(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】流体封入組立体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 3/02 20060101AFI20240301BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20240301BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
F16J3/02 B
F16K31/68 S
F16J15/52 Z
(21)【出願番号】P 2020092812
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】今井 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】茂木 隆
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-071006(JP,A)
【文献】特開昭58-016746(JP,A)
【文献】特開2000-301986(JP,A)
【文献】特開2013-060944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 3/02
F25B 41/335
F16K 31/68
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板により形成した皿状部材と、
金属板により形成され前記皿状部材と接合されることにより前記皿状部材との間に内部空間を形成可能な蓋状部材と、
前記皿状部材と前記蓋状部材との間に配置されるダイアフラムと
を備え、
前記皿状部材および前記蓋状部材は共に、
前記内部空間を形成する部材本体部と、
前記接合を可能とするため前記部材本体部の周縁から外方へ張り出すフランジ部と
を有し、
前記ダイアフラムは、その周縁部が前記皿状部材のフランジ部と前記蓋状部材のフランジ部により挟持されるように前記皿状部材と前記蓋状部材とに接合され、
前記蓋状部材の部材本体部と前記ダイアフラムとの間に、流体を封入する流体封入空間が形成された
流体封入組立体であって、
前記蓋状部材は、前記流体封入空間へ前記流体を充填する流体注入口を有しておらず、
前記流体封入空間に前記流体が充填されており、
前記ダイアフラムを前記皿状部材と前記蓋状部材との間に支持し且つ前記流体封入空間を密封できるように、前記皿状部材のフランジ部と、前記ダイアフラムの周縁部と、前記蓋状部材のフランジ部と
が重ね合わ
されてロール状に巻締め
られることにより接合
されている
ことを特徴とする流体封入組立体。
【請求項2】
前記蓋状部材のフランジ部と前記ダイアフラムとの間に、シール材が介在されている
請求項
1に記載の流体封入組立体。
【請求項3】
前記流体封入組立体は、膨張弁を作動させるダイアフラム装置であり、
前記流体封入空間に封入される
前記流体は、前記膨張弁を作動させる作動ガスであり、
前記皿状部材は、前記ダイアフラムの下面側の前記内部空間を、エバポレータから排出された冷媒を通過させる前記膨張弁の戻り流路に連通させる連通口を有する
請求項1
または2に記載の流体封入組立体。
【請求項4】
冷媒を導入する流入路と冷媒を排出する流出路とに連通する弁室を有する弁本体と、
弁座に着座した閉弁状態と前記弁座から離間した開弁状態との間で前記弁座に対して進退動することにより前記冷媒の流量を変更する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する付勢部材と、
前記弁本体の内部に垂直方向に延びるように配置され、前記弁体に下端部が接触して前記付勢部材による付勢力に抗し前記弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、
前記弁本体の上面部に備えられ、前記作動棒の上端部が接続されて前記作動棒を駆動する駆動部と、
前記弁本体の上部を水平方向に貫通して冷媒の通過を許容するとともに前記駆動部の下面部に連通する戻り流路と
を備えた膨張弁であって、
前記駆動部として前記請求項
3に記載の流体封入組立体を備えた
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項5】
金属板により形成した皿状部材と、
金属板により形成され前記皿状部材と接合されることにより前記皿状部材との間に内部空間を形成可能な蓋状部材と、
