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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】潅水装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20240301BHJP
   A01G 25/16 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G25/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023146969
(22)【出願日】2023-09-11
【審査請求日】2023-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592160618
【氏名又は名称】イノチオアグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104514
【弁理士】
【氏名又は名称】森 泰比古
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦典
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-33333(JP,A)
【文献】特開平11-75586(JP,A)
【文献】特開2004-298055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
A01G 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水タンクに貯留した原水に薬液を混入させた希釈薬液を用いて圃場に対する潅水を行う装置であって、前記希釈薬液を生成する給液ユニットと、前記給液ユニットにおいて生成する希釈薬液の濃度を設定値に収束させる制御を実行する潅水制御装置とを備え、さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする潅水装置。
(1A)前記給液ユニットは、前記原水タンクから前記圃場へと送水を行うための送水ポンプを備える送水路と、前記送水路において前記送水ポンプの下流側で分岐させた取り入れ口から当該送水ポンプの上流側の戻し口へと戻る定流量の循環路と、を備え、前記循環路に設置された薬液ポンプによって前記薬液を前記原水に混入させるインラインミキシング方式を採用していること。
(1B)前記取り入れ口よりも上流側かつ前記送水ポンプよりも下流側に流入口を有し、前記薬液ポンプよりも下流側かつ前記送水ポンプよりも上流側に流出口を有するフローセルを備え、当該フローセル内には、前記希釈薬液の濃度を検出するセンサが設置されていること。
(1C)前記潅水制御装置は、潅水実行タイミングが到来したとき、前記薬液ポンプに信号を出力し、前記送水ポンプを起動すると共に潅水バルブを開いて前記圃場への潅水を開始し、潅水完了までの間、前記センサによる検出値を前記設定値に収束させる様に、フィードバック制御によって前記薬液ポンプの薬液吐出量を増減させる制御処理を実行する様に構成されていること。
(1D)前記潅水制御装置は、前記潅水実行タイミングの異なる複数の潅水グループに対して前記設定値を別個に設定可能に構成され、前記潅水実行タイミングが到来するたびに、当該潅水実行タイミングにおいて潅水を実行する潅水グループに対する前記フィードバック制御を順次実行する様に構成されていること。
【請求項2】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項1に記載の潅水装置。
(2A)前記給液ユニットは、前記薬液ポンプが前記原水に肥料を混入させるための肥料吐出ポンプであって、前記フローセル内には前記センサとしてEC値を検出するECセンサを備え、前記設定値には目標EC値が設定されていること。
(2B)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御の初回に、前記目標EC値に対して収束する前の立ち上がり時の前記肥料吐出ポンプに対する制御条件をEC立ち上がり時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には当該EC立ち上がり時学習値に基づいて前記肥料吐出ポンプに対するフィードバック制御を開始する様に構成されていること。
【請求項3】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項2に記載の潅水装置。
(3)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御において、前記設定値を中心とする不感帯を設定し、前記検出値と前記設定値の差が前記不感帯に収まっている場合は前記信号を維持する制御を実行する様に構成されていること。
【請求項4】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項2に記載の潅水装置。
(4A)前記給液ユニットは、前記薬液ポンプを複数台備え、該複数台の内の少なくとも1台は前記原水に肥料を混入させるための肥料吐出ポンプであり、少なくとも他の1台は前記原水に酸又はアルカリを混入させるためのpH調整用吐出ポンプであって、前記フローセル内には前記センサとしてEC値を検出するECセンサと、pH値を検出するpHセンサとを備え、前記設定値には目標EC値と目標pH値とが設定されていること。
