IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

特許7445831繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板
<>
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図1
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図2
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図3
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図4
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図5
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図6
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図7
  • 特許-繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20240301BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240301BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240301BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B32B5/24
B32B27/12
H05K1/03 610T
H05K3/46 T
H05K3/46 G
H05K3/46 Q
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021509615
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013827
(87)【国際公開番号】W WO2020196790
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2019061650
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】深尾 朋寛
(72)【発明者】
【氏名】澤田 知昭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝寿
(72)【発明者】
【氏名】道上 恭佑
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138388(WO,A1)
【文献】特開2007-214202(JP,A)
【文献】特開昭59-138439(JP,A)
【文献】特開昭61-043661(JP,A)
【文献】特開2018-080281(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141689(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154726(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173716(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020981(WO,A1)
【文献】特開平10-044252(JP,A)
【文献】特開昭56-098136(JP,A)
【文献】特開2009-173726(JP,A)
【文献】特開2016-182698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/03
H05K 3/46
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を含む樹脂層と、繊維層とを備え、
1%以上の伸長が可能であり、
初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下であり、
前記熱硬化性樹脂及び前記樹脂層のガラス転移温度が60℃以下であり、
前記樹脂層が、前記繊維層の少なくとも片面の少なくとも一部に含浸されている、繊維シート。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が少なくともエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の繊維シート。
【請求項3】
前記繊維層が、織物、編物、組物、不織布またはこれらの組み合わせで構成されている、請求項1または2に記載の繊維シート。
【請求項4】
前記繊維層が、一方向配列の織物である、請求項3に記載の繊維シート。
【請求項5】
前記繊維層が、植物繊維、動物繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維またはこれらの組み合わせで構成される、請求項1~4のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項6】
片面または両面にさらに導体層を備える、請求項1~のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項7】
内部にさらに導体層を備える、請求項1~のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の繊維シートが2枚以上積層されている、積層体。
【請求項9】
複数の導体層を備え、前記導体層同士が、メッキもしくは導電性組成物で導通されている、請求項に記載の積層体。
【請求項10】
請求項またはに記載の繊維シート、もしくは請求項またはに記載の積層体を用いる、回路基板。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の繊維シート、もしくは請求項またはに記載の積層体と、電子部品とを備える、電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シート、並びに、それを用いた積層体、回路基板および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野、特にセンサ、ディスプレイ、ロボット用人工皮膚などの様々なインターフェースに用いられるデバイスや導電材料に対し、装着性や形状追従性の要求が高まっている。用途に応じて、曲面や凹凸面などに配置したり自由に変形させたりすることが可能な柔軟なデバイスが要求されつつある。
【0003】
