(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】透明遮熱断熱部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20240301BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240301BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240301BHJP
C03C 17/38 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/26
B32B9/00 A
C03C17/38
(21)【出願番号】P 2020109051
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】水谷 拓雄
(72)【発明者】
【氏名】宮田 照久
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 健人
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-197172(JP,A)
【文献】国際公開第2019/216318(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/138320(WO,A1)
【文献】特開2011-189556(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0021938(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第109716179(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
G02B 5/26
B32B 9/00
C03C 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、前記透明基材の上に形成された機能層とを含む透明遮熱断熱部材であって、
前記機能層は、前記透明基材側から赤外線反射層及び塗布型の保護層をこの順に含み、
前記赤外線反射層は、前記透明基材側から、少なくとも金属層、及び、金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、
前記塗布型の保護層は、
前記赤外線反射層側から、光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順に含み、
前記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、硬化前樹脂成分として、水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層から成り、
前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、
前記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層から成り、
前記最外表面側に位置する層の厚さが、60nm以上であ
り、
前記中屈折率層は、硬化前樹脂成分として、
前記水酸基を有する単量体と、ガラス転移温度が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とを共重合体ユニットとして含む(メタ)アクリル系共重合体と、
該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含むことを特徴とする透明遮熱断熱部材。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、メタクリル酸t-ブチル及びアクリル酸t-ブチルから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項
1に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項3】
前記塗布型の保護層の総厚さは、200nm以上700nm以下である請求項1
又は2に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体を含む層の厚さは、前記塗布型の保護層の総厚さに対して、30%以上60%以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項5】
前記塗布型の保護層の内、少なくとも前記金属亜酸化物層又は金属酸化物層に直接に接する層は、金属に対する腐食防止剤を含む請求項1~
4のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項6】
前記金属に対する腐食防止剤は、窒素含有基を有する化合物及び硫黄含有基を有する化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む請求項
5に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項7】
前記赤外線反射層は、前記透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、
前記赤外線反射層の総厚さは、7nm以上25nm以下であり、
前記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さは、前記赤外線反射層の総厚さの25%以下である請求項1~
6のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項8】
前記赤外線反射層の前記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層に含まれる金属亜酸化物又は金属酸化物は、チタン成分を含む請求項
7に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項9】
前記赤外線反射層の前記金属層は、銀を含み、前記金属層の厚さは、5nm以上20nm以下である請求項1~
8のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項10】
前記透明遮熱断熱部材は、可視光線透過率が60%以上、遮蔽係数が0.69以下、熱貫流率が4.0W/(m
2・K)以下であり、且つ、日射吸収率が20%以下である請求項1~
9のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項11】
前記透明遮熱断熱部材は、温度50℃、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液に30日間浸漬させる耐塩水性試験を行った場合、前記耐塩水性試験前に測定した前記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトルの波長1100nmの光の透過率をT
B%、前記耐塩水性試験後に測定した前記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトルの波長1100nmの光の透過率をT
A%とすると、T
A-T
Bの値が
3未満である請求項1~
10のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項12】
JIS R3106-1998に準じて測定した反射スペクトルにおいて、
前記反射スペクトルの波長500~570nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインa上の波長535nmに対応する点を点Aとし、
前記反射スペクトルの波長620~780nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインb上の波長700nmに対応する点を点Bとし、
前記点Aと前記点Bとを通る直線を波長500~780nmの範囲で延長して基準直線ABとし、
波長500~570nmの範囲における前記反射スペクトルの反射率の値と前記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔAと定義した時に、前記最大変動差ΔAの値が反射率の%単位で7%以下であり、
波長620~780nmの範囲における前記反射スペクトルの反射率の値と前記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔBと定義した時に、前記最大変動差ΔBの値が反射率の%単位で9%以下である請求項1~
11のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の透明遮熱断熱部材の製造方法であって、
透明基材の上に赤外線反射層をドライコーティング法で形成する工程と、
前記赤外線反射層の上に、複数の層からなる保護層をウェットコーティング法で形成す
る工程と、を含むことを特徴とする透明遮熱断熱部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、窓ガラス等の室内側に貼り付けて使用される通年省エネルギー対応日射調整用フィルム等の透明遮熱断熱部材に関する。特に、断熱性に優れ、且つ、結露水や人の皮脂付着に起因する腐食劣化を抑制した通年省エネルギー対応日射調整フィルム等の透明遮熱断熱部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止及び省エネルギーの観点から、ビルディングの窓、ショーウインドウ、自動車の窓面等に遮熱フィルムを貼りつけて、太陽光の熱線(赤外線)をカットし、内部の温度を低減させることが広く行われている。また、近年では、更なる省エネルギーの観点から、夏場の温度上昇の原因となる熱線をカットする遮熱性のみならず、冬場の室内からの暖房熱の流出を抑えて暖房負荷を低減させる断熱機能をも付与した通年省エネルギー対応の遮熱断熱部材が開発され、市場投入されることで徐々に認知度が高まってきている。
【0003】
この様に市場に投入される日射調整フィルムの多様化に伴い、断熱性に優れたフィルムの製品化が活発になってきたことに鑑み、建築窓ガラス用フィルムの日本工業規格(JIS)A5759においても2016年に規格が改定され、断熱性の定義をより明確にするために、新たに「低放射フィルム」として用途・性能区分が加えられた。
【0004】
JIS A5759-2016において、区分A及び区分Cに該当する熱貫流率が4.2W/(m2・K)以下である低放射フィルムが特に断熱性に優れたものとなり、今後これら区分に該当する低放射フィルムが徐々に市場に浸透してくるものと思われる。
【0005】
更に、最近では、断熱性をより向上させ、冬場の省エネルギー効果をより向上させるために、区分A及び区分Cの中でも、熱貫流率が4.0W/(m2・K)以下、より具体的には3.6~3.8W/(m2・K)クラスとなる製品も次世代低放射フィルムの開発ターゲットの一つとなっている。
【0006】
低放射フィルムの構成としては、一般的に、透明基材の上に金属酸化物層、金属層、金属酸化物層、及び透明保護層(ハードコート層)をこの順に設けた赤外線反射フィルムの構成が挙げられる。金属酸化物層、金属層、金属酸化物層の積層部分は、比較的透明性の高い赤外線反射層であって、金属酸化物層は、赤外線反射層全体の可視光線透過率と赤外線反射率とのバランスを制御すると同時に、金属層の腐食劣化を抑制する役割も有する。しかしながら、赤外線反射層は、そのままでは耐擦傷性が不十分で、また、金属酸化物層のみによる保護では、酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因が相乗的に強く作用する環境下では金属層が腐食劣化を生じ易いため、赤外線反射層の耐擦傷性向上や上記外部的要因の影響を抑制する目的で、その上に更に透明保護層が設けられる。
【0007】
しかしながら、低放射フィルムの熱貫流率を上記の様に4.2W/(m2・K)以下、更には、4.0W/(m2・K)以下とし断熱性をより向上させるためには、室内側に遠赤外線をより効率良く反射させる(垂直放射率をより小さくする)必要があり、上記透明保護層の厚さは出来るだけ薄くする必要がある。これは、保護層の耐擦傷性を向上させるためには、例えば放射線硬化型アクリル系ハードコート材料等の遠赤外線を吸収しやすい材料(分子骨格に、C=O基、C-O基、芳香族基を多く含む材料)を使用せざるを得ず、保護層の厚さが厚くなればなる程、遠赤外線の吸収も大きくなり、日射調整フィルム自身が遠赤外線を吸収してしまう結果、日射調整フィルムが室内側に遠赤外線を効率よく反射できなくなるからである。
【0008】
上記透明保護層の厚さは、透明保護層の構成材料にもよるので一概には言えないが、具体例を挙げて説明すると、ベースとなる赤外線反射層として熱貫流率が3.7W/(m2・K)であるものを使用した場合に、例えば、低放射フィルムとしての熱貫流率を4.2/(m2・K)以下とするには、透明保護層の厚さは、凡そ1.0μm以下とする必要がある。同様に、低放射フィルムとしての熱貫流率を4.0W/(m2・K)以下とするには、透明保護層の厚さは、凡そ0.7μm以下とする必要があり、更に、低放射フィルムとしての熱貫流率を3.8W/(m2・K)以下とするには、透明保護層の厚さは、凡そ0.5μm以下とする必要がある。
【0009】
従来技術として、優れた断熱性及び実用耐久性を兼ね備えた赤外線反射フィルムを提供することを目的に、特許文献1には、透明フィルム基材の上に第一金属酸化物層、銀を主成分とする金属層、酸化亜鉛と酸化錫を含む複合金属酸化物層からなる第二金属酸化物層を備え、第二金属酸化物層に、厚みが30nm~150nmであり、酸性基と重合性官能基とを同一分子中に有するエステル化合物に由来する架橋構造を有する透明保護層が直接接していることを特徴とする赤外線反射フィルムが開示されている。
【0010】
また、遮熱性に優れるとともに、赤外線反射フィルムを付設した窓に居住者等の顔などが映るのを有効に防止することのできる赤外線反射フィルムを提供することを目的に、特許文献2には、透明フィルム基材の上に、第1金属酸化物層、赤外線反射層、第2金属酸化物層、及び透明保護層が、この順に積層された、赤外線反射フィルムであって、上記第2金属酸化物層の厚さが30nm以下であり、上記第1金属酸化物層の厚さが上記第2金属酸化物層の厚さよりも薄く、上記第1金属酸化物層の厚さと上記第2金属酸化物層の厚さとの差が2nm以上であることを特徴とする赤外線反射フィルムが開示されている。
【0011】
また、同様に、優れた断熱性及び外観性(虹彩現象及び視認角度による反射色変化の抑制)を兼ね備えた透明遮熱断熱部材を提供することを目的に、特許文献3には、透明基材の上に少なくとも金属層及び金属が部分酸化された金属亜酸化物層を含む赤外線反射層、保護層をこの順に備え、上記保護層は、総厚さが200~980nmであり、上記赤外線反射層側から少なくとも高屈折率層及び低屈折率層をこの順に含むことを特徴とする透明遮熱断熱部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-167617号公報
【文献】特開2017-68118号公報
【文献】特開2017-053967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
例示した先行技術文献に記載されているように、上記透明保護層の厚さをより薄くすることにより低放射フィルムとしての熱貫流率をより低減することは可能になるが、一方で、上述したように、上記透明保護層の厚さをより薄くすることは、一般的に、赤外線反射層を酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する機能が低下する方向、即ち、酸素、水分、塩化物イオン等の保護層深さ方向への拡散、浸透時間が短くなる方向となるため、金属層の腐食劣化がより生じ易くなるという問題がある。金属層の腐食劣化は、低放射フィルムの遮熱断熱機能の低下や、変色等の外観不良を引き起こす。また、上記透明保護層の厚さをより薄くすることは、耐擦傷性のような物理特性が低下する方向でもあるため、フィルム施工時や、長期間に渡るフィルム使用時にフィルム表面(透明保護層)に傷が入りやすく、傷の影響による外観不良や金属層の腐食劣化の問題も懸念される。
【0014】
上記金属層の腐食劣化問題に対し、特許文献1では、赤外線反射層の透明保護層側に設けられる金属酸化物層として、化学的安定性(酸、アルカリ、塩化物イオン等に対する耐久性)に優れる酸化亜鉛と酸化錫とを含む複合金属酸化物(ZTO)を用いることにより解決を図っている。
【0015】
しかしながら、特許文献1で開示されている赤外線反射フィルムは、赤外線反射層の透明保護層側に設けられる金属酸化物層として、化学的安定性に優れるZTO層を用いているものの、透明保護層の厚みが30nm~150nmと極めて薄いため、耐擦傷耐性の点で改善の余地があると共に、赤外線反射フィルム表面に人の手や指が触れることにより人の皮脂に含まれる塩化物等が付着した状態で極めて結露しやすい過酷な環境下で長期間に渡り使用された場合には、上述した酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因が相乗的に強く作用するため、金属層の腐食劣化が促進されて遮熱断熱機能の低下や外観不良が生じる可能性があるという点で、依然として懸念される。また、第一金属酸化物層及び第二金属酸化物層として用いているZTO層の厚さがいずれも約30nmと厚いため、可視光線透過率が比較的高く、可視光線反射率が比較的低く、日射吸収率が比較的高いもの(約25%~30%)と推定され、窓ガラスに赤外線反射フィルムを貼り付けた際に、窓ガラスの種類、窓ガラスの方位、窓ガラスの影の状況等によっては、窓ガラスの中央部付近の温度が高くなり、窓ガラスが熱割れを起こす可能性があるという点でも懸念される。
【0016】
また、特許文献2においても同様に、赤外線反射層の透明保護層側に設けられる金属酸化物層として、化学的安定性(酸、アルカリ、塩化物イオン等に対する耐久性)に優れる酸化亜鉛と酸化錫とを含む複合金属酸化物(ZTO)を用いることにより金属層の腐食劣化問題の解決を図っている。
【0017】
