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特許7446143補体活性化を惹起しない血液処理用多孔性成形体
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  • 特許-補体活性化を惹起しない血液処理用多孔性成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】補体活性化を惹起しない血液処理用多孔性成形体
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240301BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240301BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240301BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20240301BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20240301BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61M1/36 165
B01J20/28 Z
B01J20/26 H
B01J20/06 B
B01J20/10 B
B01J20/08 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020063892
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021159305
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】尾関 真
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0342156(US,A1)
【文献】国際公開第2017/082423(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186210(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/212269(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/023350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
B01J 20/28
B01J 20/26
B01J 20/06
B01J 20/10
B01J 20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体であって、該多孔性成形体の、比表面積が51.5m2多孔性成形体mL以上100m2多孔性成形体mL以下であり、かつ、表面孔径が0.0005μm以上0.200μm未満である、血液処理用多孔性成形体。
【請求項2】
前記有機高分子樹脂は、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体、及びポリアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の血液処理用多孔性成形体。
【請求項3】
前記無機イオン吸着体は、下記式(1):
MNxn・mH2O ・・・(1)
{式中、xは、0~3であり、nは、1~4であり、mは、0~6であり、そしてMとNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも1種の金属酸化物を含有する、請求項1又は2に記載の血液処理用多孔性成形体。
【請求項4】
前記金属酸化物が、下記(a)~(c)群:
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、及び水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素と、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素との複合金属酸化物;並びに
(c)活性アルミナ;
から選ばれる、請求項3に記載の血液処理用多孔性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体(本書中、血液処理用多孔質成形体ともいう。)に関する。より詳しくは、本発明は、リン吸着能が高く、補体活性化を惹起することなく安全に使用可能な、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
正常に腎臓が機能している健常成人であれば、体内の過剰なリンは、主に尿として体外に排出される。他方、慢性腎不全患者等の腎機能に障害を有している腎疾患患者等は、過剰なリンを体外に適切に排出できないため、徐々に体内にリンが蓄積され、高リン血症等の疾患を引き起こす。
高リン血症が持続すると、二次性副甲状腺機能亢進症が引き起こされ、骨が痛む、脆くなる、変形する、骨折しやすい等の症状を特徴とする腎性骨症となり、これに高カルシウム血症を合併した場合は、心血管系の石灰化による心不全発症のリスクが高くなる。
心血管系の石灰化は慢性腎不全等の最も深刻な合併症の1つであるので、慢性腎不全患者において、高リン血症を防ぐために体内のリンの量を適切にコントロールすることは非常に重要である。
【0003】
血液透析患者においては、高リン血症に至らないよう、血液透析、血液ろ過透析及び血液ろ過等の透析療法により、体内に蓄積したリンを定期的に除去し、調節している。透析療法においては、一般に、週3回、1回4時間の治療時間を要する。
しかしながら、健常成人が1日に摂取する1000mgのリンを、血液透析患者が摂取した場合、通常、腎臓から排出されるはずのリン(650mg)が体内に蓄積し、1週間で4550mgも蓄積する。通常の血液透析では、1回の透析で800~1000mg程度のリンの除去が可能であり、週3回の透析で約3000mgのリンを除去することが可能となる。透析療法で除去できるリンの量(3000mg)は、1週間で蓄積されたリンの量(4550mg)に至らないため、結果として体内にリンが蓄積される。
【0004】
また、中でも、慢性腎不全患者である維持透析患者は、リンの主排泄経路である腎機能を失っているため、尿中へのリンの排出機能はほぼ失われている。透析療法において、透析液中にリンが含まれていないため、透析液への拡散現象によりリンを体外に除去することができるが、現状の透析時間及び透析条件では十分な排出ができないのが実情である。
以上のように、透析療法のみではリン除去効果が不十分であるため、リンをコントロールするために、透析療法に加え、食事療法とリン吸着剤の飲用による薬物療法とが挙げられるが、重要なのは、患者の栄養状態を評価して低栄養状態でないことを確認後、リン摂取量の制限を行うことである。
【0005】
リンのコントロールとして、CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)ガイドラインにおいては、血清リン値は3.5~6.0mg/dLとされている。
血清リン値が、3.5mg/dL以下になると低リン血症で、くる病や骨軟化症の原因となり、6.0mg/dL以上になると高リン血症となり心血管系の石灰化の原因となる。
リンの摂取量を抑える食事療法については、患者の栄養状態との兼ね合いもあり、また患者自体の嗜好も考えなければならないため、食事療法での体内のリン濃度を管理することは難しい。
【0006】
また、薬物療法においては、消化管内で食物由来のリン酸イオンと結合して不溶性のリン酸塩を形成し、腸管からのリンの吸収を抑制するリン吸着剤経口薬を毎食事前又は食事中に服用することで、リン濃度の管理が行われる。しかしながら、薬物療法においては、毎食事時のリン吸着剤の飲用量は相当多くなる。そのため、リン吸着剤の服用時の副作用として、嘔吐、膨満感、便秘、体内への薬剤の蓄積等が高い確率で起こるため、それらに起因する服用コンプライアンスが非常に低く(50%以下とも言われている)、リン濃度を薬剤により管理するのはドクターにとっても患者にとっても困難な状態にある。
【0007】
以下の特許文献1には、血液透析治療時の透析液の中にリン吸着剤を含む透析組成物を循環させることにより、リン吸着剤を血液と直接接触させないで血液中のリンを効率的に除去することが開示されている。
