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特許7445955呼吸回数算出装置、呼吸回数算出方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】呼吸回数算出装置、呼吸回数算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
A61B5/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019235765
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104110
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「先進的医療機器・システム等技術開発事業」「術中の迅速な呼吸異常評価のための連続呼吸音モニタリングシステムの研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317007266
【氏名又は名称】エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100127236
【弁理士】
【氏名又は名称】天城 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇治
(72)【発明者】
【氏名】中島 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 英幸
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-102013(JP,A)
【文献】特開2006-020810(JP,A)
【文献】国際公開第2013/171799(WO,A1)
【文献】特開2017-169647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する呼吸回数算出部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、前記呼吸回数を用いず前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択
互いに異なる高域カットオフ周波数を有する複数の前記周波数フィルタを前記呼吸音パワーデータに処理することにより、複数の候補データを生成し、
前記複数の候補データから前記フィルタ処理後データを選択する、呼吸回数算出装置。
【請求項2】
請求項に記載の呼吸回数算出装置において、
前記フィルタ処理部は、
前記複数の候補データそれぞれについて、第1の極小値から前記第1の極小値の次の第2の極小値までを積分した結果である第1積分値を算出するとともに、前記第2の極小値から前記第2の極小値の次の第3の極小値までを積分した結果である第2積分値を算出し、前記第1積分値と前記第2積分値の差が最も小さい前記候補データを、前記フィルタ処理後データとする呼吸回数算出装置。
【請求項3】
請求項に記載の呼吸回数算出装置において、
前記フィルタ処理部は、
前記複数の候補データそれぞれについて、極小値の間隔の分散又は極大値の間隔の分散を算出し、当該分散が最も小さい前記候補データを前記フィルタ処理後データとする呼吸回数算出装置。
【請求項4】
請求項のいずれか一項に記載の呼吸回数算出装置において、
前記フィルタ処理部は、
第1の高域カットオフ周波数、及び前記第1の高域カットオフ周波数よりも高い値の第2の高域カットオフ周波数を用いて2つの前記候補データを生成し、
前記第1の高域カットオフ周波数は0.1Hz以上0.3Hz以下であり、前記第2の高域カットオフ周波数は0.4Hz以上0.6Hz以下である呼吸回数算出装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の呼吸回数算出装置において、
前記呼吸音の音響データを取得し、当該音響データを処理することにより前記呼吸音パワーデータを生成する変換処理部を備える呼吸回数算出装置。
【請求項6】
コンピュータが、
呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する工程と
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する工程と、を行い、
前記フィルタ処理後データを生成する工程において、前記コンピュータが、前記呼吸回数を用いず前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択
互いに異なる高域カットオフ周波数を有する複数の前記周波数フィルタを前記呼吸音パワーデータに処理することにより、複数の候補データを生成し、
前記複数の候補データから前記フィルタ処理後データを選択する、呼吸回数算出方法。
【請求項7】
コンピュータに、
呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する処理と
