(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20240301BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20240301BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20240301BHJP
D21H 17/37 20060101ALI20240301BHJP
D21H 17/41 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
D21H21/02
C08F220/34
C08F220/56
D21H17/37
D21H17/41
(21)【出願番号】P 2019226045
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】青山 清
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-155688(JP,A)
【文献】特開2004-107805(JP,A)
【文献】特表2019-535923(JP,A)
【文献】特開2017-214669(JP,A)
【文献】特開2006-182816(JP,A)
【文献】特開2020-100917(JP,A)
【文献】特開2020-147888(JP,A)
【文献】国際公開第1997/23691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
C08C19/00-19/44
C08F6/00-246/00
C08F301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体10~30モル%、下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体0.5~15モル%、下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体0.5~10モル%及び非イオン性単量体45~89モル%を構成単位とする両性水溶性高分子
であり、該両性水溶性高分子の4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度が、30~50mPa・sの範囲である両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
R
5は水素又はメチル基、R
6、R
7は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
R
8は水素、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
9は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
前記両性水溶性高分子の形態が油中水型エマルジョンであることを特徴とする請求項
1に記載のピッチコントロール剤。
【請求項3】
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体10~30モル%、下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体0.5~15モル%、下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体0.5~10モル%及び非イオン性単量体45~89モル%を構成単位とする両性水溶性高分子
であり、該両性水溶性高分子の4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度が、30~50mPa・sの範囲である両性水溶性高分子を、抄紙前の製紙工程に添加することを特徴とするピッチ低減方法。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
R
5は水素又はメチル基、R
6、R
7は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
R
8は水素、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
9は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【請求項4】
前記ピッチが粘着性ピッチであることを特徴とする請求項
3に記載のピッチ低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工程のピッチトラブルを抑制するためのピッチコントロール剤及びそれを用いたピッチ低減方法に関するものであり、詳しくは、特定の組成、物性を有する両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤及びそれを抄紙前の製紙工程において添加するピッチ低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙の製造工程において、古紙配合率の増加や、中性抄造化、抄紙系用水のクローズド化により製紙原料中にアニオントラッシュ(アニオン性夾雑物)、マイクロピッチ、濁度成分が多く存在している。これらアニオントラッシュ、マイクロピッチ、濁度成分が微細な状態で製紙原料中に存在している限り製紙へ欠陥として発生することは少ないが、攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化され紙製品の汚れや欠陥発生原因となる。