(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】抑速車輪
(51)【国際特許分類】
F16D 59/00 20060101AFI20240301BHJP
F16D 43/18 20060101ALN20240301BHJP
【FI】
F16D59/00 A
F16D43/18
(21)【出願番号】P 2020167690
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】598087841
【氏名又は名称】株式会社幸和製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】390021153
【氏名又は名称】株式会社SKB
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】奥村 泰明
(72)【発明者】
【氏名】峯垣 淳平
(72)【発明者】
【氏名】武藤 誠司
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/047222(WO,A1)
【文献】特開2010-57605(JP,A)
【文献】特開2016-090055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 1/00-7/10
A61H 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力を利用した速度抑制機能を有する抑速車輪であって、
筒状のブレーキドラムと、
外部入力を受けて前記抑速車輪のシャフトを中心に回転するベースと、
前記ベースに取り付けられており、前記抑速車輪の前記シャフトを中心として回転し、前記ブレーキドラムの内周面に接触することにより前記抑速車輪の回転速度を低下させるブレーキシューと、
前記ブレーキシューに一端側が接続し、前記ブレーキドラムの前記内周面への前記ブレーキシューの接触を調整する弾性部材と、
前記弾性部材の他端側に位置する当り部材と、
前記抑速車輪の前記シャフトを中心に回転し、前記当り部材に直接臨む位置にあって前記当り部材を介して前記弾性部材を押圧する力を変えるカムと、
外部入力を受けて前記カムを回転させることにより前記弾性部材を押圧する力を調整する調整ギアとを備えており、
前記当り部材は、前記カムに対して線接触または点接触する形状である
抑速車輪。
【請求項2】
前記カムにおける前記当り部材に直接臨む位置には、凹所が形成されている
請求項1に記載の抑速車輪。
【請求項3】
前記抑速車輪は、前記調整ギアによって回動する前記カムを段階的に固定する第2調整ギアをさらに備えており、
前記第2調整ギアの周面には溝が形成されており、
前記カムは、前記第2調整ギアの前記溝に係合する突起部を有している
請求項1または2に記載の抑速車輪。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の回転速度を抑制することのできる抑速車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、例えば人が手で押して移動させる車両等に対して回転自在に取り付けられる車輪であって、所定の回転速度に達すると自動的にブレーキがかかることによって当該車両等の移動速度を抑制することができる抑速車輪が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された抑速車輪(以下、単に「車輪」と表記することがある。)は、車体に固定されたブレーキドラムと、車輪の中心軸を中心として回転するブレーキシューとを備えている。このブレーキシューが車輪の中心軸を中心として回転し、回転による遠心力によってブレーキドラムの内周側の側面と接触することにより、車輪の回転速度を低下させるようになっている。
【0004】
さらに言えば、特許文献1に開示された抑速車輪は、車輪の回転速度が所定の速度以下のときにはブレーキドラムとブレーキシューとの接触を阻止し、当該車輪の回転速度が所定の速度を超えたときにブレーキドラムとブレーキシューとの接触を許容する弾性部材を有しており、この弾性部材の一端部の端部の位置を変化させることにより、どの程度の「車輪の回転速度」でブレーキシューをブレーキドラムに接触させるかを調整する位置変更機構が設けられている。
【0005】
