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特許7446099歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20240301BHJP
   A61K 6/52 20200101ALI20240301BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240301BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K9/00
A61K6/52
A61K9/08
A61K31/7088
A61K45/00
A61P1/02
A61Q11/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019221658
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021091619
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】大平 猛
(72)【発明者】
【氏名】中島 美砂子
(72)【発明者】
【氏名】森川 直樹
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180956(JP,A)
【文献】特開2011-157580(JP,A)
【文献】特開2005-245817(JP,A)
【文献】特開2012-217616(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084780(WO,A1)
【文献】特開2012-217516(JP,A)
【文献】特表2007-518828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 6/00- 6/90
A61P 1/00-43/00
A61K 31/7088
A61K 45/00
A61Q 11/00
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤と、ナノバブルとを含有しており、
前記ナノバブルは、その表面がプラスに帯電したプラスナノバブルであることを特徴とする、歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物。
【請求項2】
前記ナノバブルのゼータ電位がプラスである、請求項1に記載の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物。
【請求項3】
前記プラスナノバブルの濃度が1×106~1×109個/mLであり、
前記プラスナノバブルの平均気泡径が10~300nmである、
請求項1または2に記載の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物。
【請求項4】
前記抗菌剤が、抗菌ナノパーティクル、抗生剤、抗菌薬、抗真菌剤、抗ウィルス剤、根管拡大剤、抗炎症剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質および幹細胞由来セクレトーム・エクソゾーム・miRNAからなる群のいずれか一つ以上を含む請求項1または2に記載の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯のう蝕治療、抜髄・感染根管治療、歯周疾患治療、修復・補綴治療、インプラント周囲炎治療等に用いる、抗菌剤とプラス帯電性ナノバブル(以下、プラスナノバブルという)とを含有する歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会において歯の健康・機能維持は健康長寿を達成する上で必須である。深い虫歯で神経を除去(抜髄)すると、除去後20年ぐらいまでの間に再感染して根の下に膿が溜まる根尖性歯周炎(感染根管)となることがあり(頻度15~20%、年間1,000万件)、さらにその約25%は難治性に陥り、抜歯・破折の一途を辿る。そこで、本発明者は「抜髄しても根尖性歯周炎に至らないようにする歯髄再生治療法」を開発し、すでに臨床研究5症例で安全性を確認し、有効性を示唆した(非特許文献1)。さらにイヌ根尖性歯周炎モデルにおいても、除菌後、抜髄歯と同様の治療法を行うことにより、根尖歯周組織および歯髄の再生に成功している(非特許文献2)。一方、難治性感染根管の病因は通常根管貼薬に用いる水酸化カルシウム製剤に対して耐性のE. faecalis(Enterococcus faecalis)が象牙細管や複雑な細孔をもつ歯根の奥深くに侵入し、バイオフィルムを形成するためと推定されている(非特許文献3)。したがって、難治性感染根管治療においては、根管の洗浄・貼薬、および根尖歯周組織の化学的・物理的刺激の可及的除去法の開発が重要である。
【0003】
難治性感染根管は咬合に影響を与えるばかりでなく、慢性の感染源として免疫力の衰えた高齢者の全身に多大な影響を及ぼす。骨粗鬆症治療薬服用中の場合顎骨壊死の危険性により抜歯できない場合も多い。また、抜歯してインプラントを適用できる症例は中高齢者では減少する。したがって、難治性感染根管歯の感染を制御し、抜歯や破折を回避し、歯の機能回復を図ることは、超高齢社会で健康維持に重要である。
【0004】
本発明の発明者は、歯科用ナノバブル発生装置を用いて、ナノサイズの超微細な気泡(マイナス帯電性ナノバブル)の優れた浸透亢進作用を利用して、標的となる患部に薬剤を有利に浸透させ得る薬剤組成物を提案している(特許文献1)。しかし、難治性感染根管歯の感染を制御する薬剤として、マイナス帯電性ナノバブル(以下、マイナスナノバブルという)と併用すると、根管内の除菌ができない抗菌剤があるという問題を見出した。そこで、マイナスナノバブルを抗菌ナノパーティクルと併用することにより、浸透亢進作用やスミヤー層除去効果を発揮でき、1~2週間ごとに根管洗浄および貼薬処置の根管治療を繰り返すことにより根管内の除菌が可能となった。しかしながら、根管完全除菌(根管内細菌が検出限界以下になる)には数回にわたる根管治療が必要という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開 WO2016/084780A1号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nakashima M., Iohara K., Murakami M., Nakamura H., Sato Y., Ariji Y., Matsushita K.: Pulp regeneration by transplantation of dental pulp stem cells in pulpitis: A pilot clinical study. Stem Cell Res Therapy Mar 9; 8(1):61, 2017.
