(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240301BHJP
H01R 39/24 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H02K13/00 Q
H02K13/00 G
H01R39/24
(21)【出願番号】P 2019166599
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018198129
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰吾
(72)【発明者】
【氏名】野須 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】足立 祥広
(72)【発明者】
【氏名】本多 哲也
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-171724(JP,A)
【文献】特開2007-028841(JP,A)
【文献】特開2005-051987(JP,A)
【文献】特開2009-051227(JP,A)
【文献】特開2017-192233(JP,A)
【文献】特開2019-022254(JP,A)
【文献】特開2019-054698(JP,A)
【文献】特開2004-242383(JP,A)
【文献】特開平04-046546(JP,A)
【文献】特開2000-004564(JP,A)
【文献】特開2017-070175(JP,A)
【文献】特開2011-004582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00
H01R 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸であるシャフト(10)と、
上記シャフトに固定された回転子(20)と、
上記回転子の鉄心(21)に巻かれた電機子コイル(22)と、
上記電機子コイルに電気的に接続された整流子(31)と、
上記整流子において上記シャフトの周方向(Z)に配置された複数の整流子片(32)と、
上記電機子コイルに界磁を与える磁石(40)と、
電源(E)に電気的に接続され且つ上記整流子の回転に伴って上記複数の整流子片に摺接する複数のブラシ(35,36)と、
電気接点装置(30,130,230,330,430,530,630,730,830)と、
を備え、
上記電気接点装置は、互いに電位が異なる高電位側接点(32,35,104a)及び低電位側接点(32,36,105a)を有し、上記高電位側接点と、上記高電位側接点に対して接触及び開離が可能な上記低電位側接点と、の少なくとも一方は、沸点が2562℃よりも低い低沸点材を含む混合材によって構成されており、
上記混合材における上記低沸点材の割合が25重量パーセント以上であり、
上記電気接点装置の上記高電位側接点及び上記低電位側接点は、上記複数の整流子片及び上記複数のブラシによって構成されており、
上記複数のブラシのうちの少なくとも1つが研磨材を含有しこの研磨材を介して上記複数の整流子片のそれぞれに摺接するように構成されており、
上記研磨材は、炭化ケイ素、メソカーボン粉末、銅-マンガン合金の少なくとも1つの材料からなり、
上記研磨材の含有比率が10重量パーセント以下であ
り、
上記混合材は、上記低沸点材としての亜鉛と、潤滑剤である炭素と、を主体に構成されている、回転電機(1)。
【請求項2】
上記複数のブラシの全てが上記低沸点材または上記混合材によって構成されている、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
上記複数の整流子片はいずれも、上記整流子の回転時において上記複数のブラシのそれぞれに対する摺接開始部(33)及び摺接終了部(34)を有し、上記摺接開始部及び上記摺接終了部の少なくとも一方が上記低沸点材または上記混合材によって構成されている、請求項1または
2に記載の回転電機。
【請求項4】
上記複数の整流子片のそれぞれの摺接面に銀、ニッケル、パラジウムのうちの少なくとも1つの材料からなるめっき層(32d)が形成されている、請求項1に記載の回転電機。
【請求項5】
上記複数のブラシのうちの少なくとも1つが上記複数の整流子片のそれぞれと摺接可能に対向する軸方向(X)の対向長さ(La)の10分の1以上の摺接長さ(Lb)で上記複数の整流子片のそれぞれに摺接するように構成されている、請求項1または
4に記載の回転電機。
【請求項6】
上記複数のブラシのうち上記電源の正極に電気的に接続されたブラシを正ブラシ(35)としたとき、上記複数の整流子片のうち上記正ブラシが摺接している整流子片との摺接が解除されるときに生じる上記正ブラシ側のアークエネルギーを吸収するアーク吸収部(50,50A,50B,50C,50D,50E)を備える、請求項1に記載の回転電機。
【請求項7】
上記アーク吸収部は、上記複数の整流子片のうち上記正ブラシが摺接している整流子片とは別の整流子片に摺接する補助ブラシ(51)と、上記正ブラシと上記補助ブラシとを電気的に接続するバイパス経路(52)に設けられた通電部材(53)と、を有し、
上記補助ブラシは、上記正ブラシに対して上記整流子の回転方向(Za)の前方側に配置されるとともに上記正ブラシとの間の上記周方向の間隔(D)が上記複数の整流子片の上記周方向の幅寸法の最小値(Cmin)を下回るように構成され、
上記通電部材は、上記正ブラシよりも抵抗の高い高抵抗体、ダイオード、コンデンサ、スナバ、バリスタのうちの少なくとも1つによって構成されている、請求項
6に記載の回転電機。
【請求項8】
上記通電部材は、アノードが上記補助ブラシに電気的に接続され且つカソードが上記正ブラシに電気的に接続された、上記ダイオードとしてのツェナーダイオード(55)によって構成されている、請求項
7に記載の回転電機。
【請求項9】
上記補助ブラシは、電気絶縁層(56)を介して上記正ブラシに接合されて一体化されている、請求項
7または
8に記載の回転電機。
【請求項10】
上記アーク吸収部は、上記複数の整流子片のうち上記正ブラシが摺接している整流子片を挟んで上記整流子の回転方向(Za)の両側に位置する2つの整流子片に摺接する一対の補助ブラシ(51A,51B)と、上記一対の補助ブラシを電気的に接続するバイパス経路(52)に設けられアノードが上記一対の補助ブラシのうち上記回転方向の後方側の後方側補助ブラシ(51A)に電気的に接続され且つカソードが上記一対の補助ブラシのうち上記回転方向の前方側の前方側補助ブラシ(51B)に電気的に接続されたダイオード(54)と、を有し、
上記前方側補助ブラシと上記正ブラシとの間の上記周方向の間隔(D1)が上記複数の整流子片の上記周方向の幅寸法の最小値(Cmin)を下回り、上記後方側補助ブラシと上記正ブラシとの間の上記周方向の間隔(D2)が上記複数の整流子片の上記周方向の幅寸法の最大値(Cmax)を上回るように構成されている、請求項
6に記載の回転電機。
【請求項11】
上記複数のブラシのうち上記電源の負極に電気的に接続されたブラシを負ブラシ(36)としたとき、上記アーク吸収部は、上記正ブラシの上記周方向の摺接長さ(Ma)が上記負ブラシの上記周方向の摺接長さ(Mb)を上回るように構成されている、請求項
6~
10のいずれか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、回転電機としての整流子モータにおいて、整流子片とブラシ間で発生するアーク放電に伴う電磁ノイズの中で、特にアーク消滅時に発生するインパルス性の電磁ノイズを低減しようとする技術が開示されている。この技術では、整流子片に、亜鉛または亜鉛を含む合金の層を設けることによって、アーク電圧を上昇させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術を使用した場合には、例えば100MHzを超えるような高周波帯域で得られる電磁ノイズの低減効果が、低周波帯域で得られる電磁ノイズの低減効果に比べて小さいという問題がある。そこで、回転電機の設計に際しては、低周波帯域のみならず高周波帯域までの広い周波帯域で電磁ノイズの十分な低減効果を得る技術が望まれている。
