IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミヨシ油脂株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-粉末油脂 図1
  • 特許-粉末油脂 図2
  • 特許-粉末油脂 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】粉末油脂
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20240301BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20240301BHJP
【FI】
A23D9/007
A21D2/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017249893
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2018171046
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2016256454
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017088435
(32)【優先日】2017-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】津田 信治
(72)【発明者】
【氏名】登坂 友美
(72)【発明者】
【氏名】塚原 智
(72)【発明者】
【氏名】高松 優
(72)【発明者】
【氏名】太田 千晶
【合議体】
【審判長】淺野 美奈
【審判官】加藤 友也
【審判官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-18439(JP,A)
【文献】特表2015-523378(JP,A)
【文献】特表2011-525128(JP,A)
【文献】特開平4-91750(JP,A)
【文献】特開平8-13119(JP,A)
【文献】山内 惇生ほか,乳化剤カゼインのトランスグルタミナーゼ処理による乳化スクアレン粉末の物理化学的特質に及ぼす影響,日本食品工学会,2015年,p.84
【文献】Shan-Shan Bao et al.,Characterization of Spray-Dried Microalgal Oil Encapsulated in Cross-Linked Sodium Caseinate Matrix Induced by Microbial Transglutaminase,Journal of Food Science,2011年,Vol.76, Nr.1,p.E112-E118
【文献】四日 洋和ほか,トランスグルタミナーゼ処理したカゼインを乳化剤として用いた亜麻仁油の噴霧乾燥粉末化,日本食品工学会,2013年,p.112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D9/007
A21D2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧乾燥型粉末油脂であって、
40質量%超の油脂と、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質とを含有する粉末油脂
(ただし、原料として、スクアレン、カゼインナトリウム、マルトデキストリンおよびレシチンを含み、かつ、スクアレン:カゼインナトリウム:マルトデキストリン:レシチンの重量比が40:3:56.6:0.4である粉末油脂および前記重量比が40:5:54.6:0.4である粉末油脂を除き、
固形分が、トランスグルタミナーゼ処理されたカゼインナトリウム5質量%、マルトデキストリン14.5質量%および微細藻類油10.5質量%からなり、残部が水である溶液を噴霧乾燥した粉末油脂を除き、
乳化剤であるトランスグルタミナーゼ処理されたカゼインナトリウムと、マルトデキストリンとの混合水溶液であって、前記乳化剤濃度1.1質量%、マルトデキストリン濃度25.4質量%である混合水溶液に、亜麻仁油11.4質量%を加えた溶液を噴霧乾燥した粉末油脂を除く)
【請求項2】
噴霧乾燥型粉末油脂であって、
45質量%以上の油脂と、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質とを含有する粉末油脂。
【請求項3】
前記トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質は、カゼイン由来の乳タンパク質を含む請求項1または2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
前記トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質と、前記油脂との質量比が、1/3~1/200である請求項1から3のいずれか一項に記載の粉末油脂。
【請求項5】
