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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】固体電解質材料およびそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240301BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240301BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240301BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240301BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021508732
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048207
(87)【国際公開番号】W WO2020194897
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2019058334
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】上野 航輝
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-134294(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、M1、M2、およびXからなり、
M1は、MgおよびZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、
M2は、Al、Ga、Y、In、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、
Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり 、かつ
スピネル構造を有する、
固体電解質材料。
【請求項2】
以下の組成式(1)により表され、
Li2-aM11-aM2 ・・・(1)
ここで、0<a<1が充足される、
請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
0.1≦a≦0.4が充足される、
請求項2に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
0.2≦a≦0.4が充足される、
請求項3に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
正極、
負極、および
前記正極および前記負極の間に配置されている電解質層、
を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、請求項1から5のいずれか一項に記載の固体電解質材料を含有する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、硫化物固体電解質材料が用いられた全固体電池を開示している。
【0003】
非特許文献1は、スピネル構造を有するハロゲン化物固体電解質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-129312号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kanno R, Takeda Y, Takeda K and Yamamoto O, 1984 J. Electrochem. Soc., 131, 469-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の固体電解質材料は、Li、M1、M2、およびXからなり、M1は、MgおよびZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、M2は、Al、Ga、Y、In、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、かつスピネル構造を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
図2図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。
図3図3は、実施例1による固体電解質材料のインピーダンス測定結果のCole-Cole線図を示すグラフである。
図4図4は、実施例1および比較例1による固体電解質材料のX線回折パターン、並びに、スピネル構造を有するLiMgClのX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態による固体電解質材料は、Li、M1、M2、およびXからなり、スピネル構造を有する。M1は、MgおよびZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。M2は、Al、Ga、Y、In、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。
【0012】
第1実施形態による固体電解質材料は、高いリチウムイオン伝導度を有する。このため、第1実施形態による固体電解質材料は、充放電特性に優れた電池を得るために用いられ得る。当該電池の例は、全固体二次電池である。
【0013】
第1実施形態による固体電解質材料は、硫黄を含有しないので、大気に暴露されても、硫化水素が発生しない。したがって、第1実施形態による固体電解質材料は、安全性に優れている。
【0014】
第1実施形態による固体電解質材料は、不可避的に混入される元素を含有していてもよい。当該元素の例は、水素、窒素、または酸素である。このような元素は、固体電解質材料の原料粉、または、固体電解質材料を製造あるいは保管するための雰囲気中に存在し得る。
【0015】
M1は、MgおよびZnからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。これにより、第1実施形態による固体電解質材料は、スピネル構造を形成することができる。このため、第1実施形態による固体電解質材料は、非特許文献1に示されるように、高いイオン伝導度および高い安定性を有する。
【0016】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質材料については、リチウムイオンに対するアニオン(例えば、第1実施形態による固体電解質材料におけるX)の配位数が小さいことが望ましい。この理由は以下のとおりである。
