(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】鋼製ドアおよび鋼製ドアの製造方法
(51)【国際特許分類】
E06B 3/82 20060101AFI20240301BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240301BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20240301BHJP
B23P 19/04 20060101ALI20240301BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
E06B3/82
B23K26/21 G
B23K26/28
B23P19/04 B
B23P21/00 302Z
(21)【出願番号】P 2020031403
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】307038540
【氏名又は名称】三和シヤッター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】帆苅 保徳
(72)【発明者】
【氏名】桐生 克幸
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 均
(72)【発明者】
【氏名】小神野 東宣
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-174082(JP,A)
【文献】特開平2-251390(JP,A)
【文献】特開2002-70431(JP,A)
【文献】特開2015-178735(JP,A)
【文献】特開2013-104293(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119159(WO,A1)
【文献】特開2018-187660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 3/00- 3/99
B23K 26/21-26/302
B23P 19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面板を鋼板としたドア体により構成される鋼製ドアにおいて、該ドア体を、表裏面板同士の連結部位をレーザービームの照射により溶着せしめることで連結して形成したものにするにあたり、
前記表裏面板同士の連結部位は線状の連結ラインであり、レーザービームの照射は、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動による照射であり、
連結ラインは、始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の端縁まで至るように設けられ、
該連結ラインのレーザービームの照射による溶着は、連結ラインの始端または終端から間隙を存してなされていることを特徴とする鋼製ドア。
【請求項2】
表裏面板を鋼板としたドア体により構成される鋼製ドアにおいて、該ドア体を、表裏面板同士の連結部位をレーザービームの照射により溶着せしめることで連結して形成したものにするにあたり、前記表裏面板同士の連結部位は線状の連結ラインであり、レーザービームの照射は、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動による照射であり、
連結ラインは、始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の角部まで至るように設けられ、
該連結ラインのレーザービームの照射による溶着は、連結ラインの始端または終端から間隙を存してなされていることを特徴とする鋼製ドア。
【請求項3】
連結ラインの始端または終端からレーザービーム照射がなされるまでの間隙は3~7mmであることを特徴とする請求項
1または2記載の鋼製ドア。
【請求項4】
表裏面板同士の連結部位は、表裏面板の表裏面部から互いに対向するよう折曲されてドア体の端縁部を構成する折曲片部の端縁部同士が突き当てられた突き当て部であり、該突き当て部には、表裏面部に当接する一対の表裏面部側片部を備えた骨材の折曲片部側片部が当接しており、レーザービームのウォブリング移動による照射