しかしながら、特許文献2で開示されている赤外線反射フィルムも、赤外線反射層の透明保護層側に設けられる金属酸化物層として、化学的安定性に優れるZTO層を用いているものの、透明保護層の厚みが50nm~70nm(実施例の範囲)と極めて薄いため、耐擦傷耐性の点で改善の余地があると共に、赤外線反射フィルム表面に人の手や指が触れることにより人の皮脂に含まれる塩化物等が付着した状態で極めて結露しやすい過酷な環境下で長期間に渡り使用された場合には、金属層の腐食劣化が促進されて遮熱断熱機能の低下や外観不良が生じる可能性があるという点で、依然として懸念される。また、第1金属酸化物層(ZTO層)の厚さは4~15nm、第2金属酸化物層(ZTO層)の厚さは10~25nmと依然として厚く、日射吸収率が22~35%と高く、窓ガラスに赤外線反射フィルムを貼り付けた際に、窓ガラスの種類、窓ガラスの方位、窓ガラスの影の状況等によっては、窓ガラスの中央部付近の温度が高くなり、窓ガラスが熱割れを起こす可能性があるという点でも懸念される。
【0018】
また、特許文献3は、金属が部分酸化された金属亜酸化物層を金属層の上に備えることにより、温度50℃、相対湿度90%の環境下に168時間放置する耐腐食性試験において金属層の腐食劣化問題ついて解決を図っている。特許文献3で開示されている透明遮熱断熱部材は、金属亜酸化物層として用いているTiOX層の厚さが2~6nmと薄く設定されていることから、可視光線反射率が比較的高く、日射吸収率は比較的低いものと推定され、窓ガラスに透明遮熱断熱部材を貼り付けた際の窓ガラスの熱割れリスクは軽減されているものと考えられる。また、TiOX層の厚さが薄いことから、スパッタリング成膜時のコスト及び製造効率等の点でも改善が図られている。
【0019】
しかしながら、特許文献3で開示されている透明遮熱断熱部材は、金属亜酸化物層として用いているTiOX層の厚さが2~6nmと薄いこと、また、その上に形成される保護層の厚さも210~930nmと比較的薄いことから、温度50℃、相対湿度90%の環境下に168時間放置する耐腐食性試験においては問題ないものの、とりわけ、遮熱断熱部材表面に人の手や指が触れることにより人の皮脂に含まれる塩化物等が付着した状態で極めて結露しやすい過酷な環境下で長期間に渡り使用された場合には、金属層の腐食劣化が促進されて遮熱断熱機能の低下や外観不良が生じ易くなるという点で懸念される。
【0020】
このように、熱貫流率を4.2W/(m2・K)以下、更には4.0W/(m2・K)以下とし、断熱性をより向上させた低放射フィルムにおいては、酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因が相乗的に影響するような極めて過酷な環境下で長期間に渡り使用された際の耐腐食劣化に優れ、且つ、実用的な耐擦傷耐性をも兼ね備えたものは現状では得られていない。また、フィルムを窓ガラスに貼り付けた際のガラスの熱割れリスクの低減、即ち、日射吸収率の低減においても、まだ改善の余地がある。
【0021】
本発明は上記問題、即ち、透明遮熱断熱部材において、断熱性能を向上しつつ、過酷な環境下で長期間に渡り使用された際の腐食劣化を抑制するという相対立する要求を両立できないという問題を解決したもので、特に、断熱性に優れ、且つ、結露水や人の皮脂付着に起因する腐食劣化を抑制した、実用的な耐擦傷耐性を有する通年省エネルギー対応日射調整フィルム等の透明遮熱断熱部材を提供するものである。更に加えて、日射吸収率の低減及び外観性の改善も図った透明遮熱断熱部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願発明者らは、先ず、上記課題を解決するために、特に特許文献3に開示されている遮熱断熱部材について、過酷な使用環境を想定した、温度50℃、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液に10日間浸漬させる耐塩水性試験を行い、浸漬前後で波長300~1500nmの範囲における透過スペクトルを測定したところ、浸漬後において、透過スペクトルが変化しており、近赤外線反射機能が劣化する傾向にあることが分かった。この場合、波長5.5~25.2μmの遠赤外線反射機能も劣化している。また、試験途中において遮熱断熱部材を取り出し、その表面を観察したところ、腐食劣化の初期状態においては、腐食劣化部分が主に点状になって存在していることが分かった。この遮熱断熱部材は、金属層の上に、薄いながらも金属亜酸化物層及び保護層が形成されている構成であるが、それにもかかわらず、過酷な環境で使用された際の金属層の耐腐食劣化性が予想以上に不十分であることに対して、上記状況を踏まえ、鋭意検討した結果、その原因は以下であると推定した。
【0023】
上記遮熱断熱部材では、金属亜酸化物層の厚さを数nmと極めて薄くしている。その影響と推察されるが、赤外線反射層の表面において「金属層が金属亜酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」が存在していることが分かり、これらが、上述した過酷な環境で使用された際に、遮熱断熱部材の金属層の腐食劣化を引き起こす主原因であると考えた。即ち、上記赤外線反射層上には有機物と無機酸化物を含む保護層が形成されてはいるが、その保護層の厚さは、熱貫流率を小さくするために、210~930nmと薄く、酸素、水、塩化物イオンの拡散、浸透を完全に抑えることは困難であり、過酷な環境下において使用された場合に、酸素、水、塩化物イオンは保護層の微細な隙間を徐々に拡散、浸透し、上記の「金属層が金属亜酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に到達した際に、その極微小な部位を起点として金属の腐食劣化が始まり、場合によってはこの金属の腐食劣化の始まりが保護層の剥離の引き金にもなり、腐食劣化が金属層全体へ徐々に広がりながら進行してしまう現象が引き起こされるものと推定した。
【0024】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、透明基材と、上記透明基材の上に形成された少なくとも金属層及び金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含む赤外線反射層に対して、上記赤外線反射層の上に複数層からなる塗布型の保護層を設け、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層を、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層により形成し、且つ、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層を、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層により形成し、その最外表面側に位置する層の厚さを60nm以上とすれば、熱還流率を小さくするために保護層の総厚さを1μmを下回る厚さに設定した場合であっても、上記架橋剤により硬化された後の上記特定のアクリル系共重合体を含む層が、例えば、赤外線反射層表面に存在する「金属層が金属亜酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に対して、酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する層、即ち、バリア層として機能することができ、酸素、水分、塩化物イオン等の保護層深さ方向への拡散、浸透が大幅に抑制され、その結果、金属層の腐食劣化の進行が著しく抑制されること及び上記複数層からなる塗布型の硬化後の保護層が実用的な耐擦傷性を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0025】
また、更に、上記塗布型の保護層の構成に加え、上記遮熱断熱部材において、上記赤外線反射層を、上記透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含む構成とし、上記赤外線反射層の総厚さを7~25nm以下とし、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さを上記赤外線反射層の総厚さの25%以下とすれば、金属層の耐腐食劣化に優れるとともに、透明遮熱断熱部材の日射吸収率も低減できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0026】
本発明の透明遮熱断熱部材は、透明基材と、前記透明基材の上に形成された機能層とを含む透明遮熱断熱部材であって、前記機能層は、前記透明基材側から赤外線反射層及び塗布型の保護層をこの順に含み、前記赤外線反射層は、前記透明基材側から、少なくとも金属層、及び、金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、前記塗布型の保護層は、複数の層から成り、前記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、硬化前樹脂成分として、水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層から成り、前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層から成り、前記最外表面側に位置する層の厚さが、60nm以上であることを特徴とする。
【0027】
また、前記塗布型の保護層は、前記赤外線反射層側から、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順に含み、前記中屈折率層は、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含むことが好ましい。
【0028】
また、更に、前記塗布型の保護層は、前記赤外線反射層側から、光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順に含み、前記中屈折率層は、硬化前樹脂成分として、前記水酸基を有する単量体と、ガラス転移温度が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とを共重合体ユニットとして含む(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含むことがより好ましい。
【0029】
また、更に、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、メタクリル酸t-ブチル及びアクリル酸t-ブチルから成る群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0030】
また、前記塗布型の保護層の総厚さは、200nm以上700nm以下であることが好ましい。
【0031】
また、前記(メタ)アクリル系共重合体を含む層の厚さは、前記塗布型の保護層の総厚さに対して、30%以上60%以下であることが好ましい。
【0032】
また、前記塗布型の保護層の内、少なくとも前記金属亜酸化物層又は金属酸化物層に直接に接する層は、金属に対する腐食防止剤を含むことが好ましい。
【0033】
また、更に、前記金属に対する腐食防止剤は、窒素含有基を有する化合物及び硫黄含有基を有する化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含むことがより好ましい。
【0034】
また、前記赤外線反射層は、前記透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、前記赤外線反射層の総厚さは、7nm以上25nm以下であり、前記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さは、前記赤外線反射層の総厚さの25%以下であることが好ましい。
【0035】
また、更に、前記赤外線反射層の前記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層に含まれる金属亜酸化物又は金属酸化物は、チタン成分を含むことがより好ましい。
【0036】
また、更に、前記赤外線反射層の前記金属層は、銀を含み、前記金属層の厚さは、5nm以上20nm以下であることがより好ましい。
【0037】
また、前記透明遮熱断熱部材は、可視光線透過率が60%以上、遮蔽係数が0.69以下、熱貫流率が4.0W/(m2・K)以下であり、且つ、日射吸収率が20%以下であることが好ましい。
【0038】
また、更に、前記透明遮熱断熱部材は、温度50℃、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液に30日間浸漬させる耐塩水性試験を行った場合、前記耐塩水性試験前に測定した前記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトルの波長1100nmの光の透過率をTB%、前記耐塩水性試験後に測定した前記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトルの波長1100nmの光の透過率をTA%とすると、TA-TBの値が10未満であることが好ましく、5未満であることがより好ましく、3未満であることが最も好ましい。
【0039】
また、更に、JIS R3106-1998に準じて測定した反射スペクトルにおいて、前記反射スペクトルの波長500~570nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインa上の波長535nmに対応する点を点Aとし、前記反射スペクトルの波長620~780nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインb上の波長700nmに対応する点を点Bとし、前記点Aと前記点Bとを通る直線を波長500~780nmの範囲で延長して基準直線ABとし、波長500~570nmの範囲における前記反射スペクトルの反射率の値と前記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔAと定義した時に、前記最大変動差ΔAの値が反射率の%単位で7%以下であり、波長620~780nmの範囲における前記反射スペクトルの反射率の値と前記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔBと定義した時に、前記最大変動差ΔBの値が反射率の%単位で9%以下であることがより好ましい。
【0040】
また、本発明の透明遮熱断熱部材の製造方法は、透明基材の上に赤外線反射層をドライコーティング法で形成する工程と、前記赤外線反射層の上に、複数層からなる保護層をウェットコーティング法で形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、可視光線透過率が高く、特に断熱性に優れ、且つ、結露水や人の皮脂付着に起因する腐食劣化を大幅に抑制した、実用的な耐擦傷性を有する透明遮熱断熱部材を提供できる。また、更に、日射吸収率の低減も図った透明遮熱断熱部材を提供できる。即ち、本発明の透明遮熱断熱部材は、窓ガラスに貼り付けて、酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因が相乗的に影響するような極めて過酷な環境下で長期間に渡り使用しても、遮熱断熱機能と良好な外観性を維持することができる。また、更に、窓ガラスに貼り付けた際のガラスの熱割れリスクも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の透明遮熱断熱部材の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の耐塩水性試験前後の透明遮熱断熱部材の透過スペクトルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の透明遮熱断熱部材の可視光線反射スペクトルに対する反射率の「基準直線AB」、「最大変動差ΔA」及び「最大変動差ΔB」の求め方を説明した図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例1におけるガラス面側から入光測定した時の可視光領域の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(透明遮熱断熱部材)
先ず、本発明の透明遮熱断熱部材の実施形態について説明する。本発明の透明遮熱断熱部材の一実施形態は、透明基材と、上記透明基材の上に形成された機能層とを含み、上記機能層は、上記透明基材側から赤外線反射層及び塗布型の保護層をこの順に含み、上記赤外線反射層は、上記透明基材側から、少なくとも金属層、及び、金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、上記塗布型の保護層は、複数の層から成り、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層から成り、且つ上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含み、厚さが60nm以上の層から成る。
【0044】
上記構成とすることにより、熱貫流率を低減させ、断熱性をより向上させるために、上記赤外線反射層の上記塗布型の複数の層からなる保護層を薄く形成しても、上記ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層が、前述した、赤外線反射層表面に存在する「金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に対して、酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する層、即ち、バリア層として機能することができ、酸素、水分、塩化物イオン等の保護層深さ方向への拡散、浸透が大幅に抑制され、その結果、金属層の腐食劣化の進行が著しく抑制されるものと考えられる。また、上記ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層は、当然のことながら、上記金属層を含む赤外線反射層に対してもバリア層として機能する。これにより、本実施形態の透明遮熱断熱部材は、可視光線透過率が大きく、熱貫流率を低くすることができると共に、結露水や人の皮脂付着に起因する腐食劣化を大幅に抑制することができる。更に、上記塗布型の保護層の最外表面側に位置する層は、活性エネルギー線照射により硬化されるため、実用的な耐擦傷性を付与することができる。
