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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】固形腫瘍治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/53 20060101AFI20240229BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/538 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K31/53
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/4184
A61K31/439
A61P1/08
A61P43/00 111
A61K31/538
A61K31/4178
A61K31/473
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023546948
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2022033458
(87)【国際公開番号】W WO2023038030
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2021146389
(32)【優先日】2021-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】玉井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】永尾 聰
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098853(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147275(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/086909(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0288115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を含む、固形腫瘍治療用医薬組成物であって、
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩が、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストと、ヒト対象に併用投与され、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記消化器症状が、悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩が、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約120mgの投与量で投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記5-HT受容体アンタゴニストと同時にまたは別々に併用投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記5-HT受容体アンタゴニストが、アザセトロン、オンダンセトロン、インジセトロン、ラモセトロン、グラニセトロンおよびパロノセトロンからなる群から選ばれる少なくとも1つまたはその薬剤学的に許容される塩である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1日用量として、約0.1mg~約100mgの投与量の前記5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記5-HT受容体アンタゴニストが、ラモセトロン塩酸塩及びグラニセトロン塩酸塩から選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記5-HT受容体アンタゴニストがグラニセトロン塩酸塩であり、1日1回、グラニセトロンとして約2mgの投与量で併用投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記5-HT受容体アンタゴニストがラモセトロン塩酸塩であり、1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量で投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩が(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形腫瘍治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Wnt/βカテニンシグナル伝達経路は、動物の進化過程で高度に保存されているシグナル伝達経路で、細胞の増殖と分化、体軸や器官形成等にかかわる遺伝子発現を調節する。大腸癌や肝細胞癌をはじめとする様々な癌ではWnt/βカテニンシグナル伝達経路の異常な活性化が知られている。
【0003】
リガンドであるWntが細胞膜表面にある受容体Frizzled等に結合すると、細胞内分子Dvlを介してGSK-3β(Glycogensynthase kinase)の活性が抑制され、その結果、GSK-3β、AXIN、APC及びβカテニン(Catenin-beta-1)からなる複合体からβカテニンが遊離する。遊離して安定化したβカテニンは細胞核に移行して、転写因子TCF/LEF(T-cell factor/lymphoid enhancer factor)と複合体を形成する。この複合体は転写コアクティベータとして、CREP結合タンパク質(CBP)あるいはP300タンパク質を要求する。活性化したTCF/LEFは、MYC、サイクリンD、自身のTCF/LEF等を含む様々な遺伝子発現を誘導する。TCF/LEFは、Wnt/βカテニンシグナル伝達経路の主要な下流因子として、同経路による遺伝子発現調節を担うことが知られている(例えば、特許文献1~2)。
【0004】
Wnt Pathway modulating作用を有する化合物として、下記式(X)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-((6-(3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル)ピリジン-2-イル)メチル)-6-((2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)メチル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)-オクタヒドロ-1H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1-カルボキサミド(特許文献1)、下記式(X)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミド(特許文献2)が知られている。
【化1】
特許文献1に開示されている(6S,9aS)-N-ベンジル-8-((6-(3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル)ピリジン-2-イル)メチル)-6-((2-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)メチル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)-オクタヒドロ-1H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1-カルボキサミドと、特許文献2で開示されている(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドは、IUPAC命名法において、いずれも式(I)を示す。
【化2】
式(X)と式(I)の構造式は化学結合の表記方法は異なるが同じ立体を示している。そのため、本明細書中においては、構造式として式(I)を用い、化学名として(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/098853号
【文献】国際公開第2016/208576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実際に(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミド(以下、化合物A、もしくはE7386とも称す。)またはその薬剤学的に許容される塩をヒト対象に投与したデータはなく、至適用量や投与方法はいまだ不明である。また、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与により、ヒト対象で生じる有害事象及びその制御方法についても不明である。
【0007】
そこで、本発明は、ヒト対象に投与する場合に適した用法用量となる、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬組成物または製剤を提供することを目的とする。また、本発明は、化合物Aを投与に伴う消化器症状の抑制方法も提供する。
【0008】
一般的に、抗がん剤の投与後の反応には個体差があり、副作用として出現する苦痛に対しては、さらに個別の対応が必要となる。抗がん剤を用いた化学療法に伴う悪心及び嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting:CINV)は、患者が苦痛と感じる代表的な副作用であるため、これを適切に制御することは重要である。欧米や日本において、CINVに対するガイドラインが作成され、CINVは改善されてきているが、個体差や患者の背景因子を考慮する必要があるため、CINVの制御は難しい。さらにCINVは、その発現時期によって対応方法が異なるため、発現時期や頻度などの詳細な報告という患者側の協力も不可欠である。より負担なく、より精度よく、抗がん治療に伴う悪心及び嘔吐を抑制する必要性が、抗がん剤を用いた抗がん治療の分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[18]および[P1]~[P14]を提供する。
[1]
式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を含む、固形腫瘍治療用医薬組成物であって、
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、医薬組成物。
【化3】
[2]
前記消化器症状が、悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである、[1]に記載の医薬組成物。
[3]
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩が、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約120mgの投与量で投与される、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]
前記5-HT受容体アンタゴニストと同時にまたは別々に併用投与される、[1]から[3]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[5]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、アザセトロン、オンダンセトロン、インジセトロン、ラモセトロン、グラニセトロンおよびパロノセトロンからなる群から選ばれる少なくとも1つまたはその薬剤学的に許容される塩である、[1]から[4]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[6]