そのような柔軟なデバイス(例えば、ウェラブルデバイス等)に使用される伸縮性導電シートがすでに報告されつつある。例えば、伸縮性樹脂を含む導電性ペーストで伸縮性導体層を作製し、ホットメルトシートを貼り合わせて、生地に接触させてホットプレスすることによって、伸縮性電極シートを製造し、生体情報計測用インターフェースを得ることが報告されている(特許文献1)。また、プラスチック糸改良構造において、導電線を熱硬化性高分子接着剤内に包み、当該接着剤に熱をかけて固化させ、紙や布体などのベース層と結合させることも報告されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、前記特許文献1記載の技術のように、ホットメルトシートを使用すると、通常のホットメルトシートには耐熱性がないため、リフローはんだ付け等による部品実装を行うことができない。また、シートが裂けるおそれもある上に、ホットメルトシートによる貼り合わせでは、導体層と生地との一体感が十分に得られないという問題もある。前記特許文献2記載の技術においても、熱硬化性高分子接着剤で構成される層が裂けるという不具合が考えられる。さらに、こちらも熱硬化性高分子接着剤を熱によって固化させてベース層に結合させるか、もしくは、さらにベース層に粘性面を設けて、そこへ熱硬化性高分子接着剤を結合させているが、この手法でも布体などのベース層と、導電線を内包する接着剤層との一体感は十分に得られない。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、様々な用途に使用できる、耐熱性と伸縮性に優れた樹脂層を有する繊維シートを提供することを課題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-102965号公報
【文献】登録実用新案第3204003号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討した結果、下記構成の導電性組成物によって上記課題を解消し得ることを見出し、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の一つの局面に関する繊維シートは、熱硬化性樹脂を含む樹脂層と、繊維層とを備え、1%以上の伸長が可能であり、初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の他の局面に関する積層体は、上記繊維シートが2枚以上積層されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のさらに別の局面に関する回路基板は、上記繊維シートもしくは上記積層体を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらに別の局面に関する電子基板は、上記繊維シートもしくは上記積層体と、電子部品とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る繊維シートの構成を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態に係る繊維シートの構成を示す概略断面図である。
図3図3は、本発明のさらに別の実施形態に係る繊維シートの構成を示す概略断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る電子基板の構成を示す概略断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る繊維シートにおいて、導体層が繊維シート内部にも形成されている例を示す概略断面図である。
図6図6は、実施例における繊維シートの製造工程を示す断面概略図である。
図7図7は、実施例における銅箔付き繊維シートの製造工程を示す断面概略図である。
図8図8は、実施例における回路基板2の製造工程を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、様々な用途に使用できる、耐熱性と伸縮性に優れた樹脂層を有する繊維シートを提供することできる。
【0014】
また、繊維層の一部または全部に耐熱性の高い樹脂層を設け、さらに、樹脂層表面または内部に導電層を設けることで、生地の風合いを損なうことなく生地と一体化し、伸縮に対する耐久性の高い電子基板や回路基板を提供することができる。
【0015】
さらには、前記特性を有することから、IoTやフレキシブル表示装置以外にも、光学分野、電子分野、接着分野、医療分野など様々な技術分野にも適用できるため、本発明の繊維シートは、産業利用上非常に有利である。
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0017】
<繊維シート>
本実施形態に係る繊維シートは、図1に示すように、熱硬化性樹脂を含む樹脂層2と、繊維層1とを備え、1%以上の伸長が可能であり、初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下であることを特徴とする。
【0018】
上記構成により、耐熱性と伸縮性に優れた樹脂層を有する繊維シートを提供することができる。
【0019】
本実施形態において、初期引張弾性率とは、前記シートを1%伸長させた時の弾性率を意味する。この初期引張弾性率が1MPa以上であるということは、本実施形態の繊維シートは、少なくとも1%以上の伸長が可能なシートである。より好ましくは5%以上の伸長が可能なシートである。1%の伸長が可能な繊維シートによって、生地の風合いを損なうことなく生地と一体化し、伸縮に対する耐久性の高い電子基板や回路基板を提供することができる。また、伸長可能な上限は、特に限定されないが、100%もあれば十分である。
【0020】
前記初期引張弾性率が1MPa未満となると、復元力が劣り元の形状に戻らないといった不具合があるため好ましくない。また、前記初期引張弾性率が10GPaを超えると、伸縮性が劣り、例えば繊維シートを衣服に用いた場合、着心地がよくないといった不具合があるという点で好ましくない。本実施形態における繊維シートのより好ましい初期引張弾性率は5MPa以上、1GPa以下、さらに好ましくは5MPa以上、500MPa以下である。
【0021】
なお、本実施形態における初期引張弾性率は、繊維シートを所定のサイズにカットし、一定の移動速度で1%(伸長%)まで引っ張った時の弾性率を算出するという方法で測定することができる。
【0022】
以下、本実施形態の繊維シートの各構成について詳細に説明する。なお、後述の説明に登場する図面において、各符号は以下を示す:1 繊維層、2 樹脂層、3 導体層(銅箔)、4 導体層(伸縮正導電ペースト)、5 電子部品、6 はんだ。
【0023】
(樹脂層)
