(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】片面金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/088 20060101AFI20240301BHJP
B32B 37/16 20060101ALI20240301BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B32B15/088
B32B37/16
B32B38/10
(21)【出願番号】P 2020162653
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024265(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093427(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属箔、第一のポリイミドフィルム、第二のポリイミドフィルム、及び第二の金属箔をこの順に重ねて積層体を形成する積層工程と、
前記積層体の加圧及び加熱により、前記第一の金属箔及び前記第一のポリイミドフィルムを含む第一の片面金属張積層板と、前記第二の金属箔及び前記第二のポリイミドフィルムを含む第二の片面金属張積層板とを形成する熱プレス工程と、
前記第一の片面金属張積層板と、前記第二の片面金属張積層板とを引き剥がす剥離工程と
を備え、
前記第一及び第二のポリイミドフィルムがそれぞれ、基材ポリイミド層と、この基材ポリイミド層の両面に積層される熱可塑性ポリイミド層とを含み、
前記熱プレス工程における加熱温度が、前記熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度の10℃以上85℃以下である片面金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程における前記第一の片面金属張積層板と前記第二の片面金属張積層板との引き剥がし強度が0.05N/mm以下である請求項1に記載の片面金属張積層板の製造方法。
【請求項3】
ダブルベルトプレス方式を用いる請求項1又は2に記載の片面金属張積層板の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度が150℃以上350℃以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の片面金属張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記基材ポリイミド層の誘電正接が0.011以下であり、誘電率が3.5以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の片面金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、片面金属張積層板の製造方法に関し、詳しくは、積層工程と熱プレス工程と剥離工程とを備える片面金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリイミド層を有するフィルムに金属箔を積層して、フレキシブル銅張積層板(Flexible Copper Clad Laminate(FCCL))等の金属張積層板を製造することが行われている(特許文献1参照)。片面金属張積層板の製造方法として、金属箔とポリイミドフィルムとを2組ずつ用い、2組のポリイミドフィルムの間に剥離フィルムを介在させて積層を行うことにより、片面金属張積層板を2組同時に製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかし、剥離フィルムは価格が高く、片面金属張積層板のコスト高を招来する。また、剥離フィルムを用いる製造方法は、剥離フィルムの巻外、巻内の使用面に加えて、ポリイミドフィルムの巻外、巻内の使用面についても、制限がかかるという不都合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、剥離フィルムを用いなくても、片面金属張積層板を2組同時に良好に製造することができる片面金属張積層板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る片面金属張積層板の製造方法は、積層工程と、熱プレス工程と、剥離工程とを備える。前記積層工程では、第一の金属箔、第一のポリイミドフィルム、第二のポリイミドフィルム、及び第二の金属箔をこの順に重ねて積層体を形成する。前記熱プレス工程では、前記積層体の加圧及び加熱により、前記第一の金属箔及び前記第一のポリイミドフィルムを含む第一の片面金属張積層板と、前記第二の金属箔及び前記第二のポリイミドフィルムを含む第二の片面金属張積層板とを形成する。前記剥離工程では、前記第一の片面金属張積層板と、前記第二の片面金属張積層板とを引き剥がす。前記第一及び第二のポリイミドフィルムはそれぞれ、基材ポリイミド層と、この基材ポリイミド層の両面に積層される熱可塑性ポリイミド層とを含む。前記熱プレス工程における加熱温度は、前記熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度の10℃以上85℃以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、剥離フィルムを用いなくても、片面金属張積層板を2組同時に良好に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A~Dは、本実施形態に係る片面金属張積層板の製造方法を説明する図である。