【文献】藤田将典、庵原耕一郎、堀場直樹、立花克郎、中村洋、中島美砂子:「感染根管歯におけるナノバブルと超音波を用いた根管内無菌化と歯髄再生」日本歯科保存 学雑誌. 57(2): 170-179, 2014.
【文献】興地隆史:「歯内療法の争点―難治性根尖性歯周炎の病因と臨床―」Niigata Dent. J. 36(2): 1-15, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであって、難治性感染根管歯の感染を制御する薬剤としてより好適な、より短期間で根管完全除菌が可能な、歯の根管への浸透性がより良好であり、スミヤー層除去、細菌除去、バイオフィルム除去のために用いられるプラス帯電性ナノバブル(以下、プラスナノバブルという)含有の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる歯の根管内の洗浄・貼薬用に適した歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物は、以下の構成を備えている。
抗菌剤と、ナノバブルとを含有しており、前記ナノバブルは、その表面がプラスに帯電したプラスナノバブルであることを特徴とする、歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物。
組成物中に含有される表面がプラスに帯電したプラスナノバブルにより水の表面張力が小さくなり、水の浸透性が高くなる。プラスナノバブル水の浸透性が抗菌剤の抗菌作用と相乗的に作用することによって、歯の根管部の深部まで抗菌剤を行き渡らせることができ、歯および口腔内の感染を制御することができる。また、表面がプラスに帯電したプラスナノバブルを用いることにより抗菌効果に優れた歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物となる。
【0009】
前記プラスナノバブルは、ゼータ電位がプラスで、濃度が1×10~1×10個/mL、平均気泡径が10~300nmであることが好ましい。
【0010】
前記抗菌剤は、抗菌ナノパーティクル、抗生剤、抗菌薬、抗真菌剤、抗ウィルス剤、根管拡大剤、抗炎症剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質および幹細胞由来セクレトーム・エクソゾーム・miRNAからなる群のいずれか一つ以上を含むことが好ましい。また、前記抗菌剤が、カチオン性抗菌剤であることがより好ましい。
【0011】
本発明のプラスナノバブル含有の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物を含有する、歯の根管内、歯の歯周組織内、歯のう蝕または舌苔の細菌感染治療用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物は、抗菌剤とプラスナノバブルとを併用することにより、効果的に歯の根管内のスミヤー層の除去、細菌・バイオフィルムの除去ならびに歯髄および根尖歯周組織の抗炎症・治癒促進・再生促進が可能である。したがって、根管の洗浄・貼薬により、難治性感染根管歯を完全除菌し、細菌感染を制御し、治癒・再生が促進できる細菌感染治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】イヌ歯での難治性感染根管モデルの作製法を模式的に示す断面図である。
図2】イヌ難治性感染根管モデルにおけるナノバブルと抗菌ナノパーティクルの併用による根管洗浄と貼薬処置を模式的に示す断面図である。
図3】イヌ難治性感染根管モデルにおける抗菌ナノパーティクル・ナノバブル水の根管洗浄と貼薬後の根管内の細菌コロニー数の経時的な変化を示すグラフである。(A)抗菌ナノパーティクル最終濃度0.006%(w/v)・98%マイナスナノバブル水、抗菌ナノパーティクル最終濃度0.006%(w/v)のみ、(B)抗菌ナノパーティクル最終濃度0.006%(w/v)・98%プラスナノバブル水、プラスナノバブル水のみ。
図4】イヌ難治性感染根管モデルにおける98%ナノバブル水と最終濃度0.006%(w/v)抗菌ナノパーティクルの根管治療による根尖病変の骨吸収像の変化を治療開始前および治療2か月から4か月後にCBCTにて検査し、OsiriXにより解析した図である。(A)術前と、抗菌ナノパーティクルおよびプラスナノバブル水の併用による根管洗浄と貼薬の根管治療後3か月のCBCTによる骨吸収像の変化を示す図面代用写真、(B)抗菌ナノパーティクルのみ、(C)抗菌ナノパーティクルとマイナスナノバブル水の併用、(D)抗菌ナノパーティクルおよびプラスナノバブル水の併用による根管洗浄と貼薬の治療2か月から4か月後の骨吸収体積を術前と統計学的に比較したグラフである。**P<0.01 術前との比較。
