(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】チューブ及びそれを用いたポンプ
(51)【国際特許分類】
B32B 1/08 20060101AFI20240301BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20240301BHJP
F16L 11/12 20060101ALI20240301BHJP
F04C 5/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B32B1/08 B
B32B5/24 101
F16L11/12 Z
F04C5/00 341A
(21)【出願番号】P 2021572804
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2021002116
(87)【国際公開番号】W WO2021149783
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020007861
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】野内 弘一
(72)【発明者】
【氏名】林 志彦
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-502735(JP,A)
【文献】特表2002-516625(JP,A)
【文献】特表2011-506142(JP,A)
【文献】特表2017-512947(JP,A)
【文献】特開2018-015751(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094807(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/050366(WO,A1)
【文献】実開平06-036832(JP,U)
【文献】国際公開第2021/149782(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/100696(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 9/00-11/26
F04C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、
前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、
前記本体部は、前記流路上に形成された第1層と前記第1層上に形成された第2層とを含み、
前記第1層は、ポリテトラフルオロエチレンで構成された第1基材部と、ペルフルオロポリエーテルエラストマーで構成された第1樹脂層とを含み、
前記第2層は、ポリテトラフルオロエチレンで構成された第2基材部と、熱硬化性シリコーンエラストマーで構成された第2樹脂層とを含み、
前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、かつ、第1層の弾性率比R1を前記第1層の周方向の引張弾性率/前記第1層の径方向の曲げ弾性率とし、
第2層の弾性率比R2を前記第2層の周方向の引張弾性率/前記第2層の径方向の曲げ
弾性率としたとき、前記第2層の弾性率比R2は、前記第1層の弾性率比R1よりも大きいことを特徴とする
チューブ。
【請求項2】
蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、
前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、
前記本体部は、前記流路上に形成された第1層と前記第1層上に形成された第2層とを含み、
前記第1層は、ポリテトラフルオロエチレンで構成された第1基材部と、ペルフルオロポリエーテルエラストマーで構成された第1樹脂層とを含み、
前記第2層は、ポリテトラフルオロエチレンで構成された第2基材部と、熱硬化性シリコーンエラストマーで構成された第2樹脂層とを含み、
前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、かつ、前記第2層の周方向の引張弾性率は、前記第2層の径方向の曲げ弾性率及び/又は前記第2層の径方向の引張弾性率よりも大きいことを特徴とするチューブ。
【請求項3】
前記第1層は、複数の微孔を有する第1多孔質基材と前記第1多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した第1樹脂とを含み、
前記第2層は、複数の微孔を有する第2多孔質基材と前記第2多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した第2樹脂とを含むことを特徴とする請求項1又は
2に記載のチューブ。
【請求項4】
前記第1層は、複数の第1多孔質基材と当該複数の第1多孔質基材の間に形成された第1樹脂層からなる積層構造を含み、
前記第2層は、複数の第2多孔質基材と当該複数の第2多孔質基材の間に形成された第2樹脂層からなる積層構造を含むことを特徴とする請求項
3に記載のチューブ。
【請求項5】
前記第2層の前記複数の第2多孔質基材は、前記第1の方向に垂直な断面において、チューブの周方向に延在していることを特徴とする請求項
4に記載のチューブ。
【請求項6】
蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、
前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、
前記本体部は、前記流路上に形成され複数の微孔を有する
ポリテトラフルオロエチレンで構成された第1多孔質基材と前記第1多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した
ペルフルオロポリエーテルエラストマーで構成された第1樹脂とを含む第1層と、前記第1層上に形成され複数の微孔を有する
ポリテトラフルオロエチレンで構成された第2多孔質基材と前記第2多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した
熱硬化性シリコーンエラストマーで構成された第2樹脂とを含む第2層とを含み、
前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、前記第2多孔質基材は、前記第1の方向に垂直な断面において、チューブの周方向に延在していることを特徴とするチューブ。
【請求項7】
前記第2多孔質基材と前記第2樹脂とからなる領域は、前記第1多孔質基材と前記第1樹脂とからなる領域より径方向に大きいことを特徴とする請求項6に記載のチューブ。
【請求項8】
前記第2多孔質基材と前記第2樹脂とからなる領域の平均基材間距離は、前記第1多孔質基材と前記第1樹脂とからなる領域の平均基材間距離よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載のチューブ。
【請求項9】
請求項1、
2、または
