(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】鶏の雛の雌雄鑑別のための情報処理方法並びにシステム及びプログラム並びに鶏の雛の雌雄鑑別方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240301BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20240301BHJP
A01K 45/00 20060101ALI20240301BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
A01K29/00
A01K45/00 Z
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2019239796
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、独創的な人向け特別枠「異能(Inno)vation」プログラム委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】712003546
【氏名又は名称】有限会社電マーク
(74)【代理人】
【識別番号】100092598
【氏名又は名称】松井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕介
【審査官】笠田 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-136439(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
A01K 29/00
A01K 45/00
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明装置で光を照射した鶏の雛を、光学装置にて可視光波長帯域で計測して得たスペクトルデータに対し、1ピクセル毎に微分する処理、
雌と雄に形状の違いがみられる部位における前記スペクトルデータを微分した数値の平均値または中央値から生成した特徴点モデルを用いて、前記微分したデータに対して特徴点のピクセルを抽出する処理、
抽出した特徴点のピクセルを所定の色に変換し、前記特徴点以外のピクセルを前記所定の色と異なる色に変換する画像処理を行い、所定の画像を生成する処理
を行い、
前記所定の画像は、教師データ画像或いは雌雄判定用の画像であることを特徴とする情報処理方法。
【請求項2】
前記画像処理は、前記形状の違いが見られる部位に対して相対的に雌雄に形状の違いが少ない部位における前記スペクトルデータを微分した数値の平均値または中央値から生成した非特徴点モデルも用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記画像は、前記特徴点のピクセル、前記雛の部位における前記特徴点でない非特徴点のピクセル、前記雛が存在しない背景のピクセルを3値のカラーで変換した画像とすることを特徴とする請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
前記特徴点のピクセルを変換する色と、前記雛の部位における前記特徴点でない前記非特徴点のピクセルを変換する色は、反対色の関係にすることを特徴とする請求項
3に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記画像処理は、前記教師データ画像を生成するものであり、
その生成した教師データ画像を、雌の雛の教師データ画像と雄の雛の教師データ画像に分類し、ニューラルネットワークで学習させて雌雄判定モデルを生成することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の情報処理方法。
【請求項6】
雌雄不明な鶏の雛に対して請求項1から4のいずれかに記載の情報処理方法を実行して得られた前記雌雄判定用の画像を生成し、
その雌雄判定用の画像を、ニューラルネットワークに与え、請求項5を実行して生成された雌雄判定モデルを用いて雌雄の判定を行うことを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
鶏の雛に光を照射する照明装置と、