を行う部位は、前記折曲片部側片部が当接している部位の突き当て部であることを特徴とする請求項
1乃至3の何れか1記載の鋼製ドア。
【請求項5】
突き当て部同士のレーザ
ービーム照射による溶着は、折曲片部側片部を貫通するまでには至らない状態での溶着であることを特徴とする請求項
4記載の鋼製ドア。
【請求項6】
突き当て部同士のレーザ
ービーム照射による溶着は、折曲片部側片部には至らない折曲片部までの溶着であることを特徴とする請求項
4または5記載の鋼製ドア。
【請求項7】
突き当て部同士のレーザ
ービーム照射の連結ラインを横切る幅方向の移動幅は、表裏面板の板厚に対して50%~200%の範囲であることを特徴とする請求項
4乃至6の何れか1記載の鋼製ドア。
【請求項8】
表裏面板の板厚は1.2mm~2.0m
mであることを特徴とする請求項1乃至
7の何れか1記載の鋼製ドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビル等の建造物の出入り口に設けられる鋼製ドアおよび鋼製ドアの製造方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種建造物の出入り口にドア体が開閉自在に設けられることがあり、このようなドア体を、素材を鋼材(例えば亜鉛メッキ鋼板)とした表裏一対の表裏面板を一体的に連結することで構成された鋼製ドアが知られている。
このようなドア体を製造する場合、表裏面板同士の連結をしようとする連結部位を、端縁部同士を突き合せたりや積層させた部位とし、これら連結部位を、従来は、アーク溶接やスパッタ溶接等の溶接により連結していたが、このような溶接をした場合、溶接部位が高熱に曝されることになってドア体に熱歪みが発生するだけでなく、溶接跡や溶接ダレ等による凹凸が発生し、このためこれらを補修する等の作業がさらに必要になって作業性が劣るという問題がある。
そこでこれら連結部位にレーザービームを照射して溶着(融着)するようにし、これによって溶接による熱歪みや凹凸の発生を回避するようにしたものを提唱している(特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-174082号公報
【文献】特開2004-176327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記レーザービームを用いてドア体を形成することにより精度の高い鋼製ドアを効率よく製造できることになった。しかしながら前記レーザービームを用いたものは、点状のレーザービームを、単純に溶着ラインに添って線状に移動することになるが、照射幅が狭い(小さい)うえ、照射されるエネルギーも小さい(少ない)こともあって、例えば表裏面板同士の突き合せ部位を溶着する場合に、該突き合わせ部位に隙間があると、隙間部位が空洞状になって溶着されないものとなる。これを避けるため、溶着部位に隙間がないよう表裏面板を特殊形状に曲げ加工しなければならないことになって作業性が劣るだけでなく、表裏面板の板厚が厚くなるほど、このような曲げ加工自体が難しくなることもあり、この結果、前記従来のレーザービームを用いてドア体を形成する場合としては、肉薄でかつ連結部位間の隙間が殆どない状態に加工したものでしか製造できない等の問題があり、これらに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、表裏面板を鋼板としたドア体により構成される鋼製ドアにおいて、該ドア体を、表裏面板同士の連結部位をレーザービームの照射により溶着せしめることで連結して形成したものにするにあたり、前記表裏面板同士の連結部位は線状の連結ラインであり、レーザービームの照射は、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動による照射であり、連結ラインは、始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の端縁まで至るように設けられ、該連結ラインのレーザービームの照射による溶着は、連結ラインの始端または終端から間隙を存してなされていることを特徴とする鋼製ドアである。