【0005】
また、上記のような問題は、整流子モータのような回転電機のみならず、電磁継電器のようにアーク放電に伴う電磁ノイズが発生する電気接点装置を有する各種の機器においても同様に生じ得る。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、電気接点装置においてアーク放電時に生じる電磁ノイズの低減効果を広い周波帯域で得ることができる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
回転軸であるシャフト(10)と、
上記シャフトに固定された回転子(20)と、
上記回転子の鉄心(21)に巻かれた電機子コイル(22)と、
上記電機子コイルに電気的に接続された整流子(31)と、
上記整流子において上記シャフトの周方向(Z)に配置された複数の整流子片(32)と、
上記電機子コイルに界磁を与える磁石(40)と、
電源(E)に電気的に接続され且つ上記整流子の回転に伴って上記複数の整流子片に摺接する複数のブラシ(35,36)と、
電気接点装置(30,130,230,330,430,530,630,730,830)と、
を備え、
上記電気接点装置は、互いに電位が異なる高電位側接点(32,35,104a)及び低電位側接点(32,36,105a)を有し、上記高電位側接点と、上記高電位側接点に対して接触及び開離が可能な上記低電位側接点と、の少なくとも一方は、沸点が2562℃よりも低い低沸点材を含む混合材によって構成されており、
上記混合材における上記低沸点材の割合が25重量パーセント以上であり、
上記電気接点装置の上記高電位側接点及び上記低電位側接点は、上記複数の整流子片及び上記複数のブラシによって構成されており、
上記複数のブラシのうちの少なくとも1つが研磨材を含有しこの研磨材を介して上記複数の整流子片のそれぞれに摺接するように構成されており、
上記研磨材は、炭化ケイ素、メソカーボン粉末、銅-マンガン合金の少なくとも1つの材料からなり、
上記研磨材の含有比率が10重量パーセント以下であり、
上記混合材は、上記低沸点材としての亜鉛と、潤滑剤である炭素と、を主体に構成されている、回転電機(1)、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上記の電気接点装置において、高電位側接点と低電位側接点との間で接触及び開離が行われるときのアーク放電時に、低沸点材の蒸気によってアークが形成される。このとき、高電位側接及び低電位側接点の両方もしくは一方は、一般的に接点の材料に使用される銅の沸点である2562℃よりも沸点が低い低沸点材を含んでいる。このため、接点の材料に銅を使用する場合に比べて、アーク放電時の蒸気密度を高めて電子の速度変化を小さく抑えることで、アークを長く維持し、アーク電圧の時間変化率を小さく抑えることができる。
【0010】
また、本発明者は、アーク放電の開始時及び終了時に生じるインパルス性の電磁ノイズと、アーク放電時に継続的に生じるバースト性の電磁ノイズのうち、100MHzを超えるような高周波帯域で特にバースト性の電磁ノイズが増加し易いことに着目し、この電磁ノイズを低減するための技術について鋭意検討した。
【0011】
その結果、本発明者は、接触及び開離にかかる高電位側接点と低電位側接点の両方もしくは一方に、上記の低沸点材或いは混合材を使用することによって、特に高周波帯域ではアーク放電の開始から終了までの放電継続区間においてアーク電圧の時間変化率が小さく抑えられた状態を維持することができ、これによりバースト性の電磁ノイズを低減するのに有効であることを見出すことに成功した。従って、低周波帯域のみならず高周波帯域までの広い周波帯域でアーク放電時に生じる電磁ノイズの十分な低減効果が得られる。
【0012】
以上のごとく、上記の各態様によれば、電気接点装置においてアーク放電時に生じる電磁ノイズの低減効果を広い周波帯域で得ることができる技術を提供できる。
【0013】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1にかかる回転電機についてシャフトの軸方向に沿った断面図。
【
図2】実施形態1の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図3】
図2において整流子の複数の整流子片が平面状に展開された状態を示す展開図。
【
図4】
図3においてアーク放電時の様子を示す展開図。
【
図5】実施形態2の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図6】実施形態3の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図7】実施形態4の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図8】実施形態5の電気接点装置について整流子の複数の整流子片が平面状に展開された状態を示す展開図。
【
図9】実施形態6にかかる電磁継電器についてシャフトの軸方向に沿った断面図。
【
図10】実施形態6の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図11】実施形態7の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図12】実施形態8の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図13】実施形態9の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図14】実施形態10の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図15】実施形態11の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図16】実施形態12の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図17】実施形態13の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図18】実施形態14の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図19】実施形態15の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図20】
図19において整流子の複数の整流子片が平面状に展開された状態を示す展開図。
【
図21】
図20を正ブラシ側でのアーク発生抑制時について示す展開図。
【
図22】実施形態16の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図23】
図22において整流子の複数の整流子片を平面状に展開した状態を正ブラシ側でのアーク発生抑制時について示す展開図。
【
図24】実施形態17の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図25】
図24において整流子の複数の整流子片を平面状に展開した状態を正ブラシ側でのアーク発生抑制時について示す展開図。
【
図26】実施形態18の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図27】実施形態19の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【
