(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】二次電池の正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20240301BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240301BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240301BHJP
H01M 4/26 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/48
H01M4/62 C
H01M4/26 E
(21)【出願番号】P 2020019500
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】佐野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】羽田 典久
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-110107(JP,A)
【文献】特開2019-160518(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087146(WO,A1)
【文献】特許第7295554(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルと、バインダと、
平均粒径0.02ないし0.05μmのカーボンブラックである導電助剤と
を含有する二次電池の正極材料であって、
前記正極材料は、前記水酸化ニッケルと、前記バインダと、前記導電助剤
の3種類が固着して固着体を形成してなり、
前記固着体の単位断面における、前記水酸化ニッケルと、
前記水酸化ニッケルを除く前記バインダ及び前記導電助剤との面積比が92:8ないし91:9である
ことを特徴とする二次電池の正極材料。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルの平均粒径は8ないし10μmである請求項1に記載の二次電池の正極材料。
【請求項3】
前記水酸化ニッケルのアスペクト比は、0.9ないし1.0の範囲である請求項1または2に記載の二次電池の正極材料。
【請求項4】
前記バインダはアクリル系樹脂である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の二次電池の正極材料。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の二次電池の正極材料の製造方法であって、
水に水酸化ニッケルと、バインダと、
平均粒径0.02ないし0.05μmのカーボンブラックである導電助剤とを分散して懸濁液を得る懸濁工程と、
小径流路部を備えてなるオリフィスホモジナイザ部へ前記懸濁液を加圧供給することに
より前記懸濁液中の混合を促進する混合工程と、
前記混合工程を経た懸濁液から水分を除去する水分除去工程と
を備えることを特徴とする二次電池の正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記オリフィスホモジナイザ部は、
複数の流入側流路部と、
複数の流出側流路部と、
前記複数の流入側流路部を単一に集合させる集合部と、
前記集合部の下流に接続されたオリフィス流路部と、
前記オリフィス流路部の下流に接続され前記オリフィス流路部を分岐させ前記複数の流出側流路部と接続する分岐部と、
を備える請求項
5に記載の二次電池の正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において、前記懸濁液が前記オリフィスホモジナイザ部を通過後、通過後の前記懸濁液が再度前記オリフィスホモジナイザ部を通過することを繰り返す請求項
5または6に記載の二次電池の正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程において、前記懸濁液が前記オリフィスホモジナイザ部を通過する回数は、25ないし35回である請求項
7に記載の二次電池の正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極材料及びその製造方法に関し、特に水酸化ニッケルの粒状物を主体とする二次電池の正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、パーソナルコンピュータ等の電子機器の電源として二次電池が多用される。これらの電子機器において、携帯性と長時間の動作のため電池は小型かつ軽量であることと大容量であることが求められている。さらに、乗用車等の電源として搭載される大型の二次電池としても着目されている。