【0045】
また、更に、本発明の透明遮熱断熱部材の一実施形態は、透明基材と、上記透明基材の上に形成された機能層とを含み、上記機能層は、上記透明基材側から赤外線反射層及び塗布型の保護層をこの順に含み、上記赤外線反射層は、上記透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含み、上記赤外線反射層の総厚さは、7nm以上25nm以下であり、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さは、上記赤外線反射層の総厚さの25%以下であり、上記塗布型の保護層は、複数の層から成り、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層から成り、且つ上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含み、厚さが60nm以上の層から成る。
【0046】
上記構成とすることにより、日射吸収率を低減するために、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層を薄く形成し、且つ、熱貫流率を低下させ、断熱性をより向上させるために、上記赤外線反射層の上記塗布型の複数の層からなる保護層を薄く形成しても、上記ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層が、赤外線反射層表面に存在する「金属層が第2の金属亜酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」や赤外線反射層に対して、バリア層として機能することができ、酸素、水分、塩化物イオン等の保護層深さ方向への拡散、浸透が大幅に抑制され、その結果、金属層の腐食劣化の進行が著しく抑制されるものと考えられる。これにより、本実施形態の透明遮熱断熱部材は、可視光線透過率が大きく、熱貫流率および日射吸収率を低減することができると共に、結露水や人の皮脂付着に起因する腐食劣化を大幅に抑制することができる。
【0047】
以下、本実施形態の透明遮熱断熱部材の各構成部材について説明する。
【0048】
<透明基材>
本実施形態の透明遮熱断熱部材を構成する透明基材としては、透光性を有する材料で形成されていれば特に限定されない。上記透明基材としては、例えば、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート等)、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、ノルボルネン系樹脂等の樹脂を、フィルム状又はシート状に加工したものを用いることができる。上記樹脂をフィルム状又はシート状に加工する方法としては、押し出し成形法、カレンダー成形法、圧縮成形法、射出成形法、上記樹脂を溶剤に溶解させてキャスティングする方法等が挙げられる。上記樹脂には、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤等の添加剤を添加してもよい。上記透明基材の厚さは、例えば、10μm以上500μm以下であり、加工性、コスト面を考慮すると25μm以上125μm以下が好ましい。
【0049】
<赤外線反射層>
本実施形態の透明遮熱断熱部材を構成する赤外線反射層は、上記透明基材側から、少なくとも金属層及び金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に含む構成であれば特に限定されるものではないが、上記透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層をこの順に備え、上記赤外線反射層の総厚さが7nm以上25nm以下であり、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さは、上記赤外線反射層の総厚さの25%以下に設定されていることが好ましい。上記赤外線反射層の総厚さの下限値は、上記赤外線反射層の機能(遮熱性能及び断熱性能)を発揮させるために、7nm以上が好ましい。上記赤外線反射層の総厚さが7nmを下回ると、赤外線の反射率が低下し、遮蔽係数及び熱貫流率が高くなり、遮熱性能及び断熱性能が劣るおそれがある。
【0050】
上記透明遮熱断熱部材は、上記赤外線反射層を備えることにより、遮熱機能及び断熱機能を有することができる。また、上記透明遮熱断熱部材では、上記赤外線反射層の総厚さを25nm以下に設定した場合、可視光線透過率を60%以上に設計することが容易となる。上記赤外線反射層の総厚さが25nmを超えると、可視光線透過率が低くなり、透明性が劣るおそれがある。
【0051】
また、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さを、上記赤外線反射層の総厚さの25%以下に設定した場合、赤外線反射機能に大きく寄与する上記金属層の厚さを上記赤外線反射層の総厚さの範囲内で相対的に厚くすることができる。その結果、赤外線の反射率を高くすることができ、遮蔽係数及び熱貫流率を低くすることができる。
【0052】
更に、上記金属層を厚くすることにより、上記第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層、及び上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さを上記赤外線反射層の総厚さの25%以下の範囲内で相対的に薄くすることができる。この場合、透明基材に形成した赤外線反射層の日射特性(日射透過率、日射反射率、日射吸収率)は、使用する金属、金属亜酸化物、金属酸化物の種類によっても異なるので一概には言えないが、金属層の厚さが同じで、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層及び上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さが本実施形態の範囲よりも厚い赤外線反射層と比較して、以下の特徴がある。
【0053】
即ち、本実施形態の赤外線反射層は、金属層の厚さが同じで、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層及び上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さが本実施形態の範囲よりも厚い赤外線反射層と比較して、(A)日射透過率は、波長が380~780nmの範囲においては低く、波長が790~2500nmの範囲においては高くなる傾向があり、(B)日射反射率は、波長が380~780nmの範囲においては高く、波長が790~2500nmの範囲においては低くなる傾向があり、更に、(C)日射透過率と日射反射率とを足し合わせた値は、高くなる傾向がある。言い換えると、100%から日射透過率と日射反射率を差し引いた値である日射吸収率は、低くなる傾向がある。このような日射特性を有する赤外線反射層の上に、更に後述する保護層を設けることにより、日射透過率と日射反射率のバランスが高いレベルで制御され、相対的に日射吸収率が低い遮熱断熱部材とすることができる。その結果、窓ガラスに赤外線反射フィルムを貼り付けた際に、従来の断熱性を有する赤外線反射フィルムと比較して、窓ガラスの中央部付近の温度上昇を抑制でき、窓ガラスが熱割れを起こすリスクを軽減することができる。
【0054】
一方、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さを上記赤外線反射層の総厚さの25%以下に薄く設定した場合、断熱性能は向上し、日射吸収率は低減するが、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層が上記金属層を完全に被覆することが困難になってくるため、前述した「金属層が第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」が発生する場合があり、一般的には、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層の上記金属層に対する本来の保護機能が低下し、過酷な使用環境下において、赤外線反射機能に大きく寄与する上記金属層の腐食劣化が生じやすくなる。しかしながら、本実施形態の透明遮熱断熱部材では、前述したように、上記塗布型の複数の層からなる保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層からなるため、上記特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層が、赤外線反射層表面に存在する「金属層が第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に対して、酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する層、即ち、バリア層として機能することができ、上記金属層の腐食劣化の進行を著しく抑制することができる。
【0055】
上記赤外線反射層のより具体的な好ましい態様としては、例えば、(A)透明基材/第1金属亜酸化物層/金属層/第2金属亜酸化物層、(B)透明基材/第1金属酸化物層/金属層/第2金属亜酸化物層、(C)透明基材/第1金属亜酸化物層/金属層/第2金属酸化物層、(D)透明基材/第1金属酸化物層/金属層/第2金属酸化物層、(E)透明基材/金属層/金属亜酸化物層、等の構成が挙げられる。主たる目的に応じて、いずれかの構成を選択すれば良く、例えば、上記赤外線反射層の金属層の耐腐食劣化性向上、日射吸収率低減の効果をより高めるという観点からは、これらの中でも、少なくとも上記金属亜酸化物層を含む(A)~(C)の構成とするのが好ましく、上記金属層の上に上記第2金属亜酸化物層が積層された(A)、(B)の構成がより好ましい。また、可視光線透過率を少しでも高くしたい場合は、これらの中でも、少なくとも上記金属酸化物層を含む(B)~(D)の構成とするのが好ましい。
【0056】
また、上記赤外線反射層と上記透明基材の間には、ハードコート層や密着性向上層(易接着層)等を設けてもよい。上記ハードコート層を設ける場合は、通常のハードコート材料を使用することができるが、その中でも、低収縮性及び耐屈曲性を有するアクリル系のオリゴマーやポリマー等からなる紫外線硬化型ハードコート材料を使用するのが好ましい。このようなハードコート材料を使用することにより、例えば、遮熱断熱フィルムを窓ガラスに貼り付ける施工作業時に、誤って遮熱断熱フィルムに折れや曲げ、へこみを発生させても、ハードコート層に微小クラックが発生しにくくなるため、ハードコート層の上に形成された上記赤外線反射層の微小クラックも発生しにくくなり、上記赤外線反射層の機能や上記金属層の耐腐食劣化性が損なわれるリスクを軽減できる。上記ハードコート層の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下が好ましく、0.5μm以上1.0μm以下がより好ましい。
【0057】
上記金属層は、金属を主成分とするものであり、一般的な金属のうち、電気伝導度が高く、遠赤外線反射性能に優れる、銀(屈折率n=0.12)、銅(n=0.95)、金(n=0.35)、アルミニウム(n=0.96)等の金属材料が適宜使用可能であり、中でも可視光の吸収が比較的小さく、電気伝導度が最も高い銀を使用するのが好ましい。具体的には銀を90質量%以上含有するものが好ましい。また、耐腐食性向上を目的に、パラジウム、金、銅、アルミニウム、ビスマス、ニッケル、ニオブ、マグネシウム、亜鉛等を少なくとも1種又は2種以上含む合金として使用してもよい。これらの材料をスパッタリング法、蒸着法、プラズマCVD法等のドライコーティング法により膜化することにより上記金属層を形成できる。上記金属層の一層当たりの厚さは、可視光線透過率と赤外線反射率のバランスの観点から、5nm以上20nm以下とするのが好ましく、8nm以上16nm以下とするのがより好ましい。上記金属層の厚さが5nmを下回ると、赤外線の反射率が低下し、遮蔽係数及び熱貫流率が高くなるため、遮熱性能及び断熱性能が劣るおそれがある。一方、上記金属層の厚さが20nmを超えると、可視光線透過率が低下するため、透明性が劣るおそれがある。
【0058】
上記第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層及び上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層は、上記金属層の光学補償層及び保護層として、上記金属層の上下に設けられる。上記第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層及び上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層において、「金属亜酸化物」とは、金属の化学量論組成に従った酸化物よりも酸素元素の含有量が少ない部分酸化物(不完全酸化物)を意味し、「金属酸化物」とは、金属の化学量論組成に従った酸化物を意味する。また、上記金属亜酸化物層は、必ずしも金属の化学量論組成に従った酸化物よりも酸素元素の含有量が少ない部分酸化物のみの層からなる必要はなく、例えば、酸化により形成された化学量論組成に従った酸化層と、酸化されずに残った未酸化層とからなるものであっても良い。具体的には、上記金属層に直接に接する面側は未酸化層(金属層のまま)で、上記金属層に直接に接する面と反対面側が酸化されたものであっても良い。
【0059】
上記金属亜酸化物層は、上記金属層の上下あるいは上、下のいずれかに、後述する所定厚さで備えることにより、上記赤外線反射層の上記金属層の耐腐食劣化性向上と日射吸収率低減をより高いレベルで両立することができる。上記金属亜酸化物としては、チタン、ニッケル、クロム、コバルト、インジウム、スズ、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、タンタル、アルミニウム、セリウム、マグネシウム、珪素、及びこれらの混合物等の金属の部分酸化物が適宜使用可能である。これらの中でも、可視光に対して比較的透明で、且つ高屈折率を有する誘電体という観点から、上記金属亜酸化物としては、チタン金属の部分酸化物あるいはチタンを主成分とする金属の部分酸化物であることが好ましい。即ち、上記金属亜酸化物は、チタン成分を含むことが好ましい。
【0060】
上記金属亜酸化物層の形成方法は特に限定されないが、例えば、反応性スパッタリング法により形成できる。即ち、上記金属のターゲットを用いてスパッタリング法により製膜する際に、雰囲気ガスにアルゴンガス等の不活性ガスに酸素等の酸化性ガスを適切な濃度(金属酸化物を製膜する際の酸化性ガス濃度よりも低濃度)で加え、酸化性ガス濃度に応じた酸素元素を含む金属の部分(不完全)酸化物層、即ち金属亜酸化物層を形成できる。また、スパッタリング法等により金属薄膜あるいは部分酸化された金属薄膜を一旦形成した後、加熱処理や大気暴露等により後酸化して金属亜酸化物層を形成することもできる。上記金属層の上に上記金属亜酸化物層を形成する際に、酸化性ガスによる上記金属層の酸化を抑制するという観点及び生産性の観点からは、雰囲気ガスは不活性ガスのみとし、ターゲットとして上記金属亜酸化物に含まれる金属のみを用いたスパッタリング法により一旦、金属薄膜の形として形成した後、該金属薄膜表面を大気暴露により後酸化して上記金属亜酸化物層とするのが好ましい。
【0061】
本実施形態における上記金属亜酸化物層の形成方法の好ましい態様として、具体的には、不活性ガス雰囲気下で、上記透明基材の上に、第1の金属亜酸化物層に含まれる金属からなる第1の金属薄膜、銀等の金属層、第2の金属亜酸化物層に含まれる金属からなる第2の金属薄膜を真空を破らずに連続してスパッタリング法により形成してロールとして巻き取った後、該ロールを大気中で再度巻き戻しながら、上記第2の金属薄膜表面を徐酸化することで上記第2の金属亜酸化物層に変成する方法が挙げられる。なお、この場合、上記第1の金属薄膜は、上記透明基材の上に、スパッタリング法で形成する際に、上記透明基材から発生する微量のアウトガスにより透明基材に接する面側が徐酸化されて第1の金属亜酸化物層に変成するものと考える。更に、この場合、第1の金属亜酸化物層及び第2の金属亜酸化物層の上記銀等の金属層に直接に接する面側は未酸化層(金属層、例えばチタン金属層)になっていると考えられ、上記未酸化層(金属層、例えばチタン金属層)が上記銀等の金属層を酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する機能を少しでも向上させることができるという観点からも好適である。
【0062】
また、上記金属酸化物層は、上記金属層の上下あるいは上、下のいずれかに、後述する所定厚さで備えることにより、赤外線反射層の可視光線透過率向上と日射吸収率低減を両立することができる。上記金属酸化物としては、酸化インジウムスズ(屈折率n=1.92)、酸化インジウム酸化亜鉛(n=2.00)、酸化インジウム(n=2.00)、酸化チタン(n=2.50)、酸化スズ(n=2.00)、酸化亜鉛(n=2.03)、酸化ニオブ(n=2.30)、酸化アルミニウム(n=1.77)、酸化スズ-酸化亜鉛(n=2.00)等による金属酸化物が適宜使用可能であり、これらの材料を、例えば、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法等のドライコーティング法により膜化することにより、上記金属酸化物層を形成できる。また、上記金属酸化物の金属をターゲットとして用い、酸化性ガスの濃度を十分に高めた雰囲気ガス下で、反応性スパッタリング法によって形成しても良い。
【0063】
