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特許74462392-置換フラン誘導体へのアルファ-、ベータ-ジヒドロキシカルボニル化合物の脱水及び環化
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  • 特許-2-置換フラン誘導体へのアルファ-、ベータ-ジヒドロキシカルボニル化合物の脱水及び環化 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】2-置換フラン誘導体へのアルファ-、ベータ-ジヒドロキシカルボニル化合物の脱水及び環化
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/68 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
C07D307/68
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020555384
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 US2019025785
(87)【国際公開番号】W WO2019199570
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】62/657,416
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507303309
【氏名又は名称】アーチャー-ダニエルズ-ミッドランド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラジル,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】ログネス,ドナルド
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/189481(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0003028(KR,A)
【文献】国際公開第2013/049711(WO,A1)
【文献】The Journal of Physical Chemistry C,2015年,119,17117-17125
【文献】ChemSusChem,2011年,4(8),1049-1051
【文献】ChemSusChem,2015年,8(7),1151-1155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-置換フラン誘導体を合成する方法であって、
(a)第1のカルボニル基に対するアルファ炭素原子で置換されているアルファヒドロキシ基、及び前記第1のカルボニル基に対するベータ炭素原子で置換されているベータヒドロキシ基を含む出発化合物を脱水して、前記アルファヒドロキシ基の第2のカルボニル基への転換、及び前記ベータヒドロキシ基の除去によってジカルボニル中間体を形成させることと;
(b)前記ジカルボニル中間体を環化して、前記第1のカルボニル基を含むフラン環の2-置換基を含む前記2-置換フラン誘導体を生成することと
を含み、
非酵素的に行われ、
前記出発化合物が、グルコン酸の塩又はグルカル酸の塩であ
前記反応混合物が、固体不均一系触媒を含む水性反応混合物であり、
前記2-置換フラン誘導体が、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸の塩である、
方法。
【請求項2】
前記脱水することが、前記ベータヒドロキシ基と、前記アルファヒドロキシ基の水素との組合せから水を形成させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)が、前記2-置換フラン誘導体を形成させる前に、前記2-置換基を含む2-置換テトラヒドロフラン誘導体を形成させることと、前記2-置換フラン誘導体へと前記2-置換テトラヒドロフラン誘導体を脱水することとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸の塩の少なくとも一部を酸化して、フラン-2,5-ジカルボン酸の塩を提供することをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化が、前記脱水及び環化のために使用されるのと同じ反応槽において行われる、請求項に記載の方法。
【請求項6】
脱水及び環化の前記工程が、不活性な環境及び少なくとも30℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
脱水及び環化の前記工程が、脱水活性金属を含む脱水触媒の存在下で実施される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記脱水活性金属が、タングステン、モリブデン、又はバナジウムである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記タングステン、モリブデン、又はバナジウムが、そのそれぞれのタングステン酸塩、モリブデン酸塩、又はバナジン酸塩の形態で存在する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記脱水触媒が、前記α-、β-ジヒドロキシカルボニル化合物に対して0.1mol%~30mol%の量で前記反応混合物中に存在する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
