(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】レーダ装置、及びパルス圧縮装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/28 20060101AFI20240301BHJP
G01S 7/28 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G01S13/28 200
G01S7/28
(21)【出願番号】P 2020025771
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】中野 英二
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112787636(CN,A)
【文献】特開2001-133541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-G01S 7/42
G01S 13/00-G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された周波数の第1の信号を生成する局部発振器と、
前記第1の信号を混合して得られる送信信号を送信した場合に、前記送信信号を反射物が反射することによって受信される受信信号に対し、前記局部発振器が生成した前記第1の信号を混合するミキサと、
前記ミキサにより前記第1の信号が前記受信信号に混合された後の信号である混合受信信号から、前記受信信号に混合された前記第1の信号に生じている歪み分を補正する位相補正部と、
を備えるレーダ装置。
【請求項2】
前記第1の信号の混合に用いられる第2の信号の理想的な波形を表す参照信号に対し、前記送信信号の生成に用いた前記第1の信号に生じている歪み分を補正する他の位相補正部、
を更に備える請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
局部発振器が生成した第1の信号を表すデジタルの第1のデジタル信号を入力する第1の入力部と、
前記第1の信号を混合して得られる送信信号の送信により受信される受信信号に対し、前記局部発振器が生成した前記第1の信号を混合した後のデジタルの信号である混合受信デジタル
信号を入力する第2の入力部と、
前記第1の入力部が入力した前記第1のデジタル信号を用いて、前記第2の入力部が入力した前記混合受信デジタル信号から、前記受信信号に混合された前記第1の信号に生じている歪み分を補正する位相補正部と、
を備えるパルス圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、局部発振器が生成する信号を用いたレーダ装置、及びそのレーダ装置に用いられるパルス圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置としては、局部発振器が生成する信号を混合して送信信号を生成するものがある。パルス圧縮技術は、距離分解能、及びSNR(Signal-to-Noise ratio)の向上のための信号処理技術である。このパルス圧縮技術が適用されたレーダ装置では、局部発振器が生成する信号に混合する信号には、一般的に、時間に応じて周波数が直線的に変化するチャープ信号が用いられる。
【0003】
送信信号を送信する送信部、及び送信信号の送信により受信される受信信号を受信するための受信部により、群遅延が発生する。この群遅延は、パルス圧縮時に誤差を発生させ、パルス圧縮した波形を劣化させる。このことから、レーダ装置には、群遅延特性を測定し、近似的に位相誤差を求め、求めた位相誤差を用いて、チャープ信号の理想的な波形を示す参照信号を操作するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーダ装置に用いられる局部発振器が生成する信号は、チャープ信号、及び受信信号にそれぞれ混合される。その局部発振器が生成する信号は、変動する恐れがある。つまり、信号の波形に歪み、周波数変動等が発生する可能性がある。受信信号に混合される信号に発生していた歪み等は、パルス圧縮した波形を劣化させる。このことから、パルス圧縮した波形の劣化をより抑制するためには、受信信号に混合される信号も考慮する必要がある。
【0006】
本開示は、局部発振器が生成する信号を混合した信号によるパルス圧縮した波形の劣化をより抑制可能なレーダ装置、及びパルス圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るレーダ装置は、設定された周波数の第1の信号を生成する局部発振器と、第1の信号を混合して得られる送信信号を送信した場合に、送信信号を反射物が反射することによって受信される受信信号に対し、局部発振器が生成した前記第1の信号を混合するミキサと、ミキサにより第1の信号が受信信号に混合された後の信号である混合受信信号から、受信信号に混合された第1の信号に生じている歪み分を補正する位相補正部と、を備える。
【0008】
本開示に係るパルス圧縮装置は、局部発振器が生成した第1の信号を表すデジタルの第1のデジタル信号を入力する第1の入力部と、第1の信号を混合して得られる送信信号の送信により受信される受信信号に対し、局部発振器が生成した第1の信号を混合した後のデジタルの信号である混合受信デジタル信号かを入力する第2の入力部と、第1の入力部が入力した第1のデジタル信号を用いて、第2の入力部が入力した混合受信デジタル信号から、受信信号に混合された第1の信号に生じている歪み分を補正する位相補正部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、局部発振器が生成する信号を混合した信号によるパルス圧縮した波形の劣化をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態1に係るレーダ装置の構成例を示す図である。