図5】マイナス若しくはプラスナノバブル水の各種薬剤併用による5分間洗浄後の象牙細管内深部に対して、蛍光薬剤(テトラサイクリン)を浸透させた蛍光実体顕微鏡写真を示す。(A)薬剤なし、(B)抗菌ナノパーティクル、(C)グルコン酸クロルヘキシジン、(D)塩化ベンザルコニウム、(E)塩化セチルピリジニウム、(F)ドキシサイクリン、(G)テトラサイクリン・薬剤なし。 (上段)蒸留水、(中段)マイナスナノバブル水併用、(下段)プラスナノバブル水併用
図6】マイナス若しくはプラスナノバブル水の各種薬剤併用により、根管内のスミヤー層を5分間洗浄後の走査電子顕微鏡像の図面代用写真である。(A)薬剤なし、(B)グルコン酸クロルヘキシジン、(C)塩化セチルピリジニウム、(D)洗浄なし。 (上段)蒸留水、(中段)マイナスナノバブル水併用、(下段)プラスナノバブル水併用
図7】洗浄後の象牙細管数(象牙質壁 1mmあたりの象牙細管の個数)を統計学的に解析したグラフである。P<0.05、**P<0.01処置無しとの比較。P<0.05、##P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯の根管内および根管象牙細管内の感染治療用組成物は、抗菌剤とプラスナノバブルとを含有している。好ましくは、組成物の成分である抗菌剤として、抗菌ナノパーティクル、抗生剤、抗菌薬、抗真菌剤、抗ウィルス剤、根管拡大剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質抗炎症剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質および幹細胞由来セクレトーム・エクソゾーム・miRNAからなる群のいずれか一つ以上を含む。
【0015】
抗菌ナノパーティクルは、シアノアクリレートポリマーすなわちアクリレート系ポリマー粒子であり、細菌壁の糖鎖ペプチド表層と親和性が高い。抗菌ナノパーティクルが細菌に吸着すると、その部分は細菌壁の合成が阻害される。よって、細菌は内圧が保てずに自己融解する特徴を有する。抗菌ナノパーティクルは生分解されるため蓄積されず安全性が高く、耐性ができず自然環境を崩さない。シアノアクリレートナノポリマーの原料として用いられるモノマーの側鎖構造体は直鎖のn-ブチル基であり、代謝系にてホルムアルデヒドを生じないため安全である。また、抗菌ナノパーティクルは低濃度で抗菌効果を有する。
【0016】
抗菌ナノパーティクルの平均粒径は、細菌壁の合成を阻害する観点から、10~2,000nmが好ましく、50~1,000nmがより好ましく、100~500nmがさらに好ましい。本発明において平均粒径とは、モード径(最頻度粒子径)をいう。また、本発明において範囲「A~B」はA以上B以下を示す
【0017】
感染治療用組成物に含まれる抗菌ナノパーティクルの濃度(w/v)は、0.0001~0.3%が好ましく、0.001~0.06%がより好ましく、0.002~0.01%がさらに好ましい。なお、本発明において抗菌ナノパーティクルの濃度は、重量/容量パーセント(%(w/v))すなわち組成物100(mL)に含まれる抗菌ナノパーティクルの重量(g)で示す。
【0018】
抗菌ナノパーティクルは、例えば、特許第4963221号に記載の方法により製造することができる。この方法により製造される抗菌ナノパーティクルは多孔性である。このため、抗菌ナノパーティクルの孔の内部に薬剤を抱合させることが可能である。抗菌ナノパーティクルに抱合させる薬剤としては、例えば、アンピシリン、ドキシサイクリン、バンコマイシン、レボフロキサシン等の抗生剤・抗菌剤が挙げられる。また、例えば、抗真菌剤、抗ウィルス剤、消毒剤、根管拡大剤、抗炎症剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質および幹細胞由来セクレトーム・エクソゾーム・miRNAがあげられる。
【0019】
抗菌ナノパーティクルに抗菌剤を抱合させることで、抗菌ナノパーティクルの吸着性により抗菌剤を細菌壁に付着させ、効果的に抗菌作用を奏する。ただし、上述したとおり、抗菌ナノパーティクルは細菌壁の合成を阻害して細菌を自己融解することにより抗菌作用を奏するから、抗菌剤を抱合させないで用いることもできる。
【0020】
抗菌剤にはナノバブルの性質に影響を及ぼすものも存在する。しかし、抗菌剤を抗菌ナノパーティクルに抱合させた状態で用いることにより、抗菌剤によるナノバブルへの影響を抑制できる。
【0021】
抗菌ナノパーティクルに薬剤を抱合させる方法としては、薬剤の水溶液中に抗菌ナノパーティクルを浸漬させる方法や、薬剤の共存下において、シアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させる方法等が挙げられる。これら例示した二つの方法では、簡便であり抱合率が高くなることから、後者のアニオン重合させる方法がより好ましい。
