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特許7446201紙製シート材の製造方法及び紙製シート材で構成される収容袋
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  • 特許-紙製シート材の製造方法及び紙製シート材で構成される収容袋 図1
  • 特許-紙製シート材の製造方法及び紙製シート材で構成される収容袋 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】紙製シート材の製造方法及び紙製シート材で構成される収容袋
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20240301BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240301BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240301BHJP
   B32B 38/16 20060101ALI20240301BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
B05D7/00 F
B65D65/40 D
B32B27/10
B32B38/16
D21H19/82
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020178830
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069891
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000106151
【氏名又は名称】株式会社サンエー化研
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】難波 睦雄
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107025(WO,A1)
【文献】特開2011-051242(JP,A)
【文献】特開2019-209580(JP,A)
【文献】特開2004-075076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタードラムの外周面に対向して、周方向に間隔をおいて表面がシームレスで平坦面の版を具備した印刷ユニットが複数個設置されると共に、各印刷ユニットの下流に乾燥ユニットが設置されているフレキソ印刷機を用い、35g/m2 以下の紙製の基材の少なくとも一方の面に対して、前記印刷ユニットで水系のヒートシール材によるヒートシール層を複数層形成する紙製シート材の製造方法であって、
前記センタードラムに前記紙製の基材を巻回して搬送する間に、前記印刷ユニットで4層以上のヒートシール層を積層すると共に、ヒートシール層の積層形成時において、1層のヒートシール層を形成した後、その下流側で空印刷工程を行なうことを特徴とする紙製シート材の製造方法。
【請求項2】
前記空印刷工程は、少なくとも前記紙基材に対して最初のヒートシール層を形成した後に行なわれることを特徴とする請求項1に記載の紙製シート材の製造方法。
【請求項3】
前記空印刷工程は、前記紙基材に対して最初のヒートシール層を形成した後、最上のヒートシール層を形成する前までの全てのヒートシール層毎に行なわれることを特徴とする請求項2に記載の紙製シート材の製造方法。
【請求項4】
前記紙製の基材に積層される水系のヒートシール材は、最初の1層目の粘度よりも最上の層の粘度が低いものが用いられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の紙製シート材の製造方法。
【請求項5】
前記水系のヒートシール材によるヒートシール層を形成するに際し、前記紙製の基材を乾燥した後のヒートシール層の固形分の残存量を、紙製の基材の重量に対して5~15%にしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の紙製シート材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール可能なヒートシール層を備えた紙製シート材の製造方法、及び、紙製シート材で構成される収容袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック性の基材にポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂材によるヒートシール層を押出成形等によって積層したシート材を用い、これを重ね合わせて周囲を溶着した収容袋が知られている。このような収容袋は、食品、日用品など、様々な収容物を収容するのに用いられるが、近年、環境上の問題から、プラスチック製の基材から紙製の基材にすることが行なわれている。このような紙製の基材で形成される収容袋は、例えば、食品分野で用いられるようになっているが、基材を紙製にしても、ヒートシール層として用いられるヒートシール材に、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂材が用いられてしまうと、環境上、十分とはいえない。