前記光が照射された前記雛を可視光波長帯域を分光し計測する光学装置と、
前記光学装置で計測した計測データを取得して、請求項1から6のいずれかに記載の情報処理方法を実行する機能を備える処理装置と、
その処理装置の処理結果に応じた処理を実行する装置を備えるシステム。
【請求項8】
前記処理結果に応じた処理を実行する前記装置は、前記処理結果が雌雄の判定結果の場合に、その判定結果に基づき雄の雛と雌の雛を仕分ける機能を備える仕分け装置であることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
請求項7または8に記載の前記処理装置の機能をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項10】
照明装置により鶏の雛に光を照射する処理、
前記光が照射された前記雛を光学装置にて可視光波長帯域で計測しスペクトルデータを
取得する処理、
その取得した前記スペクトルデータを微分したデータに基づく雌雄判定用の画像を、ニューラルネットワークに与え、請求項
5を実行して生成された前記雌雄判定モデルを用いて雌雄の判定を行う処理を行うことを特徴とする鶏の雛の雌雄鑑別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏の雛の雌雄鑑別のためのシステム並びに情報処理方法及びプログラム並びに鶏の雛の雌雄鑑別方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
孵卵農場で発生した鶏の雛は、例えば発生1日から2日のうちに人の目視検査によって雌雄を確認し、雌の雛は採卵用に出荷される。目視検査は、翼羽鑑別法(「羽毛鑑別法」とも称される)、肛門鑑別法、カラー鑑別法(「羽色鑑別法」とも称される)の3つの鑑別法が知られており、鶏種に応じて適した鑑別法が用いられている。
【0003】
例えば、翼羽鑑別法は、翼羽の長さに基づいて雌雄を判別する方法である。初生雛の雌は翼羽が長く、初生雛の雄は翼羽が短い鶏種があり、係る鶏種の初生雛の雌雄鑑別に用いられる。また、雄の中にも翼羽が延びて長くなるものがある。単純に長さだけだと雌雄の判別がつきにくい場合もあるが、雌は主翼羽と副翼羽の長さが異なるため、翼羽の先端形状が揃わずに凸凹した、ギザギザの形状となるのに対し、雄は主翼羽と副翼羽の長さが等しいため、翼羽の先端形状が揃う傾向にある。これら翼羽の長さと、先端形状を加味して雌雄を判別する。
【0004】
カラー鑑別法は、体の模様に基づいて判断するもので、例えば雌は二本線が現れ、雄は一本線の模様が現れる鶏種の場合、その線の数から雌雄の判別を行う。このカラー鑑別法は、赤玉採卵鶏種の限られた品種に適用される。
【0005】
肛門鑑別法は、初生雛の肛門を開帳して、外部からケシの実大の白色突起が認められたなら、雄と判定する方法である。主に、カラー鑑別法や翼羽鑑別法が適用できない鶏種、例えば、原種に近い鶏などの鶏種に対する雌雄判別に用いられる。
【0006】
上述したカラー鑑別法は、羽色の違いが見分けられやすく専門的なスキルがなくても判別することができる。一方、翼羽鑑別法や肛門鑑別法は、初生雛鑑別師による専門的なスキルをもった技能者によっておこなわれている。いずれにしても、人が雌雄鑑別を行っている。そして、少なくとも翼羽鑑別法や肛門鑑別法を行う場合、鑑別士が初生雛を一羽ずつ手に取り、翼を広げたり(翼羽鑑別法)、肛門を開帳したり(肛門鑑別法)して初生雛の状態を確認し、雌雄判別をする。
【0007】
近年、流通量が多い採卵鶏には、主に翼羽鑑別に適用した品種が用いられており、鑑別士及び専門スキルをもつ技能者による判別が必要となる。専門のスキルのない人でも雌雄判別が行えるようにするためのシステムとして、例えば特許文献1に開示された雛の性別を判定するためのシステムがある。このシステムは、雛を搬送する移動プラットフォームと、その移動プラットフォームで移動中の雛の翼を開かせるために雛に向けられる刺激手段と、雛を撮影するカメラと、カメラで撮影した画像に基づき雌雄を判定するコンピュータ等を備える。
【0008】
刺激手段は、例えば段落[0037]等に記載するように、移動プラットフォームの一部を構成する傾斜コンベヤーや、傾斜コンベヤー上の雛の足から雛の顔面及び頭部に向かって上向きに空気を吹き付けるファンや、傾斜コンベヤーの表面を振動させる構成等からなる。この刺激手段により雛に与える刺激、すなわち、上向きに吹く空気と振動する面は、雛にバランスを失ったように感じさせ、そのバランスを取り戻すために、雛は翼を持ち上げて羽ばたき始めるようになる。