本実施形態における繊維シートの樹脂層は、熱硬化性樹脂を含み、繊維シートの初期引張弾性率が上述の範囲となるような樹脂層であれば特に限定はない。電子基材の伸縮性絶縁層として一般に使用される熱硬化性樹脂を使用して、本実施形態の樹脂層とすることができる。本実施形態における樹脂層に熱硬化性樹脂を含むことで、高い耐熱性を示し、例えば電子部品を実装する時の高温の雰囲気化においても、溶融や熱分解を抑制された樹脂層とすることができる。
【0024】
本実施形態の繊維シートにおいて、樹脂層は、繊維層の片側または両面の表面全体に形成されていてもよいが、図1に示すように、繊維層の少なくとも片面の少なくとも一部の表面に形成されていてもよい。
【0025】
さらには、図2に示すように、樹脂層2が繊維層1に含浸されていてもよい。あるいは、図3に示すように、樹脂層2の全体ではなく、一部が、繊維層1の片面の少なくとも一部に含浸されていてもよい。なお、図示はしていないが、樹脂層が繊維層の両面に含浸されている(樹脂層の少なくとも一部が含浸されている場合も含む)形態も当然に本発明に包含される。
【0026】
特に、樹脂層の少なくとも一部が繊維層に含浸されている場合、樹脂層と繊維層はより一体化され、破断などが起こりにくくなると考えられる。
【0027】
また、本実施形態の繊維シートにおいて、前記樹脂層の厚みは特に限定されるものではなく、その用途によって適宜設定が可能であるが、例えば、50μm~5000μmの厚みであれば、ハンドリング性、光学特性、装着性の観点で好ましい。
【0028】
好ましくは、本実施形態の熱硬化性樹脂は、少なくともエポキシ樹脂を含む。それにより耐熱性をより確実に得られると考えられる。
【0029】
また、前記熱硬化性樹脂及び前記樹脂層はガラス転移温度が60℃以下であることが好ましい。それにより、繊維シートにさらに柔軟性を付与することができる。前記ガラス転移温度について特に下限値を設ける必要はないが、常温におけるべたつきを避けるという理由で、-40℃以上であることが好ましい。
【0030】
また、前記熱硬化性樹脂は1%以上の伸長が可能であることが好ましい。それにより繊維シートが1%以上の伸長が可能となる。また、前記熱硬化性樹脂は初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下であることが好ましい。それにより前記繊維シートの初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下となる。
【0031】
本実施形態の樹脂層に使用する樹脂組成物は、上述のような特性を備えていれば、その組成について特に限定されるものではない。
【0032】
例えば、本実施形態の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂としてポリロタキサン樹脂やエポキシ樹脂を含むことが好ましく、特にエポキシ樹脂を含んでいることが望ましい。さらに、硬化剤を含んでいることが好ましい。これにより、十分な耐熱性を有し、かつリフロープロセスにて部品実装する際の熱に耐えうる繊維シートを得ることができる。また未硬化の樹脂組成物を繊維層と貼り合わせた後に硬化させることで、樹脂層を繊維層と一体化させることが容易となる。
【0033】
より具体的な実施形態の一つとして、例えば、ポリロタキサン(A)、熱硬化性樹脂(B)及び硬化剤(C)を含む樹脂組成物が挙げられる。以下に、各成分についてより具体的に説明する。
【0034】
ポリロタキサン(A)は、具体的には、例えば、特許第4482633号又は国際公開WO2015/052853号パンフレットに記載されているようなポリロタキサンが挙げられる。市販のものを使用してもよく、具体的には、アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製のセルムスーパーポリマーA1000等を使用することができる。
【0035】
次に、熱硬化性樹脂(B)としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が特に制限なく挙げられるが、なかでもエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
前記エポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アラルキルエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記エポキシ樹脂として、より好ましくは、例えば、1つの分子中に2つ以上のエポキシ基を含み、かつ分子量が500以上であるエポキシ樹脂が好適に例示される。このようなエポキシ樹脂としては、市販のものを使用してもよく、例えば、JER1003(三菱化学製、分子量1300、2官能)、EXA-4816(DIC製、分子量824、2官能)、YP50(新日鉄住友金属化学製、分子量60000~80000、2官能)等が挙げられる。
【0038】
別のエポキシ樹脂の一例として、炭素数が2~3のアルキレンオキサイド変性された変性基を有し且つその変性基がエポキシ1mol分子中に4mol以上含まれること、2mol以上のエポキシ基を有すること、及びエポキシ当量が450eq/mol以上であるエポキシ樹脂である熱硬化性樹脂(B)と硬化剤(C)とを含むことによっても、その硬化物が、前記伸張性及び前記引張弾性率を有する樹脂組成物を得ることが可能である。このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、プロピレンオキサイド付加型ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ADEKA製 EP4003S)、エチレンオキサイド付加型ヒドロキシフェニルフルオレン型エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル製 EG-280)等が挙げられる。
【0039】
ポリロタキサン(A)と熱硬化性樹脂(B)との、いずれか単独の成分と硬化剤(C)とを含む樹脂組成物としてもよいが、両方の成分((A)且つ(B))と硬化剤(C)とを含む樹脂組成物とすることが、その硬化物が、前記伸張性及び前記引張弾性率を有する樹脂組成物を得やすい点で好ましい。また、上述するようなエポキシ樹脂は1種類を単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0040】
硬化剤(C)としては、熱硬化性樹脂(B)の硬化剤として働くものであれば、特に制限はない。特に、エポキシ樹脂の硬化剤として好ましく使用できるとしては、フェノール樹脂、アミン系化合物、酸無水物、イミダゾール系化合物、スルフィド樹脂、ジシアンジアミドなどが例として挙げられる。また、光・紫外線硬化剤、熱カチオン硬化剤なども使用できる。これらは、状況に応じて、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含有してもよい。前記効果促進剤としては、例えば、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0041】