パルプ繊維に定着せず集塊化が進んだピッチ分は、微細繊維や填料を巻き込んで粗大粘着物になり、ファンポンプ、配管内、ワイヤー、フェルト、ロール等の抄造装置や用具に付着するだけでなく、これら付着物が剥離して湿紙に乗り製紙欠陥となることが推定される。通常、アニオントラッシュやマイクロピッチは表面がアニオン性に帯電しているため、これらが成長、粗大化する(ピッチとなる)前に凝結剤やピッチコントロール剤と言われるカチオン性水溶性高分子を添加し、電荷の中和によりアニオントラッシュやマイクロピッチを処理する方法が汎用されている。又、製紙原料中に存在しているコロイド粒子の表面電荷が低く、アニオン性に弱く解離している場合や解離していない場合もあり、アニオン基を導入した両性水溶性高分子の提案もなされている。
両性水溶性高分子の適用において、特に疎水性の強いピッチを対象とする場合には、高分子中に疎水性の強い単量体を導入し疎水性相互作用により処理することが検討されている。例えば、特許文献1では、特定のカチオン性単量体から選択される二種を5~95モル%、アニオン性単量体5~50モル%及び非イオン性単量体0~90からなる両性水溶性高分子を使用し、カチオン性単量体としてベンジル基を有する四級アンモニウム塩基含有単量体は疎水性基を有するため親油的なピッチ粒子に吸着しやすいことが記載されている。
特許文献2では、特定の二種のカチオン性単量体、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドの各構成単位を有する水溶性高分子を使用し、カチオン性単量体として、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルやジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの塩化ベンジルによる四級化物の適用が記載されている。
これら両性水溶性高分子のピッチコントロール剤としての適用よりも更なるピッチ低減効果が要望されている。
【0003】
【文献】特開2003-155688号公報
【文献】特開2010-077567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、製紙工程に発生する汚れや成紙に発生するピッチを低減し安定な操業を図る両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤、及びそれを用いたピッチ低減方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者は、鋭意検討した結果、以下に述べる発明に達した。即ち、特定の構造、組成及び物性を有する両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤、及びそれを抄紙前の製紙工程において添加するピッチ低減方法である。
【発明の効果】
【0006】
製紙工程における汚れや、ピッチ低減を図るために本発明の水溶性高分子を適用することにより従来の凝結剤あるいはピッチコントロール剤に比べて濁度成分やマイクロピッチ、粘着性ピッチを低減することができ、製紙工程のピッチトラブルを抑制し、安定な操業が可能となり高品質な紙製品の製造が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるピッチコントロール剤を構成する両性水溶性高分子は、特定の構造、組成を有する。即ち、本発明における両性水溶性高分子は、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体10~30モル%、下記一般式(2)で表されるカチオン性単量体0.5~15モル%、下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体0.5~10モル%及び非イオン性単量体45~89モル%を構成単位とする。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
R
5は水素又はメチル基、R
6、R
7は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
R
8は水素、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
9は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0008】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体は、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩化メチルによる四級化物である。その例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリエチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリエチルアンモニウム塩化物等である。これら二種以上組み合わせることも可能である。一般式(1)で表されるカチオン性単量体のモル数としては、10~30モル%の範囲である。
【0009】
