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特許7445960重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法
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  • 特許-重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/94 20060101AFI20240301BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C07D211/94
C08F2/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020007606
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021113181
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000195616
【氏名又は名称】精工化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】森坂 雄介
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-530357(JP,A)
【文献】特開平10-158313(JP,A)
【文献】特開平06-166636(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表される化合物を含有する、重合性不飽和結合を有する化合物における重合を禁止する重合禁止剤。
【化1】
【請求項2】
前記重合性不飽和結合を有する化合物が、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体である、請求項1に記載の重合禁止剤。
【請求項3】
前記重合性不飽和結合を有する化合物は、沸点が120℃以上である、請求項1または2に記載の重合禁止剤。
【請求項4】
重合性不飽和結合を有する化合物を含む原料溶液に、請求項1~のいずれか一項に記載の重合禁止剤を添加した後、蒸留を行って、前記原料溶液から前記重合性不飽和結合を有する化合物を回収する、重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【請求項5】
前記重合性不飽和結合を有する化合物が、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体である、請求項に記載の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【請求項6】
前記重合性不飽和結合を有する化合物は、沸点が120℃以上である、請求項に記載の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、重合性モノマーの精製時における気相及び液相での重合を禁止し、更に、蒸留精製された重合性モノマーにおける着色が発生し難い重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アクリル酸、メタクリル酸、及び、その誘導体に代表されるビニル単量体などの重合性モノマーを原料とする樹脂(例えば、光硬化樹脂)は、様々な機能を付与され、その用途を広げている。それに伴い、この樹脂の原料となるビニル単量体などの重合性モノマーについても新たなものが開発されている。
【0003】
このように新たな重合性モノマーの開発が進められているが、開発される新たな重合性モノマーは、従来の重合性モノマーに比べて分子量が大きくなったり、置換基が付与されたりすることが多く、その沸点は高くなる傾向にある。
【0004】
ここで、ビニル単量体などの重合性モノマーは、その製造工程においても、加熱などによって重合してしまうため、製造工程中(特に蒸留精製時)における意図しない重合を防止することを目的として通常は重合禁止剤が使用されている。
【0005】
そして、このようなビニル単量体などの重合性モノマーの蒸留精製時における意図しない重合は、蒸留釜だけでなく、蒸留路を含む蒸留塔においても生じる。そのため、蒸留釜内と蒸留塔(蒸留路を含む)内の両方における重合性モノマーの重合反応を禁止できる重合禁止剤の開発が求められており、例えば、分子量の異なる2種類の化合物を配合した重合禁止剤が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/047655号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法で使用される重合禁止剤は、(揮発性の高さゆえに)重合禁止効果が十分に持続せず(即ち、持続性が低く)、また、有色である上記重合禁止剤が混入することで、蒸留精製された重合性モノマーの蒸留液が着色してしまうという問題があった。更に、特許文献1では、2種類の化合物を使用する必要があり、その取り扱いに手間がかかるなどの問題があった。
【0008】
そこで、重合性モノマーの精製時における気相及び液相での重合を禁止することができ、更に、蒸留精製された重合性モノマーの蒸留液における着色が抑制される重合禁止剤の開発が切望されていた。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の重合禁止剤は、所定の化合物を採用することによって、重合性モノマーの精製時における気相及び液相での重合を禁止し、更に、蒸留精製された重合性モノマーの蒸留液における着色の発生が抑制されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下に示す重合禁止剤及び重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法が提供される。
