(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240301BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20240301BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240301BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20240301BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61M1/16 109
A61M1/36 165
A61L27/02
A61L27/42
A61L27/50
(21)【出願番号】P 2020554946
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 FR2018053528
(87)【国際公開番号】W WO2019122790
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-13
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520223974
【氏名又は名称】メクスブレン
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ルクス
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ティルメン
(72)【発明者】
【氏名】ヤニク・クレミリュー
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ブリシャル
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・グロワイエ
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190794(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2013/0195766(US,A1)
【文献】特開昭58-015866(JP,A)
【文献】特表2001-513349(JP,A)
【文献】特開平06-197958(JP,A)
【文献】特開昭54-004490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16,1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療目的のために金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスであって、
a.多孔質透析膜、及び
b.灌流液を含むリザーバー
を含む透析システムを含み、
前記灌流液が、
(1)前記多孔質透析膜の孔より大きな平均直径を有するナノ粒子のコロイド状懸濁液であって、前記ナノ粒子は、金属カチオンと複合体化することができる少なくとも1つのキレート化剤にグラフト化されている、コロイド状懸濁液、又は
(2)金属カチオンと複合体化することができる少なくとも1つのキレート化剤に
直接又は間接に共有結合によってグラフト化された、10kDaより大きなポリマー
のコロイド状懸濁液、
のいずれかを含む、デバイス。
【請求項2】
前記キレート化剤が金属カチオンと複合体化することができることを特徴とし、前記キレート化剤の前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(K
C1)が10より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項3】
前記キレート化剤が金属カチオンと複合体化することができることを特徴とし、前記キレート化剤の前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(K
C1)が15より大きいかこれに等しいことを特徴とする、請求項2に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項4】
前記キレート化剤が金属カチオンと複合体化することができることを特徴とし、前記カチオンが金属Cu、Fe、Zn、Hg、Cd、Pb、Mn、Mg、Ca、Gd、及びAlのカチオンから選択されることを特徴とする、請求項2に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項5】
前記キレート化剤が金属カチオンと複合体化することができることを特徴とし、前記カチオンが金属Cu、Fe、及びZnのカチオンから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項6】
カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、又はマンガンから選択される微量元素を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項7】
前記手段が、金属カチオンの含量が1ppm未満のときに、生物学的流体、臓器、又は組織から前記金属カチオンを抽出することを可能にすることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項8】
前記金属カチオンの含量が0.1ppm未満であることを特徴とする、請求項7に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項9】
前記金属カチオンの含量が0.01ppm未満であることを特徴とする、請求項7に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項10】
前記金属カチオンの含量が1ppb未満であることを特徴とする、請求項7に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項11】
前記キレート化剤が、その質量の少なくとも1%に相当する量の金属カチオンを抽出することを可能にすることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項12】
前記キレート化剤が、その質量の10%超に相当する量の金属カチオンを抽出することを可能にすることを特徴とする、請求項11に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項13】
前記コロイド状懸濁液が、1質量%を超えるナノ粒子又はポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項14】
前記コロイド状懸濁液が、10質量%を超えるナノ粒子又はポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項15】
前記ナノ粒子が3nmより大きい平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項16】
前記ナノ粒子が50nm未満の平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子であることを特徴とする、請求項15に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項17】
前記ナノ粒子が、
a.ケイ素の質量比が前記ナノ粒子の全質量の少なくとも8%であるポリシロキサン、
b.ナノ粒子あたり5~1000の割合のキレート化剤、
c.5~100の割合の、前記キレート化剤に複合体化した金属元素
を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、
a.ケイ素の質量比が前記ナノ粒子の全質量の8%~50%であるポリシロキサン、
b.ナノ粒子あたり5~100の割合のキレート化剤、
c.ナノ粒子あたり5~20の割合の、前記キレート化剤に複合体化した金属元素
を含むことを特徴とする、請求項17に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項19】
前記ナノ粒子が以下の式(I)
Si
n[O]
m[OH]
o[Ch
1]
a[Ch
2]
b[Ch
3]
c[M
y+]
d[D
z+]
e[Gf]
f (I)
を有し、
式中、
nは20~50,000であり、
mはnより大きく4n未満であり、
oは0~2nであり、
Ch
1、Ch
2、及びCh
3は同一又は異なって、Si-C共有結合によってポリシロキサンのSiに連結されたキレート化剤であり、a、b、及びcは0~nの整数であり、a+b+cはnより小さいかこれに等しく、
M
y+及びD
z+は、同一又は異なる金属カチオンであり、y及びzは1~6であり、d及びeは0~a+b+cの整数であり、d+eはa+b+cより小さいかこれに等しく、
Gfは、同一又は異なる標的グラフトであり、それぞれがSi-C結合によってSiに連結され、標的分子のグラフト化に由来し、それによりナノ粒子の目的の生物学的組織へのターゲティングが可能になり、fは0~nの整数であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項20】
前記ナノ粒子が以下の式(I)
Si
n[O]
m[OH]
o[Ch
1]
a[Ch
2]
b[Ch
3]
c[M
y+]
d[D
z+]
e[Gf]
f (I)
を有し、
式中、
nは50~1000であり、
mはnより大きく4n未満であり、
oは0~2nであり、
Ch
1、Ch
