(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】シリンダ用腐食装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B41C 1/02 20060101AFI20240301BHJP
B41C 1/18 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B41C1/02
B41C1/18
(21)【出願番号】P 2023575162
(86)(22)【出願日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2022047902
(87)【国際公開番号】W WO2023140058
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2022005940
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131625
【氏名又は名称】株式会社シンク・ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】重田 核
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-327114(JP,A)
【文献】特開2006-035621(JP,A)
【文献】登録実用新案第3123551(JP,U)
【文献】実開昭52-066203(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0131528(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/02
B41C 1/18
C23F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽と、
被処理シリンダを、回転可能に長手方向両端を把持して前記処理槽に収容するチャック手段と、
前記被処理シリンダの長手方向外周面から所定距離をおいて設けられ、前記長手方向外周面に対して平行とされ、前記被処理シリンダの軸方向に揺動可能とされた少なくとも一つの腐食液供給管と、
前記腐食液供給管に並列せしめられ、前記腐食液供給管から腐食液を噴霧するための複数の噴霧ノズルと、
を含み、
前記腐食液供給管の内部を通って噴霧ノズルから噴霧された前記腐食液を揺動させながら前記被処理シリンダの表面に当てて前記被処理シリンダの表面に腐食を施すようにしたシリンダ用腐食装置であって、
前記噴霧ノズルが楕円形噴霧パターンを噴霧可能な楕円形噴霧ノズルであり、
前記被処理シリンダの表面に複数の楕円形噴霧パターンが揺動されながら噴霧されてなり、
前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して傾斜して形成されてなる、シリンダ用腐食装置。
【請求項2】
前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して、1°~89°傾斜して形成されてなる、請求項1記載のシリンダ用腐食装置。
【請求項3】
前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して、1°~60°傾斜して形成されてなる、請求項1記載のシリンダ用腐食装置。
【請求項4】
前記腐食液供給管が2本であり、前記被処理シリンダを挟んで、相対向して設けられている、請求項1記載のシリンダ用腐食装置。
【請求項5】
前記被処理シリンダが、グラビア印刷のための被製版ロールである請求項1記載のシリンダ用腐食装置。
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項記載のシリンダ用腐食装置を用いて、前記被処理シリンダの表面に腐食を施すようにした、シリンダ用腐食方法。
【請求項7】
前記被処理シリンダの表面に付着して前記被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れが、前記被処理シリンダの長手方向に、且つ前記傾斜して形成される前記楕円形噴霧パターンが傾斜している側に流れる、請求項6記載のシリンダ用腐食方法。
【請求項8】
前記腐食液供給管が2本であり、前記被処理シリンダを挟んで、相対向して設けられており、前記相対向して設けられた前記腐食液供給管から揺動されながら前記被処理シリンダの表面に前記複数の楕円形噴霧パターンが噴霧されてなり、前記相対向する前記2本の腐食液供給管から噴霧され前記被処理シリンダの表面に付着して前記被処理シリンダの長手方向に前記被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れが、互いに逆方向となる流れを含む、請求項7記載のシリンダ用腐食方法。
【請求項9】
