(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】作業計測システム
(51)【国際特許分類】
B23K 1/00 20060101AFI20240301BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20240301BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20240301BHJP
B23K 1/012 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B23K1/00 A
G01J5/00 101A
G01J5/48 E
G01J5/48 D
B23K1/012
(21)【出願番号】P 2019178310
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 明秀
(72)【発明者】
【氏名】吉川 裕
(72)【発明者】
【氏名】金子 真也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇
(72)【発明者】
【氏名】沖崎 直也
(72)【発明者】
【氏名】張 旭東
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼ 靖典
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056622(JP,A)
【文献】特開2003-025065(JP,A)
【文献】特開平11-005158(JP,A)
【文献】特開平07-043217(JP,A)
【文献】特開平02-070376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00
G01J 5/00
G01J 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナーを用いる作業を計測するバーナー作業計測システムであって、
作業を撮影する一つ以上のカメラと、
前記カメラが撮影した画像を演算処理する制御部と、
作業対象物の
2点以上の温度を計測する一つ以上の温度計とを備え、
前記制御部は、
前記カメラが撮影した画像から前記作業対象物と前記バーナー又は炎の位置関係、前記作業対象物とろう材の位置関係、及び前記バーナー又は前記炎と前記ろう材の位置関係のうち少なくとも一つを計算し、
前記カメラが撮影した画像を用いて、前記作業対象物の温度分布を推定し、
前記温度計が計測した前記作業対象物の温度を用いて、前記推定された温度分布を補正し、
前記計算された位置関係、及び前記計算された位置関係と前記補正された温度分布との関連付けを含めた作業データを作成することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項2】
バーナーを用いる作業を計測するバーナー作業計測システムであって、
作業を撮影する一つ以上のカメラと、
前記カメラが撮影した画像を演算処理する制御部と、
作業対象物の前後方向、高さ方向及び周方向の少なくとも一つの方向で前記作業対象物の2点以上の温度を計測する一つ以上の温度計とを備え、
前記制御部は、
前記カメラが撮影した画像から前記作業対象物と前記バーナー又は炎の位置関係、前記作業対象物とろう材の位置関係、及び前記バーナー又は前記炎と前記ろう材の位置関係のうち少なくとも一つを計算し
、
前記カメラが撮影した画像から炎の色及び前記作業対象物の色の少なくとも一つを検出し、前記計算された位置関係との関連付けを含めた作業データを作成し、
前記温度計が計測した前記作業対象物の温度と、前記計算された位置関係とを関連付けて、バーナー作業を評価することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のバーナー作業計測システムであって、
前記一つ以上のカメラは、異なる方向から前記作業対象物を撮影する複数のカメラであることを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のバーナー作業計測システムであって、
前記温度計は、放射温度計であることを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のバーナー作業計測システムであって、
前記制御部は、前記カメラが撮影した画像から炎の内炎と外炎とを区別し、前記作業対象物と前記内炎の位置関係を計算することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のバーナー作業計測システムであって、
前記制御部は、前記カメラが撮影した画像から特定された炎の色又は前記作業対象物の色又は前記作業対象物の温度の少なくとも一つを用いて、次の動作を開始するタイミングを作業者に提示することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載のバーナー作業計測システムであって、
前記制御部は、前記カメラが撮影した画像からろう材の回り込み若しくは垂れ、又ははろう材によるフィレットの形成についてのデータを作成し、前記計算された位置関係との関連付けを含めて前記作業データを作成することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項8】