図28】実施形態20の電気接点装置の構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、電気接点装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1にかかる回転電機1は、インナーロータ型のモータとして構成されている。この回転電機1は、車載装置の駆動用モータ、家庭用電気の駆動用モータ、一般産業用機械の駆動用モータをはじめ、各種の機器の駆動用モータに使用可能である。このとき、回転電機1は、電動機として構成されてもよいし、或いは電動機と発電機の2つの機能を併せ持つ電動発電機として構成されてもよい。
【0017】
この実施形態1では、特に断わらない限り、回転電機1を構成するシャフト10の軸方向を矢印Xで示し、このシャフト10の径方向を矢印Yで示し、このシャフト10の周方向を矢印Zで示すものとする。また、周方向Zのうちの一方向である回転方向を矢印Zaで示すものとする。
【0018】
回転電機1は、回転軸である円柱状のシャフト10を備え、電源Eから供給される電力によってこのシャフト10が回転駆動されるように構成されている。この回転電機1は、ケース3とカバー4とによって構成されたハウジング2と、シャフト10を回転駆動するための複数の構成要素と、を備え、ハウジング2内にこれら複数の構成要素が収容されている。
【0019】
複数の構成要素には、シャフト10を回転可能に支持する複数の支持部5と、ロータとしての回転子20と、電気接点装置30と、ステーターとしての磁石40と、が含まれている。
【0020】
回転子20は、シャフト10に固定されている。回転子20は、複数の電磁鋼板が積層されてなる鉄心21と、電機子コイル22と、を有し、鉄心21に電機子コイル22が巻かれている。
【0021】
磁石40は、ハウジング2を構成するケース3の内面に回転子20との間に隙間を隔てて固定されている。この磁石40は、電機子コイル22に界磁を与える機能を有するものであり、互いに極性の異なる界磁用の永久磁石(S極及びN極)として構成されている。
【0022】
電気接点装置30は、整流子31と、2つのブラシ35,36と、によって構成されている。
【0023】
整流子31は、複数の整流子片32を有し、電機子コイル22に電気的に接続されている。
図2に示されるように、この整流子31において複数の整流子片32はシャフト10の周方向Zに並べて配置されている。隣接する2つの整流子片32,32は、周方向Zに互いに離間しており、且つ電機子コイル22によって互いに電気的に接続されている。
【0024】
なお、この整流子片32の数は限定されるものではなく、必要に応じて適宜の値に設定される。
図2では、説明の便宜上、整流子片32の数を3つとしている。
【0025】
図2に示されるように、複数の整流子片32はいずれも、整流子31の回転時において2つのブラシ35,36のそれぞれに対する摺接開始部33及び摺接終了部34を有する。
【0026】
摺接開始部33は、整流子片32が最初に第1ブラシ35或いは第2ブラシ36と摺接する部位であり、
図2では、整流子片32のうち回転方向Zaの前端部32aによって摺接開始部33が構成されている。
【0027】
摺接終了部34は、整流子片32が第1ブラシ35或いは第2ブラシ36との摺接を解除する部位であり、
図2では、整流子片32のうち回転方向Zaの後端部32bによって摺接終了部34が構成されている。
【0028】
2つのブラシ35,36はいずれも、電源Eに電気的に接続され且つ整流子31の回転に伴って複数の整流子片32に摺接する略矩形のブラシである。一方の第1ブラシ35は、電源Eの正極端子に電気的に接続されている。他方の第2ブラシ36は、電源Eの負極端子に電気的に接続されて第1ブラシ35と対をなすように構成されている。2つのブラシ35,36は、周方向Zに180°ずれた位置に配置されている。このため、第1ブラシ35を「正ブラシ」といい、第2ブラシ36を「負ブラシ」ということもできる。
【0029】
第1ブラシ35は、複数の整流子片32に対して接触及び開離が可能であり、接触或いは開離するときに、低電位側接点となる複数の整流子片32に対して相対的に電位が高い高電位側接点となる。第2ブラシ36は、複数の整流子片32に対して接触及び開離が可能であり、接触或いは開離するときに、高電位側接点となる複数の整流子片32に対して相対的に電位が低い低電位側接点となる。このように、複数の整流子片32のそれぞれは、2つのブラシ35,36との摺接関係に応じて高電位側接点或いは低電位側接点に成り得る。この場合、高電位側接点及び低電位側接点が、複数の整流子片32及び2つのブラシ35,36によって構成されている。
【0030】
本実施形態において、複数の整流子片32の全てと2つのブラシ35,36の両方のいずれも、低沸点材としての亜鉛によって構成されている。これらは、亜鉛のみによって構成されてもよいし、或いは亜鉛を含む混合材によって構成されてもよい。亜鉛は、その沸点が907℃であり、一般的にブラシの材料に使用される銅の沸点である2562°よりも低い低沸点材である。
【0031】
ここで、
図3を参照しつつ、アーク放電時の様子について説明する。なお、この図では、説明の便宜上、図面の左右方向が周方向Zとなるように、整流子31の複数の整流子片32を平面状に展開した状態で示している。
【0032】
図3に示されるように、隣接する2つの整流子片32A,32Bがともに第1ブラシ35に摺接した状態では、これら2つの整流子片32A,32Bの電位は電源Eの正極端子の電位に一致する。また、隣接する2つの整流子片32C,32Dがともに第2ブラシ36に摺接した状態では、これら2つの整流子片32C,32Dの電位は電源Eの負極端子の電位に一致する。
【0033】
その後、
図4に示されるように、整流子31の回転方向Zaの回転によって、摺接していた2つの整流子片32A,32Bのうちの一方の整流子片32Aが第1ブラシ35から開離するとき、整流子片32Aと第1ブラシ35との間にアークAが生じる。このアークAについては、第1ブラシ35が陽極となり、整流子片32Aが陰極となる。このため、第1ブラシ35が陽極ブラシ37Pとなる。
【0034】
また、整流子31の回転方向Zaの回転によって、摺接していた2つの整流子片32C,32Dのうちの一方の整流子片32Cが第2ブラシ36から開離するとき、整流子片32Cと第2ブラシ36との間にアークAが生じる。このアークAについては、第2ブラシ36が陰極となり、整流子片32Cが陽極となる。このため、第2ブラシ36が陰極ブラシ37Nとなる。
【0035】
このとき、複数の整流子片32の全てと2つのブラシ35,36の両方はいずれも、上述のように、銅よりも沸点が低い亜鉛によって構成されている。このため、銅を使用する場合に比べて、アーク放電時の蒸気密度を高めて電子の速度変化を小さく抑えることで、アークAを長く維持し、アーク電圧の時間変化率を小さく抑えることができる。特に、銅の沸点を大幅に下回る沸点を有する亜鉛を使用することによって、アーク放電時に亜鉛の金属蒸気を高密度化する効果を高めることができる。
【0036】
また、本発明者は、100MHzを超えるような高周波帯域で特にバースト性の電磁ノイズが増加し易いことに着目して研究を実施したところ、接触及び開離にかかる高電位側接点と低電位側接点の両方としての、複数の整流子片32の全てと2つのブラシ35,36の両方のいずれも、亜鉛によって構成することによって、高周波帯域ではアーク放電の開始から終了までの放電継続区間においてアーク電圧の時間変化率が小さく抑えられた状態を維持することができ、これによりバースト性の電磁ノイズを低減するのに有効であることを確認できた。
【0037】
上記の電気接点装置30によれば、複数の整流子片32と2つのブラシ35,36との間の摺接について、摺接(「接触」ともいう。)及び摺接解除(「開離」ともいう。)するときのアーク放電時に生じる電磁ノイズの十分な低減効果を低周波帯域のみならず高周波帯域までの広い周波帯域で得ることが可能にある。
【0038】
また、電磁ノイズ対策として、コイルやコンデンサなどによって構成されるフィルター、金属製の電磁シールド、ロータアースなどの電磁ノイズ低減素子を省略することが可能になり、装置コストを下げることができる。