【0009】
そして、カメラは開いた翼の模様の画像を撮影する。そして、段落[0038]に記載するように、カメラで撮影した画像はコンピュータープロセッサと通信され、コンピュータープロセッサが画像を処理し、それらをその品種の雛のデータベース内の雌雄の翼の模様の画像と比較する。画像を比較することで、コンピュータは当該雛の性別を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された装置は、翼を広げた状態で、カメラで撮影を行うため、広げる手間・時間がかかる。さらに、翼を広げさせるために刺激手段により雛に刺激を与えるため、初生雛に対してストレスを与えることになり好ましくない。また、刺激を受けた雛は、必ずしも予期するように翼を広げるとは限らず、所望の姿勢・向き・状態の翼を撮影できないおそれがあり、正しく翼を広げないと、翼羽の先端形状を綺麗に撮影できず、判別精度が落ちる原因になる。さらに刺激手段を設置することから装置が大型化するとともに、翼を広げる処理が必要なために高速処理ができない。
【0012】
上述した課題はそれぞれ独立したものとして記載しているものであり、本発明は、必ずしも記載した課題の全てを解決できる必要はなく、少なくとも一つの課題が解決できればよい。またこの課題を解決するための構成についても単独で分割出願・補正等により権利取得する意思を有する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上述した課題を解決するために、本発明の情報処理方法は、照明装置で光を照射した鶏の雛を、光学装置にて可視光波長帯域で計測して得たスペクトルデータに対し、1ピクセル毎に微分する処理、雌と雄に形状の違いがみられる部位における前記スペクトルデータを微分した数値の平均値または中央値から生成した特徴点モデルを用いて、前記微分したデータに対して特徴点のピクセルを抽出する処理、抽出した特徴点のピクセルを所定の色に変換し、前記特徴点以外のピクセルを前記所定の色と異なる色に変換する画像処理を行い、所定の画像を生成する処理
を行い、前記所定の画像は、教師データ画像或いは雌雄判定用の画像とする。
【0014】
(2)前記画像処理は、前記形状の違いが見られる部位に対して相対的に雌雄に形状の違いが少ない部位におけるスペクトルに基づいて生成した非特徴点モデルも用いて行うとよい。例えば翼羽鑑別では、例えば主翼部と副翼部を特徴点とすると、その色は人の目では白色であり、非特徴点の体毛は黄色或いは茶褐色に見えるが、スペクトルデータでは特徴点と非特徴点で光波長の吸収率の変位に差異があることに着眼し、特徴点を抽出する画像処理を行うため精度が高まる。
【0015】
(3)前記画像は、前記特徴点のピクセル、前記雛の部位における前記特徴点でない非特徴点のピクセル、前記雛が存在しない背景のピクセルを3値のカラーで変換した画像とするとよい。
【0016】
(4)前記特徴点のピクセルを変換する色と、前記雛の部位における前記特徴点でない前記非特徴点のピクセルを変換する色は、反対色の関係にするとよい。
【0017】
(5)前記画像処理は、前記教師データ画像を生成するものであり、その生成した教師データ画像を、雌の雛の教師データ画像と雄の雛の教師データ画像に分類し、ニューラルネットワークで学習させて雌雄判定モデルを生成するとよい。
【0018】
(6)雌雄不明な鶏の雛に対して請求項1から4のいずれかに記載の情報処理方法を実行して得られた前記雌雄判定用の画像を生成し、その雌雄判定用の画像を、ニューラルネットワークに与え、請求項5を実行して生成された前記雌雄判定モデルを用いて雌雄の判定を行うとよい。
【0019】
(7)本発明に係るシステムは、鶏の雛に光を照射する照明装置と、前記光が照射された前記雛を可視光波長帯域を分光し計測する光学装置と、前記光学装置で計測した計測データを取得して、請求項1から6のいずれかに記載の情報処理方法を実行する機能を備える処理装置と、その処理装置の処理結果に応じた処理を実行する装置を備えるとよい。装置は、実施形態では、搬送仕分け装置17、判定結果を報知する出力装置15、生成した画像やモデルを記憶保持する記憶装置16等に対応する。