2、及びCh
3は同一又は異なって、Si-C共有結合によってポリシロキサンのSiに連結されたキレート化剤であり、a+b+cは5~100であり、
M
y+及びD
z+は、同一又は異なる金属カチオンであり、y及びzは1~6であり、d及びeは0~a+b+cの整数であり、d+eはa+b+cより小さいかこれに等しく、
Gfは、同一又は異なる標的グラフトであり、それぞれがSi-C結合によってSiに連結され、標的分子のグラフト化に由来し、それによりナノ粒子の腫瘍組織へのターゲティングが可能になり、fは0~nの整数であることを特徴とする、請求項19に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項21】
前記ナノ粒子がグラフト化された又は前記ポリマーがグラフト化された前記キレート化剤が、
金属カチオンと複合体化することができる以下の
キレート化剤(DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、DFO、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM、TETP、及びDTPABA、又はそれらの混合物
)のうちの1つ
であることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項22】
前記ナノ粒子が3~50nmの平均直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子であり、
前記キレート化剤はDOTA、DOTAGA、又はDTPA
であることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項23】
前記ナノ粒子が20kDaより大きく1MDa未満の平均寸法を有するポリシロキサン系ナノ粒子であり、
前記キレート化剤はDOTA、DOTAGA、又はDTPA
であることを特徴とする、請求項1から22のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【請求項24】
前記デバイスを、
血液、脳脊髄液、滑液、若しくは腹水等の生物学的流体、又は
脳、肝臓、膵臓、腸、若しくは肺等の臓器、又は
腹膜若しくは腫瘍組織等の組織
に透析膜を介して接触させるか、又はこれらに埋め込むことを可能にする手段を含むことを特徴とする、請求項1から23のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医用デバイスの分野、より詳細には身体から金属を抽出するためのデバイスに関する。これらのデバイスは、たとえば体内の金属のホメオスタシスの異常調節に関連する病変、たとえば神経疾患の予防及び/又は治療のために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
体内における金属の潜在的に有害な影響、特に神経レベルにおける影響は、増えつつある科学的研究によって強調されている(C. Marchettiら、Biometals、2014)。金属イオンの濃度を低下させることを目的としたキレート化療法は急性金属中毒の症例において既に多年にわたって用いられている。それぞれが特定の金属の群に関連するいくつかのキレート化剤がヒトで既に許容されている(G.Crisponiら、Coordination Chemistry Reviews、2015)。キレート化療法はβ-サラセミアで輸血を受けた患者の治療において不可欠な手段であることも示されてきた。多数回の輸血を受けた患者は体内に鉄の蓄積を被る。これらの鉄の堆積はデスフェロキサミン、デフェリプロン、又はデフェラシロックス等の鉄キレート化剤の静脈内又は経口による投与によって調節されている(P.V.Bernhardtら、Dalton Trans、2007)。D-ペニシラミン及びトリエンチン(経口)によるキレート化療法も、銅カチオンを抽出し、銅のトランスポーターであるATP7Bに影響する遺伝子異常に起因するウィルソン病を治療するために現在用いられている。この異常は銅の過負荷をもたらし、血液中に循環している銅を増加させ、その結果、臓器、主として肝臓及び脳への堆積を生じる(M.L.Schilsky,Clin. Liver. Dis., 2017)。キレート化療法は症状発現前の治療の場合には良好な有効性を有するが、肝臓又は神経系の損傷の場合には有効性は低い(M.Wiggelinkhuizenら、Aliment Pharmacol.、2009)。これは標的区域への到達が難しいことと、特異性が低いことによると思われる。
【0003】
残念ながら、キレート化療法はまた、事前に医学的検証を行なうことなく、多くの他の病態(自閉症、間欠性跛行、その他)を治療するために静脈内で誤用されている。これらの誤った使用は、体内の必須な金属のホメオスタシスの過剰な異常調節による重篤な副作用、及び最も悲劇的な例では患者の死さえ、もたらすことがある(G.Crisponiら、Coordination Chemistry Reviews、2015)。
【0004】
金属、特に鉄、また銅、亜鉛、マンガン、及びアルミニウムでさえもが多くの神経障害において果たしている重要な役割を強調する科学的研究が増加している(E.J.McAllumら、J. Mol. Neurosci.、2016)。これは必然的に鉄の過負荷による神経障害の例で、脳のある区域における鉄の蓄積に関連する遺伝子異常に伴う稀な疾患であり、現在のところ姑息的治療でしか恩恵が受けられない(S.Wiethoffら、Handb. Clin. Neurol.、2017)。更に、鉄は加齢とともに脳に蓄積する傾向があることが多くの研究によって示されている(J.Acosta-Cabroneroら、Journal of Neuroscience、2016)。鉄はミトコンドリア呼吸、ミエリン及び神経伝達物質の合成並びに代謝等の多くの脳の機能において重要な役割を果たしている(A.A.Belaidiら、Journal of Neurochemistry、2016)。脳では、鉄は肝臓における場合と同程度のレベルで黒質緻密部及び中心灰白質核に主として局在化している。鉄は加齢とともに脳のある領域に蓄積する傾向があり、そこでは鉄は主としてフェリチン及びニューロメラニンと会合して見いだされる。鉄のレベルが最も増加する可能性のある区域は黒質、被殻、淡蒼球、尾状核、又は皮質であり、そのそれぞれが異なった神経変性障害に伴っている(D.J.Hareら、Nat. Rev. Neurol.、2015)。アルツハイマー病、パーキンソン病、及びハンチントン病等のいくつかの神経疾患には特定の区域における鉄のレベルの上昇が随伴しており、これが細胞の損傷及び酸化ストレスをもたらす(A.A.Belaidiら、Journal of Neurochemistry、2016)。パーキンソン病においては、黒質、即ちパーキンソン病変性を受けやすい脳の領域における鉄の量の増加が観察されている。鉄のレベルの上昇は黒質に特異的であり、この疾患に冒されていない他の領域では起こらない。この鉄のレベルの上昇はフェントン反応に続く損傷をもたらす可能性があり、酸化損傷が神経変性疾患の特徴の1つであることが確立されている(S.Aytonら、Biomed. Res. Int.、2014)。アルツハイマー病も脳における金属の量の攪乱を特徴としているが、脳の他の領域及び他のタンパク質も伴っている。まさに、この場合には鉄のレベルの上昇と銅のレベルの低下が観察されるように思われる(S.F.Grahamら、J. Alzheimers Dis.、2014)。ハンチントン病は運動障害、認知の衰退、及び精神病的課題を含むもう1つの神経変性疾患である。この病変においては、脳において酸化ストレスの多くのマーカーが観察され、これらは鉄のホメオスタシスの異常調節に関連している可能性がある(S.J.A.van den Bogaardら、International Review of Neurobiology、2013)。いくつかの脳の領域(被殻、尾状核、及び淡蒼球)における鉄のレベルの上昇は、Bartzorkis及び共同研究者の研究(G.Bartzorkisら、Archives of Neurology、1999)を含むいくつかのMRI研究によって検証されてきた。
【0005】
多くの神経変性障害における鉄のホメオスタシスの異常調節の役割に関する豊富な証拠により、科学者らはこれらの病変に対するキレート化療法の影響を研究するようになった(Table 1(表1))。たとえば、(β-サラセミアに対する輸血の間に起こる鉄の堆積の治療のために用いられる)デフェリプロンが、22名の患者を含むフェーズII臨床試験(DeferipronPD, NCT01539837)で用いられた(A.Martin-Bastidaら、Scientific Reports、2017)。この臨床試験では治療は6か月継続され、患者はそれによく耐えた。鉄のレベルの低下が歯状核及び尾状核で観察された。黒質における鉄のレベルの低減は3名の患者においてのみ観察された。淡蒼球及び被殻における鉄のレベルの変化は観察されなかった。この治験では、運動スコア及び生活の質が改善に向かう傾向が示されたが、統計的に有意ではなかった。デフェリプロンを用いるもう1つの治験が別のチームによって実施され(Fair-Park I)、これは黒質における鉄のレベルの低下及び運動スコアの改善を示したが、これも統計的有意には達しなかった(G.Grolezら、BMC Neurology、2015)。Fair-Park Iの治験結果が勇気づけるものであったので、Fair-Park IIの治験が2016年に開始された(Table 1(表1))。パーキンソン病の治験の勇気づけられる結果に鑑みて、デフェリプロンは最近、アルツハイマー病で臨床試験することが提案された(Table 1(表1))。既に別の金属キレート化剤であるクリオキノールがそのアミロイド線維の形成に対する効果を研究するために試験されていた(Table 1(表1))。この薬物は骨髄視神経症との関連が疑われたために1970年代に禁止されており(C.W.Ritchieら、Arch. Neurol.、2003)、この研究において再評価された。この研究において、いくつかの有害作用が報告されたものの、この製品の安全性は将来の臨床試験のためには十分であると考えられ、この疾患に最も罹患しやすい患者で臨床的有益性が観察された。この治験に続いて、クリオキノール誘導体(PBT2)が開発され、フェーズIIaの治験に入った(L.Lannfeltら、Lancet Neurol.、2008)。治療に対する良好な耐性が観察された。脳脊髄液ではAβタンパク質のレベルの低下が観察されたが、血漿では観察されなかった。治療を受けた患者では2つの実行機能も改善された。
