IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 伊藤園の特許一覧

特許7446078網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物
<>
  • 特許-網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物 図1
  • 特許-網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物 図2
  • 特許-網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20240301BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240301BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240301BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K9/08
A61P27/02
A23L33/10
A23L2/54
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019185169
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021059513
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】230103089
【弁護士】
【氏名又は名称】遠山 友寛
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 勉
(72)【発明者】
【氏名】坂根 巌
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239598(JP,A)
【文献】International Journal of Ophthalmology,2017年,Vol.10, No.10,pp.1495-1503
【文献】Medical Science Monitor,Vol.22,2016年,pp.776-779
【文献】Frontiers in Pharmacology,2017年,Vol.8, No.587,pp.1-11
【文献】Neuroscience Letters,2009年,Vol.453,pp.81-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 27/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 33/00-33/29
A23L 2/00- 2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における遺伝性の網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物であって、
水素を含み、経口投与される、水性医薬組成物。
【請求項2】
水素を1ppm以上含む、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
網膜色素変性症がrd6を原因遺伝子とするものである、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
対象における網膜外顆粒層が菲薄化している、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも一週間以上投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
容器に封入されている、請求項1~のいずれか一項に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
対象における遺伝性の網膜色素変性症の病状維持又はその進行抑制のための飲食品組成物であって、
水素を含む、飲食品組成物。
【請求項8】
水素を1ppm以上含む、請求項に記載の飲食品組成物。
【請求項9】
網膜色素変性症がrd6を原因遺伝子とするものである、請求項7又は8に記載の飲食品組成物。
【請求項10】
対象における網膜外顆粒層が菲薄化している、請求7~9のいずれか一項に記載の飲食品組成物。
【請求項11】
飲料の形態である、請求項8~10のいずれか一項に記載の飲食品組成物。
【請求項12】
容器に封入されている、請求項7~11のいずれか一項に記載の飲食品組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法であって、液状媒体に水素を添加する工程を含む、方法。
【請求項14】
水素が1ppm以上添加される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜色素変性症(RP: retinitis pigmentosa)とは、長い年月をかけて網膜の視細胞が退行変性していき、主に進行性夜盲、視野狭窄、羞明を認める疾患群である。網膜色素変性症は進行度合や症状には大きな個人差があり、成人の中途失明の原因2位とされている。網膜色素変性症は遺伝性疾患であるが、孤発例も多く見られる。
【0003】
網膜色素変性症の遺伝形式には常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、伴性劣性遺伝の3つのタイプがある。現在までに明らかになった原因遺伝子にはロドプシン、ペリフェリンなどあるが、これらは網膜色素変性症の原因遺伝子のごく一部にすぎず、50%以上の患者における原因遺伝子は同定されていない。現在、効果的な治療法はなく、遺伝子治療などが試されているが(例えば、特許文献1を参照のこと)、原因遺伝子が数多く有り、未だ同定されていない遺伝型を有する患者も多数いる。そのため、網膜色素変性全般に効果的な新たな治療法の開発が望まれているところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4971974号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、遺伝子治療に代えて、より簡便な手法にて網膜色素変性症を治療又は予防する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水素を液状媒体に含ませ、これを経口投与することにより、網膜色素変性症の改善等が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物であって、
水素を含む、水性医薬組成物。
[2]水素を1ppm以上含む、[1]に記載の水性医薬組成物。
[3]経口投与される、[1]又は[2]に記載の水性医薬組成物。
[4]少なくとも一週間以上投与される、[1]~[3]のいずれかに記載の水性医薬組成物。
[5]容器に封入されている、[1]~[4]のいずれかに記載の水性医薬組成物。
[6]網膜色素変性症の改善病状維持又はその進行抑制のための飲食品組成物であって、
水素を含む、飲食品組成物。
[7]水素を1ppm以上含む、[6]に記載の飲食品組成物。
[8]飲料の形態である、[7]に記載の飲食品組成物。
[9]容器に封入されている、[6]~[8]のいずれかに記載の飲食品組成物。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、液状媒体に水素を添加する工程を含む、方法。