【0017】
リチウムイオンが伝導するためには、リチウムイオンと、当該リチウムイオンに近接するアニオンとの結合を切断する必要がある。結合を切断するためのエネルギーが小さい方が、リチウムイオンが伝導しやすい。したがって、アニオンの配位数が小さい方が、切断する結合が少ないため、結合を切断するためのエネルギーが小さくなる。その結果、リチウムイオンがより伝導しやすくなる。リチウムイオンを含む結晶では、一般に、リチウムイオンに対するアニオンの配位数が4または6である。スピネル構造においては、リチウムイオンに対するアニオンの配位数は4の割合が高いため、高いリチウムイオン伝導度を実現できる。
【0018】
M1は、MgまたはZnであってもよいし、あるいはMgおよびZnの両方を 含んでもよい。これは、MgおよびZnは、共に、スピネル構造を形成することができるからである。また、MgおよびZnは、共に、安価な元素である。したがって、MgおよびZnは、固体電解質材料のコストを抑えるために用いられ得る。
【0019】
M2は、一種の元素であってもよいし、あるいは二種以上の元素であってもよい。M2は、Al、Ga、Y、In、およびBiからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。すなわち、M2は、3価または5価の金属元素である。したがって、M2はM1よりも大きい価数を有するため、第1実施形態による固体電解質材料において、Liを欠損させることができる。これにより、固体電解質材料のイオン伝導度の向上が実現できる。この理由を以下に示す。
【0020】
M2は、主にM1のサイトを置換する。このとき、M1よりも大きい価数を有するM2が導入されることで、固体電解質材料の電気的中性条件が成立しなくなる。その結果、Liを欠損させることができる。リチウムイオンが伝導するためには、伝導した先にあるサイトが占有されていないことが望ましい。これは、Liを欠損させることにより実現できる。したがって、M2が、M1よりも大きい価数を有する元素であることにより、固体電解質材料のイオン伝導度が向上する。
【0021】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、第1実施形態による固体電解質材料は、以下の組成式(1)により表される材料であってもよい。
Li2-aM11-aM2 ・・・(1)
ここで、0<a<1が充足される。
【0022】
固体電解質材料のイオン伝導性を高めるために、組成式(1)において、0.05≦a≦0.6が充足されてもよい。イオン伝導性の観点から、望ましくは、0.1≦a≦0.4が充足されてもよい。イオン伝導性の観点から、より望ましくは、0.2≦a≦0.4が充足されてもよい。
【0023】
M1に対するM2の置換量を大きくすること、すなわち組成式(1)におけるaの値を大きくすることにより、Liをより多く欠損させることができる。その結果、固体電解質材料のイオン伝導性が向上する。
【0024】
固体電解質材料のイオン伝導性をさらに高めるために、Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素であってもよい。
【0025】
Xの電気陰性度は、リチウムイオン伝導度に影響する。LiおよびXの電気陰性度の差が大きい方が、LiおよびXの結合が強く、当該結合が切断されにくい。したがって、リチウムイオン伝導度を向上させるために、Xとして、比較的小さい電気陰性度を有するCl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも一種の元素を用いてもよい。
【0026】
第1実施形態による固体電解質材料の形状は、限定されない。当該形状の例は、針状、球状、または楕円球状である。第1実施形態による固体電解質材料は、粒子状であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、ペレットまたは板の形状を有するように形成されてもよい。
【0027】
第1実施形態による固体電解質材料が粒子状(例えば、球状)である場合、当該固体電解質材料は、0.1μm以上かつ100μm以下のメジアン径を有していてもよい。望ましくは、0.5μm以上かつ10μm以下であってもよい。これにより、第1実施形態による固体電解質材料は、より高いイオン伝導性を有する。さらに、第1実施形態による固体電解質材料および他の材料が良好に分散し得る。メジアン径は、体積基準の粒度分布における累積体積が50%に等しい場合の粒径を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザー回折式測定装置または画像解析装置により測定され得る。
【0028】
第1実施形態による固体電解質材料および活物質を良好に分散させるために、第1実施形態よる固体電解質材料は、活物質よりも小さいメジアン径を有していてもよい。
【0029】
次に、第1実施形態による固体電解質材料の製造方法について説明する。
【0030】
第1実施形態による固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造される。
【0031】
目的の組成を有するように、ハロゲン化物の原料粉が混合される。原料は粉体に限らず、粒状または液体であってもよい。
【0032】
例えば、Li1.9Mg0.9Al0.1Clを作製する場合には、LiCl原料粉、MgCl原料粉、およびAlCl原料粉が、1.9:0.9:0.1のLiCl:MgCl:AlClモル比で混合される。合成過程において生じ得る組成変化を相殺するように、あらかじめ調整されたモル比で原料粉は混合されてもよい。
【0033】
原料粉を遊星型ボールミルのような混合装置内でメカノケミカル的に(すなわち、メカノケミカルミリングの方法を用いて)互いに反応させ、反応物を得る。反応物は、真空中または不活性雰囲気中で焼成されてもよい。あるいは、原料粉の混合物が、真空中または不活性雰囲気中で焼成されてもよい。焼成は、例えば、100℃以上かつ400℃以下の範囲内で、1時間以上行ってもよい。
【0034】
焼成過程において生じ得る組成変化を抑えるために、石英管等の密閉容器に原料粉を封入して、当該原料粉が焼成されてもよい。
【0035】
これらの方法により、第1実施形態による固体電解質材料が得られる。
【0036】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、適宜、省略される。
【0037】