6に記載のいずれかのチューブと、前記チューブをつぶすことにより前記チューブの内部空間を閉塞可能なヘッド部とケース部とを備えた蠕動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体輸送に利用するチューブ及びポンプに関する。特に、蠕動ポンプのような蠕動装置に使用されるチューブのようにチューブの変形によりチューブ内の流体の流通を制御するのに有用なチューブ、及びそのようなチューブを備えたポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工業プラントや半導体製造装置に限らず製薬・飲食品工場でも益々耐久性に優れたチューブが求められている。従来のチューブは静置で使われのものがほとんどであったが、製造スペースを抑えて単位敷地内の生産性を上げるために製造装置が複雑に移動して、その結果としてチューブ自体がさまざまに変形して使用されるケースが増えている。このような場合は、チューブには屈曲、摺動、または捻回による繰り返し応力に対する機械的な耐性が要求される。
【0003】
また、別の態様として蠕動ポンプのような蠕動装置を例示できる。チューブは蠕動装置内のローラで径方向に押圧され変形された後、ローラの移動により変形位置が移動することにより、流体(例えば液体)を移送する。この蠕動ポンプは、他のポンプに比べて流路の構造を簡素化でき、流体を汚染する虞が少ない。そのため、食品や医療機器などの分野で利用されることが多く、近年では半導体を製造する際のフォトレジストの送液にも使用されている。
【0004】
従来、この種の蠕動ポンプに用いられるチューブとして、先行技術文献1(WO2017/094807)に記載されたチューブが知られている。このチューブは、フッ素系エラストマーが含浸された多孔質フッ素樹脂からなる内層と、この内層に積層されたフッ素系エラストマーからなる中間層と、この中間層に積層された外層とで構成されている。
また、蠕動ポンプに用いられるチューブとしては、先行技術文献2(特許第4327352号)に記載されたチューブも知られている。このチューブは、シート状の延伸膨張ポリテトラフルオロエチレンに対し、1つまたは連続する2つのグラビアロールを用いて、1または2種の液体シリコーンを含浸し、ロールすることで構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなチューブは、大きな外力及び形状変化を伴う使用環境下においても、一般的な構成のチューブに比べ、極めて高い耐久性を発揮するものではあるが、より長い使用時間の実現には改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、以下の構成を有するチューブ等が提供される。
第1のチューブは、蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、前記本体部は、前記流路上に形成された第1層と、前記第1層上に形成された第2層とを含み、前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、かつ、第1層の弾性率比R1を前記第1層の周方向の引張弾性率/前記第1層の径方向の曲げ弾性率とし、第2層の弾性率比R2を前記第2層の周方向の引張弾性率/前記第2層の径方向の曲げ弾性率としたとき、前記第2層の弾性率比R2は、前記第1層の弾性率比R1よりも大きいことを特徴とするものである。
【0007】
第2のチューブは、蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、前記本体部は、前記流路上に形成された第1層と、前記第1層上に形成された第2層とを含み、前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、かつ、前記第2層の周方向の引張弾性率は、前記第2層の径方向の曲げ弾性率及び/又は前記第2層の径方向の圧縮弾性率よりも大きいことを特徴とするものである。
【0008】
第3のチューブは、蠕動により流体を輸送するポンプに用いられるチューブであって、前記チューブは、前記流体の輸送経路となり第1の方向に延在する流路と前記流路の周囲に形成された本体部とを備え、前記本体部は、前記流路上に形成され複数の微孔を有する第1多孔質基材と前記第1多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した第1樹脂とを含む第1層と、前記第1層上に形成され複数の微孔を有する第2多孔質基材と前記第2多孔質基材の前記複数の微孔内に侵入した第2樹脂とを含む第2層とを含み、前記第2層の径方向の曲げ弾性率は、前記第1層の径方向の曲げ弾性率より小さく、前記第2多孔質基材は、前記第1の方向に垂直な断面において、チューブの周方向に延在していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態のチューブの構造を説明する図である。
【
図2】第1の実施形態のチューブを備えた蠕動ポンプを示す図である。
【
図3】
図2に示された蠕動ポンプにおけるチューブの断面視における形状変化を説明する図である。
【
図4】
図1に示された領域RG1及び領域RG2の拡大図である。
【
図5】第1の実施形態のチューブの基材の構成の例を示す概略図である。
【
図6】第1の実施形態のチューブの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るチューブの実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、それぞれの実施例における各々の実施形態は、本発明の技術的な意義を失わない範囲で自由に組み合わせても良い。
【0011】
図1(a)及び
図1(b)を用いて、第1の実施形態を説明する。
図1(a)は、第1の実施形態のチューブ20の長手方向に垂直な面におけるチューブの断面構造を説明する図であり、
図1(b)は、
図1(a)のX-X‘で示された位置におけるチューブ20の長手方向に平行な面におけるチューブの断面構造を説明する図である。
図1(a)に示されるように、チューブ20はその内部に流路CHを備え、流路CHを取り囲むようにチューブ20の本体部BDが形成される。本体部BDは、流路CHを規定する内周面20aと、内周面とは逆側の面である外周面20bとを備える。
図1(b)に示されるように、流路CHは、チューブ20の長手方向(
図1(b)の紙面左右方向)に沿って連続的に形成されており、チューブ20の一端から取り込まれた流体の他端までの移動を可能とする流体の輸送経路となる。
本体部BDは、第1層BL1と、第1層BL1の外周に形成された第2層BL2とを備える。本実施形態において、第1層BL1は内周面20aを含み、この面において輸送対象の流体と接触する。第1層BL1の外側(内周面20aと逆側)の面20c上には、第2層BL2が第1層BL1を取り囲むように形成されている。第1層BL1と第2層BL2とは、チューブの径方向に積層され、境界面20cを介して互いに強固に接着されている。
【0012】
ここで、
図1(a)を用いて、本明細書における方向を説明する。径方向は流路CHの延在方向(第1の方向)に垂直な面上において、流路CHの中心CGを通る仮想直線(図示せず)として表される方向である。流路の断面形状が円形でない場合は、流路の断面形状の重心位置を中心CGと見なしても良い。径方向における大きさとはこの仮想直線上の2点間の距離である。例えば、チューブ内のある層の厚さとは、その層の一方の界面及び他方の界面のそれぞれと、前述の仮想直線とが交わる位置にある2つの交点間の距離として定義される。径方向の曲げは第1の方向に垂直な断面におけるチューブ形状の変化の一形態である。例えば、
