号である。)。
【0054】
【数2】
【0055】
ここで、n番目の2値ベクトルxとk番目のパラメータベクトルμの各々は、以下のようにD個の要素をもつベクトルとして表される。
【0056】
【数3】
【0057】
2値ベクトルxの要素x(i)(i=1,2,…,D)の各々は、「0」または「1」の値をとる2値変数である。各2値ベクトルxは、次の混合ベルヌーイ分布によって独立に生成されるものとする。
【0058】
【数4】
【0059】
ここで、πは、K個の混合比率π,π,…,πからなるパラメータデータセットであり、次式で表され得る。
【0060】
【数5】
【0061】
このとき、尤度関数P(X|μ,π)は、次式で表される。
【0062】
【数6】
【0063】
また、対数尤度関数lnP(X|μ,π)は、尤度関数P(X|μ,π)から次式で表される。
【0064】
【数7】
【0065】
EMアルゴリズムは、尤度(上記の尤度関数P(X|μ,π)または対数尤度関数lnP(X|μ,π))が極大となるように混合ベルヌーイ分布のパラメータデータセットμ,πの最尤解を求める手法である。以下、EMアルゴリズムによる最尤推定の手順について説明する。
【0066】
先ず、初期化ステップを実行する。すなわち、パラメータデータμ={μ,μ,…,μ},π={π,π,…,π}、及び尤度を初期化する。たとえば、π,π,…,πの要素は、すべて均等となるように1/Kの初期値に設定可能である。また、μ,μ,…,μの要素は、所定の平均値(たとえば1/2)及び分散σをもつ正規分布を用いて、互いに重複しない、互いに独立なランダムな初期値(0~1の範囲内の実数)に設定可能である。
【0067】
次に、E(Expectation)ステップを実行する。すなわち、次式に従って、現在のパラメータセットμ,πを用いて負担率(Responsibility)と呼ばれる値γnkを算出する。負担率γnkは、2値ベクトルxがk番目のクラスタに所属する割合を表している。
【0068】
【数8】
【0069】
次に、M(Maximization)ステップを実行する。すなわち、次式に従って、現在の負担率γnkを用いてパラメータセットμ,πを更新する。
【0070】
【数9】
【0071】
次に、所定の収束条件を満たしているか否かを判定する。具体的には、尤度が所定の数値範囲内に収束している場合、パラメータセットμ,πが収束している場合、あるいは、尤度とパラメータセットμ,πとがともに収束している場合には、収束条件が満たされていると判定すればよい。収束条件が満たされていないと判定されたときは、Eステップに戻って繰り返し計算する。所定回数または一定時間繰り返し計算しても所定の収束条件が満たされないときは、パラメータセットμ,π及びクラスタ数Kのうちのいずれかまたは全部の初期値を変更して、初期化ステップからの処理を実行すればよい。
【0072】
以上、図面を参照して本開示に係る種々の実施形態について述べたが、これら実施形態は例示であり、これら実施形態以外の様々な形態もあり得る。
【0073】
たとえば、上記実施形態では、移動通信ネットワークシステム1は、第5世代(5G)通信規格に準拠したネットワークシステムであったが、これに限定されるものではない。移動制御装置27及びパラメータ生成装置28の機能は、たとえば、第4世代(4G)通信規格または第5世代以後の通信規格に準拠した移動通信ネットワークシステムの構成要素、または移動通信ネットワークシステム以外の固定通信システムや非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)システムの構成要素にも適用可能である。
【0074】
また上記の実施形態では、各UE11が移動しうる移動方向は、鉄道線60の下り線60Dの方向及び上り線60Uの方向の2種類であったが、これに限定されるものではない。3種類以上の移動方向が設定されてもよい。
【0075】
また上記の実施形態では、移動制御装置27及びパラメータ生成装置28の機能は鉄道輸送システム3に適用されていたが、これに限定されるものではない。移動体とともに群をなして移動しうるUE(ユーザ端末)が存在しうる、高速道路などの輸送システムに対しても、移動制御装置27及びパラメータ生成装置28の機能を適用することが可能である。
【0076】
本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、上記実施形態の変更、追加及び改良を適宜行うことができることが理解されるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されるべきであり、さらにその均等物を含むものと理解されるべきである。
【符号の説明】
【0077】
1:移動通信ネットワークシステム、STN~STN:駅施設、2:データネットワーク(DN)、3:鉄道輸送システム、11~11:ユーザ端末(UE)、20:基地局群、20~20:基地局(AP)、21:通信システム、22:アクセスモビリティ管理機能部(AMF)、23:統合データ管理部(UDM)、24:統合データリポジトリ部(UDR)、25:セッション管理機能部(SMF)、26:ユーザプレーン機能部(UPF)、27:移動制御装置、28:パラメータ生成装置、31:データ格納部、32:パラメータデータ、33:ルックアップテーブル、34:クラスタリング(クラスタ分類)用のルックアップテーブル、35:状態観測部、36:クラスタリング部、37:割り当て部、40:機械学習部、41:訓練データ格納部、42:訓練データセット、43:パラメータ格納部、44:パラメータデータ、60:鉄道線、60D:下り線、60U:上り線、61D,61U:鉄道車両、100:情報処理装置、101:プロセッサ、pc:プロセッサコア、102:ランダムアクセスメモリ(RAM)、102:RAM、103:不揮発性メモリ、104:大容量メモリ、105:入出力インタフェース、106:信号路。
【要約】
【課題】移動体とともに移動するユーザ端末のハンドオーバの制御を高速かつ効率的に行うことを可能とする移動制御装置を提供する。
【解決手段】移動制御装置27は、各ユーザ端末11が基地局20~20のうちのいずれの基地局のセルに在圏しているか否かの状態を表す2値系列をもつ観測データを生成する状態観測部35と、機械学習により推定された最尤パラメータをもつ混合確率分布に基づいて、観測データを複数のクラスタのうちの1つのクラスタに分類するクラスタリング部36と、観測データが分類された当該クラスタに対応付けされている次のハンドオーバ先である基地局を当該ユーザ端末11の識別子に割り当てることにより、ユーザ端末11~11の識別子と次のハンドオーバ先である基地局との間の対応関係を示すハンドオーバデータを生成する割り当て部37とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11