(4B)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御において、前記目標EC値に収束した状態における前記肥料吐出ポンプに対する制御条件をEC安定時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には前記EC立ち上がり時学習値及び前記EC安定時学習値に基づいて前記肥料吐出ポンプに対するフィードバック制御を実行し、前記目標pH値に対して収束した状態における前記pH調整用吐出ポンプに対する制御条件をpH安定時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には当該pH安定時学習値に基づいて前記pH調整用吐出ポンプに対するフィードバック制御を実行する様に構成されていること。
【請求項5】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の潅水装置。
(5)前記潅水制御装置は、前記薬液ポンプとして複数種類の肥料を別個に吐出する複数台の肥料ポンプを備え、前記潅水グループに割り当てられたバルブ毎に前記設定値として目標EC値が設定されると共に、前記複数台の肥料ポンプに対して、単位EC値を実現するための肥料吐出量をポンプ同士の吐出量の比率で設定可能に構成され、前記フィードバック制御に際しては、前記単位EC値を実現するための前記吐出量の比率と前記目標EC値とから、前記複数台の肥料ポンプに対する信号を出力する様に構成されていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潅水装置に係り、特に、原水に液肥等の薬液を混合させた希釈薬液を用いて潅水を行うための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原水に液肥等の薬液を混合させた希釈薬液を用いた潅水を行うための装置に関する提案がなされている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
特許文献1に記載された装置は、薬液ポンプによって供給される薬液と、給水ポンプによって供給される水とを混合槽内で混合して希釈薬液を生成し、この希釈薬液を混合槽から供給槽へと送出ポンプで送出し、供給槽に貯留した希釈薬液を作業機に送出して潅水を行う構成となっている。そして、混合槽及び供給槽には液量センサを設置し、この液量センサの検知した各槽の液量に基づいて薬液ポンプ、給水ポンプ及び送出ポンプを駆動制御することで、所望濃度の希釈薬液を散布できる様に構成されている。
【0004】
特許文献2に記載された装置は、液肥(薬液)と希釈用の原水とを合流させて下流側に送出する供給路中に、両液が合流した液を濾過する濾過部を設け、濾過部によって混合された培養液の電気伝導度(EC値)を測定し、測定されるEC値に比例させて液肥(薬液)を供給路に供給する液肥ポンプを駆動制御し、培養液(希釈薬液)の肥料濃度を目標肥料濃度に一致させる構成となっている。
【0005】
特許文献3に記載された装置は、液肥槽の液肥(薬液)の状態をECセンサ及びpHセンサで検知し、液肥槽内の液肥(薬液)の濃度が薄くなったら養液タンクから養液(薬液)を供給することで、液肥槽内のpH値とEC値との濃度が適正になるように制御する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-61546(要約,図1
【文献】特開2004-298055(要約,図1
【文献】特開2016-178891(要約,図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,3に記載の装置は、予め希釈薬液タンクを設置する必要があるため、潅水バルブ毎に肥料濃度を変更できないという問題がある。特に、栽培ステージの異なる区画が存在する圃場や、作物や品種が異なり、肥培管理を別々に行わないといけないような圃場では、それぞれに装置導入が必要になるという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載の装置は、この様なタンクを必要としないものの、濃度ムラのない希釈薬液を生成するため、混合機の機能を兼ねさせるためのフィルタエレメントを必要とする。このため、潅水時の希釈薬液の供給量が抑制されるおそれや、濾過部のメンテナンスが必要であったり、流速の変化や希釈薬液濃度が低い場合により混合精度が低下するという問題がある。
【0009】
この結果、特許文献1~3に記載の装置は、様々な形態の圃場に対して潅水を行うための汎用性に欠けるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、様々な形態の圃場に対して所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明の潅水装置は、原水タンクに貯留した原水に薬液を混入させた希釈薬液を用いて圃場に対する潅水を行う装置であって、前記希釈薬液を生成する給液ユニットと、前記給液ユニットにおいて生成する希釈薬液の濃度を設定値に収束させる制御を実行する潅水制御装置とを備え、さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする。
(1A)前記給液ユニットは、前記原水タンクから前記圃場へと送水を行うための送水ポンプを備える送水路と、前記送水路において前記送水ポンプの下流側で分岐させた取り入れ口から当該送水ポンプの上流側の戻し口へと戻る定流量の循環路と、を備え、前記循環路に設置された薬液ポンプによって前記薬液を前記原水に混入させるインラインミキシング方式を採用していること。
(1B)前記取り入れ口よりも上流側かつ前記送水ポンプよりも下流側に流入口を有し、前記薬液ポンプよりも下流側かつ前記送水ポンプよりも上流側に流出口を有するフローセルを備え、当該フローセル内には、前記希釈薬液の濃度を検出するセンサが設置されていること。