【0022】
抗菌ナノパーティクルに抱合させる薬剤の濃度は、当該薬剤の性質、使用時の容量などに応じて適宜設定することができる。抗菌剤を抱合させる場合、通常、抗菌ナノパーティクル100重量%中に0.1~0.8重量%程度である。
【0023】
感染治療用組成物の成分である抗菌剤として、上記抗菌ナノパーティクルの他、抗生剤、抗菌薬、抗真菌剤、抗ウィルス剤、消毒剤、根管拡大剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質、抗炎症剤、創傷治癒や組織再生を促進する生理活性物質および幹細胞由来セクレトーム・エクソゾーム・miRNAが挙げられる。好適にはドキシサイクリン塩酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、アクリノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、フッ化第一錫、EDTA、クエン酸、MTAD、Tetraclean、トリプシン、キモトリプシン、CCR3拮抗剤、ALK5阻害剤、間葉系幹細胞セクレトーム・エクソゾームである。より好適にはドキシサイクリン塩酸塩水和物、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムである。
【0024】
抗菌剤は、そのイオン的な性質により、塩化セチルピリジニウム、塩化クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリウム、グルコン酸クロルヘキシジン等のカチオン性抗菌剤;プロタミン、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性抗菌剤;トリクロサン、3-メチル-4-イソプロピルメチルフェノール、チモール、カルバクロール、ファルネソール、ビサボロール、シネオール等の非イオン性抗菌剤に分類されるが、中でも、口腔内で効果的に抗菌効果を発揮させる観点からカチオン性抗菌剤が好ましい。また、ヒノキチオール;ラウロイルサルコシンナトリウム;l-メントール等の他の一般的な抗菌剤を用いることもできる。
【0025】
本発明の発明者は、既に、歯科用ナノバブル発生装置を用いて、ナノバブルがスミヤー層(根管拡大清掃時に生じる細菌が混じった切削片が象牙質の象牙細管に詰まったもの)を除去できること、人工的にアパタイト表面に作製したE. faecalisのバイオフィルムを除去できることについて特許出願をしている(特願2017-152594)。当該特許出願に係る明細書において、抜去歯のin vitro実験によりナノバブルが象牙細管内1mm以上深部へ薬剤を浸透させることを明らかにした。なお、以下では、表面の帯電性の正負を問わない場合、単にナノバブルと記載することもある。
【0026】
ナノバブルは、圧壊時に発生するフリーラジカルの作用により菌の増殖を抑制する。さらに溶液中の微粒子(ナノバブル)の周りに形成される電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位であるゼータ電位が、微粒子の流動性、凝集性、保存性などに関係すると考えられる。
【0027】
ナノバブルは、液状もしくはゲル状を呈する形態中に超微細な気泡として含有されており、気体(空気、二酸化炭素、窒素、酸素、オゾン等)がナノサイズの気泡内に導入されている。すなわち、ナノバブルは、高い内圧と帯電荷を有しており、その表面特性やブラウン運動のごとき運動特性等に基づくところの有効な除去促進作用によって、効果的に菌の増殖を抑制できる。ナノバブルに含有される気体は、一種または二種以上を用いることができる。二種以上の気体を用いる場合としては、例えば、気体Aのみからなるナノバブルと気体Bのみからなるナノバブルとの混合物を用いる場合もあれば、気体Aと気体Bとの混合物を含むナノバブルを用いる場合もある。
【0028】
本発明の感染治療用組成物が液体製剤である場合、これを構成する溶液は水溶液であることが好ましい。本発明において、ナノバブル状態にある気体を含む水溶液をナノバブル水といい、ナノバブル状態にある気体を含むゲルをナノバブルゲルという。
【0029】
ナノバブル水において、水溶液のpHは特に限定されるものではないが、例えば5.00~7.00の弱酸性から中性とすることが可能である。なお、ナノバブルのゼータ電位の絶対値は、時間を経ても大きくは変化しない。また、ナノバブル水において、硬度は特に限定されるものではないが、例えば硬度20~30とすることが可能である。
【0030】