請求項6記載のシリンダ用腐食方法を用いて製造されてなる、グラビアシリンダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状のシリンダ、例えばグラビア印刷に用いる中空円筒状のグラビアシリンダ(製版ロールとも呼ばれる)を作製するにあたって、版面形成用の版材である被処理シリンダに対して腐食を行うためのシリンダ用腐食装置及びそれを用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷では、被処理シリンダに対し製版情報に応じた微小な凹部(セル)を形成して版面を製作し、当該セルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。一般的なグラビアシリンダは、円筒状の鉄芯またはアルミ芯(中空ロール)を基材とし、当該基材の外周表面上に下地層や剥離層等の複数の層を形成し、その上に版面形成用の銅メッキ層(版材)を形成する。そしてこの銅メッキ層に露光、現像、腐食せしめてグラビアセルを形成し、その後グラビアシリンダの耐刷力を増すためのクロムメッキ等を施して製版(版面の製作)が完了する。
【0003】
シリンダ用腐食装置として、例えば特許文献1や特許文献2に記載の被処理ロールの腐食装置がある。
図8に、特許文献1や特許文献2に記載されるような従来の被処理ロールの腐食装置を模式的に示す。
【0004】
図8の従来の被処理ロールの腐食装置100は、処理槽(図示は省略)と、被処理シリンダ102を回転可能に長手方向両端を把持して前記処理槽に収容するチャック手段(図示は省略)と、前記被処理シリンダ102の長手方向外周面から所定距離をおいて設けられ、前記長手方向外周面に対して平行とされ、前記被処理シリンダの軸方向に揺動可能とされた少なくとも一つの腐食液供給管104a,104bと、前記腐食液供給管104a,104bに並列せしめられ、前記腐食液供給管104a,104bから腐食液を噴霧するための複数の噴霧ノズル106と、を含み、前記腐食液供給管104a,104bの内部を通って噴霧ノズル106から噴霧された前記腐食液を揺動させながら前記被処理シリンダ102の表面に当てて前記被処理シリンダ102の表面に腐食を施すようにしたシリンダ用腐食装置である。前記腐食液供給管104a,104bは被処理シリンダの軸方向に数十mmの幅で揺動させることで、噴霧の個体差や取付精度などによる被処理シリンダの面内のムラを低減させている。
【0005】
図8において、前記被処理シリンダ102は回転方向110の矢印の方向に回転し、前記噴霧ノズル106を備えた腐食液供給管104a,104bは、それぞれの揺動方向112,114の矢印の方向に揺動する構成とされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されるような従来のシリンダ用腐食装置を用いて被処理シリンダにエッチングをすると、エッチングの深さ方向のムラが数μm程度ながら生ずることがあった。近年では、より微細なパターンが求められており、高精度にエッチングすることが必要となっている。
【0007】
腐食液供給管104a,104bを被処理シリンダの軸方向に揺動可能とする揺動機構(図示は省略)によるムラの低減は、噴霧ノズル106が設けられた腐食液供給管104a,104bを揺動できる範囲のみで効果がある。つまり、上記のように数十mmの幅で腐食液供給管104a,104bを揺動させる範囲では、ムラの低減の効果はあるが、被処理シリンダ102のシリンダ面全域にムラ低減の効果はでない。より広い面積へのムラ低減対策をしようとする場合、腐食液供給管の揺動機構を大きくして腐食装置に設けなければならず、機械が大型化したり、複雑化してしまう。
【0008】
本発明者らが鋭意研究をした結果、特許文献1や特許文献2に記載の従来の被処理ロールの腐食装置では、
図8に示すように、噴霧ノズル106からの噴霧パターン108a,108bは、複数の円が並列した状態であり、それらの噴霧パターンが揺動されることになり、被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れは、
図8の太い矢印Pで示した流れとなる。この噴霧ノズル106からの噴霧パターン108a,108bが、上記したエッチングによるムラの原因になり得ることを突き止めた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-268384
【文献】WO2015/156054