さらにトランスグルタミナーゼ処理されたコラーゲン加水分解物を含有する請求項1から4のいずれか一項に記載の粉末油脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧乾燥型粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末油脂は、製菓製パン、スープ類、ソース類、飲料、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉などの素材として使用されている。
【0003】
この粉末油脂は、油脂に乳タンパク質などの乳化剤や糖質などの賦形剤が被覆されたもので、乳タンパク質や賦形剤を含む水相と油相とを攪拌、均質化することにより水中油型乳化物とし、その後、乾燥粉末化して得ることができる。
【0004】
従来、粉末油脂の一般的な製法としては、賦形剤に油脂を吸着させて粉末化する方法、常温で固体の油脂を粉砕して粉末化する方法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法などが知られているが、噴霧乾燥法は粉末油脂に一般に求められる特性を満足するのに適した方法として使用されている。この噴霧乾燥法では、均質化した水中油型乳化物を噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に噴霧することによって乾燥し、粉末油脂としている。
【0005】
食品に使用される粉末油脂の油分は、アプリケーションに対する機能、例えば、健康の維持、増進や疾患の予防、改善等のために摂取する高度不飽和脂肪酸の含有量増加や、飲料等の素材として白色の色合いを付与すること、製菓製パンの生地や食感の改良などや、その他、油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強などの観点からは、高油分であることが求められている。
【0006】
従来、粉末油脂のように脂質を再分散可能にカプセル化した粉末において、乳化剤としてカゼインナトリウムなどの乳タンパク質が使用されている。このカプセル化した粉末に基本特性として要求される乳化特性、酸化特性などの改良可能性の観点から、乳タンパク質に作用し架橋する酵素であるトランスグルタミナーゼで乳タンパク質を処理することが検討されている(非特許文献1~3)。
【0007】
非特許文献1では、乳化剤カゼインのトランスグルタミナーゼ処理による乳化スクアレン粉末の物理化学的特質に及ぼす影響を考察している。噴霧乾燥粉末の組成が、スクアレン:カゼインナトリウム:マルトデキストリン:レシチン=40:3(5):56.6(54.6):0.4の質量比となる固形分濃度40wt%の溶液を作製し、トランスグルタミナーゼ製剤を乳化前もしくは乳化後に添加し、噴霧乾燥粉末を作製している。
【0008】
非特許文献2では、トランスグルタミナーゼによって架橋化されたカゼインナトリウムを乳化剤に用いて、乳化剤濃度1.1wt%、マルトデキストリン濃度25.4wt%の混合水溶液に亜麻仁油11.4wt%を加え、ホモジナイザーで調製したエマルション溶液を用いて亜麻仁油の粉末油脂を作製し、マイクロエマルションとナノエマルション化した場合での酸化安定性をランシマットで評価している。マイクロエマルション、ナノエマルション共にトランスグルタミナーゼ処理によって酸化誘導時間が長くなる傾向にあったことが考察されている。
【0009】
非特許文献3には、トランスグルタミナーゼにより架橋処理したカゼインナトリウムに封入した噴霧乾燥藻類油の特性が考察されている。カゼインナトリウム5%(w/v)、マルトデキストリン14.5%(w/v)、藻類油10.5%(w/v)、油分35%(w/w)の質量比となる固形分濃度30%(w/v)の溶液を作製し、あらかじめ微生物由来トランスグルタミナーゼでカゼインナトリウムを架橋処理したものを、乳化後に添加し、噴霧乾燥粉末を作製している。粉末油脂の包括率および過酸化物価より、乳化特性、酸化安定性が考察されている。
【0010】
噴霧乾燥に関するものではないが、油脂製品においてタンパク質をトランスグルタミナーゼで処理する技術として、特許文献1には、あらかじめトランスグルタミナーゼでタンパク質を架橋処理したものを、水溶液を粒滴として油層中に射出し、油層中に生成したカプセルを加熱保持後に分離回収するか、油層から分離回収後に加熱する方法で、1~3mmのカプセルを得る技術が提案されている。特許文献2には、天然肉の脂身と外観、食感などに類似した固型脂の製造において、製品の風味、外観や食感、固さの調節を目的として、油脂、水溶性蛋白、水、およびトランスグルタミナーゼを混合することが提案されている。特許文献3には、使用する油を水素化せずに固形油製品を製造することを目的として、油をタンパク質溶液に分散させてエマルションを生成させ、均質化させ水で洗浄し、トランスグルタミナーゼを加え、極性の低分子侵入型化合物を加える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平2-86741号公報
【文献】特開平2-128648号公報
【文献】特表2009-534016号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】日本食品工学会 第16回(2015年度)年次大会 講演要旨集 P-4