1日用量として、約0.1mg~約100mgの投与量の前記5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される、[1]から[5]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[7]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、ラモセトロン塩酸塩及びグラニセトロン塩酸塩から選ばれる少なくとも1つである、[1]から[6]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[8]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、オンダンセトロン塩酸塩水和物である、[1]から[6]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[9]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、パロノセトロン塩酸塩である、[1]から[6]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[10]
前記5-HT受容体アンタゴニストがグラニセトロン塩酸塩であり、1日1回、グラニセトロンとして約2mgの投与量で併用投与される、[1]から[7]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[11]
前記5-HT受容体アンタゴニストがラモセトロン塩酸塩であり、1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量で投与される、[1]から[7]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[12]
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩が(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドである、[1]から[11]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[13]
固形腫瘍を治療するために使用される、式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩であって、
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状である、(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩。
【化4】
[14]
固形腫瘍治療用医薬組成物を製造するための、式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の使用であって、
(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、使用。
【化5】
[15]
固形腫瘍を治療する方法であって、
式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、固形腫瘍を持つヒト対象に投与すること、および
消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法。
【化6】
[16]
ヒト対象に(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を投与する方法であって、
式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、固形腫瘍を持つヒト対象に投与すること、および
消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法。
【化7】
[17]
消化器症状を抑制しながら固形腫瘍を治療する方法であって、
式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドとして約10mgから約150mgの投与量で、固形腫瘍を持つヒト対象に投与すること、および
消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、
前記消化器症状は、ヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法。
【化8】
[18]
固形腫瘍の治療方法であって、
ヒト対象の消化器症状を抑制するために5-HT受容体アンタゴニストを選択し、
固形腫瘍の治療のために、ヒト対象に(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩を、5-HT受容体アンタゴニストと併用投与し、
消化器症状はヒト対象への(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状であり、
ヒト対象の消化器症状は抑制されている、方法。
[P1]
下記式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドである化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬。
【化9】
[P2]
前記医薬が、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約7.58h・ng/mL~約31.3h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する、前記[P1]に記載の医薬。
[P3]
前記医薬が、ヒト対象への単回の投与後、約71.4h・ng/mL~約3040h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する、前記[P1]または[P2]に記載の医薬。
[P4]
前記医薬が、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約2.79ng/ml~約11.3ng/mlの平均Cmaxを達成する、前記[P1]~[P3]に記載の医薬。
[P5]
前記医薬が、ヒト対象への単回の投与後、約23.5ng/ml~約1100ng/mlの平均Cmaxを達成する、前記[P1]~[P4]のいずれか一項に記載の医薬。
[P6]
前記医薬が、ヒト対象への8日間の反復投与後において、AUC(0-tau),ssが約7700h・ng/mL以下である、前記[P1]~[P5]のいずれか一項に記載の医薬。
[P7]
前記[P1]~[P6]のいずれか一項に記載の医薬の投与に伴う消化器症状を抑制する5-HT受容体アンタゴニストとともに投与されるように用いられる、前記[P1]~[P6]のいずれか一項に記載の医薬。
[P8]
前記消化器症状が、悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである、前記[P7]記載の医薬。
[P9]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、1日用量として、約0.3mg~約8mgの投与量で投与される前記[P7]または[P8]に記載の医薬。
[P10]
固形がんの治療のために用いられる、前記[P1]~[P9]のいずれか一項に記載の医薬。
[P11]
固形がんが消化器癌、消化管内分泌腫瘍、子宮癌、悪性黒色腫、又は肺癌である、前記[P10]に記載の医薬。
[P12]
前記5-HT受容体アンタゴニストが、オンダンセトロン塩酸塩水和物、グラニセトロン塩酸塩、パロノセトロン塩酸塩、ドラセトロン、ラモセトロン塩酸塩、トロピセトロン塩酸塩からなる群から選択される前記[P9]記載の医薬。
[P13]
下記式(I)で表される(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドである化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与することを含む、固形がんの治療方法。
【化10】
[P14]
前記ヒト対象が、前記化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状を発現するとき、前記化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩とともに5-HT受容体アンタゴニストを投与することを含む、前記[P13]記載の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒト対象に投与する場合に適した用法用量となる、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬または製剤を提供することできる。また、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状の抑制方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の体内動態と嘔吐フラグの関係を示すグラフであり、Cycle1Day8(C1D8)の時点における各被験者のAUC(AUC(0-tau),ss)を示す。
図2図2は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の体内動態と嘔吐フラグの関係を示すグラフであり、Cycle1Day8(C1D8)の時点における各被験者のCmax(Cmax,ss)と嘔吐フラグの関係を示す。
図3図3は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の体内動態と嘔吐フラグの関係(追加症例を含めた、用量漸増パートの最終的な嘔吐管理の関係)を示すグラフであり、Cycle1Day8(C1D8)の時点における各被験者のAUCと嘔吐フラグの関係図である。図3中、縦軸はAUC(0-tau),ss(h*ng/mL)を示し、横軸は嘔吐フラグの値を示す。
図4図4は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の体内動態と嘔吐フラグの関係(追加症例を含めた、用量漸増パートの最終的な嘔吐管理の関係)を示すグラフであり、Cycle1Day8(C1D8)の時点における各被験者のCmaxと嘔吐フラグの関係図である。図4中、縦軸はCmax(Cmax,ss)を示し、横軸は嘔吐フラグの値を示す。
図5図5は、追加症例を含めた、用量漸増パートの最終的な嘔吐管理の関係図である。図5中、縦軸は1回あたりの化合物Aとしての投与量(mg)を示し、横軸は嘔吐フラグの値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
【0013】
I.定義
本明細書に記載される本発明がより十分に理解され得るように、以下の定義が本開示のために提供される。
【0014】
用語「ヒト対象」(human subjects)は、癌の臨床徴候若しくは症状を示す任意の投与群を意味するものとする。
【0015】
表現「生物学的に同等な(bioequivalent)」又は「生物学的同等性(bioequivalence)」は、専門用語であり、米国保健福祉省により公開され、「オレンジブック」として一般に知られる治療的同等性評価のある承認医薬品(Approved Drug Products with Therapeutic Equivalence Evaluations)、第34版に従って定義されることが意図される。同じ原薬の異なる製剤の生物学的同等性は、薬物吸収の速度及び程度に関しての同等性を含む。2つの製剤が生物学的に同等であるかを決定するために、試験製剤の吸収の程度及び速度が、標準製剤と比較される。標準的な生物学的同等性試験は、試験薬及び標準薬の単回用量を、何人かの志願者、通常12~24人の健常な成人に投与し、次いで薬物の経時的な血液レベル又は血漿レベルを測定することを含む、広範な試験によってクロスオーバー方式で行われる。製剤の生物学的同等性を確立するための詳細なガイドラインがFDA、ジェネリック医薬品部、生物学的同等性部門により公開されている。