図1(a)に示されたチューブの各層の曲率や、各層上にある任意の点から中心CGまでの距離が部分的に変化するような変形(典型的には円形のチューブ断面が楕円状に押し潰れる変形)は、第1層BL1または第2層BL2の径方向の曲げを含むものである。
これに対して、例えば、内周面20aに沿った方向や、各層が延在する方向を、周方向として表す。
【0013】
本実施形態のチューブ20の第2層BL2の径方向の曲げ弾性率は、第1層BL1の径方向の曲げ弾性率より小さくなるように構成されている。蠕動ポンプに適用されるチューブは外力により内部空間が完全に閉塞するまで潰される。これ程大きな変形下でも破壊されない柔軟さ(形状復元性)、外力が取り除かれたとき速やかに自身の元の形状に復帰させる形状復元力、及び、潰れ形状と元形状との間を往復する動作が長時間にわたり繰り返されても破壊されない耐久性が求められる。一般に、これらの特性はトレードオフの関係にあるものを含み、例えば、柔軟な材料は耐久性を確保しやすいが、十分な形状復元力が得られないことがある。
これに対して、例えば先行技術文献1においては、単体では形状復元性が低い内層上に、柔軟で形状復元性に富む外層を形成した積層チューブとすることにより、所望の機能を発現させている。
しかしながら、本願発明者らは、外周側領域に相対的に弾性率が小さな材料からなる層が付与された構造のチューブにおいて、チューブが以下の構成を含むことにより、さらに優れた特性を発現できることを見出した。
すなわち、本実施形態のチューブは以下(1)及び/又は(2)の特徴をさらに備える。
(1)第2層BL2の、径方向の曲げ弾性率に対する周方向の引張弾性率の比R2は、第1層BL1の、径方向の曲げ弾性率に対する周方向の引張弾性率の比R1よりも大きい。
(2)第2層BL2の周方向の引張弾性率は、第2層BL2の径方向の曲げ弾性率より大きい。または、第2層BL2の周方向の引張弾性率は、第2層BL2の径方向の引張弾性率より大きい。
第1層より曲げ弾性率が小さな第2層が、このような特徴的な弾性率の異方性を備えることにより、本実施形態のチューブは高い耐久性を実現する。蠕動ポンプのような極めて大きな機械的ストレスにされされる条件下において長時間使用された場合であっても、故障や輸液特性の劣化や故障の発生が抑制される。
【0014】
図2及び
図3を用いて、本実施形態のチューブ20の蠕動ポンプにおける動作及び作用効果について説明する。
図2は本実施形態のチューブを適用した蠕動ポンプの機構部の概略を示す図である。蠕動ポンプはケース部CBを備える。本実施形態のチューブ20はケースCBの内面に沿って配置される。蠕動ポンプは、回転軸RAの駆動により回転する回転部を備える。回転部は回転軸RAに接続された支持部AM及び支持部AMの端部に形成された1つまたは複数のヘッド部HDをさらに備える。回転部が図中実線で示された矢印の向きに回転することにより、ヘッド部HDはケース部CBの内面に沿って移動する。ヘッド部HDはチューブ表面のダメージ低減の観点から、回転自在なローラとして構成されていることが好ましい。ヘッド部HDとケース部CBの内面との間の隙間の大きさは、チューブ20の本体部の肉厚の2倍より小さくなるように設定される。チューブはヘッド部が当接する位置において、ヘッド部HDとケース部CBに挟まれ潰される。この結果、同位置に、流路の面積が実質的にゼロとなった閉塞領域が形成される。
【0015】
回転部の回転動作によりヘッド部HDが移動し、これに伴い閉塞領域も移動することにより、チューブ内の流体が輸送される。本図に示した例においては、回転部は紙面上における反時計回りに回転し、これにより流体は白抜き矢印で表した向きに輸送される。図示は省略するが、チューブの一方の端部は輸送対象液の供給源(例えば貯液槽又はそれに接続された配管)に接続され、他方の端部は輸送対象液の供給先(例えば処理槽又はそれに接続された配管)に接続される。
【0016】
図3(a)及び
図3(b)に蠕動ポンプ内のある位置におけるチューブ20の断面形状の変化を示す。
図3(a)に示すように、その位置にヘッドHDが到達する前、すなわちヘッドHDによる圧力がチューブ20に印加されない時点では、チューブ20は略円形の断面形状となっており、その内部に大きな内部空間を有する。その後、その位置にヘッドHDが到達するとチューブ20はケースCB及びヘッドHDに挟まれ、潰されることにより、その位置に閉塞領域が形成される。さらにヘッドHDが移動し、この位置から去るとチューブ20は自身のもつ形状復元力により再び
図3(a)に示される形状に復帰する。
本実施形態においては、チューブ20を多層構造とし、内側に位置する第1層BL1の外周側に、第1層より柔軟な、すなわち第1層より径方向の曲げ弾性率が小さな、第2層BL2が配置されている。前述した通り、チューブの外周側の一部領域が柔軟な材料で構成されることにより、向上された耐久性を得る事ができる。
【0017】
本願発明者らは、開発活動を進めるなかで、外層を単に弾性率が小さな材料に置き換えただけの場合、新たな課題が生じる虞があることを見出した。
図3(c)に発明者らが見出した課題が発生した状態にあるチューブの断面形状を示す。この図は、ヘッド部HDとケース部CBとの間の隙間が所定の値となるまで小さくなっているにも関わらず、チューブの内部空間の閉塞に至らず、隙間が生じている状態を示している。このように隙間が残った状態では流体輸送が適切に行うことが難しくなり、例えば、必要な輸送量を確保できなくなってしまう。ヘッドHDとケース部CBとの間の隙間の大きさを小さくしてチューブに印加される圧力を大きくすることにより、再び閉塞状態を作ることは可能だが、この方法では使用時のチューブの変形量が大きくなり、また、隙間が生じる端部以外の領域を含めて元の状態より大きな圧力が印加されてしまうなど、再び耐久性を悪化させる虞がある。
【0018】
このような隙間が生じやすくなってしまう原因の一つとして、外層を弾性率が小さな材料に置き換えた場合、曲がりやすくなると同時に、伸びやすくなってしまうことが挙げられる。
図3(c)に示すように潰された形状の両端部においては、曲げRが小さくなるため、チューブの外周側にある層BLbは大きく伸張され、その領域の層厚さが小さくなってしまう。その結果、ヘッド部HDやケース部CBからの印加された圧力が内側の層BLaにまで伝わりにくくなり、不十分な閉塞が生じやすくなってしまう。
【0019】
これに対して、本実施形態のチューブは、以下(1)(2)の何れか1つ以上の構成を備える。
(1)第2層BL2の、径方向の曲げ弾性率に対する周方向の引張弾性率の比R2は、第1層BL1の、径方向の曲げ弾性率に対する周方向の引張弾性率の比R1よりも大きい。
(2)第2層BL2の周方向の引張弾性率は、第2層BL2の径方向の曲げ弾性率より大きい。または、第2層BL2の周方向の引張弾性率は、第2層BL2の径方向の引張弾性率より大きい。
つまり、第2層の曲げ弾性率を小さくしつつも、第2層の周方向の引張弾性率が確保された状態となっている。チューブ20の第2層がこのような弾性率の異方性を備えることにより、端部領域における局所的な伸びが抑制され、不十分な閉塞の発生を抑制できる。
【0020】
このような弾性率の異方性を備えた第2層は、例えば第2層の構成部材そのものの配向等を制御することで得る事ができる。あるいは、第2層を弾性率が異なる2種以上の材料の複合体として構成し、かつ、各材料の配置を制御することによって異方性を付与しても良い。