(1B)前記循環路には、前記取り入れ口よりも上流側かつ前記送水ポンプよりも下流側に流入口を有し、前記薬液ポンプよりも下流側かつ前記送水ポンプよりも上流側に流出口を有するフローセルを備え、当該フローセル内には、前記希釈薬液の濃度を検出するセンサが設置されていること。
(1C)前記潅水制御装置は、潅水実行タイミングが到来したとき、前記薬液ポンプに信号を出力し、前記送水ポンプを起動すると共に潅水バルブを開いて前記圃場への潅水を開始し、潅水完了までの間、前記センサによる検出値を前記設定値に収束させる様に、フィードバック制御によって前記薬液ポンプの薬液吐出量を増減させる制御処理を実行する様に構成されていること。
(1D)前記潅水制御装置は、前記潅水実行タイミングの異なる複数の潅水グループに対して前記設定値を別個に設定可能に構成され、前記潅水実行タイミングが到来するたびに、当該潅水実行タイミングにおいて潅水を実行する潅水グループに対する前記フィードバック制御を順次実行する様に構成されていること。
【0012】
本発明の潅水装置によれば、潅水制御装置は、潅水実行タイミングが到来したとき、薬液ポンプに信号を出力し、送水ポンプを起動すると共に潅水バルブを開いて圃場への潅水を開始し、潅水完了までの間、センサによる検出値を設定値に収束させる様に、フィードバック制御によって薬液ポンプの薬液吐出量を増減させる制御処理を実行する。薬液ポンプは送水路から分岐された定流量の循環路に設けられ、潅水制御装置からの信号を受けると循環路へと薬液を吐出する。センサは、循環路への取り入れ口よりも上流側かつ送水ポンプよりも下流側に流入口を有し、薬液ポンプよりも下流側かつ送水ポンプよりも上流側に流出口を有するフローセル内に設置されているから、例えば、パルス駆動によって間欠的に混入される薬液の濃度ムラの影響を受けることなく検出を行うことができる。また、循環路内において薬液ポンプの近傍では濃度ムラが生じていても、定流量で循環する循環路と送水ポンプによる攪拌が行われる結果、送水路に戻る頃には濃度ムラは解消される。ここで、潅水制御装置は、潅水実行タイミングの異なる複数の潅水グループに対して設定値を別個に設定可能に構成され、潅水実行タイミングが到来するたびに、当該潅水実行タイミングに潅水を実行する潅水グループに対するフィードバック制御を順次実行する。この結果、本発明の潅水装置によれば、濃度にムラが生じることなく、様々な形態の圃場に対して所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を行うことができる。
【0013】
ここで、本発明の潅水装置は、さらに、以下の構成をも備えた装置とすることができる。
(2A)前記給液ユニットは、前記薬液ポンプが前記原水に肥料を混入させるための肥料吐出ポンプであって、前記フローセル内には前記センサとしてEC値を検出するECセンサを備え、前記設定値には目標EC値が設定されていること。
(2B)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御の初回に、前記目標EC値に対して収束する前の立ち上がり時の前記肥料吐出ポンプに対する制御条件をEC立ち上がり時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には当該EC立ち上がり時学習値に基づいて前記肥料吐出ポンプに対するフィードバック制御を開始する様に構成されていること。
【0014】
EC値の学習機能を備えた潅水装置によれば、初回フィードバック制御における立ち上がり時の制御条件(立ち上がり時EC学習値)を学習する。ここで、初回フィードバック制御は、圃場への潅水の初回であってもよいが、試運転時を初回とするとよい。この立ち上がり時EC学習値を次回以降の灌水時に用いることにより、潅水開始時の肥料投入量を大きくすることにより、EC値を迅速に目標値へと収束させる様に希釈薬液を生成することができる。
【0015】
EC値に対する学習機能を備えた潅水装置は、さらに、以下の構成をも備えた装置とすることができる。
(3)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御において、前記設定値を中心とする不感帯を設定し、前記検出値と前記設定値の差が前記不感帯に収まっている場合は前記信号を維持する制御を実行する様に構成されていること。
【0016】
不感帯を有するフィードバック制御を採用することにより、オーバーシュートやアンダーシュートを繰り返すことなくEC値を目標値に収束させることができるから、適切な学習を実現することができる。
【0017】
また、EC値の学習制御機能を備えた潅水装置は、さらに、以下の構成をも備えた装置とすることができる。
(4A)前記給液ユニットは、前記薬液ポンプを複数台備え、該複数台の内の少なくとも1台は前記原水に肥料を混入させるための肥料吐出ポンプであり、少なくとも他の1台は前記原水に酸又はアルカリを混入させるためのpH調整用吐出ポンプであって、前記フローセル内には前記センサとしてEC値を検出するECセンサと、pH値を検出するpHセンサとを備え、前記設定値には目標EC値と目標pH値とが設定されていること。
(4B)前記潅水制御装置は、前記フィードバック制御において、前記目標EC値に収束した状態における前記肥料吐出ポンプに対する制御条件をEC安定時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には前記EC立ち上がり時学習値及び前記EC安定時学習値に基づいて前記肥料吐出ポンプに対するフィードバック制御を実行し、前記目標pH値に対して収束した状態における前記pH調整用吐出ポンプに対する制御条件をpH安定時学習値として記憶し、次回以降の灌水時には当該pH安定時学習値に基づいて前記pH調整用吐出ポンプに対するフィードバック制御を実行する様に構成されていること。
【0018】
