(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】救助用ネット装置
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
(21)【出願番号】P 2023199793
(22)【出願日】2023-11-27
【審査請求日】2023-11-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】川端 聡史
(72)【発明者】
【氏名】井上 和徳
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3239266(JP,U)
【文献】特開2003-336241(JP,A)
【文献】特開平3-284498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に敷設し、網目がひし形を呈するように斜め方向に配列した複数のストランドを交差させた繊維製のネット材と、該ネット材の上辺部を堤体の法肩部に固定する複数のアンカーとを具備したため池の救助用ネット装置であって、
前記ネット材のストランドはひし形の網目形状を保持できるだけの剛性を有し、
前記ひし形を呈する網目を斜面の傾斜方向に沿わせて前記ネット材を斜面に敷設し、
被災者が網目の周囲のストランドを掴んだときにひし形を呈する網目の左右方向および縦方向へ向けた拡縮変形を許容するように構成したことを特徴とする、
救助用ネット装置。
【請求項2】
前記ネット材の網目が縦長のひし形を呈することを特徴とする、請求項1に記載の救助用ネット装置。
【請求項3】
前記ネット材はラッセル編みにより編成されていることを特徴とする、請求項1に記載の救助用ネット装置。
【請求項4】
前記ネット材のストランドは斜面の傾斜方向に沿ってジグザク状に屈曲させて配置した複数の芯糸と、前記芯糸に巻装する複数の鞘糸とを組み合わせたハイブリッド構造を呈することを特徴とする、請求項1に記載の救助用ネット装置。
【請求項5】
前記複数の芯糸の剛性が前記複数の鞘糸より高い関係にあることを特徴とする、請求項4に記載の救助用ネット装置。
【請求項6】
前記ストランドを構成する芯糸がモノフィラメント糸であり、芯糸の周囲に巻き付く鞘糸がマルチフィラメントで構成されていることを特徴とする、請求項4に記載の救助用ネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はため池、調整池、水路等(以下総称して「ため池」という)に設置する救助用ネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、ため池での転落事故が後を絶たない。
特にため池の斜面が合成ゴム系、合成樹脂系の遮水シートや、平ブロック護岸で覆われている場合が多く、このような現場では、ため池の斜面が滑り易くなっている。
このような現状に鑑み、被災者が自力で這い上がるための救助用ネット装置が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、繊維製のネット材と、ネット材の裾部に取り付ける複数の錘とを具備した救助用ネット装置が開示されている。
図6を参照して説明すると、従来のネット材50は、経ストランド51と緯ストランド52を交差させて格子状に編成した網材であり、網目53が角目(方形)を呈している。
ネット材50をため池の斜面に敷設するに当たっては、ネット材50の経ストランド51を縦向きに向けて敷設した後に、ネット材50の上辺を法肩部に杭体やアンカーピン等を打ち込んで固定している。
【0004】
また、ネット材の素材としては、金網等の金属素材を用いることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-336241号公報
【文献】特開平3-284498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維製のネット材を用いた従来の救助用ネット装置はつぎの問題点を内包する。
<1>大半の繊維製のネット材50は、柔らかい繊維素材で形成してあることから、ため池の斜面に敷設したときにネット面が斜面の起伏に追従してくっつき易い。
そのため、被災者がネット材を手で掴もうとしても掴み難いだけでなく、靴を履いた状態でつま先を網目に引っ掛けようとしても足が引っ掛かり難い。
<2>
図6の(B),(C)に示すように、繊維製のネット材50を掴もうとする際に、角目形状の網目53が収縮方向へ向けて変形し難い。
そのため、被災者が手でネット材50を掴もうとしたときにネット材50が掴み難いだけでなく、被災者が両手両足を斜面につけた四つん這いの姿勢で這い上がらなければならない。