【0039】
なお、上述のように、陽極ブラシ37Pと陰極ブラシ37Nの両方に亜鉛を含ませることが好ましいが、必要に応じては、放電継続中のバースト性の電磁ノイズを低減する効果が相対的に高い陰極ブラシ37Nのみに亜鉛を含ませて、陽極ブラシ37Pは亜鉛を含まない銅によって構成するようにしてもよい。即ち、アークAについての極性が陰極になる陰極ブラシ37Nのみに亜鉛を含ませた場合には、アークについての極性が陽極になる陽極ブラシ37Pのみに亜鉛を含ませた場合に比べて、放電継続中のバースト性の電磁ノイズを低減する効果が高くなる。
【0040】
また、混合材の場合には、この混合材に含まれる亜鉛の割合が25重量パーセント以上であるのが好ましい。これにより、アーク放電時に低沸点材の蒸気を高密度化する効果を高めることができる。
勿論、所望の効果が得られる場合には、亜鉛の割合が25重量パーセントを下回るような混合材を使用することもできる。
【0041】
また、複数の整流子片32の全てと2つのブラシ35,36の両方のいずれにも亜鉛を含ませる電気接点装置に比べて効果は下がるが、許容される効果が得られる場合には、複数の整流子片32の少なくとも1つに亜鉛を含ませ、且つ2つのブラシ35,36の両方に亜鉛を含ませる構造や、複数の整流子片32の少なくとも1つに亜鉛を含ませ、且つ2つのブラシ35,36のいずれか一方に亜鉛を含ませる構造や、複数の整流子片32のいずれも亜鉛を含ませずに2つのブラシ35,36のいずれか一方に亜鉛を含ませる構造を採用することもできる。
【0042】
なお、上述の実施形態1では、インナーロータ型のモータである回転電機1について例示したが、この回転電機におけるブラシ配置構造を、アウターロータ型のモータに適用することもできる。
【0043】
以下、上述の実施形態1に関連するその他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、上述の実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0044】
(実施形態2)
図5に示されるように、実施形態2の電気接点装置130は、複数の整流子片32の全ての構成と、2つのブラシ35,36の両方の構成について、実施形態1の電気接点装置30のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0045】
複数の整流子片32はいずれも、後端部32bであり且つ摺接終了部34である部位のみが低沸点材である亜鉛によって構成されており、残りの部位が亜鉛よりも電気抵抗率の低い銅によって構成されている。
【0046】
2つのブラシ35,36はいずれも、低沸点材である亜鉛と、炭素と、を主体とした混合材によって構成されている。2つのブラシ35,36はいずれも、周方向Zについて混合材が2つの領域に区画されており、一方の領域35a,36aに亜鉛が配置され、且つ他方の領域35b,36bに炭素が配置されている。
【0047】
ここでいう「主体」とは、混合材を構成する材料に混入している微量成分や不純物などを除く主旨である。このため、本実施形態の混合材は、微量成分や不純物などを除いた場合、実質的に亜鉛と炭素のみによって構成されている。
【0048】
炭素は、2つのブラシ35,36のそれぞれと複数の整流子片32との間の摺動抵抗を下げることができる潤滑剤としての機能を果たす。この場合、2つのブラシ35,36のそれぞれにおいて、整流子31の回転方向Zaの前側に炭素を配置して、炭素が最初に整流子片32に接触するように構成するのが好ましい。
【0049】
実施形態2の電気接点装置130によれば、2つのブラシ35,36の両方を低沸点材である亜鉛と潤滑剤である炭素を主体に構成して、それ以外の材料が含まれないようにすることによって、アーク放電時に低沸点材の蒸気を高密度化する効果を高い状態に維持できる。
【0050】
また、整流子片32の各部位のうち、亜鉛を使用する部位を摺接終了部34のみとして最小限に抑えることができ、製造コストを低く抑えるのに有効である。また、整流子片32のうち摺接終了部34以外の部位を亜鉛よりも電気抵抗率の低い銅によって構成することによって、回転電機1の効率を向上させるのに有効である
【0051】
更に、潤滑剤として比較的安価な炭素を使用することによって装置コストを低く抑えることができる。
【0052】
なお、潤滑剤は炭素に限定されるものではなく、必要に応じて炭素以外の潤滑剤を使用することもできる。また、摺接終了部34以外の部位は、亜鉛よりも電気抵抗率の低い材料であれば、銅以外の材料を使用することもできる。
【0053】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0054】
なお、この実施形態2の電気接点装置130に特に関連する変更例として、亜鉛を使用する部位を摺接開始部33のみとした構造や、亜鉛を使用する部位を摺接開始部33と摺接終了部34の両方とした構造を採用することもできる。
【0055】
(実施形態3)
図6に示されるように、実施形態3の電気接点装置230は、複数の整流子片32の全ての構成について、実施形態2の電気接点装置130のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
その他の構成は、実施形態2と同様である。
【0056】
複数の整流子片32はいずれも、後端部32bの径方向の長さが後端面に向かうにつれて漸減するように構成されている。このため、複数の整流子片32のそれぞれにおいて、摺接終了部34が後端部32bよりも前端部32a側に移動した位置に配置されている。このような構成によっても、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0057】
なお、この実施形態3の電気接点装置230に特に関連する変更例として、亜鉛を使用する部位を摺接開始部33のみとした構造や、亜鉛を使用する部位を摺接開始部33と摺接終了部34の両方とした構造を採用することもできる。
【0058】
(実施形態4)
図7に示されるように、実施形態4の電気接点装置330は、複数の整流子片32の全ての構成について、実施形態2の電気接点装置130のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
その他の構成は、実施形態2と同様である。
【0059】
複数の整流子片32はいずれも、前端部32aの径方向の長さが前端面に向かうにつれて漸減するように構成されており、且つ後端部32bの径方向の長さが後端面に向かうにつれて漸減するように構成されている。このため、複数の整流子片32のそれぞれにおいて、摺接開始部33が前端部32aよりも後端部32b側に移動した位置に配置され、且つ摺接終了部34が後端部32bよりも前端部32a側に移動した位置に配置されている。このような構成によっても、実施形態2と同様の作用効果を奏する。
【0060】
(実施形態5)
図8に示されるように、実施形態5の電気接点装置430は、複数の均圧線38を備える点について、またブラシ35,36の数及び配置について、実施形態1の電気接点装置30のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0061】
複数の均圧線38のそれぞれは、複数の整流子片32のうちの2つずつを電気的に接続するように構成されている。本構成によれば、電圧を細かく切り替えて脈動を小さくすることによって、トルク変動の低く抑えることができる。
【0062】
ブラシ35,36は、2つずつ設けられている。これらの中で、アークAが発生する直前に整流子片32との摺接が終了する2つのブラシ35,36が低沸点材としての亜鉛によって構成されている。このような構成は、アーク放電時の蒸気密度を高め、電子の速度変化を小さく抑えることによって、バースト性の電磁ノイズを低減するのに有効である。
【0063】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0064】
