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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】歯科用石膏粉末
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20240301BHJP
   A61K 6/90 20200101ALI20240301BHJP
【FI】
A61C13/34 A
A61K6/90
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020500268
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2018039505
(87)【国際公開番号】W WO2019159438
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-08-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018025667
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】森 大三郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉永 匡寿
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】後藤 泰輔
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208662(WO,A1)
【文献】G. J. WILLIAMS,外2名,「A “Coulter” particle size analysis of dental gypsum materials」,Journal of materials science letters,1984年,Vol.3,pp.93-94
【文献】荒川 正文,「粒度分布とその測定」,色材,日本,1970年,Vol.43,pp.333-343
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/34
A61K 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水石膏及び減水剤を含み、
前記半水石膏に対する前記減水剤の質量比が0.1%以上1%以下であり、
粒径が10μm以下である粒子の含有量が20体積%以上30体積%以下であり、
粒径が20μm以下である粒子の含有量が45体積%以上55体積%以下であり、
粒径が30μm以下である粒子の含有量が58体積%以上72体積%以下である、歯科用石膏粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用石膏粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔内の状態を再現する石膏模型として、作業用模型、顎模型等が用いられている。
【0003】
石膏模型は、一般に、印象材を用いて、口腔内の印象を採得した陰型内に、石膏スラリーを注入した後、硬化させることにより、作製されている。
【0004】
歯科医院や歯科技工所では、ゴム製の小型ボール(ラバーボール)に、所定量の歯科用石膏粉末と水を入れた後、石膏ベラを用いて練和することにより、石膏スラリーが調製されている。
【0005】
しかしながら、訪問診療を実施する場合に、上記の石膏スラリーの調製方法を用いると、多種類の用具を用意する必要があり、煩雑であるため、より簡便な石膏スラリーの調製方法が求められていた。
【0006】
特許文献1には、歯科用石膏粉末と水をボトルに入れて密封した後、ボトルを振とうする石膏スラリーの調製方法が開示されている。このとき、歯科用石膏粉末は、半水石膏及びポリカルボン酸塩系減水剤を含み、半水石膏に対するポリカルボン酸塩系減水剤の質量比が0.05%以上0.8%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2017/208662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、石膏硬化体の強度を高くするためには、石膏スラリーを調製する際に、歯科用石膏粉末と水が均一に混合するまで振とうする必要があるが、振とう時間を短くすることが望まれている。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を短くしても、石膏硬化体の強度を高くすることが可能な歯科用石膏粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、歯科用石膏粉末において、半水石膏及び減水剤を含み、前記半水石膏に対する前記減水剤の質量比が0.1%以上1%以下であり、粒径が10μm以下である粒子の含有量が20体積%以上30体積%以下であり、粒径が20μm以下である粒子の含有量が45体積%以上55体積%以下であり、粒径が30μm以下である粒子の含有量が58体積%以上72体積%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を短くしても、石膏硬化体の強度を高くすることが可能な歯科用石膏粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0013】
<歯科用石膏粉末>