第2実施形態による電池は、正極、電解質層、および負極を備える。電解質層は、正極および負極の間に配置されている。
【0038】
正極、電解質層、および負極からなる群より選択される少なくとも1つは、第1実施形態による固体電解質材料を含有する。
【0039】
第2実施形態による電池は、第1実施形態による固体電解質材料を含有するため、高い充放電特性を有する。
【0040】
以下、第2実施形態による電池の具体例が説明される。
【0041】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
【0042】
電池1000は、正極201、電解質層202、および負極203を備える。電解質層202は、正極201および負極203の間に配置されている。
【0043】
正極201は、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100を含有する。
【0044】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含有する。
【0045】
負極203は、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100を含有する。
【0046】
固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子である。第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子とは、最も多く含まれる成分が第1実施形態による固体電解質材料である粒子を意味する。固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料からなる粒子であってもよい。
【0047】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出可能な材料を含有する。当該材料は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)である。
【0048】
正極活物質の例は、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、または遷移金属オキシ窒化物である。リチウム含有遷移金属酸化物の例は、Li(NiCoAl)OまたはLiCoOである。
【0049】
正極活物質粒子204は、0.1μm以上かつ100μm以下のメジアン径を有していてもよい。正極活物質粒子204が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、正極201において、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。正極活物質粒子204が100μm以下のメジアン径を有する場合、正極活物質粒子204内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0050】
正極活物質粒子204は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0051】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201において、正極活物質粒子204の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する正極活物質粒子204の体積の比は、0.30以上かつ0.95以下であってもよい。
【0052】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201は、10μm以上かつ500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0053】
電解質層202は、電解質材料を含有する。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料を含有していてもよい。
【0054】
電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0055】
電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料の例は、LiMgX’、LiFeX’、Li(Al、Ga、In)X’、Li(Al、Ga、In)X’、またはLiIである。ここで、X’は、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。
【0056】
以下、第1実施形態による固体電解質材料は、第1固体電解質材料と呼ばれる。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料は、第2固体電解質材料と呼ばれる。
【0057】
電解質層202は、第1固体電解質材料だけでなく、第2固体電解質材料をも含有していてもよい。第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、均一に分散していてもよい。
【0058】
第1固体電解質材料からなる層および第1固体電解質材料からなる層が、電池1000の積層方向に沿って積層されていてもよい。
【0059】
電解質層202は、1μm以上かつ100μm以下の厚みを有していてもよい。電解質層202が1μm以上の厚みを有する場合、正極201および負極203が短絡しにくくなる。電解質層202が100μm以下の厚みを有する場合、電池が高出力で動作し得る。
【0060】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出可能な材料を含有する。当該材料は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)である。
【0061】
負極活物質の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。金属材料は、単体の金属であってもよく、あるいは合金であってもよい。金属材料の例は、リチウム金属またはリチウム合金である。炭素材料の例は、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素である。容量密度の観点から、負極活物質の好適な例は、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物である。
【0062】