フラン-2,5-ジカルボン酸を合成する方法であって、
(a)グルコン酸の塩又はグルカル酸の塩の形態であるα-、β-ジヒドロキシカルボキシレート出発材料を脱水して、前記出発材料のアルファヒドロキシ基のカルボニル基への酸化、及び前記出発材料のベータヒドロキシ基の除去から、ジカルボニル中間体を形成させることと;
(b)出発化合物のカルボキシレート基に対するアルファからデルタ炭素原子に対応する前記ジカルボニル中間体のアルファからデルタ炭素原子を、環員として含むフラン環を形成することによって前記ジカルボニル中間体を環化させ、前記フラン-2,5-ジカルボン酸の塩又は前記フラン-2,5-ジカルボン酸の前駆体の塩を形成させることと;
(c)場合により、前記フラン-2,5-ジカルボン酸の前記前駆体の塩を酸化させて、前記フラン-2,5-ジカルボン酸の塩を形成させることと;
(d)実施するならば、工程(b)及び工程(c)からのフラン-2,5-ジカルボン酸の塩を、酸性化によって、フラン-2,5-ジカルボン酸に変換することと;
を含み、
非酵素的に行われ、
前記反応混合物が、固体不均一系触媒を含む水性反応混合物であり、
前記前駆体が、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸である、
方法。
【請求項12】
脱水及び環化の前記工程が、脱水活性金属を含む脱水触媒の存在下で実施され、脱水及び環化の前記工程の後に前記触媒を除去する工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、α-、β-ジヒドロキシカルボン酸及びカルボキシレート、例えば、グルコースから得られる生成物を含めたα-、β-ジヒドロキシカルボニル出発化合物から、フランジカルボン酸を含めた2-置換フラン誘導体を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
化石燃料の枯渇によって、商業的に重要な生成物のための構造ブロックとしての役割を果たすことができるいわゆる「プラットフォーム」分子の合成のための石油ベース炭素に対する代替源を探求するための主要な動機が生じてきた。バイオマスは、ここから多くのこのような高価値の化学物質が由来し得る潜在的な代替物として現在見なされているが、再生可能な資源からのこのような化学物質の生成のための持続可能な技術を開発することは、依然として重要な課題である。
【0003】
フランジカルボン酸(FDCA)は、石油に由来する商品生産物であるポリエチレンテレフタレート(PET)に代わるものであり、実際はいくつかの観点においてこれより優れている、ポリエチレンフラノエート(PEF)として知られているポリマーのためのバイオベースモノマーと認識されている。FDCAはまた、プラスチック、繊維、コーティング、接着剤、パーソナルケア製品、可塑剤及び潤滑剤として多様な用途を有するポリアミド、ポリウレタン、及びエステルの生成において有用なプラットフォーム化学物質である。PEFの場合、このバイオプラスチックは、ボトル及び繊維のための材料、並びにポーチ、包装材料、及び熱収縮材料を製造するために使用されるフィルムとして特に有用である。包装の分野において、PEFは、PETとブレンドして、CO及びOについてのバリヤー性に関して優れた製品を提供することができ、純粋なPETを超えた改善された保存寿命がもたらされ、酸化的分解を受けやすい製品、例えば、ビールのための許容される容器を提供する。PEFの他の重要な特徴は、その高い機械的強度及びリサイクル可能性に関する。
【0004】
したがって、産業的に重要な有機分子、例えば、FDCAは、通常の石油精製に由来するそれらのカウンターパートに対する実行可能な代替物と見られる。現況技術は、このような高価値の化学物質への合成経路から、容易に利用可能又は入手可能な基質からかなり恩恵を受ける。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明の態様は、例えばグルコースの酸化に容易に由来する、グルコン酸及びグルカル酸等の基質を利用することができる合成方法の発見と関連する。有利なことには、このようなカルボキシレート(カルボン酸)基質又は出発化合物の場合、それらは、それらの前駆体アルデヒド(例えば、グルコース)と比較してより大きな安定性を潜在的に示し得る。高温反応条件下で、この安定性は、所望の反応順序に沿って反応選択性及び収率の増加をもたらし、1種又は複数種の確定した生成物の生成につながり得る。望ましくない副反応による生成物の喪失は、それによって低減する。特定の重要な生成物は、環化生成物、特に、フランジカルボン酸(FDCA)へと容易に変換することができるフラン誘導体、及び重要な他の分子を含む。カルボキシレートへのアルデヒド前駆体の酸化から適切な基質を得ることは、直接的及び安価であり、一般に、酸化剤として空気のみを必要とする。特定の態様は、溶液中の一連の反応ステップを受けて、望ましい2-置換フラン誘導体、例えば、(例えば、酸化による)同じ反応条件下で、有利に同じ反応器(「単一ポット」合成経路を実現する)中でFDCAへとさらに変換し得る2,5-置換生成物である5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸の形成がもたらされる、カルボン酸アニオン含有基質、又はそれらの対応する遊離酸の能力と関連する。