【文献】日本食品工学会 第14回(2013年度)年次大会 講演要旨集 3-1P-6
【文献】Journal of Food Science Vol.76, Nr. 1, 2011, E112-E118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
噴霧乾燥型のカプセル化粉末における非特許文献1~3のような従来の検討では、油脂量40質量%以下での検討であったが、アプリケーションに対する機能、油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強などの観点から高油分化した噴霧乾燥型の粉末油脂においては、ここで検討された課題以外のものとして、再溶解時の油滴径が増大したり、表面オイル量が増加してしまうなど粉末油脂の安定性を損なう虞があり、この高油分化に起因する新たな課題を解決することが望まれていた。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、高油分であっても、再溶解時の油滴径の増大が抑制され、表面オイル量が少なく、粉末油脂の安定性を向上させることができる噴霧乾燥型の粉末油脂を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質の使用については40質量%以下の低油分の系で検討されていたが、高油分とした場合の新たな課題である再溶解時の油滴径の増大と表面オイル量に対して、乳タンパク質をトランスグルタミナーゼ処理することによってこれらが改善され、粉末油脂の安定性を向上させることができるという新たな知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち上記の課題を解決するものとして、本発明の粉末油脂は、噴霧乾燥型粉末油脂であって、40質量%超の油脂と、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質とを含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高油分であっても、再溶解時の油滴径の増大が抑制され、表面オイル量が少なく、粉末油脂の安定性が向上する。
【0018】
また、高度不飽和脂肪酸含有油脂などを使用した粉末油脂において、内包された油脂の風味をマスキングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】失活直後の乳化液をメディウム瓶に分注し、5℃で180日間静置保管した瓶を逆さにした時の乳化液の状態を示す写真である(左:比較例3、右:実施例4)。
図2】失活直後の乳化液をメディウム瓶に分注し、5℃で180日間静置保管した後の乳化状態を示す顕微鏡観察写真である(1000倍、左:比較例3、右:実施例4)。比較例3では固化していたため、希釈をせず観察した。実施例4は、水で5倍に希釈して観察した。
図3】実施例1と比較例1の魚油粉末油脂について、魚油の酸化劣化に伴い発生するアルデヒドの一つであるプロパナールを固相マイクロ抽出(SPME)GC-MSによって測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の粉末油脂は、40質量%超の油脂と、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質とを含有する。粉末油脂の油分が40質量%を超えると、再溶解粒径の増大、表面オイルの増大がみられる。しかし乳タンパク質をトランスグルタミナーゼ処理することにより、再溶解粒径の増大を抑制し、表面オイル量を抑制できる。本発明の粉末油脂における油脂含有量は、高油分であることによりアプリケーションに対する機能や油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強などの観点から、40質量%超であり、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。油脂含有量の上限は特に限定されないが、再溶解粒径の増大と表面オイルの増大抑制、油脂の風味のマスキングなどの点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
【0022】
本発明の粉末油脂に使用される油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。これらの油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