【文献】WO2012/043515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、腐食の際の揺動の範囲以外であっても、被処理シリンダのシリンダ全面においてエッチングによるムラが生じず、従来よりも均一なエッチング精度を得られるようにしたシリンダ用腐食装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシリンダ用腐食装置は、処理槽と、被処理シリンダを回転可能に長手方向両端を把持して前記処理槽に収容するチャック手段と、前記被処理シリンダの長手方向外周面から所定距離をおいて設けられ、前記長手方向外周面に対して平行とされ、前記被処理シリンダの軸方向に揺動可能とされた少なくとも一つの腐食液供給管と、前記腐食液供給管に並列せしめられ、前記腐食液供給管から腐食液を噴霧するための複数の噴霧ノズルと、を含み、前記腐食液供給管の内部を通って噴霧ノズルから噴霧された前記腐食液を揺動させながら前記被処理シリンダの表面に当てて前記被処理シリンダの表面に腐食を施すようにしたシリンダ用腐食装置であって、前記噴霧ノズルが楕円形噴霧パターンを噴霧可能な楕円形噴霧ノズルであり、前記被処理シリンダの表面に複数の楕円形噴霧パターンが揺動されながら噴霧されてなり、前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して傾斜して形成されてなる、シリンダ用腐食装置である。
【0012】
前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して、1°~89°傾斜して形成されてなるのが好適である。
【0013】
前記楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して、1°~60°傾斜して形成されてなるのが好適である。
【0014】
前記腐食液供給管が2本であり、前記被処理シリンダを挟んで、相対向して設けられているのが好適である。
【0015】
前記被処理シリンダが、グラビア印刷のための被製版ロールであるのが好適である。
【0016】
本発明のシリンダ用腐食方法は、前記シリンダ用腐食装置を用いて、前記被処理シリンダの表面に腐食を施すようにした、シリンダ用腐食方法である。
【0017】
前記被処理シリンダの表面に付着して前記被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れが、前記被処理シリンダの長手方向に、且つ前記傾斜して形成される前記楕円形噴霧パターンが傾斜している側に流れるのが好ましい。
【0018】
前記腐食液供給管が2本であり、前記被処理シリンダを挟んで、相対向して設けられており、前記相対向して設けられた前記腐食液供給管から揺動されながら前記被処理シリンダの表面に前記複数の楕円形噴霧パターンが噴霧されてなり、前記相対向する前記2本の腐食液供給管から噴霧され前記被処理シリンダの表面に付着して前記被処理シリンダの長手方向に前記被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れが、互いに逆方向となる流れを含む、のが好適である。
【0019】
本発明のグラビアシリンダの製造方法は、前記シリンダ用腐食方法を用いて製造されてなる、グラビアシリンダの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、腐食の際の揺動の範囲以外であっても、被処理シリンダのシリンダ全面においてエッチングによるムラが生じず、従来よりも均一なエッチング精度を得られるようにしたシリンダ用腐食装置及び方法を提供することができるという著大な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のシリンダ用腐食装置の楕円形噴霧パターンを模式的に示す模式概略図である。
【
図2】本発明のシリンダ用腐食装置の噴霧ノズルのノズル先端を示す要部概略側面図である。
【
図3】本発明のシリンダ用腐食装置の一つの実施の形態を示す模式的概略図であり、(a)が一方側からみた被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れを示し、(b)が他方側からみた前記被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れを示す。
【
図4】被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れが互いに逆方向となっている様子を示す概略模式図である。
【
図5】被処理シリンダの長手方向の中心軸に対する楕円形噴霧パターンの楕円形の長軸の傾斜を示す模式図である。
【
図6】噴霧ノズルからの被処理シリンダの周面に対する腐食液の噴霧角度を示す模式図である。
【
図7】実施例1及び比較例1で得られたグラビアセルの版深を示すグラフである。
【
図8】従来のシリンダ用腐食装置の楕円形噴霧パターン及び被処理シリンダの表面上を連れまわる腐食液の流れを模式的に示す模式概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されたもので、本発明の技術的思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことは言うまでもない。
【0023】
図1及び
図3において、符号10は本発明のシリンダ用腐食装置の一つの実施の形態を示す。