【0006】
さらなる態様は、α-、β-ジヒドロキシカルボニル化合物として特性決定し得る出発化合物からのジカルボニル中間体の形成に続いて、環化ステップを利用する合成経路に関する。環化は、最初に形成される飽和テトラヒドロフラン環をフラン環へと変換する第2の脱水が伴い得る。この第2の脱水は、本明細書に記載のような反応条件下で適切な脱水触媒を使用して促進することができる。より特定の態様は、非酵素的に行われ(反応混合物中の酵素(例えば、ポリペプチド)の使用を伴わないことを意味する)得る、このような合成経路、又はこのような経路の個々の反応ステップの発見に関する。本明細書に記載されている方法が、例えば、生物学的触媒とは対照的に、もっぱら1種又は複数種の化学触媒を使用して非酵素的に行われる場合、生物に対して有害である(例えば、酵素を含めたタンパク質を変性させる)が、それにもかかわらず所望の中間体及び/又は最終生成物の高い生産性を可能とする、より広い範囲の可能な反応条件、例えば、温度及び/又はpHの条件を許容する点から見て、利点が存在する。他の利点は、不均一又は均一な化学触媒分離と関連する相対的により低いコストと比較して、操作コストの低減、及び特に、生成物からの酵素分離とその他の点で関連するものに起因し得る。一部の実施形態によれば、(i)出発化合物を脱水して、ジカルボニル中間体を形成させること、(ii)ジカルボニル中間体を環化して、2-置換フラン誘導体を生成するか、又は他の方法で2-置換テトラヒドロフラン誘導体を生成すること、及び(iii)2-置換テトラヒドロフラン誘導体へと2-置換テトラヒドロフラン誘導体を脱水すること、の、本明細書に記載されている合成ステップの少なくとも1つは、非酵素反応ステップである(すなわち、酵素を使用して触媒されない)。好ましくは、(i)、(ii)、及び(iii)の少なくとも2つは、非酵素反応ステップであり、より好ましくは、(i)、(ii)、及び(iii)の全ては、非酵素反応ステップである。
【0007】
本発明の実施形態は、カルボニル官能基に対してアルファ(α)及びベータ(β)位におけるヒドロキシ置換炭素原子を伴うカルボニル官能基(C=O)を含む非環状出発化合物又は基質からの、2-置換フラン誘導体の合成のための方法に関する。1つの反応ステップによると、この出発化合物、すなわち、α-、β-ジヒドロキシカルボキシレート及びカルボン酸からなる群から選択される非環状α-、β-ジヒドロキシカルボニル化合物は、脱水され、第2のカルボニル基(出発化合物のカルボニル基に隣接する)へのα-ヒドロキシ基の転換、及びβ-ヒドロキシ基の除去によってジカルボニル中間体が形成される。次いで、ジカルボニル中間体は、環化を受け、対応する2-置換テトラヒドロフラン誘導体の任意選択の脱水に続いて、2-置換フラン誘導体を形成する。これらの誘導体は、より特定すると、2,5-置換化合物であり得、ここで、フラン又はテトラヒドロフラン環の5-置換基は、環化しない基質の一部(例えば、この基質のデルタ炭素原子の置換基)に対応する。
【0008】
2-置換フラン誘導体、例えば、2,5-置換フラン誘導体は、別々の反応ステップにおいて酸化して、酸化された最終生成物、例えば、FDCAを形成し得る。好ましくは、このような酸化が行われる場合、これは2-置換フラン誘導体を合成するのに使用されるのと同じ反応器において及び同じ条件下で行われる。
【0009】
これら及び他の態様、実施形態、及び関連する利点は、下記の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の簡単な説明
図1】本明細書に記載されている合成方法によって2-置換テトラヒドロフラン誘導体及び対応する2-置換フラン誘導体を合成するためのステップを含む一般反応機構を例示する。
図2】特定の反応機構を例示し、それによると、グルコン酸は、出発材料又は基質である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図は、原理及び関連する反応化学の理解を助けるが、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲を限定しない、本発明の実施形態を提示すると理解される。本開示の知識を有する当業者には明らかであるように、本発明の様々な他の実施形態による合成方法は、少なくとも部分的に、特定の目的によって決定される特定の試薬及び反応条件を利用する。
【0012】
実施形態の詳細な説明