周縁部を重ね合わせた2枚のダイアフラムの間に形成された流体封入空間に流体が充填され、前記内部空間内に配置されたダイアフラムダンパーと
を備え、
前記皿状部材および前記蓋状部材は共に、
前記内部空間を形成する部材本体部と、
前記接合を可能とするため前記部材本体部の周縁から外方へ張り出すフランジ部と
を有し、
前記2枚のダイアフラムの周縁部が、前記皿状部材のフランジ部と前記蓋状部材のフランジ部によって挟持されるように前記皿状部材と前記蓋状部材に接合された
流体封入組立体であって、
前記ダイアフラムダンパーを前記内部空間内に支持し且つ前記流体封入空間を密封できるように、前記皿状部材のフランジ部と、前記2枚のダイアフラムの周縁部と、前記蓋状部材のフランジ部と
が重ね合わ
されてロール状に巻締め
られることにより接合
されており、
前記2枚のダイアフラムの周縁部の間に、シール材が介在されている
ことを特徴とする流体封入組立体。
【請求項6】
金属板により形成した皿状部材と、
金属板により形成され前記皿状部材と接合されることにより前記皿状部材との間に内部空間を形成可能な蓋状部材と、
前記皿状部材と前記蓋状部材との間に配置されるダイアフラムと
を備え、
前記皿状部材および前記蓋状部材は共に、
前記内部空間を形成する部材本体部と、
前記接合を可能とするため前記部材本体部の周縁から外方へ張り出すフランジ部と
を有し、
前記ダイアフラムは、その周縁部が前記皿状部材のフランジ部と前記蓋状部材のフランジ部により挟持されるように前記皿状部材と前記蓋状部材とに接合され、
前記蓋状部材の部材本体部と前記ダイアフラムとの間に、流体を封入する流体封入空間が形成され、
前記蓋状部材は、前記流体封入空間へ前記流体を充填する流体注入口を有しておらず、
前記流体封入空間に前記流体が充填された
流体封入組立体
を製造する方法であって、
前記皿状部材と、前記蓋状部材と、前記ダイアフラムとを用意する工程と、
前記ダイアフラムを前記皿状部材と前記蓋状部材との間に支持し且つ前記流体封入空間を密封できるように、前記皿状部材のフランジ部と、前記ダイアフラムの周縁部と、前記蓋状部材のフランジ部とを重ね合わせてロール状に巻締めることにより接合する接合工程と
を含み、
前記接合工程を前記流体中で行う
ことを特徴とする流体封入組立体の製造方法。
【請求項7】
前記流体はガスであり、
前記接合工程を前記ガス雰囲気中で行う
請求項6に記載の流体封入組立体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体封入組立体に係り、特に、膨張弁を駆動するダイアフラム装置や、燃料ポンプの脈動を吸収するパルセーションダンパーなどの流体封入部を備えた装置における部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンのような冷凍サイクル装置では、エバポレータ(蒸発器)の能力を十分に引き出すために膨張弁が備えられる。この膨張弁は、エバポレータの出口側配管の冷媒温度に感応してエバポレータに供給される冷媒の流れを絞り、最適流量に制御するもので、冷媒の流量を調整する弁体を作動させるためにダイアフラム装置が備えられている。
【0003】
かかるダイアフラム装置は、
図5(膨張弁全体については
図2参照)に示すように中央部に開口15を有し弁本体32の上面に固定される皿状部材12と、皿状部材12の上面を覆う蓋状部材13と、皿状部材12と蓋状部材13との間に挟持されるダイアフラム14とを備え、ダイアフラム14を挟んで装置81の上側の内部空間は、作動ガスを封入した作動ガス封入室21とされている。また、ダイアフラム14の下面には、作動棒受け部材23を介して作動棒36の上端が接続され、作動棒36の下端は弁体35に当接している。
【0004】
一方、ダイアフラム14を挟んで装置81の下側の内部空間は、上述した皿状部材12の中央部の開口15を通じ戻り流路43と連通した冷媒導入室22となっている。戻り流路43は、エバポレータ54から排出される冷媒を通過させる流路で、戻り流路43から冷媒導入室22に流入する冷媒の温度と圧力に従って作動ガス封入室21内の作動ガスの圧力および体積が変化する。
【0005】
そして、作動ガス封入室21内の作動ガスの圧力が減少すると、冷媒導入室22の圧力との差に応じてダイアフラム14が上方へ引き上げられ、作動棒36がダイアフラム14に従動して上方に移動することによって弁体35が弁座34に向け進行し冷媒流量が絞られる。逆に、作動ガスの圧力が上昇すると、冷媒導入室22の圧力との差に応じてダイアフラム14が下方へ押し下げられ、作動棒36がダイアフラム14に従動して下方に移動することによって弁体35が弁座34から後退し冷媒流量が増加する。このようにして膨張弁31では、エバポレータ54から膨張弁31に戻る冷媒の温度と圧力に対応して、膨張弁31からエバポレータ54に供給される冷媒の量が調整される。