一般式(2)で表されるカチオン性単量体は疎水性単量体であり、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩化ベンジルによる四級化物である。その例として、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジエチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジエチルベンジルアンモニウム塩化物等である。これら二種以上組み合わせることも可能である。一般式(2)で表されるカチオン性単量体のモル数としては、0.5~15モル%の範囲であるが、1~10モル%が好ましく、1~5モル%が更に好ましい。これは、一般式(2)が多いと分子量が上げ難いためである。又、カチオン性単量体とアニオン性単量体とのイオン的なバランスを最適にするためである。
【0010】
一般式(3)で表されるアニオン性単量体としては、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp-カルボキシスチレン酸、あるいはそれらの塩等が挙げられる。これらの中でアクリル酸あるいはその塩が好ましい。ジカルボン酸を使用する際は二種以上組み合わせると分子量が向上せず、ピッチ低減効果が抑制される傾向にあるため好ましくはない。一般式(3)で表されるアニオン性単量体のモル数としては、0.5~10モル%の範囲であるが、1~10モル%が好ましく、1~5モル%がより一層好ましい。
【0011】
本発明で使用する非イオン性単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。非イオン性単量体のモル数としては、45~89モル%の範囲である。
【0012】
本発明における両性水溶性高分子は、カチオン性単量体、アニオン性単量体及び非イオン性単量体からなる単量体混合物を共重合することによって製造することができる。重合はこれら単量体を混合した水溶液を調製した後、常法の重合法によって行なう。重合は、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、油中水型エマルジョン、塩水中分散液あるいは粉末等任意の製品形態にすることができる。これらの中でも分子量を調整しやすく、溶解液の分散性が比較的良好である油中水型エマルジョン重合が好ましい。
【0013】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、公知の方法が適用されるが特開昭55-137147号公報や特開昭59-130397号公報、特開平10-140496号公報や特開2011-99076号公報等に挙げられる方法等に準じて適宜に製造することができる。即ち、カチオン性単量体、アニオン性単量体及び非イオン性単量体からなる単量体混合物を水、水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合する。
【0014】
本発明における両性水溶性高分子の他に、一般的な有機凝結剤やピッチコントロール剤を使用しても差し支えない。一般的な有機凝結剤やピッチコントロール剤として、例えば、(メタ)アクリル系カチオン性あるいは両性高分子、ジアリルジメチルアンモニウム塩系高分子、ポリビニルアミン及びポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性高分子、重縮合系カチオン性物質、エチレンイミン系高分子、ジシアンジアミド系高分子等が挙げられる。
【0015】
本発明における両性水溶性高分子の分子量は、分子量の指標となる0.5質量%塩水溶液粘度、即ち、4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度で規定される。本発明における両性水溶性高分子の0.5質量%塩水溶液粘度が20~50mPa・sの範囲であり、30~50mPa・sが好ましい。20mPa・sより低いと大きなピッチ低減効果は得られず、50mPa・sより高いとフロックが過大になり、地合いが不良となり好ましくはない。重量平均分子量では、300万~600万の範囲である。
【0016】
本発明における両性水溶性高分子の添加率は、パルプ乾燥固形分に対し0.0001~0.1質量%、好ましくは0.001~0.1質量%、最も好ましくは0.005~0.1質量%である。0.0001質量%より低いと濁度やピッチ低減効果が得られ難く、0.1質量%を超えると過剰添加であり過大なフロックとなり成紙の地合いが不良となる場合があり、又、両性水溶性高分子自体がアニオントラッシュとして作用する可能性があるので好ましくはない。又、PAC、硫酸バンド等の無機系凝結剤やサイズ剤、紙力増強剤、歩留向上剤、濾水性向上剤等の他の製紙用薬剤と併用しても差し支えない。特に本発明の両性水溶性高分子より下流で添加するカチオン性或いは両性の歩留向上剤や濾水性向上剤との併用効果が促進されピッチ低減効果のみならず、ワイヤーパートでの製紙原料の歩留向上効果や濾水性向上効果、プレスパートやドライヤーパートでの搾水性向上効果が得られる場合がある。
【0017】
次に、ピッチトラブルの防止効果について説明する。古紙や塗工損紙、樹脂に由来するピッチ類あるいはアニオン性物質、濁度成分は、紙の汚れ、欠陥、断紙、抄紙機の汚れといった様々なピッチトラブルを引き起こす。特に濁度成分やマイクロピッチが複合的に関与し成長することでピッチトラブルの大きな要因になることが考えられ、これらを処理することが必要である。この場合では、本発明における両性水溶性高分子を、製紙工程上流のパルプ乾燥固形分濃度2.0質量%以上の抄紙前の製紙原料に添加することが好ましい。添加場所としては、種々のパルプが混合されるマシンチェスト、ミキシングチェスト、種箱等であり、脱墨古紙原料、コートブローク、雑誌古紙、段ボール古紙、ブロークパルプの個別の原料パルプであっても良い。又、各原料パルプチェストに直接添加するだけでなく、原料パルプチェストの配管入口や出口等であっても良い。