本明細書において使用する場合、用語「基質」、又は代わりに、「出発化合物」は、1つ又は好ましくは一連の変換ステップ、例えば、「脱水」、「環化」、及び任意選択の「酸化」変換ステップに供され、1種若しくは複数種の環状生成物を生じさせる最初の化合物を指す。これらの変換ステップは、例えば、環状生成物を生成するために使用するのと(例えば、同じ反応器における)同じ反応条件下又は(例えば、別々の反応器における)異なる反応条件下での、従前の変換ステップの使用を妨げない。このような従前の変換ステップは、例えば、酸化による出発化合物としてグルコン酸又はグルカル酸への、容易に利用可能な前駆体、例えば、グルコースの変換を含むことができる。同様に、「2-置換フラン誘導体を生成する」ために行われるステップは、例えば、(例えば、同じ反応器における)同じ反応条件下又は(例えば、別々の反応器における)異なる反応条件下での、例えば、酸化による1種若しくは複数種の他の所望の最終生成物を得るための、それに続く変換ステップの使用を妨げない。例えば、上記のように、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸は、FDCAへと酸化し得る。
【0013】
用語「mol%」及び「重量%」は、それぞれ、モルパーセント及び重量パーセントに関して量又は濃度を指定するために使用される。「mol%」に関して示される生成物収率は、(反応器へと導入又は供給された)使用される基質のモルに基づいた、得られる所与の中間体又は最終生成物(例えば、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸又はFDCA)のモルを指す。
【0014】
用語「アルキル」は、単独で又は他の部分と組み合わせて使用されるとき、例えば、「アルコキシ」、「アルコキシアルキル」、「ヒドロキシアルキル」、「カルボキシアルキル」、「アルカノイル」、及び「アルカノイルアルキル」において組み合わせて使用されるとき、アルカンに由来する炭化水素部分を表す。したがって、単独で使用されるとき、「アルキル」は、「メチル」(CH-)、「エチル」(C-)などを含む。組み合わせて使用されるとき、部分「アルコキシ」のアルキル分は、例えば、「メトキシ」(CH-O-)、「エトキシ」(C-O-)などの場合、その部分の末端において介在する酸素連結-O-を介して分子の残部に結合しており、この用語は、「アルコキシ」に包含される。部分「アルカノイル」のアルキル分は、その部分の末端において介在するカルボニル連結-(C=O)-を介して分子の残部に結合しており、「メタノイル」(HC=O-)は、末端アルデヒド部分を表し、「エタノイル」(CH-(C=O)-)は、カルボニル連結などを介して結合しているメチルを表し、この用語は、「アルカノイル」に包含される。
【0015】
用語「ヒドロキシ」は、部分-OHを表し、用語「カルボキシ」は、部分-(C=O)OHを表す。用語「ヒドロキシアルキル」は、例えば、「ヒドロキシメチル」(HO-CH-)、「ヒドロキシエチル」(HO-C-)などの場合、部分の末端において介在する二価アルキル分を介して分子の残部に結合しているヒドロキシを表し、この用語は、「ヒドロキシアルキル」に包含される。用語「カルボキシアルキル」は、例えば、「カルボキシメチル」(HO-(C=O)-CH-)、「カルボキシエチル」(HO-(C=O)-C-)などの場合、部分の末端において介在する二価アルキル分を介して分子の残部に結合しているカルボキシを表し、この用語は、「カルボキシアルキル」に包含される。用語「アルコキシアルキル」は、上記に定義され、名称「アルコキシ」によって示されるような末端アルコキシ分(すなわち、部分の末端において結合している)、及びそれを介して「アルコキシ」が分子の残部に結合している介在する二価のアルキル分の両方を含む。したがって、「アルコキシアルキル」は、「メトキシメチル」(CH-O-CH-)、「メトキシエチル」(CH-O-C-)、「エトキシメチル」(C-O-CH-)、「エトキシエチル」(C-O-C-)などを包含する。用語「アルカノイルアルキル」は、上記に定義され、名称「アルカノイル」によって示されるような末端アルカノイル分(すなわち、部分の末端において結合している)、及びそれを介して「アルカノイル」が分子の残部に結合している介在する二価アルキル分の両方を含む。したがって、「アルカノイルアルキル」は、「メタノイルメチル」(H(C=O)-CH-)、「メタノイルエチル」(H(C=O)-C-)、「エタノイルメチル」(CH-(C=O)-CH-)、「エタノイルエチル」(CH-(C=O)-C-)などを包含する。
【0016】
用語「置換されていてもよい」は、「アルキル」に関して、又は上記に定義されているような部分の末端若しくは介在するアルキル分に関して、アルキル又はアルキル分の1個若しくは複数個の炭素-水素結合における、指定された置換基による水素置換基の置換を包含することを意味する。ヒドロキシ(-OH)又はメチル(-CH)の置換基の場合、末端アルキル炭素原子の炭素-水素結合における1個、2個若しくは3個の水素置換基は、それぞれの-OH及び/又は-CH置換基で置換されていてもよく、介在する(アルキレン)アルキル炭素原子の炭素-水素結合における1個若しくは2個の水素置換基は、それぞれの-OH及び/又は-CH置換基で置換されていてもよい。例えば、末端アルキル分の場合、その末端炭素原子は、2個の-CH置換基で置換され、末端イソプロピル部分を生じさせ得るか、又は3個の-CH置換基で置換され、末端t-ブチル部分を生じさせ得る。介在するアルキル分、又は末端アルキル分の介在する炭素原子の場合、アルキレン炭素原子の炭素-水素結合における1個若しくは2個の水素置換基は、-CH置換基で置換されて、対応するメチル-置換又はジメチル-置換誘導体を生じさせ得る。この記述から、1個若しくは複数個の-OH置換基による末端アルキル炭素原子又は介在するアルキル炭素原子の類似の置換を認識することができる。カルボニル(=O)の置換基の場合、末端アルキル炭素原子又は介在する(アルキレン)アルキル炭素原子の2個の炭素-水素結合における水素置換基は、=Oで置換されて、それぞれ、末端アルデヒド部分(若しくは基)又はカルボニル部分(若しくは基)を生じさせ得る。
