(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】セラミックスシート、セラミックスシートの製造方法およびグリーンシート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240301BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20240301BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20240301BHJP
C04B 35/634 20060101ALI20240301BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C04B35/111
C04B35/622
C04B35/634 240
H05K1/03 610D
(21)【出願番号】P 2020058301
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 康二
(72)【発明者】
【氏名】武岡 健
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-063406(JP,A)
【文献】特開2012-253167(JP,A)
【文献】特開2002-111210(JP,A)
【文献】特開2003-146767(JP,A)
【文献】特開2013-070015(JP,A)
【文献】米国特許第06887569(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/00 -35/22
C04B35/45 -35/457
C04B35/547-35/553
C04B35/622-35/84
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセラミックス粒子を含むセラミックスシートであって、
前記セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.2以上であり、かつ、シート厚みが150μm以上であり、
少なくとも、シート厚さ方向におけるシート表面から深さ15μmまでの領域に、断面SEM観察に基づく前記シート表面に対する前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が20°以下である平滑領域が形成され、
少なくとも、前記シート厚さ方向における深さ35μmから深さ50μmまでの領域に、断面SEM観察に基づく前記シート表面に対する前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が25°以上である熱分散領域が形成されている、セラミックスシート。
【請求項2】
前記セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.5以上である、請求項1に記載のセラミックスシート。
【請求項3】
前記平滑領域における前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が15°以下である、請求項1または2に記載のセラミックスシート。
【請求項4】
前記熱分散領域における前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が30°以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックスシート。
【請求項5】
前記シート厚みが4000μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックスシート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミックスシートを製造する方法であって、
少なくとも平均アスペクト比が1.2以上のセラミックス粒子を含む造粒粉を準備する造粒工程と、
ロール成形法を用い、前記造粒粉から厚さ150μm以上のグリーンシートを成形するロール成形工程と、
前記グリーンシートを焼成する焼成工程と
を包含する、セラミックスシートの製造方法。
【請求項7】
複数のセラミックス粒子とバインダとを少なくとも含むグリーンシートであって、
前記セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.2以上であり、かつ、シート厚みが150μm以上であり、
少なくとも、シート厚さ方向におけるシート表面から深さ15μmまでの領域に、断面SEM観察に基づく前記シート表面に対する前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が20°以下である平滑領域が形成され、
少なくとも、前記シート厚さ方向における深さ35μmから深さ50μmまでの領域に、断面SEM観察に基づく前記シート表面に対する前記セラミックス粒子の配向角度の平均値が25°以上である熱分散領域が形成されている、グリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセラミックス粒子を含むセラミックスシートに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスシートは、複数のセラミックス粒子をシート状に成形したグリーンシートを焼成することによって作製される。このセラミックスシートは、優れた放熱性や耐熱性を有しているため様々な分野で使用されている。一例として、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU(Central Processing Unit)などの発熱部材を備えた電子部品では、発熱部材で生じた熱を放熱するための放熱板としてセラミックスシートが用いられる。かかるセラミックスシートを使用した放熱板の一例が特許文献1、2に開示されている。
【0003】