請求項4に記載のバーナー作業計測システムであって、
前記制御部は、前記カメラが撮影した画像から放射率変化を求め温度を補正する機能を有することを特徴とするバーナー作業計測システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載の作業計測システムが作成した作業データを用いて、作業者の教育のためのデータを出力することを特徴とする教育システム。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一つに記載の作業計測システムが作成した作業データを用いて、作業品質を管理するためのデータを出力することを特徴とする品質管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業を計測する作業計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の社会情勢に伴い、モノづくりの環境は大きく変化している。例えば海外生産の増加や海外からの調達品の増加、熟練技能者の減少などにより、モノづくりの技能を維持しにくくなっており、品質管理はより厳しい状況にさらされている。これまでの技能伝承方法としては、熟練技能者から直接的な指導によって、引き継がれてきた。しかしながら、技能を伝える手段が十分でなく、感覚的な指導になることが多いため、指導に時間が要したり、不正確に伝わったりするため、完全には伝承されず、失われることも危惧される。
【0003】
一方で、近年の計測技術の発展により、熟練技能者の技能を計測して、評価する取り組みが見られる。従来の技能伝承における課題を解決する方法として、種々の計測機器を用いて、技能者の作業を計測し、評価する取り組みが行われている。
【0004】
また、ろう付けや溶接などの接合作業は、大物構造体や複雑な形状を有する部材のモノづくりにおいて、重要な工程の一つである。特に、接合箇所に応力がかかる構造体や、内圧からの応力がかかる密閉容器においては、接合の出来具合が安全性に関わるため、作業の品質を確認する工程が設けられる。一般的には、抜き取りによる破壊検査や、X線像、超音波探傷による非破壊検査によって、接合の不良を検出し、品質を管理する。また、不良や未完了部を検出すると、手直しの工程が追加されるため、工程遅延が発生する。
【0005】
近年、物質の移動が伴う現象を時間方向に詳細に撮影できるカメラや、各種現象を数値データ化できるセンサが開発されている。このようなセンサで接合の状態をとらえ、不良や未完了部位の発生を防止し、品質を管理することが求められている。
【0006】
特許文献1には、対象物をロウ付けするロウ付け装置であって、前記対象物を加熱するバーナーと、前記バーナーで加熱した前記対象物の加熱部分を撮影する第1可視光カメラと、前記第1可視光カメラで撮影された撮影画像又は撮影動画に基づいて前記加熱部分の温度を特定する温度特定機構と、前記温度特定機構で特定した温度が所定温度以上であった場合に前記加熱部分に対してロウ材を供給するロウ材供給機構と、前記バーナー、前記第1可視光カメラ及び前記ロウ材供給機構を一体に支持するハンドとを備え、前記ハンドによって、前記バーナー、前記第1可視光カメラ及び前記ロウ材供給機構を所定経路に沿った軌跡を描くように移動させてロウ付けすることを特徴とするロウ付け装置が開示されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、ハンドに取り付けられた可視光カメラが取得した画像の色変化から温度を予測しているため、高い精度で温度の計測が困難である。また、取得しているパラメータが温度のみであり、作業者の教育に活用するためには十分なデータではない。また、一方向からの撮影のみでは画像に映っていない箇所の温度が分からないので、ろう付け作業対象物全体の温度分布の把握が困難である。また、カメラはバーナーとともにハンドに取り付けられており、ろう付け作業対象物の炎が当たっている箇所が分からない。さらに、ろう付け作業対象物と炎との距離などの奥行き情報の精度が低くなる。
【0009】
以上に鑑みて、本発明は、ろう付け作業において、作業者の動作を三次元的に可視化し、同時に取得した温度と関連付けることによって、品質推定の精度を向上し、教育システムへの適用を可能とするろう付け作業計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、バーナーを用いる作業を計測するバーナー作業計測システムであって、作業を撮影する一つ以上のカメラと、前記カメラが撮影した画像を演算処理する制御部と、前記作業対象物の2点以上の温度を計測する一つ以上の温度計とを備え、前記制御部は、前記カメラが撮影した画像から作業対象物と前記バーナー又は炎の位置関係、前記作業対象物とろう材の位置関係、及び前記バーナー又は前記炎と前記ろう材の位置関係のうち少なくとも一つを計算した作業データを作成し、前記カメラが撮影した画像を用いて、前記作業対象物の温度分布を推定し、前記計算された位置関係との関連付けを含めて前記作業データを作成し、前記制御部は、前記温度計が計測した前記作業対象物の温度を用いて、前記推定された温度分布を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、不良率の低減に寄与するシステムを提供できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】作業計測用カメラが撮影した映像の例を示す図である。