【0003】
乗用車等の輸送機械の二次電池は、従前の電子機器に使用される二次電池と比較してより高出力、高電圧、及び高容量の電池特性が要求される。近時、コバルト酸リチウムよりも性能の期待されるニッケル化合物が注目されている。そのため、より優れた電池特性を発揮する電極材料が検討されてきた。例えば、葉状黒鉛粒子及びカーボンブラックのプライマー組成物の下地層と、同下地層上に形成された合材層を備える二次電池の正極が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、さらなる二次電池の電池性能の向上のためには、活物質と炭素材料等との混練、親和においては依然として改良の余地が明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、微粒子状物の粉砕について知見を積み上げてきた。そこで、正極材料の調製において、微粒子状物の粉砕の技術を活用することによって優れた二次電池の電池特性を発揮し得る正極材料を見いだすに至った。
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、二次電池の正極材料の種類及び形態を改良することにより、既存の二次電池の正極材料よりも優れた電池特性を発揮する二次電池の正極材料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、二次電池の正極材料は、水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とが含有する二次電池の正極材料であって、正極材料は、水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とが固着して固着体を形成してなり、固着体の単位断面における、水酸化ニッケルと、バインダ及び導電助剤との面積比が92:8ないし91:9であることを特徴とする。
【0009】
さらに、水酸化ニッケルの平均粒径は8ないし10μmであることを特徴とする。
【0010】
さらに、水酸化ニッケルのアスペクト比は、0.9ないし1.0の範囲であることを特徴とする。
【0011】
さらに、バインダはアクリル系樹脂であることを特徴とする。
【0012】
さらに、導電助剤は、平均粒径0.02ないし0.05μmのカーボンブラックであることを特徴とする。
【0013】
また、二次電池の正極材料の製造方法は、水に水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とを分散して懸濁液を得る懸濁工程と、小径流路部を備えてなるオリフィスホモジナイザ部へ懸濁液を加圧供給することにより懸濁液中の混合を促進する混合工程と、混合工程を経た懸濁液から水分を除去する水分除去工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
さらに、オリフィスホモジナイザ部は、複数の流入側流路部と、複数の流出側流路部と、複数の流入側流路部を単一に集合させる集合部と、集合部の下流に接続されたオリフィス流路部と、オリフィス流路部の下流に接続されオリフィス流路部を分岐させ複数の流出側流路部と接続する分岐部とを備えることを特徴とする。
【0015】
さらに、混合工程において、懸濁液が前記オリフィスホモジナイザ部を通過後、通過後の懸濁液が再度オリフィスホモジナイザ部を通過することを繰り返すことを特徴とする。
【0016】
さらに、混合工程において、懸濁液がオリフィスホモジナイザ部を通過する回数は、25ないし35回であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二次電池の正極材料によると、水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とが含有する二次電池の正極材料であって、正極材料は、水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とが固着して固着体を形成してなり、固着体の単位断面における、水酸化ニッケルと、バインダ及び導電助剤との面積比が92:8ないし91:9であるため、既存の二次電池の正極材料よりも優れた電池特性を発揮する二次電池の正極材料を得ることができた。
【0018】
また、本発明の二次電池の正極材料の製造方法によると、水に水酸化ニッケルと、バインダと、導電助剤とを分散して懸濁液を得る懸濁工程と、小径流路部を備えてなるオリフィスホモジナイザ部へ懸濁液を加圧供給することにより懸濁液中の混合を促進する混合工程と、混合工程を経た懸濁液から水分を除去する水分除去工程とを備えるため、水酸化ニッケル粒子の粒径制御を経て既存の二次電池の正極材料よりも優れた電池特性を発揮する二次電池の正極材料を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の二次電池の正極材料の断面模式図である。