四つん這いの姿勢は、立ち姿勢と比べて、手に力が入り難く、両足の踏ん張りが効かないために斜面を登り難い。
さらに四つん這いの姿勢は、疲れやすいだけでなく、被災者の視点が低くなって正確な状況判断がし難く、心理的に不安感を増長させる。
<3>被災者がネット材50に掴まって這い上がる際、特定の経ストランド51に被災者の体重が加わり、特定の経ストランド51を通じて被災者を支えることになる。
そのため、ネット材50を構成する経ストランド51による荷重負担が大きい。
<4>繊維製のネット材50は軽量であるため、複数の作業員がネット材50の裾部に取り付けた土のうやチェーン製等からなる錘54をため池に投入しなければならず、ネット材50の敷設作業に多くの時間と労力を要する。
【0007】
金属製のネット材を具備した従来の救助用ネット装置はつぎの問題点を内包する。
<1>金属製のネット材は重量が重たく、運搬性と取扱性が悪い。
<2>金属製のネット材は線材の表面が平滑なため、這い上がる際に手足が滑り易い。
<3>金属製であるため、金網を掴んだときの変形および変位が小さいうえに、四つん這いの姿勢で這い上がらなければならない。
<4>ため池等の水辺にあるため、金属製のネット材が腐食しやすい
【0008】
本発明は以上の問題点を解決できる救助用ネット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明は、斜面に敷設し、斜め方向に配列した複数のストランドを交差させ、網目がひし形を呈する繊維製のネット材と、該ネット材の上辺部を堤体の法肩部に固定する複数のアンカーとを具備したため池の救助用ネット装置であって、前記ネット材のストランドはひし形の網目形状を保持できるだけの剛性を有し、前記ひし形を呈する網目を斜面の傾斜方向に沿わせて前記ネット材を斜面に敷設し、被災者が網目の周囲のストランドを掴んだときにひし形を呈する網目の左右方向および縦方向へ向けた拡縮変形を許容するように構成した。
本発明の他の形態において、前記ネット材の網目が縦長のひし形を呈する。
本発明の他の形態において、前記ネット材はラッセル編みにより編成されている。
本発明の他の形態において、前記ネット材のストランドは斜面の傾斜方向に沿ってジグザク状に屈曲させて配置した複数の芯糸と、前記芯糸に巻装する複数の鞘糸とを組み合わせたハイブリッド構造を呈する。
本発明の他の形態において、前記複数の芯糸の剛性が前記複数の鞘糸より高い関係にある。
本発明の他の形態において、前記ストランドを構成する芯糸がモノフィラメント糸であり、芯糸の周囲に巻き付く鞘糸がマルチフィラメント糸で構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る救助用ネット装置は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>本発明では、ネット材のひし形を呈する網目を縦長の状態で敷設するため、被災者がネット材を掴む際に網目が左右方向及び縦方向に向けた変形を許容する。
そのため、網目が角目状の従来のネット材と比べて、ネット材の左右方向及び縦方向へ向けた伸縮変形性がよくなる。
<2>ネット材が左右方向及び縦方向に向けた伸縮変形を許容するため、手でネット材を掴み易くなるだけでなく、被災者が斜面をよじ登る際にネット材を斜面から離隔させることが可能となる。
特に、ネット材の左右の両辺を斜面に固定してあっても、ネット材を斜面から離隔させることができる。
そのため、被災者はネット材を伝って立姿勢でよじ登ることができる。
<3>被災者の登坂姿勢が立姿勢であれば、四つん這いの姿勢と比べて、手に力が入り易く、両足の踏ん張りも効き、さらに被災者が疲れにくいだけでなく、被災者の視点が高くなるため視界性がよくなって正確な状況判断ができ、被災者の不安感の増長を解消できる。
総合的に、従来の繊維製または金属製のネット材と比べて、被災者によるよじ登りのし易さと、登坂時における安全性が格段に向上する。
<4>ネット材を構成するストランドの内部に芯糸を編み込んでいるから、ストランドの直進性が高くなってネット材の形状安定性が向上する。
そのため、起伏のある斜面にネット材を敷設したときに、ネット材と斜面との間に隙間が形成され易くなる。
ネット材と斜面との間に形成された隙間を通じて、ネット材が手で掴み取り易くなるだけでなく、足のつま先を網目に引っ掛け易くなる。
<5>本発明では、ネット材のひし形を呈する網目を縦長の状態で敷設するため、指で直接掴んだストランドの上位のストランドにも荷重が分散して支持されるので、ネット材の全体による荷重負担を軽減できる。