EC値に加えてpH値の学習機能を備えた潅水装置によれば、EC値は初回立ち上がり時及び収束時、pH値は収束時を学習する。これにより、フィードバック制御に対する追従性の異なるEC値とpH値を、いずれも迅速に目標値へと収束させる様に希釈薬液を生成することができる。
【0019】
これら本発明の潅水装置は、さらに、以下の構成をも備えた装置とすることができる。
(5)前記潅水制御装置は、前記薬液ポンプとして複数種類の肥料を別個に吐出する複数台の肥料ポンプを備え、前記潅水グループに割り当てられたバルブ毎に前記設定値として目標EC値が設定されると共に、前記複数台の肥料ポンプに対して、単位EC値を実現するための肥料吐出量をポンプ同士の吐出量の比率で設定可能に構成され、前記フィードバック制御に際しては、前記単位EC値を実現するための前記吐出量の比率と前記目標EC値とから、前記複数台の肥料ポンプに対する信号を出力する様に構成されていること。
【0020】
この様に、複数台の肥料ポンプ同士の吐出量を単位EC値に対する倍率ではなく、比率で設定することにより、潅水制御装置に対する設定を単純化することができる。これにより、潅水実行タイミングの異なる複数の潅水グループに対する肥料混入条件を適確に設定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、様々な形態の圃場に対して所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1の潅水装置の全体構成を示す模式図である。
図2】実施例1の給液ユニットを示す正面図である。
図3】実施例1の潅水制御装置を示し、(A)は正面図、(B)は斜視図、(C)はタッチパネル部分の拡大正面図である。
図4】実施例1の潅水制御装置における表示画面を示し、(A)はシステム状態画面の説明図、(B),(C)は潅水グループ設定画面の説明図である。
図5】実施例1の潅水制御装置における表示画面を示し、(A)~(D)は潅水レシピ設定画面の説明図、(E)は潅水グループバルブ設定画面の説明図である。
図6】実施例1の潅水制御装置が実行する潅水制御処理の手順の内、主としてEC制御の処理手順を示すフローチャートである。
図7】実施例1の潅水制御装置が実行する潅水制御処理の手順の内、主としてpH制御の処理手順を示すフローチャートである。
図8】実施例1の潅水制御装置におけるEC制御に関する学習機能を示し、(A)は初回潅水時の肥料混入状態を例示するグラフ、(B)はその学習値を例示する説明図、(C)は初回学習と通常潅水におけるEC値の変化を例示するグラフ、(D)は不感帯を有するフィードバック制御の説明図である。
図9】実施例1の潅水制御装置におけるpH制御に関する学習機能を示し、(A)は初回潅水時のpH値の変化を例示するグラフ、(B)は2回目灌水時のpH値の変化を例示するグラフ、である。
図10】実施例1の潅水装置の作用・効果を示し、(A)は希釈薬液貯留タイプの装置における問題点を示す説明図、(B)は送水路に直接混入するタイプにおける問題点を示す説明図、(C)は実施例1の潅水装置の作用・効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に示す具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
実施例1の潅水装置1は、図1に示す様に、原水タンク2に貯留した原水に薬液を混合した希釈薬液を用いて圃場3に対する潅水を行う装置であって、希釈薬液を生成する給液ユニット10と、潅水制御装置50とを備えている。
【0025】
給液ユニット10は、図1図2に示す様に、原水タンク2から圃場3へと送水を行うための送水ポンプPを備える送水路11と、送水路11において送水ポンプPに対して下流側で分岐して上流側へと戻る循環路12とを備え、この循環路12において薬液を混入させるインラインミキシング方式を採用したものである。
【0026】
循環路12には、薬液を混入させるための複数台の肥料ポンプfp1,fp2,fp3,…が備えられると共に、送水ポンプPの上流側と下流側との間を結ぶ様に設置されたフローセル13を備えている。このフローセル13には、ECセンサse1と、pHセンサse2とが設置されている。フローセル13は、循環路12を流れる希釈薬液を、送水路11から循環路12への取り入れ口12aよりも上流側かつ送水ポンプよりも下流側に位置する流入口13aから流入させ、送水ポンプPの上流側であって肥料ポンプfp1,p2,fp3,…の下流側に位置する流出口13bから流出させて循環路12へと戻す様に設置されている。
【0027】
循環路12には、その分岐位置(取り入れ口12a)と肥料ポンプfp3との間の位置に定流量弁cfvが設置されている。
【0028】
送水路11には、原水タンク2と循環路12からの戻し口12bの間となる位置に逆止弁nrvが設置され、循環路12への取り入れ口12aの下流側の位置に流量計flm及び圧力センサpgが設置されている。また、送水路11には、圃場3に対して所望のタイミングで潅水を実行するための潅水バルブの電磁弁svi1,svi2,…も設置されている。
【0029】
図2に示す様に、これら給液ユニット10を構成する機器等は、架台14に組み付けられている。また、循環路12にはドレンバルブ15が備えられ、送水路11には、循環路12への取り入れ口12aよりも下流側に空気抜き弁16と、追加注入口17とが備えられている。
【0030】
潅水制御装置50には、図1に示す様に、ECセンサse1及びpHセンサse2からの検出信号がトランスミッターtrsを介して入力されている。また、潅水制御装置50には、流量計flm及び日照センサsedlからの検出信号も入力されている。
【0031】
また、潅水制御装置50からは、送水ポンプP、肥料ポンプfp1,fp2,fp3,…、潅水用の電磁弁svi1,svi2,…に対して制御信号が出力される様になっている。また、潅水制御装置50は、管理用のPC100との間でデータの送受信を行う様に接続されている。