製紙工程上流からパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%以上で移送されてきた製紙原料が抄紙機の直前では白水や清水等によりパルプ乾燥固形分濃度が2.0質量%より低い製紙原料に希釈される。一般的には0.5~1.5質量%に希釈されており、これらはインレット原料やヘッドボックス原料と呼ばれる。これら原料や白水に対して本発明における両性水溶性高分子を添加し粘着性ピッチの粘着性を低下させることも可能であり有効な添加場所である。
【0018】
通常、パルプ繊維表面はアニオン性に帯電しており、カチオン性あるいは両性凝結剤あるいはピッチコントロール剤でパルプ繊維と共に濁度成分やピッチ成分を凝結作用により処理している。これらカチオン性あるいは両性凝結剤あるいはピッチコントロール剤は比較的低分子量で高カチオン密度のものが使用されている。これらの重量平均分子量は、通常、10万~200万の範囲のものが使用されており、凝結作用により濁度成分やピッチ成分を凝結、細かいフロックとして成紙上に分散し抄紙系外に排出するという技術である。
これに対して、本発明における両性水溶性高分子を添加すると、カチオン性凝結剤では処理が困難と考えられるアニオン性の低い、疎水性ピッチ粒子に対して、両性水溶性高分子中のアニオン基及び疎水性基がピッチ粒子表面に吸着する。更にカチオン性単量体と疎水性単量体及びアニオン性単量体によるイオン的なバランスと、ある一定範囲の分子量を有することにより濁度成分やピッチ成分を凝結、細かいフロックとすると共にピッチの粘着性を低下させることでピッチコントロール作用を発揮することが推測される。
【0019】
ピッチコントロール剤により処理された濁度成分やピッチ成分は抄紙工程でワイヤー上に乗り成紙となり抄紙系外に排出される。対象抄造製紙原料としては特に限定はなく、新聞用紙、上質紙、PPC用紙、塗工原紙、微塗工紙、板紙等に適用できるが、種々の製紙用薬品や古紙の混入率が高く、アニオン性が低く疎水ピッチ粒子成分の割合が高いライナーや中芯原紙等の板紙原料において特に効果が顕著である。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
本発明における両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤として、油中水型エマルジョン重合の常法により試料1~3を調製、準備した。これらの組成、物性を表1に示す。
【0022】
(比較例1)
本発明における両性水溶性高分子の範囲外の比較試料として、常法により試料4~12を調製、準備した。これらの組成、物性を表1に示す。又、各種有機凝結剤試料A、Bを準備した。尚、有機凝結剤試料Bは特開2004-26859号公報、特開2009-24125号公報等、公知の方法によって製造したものであり、ポリエチレンイミンの高分子分散媒中に単量体混合物を加えて分散重合して得たものである。これらの組成、物性を表2に示す。
【0023】
(表1)
製品形態;EM:油中水型エマルジョン、AQ:水溶液重合体
単量体;DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、
DMABC:アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、
AAC:アクリル酸、IA:イタコン酸、AAM:アクリルアミド
【0024】
(表2)
製品形態;AQ:水溶液重合体、DR:塩水中分散重合体
【0025】
(実施試験例1)
板紙のライナー製造種原料(pH6.8、乾燥固形分濃度4.0質量%、灰分0.80質量%/乾燥固形分濃度、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社PCD-03型を使用したカチオン要求量41μeq/L、濁度647NTU)を用いて、本発明におけるピッチコントロール剤の効果試験を実施した。
(濁度測定試験)
原料100mLをビーカーに採取し、本発明における表1の試料1を対乾燥固形分で400ppm添加後、200rpmで60秒撹拌した。その後、Whatman No.41濾紙により原料を濾過し、濾液の濁度をHACH社製2100P型にて測定した。同様に試料2あるいは3についても実施した。結果を表3に示す。
(粘着物量測定試験)
原料を一定量採取し、本発明における表1の試料1を対乾燥固形分で400ppm添加後、200rpmで60秒撹拌した。その後、坪量150g/m2になるように原料を採取し、蒸留水にて調整後、Whatman No.41濾紙により濾過を行った。
濾過後、ウェットシート上に残る試料において、濾紙に面していない側を測定面とし、SUS板に張り合わせた後、ウェットシート上の粘着物を媒体に転写した。この際、ウェットシートのSUS板(厚さ0.1mm)に張り付けた面と反対面に厚手の濾紙を合わせ、プレス機にセ ットし、410KPa、5分間加圧を行った。加熱後、SUS板上のウェットシートからの付着面中の任意の箇所20箇所を選択し、実体顕微鏡を用いてデジタ ルカメラで撮影し、画像としてコンピュータに保存した。その後、画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc.IMAGE-PRO PLUS Ver. 5.0)を用い、RGB値のレンジ設定を調整することにより、目的とする粒子を抽出した。抽出した付着物の中から、大きさ、長短半径比、穴数、穴面積の最適条件下で再度 抽出し、繊維分や他の付着物と、粘着性ピッチを判別する。