上記金属亜酸化物層及び上記金属酸化物層の厚さは、1nm以上6nm以下が好ましく、上記厚さがこの範囲であると、上記赤外線反射層の上記金属層の耐腐食劣化性向上、日射吸収率低減効果をより高めると同時に可視光線透過率とのバランスを取ることができる。上記金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さが1nmを下回ると、上記金属層の保護機能が劣るだけでなく、前述した「金属層が金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」が増加するリスクが高まり、十分な耐腐食劣化性を確保できないおそれや、可視光線透過率が低くなり、透明性が劣るおそれがある。また、上記金属亜酸化物層又は金属酸化物層の厚さが6nmを超えると、特に金属酸化物層の場合、日射吸収率が高くなるおそれがある。
【0064】
<塗布型の保護層>
本実施形態の透明遮熱断熱部材を構成する塗布型の保護層は、複数の層を備え、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層は、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層から成り、且つ上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含み、厚さが60nm以上の層から成る。上記構成とすることにより、熱還流率を低減し、断熱性をより向上させることを目的に、上記塗布型の複数の層からなる保護層を薄く形成しても、また、更に、日射吸収率を低減することを目的に、前述の第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層を薄く形成しても、前述のように、上記ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層が、「金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」や赤外線反射層に対して、バリア層として機能することができ、酸素、水分、塩化物イオン等の保護層深さ方向への拡散、浸透が大幅に抑制され、その結果、金属層の腐食劣化の進行を著しく抑制することができる。更に、上記塗布型の保護層の最外表面側に位置する層は、活性エネルギー線硬化型樹脂により硬化されるため、実用的な耐擦傷性を付与することができる。また、上記塗布型の保護層の最外表面側に位置する層の厚さは60nm以上であることが必要であり、80nm以上がより好ましい。上記厚さが60nm未満の場合、耐熱擦傷性を充分に発現できない可能性がある。ここで、「塗布型の保護層」とは、後述するウェットコーティング法で形成された保護層であることを意味する。
【0065】
上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層に、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層を適用し、且つ、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層に、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含み、厚さが60nm以上の層を適用するのは以下の理由による。
【0066】
上記水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層は、硬化後において、赤外線反射層の「金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」や赤外線反射層に対して、バリア機能が高いことが分かったが、一方で、耐擦傷性のような物理特性が不十分な傾向があり、該層を上記塗布型の保護層の最外表面側に位置する層に配置した場合、フィルム施工時や、長期間に渡るフィルム使用時にフィルム表面(透明保護層)に傷が入りやすく、傷の影響による外観不良や金属層の腐食劣化の問題があった。即ち、酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する機能と耐擦傷性のような物理特性を両立することはできなかった。
【0067】
そこで、本発明では、塗布型の保護層を複数の層から成る構成とし、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層の少なくとも1層に、バリア機能付与を目的に、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層を配置し、且つ、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層に、耐擦傷性付与を目的に、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層から成り、その厚さが60nm以上の層を配置することにより、上記課題を解消し、該複数の層からなる塗布型の保護層全体として、酸素、水分、塩化物イオン等の外部環境要因から保護する機能と耐擦傷性のような物理特性の両立を可能とした。
【0068】
上記(メタ)アクリル系共重合体は水酸基を有し、その水酸基価は30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。上記水酸基価が30mgKOH/g未満であると、得られる塗布膜の硬化後の硬度、耐塩水性(バリア性)や層間密着性が劣るおそれがある。上記水酸基価が200mgKOH/gを超えると、溶剤溶解性や塗工性が劣るため、得られる塗布膜の外観が悪くなるおそれや、得られる塗布膜の硬化後の可撓性が低下するため、遮熱断熱部材を極度に折り曲げてしまった時に塗布膜に微小クラックが発生し、耐塩水性(バリア性)が低下するおそれがある。上記水酸基価は、JIS K 0070に準拠する方法により測定して得られる値で、対象物1g中に含まれるOH基をアセチル化するために必要とする水酸化カリウム(KOH)の量(mg)である。
【0069】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体としては、水酸基を有する単量体と、ガラス転移温度が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とを共重合体ユニットとして含むことが好ましい。その(メタ)アクリル系共重合体としては、溶剤に可溶で、樹脂溶液として塗布することが可能であれば種類は特に制限されるものではなく、少なくとも上記単量体を共重合ユニットとして含む共重合体を使用することができる。上記溶剤としては、公知の溶剤を用いることができ、具体的には、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン及びキシレン等)、脂肪族炭化水素(ヘキサン及びシクロヘキサン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びジメチルスルホキシド等)及びアミド(ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン)等が挙げられる。
【0070】
上記水酸基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類等が挙げられ、これらは単独または組み合わせで用いることができる。
【0071】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、下記のガラス転移温度が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を共重合体ユニットとして含む。
【0072】
上記のガラス転移温度(Tg)が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸t-ブチル(ホモポリマーのTg:43℃、アルキル基の炭素数C:4、アルキル基:分岐状、以下同様)、メタクリル酸n-ブチル(Tg:20℃、C:4、直鎖状)、メタクリル酸イソブチル(Tg:48℃、C:4、分岐状)、メタクリル酸t-ブチル(Tg:107℃、C:4、分岐状)、メタクリル酸シクロヘキシル(Tg:83℃、C:6、脂環状)、アクリル酸イソボルニル(Tg:94℃、C:10、脂環状)、メタクリル酸イソボルニル(Tg:155℃、C:10、脂環状)等が挙げられ、これらは単独または組み合わせで用いることができる。これらの中でも、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、耐塩水性(バリア性)、汎用性の観点から、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、及びメタクリル酸イソボルニルが好ましい。また、上記ガラス転移温度(Tg)が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の代わりに、アクリル酸フェニル(Tg:57℃、C:6)、メタクリル酸フェニル(Tg:110℃、C:6)、メタクリル酸ベンジル(Tg:54℃、C:7)等のガラス転移温度(Tg)が50℃以上120℃以下のホモポリマーを形成可能な炭素数が6以上10以下の芳香族基を有する(メタ)アクリル酸エステルを使用することも可能である。
【0073】
上記のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が20℃未満の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を用いた場合、塗布後、巻き取られた原反において、得られる塗布膜が硬化後にブロッキングを起こすおそれがある。上記のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が155℃を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を用いた場合、得られる塗布膜の硬化後の可撓性が低下し、遮熱断熱部材を極度に折り曲げてしまった時に塗布膜に微小クラックが発生し、耐塩水性(バリア性)が低下するおそれがある。
【0074】
上記のアルキル基の炭素数が4未満である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を用いた場合、アルキル鎖が短いため、得られる塗布膜の硬化後の耐塩水性(バリア性)が劣るおそれがある。上記のアルキル基の炭素数が10を超える(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を用いた場合、得られるポリマーのガラス転移温度(Tg)が低くなる(20℃未満)傾向にあるため、塗布後、巻き取られた原反において、得られる塗布膜が硬化後にブロッキングを起こすおそれがある。
【0075】
上記のガラス転移温度(Tg)が20℃以上155℃以下のホモポリマーを形成可能なアルキル基の炭素数が4以上10以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に基づく重合単位は、上記(メタ)アクリル系共重合体を構成する全重合単位に対して50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、70質量%以上90質量%以下であることが、より好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を上記範囲内で有する場合、得られる塗布膜の硬化後の耐塩水性(バリア性)において優れた効果を発現する。
【0076】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、更に、カルボキシル基含有単量体、アミノ基含有単量体、及びシリル基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種の重合単位を含んでいても良い。これらの官能基含有単量体に基づく重合単位は、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体を構成する全重合単位に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。これらの官能基含有単量体を上記範囲内で有する場合、無機微粒子等の顔料の分散性や層間密着性に優れる。
【0077】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、カルボン酸ビニルエステル、アルキルビニルエーテル及び非フッ素化オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素非含有ビニルモノマーに基づく重合単位を含んでいても良い。
【0078】
上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲においては、ブロッキング、塗工性、層間密着性、硬度の改善等、必要に応じ、上記水酸基を有するアクリル系共重合体と相溶する他の樹脂と混合して用いても構わない。即ち、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体を含む層は、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と相溶する他の樹脂を含んでいても構わない。ここで、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と相溶するとは、各々の樹脂を混合した場合、層分離せずに、得られる塗布膜の透明性が著しく損なわれないことを意味する。
【0079】
上記他の樹脂としては、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と相溶する樹脂であれば特に限定されるものではないが、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、汎用性の観点から熱可塑性アクリル樹脂が好ましい。
【0080】
上記(メタ)アクリル系共重合体が有する水酸基と反応する架橋剤としては、ポリイソシアネート系架橋剤を使用することができる。
【0081】
上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、2,4-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート、これらの3量体、これらのアダクト体、ビュウレット体やイソシアヌレート体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、さらにブロック化されたイソシアネート類等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、耐候性の観点からヘキサメチレンジイソシアネートの3量体であるイソシアヌレートプレポリマー及びイソホロンジイソシアネートの3量体であるイソシアヌレートプレポリマーが好ましい。このようなポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、東ソー社製のコロネート(登録商標)HX、エボニックデグサ社製のデスタナートT1890(商品名)、住化コベストロウレタン社製のデスモジュール(登録商標)Z4470等が例示できる。
【0082】
上記架橋剤の含有量としては、上記(メタ)アクリル系共重合体が有する水酸基(-OH)1当量に対して、架橋剤のイソシアネート基(-NCO)が0.3モル当量以上2.5モル当量以下となるように添加することが好ましく、より好ましくは0.5モル当量以上2.0モル当量以下、更に好ましくは、0.8モル当量以上1.8モル当量以下である。上記架橋剤の含有量が0.3モル当量未満であると、得られる塗布膜の架橋が不十分となり、硬度やバリア性が低下するおそれがある。上記架橋剤の含有量が2.5モル当量を超えると、塗布原反を巻き取った際に、低分子量の架橋剤の影響により塗布膜と塗布膜の反対面とが密着し、塗布原反を巻き出す際にブロッキングが発生するおそれがある。
【0083】
なお、上記他の樹脂が硬化性官能基を有する場合、該硬化性官能基が水酸基であれば、該水酸基と反応する架橋剤も、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体に用いる架橋剤と同様のものを用いることができる。また、該硬化性官能基が水酸基以外であれば、該硬化性官能基に応じて架橋剤を適宜選択し用いる。
【0084】
本実施形態の透明遮熱断熱部材を構成する塗布型の保護層は、複数の層を備え、上記塗布型の保護層の内、最外表面側に位置する層は、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層からなる。これにより、活性エネルギー線照射後において、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層を保護し、耐塩水性(バリア性)の向上を補助するとともに、上記塗布型の保護層全体の耐擦傷性を確保することができる。なお、活性エネルギー線としては、ラジカル、カチオン、アニオン等の重合反応の契機となり得るものを生成できるエネルギー線であれば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波のほか、電子線、プロトン線、中性子線等のいずれも使用できるが、硬化速度、照射装置の入手容易さ、価格等の観点において、紫外線照射による硬化が好ましい。光源は、特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザー、太陽光、LEDランプ等が挙げられる。これらの光源を用い、好ましくは、積算光量が300mJ/cm2以上になるように活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層を瞬時に硬化させることができる。
【0085】
上記活性エネルギー線硬化型樹脂としては、例えば、多官能(メタ)アクリレートモノマーや多官能(メタ)アクリレートオリゴマー(プレポリマー)等を好適に用いることができ、これらを単独あるいは混合して用いことができる。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3-シクロヘキサントリメタクリレート等のアクリレート;1,4-ジビニルベンゼン、4-ビニル安息香酸-2-アクリロイルエチルエステル、1,4-ジビニルシクロヘキサノン等のビニルベンゼン及びその誘導体;ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等のウレタン系の多官能アクリレートオリゴマー類;多価アルコールと(メタ)アクリル酸とから生成されるエステル系の多官能アクリレートオリゴマー類;エポキシ系の多官能アクリレートオリゴマー類及びそれらの含フッ素化合物や含シリコーン化合物等が挙げられ、必要に応じて光重合開始剤を添加し、活性エネルギー線を照射することで、上記塗布型の保護層の最外表面層を形成できる。