また、本実施形態の樹脂組成物が、ポリロタキサンを含む樹脂組成物である場合には、さらに架橋剤を添加してもよく、そのような架橋剤としては、前記ポリロタキサンの環状分子の少なくとも一部(ポリロタキサンの環状分子が有する少なくとも一つの反応基)と架橋する構造を作ることができるものであれば特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、イソシアネート、塩化シアヌル等が挙げられる。
【0042】
前記樹脂組成物中の各成分の割合は、本発明の効果を発揮し得る限り特に制限はないが、例えば(A)成分、(B)成分及び(C)成分を全て含む場合には、前記(A)~(C)成分の合計を100質量部として、ポリロタキサン(A)は10~80質量部、より好ましくは30~50質量部程度;熱硬化性樹脂(B)は10~89.9質量部、より好ましくは30~50質量部;硬化剤(C)は0.1~30質量部、より好ましくは0.1~20質量部程度である。なお、本実施形態の樹脂組成物が架橋剤としてイソシアネート樹脂を含む場合、イソシアネート樹脂はポリロタキサン(A)に対して、0~50質量部を添加することができ、さらには、10~40質量部添加することが好ましい。(B)成分及び(C)成分を含み、(A)成分を含まない場合には、樹脂組成物全量を100質量部として、熱硬化性樹脂(B)は50~99質量部、より好ましくは60~80質量部程度;硬化剤(C)は1~50質量部、より好ましくは1~40質量部程度である。
【0043】
さらに、本実施形態に係る前記樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の添加剤、例えば、硬化触媒(硬化促進剤)、難燃剤、難燃助剤、レベリング剤、着色剤等を必要に応じて含有してもよい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物の調製方法については、特に限定はなく、例えば、まずエポキシ樹脂、硬化剤、架橋剤、熱硬化性樹脂及び溶媒を均一になるように混合させて本実施形態の樹脂組成物を得ることができる。使用する溶媒に特に限定はなく、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン等を使用することができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて、粘度を調整するための有機溶剤や、各種添加剤を配合してもよい。
【0045】
本実施形態の繊維シートにおいて、樹脂層は、例えば、後述する繊維層を上述したような樹脂組成物に浸漬したり、繊維層に前記樹脂組成物を塗布したり、フィルム状の前記樹脂組成物を繊維層に貼り合わせたりすることによって形成される。前記樹脂組成物の塗布方法としては、特に限定はされないが、例えば、バーコーター、コンマコーターやダイコーター、ロールコーター、グラビアコータ等が挙げられる。
【0046】
樹脂層を繊維層に含浸させる場合は、当該含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0047】
樹脂ワニスを塗布した後、もしくは樹脂ワニスを含浸した後、加熱によって有機溶媒を含む硬化前の樹脂組成物を含む樹脂層(Aステージ)から有機溶媒を揮発させ、有機溶媒を減少又は除去させことができる。樹脂組成物(樹脂ワニス)が塗布または含浸された繊維層を、所望の加熱条件、例えば80~120℃で1~120分間加熱して、有機溶媒を減少又は除去された未硬化状態もしくは半硬化状態(Bステージ)の樹脂層が得られる。なお、本実施形態において、樹脂組成物のBステージ、すなわち未硬化状態(未硬化物)もしくは半硬化状態(半硬化物)とは、樹脂組成物をさらに硬化しうる状態のものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
【0048】
さらに加熱によって、樹脂層を硬化させることができる。樹脂組成物(樹脂ワニス)が塗布または含浸された繊維層を、所望の加熱条件、例えば80~200℃で1~120分間加熱して、硬化状態(Cステージ)の樹脂層が得られる。なお、本実施形態において、樹脂組成物のCステージ、すなわち硬化状態(硬化物)とは、硬化反応が進行し、樹脂が架橋することにより、加熱しても溶融しない状態となったもののことをさす。
【0049】
フィルム状の前記樹脂組成物を繊維層に貼り合わせる場合は、例えば、予め所望のプラスチックフィルム、金属箔等に前記樹脂組成物を塗工し、有機溶媒を含む硬化前(Aステージ)の樹脂組成物を含む樹脂層、もしくは、所望の加熱条件、例えば80~120℃で1~120分間加熱して、未硬化状態もしくは半硬化状態(Bステージ)の樹脂層を得る。これを繊維層へ貼り合わせ、圧力、熱等の外部エネルギーによって繊維層へ定着させることで得られる。未硬化状態もしくは半硬化状態(Bステージ)の樹脂層でもよいし、さらに加熱によって、樹脂層を硬化させ、硬化状態(Cステージ)の樹脂層でもよい。
【0050】
(繊維層)
本実施形態における繊維層は、特に限定されないが、例えば、織物、編物、組物、不織布またはこれらの組み合わせで構成される繊維層などを使用できる。前記繊維層は、一方向配列の織物であってもよい。それにより、所望の方向のみ伸縮性を有する繊維シートを得ることができるといった利点がある。
【0051】
また、前記繊維層において、上述した織物、編物、組物または不織布等は、植物繊維、動物繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維またはこれらの組み合わせで構成されていることが好ましい。
【0052】
本実施形態の繊維シートは伸縮性を備えていることが望ましいため、前記繊維層もある程度の伸縮正、伸長性を備えていることが望ましい。具体的には、繊維シートの初期引張弾性率が1MPa以上1GPa以下となるような繊維層であればよい。例えば、繊維層の弾性率は0.01MPa~1GPa程度であることが好ましく、伸長率は1%以上1000%以下程度であることが好ましく、5%以上1000%以下であることがより好ましい。つまり、本実施形態の繊維層には、伸長性をほとんど有さないガラスクロスなどの基材は含まれない。
【0053】