【0006】
【0007】
このように、デスフェリオキサミン、クリオキノール、MAO、Vk-28、M30、又はM30A等のいくつかの鉄キレート化剤(N.Wangら、Biomacromolecules、2017)が、神経変性疾患のキレート化治療のための前臨床試験、又は臨床試験の間でさえも、研究者の注目を集めてきた。それにも関わらず、これらの分子及びその他の鉄キレート化剤の有効性は、それらの体内での寿命が短いこと、高用量では細胞毒性の可能性があること、血液脳関門を通過して脳の最も冒された区域にターゲティングすることが難しいこと、並びに内因性カチオンによって事前に飽和されることから、未だに限界がある。
【0008】
これらの研究と並行して、厳密な科学的プロトコールを用いて心臓血管系疾患の治療のためのEDTAの利益を確証するための臨床試験がNational Institutes of Health(NIH)によって2001年に要望された。まさに、EDTAはアテローム性動脈硬化症のプラークのカルシウムをキレート化し、その分解を引き起こし得ることが1950年代に主張されていた。臨床結果がなかったために、大部分の心臓専門医はこの実施を拒絶していた。それにも関わらず臨床医はこれを使い続け、2007年には米国で年間11万人を超える患者がこの治療を受けていたことが研究で示された。2002年にNIHはTrial to Assess Chelation Therapy(TACT、NCT,00044213)に資金を提供した。この研究はそれまで少なくとも6か月、心筋梗塞を患っていた年齢50歳以上の1708名の患者を登録していた。治験により、登録した患者におけるEDTA療法に対する良好な耐性が示された(D.B.Markら、Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes、2014)。EDTA治療を受けた患者について、ささやかであるが顕著な効果が観察された(P.Ouyangら、Curr. Cardiol. Rep.、2015)。しかし、この効果は糖尿病を有する患者のサブグループ(633名の患者)でずっと大きかった(E.Escolarら、Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes、2014)。即ち、EDTAによる治療を受けた糖尿病患者は、組み合わせた心臓血管系評価基準について相対リスクの41%の低下(p<0.001)、非致命的発作若しくは非致命的心筋梗塞のリスクについて40%(p=0.017)の低下、及び死亡リスクについて43%(p=0.011)の低下を示した。このように、この研究は特定のグループの患者、即ち糖尿病を患っている患者について将来の発作を避けるための標的キレート化療法の可能性を示している。
【0009】
現在のところ、コカイン依存症の症状について最近示され(K.D.Erscheら、Transl. Psychiatry、2017)、また自閉症等の症候群について疑われている(D.A.Rossignolら、Transl Psychiatry、2014)ように、ますます多くの病変が体内の金属のホメオスタシスの異常調節に関連していることも議論されている。多くの出版物がMRIによって可視化される鉄の役割を重視してきたが、
(i) いわゆるマンガン中毒神経症候群におけるマンガン(P.Chenら、J. Neurochem.、2015)、
(ii) ウィルソン病の例における銅
等の他の内因性金属、又は
(i) 神経毒性及び心臓損傷についての水銀(J.Ohlanderら、Int. J. Occup. Environ. Health、2016)、
(ii) たとえば中毒の例におけるカドミウム(V.M.Andrade、Adv. Neurobiol、2017)、
(iii) 鉛中毒に付随する鉛(G.Bjorklundら、Arch. Toxicol.、2017)
等の外因性金属
も、それらのホメオスタシスが外部要因又は遺伝子異常によって規制解除された場合には、重篤な神経障害を引き起こすことが示されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】C.Marchettiら、Biometals、2014
【文献】G.Crisponiら、Coordination Chemistry Reviews、2015
【文献】P.V.Bernhardtら、Dalton Trans、2007
【文献】M.L.Schilsky, Clin. Liver. Dis.、2017
【文献】M.Wiggelinkhuizenら、Aliment Pharmacol.、2009
【文献】E.J.McAllumら、J. Mol. Neurosci.、2016
【文献】S.Wiethoffら、Handb. Clin. Neurol.、2017
【文献】J.Acosta-Cabroneroら、Journal of Neuroscience、2016
【文献】A.A.Belaidiら、Journal of Neurochemistry、2016
【文献】D.J.Hareら、Nat. Rev. Neurol.、2015
【文献】S.Aytonら、Biomed. Res. Int.、2014
【文献】S.F.Grahamら、J. Alzheimers Dis.、2014
【文献】S.J.A.van den Bogaardら、International Review of Neurobiology、2013
【文献】G.Bartzorkisら、Archives of Neurology、1999
【文献】A.Martin-Bastidaら、Scientific Reports、2017
【文献】G.Grolezら、BMC Neurology、2015
【文献】C.W.Ritchieら、Arch. Neurol.、2003
【文献】L.Lannfeltら、Lancet Neurol.、2008
【文献】N.Wangら、Biomacromolecules、2017
【文献】D.B.Markら、Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes、2014
【文献】P.Ouyangら、Curr. Cardiol. Rep.、2015
【文献】E.Escolarら、Circ. Cardiovasc. Qual. Outcomes、2014
【文献】K.D.Erscheら、Transl. Psychiatry、2017
【文献】D.A.Rossignolら、Transl Psychiatry、2014
【文献】P.Chenら、J. Neurochem.、2015
【文献】J.Ohlanderら、Int. J. Occup. Environ. Health、2016
【文献】V.M.Andrade、Adv. Neurobiol、2017
【文献】G.Bjorklundら、Arch. Toxicol.、2017
【文献】C.M.Kho、Mol. Neurobiol.、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって今日、金属のホメオスタシスの異常調節に関連する病変を予防し及び/又は治療することを目的として体内から金属を抽出する新規な手段を開発するニーズが存在する。これらは以下の利点の1つ又は複数を提供することになる。
- 金属が大量で又は少量で存在するかに関わらず金属を標的として体内から抽出する。
- 必須金属のホメオスタシスを調節する。
- 細胞毒性がない。
- 体内での寿命の制限がない。
- 神経疾患の治療において血液脳関門を通る作用を促進する。
- 金属のホメオスタシスの異常調節に関連するいずれの病変の予防及び/又は治療にも適合できる応用がある。
【0012】
これらの及びその他の利点を以下の開示に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、この文脈において、本発明の発明者らは金属カチオンを抽出するための少なくとも1つのキレート化剤を含む医用デバイスを開発した。
【0014】
第1の態様では、本発明は治療目的のために金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスであって、金属カチオンを抽出するための手段を含むことを特徴とするデバイスに関する。
【0015】
「治療目的のために金属のホメオスタシスを維持する」は、特に病変に関与し得る過剰の金属カチオンを抽出する目的で体内のある金属のレベルを調節することを意味する。
【0016】
1つの実施形態では、用語「金属のホメオスタシス」は、金属カチオンのホメオスタシス(より具体的には特定の金属カチオンのホメオスタシス)を意味する。
【0017】