また、以下の特許文献2には体外血液回路に血液中に蓄積されたリンを除去する、ポリカチオンポリマーからなるリン吸着剤を、血液透析器とは別に、配設した血液透析システムが開示されている。
また、以下の特許文献3には、リン等を高速に吸着除去できる吸着剤に適した多孔性成形体が開示されている。
【0008】
また、特許文献4及び特許文献5には、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる多孔性成形体が開示されているが、特許文献4及び5では、ファウリングの面で改善するために、有機高分子樹脂の末端に水酸基を有するものを使用しているため、その水酸基により補体の活性化が惹起される懸念がある。すなわち、有機高分子樹脂は、末端に水酸基を有していることによって、多孔性成型体において、優れた無機イオン吸着体の担持性能が発揮でき、加えて、疎水性が高い有機高分子樹脂が、末端に水酸基を有しているため、親水性が向上し、多孔性成型体にファウリングが発生しにくかったが、有機高分子樹脂の表面に水酸基を多く有することは、補体を活性化しやすくなり、血液と接触して使用するには、大きな懸念となる。
【0009】
補体とは、免疫反応を媒介する血中タンパク質の一群で、主として肝臓で合成される。補体は、異物を認識すると活性化して、病原体の細胞膜を壊すなどの作用を発揮する。そのため、血液処理用治療器に対して、補体の活性化が起こると、活性化した補体が単球やマクロファージといった免疫を担当する血球を活性化させる。活性化された単球やマクロファージはサイトカインを産生する。透析患者におけるサイトカインの増加は、動脈硬化病変の進展、栄養障害、慢性炎症に大きく影響し、患者の生命予後に悪影響を及ぼす。すなわち、血液処理用治療器にとって、補体を活性化させないことは極めて重要なことである。
【0010】
しかしながら、特許文献1~5のいずれにも、補体の活性化については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2011/125758号
【文献】特開2002-102335号公報
【文献】特許第4671419号公報
【文献】国際公開第2016/083605号
【文献】国際公開第2018/212269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記した従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、補体を活性化させることのない、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる血液処理用多孔性成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体において、該多孔性成形体の比表面積と表面孔径を、所定範囲内にすることにより前記課題を解決しうることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体であって、該多孔性成形体の、比表面積が51.5m2多孔性成形体mL以上100m2多孔性成形体mL以下であり、かつ、表面孔径が0.0005μm以上0.200μm未満である、血液処理用多孔性成形体。
[2]前記有機高分子樹脂は、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体、及びポリアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]に記載の血液処理用多孔性成形体。
[3]前記無機イオン吸着体は、下記式(1):
MNxn・mH2O ・・・(1)
{式中、xは、0~3であり、nは、1~4であり、mは、0~6であり、そしてMとNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも1種の金属酸化物を含有する、前記[1]又は[2]に記載の血液処理用多孔性成形体。
[4]前記金属酸化物が、下記(a)~(c)群:
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、及び水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素と、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素との複合金属酸化物;並びに
(c)活性アルミナ;
から選ばれる、前記[3]に記載の血液処理用多孔性成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る血液処理用多孔性成形体を用いれば、補体を活性化させることなく、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の血液処理用多孔性成形体の、リン吸着量のカラムフロー試験装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)について、詳細に説明する。尚、本発明は、本実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
(血液処理用多孔性成型体)
本発明の1の実施形態は、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含む血液処理用多孔性成形体であって、該多孔性成形体の、比表面積が51.5m2多孔性成形体mL以上100m2多孔性成形体mL以下であり、かつ、表面孔径が0.0005μm以上0.200μm未満である、血液処理用多孔性成形体である。
【0019】
本実施形態の血液処理用多孔性成形体は、その表面に生体適合性ポリマーを有することができる。
用語「多孔性成形体」とは、連通孔を有し、多孔質な構造を有するものをいう。
本実施形態の多孔性成形体の、BET吸着法で測定した比表面積は、51.5m2多孔性成形体mL以上100m2多孔性成形体mL以下であり、51.5m2多孔性成形体mL以上85m2多孔性成形体mLが好ましく、51.5m2多孔性成形体mL以上75m2多孔性成形体mL以下がより好ましく、そして51.5m2多孔性成形体mL以上60m2多孔性成形体mL以下がさらに好ましい。
【0020】
本実施形態においては、比表面積は、以下に説明するように、気体窒素を用いて、BET吸着式から求めたものである。
以下の式:
【数1】
において、Swは、比表面積であり、σは、吸着分子1個の占有面積であり、vmは、単分子層が完成した時の吸着分子の吸着量であり、そしてNは、アボガドロ数である。
mは、以下のBET式を用いてP/P0とP/v(P0-P)の関係から求めることができる。
【数2】
【数3】
ここで、Pは、気体の圧力であり、vは気体の吸着量であり、P0は、気体の飽和蒸気圧であり、E1は、吸着第1層の吸着熱であり、ELは、吸着気体の凝縮熱であり、Rは、気体定数であり、そしてTは、絶対温度である。
【0021】
本実態形態の血液処理用多孔性成形体の、SEMの撮影写真から測定される表面孔径は、リン酸分子が多孔性成型体の孔内にある無機イオン吸着体に効率よく接触し、吸着される観点から、0.0005μm以上0.200μm未満であり、0.005μm以上、0.200μm未満が好ましく、0.010μm以上、0.200μm未満がより好ましく、0.020μm以上、0.200μm未満がさらに好ましい。補体分子が多孔性成形体の孔内構造に接触する、すなわち、孔内に補体分子が入りにくくし、補体活性化が起こりにくくするためには、0.200μm未満が好ましい。
表面孔径は、多孔性成形体の表面をSEM観察し、その表面構造が分かるように撮影し、その画像を、Image J画像解析ソフトを用いて、二値化を行い、孔の直径を求める。
【0022】
本実施形態においては、多孔性成形体に含まれる無機イオン吸着体の担持量は、好ましくは30質量%~95質量%、より好ましくは40質量%~90質量%、さらに好ましくは50質量%~80質量%である。かかる担持量が30質量%未満であると、イオンの吸着対象物質と吸着基質である無機イオン吸着体との接触頻度が不十分となりやすく、他方、95質量%を超えると、多孔性成形体の強度が不足しやすい。
【0023】
本実施形態の多孔性成形体の平均粒径は、100μm~2500μmであり、かつ、実質的に球状粒子の形態にあることが好ましく、平均粒形は、150μm~2000μmであることがより好ましく、200μm~1500μmであることがさらに好ましく、300μm~1000μmであることがよりさらに好ましい。