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する処理と、を行わせ、
前記フィルタ処理後データを生成する処理において、前記コンピュータに、前記呼吸回数を用いず前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択させ
互いに異なる高域カットオフ周波数を有する複数の前記周波数フィルタを前記呼吸音パワーデータに処理することにより、複数の候補データを生成し、
前記複数の候補データから前記フィルタ処理後データを選択させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸回数算出装置、呼吸回数算出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物などの生体の呼吸回数を特定することは、その生体の状態を把握する際に重要である。このため、呼吸音を含む音響データを用いて呼吸回数を算出する装置が開発されている。例えば特許文献1には、生体から発生する音響エネルギーを処理することにより、当該音響エネルギーから、心音に対応する成分及び外部ノイズに対応する成分を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-37933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、呼吸音を含む音響データには、呼吸以外の要因に起因した成分が含まれている。このため、音響データを処理することによって精度よく呼吸回数を算出することは難しい。
【0005】
本発明が解決しようとする課題としては、呼吸音を含む音響データを処理することにより呼吸回数を算出する際に、その算出精度を高くすることが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成するフィルタ処理部と、
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する呼吸回数算出部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択する、呼吸回数算出装置である。
【0007】
請求項9に記載の発明は、コンピュータが、
呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する工程と
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する工程と、
を行い、
前記フィルタ処理後データを生成する工程において、前記コンピュータが、前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択する、呼吸回数算出方法である。
【0008】
請求項10に記載の発明は、コンピュータに、
呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する処理と
前記フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する処理と、
を行わせ、
前記フィルタ処理後データを生成する処理において、前記コンピュータに、前記呼吸音パワーデータを用いて前記周波数フィルタの高域カットオフ周波数を選択させるプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態にかかる呼吸音算出装置の機能構成の一例を示す図である。
図2】呼吸音算出装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】呼吸音算出装置が行う処理の一例を示すフローチャートである。
図4】スペクトルデータの一例を示す図である。
図5】呼吸音パワーデータと、この呼吸音パワーデータを用いて生成された候補データの一つを示す図である。
図6図3のステップS50の詳細例を示すフローチャートである。
図7図6のステップS130の第1例を示すフローチャートである。
図8図7に示した処理を説明するための図である。
図9図6のステップS130の第2例を示すフローチャートである。
図10図6のステップS130の第3例を示すフローチャートである。
図11】呼吸回数算出装置10の効果を説明するための図である。
図12】呼吸回数算出装置10の効果を説明するための図である。
図13】呼吸回数算出装置10が算出した呼吸回数と正しい呼吸回数との差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施形態にかかる呼吸回数算出装置10の機能構成の一例を示す図である。本実施形態にかかる呼吸回数算出装置10は、フィルタ処理部120及び呼吸回数算出部130を備えている。フィルタ処理部120は、呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、平滑化のために少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する。これにより、処理対象となるデータからノイズ成分の多くが除去される。フィルタ処理部120が用いる周波数フィルタは、例えばローパスフィルタであるが、バンドパスフィルタであってもよい。