負極活物質粒子205は、0.1μm以上かつ100μm以下のメジアン径を有していてもよい。負極活物質粒子205が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、負極203において、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質粒子205が100μm以下のメジアン径を有する場合、負極活物質粒子205内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0063】
負極活物質粒子205は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0064】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203において、負極活物質粒子205の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する負極活物質粒子205の体積の比は、0.30以上かつ0.95以下であってもよい。
【0065】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203は、10μm以上かつ500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0066】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、イオン伝導性、化学的安定性、および電気化学的安定性を高める目的で、第2固体電解質材料を含有していていもよい。
【0067】
第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質であってもよい。
【0068】
硫化物固体電解質の例は、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、またはLi10GeP12である。
【0069】
第2固体電解質材料は、酸化物固体電解質であってもよい。
【0070】
酸化物固体電解質の例は、
(i)LiTi(POまたはその元素置換体のようなNASICON型固体電解質、
(ii)(LaLi)TiOのようなペロブスカイト型固体電解質、
(iii)Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeOまたはその元素置換体のようなLISICON型固体電解質、
(iv)LiLaZr12またはその元素置換体のようなガーネット型固体電解質、または
(v)LiPOまたはそのN置換体
である。
【0071】
上述のように、第2固体電解質材料は、ハロゲン化物固体電解質であってもよい。ハロゲン化物固体電解質の例は、LiMgX’、LiFeX’、Li(Al、Ga、In)X’、Li(Al、Ga、In)X’、またはLiIである。
【0072】
ハロゲン化物固体電解質材料の他の例は、LiMeで表される化合物である。ここで、p+m′q+3r=6、およびr>0が充足される。Meは、LiおよびY以外の金属元素と半金属元素とからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。Zは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つの元素である。m′は、Meの価数を表す。「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、Sb、およびTeを表す。「金属元素」は、周期表第1族から第12族中に含まれるすべての元素(ただし、水素を除く)、および、周期表第13族から第16族中に含まれるすべての元素(ただし、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く)を表す。
【0073】
イオン伝導性の観点から、Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta、およびNbからなる群より選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0074】
第2固体電解質材料は、有機ポリマー固体電解質であってもよい。
【0075】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物およびリチウム塩の化合物である。高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有できるため、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0076】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、またはイオン液体を含有していていもよい。
【0077】
非水電解液は、非水溶媒および当該非水溶媒に溶けたリチウム塩を含む。非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,3-ジオキソランである。鎖状エーテル溶媒の例は、1,2-ジメトキシエタンまたは1,2-ジエトキシエタンである。環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。フッ素溶媒の例は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0078】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上かつ2mol/リットル以下である。
【0079】
ゲル電解質として、非水電解液を含浸させたポリマー材料が使用され得る。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、またはエチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0080】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i)テトラアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状4級塩類、
(ii)ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、またはピペリジニウム類のような脂肪族環状アンモニウム、または
ピリジニウム類またはイミダゾリウム類のような含窒ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0081】