【0032】
潅水制御装置50は、図3に示す様に、防水ケース51に潅水制御のための電子機器を収納したものであって、ケース蓋52の正面上部にタッチパネル60を備えると共に、ケース側面にタッチペン53が、ケース底面にグロメット54,54が備えられている。給液ユニット10のセンサ等との接続用の配線は、このグロメット54を介して接続される。
【0033】
タッチパネル60の横には、システム状態ボタン61、潅水ボタン62、フィルタ洗浄ボタン63、履歴ボタン64、設定ボタン65が備えられ、下部中央には電源ランプ66が備えられている。
【0034】
タッチパネル60は、状態や設定の表示・入力を行うために用いられ、システム状態ボタン61等を押下することによって画面表示を切り替えることができる様に構成されている。システム状態ボタン61を押下すると、システムの全体とネットワークの接続状態を表示するシステム状態画面の表示に切り替わる。潅水ボタン62を押下すると、潅水動作設定と手動による潅水操作を行うための潅水画面の表示に切り替わる。フィルタ洗浄ボタン63を押下すると、フィルタ洗浄設定と手動によるフィルタ洗浄を行うための操作を行うフィルタ洗浄画面の表示に切り替わる。履歴ボタン64を押下すると、消費量、アラーム履歴、機器のメンテナンス履歴を表示する履歴画面の表示に切り替わる。設定ボタン65を押下すると、各種設定を入力する設定画面の表示に切り替わる。
【0035】
システム状態画面を表示すると、図4(A)に示す様に、「システム状態タブ」に対応する画面表示となり、現在の動作状態や次回の動作状態が表示される。
【0036】
(1a)現在動作欄71aには現在の状況(潅水グループ、潅水レシピ番号等の設定)が表示される。
(1b)潅水量欄71bには現在/設定の水量が表示される。
(1c)次回時刻欄71cには自動潅水における次回潅水時刻が表示される。
(1d)次回動作欄71dには、次回潅水が行われる潅水グループ・系統番号・潅水レシピ番号が表示される。
(1e)停止ボタン71eは、現在動作中の潅水を停止させたいときにタッチするボタンである。
(1f)天気モード欄71fは、設定潅水量を100%としたときの潅水量の割合を表示し、例えば、雨天時50%、快晴時120%といった具合に、増減することができる。
(1g)計測値表示欄71gには、ECセンサse1、pHセンサse2、流量計flmの各計測値が表示される。
(1h)潅水経路図表示71hは、潅水中に動作している機器・水が流れている箇所の色が変わる様になっている。
【0037】
図4(A)の表示例では、現在は「潅水グループ4に対して潅水バルブ16を用いて潅水レシピ20に従った自動潅水を実行する状態(現在動作欄71a)」にあり、次回は「潅水グループ5に対して潅水バルブ15を用いて潅水レシピ19に従った自動潅水を実行する状態(次回動作欄71d)」が設定されていることを示している。
【0038】
この様に、本実施例の潅水制御装置50は、圃場内において潅水を実行するグループを複数設定することができ、それぞれに対して異なる潅水レシピに従った潅水の実行を設定することができる。これは、圃場内における作物の生育段階の違いや種類の違いなどに応じて最適なEC値、pH値の希釈薬液を用いて最適な潅水量、潅水間隔、潅水時刻等を事由に設定することで様々な態様の圃場に適用するためである。
【0039】
このシステム状態画面において、潅水タブにタッチすると、図4(B)に示す様に「潅水グループ画面」が表示される。
【0040】
(2a)作動モード欄72aは自動とするかOFFとするかをタッチ操作によって切り替えるための欄である。
(2b)開始日付欄72bは、自動潅水を実行し始めた日を入力するための欄である。
(2c)開始時刻欄72cは、何時から潅水を開始するかを入力するための欄である。
(2d)開始時刻欄72cに入力した時刻は、次回潅水時刻となり、次回表示欄72dに表示される。
(2e)潅水間隔欄72eは、潅水を行う間隔を分単位で入力する欄である。
(2f)回数/日欄72fは、1日の潅水回数を入力する欄である。
(2g)回数/日欄72fに潅水回数を入力すると、残回数欄72gに本日の残り潅水回数が表示される。
(2h)潅水日間隔欄72hは、何日ごとに潅水を行うかを入力する欄である。なお、「1」を入力すると「毎日」の設定となる。
(2i)潅水日間隔欄72hに数値が入力されると、残日数欄72iに次の潅水を行う日が表示される。
【0041】
この画面において送りボタン72xを操作すると、図4(C)に示す様に、「潅水グループ画面」の2頁目に切り替わる。
【0042】
(2j)管理時間帯欄72jには、管理する時間帯を入力する。
(2k)外部起動欄72kは、外部起動を行う場合に使う外部起動番号をタッチ操作によって選択するための欄である。
(2l)手動開始ボタン72lは、手動で潅水を行う際にタッチするためのボタンである。
(2m)潅水停止ボタン72mは、現在動作中の潅水を停止させるためのボタンである。
【0043】
なお、この画面において戻りボタン72yを操作すると、「潅水グループ画面」の1頁目の表示(図4(B))に戻すことができる。本実施例の潅水制御装置50においては、グループ1~グループ5について、潅水開始時刻や潅水間隔などを異なる設定とすることができる。
【0044】
次に、「潅水レシピタブ」にタッチすると、図5(A)に示す画面に切り替わり、「潅水レシピ」の入力が可能となる。潅水量入力欄73aには、レシピ毎に潅水量を入力する。なお、この欄のカーソルボタン73bを操作することで、入力方法を、「L(リットル)」、「cc/株」、「cc/坪」の中からいずれかを選択することができる様になっている。また、レシピ毎にEC値入力欄73c、pH値入力欄73dが設けられており、それぞれ、目標EC値、目標pH値を入力する。