【0011】
[1] 下記式(2)で表される化合物を含有する、重合性不飽和結合を有する化合物における重合を禁止する重合禁止剤。
【0014】
【化2】
【0015】
] 前記重合性不飽和結合を有する化合物が、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体である、前記[1]に記載の重合禁止剤。
【0016】
] 前記重合性不飽和結合を有する化合物は、沸点が120℃以上である、前記[1]または[2]に記載の重合禁止剤。
【0017】
] 重合性不飽和結合を有する化合物を含む原料溶液に、前記[1]~[]のいずれかに記載の重合禁止剤を添加した後、蒸留を行って、前記原料溶液から前記重合性不飽和結合を有する化合物を回収する、重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【0018】
] 前記重合性不飽和結合を有する化合物が、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体である、前記[]に記載の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【0019】
] 前記重合性不飽和結合を有する化合物は、沸点が120℃以上である、前記[]に記載の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重合禁止剤は、重合性モノマー(即ち、重合性不飽和結合を有する化合物)の精製時における気相及び液相での重合を禁止し、更に、蒸留精製された重合性モノマーの蒸留液における着色の発生が抑制されるという効果を奏するものである。
【0021】
本発明の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法によれば、気相及び液相での重合が禁止され、更に、得られる重合性不飽和結合を有する化合物の溶液における着色が生じ難いという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】4-MCTEMPOにおける各所定の温度での重量減少量の測定結果を示すグラフである。
図2】4-AcTEMPOにおける各所定の温度での重量減少量の測定結果を示すグラフである。
図3】4H-TEMPOにおける各所定の温度での重量減少量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0024】
(1)重合禁止剤:
合禁止剤の一実施形態は、下記一般式(1)で表される化合物を含有する、重合性不飽和結合を有する化合物における重合を禁止するものである。
【0025】
【化3】
(但し、一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数4~7のシクロアルキル基であり、Rは、それぞれ独立に、水素または炭素数1~3のアルキル基である。)
【0026】
このような重合禁止剤は、重合性不飽和結合を有する化合物の精製時における気相及び液相での重合を禁止し、更に、蒸留精製された重合性不飽和結合を有する化合物の蒸留液における着色が生じ難いものである。
【0027】
より具体的には、本発明の重合禁止剤は、重合性不飽和結合を有する化合物の精製時(即ち蒸留時)に気相及び液相中の両方に存在し、気相及び液相における重合性不飽和結合を有する化合物重合を禁止する。更に、気相中に混入するものであるが、精製された重合性不飽和結合を有する化合物の蒸留液における着色が生じ難いものである。
【0028】
(1-1)一般式(1)で表される化合物:
一般式(1)で表される化合物は、重合性不飽和結合を有する化合物に対する重合禁止効果に優れ、その効果の持続性が高いものである。そして、蒸留の高温時(例えば、120℃以上)において、一部が蒸発して、液相だけでなく、気相中における重合性不飽和結合を有する化合物の重合をも禁止することができるものである。このように気相中における重合性不飽和結合を有する化合物の重合が禁止されることで、蒸留配管の内壁面に重合体が付着してしまうなどの問題の発生を防止することができる。
【0029】
更に、一般式(1)で表される化合物を用いて重合性不飽和結合を有する化合物を精製した後の溶液(蒸留液)の着色が生じ難いという効果がある。即ち、従来の重合禁止剤は、蒸留配管の内壁面に重合体が付着することを防止するために、揮発して気相中にも混在する性質のものがあるが、一方で、精製後の溶液中に混入すると、有色である重合禁止剤に起因する着色が発生してしまうという問題がある。つまり、重合禁止剤は、液相だけでなく、一部が気相にも存在することがよいが、気相に存在させると、精製後の溶液中にも混入してしまうことがある。この点、重合禁止剤を気相中に存在させつつ、上記溶液中への混入を完全に回避することは手間がかかるなどの問題があり、この問題を解決するには容易ではない。そこで、気相における重合を防止し、かつ、蒸留液を着色させ難い重合禁止剤が求められていた。
【0030】
この点、従来の重合禁止剤では、気相(具体的には蒸留路)と液相(蒸留釜)における重合を禁止するために2種類の化合物(重合禁止剤)を配合したものがあるが、その取扱いに手間がかかるため、1種類の化合物(重合禁止剤)で上記効果が発揮されるという要望があった。このような要望に対して、上記一般式(1)で表される化合物を用いることによって、1種類の化合物で気相及び液相の両方の重合を禁止することができ、精製後の溶液中に混入しても当該溶液の着色を無いものとするか、着色の程度を小さくすることができる。