【0086】
上記塗布型の保護層は、上述したように透明遮熱断熱部材の耐塩水性(バリア性)と耐擦傷性を両立するために、上記赤外線反射層上に複数の層により形成されるが、具体的には、上記塗布型の保護層は、生産性の観点から、例えば、2層~4層で形成される。上記塗布型の保護層が2層構成の場合、上記赤外線反射層の上に、上記赤外線反射層側から、中屈折率層又は高屈折率層、及び中屈折率層又は低屈折率層をこの順に備えていれば良い。この場合、上記赤外線反射層に接する中屈折率層又は高屈折率層に、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含み、その上に形成される中屈折率層又は低屈折率層(最外表面層)に上記活性エネルギー線硬化型樹脂を含んでいれば良い。また、上記塗布型の保護層が3層構成の場合、上記赤外線反射層の上に、上記赤外線反射層側から、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順に備えていれば良い。この場合、上記中屈折率層、高屈折率層の少なくともいずれかの層に、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含み、少なくとも上記低屈折率層に上記活性エネルギー線硬化型樹脂を含んでいれば良い。また、塗布型の保護層が4層構成の場合、上記赤外線反射層の上に、上記赤外線反射層側から、光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順に備えていれば良い。この場合、上記光学調整層、中屈折率層、高屈折率層の少なくともいずれかの1層に、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含み、少なくとも上記低屈折率層に上記活性エネルギー線硬化型樹脂を含んでいれば良い。
【0087】
上記塗布型の保護層は、上記に例示した複数層の構成の中でも、上記透明遮熱断熱部材の光学特性、外観性(虹彩現象、視認角度による反射色変化)のバランスの観点から、上記赤外線反射層側から、高屈折率層及び低屈折率層をこの順で備えた2層の構成から成ることが好ましい。また、上記バランスの観点に加えて、可視光線透過率向上の観点から、上記赤外線反射層側から、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順で備えた3層構成から成ることがより好ましく、上記赤外線反射層側から、光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順で備えた4層構成から成ることが最も好ましい。
【0088】
上記塗布型の保護層の総厚さは、熱貫流率低減の観点から、700nm以下であることが好ましい。更に、耐擦傷性、耐腐食劣化性も考慮すると、上記塗布型の保護層の総厚さは、200nm以上700nm以下であることがより好ましい。上記総厚さが200nmを下回ると、耐擦傷性や耐腐食劣化性といった物理特性が低下するおそれがあり、上記総厚さが700nmを超えると、断熱性能が低下するおそれがある。上記総厚さが200nm以上700nm以下の範囲内であれば、熱貫流率を4.1W/(m2・K)以下にすることができ、断熱性能を十分に発現できる。また、上記総厚さは、耐擦傷性、耐腐食劣化性の更なる向上の観点から、250nm以上とし、熱貫流率の更なる低減の観点から、500nm以下とした250nm以上500nm以下の範囲に設定することが最も好ましい。上記総厚さが250nm以上500nm以下の範囲内であれば、熱貫流率を4.0W/(m2・K)以下にすることができ、断熱性能と耐擦傷性、耐腐食劣化性といった物理特性を更に高いレベルで両立することができる。
【0089】
また、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体を含む層の厚さは、上記塗布型の保護層の総厚さに対して、30%以上60%以下であることが好ましい。30%未満の場合には、保護層の総厚さにもよるが、上記(メタ)アクリル系共重合体を含む層の耐塩水性(バリア性)が充分に発揮されない場合がある。また、60%を超えると、上記(メタ)アクリル系共重合体を含む層を中屈折率層とした場合、相対的に高屈折率層、低屈折率層の膜厚が薄くなることから反射率が高くなる、反射色の赤系色が強くなる、全光線透過率が低下するなどの光学特性へ影響を及ぼす恐れがある。
【0090】
以下、上記塗布型の保護層を構成する各層について説明する。
【0091】
[光学調整層]
上記光学調整層は、本実施形態の透明遮熱断熱部材の赤外線反射層の光学特性を調整する層であり、波長550nmの光の屈折率が1.60以上2.00以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.65以上1.90以下の範囲である。また、上記塗布型の保護層が、複数の層で形成される場合、例えば、好ましい態様として、4層で形成される場合、上記光学調整層の厚さは、上記光学調整層の上に順に積層される中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の各々の層の屈折率や厚さ等によって適切な範囲が異なるので、一概には言えないが、上記他の層の構成との兼ね合いにおいて、20nm以上70nm以下の範囲の中で設定されることが好ましく、より好ましくは30nm以上60nm以下の範囲の中で設定される。上記光学調整層の厚さを20nm以上70nm以下の範囲内とすることにより、本実施形態の透明遮熱断熱部材の可視光線透過率と近赤外線反射率とを高いバランスで両立できる。上記光学調整層の厚さが20nmを下回ると、塗工そのものが困難になり、例えば、前述の「金属層が第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」で塗液がはじかれやすくなりカバレッジできないおそれがある。一方、上記光学調整層の厚さが70nmを超えると、近赤外線反射率が低下し、遮熱性能が劣るおそれがある。また、上記光学調整層が無機微粒子を多量に含有する場合に遠赤外線領域の光の吸収が大きくなり、断熱性能が低下するおそれがある。
【0092】
また、上記光学調整層を構成する材料は、前述の赤外線反射層の上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層を構成する材料と同種の材料を含むことが、上記光学調整層が直接に接する上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層との密着性確保の観点から好ましく、例えば、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層として、チタン金属の部分酸化物層又は酸化物層あるいはチタンを主成分とする金属の部分酸化物層又は酸化物層を選択した場合、上記光学調整層の構成材料は酸化チタン微粒子を含む材料が好ましい。上記光学調整層の構成材料が酸化チタン微粒子を含むことで、上記光学調整層の屈折率を1.60以上2.00以下の範囲内の高屈折率に適宜コントロールすることが可能となるだけでなく、上記チタン金属の部分酸化物層又は酸化物層あるいはチタンを主成分とする金属の部分酸化物層又は酸化物層からなる金属亜酸化物層又は金属酸化物層との密着性を向上できる。
【0093】
また、上記無機微粒子は、上記光学調整層の屈折率を調整するために上記樹脂中に分散、添加される。上記無機微粒子としては、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化タングステン(WO3)等を使用できる。上記無機粒子は必要に応じ、分散剤により表面処理されていても構わない。上記無機微粒子の中でも、他の材料に比べて少量の添加で高屈折率化が可能な酸化チタン及び酸化ジルコニウムが好ましく、遠赤外線領域の光の吸収が比較的少ないことや上記金属亜酸化物層として好適なTiOX層との密着性の確保の観点から酸化チタンがより好ましい。
【0094】
上記無機微粒子の粒子径としては、平均粒子径が5nm以上100nm以下の範囲であることが光学調整層の透明性の観点から好ましく、10nm以上80nm以下の範囲であることがより好ましい。上記平均粒子径が100nmを超えると、光学調整層を形成した際にヘーズ値の増大等が生じて透明性が低下するおそれがあり、また、上記平均粒子径が5nmを下回ると、光学調整層用塗料とした場合に無機微粒子の分散安定性を維持することが難しくなるおそれがある。
【0095】
上記光学調整層を、水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層とする場合は、上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂に代えて、上述した水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体、あるいは該水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と他の樹脂との混合物を用いて屈折率調整用の上記無機微粒子を分散した後、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤を添加した光学調整層用塗料を調製し、塗布膜を形成、硬化すれば良い。
【0096】
[中屈折率層]
上記中屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.45以上1.60以下の範囲であることが好ましく、上記屈折率は1.47以上1.57以下の範囲であることがより好ましい。上記塗布型の保護層が、複数の層で形成される場合、例えば、好ましい態様として、4層あるいは3層で形成される場合、上記中屈折率層の厚さは、中屈折率層に対して下層となる光学調整層、また、中屈折率層に対して順に上層となる高屈折率層、低屈折率層の各々の層の屈折率や厚さ等によって適切な範囲が異なるので、一概には言えないが、上記他の層の構成との兼ね合いにおいて、50nm以上250nm以下の範囲の中で設定されることが好ましく、上記厚さは60nm以上180nm以下の範囲の中で設定されることがより好ましい。上記中屈折率層の厚さが50nmを下回ると、上記赤外線反射層の上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層あるいは上記光学調整層との密着性の低下につながるおそれや、例えば、上記透明遮熱断熱部材の反射色において赤系色が強くなったり、透過色において緑系色が強くなったり、全光線透過率が低下したりするおそれがある。一方、上記中屈折率層の厚さが250nmを超えると赤外線領域の光の吸収が大きくなり、断熱性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0097】
上記塗布型の保護層が複数の層で形成される場合、上記中屈折率層の構成材料は、上記中屈折率層の屈折率が上記範囲内に設定できれば、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂等が好適に用いられる。上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂や上記活性エネルギー線硬化型樹脂等の樹脂としては、前述した光学調整層に使用できるものと同一の樹脂を使用することができ、同一の処方で上記中屈折率層を形成することができる。また、屈折率の調整のため、必要に応じて上記樹脂中に無機微粒子を分散、添加しても構わない。上記中屈折率層の構成材料の中でも、透明性といった光学特性の面、耐擦傷性といった物理特性の面、更に生産性の面から、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む材料が好ましい。
【0098】
上記活性エネルギー線硬化型樹脂の中でも、紫外線等の活性エネルギー線照射時の硬化収縮が比較的少ないウレタン系、エステル系、エポキシ系の多官能(メタ)アクリレートオリゴマー(プレポリマー)類を含む樹脂やアクリロイル基を多数有する超多官能のアクリルポリマー樹脂がより好ましい。これにより、上記中屈折率層と上記光学調整層あるいは上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層との密着性を良好なものとすることができる。
【0099】
また、上記活性エネルギー線硬化型樹脂を含む中屈折率層と上記光学調整層あるいは上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層との密着性をより向上させるために、上記活性エネルギー線硬化型樹脂にリン酸基、スルホン酸基、アミド基等の極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体や(メタ)アクリル基、ビニル基等の不飽和基を有するシランカップリング剤等を添加して用いても良い。
【0100】
上記中屈折率層を、水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層とする場合は、上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂に代えて、上述した水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体、あるいは該水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と他の樹脂との混合物を用いて該水酸基と反応する架橋剤を添加した中屈折率層用塗料を調製し、塗布膜を形成、硬化すれば良い。必要に応じて、屈折率調整用の無機微粒子を分散させても良い。
【0101】
本実施形態の塗布型の保護層は、とりわけ、上記中屈折率層を、硬化前樹脂成分として、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層とすることが最も好ましい。これは、以下の理由による。即ち、上記透明遮熱断熱部材の光学特性、外観性(虹彩現象、視認角度による反射色変化)のバランスも良好なものとすることを目的に、上記塗布型の保護層が複数の層で形成される場合、上記中屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.45以上1.60以下の範囲であることが好ましいが、この範囲の屈折率は、多くの場合は、樹脂単独あるいは極少量の屈折率調整用の無機微粒子が添加された樹脂で得ることが可能であり、このような中屈折率層は、上記光学調整層や後述する高屈折率層のように屈折率調整用の無機微粒子を多量に含む層に比べて、微細な空隙が極めて少なく、より緻密な層となる。そのため、上記水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層を、上記中屈折率層に適用した場合、上記屈折率調整用の無機微粒子を多量に含む光学調整層や高屈折率層に適用した場合と比較して、前述した、赤外線反射層表面に存在する「金属層が第2の金属亜酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に対するバリア機能をより一層高くすることができる。
【0102】
[高屈折率層]
上記高屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.65以上1.95以下の範囲であることが好ましく、上記屈折率は1.70以上1.90以下の範囲であることがより好ましい。また、上記塗布型の保護層が複数の層で形成される場合、例えば、好ましい態様として、4層、3層あるいは2層で形成される場合、上記高屈折率層の厚さは、高屈折率層に対して順に下層となる中屈折率層、光学調整層、また高屈折率層に対して上層となる低屈折率層の各々の層の屈折率や厚さ等によって適切な範囲が異なるので、一概には言えないが、上記他の層の構成との兼ね合いにおいて、20nm以上200nm以下の範囲の中で設定されることが好ましく、上記厚さは30nm以上150nm以下の範囲の中で設定されることがより好ましい。上記高屈折率層の厚さが20nmを下回ると塗工そのものが困難になり、保護層としての耐擦傷性といった物理特性が低下する懸念があり、上記高屈折率層の厚さが200nmを超えると、上記高屈折率層が無機微粒子を多量に含有する場合に赤外線領域での光の吸収が大きくなり、断熱性の低下につながる可能性があるため好ましくない。
【0103】
上記高屈折率層の構成材料は、上記高屈折率層の屈折率が上記範囲内に設定できれば、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂等の樹脂と、上記樹脂中に分散された無機微粒子とを含む材料が好適に用いられる。上記高屈折率層の構成材料の中でも、透明性といった光学特性の面、耐擦傷性といった物理特性の面、更に生産性の面から、活性エネルギー線硬化型樹脂と、上記活性エネルギー線硬化型樹脂中に分散された無機微粒子とを含む材料が好ましい。また、上記活性エネルギー線硬化型樹脂に無機微粒子を含む材料は、一般的に、上記中屈折率層上に塗設した後に紫外線等の活性エネルギー線照射により硬化して上記高屈折率層として形成されるが、無機微粒子を含んでいることにより、硬化時の膜の収縮が抑制されるため、上記高屈折率層と上記中屈折率層との密着性を良好なものとすることができる。
【0104】
また、上記無機微粒子は、上記高屈折率層の屈折率を調整するために添加されるが、上記無機微粒子の中でも、他の材料に比べて少量の添加で高屈折率化が可能な酸化チタン及び酸化ジルコニウムが好ましく、赤外線領域の光の吸収が比較的少ない点で酸化チタンがより好ましい。
【0105】