【0045】
項目送りボタン73xにタッチすることにより、図5(B)に示す画面に切り替わり、レシピごとの倍率入力欄73eを開くことができる。倍率入力欄73eには、EC1.0が設定されているときの肥料混入倍率を入力する。図では、EC1.0が設定されている場合の希釈倍率が「440」に設定された例を示している。
【0046】
さらに項目送りボタン73xにタッチすることにより、図5(C)に示す画面に切り替わり、レシピごとの第1,第2の肥料混入量入力欄73f,73hを開くことができる。肥料混入量入力欄73f,73hは、カーソルボタン73g,73iを操作することで、入力方法を、「比率」、「倍率」のいずれかに選択することができる様になっている。「比率」を選択した場合は、複数種類の肥料同士の混入比率を設定することができる。「倍率」を選択した場合は、複数種類の肥料同士の混入倍率を設定することができる。「比率」での入力を可能にすることにより、幅広い処方を実現している。なお、本実施例においては、混入方法がECとなっていた場合は「比率」のみが表示される。
【0047】
さらに項目送りボタン73xにタッチすることにより、図5(D)に示す画面に切り替わり、レシピごとの第3,第4の肥料混入量入力欄73j,73lを開くことができる。肥料混入量入力欄73j,73lも、カーソルボタン73k,73mを操作することで、入力方法を、「比率」、「倍率」のいずれかに選択することができる様になっている。本実施例では、pH制御のための酸の混入を第3の肥料入力欄73jに入力する。ここでも、本実施例では、混入方法が酸となっていた場合は「倍率」のみが表示される。これは、pH値を調整するためのもだからである。なお、本実施例では、第4の肥料混入量入力欄73lを、EC制御、pH制御とは別の薬液を混入する場合に混入倍率で数値を設定することを想定している。
【0048】
本実施例では、潅水レシピとして最大20種類のレシピを設定可能としている。レシピ6以下を設定する場合は、ダウンボタン73vを操作する。なお、戻りボタン73yの操作によって、頁を戻すことができる。
【0049】
次に、「潅水グループバルブタブ」にタッチすると、図5(E)に示す画面に切り替わり、潅水グループバルブ入力欄74aが表示される。潅水グループ入力欄74aは、「潅水グループ」と「潅水レシピ」と「バルブ」の関連付けを行うための入力欄である。より具体的には、各バルブにどの潅水時期にどのレシピで潅水を実行するかを入力する。図示の例は、潅水グループ1の潅水時期に対してバルブ1にレシピ1、バルブ2にレシピ2、バルブ3にレシピ3を対応付けている。なお、バルブ4は「0」、即ち潅水しない設定を例示している。
【0050】
この様に、本実施例の潅水装置1は、種類の異なる作物や、種類は同じであっても成長段階の異なる作物を栽培する圃場に対して、作物の種類、成長段階に合わせたEC値、pH値を個別に設定し、潅水時刻を同じくする潅水グループとしてグループ化した上で、固有の潅水レシピに従って潅水を実行する。
【0051】
図6に示す様に、ある潅水グループnに対して設定された潅水時刻Tnが到来すると(S10)、潅水制御装置50は、送水ポンプPを起動し(S20)、当該潅水グループnに対して設定されていた潅水バルブを開くために電磁弁svin(nは潅水グループに対して設定された電磁弁の番号)を開く(S30)。これによって、潅水グループnに対する希釈薬液を用いた潅水が開始される。
【0052】
次に、潅水制御装置50は、EC制御における初回の立ち上がり学習を実行するタイミングであるか否かを判断する(S40)。この判定が「YES」の場合は、フローセル13内に設置したECセンサse1の検出値がEC設定値に達するまで肥料ポンプfp1,fp2に対するパルス信号出力を開始する(S110)。すると、図8(A)に例示する様に、EC値が漸増していく。図示の例では、10秒前後で設定EC値に達していることが分かる。本実施例においては、肥料混入開始後30秒間のEC値の変化とそのときのパルス信号の間隔を立ち上がり時学習値として学習する(S120)。その後、EC1.0の倍率から算出された目標EC値に対応する肥料投入量に基づき、肥料ポンプに対するパルス信号出力を開始する(S130)。
【0053】
図5の設定例に基づいて説明すると、レシピ1に対して、「目標EC値=1.6」、「EC1.0=440倍」が設定されていることから、S130の処理では、440×1.6=704倍に肥料を薄めた状態となる様に算出したパルス信号の間隔に基づいて信号出力を開始する。
【0054】
こうして立ち上がり時学習値の学習が完了し、EC1.0の設定倍率に基づいて算出した目標EC値に対応するパルス信号出力が開始されたら、潅水制御装置50は、ECセンサse1から入力されたEC値ECdvと設定されているEC値ECsvとを比較し、ECdv<ECsvの場合は(S210:YES)、ECsv-ECdvが所定値(-A)を下回っているか否かを判定する(S220)。「YES」と判定された場合は、肥料ポンプfp1,fp2に対するパルス信号の間隔を短くする(S230)。これにより、肥料の混入量が増加される。
【0055】
一方、潅水制御装置50は、S210の判定が「NO」の場合は、ECdv>ECsvとなっているか否かを判定し(S240)、「YES」の場合は、ECsv-ECdvが所定値(+A)を上回っているか否かを判定する(S250)。「YES」と判定された場合は、肥料ポンプfp1,fp2に対するパルス信号の間隔を長くする(S260)。これにより、肥料の混入量が減少される。
【0056】
これに対し、S210の判定が「YES」であってS220の判定が「NO」の場合、及び、S240の判定が「YES」であってS250の判定が「NO」の場合、S210,S240が共に「NO」の場合は、潅水制御装置50は肥料ポンプfp1,fp2に対するパルス信号の間隔をそのまま維持する。