また、セラミックスシートの用途の他の例として、光学部品における反射基板が挙げられる。発光ダイオード(LED)などの光源を備えた光学部品では、光源で生じた光を所望の方向に反射させるために、白色の反射基板が使用されることがある。セラミックスシートは、耐熱性が高く、高温に晒されても黄変しにくいため、反射基板として好適な材料と考えられている。また、セラミックスシートからなる反射基板は、光源で生じた熱を放熱する放熱板としても機能する。かかるセラミックスシートを使用したLED用反射基板の一例が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/314458号
【文献】国際公開第2019/73690号
【文献】特開2010-263165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した放熱板や反射基板などに使用する場合には、セラミックスシートに対して、優れた表面平滑性が求められる。具体的には、放熱板では、発熱部材と放熱板との界面における熱伝導性の低下を防止するために、表面平滑性に優れ、発熱部材との密着性が良いセラミックスシートが求められる。また、光源で生じた光を反射させる反射基板には、当然に優れた表面平滑性が求められる。
【0006】
本発明者らの検討によると、シートを構成するセラミックス粒子の配向性が表面平滑性に影響する。具体的には、非球形のセラミックス粒子の長手寸法がシート表面に沿うように配向した(シート表面に対する配向角度が小さい)場合、特定のセラミックス粒子がシート表面から突出することを防止し、優れた表面平滑性を得ることができる。
【0007】
ここで、シート内の無機粒子の配向方向を制御する手段の一例として、焼成前のグリーンシートに電場をかけ、無機粒子をシート表面に沿って配向させるという手段が考えられる。しかし、この手段は、使用する無機粒子が磁性材料に限られるため、セラミックスシートへの応用が困難である。また、他の手段として、押出成形でグリーンシートを成形し、押出方向(スラリーの流出方向)に沿って粒子を配向させるという方法も挙げられる。しかしながら、この方法で得られたセラミックスシートは、優れた表面平滑性を有する一方で、放熱性が大きく低下しており、放熱板や反射基板等に使用することが難しかった。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、放熱性の大幅な低下を生じさせずに、優れた表面平滑性を有したセラミックスシート得ることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を考慮して種々の検討を行った結果、本発明者らは、上述した従来の押出成形では、成形後のシートの厚さ方向の全域においてセラミックス粒子の配向角度が小さくなるため放熱性が大幅に低下すると考えた。具体的には、配向角度の小さいセラミックスシートでは、シート表面に沿ってセラミックス粒子が配向し、当該粒子の配向方向に沿って熱が伝導しやすくなっているため、シート厚み方向への熱の拡散が不十分になり、放熱性が大幅に低下すると考えた。
【0010】
上述の知見に基づいて、本発明者らは、シート表面に対する配向角度が小さい平滑領域がシート表層に形成され、かつ、シート表面に対する配向角度が大きい熱拡散領域がシート内部に形成されたセラミックスシートを実現できれば、放熱性を大幅に低下させずに、優れた表面平滑性を得ることができると考えた。そして、1枚のセラミックスシート内に平滑領域と熱拡散領域を形成する手段について種々の検討を行っていた際に、長尺のセラミックス粒子を使用し、ロール成形法を用いてグリーンシートを成形すると、ロールからの圧力によって、セラミックス粒子の配向角度が小さくなる(シート表面に沿って粒子が配向する)ことを発見した。そして、さらに検討を行った結果、成形するシートの厚みを一定以上にすると、ロールからの圧力が伝わりにくいシート内部では、シート表面に沿って粒子が配向せずに配向角度が大きくなることを発見した。
【0011】
ここに開示されるセラミックスシートは、上述の知見に基づいてなされたものである。かかるセラミックスシートは、複数のセラミックス粒子を含み、セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.2以上であり、かつ、シート厚みが150μm以上である。そして、ここに開示されるセラミックスシートでは、少なくとも、シート厚さ方向におけるシート表面から深さ15μmまでの領域に、断面SEM観察に基づくシート表面に対するセラミックス粒子の配向角度の平均値が20°以下である平滑領域が形成され、少なくとも、シート厚さ方向における深さ35μmから深さ50μmまでの領域に、断面SEM観察に基づくシート表面に対するセラミックス粒子の配向角度の平均値が25°以上である熱分散領域が形成されている。
【0012】
このように、セラミックス粒子の配向角度が小さい平滑領域をシート表層に形成することによって、シート表面からの粒子の突出を防止できるため、優れた表面平滑性を得ることができる。また、セラミックス粒子の配向角度が大きい熱分散領域をシート内部に形成することによって、シート厚み方向に沿って熱が伝導されやすくなるため、放熱性の大幅な低下を防止できる。以上の通り、ここに開示されるセラミックスシートは、放熱性の大幅な低下を生じさせずに、優れた表面平滑性を発揮できる。
【0013】
なお、本明細書において「シート厚さ方向におけるシート表面から深さ15μmまでの領域」とは「シート表層」を定義づけたものである。また、「シート厚さ方向における深さ35μmから深さ50μmまでの領域」とは「シート内部」を定義づけたものである。また、説明の便宜上、本明細書では「厚さ方向におけるシート表面からの距離」を「深さ」と称する。
【0014】
ここに開示されるセラミックスシートの一態様では、セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.5以上である。これにより、シート表層におけるセラミックス粒子の配向角度をより小さくし、より優れた表面平滑性を得ることができる。
【0015】
ここに開示されるセラミックスシートの一態様では、平滑領域におけるセラミックス粒子の配向角度の平均値が15°以下である。これによって、シート表面からセラミックス粒子が突出することを好適に防止し、より優れた表面平滑性を得ることができる。