大きな作用効果を得る上で、例えば構成(1)において比R2は比R1の1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがさらに好ましい。構成(2)において第2層BL2の周方向の弾性率は、厚さ方向の引張弾性率または圧縮弾性率の1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがさらに好ましい。このように顕著な弾性率の異方性を実現する上で、弾性率が異なる2種以上の材料の複合体として第2層を構成する手段は最も有効かつ簡便な手段となり得る。
【0021】
図4を用いて、第1の実施形態のチューブの、より詳細な構造の例を説明する。第1領域RG1は第1層BL1内の一部の領域である。ここでは
図1(a)において第1層BL1内の矩形の破線で示された領域を図示する。本実施形態において第1領域RG1は第1基材層PMB1を含む。第1基材層PMB1は第1樹脂層IMR1を介して互いに固定される。第1基材層PMB1及び第1樹脂層IMR1はチューブ20の周方向に延在している。本実施形態において、第1領域RG1は、複数の基材層と複数の樹脂層が交互に積層された積層体として構成される。第1基材層は第1樹脂層より弾性率が大きな材料からなる基材により構成されることが好ましい。ポンプに適用されたチューブ本体には、輸送対象流体により流路から外周の向きに大きな圧力が印加されることがある。この圧力によりチューブ径が膨張すると輸送量の定量性の悪化や寿命の低下が発生する虞がある。第1層が内部に周方向に延在する基材を有することによって大きな内圧の存在下でもチューブ径の膨張を抑制することができる。
【0022】
第2領域RG2は、第2層BL2内の一部の領域である。ここでは
図1(a)において第2層BL2内の矩形の破線で示された領域を図示する。本実施形態において第2領域RG2は第2基材層PMB2を含む。第2基材層PMB2は第2樹脂層IMR2を介して互いに固定される。第2基材層PMB2及び第2樹脂層IMR2はチューブ20の周方向に延在している。本実施形態において、第2領域RG2は、複数の基材層と複数の樹脂層が交互に積層された積層体として構成される。第2領域RG2及び第2層BL2の径方向の曲げ弾性率は、それぞれ、第1領域RG1及び第1層BL2の径方向の曲げ弾性率よりも小さい。このような特徴は、第2基材層PMB2及び又は第2樹脂層IMR2の構成材料の選定や構造の調整により実現できる。第2基材層は第2樹脂層より弾性率が大きな材料からなる基材を含む。このように、弾性率が異なる層が周方向に延在する構成を有することにより、周方向の引張弾性が、他の方向の弾性より大きな第2層が形成される。
【0023】
本実施形態において、第1基材層を構成する基材として、多数の微孔を備えた多孔質基材を適用できる。そしてこれらの微孔には、第1樹脂が侵入していることが好ましい。同様に第2基材層を構成する基材として、多数の微孔を備えた多孔質基材を適用できる。そしてこれらの微孔には、第2樹脂が侵入していることが好ましい。このような構成においては、多孔質基材と樹脂層との接合界面の面積を大きくできるだけでなく、それらが複雑に絡み合った構造とできるため大きな層間接着強度を得ることができる。さらに、微孔の密度を5×104個/mm2以上とすることにより、変形により大きな内部応力が発生した状態においても、特定領域への応力集中を抑制することができる。
【0024】
図5は、第1の方向に垂直な断面における、第1層BL1内の第1基材層PMB1を構成する基材の形成状態の例を模式的に示した図である。本図において、第1樹脂IMR1及び第2層BL2の図示は省略されている。
このチューブの第1基材層PMB1を構成する基材は、図示されるように断面視において渦巻状の形状を有する。このような構成は1枚の基材を複数回巻回することにより容易に得る事ができる。基材は、その両端に、起点RSと終点REとを備える。基材を流路CH側から巻回する場合であれば、基材の巻回工程の巻き始めに対応するのが起点RSであり、巻き終わりに対応するものが終点REとなる。断面視において、基材は起点RSから終点REにかけて半径を徐々に拡大しながら中心CGの周りを周回する形となり、起点RSから終点REまで切れ目なく一体のものとして形成される。
【0025】
このような構成においては、重複領域OLRが発生する。重複領域とは、基材層数が他の領域より多い領域である。例えば
図5に示された第1層は、5つの基材層数で構成された重複領域と4の基材層数で構成されたその他の領域とを含む。
ここで、チューブの流路の中心CGと起点RSとを通る仮想直線を直線LN1、チューブの流路の中心CGと終点REとを通る仮想直線を直線LN2と定義する。さらに直線LN1と直線LN2とがなす角のうち、重複領域OLRと対向する位置にある角θの大きさを、挟角θ(度)と定義する。巻回数等を考慮するものではないため、この挟角θは0度以上、360度未満の範囲で規定される。この挟角θは、重複領域と流路の中心CGにより構成される扇形の中心角の大きさと定義しても良い。
【0026】
第1基材層の挟角θは270度以下であることが好ましい。挟角が大きい、すなわち重複領域の占める割合が大きな場合、重複領域より層数が少なく相対的に強度が小さなその他の領域が局所的に形成されることになる。強度が小さく狭いこの領域はチューブ内部に疲労等により発生したクラックが直線的に成長する経路となってしまうことがある。挟角θを270度以下とすることにより、このような領域の発生を抑制できる。
第1基材層の挟角θは60度以下であることがさらに好ましい。重複領域とその他の領域が共に一定の大きさを有する場合、蠕動に伴うチューブの変形の過程において高強度領域と低強度領域間との挙動の違いにより歪な変形が生じやすくなってしまい、これがチューブの耐久性に不利な作用を及ぼす。挟角θを60度以下とすることにより、周方向に均一な機械特性がえられる。
第1基材層の挟角θは30度以下であることが特に好ましい。このような構成とすることにより、強度が相対的に高くなる重複領域と、逆に、強度の確保に不利な起点RS及び終点REとが、近接した配置となるため、さらに周方向に均一な機械特性がえられる。
【0027】
また、第1基材層の挟角θは5度以上であることが好ましい。1枚の基材を複数回巻回する構成においては製造時における挟角θの変化の制御を考慮する必要がある。特に基材層数が10を超えるような多層構造の場合、第1層の硬化収縮の前後で、挟角θが15度以上変化することがある。想定される収縮量に基づいて硬化収縮前の重複領域を大きめに確保しておくことも考えられるが、硬化収縮量は、チューブ内の長手方向の各位置においてバラツキを含むため、例えばある位置では3度の挟角θだったとしても、他の位置において-2度の状態、すなわち挟角θが358度となり、前述の挟角θが270度を超えた状態となってしまう虞がある。挟角θを5度以上とすることで、バラつきが生じた場合であっても、このような課題の発生を抑制することができる。
特に、後述する空孔率が50%を超えるような基材を適用したチューブでは、基材の支持による収縮抑制効果が小さくなるため、第1基材層の挟角θを5度以上とすることが耐久性の向上に効果的に作用する。
【0028】
以上、基材の挟角θによる耐久性向上に関して、第1層、第1基材層に基づいて説明したが、第2層においても、同様の作用効果を得ることができる。
すなわち、チューブの第2基材層PMB2を構成する基材が、
図5に示された第1基材層同様に、断面視において渦巻状の形状を有し、その両端に、第2基材層の起点RSと終点REとを備える。基材は、これらの起点RSから終点REまで切れ目なく一体のものとして形成されており、第2層は、基材数が他の領域より多い第2基材層の重複領域OLRを備える。