本実施形態の多孔性成形体は、球状粒子の形態であることが好ましいが、球状粒子としては、真球状のみならず、楕円球状であってもよい。
本実施形態において、平均粒径は、多孔性成形体を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のメディアン径を意味する。
平均粒径が100μm以上であれば、多孔性成形体をカラムやタンクになどの容器へ充填した際に圧カ損失が小さいため高速通水処理に適する。他方、平均粒径が2500μm以下であれば、カラムやタンクに充填したときの多孔性成形体の表面積を大きくすることができ、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着することができる。
【0024】
(有機高分子樹脂)
本実施形態に係る多孔性成形体を構成することができる有機高分子樹脂(多孔性成形体形成ポリマー)は、多孔性成形体を形成することができるポリマーであればよく、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー、ポリアリールエーテルスルホン、ポリプロピレン系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、多種類等が挙げられる。すなわち、有機高分子樹脂は、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、エチレンビニルアルコール共重合体、及びポリアクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0025】
中でも芳香族ポリスルホンは、その熱安定性、耐酸、耐アルカリ性及び機械的強度に優れるため好ましい。
本実施形態で用いられる芳香族ポリスルホンとしては、下記式:
-O-Ar-C(CH32-Ar-O-Ar-SO2-Ar-
{式中、Arは、パラ位での2置換のフェニル基である。}、又は下記式:
-O-Ar-SO2-Ar-
{式中、Arは、パラ位での2置換のフェニル基である。}で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。尚、芳香族ポリスルホンの重合度や分子量については特に限定しない。
【0026】
(無機イオン吸着体)
本実施形態における多孔性成形体の含有される又はこれを構成する無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象又はイオン交換現象を示す無機物質を意味する。
天然物系の無機イオン吸着体としては、例えば、ゼオライト、モンモリロナイト等の各種の鉱物性物質等が挙げられる。
各種の鉱物性物質の具体例としては、アルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライト、モンモリロナイト等が挙げられる。
合成物系の無機イオン吸着体としては、例えば、金属酸化物、多価金属の塩及び不溶性の含水酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、複合金属酸化物、複合金属水酸化物及び金属の含水酸化物等を含む。
【0027】
無機イオン吸着体は、吸着対象物、中でも、リンの吸着性能の観点で、下記式(1):
MNxn・mH2
{式中、xは、0~3であり、nは、1~4であり、mは、0~6であり、そしてMとNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb、及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも一種の金属酸化物を含有することが好ましい。
金属酸化物は、上記式(1)中のmが0である未含水(未水和)の金属酸化物であってもよいし、mが0以外の数値である金属の含水酸化物(水和金属酸化物)であってもよい。
上記式(1)中のxが0以外の数値である場合の金属酸化物は、含有される各金属元素が規則性を持って酸化物全体に均一に分布し、金属酸化物に含有される各金属元素の組成比が一定に定まった化学式で表される複合金属酸化物である。
具体的には、ペロブスカイト構造、スピネル構造等を形成し、ニッケルフェライト(NiFe24)、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩(Zr・Fe24・mH2O、ここで、mは0.5~6である。)等が挙げられる。
無機イオン吸着体は、上記式(1)で表される金属酸化物を複数種含有していてもよい。
【0028】
無機イオン吸着体としての金属酸化物は、吸着対象物、中でも、リンの吸着性能に優れているという観点から、下記(a)~(c)群:
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン、及び水和酸化イットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン、及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素と、アルミニウム、珪素、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素との複合金属酸化物;並びに
(c)活性アルミナ;
から選ばれることが好ましい。
(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料であってもよく、(a)~(c)群のいずれかの群から選択される材料を組み合わせて用いてもよく、(a)~(c)群のそれぞれにおける材料を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合には、(a)~(c)群のいずれかの群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよく、(a)~(c)群の2つ以上の群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよい。
【0029】
無機イオン吸着体は、安価で吸着性が高いという観点から、硫酸アルミニウム添着活性アルミナを含有してもよい。
無機イオン吸着体としては、上記式(1)で表される金属酸化物に加え、上記M及びN以外の金属元素がさらに固溶したものは、無機イオンの吸着性や製造コストの観点から、より好ましい。
例えば、ZrO2・mH2O(mが0以外の数値である。)で表される水和酸化ジルコニウムに、鉄が固溶したものが挙げられる。
多価金属の塩としては、例えば、下記式(2):
2+ (1-p)3+ p(OH-(2+p-q)(An-q/r ・・・(2)
{式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+、及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも一種の二価の金属イオンであり、M3+は、Al3+及びFe3+からなる群から選ばれる少なくとも一種の三価の金属イオンであり、An-は、n価のアニオンであり、0.1≦p≦0.5であり、0.1≦q≦0.5であり、そしてrは、1又は2である。}で表されるハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
上記式(2)で表されるハイドロタルサイト系化合物は、無機イオン吸着体として原料が安価であり、吸着性が高いことから好ましい。
不溶性の含水酸化物としては、例えば、不溶性のヘテロポリ酸塩及び不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩等が挙げられる。
【0030】
無機イオン吸着体として、金属炭酸塩は吸着性能の観点で優れた性能を有するが、溶出の観点からは炭酸塩を用いる場合は用途の検討が必要である。
金属炭酸塩としては、炭酸イオンとのイオン交換反応が期待できるという観点から、下記式(3):
QyRz(CO3)s・tH2O ...(3)
{式中、yは、1~2であり、zは、0~1であり、sは、1~3であり、tは、0~8であり、そして、QとRは、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Zn、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。}で表される少なくとも一種の金属炭酸塩を含有することができる。