【0003】
そこで、特許文献1には、紙基材に対し、環境を考慮して、プラスチック材料を軽減した水系のヒートシール材(水系アイオノマーエマルジョン;水系樹脂)によるヒートシール層を2層以上形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6580291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、紙製の収容袋を形成する場合、用途によっては、かなり薄いものや通気性のあるものが望まれていることがある。従来、食品分野等で用いられている紙製の基材は、少なくとも70g/m2 以上の重いものが用いられており、このような紙基材であれば、上記した水系のヒートシール材を用いても、ヒートシール層の形成時に浸透して裏抜けするようなことはなく、十分な接着性を発揮することが可能である。
【0006】
しかしながら、薄く軽い紙基材(本発明では35g/m2 以下の紙基材を想定している)に対して、水系のヒートシール材によるヒートシール層を形成しようとすると、35g/m2 以下のように薄く、通気性が良い(目付が粗い)紙基材では、ヒートシール材が裏抜けする問題が発生してしまう。この場合、ヒートシール材の使用量を少なくすることで裏抜けの問題は回避できるものと考えられるが、ヒートシール材の積層量が少ないと、今度はシール強度が弱くなってしまい、収容袋にしたときに、シール部分(溶着部分)で剥離等が生じ易くなってしまう。
【0007】
上記した特許文献1には、紙基材に対してヒートシール層を積層、形成する手法については開示されていないが、本発明者は、上記のような薄く軽い紙基材に対して、紙基材を剥離、破損等させることなく、水系のヒートシール材を積層する手法として印刷機を用いることを着想した。印刷機としては、グラビヤ印刷機、フレキソ印刷機が考えられるが、グラビヤ印刷機を用いると、紙基材を搬送する際に大きな引張力が作用してしまい、薄く軽い紙基材では搬送時に破れて、効果的にヒートシール層を形成することはできない。また、フレキソ印刷機を用いると、グラビヤ印刷機とは異なり、紙基材に対して大きな引張力が作用しないため、印刷によってヒートシール層を形成することは可能と考えられるが、紙基材が35g/m2 以下のように薄く、通気性が良い(目付が粗い)ものになってくると、被着時にヒートシール材が裏抜けし易くなり、印刷工程時にブロッキングが発生して、安定且つ効果的にヒートシール層を形成できなくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、35g/m2 以下の紙製の基材に対して、水系のヒートシール層を安定して形成することを可能にする紙製シート材の製造方法、及び、紙製シート材で構成される収容袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る紙製シート材の製造方法は、センタードラムの外周面に対向して、周方向に間隔をおいて表面がシームレスで平坦面の版を具備した印刷ユニットが複数個設置されると共に、各印刷ユニットの下流に乾燥ユニットが設置されているフレキソ印刷機を用い、35g/m2 以下の紙製の基材の少なくとも一方の面に対して、前記印刷ユニットで水系のヒートシール材によるヒートシール層を複数層形成する構成であり、前記センタードラムに前記紙製の基材を巻回して搬送する間に、前記印刷ユニットで4層以上のヒートシール層を積層すると共に、ヒートシール層の積層形成時において、1層のヒートシール層を形成した後、その下流側で空印刷工程を行なうことを特徴とする。
【0010】
上記したように、35g/m2 以下の紙製の基材に対して、水系のヒートシール材を積層するに際し、本発明では、センタードラムタイプのフレキソ印刷機を用いることを特徴とする。このようなフレキソ印刷機は、公知のように、センタードラム(大きい回転ロール)の外周面に、紙等の印刷対象物を巻き付けて搬送しながら順次、印刷ユニット(インクユニット)で模様、図柄等を形成する構成であり、センタードラムの周囲には、周方向に沿って、印刷ユニットが所定の間隔をおいて複数個設置されると共に、各印刷ユニットの下流には、乾燥ユニットが設置された構造となっている。
【0011】