【
図3】オリフィスホモジナイザ部の主要部縦断面図である。
【
図4】オリフィスホモジナイザ部の主要部横断面図である。
【
図5】オリフィスホモジナイザ部の通過回数を0回とした正極材料の電子顕微鏡写真である。
【
図6】オリフィスホモジナイザ部の通過回数を30回とした正極材料の電子顕微鏡写真である。
【
図7】オリフィスホモジナイザ部の通過回数を100回とした正極材料の電子顕微鏡写真である。
【
図8】参考試料の正極材料の電子顕微鏡写真である。
【
図9】電池容量と放電電圧の関係を示す放電曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に規定する二次電池の正極材料は、
図1の断面模式図として示される。
図1の二次電池の正極材料1は、主に水酸化ニッケル3、バインダ4、導電助剤5の3種類が含有される。そして、正極材料1では、水酸化ニッケル3、バインダ4、導電助剤5の3種類がバインダ4の粘性により相互に固着して固着体2が形成される。
【0021】
水酸化ニッケル(Ni(OH)2)は粉末状でありそのままの状態では二次電池の電極として塗工、充填等の使い勝手は良いとはいえない。そこで、電極への塗工(塗布)をしやすくするため、水酸化ニッケルの粉末を相互に引き寄せるためのバインダが必要となる。ここで、バインダは後述するとおり、樹脂であり導電性に乏しく、充放電特性、電池容量等の電池性能を引き下げてしまう。この場合、水酸化ニッケルとバインダの樹脂との量的な均衡により導電性を調整することも検討された。しかしながら、水酸化ニッケルの粒子を互いに固着させるためには相応量のバインダが必要であり、当該バインダ量に起因する導電性低下が解消できなかった。
【0022】
そこで、水酸化ニッケルの粒子を互いに固着させるバインダの中に導電性を有する導電助剤部材を介在させてバインダ部分の導電性低下を改善することに至った。そこで、本発明に規定する二次電池の正極材料は、水酸化ニッケル、バインダ、導電助剤の3種類を含有する。
【0023】
正極材料に占める水酸化ニッケルの存在割合は、固着体の単位断面に占める水酸化ニッケルと、同水酸化ニッケル以外の成分の面積比として求められる。具体的には、
図1の断面模式図の固着体2の単位断面において、水酸化ニッケル3の合計面積と、水酸化ニッケル3以外の成分であるバインダ4及び導電助剤5の合計面積との面積比は、92:8ないし91:9の範囲を満たしている。すなわち、固着体の単位断面における水酸化ニッケルの合計面積の割合は91/100ないし92/100の範囲である。合計面積の計算は、後出の電子顕微鏡の写真が取得され、適宜の画像加工用のソフトウェアにより、水酸化ニッケルの部位、それ以外の部位と指定してそれぞれの面積及び面積比が求められる。
【0024】
当該面積比は、後述する実施例における良好な結果を発現した固着体の断面を電子顕微鏡により観察した際に観察して導き出された範囲である。面積比において水酸化ニッケルの合計面積が91/100を下回る場合、水酸化ニッケルの量が不足であり、二次電池としての性能不足となる。面積比において水酸化ニッケルの合計面積が92/100を上回る場合、バインダ不足に伴う水酸化ニッケル同士の結びつきが弱まり固着体が形成されにくくなる。結果として、調製される正極材料の塗工性等の取り扱いやすさが低下する。そのため、前述の面積比の範囲が好ましい。
【0025】
正極材料に用いる水酸化ニッケルについて、当該水酸化ニッケルの平均粒径は8ないし10μmである。ここで言う平均粒径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径をいう。当該平均粒径の範囲は、後述する実施例における良好な結果を発現した正極材料の平均粒径に基づく。水酸化ニッケルの平均粒径が8ないし10μmの範囲の場合、当該正極材料を用いた電池の電池容量は高く、また電圧降下率も高い。すなわち、単位質量当たりの充電と放電の効率が高いと考えられる。これに対して、当該平均粒径の範囲から外れる場合、性能の低下が明らかとなった。従って、前述の平均粒径の範囲が好ましい。
【0026】
さらに、水酸化ニッケルの粒子は球に近いことが望ましい。これは、単位質量当たりの充填密度を高め、正極材料を均質化させるためである。そこで、真球度の指標としてアスペクト比が用いられる。アスペクト比は長軸と短軸の相対比を示す。アスペクト比が1のとき、当該粒子は球である。具体的には、
図1の断面模式図のとおり、水酸化ニッケル3の粒子における十字交差する2本の矢印(縦向きと横向き)の長さから計算される。水酸化ニッケルの粒子の好ましいアスペクト比は0.9ないし1.0の範囲である。アスペクト比が0.9より小さくなる場合、水酸化ニッケルの粒子は球から遠ざかったいびつな形状となり好ましくないためである。
