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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】ガス還元高炉およびその操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
C21B5/00 321
C21B5/00 311
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023550126
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2023013118
(87)【国際公開番号】W WO2023190840
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022068527
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524041901
【氏名又は名称】株式会社SimpLE研
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】関口 毅
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-129325(JP,A)
【文献】特開2018-070952(JP,A)
【文献】特開平03-094006(JP,A)
【文献】八塚 健夫 他,高炉への還元ガス吹込みについて(FTGプロセス),鉄と鋼,日本,日本鉄鋼協会,1972年04月01日,第58巻、第5号,p.624-636,doi:10.2355/tetsutohagane1955.58.5_624
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉頂装入コークスまたは羽口吹込燃料あるいはその両方以外に、800℃以上に予熱された還元ガスを、炉体の周方向に間隔をおいて並べられ且つ少なくとも1段の羽口群を構成する複数の羽口から炉内に吹込む高炉の操業方法であって、
シャフトの生産性((Pd×MR)/Vsh)を、
不等式(Pd×MR)/Vsh ≦ 12、ただし、
Vsh:前記シャフトの有効炉容積(m3)、
Pd:1日当りの銑鉄生産量(tp/day)、
MR:炉頂装入原料比(t/tp)、
を満たすように制御し、
前記還元ガスのうち、前記シャフト下部より下方の炉内に吹込むガス
不等式3.9≧K1≧3.1、ただし、銑鉄中の鉄1モルに対し、
式(Cf+Cg-Ci)+(Hf+Hg)/2 = K1×(1-Xm)、
K1:燃料比を決める際の定数、
Cf:前記炉頂装入コークスと前記羽口吹込燃料を合わせた[C]量(mol-C/mol-Fe)、
Hf:前記炉頂装入コークスと前記羽口吹込燃料を合わせた[H]量(mol-H/mol-Fe)、
Cg:前記還元ガス中のCOガス量(mol-C/mol-Fe)、
Hg:前記還元ガス中の[H]量(mol-H/mol-Fe)、
Ci:銑鉄中の[C]量(mol-C/mol-Fe)、
Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、を満たす量となるよう吹き込む、
ことを含む、操業方法。
【請求項2】
前記銑鉄中の鉄1t当りの炉頂ガス中のCO2とH2Oの合計ガス量Vpc=K2×Gy/1.5+Xf×22.4+Xo (Nm3/t-Fe)において、
不等式610≧K2≧560、
ただし、
K2:直接還元率や銑鉄中の鉄割合により決まる定数、
Gy:装入鉱石ならびに装入金属鉄の鉄分(mol-Fe)に対する酸素(mol-O)の割合(mol-O/mol-Fe)、
Xf:銑鉄1t当りの装入原料に含まれるCaCO3、MgCO3の合計モル比(kmol/tp)、
Xo:シャフトの上から2/3の高さ(下から1/3高さ)より上方の位置において炉外から供給される2次燃焼ガスのガス量(Nm3/tp)、を満たすように前記還元ガスの前記量をさらに調整する、
ことをさらに含む、請求項1に記載の操業方法。
【請求項3】
炉下部での1次燃焼熱量と羽口吹込ガス顕熱との合計熱量を銑鉄1トン当たり2.4GJ/tp以下にする、
ことをさらに含む、請求項1に記載の操業方法。
【請求項4】
炉下部での1次燃焼熱量と羽口吹込ガス顕熱との合計熱量を銑鉄1トン当たり2.4GJ/tp以下にする、
ことをさらに含む、請求項2に記載の操業方法。
【請求項5】
前記高炉は、前記シャフトならびに炉下部を含めた前記炉体に、高さ方向に配置された2段以上の羽口群を備え、
前記2段以上の羽口のうちの最下段の羽口群の羽口から酸素と2次燃焼ガスの合計量として200Nm3/tp以下の酸素含有ガスを吹き込み、
前記還元ガスのうち、シャフト下部より下方の羽口から500×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上、ならびに前記還元ガスと前記羽口吹込燃料中の水素分を含めたCOとH2の合計が800×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上になるよう吹き込む
ただし、
Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、
ことをさらに含む、請求項1に記載の操業方法。
【請求項6】
前記高炉は、前記シャフトならびに炉下部を含めた前記炉体に、高さ方向に配置された2段以上の前記羽口群を備え、
前記2段以上の羽口のうちの最下段の羽口群の羽口から酸素と2次燃焼ガスの合計量として200Nm3/tp以下の酸素含有ガスを吹き込み、
前記還元ガスのうち、シャフト下部より下方の羽口群の羽口から500×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上、ならびに前記還元ガスと前記羽口吹込燃料中の水素分を含めたCOとH2の合計が800×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上になるよう吹き込む
ただし、
Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、
ことをさらに含む、請求項2に記載の操業方法。
【請求項7】
前記高炉は、前記シャフトならびに前記炉下部を含めた前記炉体に、高さ方向に配置された2段以上の羽口群を備え、
前記2段以上の羽口のうちの最下段の羽口群の羽口から酸素と2次燃焼ガスの合計量として200Nm3/tp以下の酸素含有ガスを吹き込み、
前記還元ガスのうち、シャフト下部より下方の羽口から500×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上、ならびに前記還元ガスと前記羽口吹込燃料の中の水素分を含めたCOとH2の合計が800×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上になるよう吹き込む
ただし、
Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、
ことをさらに含む、請求項3に記載の操業方法。
【請求項8】
前記還元ガスの少なくとも一部を、融着帯より上の前記羽口と前記融着帯より下の前記羽口を通して1200℃以上において吹き込む、
ことをさらに含む、請求項1~7の何れか一項に記載の操業方法。
【請求項9】
前記羽口吹込燃料として、化学式CiHjOkで表され、
灰成分を除いた表示として、
j/i≦2.3、
(16×k)/(12×i+j+16×k)≦10%、
を満たす炭化水素系燃料、Si, Ca, Al, Mg, Fe, Si, Mn, Cより選択された一以上を含む合金鉄、または前記炭化水素系燃料と前記合金鉄とを含む混合燃料を、酸素と共に使用する、
ことをさらに含む、請求項1~7の何れか一項に記載の操業方法。
【請求項10】
銑鉄1トンあたり、
式Vo2=[O2]f + [O2]c、ただし、
[O2]f=0.5×(C1+S1+S2-O1-O2)+S3+1.5×S4、
[O2]c=0.5×(C2-C3-C4)、
C1:前記羽口吹込燃料中のC成分量(C-kmol/tp)、
C2:コークス中の炭素モル量(C-kmol/tp)、
C3:銑鉄中の炭素モル量(C-kmol/tp)、
C4:銑鉄中の鉄以外金属の還元に必要な炭素モル量(C-kmol/tp)、
O1:前記羽口吹込燃料中のO成分量(O-kmol/tp)、
O2:前記予熱された還元ガス中のCO2とH2Oのモル量(kmol/tp)、
S1:前記羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないMg成分(Mg-kmol/tp)、
S2:前記羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないCa成分(Ca-kmol/tp)、
S3:前記羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないSi成分(Si-kmol/tp)、
S4:前記羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないAl成分(Al-kmol/tp)、
を満たす量に対してVo 2 -1(O2-kmol/tp)以上、Vo 2 +0.2(O2-kmol/tp)以下の範囲の量の酸素であって純度90%以上の酸素を、前記羽口吹込燃料および前記予熱された還元ガスとともに、前記炉内に吹き込む、
ことをさらに含む、請求項1~7の何れか一項に記載の操業方法。
【請求項11】
前記炉頂装入コークスの全量を、副原料を含む鉱石と混合して前記炉内に装入する、
ことをさらに含む、請求項1~7の何れか一項に記載の操業方法。
【請求項12】
それぞれ炉体の内部に還元ガスを吹き込むべく構成され、前記炉体の周方向に間隔をおいて並べられた複数の羽口よりなり、前記炉体の高さ方向に離れて配置された3段以上の羽口群を備える高炉に対して請求項1~7の何れか一項に記載の操業方法を実施するための操業システムであって、
前記羽口群毎の流量計測機器と前記羽口群毎の流量調整機器から構成される羽口吹込ガス流量調整システムと、
炉頂ガス流量と、炉頂ガス酸化度と、炉頂温度と、シャフトの中間部の温度とを計測して外部燃料供給システムと加熱システムならびに前記羽口吹込ガス流量調整システムを制御するべく構成された制御システムと、
を備えた操業システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉でのコークス比や還元材比を削減する方法に関するものであり、高炉から排出されるCO2の削減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉法においては、炉頂からコークスと鉄鉱石を投入し、鋳床部の送風羽口(鋳床羽口)から、熱風(1000℃以上の高温空気)ならびに還元材である燃料(微粉炭等)を吹き込む。それに伴い、微粉炭やコークスが燃焼し、多大な熱量と共にCOやH2などの還元ガスが発生する。このようにして生まれた高温の還元ガスが炉内を上昇しながら、下降してくる鉄鉱石を昇温し還元する。
【0003】
鉄鉱石の還元反応には3つの形態(一酸化炭素ガス還元、水素ガス還元、直接還元)がある。この中で、直接還元は、コークス中の炭素を直接消費する反応(FeO+C=Fe+CO)であり、大きな吸熱反応である。更に、燃焼やガス還元により発生するCO2やH2Oも、高温下でコークス中の炭素を消費するソリューションロス反応(CO2+C=2CO)や水性ガス反応(H2O+C=CO+H2)を引き起こすが、これらも大きな吸熱反応である。(以下、ソリューションロス反応や水性ガス反応を区別しない場合、“コークスガス化反応”と呼ぶ)
【0004】
一酸化炭素ガス還元、水素ガス還元、直接還元の割合は、一般的な高炉で、概ね6:1:3と言われている。水素ガス還元に寄与する水素は、炉内持込水分または燃料中の水素成分の燃焼で生れた水蒸気(H2O)が水性ガス反応により水素ガス化したものであり、一酸化炭素ガス還元に寄与する一酸化炭素も、直接還元からの副生ガスか、燃料中の炭素成分の燃焼で生れた二酸化炭素がソリューションロス反応により一酸化炭素化したものである。つまり、従来高炉法の還元反応の多くが、コークス消費に依存している。
【0005】
高炉で製造する銑鉄中には炭素が含まれており、その炭素の殆どがコークス由来であり、従来高炉法のコークス消費量の1.5~2割が浸炭材としての役割を担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願平7-90034「高炉における微粉炭多量吹込み操業方法」
【文献】特許第5722867号「高炉ガスを再循環させる方法、および関連装置」
【文献】特願2016-168281「酸素高炉の操業方法」
【非特許文献】
【0007】
【文献】「小型試験高炉による酸素高炉法の検討」鉄と鋼, 第77巻(1991年)12号
【文献】「製銑技術の100年-技術導入から先進技術への展開,そして次世代技術へ-」鉄と鋼,第100 巻(2014年)1号 p.2-30