【0020】
(8)前記処理結果に応じた処理を実行する前記装置は、前記処理結果が雌雄の判定結果の場合に、その判定結果に基づき雄の雛と雌の雛を仕分ける機能を備える仕分け装置とするとよい。
【0021】
(9)本発明に係るプログラムは、(7)に記載の前記処理装置の機能をコンピュータに実現させるためのプログラムとした。
【0022】
(10)本発明に係る鶏の雛の雌雄鑑別方法は、照明装置により鶏の雛に光を照射する処理、前記光が照射された前記雛を光学装置にて可視光波長帯域で計測しスペクトルデータを取得する処理、その取得した前記スペクトルデータを微分したデータに基づく雌雄判定用の画像を、ニューラルネットワークに与え、(5)を実行して生成された前記雌雄判定モデルを用いて雌雄の判定を行う処理を行うようにした。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、可視光波長帯域で計測して得たスペクトルデータに対し、1ピクセル毎に微分したデータを用いて各処理を実行するので、特徴点を精度良く抽出することができる。そして、雌雄判定モデルを作成するための教師データ画像や、雌雄判定を行うのに適切な雌雄判定モデルを高精度に作成できる。その結果、特段の知識・技能を持たないユーザであっても、雌雄判定を適切に行うことができる。また、鶏の雛に対し、翼を広げることなく処理を行えるので、各処理を行う際に、鶏の雛に与えるストレスを可及的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に係る鶏の雛の雌雄鑑別のためのシステム(例えば雌雄判定モデルの生成)の好適な一実施形態を示す図である。
【
図2】
図2は、処理装置の機能を示すフローチャート図である。
【
図3】
図3は、スペクトルデータを微分して平均値を求めた特徴点モデルA及び非特徴点モデルA′の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、画像処理を行い得られた3値のカラーに変換した画像(例えば教師データ画像)の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、処理装置の機能を示すフローチャート図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る鶏の雛の雌雄鑑別のためのシステム(例えば雌雄判定)の好適な一実施形態を示す図である。
【
図7】
図7は、処理装置の機能を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について図面に基づき、詳細に説明する。なお、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0026】
図1は、本発明に係る鶏の雛である初生雛の雌雄鑑別のためのシステムの一例である雌雄判定モデルを作成するシステムの好適な一実施形態を示す図である。このシステム10は、初生雛1に対して所定の光を照射する照明装置11と、初生雛1を撮影する光学装置12と、光学装置12で撮影した画像に対し所定の処理を行い、雌雄判定モデルを生成する処理装置13と、その処理装置13に接続される入力装置14、出力装置15並びに記憶装置16等を備える。
【0027】
照明装置11は、ハロゲンランプ等の広帯域波長を照射する光源を用いる。光学装置12は、可視光領域の広帯波長(例えば、400~1000nm)を計測するハイパースペクトルカメラを用いる。このハイパースペクトルカメラを用いて計測することで、ピクセル毎に波長毎(例えば204バンド)のデータを取得する。すなわち、撮影した画像毎に各ピクセルの位置(XY)を特定する情報と、そのピクセルにおけるスペクトルデータを関連付けた計測データが得られる。
【0028】
ハイパースペクトルカメラを用い、波長ごとに解析すると、例えば薄い毛に覆われた奥側の毛の影響も画像に出る。すなわち、照明装置11から照射された光は、表面にある薄い毛を透過して奥側にある羽毛に到達し、そこで所定の波長成分が吸収されることがある。すると、裏側にある翼羽も検出できる。例えば、雌の初生雛において、翼羽の先端の上に羽毛が重なっている場合に、RGBカメラで撮影すると、翼羽の先端が映らず、雌の特徴が現れず(雄の特徴が出る)おそれがあり、雌雄判定モデルの生成に際し悪影響を与えるおそれがある。これに対し、本実施形態では裏に隠れている翼羽も検出できるので、適正な雌雄判定モデルの生成に寄与することができる。