【0016】
ここに開示されるセラミックスシートの一態様では、熱分散領域におけるセラミックス粒子の配向角度の平均値が30°以上である。これによって、熱分散領域における熱伝導性をさらに向上させ、放熱性の低下をより好適に抑制できる。
【0017】
ここに開示されるセラミックスシートの一態様では、シート厚みが4000μm以下である。これによって、ロール成形における成形不良の発生を抑制し、セラミックスシートの生産性を向上させることができる。
【0018】
また、ここに開示される技術は、他の側面として、上述した各態様のセラミックスシートを製造する方法を提供する。ここに開示されるセラミックスシートの製造方法は、少なくとも平均アスペクト比が1.2以上のセラミックス粒子を含む造粒粉を準備する造粒工程と、ロール成形法を用い、造粒粉から厚さ150μm以上のグリーンシートを成形するロール成形工程と、グリーンシートを焼成する焼成工程とを包含する。
【0019】
上述した通り、平均アスペクト比が1.2以上のセラミックス粒子を使用し、ロール成形法を用いてグリーンシートを成形することによって、シート表層に平滑領域が形成されたセラミックスシートを得ることができる。そして、かかる製造方法において、厚さ150μmのシートを製造することによって、ロールからの圧力が伝わりにくいシート内部に、配向角度が大きな熱拡散領域を形成することができる。
【0020】
また、ここに開示される技術は、他の側面としてグリーンシートを提供する。なお、本明細書における「グリーンシート」とは、未焼成の状態のシート(生シート)をいう。また、本明細書における「グリーンシート」は、成形後に加熱していないシートだけでなく、例えば100℃以下の温度で乾燥したシート(乾燥シート)や、例えば200℃以下の温度で仮焼成したシート(仮焼成シート)なども包含する。
【0021】
ここに開示されるグリーンシートは、複数のセラミックス粒子とバインダとを含む。かかるグリーンシートは、セラミックス粒子の平均アスペクト比が1.2以上であり、かつ、シート厚みが150μm以上である。そして、ここに開示されるグリーンシートでは、少なくとも、シート厚さ方向におけるシート表面から深さ15μmまでの領域に、断面SEM観察に基づくシート表面に対するセラミックス粒子の配向角度の平均値が20°以下である平滑領域が形成され、少なくとも、シート厚さ方向における深さ35μmから深さ50μmまでの領域に、断面SEM観察に基づくシート表面に対するセラミックス粒子の配向角度の平均値が25°以上である熱分散領域が形成されている。このような平滑領域と熱分散領域を有するグリーンシートを焼成することによって、放熱性の大幅な低下を生じさせずに、優れた表面平滑性を有したセラミックスシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態に係るセラミックスシートを模式的に示す断面図である。
【
図2】シート成形工程において用いられるロール成形機の一例を模式的に示す側面図である。
【
図3】サンプル1の断面SEM写真(倍率:1000倍)である。
【
図4】
図3中のシート表層を拡大した断面SEM写真(倍率:5000倍)である。
【
図5】サンプル1の表面SEM写真(倍率:1800倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここに開示される技術の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。すなわち、ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下を意味する。
【0024】
1.セラミックスシート
まず、ここに開示されるセラミックスシートの一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るセラミックスシートを模式的に示す断面図である。
【0025】
本実施形態に係るセラミックスシート1は、複数のセラミックス粒子10を含む。そして、このセラミックスシート1では、シート表面1aを含むシート表層A1に、セラミックス粒子10の配向角度θ1が相対的に小さい平滑領域20が形成され、かつ、シート内部A2に、セラミックス粒子10の配向角度θ1が相対的に大きい熱分散領域30が形成されている。以下、各々の要素について具体的に説明する。
【0026】
(1)セラミックス粒子
セラミックス粒子10は、従来公知のセラミックス材料からなる粒子を特に制限なく使用できる。本明細書において「セラミックス材料」とは、非金属無機材料をいう。具体的には、セラミックス粒子10は、酸化物系セラミックス、非酸化物系セラミックス、ガラスセラミックスなどによって構成される。
【0027】
酸化物系セラミックスは、各種の金属元素の酸化物を含むセラミックス材料である。かかる酸化物系セラミックスの一例として、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、イットリア(Y2O3)、タルク(Mg2Si4O10)、ヘマタイト(Fe2O3)、クロミア(Cr2O3)、チタニア(Ti2O)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO2)、カルシア(CaO)、セリア(CeO2)、酸化スズ(TO;SnO2)フェライト(MnFe2O4)、スピネル(MgAl2O4)、ジルコン(ZrSiO4)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、フオルステライト(Mg2SiO4)、リンドープ酸化スズ(PTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)等が挙げられる。セラミックス粒子10は、上述の酸化物系セラミックスを1種または2種以上含有してもよい。すなわち、セラミックス粒子10は、ステアタイト(MgO・SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)などの複合金属酸化物を含んでいてもよい。
【0028】