【0031】
一般式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数4~7のシクロアルキル基である。このRは、置換基を有していない炭素数4~7のシクロアルキル基であることがよく、炭素数6のシクロアルキル基であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)中、Rは、それぞれ独立に、水素または炭素数1~3のアルキル基である。このRは、全て炭素数1のアルキル基(即ち、メチル基)であることがよい。
【0033】
一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、下記式(2)で表される化合物(即ち、4-MCTEMPO(4-[(Cyclohexylcarbonyl)oxy]-2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl))などを挙げることができる。
【0034】
【化4】
【0035】
一般式(1)で表される化合物は、重合性不飽和結合を有する化合物に対して、1~1000000ppm添加されることが好ましく、10~100000ppm添加されることが更に好ましい。このような添加量とすることによって、気相の重合を防止し、精製後の溶液(蒸留液)の着色がより生じ難い。
【0036】
(1-2)重合性不飽和結合を有する化合物:
本発明の重合禁止剤は、重合性不飽和結合を有する化合物における重合を禁止するものである。ここで、「重合性不飽和結合を有する化合物における重合を禁止する」とは、重合性不飽和結合を有する化合物が、熱や光等を契機に互いに重合反応をして意図せずに重合体を形成してしまうことを防止することを意味する。
【0037】
重合性不飽和結合を有する化合物としては、具体的には、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体などを挙げることができる。本発明の重合禁止剤は、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体における重合を禁止するために用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸誘導体(特に、(メタ)アクリル酸エステル)においては、非常に優れた着色防止効果が発揮される。
【0038】
芳香族ビニル化合物としては、具体的には、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、スチレンスルホン酸、及びジビニルベンゼン等などを挙げることができる。
【0039】
共役ジエン化合物としては、具体的には、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン、クロロプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、α-ファルネセン、β-ファルネセン、ミルセン及びクロロプレン等などを挙げることができる。
【0040】
ビニルエステル化合物としては、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等などを挙げることができる。
【0041】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル、エチレングリコールジ(メタ)アクリラートなどを挙げることができる。
【0042】
重合性不飽和結合を有する化合物は、その沸点としては特に制限はないが、例えば、80℃以上のものとすることができ、更には沸点が120℃以上のものとすることがよい。そして、この沸点は、120~220℃の化合物に対して用いることが更に好ましく、沸点が120~180℃の化合物に対して用いることが特に好ましく、沸点が130~150℃の化合物に対して用いることが最も好ましい。上記沸点の重合性不飽和結合を有する化合物に対する重合禁止剤として採用することで、蒸留に際してその一部が蒸発して気相に混在し、蒸留配管内での重合をより良好に禁止することができ、更に、精製後の溶液中に重合禁止剤が混入しても、着色が良好に抑制され、着色が無いか、或いはその程度が小さくなる。特に、沸点が150℃以下の重合性不飽和結合を有する化合物の精製に用いると、蒸留時間の経過によっても重合禁止剤の重量減少が少なく重合禁止効果の持続性が高い。
【0043】
(1-3)その他の成分:
本発明の重合禁止剤は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、一般式(1)で表される化合物以外に、その他の成分を更に含有していても良い。
【0044】
その他の成分としては、例えば、フェノール系化合物、N-オキシル系化合物、キノン系化合物などを挙げることができる。
【0045】
その他の成分の含有割合は、例えば、0.001~99質量%とすることができる。
【0046】
(2)本発明の重合性不飽和結合を有する化合物の製造方法:
本発明の重合性不飽和結合を有する化合物を製造する方法の一実施形態は、重合性不飽和結合を有する化合物を含む原料溶液に、上述した本発明の重合禁止剤を添加した後、蒸留を行って、上記原料溶液から上記重合性不飽和結合を有する化合物を回収する方法である。
【0047】
このような製造方法によれば、気相及び液相での重合が禁止され、更に、得られる重合性不飽和結合を有する化合物の溶液における着色が発生し難くなる。
【0048】