この位置変更機構は、外部からの力を受けて回転する駆動ピニオンと、当該駆動ピニオンによって左右方向に移動するラック部と、当該ラック部と一体的に形成されたテーパ状の駆動部と、当該駆動部に当接するテーパ面を有しており駆動部が左右方向に移動することによって当該左右方向に直交する向きに移動するバネ位置保持部とを有している。
【0006】
これにより、外部からの力で駆動ピニオンを回転させることにより、バネ位置保持部が移動して当該バネ位置保持部に当接している弾性部材の一端部の端部の位置を変化させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された抑速車輪では、上述した位置変更機構を別途設けるためのスペースが必要となるため、例えばテーパ状の駆動部の位置変位が優位に確保できず、バネ位置保持部の移動距離が制限され、ひいてはバネの弾性変位も制限を受けるために調整できる速度範囲が狭まるという問題があった。また、弾性部材の一端部の端部がバネ位置保持部に対して「面」で接するようになっているため、面に生じる比較的大きな摩擦抵抗により、バネの弾性変位を介した速度調整がスムーズに行うことができないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、車輪の回転速度が所定の速度以下のときにはブレーキドラムとブレーキシューとの接触を阻止し、当該車輪の回転速度が所定の速度を超えたときにブレーキドラムとブレーキシューとの接触を許容する弾性部材をよりスムーズにかつ速度調整の幅を確保できる形態で押圧することを可能とする抑速車輪を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面によれば、
遠心力を利用した速度抑制機能を有する抑速車輪であって、
筒状のブレーキドラムと、
外部入力を受けて前記抑速車輪のシャフトを中心に回転するベースと、
前記ベースに取り付けられており、前記抑速車輪の前記シャフトを中心として回転し、前記ブレーキドラムの内周面に接触することにより前記抑速車輪の回転速度を低下させるブレーキシューと、
前記ブレーキシューに一端側が接続し、前記ブレーキドラムの前記内周面への前記ブレーキシューの接触を調整する弾性部材と、
前記弾性部材の他端側に位置する当り部材と、
前記抑速車輪の前記シャフトを中心に回転し、前記当り部材に直接臨む位置にあって前記当り部材を介して前記弾性部材を押圧する力を変えるカムと、
外部入力を受けて前記カムを回転させることにより前記弾性部材を押圧する力を調整する調整ギアとを備えており、
前記当り部材は、前記カムに対して線接触または点接触する形状である
抑速車輪が提供される。
【0011】
好適には、
前記カムにおける前記当り部材に直接臨む位置には、凹所が形成されている。
【0012】
好適には、
前記抑速車輪は、前記調整ギアによって回動する前記カムを段階的に固定する第2調整ギアをさらに備えており、
前記第2調整ギアの周面には溝が形成されており、
前記カムは、前記第2調整ギアの前記溝に係合する突起部を有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブレーキドラムの内周面へのブレーキシューの接触を調整する弾性部材が当り部材を介してカムから押圧されるようになっており、当該当り部材は、カムに対して線接触または点接触するようになっている。
【0014】
したがい、カムと当たり部材との間に中間部材がある場合および「面」接触している場合とは異なり、カムが当り部材を介してスムーズにかつ速度調整の幅を確保できる形態で弾性部材を押圧することができる。
【0015】
これにより、当該弾性部材がブレーキシューに作用させる力をスムーズにして、どの程度の「車輪の回転速度」でブレーキシューをブレーキドラムに接触させるかを幅広く調整できる抑速車輪を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用された抑速車輪100の一例についての正面図である。
【
図2】本発明が適用された抑速車輪100の一例についての斜視図である。
【
図3】本発明が適用された抑速車輪100の一例についての分解斜視図である。
【
図4】本発明が適用された抑速車輪100の一例についての分解斜視図である。
【
図5】本発明が適用された抑速車輪100の一例についての、ホイールキャップ108を外した状態における正面図である。
【
図6】抑速ユニット110の一例についての分解斜視図である。
【
図7】抑速ユニット110の一例についての分解斜視図である。
【
図8】抑速度合いが「高」状態の抑速機構180の一例についての正面図である。
【