【
図2】
図2は、ダブルベルトプレス装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<片面金属張積層板の製造方法>
図1A~Dは、本実施形態に係る片面金属張積層板の製造方法を説明する図である。
【0010】
本実施形態に係る片面金属張積層板の製造方法は、積層工程と、熱プレス工程と、剥離工程とを備える。積層工程では、第一の金属箔10a、第一のポリイミドフィルム20a、第二のポリイミドフィルム20b、及び第二の金属箔10bをこの順に重ねて積層体100を形成する。熱プレス工程では、積層体100の加圧及び加熱により、第一の金属箔10a及び第一のポリイミドフィルム20aを含む第一の片面金属張積層板200aと、第二の金属箔10b及び第二のポリイミドフィルム20bを含む第二の片面金属張積層板200bとを形成する。剥離工程では、第一の片面金属張積層板200aと、第二の片面金属張積層板200bとを引き剥がす。第一のポリイミドフィルム20aは、基材ポリイミド層21aと、この基材ポリイミド層21aの両面に積層される熱可塑性ポリイミド層22a、23aとを含む。第二のポリイミドフィルム20bは、基材ポリイミド層21bと、この基材ポリイミド層21bの両面に積層される熱可塑性ポリイミド層22b、23bとを含む。熱プレス工程における加熱温度は、熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23bのガラス転移温度の10℃以上85℃以下である。
【0011】
発明者らは、熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドフィルムを用いる片面金属張積層板の製造において、熱プレス工程において特定の成形条件を採用することにより、剥離フィルムを用いずに、片面金属張積層板を2組同時に良好に製造することが可能であることを見出した。すなわち、熱プレス工程における加熱温度を、熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)より10℃以上85℃以下高い温度とすることにより、得られる片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面の凹凸の発生や表面荒れが少なく、表面が綺麗に仕上がった良好な片面金属張積層板を、2組同時に製造することができる。また、本実施形態の片面金属張積層板の製造方法によれば、剥離フィルムを用いないので、得られる片面金属張積層板が、剥離フィルムの使用面(巻外、巻内)の影響を受けることがない上、積層体100において、ポリイミドフィルム20a、20bの使用面(巻外、巻内)を対称的に配置させることで、使用面の影響をあまり受けないで、2組の片面金属張積層板を良好に製造することができる。
【0012】
以下、本実施形態に係る片面金属張積層板の製造方法における各工程について説明する。
【0013】
[積層工程]
積層工程では、
図1Aに示すように、第一の金属箔10a、第一のポリイミドフィルム20a、第二のポリイミドフィルム20b、及び第二の金属箔10bをこの順に重ねることにより、
図1Bに示す積層体100を形成する。積層工程を行う方法は、特に限定されず、例えば後述する熱プレス工程などの方法に応じて適宜選択することができる。
【0014】
(第一の金属箔10a、第二の金属箔10b)
第一の金属箔10a及び第二の金属箔10bは、箔状の金属からなる。すなわち、金属箔10a、10bは、パターン化されていない面状の金属からなる。金属箔10aと、金属箔10bとは、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。金属箔10a及び10bの金属の材質としては、例えば銅、銀、金、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、ニッケル、ベリリウム、亜鉛、インジウム、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン、これらの合金などが挙げられる。これらの中で、導電性及び回路加工性の観点から、銅又は銅合金が好ましい。銅箔としては、例えば電解銅箔、圧延銅箔等が挙げられる。また、金属箔10a、10bの表面には、亜鉛メッキ、クロムメッキ等による無機表面処理、シランカップリング剤等による有機表面処理などが施されていてもよい。
【0015】
金属箔10a及び10bの厚みは、2μm以上であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の製造時の金属箔切れの発生が起こりにくい。前記厚みは、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。前記厚みは、40μm以下であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の屈曲特性をより向上させることができる。前記厚みは、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
(第一のポリイミドフィルム20a、第二のポリイミドフィルム20b)
第一のポリイミドフィルム20aは、基材ポリイミド層21aと、基材ポリイミド層21aの両面に積層される熱可塑性ポリイミド層22a、23aとを含む。第二のポリイミドフィルム20bは、基材ポリイミド層21bと、この基材ポリイミド層21bの両面に積層される熱可塑性ポリイミド層22b、23bとを含む。ポリイミドフィルム20aと、ポリイミドフィルム20bとは、同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