【0029】
処理装置13は、パーソナルコンピュータその他の演算処理能力を有するコンピュータ等であり、実装されたアプリケーションプログラムを実行する機能等を備える。入力装置14は、例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどの処理装置13に対して情報,命令を入力する装置である。出力装置15は、例えば、モニタ装置であり、例えば光学装置12で取得した計測データ(例えば撮影した画像データやスペクトル情報等)や、その画像データに対して処理装置13が所定の処理をした結果(生成した画像等)を表示したりする装置である。主に処理装置13が実行する機能等が、情報処理方法を実行する機能等となる。
【0030】
[教師データ画像作成機能]
処理装置13は、例えば
図2に示すフローチャートを実行する機能を備える。この機能は、AIで雌雄を判定するための学習に使用する教師データ画像を作成するものである。この機能の全部或いは一部を、例えばソフトウェアプログラムで実現したり、ASIC・専用のハードウェアなどで実現したりするとよい。
【0031】
具体的には、処理装置13は、光学装置12で計測した光波長の計測データを取得する(S101)。次いで、処理装置13は、取得した計測データに対し、ピクセルごとにスペクトルデータの微分処理をする(S102)。このように微分処理することで、撮影して得られた計測データに基づく画像データを精度良く対比できる。
【0032】
次に、処理装置13は、各ピクセルに対し、特徴点か否かを判別する特徴点抽出処理を行う(S103)。この特徴点抽出処理は、雌雄判別をする際のポイントとなる特徴点と、それ以外の非特徴点とを弁別するもので、本実施形態では、各ピクセルのスペクトルデータ(一次微分)を、特徴点モデルA及び非特徴点モデルA′(
図3参照)とを対比し、特徴点モデルの波形に近似する場合は特徴点とし、非特徴点モデルの波形に近似する場合には非特徴点とする。さらに本実施形態では、初生雛でない背景部分を、非特徴点とは別に区別して判定するようにした。よって、処理装置13は、各ピクセルを、特徴点・非特徴点・背景の3種類のいずれかに分別する。背景の判定は、例えば、特徴点モデルと非特徴点モデルのいずれのモデルに対しても似ていない(該当しない)ことを条件とするとよい。
【0033】
特徴点モデル及び非特徴点モデルは、予め撮影した或いは現在撮影した初生雛の計測データを用い、各ピクセルのスペクトルデータに対し微分処理をする。そして、モデル作成ユーザが、特徴点に該当するピクセルと、非特徴点に該当するピクセルをそれぞれ所定数ずつ指定する。この指定は、例えば撮影した初生雛のカラー画像を表示装置(例えば出力装置15)にモニタ表示し、表示された画像上の特徴点の部分と、非特徴点の部分を、ポインティングデバイス等で指定するとよい。そして、特徴点として指定されたピクセルの光波長データを微分したデータの平均値を求め、特徴点モデル(例えば
図3のAの波形(グラフ)データ)を得る。同様に、非特徴点として指定されたピクセルの光波長データを微分したデータの平均値を求め、特徴点モデル(例えば
図3のA′の波形(グラフ)データ)を得る。また、ここでは平均値を用いたが、中央値を用いて求めた特徴点モデルB及び非特徴点モデルB′を用いてもよい。
【0034】
例えば、翼羽雌雄鑑別法で用いられる翼羽を特徴点として判別する一実施形態の場合、例えば特徴点として翼羽の部位を選択し、非特徴点として翼羽以外の部位を選択するとよい。また、例えばカラー判別法で用いられる模様を特徴点として判別する場合、例えば特徴点として模様の部位を選択し、非特徴点として模様以外の部位を選択するとよい。
【0035】
さらに、鶏種によって特徴点/非特徴点のスペクトルデータが異なることがある。よって、鶏種ごとに特徴点モデル/非特徴点モデルを作成し、鶏種と紐付けして記憶保持するとよい。そして、特徴点抽出処理を実行するに際し、モデル作成ユーザは入力装置を操作して鶏種情報を入力し、鶏種情報を取得した処理装置13は、対応する鶏種の特徴点モデルと非特徴点モデルを所定の記憶装置から呼び出し、それらのモデルを使用して特徴量抽出処理を行うとよい。
【0036】