金属炭酸塩は、上記式(3)中のtが0である未含水(未水和)の金属炭酸塩であってもよいし、tが0以外の数値である水和物であってもよい。
無機イオン吸着体としては、溶出が少なく、リン、ホウ素、フッ素及び/又はヒ素の吸着性能に優れているという観点から、下記(d)群:
(d)炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸スカンジウム、炭酸マンガン、炭酸鉄、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、炭酸銀、炭酸亜鉛、炭酸イットリウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、炭酸プラセオジム、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム、炭酸ユウロピウム、炭酸ガドリニウム、炭酸テルビウム、炭酸ジスプロシウム、炭酸ホルミウム、炭酸エルビウム、炭酸ツリウム、炭酸イッテルビウム、及び炭酸ルテチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種;
から選ばれることが好ましい。
【0031】
金属炭酸塩の無機イオン吸着機構としては、金属炭酸塩の溶出、金属炭酸塩上での無機イオンと金属イオンの再結晶化が予想されるため、金属炭酸塩の溶解度が高いものほど無機イオン吸着量は高く、優れた吸着性能を期待できる。同時に、無機イオン吸着体からの金属溶出が懸念されるため、金属溶出が問題となる用途での使用においては充分な検討が必要となる。
本実施形態の多孔性成形体を構成する無機イオン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、多孔性成形体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム及びハフニウム等が挙げられる。
本実施形態の多孔性成形体を構成する無機イオン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、多孔性成形体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム、ハフニウム等が挙げられる。
【0032】
有機液体への置換方法は、特に限定されるものではなく、有機液体に水を含んだ無機イオン吸着体を分散させた後に遠心分離、濾過をしてもよいし、フィルタープレス等でろ過を行った後に有機液体を通液してもよい。置換率を高くするためには、有機液体へ無機イオン吸着体を分散後に濾過する方法を繰り返すことが好ましい。
製造時に含有される水分の有機液体への置換率は、50質量%~100質量%であればよく、好ましくは70質量%~100質量%、より好ましくは80質量%~100質量%であればよい。
有機液体の置換率とは、有機液体への置換率をSb(質量%)、水を含んだ無機イオン吸着体を有機液体で処理後の濾液の水分率をWc(質量%)とするとき下記式(4):
Sb = 100 - Wc ...(4)
で表される値をいう。
有機液体で処理後の濾液の水分率は、カールフィッシャー法で測定することで求められる。
無機イオン吸着体に含まれる水分を有機液体に置換した後に乾燥を行うことで、乾燥時の凝集を抑制することができ、無機イオン吸着体の細孔体積を増加させることができ、その吸着容量を増加させることができる。
有機液体の置換率が50質量%未満であると、乾燥時の凝集抑制効果が低くなり無機イオン吸着体の細孔体積が増加しない。
【0033】
(多孔性成形体のリン吸着能)
本実施形態の多孔性成形体は、透析患者の血液透析におけるリン吸着に好適に用いられる。血液組成は血漿成分と血球成分に分かれ、血漿成分は水91%、タンパク質7%、脂質成分及び無機塩類で構成されており、血液中でリンは、リン酸イオンとして血漿成分中に存在する。血球成分は赤血球96%、白血球3%及び血小板1%で構成されており、赤血球の大きさは直径7~8μm、白血球の大きさは直径5~20μm、血小板の大きさは直径2~3μmである。
水銀ポロシメーターで測定した多孔性成形体の最頻細孔径が0.08μm~0.70μmであることにより、外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもリンイオンを確実に吸着でき、リンイオンの多孔性成形体内部への浸透拡散吸着性にも優れる。さらに、血球成分等の目詰り等による血液流れ性が低下することもない
【0034】
本実施形態においては、かかる多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーを有することにより、より好適な血液処理用リン吸着剤として用いることができる。
最頻細孔径が0.08~0.70μmである多孔性成形体を含有し、該多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーを有することにより、血液中のリンイオンを選択的に確実に吸着することで、体内に戻る血中リン濃度はほとんど0に近いものとなる。ほとんどリンを含まない血液を体内に戻すことで細胞内又は細胞外からの血中へのリンの移動が活発になりリフィリング効果が大きくなることが考えられる。
また、血中のリンを補おうとするリフィリング効果を誘発することで、通常排泄できない細胞外液、細胞内に存在するリンも排泄できる可能性がある。
これにより、透析患者が、リン吸着剤経口薬を服用しないか、少量の服用(補助的な使用)に留めても、透析患者の副作用を起こさずに、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができる。
多孔性成形体を容器(カラム)等に充填した血液浄化器を透析時のダイアライザー前後に直列、並列等に繋いで使用することができる。本実施形態の血液浄化器をリン吸着用血液浄化器として用いることができ、血中のリン濃度が低く、空間速度が速い状態でも無機リンの選択性と吸着性能に優れる。
リフィリング効果を誘発しやすくなる観点から、ダイアライザーの前後に本実施形態の多孔性形成体を充填した血液浄化器を繋いで使用することが好ましい。
リフィリング効果が期待できる観点から、リン吸着率(%)(血中のリンが吸着される割合)は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上であることが好適である。また、透析治療時間と同じ4時間でのリン吸着量(空間速度SV=120hr-1のとき)が、1.6mg-P/多孔性成形体mL以上であることが好ましく、2.0mg-P/多孔性成形体mL以上であることがより好適である。
【0035】
(多孔性成形体の補体活性抑制能)
補体の主な成分はC1~C9で表され、各成分は補体系が活性化される過程で2つ以上のフラグメントになるものがある(C3a、C3bなど)。補体活性化の経路として、3種類(古典経路、第二経路、レクチン経路)が知られており、いずれの経路もC3が、C3aとC3bに分解される過程がある。さらに、C3bは、C5のC5aとC5bの分解に寄与し、最終的にC5b6789(C5b-9)という複合体が生成される。最終産物であるC5b-9は膜障害(溶血や細胞障害)作用を有することが知られており、その他C5aのフラグメントなどにも生理活性があるといわれている。生理作用や検出が容易なことから、可溶性のフラグメント(C3a、C5a、sC5b-9など)の一つ又は複数を用いて補体活性の評価が行われている。本実施形態の多孔性成形体は、実質的に「補体活性がない」。本明細書中、「補体活性がない」とは、以下に説明する試験において、血液中のsC5b-9が、1600ng/ml以下であることをいう。補体の活性化は、評価対象物質の表面が血液等に接触することで起こるため、評価対象物質と血液の接触試験を実施する。例えば、評価対象物質を血液中に浸漬する試験、又は評価対象物質をカラム等に入れ、通液回路を接続し、ポンプなど送液手段を用いて血液を循環する試験などでもよい。接触試験に使用する血液等は、全血液(全血、Whole Blood)の代わりに血漿や血清を用いてもよい。血漿は2価の金属イオンをキレートする抗凝固剤、例えば、EDTA又はクエン酸を含まないものが好ましい。また、血清は凝固、遠心分離するとき、凝固成分に補体が含まれないようにしたものが好ましい。一定時間の接触試験ののち、血液等から測定用溶液を回収し、その中に含まれている可溶性フラグメントであるsC5b-9を測定して補体活性の評価を行う。補体活性の評価までの測定溶液の保管は、-80℃以下が好ましい。また、評価対象物質以外の要因で保管中に補体活性化が起きないように、活性化抑制剤としてEDTA及びナファモスタットメシル酸塩を加えることが好ましい。可溶性フラグメントの濃度測定は、どんな方法でもよいが、酵素免疫測定法を用いることが高選択制、簡便のために好ましい。