1つの実施形態では、金属カチオンを抽出するための前記手段は、
- 少なくとも1つのキレート化剤がグラフト化されているインプラント、又は
- 少なくとも1つのキレート化剤を含む灌流液
から選択される。
【0018】
本発明によれば、用語「キレート化剤」は、少なくとも1つの金属カチオンと複合体化することができる有機基を意味する。好ましい実施形態によれば、キレート化剤は、抽出することが望ましい金属カチオンと複合体化することができ、前記キレート化剤の前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(KC1)は10より大きく、特に11、12、13、14、15であり、好ましくは15より大きいかこれに等しい。有利には、キレート化剤は金属の銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ヒ素(As)、水銀(Hg)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)、セレン(Se)、タリウム(Th)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテシウム(Lu)、アクチニウム(Ac)、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラニウム(U)、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、バークリウム(Bk)、カリフォルニウム(Cf)、アインスタイニウム(Es)、フェルミウム(Fm)、メンデレビウム(Md)、ノーベリウム(No)、及びローレンシウム(Lr)のカチオンのうち少なくとも1つと複合体化する。更により有利には、キレート化剤は金属の銅、鉄、亜鉛、水銀、カドミウム、鉛、アルミニウム、マンガン、マグネシウム、カルシウム、及びガドリニウムのカチオンのうち少なくとも1つと、特にマンガン及びガドリニウムと複合体化する。更により有利には、キレート化剤は金属の銅、鉄、及び/又は亜鉛のカチオンのうち少なくとも1つと複合体化する。
【0019】
本発明によれば、用語「少なくとも1つのキレート化剤」は、単一の種類のキレート化剤、異なるキレート化剤の混合物、又はいくつかの同一のキレート化剤の混合物を意味する。
【0020】
有利には、抽出すべき前記金属(金属カチオン)に対するキレート化剤の特異性は他のカチオン性微量元素と比較して高く、特に複合化定数の差は好ましくは3より大きく、より詳細にはカルシウム及びマグネシウムとの複合化定数の差は好ましくは3より大きく、更に5より大きい。
【0021】
好ましい実施形態によれば、前記デバイスはまた、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、及びマンガンから選択される微量元素を、前記ポリマー、インプラント、若しくは固体中に直接、又は灌流液中に含む。それにより、たとえば必須金属のホメオスタシスを調節することが可能になる。
【0022】
好ましい実施形態によれば、前記デバイスの前記手段は、特に金属カチオンの含量が1ppm未満、特に0.1ppm、0.01ppm、好ましくは1ppb未満のときに、生物学的流体、臓器、又は組織から前記金属カチオンを抽出することを可能にする。有利には、存在するカチオンの少なくとも半分を超える量を抽出することができる。
【0023】
本発明によれば、用語「生物学的流体」は、本発明のデバイスが接触させられる血液、脳脊髄液、滑液、又は腹水等の任意の流体を意味する。
【0024】
本発明によれば、用語「臓器」は、本発明のデバイスを接触させることができる、又は本発明のデバイスを埋め込み若しくは挿入することができる脳、肝臓、膵臓、腸、又は肺等の任意の臓器を意味する。
【0025】
本発明によれば、用語「組織」は、本発明のデバイスを接触させることができる、又は本発明のデバイスを埋め込み若しくは挿入することができる腹膜又は腫瘍組織等の任意の組織(適用できる場合には腫瘍組織)を意味する。たとえば、前記デバイスは内視鏡によって、特に腫瘍中に、接触させられ、挿入され、又は埋め込まれる。
【0026】
好ましい実施形態によれば、金属カチオンを抽出するための前記手段は、たとえば材料であり、その質量の少なくとも1%、好ましくはその質量の10%超に相当する量の金属カチオンを抽出することを可能にする。
【0027】
金属抽出のための手段は透析システムである。
有利には、また好ましい実施形態によれば、金属カチオンを抽出するための手段は、
a.多孔質透析膜、及び
b.灌流液を含むリザーバー
を含む透析システムである。
【0028】
本発明によれば、用語「透析システム」は、人工膜を通して金属カチオンを通過させる任意のシステムである。
【0029】
この特定の実施形態によれば、前記デバイスは有利にはミクロ透析システムである。数年間にわたって、局所的な分析物質若しくは試料の採取又は局所的な薬物送達のための新規な技術(ミクロ透析)が開発されてきた。ミクロ透析は目的の区域において様々な物質を回収し及び送達するために1950年代の終わりに開発された(C.M.Kho、Mol. Neurobiol.、2016)。ミクロ透析によって、そのカットオフ閾値が意図した用途に従って選ばれる半透膜を通過することができる試料のみを採取し又は送達することが可能になる。透析の場合には、これは膜のそれぞれの側の間の拡散する化学種の濃度の相違によって導かれる動的拡散現象であることが多い。低濃度の化学種の場合には、駆動力が急速に限界に達し又は飽和することが多く、関心がある化学種の捕捉は平衡濃度によって制限される。
【0030】
有利には、本発明によるミクロ透析デバイスは、少なくとも1つの標的金属と複合体化する化学種を透析膜の内部に維持することによって、従来のキレート化剤の問題を迂回し、極めて高い割合で標的金属イオンを局所的に抽出することを可能にする。複合体化する化学種は膜のカットオフより大きな質量を有する高分子又はナノ粒子中に存在し、したがって複合体化する化学種は透析膜の中の液体(即ち灌流液)中に残存している。次いで複合体化する化学種を含む透析デバイスは目的の区域、たとえば神経変性疾患の治療のためには脳に設置される。
【0031】
膜のカットオフより小さなカチオンは膜を通ってキレート化剤を含む溶液に拡散することが可能である。用いるリガンドの複合体化特性が強ければ、標的金属が極めて少量で存在していても、標的金属をキレート化することが可能になる。したがって、このキレート化によって膜の内部の溶液中の遊離標的イオンの濃度が低減され、膜の外側と内側の濃度の間の標的金属イオンの強い濃度勾配が維持され、抽出時間が長くなり、カチオンの流れが維持される。他の金属カチオンのホメオスタシスを妨害しないために、同等の濃度のこれらのイオンを透析膜に配置してもよい。
【0032】
本発明によれば、それが多孔質透析膜及び上述の少なくとも1つのキレート化剤を含む灌流液を含むリザーバーを含む限り、当業者公知の任意のミクロ透析デバイスを用いてよい。この点において、多孔質膜のカットオフ閾値はキレート化剤の質量より低い。例として、本発明に関して用いることができるデバイスとしては、M Dialysis AB社(Sweden)が開発した医用デバイス、たとえばミクロ透析カテーテル(商品番号8010509、P000049、8010337。このリストは網羅的なものではない)がある。
【0033】
この好ましい実施形態によれば、灌流液は、その平均直径が前記多孔質透析膜の孔より大きなナノ粒子のコロイド状懸濁液であり、前記ナノ粒子は有効成分として少なくとも1つのキレート化剤を含む。1つの態様では、多孔質透析膜のカットオフ閾値はキレート化剤の質量、即ち、少なくとも1つのキレート化剤を含むナノ粒子の質量より小さい。
【0034】
或いは、灌流液は、その平均直径が前記透析膜の孔より大きなポリマーのコロイド状懸濁液であり、前記ポリマーは少なくとも1つのキレート化剤である有効成分にグラフト化されている。この点において、多孔質透析膜のカットオフ閾値はキレート化剤の質量、即ち、少なくとも1つのキレート化剤がグラフト化されているポリマーの質量より小さい。
【0035】
本発明によれば、用語「コロイド状懸濁液」は、液体と均一に分散したままの中実で不溶性の粒子との混合物を意味し、粒子は混合物を安定で均一に保持するために十分小さい(微視的及び超微視的に)ことが多い。
【0036】
1つの実施形態によれば、前記平均直径は前記透析膜の孔より少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%大きい。
【0037】
本発明によれば、用語「平均直径」は、少なくとも1つのキレート化剤がグラフト化されているナノ粒子又はポリマーの直径の調和平均を意味する。ナノ粒子又はポリマーの寸法分布は、たとえば市販の粒径解析装置、たとえば平均水力学的直径を特徴とする光子相関分光(PCS)に基づくMalvern Zeta Sizer Nano-S粒径解析装置を用いて測定される。このパラメーターを測定するための方法はISO 13321:1996にも記載されている。
【0038】
1つの実施形態では、コロイド状懸濁液は、1質量%を超える、特に2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、好ましくは10質量%を超えるナノ粒子又はポリマーを含む。
【0039】
本発明によるデバイス、特に透析システム又はインプラントにおいて用いることができるナノ粒子
本発明において用いることができるナノ粒子は2つの基本的な特徴を有する。
- これらはポリシロキサン系又はシリカ系である。
- これらは3nmより大きく、好ましくは50nm未満の平均直径を有する。
【0040】