イオン液体に含まれるアニオンの例は、PF 、BF 、SbF6- 、AsF 、SOCF 、N(SOCF 、N(SO 、N(SOCF)(SO、またはC(SOCF である。イオン液体はリチウム塩を含有していてもよい。
【0082】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤を含有していていもよい。
【0083】
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。共重合体もまた、結着剤として使用され得る。当該結着剤の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択された2種以上の材料の共重合体である。上記の材料から選択された2種以上の混合物が、結着剤として用いられてもよい。
【0084】
正極201および負極203から選択される少なくとも1つは、電子伝導性を高める目的で、導電助剤を含有していていもよい。
【0085】
導電助剤の例は、
(i)天然黒鉛または人造黒鉛のようなグラファイト類、
(ii)アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのようなカーボンブラック類、
(iii)炭素繊維または金属繊維のような導電性繊維類、
(iv)フッ化カーボン、
(v)アルミニウムのような金属粉末類、
(vi)酸化亜鉛またはチタン酸カリウムのような導電性ウィスカー類、
(vii)酸化チタンのような導電性金属酸化物、または
(viii)ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンのような導電性高分子化合物、
である。低コスト化のために、上記(i)または(ii)の導電助剤が使用されてもよい。
【0086】
第2実施形態による電池の形状の例は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、または積層型である。
【0087】
(実施例)
以下、実施例および比較例を参照しながら、本開示が詳細に説明される。
【0088】
(実施例1)
[固体電解質材料の作製]
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気(以下、単に「アルゴン雰囲気」と表記する)中で、原料粉としてLiCl、MgCl、およびAlClが、1.9:0.9:0.1のLiCl:MgCl:AlClモル比となるように用意された。これらの材料は乳鉢中で 粉砕され、混合された。得られた混合物は、遊星型ボールミルを用い、12時間、500rpmでミリング処理された。
【0089】
このようにして、実施例1による固体電解質材料が得られた。実施例1による固体電解質材料は、Li1.9Mg0.9Al0.1Clにより表される組成を有していた。
【0090】
[イオン伝導度の評価]
図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。
【0091】
加圧成形ダイス300は、枠型301、パンチ下部302、およびパンチ上部303を具備していた。枠型301は、絶縁性のポリカーボネートから形成されていた。パンチ下部302およびパンチ上部303は、いずれも電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0092】
図2に示される加圧成形ダイス300を用いて、下記の方法により、実施例1による固体電解質材料のインピーダンスが測定された。
【0093】
アルゴン雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料の粉末(すなわち、図8において固体電解質材料の粉末101)が、加圧成形ダイス300の内部に充填された。加圧成形ダイス300の内部で、パンチ下部302およびパンチ上部303を用いて、実施例1による固体電解質材料の粉末に、400MPaの圧力が印加された。
【0094】
圧力が印加されたまま、パンチ下部302およびパンチ上部303が、周波数応答アナライザを搭載したポテンショスタット(Princeton Applied Research社、VersaSTAT4)に接続された。パンチ上部303は、作用極および電位測定用端子に接続された。パンチ下部302は、対極および参照極に接続された。固体電解質材料のインピーダンスは、電気化学的インピーダンス測定法により、室温において測定された。
【0095】
図3は、実施例1による固体電解質材料のインピーダンス測定結果のCole-Cole線図を示すグラフである。
【0096】
図3において、複素インピーダンスの位相の絶対値が最も小さい測定点でのインピーダンスの実数値が、固体電解質材料のイオン伝導に対する抵抗値とみなされた。当該実数値は、図9に示される矢印RSEを参照せよ。
【0097】
当該抵抗値を用いて、以下の数式(2)に基づいて、イオン伝導度が算出された。
σ=(RSE×S/t)-1 ・・・(2)
ここで、σはイオン伝導度を表す。Sは、固体電解質材料のパンチ上部303との接触面積(図2において、枠型301の中空部の断面積に等しい )を表す。RSEは、インピーダンス測定における固体電解質材料の抵抗値を表す。tは、圧力が印加された固体電解質材料の厚み(図2において、固体電解質材料の粉末101から形成される層の厚み)を表す。25℃で測定された、実施例1による固体電解質材料のイオン伝導度は、6.6×10-6S/cmであった。
【0098】
[X線回折パターン]
図4は、実施例1による固体電解質材料のX線回折パターンを示すグラフである。図4は、スピネル構造を有するLiMgClのX線回折パターンも示す。実施例1による固体電解質材料は、スピネル構造を有していた。実施例1による固体電解質材料は、LiMgClを構成するMgの一部がAlで置換されている。実施例1による固体電解質材料のX線回折パターンにおいて、不純物に由来するピークは観測されなかった。
【0099】
(実施例2~29)
[固体電解質材料の作製]
【0100】
実施例2~4では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびAlClが、(2-a):(1-a):aのLiCl:MgCl:AlClモル比となるように用意された。
【0101】
実施例5、実施例26および実施例28では、原料粉としてLiBr、MgBr、MgCl、およびAlClが、1.8:0.1:0.7:0.2のLiBr:MgBr:MgCl:AlClモル比となるように用意された。
【0102】
実施例6では、原料粉としてLiCl、LiBr、MgCl、およびAlClが、0.8:1.0:0.8:0.2のLiCl:LiBr:MgCl:AlClモル比となるように用意された。