【0024】
シリンダ用腐食装置10は、処理槽(図示は省略)と、被処理シリンダ12を回転可能に長手方向両端を把持して該処理槽に収容するチャック手段(図示は省略)と、該被処理シリンダ12の長手方向外周面から所定距離をおいて設けられ、該長手方向外周面に対して平行とされ、前記被処理シリンダの軸方向に揺動可能とされた少なくとも一つの腐食液供給管14a,14b(図示例では2つ)と、該腐食液供給管14a,14bに並列せしめられ、該腐食液供給管14a,14bから腐食液を噴霧するための複数の噴霧ノズル16と、を含み、該腐食液供給管14a,14bの内部を通って噴霧ノズル16から噴霧された該腐食液を揺動させながら該被処理シリンダ12の表面に当てて該被処理シリンダ12の表面に腐食を施すようにしたシリンダ用腐食装置である。
【0025】
そして、前記噴霧ノズル16が楕円形噴霧パターン18a,18bを噴霧可能な楕円形噴霧ノズルであり、前記被処理シリンダ12の表面に複数の楕円形噴霧パターン18a,18bが揺動されながら噴霧されてなり、前記楕円形噴霧パターン18a,18bの楕円形の長軸が、前記被処理シリンダの長手方向の中心軸に対して傾斜して形成されてなる。
【0026】
なお、前記処理槽やチャック手段としては、特許文献1や特許文献2に記載された公知の機構を採用することができる。被処理シリンダ12としては、図示例では、アルミ中空ロールに銅メッキが施された被処理シリンダの例を示した。
【0027】
前記噴霧ノズル16として、楕円形噴霧パターン18a,18bを噴霧可能な楕円形噴霧ノズルの例を
図2に示す。
図2において、符号20は、前記噴霧ノズル16のノズル先端である。ノズル先端20は、噴霧口22の周囲に、2つの相対向する突起を有する突起部24が設けられている。前記突起部24には調整エアー噴出口26a,26bが設けられており、前記噴霧口22から腐食液が噴霧される際に、前記調整エアー噴出口26a,26bからエアーが噴出されることで、楕円形の噴霧パターンとなる。
【0028】
なお、前記噴霧ノズル16としては、楕円形噴霧パターン18a,18bを噴霧可能な楕円形噴霧ノズルであればよいものであるから、
図2に示したノズル先端20の構成以外にも、前記噴霧口22の形状を工夫したものなど、楕円形噴霧パターンを形成可能な公知のノズル先端を種々適用可能である。
【0029】
楕円形噴霧パターン18a,18bを噴霧可能な楕円形噴霧ノズル16としては、噴射時の形が扇形となるノズルが好ましい。例えば、株式会社いけうち製の山形扇形ノズルが好適に使用できる。株式会社いけうち製の山形扇形ノズルの場合、中央が強く、両端にかけて次第に弱まる山形流量分布の扇形噴霧を行うことができる。
【0030】
図1において、前記被処理シリンダ12は回転方向28の矢印の方向に回転し、前記腐食液供給管14a,14bは、それぞれの揺動方向30,32の矢印の方向に20mm揺動する構成とされている。前記腐食液供給管14a,14bは図示例では、2本であり、前記被処理シリンダ12を挟んで、相対向して設けられている。
【0031】
そして、
図3(a)(b)に示すように、噴霧ノズル16からの楕円形噴霧パターン18a,18bは、複数が並列した状態であり、それらの楕円形噴霧パターン18a,18bが揺動されることになり、被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れは、
図3の太い矢印Q,Rで示した流れとなる。
【0032】
図3(a)では、前記腐食液供給管14a側の噴霧ノズル16からの楕円形噴霧パターン18aを示しており、被処理シリンダ12の回転方向は、回転方向28の矢印の方向である。
図3(a)の太い矢印Qで示されるように、前記被処理シリンダ12の表面に付着して前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れは、前記被処理シリンダの長手方向に、且つ前記傾斜して形成される前記楕円形噴霧パターン18aが傾斜している側に流れることとなる。
図3(a)では、前記被処理シリンダ12の表面に付着して前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れは、左から右に流れることとなる。
【0033】
また、
図3(b)では、前記腐食液供給管14b側の噴霧ノズル16からの楕円形噴霧パターン18bを示しており、被処理シリンダ12の回転方向は、回転方向29の矢印の方向である。
図3(b)の太い矢印Rで示されるように、前記被処理シリンダ12の表面に付着して前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れは、前記被処理シリンダの長手方向に、且つ前記傾斜して形成される前記楕円形噴霧パターン18aが傾斜している側に流れることとなる。
図3(b)では、前記被処理シリンダ12の表面に付着して前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れは、左から右に流れることとなる。