チューブの流路の中心CGと第2基材層の起点RSとを通る仮想直線を第2基材層の直線LN1、チューブの流路の中心CGと第2基材層の終点REとを通る仮想直線を第2基材層の直線LN2と定義し、さらに第2基材層の直線LN1及び直線LN2とがなす角のうち、第2基材層の重複領域OLRと対向する位置にある角θの大きさを、第2基材層の挟角θ(度)と定義する。あるいは、第2基材層の挟角θは、第2基材層の重複領域と流路の中心CGにより構成される扇形の中心角の大きさと定義しても良い。
そして、第2基材層の挟角θは、270度以下であることが好ましく、60度以下であることがさらに好ましく、30度以下であることが特に好ましい。また、第2基材層の挟角θは、5度以上であることが好ましい。第2層及び第2基材層をこのような構成とすることにより、耐久性が向上されたチューブを得る事ができる。
【0029】
第1基材層の重複領域と、第2基材層の重複領域とは、周方向に重ならない位置に配置されることが好ましい。また、疲労破壊によるクラックの起点がチューブの内周面であることを考慮すると、無作為に抽出したチューブの長手方向の位置が異なる6点以上の断面における、第1基材層の挟角θの平均値は、第2基材層の挟角θの平均値より小さいことが好ましい。同様の理由から、第1基材層の挟角θの標準偏差は、第2基材層の挟角θの標準偏差より小さいことが好ましい。
【0030】
第1の実施形態として、層数が2のものを説明してきたが、これに限定されない。例えば流路に接する位置に化学的に安定な第3の層が形成されていてもよく、第1層と第2層との間に接着層があっても良い。あるいは第2層のさらに外側に表面保護層が形成されていても構わない。ただし、起点RSと終点REはクラックの起点や応力分布の原因となるため、これらの合計数は、チューブの断面に観察される全ての基材において8以下であることが好ましく、4以下であることが特に好ましい。すなわちチューブの備える層数や、それを構成する基材の積層数に関わらず、チューブとして、全4枚以下の基材で構成することが好ましく、全2枚以下の基材で構成されることが特に好ましい。
【0031】
第2基材層と第2樹脂層からなる領域の径方向の大きさは、第1基材層と第1樹脂層からなる領域の径方向の大きさより大きくしても良い。柔軟性に富む弾性率が小さな層は厚く形成した場合であっても、変形時の内部応力の上昇を相対的に抑制することができる。
第2基材層と第2樹脂層からなる領域の平均基材間距離は、第1基材層と第1樹脂層からなる領域の平均基材間距離よりも大きくしても良い。ここで基材間距離は、積層時で上下に隣接する基材間における、各基材の厚さ中心間の径方向における距離である。平均基材間距離は、4層以上の基材層を含む積層体における、各基材間距離の平均値である。チューブがこのような構成を有することにより、チューブの外周面側に配置される第2基材層と第2樹脂層からなる領域に、明確な異方性を与えやすくなることが考えられる。
【0032】
(基材)
第1基材層及び/又は第2基材層を構成する基材は、例えば樹脂からなり、高い可撓性を有する。表面及び/又は表面から内部にかけて、複数の微孔が形成されたものであることが好ましい。この微孔に基材層間に形成される樹脂層を構成する樹脂が侵入することにより、蠕動ポンプに適用されるチューブが晒されるような、厳しい変形時の大きな内部応力に耐える接着強度を確保できる。平面視における微孔の平均径は1mm以下であることが好ましく、1μm(マイクロメートル)以下であることがさらに好ましい。微孔は少なくとも基材表面に形成されていれば良いが、深さ方向に連通する構成を有することが好ましい。
このような基材の例としては、高分子材料の繊維からなる織布、不織布が挙げられる。シート状に形成した基材を発泡、延伸させることで多孔質構造としたものであっても良い。発泡や延伸による微孔の形成は極小径や高い空孔率を容易に得られる点で好ましい。
構成する樹脂は、特定のものに限定されないが、好ましくは、フッ素樹脂、具体例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフロオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(EPE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合樹脂(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂(THV)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、エチレン-三フッ化塩化エチレン共重合樹脂(ECTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVdF)、フッ化ビニル樹脂(PVF)が選択される。
また、機械的特性や耐薬品性の面から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)に代表されるポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に代表されるポリアリレート樹脂、高分子量ポリエチレンやポリアラミド、更にはポリイミド樹脂も好ましい態様である。
【0033】
(樹脂)
基材層間に形成される第1の樹脂層及び又は第2の樹脂層を構成する樹脂材料は、機械的特性や化学的安定性の観点から熱硬化性樹脂が好ましい。本発明で言う熱硬化性樹脂は、ゴム弾性を示す天然または合成の樹脂であり、ゴムまたはエラストマーとも称されるものである。この熱硬化樹脂は熱処理或いは電子線処理等により架橋反応が起こることでゴム弾性を示すようになる。或いは、結晶性の部分と非晶性の部分を併せ持ったブロック共重合体とすることでこのゴム弾性を示す熱可塑性エラストマーもあるが、本発明ではこれも使用することが出来る。
このような熱硬化性樹脂としては、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等のジエン系やブチルゴム(イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)),エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタン樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、パーフロロフッ素ゴム(FFKM)を挙げることが出来る。耐薬品性の面からは、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ウレタン樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、パーフロロフッ素ゴム(FFKM)が好ましく、また、チューブ製造の際の作業性の面からは室温付近で液状であることが好ましく、ウレタン樹脂、シリコーンゴム、フッ素元素を含むシリコーンゴム(フッ素化シリコーンゴム、ポリフルオロエーテルゴム)、フッ素ゴム(FKM)が特に好ましい態様である。
また、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系を挙げることが出来る。これらの樹脂は高温下で溶融し液状化することから、その際に上述したシート状基材に含浸させることが出来る。