ナノバブルの気泡径としては、その平均気泡径(モード径、最頻度気泡径)は60~300nmが好ましく、80~250nmがより好ましく、更に好適には100~200nmがさらに好ましい。ナノバブルの気泡径(直径、サイズ)を上記の範囲に設定することにより、有効な除去促進作用が得られ、抗菌剤との併用によって高い抗菌効果を奏する。ナノバブルの気泡径が小径であるほど、一般的に長期保存の安定性に優れる。
【0031】
ナノバブルは、気泡径がナノサイズであることによりその表面張力により内圧が高くなる。ここで、ナノバブルの内圧は、一般にナノバブルの気泡径に対して、Young-Laplace(ヤング-ラプラス)の式により求められ、本発明に用いたナノバブルは、約3~300気圧程度の内圧を有している。
【0032】
このように高い内圧を備えたナノバブルが水溶液中で安定に存在する理由の一つとしては、ナノバブル周辺の電荷をもったイオン成分の存在が挙げられる。すなわち、気泡径が小さくなるにしたがって、余分なイオンが気体と液体との界面に保持され、ゼータ電位が大きくなることがナノバブルの消失抑制に関与していると推定される。イオン成分によって、ナノバブル間やナノバブルと液体との間で静電作用が働き、静電作用がナノバブルの消滅を防いで液中におけるナノバブルを安定化していると考えられる。
【0033】
本発明の感染治療用組成物は、表面がプラス(正)に帯電したプラス帯電性のプラスナノバブルを含有している。プラスナノバブル(Plus charged nano-bubble)は、従来の気泡とは異なり、帯電性球状コンデンサと同様の作用を有する。表面が正に帯電したナノバブルを用いることにより、内部がマイナスに帯電した菌に対して電気的なショックを与えることができるから、抗菌効果に優れた感染治療用組成物となる。
【0034】
菌の内部のゼータ電位は-60mV~-30mV程度である。このような菌に電気的なショックを与えるために、ナノバブルの水中でのゼータ電位がプラスであるプラスナノバブルが好ましい。そして、そのゼータ電位は、+5mV~150mVが好ましく、+20mV~150mVがより好ましく、+30mV~150mVがさらに好ましい。
【0035】
また、ナノバブルの濃度は、一般に規定容積中に含まれるバブル(気泡)の個数として示され、本発明では、1×10~1×10個/mLが好ましく、1×10~1×10個/mLがより好ましく、5×10~1×10個/mLがさらに好ましい。ここで、かかるナノバブルの存在量が少なくなりすぎると、除去促進作用を有利に発揮できなくなるからである。
【0036】
なお、上記の如きナノバブルのサイズやその個数濃度やゼータ電位は、市販のナノ粒子測定装置を用いて測定することができる。例えば、(株)島津製作所のナノ粒子分布測定装置(SALD-7100)や、日本カンタム・デザイン(株)のナノ粒子解析装置(ナノサイトNS500)、マイクロトラック・ベル(株)のZetaView等が挙げられる。また、ゼータ電位の測定装置として、マルバルーン事業部スペクトリス(株)から入手することのできるゼータサイザーナノZ、大塚電子(株)のゼータ電位測定システム(ELSZ-2000Z)、協和界面化学(株)のゼータ電位測定装置(ZC-3000)等があげられる。本発明においては、ナノサイトNS500およびZetaViewを測定に用いている。このため、測定装置によって測定値が異なる場合、ナノサイトNS500または同等品、およびのZetaViewまたは同等品を用いて得られる測定値をナノバブルの特性値とする。
【0037】
ところで、本発明において、ナノサイズの気泡径を有するナノバブルは、公知の各種のナノバブル発生装置を用いて形成され得るものである。特に、高分子樹脂フィルムに初期破壊現象であるクレーズを生成してなる通気性フィルムを通じて、それによる気体透過量の制御下において、所定の気体を放出せしめることによって、ナノバブルが形成されるようにした装置(例えば、特許第3806008号公報、特許第5390212号公報に記載)が有利に用いられる。
【0038】
ナノバブル水もしくはナノバブルゲルの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば下記である。即ち、少なくとも、気体透過部に気体透過量を制限し得る高分子樹脂フィルムにクレーズを生成してなる通気性フィルムを配する筒状の気体透過装置を該筒状の循環路内に設置することにより、該筒状気体透過部の外周径と該筒状循環路の内周径との差異により形成される間隙に、ポンプを用いて液圧を調製して、水もしくはゲル状流動体を導入するとともに、気体透過装置の気体透過部に加圧状態を調整して気体を供給することにより、水もしくはゲル状流動体にナノサイズの微細な気泡が混入される。
【0039】
また、気泡となる気体雰囲気中において、マイクロメーターサイズに微細化された液体を更に破砕することによって、液体に囲まれた帯電したナノバブルを生成させ、これを、重力、遠心力、電磁気力、等を用いて捕集することによって水などの液体に帯電したナノバブル水などのナノバブル分散液を製造できる。