1つの実施形態では、前記ナノ粒子は有効成分として金属カチオンと複合体化することができる少なくとも1つのキレート化剤を含み、前記キレート化剤は10より大きく、好ましくは15より大きいかこれに等しい、前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(KC1)を有する。
【0041】
本発明によれば、用語「シリカ系ナノ粒子」は、少なくとも8%のシリカの質量百分率を特徴とするナノ粒子を意味する。
【0042】
本発明によれば、用語「ポリシロキサン系ナノ粒子」は、少なくとも8%のケイ素の質量百分率を特徴とするナノ粒子を意味する。
【0043】
本発明によれば、用語「ポリシロキサン」は、シロキサンの鎖からなる無機架橋ポリマーを意味する。
【0044】
ポリシロキサンの構造単位は、同一であっても異なっていても、以下の式
Si(OSi)nR4-n
を有し、式中、
- RはSi-C共有結合によってケイ素に連結された有機分子であり、
- nは1~4の整数である。
【0045】
好ましい例として、用語「ポリシロキサン」は特に、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)とアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とのゾルゲルプロセスによる縮合に起因するポリマーを含む。
【0046】
したがって有利には、前記ナノ粒子は
a.ケイ素の質量比がナノ粒子の全質量の少なくとも8%、好ましくはナノ粒子の全質量の8%~50%であるポリシロキサン、
b.好ましくはナノ粒子あたり5~1000、好ましくは5~100の割合のキレート化剤、
c.必要な場合、たとえばナノ粒子あたり5~100、好ましくは5~20の割合の、キレート化剤に複合体化した金属元素
を含む。
【0047】
更により有利には、前記ナノ粒子は以下の式(I)
Sin[O]m[OH]o[Ch1]a[Ch2]b[Ch3]c[My+]d[Dz+]e[Gf]f (I)
を有し、
式中、
・ nは20~50,000、好ましくは50~1000であり、
・ mはnより大きく4n未満であり、
・ oは0~2nであり、
・ Ch1、Ch2、及びCh3は同一又は異なって、Si-C共有結合によってポリシロキサンのSiに連結されたキレート化剤であり、a、b、及びcは0~nの整数であり、a+b+cはnより小さいかこれに等しく、好ましくはa+b+cは5~100、たとえば5~20であり、
・ My+及びDz+は、同一又は異なる金属カチオンであり、y及びzは1~6であり、d及びeは0~a+b+cの整数であり、d+eはa+b+cより小さいかこれに等しく、
・ Gfは、同一又は異なる標的グラフトであり、それぞれがSi-C結合によってSiに連結され、標的分子のグラフト化に由来し、それによりナノ粒子の目的の生物学的組織、たとえば腫瘍組織へのターゲティングが可能になり、fは0~nの整数である。
【0048】
1つの実施形態では、本発明によって使用可能なナノ粒子は金属元素を含まない。換言すれば、上の定義において前記ナノ粒子はa.(ポリシロキサン又はシリカ)及びb.(キレート化剤)のみを含む。
【0049】
1つの実施形態では、キレート化剤は金属Cu、Fe、Zn、Hg、Cd、Pb、Mn、Al、Ca、Mg、Gdのカチオンと複合体化する。
【0050】
1つの実施形態では、キレート化剤は、以下の複合体化分子又はその誘導体、たとえば、特にDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、以下の式(I)のDO3A-ピリジン、
【0051】
【0052】
EDTA(2,2’,2’’,2’’’-(エタン-1,2-ジイルジニトリロ)四酢酸)、EGTA(エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸)、BAPTA(1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸)、DOTAGA((2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)ペンタンジオン酸)、DFO(デフェロキサミン)、たとえばDOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)又はNOTAM(1,4,7-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7-トリアザシクロノナン)等のアミド誘導体並びに混合カルボン酸/アミド誘導体、DOTP(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラキス(メチレンホスホネート))又はNOTP(1,4,7-テトラキス(メチレンホスホネート)-1,4,7-トリアザシクロノナン)等のホスホン酸誘導体、TETA(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸)、TETAM(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-テトラキス(カルバモイルメチル))、TETP(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-テトラキス(メチレンホスホネート))等のシクラム誘導体又はそれらの混合物から選択されるポリアミノポリカルボン酸及びその誘導体のうちの1つをナノ粒子にグラフト化(共有結合)することによって得られる。
【0053】
好ましくは、上記キレート化剤はナノ粒子のポリシロキサンのシリカに直接又は間接に共有結合で連結されている。用語「間接」連結は、ナノ粒子とキレート化剤との間の分子「リンカー」又は「スペーサー」の存在を意味し、前記リンカー又はスペーサーはナノ粒子の構成成分の1つに共有結合している。
【0054】
好ましい実施形態によれば、前記ナノ粒子は3~50nmの平均直径を有し、DOTA、DOTAGA、又はDTPAをナノ粒子にグラフト化することによって得られるキレート化剤を含むポリシロキサン系ナノ粒子である。
【0055】
好ましい実施形態によれば、前記ナノ粒子は20kDaより大きく1MDa未満の平均寸法を有し、DOTA、DOTAGA、又はDTPAをナノ粒子にグラフト化することによって得られる前記キレート化剤を含むポリシロキサン系ナノ粒子である。
【0056】
好ましい実施形態では、前記ナノ粒子を含む前記コロイド状懸濁液は、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、又はマンガンから選択される微量元素をも含む。
【0057】
本発明によるナノ粒子は、特許出願FR1053389に記載されたプロセスによって得ることができる。
【0058】
本発明によるデバイスにおいて用いることができるポリマー
本発明の別の実施形態では、上述のナノ粒子の代わりにポリマーを用いることができる。そのような場合には、前記ポリマーは少なくとも1つのキレート化剤にグラフト化される。
【0059】
本発明によれば、用語「ポリマー」は、1つ又は複数のモノマーから誘導された極めて多数の繰り返し単位の共有結合による配列によって形成された任意の高分子を意味する。本発明において好ましく用いられるポリマーは、たとえばキトサン、ポリアクリルアミド、ポリアミン、又はポリカルボン酸のファミリーのものである。たとえば、これらはキトサン等のアミノ官能基を含むポリマーであってよい。好ましい実施形態によれば、前記ポリマーは生体親和性である。
【0060】
1つの実施形態によれば、前記ポリマーにグラフト化されたキレート化剤又はその誘導体は、特にDOTA、DTPA、上式(I)のDO3A-ピリジン、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、DFO、DOTAM、NOTAM、DOTP、NOTP、TETA、TETAM、及びTETP、又はこれらの混合物から選択されるポリアミノポリカルボン酸及びその誘導体である。
【0061】
好ましくは、上記のキレート化剤は、該ポリマーに、又は10kDaを超える、好ましくは100kDaを超えるポリマー鎖に、直接又は間接に共有結合によって連結されている。用語「間接」連結は、ポリマーとキレート化剤との間の分子「リンカー」又は「スペーサー」の存在を意味し、前記リンカー又はスペーサーは前記ポリマーの構成成分の1つに共有結合している。
【0062】
1つの実施形態では、前記ポリマーにグラフト化されたキレート化剤又はその誘導体は、ジチオカルバメート官能基を含むことになる。
【0063】
好ましい実施形態によれば、キレート化剤がグラフト化された前記ポリマーは、DPTA-BAがグラフト化されたキトサン又はDFOがグラフト化されたキトサンから選択される。
【0064】
好ましい実施形態では、前記ポリマーを含む前記コロイド状懸濁液は、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、又はマンガンから選択される微量元素をも含む。
【0065】
本発明によるデバイスにおいて用いることができるキレート化分子
或いは、灌流液はキレート化分子の溶液である。前記キレート化分子は前記透析膜の孔より大きな平均直径、即ち透析膜流体中に維持されるために膜のカットオフ閾値より大きな平均直径を有するか、又は前記多孔質透析膜の孔より小さな平均直径を有してよく、この場合には、これらは膜の孔を通過した後で体内に入り、腎又は肝臓によって自然に排出される。
【0066】
この実施形態では、前記キレート化分子は10より大きく、好ましくは15より大きいかこれに等しい、前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(KC1)を有する。