【0034】
図3(a)及び
図3(b)では、楕円形噴霧ノズル16として、扇形噴霧形状34a,34bでの噴霧が可能な、扇形ノズルを使用した例を示した。
【0035】
図3(a)及び
図3(b)でも示したが、前記相対向する前記2本の腐食液供給管14a,14bから噴霧され前記被処理シリンダ12の表面に付着して前記被処理シリンダ12の長手方向に前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れが、互いに逆方向となる流れ(太い矢印RとQ)となっている様子を
図4に示す。このように、前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れが、互いに逆方向とした方が、腐食対象物である前記被処理シリンダ12表面上を連れ回っている劣化した腐食液が早くフレッシュな腐食液に入れ替えられるので好適である。即ち、2本の腐食液供給管から噴射される前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れを互いに逆方向とし、被処理シリンダに連れ回っている液流を対向させることにより、腐食液の入れ替わりが早くなる利点がある。特に、前記相対向する前記2本の腐食液供給管14a,14bから楕円形噴霧パターン18a,18bを噴霧後、前記被処理シリンダの表面に付着して前記被処理シリンダの長手方向に前記被処理シリンダ12の表面上を連れまわる腐食液の流れが、互いに逆方向となるように構成するのが、腐食液の入れ替わりが早くなるので好適である。
【0036】
前記楕円形噴霧パターン18a,18bは傾斜して形成されるが、
図5に示すように、前記被処理シリンダ12の長手方向の中心軸に対してθ°傾斜されてなる。前記被処理シリンダ12の長手方向の中心軸に対する傾斜角度は、好ましくは1°~89°、より好ましくは1°~60°、さらに好ましくは、5°~20°傾斜して形成されてなる。
【0037】
また、
図6に示すように、噴霧ノズル16を備える腐食液供給管14a,14bの噴霧ノズル16からの被処理シリンダの周面に対する腐食液の噴霧角度α2は、それぞれ120°~10°が好ましく、90°~30°がより好ましく、50°~40°が最も好ましい。なお、噴霧角度α2は、被処理シリンダの横断面の鉛直方向Aからの角度である。
【0038】
前記被処理シリンダ12としては、グラビア印刷のための被製版ロールであるのが好適であり、本発明のシリンダ用腐食装置10は、グラビアシリンダ(被製版ロールとも呼ばれる)を製造するためのシリンダ用腐食装置として好適に使用できる。
【0039】
本発明のシリンダ用腐食装置は、単独でも使用可能であるが、例えば特許文献3に開示されたような全自動グラビア製版用処理システムにおける腐食処理装置として、特に好適に使用できる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0041】
(実施例1)
腐食装置として上記したシリンダ用腐食装置10と同様の構成の装置を組込んだNewFX(株式会社シンク・ラボラトリー製全自動レーザ製版システム)を用いて、グラビアシリンダ(製版ロール)を作製した。腐食液として、塩化第二銅濃度160g/L、塩酸濃度35g/Lを含む塩化銅腐食液を使用した。
【0042】
被処理シリンダ12として、円周600mm、面長1100mmのアルミ芯の円筒形基材に用い、銅メッキ処理装置に装着し、被処理シリンダ12を銅メッキ槽のメッキ液に全没させて20A/dm2、6.0Vで40μmの銅メッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、基材となる均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を、ロール研磨用回転砥石を取付けた2ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて、ロール表面を研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。
【0043】
上記得られた被処理シリンダの両端をチャックして銅メッキ層に感光膜塗布装置にて感光膜をコートして画像をレーザ露光し現像し、レジスト画像を形成した。次いで得られた被処理シリンダの両端をチャックして腐食槽に装着し、腐食液供給管14a,14bをコンピュータ制御された回動機構により被処理シリンダの周面100mmまで被処理シリンダ側面に近接させ、
図3及び
図4に示した如く噴霧後の腐食液の流れが互いに逆方向となるように、腐食液供給管14a,14bの噴霧ノズル16から楕円形噴霧パターン18a,18bで腐食液をスプレーした。噴霧ノズル16としては、株式会社いけうち製の山形扇形ノズルINVV11550を使用した。楕円形噴霧パターン18a,18bのサイズとしては、楕円形の長軸が約24cm、楕円形の短軸が約4cmであった。前記楕円形噴霧パターン18a,18bの被処理シリンダの長手方向の中心軸に対する傾斜角度θは、それぞれ12°とした。また、