【0027】
正極材料に用いられるバインダは樹脂材料より選択され、耐薬品性、温度耐性に優れたアクリル系樹脂が使用される。他にカルボキシメチルセルロースも用いられる。アクリル系樹脂またはカルボキシメチルセルロースは、水との親和性があるため、後述の製法に好適である。
【0028】
導電助剤は、導電性を備える成分である。しかしながら、金属は水酸化ニッケル、正極の電極材料との反応の点から回避される。そこで、炭素系の成分が好ましく用いられる。具体的にはカーボンブラックが好ましく用いられる。さらに、カーボンブラックの平均粒径は0.02ないし0.05μmである。カーボンブラックは公知の市販品が利用される。カーボンブラックはバインダの樹脂に混練され、水酸化ニッケルの粒子の間に充填される。そのため、流動性の点から水酸化ニッケルの粒子と比較して十分に小さい粒子となる。加えて、水酸化ニッケルの粒子同士の間を適度に埋める必要もある。そこで、入手可能なカーボンブラックとして前述の平均粒径の範囲となる。カーボンブラックの平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求められた粒度分布における積算値50%における粒径である。
【0029】
続いて、これまでに述べた成分により構成される二次電池の正極材料の製造方法について、
図2ないし
図4を用い説明する。始めに、水に水酸化ニッケルの粉末、バインダ(アクリル樹脂)、導電助剤(カーボンブラック)が分散されて懸濁液が調製される(「懸濁工程」)。各成分を水に分散させて懸濁液とする理由は、次述の混合工程に使用されるオリフィスホモジェナイザ部への供給と同オリフィスホモジェナイザ部における混合の便宜のためである。
【0030】
懸濁工程において調製された懸濁液は
図3及び
図4に示される小径流路部を備えてなるオリフィスホモジナイザ部10へ加圧供給され、当該懸濁液中の各成分の混合が促進する(「混合工程」)。実施形態の二次電池の正極材料の製造方法の特徴として、
図2等に開示のオリフィスホモジナイザ部10を備えた混合装置100が使用されることである。そして、混合工程を経た懸濁液から水分が除去される(「水分除去工程」)。二次電池の正極材料の製造方法は、主にこれらの3つの工程により構成される。
【0031】
図2の混合装置100では、原料タンク30、分岐ブロック40、オリフィスホモジナイザ部10、ポンプ部50が備えられ、原料タンク30に水タンク60が接続される。水は水タンク60から圧送ポンプ61により供給される。処理を終えた懸濁液はドレイン部90から回収される。懸濁液は原料タンク30に貯留され、原料タンク30は配管部81を介して下流の分岐ブロック40と設置される。さらに、原料タンク30には攪拌機31が設けられ、水酸化ニッケルの粉末、バインダ、導電助剤(カーボンブラック)は原料タンク30において混合され懸濁液となる。配管部81には逆止弁70と切替弁71が設置される。分岐ブロック40側から原料タンク30側への逆流は逆止弁70と切替弁71により規制される。
【0032】
ポンプ部50は分岐ブロック40と配管部82により接続される。また、オリフィスホモジナイザ部10は配管部83により分岐ブロック40と接続される。さらに、オリフィスホモジナイザ部10は配管部84により原料タンク30と接続される。水タンク60は配管部85により原料タンク30と接続される。ドレイン部90側には配管部86が設けられる。また、図示のとおり、各配管部には切替弁72,73,74が接続される。各切替弁はポンプ部50の動作時の流体の流路を規制する。各切替弁は電磁弁、手動弁の適宜である。配管部81,82,83,84,85,86は、耐圧性に優れた中空管体であり、懸濁液が流動する。分岐ブロック40の構造は特段限定されないものの、金属等の耐圧材料から形成され、内部にT字状の流路が形成された部材である。または、分岐ブロック40は公知の三方弁等でも良い。
【0033】
ポンプ部50は構造体内にピストン51を備えており、一般にピストンポンプと称される。ピストン51の後退時(ピストン51が分岐ブロック40から遠ざかる向き)、ポンプ部50のハウジング52内に懸濁液が流入する。そして、ピストン51の前進時(ピストン51が分岐ブロック40へ近づく向き)、懸濁液はポンプ部50から吐出されてオリフィスホモジナイザ部10に流入する。ピストン51の前進及び後退は、油圧駆動またはサーボモータ等により制御される。懸濁液はオリフィスホモジナイザ部10を通過後、原料タンク30に流入する。
【0034】
オリフィスホモジナイザ部10を通過して当初の懸濁液中の水酸化ニッケルの粉末の微小化(粉砕)が進行し水酸化ニッケルの粉末、バインダ(アクリル樹脂)、導電助剤(カーボンブラック)の混合が進んだ懸濁液は、最終的にドレイン部90から混合装置100の外部に流出する。