【0036】
本実施形態の多孔性成形を収容する血液浄化器の容器(カラム)の素材には限定はなく、例えば、ポリスチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、スチレン・ブタジエンブロックコポリマーの様な混合樹脂等を用いることができる。素材のコストの観点からポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマーが好ましく用いられる。
【0037】
(多孔性成形体の製造方法)
次に、本実施形態の多孔性成形体の製造方法を詳細に説明する。
本実施形態の多孔性成形体の製造方法は、例えば、(1)無機イオン吸着体を乾燥する工程、(2)工程(1)で得られた無機イオン吸着体を粉砕する工程、(3)工程(2)で得られた無機イオン吸着体、多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒、多孔性成形体形成ポリマー、及び場合により親水性ポリマー(水溶性高分子)を混合してスラリーを作製する工程、(4)工程(3)で得られたスラリーを成形する工程、(5)工程(4)で得られた成形品を貧溶媒中で凝固させる工程を含む。
【0038】
(工程(1):無機イオン吸着体の乾燥工程)
工程(1)において、無機イオン吸着体を乾燥させて粉体を得る。このとき、乾燥時の凝集を抑制するために、製造時に含有される水分を有機液体に置換した後に乾燥されることが好ましい。有機液体としては、無機イオン吸着体の凝集を抑制される効果があれば特に限定されないが、親水性が高い液体を用いることが好ましい。例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等が挙げられる。
有機液体への置換率は、50質量%~100質量%であればよく、好ましくは70質量%~100質量%、より好ましくは80質量%~100質量%であればよい。
有機液体への置換方法は、特に限定されるものではなく、有機液体に水を含んだ無機イオン吸着体を分散させた後に遠心分離、濾過をしてもよいし、フィルタープレスなどでろ過を行った後に有機液体を通液してもよい。置換率を高くするためには、有機液体へ無機イオン吸着体を分散後に濾過する方法を繰り返すことが好ましい。
有機液体への置換率は、濾液の水分率をカールフィッシャー法で測定することで求められる。
無機イオン吸着体に含まれる水分を有機液体に置換した後に乾燥を行うことで、乾燥時の凝集を抑制することができ、無機イオン吸着体の細孔体積を増加させることができ、その吸着容量を増加させることができる。
有機液体の置換率が50質量%未満であると、乾燥時の凝集抑制効果が低くなり無機イオン吸着体の細孔体積が増加しない。
【0039】
(工程(2):無機イオン吸着体の乾燥工程)
工程(2)においては、工程(1)により得られた無機イオン吸着体の粉末を粉砕する。粉砕の方法としては、特に限定されるものではなく、乾式粉砕や湿式粉砕を用いることができる。
乾式粉砕方法は、特に限定されるものではなく、ハンマーミルなどの衝撃式破砕機、ジェットミルなどの気流式粉砕機、ボールミルなどの媒体式粉砕機、ローラーミルなどの圧縮式粉砕機などを用いることができる。
中でも、粉砕した無機イオン吸着体の粒子径分布をシャープにすることができることから、気流式粉砕機が好ましい。
湿式粉砕方法は、無機イオン吸着体及び多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒を合わせて粉砕、混合できるものであれば、特に限定されるものではなく、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理等の物理的破砕方法に用いられる手段を用いることができる。
粉砕混合手段の具体例としては、ジェネレーターシャフト型ホモジナイザー、ワーリングブレンダー等のブレンダー、サンドミル、ボールミル、アトライタ、ビーズミル等の媒体撹拌型ミル、ジェットミル、乳鉢と乳棒、らいかい器、超音波処理器等が挙げられる。
【0040】
中でも、粉砕効率が高く、粘度の高いものまで粉砕できることから、媒体撹拌型ミルが好ましい。
媒体撹拌型ミルに使用するボール径は、特に限定されるものではないが、0.1mm~10mmであることが好ましい。ボール径が0.1mm以上であれば、ボール質量が充分あるので粉砕力があり粉砕効率が高く、ボール径が10mm以下であれば、微粉砕する能力に優れる。
媒体攪拌型ミルに使用するボールの材質は、特に限定されるものではないが、鉄やステンレス等の金属、アルミナ、ジルコニア等の酸化物類、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の非酸化物類の各種セラミック等が挙げられる。中でも、耐摩耗性に優れ、製品へのコンタミネーション(摩耗物の混入)が少ない点で、ジルコニアが優れている。
粉砕後は多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒に無機イオン吸着体が十分に分散した状態でフィルター等を用いて濾過精製することが好ましい。
粉砕・精製した無機イオン吸着体の粒子径は、0.001~10μm、好ましくは0.001~2μm、より好ましくは0.01~0.1μmである。製膜原液中で無機イオン吸着体を均一に分散させるには、粒子径が小さい程良い。0.001μm未満の均一した微粒子を製造し難い傾向にある。10μmを超える無機イオン吸着体では、多孔性成形体を安定して製造し難い傾向にある。
【0041】
(工程(3):スラリー作製工程)
工程(3)においては、工程(2)により得られた無機イオン吸着体と、多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒、多孔性成形体形成ポリマー、場合により水溶性高分子(親水性ポリマー)を混合してスラリーを作製する。
工程(2)及び工程(3)に用いる多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒としては、多孔性成形体の製造条件において多孔性成形体形成ポリマーを安定に1質量%を超えて溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用できる。
良溶媒としては、例えば、N-メチル-2ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
良溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
工程(3)における多孔性成形体形成ポリマーの添加量は、多孔性成形体形成ポリマー/(多孔性成形体形成ポリマー+水溶性高分子+多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒)の割合が、3質量%~40質量%となるようにすることが好ましく、4質量%~30質量%であることがより好ましい。多孔性成形体形成ポリマーの含有率が3質量%以上であれば、強度の高い多孔性成形体が得られ、40質量%以下であれば、空孔率の高い多孔性成形体が得られる。
工程(3)において、水溶性高分子は必ずしも添加される必要は無いが、添加をすることで多孔性成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔性成形体が均一に得られ、すなわち、孔径制御が容易になり、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔性成形体が得られる。
工程(3)に用いる水溶性高分子は、多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒と多孔性成形体形成ポリマーとに対して相溶性のあるものであれば、特に限定されるものではない。
【0043】
水溶性高分子としては、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子のいずれも使用できる。