また、本発明の粉末油脂には油脂として、高度不飽和脂肪酸含有油脂を含んでもよい。高度不飽和脂肪酸含有油脂は、健康の維持、増進や疾患の予防、改善等のために摂取することが推奨されている高度不飽和脂肪酸を含んでいるが、特有の臭いを有する他、酸化が進行すると風味を損なう場合がある。特に高度不飽和脂肪酸の酸化劣化に伴い生成されるアルデヒド類やケトン類等は、風味の劣化へ影響を与えているとの報告がある。本発明の粉末油脂は、表面オイル量の低減やカプセル化能の向上効果を期待できることから、油脂の酸化に伴う風味劣化の低減や高度不飽和脂肪酸含有に起因する臭い成分のマスキングができ、これを使用した食品の風味を向上させることができると推察される。高度不飽和脂肪酸含有油脂としては、高度不飽和脂肪酸としてα-リノレン酸を含有するシソ油、エゴマ油、アマニ油や、高度不飽和脂肪酸としてEPAやDHAを含有する魚油、海藻油や、高度不飽和脂肪酸としてγ-リノレン酸を含有する月見草油、ボラージ油などが挙げられる。高度不飽和脂肪酸含有油脂は、原料油を冷却によって析出させ固体部を除去分別することや、リパーゼ等でトリグリセリド中の高度不飽和脂肪酸以外の構成脂肪酸のエステル結合を選択的に加水分解し、除去することにより、高度不飽和脂肪酸の含有量を増加させたものを使用することもできる。
【0024】
本発明の粉末油脂は、高度不飽和脂肪酸含有油脂に起因する臭い成分のマスキングなどの他、徐放効果が期待できる。すなわち、香気成分を保持するなどの徐放性を有し得る。ある香気成分を添加した油脂を用いて粉末油脂を作製し、40℃開放保管で経時的な香気成分量をSPME GC-MSで測定したところ、トランスグルタミナーゼ処理をしたものは、その発生が抑えられており、喫食時の香料由来の風味も抑えられていた。同時に包括された油脂中の香気成分量を測定したところ、その残存量はトランスグルタミナーゼ処理をしたものの方が有意に高かったことから、本発明により粉末油脂中の香気成分の保持力を強化する一方で、風味自体はマスキングできる可能性が示唆された。
【0025】
本発明において、トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質は、特に限定されず、例えば、乳化前の乳タンパク質水溶液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよく、水相と油相を混合し乳化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよく、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよい。中でも、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いると、乳化物の安定性が向上するため好ましい。
【0026】
トランスグルタミナーゼ(Transglutaminase EC2.2.2.13)は、タンパク質およびペプチド鎖中のグルタミン残基のγ-カルボキシアミド基と、一級アミン間のアミノアシル転移反応を触媒する酵素である。トランスグルタミナーゼがアシル受容体としてタンパク質中のリジン残基のε-アミノ基に作用した場合、分子内および分子間にε-(γ-Glu)Lys架橋結合が形成される。この反応により、タンパク質分子が架橋重合化し、食品などの物性変化や接着などの現象を起こす。
【0027】
トランスグルタミナーゼとしては、製剤化された市販品を用いることができる。トランスグルタミナーゼ製剤としては、例えば、味の素(株)から販売されている「アクティバ」TGシリーズのアクティバKS-CT、アクティバTG-S、アクティバTG-S-NF、アクティバTG-Mコシキープなどが挙げられる。
【0028】
トランスグルタミナーゼの添加量は、特に限定されず、乳タンパク質1g当たり10~2000nkatが例示できるが、50~1000nkatが好ましい。
【0029】
トランスグルタミナーゼは自然界に広く存在し、微生物由来、動物由来などがあり、哺乳類の肝臓や血液に分布するトランスグルタミナーゼのようなカルシウム依存性のもの、微生物由来のトランスグルタミナーゼのようなカルシウム非依存性のものがあるが、汎用性が高いカルシウム非依存性のものが好ましい。
【0030】
本発明において、乳タンパク質とは牛乳などの乳由来タンパク質をいう。乳由来のタンパク質は、およそ80%がカゼインであり、残りの20%は乳清タンパク質が占めている。カゼインはαs1-カゼインが全カゼインの45~50%を占めていて、その他のカゼインとしてはαs2-カゼインとβ-カゼイン、κ-カゼインが挙げられる。乳清タンパクはβ-ラクトグロブリンが最も多く、α-ラクトグロブリン、免疫グロブリン、血清グロブリン等を含んでいる。本発明で用いるトランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質は、これらの成分から構成されるカゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイタンパク、酸カゼイン、レンネットカゼイン、それらの分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテイン、また、これらを含む全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダーなどが挙げられる。これらの乳タンパク質の中でも、カゼイン由来の乳タンパク質を含むことが好ましく、カゼイン由来の乳タンパク質としては、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、カゼイン加水分解物等を含むことが好ましく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0031】
トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質の含有量は、特に限定されないが、所望の効果を得る観点から、粉末油脂全量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上がさらに好ましい。乳タンパク質含有量の上限は特に限定されないが、再溶解粒径の増大と表面オイルの増大抑制、油脂の風味のマスキングなどの点から、粉末油脂全量に対して15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、6質量%以下が特に好ましい。
【0032】
なお、本発明において「トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質」とは、トランスグルタミナーゼ処理される前の、処理対象物である未処理の乳タンパク質を指し、当該処理後には「トランスグルタミナーゼ処理された乳タンパク質」となる。後述のコラーゲン加水分解物においても同様である。
【0033】
トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質と、油脂との質量比(乳タンパク質の質量/油脂の質量)は、1/3~1/200が好ましく、1/5~1/100がより好ましく、1/5~1/50がさらに好ましく、1/5~1/30が特に好ましく、1/7~1/25が最も好ましい。この範囲内であると、特に再溶解時の油滴径の増大を抑制できる。
【0034】
本発明の粉末油脂は、乳化剤としての、トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質と、賦形剤を含む水相に、上記のような油脂を含む油相を添加し、ホモミキサーなどで攪拌後、ホモジナイザーなどで均質化することにより、水中油型乳化物とし、その後、噴霧乾燥によって乾燥粉末化して得ることができる。
【0035】
賦形剤は、被覆材として機能し、乾燥後の本発明の粉末油脂は、油脂が賦形剤で覆われた(カプセル化した)形状となっている。
【0036】
賦形剤としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプンなどの多糖類、増粘多糖類、糖アルコールなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
デキストリンは、デンプンを化学的または酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。デンプンの原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などを挙げることができる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリンなどが挙げられる。
【0038】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプン、コーン、ワキシーコーン、馬鈴薯、タピオカなどを原料とし、これをエーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプンなどが挙げられる。
【0039】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチンなどが挙げられる。
【0040】
また、賦形剤として、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質、これらタンパク質の分解物を含んでもよい。
【0041】
本発明の粉末油脂は、乳タンパク質を含む乳化液を作製する際、乳タンパク質と共にトランスグルタミナーゼ処理されるコラーゲン加水分解物を加えると、耐酸性および耐塩性が向上する。
【0042】
トランスグルタミナーゼは、前記した乳タンパク質をトランスグルタミナーゼ処理するものを用いることができる。
【0043】
コラーゲンは、動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつであり、コラーゲン加水分解物として、コラーゲンを多く含む任意の組織より採取したコラーゲン(その変性物であるゼラチンを含む。)をタンパク質分解酵素や、酸もしくは塩基触媒を用いて加水分解して得られるペプチドを特に制限なく用いることができる。コラーゲン加水分解物は、市販品を用いることができ、例えば、ニッピ社製「FCP」「NCP」「FCP-AS-L」、新田ゼラチン社製「GBB30SP」「GBB50SP」、ルスロ社製「F2000HD」「F5000HD」「P2000HD」「P5000HD」などが挙げられる。
【0044】
コラーゲン加水分解物は、その分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)として1000~50000が好ましい。
【0045】
