(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】スペーサ
(51)【国際特許分類】
F02F 1/10 20060101AFI20240301BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20240301BHJP
B32B 3/26 20060101ALN20240301BHJP
B32B 5/18 20060101ALN20240301BHJP
【FI】
F02F1/10 D
F01P3/02 A
B32B3/26 Z
B32B5/18 101
(21)【出願番号】P 2019207659
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2019002464
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128256(JP,A)
【文献】特開2015-222071(JP,A)
【文献】特開2012-036742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0306833(US,A1)
【文献】特開2007-107426(JP,A)
【文献】特開2012-007478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/10
F01P 3/02
B32B 3/26
B32B 5/18
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサであって、
合成樹脂からなる支持体と、
前記支持体の内面又は外面に、一体成型により取り付けられる多孔質体と、を備え、
前記多孔質体には、その厚み方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記支持体は、前記貫通孔の開口を塞ぐように形成されており、
前記支持体には、前記貫通孔に対応する箇所に、前記多孔質体とは反対側に突出する突部が設けられており、
前記突部は、前記貫通孔に連通するとともに前記多孔質体とは反対側の開口が塞がれた有底筒状に形成され
、前記冷却水流路内に配置された前記支持体が前記冷却水流路の内壁面側に変位した際、先端が前記内壁面に当接することを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
請求項1に記載のスペーサにおいて、
前記貫通孔が複数設けられ、前記突部は、当該貫通孔のそれぞれに対応する箇所に設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスペーサにおいて、
前記支持体には、前記多孔質体が取付けられている側の面に、前記多孔質体の外縁に沿って隣接して形成された溝部が設けられていることを特徴とするスペーサ。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記多孔質体は、所定の外的要因が付加されたことを契機として、圧縮された状態から厚み方向に膨大化する特性を有するものであることを特徴とするスペーサ。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記貫通孔は、前記多孔質体と前記支持体とをインサート成型する際、前記多孔質体を成型型に位置決めするための位置決め突起が挿通される孔であることを特徴とするスペーサ。
【請求項6】
請求項5に記載のスペーサにおいて、
前記支持体は、前記シリンダボアに対応する円弧部を備え、
前記多孔質体は、前記円弧部に取り付けられ、
前記多孔質体の中央に真円状の前記貫通孔を構成する第1貫通孔が形成されるとともに、該第1貫通孔を挟んで両サイドに前記貫通孔を構成する第2貫通孔が形成されており、
前記第2貫通孔は、前記円弧部の周方向に直交する方向よりも前記円弧部の周方向に長い長孔形状に形成されていることを特徴とするスペーサ。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のスペーサにおいて、
前記支持体には、前記貫通孔の開口を塞ぐ有底部分が形成されており、前記有底部分の底面は、凹形状または凸形状に形成されていることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように形成された冷却水流路内に配置されるスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
前記内燃機関の冷却水流路には、流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するためのスペーサが開口部から挿入されて配置される(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたスペーサでは、合成樹脂等からなるスペーサ本体(支持体)のシリンダボア側の側面に、冷却水と接触すると膨大化して、冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触する部材が取付けられている。このようにスペーサ本体に取付けられる部材は、膨大化する前は嵩低い(厚みが薄い)ため、当該スペーサを、冷却水流路内に挿入する際には挿入抵抗を小さくして挿入を円滑にし、冷却水流路内に配置した後は膨大化して、冷却水の流通を規制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1には、前記のようなスペーサをインサート成型により製造する方法の一例(同特許文献の