一般的に、各印刷ユニットは、センタードラムに対して接触しながら回転する版(スリーブ)と、版の表面に水系のヒートシール材(通常のフレキソ印刷ではインクとなる)を付着させるアニックスロールと、アニックスロールに水系のヒートシール材を供給するドクターチャンバーと、を備えており、各印刷ユニットで印刷(積層)されたヒートシール材は、印刷ユニットの下流に配設された乾燥ユニットを通過して乾燥され、その上に次の印刷ユニットによって新たなヒートシール材が塗布(積層)される。
【0012】
この場合、本発明では、前記印刷ユニットを利用して、紙製の基材に対して4層以上のヒートシール層を積層するように構成されており、1層のヒートシール層(4層以上のヒートシール層のいずれか1層以上のヒートシール層)を形成した後、その下流側で空印刷工程を設けるようにしている。すなわち、紙製の基材に、順次、積層されて行くヒートシール材が、続く印刷ユニットで印刷を行なわない空印刷部分を通過して、更に乾燥ユニットを通過することにより、その前段階で印刷されたヒートシール材を効果的に乾燥することができる。このため、本発明において特定される薄く目付が粗い紙製の基材(35g/m2 以下の紙製の基材)であっても、ヒートシール材が裏抜けすることが抑止され、順次、安定して積層して行くことが可能となる。
【0013】
なお、上記した空印刷工程は、全ての層(最上の層を除く)において、各層を被着する毎に行なうことが好ましいが、いずれかの層(1つ以上の層であれば良い)を被着した後に行なうようにしても良い。特に、紙製の基材に対して、少なくとも第1層(最初に積層される層)を被着した後に行なうことで、基材に対するヒートシール層が安定し裏抜けを効果的に抑制することができる。また、1つの印刷工程の後、1つの印刷ユニットを空通しする以外にも、2つ以上の印刷ユニットを空通しするようにしても良い。
【0014】
また、本発明は、35g/m2 以下の紙製の基材の少なくとも一方の面に対して水系のヒートシール材によるヒートシール層が4層以上形成された紙製のシート材によって構成される収容袋を提供するのであり、前記収容袋は、前記紙製のシート材を屈曲して折り重なった状態で両サイドが熱溶着して構成されたもの、又は、前記紙製シート材を対向して、両サイド及び底部が熱溶着して構成されたものであり、前記紙製の基材に積層される水系のヒートシール材は、最初の1層目の粘度よりも最上の層の粘度が低いことを特徴とする。
【0015】
上記した構成では、35g/m2 以下の紙製の基材を用いるため、軽く、通気性の良い収容袋が得られる。収容袋を構成する紙製の基材の少なくとも一方の面には、水系のヒートシール材によるヒートシール層が4層以上形成されており、収容袋は、このような紙製シート材を屈曲して折り重なった状態で両サイドが熱溶着されるか、或いは、2枚の紙製シート材を対向して、両サイド及び底部が熱溶着されており、上記したように、ヒートシール層が4層以上形成されているので、十分なシール強度を得ることが可能となる。この場合、水系のヒートシール材は、粘度が低いほど、シール強度が高くなり、かつ、浸透性が高くなるという特性がある。このため、実際のシールがされる最上の層については、粘度の低いものを用いてシール性を高め、1層目(基材に最初に積層される第1層目)には、それよりも粘度が高いものを用いることで、紙製の基材に対する浸透を効果的に防止しつつ、シール強度の安定した収容袋を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る紙製シート材の製造方法によれば、35g/m2 以下の紙製の基材に対して、水系のヒートシール材によるヒートシール層を安定して形成することが可能となる。また、本発明に係る収容袋によれば、35g/m2 以下の紙製シート材を用いても、シール強度が安定した構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、本発明に係る紙製シート材の全体構成を示す図、(b)は積層構造を示す図。
図2】(a)は、本発明の紙製シート材を形成するためのフレキソ印刷機の構成例を示す概略図、(b)は、フレキソ印刷機の別の構成例を示す概略図。
図3】(a)は、収容袋の一例(ガゼット袋)を示す図、(b)は、収容袋の別の例(三方袋)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における紙製シート材1は、図1(a)(b)に示すように、紙製の基材(紙基材とも称する)1Aと、紙基材1Aの一方の面に被着、積層される水系のヒートシール材1a,1b,1c,1dによる複数層で構成されるヒートシール層1Bと、を備えて構成される。図に示すヒートシール層1Bは、後述するフレキソ印刷機によって、紙基材と接触する下側から順に、4層の水系のヒートシール材が積層された構造となっているが、積層数については、4層以上であれば限定されることはない。