重合性不飽和結合を有する化合物としては、具体的には、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体などを挙げることができ、本発明においては、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、ビニルエステル化合物、(メタ)アクリル酸、または、(メタ)アクリル酸誘導体を好適に製造(「精製」ということもできる)することができる。なお、これらの中でも、(メタ)アクリル酸誘導体(特に、(メタ)アクリル酸エステル)の精製に際しては、非常に優れた着色抑制効果が発揮される。
【0049】
芳香族ビニル化合物としては、具体的には、スチレン、ビニルトルエン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、スチレンスルホン酸、ジビニルベンゼン等などを挙げることができる。
【0050】
共役ジエン化合物としては、具体的には、ブタジエン、イソプレン、ファルネセン、ミルセン、クロロプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、α-ファルネセン、β-ファルネセン、ミルセン、クロロプレン等などを挙げることができる。
【0051】
ビニルエステル化合物としては、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等などを挙げることができる。
【0052】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0053】
重合性不飽和結合を有する化合物としては、その沸点としては特に制限はないが、例えば、80℃以上のものとすることができ、更には沸点が120℃以上のものとすることがよい。そして、この沸点は、120~220℃のものであることが更に好ましく、120~180℃のものであることが特に好ましく、130~150℃のものであることが最もよい。沸点が上記範囲の重合性不飽和結合を有する化合物に用いることで、気相及び液相の両方に重合禁止剤が良好に存在し、これらにおける重合が更に良好に禁止される。更に、得られる重合性不飽和結合を有する化合物の溶液における着色が更に発生し難くなる。特に、沸点が150℃以下の重合性不飽和結合を有する化合物の精製に用いると、蒸留時間の経過によっても重合禁止剤の重量減少が少なく重合禁止効果の持続性が高い。
【0054】
本発明の製造方法において重合禁止剤の添加量は、特に制限はないが、例えば、重合性不飽和結合を有する化合物に対して、1~1000000ppm添加されることが好ましく、10~100000ppm添加されることが更に好ましい。このような添加量とすることによって、重合禁止効果が良好に発揮され、更に、精製後の溶液に混入してしまう重合禁止剤の量を少なくすることができる。なお、本発明の製造方法で用いる重合禁止剤は、上述した本発明の重合禁止剤であるため、精製後の溶液に混入したとしてもその着色の発生が抑制されるものであるが、混入する量は少ないことが好ましいものである。
【0055】
原料溶液の蒸留及び精製後の化合物の回収は、従来公知の蒸留方法及び回収方法を適宜採用することができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
[1]重合禁止性能試験:
ガラス製の50mlフラスコに、スチレンに4-MCTEMPO(重合禁止剤)を100ppmに調製したものを10ml加え、常圧、オイルバスの温度120℃として1時間加熱した。そして、窒素置換あり、窒素置換なしの2つの条件で試験を行った。
【0058】
なお、スチレンは、あらかじめ10%NaOH水溶液で洗浄し、安定剤を除去したもの(調製モノマー)を使用した。加熱後一時間放冷し、室温にした後、上記調製モノマーをビーカーに注ぎ、更にメタノール100mlを入れ、試験液を調製した。この試験液について目視で重合物の有無を確認した。
【0059】
そして、試験液が透明である場合、「重合物は無し」と判断し、試験液に固形物が確認されるか、或いは試験液が白濁していた場合は、「重合物が有り」と判断した。重合物が有ると判断した場合、この重合物をNo.5のろ紙を用いてろ取し、ろ取物を乾燥させた後、重量を測定し、ポリマーの生成比を算出した。
【0060】
重合禁止剤として4-MCTEMPOを用いると、窒素置換なしの条件において、試験液は、透明であり、スチレンの重合物の生成は無かった(スチレンの重合が抑制された)と判断した。また、窒素置換ありの条件においては、試験液に固形物が確認されたが、4-t-ブチルカテコールなどに比べて非常に僅かであった。
【0061】
表1には、重合禁止性能の結果を示す。なお、4-MCTEMPO以外の化合物におけるポリマー比/スチレン(質量%)についても示す。表1から、4-MCTEMPOは良好な重合禁止性能を有することが分かる。
【0062】
【表1】
【0063】
なお、表1、表2中、「オゾノン 35」は、精工化学社製のオゾン劣化防止剤(N-(1-Methylheptyl)-N’-phenyl-p-phenylenediamine)である。「4-t-ブチルカテコール」は、関東化学社製の重合禁止剤である。「4-AcTEMPO」は、精工化学社製の重合禁止剤である。「4H-TEMPO」は、東京化成工業社製の重合禁止剤である。「4-MCTEMPO」は、精工化学社製の重合禁止剤である。「4-ベンゾイルオキシTEMPO」は、精工化学社製の重合禁止剤である。
【0064】
[2]重量開始誘導時間:
重合性不飽和結合を有する化合物としてメタクリル酸エトキシエチルを用い、重合禁止剤として4-MCTEMPOを使用した場合の重量開始誘導時間を測定した。測定は、試験温度160℃、4-MCTEMPOを50ppmmとした。なお、重量開始誘導時間の測定は、窒素置換なしの条件と窒素置換ありの条件の両方で行った。
【0065】