【0035】
オリフィスホモジナイザ部10について、
図2の主要部縦断面図及び
図3の主要部横断面図を用いてその構造を説明する。
図2のA-A線における横断面が
図3(a)であり、
図2のB-B線における横断面が
図3(b)であり、
図2のC-C線における横断面が
図3(c)である。
【0036】
オリフィスホモジナイザ部10は、第1ブロック21と第2ブロック22、そして第1ブロック21と第2ブロック22の間に介装される第3ブロック23により形成される。第1ブロック21において、複数の流入側流路部11,12が形成される(
図2及び
図3(a)参照)。また、第2ブロック22においても、複数の流出側流路部18,19が形成される。
【0037】
第1ブロック21と第3ブロック23との接合面に意図的に第1空隙部14が形成される。この第1空隙部14が複数の流入側流路部11,12を単一に集合させる集合部13となる(
図2及び
図3(b)参照)。集合部13(第1空隙部14)の下流側は第3ブロック23となり、同第3ブロック23内にオリフィス流路部15が形成される(
図2及び
図3(c)参照)。
【0038】
オリフィス流路部15の下流側においても、第3ブロック23と第2ブロック22との接合面にも意図的に第2空隙部16が形成される。この第2空隙部16がオリフィス流路部15を分岐させて複数の流出側流路部18,19と接続する分岐部17となる。
【0039】
流入側流路部11,12及び流出側流路部18,19の内直径(D1)は相互に同一であり、オリフィス流路部15の内直径(D2)よりも大きく形成される。具体的には、内直径(D1)は、内直径(D2)の5ないし7倍である。また、第1空隙部14の距離(D3)は内直径(D1)と同等に規定される。従って、オリフィス流路部15は小径流路部である。
【0040】
次に、オリフィスホモジナイザ部10を用いた際の作用を説明する。水酸化ニッケルの粉末、バインダ、導電助剤(カーボンブラック)を水に分散した懸濁液は流入側流路部11,12を経由して集合部13(第1空隙部14)に侵入する。ここで、オリフィス流路部15は流入側流路部11,12よりも狭小であるため、懸濁液の流量は低下する。そして、懸濁液の圧力変化が生じ、それぞれの流入側流路部から流入した懸濁液中の水酸化ニッケルの粉末は集合部13において衝突する。このときの懸濁液中の水酸化ニッケルの粉末同士は衝突時のエネルギーにより破砕されて当初よりも粒径が減少する。このように、懸濁液が流入側流路部11,12からオリフィス流路部15へ流動するごとに、懸濁液中の水酸化ニッケルの粉末同士の衝突が進む。
【0041】
図示の流入側流路部及び流出側流路部はともに2つである。むろん、流入側流路部及び流出側流路部の形成数は1以上である。ただし、分散物中の被処理物の衝突を促すため、流入側流路部及び流入側流路部の形成数は2以上であることがさらに望ましい。図示のオリフィスホモジナイザ部10は、流入側及び流出側はともに対称形である。そこで、説明の便宜状流入側及び流出側としている。流入側と流出側が対称形であるため、オリフィスホモジナイザ部10はいずれの向きからの流入においても機能し得る。従って、分散物が流出側流路部18,19から流入してオリフィス流路部15通過し流入側流路部11,12より流出する場合もある。
【0042】
図2の混合装置100の配管構成から理解されるように、オリフィスホモジナイザ部10に流入した懸濁液は同オリフィスホモジナイザ部10を通過後、配管部84を通じて原料タンク30に流入する。そして、原料タンク30から供給される懸濁液は再度オリフィスホモジナイザ部10を通過する。このように、混合工程において、懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10の通過は繰り返される。
【0043】
懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10の通過が複数回にわたり繰り返されることにより、懸濁液中の水酸化ニッケルの粉末の粒径は粒子同士の衝突による摩耗を通じて徐々に小さくなる。そこで、所望の粒径への調整のため、混合装置100において懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10への通過回数が加減される。後述の実施例を踏まえ、充放電特性、電池容量等の良好な電池性能と水酸化ニッケルの粉末の粒径の均衡から、30回を中心とする25ないし35回の範囲である。
【0044】
懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10への通過回数が25回を下回る場合、水酸化ニッケルの粉末同士の衝突不足から粒径は大きいままであり、充放電特性、電池容量等の電池性能の向上が見込まれない。また、懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10への通過回数が35回を上回る場合、水酸化ニッケルの粉末同士の衝突が過剰となり、粒径が必要以上に小さくなる。そのため、充放電特性、電池容量等の電池性能が低下してしまう。このことから、水酸化ニッケルの粉末の粒径を前述の8ないし10μmに収斂させる都合から、懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10への通過回数の好ましい範囲は25ないし35回となる。
【0045】
懸濁液のオリフィスホモジナイザ部10への通過回数が25ないし35回となった後、
図2の混合装置100では、混合が進んだ懸濁液は、配管を通じてドレイン部90から混合装置100の外部に流出されて回収される。水分除去工程では、この懸濁液から水分が除去される。水分の除去は加熱であり、バインダの樹脂成分に変性を生じさせない温度において加熱される。こうして二次電池の正極材料が調製される。
【0046】
なお、一連の説明に用いた図示の混合装置100は、二次電池の正極材料の製造装置の一例であり、必ずしも、図示及び説明の構成、機構、操作方法等に限定されない。必要により装置等の追加、手順の変更は許容される。
【実施例】
【0047】
[材料・装置]
発明者らは、次の材料、装置を使用して二次電池の正極材料を調製した。
水酸化ニッケル(正極活物質):株式会社 田中化学研究所製
バインダ:住友精化株式会社製,アクアチャージ(アクリル系樹脂)
導電助剤:デンカ株式会社製,カーボンブラック,FX-35
電解液:富士フイルム和光純薬株式会社,水酸化カリウム(試薬特級)
集電極:リカザイ製,ニッケル箔(15μm)
混合装置:株式会社常光製,湿式ジェットミル装置,NJ-100,ユニット径:φ0.2mm,処理圧力:60MPa,冷却温度:25℃
【0048】
また、次の装置を使用して測定、試験を実施した。
充放電試験:菊水電子株式会社製,PFX2011,PFX2121,PFX2332
粒度分布形:株式会社堀場製作所製,LA-960
収束イオンビーム加工装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製,FB-2100
収差補正走査型透過電子顕微鏡,日本電子株式会社製,JEM-ARM200F
【0049】
[二次電池の正極材料の作製]
水酸化ニッケルの粉末、バインダ、導電助剤(カーボンブラック)を分取し、水を添加して攪拌して懸濁液を調製した。そして、湿式ジェットミル装置を使用して懸濁液を同湿式ジェットミル装置のオリフィスホモジナイザ部(
図2ないし
図4参照)への圧送を繰り返し複数回にわたりオリフィスホモジナイザ部を通過させた。そして、同湿式ジェットミル装置から懸濁液を取り出して水分を除去して二次電池の正極材料の試料を調製した。このとき、オリフィスホモジナイザ部の通過回数を30回とした試料を「試料2」とし、オリフィスホモジナイザ部の通過回数を100回とした試料を「試料3」とした。また、オリフィスホモジナイザ部を通過させることなく(通過0回)水分を除去した試料を「試料1」とした。
【0050】
[二次電池の正極材料の試料の物性測定]
前出の測定装置により、各試料1,2,3の水酸化ニッケル(正極活物質)の平均粒径(μm)を測定した。平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。また、水酸化ニッケルの粒子表面に被着したバインダの平均の層厚(μm)も測定した。そして、水酸化ニッケルの粒子直径とバインダの層厚との割合(水酸化ニッケルの粒子直径/バインダの層厚)を算出した。さらに、公知の水酸化ニッケルの二次電池の正極材料(参考試料)を入手して各試料と同様の測定に供した。結果は表1である。
【0051】
調製後の各試料1,2,3及び参考試料について、断面部分を前出の装置により撮像し、電子顕微鏡写真を得た。
図5は試料1(通過回数0回)の写真であり、
図6は試料2(通過回数30回)の写真であり、
図7は試料3(通過回数100回)の写真である。また、
図8は参考試料の写真である。それぞれ、7000倍(左図)、35000倍(右図)の拡大写真である。この時点で各試料の水酸化ニッケルの粉末、バインダ、及び導電助剤(カーボンブラック)が混練されているため、固着体となる。
【0052】
【0053】
[物性測定の考察]
表1の測定結果から、オリフィスホモジナイザ部の通過回数の増加に伴って水酸化ニッケルの粒子径は減少した。これは、湿式ジェットミル装置内のオリフィスホモジナイザ部の通過時の粒子の相互の衝突に起因して粒子表面が摩耗して粒径の減少に至ったと考えることができる。各試料のバインダ層厚については、オリフィスホモジナイザ部の通過の有無による変化は認められた。しかしながら、通過回数による影響は認められなかった。おそらく、試料3のとおり水酸化ニッケルの粒子径が小さく、しかも形状がいびつになり、粒子同士の間をバインダが埋めるように作用したと考えることができる(