また、非酸化物系セラミックスは、各種の金属元素の窒化物、炭化物、硼化物、珪化物、リン酸化合物等を含むセラミックス材料である。窒化物セラミックスとしては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化炭素(CNx)、サイアロン(Si3N4-AlN-Al2O3固溶体;Sialon)などが挙げられる。炭化物セラミックスとしては、例えば、タングステンカーバイド(WC)、クロムカーバイド(CrC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)などが挙げられる。また、硼化物セラミックスとしては、例えば、ホウ化モリブデン(MoB)、ホウ化クロム(CrB2)、ホウ化ハフニウム(HfB2)、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、ホウ化タンタル(TaB2)、ホウ化チタン(TiB2)などが挙げられる。また、珪化物セラミックスとしては、例えば、酸化ジルコニウムシリケート、酸化ハフニウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化ランタンシリケート、酸化イットリウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化タンタルシリケート、酸窒化タンタルシリケートなどが挙げられる。リン酸化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0029】
ガラスセラミックスは、非晶質材料(ガラス材料)を含むセラミックス材料である。かかるガラスセラミックスの一例として、SiO2-B2O3系ガラス、SiO2-RO(ROは第2族元素の酸化物、例えばMgO、CaO、SrO、BaOを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO2-RO-R2O(R2Oはアルカリ金属元素の酸化物、例えばLi2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、Fr2Oを表す。特にはLi2O。以下同じ。)系ガラス、SiO2-B2O3-R2O系ガラス、SiO2-RO-ZnO系ガラス、SiO2-RO-ZrO2系ガラス、SiO2-RO-Al2O3系ガラス、SiO2-RO-Bi2O3系ガラス、SiO2-R2O系ガラス、SiO2-ZnO系ガラス、SiO2-ZrO2系ガラス、SiO2-Al2O3系ガラス、RO-R2O系ガラス、RO-ZnO系ガラスなどが挙げられる。なお、ガラスセラミックスは、上記呼称に現れている主たる構成成分の他に1つまたは2つ以上の成分を含んでもよい。また、セラミックス粒子は、一般的な非晶質ガラスの他、結晶を含んだ結晶化ガラスを含んでいてもよい。
【0030】
なお、セラミックスシート1に含まれるセラミックス粒子10は、1種類に限定されず、2種類以上のセラミックス粒子を含んでいてもよい。例えば、2種類以上の酸化物系セラミックスを混合した混合粒子、2種類以上の非酸化物系セラミックスを混合した混合粒子、2種類以上のガラスセラミックスを混合した混合粒子だけでなく、酸化物系セラミックスとガラスセラミックスとの混合粒子などをセラミックス粒子10として用いることもできる。なお、2種以上のセラミックス粒子を混合した場合の混合比率などは、セラミックスシートの用途に応じて適宜変更することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0031】
そして、本実施形態では、平均アスペクト比が1.2以上の長尺のセラミックス粒子10が用いられる。詳しくは後述するが、このように一定以上の長手寸法を有するセラミックス粒子10を使用すると、ロール成形法でグリーンシートを成形した際に、シート表層におけるセラミックス粒子10をシート表面1aに沿って配向させることができる。なお、シート表面1aにおけるセラミックス粒子10の配向角度θ1をより小さくして表面平滑性をさらに向上させるという観点から、セラミックス粒子10の平均アスペクト比は、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましく、5以上が特に好ましい。一方、セラミックス粒子10の平均アスペクト比の上限は、特に限定されず、20以下であってもよく、15以下であってもよく、10以下であってもよい。なお、本明細書における「平均アスペクト比」は、所定数のセラミックス粒子における短手寸法に対する長手寸法の比率の平均値である。例えば、アスペクト比は、セラミックスシート1の断面SEM画像において、セラミックス粒子10に外接する最小の長方形を描き、かかる長方形の短手寸法Bに対する長手寸法Aの比率(A/B)を算出することによって得られる。そして、所定数(例えば75個以上)のセラミックス粒子10のアスペクト比の算術平均値を算出することによって平均アスペクト比を得ることができる。
【0032】
なお、セラミックス粒子10の外形は、1.2以上の平均アスペクト比を有している限り、特に限定されない。このような1.2以上の平均アスペクト比を有する長尺なセラミックス粒子10の一例として、楕円形状、棒状、針状、板状、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)などが挙げられる。なお、詳しくは後述するが、ここに開示される技術によると、
図5に示すように、シート表面において、板状のセラミックス粒子を層状に配向させ、特に優れた表面平滑性を得ることができる。かかる観点からは、上述した形状の中でも板状のセラミックス粒子が特に好ましい。
【0033】
セラミックス粒子10の寸法についても、1.2以上の平均アスペクト比を有している限り、特に限定されない。一例として、セラミックス粒子10の長手寸法Aの平均は、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましい。このように、十分な長さの長手寸法Aを有するセラミックス粒子10を使用することによって、シート表層A1におけるセラミックス粒子10の配向角度θ1をより容易に小さくすることができる。一方、長手寸法Aの平均の上限値は、特に限定されず、100μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。