【文献】「窒素レス還元雰囲気が高炉融着層通気性に及ぼす影響」鉄と鋼, 第104巻(2018)第9号
【文献】「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発」NEDO環境部2020年度成果報告会資料
【文献】「Environmental Vision 2050」JFEグループ環境経営ビジョン2050説明会資料P14~23< URL:https://www.jfe-holdings.co.jp/investor/zaimu/g-data/jfe/2020/2020-environmental-management-vision210525-01.pdf>
【文献】重見彰利著「製銑ハンドブック」、地人書館(1979年)
【文献】「鉄鋼便覧(第4版)」(2002年)
【文献】「鉄鋼便覧(第5版)」(2014年)
【文献】「シャフト炉式還元炉とキュポラ式溶解炉の組合せによる製銑法の開発」鉄と鋼, 第73巻(1987年)15号
【文献】「高炉への微粉炭吹込み技術の現状」鉄と鋼, 第78巻(1992年)7号
【文献】「高炉への微粉炭吹込みにおける吹込部の構造と燃焼特性」鉄と鋼, 第82巻(1996年)12号
【文献】「モデル実験による融着帯形成挙動の研究」鉄と鋼, 第68巻(1982年)15号
【文献】「未燃焼微粉炭の高炉内挙動に関する基礎的検討」鉄と鋼, 第77巻(1991年)1号
【文献】「高炉への鉱石・コークス多量混合装入技術の開発」鉄と鋼, 第92巻(2006年)12号
【発明の概要】
【0008】
従来の高炉は、微粉炭やコークスの形態の炭素が鉄鉱石に接してこれを直接に還元する所謂直接還元に相当程度依存するために、多量の炭素を消費することが不可避である。銑鉄一単位あたりの炭素消費量を低減する努力は継続的になされているものの、かかる努力には必然的に限界がある。以下に開示する技術は、炉内の反応を抜本的に見直して低炭素消費の高炉操業を実現することを目的としている。
【0009】
炉頂装入コークスまたは羽口吹込燃料あるいはその両方以外に、800℃以上に予熱された還元ガスを羽口から炉内に吹込む高炉の操業方法は、シャフトの生産性((Pd×MR)/Vsh)を、不等式(Pd×MR)/Vsh ≦ 12、ただし、Vsh:前記シャフトの有効炉容積(m3)、Pd:1日当りの銑鉄生産量(tp/day)、MR:炉頂装入原料比(t/tp)、を満たすように制御し、前記還元ガスを、前記シャフトの中間部より上方に吹込むガスを含めない量として、不等式3.9≧K1≧3.1、ただし、銑鉄中の鉄1モルに対し、式(Cf+Cg-Ci)+(Hf+Hg)/2 = K1×(1-Xm)、K1:燃料比を決める際の定数、Cf:炉頂装入コークスと羽口吹込燃料を合わせた[C]量(mol-C/mol-Fe)、Hf:前記炉頂装入コークスと前記羽口吹込燃料を合わせた[H]量(mol-H/mol-Fe)、Cg:前記還元ガス中のCOガス量(mol-C/mol-Fe)、Hg:前記還元ガス中の[H]量(mol-H/mol-Fe)、Ci:前記銑鉄中の[C]量(mol-C/mol-Fe)、Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、を満たす量となるよう吹き込む、ことを含む。
【発明の効果】
【0010】
以上の手段により、従来高炉と異なり、炉下部の役割を鉱石やスラグの溶解に限定し、シャフトの役割を鉱石の還元(ガス還元100%)に限定できる。従い、炉羽口吹込燃料と送酸量で、炉下部で必要な熱量(すなわち銑鉄温度)を適切に保ちながら、シャフト状況(ガス還元率や炉頂温度、シャフト効率)に応じて予熱還元ガス量を自在に(すなわち、炉下部熱バランスと独立して)増減させることができるので、高炉操業が容易となり炉況も安定する。
【0011】
また、炉下部での必要熱を鉱石やスラグの溶解に必要な熱量に限定しているので、炉下部で発生するガス量も従来高炉の半分程度に削減できるので、複数段羽口効果と相俟って、低コークス比でも従来高炉並みの炉内通気性も確保できる。
【0012】
本発明によれば、高炉の通気性を確保しながら、銑鉄製造のコークス比を100kg/tp以下に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、従来高炉の炉内図を示す。
図2図2は、本実施形態の高炉の炉内図を示す。
図3図3は、本実施形態の高炉において、三段羽口の場合の炉内温度分布を示す。
図4図4は、本実施形態の高炉における制御品の配置を示す。
図5図5は、従来高炉例のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図6図6は、実施例1のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図7図7は、実施例1-2のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図8図8は、実施例2のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図9図9は、実施例3のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図10図10は、実施例4のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図11図11は、実施例5のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図12図12は、実施例6,7のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図13図13は、実施例8のフロー図を示し、図中に主な原単位を併記している。
図14図14は、炉下部の入熱・出熱を示す。
図15図15は、炉下部の熱バランス(従来高炉)を示す。
図16図16は、炉下部の熱バランス比較(従来高炉と本発明)を示す。
図17図17は、炉下部の熱量線図(本発明)を示す。
図18図18は、炉下部の必要/消費エネルギーvs.融着帯通過ガス量の比較(従来高炉と本発明)を示す。
図19図19は、本発明での炉下部ガス原単位と鉱石温度変化を示す。
図20図20は、従来高炉例のRistモデル図を示す。
図21図21は、実施例1のRistモデル図を示す。
図22図22は、従来高炉例の熱線図を示す。
図23図23は、実施例1の熱線図を示す。実施例1-2の熱線図(ガス)も併記している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
【0015】
以下の説明および添付の請求の範囲を通じて、各用語は当業者に周知な定義と整合的な意味に用いられているが、幾つかの用語はそれぞれ次の意味であることを注意的に述べておく。「炉下部」とは、融着帯より下方の領域を意味する。高炉の炉体において径方向に膨出した部位を「炉腹」と称し、「シャフト」は炉体においてかかる炉腹の上方であって炉頂よりは下方の部分を意味するが、シャフトの「中間部」とは、高さ方向においてシャフトの中央のみならず、中央から上下にシャフトの高さの6分の1を含む領域を意味する語として特別に定義して使用する。シャフトの「有効炉容積(m3)」とは、例えば、シャフト下端と炉頂部の原料レベルであるストックラインまでの高さとの間の炉内容積を意味する。「部分燃焼」とは、完全燃焼に至らない燃焼を意味する。「1次燃焼」とは、C+0.5・O2=COの反応、ならびに、コークスや羽口吹込燃料からCO、H、HSを生成する部分燃焼を意味しており、1次燃焼により発生する熱を「1次燃焼熱」と呼ぶ。「2次燃焼」とは、CO+0.5・O2=CO2、H2+0.5・O2=H2Oの反応を意味しており、CO2やHOを「2次燃焼ガス」と呼ぶ。「燃料比」とは、銑鉄1tを製造するのに必要なコークスならびに羽口吹込燃料の合計重量(kg/tp)であり、最近では還元材比と称されることも多い。燃料比には、特段の断りが無い限り、炉頂ガス循環等で羽口から吹込まれる還元ガス(CO,H2)を含まず、炭化水素系燃料(CiHjOk;灰成分(Ash)を除いた成分表示)を含むものとする。
【0016】
酸素高炉法の研究の中で、炉頂ガスを利用してコークス比や燃料比を低減することは従来から試みられてきたことであり、炉頂ガス(還元ガス)の利用により副次的に直接還元率が低下することも認識されている。しかしながら、還元ガス利用については経済性視点から炉頂ガスを主体に実施研究され、羽口先の燃焼温度や炉下部での熱バランスからコークス比や燃料比の低減には限界(約200kg)があるとされてきた。更には、喩えプロセス上はコークス比が減ぜられたとしても、融着帯での通気経路が乏しくなることにより炉内の通気が著しく妨げられる等の操業上の問題が不可避であり現実的でないと考えられてきた。以下に開示する操業方法は、かかる当業者の技術常識に反して想到されたものである。
【0017】
以下に開示する高炉の操業方法は、概括的に言えば、十分な量の還元ガスを高炉に吹き込むことにより、融着帯の上方で実質的に鉄鉱石の還元反応を完了させようというものである。そのような条件は、吹き込む還元ガス量が、生産される銑鉄1モルあたり、
(Cf+Cg-Ci)+(Hf+Hg)/2=1.5/ηg -(1)
に相当することにより達成される。
【0018】
ここで、
Cf:炉頂装入コークスと羽口吹込燃料を合わせた[C]量(mol-C/mol-Fe)
Hf:炉頂装入コークスと羽口吹込燃料を合わせた[H]量(mol-H/mol-Fe)
Cg:予熱還元ガス中のCOガス量(mol-C/mol-Fe)
Hg:予熱還元ガス中の[H]量(mol-H/mol-Fe)
Ci:銑鉄中の[C]量(mol-C/mol-Fe)
ηg:ガス利用率(%)または炉頂ガスの2次燃焼率(%)
である。ここで挙げたそれぞれの記号及び以下の段落中の記号Xm, K1は、銑鉄中の鉄(Fe)1モル当りに対する以下のモル数を表す。
【0019】
ただし、炉頂より還元鉄や鉄スクラップのごとき還元状態の鉄が装入されることがあるので、上式は
(Cf+Cg-Ci)+(Hf+Hg)/2=1.5/ηg×(1-Xm) -(2)
と修正される。ここで、
Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合
である。
【0020】
右辺の1.5/ηgをパラメータK1に置き換えて、表4~7に示すような色々な実施例から適正なK1の範囲を求めた結果が、
(Cf+Cg-Ci)+(Hf+Hg)/2 = K1×(1-Xm) -(3)
3.9≧K1≧3.1 -(4)
である。ここで、
K1:燃料比を決める際の定数
である。
【0021】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
地球温暖化対策として、高炉法における炉頂装入コークス(以下コークスと記載)や羽口吹込み燃料である微粉炭や重油、天然ガス等の化石燃料を減らすことが最重要課題になっている。炉頂ガスを除湿処理(ガス中の水蒸気を取り除く)や脱炭酸処理(ガス中の二酸化炭素を取り除く)した後に高炉に再度吹込む炉頂ガス循環法により、銑鉄1トンを製造するのに必要な還元材の原単位である還元材比(=コークス比+羽口吹込み燃料比)を低下できることが知られている(特許文献2、3)。また、微粉炭等の羽口吹込み燃料については、燃料を再生エネルギー燃料(バイオ燃料等)やカーボンリサイクル燃料(グリーン燃料を用いてCO2から転換された炭化水素系燃料)に代替することで、CO2排出量を実効的に削減できる可能性もある。
【0023】
しかしながら、コークスについては、1)炉内の通気性確保(火格子的役割)、ならびに、2)浸炭材料としての役割、から冶金用コークス(限定された石炭から製造)の使用が不可避と考えられており、コークス比(銑鉄1トン当りのコークス原単位)の削減こそが、高炉法におけるCO2削減の鍵である。
【0024】
コークスは羽口吹込み燃料に比べてコストが割高なため、常に低コークス比操業を目指してきた歴史がある。熱風を利用した従来高炉でのコークス比は、一般的に約350(300~370)kg/tp(tp;銑鉄トンを意味する。以下も同じ)、または世界的な操業記録でも約250 kg/tpが下限である。
【0025】
酸素高炉法の特徴として、酸素利用により微粉炭の燃焼効率が高まる一方で、羽口から純酸素を吹き込んで赤熱コークスと直接燃焼させるため、羽口先温度(レースウェイ内の最高温度点)が異常に高温になるという課題があった。対策として、羽口先温度の異常高温化を抑えるために水蒸気(H2O)や、H2OやCO2などを含む炉頂ガスを吹き込む方法や鉄鉱石を吹き込む方法が考案された(特許文献3)が、それらの吸熱反応により炉下部が冷えるため多くの微粉炭を吹き込む必要がある上に、コークス比も200~250kg/tp(この時の微粉炭比=300kg/tp、還元材比=500kg/tp)が下限値と考えられている。
【0026】
欧州で開発されているULCOS-NBF法は、酸素高炉法と炉頂ガス循環法を兼ね併せた高炉法である。他の炉頂ガス循環法と同様に、炉内に吹込まれる還元ガスは還元材(コークスと羽口吹込み燃料)由来の炉頂ガスに限定され、炉頂ガスの一部が余剰ガスとして系外排出される準閉循環法(セミクローズド循環法)である。投入炭素量(コークスと羽口吹込み燃料を併せた還元材中の炭素量)は、従来高炉法の約24%削減に留まっている(非特許文献2)。