[11]水素が1ppm以上添加される、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、従来の遺伝子治療に代えて、水素水を含有する水性医薬組成物の投与という簡便な手段にて網膜色素変性症の治療又は予防を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、光断層装置(OCT)において網膜色素変性モデルであるRd6(Retinal degeneration 6)マウスの外層が菲薄化した結果を示す。矢印は網膜外層厚を示す。
図2図2は、図1の視細胞における網膜外層厚を測定した結果を示す。
図3図3は、網膜電図(ERG)における0.02cd・s/m2の条件下におけるb波の大きさを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
(水性医薬組成物)
本実施形態に係る網膜色素変性症の治療又は予防のための水性医薬組成物は、有効成分として水素を含む。本明細書で使用する場合、「水性」とは医薬組成物を構成する液状媒体が水を含んでいることを意味する。
【0012】
液状媒体はその全部又は大部分が水から成るものである。水以外の液状媒体としては、水素を含むことができる水混和性の媒体であって、尚且経口摂取可能なものであれば特に限定されず、例えばエタノールなどのアルコール類等が挙げられる。水以外の媒体と組み合わせる場合、水の比率は50質量%以上であることが好ましい。水素以外の気体を液体媒体に含めてもよいが、水素濃度を上げるために、液体媒体は、水素以外の気体が添加されていない、水自体であることが好ましい。
【0013】
水性医薬組成物は、経口投与用の組成物として調製することができる。経口投与用の組成物の例として、水素水自体、あるいは、他の成分との組み合わせで溶液剤やシロップ剤が挙げられる。水素水とは、水素分子を水に溶解又は分散させたもの指す。水素を水に含有させる方法としては、例えば、特許5746411号に開示した方法を採用してもよいが、その他公知の方法を選択してもよい。
【0014】
水性医薬組成物には、水素以外にも、網膜色素変性症の治療又は予防に有効な他の有効成分、例えばヘレニエンやビタミンAを1種又は2種以上配合してもよい。更に、組成物の投与とともに、公知の遺伝子治療を併用することもできる。
【0015】
水性医薬組成物は、水素を0.01ppm以上10.00ppm以下、より好ましくは0.10ppm以上5.00ppm以下、さらに好ましくは0.50ppm以上4.00ppm以下、最も好ましくは1.00ppm以上3.00ppm以下含んでもよい。
特定の水素濃度を維持するためには、水性医薬組成物を金属缶、金属積層フィルムを用いたパウチ形態の容器、ガラス瓶に封入することが好ましい。
【0016】
水性医薬組成物は、有効成分以外にも適切な添加剤を含んでもよい。
【0017】
添加剤として、例えば、pH調節剤(無機又は有機の酸又は塩基等)、等張化剤(塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等)が挙げられる。
【0018】
水性医薬組成物の用量・用法は、網膜色素変性症の症状、投与対象の年齢、所望とする効果の程度等によって異なるが、例えば、上記濃度の水素を含む水性医薬組成物は少なくとも長期間投与されることが好ましい。例えば、成人は、0.5ppm濃度の水素水を一日1リットル程度、少なくとも1週間以上摂取することが好ましい。
【0019】
水性医薬組成物は、ヒトやそれ以外の哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対して有効である。
【0020】
水性医薬組成物の有効性の評価は、当業者が適宜確認することができる。例えば、評価指標として、OCTにおける網膜外層厚の変化や多局所ERGによるb波の振幅等が挙げられる。
【0021】
(飲食品組成物)
本実施形態に係る網膜色素変性症の病状維持または進行抑制のための飲食品組成物は、水素を含む。
【0022】
組成物中の水素濃度は網膜色素変性症の改善効果を奏する限り特に限定されないが、1ppm以上が好ましい。
【0023】
また、飲食品組成物は、健康食品、健康補助食品等の食品組成物又は飲料組成物として用いることも可能である。ここで好ましい食品組成物又は飲料組成物としては、栄養ドリンク、スポーツドリンク、エナジードリンク、果実飲料、野菜飲料、炭酸飲料、茶飲料、コーヒー飲料、スープ飲料等が例示することできる。中でも、栄養ドリンク、スポーツドリンク、エナジードリンクが好ましい。
【0024】
飲食品組成物の製造方法は常法に従えばよく、適切なタイミングで水素を媒体に含有させることにより調製すればよい。また、飲食品組成物の製造に際しては、その他の食品素材、すなわち各種糖質や乳化剤、増粘剤、甘味料、酸味料、香料、アミノ酸、果汁等を適宜添加することができる。
【0025】
具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース等の高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁、ベリー系果汁等の果汁類等が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等を添加することが可能である。
【0026】
(製造方法)
本実施形態に係る上記組成物を製造する方法は、液状媒体に水素を添加する工程を含む。水素は1ppm以上添加されることが好ましい。
【0027】
その他の工程は当業者が適宜設計することができ、各工程は最終製品を医薬組成物とするか、飲食品組成物とするかによって異なる。
【0028】
以下、具体例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これにより限定されるものではない。
【実施例
【0029】
水素水飲用による視細胞保護効果の検討
網膜色素変性マウス(Rd6)を用い、水素水飲用による視細胞保護効果について検討した。
水素水としては、高濃度(1.4ppm程度)を保っている市販の水素水を用いた。水素水の水素濃度を維持するために、外気と接触させない特殊な構造を有する給水口を容器に取り付けた。この給水口により、少なくとも1週間上記水素濃度を維持することが可能となった。
【0030】
rd6マウスについて、通常の水の飲水群と水素水の飲水群を作り、離乳期(生後3週)より各群に対し各飲料を自由に摂取させた。図1は野生型(normal)とrd6マウスの光断層干渉計(OCT)像である。rd6マウスの網膜外顆粒層(ONL: outer nuclear layer)が菲薄化していることが分かる。経時的にOCTを用いてONL厚を計測した(図2)。水素群では生後21週より有意にONLの菲薄化が抑制された。
【0031】
視細胞に対し、神経保護ができれば、ONL厚の維持と視細胞数の維持が可能であると考えられるが、図2に示すとおり、水素水の飲水群ではONL厚が維持されていた。
【0032】
更に、網膜電図(ERG)を測定することで網膜機能の状態を解析した。ERGは光刺激に伴って生ずる感覚網膜および網膜色素上皮の電気的活動を眼底の広い範囲から集めて得られる電位をグラフとして記録したものである。ERGにはいくつかの波形が存在するが、主にa波は視細胞、b波はミュラー細胞由来の波形である。網膜色素変性では、視細胞が消失するため、a波が消失し、b波も減弱する。図3に示すとおり、通常の水を摂取した群のb波に比べ、水素水の摂取群では波形の低下が抑制された。
図1
図2
図3