【
図4】ろう付け作業を測定した結果を示す図である。
【
図5】ろう付け作業計測システムに記憶された作業データと品質との相関分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例として、ろう付け作業を計測するろう付け作業計測システム、及びこの計測結果を利用した品質管理システム及び教育システムについて図面を用いて説明する。
<実施例1>
図1は、実施例1のろう付け作業計測システムの全体図である。
【0014】
実施例1のろう付け作業計測システムは、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)、制御部(制御装置)6、及びろう付け作業温度計7(a)、7(b)を有する。作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)、及びろう付け作業温度計7(a)、7(b)は、治具8に固定されている。作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)は、ろう付け対象物2とろう付け用の治工具であるガスバーナー3及びろう材4の画像を撮影する。例えば、図示するように、作業計測用カメラ1(a)は上側からの映像を撮影し、作業計測用カメラ1(b)は奥側からの映像を撮影し、作業計測用カメラ1(c)は真横からの映像を撮影する位置に配置される。ガスバーナー3は、炎が出る機構を有する。作業者5は、ろう付け対象物2(例えば銅)を加熱した後にろう材4を供給して、ろう付け対象物2をろう付けする。
【0015】
制御部6は、例えば、演算処理装置(例えば、CPU)、当該演算処理装置が実行するプログラムやデータが記憶される記憶装置(例えば、ROM、RAM等の半導体メモリやHDD等の磁気記憶装置であり、後述の「記憶部」が該当)、演算処理装置の演算結果を表示する表示装置(例えば、モニタ、タッチパネル)、及び所定のプロトコルに従って、他の装置との通信を制御する通信装置を有するコンピュータで構成される制御装置であり、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)が撮影した画像及びろう付け作業温度計7(a)、7(b)が測定したろう付け対象物2の温度を演算処理する。演算処理装置において、CPUがプログラムを実行して行う処理の一部を、他の演算装置(例えば、FPGAやASICなどのハードウェアによる演算装置)で実行してもよい。制御部6にネットワークを介して接続された端末が入力装置及び出力装置として機能してもよい。
【0016】
演算処理装置が実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介して制御部6に提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性記憶装置に格納される。このため、制御部6は、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェースを有するとよい。
【0017】
制御部6は、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作するものでもよい。
【0018】
作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)は、作業者5及びろう付け対象物2の周囲に配置されており、作業者5がろう付け対象物2をろう付けする際のガスバーナー3又は炎及びろう材4の動きを計測する。作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)は、制御部6に接続されている。作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)は、三次元的に動作を測定できるように異なる方向(望ましくは、直交する3方向)から、作業者5及びろう付け対象物2を撮影できるように設置される。本実施例では作業者5の真横、上、奥にそれぞれ1台ずつ設置される。
【0019】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)が撮影した映像の例を示す。
図2(A)は真横から撮影した映像を示しており、ガスバーナー3、継手102、外管103、及び内管104が写っている。本実施例では、ろう付け対象物2である継手102は、上部に内管104が収まる膨らみのある外管103を下側に設置し、上側から内管104が外管103に差し込まれる継手である。
【0020】
制御部6は、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)で撮影した動画を解析して、継手102、ガスバーナー3、及びろう材4の位置を認識する。
図2(A)に示す真横からの作業計測用カメラ1(c)の映像からは、ガスバーナー3と継手102の垂直方向の位置関係を主に認識できる。制御部6は、この画像を解析して、ガスバーナー3の先端で炎の付け根の位置105、作業者5に最も近い継手102の位置106、ガスバーナー3と継手102の距離107、垂直方向の炎の角度108、及びガスバーナー3から出ている炎が当たる高さ109を認識する。