【0019】
前記紙製の基材については、35g/m2 以下のものが用いられ、例えば、薄葉紙・グラシン紙・純白ロールや丸網・ヤンキー品と称される薄物紙やセロハン、レーヨン等が該当する。また、紙を構成する具体的な素材については、特に限定されることはなく、例えば、植物性天然繊維、動物性天然繊維、化学繊維等が用いられる。ここで、紙基材の単位面積当たりの重量を、35g/m2 以下としたのは、環境を配慮した最近の紙製の基材(紙製の収容袋)では、50g/m2 以上、主に、70g/m2 以上のものが用いられるようになっているが、このような基材は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂材によるヒートシール材を押出成形で形成(被着)することが可能であり、環境に十分に配慮されていないためである。また、そのような紙製の基材については、比較的、強度が強いことから、水系のヒートシール材を用いても、グラビヤ印刷機等を用いて形成することが可能なためである(実際、汎用化されている紙製の基材は、50g/m2 以上のものが用いられている)。
【0020】
本発明は、それよりも薄く、かつ、通気性の高い紙基材(35g/m2 以下)に対して、安定して水系のヒートシール材を積層して、シール強度の強い紙製シート材を提供することを目的としており、後述するフレキソ印刷機(詳細には、センタードラム方式のフレキソ印刷機)を用いて、シール強度が強く、ヒートシール層の形成時に、浸透して裏抜け(ブロッキング)現象を起こさない紙製シート材を効率良く製造することを目的としている。フレキソ印刷機で印刷すると、紙基材に対して印圧がかからないこと、紙基材にテンションがかからないこと、水系のヒートシール材を薄く積層印刷できる(裏抜けしない)等のメリットがある。
なお、本発明において、用いられる紙基材の下限値については特に限定されることはないが、汎用化されている紙基材の下限、及び、上記したフレキソ印刷機を用いて安定したヒートシール層の積層状態を得ることを考慮すると、9g/m2 程度と考えられる。
【0021】
上記した紙基材に対して積層されるヒートシール材は、環境を考慮して水系のもの(水性化された樹脂)が用いられ、具体的には、水溶性型の水系樹脂、水分散型の水系樹脂等を用いることができる。水性化される樹脂材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂等を用いることができ、これらを水媒体に分散したもの(ディスパージョン型)や、乳化したもの(エマルジョン型)がヒートシール材として上記した紙基材に対して積層される。このような水系のヒートシール材については、各種、汎用化されたものを用いることができるが、紙基材の素材、重量(目付)などに応じて、適切なものを選択して用いれば良い。
【0022】
図2(a)(b)は、上記した構成の紙製シート材を製造するためのフレキソ印刷機(センタードラム方式)の概略構成例を示す図であり、(a)は6印刷ユニット型、(b)は、8印刷ユニット型を示す図である。
【0023】
図2(a)に示すように、6印刷ユニット型のフレキソ印刷機10は、上記した紙基材1Aが搬送されながら巻き回されるセンタードラム20と、センタードラム20の外周面に対向して、周方向に沿って所定の間隔をおいて、複数(6個)の印刷ユニット21,22,23,24,25,26が配設される。各印刷ユニットは、センタードラム20に対して接触しながら回転する版(スリーブ)21a,22a,23a,24a,25a,26aと、版の表面に前記水系のヒートシール材を付着させるアニックスロール21b,22b,23b,24b,25b,26bと、アニックスロールに水系のヒートシール材を供給するドクターチャンバー21c,22c,23c,24c,25c,26cと、を備えている。また、各印刷ユニットで印刷(積層)されたヒートシール材は、その下流に配設された乾燥ユニット21A,22A,23A,24A,25A,26Aで乾燥される。
【0024】
また、図2(b)に示す8印刷ユニット型のフレキソ印刷機10は、図2(a)に示す構成に対して、更に、印刷ユニット27,28が追加された構成となっている。各印刷ユニット27,28は、6印刷ユニット型のフレキソ印刷機と同様、センタードラム20に対して接触しながら回転する版(スリーブ)27a,28aと、版の表面に前記水系のヒートシール材を付着させるアニックスロール27b,28bと、アニックスロールに水系のヒートシール材を供給するドクターチャンバー27c,28cとを備えており、各印刷ユニット27,28の下流側には、乾燥ユニット27A,28Aが配設されている。
【0025】