また、特徴点モデル,非特徴点モデルを、スペクトルデータを微分したデータに基づいて作成したため、微分処理前の計測データは照明の揺らぎ・ばらつきや反射等の影響などがあっても、微分後のデータは係る影響が解消される。よって、異なる撮影タイミングで撮影した別の初生雛の撮影データに基づいて作成した特徴点モデルや非特徴点モデルを用いても、正しく特徴点と非特徴点さらには背景を精度良く抽出することができる。
【0037】
次いで、処理装置13は、特徴量抽出処理が完了した画像データに対し、所定の画像処理を行い、カラー画像を生成する(S104)。この画像処理は、各ピクセルに対し、前処理で求めた特徴点,非特徴点,背景にそれぞれ割り当てた色に変換し、3値のカラー画像を生成する処理を行う。割り当てる色は、特徴点と非特徴点を補色或いは対照色相等の反対色の関係にある色を選択するとよい。係る補色或いは対照色相の関係にすることで、特徴点が目立ち、雌雄判別を精度良く行えるモデルを作成できるのでよい。例えば、特徴点(例えば、翼羽の部分)を赤色にした場合、非特徴点(例えば羽毛の部分)は緑にするとよい。また、背景は、それら両色と区別できる色とするとよく、例えば黒色とするとよい。
【0038】
なお、本実施形態では、特徴点、非特徴点、背景と3つに区分けしたが、特徴点とそれ以外のように2つに区分けするようにしてもよい。このようにすると、背景部分と、初生雛の特徴点以外の部分が同一色になり、特徴点の部分の形状・パターンに基づいて雌雄を判定することになる。但し、実施形態のように3値にすることで、初生雛の身体における特徴点の相対位置も雌雄判別する際の情報に利用できるので、より好ましい。
【0039】
処理装置13は、上述したように処理対象の画像データの全てのピクセルに対して特徴点・非特徴点・背景を3色で色分ける画像処理を行い(S104)、3値のカラー画像からなる教師データ画像(
図4参照)を生成し、記憶装置16に保存する(S105)。
【0040】
例えば、翼羽の部分を特徴点とし、羽毛の部分を非特徴点とした場合、ハイパースペクトルカメラを用いること無く、通常のカメラでRGBのカラー画像データを撮影し、それに基づいて特徴点抽出処理をすると、例えば、特徴点(翼羽の部分で人間には白色に見える)を抽出する場合、非特徴点(羽毛の部分)も誤って抽出するおそれがある。これは光源の反射や体色で非特徴点にも白色から黄色のばらつきがあり、黄色の色相は赤色、緑色、青色の光の3原色よりも彩度と明度が白色に近く、同じく非特徴点の一部も誤抽出するおそれがある。
【0041】
これに対し本実施形態では、ハイパースペクトルカメラを用いて撮影し、波長のスペクトルデータを取得するようにしたため、羽毛などの白っぽく映る部位も波長のスペクトルデータは相違するので、非特徴点と正しく抽出することができる。具体的には、波長の長いレンジでは、翼羽の部位と羽毛等の部位のスペクトルデータは似ているが、波長が短いレンジのスペクトルデータは異なる。よって、翼羽の部位に基づく特徴点モデルと、羽毛などの部位のスペクトルデータ(微分)は、近似せず相違するため非特徴点と正しく認定できる。
【0042】
上述した処理を異なる初生雛に対して実行し、雄の教師データ画像と雌の教師データ画像を、それぞれ所定数以上生成して記憶装置16に保存する。そして、これらの教師データ画像は、鶏種情報と関連づけて記憶装置16に保存するとよい。
【0043】
[雌雄判定モデル生成機能]
処理装置13は、例えば
図5に示すフローチャートを実行する機能を備える。この機能は、上述した機能により作成した教師データ画像に基づき、AIで雌雄を判定するため雌雄判定モデルを生成するものである。
【0044】
具体的には、処理装置13は、記憶装置16にアクセスし、例えば同一の鶏種について作成した教師データ画像を取得する(S201)。ついで、取得した教師データ画像を、人為的に雌雄に分類する(S202)。この分類作業は、例えば処理装置13が取得した教師データ画像を所定枚数ずつ出力装置15である表示装置に表示する。そして、モデル作成ユーザは、モニタ表示された画像を見て、雄の画像か雌の画像かを判断し、例えば入力装置を操作し、各教師データ画像に雄/雌をラベリングする。このラベリングは、例えば各教師データ画像に雄・雌の情報を付加したり、雄のホルダと雌のホルダに分け対応するホルダに記憶したりするなどの他、各種の手法をとれる。
【0045】