<6>ネット材を構成するストランドの表面が、モノフィラメントと比べて表面積が大きいマルチフィラメント糸を使ったニードルループ等で編成した鞘糸で覆われているので、ネット材の表面の摩擦抵抗が大きくなっている。
そのため、斜面に敷設してある遮水シート上でのネット材の滑りを効果的に抑制できるだけでなく、被災者がネット材上を歩行する際にも滑りを効果的に抑制できる。
<7>ネット材を構成するストランドの内部に硬くて剛性の大きな芯糸を編み込んでいるため、ネット材の全体に適度の剛性と重量が付与される。
そのため、ネット材の裾部に専用の重錘を設けなくても、ネット材の剛性と自重により展開形状を維持できる。
<8>ネット材が繊維製であるため、金属製のネット材と比べて耐食性と取扱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ため池の斜面に敷設した本発明に係る救助用ネット装置の斜視図
【
図2】ネット材の説明図で、(A)は一部を省略した芯糸のモデル図、(B)は複数の芯糸と鞘糸を組み合わせたネット材のモデル図
【
図3】ネット材のひし形を呈する網目の変形性の説明図で、(A)は変形前における網目のモデル図、(B)は変形時における網目のモデル図
【
図6】網目が角目形を呈する従来のネット材の説明図で、(A)はネット材の平面図、(B)は変形前における網目(角目)のモデル図、(C)は変形時における網目(角目)のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照にしながら本発明に係る救助用ネット装置について詳細に説明する。
【0013】
<1>救助用ネット装置の概要
図1を参照して説明すると、本発明に係る救助用ネット装置10は、ため池40の斜面41に敷設して使用する装置であって、繊維製のネット材20と、ネット材20を斜面41に固定するための複数のアンカー30とを具備する。
【0014】
<2>ネット材(
図2)
ネット材20は、間隔を隔てた複数のストランドSを斜めに交差させて、交差するストランドSの間に縦長でひし形を呈する網目23を形成している。
ネット材20を構成するストランドSは網目23のひし形形状を保持できるだけの剛性を有している。
本例では、ストランドSが剛性と径の異なる複数種類のフィラメントで編成し、ネット材20の骨格を形成する複数の芯糸21と、前記芯糸21に巻装する複数の鞘糸22を組み合わせたハイブリッド構造を呈する。
【0015】
図2を参照してネット材20を構成するストランドSについて説明すると、ネット材20を構成するストランドSは、剛性のあるモノフィラメント製の芯糸21と、芯糸21の周囲に巻き付くように編組したマルチフィラメント製の鞘糸22とからなる。
芯糸21の剛性は鞘糸13より高い関係にある。
ネット材20は、例えばラッセル編みにより編成可能である。
【0016】
<2.1>芯糸
芯糸21に剛性のあるモノフィラメント糸を使用するのは、ネット材20に適度の剛性を与えて、ネット材20を構成するストランドSの直進性をよくするためと、ネット材20の伸縮変形を抑制するためである。
【0017】
芯糸21の素材は使途に応じて適宜選択し、例えばポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの化学合成繊維等を適用できる。
【0018】
芯糸21はネット材20の全長(法肩部から法尻部まで)に亘る長さを有し、ネット材20の縦方向に沿ってジグザク状に屈曲して編み込んである。
芯糸21は、芯糸21の交差部箇所と、芯糸21の屈曲部の突合せ箇所は、マルチフィラメント糸の鞘糸22で結節する。
【0019】
図2に示すように、本例では、芯糸21の屈曲長(変曲点の距離)L
1を網目23の一辺の長さL
2の2倍の寸法関係に設定した形態について示しているが、芯糸21の屈曲長L
1は、網目23の辺長L
2と等しい寸法関係にするか、網目23の一辺の長さL
2の3倍以上の寸法関係に設定してもよい。
ネット材20は、芯糸21の屈曲長L
1の長さに比例してネット材20の全体の力の分散性が高くなる。
【0020】
<2.2>鞘糸
鞘糸22はマルチフィラメント糸よりなり、例えば芯糸21毎に分離独立した鞘糸22を鎖編により巻装する。
鞘糸22にマルチフィラメント糸の糸束を用いたのは、表面積を大きくしてネット材20の表面の摩擦抵抗を大きくして、斜面に敷設してある遮水シート42上でのネット材20の滑りや、被災者がネット材20上を歩行する際の滑りを効果的に抑制するためである。
【0021】
鞘糸22の素材は使途に応じて適宜選択する。
鞘糸22の素材としては、例えばポリエステル糸やポリアミド糸(ナイロン糸)等の化学繊維糸を使用することができる。
【0022】