【0034】
なお、本明細書における「セラミックス粒子」は、一次粒子に限らず、当該一次粒子が凝集した二次粒子も包含する。すなわち、ここに開示されるセラミックス粒子は、複数の一次粒子が凝集することによって形成された平均アスペクト比が1.2以上の二次粒子であってもよい。このような長尺な二次粒子を用いた場合には、シート表層において二次粒子がシート表面に沿って配向する。この場合でも、優れた表面平滑性を有するセラミックスシートが得られる。なお、二次粒子の凝集形態は、特に限定されず、従来公知の構造を適宜採用することができる。例えば、平均アスペクト比が1.2未満の一次粒子が凝集した結果、平均アスペクト比が1.2以上の二次粒子を形成している場合でも、優れた表面平滑性を得ることができる。また、二次粒子は、板状の一次粒子が凝集したカードハウス構造の二次粒子などであってもよい。
【0035】
また、セラミックスシートは、ここに開示される技術の効果を大きく阻害しない限りにおいて、セラミックス粒子以外の成分を含んでいてもよい。セラミックス粒子以外の粒状成分が含まれる場合には、当該粒状成分も、セラミックス粒子と同様に1.2以上の平均アスペクト比を有していることが好ましい。これによって、優れた表面平滑性を有するセラミックスシートを容易に得ることができる。なお、セラミックス粒子以外の成分は、セラミックスシートに含まれ得る従来公知の成分を特に制限なく選択することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳しい説明を省略する。
【0036】
(2)平滑領域
本明細書における「平滑領域」は、断面SEM観察に基づくシート表面に対するセラミックス粒子の配向角度(表1中のθ1)の平均値が20°以下となる領域である。
図1に示すように、本実施形態に係るセラミックスシート1では、少なくともシート表層A1に平滑領域20が形成されており、この平滑領域20では、複数のセラミックス粒子10の各々がシート表面1aに沿うように配向している。かかる平滑領域20がシート表層A1に形成されていることによって、シート表面1aからセラミックス粒子10が突出することを防止し、優れた表面平滑性を得ることができる。なお、さらに優れた表面平滑性を得るという観点から、平滑領域20における配向角度θ1の平均値は、18°以下が好ましく、16°以下がより好ましく、14°以下がさらに好ましく、12°以下が特に好ましい。一方、平滑領域20における配向角度θ1の平均値の下限は、特に限定されず、0°(シート表面1aと平行)であってもよいし、0.05°以上であってもよいし、0.1°以上であってもよいし、0.5°以上であってもよいし、1°以上であってもよい。
【0037】
なお、上述した通り、本明細書における「シート表層」は、シート厚さ方向Zにおけるシート表面1aから深さ15μmまでの領域(
図1中のA1)を指す。ここで、優れた表面平滑性を得るという観点では、平滑領域20は、少なくともシート表層A1に形成されていればよい。換言すると、平滑領域20は、シート表層A1よりも深い領域まで形成されていてもよく、その厚さt1は15μmに限定されない。かかる平滑領域20の厚さt1は、15μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。一方、放熱性の低下をより好適に抑制するという観点から、平滑領域20の厚さt1は、35μm以下が好ましく、35μm未満がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0038】
また、本明細書における「セラミックス粒子の配向角度」は、以下の手順に基づいて測定される。まず、セラミックスシートの断面SEM画像を取得する。次に、当該断面SEM画像において、シート表面に任意の測定点を設定した後、当該測定点からシート表面の他の地点に向かって、セラミックス粒子の長手寸法Aの平均値の10倍の長さの線分を引き、これを「測定基準線」とする。そして、セラミックス粒子の長手方向と基準測定線とがなす角度(鋭角)を「セラミックス粒子の配向角度」とみなす。そして、上述したシート表層A1において、複数(例えば75個以上)のセラミックス粒子10の配向角度θ1を測定し、その平均値が20°以下であれば、「少なくともシート表層A1に平滑領域20が形成されている」ということができる。
【0039】
(3)熱分散領域
本実施形態に係るセラミックスシート1では、少なくともシート内部A2に熱分散領域30が形成されている。ここで、シート内部A2において複数(例えば75個以上)のセラミックス粒子10の配向角度θ2を測定し、その平均値が25°以上であれば、「少なくともシート内部A2に熱分散領域30が形成されている」ということができる。
図1に示すように、この熱分散領域30では、セラミックス粒子10の配向角度θ2の平均値が、上記平滑領域20における配向角度θ1よりも大きくなる。このように配向角度が大きいセラミックス粒子10を含む領域を形成すると、シート厚さ方向Zに沿って熱が伝達されやすいくなるため、上記平滑領域20の形成による放熱性の低下を抑制できる。なお、放熱性の低下をより好適に抑制するという観点から、熱分散領域30におけるセラミックス粒子10の配向角度θ2の平均値は、27°以上が好ましく、29°以上がより好ましく、31°以上がさらに好ましく、33°以上が特に好ましい。一方、熱分散領域30における配向角度θ2の平均値の上限は、特に限定されず、90°以下であってもよく、60°以下であってもよく、45°以下であってもよく、42.5°以下であってもよく、40°以下であってもよい。
【0040】
また、熱分散領域は、
図1に示すように各々のセラミックス粒子10が特定の配向性を有さない(不規則に配向している)層であってもよいし、平滑領域よりも大きな25°以上という配向角度で各々のセラミックス粒子が配向した層でもよい。どちらの場合でも、熱分散領域30におけるシート厚さ方向Zの熱伝導性を向上させて放熱性の低下を抑制できる。なお、平滑領域20から伝達された熱を様々な方向に拡散させるという観点からは、熱分散領域30は、特定の配向性を有さず、セラミックス粒子10が不規則に配向している方が好ましい。