より具体的には、本実施形態の繊維層に使用される繊維としては、一般に布帛として使用されている繊維等が挙げられる。すなわち、植物繊維としては、木綿、カポックなどの種子毛繊維、アマ、タイマ、チョマ、ジュート、ミツマタ、コウゾなどの樹皮繊維、マニラアサ、サイザルアサなどの葉脈繊維等が挙げられる。動物繊維としては、羊毛、アンゴラ、カシミア、モヘヤ、らくだ、アルパカ、絹等が挙げられる。動物繊維には皮革が含まれていてもよく、牛、豚、馬、羊、山羊などの哺乳類、鰐、蛇などの爬虫類、ダチョウなどの鳥類、鮫などの魚類等が挙げられる。合成繊維としては、ナイロン繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニリデン系合成繊維、ポリ塩化ビニル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維、ポリアクリロニトリル系合成繊維、ポリエチレン系合成繊維、ポリプロピレン系合成繊維、ポリウレタン系合成繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。合成繊維には人工皮革、合成皮革が含まれていてもよい。半合成繊維としては、アセテート繊維等が挙げられる。再生繊維としては、ビスコース繊維、銅アンモニア繊維等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0054】
例えば、ウエラブルデバイス用途に用いる場合などは、繊維層の繊維として、衣類に使用する布帛を使用することもできる。あるいは、例えば、テントやトラック荷台などに使用される生地であってもよい。それにより、様々な場面で使用される生地に、当該生地と各種デバイスを一体化させることも可能となる。
【0055】
また、本実施形態の繊維シートにおいて、前記繊維層の厚みは特に限定されるものではなく、その用途によって適宜設定が可能であるが、例えば、50μm~5000μmの厚みであれば、伸縮性、ハンドリング性の観点で好ましい。
【0056】
(導体層)
さらに、本実施形態の繊維シートは、その片面、両面、または内部に導体層を備えていてもよい。導体層としては、例えば、金属箔や導電性組成物で形成される配線、極薄く塗工された導電層、導電糸、金属成形物等が挙げられる。
【0057】
・金属箔
金属箔としては、特に限定はなく、銅箔(メッキ)及びアルミニウム箔、ステンレス箔等が挙げられ、また、これらの金属箔はシランカップリング剤等で表面処理された金属箔であってもよい。
【0058】
金属箔を用いて導体層を形成する場合は、上述した繊維シートを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面の一部もしくは全面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができる。または繊維シートを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面一部もしくは全面に銅箔等の金属箔に樹脂層が塗工されたものを重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができる。または樹脂層を含まない繊維層1枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面一部もしくは全面に銅箔等の金属箔に樹脂層が塗工されたものを重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができる。その後、金属箔をエッチング加工等して回路(配線)形成をすることによって、本実施形態の繊維シートを含む積層体の表面に、回路として導体層(配線)を設けることができる。金属箔をエッチング加工により回路形成する場合、繊維層がエッチング液に浸されることがないようマスキングすることが好ましい。例えば以下の手順で作製することができる。カバーフィルムとして例えばポリイミドのような耐溶剤性プラスチックフィルムに所望の形状に開口部を設け、それを覆うように片面金属箔張りの樹脂層を貼り付ける。これを繊維層とともに加熱加圧成形して積層一体化させると、開口部のみが繊維層に含侵される。繊維層がエッチング液に触れないよう、この積層体をプラスチック板にテープなどで貼り付け、エッチング加工を行う。最後に開口部の境界に沿って前述のカバーフィルムを切り離すことで、前述の開口部の形状で樹脂層が設けられ、その表面に金属箔の回路が形成される。
【0059】
回路形成する方法としては、上記記載の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。さらにこれらを未硬化状態もしくは半硬化状態の樹脂層、もしくはそれを含む繊維シート等を用いて積層することで導体層が内包された積層体を作製することができる。
【0060】
本実施形態の繊維シートに、さらに導体層として銅箔を用いる場合、耐熱性を有し、さらにはんだの濡れが良好となるため、リフロープロセスにて部品実装することが可能となり、動作信頼性の高いファブリックデバイス等を提供することができる。また、種々の手段により両面に部品実装したり、実装された部品をさらに内包したりすることもできる。
【0061】
・導電性組成物
また、本実施形態の導体層は、導電性組成物によって形成されていてもよい。
【0062】
本実施形態の導電性組成物は、伸縮性を有する導電性組成物であることが好ましい。それにより、繊維シートの伸長性や伸縮性を阻害せず、また動作信頼性に優れたファブリックデバイス等を得ることができる。以下に、伸縮性のある導電性組成物の一例を具体的に示す。
【0063】
前記導電性組成物は、具体的には、伸縮性バインダーとなる樹脂(D)と、前記樹脂(D)と反応する硬化剤(E)と、導電性フィラー(F)とを含み、前記樹脂(D)は、官能基当量が400g/eq以上で10000g/eq以下である官能基を有し、且つ、前記樹脂(D)及び前記導電性組成物の硬化物は、そのガラス転移温度(Tg)又は軟化点が40℃以下、あるいは30℃での弾性率が1.0GPa未満であること、並びに、導電性フィラー(F)が、室温での固有体積抵抗率が1×10-4Ω・cm以下の導電物質からなる樹脂組成物等が挙げられる。また前記官能基としては、エポキシ基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシ基、カルボニル基などが挙げられる。
【0064】
以下では、その各成分について説明する。
【0065】
樹脂(D)の分子構造の構成要素は、単一でもよいし、複数の種類を任意の割合で併用してもよい。樹脂(D)の分子構造が、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、及びニトリルのうちから選択される少なくとも1つを構成要素として含む分子構造であることが好ましい。具体例としては、エポキシ変性(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシル基変性(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基変性(メタ)アクリル酸エステル等が好ましく例示される。
【0066】