各印刷ユニットに用いられる版21a~26a(27a,28a)は、表面がシームレスで平坦面を具備した樹脂製のシート部材で構成されており、プレートシリンダーに巻回されて、ヒートシール層を形成する際、紙基材1Aに対して弱い印圧(キスタッチとも称される)で接触して、搬送される紙基材に対して、順次、水系のヒートシール材を転写する。上記した各印刷ユニットに設置される版は、表面がシームレスで平坦面となった樹脂製であるため、センタードラムに対してキスタッチで印圧を付与して転写する際、基材の表面に対して均等にヒートシール層を積層して行くことが可能である。また、版は、表面がシームレスで平坦面であるため、基材全面に対して印圧の調整がし易く、本発明のように、通気性の高い(35g/m2 以下)紙基材に水系のヒートシール材を積層する場合、各版は、センタードラムに対してキスタッチした状態で、数十μmの範囲内で微調整(印圧の調整)することで、各ヒートシール層を適切な肉厚で積層することが可能となる。
【0026】
そして、前記センタードラム20に紙製の基材を巻回して搬送する間に、通過する印刷ユニットによって、4層以上のヒートシール層を積層すると共に、ヒートシール層を形成した後、その下流側で空印刷工程(印刷ユニットでヒートシール層を形成することなく通過させる)を設けるようにしている。
具体的には、例えば、図2(a)に示す6印刷ユニット型のフレキソ印刷機10を用いた構成であれば、各印刷後(1層毎)に1回の空印刷工程を設けるようにする。すなわち、印刷ユニット21,23,25で印刷を行ない、印刷ユニット22,24,26は空印刷とし、これを2回通しすることによって、6層のヒートシール層を形成することが可能である。この際、空印刷される印刷ユニット22,24,26の下流側に設置された乾燥ユニット22A,24A,26Aでは乾燥工程が行なわれる。
【0027】
或いは、印刷ユニット21,24で印刷を行ない、各印刷後に2回の空印刷工程(印刷ユニット22,23、及び、印刷ユニット25,26では空印刷)を設け、これを2回通しすることで、4層のヒートシール層を形成することも可能である。この場合、印刷ユニット22,23及び印刷ユニット25,26では空印刷であるものの、乾燥ユニット22A,23A,25A,26Aでは乾燥工程が行なわれる。
【0028】
また、例えば、図2(b)に示す8印刷ユニット型の場合、各印刷後に1回の空印刷工程を設けるのであれば、印刷ユニット21,23,25,27で印刷を行ない、これを2回通しすることで、8層のヒートシール層を形成することが可能となる。この際、印刷ユニット22,24,26,28では空印刷であるものの、乾燥ユニット22A,24A,26A、28Aでは乾燥工程が行なわれる。なお、1回通しでは、4層のヒートシール層を形成することが可能である。
【0029】
本実施形態では、上記したように、紙基材にヒートシール層を被着するに際し、印刷工程後に空印刷工程を設け、その部分で印刷することなく乾燥時間を増やすと共に乾燥ユニットで乾燥させるようにしている。実際に、同一の紙基材(レーヨン紙で20g/m2 )と同一の水系のヒートシール材(三井化学社製の商品名ケミパールS300)を用い、同一の印刷条件で、図2(a)に示すフレキソ印刷機を用いて1回通しで6層のヒートシール層を連続形成した場合の紙製シート材と、2回通しで6層のヒートシール層を形成した場合(1層目から5層目までの各印刷後に1回の空印刷工程を設ける)の紙製シート材を、それぞれ複数枚形成し、各層におけるシール強度について総合的に比較・検証したところ、下記の表1のように、空印刷工程を設けた方が良好な結果が得られた。同様に、図2(b)に示すフレキソ印刷機を用いて1回通しで8層のヒートシール層を連続形成した場合の紙製シート材と、2回通しで8層のヒートシール層を形成した場合(1層目から7層目までの各印刷後に1回の空印刷工程を設ける)の紙製シート材を、それぞれ複数枚形成し、各層におけるシール強度について総合的に比較・検証したところ、空印刷工程を設けた方が良好な結果が得られた(表1参照)。
【0030】
【表1】
【0031】
これは、各印刷後に空印刷工程、及び、乾燥工程を設けたことで、水系のヒートシール材が、紙基材との間及びヒートシール層間で、安定して定着(付着・被膜)することができ、これにより、安定したシール強度になったものであると考えられる。
【0032】
ところで、上記した紙製の基材に対して、順次積層される水系のヒートシール材については、粘度を考慮する必要がある。通常、粘度が低くなると、ヒートシール強度は高くなるが、粘度が低いと、紙基材に対して被着する際(特に、第1層目を形成する際)、安定した被膜層を形成し難くなり、裏抜けが生じ易くなる。ここで、実際に、粘度の異なる水系のヒートシール材について、同一の紙基材(レーヨン紙で20g/m2 のものを用いた)に対し、同一の印刷条件で1層~4層のヒートシール層を形成し、そのシール強度について複数回に亘って、層毎に比較・検証したところ、以下の表2の結果が得られた。