図9】抑速度合いが「中」状態の抑速機構180の一例についての正面図である。
【
図10】抑速度合いが「低」状態の抑速機構180の一例についての正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(抑速車輪100の構成について)
本実施形態に係る抑速車輪100は、例えば人が手で押して移動させる車両等に取り付けられるものであり、
図1から
図5に示すように、大略、タイヤ102と、内ホイール104と、外ホイール106と、ホイールキャップ108と、抑速ユニット110とを備えている。
【0018】
タイヤ102は、抑速車輪100が取り付けられる車両等の特性に適した材質、径、接地面形状のものが選択される。
【0019】
内ホイール104は、例えば金属や樹脂等で形成された円形の部材であり、その中央部には抑速ユニット110が収容される抑速ユニット収容空間112を構成するための第1収容凹所114が形成されている。また、この第1収容凹所114の中心位置には、抑速ユニット110の一部(シャフト154)を貫通させるためのシャフト貫通孔116が形成されている。
【0020】
さらに、内ホイール104の内面からは、後述する第1遊星歯車156を回転可能に軸支するための複数のボス126が突設されている。
【0021】
外ホイール106は、内ホイール104と同様に、例えば金属や樹脂等で形成された円形の部材であり、内ホイール104と組み合わせたうえでタイヤ102に嵌め込まれる。この外ホイール106にも抑速ユニット110が収容される抑速ユニット収容空間112を構成するための第2収容凹所118が形成されている。また、この第2収容凹所118の中心位置には、抑速ユニット110の一部(シャフト154やセンターハブ170)を回動自在に嵌挿させるための嵌挿孔120が形成されている。さらに、嵌挿孔120の近傍には、抑速車輪100の外側から抑速ユニット110の調整ギア198にアクセスするためのアクセス窓122が形成されている。
【0022】
なお、内ホイール104と外ホイール106とを一体的に構成してもよい。
【0023】
ホイールキャップ108は、外ホイール106の外側中央部に嵌め込む略円板状の部材である。ホイールキャップ108を外ホイール106に嵌め込むことにより、嵌挿孔120およびアクセス窓122を覆い隠すことができるようになっている。なお、ホイールキャップ108は必須の構成要素ではない。
【0024】
抑速ユニット110は、内ホイール104と外ホイール106とを組み合わせることによって構成される抑速ユニット収容空間112に収容されるものである。抑速ユニット110については後に詳述する。
【0025】
タイヤ102を外ホイール106に嵌めた後、抑速ユニット110を抑速ユニット収容空間112に収容するようにして内ホイール104と外ホイール106とを組み合わせ、固定ボルト124でこれら内ホイール104および外ホイール106を固定する。然る後、外ホイール106の外側中央部にホイールキャップ108を嵌め込むことにより、抑速車輪100が完成する。
【0026】
次に、抑速ユニット110について、
図6および
図7を参照しつつ説明する。本実施形態に係る抑速ユニット110は、大略、ブレーキドラム150と、内歯車152と、シャフト154と、第1遊星歯車156と、ギアプレート158と、第2遊星歯車160と、ベース162と、ベースカバー164とを備えている。
【0027】
ブレーキドラム150は、抑速ユニット110を構成する部材のうち外ホイール106に最も近い位置に配設された筒状の部材であり、抑速ユニット110を構成する他の部材の大部分を収容する収容空間166を有している。また、ブレーキドラム150には、収容空間166と外側との間を連通しており、シャフト154の一方端部が挿入固定される連通孔168が形成されている。さらに、ブレーキドラム150から外向き(外ホイール106に向かう方向)には、連通孔168に対応するセンターハブ170が突設されている。
【0028】
また、上述のように、センターハブ170は、外ホイール106の中央位置に形成された嵌挿孔120に対して回転自在に嵌挿されている。
【0029】
内歯車152は、輪状に形成された本体の内周面に内周面歯車172が形成された部材であり、ブレーキドラム150の収容空間166内に収容されるとともに、ブレーキドラム150とともにシャフト154に対して固定されている。
【0030】