【0057】
以上の様にして、肥料ポンプfp1,fp2に対するパルス信号を不感帯をもったフィードバック制御によって速やかに安定させていく。
【0058】
以上の制御を、流量計flmの検出値に基づき、当該潅水グループに対して設定された量の希釈薬液による潅水が終了するまで実行し(S50:NO→S210)、潅水が終了したら(S50:YES)、EC安定時の倍率をEC安定時学習値として学習し(S60)、潅水バルブを閉じる(S70)。
【0059】
一方、S40の判定が「NO」の場合は、潅水制御装置50は、ECセンサse1から入力されたEC値ECdvと設定されているEC値ECsvとを比較し、ECdv<ECsvの場合は(S115:YES)、EC設定値に対応する投入量に基づき、肥料ポンプに対してパルス信号出力を開始する(S125)。このとき、投入開始時は、立ち上がり学習値を使用する。その後、EC制御対象となっている肥料ポンプfp1,fp2に対し、S60で学習したEC安定時学習値に対応するパルス信号出力を開始し(S135)、S210以下の処理へと進む。
【0060】
潅水制御装置50は、EC制御と併行してpH制御も実行している。pH制御においては初回立ち上がり学習は実行しないので、S40の判定は「NO」となり、図7の制御処理へと進み、pH制御対象となっている肥料ポンプfp3に対し、安定時学習値に対応するパルス信号出力を開始する(S300)。なお、最初の潅水時には、安定時学習値が存在しないが、その場合は、図5(D)に例示したレシピの倍率に従ってパルス信号を生成する。
【0061】
次に、潅水制御装置50は、フローセル13内に設置されているpHセンサse2から入力されたpH値pHdvと、図5(A)に例示した様にレシピ毎に設定されているpH値pHsvとを比較し(S310)、pHdv<pHsvの場合は(S320)、pHsv-pHdvが所定値(-B)を下回っているか否かを判定する(S330)。「YES」と判定された場合は、肥料ポンプfp3に対するパルス信号の間隔を短くする(S340)。これにより、酸の混入量が増加される。
【0062】
一方、潅水制御装置50は、S320の判定が「NO」の場合は、pHsv-pHdvが所定値(+B)を上回っているか否かを判定する(S350)。「YES」と判定された場合は、肥料ポンプfp3に対するパルス信号の間隔を長くする(S360)。これにより、酸の混入量が減少される。
【0063】
これに対し、S320の判定が「YES」であってS330の判定が「NO」の場合、及び、S350の判定が「YES」であってS360の判定が「NO」の場合は、潅水制御装置50は、肥料ポンプfp3に対するパルス信号の間隔をそのまま維持する。
【0064】
以上の様にして、肥料ポンプfp3に対するパルス信号を不感帯をもったフィードバック制御によって速やかに安定させていく。
【0065】
以上の制御を、流量計flmの検出値に基づき、当該潅水グループに対して設定された量の希釈薬液による潅水が終了するまで実行し(S370:NO→S310)、潅水が終了したら(S370:YES)、pH安定時の倍率をpH安定時学習値として学習する(S380)。
【0066】
以上の様に、本実施例においては、EC制御において、初回フィードバック制御時の制御初期の30秒間におけるEC検出値ECdvの変化を、図8(A),(B)に例示する様に、EC立ち上がり時学習値として記憶する。また、潅水終了時のフィードバック制御が安定した収束時の制御値も記憶する。なお、EC立ち上がり時学習値は、試運転時に学習しておくとよい。
【0067】
立ち上がり時の学習値は、潅水開始直後において肥料ポンプfp1,fp2に対して出力するパルス信号の間隔に反映させれ、図8(C)に示す様に、立ち上がり時の肥料混入量を増大させる。これにより、次回以降の潅水時においてEC値を迅速に設定ECへと収束させることができる。また、収束時の制御値の学習結果により、速やかな安定制御へと移行することができる。なお、EC制御のためのフィードバック制御における目標値・不感帯・比例制御帯の関係を図8(D)に示す。なお、EC安定時学習値については2回目以降も学習を続けることで、潅水を繰り返す間に肥料混入量の最適値を見つけることができる。
【0068】
また、pH制御における学習値は、潅水開始直後における肥料ポンプfp3に対して出力するパルス信号の間隔に反映させれ、図9(A),(B)に示す様に、初回は設定倍率のまま酸の混入を開始するため設定pHで安定するまでに時間がかかっているものの、2回目以降は学習値に基づいて制御を開始する結果、設定pHへと速やかに安定する。なお、潅水を繰り返すたびに学習することで、制御開始時の最適な酸の投入量を見つけることができる。
【0069】
ここで、特許文献1,3に記載の潅水装置の様に、予め希釈薬液タンクを設置する装置構成で、様々な形態の圃場に対して潅水を行うには、図10(A)に示す様に、潅水グループ毎に希釈薬液タンクを多数設置する必要がある。
【0070】
また、図10(B)に示す様に、パルス駆動の肥料ポンプで送水路に直接肥料を混入する場合、フィードバック制御によるパルス間隔の変化に対応して希釈薬液に濃淡が生じる。特許文献2に記載の潅水装置は、「混合機の機能を兼ね備える濾過部」を設けることで、こうした濃淡を生じない様にしているが、[発明が解決しようとする課題]の欄で説明した通り、潅水時の希釈薬液の供給量が抑制されるおそれや、流速により混合精度に差が出るという問題がある。
【0071】