請求項2の発明は、表裏面板を鋼板としたドア体により構成される鋼製ドアにおいて、該ドア体を、表裏面板同士の連結部位をレーザービームの照射により溶着せしめることで連結して形成したものにするにあたり、前記表裏面板同士の連結部位は線状の連結ラインであり、レーザービームの照射は、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動による照射であり、連結ラインは、始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の角部まで至るように設けられ、該連結ラインのレーザービームの照射による溶着は、連結ラインの始端または終端から間隙を存してなされていることを特徴とする鋼製ドアである。
請求項3の発明は、連結ラインの始端または終端からレーザービーム照射がなされるまでの間隙は3~7mmであることを特徴とする請求項1または2記載の鋼製ドアである。
請求項4の発明は、表裏面板同士の連結部位は、表裏面板の表裏面部から互いに対向するよう折曲されてドア体の端縁部を構成する折曲片部の端縁部同士が突き当てられた突き当て部であり、該突き当て部には、表裏面部に当接する一対の表裏面部側片部を備えた骨材の折曲片部側片部が当接しており、レーザービームのウォブリング移動による照射を行う部位は、前記折曲片部側片部が当接している部位の突き当て部であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1記載の鋼製ドアである。
請求項5の発明は、突き当て部同士のレーザービーム照射による溶着は、折曲片部側片部を貫通するまでには至らない状態での溶着であることを特徴とする請求項4記載の鋼製ドアである。
請求項6の発明は、突き当て部同士のレーザービーム照射による溶着は、折曲片部側片部には至らない折曲片部までの溶着であることを特徴とする請求項4または5記載の鋼製ドアである。
請求項7の発明は、突き当て部同士のレーザービーム照射の連結ラインを横切る幅方向の移動幅は、表裏面板の板厚に対して50%~200%の範囲であることを特徴とする請求項4乃至6の何れか1記載の鋼製ドアである。
請求項8の発明は、表裏面板の板厚は1.2mm~2.0mmであることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1記載の鋼製ドアである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、レーザービームの照射がウォブリング移動によるものであるため面状の照射になると共に照射によるエネルギー量も大きなものとなって、鋼製ドア体を形成する場合に、表裏面材を溶着により連結する場合に、該連結部位に隙間があっても確実に溶着された鋼製ドアを効率よく製造することができる。このものにおいて、連結部位が、表裏面板の端縁部同士を突き合せることで形成されるライン状のものであったときに、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動するウォブリング移動による効率の良いレーザービーム照射がなされることになって、連結ラインが確実に溶着された鋼製ドアを効率よく製造することができる。さらに、連結ラインの始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の端縁である場合に、該端縁はレーザービーム照射による溶着がないものとなる結果、該端縁は、溶着のない元状態のままに維持されることになって、端縁部が形状崩れして外観を損なうようなことがない。
請求項2の発明とすることにより、レーザービームの照射がウォブリング移動によるものであるため面状の照射になると共に照射によるエネルギー量も大きなものとなって、鋼製ドア体を形成する場合に、表裏面材を溶着により連結する場合に、該連結部位に隙間があっても確実に溶着された鋼製ドアを効率よく製造することができる。このものにおいて、連結部位が、表裏面板の端縁部同士を突き合せることで形成されるライン状のものであったときに、連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら連結ラインを移動するウォブリング移動による効率の良いレーザービーム照射がなされることになって、連結ラインが確実に溶着された鋼製ドアを効率よく製造することができる。さらに、連結ラインの始端または終端が連結ラインと直交する表裏面板の角部である場合に、該角部はレーザービーム照射による溶着がないものとなる結果、該角部は、溶着のない元状態のままに維持されることになって、角部が形状崩れして外観を損なうようなことがない。