【0027】
地球温暖化対策として日本で開発中の2つの最新高炉法(非特許文献4,5)においても、CCUS(Carbon Capture, Usage and Storage)を利用してもCO2削減量が従来高炉法の3割削減程度に留まり、CCUS効果を除くと1割削減程度であり、コークス比は従来高炉の操業範囲内である約300~350kg/tpである。
【0028】
以上のように、コークス比削減やCO2削減を目指して、従来高炉法の操業改善や、従来高炉法に代わる酸素高炉法や炉頂循環法も開発されてきたが、コークス比200kg/tpを下回る(熱物質収支上やRistモデル上の)合理性のあるプロセス提案がこれまでなかったことが、高炉法における最大課題である。
【0029】
コークス比低減の操業上の課題は、炉内のガス通気性である。図1に示すように、高炉は、炉体1と羽口2を備え、原料である鉱石とコークスが交互に炉内に装入され、鉱石層8aとコークス層8bが層状に積み重ねられた塊状帯8を形成する。熱風と燃料が羽口2より吹き込まれてレースウェイ(以後RWともいう)3を形成し、コークスとも反応しながら発生するRW由来のガス3aとして炉下部11を上昇する。原料がシャフト12内を下降するにつれて温度上昇と鉱石還元が進み、1100℃近傍になると鉱石の軟化が始まり、1200℃近傍になると鉱石の更なる軟化と溶融が始まり、やがて1400~1500℃で溶融して滴下帯10と炉芯6を滴下する液流れ5となり、スラグと銑鉄の浴7として炉床部15(図2参照)の底部に至る。軟化や溶融した鉱石の集合体である融着層9aの通気性は鉱石層8aに比べて悪くなるが、融着層と融着層の間に挟まれたコークス(コークススリット9b)が火格子の役割を果たし、RW由来のガス3aの流路となることで、融着帯9(融着層9aとコークススリット9bの集合体)の通気性が維持される。また、炉中心に中心装入コークス8cが積極装入されることで炉中心のガス流れ4cが確保され融着帯形状は逆V字型に維持される。
【0030】
低コークス比操業では、鉱石/コークス比(O/C比)が増加することで、融着帯に占める融着層の厚み割合が増加し、コークススリットの厚み割合が減少するため、融着帯の通気性が低下することが大きな課題であった。
【0031】
本発明の課題は、以下の手段により解決される。
【0032】
シャフトでの原料滞留時間(反応時間)が実効的に確保された設備において、融着帯直上での鉱石還元率が100%に近づくように、炉頂装入コークスまたは羽口吹込燃料あるいはその両方以外に、800℃以上に予熱された還元ガスをシャフト下部より下方の炉内に、銑鉄中の鉄(Fe)1モルに対して、式(3),(4)を満たす量の還元ガス(CO、H2)を吹き込む。
【0033】
なお、上記計算の予熱還元ガスには、シャフトの中間部より上方に吹込む予熱還元ガスを含めない。また、シャフトでの必要な滞留時間は、シャフト生産性Psh (t原料/day・m3;シャフト容積当たりの原料処理量)という指標で整理した際に次式を満たす必要がある。
Psh =(Pd×MR)/Vsh ≦ 12 (t原料/day・m3) -(5)
【0034】
Vsh:シャフトの有効炉容積(m3)
Pd:1日当りの銑鉄生産量(tp/day)
MR:炉頂装入原料比(t/tp)
【0035】
滞留時間や還元ガス量的に十分であっても、鉱石の還元性やシャフト内のガス通気状況等により、実際のガス還元率は変化することがある。そこで、ガス還元率を管理するために、銑鉄中の鉄(Fe)1t当りの炉頂ガス中のCO2とH2Oの合計ガス量Vpc(Nm3/t-Fe)が次式の範囲(K値の範囲)であるように還元ガス量を調整する。
Vpc=K2×Gy/1.5+Xf×22.4+Xo -(6)
610≧K2≧560 -(7)
【0036】
K2:直接還元率や銑鉄中の鉄割合により決まる定数
Gy:装入鉱石ならびに装入金属鉄の鉄分(mol-Fe)に対する酸素(mol-O)の割合(mol-O/mol-Fe)
Xf:銑鉄1t当りの装入原料に含まれるCaCO3、MgCO3の合計モル比(kmol/tp)
Xo:シャフトの上から2/3高さ(下から1/3高さ)より上方にて炉内供給される2次燃焼ガス(CO2、H2O)のガス量(Nm3/tp)
【0037】
上記還元ガスには、高炉炉頂ガスを除塵、脱H2O、脱CO2処理したものを再循環しても良いし、再循環せずに系外から水素や一酸化炭素等を導入しても良い。本発明においては、炉下部の燃料比が低いことから、ならびに窒素ガス(N2)が循環により濃縮するのを防止するため、炉頂ガス以外にも積極的に系外からの還元ガス(含、可燃性燃料からの還元ガス製造)を利用することが特徴である。
【0038】
これらの還元ガス(以後、羽口吹込ガスとも呼ぶ)は、1200~1350℃の高温に予熱された上で羽口から炉内に吹込まれるが、吹込温度が高いので、羽口吹込ガスを予熱する加熱器の高温領域で、メタン等の可燃性燃料を部分燃焼(CH4 +0.5O2=CO+H2)させたり、炉頂ガスの一部(CO2やH2O)をガス改質(CH4 +CO2=2CO+2H2、CH4+H2O=CO+3H2)することで、還元ガスの還元度向上や増量も可能である。
【0039】
以上の方法により、ガス還元率を100%に近づけることができるで、炉下部の必要エネルギー量は低下するが、同時に、炉下部での反応熱(コークスガス化反応)やメタン等の冷却燃料の投入を抑え、炉下部のガス発生量を低減することが更なるコークス比や燃料比の削減に重要である。 その指針として、炉下部での1次燃焼熱量(コークスと羽口吹込燃料からのCO、H2生成熱)と羽口吹込ガス顕熱との合計熱量(即ち炉下部に供給される総熱量)を銑鉄1トン当たり2.4GJ/tp以下(望むらくは2.2GJ/tp以下)にすることが重要であり、具体的な手段を以下に列挙する。
【0040】
炉体高さ方向に羽口群を2段以上配置し、(少なくとも)最下段の羽口から酸素(O2)と2次燃焼ガス(CO2、H2O)の合計量として200Nm3/tp以下の酸素含有ガスを吹き込み、シャフト下部より下方の羽口から500×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上の還元ガス(COとH2の合計量)を吹き込み、前記還元ガスと羽口吹込燃料中の水素分を含めたCOとH2の合計が800×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上になるように吹き込む。ただし、Xm:炉頂装入原料中の全鉄分(mol-Fe)に対する金属鉄(mol-Fe)の割合、である。
【0041】
羽口吹込燃料として、「次式を満たすあらゆる形態(気体,液体,固体)の炭化水素系燃料(CiHjOk;灰成分(Ash)を除いた成分表示)」または「銑鉄やスラグを構成する金属単体(Si,Ca,Al,Mg,Fe,Si,Mn,C)またはその合金鉄からなる燃料」を、単体または2種類以上を混合して酸素と一緒に使用する。
j/i ≦ 2.3、 -(8)
(16×k)/(12×i+j+16×k) ≦ 10% -(9)
【0042】
高炉羽口から可燃性燃料(羽口吹込燃料)や予熱還元ガス(羽口吹込ガス)と一緒に吹込む際に、銑鉄1トンあたりに次式にて算出されるモル量(Vo2-1)(O2-kmol/tp)以上(Vo2+0.2)(O2-kmol/tp)以下の範囲の量の酸素を純酸素(または90%以上の純度の酸素)として供給する。
Vo2=0.5×(C1+C2-C3-C4+S1+S2-O1-O2)+S3+1.5×S4 -(10)
【0043】
C1:羽口吹込燃料中のC成分量(C-kmol/tp)
C2:コークス中の炭素モル量(C-kmol/tp)
C3:銑鉄中の炭素モル量(C-kmol/tp)
C4:銑鉄中の鉄以外金属の還元に必要な炭素モル量(C-kmol/tp)
O1:羽口吹込燃料中のO成分量(O-kmol/tp)
O2:予熱還元ガス中のCO2とH2Oのモル量(kmol/tp)
S1:羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないMg成分(Mg-kmol/tp)
S2:羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないCa成分(Ca-kmol/tp)
S3:羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないSi成分(Si-kmol/tp)
S4:羽口吹込燃料中の酸素と結びついていないAl成分(Al-kmol/tp)
【0044】
なお、酸素の量を式(10)にて算出されるモル量Vo2(O2-kmol/tp)に対して-1(O2-kmol/tp)~+0.2(O2-kmol/tp)の範囲の量としているのは、ガス還元率や浸炭状況に応じてVo2を調整するためである。-1(O2-kmol/tp)以上としているのはガス還元率として100%から92%までを想定しているからであり、+0.2(O2-kmol/tp)以下としているのは、酸素量が過剰になり銑鉄への浸炭悪化を防止するためである。
【0045】
以下、本発明に関する実施形態を説明する。
【0046】
技術背景に述べたように、一般的な高炉において、約3割が直接還元反応として、約4割がH2OやCO2による反応としてコークス消費に繋がっている。そのため、コークス消費を減らすには、(1)ガス還元反応を増やすこと(直接還元反応を減らすこと)、(2)炉内の900~1000℃以上の高温領域に外部よりH2OやCO2を混入しないこと、更には、(3) 炉下部に供給されると共に炉下部で発生する熱量やガス量が炉下部(融着帯から下方)からの外部出熱(銑鉄熱、スラグ熱、ヒートロス)に対して必要十分にすること、が重要である。ここで、900~1000℃以上としているのは、炭素(C)とのコークスガス化反応が実質的に約900℃から始まり1000℃以上で取り分け活発になる温度だからである。
【0047】
ところで、ガス還元や直接還元と燃料の関係については、高炉操業で最も信頼性の高い平衡線図のひとつであるRist操作線図が判り易い。後述実施例に記載の従来高炉(例)と本発明実施例1のRist操作線図をそれぞれ図20図21に示す。なお、操作線図上では、羽口吹込ガス中のCOとH2は羽口吹込燃料としてY軸(O+H2)に算入してある。
【0048】
従来高炉(例)の直接還元率(Yd)は30%であるが、これを0%にするにはW点(FeOの還元が始まる点)を一定とすれば、図20中に一点鎖線で示した操作線になる。操作線の傾きは[Fe]1モル当りの[C+H2]モルを示すので、還元ガスを利用しない従来高炉(例)では燃料比に比例する指標である。従い、現状(Yd=30%)より燃料比(コークスやPCI)を大幅に増やす必要があり、経済性や燃料比削減の観点から逆効果であり、直接還元率を下げること自体は従来操業の目標にはなり得なかった。
【0049】
操作線の傾斜を燃料比だけではなく炉頂ガス(還元ガス)で補うことで、操作線の自由度を広げたのが酸素高炉をベースとした炉頂ガス循環法である。同じ燃料比であれば、炉頂ガスが吹込まれる分だけ操作線が立ち上がり直接還元率(Yd)は低下する。しかし、燃料比を下げるのが開発狙いなので、炉頂ガス吹込増に伴い燃料比を削減する(Yd上昇)ので、燃料比削減により炉頂ガス循環量も減少する(Yd上昇)、というように最適点は流動的であった。
【0050】
燃料比削減や酸素燃焼下での羽口保護、炉頂温度、経済性等の視点から最適操作線が多種多様に研究されてきたが、(従来法を含めて)Yd=0%を目標や手段とした研究実績(文献)はこれまでにはない。
【0051】
本発明の操作線(図21)はYd=0%を通過しており、W点やシャフト効率を一定とした場合の“最大傾き(燃料比+還元ガス比)”となっている。本発明の燃料比(表4~7参照)はこれまでのどの方式よりも大幅に低いので、“最大傾き”とは、同じ燃料種においては還元ガス比(羽口吹込ガスの原単位)が他のどの方式よりも大きい、ということになる。
【0052】
この傾向は、本発明の多くの実施例を示す表4~7中の羽口吹込みガス(V13)でも確認でき、金属鉄装入のない実施例1~8において、実施例7以外で羽口吹込ガス量が700Nm3/tp以上となっている。実施例7で564Nm3/tpと少ないのは、燃料としてH2を多く含むエチレン(C2H4)を使用しており、疑似的に炉下部にH2吹込みしているためである。そこで、羽口吹込燃料中のH2成分を還元ガスと見做し、“V13+羽口吹込燃料[H2]”で換算すると890Nm3/tpの還元ガスとなり、従来高炉(例)の8倍以上となっている。なお、金属鉄投入例(金属投入率Xm)も含めて、実施例1~8は全て、800×(1-Xm)1.3Nm3/tp以上の換算値となっている。
【0053】
本発明では、炉頂ガス1Nm3あたりに次式に見合う燃料(外部燃料)と酸素を加え高温に加熱する。このことで、ガス中に残存するCO2やH2Oをガス改質(COやH2に転換)すると共に、外部燃料の1次燃焼(部分酸化)により羽口吹込ガス量(CO、H2)を炉頂ガス量の制限なく任意に増加させることができる。
【0054】
[O2](kmol/Nm3)=FRh/2×([C]-[CO2]-[H2O]-FRh×[O]) -(11)