【0011】
フィルタ処理部120はデジタルフィルタであるが、アナログ回路によって構成されていてもよい。呼吸回数算出部130は、フィルタ処理後データを処理することにより、呼吸回数を算出する。ここでフィルタ処理部120は、呼吸音パワーデータを用いて周波数フィルタの高域側のカットオフ周波数(以下、高域カットオフ周波数と記載することもある)を選択する。一例として、フィルタ処理部120は、複数の周波数フィルタを呼吸音パワーデータに処理することにより、複数の候補データを生成する。そして、フィルタ処理部120は、複数の候補データからフィルタ処理後データを選択する。ここでフィルタ処理部120が用いる周波数フィルタがバンドパスフィルタである場合、低域側のカットオフ周波数は、例えば心音ノイズを除去できることを基準として、固定値を用いることができる。言い換えると、複数の周波数フィルタの低域側のカットオフ周波数は、互いに同一にすることができる。
【0012】
なお、フィルタ処理部120及び呼吸回数算出部130が行う処理の詳細については、フローチャートを用いて後述する。
【0013】
呼吸回数算出装置10は、さらに変換処理部110及びフィルタデータ記憶部122を有している。
【0014】
変換処理部110は、センサが生成したセンサデータを取得する。このセンサデータは呼吸音を含む音響データであり、例えば人体や動物などの生体に取り付けられた振動センサや音響センサによって生成される。この音響データには心音などの様々なノイズが含まれている。
【0015】
そして変換処理部110は、この音声データを処理することにより、呼吸音パワーデータを生成する。呼吸音パワーデータは、上記したように呼吸音のパワーの時間変化を示している。なお、呼吸音のパワーは、例えば呼吸音の音圧(振幅)を用いて算出することができ、呼吸音が示す音波のエネルギーとみることもできる。変換処理部110が行う処理の詳細は、フローチャートを用いて後述する。
【0016】
本実施形態において、フィルタ処理部120はデジタルフィルタである。そしてフィルタデータ記憶部122は、このデジタルフィルタのカットオフ周波数を変更するためのデータを記憶している。例えばデジタルフィルタのカットオフ周波数がパラメータを用いて設定されている場合、フィルタデータ記憶部122は、複数のカットオフ周波数それぞれに対応するパラメータを記憶している。またデジタルフィルタのカットオフ周波数の選択がソフトウェアの入れ替えによって実現される場合、フィルタデータ記憶部122は、カットオフ周波数別に準備された複数のソフトウェアを記憶している。
【0017】
なお、フィルタ処理部120が用いるフィルタは、例えば2種類である。第1のフィルタの高域カットオフ周波数は、0.1Hz以上0.3Hz以下のいずれかの値に設定されており、第2のフィルタの高域カットオフ周波数は0.4Hz以上0.6Hz以下のいずれかの値に設定されている。前者は、呼気と吸気の間で音量の差が大きい場合に好適であり、後者は、これらの音量の差が小さい場合に好適である。
【0018】
図2は、呼吸回数算出装置10のハードウェア構成例を示す図である。呼吸回数算出装置10は、バス1010、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060を有する。
【0019】
バス1010は、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1020などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。
【0020】
プロセッサ1020は、CPU(Central Processing Unit) やGPU(Graphics Processing Unit)などで実現されるプロセッサである。
【0021】
メモリ1030は、RAM(Random Access Memory)などで実現される主記憶装置である。
【0022】
ストレージデバイス1040は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、又はROM(Read Only Memory)などで実現される補助記憶装置である。ストレージデバイス1040は呼吸回数算出装置10の各機能(例えば変換処理部110、フィルタ処理部120、及び呼吸回数算出部130)を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1020がこれら各プログラムモジュールをメモリ1030上に読み込んで実行することで、そのプログラムモジュールに対応する各機能が実現される。また、ストレージデバイス1040はフィルタデータ記憶部122としても機能する。
【0023】
入出力インタフェース1050は、呼吸回数算出装置10と各種入出力機器(例えばセンサデータを生成するセンサ)とを接続するためのインタフェースである。