その抽出した粒子について、粘着性ピッチ総面積、総個数を測定し、1m2あたりに換算し、粘着物量(粘着物質面積)を測定した。同様に試料2あるいは3についても実施した。結果を表3に示す。
【0026】
(比較試験例1)
実施試験例1と同様な製紙原料を用いて、表1の比較例1の試料により同様な試験を実施した。結果を表3に示す。
【0027】
【0028】
本発明における両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤を添加した実施例では、本発明の範囲外のピッチコントロール剤を使用した比較例に比べて濁度、粘着物量が低下していることが分かる。アニオン性単量体としてアクリル酸とイタコン酸を併用している試料10は実施試験例より効果不良であった。本発明における両性水溶性高分子のピッチコントロール効果が優れることが確認できた。
【0029】
(実施試験例2)
板紙のライナー製造種原料(pH6.4、乾燥固形分濃度3.5質量%、灰分0.83質量%/乾燥固形分濃度、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社PCD-03型を使用したカチオン要求量25μeq/L、濁度280NTU)を用いて、本発明におけるピッチコントロール剤の効果試験を実施した。
(濁度測定試験)
原料100mLをビーカーに採取し、本発明における試料1を対乾燥固形分で400ppmあるいは600ppm添加後、200rpmで60秒撹拌した。その後、Whatman No.41濾紙により原料を濾過し、濾液の濁度をHACH社製2100P型にて測定した。又、濾液のカチオン要求量をミューテック社製PCD-03型にて測定した。結果を表4に示す。
(粘着物量測定試験)
原料を一定量採取し、本発明における表1の試料1を対乾燥固形分で400ppmあるいは600ppm添加後、200rpmで60秒撹拌した。その後、坪量150g/m2になるように原料を採取し、蒸留水にて調整後、Whatman No.41濾紙により濾過を行った。
濾過後、ウェットシート上に残る試料において、濾紙に面していない側を測定面とし、SUS板に張り合わせた後、ウェットシート上の粘着物を媒体に転写した。この際、ウェットシートのSUS板(厚さ0.1mm)に張り付けた面と反対面に厚手の濾紙を合わせ、プレス機にセ ットし、410KPa、5分間加圧を行った。加熱後、SUS板上のウェットシートから の付着面中の任意の箇所20箇所を選択し、実体顕微鏡を用いてデジタ ルカメラで撮影し、画像としてコンピュータに保存した。その後、画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc.IMAGE-PRO PLUS Ver. 5.0)を用い、RGB値のレンジ設定を調整することにより、目的とする粒子を抽出した。抽出した付着物の中から、大きさ、長短半径比、穴数、穴面積の最適条件下で再度抽出し、繊維分や他の付着物と、粘着性ピッチを判別する。
その抽出した粒子について、粘着性ピッチ総面積、総個数を測定し、1m2あたりに換算し、粘着物量(粘着物質面積)を測定した。結果を表4に示す。
【0030】
(比較試験例2)
実施試験例2と同様な製紙原料を用いて、表1の比較例1、及び表2の試料により同様な試験を実施した。結果を表4に示す。
【0031】
【0032】
本発明における両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤を添加した実施試験例では、本発明の範囲外のピッチコントロール剤を使用した比較例に比べて濁度、粘着物量が低下していることが分かる。特に粘着物質の低下度合いが大きく本発明の両性水溶性高分子が粘着ピッチに対して有効であることが確認できた。比較試験例では濁度が比較的低い値でも粘着物量は低下を示さなかった。
【0033】
(実施試験例3)
板紙のライナー製造種原料(pH6.5、乾燥固形分濃度4.3質量%、灰分0.6質量%/乾燥固形分濃度、Whatman No.41濾紙濾過液のミューテック社PCD-03型を使用したカチオン要求量105μeq/L、濁度660NTU)を用いて、本発明におけるピッチコントロール剤の効果試験を実施した。
(濁度、カチオン要求量測定試験)
原料100mLをビーカーに採取し、表1の試料1を対製紙試料固形分で50あるいは100ppm添加後、200rpmで60秒撹拌した。その後、Whatman No.41濾紙により試料を濾過し、濾液の濁度をHACH社製2100P型にて測定した。又、濾液のカチオン要求量をミューテック社製PCD-03型にて測定した。結果を表5に示す。
【0034】
(比較試験例3)
実施試験例3と同様な製紙原料を用いて、表1の比較例1、及び表2の試料により同様な試験を実施した。結果を表5に示す。
【0035】
【0036】
本発明における両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤を添加した実施例では、本発明の範囲外のピッチコントロール剤を使用した比較例に比べて濁度、カチオン要求量が低下していることが分かる。比較試験例ではカチオン要求量が比較的低い値でも濁度の値は低下を示さなかった。
【0037】
本発明における両性水溶性高分子からなるピッチコントロール剤を製紙原料に添加することで濁度成分、粘着性ピッチ、アニオントラッシュの低減効果が得られ、ピッチコントロール剤として有効であることが確認できた。