熱硬化性樹脂の架橋系としては特に制約を受けるものではないが、架橋反応によって分子量の比較的大きい分子が生成して樹脂中から放出される場合にはチューブに空孔が残存したり、体積収縮が大きくなったりすることから避けられるべきである。好ましい態様としてはラジカル発生剤を用いる二重結合への付加反応、ハイドロシリレーション反応(hydrosilylation)による二重結合への付加反応、イソシアネートと水酸基或いはアミノ基との付加反応等を挙げることが出来る。また、架橋反応を促進するための架橋助剤や触媒を加えることも出来る。
【0034】
チューブの機械的な特性を向上させる役割として本発明では上述したシート状基材を用いるが、熱硬化性樹脂にフィラーを添加することで機械的特性を向上させることも出来る。具体的には、天然シリカ、合成シリカ、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、球状ガラスビーズ、天然或いは合成マイカ、タルク等の粒状物を挙げることが出来る。これらのフィラーは目的によって樹脂に対して0.1~30重量%程度を添加することが出来る。また、各種の着色剤、顔料、染料や各種安定剤を添加することも出来る。具体的には酸化安定剤やUV吸収剤、難燃剤、抗菌剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、スコーチ防止剤、ゴム軟化剤、気泡防止剤、帯電防止剤、滑剤、粘着付与剤等を例示できる。フィラーの添加量は、第1層と第2層とで異なっていても良い。第2層より流路に近い位置にある第1層へのフィラーの添加量は第2層へのフィラーの添加量より小さくすることで、輸送される流体の汚染を抑制できる。
【0035】
次に、
図6を用いて実施形態にかかるチューブの製造方法の例を説明する。以下では、好ましい実施形態として、第1層及び第2層が共に多孔質基材を有するチューブの製造方法を主に説明する。
(シート状基材準備工程:S1)
まず、シート状の基材を準備する。この工程においては、基材を構成する樹脂が熱可塑性樹脂であれば、予め溶融押出し等で繊維状物を製造しておき、これを各種の織機を用いて織布とすることが出来る。繊維の製造時には機械的特性を向上させる目的で延伸を行うことも出来、後述の熱硬化性樹脂との界面の相互作用を向上させるために円形ではない、所謂、異形断面糸を用いることも出来、更には2種類以上の異なる材料を用いた複合糸を用いることも出来る。織布の製造は無杼織機及び有杼織機のいずれも使用することが出来、無杼織機としてはグリッパー織機、レピア織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機等を例示できる。糸径1μm~1000μmの素線を、目開き1μm~5000μmで各種の織込み法で織布とすることで、シート状のものが得られる。
また、シート状基材が不織布状のものであれば、ランダムに分散させた繊維をシート化することによって得られる。具体的には乾式法、メルトブローン法、スパンボンド法のような乾式法のほかにエアドレイ法やエレクトロスピニング法を用いることが出来る。このうちのエレクトロスピニング法は、後述するPTFEにも適用されて微細な孔を形成できる方法として有用である。
【0036】
PTFE及び一部のフッ素樹脂は実質、熱可塑性樹脂としての特徴を示さず溶融押出しで成形品を得ることが困難である。この場合、PTFE粉末に潤滑用溶媒(本実施形態ではソルベントナフサ)を混合し、この混合物により予備成形品を作成し、この予備成形品にペースト押出しを施すことでシート状に形成するとともに、加熱したオーブンの中で潤滑用溶媒を乾燥除去した後に延伸処理を施すことで微細孔を有するシート状基材を作成することが出来る。尚、得られたシート状基材をPTFEの融点以下で加熱することで高温下でも寸法変化をしないシート状基材を得ることが出来る。
上記の延伸処理においては、前述したペースト押し出しによって押し出される方向と、この方向に垂直なシートの幅方向のいずれか、または両方向に延伸処理が施される。尚、延伸処理について1方向のみに実施してその方向に平行にスリットすることでリボンを得、これに例えば撚糸処理した後に織布とすることで機械特性に優れたPTFE織布を得ることが出来る。
【0037】
上記の延伸処理が施された延伸多孔質シートの多孔質構造を定義するものに空孔率と空孔サイズがある。本発明において空孔率は50%以上95%以下が好ましく採用される。さらに好ましくは60%以上90%以下が好ましい。もっとも好ましい範囲は65%以上85%以下である。この理由は、空孔部に対する粘性のある架橋前の熱硬化性樹脂成分の含浸性にあり、空孔率50%以下では含浸に時間が掛かり含浸ムラの要因となるからである。また、空孔率が95%以上になると、加工時の形状保持において変形が起こりやすく工業的な品質保持が困難になる。上述した空孔率は、密度から算出される。
空孔サイズは、細孔直径分布測定装置パームポロメータ(IB-FT GmbH社製 POLROLUX 1000)により測定した。測定液はGALPORE125を使用する。このパームポロメータによる測定は、測定液に浸した打ち抜きサンプル(φ25mm、測定面積はφ16mm2程度)に空気圧を加えていき、湿潤状態の空気流量と乾燥状態の空気流量を測定し、平均孔径を確認した。上記では、延伸多孔質シートの空孔サイズの測定について説明を行ったが、他のシート状基材、すなわち、網目状、不織布状、織布状に構成されたものの空孔サイズについても、上述した測定方法で測定可能である。
このようにして、微孔を有するシート状の多孔質基材が準備される。
【0038】
(含浸工程:S2)
次に、準備した基材の表面に樹脂層を形成する。この樹脂層は、チューブとしたときに例えば
図4の第一樹脂層IMR1または第二樹脂層IMR2のように、基材を保持可能な状態で基材間に形成されるものである。樹脂層は、好ましくは熱硬化性樹脂であり、多孔質の基材の場合には、表面に熱硬化性樹脂層を形成すると同時に、多孔質基材の有する微孔に熱硬化性樹脂を侵入させることもできる。この工程では、微孔の充填性が高く、厚さが均一な樹脂層形成基材を得る事が重要となる。この工程で得られる含浸された基材の製造方法としては、硬化前の熱硬化性樹脂を流動可能な状態で基材に流動塗布しそれを2本ロールのような一定の隙間を通すことで熱硬化性樹脂を十分に孔の中に押し込み、且つ、均一な厚みとすることが出来る。或いは、熱硬化性樹脂を予めシート状にしておき、これとシート状基材を合わせてプレスすることも可能である。また、熱硬化性樹脂が100Pa・s程度かそれ以下の粘度であれば、通常の塗工機を用いてシート状基材に塗工することも出来る。塗工方法としてはカーテンコート、スプレーコート、ロールコート、ディッブコート、ブレードコート、バーコート等を例示できる。シート状基材の孔の中まで完全に充満させることにおいてブレードコートやバーコートが好ましい態様である。
第1層を構成するための樹脂層形成基材と、第2層を構成するための樹脂層形成基材を準備するにあたり、単一の基材に対し、含浸工程の途中で異なる熱硬化性樹脂に切り替えてもよく、あるいは、1種または2種の基材に対し、異なる熱硬化性樹脂をそれぞれ含ませて準備してもよい。
【0039】
また、樹脂層形成基材は、熱硬化性樹脂の厚みが基材より厚く、一部が径方向に熱硬化性樹脂単体として存在していても良いが、基材のみが径方向に単体として存在する場合は、のちのロール工程で十分な接着性を確保することが出来ないので避けるべきである。本発明にかかるチューブのような積層体では、製造方法にもよるが、その作業性からも樹脂層形成基材の厚みは10μm~2mm、好ましくは25μm~1mm、更には50μm~0.5mmが好ましい。また、上述の熱硬化性樹脂が単体として存在する厚みは層厚みの50%以下であることが好ましく、40%以下がさらに好ましい。