【0021】
図2(B)は、
図2(A)と同じ作業を奥側から撮影した映像を示しており、ガスバーナー3、ろう材4、及び内管104が写っている。
図2(B)に示す奥側からの作業計測用カメラ1(b)の映像からは、ろう材4とろう付け対象物2の垂直方向の位置関係を主に認識できる。制御部6は、この画像を解析して、垂直方向のろう材4の角度202、及びろう材4が当たる高さ203を認識する。
【0022】
図2(C)は、
図2(A)と同じ作業を上側から撮影した映像を示しており、ろう材4、継手102、外管103、及び内管104が写っている。
図2(C)に示す上側からの作業計測用カメラ1(a)の画像は、ガスバーナー3とろう材4とろう付け対象物2の水平方向の位置関係を主に認識できる。
図2(C)に示す画像は、継手102の断面が円形であることから、継手102の中心を原点とした極座標で表すとよい。制御部6は、この画像を解析して、炎の当てる水平方向の位置301、ろう材4を当てる水平方向の位置302、炎の水平方向の角度303、及びろう材4の水平方向の角度304を認識する。なお、角度303及び角度304は、ろう付け対象物2が円筒である場合、当該円筒の断面の円の接線との角度で算出するのが好ましい。
【0023】
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に示すように、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)を異なる3方角に設置することによって、垂直方向及び水平方向で三次元的な動作を測定でき、三次元的に作業を認識できる。
【0024】
本実施例では、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)の映像を用いて、継手102とガスバーナー3の位置関係(距離、角度)、継手102とろう材4の位置関係(距離、角度)を算出したが、ガスバーナー3とろう材4の位置関係(距離、角度)を算出してもよい。つまり、前述した三つの部材(継手102、ガスバーナー3、ろう材4)の間の3種類の位置関係のうち少なくとも一つを算出して、作業データを作成すればよい。
【0025】
本実施例では、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)の映像ごとに物体の位置を算出しているが、ガスバーナー3を頻繁に動かす動作の場合は、一つの映像から解析された角度や距離の精度が低下するため、複数の映像を用いて三次元的に解析するのが好ましい。なお、ガスバーナー3の動きが小さく単純な場合は、
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に示すように、映像ごとに物体の位置を算出してもよく、この方が処理時間の観点からは好ましい。また、画像撮影時に距離を測定可能な単眼の距離画像カメラを用いて物体の位置を算出してもよい。
【0026】
複数のカメラを設置し、撮影されたマーカを認識するマーカ式モーションキャプチャを用いて動作を計測して、三次元座標を取得してもよい。
【0027】
また、本実施例では評価対象はろう材4、ガスバーナー3、ろう付け対象物2であるが、作業者5の動作を評価する機構を併用しても構わない。作業者5の動作は、カメラの映像解析、ToF(Time of Flight)センサや、作業者5の体に配置されたマーカによるモーションキャプチャなどで評価可能である。
【0028】
さらに、カメラの映像よりろう付け対象物2の色や炎の色の変化を評価し、ろう付け対象物2の温度分布を推定できる機能があると好ましい。そして、ろう付け対象物2の温度分布と継手102、ガスバーナー3、ろう材4の位置関係と関連付けたデータを含めて作業データを作成するとよい。この場合、ろう付け作業温度計7(a)、7(b)の情報に基づいて推定された温度を補正すると、温度の推定の精度を高めることができる。ろう付けは、ろう付け対象物2の温度によって、ろう付け対象物2や炎の色が変化する場合があり、ろう付け対象物2の温度、ろう付け対象物2の色、炎の色のいずれかによって次の動作のタイミングが決まる場合があるため、次の動作を開始するタイミングを作業者5に提示すると好ましい。作業者への提示は、作業場所に設けた表示装置(図示省略)への表示や、警告音や音声を発してもよい。
【0029】
また、ガスバーナー3からは炎が出ており、計測する対象はガスバーナー3でも炎でも、その両方でもよい。一般的なガスの炎には
図2(A)に示するように内炎110と外炎111があり、映像中の炎の色などによって内炎110と外炎111を区別する機能があることが好ましい。さらに、ろう付けの作業を評価するためには、計測する対象を内炎110の先端にして、内炎110の先端からろう付け対象物2までの距離112を評価すると、ろう付け対象物2に加わる熱量が正確に評価できてより好ましい。炎にはマーカを配置できないので、炎を計測する場合にはモーションキャプチャではなくカメラの方が好ましい。
【0030】
さらに、
図2(A)のカメラの情報などから、ろう材の回り込みが適切かを判定できる解析機能があるとよい。適切であるかは、例えばろう材が周方向の全範囲に回り込んでフィレットを形成しているか、ろう材が適切な高さ方向の範囲までフィレットを形成しているかなどで判定できる。