【0016】
PKパラメータ、例えば、Cmax、AUC又はtmaxが-20%/+25%以下の差がある2つの製剤は、「生物学的に同等である」と一般に考えられる。平均生物学的同等性についての別のアプローチは、試験製品及び標準製品についての測定の平均(集団幾何平均)の比について90%の信頼区間の算出を含む。生物学的適合性を確立するために、算出された信頼区間は、製品の平均の比に対して通常80~125%の範囲に含まれなくてはならない。この通常のアプローチに加えて、(1)薬物動態学的データの対数変換、(2)順序効果を評価する方法、及び(3)異常値データを評価する方法を含む他のアプローチが、生物学的同等性の確立に有用であり得る。例えば、上記(1)において、信頼区間は、対数変換されたPKパラメータの平均値の差異について通常80~125%の範囲に含まれなくてはならない。
【0017】
用語「製剤」は、患者及び他の哺乳動物に、原薬(医薬品有効成分(API))を投与するための、又は薬剤の服用(dosing)、投与(administration)及び送達を促進するための手段を意味するものとする。製剤は、例えば、経口、局所、直腸、膣、静脈内、皮下、筋肉内、眼内、鼻内、耳内及び吸入投与を含む投与経路及び適用部位の点から分類される。或いは、製剤は、物理的形態、例えば、固体、半固体又は液体の点から分類される。更に、製剤は、第十八改正日本薬局方(JP18)又は米国薬局方-NF(37)(USP37)一般編<1151>医薬品製剤の論文に記載されるように錠剤、カプセル剤又は注射剤を含むがこれらに限定されないその形態、機能及び特性に基づき細分される。
【0018】
用語「賦形剤」は、製剤若しくは医薬組成物を構成する成分として用いられる典型的な不活性成分を意味するものとする。
【0019】
用語「平均」は幾何平均を指す。薬物動態パラメータ、例えば、「平均Cmax」又は「平均AUC」は、Cmax又はAUCの幾何平均値を指す。
【0020】
本出願で用いた用語の略語及び定義のリストを以下に示す。
AUC:血漿濃度時間曲線下面積
AUC(0-tau):0時間から最終定量可能濃度の時間までの血漿中濃度時間曲線下面積
AUC(0-inf):0時間から無限大時間までの血漿中濃度時間曲線下面積
CL/F:血管外(例えば、経口)投与後の見かけの全身クリアランス
Cmax:最大観察濃度
t1/2:最終排出半減期
tmax:薬物投与後最大(ピーク)濃度に達するまでの時間
Cmax,ss:定常状態における最高血漿中濃度
tmax,ss:定常状態における最高血漿中濃度到達時間
AUC(0-tau),ss:定常状態における投与間隔ごとの血漿中濃度-時間曲線下面積
Rac(AUC):単回投与の後のAUC(0-tau),ssおよびAUC(0-tau)から算出した蓄積係数
Rac(Cmax):単回投与の後のCmax,ssおよびCmaxから算出した蓄積係数
Effective t1/2 (h):有効消失半減期
Vz/F:終末相の見かけの分布容積
%CV: 平方根(exp[対数変換データのSD**2]-1)*100
【0021】
用語「約」は、別段の指示がない限り、用語により修飾される値を上回るか又は下回る範囲が5%以下である値を指す。例えば、用語「約10mg」は、9.5mg~10.5mgの範囲を意味する。
【0022】
範囲は、「約」一つの特定値から「約」別の特定値までとして、記号「~」を用いて表現されうる。各範囲の端点である特定値は、その範囲に含まれる。
本明細書で使用される場合、「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」などの単語の単数形は、文脈が別段明確に指示していなければ、その対応する複数の参照を含む。
【0023】
本開示にかかる医薬、医薬組成物(単に「医薬」ともいう。)または経口製剤に含有される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の量は、遊離形態の化合物Aの量として表される。例えば、用語「化合物Aとして1回あたり約10mgの投与量」は、1回あたりの投与量に、約10mgの遊離形態の化合物Aと同等の化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含むことを意味する。本開示にかかる医薬組成物または経口製剤が、特定の量の化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を含有する投与単位形態、例えば、錠剤及びカプセル剤である場合、1つ以上の投与単位からは、医薬組成物、経口製剤に含有される化合物A又はその薬剤学的に許容される塩の量が分かり得る。例えば、「約10mgの化合物A又はその薬剤学的に許容される塩を含む経口製剤」は、1つの投与単位に含有される化合物A若しくはその薬剤学的に許容される塩の量が約10mgであり得るか、又は2つ以上の投与単位に含有される化合物A若しくはその薬剤学的に許容される塩の量が合計約10mgであり得ることを意味する。
【0024】
また、化合物Aが薬剤学的に許容される塩である場合、「化合物Aの1mg当たりの平均Cmax」又は「化合物Aの1mg当たりの平均AUC」は、遊離形態の化合物Aとして、化合物Aの1mgに対する平均Cmax又は平均AUCを意味する。
【0025】
化合物Aが薬剤学的に許容される塩の形態にあるとき、本開示にかかる医薬組成物または経口製剤に含有される、化合物Aの薬剤学的に許容される塩の投与量は、本出願では化合物Aの遊離形態に関する値として記載される。加えて、化合物Aが薬剤学的に許容される塩の形態であるとき、医薬組成物または経口製剤に含有される化合物Aの薬剤学的に許容される塩の量は、本出願では化合物Aの遊離形態に関する値として記載される。
【0026】
本開示にかかる医薬、および医薬組成物は、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含み、固形腫瘍(固形がんともいう。)の治療用に使用され得る。また、本開示にかかる医薬および医薬組成物は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの量となるようにヒト対象に投与され、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される。本開示にかかる医薬および医薬組成物は、5-HT受容体アンタゴニストと同時に投与してもよく、別々に投与してもよい。例えば、5-HT受容体アンタゴニストは、本開示にかかる医薬および医薬組成物の投与前または後に投与してもよい。ある実施態様では、本開示にかかる医薬組成物は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩、および5-HT受容体アンタゴニストの両方を含む。
【0027】
本開示にかかる「5-HT受容体アンタゴニスト」は、セロトニン(5-HT:5-ヒドロキシトリプタミン)が5-HT受容体に結合することを遮断する任意の化合物または生体分子を意味する。
【0028】
本開示にかかる「消化器症状の抑制」とは、消化器症状を部分的または完全に、緩和、回復、軽減、抑止、その重症度の低減および/またその発生率の低減することを意味する。
【0029】
本開示にかかる「化合物Aの投与に伴う消化器症状」、「医薬の投与に伴う消化器症状」、「経口製剤の投与に伴う消化器症状」または「(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状」とは、消化器症状が、本開示の医薬、経口製剤もしくは化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与後に発現すること、すなわち化合物Aと因果関係のある消化器症状であることを意味する。ここで、消化器症状としては、例えば、悪心、嘔吐、便秘、食欲不振等が挙げられ、特に悪心および嘔吐から選ばれる少なくとも1つであり得る。
【0030】
本開示にかかる「5-HT受容体アンタゴニストとともに投与される」または「5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される」とは、本開示の医薬、医薬組成物または経口製剤と、5-HT受容体アンタゴニストが、同時または別々に投与されてもよいことを意味する。さらに、5-HT受容体アンタゴニストは、ヒト対象が、本開示の医薬、医薬組成物または経口製剤の投与に伴う消化器症状を呈してから、投与されてもよいし、予防的に予めもしくは同時に投与されてもよいことも意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、薬物、化合物、または5-HT受容体アンタゴニストの「有効な量」とは、任意の1つまたは複数の有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。
【0032】
II.実施形態の説明
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬を提供する。
【0033】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約7.58h・ng/mL~約31.3h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する。
【0034】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、約71.4h・ng/mL~約3040h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する。
【0035】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約2.79ng/ml~約11.3ng/mlの平均Cmaxを達成する。
【0036】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、約23.5ng/ml~約1100ng/mlの平均Cmaxを達成する。
【0037】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への8日間の反復投与後において、AUC(0-tau),ssが約7700h・ng/mL以下である。
【0038】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬または医薬組成物を提供し、ここで前記医薬または医薬組成物は、前記医薬もしくは化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状を抑制する5-HT受容体アンタゴニストとともに投与されるように用いられる。ここで、「5-HT受容体アンタゴニストとともに投与される」とは、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬と、5-HT受容体アンタゴニストが、同時または別々に投与されてもよいことを意味し、また、5-HT受容体アンタゴニストが患者の消化器症状を呈してから投与されてもよいし、予防的に予めもしくは同時に投与されてもよいことも意味する。
【0039】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、前記医薬もしくは化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つを抑制する5-HT受容体アンタゴニストとともに投与されるように用いられる。
【0040】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約80mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約2.32ng/ml~約3.45ng/mlまたは約0.663ng/ml~約17.3ng/mlの平均Cmaxを達成する。
【0041】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約80mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、約6.06h・ng/mL~9.48h・ng/mL、または約2.14h・ng/mL~約37.2h・ng/mLの平均AUC(0-12h)達成する。