このようにして、微孔内及び基材表面に形成された樹脂層を有するシート状の基材を得ることができる。
【0040】
(ロール工程:S3)。
次に、上記含浸工程がなされた樹脂層形成基材を、流路形状に対応する断面形状を有するマンドレル(心棒)に巻きつける。例えば、心棒を送り出しながらその進行方向に斜めに連続的に含浸シート状部材を巻き付けてもよく、これにより連続生産が可能になる。
あるいは、心棒の長手方向に対する移動を伴わずに巻きつけても良い。この巻き方において、基材の巻回方向は、心棒の延在方向に垂直な面内に規定される。この巻回方法では、作成可能な最大チューブ長が心棒の長さ及び基材の幅により制限されてしまうが、径や特性のばらつきが小さく制御された巻回構造を得る事ができる。チューブの本体部の第1層と第2層の形成は、基材及び/又は含浸樹脂が異なる2種の樹脂層形成基材を予め準備しておき、第1層となる樹脂層形成基材を巻回及び積層し、その上に、第2層となる樹脂層形成基材を巻回及び積層することで達成できる。
【0041】
(加熱工程:S4)
次に、ロール工程にてマンドレル上に積層された樹脂層形成基材を硬化させる。例えば、チューブの外形を規定する金型内に入れて加熱することで硬化することができる。この加熱は熱硬化性樹脂の架橋反応を進行させて完結させるために行われる。
【0042】
(マンドレル引抜き工程:S5)
その後、マンドレルをチューブから引き抜く。以上の工程により、チューブが完成する。
【0043】
(測定方法)
径方向の曲げ弾性率は、チューブから一部を切り出した測定試料を用いて測定できる。測定試料の作成は、チューブ自体の曲率とは無関係に短冊状の試験片を切り出してもよく、周方向に沿って切り出しても良い。例えば、積層体の場合は切り込みを形成し、そこを起点に、一部の層をはく離することで、周方向に沿って切り出された試料を容易に準備することができる。
切り出した試料は、例えば日本産業規格、JIS K 7106 片持ちばりによるプラスチックの曲げこわさ試験方法に定められた方法で曲げ弾性率を取得することができる。
なお、チューブ径や材料の弾性率によっては、上記日本産業規格に定められた方法では再現性の高い測定が難しい場合がある。このような場合は、例えば以下に示す形で弾性率に対応する特性値を取得の上で、その値を直接、または必要な演算を行った上で、曲げ弾性率として用いることができる。
この場合は、比較対象と測定方法や演算方法を揃えることが重要である。例えば、第1層と第2層の曲げ弾性率の大きさの比較が目的の場合には、曲げ弾性率の値の相対関係が、測定方法の違いにより逆転が生じないように注意する。
また、測定試料の形状もできるだけ揃えることが望ましい。
【0044】
以下に上記日本産業規格などでは再現性が高い測定が難しいような、微小試料や弾性率が小さな試料の場合であっても、弾性率の差を明確にでき、再現性が確保される測定方法の一例を記載する。
まず、チューブから切断、剥離、あるいは切削などの方法により、チューブの周方向に沿って一様の厚さ(径方向における大きさ)を備えたシート状試料を切り出す。シート状試料の厚さは0.3mm以上1mm以下の範囲内であることが好ましい。
次に、シート状試料から、平面視において長方形となるように試験片を切り出す。この長方形の長辺がチューブの長手方向、すなわち第1の方向に平行となるように切り出し、長辺の長さは10mm以上とすることが好ましい。長方形の短辺は5mm以上15mm以下が例示されるが、試験片に残る曲率が相対的に大きくなりすぎないことが重要である。必要に応じて元チューブの径に応じて適宜調整しても良い。例えば、試験片の短辺の展開長(短辺に沿った長さ)が、最大でも、元の周長(チューブ状態にあったときの周方向の長さ)の50%を超えない範囲とする。すなわち、試験片を第1の方向から見て扇形に見立てた場合の頂点角が180度を超えない。
【0045】
測定に用いる圧縮試験機は、互いに向かい合う平行な面をそれぞれ有する固定ステージ及び移動ステージを備える。移動ステージは、固定ステージに対して相対的に移動可能であり、少なくとも一方のステージはロードセルを有し、ステージに印加される微小な応力の変化を計測することができる。
短辺の垂直二等分線に沿って軽く二つ折りにされた状態の試験片を圧縮試験機のステージ間に配置したのちに、可動ステージを固定ステージに近づく向きに約5mm/分の速度で移動させ、ステージ間の隙間が試験片の厚さの2倍となるように調整する。この状態は蠕動ポンプのローラにより完全に潰されたときのチューブ形状に近く、試験片は平坦になるまで二つ折りされた状態となる。この状態での長時間保持は、不可逆な形状変化を発生させる虞があるため、3秒以内に次のステージ間の隙間の拡大動作を開始することが好ましい。
隙間の拡大動作では、可動ステージを固定ステージから遠ざかる向きに約5mm/分の速度で移動させる。この拡大に伴い、試験片は元の形状に近づく向きに変形する。拡大後のステージ間の隙間は、1例として試験片厚さの4倍が示される。ただし、試験片の湾曲が大きな場合など、このギャップでは長辺同士の当接状態が維持されていることがある。このような場合は、比較対象を含めて長辺同士が確実に離間する距離を見極め、この距離を拡大後のギャップとして設定する。但し、この距離が大きすぎると測定値が小さくなり、試験片によっては正確な測定が難しくなるため、確実に離間できる距離のなかで、できるだけ小さな値を設定値として適用することが好ましい。
所定のギャップまで拡大させた後、1分経過後のロードセル指示値を取得する。1分待つのは、チューブの反発力緩和のためである。取得された指示値を、試験片の断面積、すなわち試験片の厚さと長辺長さの積、により除すことにより、弾性率を得ることができる。計測は温度管理された環境、好ましくは23℃±2℃の環境で行うことが好ましい。
【0046】
試験は、同一層内の異なる位置から複数の試験片を切り出し、それらの平均値をもって比較しても良い。水準あたりのn数は6以上が好ましいが、必要に応じ、相対的な大小関係を明確にできる程度に、さらに増やしても良い。複数の試験片の平均値をもって弾性率を取得すること、また、比較することの有効性は、以下の測定に関しても同様である。
試験片が無荷重状態でも曲率を有する場合は、蠕動ポンプの動作を再現する方向、すなわち、二つ折り時の山となる側が曲率の外周側となるようにすることが好ましい。複数の取得値を用いて平均値の比較で判定する場合であれば、試験片の一部を、上記とは逆の向きに曲げて測定することも可能である。このようにすることで、試験片が生来的に有する曲率に起因する測定結果への影響を緩和することができる。
【0047】
試料の大きさや弾性率のレンジに起因して、上記の方法においても周方向の曲げ弾性率の所望の比較精度が得られないときは、さらに別の測定方法を利用した比較も提案される。例えば、比較対象となる双方の水準において、層中の基材の延在方向が共に周方向であれば、基材延在方向に垂直な方向、すなわち、径方向の圧縮弾性率の比較結果も適用できることがある。このように、基材間の樹脂層の弾性率が強く反映される条件下においては、圧縮弾性の相対的な関係は、曲げ弾性の相対的な関係と一致するためである。
同様に、比較対象となる双方の水準において、層中の基材が、各層中において周方向にも第1の方向も延在している場合は、第1の方向の曲げ弾性率を利用した比較も提案される。第1の方向の曲げ弾性率は、試験片の周方向に平行な辺を互いに当接させる向きに折り曲げることで取得することが可能となる。ただし、試験片がチューブ形状と同様の湾曲形状を有する場合には、試験片の湾曲形状と直行する向きに曲げる形で弾性率を取得する形となるため、試験片の形状効果による弾性率変化が支配的とならないように注意する。元の湾曲形状が近いサンプルで比較する、周方向に平行な辺の長さを小さくすること等により、形状効果の影響は小さくすることが可能である。