【0006】
ダイアフラム装置81の作製にあたっては、ダイアフラム14を挟持するように皿状部材12の周縁部(フランジ部)12bと蓋状部材13の周縁部(フランジ部)13bとを重ね合わせ、これらを溶接(例えば、TIG溶接)して接合することにより、作動ガス封入室21から作動ガスが、また冷媒導入室22から冷媒が外部に漏れ出ることがないように封止する。なお、作動ガス封入室21へのガスの封入は、蓋状部材13の上面に設けた開口16を通じて行い、当該開口16をプラグ17で閉塞する。
【0007】
また、このようなダイアフラム装置を備えた膨張弁を開示するものとして下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、かかるダイアフラム装置において皿状部材12、ダイアフラム14、および蓋状部材13をこの順で積層して接合するためにフランジ部12b,13bに溶接を行う。ここで、皿状部材12と蓋状部材13に挟まれたダイアフラム14は、溶接時の熱的影響を受けることによりフランジ部12b,13bに挟まれた部分(即ち、ダイアフラムの外周部分)においての硬度が低下する。この硬度低下が生じる部分を避けて可動部分の支点位置を設定するために、フランジ部12b,13bの幅寸法に余裕を持たせる必要がある。このため、従来の接合構造では、ダイアフラム装置81の外径Dが大きくならざるを得ず、膨張弁の小型化の要請に応える観点から改良の余地を残している。
【0010】
一方、熱的影響を考慮した上記余裕分を設ける必要がなくなれば、その分、ダイアフラムの有効径(フランジ部に挟持される部分を除いた、作動ガスの相変化により上下動する可動部分の径)Deを拡大することも可能となる。
【0011】
さらに、燃料ポンプの脈動を吸収するパルセーションダンパーも上記ダイアフラム装置と共通する構造を有しており、同様の課題がある。
【0012】
すなわちパルセーションダンパーも、金属板からなる皿状部材と蓋状部材の間にダイアフラム(2枚のダイアフラムを袋状にして内部に流体を封入したダンパー)を挟持しつつ皿状部材と蓋状部材を接合する点で共通し、同様にフランジ部を溶接接合していた従来の構造では、溶接時の熱的影響を考慮した余裕分だけ外径が大きくならざるを得ない。
【0013】
したがって、本発明の目的は、流体封入部を備えた流体封入組立体において部材接合時の熱的影響を考慮した余裕分を設ける必要性を排除する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る流体封入組立体は、金属板により形成した皿状部材と、金属板により形成され皿状部材と接合されることにより皿状部材との間に内部空間を形成可能な蓋状部材と、皿状部材と蓋状部材との間に配置されるダイアフラムとを備え、皿状部材および蓋状部材は共に、前記内部空間を形成する部材本体部と、前記接合を可能とするため部材本体部の周縁から外方へ張り出すフランジ部とを有し、ダイアフラムは、その周縁部が皿状部材のフランジ部と蓋状部材のフランジ部により挟持されるように皿状部材と蓋状部材とに接合され、蓋状部材の部材本体部とダイアフラムとの間に、流体を封入する流体封入空間が形成された流体封入組立体であって、蓋状部材は流体封入空間へ流体を充填する流体注入口を有しておらず、流体封入空間に流体が充填されており、ダイアフラムを皿状部材と蓋状部材との間に支持し且つ流体封入空間を密封できるように、皿状部材のフランジ部と、ダイアフラムの周縁部と、蓋状部材のフランジ部とが重ね合わされてロール状に巻締められることにより接合されている。
【0015】
本発明の流体封入組立体では、従来の構造と同様に皿状部材と蓋状部材との間にダイアフラムを挟持するように皿状部材と蓋状部材とを接合するが、接合にあたって溶接は行わずに巻締めにより、すなわち、皿状部材のフランジ部と蓋状部材のフランジ部との間にダイアフラムの周縁部を挟持しつつこれら各部(皿状部材のフランジ部とダイアフラムの周縁部と蓋状部材のフランジ部)をロール状に巻いて各部材を圧接することにより接合を行う。なお、密封性を高めるために、蓋状部材のフランジ部とダイアフラムとの間にシール材を介在させても良い。
【0016】
本発明によれば、接合部(皿状部材と蓋状部材の各フランジ部)が熱的な影響を受けることがなく、従来のように熱的影響を考慮した寸法的な余裕分をフランジ部に設けておく必要がなくなるから、従来に比べダイアフラム装置の外径を小さくすることが出来る。また、巻締められた部分はロール状に丸められるから、水平に広がるフランジ部同士を単に重ね合わせて接合するような構造と比べて周縁部が丸められる分、外径を小さくできる面もある。