【0055】
FRh(kg/Nm3) :炉頂ガス1Nm3に加える燃料比
[CO2](kmol /Nm3) :炉頂ガス中のCO2成分
[H2O](kmol /Nm3) :炉頂ガス中のH2O成分
[C](kmol /kg) :燃料中のC成分
[O](kmol /kg) :燃料中のO成分
【0056】
なお、外部燃料として水素や一酸化炭素を用いる場合には、式(11)に従って酸素は一切不要である。また、炉頂ガスの全量を、水素を始めとする外部燃料にすることも可能である。
【0057】
炉頂ガス量や成分に拠らず(炉頂ガス不使用の場合も含む)、上質な還元ガスをいつでも必要な分だけ炉内に供給できるので、平衡論的にシャフトでのガス還元率を究極(最大100%)に高めることが可能になる、という点が本発明の大きな特徴である。
【0058】
ガス還元率を100%に近づけるための羽口吹込ガス(還元ガス)量について、後述の実施例等で示されるようなケース検討を重ねた結果、還元ガスのCO/H2比率や燃料の種類に拠らず、「銑鉄中の鉄(Fe)1モルに対して、炉頂装入コークスまたは羽口吹込燃料あるいはその両方以外に、次式で表される量の還元ガス(CO、H2)を800℃以上の温度にてシャフト下部より下方に吹き込む」のが適正であることが判った。
【0059】
なお、式(3),(4)を満たす予熱還元ガスにシャフトの中間部より上方に吹込む予熱還元ガスを含めないのは、シャフトの中間部より上方の炉内では予熱またはFeOまでの還元が行われており、Ristモデル上のW点(ガス還元の律速点)を過ぎた領域だからである。800℃以上としているのは、W点(FeOの還元が始まる点)温度は、ガスと鉱石の対向流での熱バランスの中で決定されるが、酸素高炉(高熱流比化)や水素還元(吸熱反応)比率が高くなるとW点は低温側に移行するため、吹き込む部位によっては800℃のガス温度でも有効だからである。
【0060】
また、上式が成立するには、所要の原料滞留時間(反応時間)が確保される必要があるのは当然である。シャフト生産性Psh(t原料/day・m3;シャフト容積当たりの原料処理量)が少なくとも式(5)を満たす必要がある。
【0061】
Psh≦12は、一般的な直接還元設備の生産性を元に発明者が導出した指標値であり、その逆数に原料嵩密度を掛けるとシャフト滞留時間となる。従来高炉のPshは6~8(t原料/day・m3)程度であり、直接還元設備との比較において生産性(滞留時間)自体に問題はない。本発明ではコークス比が従来高炉より大幅に小さくなり、銑鉄生産量当りのシャフト生産性は大きく下がる(すなち、鉱石滞留時間や還元時間が伸びる)ので、本発明を従来高炉に適用すれば増産余地になる従来高炉のシャフト生産性は6~8(t原料/day・m3)程度であり、生産性(滞留時間)自体に問題はない。本発明においては、コークス比が従来高炉より大幅に小さく、同じ炉容積における鉱石滞留時間(即ち還元時間)も大幅に伸びるので、本発明の従来高炉への適用は増産余地になる。
【0062】
羽口吹込ガスを燃料から製造する方法としては、例えばメタンからの合成ガス製造技術として、H2Oをガス改質するスチームリフォーミング法、CO2をガス改質するドライリフォーミング法、メタンの部分酸化法(1次燃焼)として実用化もされている。これらには触媒を用いて600~900℃で反応させる方法(触媒部分酸化)と、1200~1300℃以上で無触媒にて反応させる方法(熱部分酸化)がある。本発明においては、還元ガスを最終的に高温で羽口に吹込むので、高温で反応させることに熱効率や設備上のメリットがあり、触媒コストや保全の観点から無触媒が望ましい。いずれの場合も、メタン起因の煤発生が課題となることがあるが、高炉熱風炉のような蓄熱炉(燃焼排ガスによる蓄熱工程とガス予熱工程の交番サイクル)を採用することで、燃焼排ガス中の酸化ガス(CO2、H2O、O2)により煤の除去が容易になる。
【0063】
燃料のガス中への吹込みタイミングについて、燃料がCOやH2の場合にはプロセス上の制約は無いが、燃料が炭化水素ガスや液体燃料や固体燃料の場合には、煤の発生を抑制しながら1次燃焼やガス改質を促進するため、還元ガスが600℃以上に加熱されてから吹込む。更に、無触媒の場合には燃焼効率(煤発生防止)の観点から1000~1200℃以上で吹込むことが望ましい。但し、予熱効果を高めるため、燃焼排ガスによる煤清掃を可能ならしめるため、加熱器出口よりも十分に手前で燃料を吹込む必要がある。
【0064】
加熱器の形式としては、還元ガスを1000℃以上に予熱するため、高炉熱風炉を代表とするようにガス接触面が耐火物で構成される蓄熱式加熱器(蓄熱炉)が望ましい。熱風式高炉を酸素高炉に転換利用する際には、熱風炉が不要になるので、ガス処理量や処理温度的に、同熱風炉を還元ガス用加熱器に転用し易いことも従来高炉法をプロセス改善するメリットである。
【0065】
本発明の加熱器の燃料には、従来熱風炉と同様に高炉炉頂ガスを利用することが望ましい。純酸素高炉でも、炉頂ガスには(原燃料やユーティリティ由来の)N2が含まれており、炉頂ガスを循環利用すると濃縮することになるので、循環系外に積極的に抽出する仕組みが必要である。従来と同様に系外設備に余剰ガスとして送る方法もあるが、COが含まれておりCO2の分散処理が必要になるので、高炉付帯設備である加熱器でのガス加熱用燃料に使用することが最適である。加熱用燃料として使用するに際して、例えばCO2分離設備の手前で分離し、酸素過剰率1(完全燃焼)近傍で酸素燃焼した後に排ガスを脱湿すれば、CO2分離器を経ずともCO2濃度を100%に近づけることが可能であり、CO2分離設備の能力負担と運転負担を減らすことができる。
【0066】
ところで、天然ガス等の燃料は、還元ガスに転換せずに、羽口吹込燃料として炉内に燃料を直接吹き込む方法が一般的であった。しかし、コークス比を下げる際には、吹込燃料中の水素成分の扱いが課題になる。例えばメタンは、完全燃焼により35.8MJ/Nm3の熱量を発するが、H2Oを発生し水性ガス化反応(H2O+C=CO+H2)によりレースウェイ周辺のコークスを消費することになる。酸素量を下げて1次燃焼(CH4+0.5×O2=CO+2H2)に留めると、発熱量が1.6MJ/Nm3に低下し燃焼温度は400℃程度にしかならない。すなわち、メタンと酸素の1次燃焼で発生する還元ガス(CO、H2)は、2000℃以上のレースウェイ温度に対して強力な冷却ガスとなり、コークス比や羽口吹込燃料比(微粉炭等)を悪化(増加)させる。対策としてメタンを予熱すると、600℃以上ではクラッキング現象(CH4→C+2H2)による煤が発生し問題となる。
【0067】
メタンに限らず、1次燃焼熱(CO、H2を生成する際の発熱量)の低い燃料(気体や液体)は同様の問題を内包しており、CO2削減時代の羽口吹込燃料には向かない。常温水素もレースウェイ温度に対しては強力な冷却ガスとして作用する点で同様である。それらの燃料をCO2削減時代の高炉燃料とするには、前述したような燃料添加方法が最も有効であり、それらの燃料の熱的課題を加熱器で補完できる(追加加熱できる)ため炉下部の熱バランスに優位である。
【0068】
ガス改質技術は従来技術であり、熱風炉で還元ガスを加熱することも新しい発想ではない。しかし、炉頂ガスと系外燃料、ガス加熱用燃料の役割を明確にして統合し、ガス還元100%を実現するための高品質かつ十分な量の還元ガスを羽口吹込ガスとして供給するシステムにしたことが本発明の特徴である。
【0069】
以上により、炉内のガス還元率を100%に近づけるのに必要なガス量とガス品質を確保する手段と方策を明らかにした。
【0070】
次に、融着帯より下方の高温領域における燃料やコークスの燃焼方法について述べる。
【0071】
従来の羽口燃料吹込みでは、完全燃焼に近い酸素を吹込み、2次燃焼由来のCO2やH2Oをレースウエイ廻りのコークスと積極的に反応させて還元ガスを発生させており、特許文献1には、170kg/tp以下の微粉炭吹込みでは過剰酸素率を1以上が推奨されている。ここで、(過剰酸素率)=(羽口より吹込まれる空気、純酸素、微粉炭中の酸素量)/(微粉炭中炭素、水素をCO2、H2Oまで燃焼するのに必要な酸素量)と定義される。
【0072】
熱風の代りに純酸素を利用する際には、N2レスにより燃焼温度が異常高温化し易いことにも留意が必要である。従来高炉と同様の酸素過剰率では、羽口先の異常火炎温度は不可避であり、例えば「酸素燃焼により異常高温化する羽口先端温度を下げる目的でH2OやCO2、鉄鉱石を羽口から同時に吹込む」ような対応(特許文献3)が検討されてきた。しかしながら、H2OやCO2の吹込みはコークスガス化反応(吸熱反応)をひき起こしコークス消費増や炉下部の熱消費の増大に繋がるので、本来避けるべき方策である。
【0073】
本発明では、方策は詳細に後述するが、レースウェイでの燃料燃焼を1次燃焼に抑える(=過剰酸化率を下げる)ことで、純酸素操業においても燃焼温度を大幅に抑えるようにすることが特徴である。更に、レースウェイで燃焼させない1200~1350℃の羽口吹込ガス(COやHの還元ガス)を羽口吹込燃料と一緒に適正量を吹込むことで、微粉炭や炭素燃料の着火性を高めると共に、それらの最大燃焼温度を適正に管理することができる。
【0074】
過剰酸素率を下げれば微粉炭の燃焼効率は低下するが、酸素濃度(酸素分圧)を上げると燃焼効率は飛躍的に上昇することが知られている(非特許文献1、非特許文献9)。更には、レースウェイ空間における微粉炭の酸素燃焼では、化学反応やガス境界膜拡散ではなく乱流拡散が律速になり、微粉炭と酸素の攪拌強化により1次燃焼100%も可能である(非特許文献11)。つまり、酸素燃焼下では、レースウェイ空間での微粉炭の1次燃焼の燃焼効率を、従来高炉(熱風)と同等(50~70%)以上にすることも十分可能である。
【0075】
一方で、従来高炉でもそうであるが、微粉炭のレースウェイ内での燃焼効率が100%に遠く及ばずとも操業に実質支障が無い。つまり、「レースウェイ内での微粉炭燃焼効率<100%」とは、レースウェイ外への未燃チャーやCO2、H2Oの流出を意味するが、CO2やH2Oとのガス化反応速度はコークスよりも未燃チャーが速く(非特許文献13)、滴下メタル中の溶存炭素との反応速度は更に数倍早い (非特許文献6、7)ので、それら(未燃チャーや溶存炭素)が存在する中では、コークス消費は実効的に抑制できる。
【0076】
ボッシュガス中の未燃チャーは、滴下帯を進む際には体積換算で地球上のどんな大豪雨よりも激しくメタル/スラグが降り注ぐ中で洗浄され(スクラバー効果)、その後には、空隙の狭い融着帯(フィルター効果)を通過する。これらの過程で未燃チャーは捕捉され、メタル中に浸炭または随伴して炉下部に戻る。そして、非特許文献10に「未燃チャーは浸炭やコークスガス化反応に消費され、浸炭速度は未燃チャーの供給律速となり、200kg/tp程度の微粉炭吹込みでは浸炭速度律速には至らない」とあるように、CO2やH2Oの還元反応材として機能する。つまり、未燃チャーのリサイクルによりコークス消費は抑制されて、炉下部としての燃焼効率は100%に近づく。
【0077】
以上の現象(未燃チャーの炉内捕捉と消費現象)は従来高炉でも確認されているが、本発明においては、後述の通り「ボッシュガス量が従来高炉に比べて1/2~1/3程度に低減できるので、スクラバー効果が増大する」ならびに「融着帯におけるコークススリット(フィルター目が粗い)通過ガス量割合が、従来高炉の約9割(表2)から、約4割(表2)~0割(全コークス混合装入時)へと低下する」ことから、レースウェイからの流出チャーが更に捕捉・消費されて、炉下部全体での燃焼効率は従来高炉並み以上になることが合理的に期待できる。
【0078】
以上は微粉炭に限らず、他の羽口吹込み燃料にも共通である。燃料や酸素と一緒に、高温の還元ガスや着火材(Mg,Ca,Si,Al等の金属粉やCaC2、FeSi等の脱酸材)を吹込むことで、燃料着火前の雰囲気温度が高くなり、着火性や燃焼速度を更に高めることができる。
【0079】
ここで、本発明の重要要素のひとつである“炉下部(融着帯から炉底まで)の熱バランス”の考え方について説明する。
【0080】
図14は、融着帯を含めた高炉炉下部の入熱・出熱を表し、入熱としては、シャフトから入ってくる原料(鉱石、コークス等)熱Qm1とRWガス(レースウェイ由来のガス)熱Qgr、ならびに原料中の固体酸素によるコークス1次燃焼熱Qkであり、出熱としては、出銑滓熱Qmt、融着帯から流出するガス熱Qcg、ならびに炉下部での反応やヒートロス等で消費される熱Qm3であり、0=Qm1+Qcg-Qmt-Qgr-Qm3である。なお、炉下部のFeO還元(直接還元)について、次の2つの反応から成り立つものとして熱バランスを考える。
【0081】
FeO=Fe+0.5×O2 ;反応熱(吸熱)はQm3に含まれる
C+ 0.5×O2 = CO ;反応熱(発熱)はQkに含まれる
【0082】
次に、炉下部内でのガスと原料の熱交換について、図15にて説明する。縦軸は温度を示し、横幅は熱容量比(kJ/K・tp)を示し、図中の面積(=温度×熱容量比)は熱量比(kJ/tp)を示す。なお、炉下部では鉄以外の金属(メタロイド)の還元も行われるが、銑鉄1t当りの反応熱がそれ以外の熱と比べても小さく、熱バランス説明(図14~17)では無視する。また、ガス比熱(kJ/Nm3K)はガス成分変動の影響があまり大きくないのでCg一定としている。