【0042】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約100mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約3.54ng/ml~約5.54ng/ml、または約2.63ng/ml~約11.8ng/mlの平均Cmaxを達成する。
【0043】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約100mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、約11.3h・ng/mL~約17.8h・ng/mL、または約3.82h・ng/mL~約30.4h・ng/mLの平均AUC(0-12h)達成する。
【0044】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約120mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約3.71ng/ml~約5.80ng/mlまたは約2.02ng/ml~約11.5ng/mlの平均Cmaxを達成する。
【0045】
1つの実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、化合物Aとして1回あたり約120mgの投与量で、ヒト対象に対して、1日あたり2回経口投与されるように用いられる医薬組成物を提供し、ここで前記医薬組成物は、ヒト対象への単回の投与後、約12.7h・ng/mL~19.9h・ng/mL、または約11.7h・ng/mL~約21.2h・ng/mLの平均AUC(0-12h)達成する。
【0046】
さらに別の実施形態において、本発明は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容できる賦形剤を含有する経口製剤の投与に伴う消化器症状を発現する患者に対し、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する経口製剤とともに5-HT受容体アンタゴニストを投与することを含む、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容できる賦形剤を含有する経口製剤の投与に伴う消化器症状の抑制方法を提供する。
【0047】
本明細書において、固形腫瘍治療用医薬組成物、固形腫瘍治療方法が提供される。
【0048】
本開示において、ある実施形態では、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む、固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、医薬組成物を提供する。
【0049】
いくつかの実施形態において、消化器症状は、悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである。
【0050】
いくつかの実施形態において、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、1回あたり化合物Aとして約120mgの投与量で投与される。
【0051】
いくつかの実施形態において、本開示にかかる医薬組成物は、5-HT受容体アンタゴニストと同時にまたは別々に併用投与される。
【0052】
いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストが、アザセトロン、オンダンセトロン、インジセトロン、ラモセトロン、グラニセトロンおよびパロノセトロンからなる群から選ばれる少なくとも1つまたはその薬剤学的に許容される塩である。
【0053】
いくつかの実施形態において、本開示にかかる医薬組成物は、1日用量として、約0.1mg~約16mgの投与量の前記5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される。
【0054】
いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストは、ラモセトロン塩酸塩及びグラニセトロン塩酸塩から選ばれる少なくとも1つである。
【0055】
いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストがグラニセトロン塩酸塩であり、1日1回、グラニセトロンとして約2mgの投与量で併用投与される。
【0056】
いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストがラモセトロン塩酸塩であり、1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量で投与される。
【0057】
いくつかの実施形態において、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が化合物Aである。
【0058】
本開示において、ある実施形態では、固形腫瘍を治療するために使用される、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状である、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を提供する。
【0059】
本開示において、ある実施形態では、固形腫瘍治療用医薬組成物を製造するための、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の使用であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与量が、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストとヒト対象に併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、使用を提供する。
【0060】
本開示において、ある実施形態では、固形腫瘍を治療する方法であって、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に投与すること、および消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法を提供する。
【0061】
本開示において、ある実施形態では、ヒト対象に化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を投与する方法であって、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に投与すること、および消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法を提供する。
【0062】
本開示において、ある実施形態では、消化器症状を抑制しながら固形腫瘍を治療する方法であって、式(I)で表される化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で、ヒト対象に投与すること、および消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含み、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状である、方法を提供する。
【0063】
本開示において、ある実施形態では、固形腫瘍の治療方法であって、ヒト対象の消化器症状を抑制するために5-HT受容体アンタゴニストを選択し、固形腫瘍の治療のために、ヒト対象に化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を、5-HT受容体アンタゴニストと併用投与し、消化器症状はヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する消化器症状であり、ヒト対象の消化器症状が抑制されている、方法を提供する。
【0064】
本明細書において、医薬組成物とは、ヒト対象に投与されるものである。
【0065】
本明細書において、経口製剤とは、経口ルートで投与される製剤である。
【0066】
本発明に係る医薬、医薬組成物または経口製剤は、少なくとも1つの薬剤学的に許容できる賦形剤を化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩と混和することにより製造することができる。本発明に係る医薬組成物は、例えば第十八改正日本薬局方(JP)の製剤総則、米国薬局方-NF(37)(USP37)一般編<1151>医薬品製剤に記載の方法など既知の方法に従って製造することができる。
【0067】
化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩は、Wnt/βカテニンシグナル伝達経路の下流の重要なステップであるβカテニン-CBP間相互作用を阻害するが、βカテニン-P300間相互作用には影響せず、Wnt/βカテニンシグナル経路に依存するTCF/LEF活性をモジュレーションすることが知られている(例えば、国際公開第2015/098853号、国際公開第2016/208576号)。
【0068】
Wntシグナル伝達経路に関連する遺伝子として、APC遺伝子及びCTNNB1遺伝子が知られている。APC遺伝子は、第5染色体長腕上に存在し、家族性大腸腺腫症(FAP)の原因遺伝子の1つと考えられている。CTNNB1遺伝子は、βカテニンをコードする遺伝子である。本実施形態において、医薬組成物または経口製剤は、APCやCTNNB1の遺伝子異常に代表されるWNTシグナルに関与する遺伝子変異を有するヒト対象への投与がより適している可能性が想定される。
【0069】
本明細書において、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩は、国際公開第2015/098853号、国際公開第2016/208576号等、当技術分野で知られる方法により調製され得る。
【0070】
本明細書における「薬剤学的に許容できる塩」とは、一般式(I)で表される化合物と塩を形成し、かつ薬剤学的に許容できるものであれば特に限定されず、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
本開示において、「化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩」の一実施形態としては、例えば、化合物A、すなわち(6S,9aS)-N-ベンジル-8-({6-[3-(4-エチルピペラジン-1-イル)アゼチジン-1-イル]ピリジン-2-イル}メチル)-6-(2-フルオロ-4-ヒドロキシベンジル)-4,7-ジオキソ-2-(プロプ-2-エン-1-イル)ヘキサヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-1(6H)-カルボキサミドである。
【0072】
経口製剤は、通常0.001~99.5質量%、好ましくは0.001~90質量%の化合物Aを含むことができる。
【0073】
本実施形態において、用語「癌」、「腫瘍」、または「がん」とは、典型的には未制御の細胞成長を特徴とする哺乳動物における生理的状態のことである。
【0074】
本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤は、固形腫瘍(固形がんとも称す)の治療に有効であり得る。上記固形腫瘍(固形がん)は通常は嚢胞または液体領域を含有しない組織の異常成長または腫瘤である。固形腫瘍としては、例えば、消化器がん(例えば、食道癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、大腸癌、小腸癌、肝癌)、消化管内分泌腫瘍、子宮癌、悪性黒色腫、肺癌が挙げられる。本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤は、特に消化器がんの治療に有用であり得る。本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤は、特に大腸癌、小腸癌、消化管内分泌腫瘍の治療に有用である。