天然高分子としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン等が挙げられる。
半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類等が挙げられる。
中でも、無機イオン吸着体の担持性を高める点から、合成高分子が好ましく、多孔性が向上する点から、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール類がより好ましい。
ポリビニルピロリドン(PVP)とポリエチレングリコール類の質量平均分子量は、400~35,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることがより好ましく、2,000~100,000であることがさらに好ましい。
質量平均分子量が400以上であれば、表面開口性の高い多孔性成形体が得られ、35,000,000以下であれば、成形する時のスラリーの粘度が低いので成形が容易になる傾向がある。
【0044】
水溶性高分子の質量平均分子量は、水溶性高分子を所定の溶媒に溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定できる。
水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子/(水溶性高分子+多孔性成形体形成ポリマー+多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒)の割合が、0.1質量%~40質量%となるようにすることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、0.1質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
水溶性高分子の添加量が0.1質量%以上であれば、多孔性成形体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔性成形体が均一に得られる。水溶性高分子の添加量が40質量%以下であれば、外表面開口率が適当であり、多孔性成形体の外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔性成形体が得られる。
【0045】
(工程(4):成型工程)
工程(4)においては、工程(3)により得られたスラリー(成形用スラリー)を成形する。成形用スラリーは、多孔性成形体形成ポリマーと、多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒と、無機イオン吸着体と、必要により水溶性高分子の混合スラリーである。
本実施形態の多孔性成形体の形態は、成形用スラリーを成形する方法によって、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態を採ることができる。
粒子状、例えば、球状粒子の形態に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、回転する容器の側面に設けたノズルから、容器中に収納されている成形用スラリーを飛散させて、液滴を形成させる回転ノズル法等が挙げられる。回転ノズル法により、粒度分布が揃った粒子状の形態に成形することができる。
具体的には、1流体ノズルや2流体ノズルから、成形用スラリーを噴霧して凝固浴中で凝固する方法が挙げられる。
ノズルの径は、0.1mm~10mmであることが好ましく、0.1mm~5mmであることがより好ましい。ノズルの径が0.1mm以上であれば、液滴が飛散しやすく、10mm以下であれば、粒度分布を均一にすることができる。
遠心力は、遠心加速度で表され、5G~1500Gであることが好ましく、10G~1000Gであることがより好ましく、10G~800Gであることがさらに好ましい。
【0046】
遠心加速度が5G以上であれば、液滴の形成と飛散が容易であり、1500G以下であえば、成形用スラリーが糸状にならずに吐出し、粒度分布が広くなるのを抑えることができる。粒度分布が狭いことにより、カラムに多孔性成形体を充填した時に水の流路が均一になるため、超高速通水処理に用いても通水初期からイオン(吸着対象物)が漏れ出す(破過する)ことが無いという利点を有している。
糸状又はシート状の形態に成形する方法としては、該当する形状の紡口、ダイスから成形用スラリーを押し出し、貧溶媒中で凝固させる方法が挙げられる。
中空糸状の多孔性成形体を成形する方法としては、環状オリフィスからなる紡口を用いることで、糸状やシート状の多孔性成形体を成形する方法と同様にして成形できる。
円柱状又は中空円柱状の多孔性成形体を成形する方法としては、紡口から成形用スラリーを押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
【0047】
(工程(5):凝固工程)
工程(5)においては、工程(4)で得られた凝固が促進された成形品を貧溶媒中で凝固させて、多孔性成形体を得る。
<貧溶媒>
工程(5)における貧溶媒としては、工程(5)の条件において多孔性成形体形成ポリマーの溶解度が1質量%以下の溶媒を使用することができ、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エーテル類、n-ヘキサン及びn-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。中でも、貧溶媒としては、水が好ましい。
工程(5)では、先行する工程から良溶媒が持ち込まれ、良溶媒の濃度が、凝固工程開始時と終点で、変化してしまう。そのため、予め良溶媒を加えた貧溶媒としてもよく、初期の濃度を維持するように水等を別途加えながら濃度を管理して凝固工程を行うことが好ましい。
【0048】
良溶媒の濃度を調整することで、多孔性成形体の構造(外表面開口率及び粒子形状)を制御できる。
貧溶媒が水又は多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒と水の混合物の場合、凝固工程において、水に対する多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒の含有量は、0~80質量%であることが好ましく、0~60質量%であることがより好ましい。
多孔性成形体形成ポリマーの良溶媒の含有量が80質量%以下であれば、多孔性成形体の形状が良好になる効果が得られる。
貧溶媒の温度は、以下に説明する液滴を遠心力で飛散させる回転容器においける空間部の温度と湿度を制御する観点から、20~100℃であることが好ましい。
【0049】
(多孔性成形体の製造装置)
本実施形態における多孔性成形体が粒子状の形態である場合、その製造装置は、液滴を遠心力で飛散させる回転容器と、凝固液を貯留する凝固槽と、を備え、回転容器と凝固槽の間の空間部分を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する制御手段を備えたものであることができる。
液滴を遠心力で飛散させる回転容器は、成形用スラリーを球状の液滴にして遠心力で飛散する機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば、周知の回転ディスク及び回転ノズル等が挙げられる。
回転ディスクは、成形用スラリーが回転するディスクの中心に供給され、回転するディスクの表面に沿って成形用スラリーが均一な厚みでフィルム状に展開し、ディスクの周縁から遠心力で滴状に分裂して微小液滴を飛散させるものである。
回転ノズルは、中空円盤型の回転容器の周壁に多数の貫通孔を形成するか、または周壁に貫通させてノズルを取付け、回転容器内に成形用スラリーを供給すると共に回転容器を回転させ、その際に貫通孔又はノズルから遠心力により成形用スラリーを吐出させて液滴を形成するものである。
凝固液を貯留する凝固槽は、凝固液を貯留できる機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば、周知の上面開口の凝固槽や、回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽等が挙げられる。
上面開口の凝固槽は、回転容器から水平方向に飛散した液滴を自然落下させ、上面が開口した凝固槽に貯留した凝固液の水面で液滴を捕捉する装置である。