(実施形態6)
図9に示されるように、実施形態6の電気接点装置530は、リレーとしての電磁継電器101に設けられている点で、実施形態1の電気接点装置30と相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
【0065】
この実施形態6では、特に断わらない限り、電磁継電器101を構成するシャフト110の軸方向を矢印Xで示し、このシャフト110の径方向を矢印Yで示すものとする。
【0066】
電磁継電器101のケース102は、第1ケース102aと、第2ケース102bと、第1ケース102aと第2ケース102bとの間に介装された第3ケース102cと、によって構成されている。第3ケース102cは、後述の可動コア106の及びシャフト110のそれぞれの一部が挿通可能な貫通孔103を有する。
【0067】
第1ケース102aと第3ケース102cで囲まれた空間には、2つの可動接点104aを有する可動子104と、固定接点105aを有する2つの固定端子105と、磁性体金属材料からなる可動コア106と、が収容されている。
【0068】
2つの可動接点104aのうちの一方が、2つの固定接点105aのうちの一方に軸方向Xについて対向して配置され、2つの可動接点104aのうちの他方が、2つの固定接点105aのうちの他方に軸方向Xについて対向して配置されている。
【0069】
ここで、電気接点装置530は、高電位側接点としての2つの可動接点104aと、2つの可動接点104aに対して接触及び開離が可能な低電位側接点としての2つの固定接点105aと、によって構成されている。
【0070】
第2ケース102bと第3ケース102cで囲まれた空間には、通電時に磁界を形成する励磁コイル107と、径方向Yについて励磁コイル107の内方に配置され磁性体金属材料からなる固定コア108と、可動コア106と固定コア108との間に介装された復帰ばね109と、が収容されている。
【0071】
復帰ばね109は、可動コア106を軸方向Xについて固定コア108から離間するように常時に弾性付勢している。
【0072】
シャフト110は、可動子104及び可動コア106に固定されており、可動コア106を挟んで可動子104とは反対側の端部が、固定コア108の内側を励磁コイル107の付近まで延びている。
【0073】
励磁コイル107に通電されていない状態では、可動子104は、復帰ばね109の弾性付勢力にしたがって軸方向Xについて固定端子105から離間した位置に配置される。このとき、可動子104が2つの固定端子105から離間しており、2つの可動接点104aと2つの固定接点105aとが開離しているため通電遮断状態になる。
【0074】
一方で、励磁コイル107に通電されると、可動コア106が電磁吸引力によって復帰ばね109の弾性付勢力に抗して固定コア108側に吸引される。このとき、可動子104が2つの固定端子105に向けて
図9中の下向きに動いて、2つの可動接点104aと2つの固定接点105aとが接触することによって通電状態になる。
【0075】
図10に示されるように、電気接点装置530の2つの可動接点104aと2つの固定接点105aの全ては、低沸点材としての亜鉛によって構成されている。なお、
図10では、説明の便宜上、可動接点104a及び固定接点105aを1つずつのみ示している。この構造も、上記の電気接点装置30の構造と同様に、「高電位側接点と低電位側接点との両方は、沸点が2562℃よりも低い低沸点材によって構成されている。」という構造に相当する。
【0076】
電気接点装置530によれば、実施形態1の電気接点装置30の場合と同様に、接触及び開離にかかる高電位側接点と低電位側接点の両方としての、可動接点104a及び固定接点105aの両方のいずれも、亜鉛によって構成することによって、可動接点104aと固定接点105aとの間で接触及び開離が行われるときのアーク放電時に、亜鉛の金属蒸気によってアークAが形成される。このとき、接点の材料に銅を使用する場合に比べて、アーク電圧の時間変化率を小さく抑えることができる。これにより、放電継続中のバースト性の電磁ノイズを低減することが可能になる。
【0077】
(実施形態7)
図11に示されるように、実施形態7の電気接点装置630は、2つの固定接点105aの構成について、実施形態6の電気接点装置530のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
その他の構成は、実施形態6と同様である。
【0078】
2つの固定接点105aはいずれも、接点表面に亜鉛によって構成された被覆層105bを備えており、それ以外の部位は銅によって構成されている。
【0079】
上記の電気接点装置630によれば、2つの固定接点105aにおいて、使用する亜鉛の量を減らすことによって装置コストを低く抑えることができる。
【0080】
その他、実施形態6と同様の作用効果を奏する。
【0081】
(実施形態8)
図12に示されるように、実施形態8の電気接点装置730は、2つの可動接点104a及び2つの固定接点105aの構成について、実施形態6の電気接点装置530のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
【0082】
2つの可動接点104aはいずれも、接点表面に亜鉛によって構成された被覆層104bを備えており、それ以外の部位は銅によって構成されている。また、2つの固定接点105aはいずれも、接点表面に亜鉛によって構成された被覆層105bを備えており、それ以外の部位は銅によって構成されている。
【0083】
上記の電気接点装置730によれば、2つの可動接点104a及び2つの固定接点105aの両方において、使用する亜鉛の量を減らすことによって装置コストを低く抑えることができる。
【0084】
その他、実施形態7と同様の作用効果を奏する。
【0085】
(実施形態9)
図13に示されるように、実施形態9の電気接点装置830は、2つの固定接点105aに対して1つの可動接点104aを割り当てる点で、実施形態8の電気接点装置730のものと相違している。この相違点についてのみ以下に説明する。
【0086】
上記の電気接点装置830によれば、可動接点104aの数を減らすことによって装置コストを低く抑えることができる。
【0087】
その他、実施形態8と同様の作用効果を奏する。
【0088】
上述の実施形態1の電気接点装置30においては、複数の整流子片32の全てと2つのブラシ35,36の両方のいずれも、低沸点材としての亜鉛によって構成することによって、アーク放電時に亜鉛の金属蒸気を高密度化して電磁ノイズの低減を図ることが可能であるが、回転電機1を大電流で運転する場合には、電磁ノイズの低減効果が下がるという問題が生じ得る。そこで、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がるのを抑制する技術が求められている。
【0089】
本発明者は、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がる要因について鋭意検討した結果、低沸点材が溶融して、各整流子片32の摺接面としての表面に低沸点材の酸化物である固着物(例えば、低沸点材が亜鉛の場合には亜鉛酸化物)が固着することにあり、この問題を解決するのに、以下の実施形態10~14が有効であることを見出した。
【0090】
(実施形態10)
図14に示されるように、実施形態10の電気接点装置30Aは、実施形態1の電気接点装置30の変更例として、
図1の回転電機1に適用される。この電気接点装置30Aは、各整流子片32の表面に固着した固着物を物理的に除去する機能を2つのブラシ35,36に付与することによって、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がるのを抑制するように構成されている。
【0091】
本構成を達成するために、電気接点装置30Aでは、2つのブラシ35,36が亜鉛とともに研磨材を含有している。この電気接点装置30Aは、2つのブラシ35,36が研磨材を介して複数の整流子片32のそれぞれに摺接する摺接構造(以下、「第1摺接構造」という。)を有する。