トランスグルタミナーゼ処理されたコラーゲン加水分解物を含有する本発明の粉末油脂において、トランスグルタミナーゼ処理されたコラーゲン加水分解物は、特に限定されず、例えば、コラーゲン加水分解物水溶液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよく、乳タンパク質水溶液にコラーゲン加水分解物およびトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよく、水相と油相を混合し乳化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよく、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものを用いてもよい。中でも、水相と油相を混合し乳化した乳化液や、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して、乳タンパク質とコラーゲン加水分解物を同時に酵素処理したもの、特に、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して、乳タンパク質とコラーゲン加水分解物を同時に酵素処理したものを用いると、乳化物の安定性と、耐酸性および耐塩性の点で好ましい。
【0046】
トランスグルタミナーゼ処理されるコラーゲン加水分解物の含有量は、特に限定されないが、本発明の他の効果を損なうことなく耐酸性および耐塩性を向上させる観点から、粉末油脂全量に対して1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。
【0047】
トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質と、トランスグルタミナーゼ処理されるコラーゲン加水分解物との質量比(乳タンパク質の質量/コラーゲン加水分解物の質量)は、本発明の他の効果を損なうことなく耐酸性および耐塩性を向上させる観点から、4/1~3/10が好ましく、3/1~1/2がより好ましく、2/1~1/1がさらに好ましい。
【0048】
本発明の粉末油脂における賦形剤の含有量は、10質量%以上60質量%未満が好ましく、15~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0049】
粉末油脂は、必要に応じて、乳化剤を配合することができる。乳化剤は、食品用であれば特に限定されるものではなく、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどが挙げられる。粉末油脂に乳化剤を配合する場合、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0050】
油相および水相には、抗酸化剤、着色料、フレーバーなどを適宜に配合してもよい。
【0051】
以下に、本発明の粉末油脂の製造方法の一例について説明する。
【0052】
乳化工程では、前記の各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合した後、圧力式ホモジナイザーで均質化する。
【0053】
原材料の配合比は、特に限定されるものではないが、例えば、油脂と乳タンパク質、賦形剤の合計量100質量部に対して水50~200質量部の範囲内にすることができる。
【0054】
配合手順は、特に限定されるものではないが、例えば、賦形剤を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは賦形剤を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、油脂を加熱溶解させたものを滴下して乳化することができる。
【0055】
得られた乳化液は、圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cmの程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。
【0056】
次に、均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理する。トランスグルタミナーゼは製剤として添加してもよい。酵素処理の条件は特に限定されないが、至適pH5~8の幅広い範囲で活性を示すことから、至適温度と反応時間の関係から導かれる反応量を考慮し、工業的なスケールでは、例えば50℃で2時間行うことができる。その後、トランスグルタミナーゼの失活処理を行う。失活処理は、トランスグルタミナーゼが失活する温度域と、温度に応じた失活時間を考慮し、例えば90℃で10分行うことができる。以上の酵素処理によって、乳タンパク質が架橋化される。
【0057】
次に、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。
【0058】
次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂を製造することができる。なお、適宜のときに加熱殺菌工程などを設けることもできる。
【0059】