図6に示すように、噴霧ノズル16を備える腐食液供給管14a,14bの噴霧ノズル16からの被処理シリンダの周面に対する腐食液の噴霧角度α2は、それぞれ45°とした。被処理シリンダの回転速度を60rpmとし、液温35℃とした。噴霧の圧力は0.08Mpaとした。この条件で腐食深さ20μmとなるまで腐食し、グラビアセルを形成した。
【0044】
腐食処理に要した時間は120秒であった。腐食処理されたシリンダの全長の周面の腐食深さをレーザ顕微鏡によってランダムに16箇所測定した。前記16箇所測定したバラつき標準偏差は0.2μmであり、変動係数(=標準偏差/平均深さ)は0.0096であった。被処理シリンダの全長にわたって均一な深さの腐食ができたことが確認できた。また、腐食処理されたシリンダの表面を目視で確認したが、ムラは確認されず、従来よりも均一なエッチング精度を得られた。その後、クロムメッキを施して製版し、グラビアシリンダを製造した。
【0045】
(比較例1)
図8に示した従来の被処理ロールの腐食装置100と同様の腐食装置を用い、腐食を行った。被処理シリンダ102として、円周600mm、面長1100mmのアルミ芯の円筒形基材に用い、銅メッキ処理装置に装着し、被処理シリンダ102を銅メッキ槽のメッキ液に全没させて20A/dm
2、6.0Vで40μmの銅メッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、基材となる均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を、ロール研磨用回転砥石を取付けた2ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて、ロール表面を研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。
【0046】
上記得られた被処理シリンダの両端をチャックして銅メッキ層に感光膜塗布装置にて感光膜をコートして画像をレーザ露光し現像し、レジスト画像を形成した。次いで得られた被処理シリンダの両端をチャックして腐食槽に装着し、腐食液供給管104a,104bをコンピュータ制御された回動機構により被処理シリンダの周面100mmまで被処理シリンダ側面に近接させ、腐食液を腐食液供給管104a,104bの噴霧ノズル16から円形の噴霧パターン108a,108bで腐食液をスプレーした。
図6に示すように、噴霧ノズル16を備える腐食液供給管104a,104bの噴霧ノズル106からの被処理シリンダの周面に対する腐食液の噴霧角度α1は、それぞれ45°とした。つまり、噴霧角度α1は、被処理シリンダの横断面の鉛直方向Aからの角度であり、かかる噴霧角度α1を45°とした。被処理シリンダの回転速度を60rpmとし、液温35℃とした。噴霧の圧力は0.05Mpaとした。この条件で腐食深さ20μmとなるまで腐食し、グラビアセルを形成した。
【0047】
腐食処理に要した時間は120秒であった。腐食処理されたシリンダの全長の周面の腐食深さをレーザ顕微鏡によってランダムに15箇所測定した。前記15箇所測定したバラつき標準偏差は0.4μmであり、変動係数(=標準偏差/平均深さ)は0.0188であった。被処理シリンダの全長にわたってほとんど均一な深さの腐食ができたが、若干のムラがあった。また、腐食処理されたシリンダの表面を目視で確認したが、若干のムラが確認された。その後、クロムメッキを施して製版し、グラビアシリンダを製造した。
【0048】
実施例1及び比較例1で得られたグラビアセルの版深を示すグラフを
図7に示す。
図7において、縦軸はグラビアセルの深度、横軸は、ランダムに測定した箇所の数を示す。実施例1では、被処理シリンダの全長にわたって均一な深さの腐食ができたことが確認できる。
【0049】
上記した発明の実施の形態においては、グラビアシリンダに対して腐食を施す例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、その他のシリンダ状の被腐食物に対して腐食を行う場合にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
10:本発明のシリンダ用腐食装置、12,102:被処理シリンダ、14a,14b:腐食液供給管、16:噴霧ノズル、18a,18b:楕円形噴霧パターン、20:ノズル先端、22:噴霧口、24:突起部、26a,26b:調整エアー噴出口、28,29,110:回転方向、30,32,112,114:揺動方向、34a,34b:扇形噴霧形状、100:従来の腐食装置、104a,104b:従来の腐食液供給管、106:従来の噴霧ノズル、108a,108b:従来の噴霧パターン、A:被処理シリンダの横断面の鉛直方向、P,Q,R:腐食液の流れを示す矢印,α1,α2:噴霧角度、θ:傾斜角度。