シャフト154は、円柱状あるいは円筒状の棒状部材であり、抑速ユニット110全体の中央部を貫通するように配置されており、その一方端部がブレーキドラム150のセンターハブ170に挿入固定されており、他方端部が内ホイール104のシャフト貫通孔116を貫通して外部に突出し、車両等に固定されるようになっている。
【0031】
このシャフト154は、上述のように、抑速車輪100が取り付けられる車両等に対して固定されている。また、ブレーキドラム150および内歯車152は、シャフト154に対して固定されている。逆に、内ホイール104、外ホイール106、ギアプレート158、ベース162、カム196、および、ベースカバー164は、シャフト154に対して回転自在になっている。
【0032】
第1遊星歯車156は、本実施形態では3つ使用されており、内ホイール104の内面から突設されたボス126にそれぞれ回動自在に軸支されている。また、各第1遊星歯車156は、内ホイール104のシャフト貫通孔116を中心として互いに等角度で配設されている。また、各第1遊星歯車156は、外周位置において内歯車152の内周面歯車172と噛み合っているとともに、内周位置においてギアプレート158の中心部に形成されたギアプレート歯車175と噛み合っている。なお、第1遊星歯車156の数は3つに限定されるものではない。
【0033】
ギアプレート158は、略円板状の部材であり、中心位置にシャフト154が回転自在に挿通される第1シャフト挿通孔174が形成されており、この第1シャフト挿通孔174を中心として、第1遊星歯車156側にギアプレート歯車175が突設されている。
【0034】
また、ギアプレート158における、ギアプレート歯車175が突設された側とは反対側の面には、第2遊星歯車160が当該ギアプレート158に対して回転可能に取り付けられる第2遊星歯車取付突部176が第1シャフト挿通孔174を中心として互いに等角度で形成されている。この第2遊星歯車取付突部176は、第2遊星歯車160の数と同じ数だけ形成される。
【0035】
第2遊星歯車160は、本実施形態では3つ使用されており、それぞれ、ギアプレート158に形成された第2遊星歯車取付突部176に対して回転可能に取り付けられている。また、各第2遊星歯車160は、ベース162から突設されたベース歯車184(後述)と噛み合っている。
【0036】
ベース162は、大略、ベース本体178と、抑速機構180とで構成されている。
【0037】
ベース本体178は、略円板状の部材であり、中心位置にシャフト154が回転自在に挿通される第2シャフト挿通孔182が形成されており、この第2シャフト挿通孔182を中心として、ギアプレート158側にベース歯車184が突設されている。
【0038】
抑速機構180は、ベース歯車184が突設された面とは反対側の面に構成されており、
図8に示すように、大略、ブレーキシュー190と、弾性部材192と、当り部材194と、カム196と、調整ギア198と、第2調整ギア200と、ガイド部201とを備えている。
【0039】
ブレーキシュー190は、ベース162に取り付けられており、抑速車輪100のシャフト154を中心としてベース本体178とともに回転し、ブレーキドラム150の内周面に接触することにより抑速車輪100の回転速度を低下させる役割を果たす部材であり、本実施形態の場合、第2シャフト挿通孔182を中心として点対称に配置された2つのブレーキシュー190が使用されている。
【0040】
各ブレーキシュー190は、当該ブレーキシュー190をベース本体178に対して回動可能に取り付けるブレーキシュー軸202が挿入されるブレーキシュー軸挿入孔204と、このブレーキシュー軸挿入孔204に近い側の端部に形成された、弾性部材192から外向きの押圧力を受ける弾性部材当接部206と、弾性部材当接部206とは反対側の端部外側に形成された、ブレーキシュー190が回動したときにブレーキドラム150の内周面に接触するドラム接触部208とを有している。
【0041】
また、ブレーキシュー190がカム196側に格納された状態で、当該ブレーキシュー190におけるドラム接触部208側の端部内側が調整ギア198に当接して、弾性部材192からの押圧力が付加されてもドラム接触部208側の端部内側がそれ以上カム196側に寄らないようになっている。
【0042】
弾性部材192は、ブレーキシュー190における弾性部材当接部206にその一端側が接続当接し、ブレーキドラム150の内周面へのブレーキシュー190の接触を調整するための部材であり、本実施形態ではコイルばねが使用されている。もちろん、弾性部材192の役割を果たすものであれば、コイルばねに限定されず、他の種類の弾性部材192を使用してもよい。