請求項3の発明とすることにより、連結ラインの始端または終端からレーザービーム照射がなされるまでの間隔が3~7mmとなるため、連結ラインと直交する表裏面板の端縁あるいは角部の形状維持を図りながら連結強度が低下してしまうことを回避できることになる。
請求項4の発明とすることにより、ウォブリング移動によるレーザービーム照射がなされる連結部位が、表裏面板に積極形成される折曲片部の端縁部同士の突き当て部となるが、該突き当て部は、ドア体に内装される骨材の折曲片部側片部が当接する裏打ち状態となっているため骨材により補強された状態でのレーザービーム照射による溶着がなされることになる。
請求項5の発明とすることにより、端縁部同士の突き当て部を溶着する場合に、レーザービームによる溶着が折曲片部側片部を貫通しないものであるため、骨材を貫通する溶着をした場合に発生よる骨材の変形を回避できることになって精度の高い鋼製ドアを効率よく製造できることになる。
請求項6の発明とすることにより、そのうえ折曲片部の端縁部同士を溶着する場合に、レーザービームによる溶着が折曲片部側片部にまでは至ることなく折曲片部だけの溶着になるため、該表裏面材同士の溶着部位において、骨材は溶着による変形等がないものとなり、この結果、精度の高い鋼製ドアを効率よく製造できることになる。
請求項7の発明とすることにより、表裏面板の板厚に準じたウォブリング移動を伴うレーザービーム照射による溶着ができることになる。
請求項8の発明とすることにより、表裏面板の板厚が1.2mm~2.0mmという肉厚なものにおいて、レーザービーム照射により溶着した高精度で強度のある鋼製ドアを提供できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】(A)(B)はドア体の戸先側の要部側面図、戸尻側の一部切り欠き要部側面図である。
【
図5】表裏面板と骨材との溶着状態を示す断面図であって、(A)は突き合せ部における表裏面板までの溶着状態、(B)は突き合せ部における骨材まで至る溶着状態、(C)は表裏面材と上側骨材脚片部との間の溶着状態を示すものである。
【
図6】表裏面板と骨材との溶着状態を示す断面図であって、(A)は表裏面材と中間部骨材との溶着状態、(B)は表裏面材と下側骨材脚片部との間の溶着状態を示すものである。
【
図7】ウォブリング移動の軌跡例を描いた作用説明図である。
【
図8】サンプリングのためウォブリング移動により溶着した状態を示す図面代用写真である。
【
図9】サンプリングのためウォブリング移動により溶着した状態を示す図面代用写真である。
【
図10】サンプリングのためウォブリング移動により溶着した状態を示す図面代用写真である。
【
図11】(A)
、(B)、(C)は本発明の実施の形態におけるドア体の上端側コーナー部位の溶着例を示す要部斜視図、(D)、(E)は
参考例におけるドア体の上端側コーナー部位の溶着例を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図面において、1は鋼製ドアを構成するドア体(パネル体)であって、該ドア体1は、蝶番(ヒンジ)2を介して戸枠3に開閉自在に建て付けられるが、さらにドア体1には、把手4、錠装置5、ドアクローザー(自閉装置)6が設けられており、これらのことは何れも従来通りである。
【0009】
前記ドア体1は、鋼板(例えば亜鉛メッキ鋼板)を素材とする表裏面板7、8を用いて箱状に形成され、表裏面間7、8に骨材9が介装されたものとなっており、これら表裏面板7、8同士の連結、表裏面板7、8と骨材9との連結をレーザービームの照射に基づく溶着(融着)を用いて行っているが、この場合に、レーザービームの照射位置を、x-y方向の二次元方向の移動となるウォブリング(wobbling)移動をさせながらレーザービーム照射による溶着を行うものであり、以下、これらについて詳述する。
【0010】
前記表裏面板7、8は、表裏面部7a、8aと、該表裏面部7a、8aから左右両端縁部および上端縁部を互いに対向するよう前後方向に向けて折曲した折曲片部7b、8bおよび7e、8eとを備えたもので形成され、表裏面部7a、8a間には骨材9が介装されている。そして前記折曲片部7b、8bおよび7e、8eは、その端縁部同士が互いに突き当てられた突き当て部Xとなっており、該突き当て部Xが線状の連結ラインRに設定される。
【0011】