【0024】
ネットワークインタフェース1060は、呼吸回数算出装置10をネットワークに接続するためのインタフェースである。このネットワークは、例えばLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1060がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0025】
図3は、呼吸回数算出装置10が行う処理の一例を示すフローチャートである。まず呼吸回数算出装置10の変換処理部110は、生体に取り付けられたセンサが生成したセンサデータ、例えば音響データを取得する(ステップS10)。呼吸回数算出装置10は、センサから直接このデータを取得してもよいし、サーバを介して取得してもよい。前者の場合、センサは、リアルタイムでセンサデータを呼吸回数算出装置10に出力してもよいし、センサデータを記憶しておき、その後所定のタイミング、例えば外部から所定の入力があったタイミングで、このセンサデータを呼吸回数算出装置10に出力してもよい。
【0026】
次いで変換処理部110は、ステップS10で取得したセンサデータを処理することにより、スペクトルデータを生成する(ステップS20)。スペクトルデータは、例えば図4に例示するように、周波数別のパワーの時間変化を示している。一例として、スペクトルデータは3次元のデータであり、x軸が時間(時刻)であり、y軸が周波数であり、色(又はz軸)がパワーを示している。
【0027】
次いで変換処理部110は、ステップS20で生成したスペクトルデータを処理することにより、呼吸音パワーデータを生成する(ステップS30)。スペクトルデータは、上記したように、周波数別のパワーの時間変化を示している。言い換えると、スペクトルデータは、複数の時刻別かつ周波数別のパワーを示している。そして変換処理部110は、各時刻別に、周波数別のパワーを処理する(例えば所定の演算を行った後に加算する)ことにより、呼吸音パワーデータを生成する。
【0028】
次いでフィルタ処理部120は、ステップS30で生成した呼吸音パワーデータに対して平滑化処理、具体的には周波数フィルタを通す処理を行う。この際、フィルタ処理部120は、周波数フィルタの高域カットオフ周波数を、処理対象となっている呼吸音パワーデータを用いて選択する。
【0029】
一例として、フィルタ処理部120は、呼吸音パワーデータに対して周波数フィルタを処理することを、複数の周波数フィルタそれぞれに対して行う。これにより、複数の候補データが生成される(ステップS40)。図5に、呼吸音パワーデータと、この呼吸音パワーデータを用いて生成された候補データの一つを示す。上記したように、候補データは呼吸音パワーデータを周波数フィルタに通すことにより生成されている。このため、呼吸音の周波数より高周波の成分は、候補データ(すなわちフィルタ処理後データ)からある程度除去されている。
【0030】
次いでフィルタ処理部120は、複数の候補データからフィルタ処理後データとして扱うデータを選択する。そして呼吸回数算出部130は、選択したフィルタ処理後データを用いて呼吸回数を算出する(ステップS50)。
【0031】
図6は、図3のステップS50の詳細例を示すフローチャートである。なお、各処理で生成されるデータの一例は、図5に示されている。
【0032】
まずフィルタ処理部120は、候補データを時間で微分することにより微分データを生成する処理を、複数の候補データに対して行う(ステップS110)。次いでフィルタ処理部120は、微分データが0値をとるタイミング、言い換えると候補データが極大値及び極小値をとるタイミング(以下、極値タイミングと記載)を検出する処理を、複数の微分データ(すなわち複数の候補データ)のそれぞれに対して行う(ステップS120)。
【0033】
なお、フィルタ処理部120は、一つの候補データに対してステップS110及びステップS120に示した処理を行った後、次の候補データに対してステップS110及びステップS120に示した処理を行ってもよい。
【0034】
そしてフィルタ処理部120は、ステップS120で検出した極値タイミングを用いて、複数の候補データからフィルタ処理後データとして扱うデータを選択する(ステップS130)。ここで用いられる選択基準の例については、他のフローチャートを用いて後述する。
【0035】
そして呼吸回数算出部130は、フィルタ処理後データにおいて所定期間内に極値をとった回数、すなわち微分データが0値をとった回数を用いて、当該所定期間における呼吸回数を算出する(ステップS140)。一例として、極値タイミングが極大値のタイミング及び極小値のタイミングの双方を含んでいる場合、呼吸回数算出部130は、極値タイミングの回数を2で割った値を呼吸回数とする。一方、極値タイミングが極大値のタイミング及び極小値のタイミングの双方の一方のみであった場合、呼吸回数算出部130は、極値タイミングの回数をそのまま呼吸回数とする。
【0036】