【0017】
また、異なる観点から本発明の利点を述べれば、熱的影響部を考慮する必要がない分、ダイアフラムの有効径(前記内部空間内に配置され作動ガスの相変化により上下動する部分の径)を大きくすることが可能となる。
【0018】
本発明において蓋状部材は、前記流体封入空間への流体の充填する流体注入口を有していない。
【0019】
また、本発明において流体封入空間には流体が充填されている。すなわち、上述した巻締めによる接合処理を、流体封入空間に充填する流体中で行う。これにより、流体の封入処理を別に行わなくても流体封入空間(皿状部材とダイアフラムとの間)に流体を充填することが可能となる。なお、本発明に言う「流体」は、気体および液体のいずれであっても良い。
【0020】
このように本発明では、部材の組立(接合)と、流体封入空間ヘの流体の封入とを1工程で行うから、製造工程数を削減することが出来る。特に、装置内に充填する流体として引火性の或いは熱的な影響を受けやすい流体を使用する場合であっても、本発明は溶接のような火気使用や高温作業を伴うことがないから、部材の接合作業と流体の封入作業を同時に行うことが出来る。また、流体注入口を備えていないから、流体充填後に流体注入口を塞ぐ作業(例えば流体注入口を塞ぐプラグを装着して溶接する作業)も省くことができ、装置の製造効率を向上させることが出来る。また、本発明に係る流体封入組立体の製造方法は、このような製造工程に関するもので、皿状部材と蓋状部材とダイアフラムを用意する工程と、ダイアフラムを皿状部材と蓋状部材との間に支持し且つ流体封入空間を密封できるように皿状部材のフランジ部とダイアフラムの周縁部と蓋状部材のフランジ部とを重ね合わせてロール状に巻締めることにより接合する接合工程とを含み、前記接合工程を流体封入空間に充填する流体中(例えば流体封入空間に充填するガス雰囲気中)で行う。
【0021】
本発明に係る流体封入組立体は、典型的な一態様では、膨張弁を作動させるダイアフラム装置である。そして、当該ダイアフラム装置では、前記流体封入空間に封入される流体が、膨張弁を作動させる作動ガスであり、皿状部材が、ダイアフラムの下面側の前記内部空間を、エバポレータから排出された冷媒を通過させる膨張弁の戻り流路に連通させる連通口を有する。
【0022】
さらに本発明に係る膨張弁は、冷媒を導入する流入路と冷媒を排出する流出路とに連通する弁室を有する弁本体と、弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより冷媒の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁本体の内部に垂直方向に延びるように配置され、弁体に下端部が接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、弁本体の上面部に備えられ、作動棒の上端部が接続されて作動棒を駆動する駆動部と、弁本体の上部を水平方向に貫通して冷媒の通過を許容するとともに駆動部の下面部に連通する戻り流路とを備えた膨張弁で、上記駆動部として前記典型的な一態様に係る流体封入組立体(ダイアフラム装置)を備える。
【0023】
一方、本発明の別の典型的な一態様では、前記流体封入組立体がパルセーションダンパーである。このパルセーションバンパーは、金属板により形成した皿状部材と、金属板により形成され皿状部材と接合されることにより皿状部材との間に内部空間を形成可能な蓋状部材と、周縁部を重ね合わせた2枚のダイアフラムの間に形成された流体封入空間に流体が充填され、前記内部空間内に配置されたダイアフラムダンパーとを備える。
【0024】
そして、皿状部材および蓋状部材は共に、前記内部空間を形成する部材本体部と、前記接合を可能とするため部材本体部の周縁から外方へ張り出すフランジ部とを有し、前記2枚のダイアフラムの周縁部が、皿状部材のフランジ部と蓋状部材のフランジ部によって挟持されるように皿状部材と蓋状部材に接合され、ダイアフラムダンパーを前記内部空間内に支持し且つ前記流体封入空間を密封できるように、皿状部材のフランジ部と、前記2枚のダイアフラムの周縁部と、蓋状部材のフランジ部とが重ね合わされてロール状に巻締められることにより接合されている。また、密封性を高めるため、上記2枚のダイアフラムの周縁部の間にシール材を介在させてある。
【0025】