図14及びその関連記載参照)が記載されている。この例では、発泡体を下型に配置する際、下型の所定位置に設けられた位置決め用の突起を、発泡体に予め設けられた透孔(貫通孔)に挿通して位置決めがなされた後、上型が型締めされる。そして、この型締め状態では、突起の先端部が、上型の対向位置に設けられた穴部に没入する。したがって、この状態で樹脂を射出してインサート成型して得られたスペーサには、発泡体及び支持体を貫いてスペーサの表裏間(内外面間)に連通する貫通孔が形成される。このように、表裏に連通する貫通孔を有するスペーサを前記冷却水流路内に配置して、冷却水を流通させると、冷却水が貫通孔を通じてスペーサの表裏間を流通することになるため、スペーサの規制機能が低下する。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みなされたもので、多孔質体に貫通孔が設けられていても、この貫通孔を通じてスペーサの表裏間で冷却水の流通が生じることを抑制することができるスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るスペーサは、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサであって、合成樹脂からなる支持体と、前記支持体の内面又は外面に、一体成型により取り付けられる多孔質体と、を備え、前記多孔質体には、その厚み方向に貫通する貫通孔が設けられ、前記支持体は、前記貫通孔の開口を塞ぐように形成されており、前記支持体には、前記貫通孔に対応する箇所に、前記多孔質体とは反対側に突出する突部が設けられており、前記突部は、前記貫通孔に連通するとともに前記多孔質体とは反対側の開口が塞がれた有底筒状に形成され、前記冷却水流路内に配置された前記支持体が前記冷却水流路の内壁面側に変位した際、先端が前記内壁面に当接することを特徴とする。
【0007】
本発明のスペーサによれば、多孔質体に設けられた貫通孔の開口が、支持体によって塞がれているから、当該スペーサが冷却水流路内に配置された状態において、当該貫通孔を通じて、冷却水がスペーサの表裏間で流通することを抑制できる。したがって、シリンダボア側に向かう冷却水を所定量に維持でき、想定していたスペーサの規制機能が低下することを抑制できる。また、貫通孔に対応する箇所に突部が設けられているから、支持体の厚みが薄い場合でも、貫通孔の開口を確実に塞ぐような支持体を成型することができ、貫通孔を通じて、冷却水がスペーサの表裏間で流通することを的確に抑制できる。突部が筒状であっても、この筒状は有底であるため、実質的に貫通孔の開口が塞がれることになり、前記効果を同様に奏する。
【0009】
本発明に係るスペーサにおいて、前記貫通孔が複数設けられ、前記突部は、当該貫通孔のそれぞれに対応する箇所に設けられているものとしてもよい。
これによれば、貫通孔が複数であっても、それぞれに突部が設けられているから、支持体の厚みが薄かったり不均一であったりしても、各貫通孔の開口が支持体によって確実に塞がれた状態に維持され、貫通孔を通じて、冷却水がスペーサの表裏間で流通することを的確に抑制できる。
【0010】
本発明に係るスペーサにおいて、前記多孔質体は、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮された状態から厚み方向に膨大化する特性を有するものとしてもよい。
これによれば、多孔質体が圧縮された状態で冷却水流路内に配置することができるから、冷却水流路の側壁等に干渉することなく円滑に配置される。
【0011】
本発明に係るスペーサにおいて、前記貫通孔は、前記多孔質体と前記支持体とをインサート成型する際、前記多孔質体を成型型に位置決めするための位置決め突起が挿通される孔としてもよい。
これによれば、多孔質体の貫通孔はインサート成型時に位置決めのために形成されたものであっても、この貫通孔の開口は支持体によって塞がれるから、この貫通孔を通じてスペーサの表裏間で冷却水の流通が生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスペーサによれば、多孔質体に貫通孔が設けられていても、この貫通孔を通じてスペーサの表裏間で冷却水の流通が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るスペーサを内燃機関の冷却水流路内に配置した状態の一例を示す概略的横断平面図である。
【
図2】本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、(a)は
図1のX部の拡大図であり、(b)は(a)の状態から冷却水が多孔質体に接触して多孔質体が膨大化した状態を示す(a)と同様図である。
【
図3】(a)は
図2(a)におけるY-Y線矢視断面図であり、(b)は
図2(b)におけるZ-Z線矢視断面図である。
【
図4】本発明に係るスペーサの第二の実施形態を示す横断面図である。
【
図5】第二の実施形態の変形例を示す
図4と同様図である。
【
図6】本発明に係るスペーサの第三の実施形態を示す
図4と同様図である。
【
図7】(a)(b)(c)は、第二の実施形態のスペーサを製造する方法を模式的に示す工程図であり、(a)は圧縮状態の多孔質体を成型型に配置する工程を、(b)は同多孔質体と樹脂とを一体にインサート成型する工程を、(c)は脱型して得られたスペーサを、それぞれ示す。
【
図8】本発明に係るスペーサの第四の実施形態を示し、(a)及び(b)は同スペーサを模式的に示す斜視図、(c)は
図8(b)のW-W線矢視断面図である。
【
図9】(a)(b)は、第四の実施形態のスペーサを製造する方法を模式的に示す工程図であり、(a)は圧縮状態の多孔質体を成型型に配置する工程を示す斜視図、(b)は同多孔質体と樹脂とを一体にインサート成型する工程を示す。
【
図10】本発明に係るスペーサの第五の実施形態を示し、(a)及び(b)は同スペーサを模式的に示す斜視図である。
【
図11】(a)(b)は、第五の実施形態のスペーサを製造する方法を模式的に示す工程図であり、(a)は圧縮状態の多孔質体を成型型に配置する工程を示す斜視図、(b)は同多孔質体と樹脂とを一体にインサート成型する工程を示す。
【
図12】(a)(b)は、第六の実施形態のスペーサを製造する方法を模式的に示す工程図であり、(a)及び(b)は圧縮状態の多孔質体を成型型に配置するまでの工程を示す。
【
図13】(a)(b)は、第六の実施形態のスペーサを製造する方法を模式的に示す工程図であり、(a)は多孔質体と樹脂とを一体にインサート成型する工程の部分拡大図を、(b)は脱型して得られたスペーサの部分拡大図を示す。
【
図14】(a)~(d)は本発明に係るスペーサのさらなる変形例を種々示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について、
図1~
図14を参照して説明する。
図1~
図3は、本発明に係るスペーサの第一の実施形態を示し、