前記骨材9としては、ドア体1の上下両端縁部に設けられる横向きの上側骨材9U、下側骨材9D、左右両端縁部に設けられる縦向きの戸先側、戸尻側(吊元側)骨材9S、9J、そして該戸先側、戸尻側骨材9S、9Jのあいだに左右方向間隙を存する状態で上下両側骨材9U、9D間に配される縦向きの中間部骨材9Mとが設けられている。そして本実施の形態において、これら骨材9は何れもコ字形をしたものを採用しているが、骨材9としてはロ字形等、通常採用される形状のものを適宜採用できることは言うまでもない。
【0012】
前記骨材9は、本実施の形態のものは前述したようにコ字形のもので形成されていることで、前後両脚片部9aと該両脚片部9a間の跨片部9bとを備えたものとなっているが、上下両側骨材9U、9Dは、下側が開口し、上側に跨片部9bが位置する状態でドア体1に組み込まれ、戸先側、戸尻側骨材9S、9Jは、左右方向内側が開口し、外側に跨片部9bが位置する状態でドア体1に組み込まれている。
一方、中間部骨材9Mについては、前記各骨材9と同様、両脚片部9aが表裏面部7a、8aに当接する状態となっているが、跨片部9bについては、全てが戸先側または戸尻側に向く仕様、一部が戸先側を向き残りが戸尻側を向く仕様を任意に選択することができる。
【0013】
そしてこのように組み込まれた骨材9において、全ての脚片部9aが表裏面板7、8の表裏面部7a、8aに当接する一対の表裏面部側片部を構成している。これに対し跨片部9bについては、戸先側、戸尻側骨材9S、9Jの跨片部9bが、前記表裏面板7、8の表裏面部7a、8aの左右両端縁部から折曲形成された折曲片部7b、8bに当接し、上側骨材9Uの跨片部9bが、表裏面部7a、8aの上端縁部から折曲形成された折曲片部7e、8eに当接していて折曲片部側片部を構成しているが、中間部骨材9Mの跨片部9bについては表裏面板7、8は当接しないものとなっている。
【0014】
さらに具体的には、戸尻側骨材9Jについては、丁番2のドア体側半部2aがビス2bを介して固定される一方、戸先側骨材9Sについては、係止用のラッチ(図示せず)を出没するべく操作される把手装置4と、施錠用のデットボルト(図示せず)を出没するべく操作される錠装置5とがセット物として組み込まれた錠前ケース(図示せず)を嵌入組み込みするための切り欠き9cが、表裏面板7、8の折曲片部7b、8bに設けられる切り欠き7d、8dと共に跨片部9bに設けられているが、該跨片部9bに設けられる切り欠き9cは、折曲片部7b、8bに設けられる切り欠き7d、8dに対して上下方向幅狭なものとなっていて、跨片部9bの切り欠き部9c側の端縁部が露出しており、この露出端縁部に前記把手4、錠装置5が組付けられるようになっている。なお、表裏面板7、8には、錠装置5、把手装置4を貫通状に組み込みするための取り付け孔7f、7g、8f、8gが形成されている。
【0015】
そして本実施の形態の表裏面板7、8は、前述したように、左右両端縁部が前後方向内側に向けて折曲された折曲片部7b、8bが形成され、上下端縁部が前後方向内側に向けて折曲された折曲片部7e、8eが形成されたものとなっており、この結果、戸先側、戸尻側、そして上側の骨材9U、9D、9Uは各対応する折曲片部7b、8b、7e、8eによって覆われていて目隠し(視認されない)状態になっているが、下側骨材9Dは下方向に露出したものとなっている。
【0016】
次に、レーザービームの照射について説明するが、本発明を実施するためのレーザー照射手段としては、ダイオードレーザー、ファイバーレーザー、ソリッドステートレーザー等、通常知られたレーザー光の発光技術、そして照射技術を採用したものが従来から知られており、例えば高密度波長ビーム結合(DWBC)レーザー源を用いたレーザービーム等、適宜のものを採用することができ、またレーザービームの照射位置をウォブリング移動させる技術についても既に公知となったものを採用することができ、さらにウォブリングの移動軌跡についても、円弧状の移動、ジグザグ状の移動、8字状の移動、∞字状の移動等、各種形状のものがあり、これらを必要において適宜採用できることは言うまでもない。
そしてこのようなウォブリング移動を伴うレーザービーム照射を行う部位としては、前述したように表裏面板7、8の突き当て部Xだけでなく、表裏面板7、8同士の積層部位、表裏面板7、8と骨材9との積層部位とすることができる。
【0017】