【0083】
炉下部には、QgrとQkが供給され、温度Tcgのガスと共にシャフトに排出される熱量Qcg(=Qg1+Qk)以外の熱量(Qg2+Qg3+Qk2)は炉下部に着熱する。着熱した熱は、鉱石を融着帯入口温度Tcsから出銑滓温度Tiまで加熱する熱Qm2や、炉下部での消費熱Qm3(FeO分解熱、溶解熱、浸炭熱、ヒートロス)に使われる。Qm2は、融着帯に持ち込まれる原料熱Qm1と共に銑滓熱Qmtとなる。
【0084】
コークス比や燃料比を減らすことはRWガス熱を減らすことであり、図15において、1)炉下部消費熱Qm3を減らす、2)炉下部への原料持込熱Qm1(温度Tcs)を増やす、3)炉下部からのガス流出熱Qcg(=Qg1+Qk1)を減らす、ことである。Qcg(=Cg・Vg・Tcg)は炉下部の無効熱(=着熱しない熱)であり、融着帯通過ガス比Vg(=RWガス比Vgr + 直接還元由来のガス比)を減らすことが有効である。Vgr(=Qgr/Tg)を減らす方法としては、RWガス熱量Qgrを減らすことやRWガス温度Tgを上げることが有効である。
【0085】
図16に、従来高炉と本発明との炉下部熱バランスを示す。
【0086】
ガス還元率が100%近い本発明では、炉下部でのFeO分解熱(FeO=Fe+0.5×O2)や固体酸素によるコークス1次燃焼熱Qk’が不要なため、炉下部消費熱(反応熱、ヒートロス、等)Qm3=Qg3+Qk2 >> Qm’3=Qg’3+Qk’3となる。鉱石軟化温度が本発明の方が従来高炉より100℃程高くTcs < Tcs’なので、炉下部必要熱Qmr=Qm2+Qm3は、本発明の方が格段低い。
【0087】
更には、融着帯通過ガス比Vg>>Vg’なので、炉下部ガス持出熱Qcg=Qg1+Qk1 >> Qcg’=Qg’1+Qk’1であり、結局、固酸による1次燃焼熱QkとRWガス熱量(持込顕熱と1次燃焼熱)Qgrの合計熱量は、本発明の方が格段に低くなる。すなわち、本発明において炉下部燃料比を格段に削減できる。
【0088】
ここで、羽口吹込み燃料に、ガス量V・温度Tの羽口吹込ガス(CO、H2 等)を混合して吹き込む場合の炉下部熱バランス(炉下部着熱量Q)の変化を考える。羽口吹込ガス混合の前後で炉下部からの流出ガス温度Tcgが不変とすると、炉下部着熱量Qは、ガス混合によりΔQ=(T-Tcg)×V が増加する。T<Tcgであれば、ΔQがマイナス(燃料増要因)となるので望ましくない。
【0089】
T≧TcgでもRWガス温度(Tg)は低下するので注意が必要である。図17に本発明の炉下部のReichardt線図を実線にて示す。炉下部への有効着熱量(Qg’2+Qg’3)一定のまま、RW温度Tg’が低下すれば、ガス操作線が実線から二点鎖線に移動し無効熱Qg’1が増加する。従い、同じ有効着熱量ならば、RW温度Tg’は高い(すなわちRWガス量Vg’が少ない)方がコークス比や燃料比削減に優位である。更にTg’が低下し、ガス操作線が二点鎖線より傾きが緩くなり図中のA点を下回れば、もはや原料を出銑滓温度Ti’まで昇温できなくなり操業に支障を来たす。銑滓温度Ti’=1500℃におけるRW温度Tg’の操業上の下限は、炉下部ヒートロスにも拠るが約2000℃である。
【0090】
炉下部で必要な熱量Qh(=Qm2+Qm3)は、前述したように原料の昇温・融解・反応・浸炭・ヒートロスに必要な熱である。本発明においては、鉄鉱石はシャフトにて100%近く還元されるので、炉下部の還元反応は鉄以外の金属(P、Si、Mn等)に限られる。従い、炉下部で必要な熱量Qhは、スラグ比や銑鉄温度、銑滓成分、炉体ヒートロスによっても異なるが700~1200MJ/tp(ヒートロスを除いて650~950MJ/tp)であり、従来高炉の2500~3500MJ/tpと比べて約1/3となる。
【0091】
以上の通り、炉下部の熱バランスの観点からも、炉下部必要熱ならびに融着帯を通過するガス量を、従来高炉に比べて大幅に低減させるようなプロセスに改善したことが本発明の大きな特徴であり、そのことによりコークス比や燃料比の大幅な削減が可能になった。
【0092】
次に、融着帯を通過するガスと原料の温度分布について、熱流比の視点から整理したものを図19(コークス比≒60kgでの試算値)に示す。融着帯通過ガス量V=750Nm3/tpにおいて熱流比=1となり、ガスと原料の温度は約25℃離れた平行線的な変化を示す。V=500Nm3/tpでは熱流比>1となり、下に凸な温度変化となり、低温側(融着帯直上)でガスと鉱石の温度が一致する。一方で、V=1000Nm3/tpでは熱流比<1となり、上に凸な温度変化となり、低温側(融着帯直上)でガスと鉱石の温度が約50℃乖離する。
【0093】
低温側のガスと鉱石の温度差が、図15,16で説明したTcgとTcsの温度差であり炉下部投入熱として無効熱になる。従い、図19において、炉下部への投入熱を削減するには、V=500Nm3/tpが良く、少なくともV≦750Nm3/tpとすることが望ましい。 なお、コークス比が大きくなれば、その分だけ原料の熱容量比(kJ/tp・K)が増加するので、熱流比が釣り合うガス量Vも増え、コークス比200kg/tpでV=900Nm3/tpとなる。
【0094】
また、鉱石は高温になれば軟化し空隙率が低減し通気抵抗が拡大する。100%ガス還元鉱石の軟化開始点=1350℃、溶融点=1450℃とすると、その間の滞留時間が長くなるほど、また、滞留時間当りの平均温度が高い程に通気性が悪化する。従い、融着層の通気性という観点からも、高温での滞留時間を短くすることができる熱流比≧1であることが望ましい。
【0095】
以上の特徴について、炉下部への鉱石顕熱以外の投入熱量(Qk+Qgr)と炉下部必要熱Qhの関係について図18に従来高炉と本発明とを比較して示す。炉下部投入熱(Qk+Qgr)については、ガス還元率95%程度までは本発明の効果を十分享受できる範囲と想定し実線表示し、ガス還元率100%の場合を点線にて表示している。炉下部投入熱量とガス量は炉下部での燃料比と強い相関があるが、本発明においては大幅に低下している。後述の本発明の実施例1~8は、多種多様な燃料や還元ガス組成であるが、その全てが点線内の領域に入っている。
【0096】
従来高炉(例)と本発明(実施例1)の熱量線図を比較すると、それぞれ図22図23となる。縦軸の熱量(GJ/tp)は原料とガスそれぞれの炉内におけるエンタルピー変化(すなわち両者間での熱移動量)を表し、横軸はそれぞれの温度を示す。これらの比較からも、炉下部での熱移動量が、本発明において従来高炉よりも遥かに少ないことが判る。
【0097】
本発明では、前述したように、燃料中C分の1次燃焼に抑えることで、純酸素操業においても燃焼温度を適正に抑える一方で、レースウェイ(RW)温度を2000℃以上に確保する必要がある。つまり、炉下部で使用する燃料は「酸素による1次燃焼温度が2000℃以上になる燃料」を選定する必要がある。例えばメタンは、先に述べたように1次燃焼温度が400℃程度しかないので羽口吹込燃料としては適さない。石炭も包蔵水分や付着水を多く抱えたものは水分の分解熱により1次燃焼温度が低くなるため炉下部燃料には適さない。
【0098】
炉下部で使用する燃料は、炭化水素系燃料(CiHjOk;灰成分(Ash)を除いた成分表示)であれば、式(8),(9)を満たす必要ある。なお、式(8)のj/i、式(9)の(16×k)/(12×i+j+16×k)は共に低い方が望ましい。
【0099】
つまり、コークス比や燃料比を削減するためには、最近の水素還元高炉(CO2削減のため水素主体に還元する高炉法の総称)という言葉とは逆説的であるが、炉下部に使用する炭化水素系燃料は、炭素分の多い燃料が有効であり、それは一重に高い1次燃焼熱が得られるから故である。1次燃焼熱の高い燃料を用いることで、敢えて2次燃焼を減らして1次燃焼主体に留めて純酸素による羽口先の異常燃焼温度を回避しながら炉下部での有効着熱量を効率的に増やすこと、これが本発明の炉下部燃焼の特徴である。
【0100】
なお、炉下部で使用する燃料としては炭化水素系燃料以外に、「銑鉄やスラグを構成する金属単体(Si,Ca,Al,Mg,Fe,Si,Mn)またはその合金鉄」を酸素燃焼することも、非常に有益である。 燃焼に伴う副生ガスが発生しないので、適正量の羽口吹込ガスと一緒に羽口吹込みすることで、任意の所要温度のRWガスを製造できる。また、これらの燃料の副生物が銑滓成分であり銑滓品質に影響がないことがこれらの燃料の選定理由であることは言うまでもない。
【0101】
羽口吹込燃料中の成分に応じて、COまで燃焼(1次燃焼)、または金属燃料を酸化燃焼するのに必要にして十分な酸素を燃料と同時に吹込む。つまり、羽口吹込燃料の成分に応じて、銑鉄1t当たり次式の酸素を吹込むことを特徴とする。
【0102】
[O2]f=0.5×(C1+S1+S2-O1)+S3+1.5×S4 -(12)
【0103】
[O2]f:羽口吹込燃料に応じて吹込む酸素量(O2-kmol/tp)
C1:羽口吹込燃料中のC成分量(C-kmol/tp)
O1:羽口吹込燃料中のO成分量(O-kmol/tp)
S1:羽口吹込燃料中の金属Mg成分(Mg-kmol/tp)
S2:羽口吹込燃料中の金属Ca成分(Ca-kmol/tp)
S3:羽口吹込燃料中の金属Si成分(Si-kmol/tp)
S4:羽口吹込燃料中の金属Al成分(Al-kmol/tp)
【0104】
鉄鉱石中には、ヘマタイト(Fe2O3)の場合で、Fe1トン当たり約300Nm3の酸素(O2)が含まれており、従来高炉(直接還元率が約30%)では約85Nm3/tpの固体酸素が直接還元により炭材を直接消費する。本発明では前述の通りガス還元率を安定的に100%に近づけることができるので、直接還元によりコークスが消費されることは無い。従い、次式のように、銑鉄への浸炭ならびに銑鉄中の鉄以外の金属成分(Si、Mn、P等)の還元に必要な炭素をコークス比から除くだけで、コークスを炉下部で燃焼させるのに必要な酸素を算出できる。
【0105】
[O2]c=0.5×(C2-C3-C4) -(13)
【0106】
[O2]c:コークスに応じて吹込む酸素モル量(O2-kmol/tp)
C2:コークス中の炭素モル量(C-kmol/tp)
C3:銑鉄中の炭素モル量(C-kmol/tp)
C4:銑鉄中の鉄以外金属の還元に必要な炭素モル量(C-kmol/tp)
【0107】
従い、本発明における炉下部で羽口から吹込む酸素量Vo2(O2-kmol/tp)は、両式の合計([O2]f + [O2]c)として次式の通りとなる。
【0108】
Vo2=0.5×(C1+C2-C3-C4+S1+S2-O1)+S3+1.5×S4 -(14)
【0109】
本発明の特徴は、従来高炉では必須である鉄の直接還元による炭材と酸素の消費(鉱石中の固体酸素による炭材の酸化反応)を計算に加味していないことであり、更には、従来高炉と比べてコークス比が極めて少ないので、[O2]f >> [O2]cとなることであり、後述の実施例では、羽口吹込燃料を吹き込まない実施例2、3以外の実施例1、4~8では、[O2]c=0 となっている。
【0110】
さて、羽口吹込ガスの還元ガスとしての品質を100%に管理するのは容易ではなく、結果として羽口吹込ガス中にH2OやCO2が多少残る場合がある。H2OやCO2(合計O2 kmol/tpと仮定)が羽口から吹き込まれれば、その分だけ(O2 kmol/tp)のコークス消費に繋がり、銑鉄中の炭素成分も低下するので、次の対策を行う。
【0111】
1)式(14)のO1と同様に、羽口吹込み酸素を O2/2(kmol/tp)減らす。
2)羽口吹込燃料を炭素成分見合いでO2 (kmol/tp)増やす。
【0112】
いずれも、CO2やH2Oを羽口吹込燃料中の炭素により高温な炉内(≧2000℃)でCOとH2にガス改質されるのでコークス消費を抑えることができる。そして、いずれの場合も、式(14)を次式に変更することで対応できる。
【0113】
Vo2=[O2]f + [O2]c -(15)
[O2]f=0.5×(C1+S1+S2-O1-O2)+S3+1.5×S4 -(15-1)
[O2]c=0.5×(C2-C3-C4) -(15-2)
【0114】
先に述べたように、酸素高炉での羽口先端の異常な温度上昇を抑える一方で、レースウェイ(RW)温度は適切な高温に維持する必要がある。ここでのRW温度は、羽口吹込燃料だけの燃焼ではなく、羽口吹込ガスによる冷却や周囲コークスとのコークスガス化反応や燃焼も含めた平衡ガス温度を意味する。
【0115】
RWから排出されるガスは、銑鉄やスラグを生成・保熱するための高温の熱(高級熱)を材料に伝達する役割を持ち、その熱伝達速度は、ガスと材料(銑鉄やスラグ、コークス)の温度差に比例する。そのため、RWからのガス温は少なくとも材料温度よりも高い必要があり、本発明では図17の説明の通り約2000℃以上(出銑滓温度1500℃前提)に管理されるので、羽口に吹込む還元ガスを1300℃に予熱しても、RW温度と比べて相対的に冷却ガスとして機能する。従い、図17の説明と同様に、炉下部の羽口吹込ガス量には制約がある。
【0116】