図1は、同実施形態のスペーサを、内燃機関10におけるシリンダブロック1の冷却水流路3内に配置した状態を示している。
図1に示すシリンダブロック1は、3気筒の自動車用エンジン(内燃機関)10を構成するものであり、3個のシリンダボア(気筒)2…が隣接状態で直列に連なるように設けられている。1a…は、シリンダヘッド4(
図3(b)参照)をヘッドガスケット4a(
図3(b)参照)を介してシリンダブロック1に合体締結させるためのボルト(不図示)用挿通孔である。3個のシリンダボア2…の周囲には、これらシリンダボア2…を取り囲むようにオープンデッキタイプの溝形状の冷却水流路3が一連に形成されている。シリンダブロック1の適所には、この冷却水流路3に通じる冷却水導入口1bと冷却水導出口1cとが設けられている。冷却水導出口1cは、不図示のラジエータに配管接続され、ラジエータのアウトレット側は、ウォータポンプ(不図示)を介して冷却水導入口1bに配管接続される。これによって、冷却水流路3とラジエータとの間で冷却水(不凍液も含む)が循環するように構成される。なお、シリンダヘッド4にも冷却水流路(不図示)が設けられる場合は、シリンダブロック1の冷却水流路3と、シリンダヘッドの冷却水流路(不図示)とが連通するよう構成される。この場合は、シリンダブロック1には、前記冷却水導出口がなくてもよく、シリンダヘッドに冷却水導出口が設けられ、これにラジエータに通じる配管が接続される。
【0015】
冷却水流路3は、シリンダボア2を取り囲むよう形成された円弧形状部3a…と、隣接するシリンダボア2,2間部分に互いに接近して対をなすよう形成されたくびれ形状部3b…とを有している。くびれ形状部3b…の溝幅は、冷却水流路3の他の円弧形状部3aの溝幅より大きい。そして、冷却水流路3の両内壁面は、前記円弧形状部3a…及びくびれ形状部3bに対応するよう形成され、シリンダボア2側の内壁面(内側内壁面)3cと、シリンダボア2とは反対側の内壁面(外側内壁面)3dとにより構成される。各シリンダボア2内には、その軸方向に沿って往復動するピストン5が設けられ、ピストン5は、その外周部に取り付けられたピストンリング5aを介してシリンダボア壁2aの内周面2aaを摺動し得るように構成されている。
【0016】
冷却水流路3内には、スペーサ6が配置される。本実施形態のスペーサ6は、合成樹脂からなる支持体7と、支持体7の内面(シリンダボア2側に向く面)7aに、一体成型により取り付けられ、後記する円弧部70の周方向に長いシート状の多孔質体8とを備える。本実施形態における支持体7は、冷却水流路3の半部(シリンダボア2…の直列方向に沿った中心線Lの片側部)に配置される半筒形状とされる。したがって、この半筒形状の支持体7は、冷却水流路3の複数の円弧形状部3a及びくびれ形状部3bに対応する形状部分が連なった形状とされている。具体的には、支持体7は、
図1に示すように、冷却水流路3の円弧形状部3aに配置される複数の円弧部70…と、隣り合う円弧部70,70同士を接続するとともに冷却水流路3のくびれ形状部3bに配置される接続部71とを備えている。そして、支持体7の内面7aであって、各円弧部70に、多孔質体8が取付けられている。多孔質体8には、その厚み方向に貫通する貫通孔8aが設けられ、支持体7は、貫通孔8aの開口8aaを塞ぐように形成されている。本実施形態では、支持体7には、貫通孔8aに対応する箇所に、多孔質体8とは反対側に突出する突部7cが設けられている。さらにこの突部7cは、貫通孔8aに連通するとともに多孔質体8とは反対側の開口7caが塞がれた有底筒状に形成されている。つまり、突部7cは、筒部7cbと筒部7cbの開口7caを塞ぐ底部7ccとから構成されている(
図2(a)(b)参照、
図3では、筒部7cb及び底部7ccの符号の図示省略)。これにより、多孔質体8における貫通孔8aの開口8aaは、突部7cにより塞がれることになり、実質的には支持体7によって塞がれている。突部7cの突出高さは、支持体7の厚みより小さい。さらに、突部7cの突出高さは、スペーサ6がシリンダボア2寄りに配置された状態における支持体7の外面7bと冷却水流路3の外側内壁面3dとの距離より小さい。筒状の突部7cの内径は、貫通孔8aの内径と同じである。突部7cは、支持体7における円弧部70の頂部に対応する箇所に設けられている。
【0017】
本実施形態におけるスペーサ6の多孔質体8は、圧縮状態のセルロース系スポンジからなり、当該セルロース系スポンジは圧縮状態に維持され、水に接触すると、これが外的要因の付加となり、これを契機として圧縮前の状態に復元する特性を有する。さらに具体的には、セルロース系スポンジとは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維(例えば、綿等)とからなる天然素材である。セルロースは、親水基(OH)を有しており、化学的に水分になじみ易い性質を有する。また、セルロース系スポンジは、多孔質の素材であり、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有する。セルロース系スポンジ(多孔質体8)は、後記するように、圧縮された状態のセルロース系スポンジ8を支持体7とともにインサート成型することによって、支持体7に一体化される。したがって、支持体7を構成する樹脂材料の一部がセルロース系スポンジ8に含浸した状態で、セルロース系スポンジ8は支持体7の内面7aに固着している。セルロース系スポンジ8の貫通孔8aは、このインサート成型の際、多孔質体8を成型型に位置決めするための位置決め突起が挿通される孔である。
【0018】
前記のように構成されるスペーサ6は、内燃機関10における冷却水流路3内に、その開口部30から挿入されて配置される。
図1、
図2(a)及び
図3(a)は、スペーサ6が冷却水流路3内に配置された状態を示している。冷却水流路3内にスペーサ6を配置する際に、多孔質体8が圧縮状態に維持されているから、多孔質体8が冷却水流路3の内側内壁面3cに干渉し難く、スムースに挿入される。次いで、シリンダヘッド4がヘッドガスケット4aを介してシリンダブロック1の上面に締結一体とされ、その後、冷却水wが冷却水導入口1bから冷却水流路3内に導入される。そして、シリンダヘッド4の燃焼室40内での燃焼ガスの爆発作用によって、シリンダボア2内のピストン5が上下昇降動作を繰り返し、内燃機関10は稼動状態となる。