この場合に、前述した突き当て部Xのように、レーザービーム照射による溶着(融着)により連結する部位がライン状のもの(連結ライン)である場合には、レーザービームの照射位置を、連結ラインを横切る方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動をさせたものになる。
これに対し、溶着部位が積層部位のように点的な部位である場合には、溶着目標とする位置を中心として、例えば渦巻き状や縦横格子状のレーザービーム照射をすることにより二次元方向のウォブリング移動をさせた溶着ができることになる。
尤も、突き当て部Xについて点的に溶着したい場合には前記溶着位置を中心とするウォブリング移動を行っての溶着をすることができ、また積層部位を連結ラインに沿って溶着したい場合には前記連結ラインの移動を伴うウォブリング移動による溶着をすることができ、どの様なウォブリング移動をするかについては、溶着仕様に基づいて適宜のものを採用できることは言うまでもない。
因みに、
図5、6では、溶着される深さを三角形で示された状態で模式的に示している。
【0018】
前記表裏面板7、8は、前述したようにレーザービームの照射により溶着する素材である鋼材を採用しているが、ウォブリング移動によるレーザビーム照射となるため、連結部位がライン状(線状)であって、レーザービームが連結ラインを横切る幅方向の移動をしながら該連結ラインに沿う(従う、追従する)二次元方向の移動をした場合に、レーザービームが同一位置または近しい位置を複数回通過する状態で照射されることになり、この結果、表裏面板7、8の板厚が薄すぎる場合、該表裏面板7、8の溶着しようとする突き合せ部Xが溶解して欠落(欠損)する惧れがあり、このため表裏面板7、8の板厚としては1.0mm以上のものが好ましい。また板厚が厚すぎる場合、表裏面板7、8の溶着部位がレーザービーム照射をした面部位側だけに偏倚した状態になって溶着不足の問題が発生する惧れがあるものとなり、このため表裏面板7、8の板厚としては2.2mm以下のものが好ましい。尤もこのようなことは、照射エネルギー、照射時間等、照射条件によって解消できるものと判断される。
【0019】
そしてこのような板厚の表裏面材7、8の前記突き当て部Xに円弧状のウォブリング移動を伴うレーザービーム照射をすることによる溶着を試みた。図面において、符号Zで示す部位が溶着部位である。
溶着条件
・レーザービーム発生器:MOTOMAN-MC2000(安川電機社製)
・レーザー発振器:TruDisk6001
・レーザービーム出力:2kW
・ウォブリング幅および形状:直径2mmの円弧形状
・連結ライン方向の移動速度:2m/min
・表裏面材の板厚:1.6mm
・中骨の板厚:2.3mm
【0020】
上記条件で表裏面板7、8の前記突き当て部Xについてレーザービーム照射実験を行ったが、まず突き当て部Xに隙間があるものについて溶着したときの状態について確認したところ、隙間が0.5mmまでは該隙間が全て塞がった状態での溶着がなされ、0.6mm~0.9mmのものについては塞がったものと塞がらないものとが共存する状態の溶着がなされ、1.0mm以上のものについては隙間が塞がらない状態となった。これを実用上の観点から見たときに、隙間が0.7mm以下であれば実用上問題はなく、好適には0.5mm以下のものとすることが好ましいといえる。
【0021】
次に、前記条件でレーザービーム照射をした場合について確認しものを
図8~10に示す図面代用写真で示したが、これらのものはサンプリングのため前記条件で溶接したものであって上側折曲片部7e、8eのないものとなっているが、
図8に示す図面代用写真のような状態で前記突き当て部X
(連結ラインR)の溶着がなされた。これによると、突き当て部Xは、溶着幅が均一状に揃い、かつバリの突出がない整然とした状態で溶着されていることが確認された。そして前記
図8の図面代用写真のものは、
図3(A)に示すように左右端縁部の折曲片部7b、8bの上端縁
(本発明の連結ラインと直交する表裏面板の端縁に相当する)から3mmの間隙Yを存したところからレーザービーム照射を試みた結果のものであり、
図9に示す図面代用写真のものは、該部位について撮影方向を変えたものであり、これらによると、溶着された部位が切断端である上端縁にまでは至っておらず、該上端縁が変形したり欠落したりせずそのままの状態で残っており、外観上好ましいだけでなくパテにより補修する等の作業が不要になる。
これに対し