【0075】
本実施形態において、医薬組成物または経口製剤を投与する「対象」、「ヒト対象」、または「患者」は、それを必要とするヒト対象であり、好ましくは上述の固形腫瘍(固形がん)を罹患している又はその可能性が高いと判断された患者である。
【0076】
本実施形態において、医薬、医薬組成物または経口製剤は1回あたりの投与量として、約10mg~約150mg、約10mg~約120mg、約10mg~約100mg、約10mg~約80mg、約10mg~約45mg、約10mg~約30mg、約10mg~約20mg、約10mg~約15mg、約20mg~約150mg、約20mg~約120mg、約20mg~約100mg、約20mg~約80mg、約20mg~約45mg、約20mg~約30mg、約30mg~約150mg、約30mg~約120mg、約30mg~約100mg、約30mg~約80mg、約30mg~約45mg、約45mg~約150mg、約45mg~約120mg、約45mg~約100mg、約45mg~約80mg、約80mg~約150mg、約80mg~約120mg、約80mg~約100mg、約80mg、約100mg、または約120mgの化合物Aを含み得る。ただし、医薬、医薬組成物または経口製剤の1回あたりの投与量は、化合物Aとして、160mg未満である。1回あたりの投与量として好ましくは、化合物Aとして、約80mg、約100mg、または約120mgであり、さらに好ましくは、化合物Aとして、約100mg、または約120mgである。その他の実施形態において、化合物Aまたはその塩の1回あたりの投与量は、化合物Aとして、約120mgである。1日用量としては、化合物Aとして、約10mg~約300mgであり、好ましくは約20mg~約280mg、約160mg~約240mg、又は約200mg~約240mgであり、さらに好ましくは、約200mg、又は約240mgである。ただし、医薬組成物または経口製剤の1日用量は、化合物Aとして、320mg未満である。医薬、医薬組成物又は経口製剤は、特に好ましくは、1回あたり化合物Aとして、約80mg~約120mg投与量で、1日2回投与するように用いられる。1回あたりの投与量が、化合物Aとして、160mg以上であると、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う(起因する)消化器症状の抑制が困難になる傾向がある。そのため、1回あたりの投与量は化合物Aとして、160mg未満である。また、非臨床試験等の結果から、化合物Aは、血中濃度が上がると心毒性や薬物-薬物間相互作用(DDI)のリスクが出てくる可能性が考えられた。そのため、Cmaxを下げることでよりリスクを軽減すること、現時点で推定される半減期が短いことなどから、1日2回投与されるように用いられることが好ましい。
【0077】
本明細書において、「約」という語は、対応する数値の±10%の誤差を含むことを意味する。例えば、「約10mg」と書かれた場合には、「9mg~11mg」の範囲内の量を包含する。
【0078】
本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤は、ヒト対象へ単回投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均Cmaxが約23.5ng/mL~約1100ng/mLの範囲内に達することが好ましい。1回投与後の化合物Aの平均Cmaxは、約29.8ng/mL~約870ng/mL、約66ng/mL~約1100ng/mL、約223ng/mL~約696ng/mL、又は約279ng/mL~約557ng/mLの範囲内に達することがより好ましい。
【0079】
本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤は、ヒト対象へ単回投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均AUC(0-12h)が約71.4h・ng/mL~約3040h・ng/mLの範囲内に達することが好ましい。単回投与後の化合物Aの平均Cmaxは、約89.2h・ng/mL~約2430h・ng/mL、約105h・ng/mL~約2980h・ng/mL、約214h・ng/mL~約2430h・ng/mL、約606h・ng/mL~約2390h・ng/mL又は約758h・ng/mL~約1920h・ng/mLの範囲内に達することがより好ましい。AUC(0-12h)は、投与してから12時間後までの血漿中濃度の変化を経時的にプロットしたときの曲線下面積である。
【0080】
本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤は、ヒト対象へ8日間反復投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均Cmaxが約50ng/mL~約2000ng/mLの範囲内に達することが好ましい。8日間連続投与後の化合物Aの平均Cmaxは、約12.6ng/mL~約2140ng/mL、約318ng/mL~約2140ng/mL、約43.1ng/mL~約1150ng/mL、又は約589ng/mL~約1080ng/mLの範囲内に達することがより好ましい。
【0081】
本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤は、ヒト対象へ8日間反復投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均AUC(0-tau),ssが約45.4h・ng/mL~約9550h・ng/mLの範囲内に達することが好ましい。8日間反復投与後の化合物Aの平均AUC(0-tau),ssは、約56.7h・ng/mL~約7640h・ng/mL、約56.7h・ng/mL~約7640h・ng/mL、約789h・ng/mL~約7640h・ng/mL、約1680h・ng/mL~約3380h・ng/mL又は約2100h・ng/mL~約3400h・ng/mLの範囲内に達することがより好ましい。AUC(0-tau),ssは、定常状態における投与間隔ごとの血漿中濃度-時間曲線下面積である。
【0082】
また、本実施形態にかかる医薬または経口製剤は、ヒト対象へ8日間反復投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均AUC(0-tau),ssが約9000h・ng/mL以下、約8000h・ng/mL以下、約7700h・ng/mL以下、または約7640h・ng/mL以下であることが好ましい。特定の実施形態において、本実施形態にかかる医薬または経口製剤は、ヒト対象へ8日間反復投与した後に採血を行った場合、化合物Aの平均AUC(0-tau),ssが約7640h・ng/mL以下である。本実施形態に係る医薬組成物または経口製剤の投与に伴う消化器症状を抑制でき、ヒト対象の身体的・精神的負担が軽減される傾向が高まる。
【0083】
本実施形態において、医薬または医薬組成物はヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約7.58h・ng/mL~約31.3h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する1回あたりの投与量で、1日あたり2回経口投与される1日用量であることが好ましい。医薬組成物はヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約7.58h・ng/mL~約19.9h・ng/mLの平均AUC(0-12h)を達成する1回あたりの投与量で、1日あたり2回経口投与される1日用量であることがさらに好ましい。
【0084】
本実施形態において、医薬または医薬組成物はヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約2.79ng/ml~約11.3ng/mlの平均Cmaxを達成する1回あたりの投与量で、1日あたり2回経口投与される1日用量であることが好ましい。医薬組成物はヒト対象への単回の投与後、化合物Aの1mg当たり約2.79ng/ml~約5.54ng/mlの平均Cmaxを達成する1回あたりの投与量で、1日あたり2回経口投与される1日用量であることがさらに好ましい。
【0085】
なお、上記平均Cmax、平均AUC(0-12h)、およびAUC(0-tau),ssの範囲に関し、有効桁数は3桁とし、4桁目を四捨五入した。また、通常、薬物動態パラメータは、おおよそ、用量に比例し、線形性を示す。例えば、上限値は、例えば、実施例で得られた120mgBIDまたは100mgBIDの値から、もしくは、化合物Aとして1mgの値を算出することにより、150mgBIDの値を推定することも可能である。また、同用量の各個人のデータとして得られた最小値もしくは最大値を、それぞれ範囲の下限値もしくは最大値と考え、その値に基づき、範囲を設定することも可能である。
【0086】
本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤は、5-HT受容体アンタゴニストとともに投与されるように用いられていてもよい。上記医薬組成物または経口製剤を投与すると、患者は消化器症状を呈することがある。ここで、本実施形態において好ましい消化器症状は、悪心及び嘔吐である。本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤の投与に伴う消化器症状である悪心又は嘔吐は、5-HT受容体アンタゴニストを投与することにより、抑制することができるが、他の制吐剤では抑制することは困難である。
【0087】
また、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬、医薬組成物または経口製剤を投与された患者が消化器症状を呈した場合、5-HT受容体アンタゴニストを投与できればよい。化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬、医薬組成物または経口製剤は、5-HT受容体アンタゴニストと、同時または別々に投与されてもよい。化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬、医薬組成物または経口製剤は、5-HT受容体アンタゴニストを別個に備えるキットであってもよい。ここで、「5-HT受容体アンタゴニストとともに投与される」または「5-HT受容体アンタゴニストと併用投与される」とは、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬、医薬組成物または経口製剤と、5-HT受容体アンタゴニストが、同時または別々に投与されてもよいことを意味する。すなわち、5-HT受容体アンタゴニストは、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む医薬組成物または経口製剤を投与された患者が、本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤の投与に伴う消化器症状を呈してから投与されてもよいし、上記医薬組成物または経口製剤の投与の前もしくは同時に予防的に投与されてもよい。
【0088】
さらに詳細には、本開示おいて、「同時にまたは別々に投与される」の「同時に投与される」とは、組み合わせて投与される2つの対象が、同時に(at the same time)、または実質的に同時に(at substantially the same time)、同一投与経路にて、投与されること(simultaneously administration)、及び同時に、または実質的に同時に、異なる投与経路にて、投与されること(separately administration)を意味する。ここで、「同時に投与される」には、2つの対象が一つの製剤として投与される場合も含む。また、本開示おいて、「同時にまたは別々に投与される」の「別々に投与される」とは、組み合わせて投与される2つの対象が、同一投与経路または異なる投与経路にて、異なる時(at the different times)に投与されること(sequentially administration)を意味する。より具体的には、併用投与される2つの対象のうち、一方の投与が完了した後、もう一方の投与を開始する投与方法を意味する。「別々に投与される」には、2つの対象の投与計画において、投与頻度もしくは投与期間が異なる場合も含む。