回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽は、凝固液を筒体の内面に沿わせて周方向にほぼ均等な流量で流出させ、内面に沿って自然流下する凝固液流中に液滴を捕捉して凝固させる装置である。
空間部の温度と湿度の制御手段は、回転容器と凝固槽の間の空間部を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する手段である。
【0050】
空間部を覆うカバーは、空間部を外部の環境から隔離して、空間部の温度及び湿度を現実的に制御し易くする機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば箱状、筒状及び傘状の形状とすることができる。
カバーの材質は、例えば、金属のステンレス鋼やプラスチック等が挙げられる。外部環境と隔離する点で、公知の断熱剤で覆うこともできる。カバーには、一部開口部を設けて、温度及び湿度を調整してもよい。
空間部の温度及び湿度の制御手段は、空間部の温度と湿度を制御する機能があればよく、特定の手段に限定されず、例えば、電気ヒーター及びスチームヒーター等の加熱機、超音波式加湿器、加熱式加湿器等の加湿器が挙げられる。
構造が簡便であるという点で、凝固槽に貯留した凝固液を加温して、凝固液から発生する蒸気を利用して空間部の温度と湿度を制御する手段が好ましい。
【0051】
(生体適合性ポリマーの被覆)
以下、多孔性成形体の表面に生体適合性ポリマーの被覆層を形成する方法について説明する。
本実施形態においては、多孔性成形体の表面に、例えば、PMEA又はPVP系ポリマーを含むコート液を塗布することによって、被膜を形成することができる。この際、例えば、PMEAコート液は多孔性成形体に形成された細孔内に浸入し、多孔質な成形体表面の細孔径を大きく変化させずに、多孔性成形体の細孔表面全体にPMEAが含ませることもできる。
PMEAコート液の溶媒としては、多孔性成形体を構成する多孔性成形体形成ポリマーや水溶性高分子といった高分子を溶解せず、PMEAを溶解する又は分散させることができる溶媒であれば特に限定されるものではないが、工程の安全性や、続く乾燥工程での取り扱いの良さから、水やアルコール水溶液が好ましい。沸点、毒性の観点から、水、エタノール水溶液、メタノール水溶液、イソプロピルアルコール水溶液、水/エタノール混合溶媒、水/メタノール混合溶媒などが好適に用いられる。
コート液の溶媒の種類、溶媒の組成については、多孔性成形体を構成する高分子との関係で、適宜設定する。
PMEAコート液のPMEAの濃度に限定はないが、例えば、コート液の0.001質量%~1質量%とすることができ、0.005質量%~0.2質量%であることがより好ましい。
コート液の塗布方法に限定はないが、例えば、多孔性成形体を適当なカラム(容器)に充填し、上部からPMEAを含んだコート液を流し、次いで、圧縮空気を用いて余分な溶液を除去する方法を採用することができる。
その後、蒸留水などで洗浄を行い残った不要な溶媒を置換除去した後、滅菌をすることで医療用具として用いることができる。
【0052】
本実施形態の多孔性成形体が、有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、BET法による比表面積が、51.5m2多孔性成形体以上、であり、かつ、表面孔径が0.200μm未満である多孔性成型体を含有し、該多孔性成型体の表面に生体適合性ポリマーを有することにより、血液中のリン酸イオンを選択的に確実に吸着することで体内に戻る血中リン酸濃度はほとんど0に近いものとなる。ほとんどリン酸を含まない血液を体内に戻すことにより、細胞内または細胞外からの血中へのリン酸の移動が活発になりリフィリング効果が大きくなることが考えられる。また、血中のリン酸を補おうとする、リフィリング効果を誘発することで、通常排泄できない細胞外液、細胞内に存在するリン酸も排泄できる可能性がある。本実施形態の血液処理用リン吸着材において、水溶性高分子が多孔性成形体を構成する成分として用いられてもよい。
【0053】
(多孔性成形体の凍結乾燥)
凍結乾燥は、凍結乾燥機(EYELA社製のFDS-1000型(商品名))を用いて行った。湿潤状態の多孔性成形体1~10mLを、メスシリンダー等を用いて秤り取り、100mLのガラス製ナスフラスコへ投入した後、マイナス18度以下の冷凍庫に6時間以上静置して、含まれる水分を凍らせた後、凍結乾燥機にナスフラスコを接続し、真空度20Pa以下、トラップ温度マイナス80℃以下の条件で、10時間以上凍結乾燥を行った。
【実施例
【0054】
以下、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。多孔性成形体の物性、血液浄化器の性能等の測定は、以下のように実施した。本発明の範囲は以下の実施例等のみに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0055】
(多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径の測定)
多孔性成形体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA-950(商品名))で測定した。分散媒体は水を用いた。無機イオン吸着体に水和酸化セリウムを使用したサンプルの測定時は、屈折率に酸化セリウムの値を使用して測定した。同様に、無機イオン吸着体に水酸化ランタンを使用したサンプルを測定するときは、屈折率に酸化ランタン(III)の値を、水和酸化ジルコニウムを使用したサンプルを測定する時は、屈折率に酸化ジルコニウムの値を、水酸化イットリウムを使用したサンプルを測定するときは、屈折率を酸化イットリウム(III)の値を、使用した。
【0056】
(多孔性成形体の比表面積の測定)
多孔性成形体を凍結乾燥した後、比表面積、細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、BELSORP-miniII(商品名))で測定した。
凍結乾燥をした多孔性成形体約0.3gを測り取り、専用の5mLガラスセルに投入し、液体窒素でガラスセルを冷却しながら、窒素ガスの吸脱着により、細孔体積および比表面積の測定を行った。吸着質として純度99.99体積%以上の窒素ガス、パージガスとして純度99.99体積%以上のヘリウムガスを用いた。参照セルとして、測定用のガラスセルと同体積の空のガラスセルを用い、測定値を補正する設定で測定を行った。測定方式は簡易方式で、吸着相対圧上限0.95まで、脱着相対圧下限0.3までの設定で、測定を行った。
測定後のBET法及びBJH法による解析は、解析ソフト(マイクロトラック・ベル(株)製、BEL Master(Version6.3.1.0))を用いて行った。蒸気測定方法によって比表面積を求めた。
【0057】
(表多孔性成形体の面孔径の測定)
走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔質成型体の観察は、株式会社 日立ハイテクの走査電子顕微鏡FlexSEM1000で行った。多孔性成形体の試料をカーボン粘着テープ/アルミナ試薬に保持し、導電処理として、オスミウム(OS)コーティングして、外表面SEM観察試料とした。走査型電子顕微鏡で撮影した成型体外表面の画像をImage J画像解析ソフトを用いて解析して表面孔径を求めた。さらに詳しく説明すると、得られたSEM画像を濃淡画像として認識し、色の濃い部分を開口部、色の薄い部分を多孔構造(骨格構造)となるように、手動で閾値を調整し、濃厚部の円の直径を求めた。画像として同じ検体(ロット)に対して、SEM画像を10枚以上とり、孔の直径を1枚の画像につき10か所以上測定した。
【0058】
(補体活性の測定)
補体のうち、血液から産生されるsC5b-9の濃度を測定することにより、補体活性化の程度を測定した。多孔性成型体を1mL入れた試験管に、ヘパリン加血液(ヘパリン濃度1U/mL)4mL添加し、試験管を37±1℃で3時間、振盪加温し、その間、約30分に1回の頻度で転倒混和した。加温後、試験管からヘパリン加血液1.0mLを採取し、EDTA-2K(1.5mg)、1mg/mLナファモスタットメシル酸塩(フサン)生理食塩液0.1mLを加えて混合し、補体測定用試料とした。
補体測定用試料を4℃設定下、約2000 Gで15分間遠心分離して血漿を採取しsC5b-9測定試料とした。sC5b-9測定試料は、-70℃以下で保存し、2週間以内に測定に供した。sC5b-9濃度は市販のキットを用いて、エンザイムイムノアッセイによって測定した。