【0019】
前記のように、冷却水が冷却水流路3内に導入されると、セルロース系スポンジからなる多孔質体8に接触し、多孔質体8が復元してシリンダボア2側(反圧縮方向)に膨大化する。この復元に伴って、多孔質体8の表面(シリンダボア2側の面)8bが冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。多孔質体8は、その表面8bが内側内壁面3cに当接した後もさらに膨大化し、その反力により支持体7が反シリンダボア2側に変位する。この変位に伴い、突部7cの先端部が冷却水流路3の外側内壁面3dに当接する。
図2(b)及び
図3(b)は、多孔質体8が冷却水wに接触して膨大化した状態を示している。多孔質体8は、冷却水流路3を流れる冷却水wの冷却能力がシリンダボア壁2aに対して過剰となる箇所に設けられており、多孔質体8が膨大化すると、多孔質体8は冷却水wの流れを堰き止める。そして、多孔質体8は、シリンダボア壁2aに対する冷却水wの冷却能力を低下させるようになり、過冷却抑制機能を発揮してシリンダボア壁2aに対する冷却状態を適正に調整する。
【0020】
そして、本実施形態のスペーサ6では、多孔質体8に表裏に貫通する貫通孔8aが設けられているが、この貫通孔8aの開口8aaが支持体7によって塞がれているから、冷却水wがこの貫通孔8aを通じてスペーサ6の表裏間で流通することを抑制できる。つまり、スペーサ6を基準として、冷却水流路3の反シリンダボア2側を流れる冷却水が、多孔質体8に設けられた貫通孔8aを通じて、冷却水流路3のシリンダボア2側に流入することを抑制できる。したがって、シリンダボア2側に向かう冷却水wを所定量に維持でき、想定していたスペーサ6の機能が低下することを抑制できる。また、支持体7には、貫通孔8aに対応する箇所に突部7cが設けられているから、支持体7の厚みが薄い場合でも、貫通孔8aの開口8aaが支持体7によって確実に塞がれた状態に維持される。さらに、突部7cは、貫通孔8aに連通するとともに、その開口7caが塞がれた有底筒状に形成されているので、実質的に貫通孔8aの開口8aaは支持体7によって塞がれることになり、前記効果を同様に奏する。さらにまた、多孔質体8の膨大化に伴い、突部7cが、冷却水流路3の外側内壁面3dに当接するから、支持体7の外面7bと冷却水流路3の外側内壁面3dとの間に隙間が確保される。したがって、この隙間部分での冷却水wの流通により、冷却水流路3内で冷却水wの流れが滞ることを抑制することができる。
【0021】
図4は本発明に係るスペーサの第二の実施形態を示している。本実施形態のスペーサ6は、部分スペーサであって、支持体7が
図1における冷却水流路3の円弧形状部3aに対応する形状部のみからなり、当該冷却水流路3の円弧形状部3aの適所に個々に配置されるものである。本実施形態のスペーサ6も、円弧形状の支持体7の内面7aに、前記と同様の多孔質体8が、一体に取付けられている。しかし、図示の例では支持体7の内面7aに、多孔質体8の外形状と同等の凹所7aaが段差状に形成され、多孔質体8はこの凹所7aaに嵌り込むように取付けられている。このように、多孔質体8が支持体7の凹所7aaに嵌り込むように取付けられていることにより、多孔質体8の取付状態が安定化する。支持体7における多孔質体8の貫通孔8aに対応する箇所に、前記と同様の有底筒状の突部7cが設けられ、貫通孔8aの多孔質体8とは反対側の開口8aaが支持体7によって実質的に塞がれている。
【0022】
本実施形態のスペーサ6も、
図1に示すシリンダブロック1の冷却水流路3内に配置される。冷却水が冷却水流路3内に導入されると、多孔質体8が冷却水に接触してシリンダボア2側に膨大化し、多孔質体8の表面8bが冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。このとき、支持体7は前記と同様に反シリンダボア2側に変位して、突部7cが冷却水流路3の外側内壁面3dに当接する。そして、実質的に貫通孔8aの開口8aaが支持体7によって塞がれているので、前記と同様の効果が得られる。
その他の作用・効果等は第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここではその説明を割愛する。
【0023】
図5は、本発明に係るスペーサの第二の実施形態の変形例を示す。この例では、多孔質体8に表裏に貫通する複数の貫通孔8a…が設けられ、前記と同様の筒状の突部7c…が、当該貫通孔8a…のそれぞれに対応する箇所に設けられている。図示の例では、貫通孔8a…及び突部7c…が冷却水流路3の周方向に等間隔で互いに平行に配列されている。また、複数の突部7c…の突出高さを同じとしている。さらに、各突部7c…の先端部は、同心の曲面をなすように形成されている。そして、突部7cは、その開口7caが塞がれた有底筒状に形成され、これによって、多孔質体8における各貫通孔8a…の開口8aaが実質的に支持体7によって塞がれている。
【0024】
このように、多孔質体8に複数の貫通孔8a…が設けられていると、後記するスペーサ6のインサート成型の際に、多孔質体8を金型の所定位置により安定した状態で位置決め配置することができる。また、支持体7に、複数の突部7c…が貫通孔8a…のそれぞれに対応するよう同じ突出高さで、先端部が同心の曲面をなすように設けられているので、冷却水流路3内で多孔質体8が膨大化した際、複数の突部7c…が冷却水流路3の外側内壁面3dに当接する。したがって、多孔質体8が冷却水流路3の内側内壁面3cへ当接することと相まって、スペーサ6が冷却水流路3内の所定位置に安定的に保持される。特に、例示のようなスペーサ6の場合、冷却水流路3内の所定位置に安定的に保持されることは、想定していたスペーサ6の機能の低下を抑制する上で有効である。
その他の作用・効果等は第一及び第二の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここでもその説明を割愛する。
【0025】