上記高屈折率層を、水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層とする場合は、上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化型樹脂に代えて、上述した水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体、あるいは該水酸基を有する(メタ)アクリル系共重合体と他の樹脂との混合物を用いて屈折率調整用の上記無機微粒子を分散した後、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤を添加した高屈折率層用塗料を調製し、塗布膜を形成、硬化すれば良い。
【0106】
[低屈折率層]
上記低屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.30以上1.45未満の範囲であることが好ましく、上記屈折率は1.35以上1.43以下の範囲であることがより好ましい。また、上記保護層が複数の層で形成される場合、例えば、好ましい態様として、4層、3層あるいは2層で形成される場合、上記低屈折率層の厚さは、低屈折率層に対して順に下層となる高屈折率層、中屈折率層、光学調整層の各々の層の屈折率や厚さ等によって適切な範囲が異なるので、一概には言えないが、上記他の層の構成との兼ね合いにおいて、60nm以上150nm以下の範囲の中で設定されることが好ましく、上記厚さは80nm以上130nm以下の範囲の中で設定されることがより好ましい。上記低屈折率層の厚さが60nm以上150nm以下の範囲を外れると本実施形態の透明遮熱断熱部材の可視光線領域の反射スペクトルのリップルの大きさ、即ち、可視光線領域の波長に対する反射率の変動を十分に低減することができず、虹彩模様が目立ちやすくなるだけでなく、視野角によって反射色の変化が大きくなり、外観として問題となり得るおそれがある。また、可視光線透過率が低下するおそれがある。
【0107】
上記低屈折率層の構成材料は、上記低屈折率層の屈折率が上記範囲内に設定できれば、特に限定はされないが、硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含むことが好ましい。上記活性エネルギー線硬化型樹脂としては、前述した光学調整層に使用できる活性エネルギー線硬化型樹脂と同様の樹脂及びそれらの含フッ素化合物や含シリコーン化合物等を使用することができ、必要に応じて光重合開始剤を添加し、活性エネルギー線を照射することで、上記塗布型の保護層の最外表面層を形成できる。また、屈折率の調整のため、必要に応じて上記活性エネルギー線硬化型樹脂中に無機微粒子を分散、添加しても構わない。例えば、上記活性エネルギー線硬化型樹脂と、上記活性エネルギー線硬化型樹脂中に分散された低屈折率の無機微粒子とを含む材料及び活性エネルギー線硬化型樹脂と低屈折率無機微粒子とが化学的に結合した有機・無機ハイブリッド材料を含む材料が好ましい。
【0108】
上記無機微粒子は、上記低屈折率層の屈折率を調整するために上記樹脂中に分散、添加される。上記低屈折率の無機微粒子としては、例えば、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム等を用いることができるが、保護層の最表面となる低屈折率層の耐擦傷性といった物理特性の観点から酸化ケイ素系材料が好ましく、中でも低屈折率化を発現させるために内部に空隙を有する中空タイプの酸化ケイ素(中空シリカ)系材料が特に好ましい。
【0109】
また、上記活性エネルギー線硬化型樹脂に無機微粒子を含む材料は、一般的に、上記高屈折率層上に塗設した後に紫外線等の活性エネルギー線照射により硬化して上記低屈折率層として形成されるが、無機微粒子を含んでいることにより、硬化時の膜の収縮が抑制されるため、上記高屈折率層との密着性を良好なものとすることができる。
【0110】
また、上記活性エネルギー線硬化型樹脂を含む低屈折率層と上記高屈折率層あるいは第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層との密着性をより向上させるために、上記活性エネルギー線硬化型樹脂にリン酸基、スルホン酸基、アミド基等の極性基を有する(メタ)アクリル酸誘導体や(メタ)アクリル基、ビニル基等の不飽和基を有するシランカップリング剤等を添加して用いても良い。
【0111】
上記低屈折率層の構成材料としては、上記の構成材料以外に、レベリング剤、滑材、帯電防止剤、ヘーズ付与剤等の添加剤が含まれていても良く、これらの添加剤の含有量は、本実施形態の目的を損なわない範囲で適宜調整される。
【0112】
上述したように、複層の層から形成される上記塗布型の保護層として、(1)上記赤外線反射層側から高屈折率層及び低屈折率層をこの順で含む積層構成、(2)上記赤外線反射層側から中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順で含む積層構成、あるいは、(3)上記赤外線反射層側から光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層をこの順で含む積層構成が本実施形態の好ましい態様であるが、いずれの構成とする場合においても、それぞれの積層からなる上記塗布型の保護層の総厚さが200nm以上700nm以下の範囲となるように、適宜設定することにより、断熱性(熱貫流率の値としては4.2W/(m2・K)以下)を維持しつつ耐擦傷性、耐腐食劣化性といった物理特性に優れ、且つ日射吸収率が低く、且つ虹彩現象、視認角度による反射色変化を抑制した外観性も良好な透明遮熱断熱部材を提供することができる。
【0113】
また、より好ましい範囲として、上記塗布型の保護層の総厚さを250nm以上500nm以下の範囲内に設定すれば、熱貫流率の値としては4.0W/(m2・K)以下となり、且つ、保護層としての機械的物性も十分に確保できるので、断熱性能と、耐擦傷性、耐腐食劣化性といった物理特性とを更に高いレベルで両立することができる。
【0114】
なお、上記塗布型の保護層が、上記赤外線反射層側から中屈折率層(下)及び中屈折率層(上)をこの順で含む2層から構成される場合、該中屈折率層の各々の厚さは、前述した厚さに限定される必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲において、好ましい保護層の総厚さである200nm以上700nm以下の範囲の中で、適宜調整して設定すれば良い。ただし、この組み合わせの2層保護層の場合、中屈折率層の屈折率によっては得られる透明遮熱断熱部材の外観性が劣ることがある。
【0115】
本実施形態の透明遮熱断熱部材において、上記塗布型の保護層の内、少なくとも上記赤外線反射層の上記(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層に直接に接する層は、金属に対する腐食防止剤を含むことが好ましい。上記(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層に直接に接する層に上記金属に対する腐食防止剤を含有させることにより、低放射フィルムの日射吸収率を低減することを目的に、上記(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層を薄く形成しても、上記金属に対する腐食防止剤が、「金属層が(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に吸着して腐食防止層を形成し、その極微小な金属部位を、酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因から保護することができるので、上記ポリイソシアネート系架橋剤により硬化された特定の(メタ)アクリル系共重合体を含む層のバリア効果に加えて、上記金属層の腐食劣化の進行を更に抑制することができる。
【0116】
上記金属に対する腐食防止剤としては、種類は特に制限されるものではなく、金属の腐食を抑制できる化合物であれば良い。中でも、銀の腐食を抑制できるものが好ましく、銀に対して吸着しやすい官能基を有する化合物が好ましい。例えば、アミン類及びその誘導体、ピロール環を有する化合物、トリアゾール環を有する化合物、ピラゾール環を有する化合物、イミダゾール環を有する化合物、インダゾール環を有する化合物、グアニジン類及びその誘導体、チアゾール環を有する化合物、チオ尿素類、メルカプト基を有する化合物、チオエーテル類、ナフタレン系の化合物、銅キレート化合物類、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。中でも、特に、窒素含有基を有する化合物、硫黄含有基を有する化合物が好ましく、これらの少なくとも1種あるいは混合物から選択されるのが好ましい。
【0117】
上記金属に対する腐食防止剤の含有量は、上記金属に対する腐食防止剤を含む層の全質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記含有量が、1質量%を下回ると、その添加剤としての効果が発揮されにくく、20質量%を超えると、上記第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層に接する上記保護層及び他の上記金属に対する腐食防止剤を含む層の強度が低下するおそれや、その接する界面における密着性が低下するおそれがある。
【0118】
上記金属に対する腐食防止剤を、複数の層からなる塗布型の保護層の内、上記赤外線反射層の少なくとも上記(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層に直接に接する層に含有させるのは、上記赤外線反射層の表面において、「金属層が(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」に、最も効率よく、上記金属に対する腐食防止剤を吸着させ、腐食防止層を形成させることができるからである。その結果、低放射フィルムの日射吸収率を低減することを目的に、上記(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層を薄く形成した際に、「金属層が(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」が発生しても、上記金属に対する腐食防止剤が、その極微小な金属部位に吸着し、それにより形成された腐食防止層が、上記保護層を拡散、浸透してきた酸素、水、塩化物イオン等の外部環境要因に対するバリア層となって、外部環境要因から保護するため、従来からの問題であった「上記金属層が(第2の)金属亜酸化物層又は金属酸化物層により完全に被覆されておらず金属層由来の金属が剥き出し状態になっている極微小な部位」を起点とした上記金属層の腐食劣化の進行を著しく抑制することができる。
【0119】
<粘着剤層>
本実施形態の透明遮熱断熱部材は、上記透明基材の塗布型の保護層を形成した面とは反対側の面に粘着剤層を配置することが好ましい。これにより、本実施形態の透明遮熱断熱部材を窓ガラス等の透明基板等に容易に貼り付けることができる。上記粘着剤層の材料としては、可視光線透過率が高く、透明基材との屈折率差が小さいものが好適に用いられる。例えば、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ゴム系、シリコーン系等の樹脂を使用できる。中でも、アクリル系樹脂が、光学的透明性が高いこと、濡れ性と粘着力のバランスが良いこと、信頼性が高く実績が多いこと、比較的安価なこと等からより好適に使用される。
【0120】
上記アクリル系樹脂(粘着剤)としては、アクリル酸及びそのエステル、メタクリル酸及びそのエステル、アクリルアミド、アクリロニトリル等のアクリルモノマーの単独重合体もしくはそれらの共重合体、更に、上記アクリルモノマーの少なくとも1種と、酢酸ビニル、無水マレイン酸、スチレン等のビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。特に、好適なアクリル系粘着剤としては、粘着性を発現させるための成分となるメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート系の主モノマー、凝集力を向上させるための成分となる酢酸ビニル、アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、メタクリレート等のモノマー、更に粘着力を向上させたり、架橋点を付与させたりするための成分となるアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、ヒドロキシルエチルメタクリレート、ヒドロキシルプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリレート等の官能基を有するモノマーを適宜共重合したものが挙げられる。上記アクリル系粘着剤のTg(ガラス転移温度)は-60℃以上-10℃以下の範囲にあり、重量平均分子量が100,000以上2,000,000以下の範囲にあるものが好ましく、特に500,000以上1,000,000以下の範囲にあるものがより好ましい。前記アクリル系粘着剤には、必要に応じて、イソシアネート系、エポキシ系、金属キレート系等の架橋剤を1種あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0121】
また、上記粘着剤層の厚さは、10μm以上100μm以下とすれば良いが、より好ましくは15μm以上50μm以下である。
【0122】
上記粘着剤層は、太陽光等の紫外線による透明遮熱断熱部材の劣化を抑制するために、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系等の紫外線吸収剤を含有することが好ましい。また、上記粘着剤層は、透明遮熱断熱部材を透明基板に貼り合わせて使用するまでの間、粘着剤層上に離型フィルムを備えていることが好ましい。
【0123】
<透明遮熱断熱部材>
本実施形態の透明遮熱断熱部材は、上記構成を有するため、赤外線反射層と塗布型の保護層との適正な設計の組み合わせにより、可視光線透過率を60%以上、遮蔽係数を0.69以下、熱貫流率を4.0W/(m2・K)以下とでき、且つ日射吸収率を20%以下とすることができる。即ち、フィルムを窓ガラスに貼り付けた際のガラスの熱割れリスクが低減された、透明性の高い遮熱断熱性に優れた低放射フィルムを提供することができる。
【0124】
また、上記透明遮熱断熱部材は、上記構成を有するため、赤外線反射層と塗布型の保護層との適正な設計の組み合わせにより、温度50℃、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液に30日間浸漬させる耐塩水性試験を行った場合、上記耐塩水性試験前に測定した上記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトル(初期)の波長1100nmの光の透過率をTB%、上記耐塩水性試験後に測定した上記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトル(30日間浸漬後)の波長1100nmの光の透過率をTA%とすると、TA-TBの値を10未満とすることができる。TA-TBの値は、5未満がより好ましく、3未満が最も好ましい。即ち、上記態様は、過酷な試験環境下における上記赤外線反射層の機能の劣化が著しく抑制されていることを意味しており、耐腐食劣化にも優れた低放射フィルムを提供することができる。
【0125】
また、上記透明遮熱断熱部材は、上記構成を有するため、赤外線反射層と塗布型の保護層との適正な設計の組み合わせにより、JIS R3106-1998に準じて測定した反射スペクトルにおいて、上記反射スペクトルの波長500~570nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインa上の波長535nmに対応する点を点Aとし、上記反射スペクトルの波長620~780nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインb上の波長700nmに対応する点を点Bとし、上記点Aと上記点Bとを通る直線を波長500~780nmの範囲で延長して基準直線ABとし、波長500~570nmの範囲における上記反射スペクトルの反射率の値と上記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔAと定義した時に、上記最大変動差ΔAの値が反射率の%単位で7%以下であり、波長620~780nmの範囲における上記反射スペクトルの反射率の値と上記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔBと定義した時に、上記最大変動差ΔBの値が反射率の%単位で9%以下とすることができる。即ち、上記態様は、上記反射スペクトルにおける波長に連動した可視光線反射率の上下の変動が低減されていることを意味しており、虹彩模様の発生や視認角度による反射色変化を抑制した外観性にも優れた低放射フィルムを提供することができる。
【0126】
次に、本実施形態の透明遮熱断熱部材の一例を図面に基づき説明する。
【0127】
図1は、本実施形態の透明遮熱断熱部材の一例を示す概略断面図である。
図1において、透明遮熱断熱部材10は、透明基材11と、赤外線反射層21及び塗布型の保護層22からなる機能層23と、粘着剤層19とを備える。赤外線反射層21は、透明基材側から、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層12と、金属層13と、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層14とからなる。塗布型の保護層22は、光学調整層15と、中屈折率層16と、高屈折率層17と、低屈折率層18とから形成されている。例えば、中屈折率層16を硬化前樹脂成分として、水酸基を有する特定の(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含む層、低屈折率層18を硬化前樹脂成分として、活性エネルギー線硬化型樹脂を含む層とすることができる。
【0128】
図2は、耐塩水性試験前後の、本実施形態の透明遮熱断熱部材の透過スペクトルの一例を示す図である。上記透明遮熱断熱部材は、温度50℃、濃度5質量%の塩化ナトリウム水溶液に30日間浸漬させる耐塩水性試験を行った場合、上記耐塩水性試験前に測定した上記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトル(初期)の波長1100nmの光の透過率をT