【0040】
気体雰囲気に電場を印加してマイナス側を接地することによってマイナスに帯電したナノバブルを生成させ、破砕する部材を接地することによってプラスに帯電したナノバブルを生成させることができる。
【0041】
本発明の感染治療用組成物は、抗菌剤を含有する液体もしくはゲル状の予備組成物と、プラスナノバブルを含有する水の液体あるいはゲルの固体とを混合して調製することができる。なお、感染治療用組成物は、抗菌剤以外の、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、植物抽出物、精製タンパク質等の種々の組成物と組み合わせて使用可能である。ただし、これらは、感染治療用組成物の機能、特にナノバブルと抗菌剤との併用による細菌感染制御作用を阻害しない範囲で用いられる。
【0042】
本発明の感染治療用組成物は、口腔内付着物の除去促進剤として用いることができる。口腔内付着物は、例えば、スミヤー層、歯垢(プラーク)、バイオフィルム又は舌苔である。
スミヤー層を除去するための口腔内付着物の除去促進剤では、単にスミヤー層を除去するのみならず象牙質強度を保持する必要がある。なお、スミヤー層は、その一部が象牙細管内まで入り込み、この象牙細管内まで入り込んだスミヤー層はスミヤープラグ又はスミヤー栓と呼ばれることがある。
プラーク、バイオフィルム又は舌苔を除去するための口腔内付着物の除去促進剤では、ナノバブルを含有するゲルであるナノバブルゲルを適用する。ナノバブルゲルの粘度は、特に限定されるものではないが、例えば450Mpa・s以下である。ナノバブルゲルの粘度が高すぎると流動性が低下するため利便性が低下するおそれがあるからである。
【0043】
また、本発明の感染治療用組成物は、中高齢者の狭窄根管を拡大するための根管拡大補助剤として用いることができる。この場合、感染治療用組成物は、根管拡大清掃剤をさらに含むこととなる。根管拡大清掃剤は、特に限定されるものではないが、例えばEDTA、クエン酸、MTAD、Tetraclean等が挙げられる。
【0044】
本発明の感染治療用組成物は、抗菌剤とプラスナノバブルとの相乗的な作用により、歯の根管内の細菌感染を治療できる。このため、難治性感染根管の洗浄・貼薬、および根尖歯周組織の化学的・物理的刺激の可及的除去に有効な、歯の根管内、歯の歯周組織内、歯のう蝕または舌苔の細菌感染治療用組成物として用いることができる。
【実施例
【0045】
[実施例1]
1歳齢のイヌに全身麻酔を施した後、イヌ上下顎小臼歯部に抜髄処置を行い、根尖部まで#50~55で拡大した。5%次亜塩素酸ナトリウム溶液と3%過酸化水素水で交互洗浄後、さらに生理食塩水で洗浄した。根管口に綿球をおき、根管を開放状態にして1か月そのまま放置した。さらに、生理食塩水で洗浄後、ペーパーポイントで根管内を完全乾燥し、セメントとレジンにて完全に仮封した。4か月後、歯科用CT(CBCT・コーンビームCT)にて根尖部透過像により、感染根管が作製されたことを確認した(図1)。
【0046】
根管内の細菌数を計測するため、生理食塩水に浸した#55の滅菌済みペーパーポイントを根管内に1分入れて釣菌を行い、根管内の細菌簡易培養検査用液体培地プラディア(製品名、昭和薬品化工(株)製)にペーパーポイントを入れた。ついで、段階希釈法にて血液寒天培地バイタルメディア(製品名,極東製薬工業(株)製)に播種し、2日間嫌気培養後コロニーの数をカウントした。
【0047】
イヌの歯を抜髄後1か月根管開放し4か月封鎖すると、CBCTにおいて根尖部に透過像が認められた(図1参照)。HE染色像においては、歯槽骨の吸収および根尖部歯周組織の破壊がみられ、炎症性細胞の浸潤がみられた。根管内細菌をプラディア培地で観察すると、培地が混濁し陽性を示した。細菌数は無限大であった。よって、抜髄後1か月根管開放し4か月封鎖することにより難治性感染根管モデルが作製できることが示された。
【0048】
(イヌ難治性感染根管モデルにおけるナノバブル水と抗菌ナノパーティクルとの併用による根管内の除菌効果)
上記の難治性感染根管に対して、まず、根管内の細菌数を段階希釈法にて2日間嫌気培養後、コロニーの数をカウントした。釣菌後の根管に6%次亜塩素酸ナトリウムと3%過酸化水素水にてそれぞれ計2mLずつ交互に洗浄を行い、さらに生理食塩水5mLにて根管を洗浄した。引き続き、滅菌ペーパーポイントにて根管内を乾燥し、最終濃度で0.006%w/vの抗菌ナノパーティクルを含有するマイナスナノバブル水あるいはプラスナノバブル水2mLを左側上下顎小臼歯の根管内に注入し洗浄を2分行った。右側上下顎小臼歯は最終濃度0.006%w/vの抗菌ナノパーティクルのみ2mLにて洗浄、あるいはプラスナノバブル水のみ2mLにて洗浄した。その後、左側はマイナスナノバブル水あるいはプラスナノバブル水5mLおよび生理食塩水5mLにて洗浄した。右側は生理食塩水のみ5mLにて洗浄した。ペーパーポイントで根管内を完全乾燥し、左側は洗浄と同様の抗菌ナノパーティクル・ナノバブル水、右側は抗菌ナノパーティクルのみあるいはナノバブル水のみをペーパーポイントに浸して根管内に挿入し、貼薬処置を行い、仮封した(図2参照)。