図6は、本発明に係るスペーサの第三の実施形態を示す。本実施形態のスペーサ6も部分スペーサであるが、支持体7が、前記実施形態のような多孔質体8の貫通孔8aに対応する箇所に設けられる突部7cを有していない。しかし、貫通孔8aの開口8aaは支持体7によって塞がれている。支持体7における貫通孔8aに対応する箇所には、多孔質体8側から厚み方向に凹む凹部7dを有している。この凹部7dは、後記する製造方法において多孔質体8を成型型に位置決めするための突起が多孔質体8より突出する部分によるものである。本実施形態のスペーサ6も第二の実施形態と同様に冷却水流路3の円弧形状部3a内に配置される。冷却水が冷却水流路3内に導入されると、多孔質体8が膨大化して、多孔質体8の表面8bが冷却水流路3の内側内壁面3cに当接する。支持体7の外面7bには前記のような突部7cが存在しないから、支持体7の外面7bが冷却水流路3の外側内壁面3dに直接当接する。これにより、第一及び第二の実施形態に比べて冷却水流路3内で冷却水wの流れが滞り易くなるが、エンジンの仕様によってはシリンダボア壁2aの過冷抑制にはむしろ好適である場合もある。
その他の作用・効果等は第一及び第二の実施形態と同様であるから、ここでもその説明を割愛する。
【0026】
図7(a)(b)(c)は本発明に係るスペーサの製造方法の一例であり、第二の実施形態のスペーサ6の製造方法を例に採って示すものである。このようなスペーサ6は、
図7(a)(b)に示すような成型装置(成型型)100を用いて製造される。成型装置100を構成する下型101及び上型103は、型締めしたときに前記冷却水流路3の円弧形状部3aに対応する円弧形状のキャビティ102を形成するように構成される。キャビティ102は、スペーサ6を構成する支持体7の四周部を取り囲む大きさとされ、下型101の凸曲面からなる下型キャビティ102aと、上型103の凹曲面からなる上型キャビティ102bとから構成される。下型キャビティ102aの略中心部(凸曲面の頂部)には、多孔質体8の前記貫通孔8aに挿通し得る円柱状の突起102aaが形成されている。また、上型キャビティ102bの略中心部(凹曲面の最底部)には、前記突起102aaの先端部を受容し得る円筒状の有底穴部102baが形成されている。この有底穴部102baの径は、突起102aaの径より大きい。また、有底穴部102baの深さは、下型101及び上型103を型締めした際に、その当該有底穴部102baの底面と突起102aaの先端面との間に所定の隙間が確保される大きさとされる。さらに、上型103には、キャビティ102に樹脂を射出するためのゲート部103aが形成されている。
【0027】
前記成型装置100を用いて
図7(c)に示すスペーサ6を製造する場合、まず、下型キャビティ102a上に、予め所定大きさに裁断され、且つ、所定位置に貫通孔8aが形成された方形の多孔質体8を配置する。ついで、下型キャビティ102aの突起102aaに多孔質体8の貫通孔8aを嵌め合せて多孔質体8を位置決めした上で、上型103を下型101に型締めする。突起102aaは、この上型103の型締めの際にその先端部が上型キャビティ102bの前記有底穴部102baに没入し得るように構成されている。そして、上型103の型締めの際、上型キャビティ102bが下型キャビティ102a上に位置付けされている多孔質体8の左右側部に作用して、多孔質体8を円弧状に変形させる。この状態で、ゲート部103aより溶融状態の樹脂rをキャビティ102内に射出してインサート成型する。ゲート部103aからの樹脂rの射出の際、多孔質体8は、その表面8bが樹脂rの射出圧によって凸曲面からなる下型キャビティ102aに沿うようにさらに円弧状に変形される。この状態で前記インサート成型がなされる。
【0028】
このインサート成型においては、多孔質体8は、貫通孔8aと突起102aaとの嵌め合せによって位置決めされているから、樹脂rのキャビティ102内での流動圧によって位置ずれを生じる懸念がない。射出された樹脂rは、多孔質体8の裏面8cとその四周端面に一体とされる。このインサート成型に際して、多孔質体8の裏面8c及び四周端面に、接着剤を塗布して表面状態を改質しておけば、多孔質体8に対して樹脂rが強固に一体成型される。
【0029】
成型が終了し、脱型されると、
図7(c)に示すように、支持体7に対し多孔質体8が所定の位置(凹所7aaに嵌め込まれた状態)に確実に一体化されたスペーサ6が得られる。そして、支持体7における多孔質体8の貫通孔8aに対応する箇所には、有底穴部102baと突起102aaとの径の前記大小関係により、貫通孔8aに連通する筒状の突部7cが形成される。また、有底穴部102baの深さと突起102aaの高さとの前記大小関係により、この筒状の突部7cは、有底に形成され、これによって、実質上貫通孔8aの開口8aaが塞がれた状態とされる。得られたスペーサ6は、
図1~
図3に示すようなシリンダブロック1に設けられる冷却水流路3の円弧形状部3aの適所に配置され、前述の作用・効果を奏する。
【0030】
なお、
図7は、第二の実施形態のスペーサを製造する方法を示しているが、第一の実施形態、第二の実施形態の変形例及び第三の実施形態のスペーサ6も、それぞれに対応するよう構成される成型装置100を用いることにより、同様に製造することができる。特に、第三の実施形態のように支持体7が突部7cを有さない場合、突起102aaが、多孔質体8の貫通孔8aを貫通するも、上型キャビティ102bの凹曲面に達しない高さとされる。したがって、上型キャビティ102bの凹曲面には、
図7(a)に示すような有底穴部102baを有さない。しかし、突起102aaの先端面と上型キャビティ102bの凹曲面との間の間隙が小さい場合は、上型キャビティ102bの凹曲面に前記のような有底穴部102baを設けてもよい。これによって、貫通孔8aの開口8aaに対応する箇所に中実の突部を形成することができ、製造時に突起102aaを設ける必要があっても、突起102aaに対応する箇所の厚みが薄くなり強度が低下することを抑制できる。
【0031】
図8、
図9は本発明に係るスペーサの第四の実施形態を示している。本実施形態のスペーサ6も、円弧形状の支持体7の内面7aに、前記と同様の多孔質体8が一体に取付けられた部分スペーサである。また
図4等に示す例と同様に支持体7の内面7aに、多孔質体8の外形状と同等の凹所7aaが段差状に形成されている。しかし本実施形態のスペーサ6は、支持体7に多孔質体8の外縁に沿って隣接して形成された溝部7eが設けられている点が上述の実施形態と異なる。具体的には、図例の溝部7eは、横長矩形状の多孔質体8の上縁と下縁のそれぞれに沿って凹溝状に形成されている。これによれば、多孔質体8の外縁と支持体7との間に