【0041】
なお、上述した通り、本明細書における「シート内部」は、シート厚さ方向Zにおける深さ35μmから深さ50μmまでの領域(
図1中のA2)を指す。上記平滑領域20と同様に、放熱性の大幅な低下を防止するという観点からは、少なくともシート内部A2に熱分散領域30が形成されていればよい。換言すると、熱分散領域30は、シート内部A2よりも広い領域に形成されていてもよく、その厚さt2は15μmに限定されない。なお、放熱性の低下をさらに抑制するという観点から、熱分散領域30の厚さt2は、15μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましく、150μm以上が特に好ましい。一方、熱分散領域30の厚さt2の上限は、特に限定されず、3500μm以下であってもよく、2500μm以下であってもよく、1500μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよい。
【0042】
(4)中間領域
また、ここに開示されるセラミックスシートは、平滑領域と熱分散領域との間に、何れの領域にも属さない中間領域を備えていてもよい。詳しくは後述するが、ここに開示される製造方法によると、シート表面からシート内部に向かってセラミックス粒子の配向角度が連続的に大きくなるため、製造後のセラミックスシートの平滑領域と熱分散領域との間に、セラミックス粒子の配向角度の平均値が20°超25未満の中間領域が形成されることがある。このように、平滑領域と熱分散領域との間に明確な境界が形成されず、セラミックス粒子の配向角度が連続的に大きくなる場合、平滑領域から熱分散領域への熱伝導性が向上するため、平滑領域の形成による放熱性の低下をさらに好適に抑制できる。
【0043】
(5)シートの外形
セラミックスシート1の外形は、特に限定されず、帯状、円板状、枠状などの一般的な外形を特に制限なく採用できる。なお、詳しくは後述するが、ここに開示されるセラミックスシート1は、ロール成形によって成形される。そして、当該ロール成形において強い圧力が加わるシート表層A1に平滑領域20が形成され、ロールからの圧力が弱いシート内部A2に熱分散領域30が形成される。このとき、シート厚みTが薄すぎると、厚さ方向Zの全域において平滑領域20が形成され、放熱性の大幅な低下が生じる可能性がある。これに対して、ここに開示されるセラミックスシート1では、シート厚みTを150μm以上に設定し、十分な厚みの熱分散領域30が形成されるようにしている。なお、シート厚みTは、150μm以上であれば特に限定されず、目的とする用途に応じて適宜調節できる。但し、熱分散領域30をより厚く形成し、放熱性の低下を更に好適に抑制するという観点から、シート厚みTは、300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、650μm以上がさらに好ましく、800μm以上が特に好ましい。一方、シート厚みTを大きくしすぎると、ロール成形において成形不良が生じて生産性が低下する可能性がある。このため、シート厚みTの上限は、4000μm以下が好ましく、3500μm以下がより好ましく、2000μm以下がさらに好ましく、1500μm以下が特に好ましい。なお、シート厚みT以外の寸法(幅、長さなど)は、特に限定されず、用途に応じて適宜調節できるため詳細な説明を省略する。
【0044】
2.セラミックスシートの製造方法
次に、本実施形態に係るセラミックスシートを製造する方法について説明する。かかる製造方法は、造粒工程と、シート成形工程と、焼成工程とを包含する。
【0045】
(1)造粒工程
本工程では、平均アスペクト比が1.2以上のセラミックス粒子を少なくとも含む造粒粉を準備する。造粒粉は、予め造粒されたものを購入などして用意してもよいし、セラミックス粒子を含むスラリーから作製してもよい。また、セラミックス粒子については、説明が重複するため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0046】
造粒粉を作製する場合には、まず、セラミックス粒子と、バインダと、分散媒とを含むスラリーを調製する。分散媒は、特に限定されず、従来公知の分散媒を適宜選択できる。一例として、分散媒として、水(イオン交換水、蒸留水など)や非水分散媒(例えば、メタノール、エタノール、m-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール等のアルコール系分散媒)などが挙げられる。また、バインダには、熱可塑性を有し、且つ、焼成工程(典型的には、200℃以上の加熱焼成)によって焼失する樹脂材料を好適に使用できる。かかるバインダを添加することによって、グリーンシートの成形性を向上させることができる。バインダの一例として、カラギーナン、キサンタンガム等の天然高分子化合物、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキル系樹脂などが挙げられる。また、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、従来公知の添加剤をスラリーに添加してもよい。かかる添加剤の一例として、分散剤、可塑剤、消泡剤、離型剤、酸化防止剤、増粘剤、造孔材(気孔形成材)等が挙げられる。また、スラリーの調製には、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等の従来公知の種々の攪拌混合装置を使用できる。例えば、セラミックス粒子と、バインダと、分散媒と、添加剤を任意の撹拌混合装置に投入し、所定の時間、撹拌混合することによって均質なスラリーを調製し得る。
【0047】