【0049】
1週間から2週間後に2回目の釣菌を行った後、前回と同様にナノバブル水と抗菌ナノパーティクルあるいは抗菌ナノパーティクルのみあるいはナノバブル水のみを用いて洗浄および貼薬処置を行った。さらにその1週間から2週間後に3回目の釣菌を行い、再度前回と同様の洗浄および貼薬処置を行った。同様の操作を数回行った。釣菌したサンプルは2日間嫌気培養後コロニー数を測定し、統計処理を行った。
【0050】
細菌数はマイナスナノバブル水と抗菌ナノパーティクルの併用(マイナスナノバブル・ナノバーティクル)による洗浄および貼薬により徐々に減少がみられ、5回の洗浄および貼薬により細菌は検出限界以下に減少した。抗菌ナノパーティクルのみ(ナノパーティクル)ではほとんど減少はみられなかった(図3A)。一方、プラスナノバブル水と抗菌ナノパーティクルの併用(プラスナノバブル・ナノパーティクル)による洗浄および貼薬により、細菌数は1回目で急激に減少し、2回目で検出限界以下となった。ただし、プラスナノバブルのみ(プラスナノバブル)では、ほとんど細菌数の変化はみられなかった(図3B)。よって、抗菌ナノパーティクルのみあるいはプラスナノバブル水のみでは細菌除去効果がないことが示された。この結果から、抗菌ナノパーティクルとナノバブル水との併用による抗菌効果は、ナノバブル水のナノバブル表面が正負のいずれに帯電しているかの影響を受けることが分かる。
【0051】
(イヌ難治性感染根管モデルにおけるナノバブル・抗菌ナノパーティクルによる根尖病変の縮小)
難治性根管治療開始時および根管治療開始後2か月から4か月のCBCT検査を行った。根尖部の透過像(図4A)をOsiriXプログラムにより画像解析し、体積を測定した。結果は開始前/開始後の体積比で表した。
その結果、抗菌ナノパーティクルのみを根管治療に用いた場合は2か月経過後1.2であり、4か月経過後1.5となり根尖病変の拡大がみられた(図4B。プラスナノバブル水と抗菌ナノパーティクルを併用した場合、術前と比べて、根管治療開始後3か月の時点において、有意に根尖部の骨添加による根尖透過像(根尖病変)の縮小がみられた(**P<0.01)(図4D)。
【0052】
図3A図3B図4A図4Dに示した結果から、ナノバブル水と抗菌ナノパーティクルとを併用することにより、難治性感染根管の除菌効果に優れる歯科口腔用組成物が得られることが分かった。また、抗菌ナノパーティクルを併用するナノバブル水として、プラスナノバブル水を用いることにより、マイナスナノバブル水よりも早期に根管内の細菌数を検出限界以下にすることができた。この結果は、表面が正に帯電したプラスナノバブルは、表面が負に帯電したマイナスナノバブルよりも、抗菌ナノパーティクルとの併用による除菌効果が高いことを示唆している。
【0053】
[実施例2]
(ナノバブル水の個数濃度・粒径分布測定・ゼータ電位測定)
4種類の溶液[50%プラスナノバブル水、50%マイナスナノバブル水、最終濃度0.2%グルコン酸クロルヘキシジンと50%ナノバブル水との混合物、0.2%グルコン酸クロルヘキシジン]をそれぞれ10mLずつ調製した。調製した溶液について、水中に存在する超微細気泡の個数濃度・粒度分布をナノサイトNS500およびZetaViewにより測定した。なお、実施例では、プラスナノバブル水はプラスナノバブル発生装置(NFPNC00003α、アクティベーションブラシ型、大平研究所(株)製)で空気と純水を用いて製造したナノバブル水を用いた。マイナスナノバブル水は歯科用ナノバブル発生装置 FOAMEST 8(登録商標、(株)ナック製)で空気と純水を用いて製造したナノバブル水を用いた。ナノバブル水の%は、ナノバブル発生装置で製造した原液の希釈液における割合を示している。
【0054】
ナノサイトNS500およびZetaViewによる測定は、シリンジでサンプル約5mLを採水し、サンプル注入口にアプライして測定を実施した。結果を表1に示す。なお、表1では、50%ナノバブル水をNB、最終濃度0.2%グルコン酸クロルヘキシジンと50%ナノバブル水との混合物をCHX+NB、最終濃度0.2%グルコン酸クロルヘキシジンをCHXと記す。
【0055】
【表1】
【0056】