【0067】
この実施形態では、前記キレート化分子の溶液は、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、又はマンガンから選択される微量元素をも含む。
【0068】
本発明によるデバイスにおいて用いることができるキレート化剤グラフトインプラント
或いは、金属カチオンを抽出するための手段は、少なくとも1つのキレート化剤を含むインプラントである。
【0069】
1つの実施形態によれば、金属カチオンを抽出するための手段は、その上に少なくとも1つのキレート化剤がグラフト化されたインプラントである。
【0070】
本発明によれば、「インプラント」は体内に導入することを意図した任意の要素を意味する。これは、本明細書に記載した「ポリマー」又は「他の任意の固体」であってよい。
【0071】
本実施形態では、上述したようなポリマーを灌流液中で用いることができる。
【0072】
本発明によれば、用語「他の任意の固体」は、制限的ではなく、任意選択で表面官能化されていても表面官能化されていなくてもよく、種々の形状(球状、管状、平板状、その他)を有してよい、セラミック、金属、コンポジット、中実又は多孔質の部品を意味する。
【0073】
本実施形態では、前記インプラントは特に一時的に埋め込み、次いで取り外すことができる。
【0074】
優先的には、前記インプラントは、予防され及び/又は治療される対象の脳、肝臓、膵臓、その他に埋め込むことができる。前記インプラントは吸収性であり、身体によって自然に徐々に排出することができる。前記インプラントは体内でゆっくりと拡散する少なくとも1つのキレート化剤を含んでもよく、拡散はたとえば1日あたり放出されるキレート化分子が100mg未満、好ましくは1日あたり10mg未満、及び/又は1日あたり全質量の1%未満の拡散が可能である。前記インプラントは組織と直接接触するように、又は皮下に設置してよい。
【0075】
或いは、前記インプラントは治療すべき対象と接触する透析液とともにリザーバー中にあってもよい。
【0076】
第2の態様では、本発明は上述のコロイド状懸濁液の使用、特に上述のようなデバイスにおける使用に関する。
【0077】
したがって本発明は、治療目的の使用のための有効成分を含むナノ粒子のコロイド状懸濁液であって、多孔質透析膜を含む金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスに含まれ、前記ナノ粒子の平均直径が前記デバイスの多孔質透析膜の孔より大きいことを特徴とするコロイド状懸濁液に関する。有利には、前記デバイスはミクロ透析デバイスである。
【0078】
1つの実施形態では、本発明は治療目的の使用のための有効成分にグラフト化されたポリマーのコロイド状懸濁液であって、多孔質透析膜を含む金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスに含まれ、その平均直径が前記多孔質透析膜の孔より大きく、前記ポリマーが有効成分にグラフト化されていることを特徴とするコロイド状懸濁液に関する。
【0079】
有利には、前記デバイスはミクロ透析デバイスである。
【0080】
1つの実施形態では、本発明は、前記デバイスが、それを
- 血液、脳脊髄液、滑液、若しくは腹水等の生物学的流体、又は
- 脳、肝臓、膵臓、腸、若しくは肺等の臓器、又は
- 腹膜若しくは腫瘍組織等の組織
に透析膜を介して接触するように設置するか、又はこれらに埋め込むことを可能にする手段を含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスに関する。
【0081】
好ましい実施形態によれば、本発明は金属のホメオスタシスの維持における使用のための上述のコロイド状懸濁液に関する。
【0082】
別の好ましい実施形態によれば、本発明はパーキンソン病、アルツハイマー病、脳への鉄の蓄積を伴う神経変性(NBIA、脳への鉄の過負荷を伴う神経変性とも称される)、ウィルソン病、若しくはハンチントン病等の神経疾患又は脳変性の治療における使用のための上述のコロイド状懸濁液に関する。
【0083】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は自閉症の治療における使用のための上述のコロイド状懸濁液に関する。
【0084】
別の好ましい実施形態によれば、本発明はII型糖尿病又は心臓血管系疾患の治療における使用のための上述のコロイド状懸濁液に関する。
【0085】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は腫瘍の治療における使用のための上述のコロイド状懸濁液に関する。
【0086】
第3の態様では、本発明は上述のナノ粒子の使用、特に上述のようなデバイスにおける使用に関する。
【0087】
1つの実施形態では、本発明はしたがって金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスにおける治療目的の使用のための3nmより大きく、好ましくは50nm未満の直径を有するポリシロキサン系ナノ粒子に関し、前記ナノ粒子は有効成分として金属カチオンと複合体化することができる少なくとも1つのキレート化剤を含み、前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(KC1)が10より大きく、好ましくは15より大きいかこれに等しいことを特徴とする。有利には、前記デバイスはミクロ透析デバイスである。
【0088】
好ましい実施形態によれば、本発明は金属のホメオスタシスの維持における使用のための上述のナノ粒子に関する。
【0089】
別の好ましい実施形態では、本発明はNBIA型疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、ウィルソン病、又はハンチントン病等の神経疾患又は脳変性の治療における使用のための上述のナノ粒子に関する。
【0090】
別の好ましい実施形態では、本発明は自閉症の治療における使用のための上述のナノ粒子に関する。
【0091】
別の好ましい実施形態では、本発明はII型糖尿病又は心臓血管系疾患の治療における使用のための上述のナノ粒子に関する。
【0092】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は腫瘍の治療における使用のための上述のナノ粒子に関する。
【0093】
第4の態様では、本発明は上述のポリマーの使用、特に上述のようなデバイスにおける使用に関する。
【0094】
1つの実施形態では、本発明はしたがって金属のホメオスタシスを維持するためのデバイスにおける治療目的の使用のためのポリマーに関し、前記ポリマーは金属カチオンと複合体化することができる少なくとも1つのキレート化剤にグラフト化されており、前記金属カチオンの少なくとも1つとの複合化定数log(KC1)が10より大きく、好ましくは15より大きいかこれに等しいことを特徴とする。有利には、前記デバイスはミクロ透析デバイスである。
【0095】
好ましい実施形態によれば、本発明は金属及び/又はタンパク質のホメオスタシスの維持における使用のための上述のポリマーに関する。
【0096】
別の好ましい実施形態によれば、本発明はNBIA型疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、ウィルソン病、又はハンチントン病等の神経疾患又は脳変性の治療における使用のための上述のポリマーに関する。
【0097】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は自閉症の治療における使用のための上述のポリマーに関する。
【0098】
別の好ましい実施形態によれば、本発明はII型糖尿病又は心臓血管系疾患の治療における使用のための上述のポリマーに関する。
【0099】
別の好ましい実施形態によれば、本発明は腫瘍の治療における使用のための上述のポリマーに関する。
【0100】
本発明はまた、その上に少なくとも1つのキレート化剤がグラフト化されたインプラントの投与、又は上述のようなデバイス中の少なくとも1つのキレート化剤を含む灌流液の使用を含む、対象から金属カチオンを抽出するための方法に関する。
【0101】
本発明によれば、前記「対象」は、予防又は治療が提供されるヒト又は動物を意味する。
【0102】
本発明は以下の実施例及び図面によって最も良く説明される。以下の実施例は本発明の主題を明確にすること及び有利な実施形態を説明することを意図しているが、本発明の範囲を限定することを意図するものでは決してない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【
図1】MnCl
2溶液の灌流の終了時に得られた画像を示す図である。これはミクロ透析膜における冠状断面である(黒点)。膜の周囲の強調はMn
2+(陽性MRI造影剤)の存在に対応している。
【
図2】ナノ粒子懸濁液による灌流の終了時に得られた画像を示す図である。これはミクロ透析膜における冠状断面である(黒点)。膜の周囲の強調はMn
2+(陽性MRI造影剤)の存在に対応している。
【
図3】前の2つの画像(
図1及び
図2に示す)の差分に対応し、Mn
2+の組織内濃度の減少(ミクロ透析プローブにおいて強調されている)を強調する画像を示す図である。
【
図4】MnCl
2溶液による灌流の終了時に得られた画像を示す図である。これはミクロ透析膜における冠状断面である(黒点)。膜の周囲の強調はMn
2+(陽性MRI造影剤)の存在に対応している。
【