これに対し、本実施例の潅水装置1によれば、循環路12に対して肥料ポンプfp1,fp2,fp3,…をパルス駆動して肥料混入を実行するインラインミキシング方式を採用したことにより、フィードバック制御によってパルス間隔を調整しても、図10(C)に示す様に、濃淡のない希釈薬液を用いて圃場3に対する潅水を実行することができる。また、このフィードバック制御を行うためのEC値,pH値の検出を、循環路12に設置したフローセンサ13内で検出する構成を採用したことにより、循環路12への肥料投入がパルス駆動で行われていても、その影響を受けることなく適正な濃度を検出することができている。これらの作用・効果が得られる結果、潅水グループ毎に異なるレシピを設定した場合にも、装置構成を複雑にすることなく、所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を実行することができる。この結果、実施例の潅水装置1は、様々な形態の圃場に対して所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を行うことを可能にする。
【0072】
また、実施例の潅水装置1によれば、循環路12に設置したフローセル13内でEC値、pH値を検出してフィードバック制御によるEC制御及びpH制御を行っている。この結果、所望の濃度の希釈薬液を適確に生成することができる。
【0073】
さらに、実施例の潅水装置1によれば、EC制御の立ち上がり時のEC検出値ECdvを学習し、フィードバック制御に不感帯を設けているから、図8(B)に示した様に、次回以降の通常潅水において迅速かつ安定的な濃度調整を行うことができる。
【0074】
EC制御及びpH制御における学習を、2回目以降も実行することにより、潅水を繰り返すたびに最適な薬液混入量による立ち上がり制御を実行することができる。
【0075】
なお、本実施例の潅水装置1は、循環路12の下流側に追加注入口17を備えているから、潅水制御装置50によって混入させる薬液以外の薬液を追加混入させることができる。
【0076】
また、本実施例においては、潅水制御装置50における潅水グループ設定やレシピ設定のためのソフトウェアを管理用のPC100にインストールすることができ、複雑な設定作業は、管理用のPC100で実行し、その結果を潅水制御装置50に送ることができる様に構成されている。
【0077】
以上説明した実施例によれば、給液ユニット10の特長として、次の事項を挙げることができる。
(イ)循環路に定流量弁cfvを設けることにより、循環路12の流量を一定に保ち攪拌性能を維持できること。
(ロ)定流量弁cfvがあることで送水路(圃場)への流量を確保できること。
(ハ)ただの分岐では、循環路にしか水が流れなくなるところを、定流量弁cfvで制限をかけていること。
(ニ)循環路が定流量であるため、ここから取水して計測を行っているフローセル内の流量も最低限の流量が確保され、センサに対して希釈薬液がしっかり触れることで計測精度がよいこと。
【0078】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内においてさらに種々の形態を採用することができることはもちろんである。
【0079】
実施例ではパルス駆動式の薬液ポンプを採用しているが、定量ポンプ式の薬液ポンプを採用した潅水設備としても本発明を適用することができる。実施例では、EC制御とpH制御を実施しているが、EC制御のみの実施であっても構わない。実施例ではpH制御において酸を投入しているがアルカリの投入としても構わない。実施例では、定流量弁で循環路内の流量を一定にしているが、仕切弁の開度調整によって定流量とする構成であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
農業用栽培設備に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・潅水装置、2・・・原水タンク、3・・・圃場、10・・・給液ユニット、11・・・送水路、12・・・循環路、12a・・・取り入れ口、12b・・・戻し口、13・・・フローセル、13a・・・流入口、13b・・・流出口、14・・・架台、15・・・ドレンバルブ、16・・・空気抜き弁、17・・・追加注入口、50・・・潅水制御装置、60・・・タッチパネル、61・・・システム状態ボタン、62・・・潅水ボタン、63・・・フィルタ洗浄ボタン、64・・・履歴ボタン、65・・・設定ボタン、66・・・電源ランプ、73a・・・潅水量入力欄、73b・・・カーソルボタン、73c・・・EC値入力欄、73d・・・pH値入力欄、73e・・・倍率入力欄、73f・・・第1の肥料混入量入力欄、73g・・・カーソルボタン、73h・・・第2の肥料混入量入力欄、73i・・・カーソルボタン、73j・・・第3の肥料混入量入力欄、73k・・・カーソルボタン、73l・・・第4の肥料混入量入力欄、73m・・・カーソルボタン、100・・・管理用のPC。
cfv・・・定流量弁、flm・・・流量計、fp1,fp2,fp3・・・肥料ポンプ、P・・・送水ポンプ、se1・・・ECセンサ、se2・・・pHセンサ、sedl・・・日照センサ、svi1,svi2・・・電磁弁。
【要約】
【課題】様々な形態の圃場に対して所望の濃度の希釈薬液を用いた潅水を行う。
【解決手段】給液ユニット10は、送水路11において送水ポンプPの上流側で分岐して下流側へと戻る循環路12に設置されたパルス駆動式の肥料ポンプfp1等によって肥料1,肥料2、酸を原水に混入させるインラインミキシング方式を採用している。循環路12にはフローセール13を備え、フローセル内でEC値及びpH値を検出する。潅水制御装置10は、潅水時刻の異なる複数の潅水グループに割り当てられた潅水バルブごとに設定値を別個に設定可能に構成され、潅水時刻が到来するたびに、肥料ポンプfp1等にパルス信号を出力し、送水ポンプPを起動すると共に潅水バルブを開いて圃場3への潅水を開始し、潅水完了までの間、センサse1,se2による検出値を設定値に収束させる様に、潅水グループごとの設定に応じたフィードバック制御を順次実行する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10