【0089】
5-HT受容体アンタゴニストは、セロトニン(5-HT:5-ヒドロキシトリプタミン)をリガンドとする5-HT受容体に対して拮抗作用を示す化合物である。本実施形態にかかる医薬、医薬組成物または経口製剤と併用される5-HT受容体アンタゴニストとしては、例えば、5-HT受容体拮抗型制吐剤が挙げられる。5-HT受容体拮抗型制吐剤としては、例えば、アザセトロン塩酸塩、オンダンセトロン塩酸塩水和物、グラニセトロン塩酸塩、パロノセトロン塩酸塩、ドラセトロン、ラモセトロン塩酸塩、トロピセトロン塩酸塩が挙げられる。本実施形態にかかる医薬組成物または経口製剤と併用される5-HT受容体アンタゴニストとしては、例えば、アザセトロン、オンダンセトロン、インジセトロン、ラモセトロン、グラニセトロンおよびパロノセトロンまたはその薬剤学的に許容される塩などが挙げられる。別の実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストは、オンダンセトロン塩酸塩水和物、ラモセトロン塩酸塩、グラニセトロン塩酸塩、またはパロノセトロン塩酸塩であることが好ましく、ラモセトロン塩酸塩またはグラニセトロン塩酸塩であることがさらに好ましい。いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストは、例えばオンダンセトロン塩酸塩水和物である。別のいくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストは、例えばラモセトロン塩酸塩またはグラニセトロン塩酸塩 である。その他のいくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストは、例えばパロノセトロン塩酸塩である。
【0090】
オンダンセトロン塩酸塩二水和物(CAS登録番号:103639-04-9)は一般名であり、化学名としては(±)-2,3-ジヒドロ-9-メチル-3-[(2-メチルイミダゾール-1-イル)メチル]カルバゾール-4(1H)-オン塩酸塩二水和物((±)-2,3-dihydro-9-methyl-3-[(2-methylimidazol-1-yl)methyl]carbazol-4(1H)-one monohydrochloride dihydrate)である化合物であり、以下の構造式の化合物である。
【化11】
【0091】
グラニセトロン塩酸塩(CAS登録番号:107007-99-8)は一般名であり、化学名としては1-メチル-N-(エンド-9-メチル-9-アザビシクロ[3.3.1]ノン-3-イル)インダゾール-3-カルボキサミド塩酸塩(1-Methyl-N-(endo-9-methyl-9-azabicyclo[3.3.1]non-3-yl)-1H-indazole-3-carboxamide hydrochloride)である化合物であり、以下の構造式の化合物である。
【化12】
【0092】
ラモセトロン塩酸塩(CAS登録番号:132907-72-3)は、一般名であり、化学名としては、(-)-(R)-5-[(1-メチル-3-1H-インドール-3-イル)カルボニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ベンズイミダゾール塩酸塩((-)-(R)-5-[(1-Methyl-1H-indol-3-yl)carbonyl]-4,5,6,7-tetrahydro-1H-benzimidazole monohydrochloride)である化合物であり、以下の構造式の化合物である。
【化13】
【0093】
パロノセトロン塩酸塩(CAS登録番号:135729-62-3)は一般名であり、化学名としては(3aS)-2-[(3S)-キヌクリジン-3-イル]-2,3,3a,4,5,6-ヘキサヒドロ-1H-ベンゾ[de]イソキノリン-1-オン塩酸塩((3aS)-2-[(3S)-Quinuclidin-3-yl]-2,3,3a,4,5,6-hexahydro-1H-benzo[de]isoquinolin-1-one monohydrochloride)である化合物であり、以下の構造式の化合物である。
【化14】
【0094】
本実施形態は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容できる賦形剤を含有する医薬、医薬組成物または経口製剤を、ヒト対象に投与することを含む、固形腫瘍(固形がん)の治療方法という側面も有する。
【0095】
本発明の他の実施形態は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬、医薬組成物または経口製剤を投与に伴う消化器症状を発現する患者に、5-HT受容体アンタゴニストを投与することを含む、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状の抑制方法である。
【0096】
本開示の他の実施形態は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量で固形腫瘍を持つヒト対象に投与すること、および消化器症状を抑制するのに有効な量の5-HT受容体アンタゴニストを前記ヒト対象に併用投与することを含む、固形腫瘍を治療する方法である。消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に起因する。
【0097】
化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含有する医薬、医薬組成物または経口製剤の投与に伴い、ヒト対象が悪心又は嘔吐などの消化器症状を呈した場合には、5-HT受容体アンタゴニストを投与することにより、消化器症状を抑制することができる。ここで、「抑制」とは、消化器症状を部分的または完全に、緩和、回復、軽減、抑止、その重症度の低減および/またその発生率の低減することを意味する。
【0098】
5-HT受容体アンタゴニストは、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。5-HT受容体アンタゴニストの剤形としては、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、カプセル剤及び内服液剤等が挙げられる。非経口投与する場合の5-HT受容体アンタゴニストの剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、懸濁剤、パップ剤、ローション剤、エアゾール剤及びプラスター剤等が挙げられ、一実施形態においては、注射剤又は点滴剤である。本開示に係る5-HT受容体アンタゴニストは、例えば、第十八改正日本薬局方(JP)、米国薬局方(USP)又は欧州薬局方(EP)に記載された方法で製剤化することができる。
【0099】
5-HT受容体アンタゴニストの投与量は、1日用量として、約0.1mg~約100mgである。いくつかの実施形態において、5-HT受容体アンタゴニストの投与量は、1日用量として、約0.1mg~約16mgである。いくつかの実施形態では約0.3mg~約8mgの投与量である。投与量は、対象の年齢、症状の程度により異なる。上市されている医療用医薬品の場合は、その添付文書に記載の用法・用量に従って投与されることで、より確実に、本開示の医薬組成物または経口製剤の投与に伴う消化器症状を抑制できる。
【0100】
5-HT受容体アンタゴニストとして、オンダンセトロン塩酸塩水和物を投与する場合、例えば、オンダンセトロンとして、1回約4mgを1日1回経口投与、もしくは静脈内投与される。別の実施形態として、オンダンセトロン塩酸塩水和物を投与する場合、例えば、オンダンセトロンとして、約24mgの投与量で1日1回、または約8mgを1日2回経口投与される。その他の実施形態として、例えば、約8mg、または約0.15mg/kgを静脈内投与される。なお、投与量は対象の年齢、症状により適宜増減される。また、効果不十分な場合には、同用量を追加投与することができる。
【0101】
5-HT受容体アンタゴニストとして、グラニセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば、グラニセトロンとして、約40μg/kgを1日1回静注又は点滴静注する。別の実施形態として、グラニセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば
グラニセトロンとして、約1mgもしくは約0.01mg/kgを静脈内投与することができる。なお、年齢、症状により適宜増減するが、症状が改善されない場合には、約40μg/kgを1回追加投与できる。5-HT受容体アンタゴニストとして、グラニセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば、グラニセトロンとして1日1回、約2mgの投与量、もしくは1日2回、1回あたり約1mgの投与量で経口投与してもよい。その他の実施形態として、グラニセトロン塩酸塩を投与する場合、例えばグラニセトロンとして約34.3mgを含む約52cmのパッチ(経皮吸収システム)にて投与することができる。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。
【0102】
5-HT受容体アンタゴニストとして、ラモセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば、ラモセトロン塩酸塩として約0.3mgを1日1回静脈内投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。また、効果不十分な場合には、同用量を追加投与できる。ただし、1日量として約0.6mgを超えないこととする。5-HT受容体アンタゴニストとして、ラモセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量で経口投与してもよい。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。
【0103】
5-HT受容体アンタゴニストとして、パロノセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば、パロノセトロンとして約0.75mgを1日1回、静脈内投与してもよく、約0.5mgを経口投与してもよい。別の実施形態において、パロノセトロン塩酸塩を投与する場合、例えば、パロノセトロン塩酸塩として、約0.25mgを静脈内投与または経口投与してもよい。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。
【0104】
5-HT受容体アンタゴニストとして、ドラセトロンメシル酸塩を投与する場合、例えば、約1.8mg/kgもしくは約100mgを1日1回経口投与してもよい。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。
【0105】
5-HT受容体アンタゴニストとして、トロピセトロン塩酸塩を投与する場合、例えばトロピセトロンとして約5mgの投与量で経口投与もしくは静脈内投与してもよい。投与量は、年齢、症状により適宜増減してもよい。
【0106】
本実施形態は、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩は、1日2回、1回あたり化合物Aとして約10mgから約150mgの投与量でヒト対象に、消化器症状を抑制する量の5-HT受容体アンタゴニストと併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状である医薬組成物を提供する。
【0107】