図8(c)に示すように隙間が形成されるので、圧縮状態の多孔質体8が冷却水に接触すると多孔質体8が所望どおりに膨大化しやすい。またスペーサ6は、支持体7の外面7bに横長帯状の突条部7fが突部7cを挟んで上下に設けられている点でも異なる。突条部7fは略平行に一対形成されるとともにスペーサ6の円弧形状を保持するためのリブとして形成されている。突条部7fの突出量は
図8(c)に示すように突部7cよりも突出しないように形成してもよいし、略同一の突出量でも、突部7cより突出するように形成してもよい。このように突条部7fの突出量を調整すれば、多孔質体8の膨大化に伴い、突部7cと同様に突条部7fも冷却水流路に設置した際に外側内壁面に当接するから、支持体7の外面7bと冷却水流路の外側内壁面との間に隙間を確保することができる。
その他の作用・効果等は他の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここではその説明を割愛する。
【0032】
次に
図9を参照しながら、第四の実施形態に係るスペーサ6の製造方法の一例を説明する。製造方法についても、
図7を参照しながら説明した例と共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここではその説明を割愛する。第四の実施形態に係るスペーサ6は、
図9(a)、
図9(b)に示すような成型装置(成型型)100を用いて製造される。成型装置100を構成する下型101及び上型103は、型締めしたときに前記冷却水流路3の円弧形状部3aに対応する円弧形状のキャビティ102を形成するように構成される。下型101の凸曲面からなる下型キャビティ102aの略中心部(凸曲面の頂部)には、多孔質体8の前記貫通孔8aに挿通し得る円柱状の突起102aaが形成されるとともに、突起102aaを挟んで間隔を空けた上下には複数の凸条部101aが形成されている。この凸条部101aは、帯状に形成され、
図9(a)に示すように多孔質体8が下型101の上に載置された際には、多孔質体8の上下外縁の位置ずれを規制するとともに、上述した支持体7の内面7aに形成される溝部7eを形成する。また、上型キャビティ102bの略中心部(凹曲面の最底部)には、前記突起102aaの先端部を受容し得る円筒状の有底穴部102baが形成されるとともに、上述の突条部7fを形成する第2有底穴部103bが形成されている。
【0033】
前記成型装置100を用いて
図8(c)に示すスペーサ6を製造する場合、まず、下型キャビティ102a上に、予め所定大きさに裁断され、且つ、所定位置に貫通孔8aが形成された方形の多孔質体8を配置する。ついで、下型キャビティ102aの突起102aaに多孔質体8の貫通孔8aを嵌め合せて多孔質体8を位置決めした上で、上型103を下型101に型締めする。突起102aaは、この上型103の型締めの際にその先端部が上型キャビティ102bの前記有底穴部102baに没入し得るように構成されている。そして、上型103の型締めの際、上型キャビティ102bが下型キャビティ102a上に位置付けされている多孔質体8の左右側部に作用して、多孔質体8を円弧状に変形させる。またこのとき、下型101の凸条部101aが多孔質体8の上下外縁を保持するため、多孔質体8の位置ずれを抑制できる。そしてこの状態で、ゲート部103aより溶融状態の樹脂rをキャビティ102内に射出してインサート成型する。
【0034】
このインサート成型において、多孔質体8は、貫通孔8aと突起102aaとの嵌め合せ及び凸条部101aによる規制によって、樹脂rのキャビティ102内での流動圧に起因した位置ずれが生じる懸念がない。射出された樹脂rは、多孔質体8の裏面8cと多孔質体8の四周端面に固着される。成型が終了し、脱型されると、
図8(c)に示すように、支持体7に対し多孔質体8が所定の位置(凹所7aaに嵌め込まれた状態)に確実に一体化され、支持体7と多孔質体8との相対的な位置精度が高いスペーサ6が得られる。そして得られたスペーサ6は、
図1~
図3に示すようなシリンダブロック1に設けられる冷却水流路3の円弧形状部3aの適所に配置され、前述の作用・効果を奏する。
【0035】
図10、
図11は本発明に係るスペーサの第五の実施形態を示している。本実施形態のスペーサ6も、円弧形状の支持体7の内面7aに、前記と同様の多孔質体8が一体に取付けられた部分スペーサである。また
図4等に示す例と同様に支持体7の内面7aに、多孔質体8の外形状と同等の凹所7aaが段差状に形成されている。しかし本実施形態のスペーサ6は、円弧部70の周方向において多孔質体8の中央に設けられた第1貫通孔80aと、第1貫通孔80aを挟んで両サイドに設けられた第2貫通孔80bとを備えている点が上述の第一、第三、第四の実施形態と異なる。具体的には、図例の多孔質体8には、その中央に真円状の第1貫通孔80aが形成されるとともに、第1貫通孔80aを挟んで両サイドに横長状の第2貫通孔80b,80bが形成されている。第2貫通孔80bは、円弧部70の周方向に長い長孔形状に形成されている。これによれば、
図5に示す第二の実施形態の変形例として示されたスペーサ6と同様に、スペーサ6のインサート成型の際に、多孔質体8を金型の所定位置により安定した状態で位置決め配置することができる。また、
図10(b)に示すように支持体7の外面7bに、複数の突部7c…が貫通孔8a…のそれぞれに対応するよう同じ突出高さで、先端部が同心の曲面をなすように設けられている。よって、多孔質体8が膨大化した際、複数の突部7c…が冷却水流路の外側内壁面に当接し、多孔質体8が冷却水流路の内側内壁面へ当接することと相まって、第五の実施形態のスペーサ6は冷却水流路内の所定位置に安定的に保持される。
その他の作用・効果等は他の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここではその説明を割愛する。
【0036】
次に
図11等を参照しながら、第五の実施形態に係るスペーサ6の製造方法の一例を説明する。製造方法についても、これまでに説明した例と共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここではその説明を割愛する。第五の実施形態に係るスペーサ6は、
図11(a)、