このような本発明の粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。再溶解時の油滴のメディアン径は、例えば0.1~2.5μmであり、好ましくは、0.3~2μmであり、より好ましくは、0.5~1.2μmである。
【0060】
本発明の粉末油脂は、高油分であっても、再溶解時の油滴径の増大が抑制され(なお、本発明において、再溶解時の油滴径の増大は、噴霧乾燥前の乳化液のメディアン径と噴霧乾燥後の再溶解時のメディアン径の変化で確認することができる。)、表面オイル量が少なく、粉末油脂の安定性が向上する。したがって広い範囲の飲食品に使用することができ、製菓製パン、スープ類、ソース類、飲料、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉などに好適に使用することができる。
【実施例
【0061】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1の配合は粉末油脂当たりの質量%を示す。
【0062】
乳タンパク質、トランスグルタミナーゼは、以下のものを用いた。
(乳タンパク質)
カゼインナトリウム SODIUM CASEINATE 180、フォンテラジャパン社製
カゼイン分解物 エマルアップ、森永乳業株式会社製
(トランスグルタミナーゼ)
トランスグルタミナーゼ製剤 KS-CT、味の素株式会社製
【0063】
(1)粉末油脂の作製
表1に記載の油脂を70℃に加熱し、油相とした。表1の合計質量と同量の温水(60℃)にカゼインナトリウムまたはエマルアップ、デキストリンを添加し70℃に加熱し、水相とした。水相と油相を混合し、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cmの圧力で均質化した後、実施例1~10には、KS-CT(味の素(株)製)を乳タンパク1g当たり酵素活性が1000nkatとなるよう添加し、50℃で1時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で10分間失活処理を行い、乳化液を得た。得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。
【0064】
(2)評価
(乳化液の安定性)
5℃で10日間、180日間保管時の乳化液がクリーミングをしているか、顕微鏡および粒度分布計で油滴径が凝集しているか等を総合的に以下の基準で評価した。
評価基準
◎:乳化状態が良好で油滴径の増大もなく、凝集等も見られない(図1図2の写真右)
〇:乳化液がややクリーミングしているものの、油滴の著しい増大もなく安定している
△:乳化液の粘性が上昇し、油滴径が増大し始め、部分的な油滴の凝集を確認できる
×:乳化が完全に壊れており、乳化液が凝固してしまっている。または油相が完全に分離してしまっている(図1図2の写真左)
【0065】
(噴霧乾燥前の乳化液のメディアン径および粉末油脂の再溶解時のメディアン径)
乳化液または粉末油脂を、水で希釈し、島津製作所製:SALD-2300湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値として求めた。
【0066】
(表面オイル量)
石油エーテル:ジエチルエーテル=1:1の比率に調整した溶剤で粉末油脂より油分を抽出し、その油分量を粉表面に近いところに存在する表面オイル量と定義した。
【0067】
(風味)
上記において作製した粉末油脂を用いてアイスボックスクッキーを作製した。
<アイスボックスクッキーの配合>
ショートニング 135g
上白糖 120g
全卵 75g
粉末油脂 60g
薄力粉 300g
<アイスボックスクッキーの作製>
ミキシングボールにショートニングと上白糖を投入し、ビーターでミキシングした。全卵を少しずつ添加後、さらに粉末油脂、薄力粉を添加混合し、クッキー生地を得た。得られた生地を冷蔵庫で1時間リタードした後、丸型に成型し、冷凍庫で静置した。クッキー生地を厚さ10mmにスライスし、オーブンで焼成した。二枚の天板を使用し、上段を180℃、下段を150℃に設定して16分間焼成してアイスボックスクッキーを得た。 アイスボックスクッキー喫食時の魚油の戻り臭の強さにより風味を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:魚油特有の戻り臭が大幅に軽減されている
〇:魚油特有の戻り臭がやや軽減されている
△:魚油特有の戻り臭を感じる
×:魚油特有の戻り臭を強く感じる
【0068】
[総合評価]
長期的な乳化安定性と再溶解粒径や抽出オイル量、魚油粉末の場合は喫食時の魚油臭も含めて総合的に◎、〇、△、×の4段階で評価した。
【0069】
以上の評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
食品に使用される粉末油脂の油分は、アプリケーションに対する機能や油脂によるコクの付与、摂取カロリーの増強などの観点からは、高油分であることが求められている。実施例1~10と比較例1~8では油脂配合率を50質量%以上として噴霧乾燥型の粉末油脂における高油分での評価を行った。
【0072】