【0092】
研磨材として、各整流子片32の表面で固着する固着物よりも硬度の高い材料を使用するのが好ましい。本実施形態の場合、典型的には、固形物である亜鉛酸化物よりも硬度の高い材料として、炭化ケイ素、メソカーボン粉末、銅-マンガン合金などを使用することができる。炭化ケイ素は、研磨性能が相対的に高いため、亜鉛酸化物の固着を防ぐ効果を高めるためには炭化ケイ素を使用するのが好ましい。これに対して、使用寿命を延ばすためには、メソカーボン粉末や銅-マンガン合金を使用するのが好ましい。
【0093】
2つのブラシ35,36のそれぞれにおける研磨材の含有比率は10重量パーセント以下であるのが好ましい。研磨材の含有比率が10重量パーセントを超えると、亜鉛の量が相対的に減るため、亜鉛を使用することによる本来の電磁ノイズの低減効果を得るのが難しい。
【0094】
また、研磨材の含有比率が高い場合(例えば、10重量パーセントを超えるような場合)には、研磨材による研磨で生じる摩擦熱が相対的に増加することになる。そして、このことが、亜鉛の溶融量が増加すること(即ち、亜鉛酸化物が増加すること)や、各整流子片32にダメージを与えることなどの要因に成り得る。そこで、研磨材による研磨で生じる摩擦熱を考慮しつつ、研磨材の含有比率を低く抑えるのが好ましい。
【0095】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0096】
上記の電気接点装置30Aによれば、シャフト10の回転方向Zaへの回転時に2つのブラシ35,36に対して各整流子片32が周方向Zに摺動するとき、2つのブラシ35,36に含まれている研磨材は、各整流子片32に固着した亜鉛酸化物を物理的に掻き取るように研削する。このため、各整流子片32の表面に形成される亜鉛酸化物の量を少なく抑えることができる。これにより、アーク放電時に亜鉛の金属蒸気を高密度化することができるとともに、回転電機1を大電流で運転する場合であっても、電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0097】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0098】
上記の電気接点装置30Aに特に関連する変更例では、2つのブラシ35,36のいずれか一方のみが研磨材を含有するようにしてもよい。
【0099】
(実施形態11)
図15に示されるように、実施形態11の電気接点装置30Bは、実施形態10の電気接点装置30Aの変更例である。この電気接点装置30Bにおいて、複数の整流子片32はいずれも銅によって構成されており、2つのブラシ35,36はいずれも、周方向Zについて2つの領域に区画されており、一方の領域35a,36aが亜鉛を含有する亜鉛含有部であり、且つ他方の領域35b,36bが亜鉛以外の銅や炭素を含有する亜鉛非含有部である。そして、亜鉛含有部である領域35a,36aが電気接点装置30Aの場合と同様の研磨材を含有している。
【0100】
その他の構成は、実施形態10と同様である。
【0101】
上記の電気接点装置30Bによれば、電気接点装置30Aの場合と同様に、2つのブラシ35,36が各整流子片32に摺接するとき、2つのブラシ35,36の領域35a,36aに含まれている研磨材によって、各整流子片32に固着した亜鉛酸化物を物理的に掻き取るように研削することができる。
【0102】
その他、実施形態10と同様の作用効果を奏する。
【0103】
(実施形態12)
図16に示されるように、実施形態12の電気接点装置30Cは、実施形態11の電気接点装置30Bの変更例である。この電気接点装置30Cにおいて、各整流子片32は、摺接終了部34が後端部32bよりも前端部32a側に移動した位置に配置されており、摺接終了部34が亜鉛によって構成されており、残りの部位が銅によって構成されている。
【0104】
その他の構成は、実施形態11と同様である。
【0105】
上記の電気接点装置30Cによれば、電気接点装置30Bの場合と同様に、2つのブラシ35,36が各整流子片32に摺接するとき、2つのブラシ35,36の領域35a,36aに含まれている研磨材によって、各整流子片32に固着した亜鉛酸化物を物理的に掻き取るように研削することができる。
【0106】
その他、実施形態11と同様の作用効果を奏する。
【0107】
上記の電気接点装置30B,30Cに特に関連する変更例では、2つのブラシ35,36の領域35a,36aのいずれか一方のみが研磨材を含有するようにしてもよい。
【0108】
(実施形態13)
図17に示されるように、実施形態13の電気接点装置30Dは、実施形態1の電気接点装置30の変更例である。この電気接点装置30Dは、各整流子片32の表面にめっき層32dを設けて固着物が固着しにくくすることによって、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がるのを抑制するように構成されている。
【0109】
本構成を達成するために、電気接点装置30Dでは、各整流子片32の摺接面に、銀、ニッケル、パラジウムのうちの少なくとも1つの材料を使用しためっき処理が施されている。この電気接点装置30Dは、複数の整流子片32のそれぞれの摺接面に銀、ニッケル、パラジウムのうちの少なくとも1つの材料からなるめっき層32dが形成されてなる摺接構造(以下、「第2摺接構造」という。)を有する。
【0110】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0111】
上記の電気接点装置30Dによれば、めっき層32dによって各整流子片32の耐腐食性(耐酸化性)を高めることができ、各整流子片32の摺接面に亜鉛酸化物が生成するのを防ぐことが可能になる。これにより、回転電機1を大電流で運転する場合であっても、電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0112】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0113】
(実施形態14)
図18に示されるように、実施形態14の電気接点装置30Eは、実施形態1の電気接点装置30の変更例である。この電気接点装置30Eは、低沸点材である亜鉛の溶融量を減らして各整流子片32の表面に固着物が固着しにくくすることによって、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がるのを抑制するように構成されている。
【0114】
本構成を達成するために、電気接点装置30Eでは、各整流子片32に対する2つのブラシ35,36の摺接面積を増やして通電時の電気抵抗を抑えるようにしている。この電気接点装置30Eは、ブラシ35が軸方向Xの対向長さLaの10分の1以上の摺接長さLbで複数の整流子片32のそれぞれに摺接する摺接構造(以下、「第3摺接構造」という。)を有する。
【0115】
なお、特に図示しないものの、ブラシ36にもブラシ35と同様の第3摺接構造が採用されている。以下では、ブラシ35に対して設けられた第3摺接構造についてのみ説明する。
【0116】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0117】
第3摺接構造について、対向長さLaは、ブラシ35が各整流子片32と摺接可能に対向する、軸方向Xの長さである。これに対して、摺接長さLbは、ブラシ35の対向面35cが各整流子片32の対向面32cに実際に摺接しているときの、軸方向Xの長さである。このため、ブラシ35の対向面35cと各整流子片32の対向面32cが実質的に平行な関係にあるときに、摺接長さLbが対向長さLaと一致する。そして、対向面32cに対する対向面35cの傾斜角度が小さいほど摺接長さLbが大きくなり、対向面32cに対する対向面35cの傾斜角度が大きいほど摺接長さLbが小さくなる。