ガス還元の促進や還元材比低減のために羽口吹込ガス量を増やす必要性と、RWガス量を制約する必要性と、一見相反する事象を解決する手段が、高さ方向に複数段の羽口を設置する方法である。
【0117】
例えば、高さ方向に二段以上の羽口に分割した例を図2に示す。燃料と酸素については一段目羽口(最下段羽口)2aから吹込み、予熱還元ガスについてはRWを適正温度に保つ量だけを融着帯9よりも下に設置された一段目羽口2aから吹込み、残量を融着帯9よりも上に設置された二段目以上の羽口2b~2eから吹込む。これにより、RW温度を適正温度(2000~2600℃)に保てるだけでなく、還元ガスの温度一定のまま“一段目羽口”対“二段目以上の羽口”への還元ガス分配比を変更することで、全系の熱物質収支(含、還元材比)を変えずに、炉況調整の重要因子であるRW温度やRW風量を調整できる画期的な方法である。なお、予熱還元ガスの温度は、図14~16で説明したように融着帯直上の鉱石温度(1200~1350℃以上)であることが望ましい。
【0118】
更に、本発明の複数段羽口方式は、中心コークス装入法のように融着帯を逆V字型に確保する効果があり、そのことで炉内の通気性が確保できるという特徴がある。
【0119】
その原理は、図2に示すように、一段目羽口2aにより形成されるレースウェイ(RW)3から高温ガス(2000~2600℃)が発生し、二段目羽口2bから中温ガス(1200~1350℃)が吹き込まれ、三段目羽口2cから中低温ガス(800~1100℃)が吹き込まれる構造にあり、必然的に一段目羽口が形成するRW由来のガス3aが炉中心側を上昇し三段目羽口由来のガス3cが炉壁側を流れ、二段目羽口由来のガス3bはシャフトの中間部を流れることになる。つまり、一段目羽口/二段目羽口/三段目羽口のガス温度差は、炉半径方向の温度差に置き換わる。
【0120】
同じガス成分でガス温度が高いということは、還元反応速度や昇温速度が大きいことを意味するので、相対的に温度が高い炉中心側の鉱石は、温度の低い炉壁側の鉱石よりも早いタイミングで融点に達する。半径方向の鉱石降下速度は概ね同じなので、早いタイミングとは炉の高い位置(装入口に近い)を意味する。逆に、炉壁側は遅いタイミングで、つまり炉の低い位置(装入口から遠い)で融点に達する。従い、融着帯は通気性の優れた逆V字型を形成することになる。ゆえに、各羽口の温度と風量ならびに、一段目羽口/二段目羽口/三段目羽口の風量比率や温度比率、羽口間距離によって、逆V字型の形状や炉内温度分布が決定される(図3参照)。
【0121】
一段目羽口(最下段羽口)と二段目羽口との間に融着帯が形成されるので、二段目羽口と一段目羽口を近づけて設置することで、融着帯位置を炉内下方に固定できるので、炉高さを低くすることができる。逆に、同一炉高さであれば、予熱帯、還元帯を長く取れるので生産性を高めることができる。その点において、二段目羽口2bの設置場所は、図2に示した「2b設置推奨範囲」すなわち朝顔(ボッシュ)14の中間位置から炉腹(ベリー)13の上端までが良い。逆に、三段目羽口は、前述したように1000℃未満(900℃以下が望ましい)でのガス還元時間(滞留時間)を長くするために、中間部の下側に位置するシャフト下部の「2b設置推奨範囲」の上側に位置する、図2に示した「2c設置推奨範囲」に設置されるのが望ましい。
【0122】
以上は三段羽口に対しての説明であるが、二段羽口においても(効用に多少の優位差はあるとしても)同様の効果が得られるのは説明の主旨から明らかである。 次に、設備的に複雑な三段目羽口を敢えて採用することが合理的になる場合について熱バランスの観点から説明する。
【0123】
まず、二段目羽口の吹込み温度を1200~1350℃(高い方が望ましい)とするのは、前述のように、炉下部の熱消費量を削減するために鉱石温度を融着帯に近い温度まで昇温するためである。次に、炉頂温度はガスが結露しない範囲でなるべく低い温度がエネルギー原単位的に望ましく、120~180℃で操業する高炉が多い。
【0124】
さて、ガス還元率100%操業において、羽口吹込み燃料やコークス比が決定されると融着帯通過ガス比Vg(Nm3/tp)が付随的に決まるので、ガス還元率100%のRistモデル操業線から、二段目以上の羽口から吹込む還元ガス量(V23)が想定シャフト効率に応じて一義的に決定される。
【0125】
二段目羽口吹込み温度は、炉下部の熱バランス視点では1300~1350℃が最善でも、炉頂ガス温度やW点温度(Tr)、ガス還元終了温度の管理上1200℃未満の温度(T23)で吹込みたい場合がある(後述の実施例1や8など)。このような場合に3段羽口が有効であり、ボッシュ部の二段目羽口からガス量V2を1300℃(T2)で吹込みながら、シャフト下部に設置する三段目羽口からガス量V3を1100℃以下のガス温(T3)で吹き込むのである。 これらのガス量と温度は、比熱一定とすれば次式の関係となる。
【0126】
V23=V2+V3 -(16)
T23×V23=T2×V2+T3×V3 -(17)
【0127】
但し、二段目羽口のガス量V2は、融着帯通過ガス比Vgとの合算ガス量(Vg+V2)がコークス比に応じて750~1000 Nm3/tp程度になるように管理することが望ましい。これは、前述の図19の説明と同様に熱流比に関係しており、熱流比>1(原料に対するガスの熱流が低い)だと、二段目羽口ガス温度まで原料を加熱できず炉下部必要熱が増加し、熱流比≦1でも、W点温度(Tr)やガス還元終了温度を低下させるには、二段目羽口流量は少ない方が良いためである。
【0128】
COによるガス還元と異なり、H2によるガス還元は吸熱反応のため、羽口吹込み燃料や羽口吹込みガス中に水素成分が多い場合(吸熱還元)やコークス比が高い場合(熱流比増加)には、炉頂ガス温度が低下する。そのような燃料組合せの場合(実施例2,4~7)には、一段目/二段目羽口の吹込み量を炉頂ガス昇温目的で増やす(結果、還元ガスが増えるのでシャフト効率は低下する)か、図2に記載の予備還元羽口2dや原料予熱羽口2eを利用して鉱石を昇温する。
【0129】
予備還元羽口2dは、Ristモデル上のM点(マグネタイトの還元開始点)とW点(ウスタイトの還元開始点)の間に設置する羽口であり、図2に示した「2d設置推奨範囲」であるシャフトの中間部からシャフト高の±1/6の範囲に設置する。水素還元は吸熱反応であり、その熱はガスから与えられるため、水素リッチな燃料では炉頂温度とW点温度(Tr)の温度差が大きくなる。Trの上昇を抑えるため、反応熱や昇温熱を補給する羽口として、予備還元羽口が有効である。
【0130】
予備還元羽口は、W点まで予備還元できれば良いので、ガスの還元度はマグネタイト還元平衡以上であれば良い。水素リッチな操業では炉頂ガス中の水分が高くなるので、従来高炉同様に炉頂ガスを洗浄冷却すれば簡単に粗脱水できてガス還元度を高めることができる。従い、洗浄冷却後のガスを再循環利用し、酸素で部分燃焼させたガスを同羽口から吹込む。コークスガス化防止の観点から予備還元羽口のガス温度は1000℃以下(900℃以下が望ましい)とする。
【0131】
複数段羽口のメリットは、炉頂温度は勿論のこと、W点温度(Tr)ならびにガス還元終了温度を意図的に調整可能なことが、プロセス上の特筆すべき点である。後述の実施例1では、三段目羽口の利用により還元終了温度をコークスガス化反応が起こり難い918℃に抑えることができた(図追23参照)。更に実施例1-2では、予備還元羽口も併用することで一段目/二段目羽口2a,2bの吹込み量を熱流比1にまで減らし(その分を三段目羽口で増量)、実施例1と同じ炉頂温度のまま、W点温度(Tr)と還元終了温度を100℃以上低下させることができた(図23の一点鎖線)。
【0132】
以上のように、一段目羽口2a、二段目羽口2bからのガスの吹込み量を減らし、三段目羽口2cからのガスの吹込み量を増やすガス流量の制御およびこれに伴うガス温度の制御、燃料供給量の制御を行うことで、実施例1に示したように、W点温度(Tr)ならびにガス還元終了温度を低減することができる。さらに、前記三段目羽口2cのガス温度を下げて、予備還元羽口2dからもガスを吹込み、その吹込み量を制御することで、実施例1-2に示したように、W点温度(Tr)ならびにガス還元終了温度をさらに低減させる制御が可能になっている。
【0133】
本実施形態の操業システムは、それぞれ高炉の炉体1の内部に還元ガスを吹き込むべく構成された複数の羽口2であって、炉体1の周方向に間隔をおいて並べられた羽口よりそれぞれなる羽口群2a,2b,2c,2dであって、炉体1の高さ方向(図2中の上下方向)に離れて配置された3以上の羽口群2a,2b,2c,2dならびに前記羽口群毎の流量計測機器と前記羽口群毎の流量調整機器から構成される羽口吹込ガス流量調整システムと、流量計FI7で炉頂ガス流量を、成分系CA8(H2O以外)ならびに流量計FI8、温度計TI8、圧力計PI8で炉頂ガス酸化度を、温度計TI7で炉頂温度を、温度計TI5でシャフト12の中間部の温度を、それぞれ計測して、図4中で、加熱器入口のガス成分CA9とガス流量FI9、ならびに加熱器出口のガス成分CA11とガス流量FI11を計測して、必要量の燃料および酸素Oが供給される外部燃料供給システム、加熱器24を含む加熱システム、ならびに前記羽口吹込ガス流量調整システムを制御するべく構成された制御システムと、を備える。この操業システムであれば、ガス還元率を100%近くまで高めることができ、さらに、三段目羽口2c、予備還元羽口2dから吹き込むガス量、温度、燃料量を制御して、炉頂温度を適正に維持しながら、上記のW点温度(Tr)ならびにガス還元終了温度の温度制御を600℃以上1000℃以下の範囲で行うことができる。
【0134】
なお、羽口吹込ガス流量調整システムを構成する羽口群毎の流量計測機器とは、それぞれ、図4に示された羽口群2bの流量を計測する流量計FI12、羽口群2cの流量を計測する流量計FI13,流量計FI14、羽口群2aの流量を計測する流量計FI11(からFI12とFI13を差引いたもの)、羽口群2dの流量を計測する流量計FI5,流量計FI6,質量流量計WI6である。
【0135】
また、羽口吹込ガス流量調整システム羽口群毎の流量調整機器とは、図4に示されるように、各流量計の下流側に設けられた流量調節弁である。
【0136】
なお、温度範囲の下限が600℃以上であることは、鉱石温度が600℃以上でないと実質的に還元反応が進み難いためであり、温度範囲の上限が1000℃以下であることは、それ以上の温度ではコークスガス化反応が活発化するためであり、この温度範囲で温度が制御されるものである。
【0137】
原料予熱羽口2eは、予備還元羽口2dよりもシャフト上方のシャフトの上部1/3に設置する羽口であり、予備還元は期待しない羽口であり原料予熱と炉頂温度管理を目的として設置するものである。ガス還元を期待しないので、利用するガスのガス還元度が低くて良いというメリットがある。なお、機能的には予備還元羽口が原料予熱羽口を包含し、特に水素リッチな操業においては、上述したように予備還元羽口を利用するメリットが大きい。
【0138】
従来高炉法では、融着帯より下方(炉下部)での直接還元が不可避であることは勿論であるが、炉下部へのFeOの存在は、ガス還元も同領域まで発生しコークスガス化反応も不可避的に発生していることを意味しており、これらは熱物質収支的には直接還元と全く同じである。コークスガス化反応は、コークス内部で発生するため、炉下部で重要なコークス強度を著しく悪化させることが知られており直接還元よりもコークス劣化影響が大きい。それにも拘わらず、これまで数多く提案されてきた酸素高炉法も直接還元率0%のものはなく、ガス還元中や還元後のコークスガス化抑制方法の示唆も無かった。
【0139】
本発明では、以上の説明の通り、燃料と還元ガス吹込、炉頂ガスの管理により、コークスガス化反応が速度論的に実質抑制可能な温度(約900~1000℃以下)でガス還元を終了させることで、ガス還元率を100%に限りなく近づけることが大きな特徴である。
【0140】
次に、本発明における炉体の通気性(融着帯、ボッシュ~炉底、塊状帯)について説明する。
【0141】
融着帯の通気性(通気圧損)は、前述の融着帯の形状以外に、融着帯を通過するガス量と融着帯の通気抵抗により決定される。つまり、融着帯を通過するガス量を減らすことが通気圧損を低下させることができ、融着帯の通期抵抗を下げることで同じガス量でも通気圧損を低下させることができる。
【0142】
融着帯を通過するガス量について、本発明が従来法に比べて大幅に削減できることは、図14図16で既に説明した。他方、融着帯の通気抵抗に関しては、非特許文献3に「(1)鉱石層の軟化収縮現象により圧損上昇が始まる温度は、鉱石還元率に大きく依存する(鉱石還元率が100%に近づけば >1300℃となる)。(2)融着層の圧損勾配(単位厚み当りの通気圧損)が、鉱石還元率が約70%の従来高炉とガス還元率が100%に近い酸素高炉では大きく異なる(前者では鉱石層の圧損勾配の100倍に上昇するが、後者では鉱石層の10倍の上昇に留まる)。」ことが示されている。
【0143】
(1)より、複数段羽口を備えた酸素高炉において、一段目羽口の先に2000~2600℃のレースウェイを形成させ、二段目羽口から100%ガス還元率に必要量のガスを1200~1350℃で吹きこめば、鉱石軟化点(約1350℃)を内包した融着帯が、一段目羽口と二段目羽口との間に安定的に形成される。