【0017】
(基材ポリイミド層21a、21b)
基材ポリイミド層21a、21bは、ポリイミド樹脂を含む層である。ポリイミド樹脂とは、イミド基を有する樹脂をいい、例えばポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等が挙げられる。基材ポリイミド層21a、21bのポリイミド樹脂は、非熱可塑性ポリイミド樹脂及び熱可塑性ポリイミド樹脂のいずれであってもよい。
【0018】
非熱可塑性ポリイミド樹脂及び熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えば芳香族カルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合により得られたポリアミド酸を前駆体とし、これをイミド化することにより製造することができる。
【0019】
非熱可塑性ポリイミド樹脂とは、ガラス転移温度を有さないポリイミド樹脂をいう。ガラス転移温度の有無及び値は、例えば示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0020】
非熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば非熱可塑性ポリイミド、非熱可塑性ポリアミドイミド、非熱可塑性ポリエステルイミド等が挙げられる。
【0021】
非熱可塑性ポリイミド樹脂を与える芳香族カルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。
【0022】
非熱可塑性ポリイミド樹脂を与える芳香族ジアミンとしては、例えば2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニルなどが挙げられる。
【0023】
熱可塑性ポリイミド樹脂とは、ガラス転移温度を有するポリイミド樹脂をいう。熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、熱可塑性ポリエステルイミド等が挙げられる。
【0024】
熱可塑性ポリイミド樹脂を与える芳香族カルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0025】
熱可塑性ポリイミド樹脂を与える芳香族ジアミンとしては、例えば2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニル-N-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニル-N-フェニルアミン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0026】
芳香族カルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンからポリアミド酸を得る重合方法、重合溶媒、反応温度、反応時間などは特に限定されない。ポリアミド酸から非熱可塑性ポリイミド樹脂又は熱可塑性ポリイミド樹脂を得るイミド化に用いる硬化剤、硬化条件などは特に限定されない。
【0027】
基材ポリイミド層のイミド基濃度は、32%以下であることが好ましい。この場合、ポリイミドフィルム20a、20bの誘電率及び誘電正接をより低減することができる。基材ポリイミド層のイミド基濃度は、30%以下であることがより好ましく、28%以下であることがさらに好ましい。基材ポリイミド層のイミド基濃度は、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。イミド基濃度(%)は、(ポリイミド樹脂中のイミド基を構成する原子の原子量の総和)×100/(ポリイミド樹脂の分子量)で算出される値である。
【0028】
基材ポリアミド層21a、21bの厚みは、片面金属張積層板の強度及び屈曲特性の観点から、5μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上300μm以下であることがより好ましく、20μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、30μm以上70μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
(熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23b)
熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23bは、熱可塑性ポリイミド樹脂を含む層である。熱可塑性ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)は、150℃以上であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の耐熱性をより向上させることができる。前記Tgは、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましく、240℃以上であることが特に好ましい。前記Tgは、350℃以下であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板における金属箔とポリイミドフィルムとの密着性をより高めることができる。前記Tgは、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることがさらに好ましく、290℃以下であることが特に好ましい。