【0043】
当り部材194は、弾性部材192の他端側(ブレーキシュー190における弾性部材当接部206の反対側)に配設された部材である。本実施形態では、当り部材194として球状の部材が使用されており、弾性部材(コイルばね)192の他端側が当該当り部材194に対して少し被さるようになっている。
【0044】
カム196は、抑速車輪100のシャフト154を中心としてベース本体178とともに回転し、当り部材194に直接臨む位置にあって当該当り部材194を介して弾性部材192を押圧する力を変える役割を果たす部材である。
【0045】
本実施形態のカム196は、中心部にカム孔210を有する略円盤状の部材であり、ベース本体178の第2シャフト挿通孔182を中心としてベース歯車184とは反対側に突設された第2調整ギア200を当該カム孔210に嵌めることで、第2調整ギア200を中心としてベース本体178に対して回動可能に取り付けられている。
【0046】
また、カム196の外周縁には、調整ギア198と噛み合う被調整ギア212がカム孔210を中心として対称な位置に2箇所形成されているとともに、当り部材194に直接臨む位置に凹所214が形成されている。本実施形態では、それぞれ凹みの大きさが異なる3箇所一組の凹所214がカム孔210を中心として対称な位置に二組形成されている。
【0047】
さらに、カム196におけるカム孔210の中心方向に向けて突出する突起部216が形成されている。本実施形態では、一対の突起部216がカム孔210を中心として対称な位置にそれぞれ形成されている。
【0048】
調整ギア198は、外部入力を受けてカム196を回転させることにより当該カム196が当り部材194を介して弾性部材192を押圧する力を調整する役割を果たす部材であり、本実施形態では、一対の調整ギア198がカム孔210を中心として対称な位置においてそれぞれベース本体178に対して回動可能に取り付けられている。
【0049】
各調整ギア198は、カム196の被調整ギア212と噛み合うようになっており、少なくとも一方の調整ギア198を回動させることで、被調整ギア212を介してカム196をベース本体178に対して回動させることができるようになっている。
【0050】
第2調整ギア200は、上述した調整ギア198によって回動するカム196を所定の回動位置で段階的に固定するための部材であり、ベース本体178から突設されている。第2調整ギア200の周面には、カム196の突起部216に係合する複数の溝218が形成されている。具体的に言うと、本実施形態のカム196は3つの凹所214を有しており、各凹所214に当り部材194が嵌まるときのベース本体178に対するカム196の位置・角度に対応するように、突起部216に対する各溝218の位置が決められている。
【0051】
ガイド部201は、カム196によって位置が変えられる当り部材194、および、当該当り部材194の位置が変わったり自身の長さが伸縮したりする弾性部材192がブレーキシュー190の弾性部材当接部206に正しく向かうようにガイドするための部分であり、本実施形態では、一対のガイド部201がそれぞれの当り部材194および弾性部材192を挟むようにして所定の間隔をあけて配置されている。なお、本実施形態では、一対のガイド部201の間隔は一定になっているが、これに変えて、カム196の近傍側端部における一対のガイド部201の間隔を狭めて当り部材194がカム196側でガイド部201から脱落しないようにしてもよい。
【0052】
図6および
図7に戻り、ベースカバー164は、ベース本体178に取り付けられた抑速機構180をカバーするようにしてベース162に取り付けられる略円板状の部材である。ベースカバー164には、その中心位置にシャフト154が回転自在に挿通される第3シャフト挿通孔220が形成されており、また、一対の調整ギア198に対応する位置に一対の調整ギア用孔222が形成されている。
【0053】
このベースカバー164をベース162に取り付けることにより、外部から抑速機構180に異物が入ったり、抑速機構180を構成する各部材が外れたりするのを防止できる。
【0054】
(抑速車輪100の動作について)
本実施形態に係る抑速車輪100の動作について説明する。抑速車輪100のシャフト154の他方端部を車両等に固定した状態でタイヤ102を回転させる。すると、当該タイヤ102に嵌め込まれた内ホイール104を介して抑速ユニット110における3つの第1遊星歯車156がシャフト154を中心として回転する。
【0055】