ある特定の実施形態において、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩は、1日2回、1回あたり、化合物Aとして約120mgの投与量でヒト対象に、消化器症状を抑制する量の5-HT3受容体アンタゴニストと併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである医薬組成物を提供する。ここで、「消化器症状を抑制する量」としては、例えば、1日用量として、約0.1mg~約100mgの投与量が挙げられる。また、ここでの「5-HT3受容体アンタゴニスト」としては、例えば、オンダンセトロン塩酸塩水和物、ラモセトロン塩酸塩及びグラニセトロン塩酸塩から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
【0108】
ある特定の実施形態において、「消化器症状を抑制する量の5-HT受容体アンタゴニスト」としては、例えば、(a)1日1回、オンダンセトロンとして約4mgの投与量のオンダンセトロン塩酸塩水和物;(b)1日1回、グラニセトロンとして約2mgの投与量のグラニセトロン塩酸塩;(c)1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量のラモセトロン塩酸塩等が挙げられる。
【0109】
別の実施形態として、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、1日2回、1回あたり、化合物Aとして約120mgの投与量で、1日1回、オンダンセトロンとして約4mgの投与量のオンダンセトロン塩酸塩水和物と併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである腫瘍治療用医薬組成物を提供する。
【0110】
別の実施形態として、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、1日2回、1回あたり、化合物Aとして約120mgの投与量でヒト対象に、1日1回、グラニセトロンとして約2mgの投与量のグラニセトロン塩酸塩と併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである医薬組成物を提供する。
【0111】
別の実施形態として、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩を含む固形腫瘍治療用医薬組成物であって、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩が、1日2回、1回あたり、化合物Aとして約120mgの投与量でヒト対象に、1日1回、ラモセトロンとして約0.1mgの投与量のラモセトロン塩酸塩と組み合わせて併用投与され、前記消化器症状は、ヒト対象への化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う悪心及び嘔吐から選ばれる少なくとも1つである医薬組成物を提供する。
【実施例
【0112】
本試験は、化合物Aに関する非盲検第1相臨床試験として実施された。本試験は化合物Aの安全性及び忍容性を評価する用量漸増パート及び化合物Aの安全性、忍容性及び予備的な有効性を評価する拡張パートで構成された。実施例の各用量は、遊離形態の化合物Aの用量として表される。
【0113】
1.治験薬
治験薬として、化合物Aを含有する錠剤を使用した。化合物Aは国際公開第2016/208576号の方法に従って合成した。
【0114】
2.投与対象
以下の選択基準(1)~(15)を全て満たし、かつ、除外基準(1)~(17)のいずれにも該当しない被験者を、化合物Aの投与対象とした。
〔選択基準〕
(1)組織学的又は細胞学的に固形がんと診断された以下に該当する患者。
・用量漸増パート:標準治療のない又は他に有効な治療のない進行、切除不能又は再発の大腸癌患者を含む固形がん患者
・拡張パート:3次治療若しくはそれ以降の進行,切除不能又は再発の大腸癌患者,若しくは治験依頼者と議論・合意の上,少なくとも全身性の抗がん剤治療を1レジメン施行後の小腸癌及び消化管神経内分泌腫瘍のような消化器癌患者
(2)用量漸増パート:大腸癌患者は生検の実施と保存腫瘍検体の提出(保存されている場合)を必須とする
拡張パート:生検可能な病変を有する患者は生検の実施を必須とする。生検不能な病変を有する患者は治験依頼者と相談・合意の上,生検を実施せずに登録可能とする。保存腫瘍検体の提出(保存されている場合)は必須とする
(3)化合物Aの投与後12週間以上の生存が見込まれる
(4)ECOG-PS 0~1である
(5)・用量漸増パート:同意取得時点で20歳以上の日本人
・拡張パート:同意取得時点で20歳以上の患者
(6)がんに対する前治療による有害事象(脱毛、Grade2の末梢神経障害を除く)がGrade0~1まで(腎/骨髄/肝機能は選択基準を満たすまで)回復している患者
(7)化合物Aの投与前に前治療から以下の期間経過している患者
a)化学療法及び放射線療法を受けてから3週間以上経過している患者
b)抗体による治療を受けてから4週間以上経過している患者
c)治験薬又は治験用の医療機器を使用してから4週間以上経過している患者
d)輸血、血小板輸血又はG-CSF製剤による処置を受けてから2週間以上経過している患者
(8)適切な腎機能を有する(すなわち、血清クレアチニン<2.0mg/dL、又はCockcroft-Gault法によるクレアチニンクリアランス≧40mL/minである。)
(9)適切な骨髄機能を有する(すなわち、好中球数≧1500/mm、血小板数≧100000/mm、かつヘモグロビン≧9.0g/dLである)
(10)適切な肝機能を有する(すなわち、凝固能として国際標準比(INR)≦1.5、総ビリルビン≦1.5×基準値上限(ULN)、かつアルカリホスファターゼ(ALP),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)≦3×ULN(肝転移を有する場合は≦5×ULN)である)
(11)適切な血清無機質を有する(すなわち、カルシウム(アルブミン補正):基準値範囲内、補正カルシウム濃度(mg/dL)=実測カルシウム濃度(mg/dL)+4-血清アルブミン濃度(g/dL)、カリウム濃度が基準値下限値以上である、かつマグネシウムが基準値下限値以上である)
(12)文書同意及び治験実施計画の遵守が可能な患者
(13)RECIST 1.1における測定可能病変を少なくとも1つ有する患者
(14)25-ヒドロキシビタミンDが10ng/mL未満である場合、各医療機関のガイドライン又は治験責任医師若しくは治験分担医師の臨床的な判断によりビタミンDの継続的な摂取に同意する患者
(15)用量漸増パート:腫瘍以外の皮膚組織の生検に同意している患者
拡張パート:各用量において少なくとも5例の患者は腫瘍以外の皮膚組織の生検に同意する患者
【0115】
〔除外基準〕
以下の基準のいずれかに該当する被験者は,本治験の対象から除外する。
(1)以下の心疾患のいずれかに該当する患者
・ニューヨーク心臓協会(NYHA)の分類でクラスII以上の心不全を有する患者
・不安定な虚血性心疾患(化合物Aの投与開始前6ヵ月以内の心筋梗塞、硝酸薬が週2回以上必要な狭心症)を有する患者
・QTcF>480msecのQT間隔延長が見られる患者
・左心駆出率(LVEF)<50%である患者
(2)化合物A投与前21日以内に大手術を受けた患者
(3)化合物A又は賦形剤の成分に忍容性が無いと判明している患者
(4)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性と判明している患者
(5)全身治療を要する活動性の感染症と判明している患者
(6)髄膜がん腫症の患者
(7)以下を摂取した患者
・化合物Aの投与開始前4週間以内に、チトクロームP450(CYP)3Aを強力に誘導する又はCYP3Aの基質でありかつ治療域が狭い薬剤、サプリメントを摂取した患者
・化合物Aの投与開始前2週間以内に、CYP3Aを強力に阻害する薬剤又は食物を摂取した患者
(8)化合物Aの投与開始前2週間以内に,全身ステロイド又は局所ステロイドによる免疫抑制療法(プレドニゾン10mg/日を超える又は当量)を受けている患者、あるいはこれらの療法を受ける予定の患者
(9)脳又は硬膜下転移を有する患者。ただし、化合物Aの投与開始4週間前に局所の治療が完了し副腎皮質ホルモンの投与を中止している患者は除く。化合物Aの投与開始前4週間は、徴候(例えば放射線検査上)又は症状が安定していなければならない
(10)肺のリンパ管症を有し、積極的な治療(酸素吸入を含む)を要するような呼吸不全状態にある患者
(11)経口摂取不能、消化管の吸収不良又は治験責任医師若しくは治験分担医師により化合物Aの吸収に影響を与える可能性があると判断されるその他の身体状態(悪心、下痢,嘔吐等)を示す患者
(12)以下の骨疾患又は骨の状態に該当する患者
・DXAスキャンによるTスコアが-2.5未満の骨粗鬆症
・空腹時血清中β-CTX>1000pg/mL
・骨軟化症
・ビスホスフォネート製剤で治療が必要と判断される高カルシウム血症
・化合物Aの投与開始前6ヵ月以内の骨折歴
・外科的処置を要する状態
・骨転移に対して,ビスホスフォネート製剤やデノスマブで治療していない(放射線治療をした病変を除く。)
(13)試験の評価に影響すると治験責任医師又は治験分担医師が判断したあらゆる状態
(14)化合物Aの投与開始前24ヵ月以内に活動性の悪性腫瘍を有する患者(原疾患,完全に処置された非浸潤性メラノーマ、皮膚の基底細胞癌/扁平上皮癌、非浸潤性子宮頚部癌/膀胱癌及び早期胃癌/大腸癌は除く)
(15)女性の場合には、スクリーニング時又はベースライン時に授乳中である、あるいは妊娠している患者(ヒト絨毛性ゴナドトロピン[hCG]又はヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット[β-hCG]尿中検査で陽性が確認された患者)。ただし、授乳中の方は治験参加にあたり授乳を中断される場合、本試験への参加が可能と判断する。スクリーニング時に陰性であっても、化合物Aの投与開始前7日以内に実施していない場合には、再度検査を実施すること
(16)生殖能力のある男性及び妊娠する可能性のある女性の場合、本人及びパートナーが試験期間及び化合物Aの投与終了後、男性は90日、女性は30日まで医学的に適切な避妊方法注)を用いることに同意しない患者
(17)化合物Aの投与歴のある患者
【0116】
3.方法
用量漸減パートでは、3+3デザインを用いて複数の用量で化合物Aの安全性と忍容性を評価した。化合物Aの開始用量は、10mgBID(1日2回)に設定した。
【0117】
拡張パートでは、化合物Aのさらなる安全性、忍容性及び予備的な有効性を評価した。用量漸増パート用量漸増パートの結果から忍容性があると考えられる用量若しくはPK又はPD解析に基づく至適用量を拡張パートで検討した。
【0118】
〔DLTの定義〕
DLTは化合物Aと因果関係があると考えられる有害事象であり、サイクル1(28日間)で発現した以下の事象である。重症度の評価にはNCI CTCAE v5.0を用いた。
(a)血液毒性
・G-CSF投与を含む適切な治療を行っても8日以上継続するGrade4の好中球減少症
・Grade3~4の発熱性好中球減少症
・Grade4の血小板減少症
・Grade3の血小板減少症で出血を伴う、8日以上継続する又は血小板輸血を要する事象
・Grade4の貧血
・Grade3の貧血で赤血球輸血を要する事象
(b)非血液毒性
・Grade4以上の事象
・臨床的に意義のあるGrade3の事象(適切な治療により7日以内にGrade0~1に回復する下痢、悪心及び嘔吐を除く)
・Grade3の骨粗鬆症
・Grade2以上の骨脆弱性骨折のうち,外傷歴のない事象又は身長以下の高さからの転倒による事象
・空腹時血清中I型コラーゲン架橋C-テロペプチド-β異性体(β-CTX)の増加がベースラインから2倍より大きく、その値が1000pg/mL以上であり、かつビスホスフォネート製剤やデノスマブ投与にもかかわらず4週間以内にベースラインまで回復が認められない場合
・臨床的に意義のあるGrade3~4の臨床検査値異常
・治験責任医師又は治験分担医師により忍容性なしと判断される事象により、化合物Aの投与を8日間以上休止した場合
【0119】