【0118】
ブラシ35を径方向Yにスライド可能に収容するブラシホルダ30aの内部には、押し付けばね39が設けられている。この押し付けばね39は、ブラシ35を各整流子片32に押し付ける弾性機能を有する。この押し付けばね39として、コイルばねや板ばね等のばね部材を使用するのが好ましい。この押し付けばね39によれば、ブラシ35の対向面35cが各整流子片32の対向面32cに押し付けられる。押し付けばね39と同様の弾性機能を発揮することができれば、必要に応じてばね部材に代わる弾性部材を使用してもよい。
【0119】
ブラシ35の対向面35cの周方向Zの長さが一定である場合には、各整流子片32の対向面32cと対向面35cとの接触面積は摺接長さLbに比例する。摺接長さLbが大きくなるにつれて各整流子片32の対向面32cと対向面35cとの接触面積が増加し、摺接長さLbが小さくなるにつれて各整流子片32の対向面32cと対向面35cとの接触面積が減少する。
【0120】
摺接長さLbが対向長さLaの10分の1以上であるという条件は、電気接点装置30Eの最終的な組付け時に成立しているのが好ましい。このため、上記の条件が成立していない場合には、各整流子片32の対向面32cに対する対向面35cの片当たりを解消するための処理をブラシ35に施す必要がある。ここでいう「片当たり」とは、ブラシ35の対向面35cの一部のみが対向面32cの対する摺接面となる状態をいう。
【0121】
そこで、例えば、切削治具などの工具を使用してブラシ35の対向面35cに切削加工を施したり、回転電機1を実際に運転したりして、上記の条件を満たすまでブラシ35の対向面35cを摩耗させて対向長さLaに対する摺接長さLbを増やすことができる。
【0122】
上記の電気接点装置30Eによれば、摺接長さLbを対向長さLaの10分の1以上にすることによって、2つのブラシ35,36のそれぞれと各整流子片32との接触面積を大きくして、通電時の電気抵抗を抑えることができる。この場合、ジュール熱を下げて、各整流子片32の対向面32cに固着し得る亜鉛酸化物の生成を抑制することができる。これにより、回転電機1を大電流で運転する場合であっても、電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0123】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0124】
上記の電気接点装置30Eに特に関連する変更例では、2つのブラシ35,36のいずれか一方のみについて上記第3摺接構造を採用するようにしてもよい。
【0125】
また、別の変更例では、上記第1摺接構造と上記第2摺接構造と上記第3摺接構造のうちの少なくとも2つを組み合わせた構造を採用することもできる。
【0126】
上述の実施形態10~14では、各整流子片32の表面に固着物が固着するのを防ぐことによって、大電流の条件下で電磁ノイズの低減効果が下がるのを抑制する場合について例示したが、本発明者は、これとは別の観点に基づいて、各整流子片32表面に固着物が固着したとしても、以下の実施形態15~20に記載のように、アークの発生自体を抑制することが電磁ノイズの低減に有効であることを見出した。
【0127】
(実施形態15)
図19及び
図20に示されるように、実施形態15の電気接点装置30Fは、実施形態1の電気接点装置30の変更例である。この電気接点装置30Fは、アーク吸収部50を備えている。アーク吸収部50は、2つのブラシ35,36のうち、電源Eの正極に電気的に接続された正ブラシ35が摺接している整流子片32との摺接が解除されるときに生じる正ブラシ35側のアークエネルギーを吸収するためのものである。
【0128】
正ブラシ35は銅によって構成されており、負ブラシ36は亜鉛によって構成されている。なお、必要に応じて、正ブラシ35を亜鉛によって構成してもよい。この場合、各整流子片32の表面には、溶融した亜鉛が亜鉛酸化物Sとして固着する。
【0129】
アーク吸収部50は、複数の整流子片32のうち正ブラシ35が摺接している整流子片32とは別の整流子片32(回転方向Zaの前方側に隣接する整流子片32)に摺接する補助ブラシ51と、正ブラシ35と補助ブラシ51とを電気的に接続するバイパス経路52に設けられた通電部材53と、を有する。
【0130】
補助ブラシ51は、正ブラシ35に対して整流子31の回転方向Zaの前方側に配置されるとともに正ブラシ35との間の周方向Zの間隔Dが複数の整流子片32の周方向Zの幅寸法の最小値Cminを下回るように構成されている。
【0131】
通電部材53は、正ブラシ35よりも抵抗の高い高抵抗体をはじめ、既知のダイオード、コンデンサ(キャパシタ)、スナバ、バリスタのうちの少なくとも1つによって構成されている。
【0132】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0133】
この電気接点装置30Fにおいて、整流子31の回転方向Zaの回転によって、正ブラシ35と複数の整流子片32との間の摺接関係が
図20から
図21のように変化する。
図21に示されるように、正ブラシ35に摺接していた2つの整流子片32A,32Bのうちの一方の整流子片32Aが正ブラシ35から開離すると、本来であれば正ブラシ35と整流子片32Aとの間にアークAが発生する(
図21では、説明の便宜上、正ブラシ35側で発生し得るアークAを破線で示している)。一方で、負ブラシ36に摺接していた2つの整流子片32C,32Dのうちの一方の整流子片32Cが負ブラシ36から開離すると、負ブラシ36と整流子片32Cとの間にアークAが発生する。
【0134】
ここで、アーク吸収部50によれば、正ブラシ35が整流子片32Aから開離する直前に、正ブラシ35側から通電部材53及び補助ブラシ51を通じて整流子片32Aへとバイパス電流が流れるため、アークAの発生要因である正ブラシ35側のアークエネルギーを逃がすことによってアークAの発生を防ぐことができる。このため、各整流子片32に表面に亜鉛酸化物Sが固着した状態で回転電機1を大電流で運転する場合であっても、アークAの発生自体を抑制することで電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0135】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0136】
(実施形態16)
図22に示されるように、実施形態16の電気接点装置30Gは、実施形態15の電気接点装置30Fの変更例である。この電気接点装置30Gは、アーク吸収部50Aを備えている。アーク吸収部50Aは、実施形態15のアーク吸収部50と同様に、正ブラシ35が摺接している整流子片32との摺接が解除されるときに生じる正ブラシ35側のアークエネルギーを吸収するためのものである。
【0137】
アーク吸収部50Aは、複数の整流子片32のうち正ブラシ35が摺接している整流子片32を挟んで回転方向Zaの両側に位置する2つの整流子片32,32に摺接する一対の補助ブラシ51A,51Bと、一対の補助ブラシ51A,51Bを電気的に接続するバイパス経路52に設けられたダイオード54と、を有する。ダイオード54は、アノードが一対の補助ブラシ51A,51Bのうち回転方向Zaの後方側の後方側補助ブラシ51Aに電気的に接続され且つカソードが一対の補助ブラシ51A,51Bのうち回転方向Zaの前方側の前方側補助ブラシ51Bに電気的に接続されている。
【0138】
また、アーク吸収部50Aは、前方側補助ブラシ51Bと正ブラシ35との間の周方向Zの間隔D1が複数の整流子片32の周方向Zの幅寸法の最小値Cminを下回り、後方側補助ブラシ51Aと正ブラシ35との間の周方向Zの間隔D2が複数の整流子片32の周方向Zの幅寸法の最大値Cmaxを上回るように構成されている。
【0139】
ここで、整流子301全ての整流子片32についての周方向Zの幅寸法の中で最も小さい値が「最小値Cmin」として定義され、最も大きい値が「最大値Cmax」として定義される。
【0140】