対比例として例えば、鞘糸22に小径のモノフィラメント糸を用いてストランドSを形成した場合を想定する。
鞘糸22に小径のモノフィラメントを用いると、ストランドS自体の剛性が高くなるものの、ストランドSの摩擦抵抗が小さくなって、ネット材が滑り易くなる。
【0023】
<2.3>網目
図3を参照してネット材20の網目23の形状について説明する。
図3(A)は変形前における網目のモデル図を示し、
図3(B)は変形時における網目23のモデル図を示している。
【0024】
従来の繊維製ネット材の網目は角目であったが、本発明ではネット材20の網目23は縦長のひし形を呈する。
【0025】
縦長のひし形とは、
図3(A)に示すように、全ての辺の長さが等しく、網目23の頂部aと底部cの角度が鋭角(同角)の組み合わせであり、網目23の左右b,dの角度が鈍角(同角)の組み合わせになっている。
芯糸21はネット材20の全長(法肩部から法尻部まで)に亘る長さを有し、ネット材20の縦方向に沿ってジグザク状に屈曲して編み込んである。
前記した網目23の鋭角と鈍角は適宜選択が可能である。
【0026】
網目23の内角(鋭角と鈍角)は、ネット材20を編成する際における芯糸21の屈曲角度を調整することで任意に設定することができる。
【0027】
ネット材20の網目23を縦長のひし形状にしたのは、ネット材20による法肩部へ向けた荷重分散性を高めるためと、被災者が手でネット材20を掴んだ際に複数本のストランドSを同時に掴み易くするためと、ネット材20の左右方向及び縦方向へ向けた伸縮変形を許容して、ネット材20を斜面から離隔させるためである。
【0028】
<3>固定手段
固定手段はネット材20を固定するためのもので、複数のアンカー30で構成する。
またネット材20の上辺の網目23に挿通させた図外の棒鋼をアンカー30で固定してもよい。
【0029】
[ネット材の設置方法]
図1を参照してネット材20の設置方法について説明する。
【0030】
ネット材20をロール状に丸めた状態でため池40の現場へ搬入する。
【0031】
ネット材20の一端をため池40の天端にアンカー30で固定した後、ロール状のネット材20を法尻部へ向けて展開する。
ネット材20を展開する際、ネット材20の自重を利用して斜面41に沿って転がり落とす。
ネット材20を斜面41に敷設する際、ひし形の網目23を斜面41の傾斜方向に沿って敷設する
【0032】
ネット材20を構成するストランドSの内部に硬くて剛性の大きな芯糸21を編み込んであり、ネット材20の全体に適度の剛性と重量が付与されている。
そのため、ネット材20の裾部に専用の重錘を設けなくても、ネット材20の剛性と自重により展開形状を維持できる。
このように少人数の作業員で以て、ネット材20を簡単に展開することができる。
【0033】
[救助用ネット装置の特性]
救助用ネット装置10の特性について説明する。
【0034】
<1>ネット材の形状安定性(斜面起伏への非追従性)
従来の繊維製ネット材は、ネット全体が柔らかい素材を均一の組織で形成してあるため、ネット材が斜面の起伏に追従してくっつき易いといった特性を有していた。
【0035】
これに対して、本発明では、ネット材20を構成するストランドSの内部に硬くて剛性の大きな芯糸21を挿入糸として編み込んでいるから、ネット材20を構成するストランドSの直進性が高くなる。ネット材20の全体としては、強度が向上するだけでなく、自己剛性に起因してネット材20の形状安定性が向上する。
そのため、起伏のある斜面41にネット材20を敷設したときに、ネット材20が斜面41の起伏に追従し難くなって、ネット材20と斜面41との間に隙間が形成され易くなる。
【0036】
ネット材20と斜面41との間に形成される隙間の大きさは、ネット材20を手で掴み取る際や、足のつま先を網目23に引っ掛けようとするうえで重要な事項であり、ネット材20と斜面41との間の隙間が大きくなるほど、ネット材20を手で掴み取り易くなり、足のつま先を網目23に引っ掛け易くなる。
【0037】
<2>ストランドの掴み本数
図6に示したように従来の角目形の繊維製のネット材50は、左右方向および縦方向へ向けた網目53の変形性が小さいため、片手でネット材50を掴むときのストランドの数は、1本の経ストランド51程度である。
そのため、被災者の手の一箇所に荷重が集中的に作用して、手に大きな痛みを感じるため、角目形の繊維製のネット材50を這い上がりがし難い。
【0038】
これに対して、本発明では、
図3(B),(C)に示したように縦長のひし形を呈する網目23の左右方向へ向けた変形性が大きいため、片手で2本以上のストランドSを掴むことが可能である。
そのため、角目形の繊維製ネット材と比べて、被災者43の手にかかる荷重が分散されて手の痛みを緩和できる(