投与対象者の背景を表1に示す。ほとんどの対象者(82.1%)がECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)のパフォーマンスステータスは0であった。NRAS、KRAS、APC、CTNNB1に変異を有する対象者も含まれていた。なお、表1には120mgBIDの用法容量で化合物Aを投与した対象者の背景は含まれない。
【表1】
【0120】
表2にしたがい、10mgBIDの最初のコホートの結果に基づいて化合物Aの用量を漸増又は漸減した。
【表2】
【0121】
表3にしたがい、10mgBIDの追加コホートの結果に基づいて、さらに化合物Aの用量を漸増又は漸減した。
【表3】
【0122】
20mgBIDより高用量については、表4に基づき、次用量を決定した。
【表4】
*1 脱毛、制吐剤でコントロール可能な悪心や嘔吐、治験責任医師、治験分担医師の判断に基づき臨床的に問題とならない臨床検査値異常を除く。
*2 DLTではないGrade2、Grade3又はそれ以上の有害事象
【0123】
上記を繰り返して、用量を漸増した。なお、10mgBIDについて、試験の結果、忍容性があると判断されたため、5mgBIDに関する試験は行わなかった。
【0124】
4.投与方法
〔投与前期〕
投与前期には、投与対象者の同意を取得し、適格性確認のためのスクリーニングと疾患状態を確認するためのベースラインの評価を実施した。スクリーニング終了後、選択基準を全て満たし、除外基準のいずれにも抵触しない患者を投与対象者として登録した。ベースラインの評価は、化合物Aの投与3日前から投与直前までに実施し、疾患状態を確認してから投与期へ移行する。
【0125】
〔投与期〕
投与期では、28日を1サイクルとして化合物A(化合物Aを含有する経口製剤)を投与対象者に投与する。被験者は病勢の進行、忍容性のない副作用の発現、投与対象者の中止希望、同意撤回又は治験依頼者による治験中止が生じるまで、化合物Aの投与を継続した。28日間の投与を1サイクルとし、「C1D28」等の表記は、サイクルの回数と当該サイクル中の日数を示し、例えば、「C1D28」はサイクル1(第1サイクル)の第28日目を意味する。投与対象者はC1D28の時点まで入院し、C1D15の時点で診察及び検査を実施し、その結果から治験責任医師又は治験分担医師が医学的に問題ないと判断した場合は退院を許可した。また、C2D1の時点の診察及び検査終了後に投与を継続する場合は、C2D1の時点の投薬前までに継続に対する文書同意を取得した。
【0126】
化合物Aとして、化合物Aを含有する錠剤を使用し、1日2回(BID)経口反復投与する。投与の2時間前及び1時間後は絶食した。錠剤は水とともに服用し、可能な限り、所定の時刻に服用するが、それが困難な場合には、前回の投与から8時間以上経過した後に服用した。
【0127】
5.評価
(1)薬物動態
用量漸増パートにおいては、表5に記載のスケジュールにしたがい、投与対象者から血液を採取し、化合物Aの薬物動態を評価した。拡張パートにおいては、C1D1及びC1D8における1回目の投与前、化合物Aの経口投与の0.5、1、2時間後、及びC2D1における1回目の投与前に投与対象者から血液を採取し、化合物Aの薬物動態を評価した。C1D1(第1サイクルの第1日目)のデータが単回投与の結果に該当し、C1D8(第1サイクルの第8日目)のデータが1日あたり2回の用量で8日間の反復投与した後の結果に該当する。
【表5】
【0128】
用量漸増パートにおける各用量における薬物動態パラメータを表6及び表7に示す。
【表6】
【表7】
【0129】
値にバラツキはあるものの、おおよそ、化合物Aの投与量の増加に伴い、暴露量が増加するという傾向がみられた。
【0130】
(2)忍容性
忍容性の解析は、DLT解析対象集団(用量漸増パートにおいてサイクル1で治験薬が予定通り投与された被験者の集団及び化合物Aの投与の遵守によらずDLTが認められた集団)を用いて実施し、その他の安全性の解析は、安全性解析対象集団(治験薬が1回以上投与された被験者の集団とする。これは全ての安全性評価(DLT評価を除く)の解析対象集団)を用いて実施した。
【0131】
安全性データに関する要約統計量(連続変数は例数、平均値、標準偏差、中央値、最小値及び最大値、分類変数は例数及び割合)を実際に投与された治療に基づき算出した。安全性の評価では、有害事象、臨床検査値、バイタルサイン(拡張期血圧、収縮期血圧、脈拍数、呼吸数、体温のベースラインからの変化量)、12誘導心電図(化合物Aの投与後1回以上、QTcFの異常が認められた被験者数の割合)、心エコー又はMUGAスキャンによる検査、DXAスキャンによる骨密度のTスコア、及びECOG-PSの評価を実施した。臨床検査値としては、血液学的検査(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、血小板数、白血球数、白血球分画(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)凝固検査:INR)、血液生化学検査(肝機能検査(AST、ALT、ALP、GGT、総ビリルビン、直接ビリルビン)、腎機能検査(BUN、クレアチニン)、その他の検査(血糖値、アルブミン、コレステロール、LDH、総タンパク、尿酸、アミラーゼ、リパーゼ、Na、K、Cl、Ca、リン、Mgウイルス検査:HBs抗原a、HBs抗体a、HBc抗体a、HCV抗体a、HIV抗体a、HBV DNAb、β-CTXc、25ヒドロキシビタミンDd)、尿検査(pH、タンパク、糖、ケトン体、潜血、比重))を測定した。
【0132】
化合物Aの投与後に発現した副作用、すなわち化合物Aと因果関係のある有害事象(TEAE:treatment-emergent adverse event)を表8及び9に示す。表中、括弧内の数値は、表1に記載した28名の投与対象者全員に対し、有害事象が観察された対象者の割合である。10mgBID~160mgBIDのすべての投与量において、高い割合で悪心及び嘔吐が観察されることがわかった。なお、表8、9には120mgBIDの用法用量で投与した対象者のデータは含まれていない。
【表8】
【表9】
【0133】
6.化合物Aと因果関係のある有害事象(悪心又は嘔吐)の抑制
忍容性の評価において、サイクル1期間中に有害事象として多く観察された化合物Aの投与に伴う消化器症状のうち、悪心又は嘔吐を抑制する方法を検討した。消化器症状である悪心又は嘔吐が見られた投与対象者について、種々の制吐剤が投与された結果を検討し、悪心又は嘔吐の発生を抑制できるかを調べた。制吐剤としては、ドンペリドン(5-HT1A受容体拮抗剤、ナウゼリン錠)、メトクロプラミド(末梢性D受容体拮抗剤、メトクロプラミド錠)、ラモセトロン塩酸塩(5-HT受容体アンタゴニスト、ナゼア錠)、グラニセトロン(5-HT受容体アンタゴニスト、カイトリル錠)等が使用された。
【0134】
サイクル1期間中に嘔吐を訴えた投与対象者20名に対して、適時、制吐剤を投与した。被験者2名はプロクロルペラジン又はメトクロプラミド(5-HT受容体アンタゴニスト以外の制吐剤)の投与により改善した。しかし、被験者4名はドンペリドン又はメトクロプラミド、プロクロルペラジン(5-HT受容体アンタゴニスト以外の制吐剤)を投与しても改善せず、その後、制吐剤をラモセトロン又はグラニセトロン(5-HT受容体アンタゴニスト)に切り替えると改善した。被験者12名は、ラモセトロン又はグラニセトロン(5-HT受容体アンタゴニスト)を投与すると、嘔吐を抑制できた。この12名のうち、2名は悪心が出た時点で嘔吐予防のためグラニセトロンが投与され、嘔吐を予防することができた。しかし、160mgBIDの用量で化合物Aを投与された被験者2名は、ラモセトロン又はグラニセトロン(5-HT受容体アンタゴニスト)を投与しても、嘔吐を抑制できなかった。
【0135】
5-HT受容体アンタゴニストを投与し、嘔吐を抑制できた対象者の、C1D8の時点のAUC(0-tau),ssについて、7640h・ng/mLが最も高い値であった。5-HT受容体アンタゴニストを投与しても、嘔吐を抑制できなかった対象者の、C1D8の時点のAUC(0-tau),ssについて、9060h・ng/mLが最も低い値であった。
【0136】
C1D8の時点のAUC(0-tau),ssが7640h・ng/mL以下であるとき、5-HT受容体アンタゴニストを投与により、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状を抑制できることが予測された。C1D8の時点のAUC(0-tau),ssが9060h・ng/mL以上となると、5-HT受容体アンタゴニストを投与しても、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状、すなわち、悪心又は嘔吐を抑制できないと予測された。すなわち160mgBIDでは、5-HT受容体アンタゴニストを投与しても、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状を抑制できない可能性が高いことがわかった。そのため、推奨量は160mg BID未満と決定された。推奨量としては、約80mgから約120mgであり、特に100mgBID又は120mgBIDが好ましいと考えられた。
【0137】
図1及び図2は、C1D8の時点における各被験者のCmax(Cmax,ss)又はAUC(AUC(0-tau),ss)と嘔吐フラグの関係を示すグラフである。嘔吐フラグは、表10に記載のとおりである。例えば、嘔吐フラグ3は、最初に5-HT受容体アンタゴニスト以外の制吐剤で治療を試みたが、嘔吐を抑制できず、5-HT受容体アンタゴニストに切り替えたところ、抑制できた例を意味する。
【表10】
【0138】
7.用量漸増パートの追加症例の薬物動態
さらに120mgBIDの投与対象者を5名追加した。表7に示した先の3名の患者を含めた120mgBIDの薬物動態パラメータを表11、12に示す。
【表11】
【表12】
【0139】
120mgBIDの8例において、化合物Aと因果関係のある有害事象としての悪心または嘔吐の発生状況を表13に示す。
【表13】
【0140】
追加の患者5名についても、化合物Aと因果関係のある有害事象である悪心又は嘔吐の発生を抑制することが可能かどうか検討を行った。サイクル1期間中に嘔吐を訴えた投与対象者4名に対して、ラモセトロン塩酸塩又はグラニセトロン塩酸塩(5-HT受容体アンタゴニスト)を投与した。なお、嘔吐を訴えた4名のうち、3名については、化合物Aの投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)の予防としてグラニセトロン塩酸塩を投与した。
【0141】
予防的にグラニセトロン塩酸塩が投与された患者については、その後、嘔吐が発生せず、全て5-HT受容体アンタゴニストにより、化合物Aの投与に伴う消化器症状のうちの悪心又は嘔吐を予防することができた(嘔吐フラグ2)。悪心又は嘔吐の症状が見られたのち、グラニセトロン塩酸塩が投与された被検者1名についても、嘔吐が抑制された(嘔吐フラグ2)。
【0142】
追加症例を含め、用量漸増パート全体としての嘔吐管理の結果を図5及び表14に示す。
【表14】
【0143】
なお、先の解析の際に嘔吐フラグ3と判断された1名の患者については、後の解析の結果、嘔吐又は悪心が化合物Aの投与に伴う消化器症状ではないことが判明したため、データから除外した。
【0144】
また、100mgBIDの1症例、及び120mgBIDの1症例の合計2症例については、C1D8の血中動態のデータを取得することができなかった。そのため、図1~4の100mgBIDの1症例、および、図3及び図4の120mgBIDの1症例は、C1D1の血中動態の値を用いてプロットしている。
【0145】
追加の5症例についても、C1D8の時点のAUC(0-tau),ssが7640h・ng/mL以下であるとき、5-HT受容体アンタゴニストを投与により、化合物Aまたはその薬剤学的に許容される塩の投与に伴う消化器症状を抑制できることが予測された。このため、臨床推奨用量としては、約80mgから約120mgであり、特に100mgBID又は120mgBIDが好ましく、120mgBIDが最も好ましいと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5