本発明によれば、このようなパルセーションダンパーについても、部材接合時の熱的影響を考慮する必要がなくなるから、装置外径の小型化を図ることが出来る。また、装置の外径が同じか小さいにもかかわらず、従来と比較してダイアフラムダンパーの有効径(ダンパーとして機能する部分の径)が大きなパルセーションダンパーを構成することも可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る流体封入組立体によれば、流体封入部を備えた流体封入組立体において部材接合時の熱的影響を考慮した余裕分を設ける必要性を排除することができ、装置外径を小さくし、あるいはダイアフラムの有効径を大きくすることが可能となる。
【0027】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基いて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る流体封入組立体(ダイアフラム装置)を示す垂直断面図である。
【
図2】
図2は、前記第1実施形態に係る流体封入組立体(ダイアフラム装置)を備えた膨張弁を示す垂直断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る流体封入組立体(ダイアフラム装置)を示す垂直断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る流体封入組立体(パルセーションダンパー)を示す垂直断面図である。
【
図5】
図5は、膨張弁に備えられる従来の流体封入組立体(ダイアフラム装置)を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
図1から
図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る流体封入組立体11は、膨張弁31に備えるダイアフラム装置であり、中央部に開口(後述する冷媒導入口)15を有し弁本体32の上面に固定される皿状部材12と、皿状部材12の上面を覆う蓋状部材13と、皿状部材12と蓋状部材13との間に配置したダイアフラム14とを有する。なお、
図2に上下左右の各方向を表す二次元直交座標を示してあるが、以下、これらの方向に基いて説明を行う。
【0030】
皿状部材12と蓋状部材13は共に、金属板により形成され、ダイアフラム14との間に空間(後述する作動ガス封入室21または冷媒導入室22)を形成する部材本体部12a,13aと、部材本体部12a,13aの周縁から外方へ広がるフランジ部12b,13bとを有する。そして、両部材12,13のフランジ部12b,13bの間にダイアフラム14の周縁部を挟持させつつ両部材12,13のフランジ部12b,13bを重ね合わせ、これらフランジ部12b,13bを装置11の全周に亘ってダイアフラム14の周縁部とともにロール状に巻締める(ロール状に巻いて互いに密着させる)ことにより接合する。
【0031】
なお、当該巻締めによる接合部10の密封性を高めるため、蓋状部材13のフランジ部13bとダイアフラム14の周縁部との間、ならびに、皿状部材12のフランジ部12bとダイアフラム14の周縁部との間に、粉状またはシート状のシール材(図示せず)を介在させても良い。
【0032】
このように各部材12,13,14を接合することにより、蓋状部材13とダイアフラム14との間には作動ガスを封入可能な作動ガス封入室(流体封入空間)21を、また、ダイアフラム14と皿状部材12との間には冷媒を導入可能な冷媒導入室22をそれぞれ形成することが出来る。
【0033】
なお、蓋状部材13の上面には、作動ガス封入室21へのガスの注入を可能とする作動ガス注入口(流体注入口)16と、ガス注入後に当該注入口16を塞ぐプラグ17とを備える。また、皿状部材12の下面には、膨張弁31の戻り流路43に連通させて冷媒導入室22への冷媒の導入を可能とする冷媒導入口15を形成する。
【0034】
本実施形態では各部材12~14の接合を巻締めにより行うから、装置11の外径D1を従来装置81の外径D(前記
図5参照)に比べて小さくすることができ、膨張弁31を小型化することが可能となる。また逆に、従来装置81の外径Dに近い装置外径Dとするなら、ダイアフラム14の有効径De1を従来装置81の有効径Deより大きくすることが可能となる。
【0035】
本実施形態のダイアフラム装置11によって駆動される膨張弁31の動作については、従来と同様であり、背景技術の欄で既に説明したので詳細は省略するが、
図2を参照して簡単に述べれば、エバポレータ54から排出された冷媒を通過させてコンプレッサ(圧縮機)52へ送出する戻り流路43を通じて冷媒導入室22に導入される冷媒の温度と圧力に従って作動ガス封入室21の作動ガスの圧力および体積が変化し、ダイアフラム14が上下動することにより、作動棒受け部材23を介してダイアフラム14に接続された作動棒36が弁体35を上下動させる。