図5】食塩液による灌流の終了時に得られた画像を示す図である。これはミクロ透析膜における冠状断面である(黒点)。膜の周囲の強調はMn
2+(陽性MRI造影剤)の存在に対応している。
【
図6】前の2つの画像(
図4及び
図5に示す)の差分に対応し、Mn
2+の組織内濃度の減少が存在しないこと(ミクロ透析プローブにおいて強調がほとんどない)を強調する画像を示す図である。
【
図7】溶液1、2、3、4、及び5のMRI画像を示す図である。
【
図8】実施例7で得られたナノ粒子の水力学的直径を示す図である。
【
図9】実施例8で得られたナノ粒子の水力学的直径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
[実施例]
(実施例1)
げっ歯類の脳からのマンガンイオンの抽出
本研究は雄ウィスターラット(体重250g)について実施した。
【0105】
0日目に、ミクロ透析カニューレの挿入のため、手順及び回復相の間に用いた加熱マットを用いて、動物をガス麻酔(O2/N2(80:20)の下、2.5%イソフルラン)する。皮膚を切開して頭蓋骨を清浄化する前に、リドカイン(Xylovet 21.33mg/mL)の皮下注射による局所麻酔を実施する(0.9% NaClで希釈して4mg/kg、注射量10μL/g)。皮膚を切開した後、頭蓋骨の穿刺のためのミクロドリル(直径1mm未満)を位置決めするために、頭蓋骨を清浄化する。プローブの挿入は定位脳手術で行なう。透析カニューレ(直径500μm未満)を、脳の中の所望の場所及び深さに、穏やかに挿入する。カニューレを位置決めした後、迅速硬化固定レジンを塗布して動物の頭蓋骨にねじ込む。次いで皮膚を縫合して創傷を閉鎖する。動物が覚醒する前に、鎮痛剤(Buprecare)を皮下投与する。ミクロ透析プローブを挿入した後2日間、8~12時間の間隔で鎮痛剤の投与を繰り返す。動物の脱水を制限するため、手順の開始時に0.9%のNaCl(マウスには約0.5mL、ラットには5mL)の皮下注射を行なう。ドライアイを防止するため、手順の開始時に眼科用軟膏(Liposic)を適用する。
【0106】
3日目にMRI分光及び画像プロトコールを実施する。手順及び回復相の間に用いた加熱マットを用い、NMRの取得の間には呼吸管理を行なって、ガス麻酔(O2/N2(80:20)の下、2.5%イソフルラン)下の動物についてプロトコールを実施する。MRI(Bruker社、Biospin、4.7テスラ)中に動物を位置決めする前に、ミクロ透析カニューレ中にミクロ透析プローブ(膜長さ2mm、カットオフ6kDa、CMA Microdialysis AB社、Kista、Sweden)を挿入する。動物の頭蓋骨の上に、ミクロ透析プローブに対して垂直にMRI表面アンテナ(Doty Scientific社、直径8mm、送信及び受信に用いる)を位置決めする。ミクロ透析プローブの灌流の間、連続的に、MRIの取得(T1重みづけフラッシュシーケンス、エコー時間2ms、繰り返し時間150ms、冠状断面、断面厚み1mm、取得時間3分)を実施する。
【0107】
結果
(実施例1A)
食塩液中1mMのMnCl2溶液を用いて流量10μL/分で30分、ミクロ透析プローブを灌流する。次いでその表面に遊離のDOTAGAを有するポリシロキサンナノ粒子の懸濁液(28.1mgを1mLの食塩液と100μLのNaOH及びHClで希釈して平衡化し、pH7とする。即ち全体積1100μL中28.1mg)を用いて流量10μL/分で30分、ミクロ透析プローブを灌流する。用いるポリシロキサンナノ粒子はDOTAGAの環状キレート化剤がグラフト化されたポリシロキサンマトリックスからなっている。これらのナノ粒子は11.5±6.3nmの水力学的直径を有している。この寸法により、これらのナノ粒子が2~3nmの孔径を有する透析膜を通過することが防止される。
【0108】
MnCl
2溶液の灌流の終了時に得られた画像を
図1に示し、ナノ粒子懸濁液による灌流の終了時に得られた画像を
図2に示す。
図3には、前の2つの画像の差分に対応し、組織内Mn
2+濃度の減少(ミクロ透析プローブにおいて強調されている)を強調する画像を示す。
【0109】
(実施例1B)
食塩液中1mMのMnCl
2溶液を用いて流量10μL/分で30分、ミクロ透析プローブを灌流する。次いで食塩液を用いて10μL/分で30分、ミクロ透析プローブを灌流する。MnCl
2溶液の灌流の終了時に得られた画像を
図4に示し、食塩液による灌流の終了時に得られた画像を
図5に示す。
図6には、前の2つの画像の差分に対応し、Mn
2+の組織内濃度の減少が存在しないこと(ミクロ透析プローブにおいて強調がほとんどない)を示す画像を示す。
【0110】
結論
MRIによって、Mn2+カチオン(常磁性MRI造影剤)の組織内濃度の変動の具体化が可能になる。灌流液中のキレート化ナノ粒子の存在により、局所的組織Mn2+濃度の減少によるMRI断面における強度の有意の減少がもたらされる。この強度の減少は、キレート化ナノ粒子の非存在下では観察されない。
【0111】
(実施例2)
ナノ粒子溶液の灌流による組織内ガドリニウムの抽出
本研究は雄ウィスターラット(体重250g)について実施した。
【0112】
0日目に、ミクロ透析カニューレの挿入のため、手順及び回復相の間に用いた加熱マットを用いて、動物をガス麻酔(O2/N2(80:20)の下、2.5%イソフルラン)する。皮膚を切開して頭蓋骨を清浄化する前に、リドカイン(Xylovet 21.33mg/mL)の皮下注射による局所麻酔を実施する(0.9% NaClで希釈して4mg/kg、注射量10μL/g)。皮膚を切開した後、頭蓋骨の穿刺のためのミクロドリル(直径1mm未満)を位置決めするために、頭蓋骨を清浄化する。プローブの挿入は定位脳手術で行なう。透析カニューレ(直径500μm未満)を、脳の中の所望の場所及び深さに、穏やかに挿入する。カニューレを位置決めした後、迅速硬化固定レジンを塗布して動物の頭蓋骨にねじ込む。次いで皮膚を縫合して創傷を閉鎖する。動物が覚醒する前に、鎮痛剤(Buprecare)を皮下投与する。ミクロ透析プローブを挿入した後2日間、8~12時間の間隔で鎮痛剤の投与を繰り返す。動物の脱水を制限するため、手順の開始時に0.9%のNaCl(マウスには約0.5mL、ラットには5mL)の皮下注射を行なう。ドライアイを防止するため、手順の開始時に眼科用軟膏(Liposic)を適用する。
【0113】
3日目にミクロ透析灌流プロトコールを実施する。手順及び回復相の間に用いた加熱マットを用い、呼吸頻度の管理を行なって、ガス麻酔(O2/N2(80:20)の下、2.5%イソフルラン)下の動物についてプロトコールを実施する。ミクロ透析カニューレ中にミクロ透析プローブ(膜長さ2mm、カットオフ6kDa、CMA Microdialysis AB社、Kista、Sweden)を挿入し、流量10μL/分で灌流を実施する。
【0114】
灌流は1mMのGdCl3を添加した食塩液からなる灌流液(溶液1)を用いて30分にわたって行なう。ミクロ透析の終了時に透析液を収集する(溶液2)。
【0115】
次いでナノ粒子の懸濁液VL29-5(28.1mgを1mLの食塩液と100μLのNaOH及びHClで希釈して平衡化し、pH7とする。即ち全体積1100μL中28.1mg)を用いて30分、ミクロ透析プローブを灌流する(溶液3)。ミクロ透析の終了時に透析液を収集する(溶液4)。用いるナノ粒子は実施例1のものと同一である。即ち、これらは11.5±6.3nmの水力学的直径を有している。この寸法により、これらのナノ粒子が2~3nmの孔径を有する透析膜を通過することが防止される。
【0116】
これら4種の溶液(並びに食塩溶液5)について、T1重みづけ勾配エコーシーケンス(繰り返し時間40ms、エコー時間2.6ms、傾き角80°)で4.7テスラのMRIでイメージングを実施する。
【0117】
【0118】
結果
図7の結果はこのように、溶液5と比較して溶液4の強度の増加を強調しており、これはナノ粒子溶液がミクロ透析プローブを通過している間に組織Gdの取り込み及びキレート化が起こっていることを明らかに示している。
【0119】
(実施例3)
キトサン-DTPA-BAの合成
用いるキトサンは200kDaの平均分子量を有している。DTPA-BA(ジエチレントリアミン五酢酸二無水物はChematech社、Dijon、Franceからの供給を受け、そのまま用いた。VIVAFLOWカセットはSartorius社から購入し、そのまま用いた。灌流液(Perfusion Fluid CNS Sterile、商品番号P000151)はPhymep社から購入し、そのまま用いた。
【0120】
質量0.5gのキトサンを秤量し、500mLの容器に入れた。体積250mLの蒸留水を加え、溶液を撹拌した。pHメーターと50%の酢酸溶液を用いてpHを4.0±0.1に調節した。溶液を24時間撹拌した。24時間後、pHを再び4.0±0.1に調節した。全てのキトサンが完全に溶解するまで、この手順を繰り返した。
【0121】
質量5.36gのDTPA-BAを秤量し、得られた溶液に加えた。溶液を48時間撹拌した。48時間後にカットオフ100kDaのVivaflowカセットを用いて少なくとも10万倍の精製度が得られるまで溶液を精製した。再びVivaflowカセットを用いて溶媒を同じ濃度でCNS灌流液に置き換える。
【0122】
(実施例4)
キトサン-DFOの合成
用いるキトサンは200kDaの平均分子量を有している。p-NCS-Bz-DFO(N1-ヒドロキシ-N1-(5-(4-(ヒドロキシ(5-(3-(4-イソチオシアナトフェニル)チオウレイド)ペンチル)アミノ)-4-オキソブタンアミド)ペンチル)-N4-(5-(N-ヒドロキシアセトアミド)ペンチル)スクシンアミド)はChematech Mdt社から購入し、そのまま用いた。VIVAFLOWカセットはSartorius社から購入し、そのまま用いた。灌流液(Perfusion Fluid CNS Sterile、商品番号P000151)はPhymep社から購入し、そのまま用いた。