第1遊星歯車156が回転すると、当該内歯車152の内周面に形成された内周面歯車172と噛み合うとともに、その回転力が当該第1遊星歯車156と噛み合う、ギアプレート158のギアプレート歯車175に伝達される。ここで、タイヤ102や内ホイール104の回転速度に比べて、第1遊星歯車156を介して回転力が伝達されたギアプレート158の回転速度は速くなっている。
【0056】
続いて、ギアプレート158とともに第1シャフト挿通孔174を中心として回転する第2遊星歯車160を介してベース本体178のベース歯車184に回転力が伝達され、ベース162が回転する。ベース162の回転速度は、ギアプレート158の回転速度よりもさらに速くなっている。
【0057】
ベース162の回転速度が速くなると、遠心力により、弾性部材当接部206に対する弾性部材192からの押圧力に抗してブレーキシュー190がブレーキシュー軸挿入孔204を中心として回動し、ブレーキシュー190のドラム接触部208が外側に移動する。
【0058】
そして、外側に移動したドラム接触部208がシャフト154とともに回転していないブレーキドラム150の内周面に接するとベース162の回転速度にブレーキがかかる。この結果、上述した回転力の伝達ルートを遡って各部材の回転速度が低下し、最終的にタイヤ102の回転速度が抑制される。
【0059】
タイヤ102の回転速度が抑制されていくに連れてブレーキシュー190に作用する遠心力が低下していくので、当該ブレーキシュー190のドラム接触部208がブレーキドラム150の内周面を押圧する力も小さくなり抑速の度合いも小さくなっていく。
【0060】
タイヤ102の回転速度が所定の度合いまで低下すると、弾性部材192からの押圧力によってブレーキシュー190のドラム接触部208がブレーキドラム150の内周面から離間し、抑速作用は解除される。
【0061】
以後、タイヤ102の回転速度が再び高まると、上述したメカニズムによって当該タイヤ102への抑速作用が発揮される。
【0062】
加えて、本実施形態に係る抑速車輪100では、上述のように、それぞれ凹みの大きさが異なる3箇所一組の凹所214がカム孔210を中心として対称な位置に二組形成されており、例えば
図8に示す状態では、球状の当り部材194が最も凹みが大きい凹所214aに嵌入している。つまり、この状態で、当り部材194は弾性部材当接部206から最も遠い位置にあることから、弾性部材192は最も圧縮が小さい状態となっている。
【0063】
当り部材194が最も凹みが大きい凹所214aに嵌入した状態では、弾性部材192がブレーキシュー190の弾性部材当接部206を押圧する力が最も小さくなる。これにより、ブレーキシュー190は比較的小さい遠心力で弾性部材192からの押圧力に抗して回動することになり、タイヤ102の回転速度が比較的低い状態からブレーキシュー190のドラム接触部208がブレーキドラム150の内周面に当接して制動力を発揮する。
【0064】
図8に示す状態から、外部からアクセス窓122を介して調整ギア198を回動させることにより、被調整ギア212を介してカム196を回動させて当り部材194が中央の(2番目に凹みが大きい)凹所214bに嵌入した状態を
図9に示す。また、この状態で、カム196に形成された突起部216が係合する第2調整ギア200に形成された溝218も移動している。
【0065】
図9に示す状態では、当り部材194が凹所214aにくらべて凹みが小さい凹所214bに嵌入しており、当該当り部材194が弾性部材当接部206に近づいた位置にあることから、弾性部材192の圧縮状態は少し大きくなっている。
【0066】
これにより、弾性部材192がブレーキシュー190の弾性部材当接部206を押圧する力が少し大きくなるので、ブレーキシュー190が弾性部材192からの押圧力に抗して回動する遠心力が少し大きくなり、タイヤ102の回転速度がやや高い状態からブレーキシュー190のドラム接触部208がブレーキドラム150の内周面に当接して制動力を発揮するようになる。
【0067】
調整ギア198をさらに回動させて当り部材194が最も凹みが小さい凹所214cに嵌入した状態を
図10に示す。また、この状態で、カム196に形成された突起部216が係合する溝218もさらに移動している。
【0068】
図10に示す状態では、当り部材194が最も凹みが小さい凹所214cに嵌入しており、当該当り部材194が弾性部材当接部206に最も近づいた位置にあることから、弾性部材192の圧縮状態は最大になっている。
【0069】