【0036】
これにより、流入路41を通じてコンデンサ(凝縮器)53から弁室33内に流入し、弁体35と弁座34との間を通って流出路42からエバポレータ54へ供給される冷媒の流量が調整される。なお、弁体35は、弁室33内に備えたコイルばね37により弁体支持部材38を介して上方へ付勢されており、作動棒36はこの付勢力に抗して弁体35を下方へ移動させる。また作動棒36が上方へ移動すると、コイルばね37の付勢力により弁体35が上方へ移動する。なお、
図2に記載の膨張弁31において、作動棒36が挿通される挿通孔にはOリングが付設されており、流出路42近傍と戻り流路43近傍の間の気密性を確保している。さらに当該部位にリング状防振ばねを付設し、作動棒36が弁体35から受ける振動を摺動抵抗により抑制するようにしても良い。
【0037】
〔第2実施形態〕
図3は本発明の第2の実施形態に係るダイアフラム装置61を示すものである。この実施形態は、作動ガス封入室21へのガスの注入をフランジ部12b,13bの接合と同時に行うもので、第1実施形態と同様にフランジ部12b,13bの巻締めを行うが、これを作動ガスの雰囲気中で行うことにより、巻締めと同時に作動ガス封入室21にガスを充填することを可能とした。
【0038】
したがって本実施形態では、第1実施形態で蓋状部材13の上面に備えた作動ガス注入口16とプラグ17は不要で、当該注入口16にプラグ17を装着して溶接する作業も不要となり、ダイアフラム装置の製造工程数を削減することが可能となる。
【0039】
〔第3実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る流体封入組立体は、燃料ポンプに備えられるパルセーションダンパーである。
図4に示すようにこのパルセーションダンパー71は、内部にガスを充填しつつ2枚の金属薄板(ダイアフラム)74c,74dの周縁部(フランジ部)同士を溶接して袋状にしたダンパー本体74と、ダンパー本体74を収容するため皿状部材72と蓋状部材73とからなる円盤状のケース体75とを備えている。
【0040】
なお、皿状部材72と蓋状部材73は共に、金属板により形成され、ダンパー本体74を収容する内部空間を形成する部材本体部72a,73aと、部材本体部72a,73aの周縁から外方へ広がるフランジ部72b,73bとを有する。またケース体75は、ケース体75の内部空間に対する燃料の出入りを可能とすることによりダンパー本体74による脈動低減効果を発揮させるための開口76や加圧室との連通口77を有する。
【0041】
ケース体75とダンパー本体74とを接合し、ケース体75の中にダンパー本体74を配置するには、前記第1および第2実施形態と同様に、皿状部材72と蓋状部材73のフランジ部72b,73b同士をダンパー本体74のフランジ部を挟みつつ重ね合わせ、これらのフランジ部72b,73bを全周に亘って巻締めることにより行う。
【0042】
このようなパルセーションダンパー71についても、フランジ部72b,73bの接合(皿状部材72と蓋状部材73とダンパー本体74との接合)を溶接ではなく巻締めにより行うことで、装置全体の外径を小さくすることができ、燃料ポンプの小型化の要請に応えることが可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0044】
例えば、前記実施形態では、膨張弁に備えられるダイアフラム装置と、燃料ポンプの脈動を吸収するパルセーションダンパーを対象としたが、これら以外にも同様の構造を有する装置について本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 接合部
11,61,81 流体封入組立体(ダイアフラム装置)
12,72 皿状部材
12a,13a,72a,73a 部材本体部
12b,13b,72b,73b フランジ部
13,73 蓋状部材
14,74c,74d ダイアフラム
15 冷媒導入口
16 作動ガス注入口
17 プラグ
21 作動ガス封入室
22 冷媒導入室
23 作動棒受け部材
31 膨張弁
32 弁本体
33 弁室
34 弁座
35 弁体
36 作動棒
37 コイルばね(付勢部材)
38 弁体支持部材
41 流入路
42 流出路
43 戻り流路
52 コンプレッサ(圧縮機)
53 コンデンサ(凝縮器)
54 エバポレータ(蒸発器)
71 流体封入組立体(パルセーションダンパー)
74 ダンパー本体
75 ケース体
76 開口
77 連通口