比較例1~8のように、粉末油脂を高油分化することにより、噴霧乾燥前の乳化液のメディアン径から再溶解時のメディアン径が増大したり、表面オイル量が増加してしまうなど粉末油脂の安定性が損なわれる傾向がある。実施例1~10では、トランスグルタミナーゼ処理を行った後、噴霧乾燥して粉末油脂を作製した。精製魚油を用いた実施例1~4、ヤシ硬化油を用いた実施例5、6、パーム油を用いた実施例7、8、菜種油を用いた実施例9では、いずれも乳化液の安定性が良く、トランスグルタミナーゼ処理をしなかった以外は同様の条件で作製した比較例1~8と比べ、5℃で180日間保管した場合には特に差異がみられた。実施例1、2、4~9と比較例1~8の対比では、噴霧乾燥前の乳化液のメディアン径は同一であるにもかかわらず、比較例1~8では再溶解時のメディアン径が増大したが、実施例1、2、4~9では噴霧乾燥前の乳化液のメディアン径から再溶解時のメディアン径がほぼ変わりない。
【0073】
表面オイル量は、カゼインナトリウムと油脂の配合質量比を各々変更した実施例1、2、4では、トランスグルタミナーゼ処理していない乳タンパク質を用いた以外は同様の条件で作製した比較例1~3と対比して、カゼインナトリウムと油脂の配合質量比1/10.0(実施例2、比較例2)で40%、1/20.0(実施例4、比較例3)で71%と大きく低減した。精製魚油は臭気があるが、実施例1~4では比較例1~3と対比して風味も全体に魚油臭がマスキングされ良好となった。
【0074】
実施例の結果より、乳タンパク質と油脂の配合質量比が1/7.1~1/20.0の範囲で良評価であった。乳タンパク質量と油滴の表面積との関係や同様の抑制効果を考慮すると、トランスグルタミナーゼ処理される乳タンパク質と、油脂との質量比は、1/3~1/200が好ましい。
【0075】
ヤシ硬化油を用いた実施例5、6では、カゼインナトリウムと油脂の配合質量比1/16.7(実施例5)で比較例4と比べて表面オイル量が25%、配合質量比1/20.0(実施例6)で比較例5と比べて51%と、精製魚油の場合と同様に減少した。パーム油でも33%(実施例7と比較例6:カゼインナトリウムと油脂の配合質量比1/16.7)、63%(実施例8と比較例7:カゼインナトリウムと油脂の配合質量比1/20.0)、菜種油でも20%(実施例9、比較例8:カゼインナトリウムと油脂の配合質量比1/18.3)と、いずれも大きく減少した。
【0076】
(魚油臭の評価)
実施例1と比較例1の魚油粉末油脂について、魚油の酸化劣化に伴い発生するアルデヒドの一つであるプロパナールを固相マイクロ抽出(SPME)GC-MSによって下記条件で測定した。作製した粉末油脂を20mLバイアル瓶に1g入れ、シリコンセプタムおよびアルミニウム製のキャップを用いて密封した。60℃で10分加熱後、5分間SPMEファイバーへ香気成分を吸着させ、既知の手法を用いて測定を行い、ターゲットとなる成分のピーク面積の比較を行った。
使用機器:Agilent 7890A/5975C GC/MSD (Agilent Technologies)
SPMEファイバー:50/30 DVB/Carboxen/PDMS(SUPELCO)
カラム:DB-WAX UI (Agilent Technologies)
測定条件:スプリット比20:1 注入口温度250℃ オーブン条件40℃30秒保持後、250℃まで10℃/minで昇温後、30分保持
検出器:イオントラップ型、測定スキャンモード
【0077】
その結果を図3に示す。測定結果より、トランスグルタミナーゼ処理された魚油粉末油脂は、未処理のものと比較してプロパナールの発生を抑制しており、魚油劣化に伴う戻り臭の低減効果を有することがわかった。
【0078】
(耐酸性および耐塩性)
表2に示すように、実施例1の配合と、実施例1において賦形剤のうちデキストリンの一部をコラーゲン加水分解物に置き換えて配合した実施例11の配合について、上記「(1)粉末油脂の作製」の手順に従って、実施例1、11共にKS-CTを添加して、乳化液を得た。この乳化液について、以下のとおり耐酸性および耐塩性の評価を行った。
【0079】
耐酸性評価試験
pHを4.0に調整した85℃の酸水溶液に上記乳化液を加え、目視により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊を確認
【0080】
耐塩性評価試験
85℃に調温した食塩水に上記乳化物を加え、最終的な塩濃度が20質量%となるように調整し、目視により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊を確認
以上の評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
実施例11は、乳化液の調製時にKS-CTを添加したことによって、乳タンパク質と一緒にコラーゲン加水分解物もトランスグルタミナーゼ処理される。このトランスグルタミナーゼ処理されたコラーゲン加水分解物を含有する実施例11の乳化液は、酸性のpH4.0に調整後、および塩濃度20質量%に調整後にも凝集物が見られず、乳化状態が良好で、凝集物が発生した実施例1の乳化液に比べて耐酸性および耐塩性が向上した。
図1
図2
図3