B%、上記耐塩水性試験後に測定した上記透明遮熱断熱部材の波長300~1500nmの範囲における透過スペクトル(30日間浸漬後)の波長1100nmの光の透過率をT
A%とすると、T
A-T
Bの値を1
0未満とすることができる。
【0129】
図3は、本発明の透明遮熱断熱部材の可視光線反射スペクトルに対する反射率の「基準直線AB」、「最大変動差ΔA」及び「最大変動差ΔB」の求め方を説明した図である。JIS R3106-1998に準じて測定した反射スペクトルにおいて、上記反射スペクトルの波長500~570nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインa上の波長535nmに対応する点を点Aとし、上記反射スペクトルの波長620~780nmの範囲における最大反射率と最小反射率の平均値を示す仮想ラインb上の波長700nmに対応する点を点Bとし、上記点Aと上記点Bとを通る直線を波長500~780nmの範囲で延長して基準直線ABとし、波長500~570nmの範囲における上記反射スペクトルの反射率の値と上記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔAと定義する。同様に、波長620~780nmの範囲における上記反射スペクトルの反射率の値と上記基準直線ABの反射率の値を比較した際に、各々の反射率の値の差が最大となる波長におけるその反射率の値の差の絶対値を最大変動差ΔBと定義する。
【0130】
図4は、後述する実施例1の透明遮熱断熱部材において、ガラス面側から入光測定した時の可視光領域の反射スペクトルの一例を示す図である。上記透明遮熱断熱部材は、上記最大変動差ΔAの値が反射率の%単位で7%以下であり、上記最大変動差ΔBの値が反射率の%単位で9%以下とすることができる。
【0131】
このように上記実施形態の透明遮熱断熱部材は、上記赤外線反射層により日射吸収率を低くしつつ、断熱機能及び遮熱機能を発揮でき、また、上記塗布型の保護層により耐擦傷性、耐腐食劣化性が向上し、且つ断熱機能が維持できる。
【0132】
(透明遮熱断熱部材の製造方法)
次に、本発明の透明遮熱断熱部材の製造方法の実施形態を説明する。本発明の透明遮熱断熱部材の製造方法の実施形態は、透明基材の上に赤外線反射層をドライコーティング法で形成する工程と、上記赤外線反射層の上に、複数の層からなる保護層をウェットコーティング法で形成する工程とを備えている。
【0133】
以下、本実施形態の透明遮熱断熱部材の製造方法の一例を、
図1を参照しながら説明する。
【0134】
先ず、透明基材11の一方の面に赤外線反射層21を形成する。赤外線反射層21は、例えば、導電性材料や透明誘電体材料等をスパッタリングする方法等のドライコーティング法で形成できるが、他の方法によって形成してもよい。赤外線反射層21は、第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層12と、金属層13と、第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層14との3層構造とするのが、遮熱・断熱機能、耐腐食劣化性、生産性の点で好ましい。特に、第1の金属亜酸化物層12と第2の金属亜酸化物層14を形成する場合は、上述したような各種スパッタリング法で形成することが好ましい。これにより、金属が部分酸化された金属亜酸化物層を確実に形成できる。
【0135】
次に、赤外線反射層21の上に金属に対する腐食防止剤を含有させた光学調整層15を形成する。続いて、光学調整層15の上に水酸基を有する特定の(メタ)アクリル系共重合体と該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含有させた中屈折率層16を形成し、中屈折率層16の上に高屈折率層17を形成し、高屈折率層17の上に活性エネルギー線硬化型樹脂を含有させた低屈折率層18を形成する。これらの各層は、ダイコーター、コンマコーター、リバースコーター、ダムコーター、ドクターバーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ロールコーター等のコーターを使用したウェットコーティング法にて形成できる。このようにして形成した複数の層からなる塗布型の保護層22により、赤外線反射層21を室内側に配置しても、窓拭き等により赤外線反射層21が損傷することが防止でき、且つ耐腐食劣化性に優れ、且つ外観的にも虹彩現象や視認角度による反射色の変化といった角度依存性を抑制でき、更に日射吸収率を低くしつつ、赤外線反射層の断熱機能を維持することができる。
【0136】
最後に、透明基材11の他方の面に粘着剤層19を形成する。粘着剤層19を形成する方法も特に制限されず、透明基材11の外面に、粘着剤を直接塗布してもよいし、別途用意した粘着剤シートを貼り合わせてもよい。
【0137】
以上の工程により、本実施形態の透明遮熱断熱部材の一例が得られ、その後に必要に応じてガラス基板等に貼り合わせて用いられる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0139】
(屈折率の測定)
以下の実施例・比較例にて記載した光学調整層、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の屈折率については、下記に示す方法にて測定した。
【0140】
先ず、片面を易接着処理した東洋紡社製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム"A4100"(商品名、厚さ:50μm)の易接着処理がされていない面に、各層形成用塗料を厚みが500nmとなるように塗布し、乾燥させて屈折率測定用サンプルを作製する。また、各層形成用塗料に紫外線硬化型塗料を用いる場合には、乾燥させた後に、更に高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させ、屈折率測定用サンプルを作製する。
【0141】
次に、作製した屈折率測定用サンプルの塗布裏面側に黒色テープを貼り、反射分光膜厚計"FE-3000"(商品名、大塚電子社製)にて反射スペクトルを測定し、測定した反射スペクトルに基づき、n-Cauchyの式からフィッティングを行い、各層の波長550nmの光の屈折率を求めた。
【0142】
(膜厚の測定)
以下の実施例・比較例にて記載した光学調整層、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の膜厚については、透明基材の赤外線反射層及び保護層が形成されていない面側に黒色テープを貼り、瞬間マルチ測光システム"MCPD-3000"(商品名、大塚電子社製)により、各層ごとに反射スペクトルを測定し、得られた反射スペクトルから、上記屈折率の測定により求めた屈折率を用いて、最適化法によるフィッティングを行い各層の膜厚を求めた。
【0143】
(実施例1)
<赤外線反射層付き透明基材の作製>
透明基材として東洋紡社製の片面を易接着処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“A4100”(商品名、厚さ:50μm)を用い、上記PETフィルムの易接着処理がされていない面側に、PETフィルム側から第1の金属亜酸化物層、金属層、第2の金属亜酸化物層を次のようにして形成した。先ず、チタンターゲットを用いて、反応性スパッタリング法により厚さ2nmの第1の金属亜酸化物層(TiOX層)を形成した。上記反応性スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Ar/O2の混合ガスを用い、ガス流量体積比はAr97%/O23%とした。続いて、上記第1の金属亜酸化物層上に銀ターゲットを用いて、スパッタリング法により厚さ12nmの金属層(Ag層)を形成した。上記スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Arガス100%を用いた。更に、上記金属層上にチタンターゲットを用いて、反応性スパッタリング法により厚さ2nmの第2の金属亜酸化物層(TiOX層)を形成した。上記反応性スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Ar/O2の混合ガスを用い、ガス流量体積比はAr97%/O23%とした。これにより、PETフィルム側から第1の金属亜酸化物層(TiOX層)/金属層(Ag層)/第2の金属亜酸化物層(TiOX層)の3層構造からなる赤外線反射層付きPETフィルムを作製した。上記TiOX層のxは1.5であった。
【0144】
上記方法で得られた赤外線反射層[第1の金属亜酸化物層(TiOX層)+金属層(Ag層)+第2の金属亜酸化物層(TiOX層)]の総厚さは16nmであり、上記総厚さに対する上記第2の金属亜酸化物層(TiOX層)の厚さの割合は12.5%であった。
【0145】
<光学調整層の形成>
東洋インキ社製の酸化チタン系ハードコート剤“リオデュラス TYT80-01”(商品名、固形分濃度25質量%、屈折率1.80[公称値])96.00質量部と、金属に対する腐食防止剤として硫黄含有基を有する2-メルカプトベンゾチアゾール1.20質量部(上記TYT80-01の固形分に対して5.00質量部)と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン902.80質量部とをディスパーにて配合し、光学調整塗料Aを作製した。次に、上記光学調整塗料Aを、マイクログラビアコータ(廉井精機社製)を用いて上記赤外線反射層の上に乾燥後の厚さが40nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ40nmの光学調整層を形成した。作製した光学調整層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.79であった。
【0146】
<中屈折率層の形成>
アクリル系共重合体A(メタクリル酸t-ブチル(Tg:107℃)/イソブテン/アクリル酸4-ヒドロキシブチル/クロトン酸=84質量部/5質量部/10質量部/1質量部、固形分濃度50質量%、水酸基価38mgKOH/g、酸価6mgKOH/g)の溶液35.28質量部と、東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)2.39質量部〔(メタ)アクリル系共重合体が有する水酸基(-OH)に対する、架橋剤のイソシアネート基(-NCO)のモル当量比:NCO/OH=1.0〕と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン962.33質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Aを作製した。次に、上記中屈折率塗料Aを、上記マイクログラビアコータを用いて上記光学調整層の上に乾燥後の厚さが100nmになるよう塗工し、120℃で2分間乾燥して熱硬化させることにより、厚さ100nmの中屈折率層を形成した。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.48であった。
【0147】
<高屈折率層の形成>
東洋インキ社製の酸化チタン系ハードコート剤“リオデュラス TYT80-01”(商品名、固形分濃度25質量%、屈折率1.80[公称値])200.00質量部と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン800.00質量部とをディスパーにて配合し、高屈折率塗料Aを作製した。次に、上記高屈折率塗料Aを、上記マイクログラビアコータを用いて上記中屈折率層の上に乾燥後の厚さが40nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ40nmの高屈折率層を形成した。作製した高屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.80であった。
【0148】
<低屈折率層の形成>
日揮触媒化成社製の中空シリカ含有低屈折率塗料“ELCOM P-5062”(商品名、固形分濃度3質量%、屈折率1.38[公称値])を低屈折率塗料Aとして用い、上記低屈折率塗料Aを、上記マイクログラビアコータを用いて上記高屈折率層の上に乾燥後の厚さが100nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ100nmの低屈折率層を形成した。作製した低屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.37であった。
【0149】
以上のようにして、光学調整層、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層から成る保護層を備えた赤外線反射フィルム(透明遮熱断熱部材)を作製した。得られた保護層の厚さは、280nmであった。
【0150】
<粘着剤層の形成>
先ず、片面がシリコーン処理された中本パックス社製の離型PETフィルム“NS-38+A”(商品名、厚さ:38μm)を用意した。また、綜研化学社製のアクリル系粘着剤“SKダイン2094”(商品名、固形分:25質量%)1000.00質量部に対して、和光純薬社製の紫外線吸収剤(ベンゾフェノン)12.50質量部及び綜研化学社製の架橋剤“E-AX”(商品名、固形分:5質量%)2.70質量部を添加し、ディスパーにて混合して粘着剤塗料を調製した。
【0151】
次に、上記離型PETフィルムのシリコーン処理された側の面上に、乾燥後の厚さが25μmとなるように上記粘着剤塗料を塗布し、乾燥させた後に粘着剤層を形成した。更に、この粘着剤層の上面に、上記赤外線反射フィルムの赤外線反射層が形成されていない側を貼り合わせて、4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルム(透明遮熱断熱部材)を作製した。
【0152】
<ガラス基板との貼り合わせ>
先ず、ガラス基板として、大きさ5cm×5cm、厚さ3mmのフロートガラス(日本板硝子社製)を用意した。次に、上記保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを3cm×3cmの大きさに切断し、離型PETフィルムを剥離して、上記粘着剤層付き赤外線反射フィルムの粘着剤層側を上記フロートガラスの中央部に貼り合せた。
【0153】
(実施例2)
東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)の使用量を3.59質量部(NCO/OH=2.0)に変更した以外は、実施例1の中屈折率塗料Aと同様にして中屈折率塗料Bを作製し、この中屈折率塗料Bを用いた以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.48であった。
【0154】
(実施例3)
<中屈折率塗料の作製>
先ず、アクリル系共重合体B(アクリル酸t-ブチル(Tg:43℃)/メタクリル酸2-ヒドロキシエチル/メタクリル酸=89質量部/10質量部/1質量部、固形分濃度50質量%、水酸基価42mgKOH/g、酸価6mgKOH/g)の溶液34.87質量部と、東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)2.58質量部(NCO/OH=1.0)と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン962.55質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Cを作製した。
【0155】
上記中屈折率塗料Cを用いた以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.48であった。
【0156】
(実施例4)
<中屈折率塗料の作製>
先ず、アクリル系共重合体C(メタクリル酸t-ブチル(Tg:107℃)/イソブテン/4-ヒドロキシブチルビニルエーテル=80質量部/10質量部/10質量部、固形分濃度50質量%、水酸基価46mgKOH/g)の溶液34.42質量部と、東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)2.79質量部(NCO/OH=1.0)と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン/トルエン=866.51質量部/96.28質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Dを作製した。
【0157】
上記中屈折率塗料Dを用いた以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.49であった。
【0158】
(実施例5)
光学調整層を設けずに、中屈折率層の形成を下記に変更し、高屈折率層の乾燥後の厚さを75nmに変更し、低屈折率層の乾燥後の厚さを90nmに変更した以外は、実施例1と同様にして中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層の3層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、315nmであった。
【0159】
<中屈折率層の形成>
先ず、アクリル系共重合体D(メタクリル酸t-ブチル(Tg:107℃)/アクリル酸4-ヒドロキシブチル/クロトン酸=84質量部/15質量部/1質量部、固形分濃度50質量%、水酸基価58mgKOH/g、酸価6mgKOH/g)の溶液33.21質量部と、東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)3.39質量部(NCO/OH=1.0)と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン963.40質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Eを作製した。次に、上記中屈折率塗料Eを、上記マイクログラビアコータを用いて前記赤外線反射層の上に乾燥後の厚さが150nmになるよう塗工し、120℃で2分間乾燥して熱硬化させることにより、厚さ150nmの中屈折率層を形成した。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.48であった。