【0030】
熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23bのイミド基濃度は、28%以下であることが好ましい。この場合、ポリイミドフィルム20a、20bの誘電率及び誘電正接をより低減することができる。イミド基濃度は、26%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性ポリイミド層のイミド基濃度は、15%以上であることが好ましく、18%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23bの厚みは、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましく、2μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
ポリイミドフィルム20a、20bの厚みは、片面金属張積層板の強度の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。前記厚みは、片面金属張積層板の屈曲特性の観点から、1000μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、70μm以下であることが特に好ましい。
【0033】
基材ポリイミド層21a、21bが非熱可塑性ポリイミド樹脂を含む場合、基材ポリイミド層の厚みに対する熱可塑性ポリイミド層22a、22b、23a、23bの総厚みの比(熱可塑性ポリイミド層/基材ポリイミド層)は、0.5以上であることが好ましい。この場合、ポリイミドフィルム20a、20bの誘電正接をより低減することができる。前記比は、0.7以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましい。前記比は、5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0034】
ポリイミドフィルム20a、20bの誘電率(Dk)は、3.5以下であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の高周波での電気信号の伝送損失をより低減することができる。前記誘電率は、3.4以下であることがより好ましく、3.3以下であることがさらに好ましく、3.2以下であることが特に好ましい。前記誘電率の下限値は特に限定されないが、例えば3.0である。
【0035】
ポリイミドフィルム20a、20bの誘電正接(Df)は、0.011以下であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の高周波での電子信号の伝送損失をより低減することができる。前記誘電正接は、0.009以下であることがより好ましく、0.007以下であることがさらに好ましく、0.006以下であることが特に好ましい。前記誘電正接の下限値は特に限定されないが、例えば0.001である。
【0036】
ポリイミドフィルム20a、20b中の水分率は、ポリイミドフィルムの誘電率及び誘電正接をより低減させる観点から、1.5質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることがさらに好ましい。ポリイミドフィルムの水分率は、熱プレス工程における加熱温度及び時間を調整することにより、前記範囲とすることができる。
【0037】
ポリイミドフィルム20a、20bは、例えば(a)基材ポリイミド層の両面に熱可塑性ポリイミド層を形成する方法、(b)基材ポリイミド層と熱可塑性ポリイミド層とを多層押出法などで同時成形する方法などにより得ることができる。ポリイミドフィルム20a、20bの市販品としては、例えばカネカ社製のFRS282SW、宇部興産社製のユーピレックスVT、ユーピレックスNVT等が挙げられる。
【0038】
熱プレス工程の前に、積層体100を予備加熱してもよい。予備加熱とは、例えば後述するダブルベルトプレス方式において、繰出機340a、340b、350a、350b側の一組のドラム320、320から熱圧装置330、330に至るまでの間における加熱をいう。予備加熱の条件としては、例えば、加熱温度が80℃以上250℃以下、加熱時間が5秒以上200秒以下である。
【0039】
[熱プレス工程]
熱プレス工程では、
図1Bに示す積層体100の加圧及び加熱により、
図1Cに示すように、第一の金属箔10a及び第一のポリイミドフィルム20aを含む第一の片面金属張積層板200aと、第二の金属箔10b及び第二のポリイミドフィルム20bを含む第二の片面金属張積層板200bとを形成する。熱プレス工程では、片面金属張積層板200aと、200bとの積層体が得られる。熱プレス工程を行う方法としては特に限定されず、例えば多段真空プレス方式による方法、一対以上の金属ロールを用いる熱ロールラミネート方式による方法、後述するダブルベルトプレス方式による方法などが挙げられる。
【0040】
熱プレス工程における加熱温度は、熱可塑性ポリイミド層22a、23a、22b、23bのガラス転移温度(Tg)の10℃以上85℃以下である温度とすることが重要である。加熱温度がTgより10℃高い温度未満であると、金属箔10aと熱可塑性ポリイミド層22a、及び金属箔10bと熱可塑性ポリイミド層22bの間の密着性が不十分になる。加熱温度がTgより85℃高い温度を超えると、熱可塑性ポリイミド層23a及び23bの間の密着性が高くなり過ぎ、剥離工程後に得られる片面金属張積層板において折れやシワの発生等が起こり、表面の形状が不良になる。前記加熱温度は、Tgの15℃以上であることが好ましく、Tgの20℃以上であることがより好ましく、Tgの40℃以上であることがさらに好ましい。前記加熱温度は、Tgの82℃以下であることが好ましく、Tgの80℃以下であることがより好ましい。