次いで、処理装置13は、雌教師データ画像(C-1)と雄教師データ画像(C-2)をニューラルネットワークに与え、ディープランニングで学習する(S203)。ニューラルネットワークは、与えられた雌教師データ画像と雄教師データ画像に基づき、雌雄を判定するための雌雄判定モデルを生成する(S204)。処理装置13は、生成した雌雄判定モデルを、鶏種と関連づけて記憶装置16に記憶保持する。このモデル作成作業は、ニューラルネットワークを有する外部コンピュータ上で作成する手法もとれる。
【0046】
図6は、本発明に係る本初生雛雌雄鑑別を行うシステムの一実施形態を示す図である。この初生雛雌雄鑑別を行うシステム10′は、初生雛1に対して所定の光を照射する照明装置11と、初生雛1を撮影する光学装置12と、光学装置12で撮影した画像に対し所定の処理を行い、雌雄判定を行う処理装置13と、その処理装置13に接続される入力装置14,出力装置15並びに記憶装置16と、搬送仕分け装置17等を備える。照明装置11並びに光学装置12は、例えば上述したシステム10におけるものと同等の機能のものを用いるとよい。記憶装置16は、上述したシステム10で作成した鶏種毎の雌雄判定モデルを記憶保持する。また記憶装置16は、例えば光学装置12で取得した計測データ(例えば撮影した画像データやスペクトル情報等)や、その画像データに対して処理装置13が所定の処理をした結果(生成した画像等)等を記憶するようにしてもよい。
【0047】
処理装置13は、ニューラルネットワークを有し実装されたアプリケーションプログラムを実行する機能等を備える演算処理能力をもつコンピュータ等である。具体的な機能については後述する。出力装置15は、例えば表示装置、ランプ、スピーカ等であり、処理装置13が行った雌雄の判定結果をディスプレイ表示または光の色、音でユーザー(製品利用者)に報知するものである。
【0048】
搬送仕分け装置17は、初生雛1を搬送するベルトコンベア等の搬送装置や、ロボットアーム等の判定後の初生雛1をピックアップして雄・雌に仕分ける装置等を備える。また、仕分け作業は、ロボットアームのように機械により自動的に行うのではなく、出力装置15の報知結果を確認しながら人手により行うようにしてもよい。
【0049】
図7は、処理装置13が行う孵卵農場内等で初生雛の雌雄判定を行う機能を説明するフローチャートである。まず本実施形態では、同じ鶏種の初生雛に対して雌雄判定を順次行う。よって、運転開始に先立ち、入力装置14を用いて判定対象の鶏種を指定し、処理装置13に伝える。この鶏種を伝える入力装置14は、例えば処理装置13に付随して設けられる選択スイッチ、ボタン等とすると、簡単な操作で指示できるのでよい。また、キーボード、マウス等のポインティングを用い、出力装置15のモニタに表示される選択画面を見ながら鶏種を指示するほか、各種の手法が採れる。
【0050】
雌雄判定作業は、人手或いは所定の装置を用いて搬送仕分け装置17のベルトコンベア上に判定対象の初生雛1を順次供給する。初生雛1は、置かれた状態のまま翼を広げられることもなくベルトコンベアにより搬送され、照明装置11で所定の光が照射されている、光学装置12の撮影エリアに至る。好ましくは、この撮影エリアに至るとベルトコンベアが一時停止するとよいが、光学装置12の能力等により、連続搬送してもよい。
【0051】
光学装置12は、撮影して取得した計測データをリアルタイムで処理装置13に送る。処理装置13は、光学装置12から送られて来た計測データを取得する(S101)。次いで、処理装置13は、取得した計測データに対し、ピクセルごとにスペクトルデータの微分処理をする(S102)。そして、処理装置13は、鶏種に対応する特徴点モデルと非特徴点モデルに基づき、各ピクセルに対して特徴点抽出処理を行う(S103)。すなわち、前処理で微分した各ピクセルのスペクトルデータを各モデルと比較し、特徴点・非特徴点・背景の3種類のいずれかに分別する。次いで、処理装置13は、特徴点と非特徴点を対照色相の2色(例えば赤色と緑色)で色分けするとともに背景色をそれ以外の所定色(例えば黒色)に変換する画像処理を行い(S104)、雌雄判別対象の画像(C′)を生成し、記憶装置16に保存する(S105)。これらS101からS105の一連の処理は、上述した「教師データ画像作成機能」における対応する各処理と同様にするとよい。
【0052】