【0031】
カメラには、フィルタを用いて計測対象を識別しやすくしてもよい。例えば、画像中の炎の明るさを弱めるため、オレンジや赤の波長である600nm~800nmの透過率が低いフィルタを用いてもよい。但し、作業者5の教育に用いる際には、人が見ている色味に近い色を再現するのが好ましい。
【0032】
ろう付け作業温度計7(a)、7(b)は、ろう付け対象物2の温度を測定するのに用いられ、例えば輻射熱を測定する放射温度計を使用できる。ろう付けにおいて温度は重要な要素であり、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)と併用して、画像の撮影と温度の測定とを同時に行うのが好ましい。本実施例では二つの温度計を設けているが、一つ又は三つ以上でもかまわないが、二つ以上の温度計を設けて複数点の温度を計測する方が、教育や品質管理に用いる際の効果が高まるので好ましい。
【0033】
ろう付け作業温度計7(a)、7(b)は、温度を測定できれば、放射温度計を使用しなくてもよいが、熱電対のようなろう付け対象物2に直接接触する接触式の測定方法より、設置の容易さや交換頻度が少ない観点から、非接触の測定方法の方が好ましい。非接触式の温度計は、ある範囲の温度を測定するサーモグラフィや、1点の温度を測定する放射温度計などがあるが、精度や費用の観点からは放射温度計が好ましい。
【0034】
図3に、本実施例での温度の測定位置を示す。作業者5から見て手前側の2箇所の測定点401(a)、401(b)と、奥側の2か所の測定点401(c)、401(d)の高さ方向の位置が異なる4か所を測定するとよい。つまり、温度の測定点は、継手102の前後方向、高さ方向及び周方向の少なくとも一つの方向で2点以上設けるとよい。ろう付け作業時には、ある一定の範囲を同じ温度に保つように管理するのが好ましく、温度の測定位置はその範囲を参考に設置するのが好ましい。なお、本実施例では前後方向及び高さ方向に複数個所の測定点を設けているが、周方向にも適宜放射温度計を設置し、温度分布を管理するのが好ましい。
【0035】
また、本実施例でのように輻射熱を測定する放射温度計を用いる場合、炎の影響をなるべく避けるため、炎のスペクトル強度が小さい波長で温度を測定するのが好ましい。例えば3.9μmの波長帯を用いるとよい。
【0036】
また、放射温度計を用いる場合は放射率の設定が重要であり、作業計測用カメラ1(a)、1(b)、1(c)が撮影した映像のろう付け対象物2の色などから放射率を判定できる。特に、ろう付け対象物2が銅である場合は、ある一定以上高い温度で炎を外した際に、銅が酸化して放射率が変化する。映像から把握したろう付け対象物2の変質によって、放射温度計の放射率を調整すれば、真の温度に補正でき、温度の精度を改善できて好ましい。
【0037】
さらに、温度に関しては、
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)の映像から炎の位置や当たり方を検出し、ろう付け対象物2の温度を推定する機能を有するのが、温度計側点以外の温度も知ることができて好ましい。この場合、ろう付け作業温度計7(a)、7(b)の情報に基づいて推定された温度を補正すると、温度の推定の精度を高めることができる。さらに、映像を用いて温度を分布として解析するのがより好ましい。
【0038】
また、温度・湿度・風力計測装置やガス流量計を併用してガス流量、温度、湿度、風力などのろう付け環境データを計測してもよい。ろう付け対象物2の色や温度などのろう付け計測データ及びろう付け環境データは制御部6に送られ、制御部6内の記憶部に蓄積データとして記憶される。また、制御部6は計測されたデータを表示する機能を有する。
【0039】
図4に、本実施例のろう付け作業計測システムを用いてろう付け作業を測定した結果の概要を示す。
図4に示すように、本実施例の作業計測システムは、時間毎に行われている作業や作業位置、時間及び位置毎の温度の計測結果を算出できる。
図4(A)は放射温度計が測定した測定点401(a)の温度、
図4(B)は水平方向の炎の角度303、
図4(C)は水平方向のろう材4の角度304をそれぞれ示している。作業者5は、最初は炎の角度をほぼ90°にしていたため、温度は適切に上昇していたが、領域501で炎をろう付け対象物2に対して、斜めにしたため、ろう付け対象物2の温度が下がり、その後動作を適切に戻し、領域502でろう材4を投入している。
【0040】
図4には温度と動作との対応がわかりやすくデータに表れており、本実施例のろう付け作業計測システムを用いれば、ろう付け作業温度計7(a)、7(b)が計測した作業対象物の温度(又は、カメラの映像から推定された温度分布)と、継手102、ガスバーナー3、ろう材4の位置関係とを関連付けて、バーナー作業を評価できる。例えば、温度の上昇が遅くなった理由を分かりやすく知ることができる。
【0041】
もし、ろう材投入温度503が、ろう材4の液相線温度より低い場合、ろう材4が溶けず、ろうが流れないため、継手102の強度が低下する。また、加熱終了時の温度504が継手102の固相線温度より高い場合、継手102が溶けることがあり、製品に不良が発生する。このように、動作が変わるタイミングの温度の解析によって、効果的な教育や品質管理ができる。