【0144】
同融着帯には、その温度的な形成理由から二段目羽口からのガスは通過せず、一段目羽口(レースウェイ)由来のガスのみが流れる。更に、酸素高炉では窒素フリーなため炉内ガス量が低減されるので、例えば、後述の表4、図6に示す実施例1の場合、融着帯を通過するガス量は約500Nm3/tpであり、同表の従来高炉(例)の約3割になる。一方で、実施例1のコークス比(銑鉄への浸炭と鉄以外の金属還元に必要な理論限界コークス比)は従来高炉の約2割であり、融着帯に占めるコークススリットの割合が比例して減少する。
【0145】
高炉充填層部の圧損勾配は、次式で表すことができ(非特許文献6~8)、鉱石層やコークス層、コークススリットや融着層にも適用できる。
【0146】
ΔP/L ∝ ρ-1・K・G1.7 -(18)
【0147】
ΔP :圧力損失(Pa/m)
L :層の高さまたはガス通過長さ(m)
ρ :ガス密度(kg/m3)
G :空塔質量流量速度(kg/m2・s)
K :通気抵抗指数(次表参照;非特許文献3、12、14より)
【0148】
【表1】
【0149】
式(18)に従い、従来高炉(例)の融着帯の通過ガス量(図1のコークススリットを通過するガス4aと融着層を通過するガス4bの合計)から圧力損失を求め、それと同じ圧力損失となる本発明(本実施例1)の融着帯通過ガス流量(Nm3/tp)を求めると表2の通りである。なお、融着帯の厚みLについては、図19と同様の熱計算にて、従来高炉の厚みは本発明の2倍としている。また、従来高炉(例)において、30Nm3/tpを融着帯の上方でのコークスガス化反応由来のガスとして炉頂ガス量から減じている。
【0150】
【表2】
【0151】
従来高炉(例)と同じ融着帯圧力損失の時、実施例1のコークススリット流量はコークス比に応じて低下するが、融着層流量が大きく増加するので、合計で熱物質収支上の所要量である500Nm3/tpの約2.7倍のガスが流れる。これは、所要流量であれば、圧力損失が従来高炉(例)の2割まで低下することを意味する(式(18)より)。なお、本発明の融着層は還元率100%に近い鉱石で形成されるので、従来高炉でみられる融着層からの溶融物(未還元FeOによる低融点化合物)がコークススリットに垂れて通気性を阻害する現象は抑制できるので、コークススリットの厚み比率で通気量を算出している。
【0152】
上述のように、本発明ではコークス比を極限まで減らすので、副原料込の装入鉱石(O)と装入コークス(C)の割合も、従来高炉(例)のO/C=5に対して実施例1のO/C=28と大きく異なる。従い、装入原料に占めるコークスの割合C/(O+C)が、実施例1で3.5 wt%であり、従来の鉱石・コークス混合装入の知見の範囲で全量の(O+C)を混合装入できる。
【0153】
鉱石・コークス混合装入は、融着帯の通気性改善等を目的に鉱石(O)の中に予め小粒コークス(C)を数%~10%混合して装入する方法であり、広く知られている。小粒ではない塊コークスを混合するケースも非特許文献14に、物理的特性や高温特性、装入方法、等が示されている。
【0154】
コークススリットの最大長所は融着帯の通気性確保であり、ボッシュガス(融着帯に流入するガス)を通気性の悪い融着層をバイパスさせてコークススリットを通過させることにある。裏返しに、主なガスが融着層をバイパスするので、両者の熱交換効率が悪く図16で説明したような欠点(炉下部無効熱の増加)がある。熱交換が悪いため、融着層の厚みが長くなり圧損も増加する。
【0155】
本発明においては、コークス比が低く、かつ融着層の通気性も高いので、後述の表2の通り融着層内にコークススリット以上のガスが流れるので、従来高炉の欠点は飛躍的に解消される。更に、それを発展させ、ボッシュガスの全量を融着層に通気させるのが本発明の全量混合方式である。
【0156】
表3に従来高炉(例)の炉内圧力分布(kPa)ならびに、実施例1の原料を層状装入した場合と、全量混合装入した場合(コークススリット無し)の炉内圧力分布を比較して示す。なお、銑鉄1t当りの装入原料容積(m3/tp)は、コークス比によって異なり、例えば実施例1では従来高炉(例)の7割になるので、ここでは塊状帯の滞留時間が一定になるように塊状帯高さ7割として計算している。また、滴下帯での圧力損失を正確に算出するのは難しいので、従来高炉の同部圧損を60kPaとした上で、Ergun式が充填層内液滞留率を用いて拡張できるものとし(非特許文献7)、質量速度の1乗項だけに簡便化し、従来高炉と比較計算している。ただし、表3に示した質量速度の1乗項だけに簡便化して圧損算出した計算結果は、簡便化しない場合の結果よりも比較計算で実施例1に不利な計算結果がでる計算方法になっている。
【0157】
【表3】
【0158】
実施例1のコークス比は従来高炉(例)の約1/5であるが、いずれの装入方法においても、従来高炉(例)よりも通気性が大きく改善し、本発明の優位性を示す結果となっている。通気圧損の低下と滞留時間の増加は、裏返せば増産余地であり、既設高炉を圧力や炉高さ不変のまま本発明を適用すれば4割以上増産可能である。4割増産できれば、炉下部ヒートロス比(MJ/tp)が3割削減でき、その分の炉下部必要熱が低下し、燃料比を更に削減可能(実施例1で10kg/tp削減可能)であり、CO2削減という観点からもメリットが大きい。
【0159】
ところで、炉下部の通気性については、圧損だけではなく、フラッディング(液の吹上げ現象)防止が、もうひとつの重要な操業指針であり、従来高炉では、フラッディング因子(縦軸)とフルイド比(横軸)の対数表示で整理されるフラッディング限界曲線(右肩下がりの曲線)よりやや低い点で操業されている(非特許文献7,8)。空塔液流速v0(∝出銑比)が一定のまま空塔ガス流速u0(∝融着帯通過ガス比)が減少すれば、フルイド比(∝ v0/u0)は増加するが、フラッディング因子(∝u0 2)が2乗で減少するので、右肩下がりのフラッディング限界線の傾きよりも2倍の傾きで下方に離れた安定した操業が可能になる。
【0160】
本発明においては、炉下部のガス流速が従来高炉の1/2~1/3程度に低減されるため、フラッディングとは無縁の操業となる。従来高炉においては、フラッディングが出銑比を決定づける要因となっていたが、この点においても、本発明では従来高炉よりも出銑比を増やすことができる。
【0161】
ガス還元率を100%近くに保ち、燃料や酸素を適正に制御する手段について図4に示す。計測項目は次の通りである。(カッコ付き番号は図4の計測器番号と呼応)
【0162】
(1)鉄鉱石中[O]成分、副原料中[CO2]成分 (CA_1)と投入速度(WI_1)
(2)コークス中[C][H][O]成分(CA_2)と投入速度(WI_2)
(3)銑鉄の温度(TI_3)と[C]成分(CA_3)
(4)羽口吹込燃料の[C][H][O]成分(CA_4)と投入速度(WI_4)、酸素流量(FI_4)
(5)予備還元羽口下部の炉内温度(TI_5)と同羽口への炉頂ガス再循環流量(FI_5)
(6)予備還元羽口吹込燃料の[C][H][O]成分(CA_6)と投入速度(WI_6)、酸素流量(FI_6)
(7)炉頂ガス流量(FI_7)と温度(TI_7)、ガス圧力(PI_7)
(8)除塵・除湿後の炉頂ガス流量(FI_8)と温度(TI_8)、ガス圧力(PI_8)、ガス成分(CA_8)
(9)CO2分離後の炉頂ガス流量(FI_9)とガス成分(CA_9)
(10)炉頂ガスに混合する燃料の[C][H][O]成分(C10_10)と投入速度(WI_10)、酸素流量(FI_10)
(11)加熱器出側ガスの流量(FI_11)、温度(TI_11)、圧力(PI_11)、[CO2]成分(CA_11)
(12)二段目羽口吹込ガス流量(FI_12)
(13)三段目羽口へ送る高温ガス流量(FI_13)と吹込み前温度(TI_13)
(14)三段目羽口へ送る低温ガスの流量(FI_14)と温度(TI_14)
(15)炉頂ガスから系外に抽出されるガス流量(FI_15)
【0163】
炉頂ガス中のH2O成分については、直接計測は難しいが、炉頂ガス(除塵・除湿後) (8)の蒸気圧からガス(8)のH2O成分を求め、(7)と(8)のモル流量から炉頂ガス(7)中のH2O割合を特定できる。結果、(8)にガス成分計測と併せて、炉頂ガス(7)として排出されるCO、CO2、H2、H2O、N2モル流量を特定できるので、燃焼(6)や副原料(1)から生じるCO2とH2Oを差引けば、炉内ガス還元反応によって生じたCO2とH2Oのモル流量Xが特定できる。一方で、ガス還元率100%とは、COやH2だけで鉄鉱石を還元して(すなわち鉄鉱石中の酸素を取り除き)CO2やH2Oを生み出すことであり、(1)により鉄鉱石中のO(酸素)モル流量Yが特定できるので、ガス還元率RDg=X/Y=1に近づくように、式(6),(7)をフィードバック指針にして、ガス(9)流量(FI_9)と燃料(10)投入速度(WI_10)を調整する。
【0164】
ここで、酸素(10)流量(FI_10)は、CO2分離設備後のガス(9)のCO2モル流量とH2Oモル流量、並びに燃料(9)中のC、H、Oのモル流量に応じて加熱後のガス品質が最善となる(COとH2だけで構成される)ように式(11)に従い調整する。
【0165】
高炉のガス還元部だけを取出したような製鉄方式が、直接還元製鉄法である。直接還元法により製造される還元鉄(DRIやHBI)の還元率は100%ではない(95~97%程度)。これは、ガス還元速度は温度が高い方が早いにも拘わらず、スティッキング抑制を目的に鉱石温度を900℃程度以下に抑えていることが主な理由であり、本発明では、スティッキング制約は無く融着帯直上温度(約1300℃)までガス還元可能なことから、100%近い還元率の鉱石が炉下部に供給できる。但し、最終還元が1000℃以上になれば、ガス還元で発生するCO2やH2Oによりコークスガス化が発生するので、二段目/三段目羽口流量や予備還元羽口や原料予熱羽口で炉頂温度調整を行うまでは見掛けガス還元率は100%にならない。
【0166】
また、必ずしもガス還元率100%の達成だけが合理的な操業目標ではない。特に、シャフト効率が低くなれば、外部燃料や循環ガス量が増加し、炉頂ガス顕熱ロスや加熱器投入熱、ガス処理エネルギーなど、全体的なエネルギー効率低下に繋がる。従い、ガス還元率RDgと並行して、シャフト効率の管理が重要である。シャフト効率の厳密な管理は容易ではないが、本発明においてはガス還元率が高いので、シャフト効率と炉頂ガス量との相関が強く操業的には炉頂ガス流量(FI_7)を管理すれば良いので容易である。
【0167】
一方、上記で求めた炉頂ガス(7)のCO、CO2、H2、H2O、N2モル流量と炉頂ガス温度(TI_7)から、炉頂ガス(7)のエンタルピー流量Q7(顕熱と潜熱)が算出できる。同様に加熱器出口ガス(11)のエンタルピー流量Q11(顕熱と潜熱)が算出できる。ヒートロスも含めた高炉本体での銑鉄製造エネルギー量Qnetは決まっているので、炉内に投入される燃料の必要合計エンタルピー流量Qfuelは、「Qfuel=Qnet+Q7-Q11」と一義的に決まる。ここで、Qfuelには、燃料(4)投入速度(WI_4)からの潜熱流量Q4と燃料(6)投入速度(WI_6) からの潜熱流量Q6が含まれ、その他にも、コークス(2)中のCモル流量から銑鉄(3)中に溶け込むCモル流量を差引いた分に相当する潜熱流量Q23が含まれる。つまり、「Qfuel=Q4+Q6+Q23」となる。
【0168】
軟化開始から銑鉄やスラグを作るのに必要な熱は、2000℃以上の高温(高級熱)でなければならず一段目羽口燃料とコークスの1次燃焼として与えられる(Q4+Q23)。また、還元反応速度は温度が高い方が早く、そもそも鉱石が600℃以上に予熱されないと実質的に反応が進み難い。従い、銑鉄(1)の温度(TI_3)や炭素成分(CA_3)、予熱羽口下(5)温度(TI_5)が所要値になるように、コークス(2)流量(WI_2)や燃料(4)流量(WI_4)を調整する。この際に、酸素(4)流量(FI_4)を式(10)に示したように調整し、一段目羽口と二段目以上羽口の分配比をレースウェイ温度が適正であるように調整する。
【0169】
最後に、炉頂ガス(7)温度(TI_7) ならびに予備還元羽口下(5)温度(TI_5)が所要の温度となるように調整する。
【0170】
まず、炉頂ガス温度が高くなる原料・燃料の組合せの場合(炭素成分が多い場合)には、予備還元羽口2dは原則使用しない。加熱器出口ガス(11)温度(TI_11)を高温に保ち、一段目羽口2a/二段目羽口2bだけで吹込み、炉頂温度が適正範囲内であることを確認する。 炉頂温度やシャフトの中間部の温度(TI_5)が高ければ、図4に示すように加熱器出口ガスと加熱器入口ガスから、それぞれの流量(FI_13)、(FI_14)を分配してから混合し、三段目羽口2cから温度(TI_13)で吹き込む。これにより、吹込み還元ガス量不変のまま、炉頂温度(∝炉頂ガスの顕熱ロス)やシャフトの中間部より下方の温度(∝Tr温度や最終還元温度)を下げることができる。
【0171】