図10の図面代用写真のものは、左右端縁部の折曲片部7b、8bにおける突き当て部Xの上端縁を始端として溶着したものであり、この上図面代用写真によると、溶着始端である上端縁が溶着により変形(溶融)して口が開くような状態になると共に欠落した部分がある状態になっていることが確認される。
【0022】
このような端縁の変形、欠落の有無(存否)は、照射の始端だけでなく、終端についても同様であることが確認され、そこでつぎに端縁からレーザービーム照射の始端、終端までの間隙Yについて検討したところ、端縁から凡そ2mmの間隔Yを存してレーザービーム照射をした場合には端縁の変形や欠落が観測されず好適なものとなるが、これよりも小さい間隔としたものは、端縁の変形や欠落が観測されるものが散見される。尤も、端縁の変形や欠落を問題にしない場合には、端縁からレーザービーム照射をしたものとすることができる。
またこの間隙Yを大きくすることについて検討したところ、7mmを越えた場合には、端縁からの溶着のなされない部位が長くなって外見上、安定性を欠いた状態となって好ましくないが、このようなことを問題としない場合には、7mmを越えても問題はない。
またこのことは、連結ラインが直角状に折曲している角部
、つまり、図11(A)に示すように連結ラインRと直交する表裏面板7、8の角部Lについても同様であり、
角部Lに至るまで溶着した場合には、該角部の変形や欠落が観測され、これを避けるためには、角部
Lについても角部
Lから2mm~7mmの間隙Yを存してレーザービーム照射をすることが好ましい。
【0023】
さらに前記条件でレーザービーム照射をした場合に、ウォブリングが直径2mmの円弧形状のものであり、この円弧径は、表裏面板7、8の板厚に対して125%となっているが、この場合、突き当て部Xの溶着は、骨材9には至らない表裏面板7、8までの溶着となっていたが、表裏面板7、8の殆ど板裏面までが溶着された状態になっている(
図5(A)の三角形で示される状態)。このため、骨材9は溶着されることがないため、溶着による変形等(影響)がなく、骨材9としての所期の強度と形状の維持が図られることになる。
図8に前記条件で溶着した状態が図面代用写真として示されている。
因みに
図8の図面代用写真に示されるものでは、表裏面板7、8と骨材9とを組み込んだだけではこれらが固定(仮固定)されておらず不安定なものとなるため、予め、従来の点的な抜き溶接により一体化したものを用いているが、この表裏面板7、8と骨材9との溶着を、本発明のウォブリング移動による溶着としても実施することができる。
【0024】
この場合に、前記突き当て部Xを溶着するにあたり、点的な部位を骨材9まで溶着して一体化し、他の部分は突き当て部Xだけの溶着としたい場合があり、このような場合には、骨材9まで溶着したい部位については、例えばレーザービームの照射出力を高くする、照射時間を長くする(移動速度を遅くする)、ウォブリングの移動軌跡を密にする等して溶着が部分的に骨材9にまで至るようにすればよく(
図5(B)の三角形で示す状態)、このようにすることで、表裏面板7、8同士の突き当て部Xを連結ラインとして溶着する過程で、部分的に骨材9にまで至る溶着がなされることになり、この結果、表裏面板7、8と骨材9とを一体化する溶着作業を、突き当て部Xの溶着作業とは別作業として行う必要がなくなって作業性が向上する。勿論、このような作業をする場合には、表裏面板7、8および骨材9を組み込み状態の形状に維持するための維持装置が必要になるが、例えば、突き当て部Xのレーザービーム照射の邪魔にならないよう、表裏面板7、8の骨材脚片部9aに当接する部位を押圧して形状維持するようにしたものを提示することができる。
【0025】
またウォブリング移動する際のレーザービームの突き合せ部Xを横切る方向の移動幅について、前記条件では2mm(表裏面板7、8の板厚に対して125%)としているが、この移動幅について検討したところ、0.8mm(50%)から3.2mm(200%)の範囲が好適である。0.8mmよりも小さいと、突き合せ部Xに隙間があった場合に、この隙間を塞いでの溶着が十分になされないところが散見され、また3.2mmを越えたものでは、徒に溶着幅が広くなるだけで、作業性が劣ることになるという問題がある。
【0026】