その結果、表1に示すように、最終濃度0.2%グルコン酸クロルヘキシジンと50%ナノバブル水との混合物では、50%プラスナノバブル水からのナノバブル減衰が見られなかった。したがって、グルコン酸クロルヘキシジンはナノバブル特性に影響を与えず、ナノバブル水との併用が可能であることが示唆された。なお、ナノバブルを含まないCHXの測定結果は、不純物としてナノサイズの粒子がカウントされたものである。ナノバブル混合あり/なしとの差分を取ることにより、ナノバブル含有/不含を判断することができる。
【0057】
[実施例3]
(ナノバブル水による根管象牙質細管浸透作用)
イヌ抜去歯前歯の擬似根管を#60まで根管拡大形成し、根尖をユニファスト(多目的常温重合レジン、製品名、(株)ジーシー製)にて閉鎖した。5%次亜塩素酸ナトリウム2mLおよび5mL生理食塩水で洗浄し、さらにスメアクリーン(3%EDTA水溶液、製品名、日本歯科薬品(株)製)を2分間根管内に適用し、4℃で生理食塩水内にて保存した。根管内をブローチ綿栓にて乾燥した。薬剤として、最終濃度0.006%(w/v)抗菌ナノパーティクル、0.2%グルコン酸クロルヘキシジン、0.02%塩化ベンザルコニウム、0.12%塩化セチルピリジニウム、最終濃度35μg/mLドキシサイクリン塩酸塩水和物を用いて、マイナスもしくはプラスナノバブル水と混合、あるいは薬剤単独(大塚蒸留水希釈)で用いた。さらに薬剤の浸透を検出するために、自家蛍光をもつテトラサイクリンを最終濃度5mg/mLで混合した。ピペットにて薬液を根管内に輸送して5分間適用し、根管象牙細管内に薬剤を浸透させた。生理食塩水にて洗浄後、ブローチ綿栓にて薬液を除去し、根管内を乾燥させた。歯は歯髄腔が平行になるように金属製の台にユーティリティーワックス(製品名、カボデンタルシステムズジャパン(株)製)、ユニファストIII(超速硬性常温重合レジン、製品名、(株)ジーシー製)にて固定した。ユニファストIIIが硬化したらゼーゲミクロトーム(製品名、来夏マイクロシステムズ(株)製)にて厚さ約300μmの切片標本を作製し、実体蛍光顕微鏡にて観察した。
【0058】
【表2】
【0059】
図5A図5Fは、ブタ歯根内の根管壁(RC)から象牙細管内深部に対して、蛍光薬剤(テトラサイクリン)を浸透させた蛍光実体顕微鏡写真である。また、表2は、象牙細管内深部に対する浸透度を3段階(++、+、-)で示したものである。図5および表3に示すように、抗菌ナノパーティクルに関しては、マイナスナノバブル水およびプラスナノバブル水とも蒸留水に比べて有意な象牙細管深部への浸透促進がみられた(B)。また、塩化ベンザルコニウムではナノバブルが正負のいずれに帯電しているかによって差はみられなかったが(D)、グルコン酸クロルヘキシジン(C)や塩化セチルピリジニウム(E)およびドキシサイクリン塩酸塩水和物(F)ではプラスナノバブル水はマイナスナノバブル水に比べて有意な浸透促進がみられた。これらの結果から、象牙細管内深部に対する抗菌剤の浸透促進効果は、プラスナノバブル水のほうがマイナスナノバブル水よりも優れるといえる。
【0060】
[実施例4]
(ブタ根管象牙質スミヤー層除去)
割りやすいように予めDisc(研磨ディスク)で切れ目を入れたブタ歯の擬似根管をKファイル(製品名、マニー(株)製)にて#70まで根管拡大形成し、5%次亜塩素酸ナトリウム2mL及び3%過酸化水素水2mLにて交互洗浄した。5mL生理食塩水でさらに洗浄、4℃で生理食塩水内にて保存した。薬剤として、0.2%グルコン酸クロルヘキシジン、0.12%塩化セチルピリジニウムを用いて、マイナスもしくはプラスナノバブル水、あるいは大塚蒸留水と混合し、9種類のスミヤー層除去剤2mLを5分間適用し、スミヤー層を洗浄した。生理食塩水にて洗浄後、抜歯柑子にて半分に割り、2%グルタールアルデヒドにて12時間固定し、30、50、70、90、100%エタノールにて脱水後、白金10kVにて蒸着した。蒸着は、マグネトロンスパッタ装置(製品名:MSP-20-UM、(株)真空デバイス製)を用いて導電膜蒸着(スパッターコーティング)により行った。その後、それぞれの標本を走査電子顕微鏡(製品名:VE9800、(株)キーエンス製)にて、根管中央部のところを観察した。
【0061】
洗浄後の象牙細管数を計測したところ、スミヤー層は蒸留水ではほとんど除去できなかったが、単独で用いた場合(薬剤なし)、プラスナノバブル水はマイナスナノバブル水よりも有意にスミヤー層除去を促進する効果がみられた(##P<0.01)(図6A図7)。一方、0.2%グルコン酸クロルヘキシジンおよび0.12%塩化セチルピリジニウムでは、プラスナノバブル水と併用した場合に、マイナスナノバブル水と併用した場合よりも有意にスミヤー層除去を促進する効果がみられた(P<0.05)(図6B図6C図7)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、う蝕治療、抜髄・感染根管治療、歯周病治療、口腔ケアに利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7