次に、調製したスラリーから所定の大きさの造粒粉を得る。造粒の方法については特に限定されず、従来公知の方法を特に制限なく採用できる。一例として、噴霧造粒法(スプレードライ法)、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法などが挙げられる。例えば、噴霧造粒法では、液状のスラリーを乾燥雰囲気中に噴霧する。これによって、複数のセラミックス粒子とバインダを含む造粒粒子が成形される。このときに、噴霧する液滴の大きさを調節することによって、造粒粒子の大きさや質量などを調整することもできる。
【0048】
(2)ロール成形工程
本工程では、ロール成形法を用い、造粒粉からグリーンシートを成形する。
図2は、シート成形工程において用いられるロール成形機の一例を模式的に示す側面図である。
図2に示すように、ロール成形機100は、造粒粉Pを貯留する貯留タンク110と、造粒粉Pを圧延成形するロール圧延部120とを備えている。貯留タンク110は、ロール圧延部120に向かって造粒粉Pを供給するフィーダー112を備えている。また、ロール圧延部120は、回転軸が平行に配置された一対のロール122、124を有している。なお、ロール成形機100を構成する各部材は、耐薬品性や耐腐食性に優れた材質から構成されていることが好ましい。このような材質として例えばステンレスが挙げられる。
【0049】
そして、本工程では、貯留タンク110に貯留された造粒粉Pをフィーダー112からロール圧延部120に供給する。このとき、造粒粉Pは、一対のロール122、124の間に保持される。そして、一方のロール122を時計周りに回転させると共に、他方のロール124を反時計回りに回転させると、各ロール122、124の表面との摩擦力によって造粒粉Pがロール122、124の間に引き込まれる。そして、当該ロール122、124の間を通過する際に造粒粉Pが圧延され、帯状のグリーンシートGが成形される。
【0050】
ここで、本実施形態に係る製造方法では、平均アスペクト比が1.2以上の長尺なセラミックス粒子を使用し、厚さ150μm以上のグリーンシートGを成形する。これによって、シート表層に平滑領域が形成され、かつ、シート内部に熱分散領域が形成されたグリーンシートGを成形することができる。具体的には、圧延成形中のシート表層にはロール122、124から非常に強い圧力が加わるため、長尺なセラミックス粒子が含まれていると、当該粒子の長手方向が圧延方向に対して垂直になるように各々の粒子の配向方向が変化する。これによって、成形後のグリーンシートGでは、配向角度の平均値が20°以下である平滑領域が少なくともシート表層に形成される。一方、ロール122、124からの圧力は、シート厚み方向の内側に向かうにつれて小さくなるため、シート内部では、造粒粉におけるセラミックス粒子の配向が維持されて配向角度が表層よりも大きくなる。このため、成形後のグリーンシートGでは、配向角度の平均値が25°以上である熱分散領域が少なくともシート内部に形成される。
【0051】
(3)焼成工程
本工程では、ロール成形工程で得られたグリーンシートを焼成する。これによって、樹脂成分(バインダ等)や分散媒が除去されると共に、セラミックス粒子が焼結してセラミックスシートが形成される。なお、本工程における焼成条件(焼成温度、焼成時間、昇温速度、焼成雰囲気など)は、特に限定されず、使用したセラミックス粒子の種類等に応じて適宜調節することができる。また、本工程を実施する前に、グリーンシートを乾燥させる乾燥工程や、バインダを除去する脱バインダ工程などを実施してもよい。これによって、樹脂成分の残留による品質低下や、急激な体積変化によるシートの破損などを好適に防止できる。
【0052】
そして、本工程を経て得られたセラミックスシート1は、シート表層A1に平滑領域20が形成され、シート内部A2に熱分散領域30が形成される。このようなセラミックスシート1は、平滑領域20の形成によって優れた表面平滑性を有し、熱分散領域30によって放熱特性の低下を抑制できる。そして、このセラミックスシート1は、発熱部材との密着性が良く、かつ、発熱部材から伝達された熱を十分に放熱できるため、各種電子部品の放熱板として好適に使用できる。また、一定の放熱性を確保した上で、光に対して高い反射率を有しているため、光学部品の反射基板としても好適に使用できる。
【0053】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0054】
A.第1の試験
本試験では、ここに開示されるセラミックスシートにおけるセラミックス粒子の配向性を調べた。
【0055】
1.サンプルの作成
(1)サンプル1
サンプル1では、セラミックス粒子として、平均アスペクト比が2.0の板状アルミナ粒子(平均長手寸法:10μm)を含むグリーンシートを作製した。具体的には、材料の総重量を100質量部とし、板状アルミナ粒子の添加量が85質量部、残りの添加剤(バインダ、可塑剤、消泡剤、離型剤)の総量が15質量部となるように各材料を混合した上で、これらの材料が適切に混合されるように分散媒(水)を適宜添加しながら撹拌することによって、板状アルミナ粒子を含むスラリーを調製した。なお、本試験では、バインダとしてアクリル高分子系バインダを使用し、可塑剤としてグリコールエーテルを使用した。そして、噴霧造粒装置を使用して噴霧造粒法で上記スラリーから造粒粉を作成した後、ロール成形機によって造粒粉を圧延して帯状のグリーンシートを成形した。なお、本サンプルでは、厚みが800μmのグリーンシートが成形されるように、ロール成形機におけるロールの間隔と回転速度を調節した。
【0056】
(2)サンプル2
サンプル2では、複数のアルミナ粒子が凝集した二次粒子をセラミックス粒子として使用した点を除いて、サンプル1と同じ条件でグリーンシートを作製した。なお、本サンプルで使用した二次粒子は、板状の一次粒子が集合して楕円形の二次粒子を形成したカードハウス構造のアルミナ凝集体である。このアルミナ粒子の平均長手寸法は、6μmであり、平均アスペクト比は1.2である。
【0057】
2.評価試験
(1)SEM観察
作製したグリーンシートを厚さ方向に沿って切断した後、その断面のSEM観察を行った。サンプル1の断面SEM写真を
図3に示し、当該
図3中のシート表層を拡大した断面SEM写真を
図4に示す。
図3および
図4に示すように、サンプル1では、セラミックス粒子がシート表面に沿って配向した平滑領域がシート表層に形成され、セラミックス粒子の配向角度が平滑領域よりも大きな熱分散領域がシート内部に形成されていた。また、本試験では、サンプル1のシート表面に対するSEM観察も行った(