表2に示すように、4-MCTEMPOは、他の重合禁止剤と同様に良好な重合禁止性能を示した。窒素置換ありの条件では、重合開始から100分後でも重合しなかった(表2中、「>100」と示す)。
【0066】
【表2】
【0067】
[3]重量減少開始温度:
TG-DTA装置(リガク社製のTG 8120)を用い、4-MCTEMPO、4-AcTEMPO、及び、4H-TEMPOにおける所定の温度での重量減少量を測定した。結果を図1図3に示す。なお、初期温度を25℃とし、10℃/分の条件で昇温させて目的の温度(図1図3に示す80℃等)とし、その後、温度を保持した。
【0068】
4-MCTEMPOは、4H-TEMPOと比べて、同じ重量減少を示す温度が最低30℃以上高くなっていた。また、4-MCTEMPOは、4-AcTEMPOと比べて、同じ重量減少を示す温度が最低50℃以上高くなっていた。この結果からすると、4-MCTEMPOは、揮発し難さが非常に向上していることが分かる。一方で、全く揮発しないわけではなく、80℃以上では、一部揮発していることが分かる。このように一部揮発するため、気相(即ち、蒸留路)における重合禁止性能も発揮することが分かる。なお、4H-TEMPOは、気相における重合禁止に対して効果を有する成分として知られているものの中で最も沸点が高いものである。
【0069】
ここで、重合性モノマーの精製における蒸留操作において、重合禁止剤が全く揮発しないとすると、気相(即ち、蒸留路)における上記重合性モノマーの重合を禁止し難くなり、気相において重合物が発生し、蒸留路が詰まったり、清掃の手間がかかったりする。一方で、重合性モノマーとともに多くの重合禁止剤が蒸発してしまうと、精製された重合性モノマー中に重合禁止剤が多く混入してしまうことになる。この場合、更には、重合禁止剤に起因して着色などが発生するという問題がある。このように、重合性モノマーの精製に際して、重合禁止剤は、その一部が蒸発して気相中に存在することが良いが、多量に蒸発すると、着色などの問題を生じることになる。
【0070】
[4]蒸留着色試験:
表3に示す各溶媒に重合禁止剤である4-MCTEMPOを溶かし、10質量%の溶液100gを調製した。その後、蒸留装置を用いて減圧蒸留を行い、留出が始まった時点での温度及び圧力を記録し、20ml留出した時点で蒸留を終了した。その後、留出液を目視で確認し、着色の評価を行った。評価基準は、着色が確認されない場合を「A」とし、薄い着色が確認された場合を「B」とし、着色が確認された場合(「B」評価よりも濃い着色が確認された場合)を「C」とし、3段階で判別した。これらのうち、評価「A」または評価「B」であれば、経済的及び環境的にも許容できるものであり、評価「A」であればより良いものである。
【0071】
蒸留着色試験の比較として、4H-TEMPOを選択した。この4H-TEMPOは、気相における重合禁止に効果を有する成分として知られているもののうちで最も沸点が高く、高温域における着色の有無が判断し易い。
【0072】
なお、4H-TEMPOに比べて、例えば4-AcTEMPOやTEMPOは、更に沸点が低いため、4H-TEMPOよりも低い温度で着色が起きると考えられる。ここで、沸点の関係は、TEMPO<4-AcTEMPO<4H-TEMPOである。
【0073】
4-MCTEMPOは、着色の発生抑制の観点では、特にアクリル酸2-エチルヘキシルで顕著に効果が現れていた。即ち、アクリル酸2-エチルヘキシルの精製では、4H-TEMPOを用いると、その蒸留液は強く着色する(評価「C」)のに対して、4-MCTEMPOを用いると、その蒸留液は着色しない(評価「A」)という結果であった。
【0074】
【表3】
【0075】
[5]蒸留気相重合禁止試験:
表4に示す各モノマーに4-MCTEMPOまたはフェノチアジンを含む各重合禁止剤を溶かした溶液50gを調製した。その後、それぞれを100mlナス型フラスコに仕込み、これに充填剤を詰めたガラス管及びジムロート冷却管を取り付けた。オイルバスで上記100mlナス型フラスコを加熱し、減圧下、ガラス管内で還流させた状態で3時間保持した。液相が重合していないことを確認し、ガラス管及びナス型フラスコ内をアセトンで洗浄し、洗浄液をろ過した。
【0076】
その後、ガラス管及びナス型フラスコを100℃で3時間真空乾燥した後、各重量を測定し、事前に測定したガラス管及びナス型フラスコの重量との差を求めた。そして、洗浄液からのろ取物と合わせて気相の重合物(g)の重量とした。このようにして蒸留気相中における重合禁止効果の試験を行った。
【0077】
【表4】
【0078】
4-MCTEMPOを用いると、気相の重合物(ガラス管とナス型フラスコの、試験前との増量分)はほぼ確認できなかった。一方、フェノチアジンを用いた場合では、気相において1.27gの重合物が確認された。この結果から、4-MCTEMPOは、気相における重合禁止効果を有することが分かる。なお、4-MCTEMPOを用いた場合には、ナス型フラスコの壁面に極微量(0.01g以下)の重合物が確認されただけであった。
【0079】
表1~表4、図1図3から、一般式(1)で表される化合物を含有する重合禁止剤は、経時的な減少量が少なく気相及び液相中に多く残留するため重合禁止剤としての効果を発揮し続けることから重合禁止効果の持続性が高く、重合性モノマーの精製時における気相及び液相での重合を禁止することが分かる。更に、この重合禁止剤は、蒸留精製された重合性モノマーの蒸留液における着色の発生が抑制されるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の重合禁止剤は、ビニル単量体等の重合性不飽和結合を有する化合物の製造工程(例えば精製工程)で使用される重合禁止剤として利用することができる。
図1
図2
図3