【
図2】本実施の形態1に係るパルス圧縮装置の機能構成例を示す図である。
【
図3】本実施の形態1に係るパルス圧縮装置が行う処理の内容を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係るレーダ装置、及び本開示に係るパルス圧縮装置の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す変形例を含む実施の形態は一例であり、これらの実施の形態に本開示は限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係るレーダ装置の構成例を示す図である。このレーダ装置1は、パルス圧縮が適用されたものである。
図1に示すように、レーダ装置1は、パルス圧縮装置10、チャープ信号生成部11、ミキサ12、増幅器(AMPlifier)13、サーキュレータ14、アンテナ15、LNA(Low Noise Amplifier)16、ミキサ17、A/D(Analog to Digital)コンバータ18、20、及び局部発振器であるSTALO(STAbilized Local Oscillator)19を備えている。なお、
図1では、アンテナ15を回転させるための構成要素等は省略している。
【0013】
チャープ信号生成部11は、アンテナ15から送信信号を送信する送信区間に、時間に応じて周波数が直線的に変化するチャープ信号を生成して出力する。このチャープ信号は、中間周波数(Inter mediate Frequency:IF)の信号であり、本実施の形態1における第2の信号に相当する。
【0014】
STALO19は、設定された周波数の信号を生成して出力する。STALO19が生成する信号は、以降「STALO位相信号」と表記する。STALO位相信号は、本実施の形態1における第1の信号に相当する。
【0015】
ミキサ12は、STALO位相信号を、チャープ信号生成部11が出力するチャープ信号に混合し、その混合により送信信号を生成する。生成された送信信号は、増幅器13により増幅された後、サーキュレータ14を介してアンテナ15に出力される。それにより、アンテナ15は送信信号を送信する。
図1中の「RF」は、無線周波数(Radio Frequency)の信号を表している。「LO」は、STALO位相信号を表している。
【0016】
アンテナ15から送信された送信信号は、反射物によって反射され、アンテナ15に受信される。反射物によって反射された送信信号は、受信信号としてアンテナ15に受信され、サーキュレータ14を介してLNA16に出力される。LNA16は、サーキュレータ14を介してアンテナ15から入力した受信信号を増幅してミキサ17に出力する。ミキサ17は、LNA16から入力した受信信号に、STALO位相信号を混合して出力する。ミキサ17が出力する受信信号は、STALO位相信号によって中間周波数にダウンコンバートされた信号であることから、以降「受信IF信号」と表記する。この受信IF信号は、本実施の形態1における混合受信信号に相当する。
【0017】
ミキサ17から出力された受信IF信号は、アナログの信号である。この受信IF信号は、A/Dコンバータ18によってデジタルの受信IF信号に変換されてパルス圧縮装置10に入力される。STALO19から出力されたSTALO位相信号もアナログの信号である。このSTALO位相信号は、A/Dコンバータ20によってデジタルのSTALO信号に変換されてパルス圧縮装置10に入力される。本実施の形態1において、A/Dコンバータ18が出力するデジタルの受信IF信号は、混合受信デジタル信号に相当し、A/Dコンバータ20が出力するデジタルのSTALO位相信号は、第1のデジタル信号に相当する。
【0018】
パルス圧縮装置10は、本実施の形態1に係るパルス圧縮装置である。このパルス圧縮装置10は、入力した受信IF信号を用いたパルス圧縮を行い、その結果として得られる波形を示す信号を出力する。
【0019】
図2は、本実施の形態1に係るパルス圧縮装置の機能構成例を示す図である。次に
図2を参照し、パルス圧縮装置10について具体的に説明する。
【0020】
パルス圧縮装置10は、1台の情報処理装置、例えばマイクロコンピュータである。このパルス圧縮装置10は、
図2に示すように、2つの入力部101、102、3つの記憶部103~105、2つの位相補正部106、110、2つのFFT(Fast Fourier Transform)部107、109、乗算部108、及び逆FFT部111を備えている。
【0021】
入力部101は、A/Dコンバータ20が出力するデジタルのSTALO位相信号を順次、入力して記憶部103に記憶する。それにより、記憶部103には、デジタルのSTALO位相信号がデータとして時系列で記憶される。入力部101は、本実施の形態1における第1の入力部に相当する。
【0022】
入力部102は、A/Dコンバータ18が出力するデジタルの受信IF信号を順次、入力して記憶部105に記憶する。それにより、記憶部105にも、デジタルの受信IF信号が時系列でデータとして記憶される。入力部102は、本実施の形態1における第2の入力部に相当する。
【0023】