次に、炉頂温度が低くなる原料・燃料の組合せの場合(水素成分が多い場合)には、三段目羽口2cの代りに予備還元羽口2dを使用する。一段目羽口2aと二段目羽口2bから所要の還元ガス量を吹込んだ上で、炉頂ガス(7)温度が所要の温度になるように、予備還元羽口の燃料(6)流量(WI_6)と酸素(6)流量(FI_6)を調整し、同時に、予備還元羽口からの混合ガス温度が700~900℃になるように、炉頂再循環ガス(5)流量(FI_5)を調整する。シャフトガス中に水素成分が多い場合、原料予熱や予備還元熱を追加供給することにより炉頂温度だけではなくRistモデル上のW点(FeOの還元が始まる点)を右側にシフトさせる効果があり、還元ガス量の低減や最終還元温度の低温化(コークスガス化反応抑制)に繋がる。
【0172】
予備還元羽口2dと併用または代りに、原料予熱羽口2e(図2参照)を利用し燃料に水素を使って完全燃焼させれば、後段の除湿器(ガス洗浄冷却器を含む)にて水として循環ガスから除去できるので、原料予熱羽口燃料の影響を炉頂から除湿器に限定することができる。以上の通り、本発明により、今までの高炉とは格段に低いコークス比や燃料比においても、安定的で容易な操業が実現可能である。
【実施例
【0173】
本発明の実施例の原単位や温度を従来高炉の例と比較して表4~7に示す。
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
【表6】
【0177】
【表7】
【0178】
表4~7の従来高炉例、実施例1~8のフロー図をそれぞれ図5~13に示す(実施例6と7は図12に対応)。図中の数字は銑鉄1t(1000 kg)を製造する原単位を示しており、表4~7に示す原単位の一部になる。各原単位は、Ristモデルや熱平衡計算を含めた各ゾーン毎の熱物質収支モデルを使って算出したが、除湿器、CO2分離装置、ガス改質、CO2リサイクル設備については、反応効率を100%として原単位算出している。
【0179】
実施例1は、コークス使用量を浸炭ならびに非鉄金属の還元に必要なコークス量に限定した究極コークス比の実施例であり、グラファイト(Graphite)を燃料として使用する例である。加熱器24で炉頂ガスに混合される燃料や、加熱器での加熱用燃料には炉頂ガスを利用し、原料予熱用燃料に水素を利用することで、系内に入る(=系外に排出される)炭素源を必要最小限コークスのみとしている。
【0180】
炉頂ガスは、除塵された後に、除湿器21にてH2Oを除去され、CO2分離装置22でCO2を分離され、残りの成分(CO,H2,N2)は加熱器24に送られる。CO2は系外のCO2リサイクル設備25に送られ、図示されていないメタネーション反応(CO2+4H2=CH4+2H2O;発熱反応)によりCH4に転換された後に、図示されていないグラファイト転換設備(例えばHAZERプロセス)でC(グラファイト)に再転換されたものを、一段目羽口2aから炉内に再投入する。
【0181】
加熱器24は、従来高炉例(図5)の熱風炉23と同様の蓄熱炉であり、加熱用燃料には石炭やコークス中に含まれる窒素やユーティリティとして内部に混入する窒素が循環により濃縮するのを防ぐために、除湿器21の後段から抽出された炉頂ガスが使われ、火炎温度調整目的で燃焼排ガスと混合され燃焼室(図示せず)で酸素燃焼され、蓄熱室(図示せず)を経由し、CO2リッチな排ガスとして必要に応じて除湿器21を通してから、CO2リサイクル設備25に送られる。不純ガスであるN2は、炭酸液化する過程(図示せず)で系外に排出されるので、全体系としてN2が濃縮されることはない。CO2分離装置22からの炉頂ガスは、ガス圧縮機31で昇圧された後に、予熱済の別の蓄熱室(図示せず)を通過し所定温度まで予熱され、各羽口に供給される。
【0182】
以上、化石燃料として必要最小限のコークスのみが投入されるが、それ以外の燃料は循環燃料ならびに水素で賄われ、系外設置されるCO2リサイクル設備を含めればCO2を大気中に一切排出しないシステムである。
【0183】
実施例1-2は、W点温度(Tr)と還元終了温度を実施例1より低下させるため、三段目羽口と一段目羽口の吹込量を増やして二段目羽口を削除し予備還元羽口を設置した例である。設備簡略化のため二段目羽口を削除したが、一段目羽口を158Nm3/tpに戻して、二段目羽口を250Nm3/tp吹込んでも良い。両実施例共にコークスガス化反応を想定していないので、試算上は実施例1の方が、化石燃料使用量が僅差で少ないが、W点温度(Tr)と還元終了温度の差異から実操業では実施例1-2が優位になる可能性もある。
【0184】
三段目羽口温度を加熱器出口温度より低下させる方法として、図7では加熱器入口ガスと加熱器出口ガスを混合しているが、水素供給圧力が高ければ加熱器入口ガスの代りに水素を直接混合しても良い。
【0185】
実施例1-3~1-5は、実施例1の鉱石の一定割合を金属鉄(DRIやスクラップ)に置き換えて装入する実施例であり、実施例1-3、1-4では金属鉄20%、1-5では36%としてある。金属鉄は還元不要であり酸素も含んでいないので鉄1トン当たりの熱容量が小さいため、シャフトでの熱流比が下がるので、酸素高炉や水素還元による熱流比増(シャフト)を相殺する効果がある。また、還元不要なので、シャフト(塊状帯)の還元ガス量を減らせるが、炉下部の熱収支は変らないので燃料比は殆ど変らないという特徴がある。
【0186】
実施例1-3は、実施例1の鉄鉱石を20%金属鉄に置換した試算であり、二段羽口の実施例でもあるが、W点温度(Tr)が高く(988℃)、還元終了温度は1000℃超になるので、コークスガス化反応(=見掛け上の直接還元)が不可避である。コークスガス化反応を抑えるため、三段目羽口と予備還元羽口を併用し、Tr=851℃と還元終了温度=890℃としたのが実施例1-4である。
【0187】
実施例1-5は金属鉄割合を更に増やした例であり、塊状帯が更に冷えて全予熱還元ガスを一段目/二段目羽口から吹込んでもTrが所要の温度に入るようになるが、炉頂温度も低下するので予備還元羽口が必要になっている。
【0188】
実施例2は、実施例1の羽口吹込燃料(CO2リサイクル燃料)を使用しないケースである。従来高炉と同様にコークスを燃焼熱源や還元ガス発生源として利用するためコークス比は実施例1よりも高いが、微粉炭を190kg/tp使用している従来高炉(例)と比べても、コークス比で58%、燃料比(還元材比)で36%に低減している。
【0189】
実施例3は、実施例2における燃料を水素からメタンに変更したケースである。CO2削減のために水素活用は不可欠だが、水素製造設備や輸送システム等のインフラが整備されるまで水素は活用し難い。そこで、LNGを含めて入手性が高いメタンを利用したケースを示した。従来高炉や他方式(非特許文献5)では、メタンを羽口燃料として炉内に直接吹込むが、本実施例では、蓄熱式の加熱器内で部分燃焼(1次燃焼;COとH2を生成)させて炉頂ガスに混合する(図9)。
【0190】
水素の代りにメタンを利用することで、実施例2より吸熱反応が減り2段式羽口でも適正な炉頂温度を維持できるが、W点温度(Tr)が966℃と高いことが判ったため、敢えて予備還元羽口を利用することでTrを100℃以上低減したケースを実施例3-2として示した。コークス消費量は実施例2より少ないが、水素の代りにメタンを利用することでCO2リサイクル効果を除いたCO2排出量は実施例2よりも多いが、従来高炉例と比べて約46%削減(実施例3-2)できる。
【0191】
本発明は、炉頂ガスを再循環しない場合にも適用できる。実施例4(図10)は、実施例1の羽口ガスに炉頂ガスを利用せずに全量外部水素を利用するケースである。炉頂ガス(主成分は、H2、H2O、CO、CO2)は、ガス洗浄冷却器21aを経て副生ガスとして系外の発電設備26の燃料として利用され、H2OとCO2として排気される。同排ガスは除湿器21にてH2Oが除去されCO2ガスとなり、CO2リサイクル設備25にてグラファイト(C)に転換され、羽口吹込燃料として再利用される。前記発電設備26で発電された電力は、高炉で必要なH2やO2を製造する水素・酸素製造設備27にて利用される。CO2を大気中に一切排出しないシステムとなっている点は実施例1と同様であるが、炉頂ガスを高炉内で再循環しないことで、高炉側にも系外にもCO2分離設備が不要なシステムとなっていることが特徴である。
【0192】
以上の実施例は一例に過ぎず、燃料としても水素(H2)やメタン(CH4)、グラファイト(C)を利用した例を示したが、従来から利用してきた重油や微粉炭、廃プラスチックは勿論、バイオマス燃料、コークスガス(COG)、転炉ガス(LDG)、CO2転換燃料(気体、液体、固体)、金属系燃料、コークス粉など、あらゆる可燃燃料が利用できる。
【0193】
金属マグネシウム(Mg)、金属カルシウム(Ca)、金属珪素(Si)をスラグ成分比で配合した金属燃料(粉状)を利用したケースを実施例5(図11)として示す。
【0194】
最下段羽口から金属燃料や酸素と一緒に適量の羽口吹込ガスを吹込むことで、適正なレースウエイ温度(実施例5では2383℃)を確保しながら炉下部(融着帯以下のゾーン)で必要な熱量を供給することができる。鉄鉱石は外部供給される水素により還元され、水素還元率が100%近く(約97%)まで高まり、文字通りの水素還元高炉となっている。炉内でコークスや化石燃料を燃焼しないので、炉頂からCOやCO2が殆ど排出されない(非鉄金属の還元から発生する分のみ)ため、CO2分離設備やCO2リサイクル設備も不要という画期的なシステムの実施例である。
【0195】
実施例5において、非鉄金属還元時に発生するCOガスや僅かにでも入ってくる不純ガス(N2等)の濃縮防止のため、実施例1や3と同様に炉頂ガスの一部を加熱器燃焼ガスとして抽出している。本実施例では、加熱器燃焼排ガス中のCO2含有量が僅か(数%vol)なため、ガス煙突28からガス放散しているが、脱湿装置を設置してCO2回収することもできる。また、炉頂ガスに僅かとは言えCO2が含まれるため、加熱器後段でCH4を吹込みガス改質することで炉下部でのCO2によるコークスガス化反応を抑えている。
【0196】
なお、吸熱反応である水素還元率が97%と高いので、塊状帯での温度低下を抑えて還元反応を促進するために、二段目羽口吹込量を増やし(シャフト効率は下る)、更に、予備還元羽口から還元ガスを積極活用している。この操作により、シャフト上部の熱流比が0.6近くまで低下し炉頂温度が多少上昇するが、水素還元率が97%という中で、還元開始温度≧650℃、還元終了温度≦900℃、炉頂温度≦200℃を、熱物質収支ならびに平衡論上実現できた。
【0197】
実施例6と7は、炉頂ガスを再循環しないオープンシステムを採用したケースであり、羽口吹込燃料について、それぞれバイオコークスやバイオコールなどのバイオ燃料を使用したケースとCO2をグリーン電力にて燃料化したE-Fuelを使用したケースである。これらの燃料は、CO2排出係数がゼロ(0)として見做されるため、炉頂ガスのCO2排出量としては非鉄金属還元分だけがカウントされるため、燃焼排出する際にCO2回収が不要になる。炉頂ガスは、使い易い発熱量(実施例6や7で8500~8700 kJ/Nm3)になるので、高炉以外の工場でも既存のガスネットワークを利用して幅広く代替エネルギー減として活用でき、それらの工場のCO2排出量を大幅に低減できるメリットがある。
【0198】
実施例8は、コークスならびに微粉炭(PCI)、メタン(天然ガス相当)という従来高炉で利用している燃料(還元材)だけを使用してコークス比ならびに燃料比の削減を行うケースである。 微粉炭は、バイオコークスやバイオコールと任意の割合で混合してミックス燃料化することが可能であり、最終的にバイオ燃料100%になれば、羽口吹込燃料由来のCO2排出量はゼロ(0)になる。加熱器内で部分燃焼させて還元ガスに転換されるメタンについても、CO2リサイクルされたメタンに切り替えて行くことで同様の効果が得られる。図中には、燃料転換前/後の炭素(C)原単位をそれぞれの順序で併記している。
【0199】
実施例8の化石燃料ベースにおいても、高炉から系外に排出される炭素量は、(CO2リサイクルを加味せずに)238kg/tpであり、従来高炉の381kg/tpと比べて、見掛けだけでも約4割(38%)ものCO2排出削減が可能である。 更に、1kgのコークス製造には1.7~1.8kgの石炭が必要であることを加味すると、実質的にはCO2排出量を半減(50%削減)できる。
【0200】
以上の実施例は一例であり、実施例1~8を組み合わせた中間的な原燃料の活用やシステム構成も可能である。つまり、本発明により、コークス削減やCO2削減のための原燃料の選択肢やシステム構成の選択肢が限りなく広がったこと自体が画期的であり、付帯設備としてのCO2貯蔵/利用技術の今後の発展に応じて、熱収支や物質収支を修正し、経済性を加味して最適なシステムを採用すれば良い。
【0201】
特願2022-68527号(出願日:2022年3月31日) の全内容は、ここに援用される。
【0202】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明に係る技術は、還元鉄製造設備やキューポラ(スクラップ溶解炉)への転用も可能である。
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