図11(b)に示すような成型装置(成型型)100を用いて製造される。成型装置100を構成する下型101及び上型103は、型締めしたときに前記冷却水流路3の円弧形状部3aに対応する円弧形状のキャビティ102を形成するように構成される。下型101の凸曲面からなる下型キャビティ102aの略中心部(凸曲面の頂部)には、多孔質体8の前記第1貫通孔80aに挿通し得る円柱状の突起102aaが形成される。この突起102aaを挟んで間隔を空けた両サイドには、位置決め突起104が設けられている。位置決め突起104は、円柱状で且つ突起102aaを挟んで一対に出没自在に上下動するように構成され、その先端部104aは斜めの傾斜面に形成されている。これら突起102aa及び位置決め突起104,104に多孔質体8に形成された第1貫通孔80a及び第2貫通孔80b,80bを挿通させれば、多孔質体8を下型101の所望する位置に載置でき、成形時に多孔質体8が樹脂rの流動圧で位置ずれしないように保持することができる。また、上型キャビティ102bの略中心部(凹曲面の最底部)には、前記突起102aaの先端部を受容し得る円筒状の有底穴部102baが形成される。さらに、上型キャビティ102bには、上述の位置決め突起104,104の先端部104aを受容し得る円筒状の第2有底穴部103bが形成されている。第2有底穴部103bは、位置決め突起104の先端部104aの傾斜面と略平行に且つ位置決め突起104の径に合わせて形成されている。そして、支持体7の外面7bには、有底穴部102ba,第2有底穴部103bによって、複数の突部7cが形成されている。突部7cの突出寸法は、冷却水流路内に設置され多孔質体8が膨大化した際、複数の突部7c…が冷却水流路の外側内壁面に当接することを前提に冷却水流れをコントロールできるよう設定される。
【0037】
前記成型装置100を用いて第五の実施形態に示すスペーサ6を製造する場合、まず、下型キャビティ102a上に、予め所定大きさに裁断され、且つ、所定位置に第1貫通孔80a及び第2貫通孔80b,80bが形成された方形の多孔質体8を配置する。ついで、下型キャビティ102aの突起102aaに多孔質体8の第1貫通孔80aを嵌め合せて多孔質体8を位置決めした後、位置決め突起104を突出させ(
図11(a)参照)、多孔質体8の第2貫通孔80bに位置決め突起104を挿通させた上で、上型103を下型101に型締めする(
図11(b)参照)。突起102aa及び位置決め突起104,104は、この上型103の型締めの際にその先端部が上型キャビティ102bの前記有底穴部102ba及び第2有底穴部103bに没入し得るように構成されている。そして、上型103の型締めの際、下型キャビティ102a上に配置されている多孔質体8は、その左右側部が上型103によって押されて、円弧状に曲げられながら成型装置100内で変形させられる。このとき、突起102aa及び位置決め突起104,104によって、多孔質体8の位置ずれを抑制できる。また、多孔質8が下型101の円弧形状に沿うように曲げられることに伴い、第2貫通孔80bと位置決め突起104との相対位置が変位するが、第2貫通孔80bは長孔形状であるため位置決め突起104との相対位置の変位を許容し、位置決め突起104が多孔質体8に干渉することを抑制できる。そしてこの状態で、ゲート部103aより溶融状態の樹脂rをキャビティ102内に射出してインサート成型する。
【0038】
このインサート成型においては、上述したとおり、第1貫通孔80aと突起102aaとの嵌め合せ、及び第2貫通孔80bと位置決め突起104との嵌め合せによって位置決めされているから、樹脂rのキャビティ102内での流動圧によって位置ずれが生じる懸念がない。そして成型が終了し、脱型されると、
図10(a)に示すように、支持体7に対し多孔質体8が所定の位置(凹所7aaに嵌め込まれた状態)に確実に一体化され、支持体7と多孔質体8との相対的な位置精度が高いスペーサ6が得られる。そして得られたスペーサ6は、
図1~
図3に示すようなシリンダブロック1に設けられる冷却水流路3の円弧形状部3aの適所に配置され、前述の作用・効果を奏する。
なお、
図5に示す第二の実施形態の変形例とは、第2貫通孔80bの形状がより周方向に長く形成されている点で異なる。
【0039】
図12、
図13は、本発明に係るスペーサの第六の実施形態を示す。上述のものは、いずれも支持体7の多孔質体8に形成された貫通孔8aを塞ぐ有底部分の底面(例えば
図2(a)等では開口7caが塞がれた部分である底部7cc、
図6では凹部7d)が平坦面とされた例であった。しかしこれに限定されず、
図13(b)に示すように底面7gが凸形状であってもよい。具体的には、底面7gが凹所の中に断面が円弧状(半球状)の凸部を備えた形状に形成されている。突部7cの形状自体は上述の実施形態と同様の円柱形状である。
【0040】
このようなスペーサ6は、
図12(a)、
図12(b)、
図13(a)に示す工程で製造される。まず
図12(a)には、下型101に載置する多孔質体8を搬送用ピン106で搬送する工程を示している。搬送用ピン106には、搬送用ピン106に沿って上下動するとともに、搬送用ピン106と共に移動自在な可動部材107が取り付けられている。可動部材107は、図示しない駆動装置に連結されている。
図12(a)に示す工程では、圧縮状態の多孔質体8の貫通孔8aに搬送用ピン106を挿通させ、その状態で、多孔質体8を下型101の上方まで搬送する(
図12(a)参照)。そして、搬送用ピン106の先端106aを下型101に設 けられた位置決め用の突起102aaの先端部102abに突き合せて嵌合させ、
図12(b)に示すように搬送用ピン106と、突起102とを接続する。このように搬送用ピン106と突起102aaとを接続した状態で、多孔質体8を突起102aaに向って移動させ、多孔質体8の貫通孔8aに突起102aaを挿通させる。このように突起102aaの先端部102abは凹形状とし、搬送用ピン106の先端106aを先端部102abの形状に応じて凸形状とすれば、下型101の突起102aaの先端部102abと、搬送用ピン106の先端106aとの位置合わせが容易になる。そして、 多孔質体8の貫通孔8aを効率よく確実に突起102aaに挿通させることができる。
【0041】
この後は、搬送用ピン106を突起102aaから離間するように可動部材107によって移動させ、
図13(a)に示すように上型103を下型101に型締めする。この後の工程は上述の実施形態と同様にインサート成型される。成型が終了し、脱型されると、