また、本実施形態において、樹脂(D)は重量平均分子量が5万以上であることが好ましい。それにより、本実施形態の導電性組成物を用いて導電パターンを印刷した場合等にニジミが発生しにくくなると考えられる。一方、重量平均分子量の上限値については特に限定はないが、分子量が300万を超える場合には粘度が高くなり取り扱い性が低下するおそれがあるため、樹脂(D)の重量平均分子量範囲として好ましくは5万以上300万以下、より好ましくは10万以上100万以下である。
【0067】
硬化剤(E)としては、上述したような樹脂(D)との反応性を有している限り、特に制限なく様々な硬化剤を用いることができる。硬化剤(E)の具体例としては、イミダゾール系化合物、アミン系化合物、フェノール系化合物、酸無水物系化合物、イソシアネート系化合物、メルカプト系化合物、オニウム塩、過酸化物等のラジカル発生剤、光酸発生剤等が挙げられる。
【0068】
導電性フィラー(F)は、室温での固有体積抵抗率が1×10-4Ω・cm以下である導電物質からなる。室温での固有体積抵抗率が1×10-4Ω・cmを超える材料を用いる場合、導電性組成物とした時に、その体積抵抗率は配合量にもよるが概ね1×10-3Ω・cm~1×10-2Ω・cmとなる。このため、回路にした場合、抵抗値が高くなり電力のロスが大きくなる。
【0069】
前記導電物質(室温での固有体積抵抗率が1×10-4Ω・cm以下である導電物質)としては、例えば、銀、銅、金等の金属元素から成る単体やこれらの元素を含む酸化物、窒化物、炭化物や合金といった化合物等が挙げられる。前記導電性組成物には、導電性フィラー(F)以外にも、導電性をより改善する目的で、導電性あるいは半導電性の導電助剤を加えることもできる。このような導電性あるいは半導電性の助剤としては、導電性高分子、イオン液体、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブや帯電防止剤に用いられる無機化合物等を用いることができ、1種類で使用しても2種類以上を同時に用いても構わない。
【0070】
導電性フィラー(F)は、その形状が扁平形状であることが好ましく、厚みと面内長手方向のアスペクト比が10以上であることが好ましい。前記アスペクト比が10以上である場合には、導電性フィラーの質量比に対する表面積が大きくなり導電性の効率が上がるだけでなく、樹脂成分との密着性もよくなり伸縮性が向上する効果もある。前記アスペクト比は1000以下であれば、より良好な導電性及び印刷性が確保できるという観点から、10以上1000以下であることが好ましく、20以上500以下であることがより好ましい。このようなアスペクト比を有する導電性フィラーの例としては、タップ法により測定したタップ密度で6.0g/cm以下である導電性フィラーが挙げられる。さらに、タップ密度が2.0g/cm以下である場合にはさらにアスペクト比が大きくなるためより好ましい。
【0071】
前記導電性組成物中の導電性フィラー(F)の配合割合については、前記導電性組成物全量に対し、導電性フィラー(F)の配合割合が質量比で40~95質量%であることが導電性、コスト、印刷性において好ましく、より好ましくは60~85質量%である。
【0072】
本実施形態の導電性フィラー(F)の粒子サイズに特に制限はないが、スクリーン印刷時の印刷性や配合物の混練において適度な粘度となるという観点から、レーザー光散乱方によって測定した平均粒径(体積累積50%における粒径;D50)が0.5μm以上、30μm以下であることが好ましく、1.5μm以上、20μm以下であることがより好ましい。
【0073】
さらに、本実施形態において導電性フィラー(F)は、表面をカップリング処理された導電性フィラーであることが好ましい。あるいは、本実施形態の導電性組成物にカップリング剤を含有させてもよい。それにより、バインダー樹脂と導電性フィラーの密着性がより向上するという利点がある。
【0074】
導電性組成物に添加する、あるいは、導電性フィラーをカップリング処理するためのカップリング剤としては、フィラー表面に吸着またはフィラー表面と反応するものであれば特に制限なく用いることができ、具体的には、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤等が挙げられる。
【0075】
本実施形態においてカップリング剤を使用する場合、その添加量は、導電性組成物全体に対し、1質量%~20質量%程度とすることが好ましい。
【0076】
・配合比
前記導電性組成物中の各成分の割合は、本発明の効果を発揮し得る限り特に制限はなく、前記(F)樹脂:前記(G)硬化剤の配合割合は、樹脂と硬化剤の種類によって、当量比などを考慮して適宜決めることが可能である。
【0077】
前記導電性組成物には、上記成分以外にも、目的に応じて添加剤等を加えることができる。添加剤等については、例えばエラストマー、界面活性剤、分散剤、着色剤、芳香剤、可塑剤、pH調整剤、粘性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤等が挙げられる。
【0078】
前記導電性組成物の調製方法については、前記導電性組成物を製造することができれば、特に限定されない。前記導電性組成物の調製方法としては、例えば、上述した樹脂成分と導電性フィラーと、必要に応じて硬化剤や分散剤等と、溶媒とを均一になるように混合・撹拌させて、前記導電性組成物を得る方法等が挙げられる。前記混合・攪拌の方法については特に限定はなく、自転-公転式ミキサーや3本ロールミル等の高せん断分散装置が好ましく用いられる。さらに真空脱泡を行ってもよい。
【0079】
・導電性組成物を使用した導体層
本実施形態の導電性組成物を、上述したような繊維シートの樹脂層上に塗布または印刷することによって、導電性組成物の塗膜を形成し、所望の配線(導電パターン)等の導体層を形成することができる。
【0080】
前記配線による導電パターンなどは、以下のような工程によって前記繊維シートの表面に形成することができる。すなわち、まず、本実施形態の導電性組成物を前記樹脂層上に塗布または印刷することで塗膜を形成し、乾燥により塗膜に含まれる揮発成分を除去する。その後の加熱や電子線、光照射といった硬化工程により、樹脂(D)と硬化剤(F)を硬化させる工程、並びに、カップリング剤と導電性フィラー(F)とを、及び、樹脂(D)と硬化剤(F)とを反応させる工程により、伸縮性配線による導電性パターンを形成することができる。前記硬化工程や反応工程における各条件は特に限定されず、樹脂、硬化剤、フィラー等の種類や所望の形態によって適宜設定すればよい。
【0081】
本実施形態の導電性組成物を基材上に塗布する工程は、特に限定されないが、例えば、アプリケーター、ワイヤーバー、コンマロール、グラビアロールなどのコーティング法やスクリーン、平板オフセット、フレキソ、インクジェット、スタンピング、ディスペンス、スキージなどを用いた印刷法を用いることができる。