記憶部104には、参照信号がデータとして記憶されている。この参照信号は、理想的なチャープ信号の波形を時系列で示すデータである。位相補正部106は、記憶部103に記憶されているSTALO位相信号のうちから、送信区間分のSTALO位相信号を抽出し、抽出したSTALO位相信号を用いて、参照信号の位相を補正する操作を行う。位相補正部106は、本実施の形態1における他の位相補正部に相当する。
【0024】
この操作により、操作後の参照信号は、歪み等による歪み分を含むSTALO信号を混合すると想定した場合に、実際の送信信号が得られるチャープ信号に一致するか、或いはほぼ一致するものに変更される。つまり、参照信号に対し、送信区間分の実際のSTALO位相信号に存在する歪み分を反映させる位相補正が行われる。この操作後の参照信号は、FFT部107により、周波数領域の信号に変換され、乗算部108に出力される。なお、位相補正部106は、操作後の参照信号を複素共役信号として出力する。
【0025】
一方、位相補正部110は、記憶部105に記憶されている受信IF信号のうちから、受信区間分の受信IF信号を抽出すると共に、記憶部103に記憶されているSTALO位相信号のうちから、受信区間分のSTALO位相信号を抽出する。これらの抽出後、位相補正部110は、抽出した受信IF信号に対し、受信区間の実際のSTALO位相信号と、理想的なSTALO位相信号との間の差分を除去するための位相補正を行う。この位相補正の操作により、操作後の受信IF信号は、理想的なSTALO信号を受信信号に混合した場合に得られる受信IF信号に一致するか、或いはほぼ一致するものに変更される。この操作後の受信IF信号は、FFT部109により、周波数領域の信号に変換され、乗算部108に出力される。
【0026】
本実施の形態1では、相互相関処理法を用いて、パルス圧縮した波形を生成するようにしている。乗算部108は、受信IF信号の周波数領域の信号に対し、操作後の参照信号から得られた周波数領域の信号を相関係数とした複素乗算を行い、その乗算結果を逆FFT部111に出力する。逆FFT部111は、乗算部108から入力した乗算結果を時間領域の信号に変換する。この変換によって得られた信号がパルス圧縮処理の結果を示すパルス圧縮処理信号であり、パルス圧縮した波形を示している。
【0027】
受信信号には、送信信号の生成に用いられたSTALO位相信号に存在する歪み分が含まれている。その歪み分とは、理想的な波形との差分に相当する信号成分であり、理想的な波形との局所的な相違の他に、周波数変動等も含まれる。しかし、受信IF信号には、受信時に混合したSTALO位相信号に存在する歪み分の影響を排除する操作を行い、参照信号には、送信時のSTALO位相信号に存在する歪み分を反映させる操作を行うようにしている。
【0028】
受信IF信号への操作により、操作後の受信IF信号は、理想的なSTALO位相信号を混合した場合に得られるものに一致するか、或いはほぼ一致するものとなる。とはいえ、操作後の受信IF信号には、送信信号の生成に用いられたSTALO位相信号に存在する歪み分が含まれている。しかし、参照信号には、その歪み分を反映させる操作を行っている。このため、操作後の受信IF信号に含まれるチャープ信号分と、操作後の参照信号とは、相関が非常に高いものとなる。理論的には、それらの信号において、送信時、及び受信時にSTALO位相信号にそれぞれ存在する歪み分の影響を完全に排除することができる。それにより、実際のSTALO位相信号に存在する歪み分を原因とするパルス圧縮した波形の劣化は、回避できるか、たとえ回避できなくとも、非常に低いレベルに抑えることができる。
【0029】
チャープ信号にも、歪み分が存在する恐れがある。しかし、チャープ信号の周波数は、STALO位相信号の周波数と比較して、通常、非常に低い。このことから、多くの場合、STALO位相信号と比較し、チャープ信号に歪み分が発生したとしても、その悪影響は非常に小さい。
【0030】
なお、本実施の形態では、受信IF信号に加え、参照信号の操作も行うようにしているが、受信IF信号の操作のみを行うようにしても良い。受信IF信号の操作のみを行うようにしても、パルス圧縮した波形の劣化は抑えることができる。これは、送信時、受信時のSTALO位相信号にそれぞれ存在する歪み分により、パルス圧縮した波形がより劣化するようなことを回避できるからである。実際、送信時、受信時のSTALO位相信号に打ち消すような歪み分が発生するのはあまり期待できない、
【0031】
図3は、本実施の形態1に係るパルス圧縮装置が行う処理の内容を説明する図である。ここで
図3を参照し、パルス圧縮装置10の動作について更に説明する。
図3では、信号波形として、送信信号、STALO位相信号、受信IF信号、及び参照信号の例をそれぞれ示している。横軸に時間、縦軸に振幅をそれぞれとっている。受信IF信号は、包絡線で示している。
【0032】
図3に示すように、送信区間内で生成されたSTALO位相信号は、参照信号の位相を補正する操作に用いられる。受信区間内で生成されたSTALO位相信号は、受信IF信号の位相を補正する操作に用いられる。操作後の参照信号、及び操作後の受信IF信号は、パルス圧縮のために、フーリエ変換により周波数領域の信号に変換されて処理される。周波数領域の信号への変換により、STALO位相信号に存在する歪み分の時間領域上の位置関係は影響しないようになる。
【符号の説明】
【0033】
1 レーダ装置、10 パルス圧縮装置、12、17 ミキサ、14 サーキュレータ、15 アンテナ、18、20 A/Dコンバータ、19 STALO、101 入力部(第1の入力部)、102 入力部(第2の入力部)、103~105 記憶部、106 位相補正部、110 位相補正部(他の位相補正部)、107、109 FFT部、108 乗算部、111 逆FFT部。