【0017】
可能な部分及びこれらを置換し得る様式を考慮して、例えば、=Oで置換されている「メタノイル」及び末端「メチル」の場合(これらの両方は、末端アルデヒド部分(若しくは基)を表す)、部分の定義において重複が存在し得ることが認識される。しかし、所与の化合物においてそれらが積極的に含まれることを強調するために、特定の部分を記述する。さらに、「アルキル」又は「アルキル分」が、その対応する数の炭素原子に関してさらに定義されるとき(例えば、「1~5個の炭素原子を有する」アルキル又はアルキル分)、任意選択の-CH置換基は、存在するとき、炭素原子のこの数に含まれない。すなわち、語句「1~5個の炭素原子を有する」、及びアルキル炭素原子の数を定義する他の語句は、示される特定の定義によって-CH置換基又は他の置換基でさらに置換されていてもよいアルキル炭素原子の骨格数を指す。
【0018】
カルボン酸化合物は、それらの対応する塩の形態を含む。カルボン酸官能基を担持する出発化合物又は基質の場合、塩の形態又は遊離酸の形態は、本明細書に記載されている合成方法を行うために水溶液中で使用し得る。カルボン酸の対応する塩の形態は、例えば、アルカリ金属の塩(例えば、ナトリウム塩形態)、アルカリ土類金属の塩(例えば、カルシウム塩形態)、及びアンモニウム塩を含む。したがって、化合物、例えば、「グルコン酸」、「グルカル酸」などは、「グルコネート」、「グルカレート」などの塩の形態を包含することを意味する。カルボン酸化合物を例示する一般的な構造及び特定の構造の両方は、同様に、それらの塩の形態又はイオン化形態を包含することを意味し、グルコン酸の構造は、例えば、イオン化されていないそのカルボキシル基と共に示されるとき、イオン化されたそのカルボキシル基を有する構造を包含することを意味し、逆の場合も同じであり、この化合物の同等の構造のイオン化されていない及びイオン化されたカルボキシル基を下記で示す。
【化1】
【0019】
化合物は1個又は複数個の立体中心を有することができ、それらの命名法によって特定の立体化学配置を指定する基質、例えば、「グルコン酸」、「グルカル酸」に関して記載されている反応は、「2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸」、「2,3,4,5-テトラヒドロキシヘキサン二酸」のそれぞれの非立体特異的基質、及びこのような化合物の全ての立体異性体と同様に類似の様式で行われ得るという理解のもとで、任意の特定の立体化学配置を考慮せずに構造を例示する。したがって、他に特定しない限り、「グルコン酸」は、特定の立体化学配置を指定する他の化合物に関して意図されるように、「グルコン酸及びその立体異性体」を包含することを意図する。本明細書に記載されている一般的な化合物及び特定の化合物は、純粋若しくは精製された(濃縮された)光学異性体の形態で、又は他にはこれらのラセミ混合物の形態で使用するか、又は得てもよい。光学活性な基質又は出発化合物の使用は、本開示からの知識と合わせて当業者が認識するように、本明細書に記載されている合成方法を使用して光学活性な生成物の形成を引き起こし得る。必要に応じて、特定の光学異性体の精製、又は他方に対して一方の光学異性体の濃縮は、例えば、光学活性な酸又は塩基による処理によるジアステレオマー塩の形成によって得ることができる。適当な酸の例は、酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸及びショウノウスルホン酸である。適当な塩基の例は、植物由来のキラルアルカロイドである。次いで、ジアステレオマーの混合物は、結晶化、それに続くこれらの塩からの光学活性な塩基又は酸の遊離によって分離される。光学異性体の分離のための異なるプロセスは、エナンチオマーの分離を最大化するために選択されるキラルクロマトグラフィーカラムの使用が関与する。また別の利用可能な方法は、活性化形態の光学的に純粋な酸、又は光学的に純粋なイソシアネートとの反応によって、共有結合性ジアステレオマー分子の合成が関与する。合成されたジアステレオマーは、通常の手段、例えば、クロマトグラフィー、蒸留、結晶化又は昇華によって分離し、次いで、加水分解され、鏡像異性的に純粋な化合物を生じさせることができる。
【0020】