図5参照)。
図5に示すように、このシート表面観察によって、サンプル1において板状のアルミナ粒子が層状に配向していることが確認された。このことから、サンプル1のシート表面は、特に優れた表面平滑性を有することが期待される。
【0058】
(2)配向角度の測定
次に、取得した各サンプルの断面SEM写真に基づいて、シート表層とシート内部の各々におけるセラミックス粒子の平均配向角度を測定した。かかる平均配向角度の測定手順は次の通りである。
【0059】
まず、各サンプルの断面SEM写真を5枚ずつ取得し、各々の断面SEM写真において、グリーンシートの表面上の2点を結ぶ線分(基準測定線)を3つずつ設定した。次に、各々の基準測定線と交差するセラミックス粒子を5個選出し、これらのセラミックス粒子の配向角度を測定することによって、合計75個のセラミックス粒子の配向角度を測定した。そして、これらの配向角度の平均値を求めることによって、シート表面(0μm)における平均配向角度を算出した。次に、本試験では、各々の測定基準線と平行な線分(測定補助線)を、深さ5μm~50μmの領域において5μm毎に設定した。そして、各々の測定補助線と交差する5個のセラミックス粒子の配向角度を測定し、その平均値を求めることによって、各々の深さにおける平均配向角度を算出した。
【0060】
そして、シート表面(0μm)以上15μm以下の領域を「シート表層」とみなし、15μm超35μm未満の領域を「シート中層」とみなし、35μm以上50μm以下の領域を「シート内部」とみなし、各々の領域における平均配向角度を算出した。サンプル1における測定結果を表1に示し、サンプル2における測定結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
表1に示すように、サンプル1、2では、何れにおいても、平均配向角度が小さな平滑領域がシート表層に形成され、平均配向角度が大きな熱分散領域がシート内部に形成されていた。このことから、一次粒子や二次粒子に関わらず、平均アスペクト比が1.2以上のセラミックス粒子を用い、ロール成形を行うと、配向角度が小さな領域(平滑領域)がシート表層に形成され、配向角度が大きな領域(熱分散領域)がシート内部に形成されることが分かった。また、何れのサンプルにおいても、シート表面から内部に向かって、セラミックス粒子の配向角度が連続的に上昇しており、平滑領域と熱分散領域との間に、いずれにも属さない中間領域が形成されていることが確認された。
【0064】
B.第2の試験
次に、本試験では、シート表層に平滑領域を有し、シート内部に熱分散領域を有するグリーンシートを製造するための条件について調べた。
【0065】
1.サンプルの準備
上記第1の実験のサンプル1と同じ手順で13種類のグリーンシート(サンプル3~サンプル15)を作製した。なお、これらのサンプルでは、セラミックス粒子の種類、セラミックス粒子のアスペクト比、シートの厚みの少なくとも一つをサンプル1と異ならせた。第1の試験で作製したサンプル1、2を加えた各サンプルの組成を表3、4に示す。
【0066】
2.評価試験
(1)表面配向性の評価
第1の実験と同じ手順に従って、シート表層(深さ:0~15μm)における平均配向角度と、シート内部(深さ:35~50μm)における平均配向角度とを測定した。そして、シート表層における平均配向角度が20°以下であるサンプルを「平滑領域:○」と評価し、20°を上回ったサンプルを「平滑領域:×」と評価した。また、シート内部における平均配向角度が25°以上であるサンプルを「熱分散領域:○」と評価し、25°未満のサンプルを「熱分散領域:×」と評価した。評価結果を表3、4に示す。
【0067】
(2)表面粗さの測定
第1の試験で作製したサンプル1、2を加えた15種類のグリーンシートに対して脱バインダ処理(600℃、120分間)を行った後に、1450℃、2時間の焼成処理を行うことによって、各サンプルのセラミックスシートを得た。そして、株式会社東京精密製の表面粗さ測定器(型式:surfcom 120A)を用い、JIS B 0601:2001に準拠して、算術平均粗さ(Ra)と、最大高さ(Rz)とを測定した。測定結果を表3、4に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
上記表3、4に示すように、サンプル1~6、8~10、13~15の何れにおいても、シート表層に平滑領域が形成され、優れた表面平滑性を有していた。また、これらのサンプルでは、配向角度が大きな熱分散領域がシート内部に形成されているため、放熱性の大幅な低下を抑制できると予想される。一方、サンプル7では、シート厚さ方向の全域に平滑領域が形成され、熱分散領域が確認されなかった。このことから、成形するシートが薄すぎると、シート厚さ方向の全域に強い圧力が加わり、全ての粒子がシート表面に沿って配向してしまうことが分かった。この場合、シート厚さ方向における熱の伝導が生じにくくなり、放熱性の大幅な低下が生じることが予想される。一方、サンプル11、12では、平滑領域が確認されず、表面平滑性も大きく低下していた。このことから、一定以上のアスペクト比を有する長尺な粒子を使用しなければ、ロール成形時にセラミックス粒子をシート表面に沿って配向させることができないことが分かった。また、サンプル13、14に示すように、セラミックス粒子は、アルミナ粒子に限定されず、様々な非金属無機材料を使用できることが分かった。また、サンプル15のように、複数種類の非金属無機材料を混合した場合でも、平滑領域と熱分散領域の両方を有するセラミックスシートを形成できることが分かった。
【0071】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 セラミックスシート
1a シート表面
10 セラミックス粒子
20 平滑領域
30 熱分散領域
100 ロール成形機
110 貯留タンク
112 フィーダー
120 ロール圧延部
122、124 ロール
A1 シート表層
A2 シート内部
G グリーンシート
P 造粒粉
Z シート厚さ方向