図7は、図6のステップS130の第1例を示すフローチャートである。まずフィルタ処理部120は、候補データ毎に以下の処理を行う。呼吸回数算出部130は、隣り合う極小値の組み合わせ毎に、隣り合う極小値の間を積分する処理(図8参照)を行う。そして呼吸回数算出部130は、算出した積分値の分散を算出する(ステップS200)。そして呼吸回数算出部130は、算出した分散を用いて、複数の候補データからフィルタ処理後データとして扱うデータを選択する(ステップS202)。例えば呼吸回数算出部130は、分散が最も小さい候補データを、フィルタ処理後データとして選択する。なお、呼吸回数算出部130は、他の統計処理の結果を用いて、フィルタ処理後データを選択してもよい。
【0037】
図9は、図6のステップS130の第2例を示すフローチャートである。まずフィルタ処理部120は、候補データ毎に以下の処理を行う。まず、呼吸回数算出部130は、第1の極小値から第1の極小値の次の第2の極小値までを積分した結果(以下、第1積分値と記載)を算出する。また呼吸回数算出部130は、第2の極小値から第2の極小値の次の第3の極小値までを積分した結果(以下、第2積分値と記載)を算出する(ステップS210)。第1積分値は、呼気及び吸気の一方のパワーを示しており、第2積分値は、呼気及び吸気の他方のパワーを示している。そして、フィルタ処理部120は、第1積分値と第2積分値を比較した結果を用いて、記フィルタ処理後データを選択する。例えばフィルタ処理部120は、これらの間の差が最も小さい候補データを、フィルタ処理後データとして選択する(ステップS212)。
【0038】
図10は、図6のステップS130の第3例を示すフローチャートである。まずフィルタ処理部120は、複数の候補データそれぞれについて、極小値の間隔の分散又は極大値の間隔の分散を算出する(ステップS220)。次いでフィルタ処理部120は、この分散が最も小さい候補データを、フィルタ処理後データとして選択する(ステップS222)。
【0039】
図11及び図12は、図9に示した例を適用した場合における、呼吸回数算出装置10の効果を説明するための図である。これらの図において、フィルタ処理部120が用いる周波数フィルタはローパスフィルタである。図11は呼気と吸気の間で音量(エネルギー)の差が大きい場合の例であり、図12はこれらの音量の差が小さい場合である。いずれの図においても、実線はフィルタ処理部120が処理する前の呼吸音パワーデータを示しており、点線はフィルタ処理部120が処理した後のデータ(すなわちフィルタ処理後データ又は候補データ)を示している。そしてフィルタ処理部120が用いるカットオフ周波数は0.2Hzと0.5Hzである。
【0040】
図11の例では、カットオフ周波数が0.2Hzの場合、候補データ(フィルタ処理後データ)はきれいな形をしているが、カットオフ周波数が0.5Hzの場合、候補データはノイズを含んだ形をしている。一方、図12の例ではカットオフ周波数が0.2Hzの場合、候補データはノイズを含んだ形をしているが、カットオフ周波数が0.5Hzの場合、候補データ(フィルタ処理後データ)はきれいな形をしている。このように、フィルタ処理部120のカットオフ周波数を適切な値に設定すると、フィルタ処理後データに含まれるノイズは小さくなる。
【0041】
図13は、呼吸回数算出装置10がフィルタ処理部120を用いずに呼吸回数を算出した場合(比較例)と、フィルタ処理部120を用いて呼吸回数を算出した場合(実施形態)のそれぞれにおいて、正しい呼吸回数との差を示すグラフである。本図において、横軸は正しい呼吸回数を示している。また正しい呼吸回数は、人手でカウントされたデータである。本図から、フィルタ処理部120を用いなかった場合、正しい呼吸回数との差が4以上となったデータは多数あった。これに対し、フィルタ処理部120を用いた場合、すべてのデータにおいて正しい呼吸回数との差が3以下となった。このように、本実施形態の呼吸回数算出装置10では、精度よく呼吸回数を算出することができる。
【0042】
以上、本実施形態によれば、呼吸回数算出装置10は、呼吸音のパワーの時間変化を示す呼吸音パワーデータに、少なくとも高域をカットするフィルタである周波数フィルタを処理することにより、フィルタ処理後データを生成する。これにより、呼吸音より周波数が高いノイズの多くは除去される。そして呼吸回数算出装置10は、フィルタ処理後データを用いて呼吸回数を算出する。ここで、呼吸回数算出装置10は、処理対象となっている呼吸音パワーデータを用いて、周波数フィルタの高域カットオフ周波数を設定する。このため、処理対象となっている呼吸音パワーデータに適切なカットオフ周波数が適用され、その結果、呼吸回数の算出精度は高くなる。
【0043】
以上、図面を参照して実施形態及び実施例について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0044】
10 呼吸回数算出装置
110 変換処理部
120 フィルタ処理部
122 フィルタデータ記憶部
130 呼吸回数算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13