2-置換フラン誘導体を合成するための一般反応機構を、図1において例示する。示すように、一般式Iの化合物は、広範に、好ましいクラスの化合物、すなわち、α-、β-ジヒドロキシカルボキシレート(Rが、ヒドロキシ(-OH)であるとき)を包含するα-、β-ジヒドロキシカルボニル化合物である出発化合物であり、例示した化合物の左側上の末端カルボキシル基を提供する。図1における一般式Iの化合物は、示されるカルボニル(C=O)基に対してα-炭素原子において置換されているα-ヒドロキシ基、及びこのカルボニル基に対してβ-炭素原子において置換されているβ-ヒドロキシ基を含む。さらに、この出発化合物は、δ-炭素原子において置換されているδ-ヒドロキシ基、及び任意選択のγ-炭素原子において置換されているγ-ヒドロキシ基をさらに含み得る。例示した合成機序によると、脱水(水の除去)の第1のステップは、不飽和の部位、すなわち、α-炭素原子及びβ-炭素原子の間の炭素-炭素二重結合の形成と一緒に、β-ヒドロキシ基の除去をもたらす。化合物Aとして示されるこのように得られたエチレン性不飽和脱水化合物は、一般式IIAを有すると示されるジカルボニル中間体と互変異性平衡を維持する傾向がある。したがって、脱水ステップは、一般式Iの出発化合物又は基質中のβ-ヒドロキシ基、及びα-ヒドロキシ基の水素の組合せから水を形成することを含み得る。
【0021】
次いで、一般式IIAのジカルボニル中間化合物は、環化を受けて、この場合は、式IIBの対応する2-置換テトラヒドロフラン誘導体の最初の形成と、その後に続くこの化合物の脱水によって一般式IIIBの2-置換フラン誘導体を最終的に生成し得る。その脱水による一般式IIBの化合物の消費は、それによって環化反応を前方へと推進させ、互変異性平衡をこの方向にシフトさせることによって最終的に化合物Aからのジカルボニル化合物のさらなる生成をもたらす。2-置換テトラヒドロフラン誘導体が脱水される速度は、本明細書に記載のような任意選択の脱水触媒、及び反応条件の使用によってレギュレートし得る。式IIB及びIIIBの化合物の両方において、それぞれのテトラヒドロフラン及びフラン環の酸素環員は、出発化合物のγ-ヒドロキシ基から得てもよい。さらに、図1の実施形態によると、5-置換基が、すなわち、環化を受けない、式Iの出発化合物中のγ-炭素原子の置換基であるように、一般式IIIBの2-置換フラン誘導体はより特定すると、それぞれ、
【化2】
であるフラン環の2-、及び5-置換基を有する2,5-二置換フラン誘導体である。
【0022】
この合成方法によると、2-置換フラン誘導体は、出発化合物として、利用可能な5個若しくは6個の炭素原子数の、又はより多い炭素原子数の(例えば、7個、8個、9個及び/又は10個の炭素原子数の)α-、β-ジヒドロキシカルボキシレート又はカルボン酸、例えば、2,3,4,5-テトラヒドロキシペンタン酸;2,3,4-トリヒドロキシ-5-オキソペンタン酸;2,3,4-トリヒドロキシペンタン二酸;グルコン酸(若しくは一般に、2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸);2,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-オキソヘキサン酸、及びグルカル酸(若しくは一般に、2,3,4,5-テトラヒドロキシヘキサン二酸)から生成し得る。したがって、代表的な合成方法は、容易に利用可能な炭水化物を含む利用可能なC~C10基質、例えば、C~C基質を変換し、対応する2-置換フラン誘導体、及び任意選択の酸化された最終生成物を生成することを含み得る。そのような実施形態では、出発化合物の炭素原子の数は、環形成に関与するδ-ヒドロキシ基の酸素原子、及びフラン環の5-置換基として出現するδ-炭素原子の残りの置換基と一緒に、この出発化合物のα-、β-、γ-、及びδ-炭素原子と共に、2-置換フラン誘導体において保存し得る。したがって、一般式IIIBの化合物におけるRに対応するこの5-置換基は、好ましくは、経済性のためにin situ(すなわち、「ワンポット」プロセスの場合)で、しかしおそらく他に別々の酸化ステップにおいて酸化し得る。
【0023】
一般式I、IIA、IIB、及びIIIBを有する図1における化合物、並びに化合物Aについて示した一般式を有するものに関して、Rは、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、及びヒドロキシアルキルからなる群から選択し得、ここで、アルキル、並びにアルコキシ、アルコキシアルキル、及びヒドロキシアルキルのアルキル分は、-OH、-CH、及び=Oからなる群から選択される1個若しくは複数個の置換基で置換されていてもよい1~5個の炭素原子を有する(すなわち、本明細書に定義されているように、1個若しくは複数個の置換基で置換されている炭素-水素結合において、水素置換基を有していてもよい)。特定の実施形態によると、一般式Iの出発化合物、一般式IIAのジカルボニル中間体、一般式IIBの2-置換テトラヒドロフラン誘導体、及び一般式IIIBの2-置換フラン誘導体を含めたこれらのそれぞれの化合物において、Rは、アルキルであり得(例えば、1~3個のアルキル炭素原子を有する)、それぞれの化合物中に末端ケトン官能基をもたらし得;Rは、アルコキシであり得(例えば、1~3個のアルキル炭素原子を有する)、それぞれの化合物中に末端エステル官能基をもたらし得るか;又はRは、ヒドロキシであり得、それぞれの化合物中に末端カルボキシル官能基をもたらし得る。