図13(b)に示すように、多孔質体8が支持体7に対し所定の位置に確実に一体化され、スペーサ6が完成する。そして、支持体7には、多孔質体8の貫通孔8aに対応する箇所に、貫通孔8aに連通する筒状の突部7cが形成される。また、有底穴部102baの形状と突起102aaの先端部102abの形状により、この筒状の突部7cの底部7ccの底面7gに凸部が形成されている。これによって、貫通孔8aの開口8aaは、実質上、支持体7によって塞がれた状態とされる。そして得られたスペーサ6は、
図1~
図3に示すようなシリンダブロック1に設けられる冷却水流路3の円弧形状部3aの適所に配置され、前述の作用・効果を奏する。
【0042】
図14は、第六の実施形態にて説明するスペーサの変形例を示す。支持体7の多孔質体8に形成された貫通孔8aを塞ぐ有底部分の底面7gの形状は、
図13(b)の例に限らず、
図14(a)~(d)に示すように凹形状または凸形状であってもよい。
図14(a)~(d)は、いずれもスペーサ6の突部7a部分のみを拡大した部分拡大断面図である。
【0043】
図14(a)は、突部7cの形状が断面三角形の円錐形状とされている。この場合、冷却水流路内に設置されると突部7cの先端が点接触になり、冷却水の流れを阻害しないので、冷却水流れを抑制させたくない場所に好適な形状といえる。
またここに示す例は、支持体7の底部7ccの底面7gも断面三角形状に形成されている。
図14(b)~
図14(d)は、突部7cの形状自体が上述の実施形態と同様の円柱形状である。しかし
図14(b)は、底面7gが
図14(a)とは逆向きに突出(多孔質体8側へ突出)する断面三角形状に形成されている。
図14(c)は、底面7gが2段に形成されており、凹所の中にさらなる凹所を備えた形状に形成されている。
図14(d)は、底面7gが凹所の中に凸部を備えた形状に形成されている。
このように多孔質体8の貫通孔8aの開口8aaを塞ぐ突部7cの形状は、冷却水流路内に設置されたときの冷却水流れのコントロールを考慮して形成され、冷却水流路内に設置された際の設置位置に応じて種々採用される。またここに示すように突部7cを形成するため、上述の成型装置100には、突部7cの形状に応じた有底穴部102baと突起102aaとが形成される。また、
図13(b)又は
図14(a)~(d)に示す凹形状又は凸形状は、突部7cを備えた支持体7に限らず、
図6に示すような突部7cを備えていない支持体7に設けてもよく、この場合、支持体7の凹部7dの底面に設けられる。
その他の作用・効果等は他の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し(一部図示省略)、ここでもその説明を割愛する。
【0044】
なお、支持体7に設けられる突部7c及び多孔質体8に設けられる貫通孔8aの数や形状或いは位置は、例示したものに限らず、冷却性能等さらには求められる仕様等に応じて適宜設定される。
図5では、貫通孔8a…及び突部7c…が冷却水流路3の周方向に配列された例を示したが、例えば、複数の貫通孔8a…及び突部7c…が冷却水流路3の深さ方向に配列されるように、スペーサ6を形成してもよい。また、第二の実施形態で示したような多孔質体8を支持体7の凹部に埋め込んで取付ける構造は、部分スペーサに限らず、第一の実施形態で示したような半筒形状の支持体7に適用してもよいし、冷却水流路3の全周に及ぶ全筒状の支持体に適用してもよい。また、多孔質体8を構成する素材としては、前記セルロース系スポンジ以外に、水膨潤性スポンジや、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された発泡体又は非発泡性の多孔質体からなるものでもよい。さらに、第四の実施形態に示す溝部7e、突条部7fの形状は図例に限定されるものではない。そして
図13(b)、
図14(a)~(d)に示す底部7gの形状は、図例に限定されるものではなく、またこれらの形状は、第一の実施形態~第五の実施形態に適用してもよい。また、第五の実施形態に示す第2貫通孔80bは、円弧部70の周方向に長いシート状の多孔質体8に限らず、円弧部70の周方向に短いシート状の多孔質体8に設けてもよい。
【0045】
さらに、セルロース系スポンジとして、種々の種類のものが挙げられるが、特に限定されない。例えば、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1~5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ-テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。
【0046】
加えて、支持体7に対して多孔質体8を固着させる位置(冷却水流路3の深さ方向の位置、周方向の位置)や多孔質体8の数(冷却水流路3の深さ方向の数、周方向の数)は、冷却水流路3内におけるスペーサ6の安定性、或いは、冷却水流路3内を流通する冷却水の冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。また、
図1に示す例では、多孔質体8は、支持体7の円弧形状部毎に設けられているが、支持体7の全て(複数)の円弧形状部に対応するような帯状の多孔質体8を支持体7に取り付けてもよい。また、
図1では、支持体7の形状は、半筒状(半割状)のものを例示したが、冷却水流路3の全周に及ぶ全筒状のものであってもよい。さらに、多孔質体8は、支持体7の内面7aに取付けられているが、外面7bに取付けられていてもよいし、支持体7の内面7a及び外面7bの両方に取付けられていてもよい。さらにまた、本発明のスペーサが適用される内燃機関として、3気筒の内燃機関を例示したが、これに限らず他の気筒数の内燃機関にも適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 内燃機関
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 冷却水流路
6 スペーサ
7 支持体
7a 内面
7b 外面
7c 突部
7ca 開口
7e 溝部
7g 底面
70 円弧部
8 多孔質体
8a 貫通孔
8aa 開口
100 成型装置(成型型)
102aa 突起
d 周方向