【0059】
(牛血漿でのリン吸着能)
図1に示す装置を用いて、牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験によるリン吸着量を測定した。透析治療時にダイアライザーの後にリン吸着器を使用する場合を考えて、透析治療時のダイアライザー出口の血中無機リン濃度0.2~1.0mg/dLでのリン吸着量を測定することにした。低リン濃度(0.8mg/dL)程度に調整した牛血漿を用いて、一般的な透析条件(空間速度SV=120hr-1,4時間透析)と同等な条件でカラム(容器)に充填した多孔性成形体のリン吸着量(mg-P/多孔性成形体mL)を測定した。リン酸イオン濃度は、モリブデン酸直接法にて測定した。
通液速度がSV120の時のリン吸着量が、2.0(mg-P/多孔性成形体mL)以上であれば、吸着容量が大きく、リン吸着剤として良好であると判断した。
<牛血漿を使用した低リン濃度血清によるカラムフロー試験>
透析治療時のダイアライザー出口の血中無機リン濃度を想定した低無機リン濃度でのリン吸着量を測定した。そのため、試験血漿液のリン濃度の調整を行った。
市販品の牛血液(抗凝固剤:ヘパリンナトリウム)を遠心分離(3500rpm、5min)してその上澄み液である血漿を2000mL作製した。血漿中のリン濃度は10.8mg/dLであった。
得られた血漿の半分(1000mL)に多孔性成形体を加え、室温で2時間攪拌処理を行い、遠心分離(3500rpm、5min)をしてリン濃度0の血漿約950mLを得た。
リン濃度10.8mg/dLの血漿35mLとリン濃度0の血漿465mLを混合し遠心分離(3500rpm、5min)をかけて上澄み液としてリン濃度0.8mg/dL、495mLの血漿を得た。
多孔性成形体を1mL封入したカラムに、得られた血漿450mLを2mL/min(SV=120hr-1)の流速で通液し、1フラクション目は10mLでそれ以降は1サンプルあたり20mLずつ採取した。通常、平均的な透析条件は流速Qb=200mL/minで4時間透析を行うことから、200mL×4時間=48000mLの全血流量となり、血球成分をHt=30%とすると血漿としては33600mLの流量となる。今回は1/100スケールでの実験としたので340mLの通液を目安とした。
【0060】
[実施例1]
硫酸セリウム4水和物(和光純薬(株))2000gを50Lの純水中に投入し、撹拌羽を用いて溶解させた後、8M苛性ソーダ(和光純薬(株))3Lを20ml/minの速度で滴下し、水和酸化セリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をフィルタープレスにてろ過した後、純水500Lを通液して洗浄し、さらにエタノール(和光純薬(株))60Lを通液して水和酸化セリウムに含まれる水分をエタノールに置換した。このとき、濾過終了時の濾液10mlを採取し、カールフィッシャー水分率計((株)三菱ケミカルアナリテック社製のCA-200(商品名))にて水分率の測定を行ったところ、水分率は5質量%であり、有機液体の置換率は83質量%であった。得られた有機液体を含む水和酸化セリウムを風乾し、乾燥した水和酸化セリウムを得た。
得られた乾燥水和酸化セリウムを、ジェットミル装置(日清エンジニアリング(株)社製のSJ-100(商品名))を用いて、圧気圧力0.8MPa、原料フィード速度100g/hrの条件で粉砕し、粒子径平均1.05μmの水和酸化ヘリウム粉末を得た。

N-メチル-2-ピロリドン(NMP)220gにポリエーテルスルホン(PES)40gと、水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP、株式会社日本触媒 PVP-K85)1gを添加し、150rpmで一晩振とうし、溶解させた。続いて、平均粒径1.05μmの水和酸化セリウム粉末を75g添加して、再度、振とうを続け、水酸化セリウムを分散化させた。分散後、90μmのふるいでスラリーをろ過して、均一な成型用スラリー液を得た。
得られた成型用スラリー液を、側面に直径0.3mmのノズルを開けた円筒状の回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力によりこのノズルから液滴を形成させた。続いて、凝固槽に水に対するNMPの含有量が50質量%である凝固液を23℃で貯留し、上面開口の凝固槽へ液滴を着水させ、成型用スラリー液を凝固させた。さらに、洗浄、分級を行い、球状の多孔性成形体を得た。
【0061】
[実施例2]
有機高分子の良溶媒にジメチルアセトアミド(DMAc)110g、有機高分子樹脂にポリスルホンを20g、水溶性高分子にPVP(PVP-K85)を5gを添加し、60℃に加温して振とうし、溶解させ、凝固液に水に対するDMAcの含有量が50質量%である凝固液を50℃で用いること以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0062】
[実施例3]
実施例1のポリエーテルスルホンの代わりに、アクリロニトリル91.5質量%、アクリル酸メチル8.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ0.5質量%からなる極限粘度[η]=1.2の共重合体(有機高分子樹脂、PAN)10gと水溶性高分子としてPVP(PVP-K85)2gを用いること以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0063】
[実施例4]
有機高分子の良溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)20g、有機高分子樹脂にエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)160g、水溶性高分子にPVP(PVP-K85)を5g、水和酸化セリウム粉末の仕込み量250gとし、さらに、凝固液を水、ノズル直径を0.51mmとしたこと以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0064】
[実施例5]
水和酸化セリウムの代わりに、水酸化ランタン(La(OH)3)を仕込み量として124gとしたこと以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成型体を得た。
【0065】
[実施例6]
水和酸化セリウムの代わりに、酸化ジルコニウム(ZrO2)を仕込み量として81gとしたこと以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0066】
[実施例7]
水和酸化セリウムの代わりに、水酸化イットリウム(Y(OH)3)を仕込み量として122gとしたこと以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0067】
[実施例8]
水和酸化セリウム粉末の仕込み量を150gとした以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0068】
[実施例9]
水溶性高分子としてPVP(PVP-K85)を10g用いた以外は、実施例1と同様に、球状の孔性成形体を得た。
【0069】
[比較例1]
良溶媒としてNMPを240g、水溶性高分子としてPVP(PVP-K85)を10g用い、凝固液の温度を60℃とした以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0070】
[比較例2]
水溶性高分子としてPVP(PVP-K85)を8g用い、凝固浴の温度を50℃とした以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0071】
[比較例3]
水溶性高分子としてPVP(PVP-K30)を10g用い、凝固液の温度を60℃とした以外は、実施例1と同様に、球状の多孔性成形体を得た。
【0072】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る血液処理用多孔性成形体は、補体補体を活性化させることなく、体内血液中のリン濃度を適切に管理することができるため、医療用途での、特に血液処理に用いる有害物質の除去に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 恒温槽
2 実験台
3 ポンプ
4 多孔性吸収体入りカラム
5 圧力計
6 サンプリング
図1