【0048】
周方向の引張弾性率の測定は、試験片の形状以外は、ASTM D412(JIS K 6251, ISO 37)に準拠して、本発明にかかるチューブから切り出した試験片を用いて測定することができる。試験片は、上記の曲げ弾性率の測定用試験片と同様の手段で得る事ができるが、同一層内に基材が複数層にわたり積層された多層構造の場合、基材層が5層以上含まれるようにシート状試料を作成することが好ましい。試験片の厚さ(径方向における大きさ)は0.3mm~1mm、長辺の大きさが20mm以上、短辺の大きさが5mm以上とすると良い。ここで試験片の長辺がチューブの周方向となるように試験片を切り出す。
この試験片をチャック間距離が10mmとなるよう設定した引張試験機に、できるだけ試験片の撓みがないようにチャックしたのち、所定の歪の状態における荷重を取得する。取得された荷重を試験片の断面積で除すことで、弾性率が得られる。比較には、得られた弾性率のうち歪が40~60%の弾性率を適用することが好ましい。
【0049】
径方向の圧縮弾性率は、以下のようにして測定できる。試験片は、上記同様、チューブから一部を切り出して準備する。チューブ自体の曲率とは無関係に短冊状の試験片を切り出してもよく、周方向に沿って切り出しても良い。あるいは、切り込みを起点に一部の層をはく離することで準備することも可能である。
再現性が高い測定を実現する上では、測定装置の感度や測定対象の弾性率にもよるが、試験片の厚さ(径方向の大きさ)は1mm以上であることが好ましい。径方向から見た場合の試験片の形状や大きさは限定されないが、一辺の長さが厚さの倍以上確保された矩形が例示される。例えば試験片の1辺の長さを約10mmとすることができる。試験片がチューブ形状に由来した湾曲を有する場合は、測定ステージ上に載置したときに、一部が浮いてしまい、再現性が低下する虞もあるため、特に周方向の長さは必要以上に大きくしないことが好ましい。
測定にあたり、試験片の湾曲によるプローブ浮き(または試験片浮き)によって圧縮試験機のプローブが圧縮領域の一部に離間領域が生じてしまう時は、この面積が最小となるようにプローブを選択し、試験片載置の向きなどを調整する。また、離間領域が残る場合も、離間距離が試験片厚さの10%を超えない程度に調整することが好ましい。
圧縮試験においても、所定の歪状態における荷重を取得し、この値を圧縮領域の面積で除すことにより弾性率を得る事ができる。
【0050】
圧縮弾性率はゴム硬度計を使うことで簡便に取得することも可能である。まず、上記と同様に試験片を準備する。試験片の厚さは1mm以上の確保が好ましい。試験片は径方向からみて一辺9mm以上の矩形としても良い。デュロメータはM型またはAM型を使用すると良い。取得されたデュロメータ硬度に基づいて、弾性率を算出しても良い。
【0051】
[実施例]
第1実施例
第1層の第1基材層を構成する基材及び第2層の第2基材層を構成する基材として、共に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を材料とした薄膜状のシートを適用した。
PTFEの薄膜状のシートは、例えば従来技術として、先行技術文献である特公昭56-045773や、特公昭58-18991、特公昭56-45773等にすでに開示された技術をもとに、以下の手順で作製した。まず、ポリエチレン容器に、PTFEファインパウダー(ダイキン工業社製 ポリフロンPTFE F-106)100質量部に対して、助剤(エクソンモービル社製 アイソパーH)19質量部を入れて混合し、予備成型機に投入し予備成型体を作成した。次に、予備成型体を押し出し成型機に投入し、シリンダ押出機にて押し出し、テープ状に成形した。このテープを金属ロールを用いて目的の厚さまで圧延し、次にテープを加熱しアイソパーHを十分に乾燥させた。乾燥されたテープを280℃に加熱した状態で長手方向とは垂直に元の長さの5倍に延伸し、その後得られた延伸PTFEを350℃で熱処理することにより、空孔率78%、平均孔径0.83μmの膜厚50μmの1軸延伸PTFEテープを得た。
第1層の第1樹脂層を構成する第1樹脂として、ペルフルオロポリエーテルエラストマー(信越化学工業株式会社、グレード:SIFEL3590-N)を適用し、第1層の外側に形成される第2層の第2樹脂層を構成する第2樹脂として、熱硬化性シリコーンエラストマーよりも弾性率の低い熱硬化性シリコーンエラストマー(信越化学工業株式会社、グレード:KE-1884)を適用し、2種類の樹脂層形成基材を準備した。
まず、マンドレルに第1樹脂を使用した樹脂層形成基材を巻きつけた。この時の積層数は12とした。次いで、巻きつけられた第1樹脂の樹脂層形成基材の上に、第2樹脂の樹脂層形成基材を巻きつけた。この時の積層数も同じく12とした。
第2樹脂の樹脂層形成基材まで巻き付けたマンドレルを熱処理して第1樹脂、第2樹脂を共に硬化させた。次でマンドレルを引き抜くことで、流路上に第1樹脂を含む第1層と、第2樹脂を含む第2層がこの順に形成されたチューブを得た。このチューブは、チューブ内径が6.4mm、チューブ全体の厚みが2.4mm、チューブ外径が11.2mmであった。
【0052】
このチューブは第1樹脂(上記のペルフルオロポリエーテルエラストマー)と第2樹脂(上記の熱硬化性シリコーンエラストマー)の弾性率の違いにより、第2樹脂を備えた第2層の径方向の曲げ弾性率は、第1樹脂を備えた第1層の径方向の曲げ弾性率よりも小さいものとなる。一方で、周方向の引張弾性率には基材が効果的に作用するため、樹脂の持つ物性値の影響は曲げ弾性率ほど大きな変化を生じない。この結果、周方向の引張弾性率/径方向の曲げ弾性率で表される弾性率比Rは、第1層より第2層の方が大きな値となる。
また、基材の延在方向により、第2層は弾性率の異方性を有している。具体的には、第2層の周方向の引張弾性率は、第2層の径方向の曲げ弾性率よりも大きくなる。あるいは、第2層の周方向の引張弾性率は、第2層の径方向の引張り弾性率よりも大きくなる。
このチューブを、蠕動ポンプで耐久試験を行った。この耐久試験には、160rpmの速度でポンピングするワトソン-マーロウ社520型蠕動ポンプ(使用ヘッドは520REM)を用いた。試験における輸送対象流体としては25℃の水を適用した。
流量が90%以下に至るまでのローラの回数を計測したところ、250万回と非常に長い寿命が確認された。
このような構成のチューブは、曲がりやすい第2層を有しつつも、上記の課題、すなわち、第2層が伸びて薄くなることにより発生する不十分な閉塞、それによる流量低下等が抑制される。
【0053】
比較例
上述した第1実施例の第1樹脂を形成した樹脂形成基材を第2層に適用し、第2樹脂を形成した樹脂形成基材を第1層に適用した点が、第1実施例と異なり、他の構成は同じとなる。
本比較例のチューブでは、第1層上に形成される第2層の径方向の曲げ弾性率が、流路上に形成される第1層の径方向の曲げ弾性率よりも大きなものとなる。
このチューブを上記と同条件で蠕動ポンプでの耐久試験したところ、5万回で流量が90%以下に低下した。
【符号の説明】
【0054】
20 チューブ、BD 本体部、 BL1 第1層、 BL2 第2層、 CH 流路、 CG 中心、 20a 内周面、20b 外周面、 CB ケース部、 HD ヘッド部、 PMB1 第1基材層、IMR1 第1樹脂層