図7参照)。参考試料については、粒径が試料2に近似するものの、明らかにバインダ層厚は少ない。
【0054】
撮影した電子顕微鏡写真より、試料1,2,3及び参考試料のそれぞれ固着体について、単位断面における水酸化ニッケルの粒子の部分の面積と、それ以外の部分の面積を求めた。そして、水酸化ニッケルの粒子の部分の面積と、それ以外の部分の面積との面積比を算出した。これとともに、試料1,2,3の水酸化ニッケル粒子のアスペクト比も算出した。面積及びアスペクト比の算出に際しては電子顕微鏡写真を取得後、画像解析のソフトウェアを用いた。
【0055】
[電池セルの組み立て]
発明者らは、試料1,2,3及び参考試料の計4種類の二次電池の正極材料について、電池としての性能を試験し評価した。試料1,2,3及び参考試料の計4種類の二次電池の正極材料をニッケル箔にドクターブレードを用いて塗工した。次に、負極には水素吸蔵合金、前出のカーボンブラック、及び前出のバインダの混練物を用いニッケル箔にドクターブレードを用いて塗工した。そして、塗工後の正極のニッケル箔及び負極のニッケル箔をともに直径16mmに切り出した。表面を親水化したポリプロピレンのフィルムをセパレータとして用い、同セパレータの片面に正極のニッケル、反対側の面に負極のニッケルを設置して相互に対向させた。これを水酸化カリウムの電解液(濃度6N)に浸して電池セルとして組み立てた。
【0056】
[充放電の測定]
前出の充放電試験用の装置を用い、充放電試験を行った。試験環境温度は20℃、電流は2.6mAh、充放電サイクルは200サイクルとした。結果、
図9の放電曲線のグラフとなった。グラフの横軸は容量(mAh)、縦軸は放電電圧(V)である。
【0057】
図9の結果より、参考試料と比較して、試料1,2,3の容量は増加した。その中においても、試料2の増加は著しい。試料1,2,3の相違はオリフィスホモジナイザ部の通過回数に伴う水酸化ニッケル粒子の粒径の相違である。この結果から、試料2の水酸化ニッケル粒子の平均粒径が最良であることが判明した。
【0058】
[電池容量と電圧降下率の測定]
前出の充放電試験用の装置を用い、電池容量(mAh)と電圧降下率(V/mAh)を測定した。試験条件として、温度20℃、電流2.6mA、サイクル数200サイクルとした。結果は表2である。
【0059】
【0060】
[電池性能の考察]
電池容量については、試料1及び試料2が良好であった。電圧降下率については、試料2が良好であった。この結果からも試料2の条件に伴う水酸化ニッケル粒子の平均粒径が好例であることが判明した。また、試料2と参考試料の水酸化ニッケル粒子の平均粒径は近似しているものの、双方はバインダの層厚が異なる。特に、試料2においてはバインダ中に導電助剤(カーボンブラック)が添加されているため、バインダ部分により水酸化ニッケルの粒子同士が離れているとしても、相互の導電性の低下は導電助剤の影響から抑制される。
【0061】
一連の測定から最良の試料2の結果を踏まえると、単位断面における水酸化ニッケルの合計面積の好ましい割合は91/100ないし92/100の範囲である。試料2の当該範囲を逸脱した試料1,3についての電池性能は低下した。また、アスペクト比の好ましい範囲は0.9ないし1.0である。特に、試料3のとおり、オリフィスホモジナイザ部の通過回数が多くなるに従い水酸化ニッケル粒子の崩壊が進み球状が維持できなくなる。そこで、試料2の平均粒径を中心に水酸化ニッケルの好ましい平均粒径の範囲は8ないし10μmである。今回の作製において、カーボンブラックは平均粒径0.02ないし0.05μmを使用した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の二次電池の正極材料は、従前品と比較して優れた電池性能を発揮する。従って、水酸化ニッケルを原料とする新たな二次電池の正極材料として有望である。
【符号の説明】
【0063】
1 二次電池の正極材料
2 固着体
3 水酸化ニッケル
4 バインダ
5 導電助剤
10 オリフィスホモジナイザ部
11,12 流入側流路部
13 集合部
14 第1空隙部
15 オリフィス流路部
16 第2空隙部
17 分岐部
18,19 流出側流路部
21 第1ブロック
22 第2ブロック
23 第3ブロック
30 原料タンク
35 中間タンク
40 分岐ブロック
50 ポンプ部
51 ピストン
52 ハウジング
60 水タンク
61 圧送ポンプ
70 逆止弁
71,72,73,74 切替弁
81,82,83,84,85 配管部
90 ドレイン部
100 混合装置