【0033】
この場合、図2(b)に示すフレキソ印刷機を用いて1回通しで4層のヒートシール層を、各印刷工程後に空通しすることで行なった。また、積層した水系のヒートシール材としては、三井化学社製の商品名ケミパールS300、及び、ケミパールS500を用いた(粘度については、ケミパールS300が400mPa・s、ケミパールS500が150mPa・sであり、ケミパールS300の方の粘度がケミパールS500よりも高い)。
【0034】
【表2】
【0035】
この評価結果によれば、同一粘度のヒートシール材を積層するよりも、実際に熱溶着される最上の層のヒートシール材については低粘度のものを用い、紙基材に接触する第1層目については、それよりも粘度が高いものを用いて積層した方が良好なシール強度を得ることができた。これは、1層目が紙基材に浸透することなく、安定して層形成されたことによるものと考えられる。なお、この検証では、1層目・2層目を高粘度のヒートシール材とし、3層目・4層目を低粘度のヒートシール材としたが、2層目~4層目を低粘度のヒートシール材にしても良いし、1層目~3層目を高粘度のヒートシール材にしても良い。
【0036】
また、上記したように、印刷毎に、少なくとも1回の空印刷工程を設けた水系のヒートシール材を積層するに際し、何層形成すれば、ある程度のシール強度が得られるかについて複数回に亘って、層毎に比較・検証したところ、以下の表3の結果が得られた。ここでは、図2(b)の8印刷ユニット型を用いて、1層目と2層目に粘度の高いケミパールS300を塗布し、3層目と4層目に粘度が低いケミパールS500を塗布した。また、これを1回通した場合(4層形成)と、2回通しした場合(8層形成)について、層毎にシール強度を評価した。
【0037】
【表3】
【0038】
この評価試験結果、及び、表1,2の評価試験結果によれば、少なくとも紙基材に対して4層のヒートシール層を積層すれば、ある程度のシール強度を得ることができると考えられる。この場合、表3の5層目、6層目では、良好なシール強度が得られているが、4層目と比較すると、若干ではあるもののシール強度が弱い結果が得られた。これは、2回通しした際において、5層目の状態、又は、6層目の状態で熱溶着すると、1層目、2層目と同様、その部分は粘度が高いヒートシール材になっていることから、粘度が低いヒートシール材が最上層にあるもの(表3の4層目)と比較して、若干、シール強度の低下があったものと思われる。また、この表3で見られるように、2回通しした場合において、7層目、8層目については、ヒートシール性の良好な粘度の低いヒートシール材が積層・露出したこと、及び、層数が多くなったことで、5層目、6層目よりもさらに良好なシール強度を得ることができた。
【0039】
前記水系のヒートシール材については、上記した印刷工程において、乾燥作用を受けると、最終的に紙基材1Aに対して、層毎に固形分が積層膜となって定着され、紙製シート材1となる。この固形分については、紙基材の材質とは異なり、表面を平滑化するため、紙基材の重量に対して多すぎると、紙の地合いが無くなってしまい、紙本来の質感が得られなくなってしまう。特に、薄い紙基材になれば、ヒートシール材の使用量を減らして、薄塗する回数を増やす(層数を多くする)ことが好ましい。
【0040】
紙基材に被着される水系のヒートシール材については、乾燥した段階で、少なくとも紙の地合いを残すためには、紙基材の重量に対して50%未満にする必要があり、少なくとも25%以下、より好ましくは15%以下にすることで、紙としての地合いを残すことが可能となる。実際に、30g/m2 の紙基材に対して、1層当たりの固形分が0.3~0.4gとなるように乾燥させながら、8層のヒートシール層を形成した場合(合計で単位面積当たりの固形分の重量は2.4g~3.2gとなり、紙基材の重量に対して8%~10.7%程度の固形分が残る)、良好なシール特性を得ることができ、紙としての地合いも損なわない程度の結果が得られる(上記したいずれの評価試験においても、1層当たりの固形分が0.3~0.4gとなるように乾燥させており、最終的に、紙基材の重量に対して10%前後の固形分が残るようにしている)。
【0041】
また、固形分の残存量については、あまり少なすぎると、シール強度が低下することから、少なくとも5%確保することが望ましい。すなわち、紙製の基材を乾燥した後のヒートシール層の固形分の残存量については、紙製の基材や水系のヒートシール材の種類に関係なく、紙の重量に対して、5~15%に設定しておけば、一定のシール強度が得られ、かつ、紙としての地合いを損傷しないものと思われる。また、紙基材に対して、各ヒートシール層を形成するにあたっては、各印刷ユニット及び各乾燥ユニットにおいて、均等(略均等も含む)な膜厚となるように、ヒートシール材の塗布量を制御することで、各層間でのシール強度のバラツキを抑えることができ、最終的に安定したシール強度を得ることが可能となる。