【0041】
熱プレス工程における加圧圧力(プレス圧力)は、1MPa以上であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板における金属箔とポリイミドフィルムとの密着性をより高めることができ、また片面金属張積層板の反りの発生をより抑制することができる。前記加圧圧力は、2MPa以上であることがより好ましく、3MPa以上であることがさらに好ましく、4MPa以上であることが特に好ましい。前記加圧圧力は、10MPa以下であることが好ましい。この場合、剥離工程における片面金属張積層板200aと200bとの引き剥がしをより起こりやすくすることができ、片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面の形状をより良好なものとすることができる。前記加圧圧力は、8MPa以下であることがより好ましく、6MPa以下であることがさらに好ましく、5MPa以下であることが特に好ましい。
【0042】
熱プレス工程における加熱及び加圧の時間は、5秒以上であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板における金属箔とポリイミドフィルムとの密着性をより高めることができ、また片面金属張積層板の反りの発生をより抑制することができる。前記時間は、30秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることがさらに好ましく、120秒以上であることが特に好ましい。前記時間は、1000秒以下であることが好ましい。この場合、剥離工程における片面金属張積層板200aと200bとの引き剥がしをより起こりやすくすることができ、片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面の形状をより良好なものとすることができる。前記時間は、800秒以下であることがより好ましく、500秒以下であることがさらに好ましく、300秒以下であることが特に好ましい。
【0043】
[剥離工程]
剥離工程では、
図1Cに示す第一の片面金属張積層板200aと、第二の片面金属張積層板200bとを引き剥がす。これにより、
図1Dに示すように、第一の片面金属張積層板200aと、第二の片面金属張積層板200bとの2組の片面金属張積層板を同時に得ることができる。
【0044】
剥離工程における引き剥がす方法は特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。
【0045】
剥離工程における第一の片面金属張積層板200aと第二の片面金属張積層板200bとの間の引き剥がし強度は、0.05N/mm以下であることが好ましい。この場合、得られる片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面の形状をより良好なものとすることができる。前記引き剥がし強度は、0.04N/mm以下であることがより好ましく、0.03N/mm以下であることがさらに好ましく、0.025N/mm以下であることが特に好ましい。前記引き剥がし強度の下限は特に限定されないが、例えば0.01N/mm以上である。
【0046】
本実施形態における積層工程、熱プレス工程及び剥離工程は、例えば熱ロールラミネート方式、又は以下に示すダブルベルトプレス方式により、連続的に、簡便かつ効率的に行うことができる。これらの中で、熱プレス工程における加熱温度、加圧圧力並びに加熱及び加圧の時間をより適切に制御できる観点から、ダブルベルトプレス方式が好ましい。
【0047】
(ダブルベルトプレス方式)
ダブルベルトプレス方式では、ダブルベルトプレス装置300を用いる。ダブルベルトプレス装置300は、
図2に示すように、一対のエンドレスベルト310、310と、2組の一対のドラム320、320と、熱圧装置330、330とを備える。さらに、ダブルベルトプレス装置300の材料供給側には、長尺な第一の金属箔10aがコイル状に巻回された繰出機340aと、長尺な第二の金属箔10bがコイル状に巻回された繰出機340bと、長尺な第一のポリイミドフィルム20aがコイル状に巻回された繰出機350aと、長尺な第二のポリイミドフィルム20bがコイル状に巻回された繰出機350bとが設けられている。ダブルベルトプレス装置300の材料導出側には、長尺な片面金属張積層板200a及び200bをコイル状に巻き取る巻取機360a及び360bが設けられている。
【0048】
一対のドラム320、320にはエンドレスベルト310が掛架され、ドラム320が回転することによりエンドレスベルト310が回動するように配置されている。2組の一対のドラム320、320は、各エンドレスベルト310、310の間に供給される積層体100の両面が各エンドレスベルト310、310と面接触して、積層体100に面圧がかけられるように配置されている。熱圧装置330、330は、エンドレスベルト310を介して各エンドレスベルト310、310の間に供給される積層体100を加熱できるように各エンドレスベルト310、310の内側に配置されている。繰出機340a、340b、350a、350bは、金属箔10a、金属箔10b、ポリイミドフィルム20a及びポリイミドフィルム20bがそれぞれ連続的に繰り出されるように配置されている。巻取機360a、360bは、片面金属張積層板200a、片面金属張積層板200bをそれぞれ連続的に巻き取れるように配置されている。