好ましくは、Rは、ヒドロキシであり、それによって、出発化合物及びジカルボニル中間体は、カルボン酸である。例えば、上記のように本明細書において一般に使用される用語に関して、出発化合物、ジカルボニル中間体、環化生成物(例えば、置換テトラヒドロフラン若しくは置換フラン)、及び/又は酸化された最終生成物(例えば、FDCA)は、カルボキシレートの形態であり(例えば、カルボキシレートとして反応混合物中で存在し)得、これは、化合物がカルボン酸アニオンを含み、且つおそらく本明細書に記載されている合成方法を行うために使用される(例えば、それらの対応するアンモニウム塩形態の)水性反応混合物中の塩の形態で存在することを意味する。しかし、利用し得るいくつかのタイプの反応混合物において、及び特に、このような反応混合物のpHによって、これらの化合物は、それらのそれぞれの遊離カルボン酸形態で存在し得る。
【0024】
一般式I、IIA、IIB、及びIIIBを有する図1における化合物、並びに化合物Aについて示した一般式を有するものに関して、Rは、水素置換基、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルカノイル、及びアルカノイルアルキルからなる群から選択し得、ここで、アルキル、並びにアルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アルカノイル、及びアルカノイルアルキルのアルキル分は、-OH、-CH、及び=Oからなる群から選択される1個若しくは複数個の置換基で置換されていてもよい1~5個の炭素原子を有する。特定の実施形態によると、Rは、水素置換基、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルカノイル、及びアルカノイルアルキルからなる群から選択し得、ここで、アルキル、並びにアルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アルカノイル、及びアルカノイルアルキルのアルキル分は、1つ若しくは複数の-OH及び/又は1つ若しくは複数の-CHで置換されていてもよい1~4個の炭素原子を有する。より特定の実施形態によると、Rは、水素置換基、アルキル、カルボキシ、カルボキシアルキル、アルカノイル、又はアルカノイルアルキルであり得、ここで、アルキル、並びにカルボキシアルキル、アルカノイル、及びアルカノイルアルキルのアルキル分は、1つ若しくは複数の-OHで置換されていてもよい1~3個の炭素原子を有する。5個又は6個の炭素原子を有する特定の基質は、2,3,4,5-テトラヒドロキシペンタン酸;2,3,4-トリヒドロキシ-5-オキソペンタン酸;2,3,4-トリヒドロキシペンタン二酸;グルコン酸(若しくは一般に、2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸);2,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-オキソヘキサン酸、及びグルカル酸(若しくは一般に、2,3,4,5-テトラヒドロキシヘキサン二酸)を含む。
【0025】
図2は、出発化合物又は式Iの化合物としてグルコン酸(式中、Rは、置換基又はヒドロキシメチルの部分
【化3】
を表す)を使用した図1において提示する合成方法を例示する。この実施形態では、式IIAのジカルボニル中間体は、示すような2-ケト-3-デオキシグルコン酸(2-ケト-4,5,6-トリヒドロキシヘキサン酸)である。次いで、このジカルボニル中間体は、環化を受けて、図2において例示する実施形態において、すなわち、2,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-カルボン酸である、式IIBの2-置換テトラヒドロフラン誘導体を生じさせることができる。次いで、脱水によって、すなわち、2-、5-置換フラン誘導体、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸である式IIIBの2-置換フラン誘導体が生じる。この化合物の酸化は、図2に示されているように、フランジカルボン酸(FDCA)を生じさせる。上で述べたように、FDCAを形成させる酸化は、一般に、式IIIBの2-置換フラン誘導体の合成のために本明細書に記載されている反応条件下で行い得る。したがって、好ましい実施形態によると、図1において示すこの化合物に関して、Rは、ヒドロキシであり得、Rは、カルボキシ又はヒドロキシメチルであり得る。Rがヒドロキシであり、且つRがヒドロキシメチルである特定の場合において、出発化合物は、グルコン酸であり、2,5-二置換フラン誘導体は、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸である。方法は、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸の少なくとも一部を酸化し、FDCAを生成することをさらに含み得る。
【0026】