本実施形態の歯科用石膏粉末は、半水石膏及び半水石膏を含む。
【0014】
ここで、本実施形態の歯科用石膏粉末を、後述するように、水と共にボトルに入れて密封した後、ボトルを振とうすることにより、石膏スラリーを調製することができる。
【0015】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する減水剤の質量比は、0.1%以上1%以下であり、0.2%以上0.5%以下であることが好ましい。歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する減水剤の質量比が0.1%未満であると、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を長くしないと、石膏硬化体の強度を高くすることができない。一方、歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する減水剤の質量比が1%を超えると、著しく硬化が遅延するため、石膏硬化体の強度を高くすることができない。
【0016】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の粒径が10μm以下である粒子の含有量は、15体積%以上35体積%以下であり、20体積%以上30体積%以下であることが好ましい。歯科用石膏粉末中の粒径が10μm以下である粒子の含有量が15体積%未満である場合又は35体積%を超える場合は、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を長くしないと、石膏硬化体の強度を高くすることができない。
【0017】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の粒径が20μm以下である粒子の含有量は、40体積%以上55体積%以下であり、45体積%以上55体積%以下であることが好ましい。歯科用石膏粉末中の粒径が20μm以下である粒子の含有量が40体積%未満である場合又は55体積%を超える場合は、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を長くしないと、石膏硬化体の強度を高くすることができない。
【0018】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の粒径が30μm以下である粒子の含有量は、55体積%以上75体積%以下であり、58体積%以上72体積%以下であることが好ましい。歯科用石膏粉末中の粒径が30μm以下である粒子の含有量が55体積%未満である場合又は75体積%を超える場合は、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を長くしないと、石膏硬化体の強度を高くすることができない。
【0019】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の粒径が67.5μm以下である粒子の含有量は、80体積%以上96体積%以下であることが好ましい。本実施形態の歯科用石膏粉末中の粒径が67.5μm以下である粒子の含有量が80体積%以上96体積%以下であると、石膏スラリーを調製する際の振とう時間を短くした場合の石膏硬化体の強度がさらに高くなる。
【0020】
<半水石膏>
半水石膏としては、α半水石膏、β半水石膏が挙げられ、α半水石膏とβ半水石膏を併用してもよい。
【0021】
<減水剤>
減水剤としては、特に限定されないが、変性ポリカルボン酸系の減水剤、ポリエーテル・ポリカルボン酸系の減水剤、メラミンスルホン酸系の減水剤、ナフタレンスルホン酸系の減水剤、リグニンスルホン酸系の減水剤等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0022】
変性ポリカルボン酸系の減水剤の市販品としては、例えば、MELFLUX AP 101 F(SKWイーストアジア社製)等が挙げられる。
【0023】
ポリエーテル・ポリカルボン酸系の減水剤の市販品としては、例えば、MELFLUX 2641 F、MELFLUX 2651 F、MELFLUX 5581 F、MELFLUX 4930 F、MELFLUX 6681 F、MELFLUX BF 11 F(以上、SKWイーストアジア社製)等が挙げられる。
【0024】
メラミンスルホン酸系の減水剤の市販品としては、例えば、MELMENT F10M、MELMENT F4000(以上、SKWイーストアジア社製)等が挙げられる。
【0025】
ナフタレンスルホン酸系の減水剤の市販品としては、例えば、マイテイ100(花王社製)、POWERCON-100(SKWイーストアジア社製)等が挙げられる。
【0026】
リグニンスルホン酸系の減水剤の市販品としては、例えば、LIGNOSULFONATE ARBO N18、LIGNOSULFONATE ARBO S01P、NORLIG SA(以上、SKWイーストアジア社製)等が挙げられる。
【0027】
<二水石膏>
本実施形態の歯科用石膏粉末は、二水石膏をさらに含むことが好ましい。これにより、石膏スラリーの硬化を促進することができる。
【0028】
二水石膏としては、天然石膏、化学石膏が挙げられ、天然石膏と化学石膏を併用してもよい。