【0123】
質量0.5gのキトサンを秤量し、500mLの容器に入れた。体積250mLの蒸留水を加え、溶液を撹拌した。pHメーターと50%の酢酸溶液を用いてpHを4.0±0.1に調節した。溶液を24時間撹拌した。24時間後、pHを再び4.0±0.1に調節した。全てのキトサンが完全に溶解するまで、この手順を繰り返した。
【0124】
質量500mgのp-NCS-Bz-DFOを秤量し、得られた溶液に加えた。溶液を48時間撹拌した。48時間後にカットオフ100kDaのVivaflowカセットを用いて少なくとも10万倍の精製レベルに達するまで溶液を精製した。再びVivaflowカセットを用いて溶媒を同じ濃度でCNS灌流液に置き換える。
【0125】
(実施例5)
MetalSorbの精製及び条件調整
ジチオカルバメート官能基を含むポリアクリルアミドポリマーであるMetalsorb FZはSNF社、Franceから供給を受け、そのまま用いた。VIVAFLOWカセットはSartorius社から購入し、そのまま用いた。灌流液(Perfusion Fluid CNS Sterile、商品番号P000151)はPhymep社から購入し、そのまま用いた。
【0126】
体積50mLのMetalsorb 20%w/wを測定して250mLの容器に入れた。体積150mLの水を加えて溶液を2時間撹拌した。2時間後にカットオフ100kDaのVivaflowカセットを用いて少なくとも10万倍の精製度が得られるまで溶液を精製した。再びVivaflowカセットを用いて溶媒を同じ濃度でCNS灌流液に置き換えた。
【0127】
(実施例6)
実施例3、4、及び5で得られた材料の使用
上記の実施例3、4、及び5で得られた材料は、本発明による金属カチオンを抽出するための手段として有利に用いることができる。溶液は直接、又は灌流液を形成するように処方を適合させることによって用いることができ、或いはポリマーを抽出して固化させ、埋め込むことができる巨視的固体を形成させてもよい。
【0128】
(実施例7)
ポリシロキサン-EDTAナノ粒子の合成
EDTA(エチレンジアミン四酢酸)型キレートSi@EDTAを含むポリシロキサン粒子は、3種のシラン前駆体:(i)TEOS(テトラエチルオルトシリケート)-((Si(OC
2H
5)
4、98%-Sigma Aldrich Chemicals社、France))、(ii)APTES(3-(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン-(H
2N(CH
2)
3-Si(OC
2H
5)
3、99%-Sigma Aldrich Chemicals社、France))、及び(iii)Si-EDTA(N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン三酢酸三ナトリウム塩-(N-[3-トリメトキシシリルプロピル]エチレンジアミン三酢酸三ナトリウム塩、水中45%、ABCR社、Germany)を混合することによって得られる。3種の前駆体をモル比2:1:3(TEOS/APTES/Si-EDTA)としてDEG(ジエチレングリコール-DEG、99%-SDS Carlo Erba社(France))中に入れる。混合物を室温で30分、撹拌下に保ち、3倍体積の水を加えて同じ温度で17時間、新たに撹拌する。次いで温度を80℃に上げ、6時間撹拌を維持する(2時間の加熱後にpHを7.4の値に調節する)。次いで加熱を止め、溶液を17時間、撹拌下に保つ。次いで溶液を接線流濾過によって精製する。ナノ粒子はPCSに基づくMalvern Zeta Sizer Nano-S粒径解析装置を用いる動的光散乱(DLS)で21±9nmの水力学的直径を有する(
図8)。
【0129】
(実施例8)
ポリシロキサン-DTPAナノ粒子の合成
DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)型のキレートを含むナノ粒子のためには、キレートをシランにグラフト化する予備的ステップが必要である。DTPAを含むシランは、DTPAの誘導体であるDTPA-BA(ジエチレントリアミン五酢酸二無水物-CheMatech、Dijon、France)をDEG中でAPTESとDTPA-BA/APTESの比1:1で反応させることによって得られる。溶液を24時間、撹拌下に放置する。次いでTEOSをTEOS/APTES/DTPA-BAの比を3:1:1として加える。DEG中で1時間撹拌した後、水を加える(用いるDEGの体積の10倍)。次いで溶液を室温で24時間撹拌し、50℃に加熱して再び24時間撹拌する。最後に溶液を室温に冷却し、72時間撹拌下に放置する。次いで接線流濾過によってナノ粒子を精製し、pHを7.4に上げる。ナノ粒子はPCSに基づくMalvern Zeta Sizer Nano-S粒径解析装置を用いて評価するDLSで7±3nmの水力学的直径を有し、第2集団は20±7nmである(
図9)。
【0130】
(実施例9)
金属の抽出におけるミクロ透析流量の比較
本実施例では、ミクロ透析デバイス中のキレート化剤を含む灌流液の、いくつかの金属イオンを含む水性溶液からの抽出性能を比較した。
【0131】
同じ灌流液(水中に分散したEDTAの濃度を15mMとしてその合成を実施例8に記載したポリシロキサン-EDTAナノ粒子)を用いていくつかの流量(1、2、及び5μL/分)を試験した。ミクロ透析膜(63 Microdialysis Catheter、M Dialysis AB社、Sweden)は20kDaのカットオフを有していた。灌流液のキレート化能を試験するために用いた溶液は、それぞれ100ppbの濃度でAl(III)、Cd(II)、Zn(II)、Cu(II)、及びPb(II)イオンを含む水性溶液であった。溶液のpHは7.4に調節し、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、Sigma Aldrich Chemicals社、France)を濃度1.2g/Lで緩衝剤として加えた。溶液の全体積は600mLである。
【0132】
ミクロ透析による抽出は流量2及び5μL/分で40分を要した。1μL/分の試料は100分で得た。これらの試料をICP/MSで解析し、それぞれの金属の量をTable 2(表2)に報告した。この実験を4回行ない、キレート化ナノ粒子に基づく灌流液を用いて試験した全ての条件下で金属のそれぞれについて、灌流液が初期には水(H2O)のみを含む従来のミクロ透析使用と比較して良好な抽出を示す。キレート化剤を含む灌流液を用いた場合には、精製すべき媒体中におけるそれらの「拡散濃度」を超える濃度における金属の取り込みが観察された。アルミニウムの寸法が小さいので、キレート化はアルミニウムの場合に特に効果的であり、それにより膜を通るより速い拡散が可能になる。2μL/分の流量が効率的な抽出と試料量との良好な妥協であると思われ、実施例10及び11のために選択した。
【0133】
【0134】
(実施例10)
ポリシロキサン-DTPAとポリシロキサン-EDTAのナノ粒子に基づく灌流液の比較
カットオフ20kDaのミクロ透析膜を用い、ミクロ透析流量2μL/分、試料採取時間40分とし、実施例9に記載したものと同じ金属混合物を用いて、実施例7及び8で得られたナノ粒子の相対的効率を比較した。キレート化剤の濃度を15mMとし、3種の異なった灌流液、(i)水、(ii)ポリシロキサン-EDTAナノ粒子、及び(iii)ポリシロキサン-DTPAナノ粒子を用いて得られた結果をTable 3(表3)にまとめる。DTPA系ナノ粒子はアルミニウムに対するキレート化剤の親和性が極めて高いので、アルミニウムの抽出容量が極めて高い。アルミニウムの存在が表面のキレート化剤を飽和し、他の金属に対する灌流液の効率を低減しているように思われる。ポリシロキサン-DTPAナノ粒子によって、アルミニウムの抽出に対して極めて特異性が高い灌流液を得ることが可能になる。
【0135】
【0136】
(実施例11)
脳脊髄液(CSF)のための灌流液としてのポリシロキサン-EDTAナノ粒子の使用
CSFのモデルとするため、NaCl(147mM)、KCl(2.7mM)、CaCl2(1.2mM)、及びMgCl2(0.85mM)を含む溶液を合成した。干渉する可能性のある様々なイオンによって抽出力が減退していないことを確認するため、この溶液を用いて金属の抽出を行なった。実施例9における溶液と同様の溶液(即ち、100ppbのAl(III)、Cd(II)、Zn(II)、Cu(II)、及びPb(II)のそれぞれのイオンを含む600mLの再構成CSF)を作成した。用いたミクロ透析膜(63 Microdialysis Catheter、M Dialysis AB社、Sweden)は20kDaのカットオフを有しており、流量は2μL/分に設定し、採取時間は40分とした。抽出した金属量の解析はICP/MSによって実施した。灌流液は、再構成CSF、又はその合成を実施例7に記載した、再構成CSFに分散したポリシロキサン-EDTAナノ粒子のいずれかからなっていた。抽出の結果をTable 4(表4)に示す。CSFのみを含む灌流液の抽出容量は極めて低いことが注目される。灌流液にナノ粒子を加えることによって、金属の抽出が金属に関わらず顕著に増大する。これらの条件では、鉛については5を超える、銅については7を超える、カドミウムについては25を超える、アルミニウムについては125を超える金属抽出倍率が得られる。
【0137】