【0042】
次に、上記したような製造方法で製造された紙製シート材を、実際に熱溶着して図3(a)に示すガゼット袋50、及び、図3(b)に示す三方袋60をそれぞれ2つずつ作成し、溶着部51,52、及び、溶着部61,62,63についてシール強度を測定した。ガゼット袋50は、1枚の紙製シート材1を折り曲げて、底部分にマチを作って両サイド(溶着部51,52)を溶着したものであり、三方袋60は、2枚の紙製シート材1を対向するように重ねて、両サイド(溶着部61,62)と、底部(溶着部63)を溶着したものである。
【0043】
使用した紙基材は、レーヨン紙で20g/m2 のものを用い、水系のヒートシール材としては、表3で示すようにケミパールS300,S500を用い、2回通しで8層形成した。溶着に際しては、図3(a)のガゼット袋50では、紙製シート材の紙基材の目の流れ方向に対して、両サイドの溶着部51,52が直交方向となるように設定し、図3(b)の三方袋60では、紙製シート材の紙基材の目の流れ方向に対して、両サイドの溶着部61,62が平行する方向となるように設定した。
【0044】
図3(a)のガゼット袋では、各溶着部51,52について、それぞれ3個所のシール測定部ア~ウ及びエ~カについてのシール強度を測定し、図3(b)の三方袋では、各溶着部61,62,63について、それぞれ4個所のシール測定部ア~エ、オ~ク、及び、ケ~シについてのシール強度を測定した。測定に際しては、50Nの荷重で引っ張り、計測単位はN/15mmとしたところ、それぞれ、各シール測定部で、以下の表4の結果が得られた。
【0045】
【表4】
【0046】
この表で見られるように、目の流れに対して、直交する方向の両サイドの溶着部51,52を熱溶着したガゼット袋50では、いずれの個所においても、略安定してシール強度が高い溶着結果が得られた。これに対し、目の流れに対して、平行する方向の両サイドの溶着部61,62を熱溶着した三方袋60では、両サイドの溶着部におけるシール強度が安定せず、シール強度も低いという結果が得られた(シール測定部ア~エ、及び、オ~ク参照)。なお、目の流れに対して、直交する方向の底部の溶着部63(シール測定部ケ~シ)については、略安定してシール強度が高い溶着結果が得られた。
【0047】
この結果によれば、上記した方法で形成された紙製シート材で収容袋を形成するに際しては、熱溶着される両サイドが、紙基材の目の流れに対して直交方向となるように設定すれば、収容袋として剥離、破損等を生じ難くすることができる。この場合、三方袋では、底部の溶着部が目の流れに対して平行方向となるが、破損する部分は、主に開口端の位置Pであることから、収容袋としては破損等し難い構成とすることが可能である。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、ヒートシール層の層数、各層の肉厚、固形分の残存量等については、フレキソ印刷機の構成、使用される紙基材の構成(重さ、厚さ、目付等)、及び、使用される水系のヒートシール材の構成等に応じて、適宜、調整することが可能である。また、ヒートシール材の印刷工程時において、空通しを行なう印刷ユニット数や、フレキソ印刷機に対して1回通しするか、複数回通しするか等についても、適宜、変更することが可能である。
【0049】
本発明は、35g/m2 以下の紙基材上に、安定して水系のヒートシール材が積層できるように、フレキソ印刷機を用いてヒートシール層を形成する構成に特徴がある。この場合、上記したような空印刷工程を設けない構成であっても、4層以上のヒートシール層については、各層の肉厚や残存固形分を容易に制御することが可能である。また、35g/m2 以下の紙基材において、特に30g/m2 以下の紙基材になると、かなり薄くなり、水系のヒートシール材を積層する際に裏抜けが生じ易くなる。本発明では、フレキソ印刷機を用いることで、ヒートシール層が裏抜けすることなく、極力薄くしつつ4層以上を安定して積層することが可能となり、従来では実施されていなかった30g/m2 以下の紙基材に対しても、ヒートシールが行なえる紙製シート材を得ることが可能となる。また、本発明では、紙基材の両面にヒートシール層を形成しても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 紙製シート材
1A 紙基材
1B ヒートシール層
10 フレキソ印刷機
20 センタードラム
21~28 印刷ユニット
21A,22A,23A,24A,25A,26A,27A,28A 乾燥ユニット
50 収容袋(ガゼット袋)
51,52 溶着部
60 収容袋(三方袋)
61,62,63 溶着部
図1
図2
図3