【0049】
ダブルベルトプレス方式による製造は、具体的には、次のようにして行われる。
【0050】
まず、各繰出機340a、340b、350a、350bから長尺な金属箔10a、10b、ポリイミドフィルム20a、20bを繰り出し、回動するエンドレスベルト310、310の間にこれらを連続的に供給する。エンドレスベルト310、310の間に供給された金属箔10a、ポリイミドフィルム20a、ポリイミドフィルム20b及び金属箔20bは、
図2に示すように、この順となるように重ね合わせられ、積層体100となる。一対のエンドレスベルト310、310は、金属箔10a、10b及びポリイミドフィルム20a、20bの搬送速度と同期した速度で回動する。この際、積層体100の両面に各エンドレスベルト310、310が面接触して、積層体100に面圧がかけられる。
【0051】
次に、積層体100は、一対のエンドレスベルト310、310に挟まれた状態で、熱圧装置330が配置された領域(以下、熱プレス領域)を通過する。この熱プレス領域を積層体100が通過する際、積層体100は、熱圧装置330によりエンドレスベルト310を介して面圧がかけられると共に加熱され、溶融又は軟化したポリイミドフィルム20a、20bと、金属箔10a、10bとがそれぞれ熱圧着し、2組の片面金属張積層板200a、200bの積層体が形成される。
【0052】
次いで、形成された2組の片面金属張積層板200a、200bの積層体は、ダブルベルトプレス装置300の熱プレス領域を通過後に冷却され、一対のドラム320、320を通過したあとに、片面金属張積層板200aと200bとに引き剥がされて、巻取機360a、360bによってそれぞれコイル状に巻き取られる。
【0053】
エンドレスベルト310の材質としては、例えばステンレス等が挙げられる。熱圧装置330の加圧機構としては、例えばダブルベルトプレス装置の加圧機構として一般的に用いられているプレスロール、油圧、摺動加圧プレートによるプレスなどが挙げられる。熱圧装置330の加熱手段としては、例えば熱媒循環方式、誘導加熱方式等が挙げられる。
【0054】
ダブルベルトプレス方式による成形条件、すなわち加熱温度、加圧圧力、成形時間等は、例えば前述の範囲にすればよい。加熱温度、加圧圧力並びに加熱及び加圧の時間を前記範囲とすることで、より良好な性能を有する片面金属張積層板を製造することができる。
【0055】
ダブルベルトプレス方式による成形における速度は、0.1m/min以上であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板の生産性をより向上させることができる。前記速度は、0.5m/min以上であることがより好ましく、0.8m/min以上であることがさらに好ましい。前記速度は、5m/min以下であることが好ましい。この場合、片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面の形状をより良好なものとすることができる。前記速度は、3.5m/min以下であることがより好ましく、2.5m/min以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。
【0057】
<片面金属張積層板の製造>
片面金属張積層板の製造に用いた材料を以下に示す。
-金属箔
・銅箔1:JX金属社製の「GHY5-HA-V2」(厚み:18μm)
-ポリイミドフィルム
・フィルム1:カネカ社製の「FRS282SW」
・フィルム2:宇部興産社製の「VT」
・フィルム3:宇部興産社製の「NVT」
【0058】
[実施例1~4及び比較例1~3]
図2に示すダブルベルトプレス装置300を使用し、金属箔10a及び10bとして、下記表1に示す種類の金属箔を用い、ポリイミドフィルム20a及び20bとして、下記表1に示す種類のポリイミドフィルムを用い、下記表1に示す熱プレス工程の加熱温度(℃)、プレス圧(MPa)及び速度(m/min)の条件で、積層工程と熱プレス工程と剥離工程とを行い、2組の片面金属張積層板200a、200bを製造した。ダブルベルトプレス装置における熱プレス領域の長さは、3mであった。下記表1の「フィルム合わせ面」とは、ポリイミドフィルム20aと20bとの互いに対向する面が、ロール巻内の面(A面)及びロール巻外(B面)のいずれであるかを示す。
【0059】
剥離工程(熱プレス工程後)における2組の片面金属張積層板の間の引き剥がし強度(N/mm)を、JIS-C6471に記載の方法に従って測定した。
【0060】
2組の片面金属張積層板の間の引き剥がし強度(N/mm)の値を、表1に合わせて示す。表1の比較例1の評価における「(※1)」は、引き剥がし強度の測定において材破となり、引き剥がし強度が強過ぎて測定できなかったことを示す。
【0061】
【0062】
得られた2組の片面金属張積層板における対向する表面(熱可塑性ポリイミド層23a及び23bの表面)を、3000倍の顕微鏡で観察したところ、実施例1~4の片面金属張積層板は、引き剥がし強度が0.05N/mm以下であり、これら片面金属張積層板におけるポリイミドフィルム表面は凹凸が少なく、良好な形状を有していた。比較例1~3の片面金属張積層板は、引き剥がし強度が大きくなるため、凝集破壊などが起こり、凹凸が多く、表面形状は不良であった。
【符号の説明】
【0063】
10a、10b: 金属箔
20a、20b: ポリイミドフィルム
21a、21b: 基材ポリイミド層
22a、23a、22b、23b: 熱可塑性ポリイミド層
100: 積層体
200a、200b: 片面金属張積層板