また処理装置13は、生成した画像(C′)を、鶏種に対応する雌雄判定モデル(E)が登録されたニューラルネットワーク(D)に与える(S106)。このニューラルネットワーク(D)は、「雌雄判定モデル作成機能」の処理ステップS204で雌雄判定モデルを用いる。
【0053】
ニューラルネットワークは、与えられた画像(C′)が、雄の初生雛か雌の初生雛かを判定する(S107)。処理装置13は、その判定結果に基づき出力装置15並びに搬送仕分け装置17の動作を制御する。すなわち出力装置15のディスプレイ表示または光の色、音で判定結果をユーザー(製品利用者)に知らせ、搬送仕分け装置17によって雌と雄を仕分ける。すなわち、雌雄判定した初生雛をピックアップし、雄のエリア或いは雌のエリアにそれぞれ移し替える。
【0054】
上述したように、本実施形態では、初生雛1を搬送仕分け装置17のベルトコンベア上に載せるだけで、例えば翼を広げるなどのように初生雛1の姿勢・姿態を特に調整することなく雌雄の判定をすることができる。よって初生雛に対してストレスフリーで判別できるのでよい。
【0055】
また光学装置12は、図では1個のみ描画したが、複数のカメラを異なる位置に配置し、異なる方向から初生雛を撮影するとよい。このように、複数のカメラでいろいろな角度から撮影し、その撮影した複数の画像に基づきAI・ニューラルネットワークが判定するように構成すると、初生雛の置き方・姿勢・向きは任意で良くなるため、より高速にかつ高精度に雌雄判定ができるのでよい。複数のカメラに基づく判定は、例えば、いずれかのカメラで撮影した計測データの中に雌と判断できるものがあれば、判定対象の初生雛は雌とするとよい。また、複数のカメラは、例えば、周囲6箇所にカメラを置くとよい。
【0056】
一方、カメラを1個設置する場合、人或いは各種のガイド機構等により、カメラに対して初生雛が横向き、すなわち、翼羽の部分が製袋するように置かれるようにするとよい。
【0057】
また、本実施形態では、例えば大量に送られてくる初生雛を、連続的に順次判定し、仕分けする処理を自動的に行うため、ベルトンコンベア等の搬送機能を備えた搬送仕分け装置17を用いたが、本発明はこれに限ることはなく、例えば人手により所定位置に初生雛を置き、雌雄判定結果に基づき人手により仕分けるようにしてもよい。
【0058】
さらに上述した実施形態では、雌雄判定モデル等を記憶装置16に記憶保持させ、その雌雄判定モデルを用いて孵卵農場内等の現場で雌雄の判定を行うようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、例えば撮影した画像をサーバに送り、そこで判定してもよい。但し、その都度画像を送ると大量の初生雛の判定がスムーズに行えない可能性があるため、本実施形態のように現場で行えるようにするとよい。この場合に、例えば、雌雄判定の使用数の制限を設け、制限に達すると、新たに鍵を購入することで追加の雌雄判定が行えるビジネスモデルとするとよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、主に特徴点・非特徴点として翼羽鑑別に基づく例を説明したが、カラー鑑別法の適用も妨げない。さらに、ハイパースペクトルカメラで撮影し微分処理すると、羽毛の部分と翼羽の部分の境界部分の差が顕著に表れ、また、通常のカラー画像では現れない模様が出現するため、その模様に基づくカラー鑑別法或いは翼羽鑑別と併用することとで、肛門鑑別しかできなかったものも鶏種に対しても適用可能となる。
【0060】
以上、本発明の様々な側面を実施形態並びに変形例を用いて説明してきたが、これらの実施形態や説明は、本発明の範囲を制限する目的でなされたものではなく、本発明の理解に資するために提供されたものであることを付言しておく。本発明の範囲は、明細書に明示的に説明された構成や製法に限定されるものではなく、本明細書に開示される本発明の様々な側面の組み合わせをも、その範囲に含むものである。本発明のうち、特許を受けようとする構成を、添付の特許請求の範囲に特定したが、現在の処は特許請求の範囲に特定されていない構成であっても、本明細書に開示される構成を、将来的に特許請求する可能性があることを、念のために申し述べる。
【符号の説明】
【0061】
1 :初生雛
10 :システム
10′ :システム
11 :照明装置
12 :光学装置
13 :処理装置
14 :入力装置
15 :出力装置
16 :記憶装置
17 :搬送仕分け装置