【0082】
また、導体層は、繊維シート内部に形成されていてもよく、その場合は、上記手段によって導電パターンを形成した後、例えば図5に示すように、当該導電パターンを形成した繊維シート20に、未硬化状態もしくは半硬化状態の樹脂層、もしくはそれを含む繊維シート10や導体層を備える樹脂層(絶縁層)30等を積層し、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、前記繊維シートの内部に前記伸縮性配線を形成することができる。
【0083】
・上記以外の導体層
また、導電性フィラーや導電性高分子、イオン液体、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブや帯電防止剤に用いられる無機化合物等を溶媒に分散させたものや液体金属を繊維シートの両面又は片面一部もしくは全面に塗工、印刷等で導電層や配線を形成してもよい。また、導電糸で縫製することにより複数の導電層を接続してもよい。また、リベット、スナップボタンなどの金属成形物で複数の導電層を接続してもよい。
【0084】
<積層体、回路基板、および電子基板>
本実施形態の積層板は、上記繊維シート(導体層を含むもの、含まないもの)が2枚以上積層されている。
【0085】
上記繊維シートとして導体層を含むシートを2枚以上積層する場合には、前記積層体は複数の導体層を含むことになる場合があるが、当該複数の導体層同士は、上述したようなメッキ(銅箔等の金属箔)または上述したような導電性組成物等によって導通されていてもよい。なお、導通に用いる導電性組成物は溶媒を含まないものであることが好ましい。それにより、複層回路基板として用いることができるといった利点がある。
【0086】
また、本実施形態の回路基板は、上記導体層を備える繊維シート、または、上述したような積層体を用いることを特徴とする。
【0087】
さらに、本発明には、上述したような繊維シートまたは上述したような積層体と、電子部品とを備える電子基板も包含される。
【0088】
その構成や形態は特に限定はされないが、例えば、一例として、図4に示すような電子基板であれば、繊維層1の両面に樹脂層2が形成され、樹脂層2の表面や、繊維シートの内部に金属箔(銅箔)3によって回路が形成されている。さらに、金属箔3による回路はと回路の間は、導電性組成物4によって導通されており、回路上には、はんだ6を介して電子部品が搭載されている。
【0089】
本実施形態の回路基板や電子基板は、上述した繊維シートや積層体を用いて、公知の手法で製造することが可能である。なお、本実施形態の繊維シートは耐熱性を有しているため、上記のようにリフローによる電子部品の実装が可能である。また、リフローのほか、溶接、はんだごて、誘導加熱、マイクロ波等種々の加熱手段を用いることができる。局所加熱できる手段であっても樹脂層が耐熱性を有しているため、溶融や熱分解を起こすことがない。また、ACFなどで実装することも可能である。
【0090】
また、従来の電子部品を用いることなく、例えば種々の印刷技術を用いて素子を形成し、回路基板や電子基板を製造することもできる。これらを製造する工程において加熱プロセスが必要な場合でも、樹脂層が耐熱性を有しているため、溶融や熱分解を起こすことがない。
【0091】
このような導体層を有する本実施形態の積層体や回路基板、もしくは電子部品を備える電子基板は、柔軟で、伸縮性・屈曲性を兼ね備えているため、例えば、折り曲げ可能な電子ペーパー、有機ELディスプレイ、太陽電池、RFID、圧力センサ等に用いる電子材料として非常に好適である。
【0092】
また、生地(布帛など)である繊維層と、電子デバイスとの一体感があるため、ウエラブルデバイスとしても優れており、屋外広告などの用途にも適している。
【0093】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0094】
本発明の一つの局面に係る繊維シートは、熱硬化性樹脂を含む樹脂層と、繊維層とを備え、初期引張弾性率が1MPa以上1GPa以下であることを特徴とする。このような構成により、様々な用途に使用できる、耐熱性と伸縮性に優れた樹脂層を有する繊維シートを提供することができる。
【0095】
前記繊維シートにおいて、前記熱硬化性樹脂が少なくともエポキシ樹脂を含むことが好ましい。それにより、より高い耐熱性が得られると考えられる。
【0096】
前記繊維シートにおいて、前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度が60℃以下であることが好ましく、それにより、繊維シートにさらに柔軟性を付与することができる。
【0097】
また、前記繊維シートにおいて、前記繊維層が、織物、編物、組物、不織布またはこれらの組み合わせで構成されていることが好ましい。
【0098】
さらに、前記繊維層が、一方向配列の織物であることが好ましい。これにより、所望の方向のみ伸縮性を有する繊維シートを得ることができるという利点がある。
【0099】
また、前記繊維層が、植物繊維、動物繊維、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維またはこれらの組み合わせで構成されることも好ましい。これにより、安価で容易に入手が可能であると同時に、一般に布帛として使用されており、ファブリックデバイスとして違和感なく用いることができるという利点がある。
【0100】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0101】
まず、本実施例で用いた各種材料は次の通りである。
(ポリロタキサン)
・アドバンストソフトマテリアルズ株式会社製「SH3400P」(PEGを軸分子、α-シクロデキストリンを環状分子とし、反応基としてOH基を有する)、水酸基価72mgKOH/g、水酸基当量779
(エポキシ樹脂)
・三菱ケミカル株式会社製「JER1003」、分子量1300、エポキシ当量650
・ナガセケムテックス株式会社製「PMS-14-29EK30」、分子量200000、エポキシ当量4762
(硬化剤)
・三菱ケミカル株式会社製「YH-307」、酸無水物当量231
・三井化学ファイン株式会社製「D2000」、アミン当量1000
(硬化促進剤)
・四国化成工業株式会社製「2E4MZ」、2-エチル-4-メチルイミダゾール
(アクリル樹脂)
・株式会社クラレ社製「LA2250」(熱可塑性樹脂)
(繊維層)
・ポリエステル生地(Ponte Double Knit PDRR-002)
・ナイロン生地(Rayon Spandex Jersey Knit 0451725)
・コットン生地(Telio Organic Cotton Jersey Knit 0462839)
・ウール生地(Wool Novelty Suiting 0649007)