その他の構成は、実施形態15と同様である。
【0141】
図23に示されるように、アーク吸収部50Aによれば、正ブラシ35が整流子片32Aから開離する直前に、正ブラシ35側から後方側補助ブラシ51A、ダイオード54及び前方側補助ブラシ51Bを通じて整流子片32Aへとバイパス電流が流れるため、アークAの発生要因である正ブラシ35側のアークエネルギーを逃がすことによってアークAの発生を防ぐことができる。このため、各整流子片32に表面に亜鉛酸化物Sが固着した状態で回転電機1を大電流で運転する場合であっても、アークAの発生自体を抑制することで電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0142】
その他、実施形態15と同様の作用効果を奏する。
【0143】
(実施形態17)
図24に示されるように、実施形態17の電気接点装置30Hは、実施形態15の電気接点装置30Fの変更例である。この電気接点装置30Hは、アーク吸収部50Bを備えている。アーク吸収部50Bは、実施形態15のアーク吸収部50と同様に、正ブラシ35が摺接している整流子片32との摺接が解除されるときに生じる正ブラシ35側のアークエネルギーを吸収するためのものである。
【0144】
アーク吸収部50Bは、アーク吸収部50と同様の補助ブラシ51と、正ブラシ35と補助ブラシ51とを電気的に接続するバイパス経路52に設けられたツェナーダイオード55と、を有する。ツェナーダイオード55は、アノードが補助ブラシ51に電気的に接続され且つカソードが正ブラシ35に電気的に接続されている。このツェナーダイオード55は、予め設定された電圧を超えるとカソード側からアノード側に電流が流れるように構成されている。
【0145】
その他の構成は、実施形態15と同様である。
【0146】
図25に示されるように、アーク吸収部50Bによれば、正ブラシ35が整流子片32Aから開離する直前に、正ブラシ35側からツェナーダイオード55及び補助ブラシ51を通じて整流子片32Aへとバイパス電流が流れるため、アークAの発生要因である正ブラシ35側のアークエネルギーを逃がすことによってアークAの発生を防ぐことができる。このため、各整流子片32に表面に亜鉛酸化物Sが固着した状態で回転電機1を大電流で運転する場合であっても、アークAの発生自体を抑制することで電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0147】
その他、実施形態15と同様の作用効果を奏する。
【0148】
(実施形態18)
図26に示されるように、実施形態18の電気接点装置30Iは、実施形態15の電気接点装置30Fの変更例である。この電気接点装置30Iは、アーク吸収部50Cを備えている。アーク吸収部50Cは、補助ブラシ51が電気絶縁層56を介して正ブラシ35に接合されて一体化されるように構成されている。即ち、電気絶縁層56が周方向Zについて補助ブラシ51と正ブラシ35とによって挟み込まれている。
【0149】
その他の構成は、実施形態15と同様である。
【0150】
上記の電気接点装置30Iによれば、補助ブラシ51と正ブラシ35を一体化することで、ブラシ自体の数を少なくでき、またブラシに付随するブラシホルダやばね部材の数を少なくできるため、コスト低減を図ることができる。また、周方向Zについて補助ブラシ51と正ブラシ35を互いに近づけることでアーク吸収部50Cを小型化できる。
【0151】
その他、実施形態15と同様の作用効果を奏する。
【0152】
(実施形態19)
図27に示されるように、実施形態19の電気接点装置30Jは、実施形態17の電気接点装置30Hの変更例である。この電気接点装置30Jは、アーク吸収部50Dを備えている。アーク吸収部50Dは、一対の補助ブラシ51A,51Bのそれぞれが電気絶縁層56を介して正ブラシ35に接合されて一体化されるように構成されている。即ち、一方の電気絶縁層56が周方向Zについて後方側補助ブラシ51Aと正ブラシ35とによって挟み込まれており、且つ他方の電気絶縁層56が周方向Zについて前方側補助ブラシ51Bと正ブラシ35とによって挟み込まれている。
【0153】
その他の構成は、実施形態17と同様である。
【0154】
上記の電気接点装置30Jによれば、一対の補助ブラシ51A,51Bと正ブラシ35を一体化することで、ブラシ自体の数を少なくでき、またブラシに付随するブラシホルダやばね部材の数を少なくできるため、コスト低減を図ることができる。また、周方向Zについて一対の補助ブラシ51A,51Bと正ブラシ35を互いに近づけることでアーク吸収部50Dを小型化できる。
【0155】
その他、実施形態17と同様の作用効果を奏する。
【0156】
なお、上記の電気接点装置30F,30G,30H,30I,30Jにおいては、アーク吸収部50,50A,50B,50C,50Dを正ブラシ35側に加えて負ブラシ36側に設けることもできる。これにより、電磁ノイズの低減効果を更に向上させることができる。一方で、負ブラシ36側で生じるアークAによる電磁ノイズは、正ブラシ35側で生じるアークAによる電磁ノイズよりも小さいことが知られており、電気接点装置30F,30G,30H,30I,30Jのコスト低減を図るためには、正ブラシ35側のみにアーク吸収部50,50A,50B,50C,50Dを設けるのが好ましい。
【0157】
(実施形態20)
図28に示されるように、実施形態20の電気接点装置30Kは、実施形態15の電気接点装置30Fの変更例である。この電気接点装置30Kは、アーク吸収部50Eを備えている。アーク吸収部50Eは、正ブラシ35の周方向Zの摺接長さMaが負ブラシ36の周方向Zの摺接長さMbを上回るように構成されている。
【0158】
その他の構成は、実施形態15と同様である。
【0159】
上記の電気接点装置30Kによれば、正ブラシ35の摺接長さMaを負ブラシ36の摺接長さMbよりも長くすることによって、正ブラシ35が2つの整流子片32に摺接してコイルをショートする時間を延ばし、熱として消費されるアークエネルギー量を増やすことができる。このため、各整流子片32に表面に亜鉛酸化物Sが固着した状態で回転電機1を大電流で運転する場合であっても、アークAの発生自体を抑制することで電磁ノイズの低減効果を向上させることができる。
【0160】
その他、実施形態15と同様の作用効果を奏する。
【0161】
本発明は、上述の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0162】
上述の実施形態では、低沸点材として亜鉛を使用する場合について例示したが、これに代えて、銅の沸点を下回る沸点を有する材料(例えば、マグネシウムなど)を使用することもできる。
【0163】
上述の実施形態では、亜鉛と潤滑剤とを主体に構成された混合材について例示したが、亜鉛に加えて混合される材料は潤滑剤に限定されるものではなく、必要に応じて潤滑剤以外の材料を加えることもできる。
【符号の説明】
【0164】
1…回転電機、10…シャフト、20…回転子、21…鉄心、22…電機子コイル、30,130,230,330,430,530,630,730,830…電気接点装置、31…整流子、32,32A,32B,32C,32D…整流子片(高電位側接点、低電位側接点)、32d…めっき層、33…摺接開始部、34…摺接終了部、35…第1ブラシ(高電位側接点、正ブラシ)、36…第2ブラシ(低電位側接点、負ブラシ)、37N…陰極ブラシ、40…磁石、50,50A,50B,50C,50D,50E…アーク吸収部、51…補助ブラシ、51A…後方側補助ブラシ(補助ブラシ)、51B…前方側補助ブラシ(補助ブラシ)、52…バイパス経路、53…通電部材、54…ダイオード、55…ツェナーダイオード、56…電気絶縁層、104a…可動接点(高電位側接点)、105a…固定接点(低電位側接点)、A…アーク、Cmin…最小値、Cman…最大値、D,D1,D2…間隔、E…電源、La…対向長さ、Lb…摺接長さ、Ma,Mb…摺接長さ、X…軸方向、Z…周方向、Za…回転方向