これにより、弾性部材192がブレーキシュー190の弾性部材当接部206を押圧する力が最大になるので、ブレーキシュー190が弾性部材192からの押圧力に抗して回動する遠心力が最も大きくなり、タイヤ102の回転速度が最も高い状態からブレーキシュー190のドラム接触部208がブレーキドラム150の内周面に当接して制動力を発揮するようになる。
【0070】
(抑速車輪100の特徴について)
本実施形態に係る抑速車輪100では、ブレーキドラム150の内周面へのブレーキシュー190(のドラム接触部208)の接触を調整する弾性部材192が当り部材194を介してカム196から押圧されるようになっており、当該当り部材194が球状であることから、当り部材194はカム196に対して点接触するようになっている。
【0071】
したがい、カム196と当り部材194との間に中間部材がある場合および「面」接触している場合とは異なり、カム196が当り部材194を介してスムーズにかつ速度調整の幅を確保できる形態で弾性部材192を押圧することができる。
【0072】
これにより、当該弾性部材192がブレーキシュー190に作用させる力をスムーズにして、どの程度の「車輪の回転速度」でブレーキシュー190をブレーキドラム150に接触させるかを幅広く調整できる抑速車輪を提供することができた。
【0073】
また、本実施形態に係る抑速車輪100では、調整ギア198によって回動するカム196を段階的に固定する第2調整ギア200をさらに備えているとともに、第2調整ギア200の周面には溝218が形成されており、カム196は第2調整ギア200の溝218に係合する突起部216を有している。
【0074】
これにより、調整ギア198を回してカム196が弾性部材192を押圧する力を調整する際、カム196に形成された各凹所214に対応する位置で突起部216が対応する第2調整ギア200の溝218に係合するので、ユーザがクリック感を感じつつ当り部材194を確実に各凹所214に嵌めることができる。
【0075】
(変形例1)
上述した実施形態に係る抑速車輪100では、抑速ユニット110において遊星歯車156,160が使用されていたが、これら遊星歯車156,160やギアプレート158を省いて内ホイール104に対してベース162を直接取り付けてもよい。この場合、ベース162の回転速度は、遊星歯車156,160を用いる場合に比べて低くなるので、より小さい遠心力でもブレーキシュー190が回動できる程度に弾性部材192の押圧力を低く設定する必要がある。
【0076】
(変形例2)
上述した実施形態に係る抑速車輪100では、当り部材194として球体が使用されていたが、当り部材194の形状はこれに限定されるものではなく、例えば略円弧状の断面を有する棒状(つまり「カマボコ」型)であってもよい。このような形状の場合、当り部材194はカム196に対して「線」接触するようになる。
【0077】
(変形例3)
上述した実施形態に係るカム196では、その周に凹所214が設けられているが、これに限定されるものではなく、例えばその周方向に沿って溝を設ける形態でもよく、凹所214の周方向に沿ってさらに溝を設ける形態とすることによりさらに位置規制を高めるものとしてもよい。
【0078】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
100…抑速車輪、102…タイヤ、104…内ホイール、106…外ホイール、108…ホイールキャップ、110…抑速ユニット、112…抑速ユニット収容空間、114…第1収容凹所、116…シャフト貫通孔、118…第2収容凹所、120…嵌挿孔、122…アクセス窓、124…固定ボルト、126…ボス
150…ブレーキドラム、152…内歯車、154…シャフト、156…第1遊星歯車、158…ギアプレート、160…第2遊星歯車、162…ベース、164…ベースカバー、166…収容空間、168…連通孔、170…センターハブ、172…内周面歯車、174…第1シャフト挿通孔、175…ギアプレート歯車、176…第2遊星歯車取付突部、178…ベース本体、180…抑速機構、182…第2シャフト挿通孔、184…ベース歯車、190…ブレーキシュー、192…弾性部材、194…当り部材、196…カム、198…調整ギア、200…第2調整ギア、201…ガイド部、202…ブレーキシュー軸、204…ブレーキシュー軸挿入孔、206…弾性部材当接部、208…ドラム接触部、210…カム孔、212…被調整ギア、214…凹所、216…突起部、218…溝、220…第3シャフト挿通孔、222…調整ギア用孔