【0029】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する二水石膏の質量比は、0.2%以上4%以下であることが好ましく、0.3%以上2%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する二水石膏の質量比が0.2質量%以上であると、石膏スラリーの硬化を促進することができ、4%以下であると、硬化膨張を抑制することができる。
【0030】
<硫酸カリウム>
本実施形態の歯科用石膏粉末は、硫酸カリウムをさらに含むことが好ましい。これにより、硬化膨張を抑制することができる。
【0031】
本実施形態の歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する硫酸カリウムの質量比は、0.1%以上3%以下であることが好ましく、0.3%以上2%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用石膏粉末中の半水石膏に対する硫酸カリウムの質量比が0.1%以上3%以下であると、石膏スラリーの硬化を促進することができる。
【0032】
<他の成分>
本実施形態の歯科用石膏粉末は、硬化膨張抑制剤、硬化遅延剤、着色剤、軽量化剤等をさらに含んでいてもよい。
【0033】
硬化膨張抑制剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が挙げられる。
【0034】
硬化遅延剤としては、例えば、クエン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩等の塩類;デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0035】
<石膏スラリーの調製方法>
本実施形態の歯科用石膏粉末と水をボトルに入れて密封した後、ボトルを振とうすることにより、石膏スラリーを調製することができる。
【0036】
本実施形態の歯科用石膏粉末に対する水の質量比は、0.18以上0.30以下であることが好ましく、0.20以上0.25以下であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用石膏粉末に対する水の質量比が0.18以上であると、石膏スラリーの流動性が高くなり、0.30以下であると、石膏硬化体の強度が高くなる。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0038】
<歯科用石膏粉末の作製>
α半水石膏、硫酸カリウム、二水石膏、減水剤を、所定の配合(表1参照)で、ポットミルに入れた後、所定時間(表1参照)混合し、歯科用石膏粉末を作製した。
【0039】
なお、表1における減水剤の略称の意味は、以下の通りである。
【0040】
マイテイ100:ナフタレンスルホン酸系の減水剤(花王社製)
MELFLUX 2651F:ポリエーテル・ポリカルボン酸系の減水剤(SKWイーストアジア社製)
MELMENT F10M:メラミンスルホン酸系の減水剤(SKWイーストアジア社製)
<歯科用石膏粉末の粒子径分布>
超音波を使用せずに、歯科用石膏粉末をイソブチルアルコール中に分散させた後、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA-950V2(堀場製作所社製)を用いて、以下の測定条件で、歯科用石膏粉末の粒子径(球相当径)分布を体積基準で測定した。
【0041】
歯科用石膏粉末の屈折率:1.550
イソブチルアルコールの屈折率:1.396
循環:あり
撹拌:なし
データの取り込み回数:5000
<石膏スラリーの調製>
歯科用石膏粉末及び水を、所定の質量比(表1参照)で、ポリスチレン製の円筒形状のボトルとしての、ラボランスチロール棒瓶200mL(アズワン社製)に入れて密封した後、所定時間(表1参照)振とうし、石膏スラリーを調製した。
【0042】
なお、表1における振とう時間は、ボトル中の歯科用石膏粉末の残渣が無くなり、歯科用石膏粉末と水が均一に混合するまでの時間を意味する。
【0043】
<石膏硬化体の強度>
石膏スラリーを調製する際の振とうを開始してから60分間経過した後の石膏硬化体の強度を、JIS T6605「歯科用硬質石膏」に定められた方法に準拠して、測定した。
【0044】
表1に、石膏硬化体の強度の評価結果を示す。
【0045】
【表1】
表1から、実施例1~6の歯科用石膏粉末は、振とう時間が10~20秒であっても、石膏硬化体の強度が高いことがわかる。
【0046】
これに対して、比較例1の歯科用石膏粉末は、減水剤を含まないため、振とう時間が60秒を超える。
【0047】
比較例2の歯科用石膏粉末は、粒径が20μm以下である粒子の含有量が58.2体積%であり、粒径が30μm以下である粒子の含有量が88.9体積%であるため、振とう時間が30秒になる。
【0048】
比較例3の歯科用石膏粉末は、粒径が10μm以下である粒子の含有量が4.7体積%であり、粒径が20μm以下である粒子の含有量が21.0体積%であるため、振とう時間が60秒になる。
【0049】
比較例4の歯科用石膏粉末は、粒径が20μm以下である粒子の含有量が60.8体積%であり、粒径が30μm以下である粒子の含有量が87.4体積%であるため、振とう時間が60秒になる。
【0050】
比較例5、6の歯科用石膏粉末は、粒径が30μm以下である粒子の含有量が85.4体積%、79.1体積%であるため、振とう時間が60秒になる。
【0051】
本国際出願は、2018年2月16日に出願された日本国特許出願2018-025667号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-025667号の全内容を本国際出願に援用する。