【0103】
実施例7では、原料粉としてLiBr、MgCl、MgBr、およびAlClが、1.8:0.2:0.6:0.2のLiBr:MgCl:MgBr:AlClモル比となるように用意された。
【0104】
実施例8では、原料粉としてLiBr、MgBr、およびAlBrが、1.8:0.8:0.2のLiBr:MgBr:AlBrモル比となるように用意された。
【0105】
実施例9、実施例27および実施例29では、原料粉としてLiBr、LiI、MgCl、MgBr、およびAlClが、0.8:1.0:0.2:0.6:0.2のLiBr:LiI:MgCl:MgBr:AlClモル比となるように用意された。
【0106】
実施例10では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびBiClが、1.9:0.9:0.1のLiCl:MgCl:BiClモル比となるように用意された。
【0107】
実施例11では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびYClが、1.9:0.9:0.1のLiCl:MgCl:YClモル比となるように用意された。
【0108】
実施例12~16では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびGaClが、(2-a):(1-a):aのLiCl:MgCl:GaClモル比となるように用意された。
【0109】
実施例17では、原料粉としてLiBr、MgBr、MgCl、およびGaClが、1.8:0.1:0.7:0.1のLiBr:MgBr:MgCl:GaClモル比となるように用意された。
【0110】
実施例18~19では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびInClが、(2-a):(1-a):aのLiCl:MgCl:InClモル比となるように用意された。
【0111】
実施例20~23では、原料粉としてLiCl、ZnCl、およびAlClが、(2-a):(1-a):aのLiCl:ZnCl:AlClモル比となるように用意された。
【0112】
実施例24では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびAlClが、1.8:0.8:0.2のLiCl:MgCl:AlClモル比となるように用意された。
【0113】
実施例25では、原料粉としてLiBr、MgBr、およびAlBrが、1.8:0.8:0.2のLiBr:MgBr:AlBrモル比となるように用意された。
【0114】
実施例2~23では、上記の事項以外は、実施例1と同様にして、実施例2~23による固体電解質材料が得られた。
【0115】
実施例24~29では、上記の事項以外は、実施例1と同様にして、それぞれの試料を得た。得られた試料は、アルゴン雰囲気中でアルミナ坩堝に試料を入れられ、電気炉を用いて焼成された。このようにして実施例24~29による固体電解質材料が得られた。焼成温度および焼成時間は、表1に示される。
【0116】
[イオン伝導度の評価]
実施例2~29による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1と同様に測定された。測定結果は、表1に示される。
【0117】
(比較例1~4)
[固体電解質材料の作製]
比較例1では、原料粉としてLiClおよびMgClが、2.0:1.0のLiCl:MgClモル比となるように用意された。
比較例2では、原料粉としてLiCl、MgCl、およびCaClが、2.0:0.9:0.1のLiCl:MgCl:CaClモル比となるように用意された。
比較例3では、原料粉としてLiClおよびZnClが、2:1のLiCl:ZnClモル比となるように用意された。
比較例4では、原料粉としてLiCl、ZnCl、およびCaClが、2:0.5:0.5のLiCl:ZnCl:CaClモル比となるように用意された。
【0118】
[イオン伝導度の評価]
比較例1~4による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1と同様に測定された。測定結果は、表1に示される。
【0119】
[X線回折パターン]
比較例1による固体電解質材料のX線回折パターンが、実施例1と同様に測定された。図4は、比較例1による固体電解質材料のX線回折パターンを示すグラフである。比較例1による固体電解質材料は、スピネル構造を有していた。
【0120】
実施例1~29および比較例1~4による固体電解質材料の構成および各評価結果が、表1に示される。
【0121】
【表1】
【0122】
(考察)
実施例1による固体電解質材料(すなわち、Li1.9Mg0.9Al0.1Cl)のイオン伝導度は、6.6×10-6S/cmであった。一方、比較例1による固体電解質材料(すなわち、LiMgCl)のイオン伝導度は、1.0×10-6S/cmであった。これらの結果から、固体電解質材料がM1だけでなく、M1よりも大きい価数を有するM2を含むことにより、固体電解質材料のLiを欠損させることができる。その結果、イオン伝導度が向上したと考えられる。比較例2による固体電解質材料(すなわち、LiMg0.9Ca0.1Cl)のイオン伝導度は、4.1×10-7S/cmであった。これは、M1(すなわち、Mg)とともに、Mgと同じ価数を有するCaを含む場合、Liを欠損させることができず、Liの拡散が阻害されたためであると考えられる。
【0123】
実施例2~4、13~15、および21~23を、それぞれ実施例1、12、および20と比較すると明らかなように、M2のモル分率を表すaの値が、0.2以上かつ0.4以下であれば、リチウムイオン伝導性がさらに高くなる。
【0124】
実施例1~29による固体電解質材料は、硫黄を含有しないため、硫化水素が発生しない。
【0125】
以上のように、本開示による固体電解質材料は、硫化水素の発生が無く、かつ、高いリチウムイオン伝導度を有する電池を提供するために適切である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示による固体電解質材料は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池において利用される。
【符号の説明】
【0127】
100 固体電解質粒子
101 固体電解質材料の粉末
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
300 加圧成形ダイス
301 枠型
302 パンチ下部
303 パンチ上部
1000 電池
図1
図2
図3
図4