・アセテート生地(A8700)
・キュプラ生地(LOISIR AK650)
・紙(OKクリーンRN)
・牛革
・人工皮革(ロエルII)
・炭素繊維生地(クレカクロスP-200)
【0102】
<半硬化樹脂フィルムの製造方法>
各成分を表1に記載の配合割合として樹脂ワニス1~5を調整した。静置脱泡後、PETフィルム(三井化学東セロ株式会社製、SP-PET O1)にバーコーターを用いて前記樹脂ワニスを塗布した。次いでオーブンにて80℃24時間加熱し、さらに160℃で5分加熱することで、半硬化樹脂フィルムを得た。
【0103】
【表1】
【0104】
<硬化樹脂フィルムの製造方法>
次いで、前記樹脂ワニス1~5から得られた前記半硬化樹脂フィルムをさらに160℃で1時間加熱することで、表2に示す硬化樹脂フィルム1~5を得た。
【0105】
【表2】
【0106】
<半硬化樹脂付き銅箔の製造方法>
銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、CF-T9DA-SV-18)にバーコーターを用いて前記樹脂ワニスを塗布した。次いでオーブンにて80℃24時間加熱し、さらに160℃で5分加熱することで、半硬化樹脂付き銅箔を得た。
【0107】
<硬化樹脂付き銅箔の製造方法>
前記半硬化樹脂付き銅箔をさらに160℃で1時間加熱することで硬化樹脂付き銅箔を得た。
【0108】
<繊維シートの製造方法>
図6に示すように、まず、300mm角にカットした繊維層1(ポリエステル生地(Ponte Double Knit PDRR-002))の中央に、支持体としてPETフィルム7をつけたまま、樹脂層2として100mm角にカットした半硬化樹脂フィルムまたは硬化樹脂フィルムを置き、ステンレス板8で挟んだ。それを、真空加熱プレス機(株式会社神藤金属工業社製、ASFV-25)にセットし、1MPa加圧下で160℃1時間加熱した。その後、PETフィルム7を剥がし、繊維層1および樹脂層2を備えた繊維シートを得た。
【0109】
<回路基板1の製造方法>
前記繊維シートの樹脂層面にスクリーン版を用いて銀ペーストを印刷し、前記繊維シートの樹脂層の上に銀ペーストからなる配線を形成し、回路基板1を得た。
【0110】
<銅箔付き繊維シートの製造方法>
図7に示すように、ポリイミドフィルム9(宇部興産株式会社製、ユーピレックスS、25μm)を300mm角にカットし、さらにその中央部分から100mm角の正方形のフィルムを切り出した。次に、300mm角にカットした繊維層1に前記ポリイミドフィルム9を置き、さらに前記ポリイミドフィルム9の100mm角の正方形フィルムを切り出した部分を覆うように150mm角にカットした、樹脂層2と導体層(銅箔)3とを備える半硬化樹脂付き銅箔または硬化樹脂付き銅箔を、樹脂層2がポリイミドフィルム側となる向きに置いて得られた積層物を、2枚のステンレス板8で挟んだ。真空加熱プレス機(株式会社神藤金属工業社製、ASFV-25)に前記積層物をセットし、1MPa加圧下で160℃1時間加熱することで銅箔付き繊維シートを得た。
【0111】
<回路基板2の製造方法>
図8に示すように、前記銅箔付き繊維シートの銅箔面にドライフィルムレジストをラミネートし、フォトリソグラフィーにて現像、銅箔エッチングし、前記銅箔付き繊維シートの樹脂層の上に導体層(銅箔)3からなる配線10を形成した。その後、前記ポリイミドフィルム9を取り除き、回路基板2を得た。
【0112】
<硬化樹脂フィルムの初期引張弾性率の測定方法>
上記表2に示す硬化樹脂フィルム1~5を用いて、それぞれの初期引張弾性率を測定した。具体的には、各硬化樹脂フィルムをダンベル6号型(JIS K 6251)にカットし、万能試験機(株式会社島津製作所社製AGS-X)に取り付けた。引張速度:25mm/minで試験を行い、0~0.01の歪(r)に対応するすべての応力(σ)データから最小二乗法を用いてr-σの傾きを求めて初期引張弾性率を算出した。結果を上記表2に示す。
歪(r)=x/x0(xはつかみ具の移動距離、x0は初期つかみ具間距離)
応力(σ)=F/(d・l)(Fは試験力、dはフィルム膜厚、lは試験片の幅)
【0113】
<硬化樹脂フィルムのガラス転移温度の測定方法>
前記硬化樹脂フィルムを10mm*30mmにカットし、動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製DMS6100)に取り付けた。歪振幅10μm、周波数10Hz(正弦波)、昇温レート5℃/minで試験を行い、算出されるtanδのピーク温度をガラス転移温度として採用した。その結果も上記表に2にまとめた。
【0114】
<繊維シートの初期引張弾性率の測定方法>
繊維シートとして、表1における樹脂ワニス1~5それぞれを用いて作製し、半硬化又は硬化した樹脂フィルム1~5と、表3に示す各種繊維層とを組み合わせて繊維シート1~16を作成した。
【0115】
そして、得られた各繊維シートを、全面が樹脂層を含むように50mm*100mmにカットし、万能試験機(株式会社島津製作所社製AGS-X)に取り付けた。初期つかみ具間距離:50mm、引張速度:100mm/minで試験を行い、0~0.01の歪(r)に対応するすべての応力(σ)データから最小二乗法を用いてr-σの傾きを求めて初期引張弾性率を算出した。結果を表3に示す。
歪(r)=x/x0(xはつかみ具の移動距離、x0は初期つかみ具間距離)
応力(σ)=F/(d・l)(Fは試験力、dはフィルム膜厚、lは試験片の幅)
【0116】
なお、繊維シート1~16の測定結果は、同じ樹脂層及び繊維層を用いて作製した銅箔付き繊維シートについても同様であった。
【0117】
【表3】
【0118】
<実施例まとめ>
表3より、本発明に係る実施例1~14の繊維シートは、いずれも初期引張弾性率が1MPa以上10GPa以下であることが確認された。それに対し、比較例1は、表3の通り初期引張弾性率が10GPaを超えていた。また、比較例1で使用した半硬化樹脂フィルムは、硬化フィルムとした際のガラス転移温度が60℃よりも大きくなっていた(表2参照)。比較例2の繊維シートは、熱硬化性樹脂を用いていないため、リフロープロセスによる部品実装を行ったところ実装不良が発生した。
【0119】
この出願は、2019年3月27日に出願された日本国特許出願特願2019-61650を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0120】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の繊維シートは、ウエラブルデバイス、パッチデバイスやフレキシブル表示装置等、光学分野、電子分野、接着分野、医療分野等の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8