図5)。
【0039】
<3>ネット材の収縮変形性
図6(B),(C)で示したように、従来の角目形の繊維製のネット材50は、ネット素材を指で掴んだときに、左右方向および縦方向に向けて変形しないため、網目53の形状が角目形状のままである。
換言すると、従来の角目形の繊維製のネット材50は、
図6(B),(C)で示したように、網目53が左右方向に向けて大きく変形しない。
角目形状の網目53には変形代が少ないからである。
【0040】
これに対して、本発明では、
図3(B),(C)に示したように、図面中央の網目23Bの周囲の2本のストランドSを掴むと、網目23Bの頂部aと底部cの角度が小さくなると共に、網目23の左右b,dの角度が広くなって、図面中央の網目23Bの形状が左右に向けて収縮変形をすると同時に、図面中央の網目23Bのひし形形状が縦方向に長く延びる。
【0041】
左右に隣り合う別途の網目23A,13Cでは、中央の網目23Bに向けて左右方向へ向けて拡張変形を許容する。別途の網目23A,13Cに隣り合う他の網目でも同様に左右へ向けた拡張変形が連鎖して生じる。
このように、ネット材20は、網目が角目状の従来のネット材と比べて、左右方向及び縦方向へ向けた伸縮変形性がよくなるため、被災者が手でネット材20を掴み易くなる。
【0042】
<4>登坂時における被災者の姿勢
ネット材20の左右方向及び縦方向へ向けた伸縮変形代を有しているため、被災者43がネット材20を掴んで引っ張ると、ネット材20が浮いて斜面41から離隔する。
ネット材20の左右の両辺を斜面41に固定してあっても、斜面41から離れた位置でネット材20を掴むことができる。
そのため、
図4に示したように、被災者43が立ち姿勢の状態で斜面41をよじ登ることができる。
換言すると、あたかも被災者43が斜面41に垂れた救助用ロープ材を使って安全によじ登ることができる。
被災者43の登坂時の姿勢が立ち姿勢であると、四つん這いの姿勢と比べて、手に力が入り易く、両足の踏ん張りも効き、さらに被災者43が疲れにくいだけでなく、被災者43の視点が高くなるため視界性がよくなって正確な状況判断ができ、被災者43の不安感の増長を解消できる、といった多くの利点が得られる。
【0043】
<5>荷重の伝達範囲
角目を呈する従来のネット材は、手で掴んだ1本の経ストランドを通じて被災者の体重を支える構造であり、ネット材を構成する経ストランド一本当たりの荷重負担が大きい。
換言すれば、網目が角目を呈する従来のネット材は、被災者の体重を分散する範囲が非常に狭い。
【0044】
これに対して、
図5に示すように、本発明では、ネット材20を構成する斜めのストランドSがネット全体で連続性を有することから、手で直接掴んだ2本のストランドSのみで荷重を支持するのではなく、手で直接掴んだ2本のストランドSの上位のストランドSにも荷重が分散して支持される。
すなわち、網目23が縦長のひし形を呈するネット材20では、被災者43の体重の分散範囲が広くなる。
被災者43の体重の分散範囲が広くなれば、ネット材20を固定するネット材20の上辺の荷重負担も軽減される。
【0045】
<6>ネット材の滑り難さ
網目が角目を呈する従来の繊維製のネット材は、柔らかい繊維素材でできているため摩擦抵抗が小さい。
そのため、斜面に敷設してある遮水シートやネット材が濡れると、ネット材が滑り易くなって、被災者の歩行を困難にする。
【0046】
これに対し、ネット材20を構成する斜めのストランドSの表面がマルチフィラメント糸の鞘糸22で覆われていて、ネット材20の摩擦抵抗が大きくなっている。
そのため、斜面41に敷設してある塩ビ製の遮水シート42上でのネット材20の滑りを効果的に抑制できるだけでなく、被災者がネット材20上を歩行する際にも滑りを抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
10・・・・救助用ネット装置
20・・・・ネット材
S・・・・・ストランド
21・・・・芯糸
22・・・・鞘糸
23・・・・網目(縦長のひし形)
30・・・・アンカー
40・・・・ため池
41・・・・ため池の斜面
42・・・・遮水シート
43・・・・被災者
【要約】
【課題】ネット材の全体として強度と形状安定性を向上しつつ、被災者が自力で這い上がり易くした救助用ネット装置を提供すること。
【解決手段】網目23がひし形を呈する繊維製のネット材20を含み、ネット材20のストランドSは斜面41の傾斜方向に沿って配置し、ジグザク状に屈曲させた複数の芯糸21と、芯糸21に巻装する複数の鞘糸22とを組み合わせたハイブリッド構造を呈し、ひし形を呈する網目23を斜面41の傾斜方向に沿って配置する。
【選択図】
図2