【0042】
以上に説明したように、本実施例のろう付け作業計測システムでは、ろう付け対象物2(継手102)と作業者5が持つガスバーナー3との位置関係、つまりろう付け対象物2と作業者5との位置関係を正確に計測でき、ろう付け作業を三次元で正確に解析した作業データを作成するろう付け作業計測システムを提供できる。
【0043】
また、本実施例のろう付け作業計測システムでは、作業中の温度を測定するので、動作の結果である温度を用いて、効果的な品質管理や教育ができる。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、実施例1のろう付け作業計測システムを適用した品質管理システム及び教育システムの例を示す。ろう付け作業計測システムの構成、ろう付け方法、及びろう付け対象物2は実施例1と同じであるので、実施例1と同じ構成には同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0045】
まず、実施例1のろう付け作業計測システムを適用した品質管理システムについて説明する。本実施例の品質管理システムは、過去に取得された作業データ(例えば、ろう付け作業動作データ、ろう付け計測データ、ろう付け環境データ)及びろう付け部の品質データを予め記憶しておき、新たに計測された作業データと比較することによって、品質判定部にてろう付け部の品質を判定する。品質判定部は、作業者5の作業レベルを評価できる。品質判定部は、制御部6と共に1台の計算機に実装されても、制御部6と別の計算機に実装されてもよい。
【0046】
実施例1のろう付け作業計測システムに記憶された蓄積データ(作業データ)と品質との相関分析の結果、ろう付けの温度と品質には相関が認められ、ろう付けの温度が強い特徴量として抽出された。
図5(A)に品質との関係を示す。ろう材投入時にいずれかの測定点401(a)、401(b)、401(c)、401(d)の温度が600℃未満である場合、ろう材が十分に溶けず不良になり、また、850℃以上である場合、ろう材が過剰に溶け、ろう材の垂れが起こることが分かった。
【0047】
さらに、
図5(B)に示すように、水平方向のろう材4の投入角度と品質には相関が認められる。すなわち、水平方向のろう材4の投入角度が70°から110°である場合、ろう材4は先端から徐々に溶けるため、継手102の外管103と内管104の隙間に適切に浸透するのに対し、水平方向のろう材4の投入角度が70°未満又は水平方向のろう材4の投入角度が110°を超える場合、ろう材4が線でろう付け対象物2に接触し、ろう材4の垂れが生じたり、浸透が不十分となる。
【0048】
このように、本実施例の品質管理システムでは、実施例1のろう付け作業計測システムに記憶された作業データから品質との相関が強い特徴量を抽出し、品質を管理できる。本実施例では、ろう材投入時の温度やろう材4の角度を特徴量として使用したが、これに限らず、実施例1のろう付け作業計測システムが取得した様々なデータを特徴量として使用できる。
【0049】
また、品質管理システムは、
図5(A)、
図5(B)に示す適切な範囲から外れた際に作業者5に報知することによって、不良品の未然防止や不良品の検出ができる。報知方法としては、作業しながら気が付きやすい警告音や音声が好ましい。
【0050】
次に、実施例1のろう付け作業計測システムを適用した教育システムについて説明する。本実施例の教育システムは、実施例1のろう付け作業計測システムに記憶された作業データと適切な動作との相関を分析した結果、水平方向の炎の角度が75°から105°が適切であり、この範囲から外れると温度上昇が遅くなることが分かった。そこで、水平方向の炎の角度の適切な範囲を作業者5に提示して、教育に活用するとよい。また、水平方向の炎の角度がこの範囲から外れた場合に、作業者5に報知する機能を有するとよい。
【0051】
さらに、作業データから母材の色の適切な範囲があることが分かった。このような判断のポイントも教示することで教育効果を高めることができる。
【0052】
以上のように、本発明では、ろう付け作業動作を正確に数値化でき、その数値データを品質管理や教育に活用することによって、品質を向上させ、技能を確実に伝承でき、不良率の低減に寄与できる。
【0053】
なお、本発明はろう材を用いるろう付け作業を実施例としているが、バーナーを用いている作業であれば別の作業でも適用できる。別の作業としては、例えばバーナーを金属などに照射することで、金属を切断するガス切断作業や金属表面を洗浄や改質する表面処理などが挙げられる。
【0054】
また、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0055】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0056】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0057】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0058】
1 作業計測用カメラ
2 ろう付け対象物
3 ガスバーナー
4 ろう材
5 作業者
6 制御部
7 ろう付け作業温度計
8 治具
102 継手
103 外管
104 内管