さらに表裏面板7、8の板厚について検討したところ、ウォブリング移動を伴うレーザービーム照射は、照射エネルギーが高いため、表裏面板7、8の板厚を0.6mmのような薄いものでは鋼材が溶融して表裏面材7、8のレーザービーム照射がない部位から脱落した状態になって形状維持が図れないものとなり、このようなことがない表裏面板7、8の板厚としては1.2mm以上であり、また厚すぎた場合には表面的な溶着Xなり、これを避けるためには2.0mm以下であることが好ましく、特に1.6mmとした場合には、外観的にも好適で、鋼製ドアとして要求されるスペックのものを効率よく製造することができた。尤も、このような不具合が発生する要因としては、レーザービームの照射エネルギーが過大であるか、逆に過小であることが大きな要因として挙げられ、そこでレーザービームの照射出力、ウォブリング移動の速度、ウォブリング移動の軌跡を適宜調整することで肉厚のもの、肉薄のものであっても支障のない溶着をすることができる。
【0027】
叙述の如く構成された本実施の形態において、表裏面板7、8同士の突き当て部Xをレーザービーム照射により溶着してドア体1を製造するにあたり、該突き当て部Xに対するレーザービーム照射は、照射位置を二次元方向に移動させるウォブリング移動を伴うもの、具体的には、表裏面板7、8の折曲片部7b、8b同士の突き当て部Xを連結ラインとし、該連結ラインを横切る方向の移動をしながら連結ラインを移動する二次元方向のウォブリング移動によるものであるため、表裏面材7、8が板厚なものや突き当て部Xに隙間があるものであって、従来の単純に線状のレーザービーム照射では溶着できないものであっても熱歪み等の不具合が殆どない状態で確実な溶着できることになって、鋼製ドアを効率よく製造することができる。
そしてこの場合に、突き当て部Xは、骨材9の跨片部9bが裏打ちされた状態で配されているため、突き当て部Xは跨片部9bにより補強された状態でのレーザービーム照射による溶着がなされることになり、溶融した鋼材が不用意に脱落したりすることが回避される。
【0028】
しかもこのものにおいて、突き当て部Xにおけるレーザビーム照射による溶着を、折曲片部7b、8bを貫通するまでには至らない、つまり骨材9にまでは至らない状態での溶着とした場合には、表裏面板7、8同士の溶着ができながら、骨材9は溶着による影響がないものにでき、精度の高い溶着が可能になる。
これに対し、レーザビーム照射による溶着を、骨材9にまで至るものとした場合には、突き当て部X部位の溶着を、該突き当て部X同士の溶着と該部位の骨材9への溶着とが同時的にできることになって作業性が向上する。
【0029】
尚、前記実施の形態のものは、表裏面板7、8の上端縁部に折曲片部7e、8eを設けたものとして実施しているが、該折曲片部7e、8eのないものであっても実施することができ、また、ドア体1の上端縁部に設けられる折曲片部7e、8eと左右端縁部に設けられる折曲片部7b、8bと、これら縦横折曲片部7b、7eおよび8b、8eのあいだのコーナー部(角部)Lとを溶着する態様としては、
図11(B)に示すように、前記
図11(A)に示す溶着に、コーナー部Lを、三角コーナー頂部Tから離間した中間部位を溶着したもの
とすることができ、さらに図11(C)に示すように、コーナー部Lを、三角コーナー頂部Tにまで至る状態で溶着したものについて、前記(A)に示す溶着をしたものとすることもできる。
尚、前記溶着の形態として、図11(D)、(E)に溶着の参考例を示すが、同図(D)に示すように、コーナー部Lを、三角コーナー頂部Tから離間した中間部位を溶着したものに、各折曲片部7b、8bおよび7e、8e同士の溶着部位を三角コーナー部位の溶着に連結させたもの、同図(E)に示すように、コーナー部Lを、三角コーナー頂部Tにまで至る状態で溶着したものに、各折曲片部7b、8bおよび7e、8e同士の溶着部位を三角コーナー部位の溶着に連結させたもの
においては、各コーナー部の溶着は、レーザービームの照射により溶融した素材を受けて接着する相手側部材が存在するため、前述した
図10に示す切断端を溶着する場合のように端縁部が溶融して変形(欠落)してしまうようなことがなく、外観的にも優れた状態での溶着ができることになる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、板厚が厚い表裏面板を用いた鋼製ドアとして利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ドア体
7 表面板
7a 表面部
7b 折曲片部
7c 端縁部
8 裏面板
8a 裏面部
8b 折曲片部
8c 端縁部
9 骨材
9a 脚片部
9b 跨片部
X 突き当て部
Y 間隙
Z 溶着部位