【0160】
(実施例6)
金属に対する腐食防止剤として硫黄含有基を有する2-メルカプトベンゾチアゾールを添加しなかった以外は、実施例1の光学調整塗料Aと同様にして光学調整塗料Bを作製し、この光学調整塗料Bを用いた以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。作製した光学調整層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.80であった。
【0161】
(実施例7)
光学調整層の厚さを50nm、中屈折率層の厚さを60nm、高屈折率層の厚さを90nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、300nmであった。
【0162】
(実施例8)
光学調整層の厚さを50nm、中屈折率層の厚さを90nm、高屈折率層の厚さを60nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、300nmであった。
【0163】
(実施例9)
光学調整層の厚さを20nm、中屈折率層の厚さを180nm、高屈折率層の厚さを20nm、低屈折率層の厚さを80nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、300nmであった。
【0164】
(実施例10)
光学調整層の厚さを80nm、中屈折率層の厚さを250nm、高屈折率層の厚さを100nm、低屈折率層の厚さを250nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、680nmであった。
【0165】
(実施例11)
中屈折率層の厚さを180nm、低屈折率層の厚さを60nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、320nmであった。
【0166】
(比較例1)
低屈折率層の厚さを50nm、中屈折率層の厚さを180nmに変更した以外は、実施例1と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。得られた保護層の厚さは、310nmであった。
【0167】
(比較例2)
中屈折率層の形成を下記に変更した以外は、実施例6と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。
【0168】
<中屈折率層の形成>
アイカ工業社製のハードコート剤“Z-773”(商品名、固形分濃度34質量%、屈折率1.53[公称値])96.47質量部と、希釈溶剤として酢酸ブチル903.53部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Fを作製した。上記中屈折率塗料Fを、上記マイクログラビアコータを用いて上記光学調整層の上に乾燥後の厚さが100nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ100nmの中屈折率層を形成した。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.52であった。
【0169】
(比較例3)
<赤外線反射層付き透明基材の作製>
透明基材として片面を易接着処理した前述のPETフィルム“A4100”(厚さ:50μm)を用い、上記PETフィルムの易接着処理されていない面側に、PETフィルム側から第1の金属酸化物層、金属層、第2の金属酸化物層を次のようにして形成した。先ず、錫/亜鉛=90質量%/10質量%の金属組成から成るターゲットを用いて、反応性スパッタリング法により厚さ10nmの第1の金属酸化物層(ZTO層)を形成した。上記反応性スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Ar/O2の混合ガスを用い、ガス流量体積比はAr97%/O23%とした。続いて、上記金属酸化物層上に銀ターゲットを用いて、スパッタリング法により厚さ12nmの金属層(Ag層)を形成した。上記スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Arガス100%を用いた。更に、上記金属層上に錫/亜鉛=90質量%/10質量%の金属組成から成るターゲットを用いて、反応性スパッタリング法により厚さ10nmの第2の金属酸化物層(ZTO層)を形成した。上記反応性スパッタリング法におけるスパッタリングガスとしては、Ar/O2の混合ガスを用い、ガス流量体積比はAr97%/O23%とした。これにより、透明基材側から第1の金属酸化物層(ZTO層)/金属層(Ag層)/第2の金属酸化物層(ZTO層)の3層構造からなる赤外線反射層付きPETフィルムを作製した。
【0170】
上記方法で得られた赤外線反射層[第1の金属酸化物層(ZTO層)+金属層(Ag層)+第2の金属酸化物層(ZTO層)]の総厚さは32nmであり、上記総厚さに対する上記第2の金属酸化物層(ZTO層)の厚さの割合は31.3%であった。
【0171】
<低屈折率層の形成>
実施例1で用いた低屈折率塗料Aを、上記マイクログラビアコータ(廉井精機社製)を用いて上記赤外線反射層の上に乾燥後の厚さが60nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ60nmの低屈折率層を形成した。作製した低屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.37であった。
【0172】
以上のようにして、低屈折率層1層から成る保護層を備えた赤外線反射フィルムを作製した。上記保護層を備えた赤外線反射層付きPETフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして低屈折率層1層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。
【0173】
(比較例4)
<中屈折率層の形成>
共栄社化学社製の電離放射線硬化性アクリルポリマー溶液“SMP-250A”(商品名、固形分濃度50質量%)165.40質量部と、共栄社化学社製のリン酸基含有メタクリル酸誘導体“ライトエステルP-2M”(商品名)4.80質量部と、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製のフッ素含有ウレタン(メタ)アクリレートモノマー“Fomblin MT70”(商品名、固形分濃度80質量%)8.30質量部と、エボニックデグサジャパン社製のシリコーン変性アクリレート“TEGO Rad 2650”1.30質量部と、BASF社製の光重合開始剤“イルガキュア819”(商品名)4.80質量部と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン815.40質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Gを作製した。この中屈折率塗料Gを、上記マイクログラビアコータ(廉井精機社製)を用いて比較例3で用いた赤外線反射層の上に乾燥後の厚さが680nmになるよう塗工し、乾燥させた後、高圧水銀灯にて300mJ/cm2の光量の紫外線を照射して硬化させることにより、厚さ680nmの中屈折率層を形成した。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.49であった。
【0174】
以上のようにして、中屈折率層1層から成る保護層を備えた赤外線反射フィルムを作製した。上記保護層を備えた赤外線反射層付きPETフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして中屈折率層1層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。
【0175】
(比較例5)
比較例2の保護層の最外表面側に位置する層である低屈折率層に代えて、実施例1の中屈折率層を保護層の最外表面側に位置する層(乾燥後の厚さ100nm)として塗工、形成(120℃で2分間乾燥して熱硬化)した以外は、比較例2と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。
【0176】
(比較例6)
<中屈折率塗料の作製>
先ず、アクリル系共重合体E(メタクリル酸メチル(Tg:105℃)/メタクリル酸エチル(Tg:65℃)/アクリル酸4-ヒドロキシブチル=70質量部/25質量部/5質量部、固形分濃度50質量%、水酸基価19mgKOH/g)の溶液37.49質量部と、東ソー社製のイソシアネート系架橋剤“コロネートHX”(商品名、固形分濃度100質量%)1.26質量部(NCO/OH=1.0)と、希釈溶剤としてメチルイソブチルケトン961.25質量部とをディスパーにて配合し、中屈折率塗料Hを作製した。
【0177】
上記中屈折率塗料Hを用いた以外は、実施例6と同様にして4層から成る保護層を備えた粘着剤層付き赤外線反射フィルムを作製してガラス基板に貼り合わせた。作製した中屈折率層の屈折率を前述の方法で測定したところ1.49であった。
【0178】
<透明遮熱断熱部材の評価>
上記実施例1~11及び上記比較例1~6に関して、ガラス基板に貼り付けた状態での赤外線反射フィルム(透明遮熱断熱部材)の可視光線透過率、可視光線反射率、可視光線反射率の最大変動差、日射吸収率、遮蔽係数、熱貫流率を以下のように測定し、また、赤外線反射フィルムの耐塩水性、耐擦傷性、外観性について評価した。
【0179】
[可視光線透過率]
可視光線透過率は、ガラス基板側を入射光側として、波長380~780nmの範囲において、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”(商品名)を用いて分光透過率を測定し、JIS A5759-2008に基づき算出した。
【0180】
[可視光線反射率]
可視光線反射率は、ガラス基板側を入射光側として、波長380~780nmの範囲において、上記紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”を用いて分光反射率を測定し、JIS R3106-1998に準じて算出した。
【0181】
[反射率の最大変動差]
ガラス基板側を入射光側として、300~800nmの範囲において上記紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”を用いて分光反射率をJIS R3106-1998に基づき測定した。測定された可視光線反射スペクトルから前述した方法により、反射率における前述の「最大変動差ΔA」及び「最大変動差ΔB」を求めた。
【0182】
[日射吸収率]
日射吸収率は、ガラス基板側を入射光側として、波長300~2500nmの範囲において、上記紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”を用いて分光透過率及び分光反射率を測定し、JIS A5759-2008に準拠して求めた日射透過率及び日射反射率の値から算出した。
【0183】
[遮蔽係数]
遮蔽係数は、ガラス基板側を入射光側として、波長300~2500nmの範囲において、上記紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”を用いて分光透過率及び分光反射率を測定し、JIS A5759に準拠して日射透過率及び日射反射率を求め、JIS R3106-2008に準拠して垂直放射率を求め、その日射透過率、日射反射率及び垂直放射率の値から求めた。
【0184】
[熱貫流率]
熱貫流率は、島津製作所製の赤外分光光度計“IR Prestige21”(商品名)に正反射測定用アタッチメントを取り付け、赤外線反射フィルムの保護層側及びガラス基板側の分光正反射率を波長5.5~25.2μmの範囲において測定し、JIS R3106-2008に準拠して赤外線反射フィルムの保護層側及びガラス基板側の垂直放射率を求め、これに基づきJIS A5759-2008に準拠して熱貫流率を求めた。
【0185】
[耐塩水性]
先ず、上記紫外可視近赤外分光光度計“Ubest V-570型”を用いて、ガラス基板に貼り付けた赤外線反射フィルムの波長300~1500nmの範囲における分光透過率を測定し、波長1100nmの光の透過率TB(%単位)を測定した。その後、上記ガラス基板に貼り付けた赤外線反射フィルムを5質量%の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、この状態で50℃の恒温恒湿槽に入れ、30日保存する耐塩水性試験を行った。上記耐塩水性試験の終了後に、上記ガラス基板に貼り付けた赤外線反射フィルムを純水で洗浄し、自然乾燥した。続いて、上記と同様にして、上記耐塩水性試験後の上記ガラス基板に貼り付けた赤外線反射フィルムの波長1100nmの光の透過率TA(%単位)を測定した。以上の測定結果から、上記耐塩水性試験前後の波長1100nmの光の透過率の変差として、TA-TB
の値を算出した。
【0186】
[耐擦傷性]
透明遮熱断熱部材の保護層の耐擦傷性は、保護層上に白ネル布を配置し、1000g/cm2の荷重をかけた状態で、白ネル布を1000往復させた後、一定視野内において保護層の表面の状態を目視にて観察して、以下の3段階で評価した。
優良:傷が全くつかなかった場合
良 :傷が数本(5本以下)確認された場合
不良:傷が多数(6本以上)確認された場合
【0187】
[外観性]
透明遮熱断熱部材の外観(虹彩模様及び視野角による反射色の変化)は、3波長蛍光灯下で、透明遮熱断熱部材の保護層側の表面を目視にて観察し、以下の3段階で評価した。
優良:虹彩模様及び視野角による反射色の変化がほとんど観察されなかった場合
良 :虹彩模様及び/又は視野角による反射色の変化が少し観察された場合
不良:虹彩模様及び/又は視野角による反射色の変化が明らかに観察された場合
【0188】
以上の結果を、赤外線反射フィルム(透明遮熱断熱部材)の層構成と共に表1~5に示す。
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
表1~表3に示すように、実施例1~11の赤外線反射フィルム(透明遮熱断熱部材)は、過酷な外部環境を想定した耐塩水性試験においても良好な結果を示しており、フィルム表面に結露水や人の皮脂や汗等が付着したとしても、短期間で赤外線反射層の金属層が腐食劣化することはない。また、可視光線透過率が大きく、可視光線反射率の変動差も小さいため、窓ガラスに貼りつけた際にも透明性及び外観性を損なうことがない。また、遮蔽係数及び熱貫流率も小さく、夏季の遮熱性能と、冬季の断熱性能とが共に優れている。また、耐擦傷性も実用上、問題ないレベルとなっている。更に、日射吸収率が小さいため、窓ガラスへの施工後にガラスの熱割れを起こし難い。即ち、実用上、バランスの取れた透明遮熱断熱部材が得られていることが分かる。
【0195】
これに対し、比較例1は、最外表面側に位置する層(低屈折率層)の厚さが、60nmを下回ったため、耐擦傷性が劣った。
【0196】
また、比較例2及び6は、複数から成る保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層のいずれにも、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含んでいないため、耐塩水性試験において、赤外線反射層が腐食劣化を引き起こして、保護層が剥離してしまい、TA-TBの値も、各々、50.0、40.2と大きくなった。即ち、遮熱断熱機能をほとんど有さないものとなった。
【0197】
また、比較例3及び4は、保護層が、各々、低屈折率層、中屈折率層の1層から成り、また、該層に、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含んでいないため、耐塩水性試験において、赤外線反射層が腐食劣化を引き起こして、保護層が剥離してしまい、TA-TBの値も、各々、35.0、29.5と大きくなった。即ち、遮熱断熱機能をほとんど有さないものとなった。また、赤外線反射層の総厚さは共に32nmであり、更に赤外線反射層の第2の金属酸化物層(ZTO層)の厚さが共に10nmで赤外線反射層の総厚さの25%を超える31.3%に相当するため、日射吸収率が各々20.9%、21.5%と大きくなり、窓ガラスに施工した際のガラスの熱割れのリスクが高いものとなった。更に、比較例3は、保護層の厚さが60nmと薄いため、耐擦傷性において劣っていた。また、比較例4は、保護層が中屈折率層の1層で、厚さが可視光線の波長領域と重なる680nmであるため、外観性に劣っていた。
【0198】
また、比較例5は、複数から成る保護層の内、最外表面側に位置する層以外の層のいずれにも、硬化前樹脂成分として、水酸基価が30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である(メタ)アクリル系共重合体と、該水酸基と反応するポリイソシアネート系架橋剤とを含んでいないが、最外表面側に位置する中屈折率層に、硬化前樹脂成分として、上記(メタ)アクリル系共重合体と上記ポリイソシアネート系架橋剤とを含ませため、耐塩水性試験においては比較例2に比べて良好な結果を示した。また、最外表面側に位置する中屈折率層は電離放射線硬化型樹脂を含んでいないため、耐擦傷性は劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明は、高い遮熱性能及び断熱性能を維持したまま、過酷な外部環境を想定した耐塩水性試験における耐腐食劣化性に優れた透明遮熱断熱部材を提供できる。更に加えて、日射吸収率が低く、窓ガラス等に施工した際のガラスの熱割れのリスクも低減した外観性に優れた透明遮熱断熱部材を提供できる。
【符号の説明】
【0200】
10 透明遮熱断熱部材
11 透明基材
12 第1の金属亜酸化物層又は金属酸化物層
13 金属層
14 第2の金属亜酸化物層又は金属酸化物層
15 光学調整層
16 中屈折率層
17 高屈折率層
18 低屈折率層
19 粘着剤層
21 赤外線反射層
22 塗布型の保護層
23 機能層