したがって、α-、β-ジヒドロキシカルボキシレート出発化合物に関連して同じ数の炭素原子を有する2-置換フラン誘導体を合成する代表的な方法は、本明細書に記載されている。方法は、一般式IIIBの化合物への一般式IIBの化合物の変換として、脱水触媒、すなわち、図1及び2において示される反応ステップの触媒又は助触媒を含み得る反応混合物、好ましくは、水性反応混合物中でこの出発化合物を反応させることを含む。好ましい脱水触媒は、1種若しくは複数種の脱水活性金属、例えば、メタタングステン酸塩、パラタングステン酸塩、メタモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタバナジン酸塩、又はパラバナジン酸塩を含む、反応混合物中の対応する塩の形態、例えば、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、又はバナジン酸塩で存在し得る、タングステン、モリブデン、及び/又はバナジウムを含む。代表的なタングステン酸塩は、1族(アルカリ)金属又は2族(アルカリ土類)金属の塩、並びにアンモニウム塩である。メタタングステン酸アンモニウム塩及びパラタングステン酸アンモニウム塩は、代表的なものである。脱水触媒(例えば、メタタングステン酸アンモニウム)は、例えば、バッチ式反応の場合、最初の反応器充填組成によって、又は連続反応の場合、定常状態の組成によって、基質のモル数に対して0.1mol%~30mol%、0.5mol%~10mol%、又は1mol%~5mol%の量で反応混合物中に存在し得る。脱水触媒はまた、又は代わりに、脱水活性金属(例えば、タングステン、モリブデン、又はバナジウム)のモルが基質のモル数に対して6mol%~50mol%、又は10mol%~35mol%を表し得るような量で反応混合物中に存在し得る。他の脱水触媒は、固体酸及び/又はルイス酸(例えば、有機スズ化合物を含めた有機金属化合物)を含むことができる。
【0027】
代表的な方法によると、最終生成物FDCAは、一般式IIBの化合物の脱水及び酸化の組合せから生成し得る。反応混合物は、塩基、例えば、水酸化アンモニウム又は他に、アルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を含み得、出発化合物並びに一般式I、IIA、IIB、及びIIIBを有する化合物は、Rがヒドロキシ(-OH)である場合、反応混合物中でそれらのそれぞれのカルボン酸塩形態(例えば、カルボン酸アンモニウム形態)の形態で存在し得る。そうでなければ、これらの化合物は、例えば、中性又は酸性である水性反応混合物の場合、それらの遊離酸の形態で存在し得る。代表的な実施形態では、反応混合物は、例えば、有機酸又は無機酸を含むことによって、6.5若しくはそれ未満(例えば、2~6.5、又は3~6)のpHを有し得る。
【0028】
特定の方法は、6個の炭素原子を有するα-、β-ジヒドロキシカルボキシレート出発化合物、例えば、グルコネート(若しくは一般に、2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサノエート);2,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-オキソヘキサノエート;又はグルカレート(若しくは一般に、2,3,4,5-テトラヒドロキシヘキサンジオエート)の塩からのFDCAの合成を対象とする。上で述べたように、これらの出発化合物はまた、それらの遊離酸の形態で、すなわち、反応混合物のpHによって、グルコン酸(若しくは一般に、2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキサン酸);2,3,4,5-テトラヒドロキシ-6-オキソヘキサン酸;又はグルカル酸(若しくは一般に、2,3,4,5-テトラヒドロキシヘキサン二酸)として存在し得る。本明細書に記載のように、代表的な方法は、この出発化合物を脱水して、第2のカルボニル基へのアルファヒドロキシ基の転換及びベータヒドロキシ基の除去によってジカルボニル中間体を形成させること、及び出発化合物のカルボキシレート基に対してα-からδ-炭素原子に対応するジカルボニル中間体のα-からδ-炭素原子を、環員として含むフラン環を形成させることによってこのジカルボニル中間体を環化して、FDCA又はFDCAの前駆体を形成することを含む。前駆体は、例えば、任意選択の酸化ステップにおいて酸化されて、FDCAを生成し得る、5-(ヒドロキシメチル)フラン-2-カルボン酸であり得る。
【0029】
特定の実施形態によると、本明細書にまた記載されているようにそれぞれの経路を経由して進む理論的収率に基づいた、一般式IIIBを有する2,5-置換フラン誘導体、又はその酸化された最終生成物(例えば、FDCA)の総収率は(反応環境が十分に酸化的であるかによって)、一般に、少なくとも25mol%(例えば、25mol%~90mol%)、典型的には、少なくとも35mol%(例えば、35mol%~80mol%)、及びしばしば少なくとも50mol%(例えば、50mol%~75mol%)であり得る。
【0030】
好ましくは、水性反応混合物である反応混合物は、本明細書に記載のような、(i)基質の脱水、(ii)ジカルボニル中間体の環化、(iii)2-置換テトラヒドロフラン誘導体の脱水、及び/又は(iv)2-置換フラン誘導体の酸化のステップのいずれかを触媒するための、固体不均一系触媒、例えば、固体微粒子触媒をさらに含み得る。代表的な固体触媒は、触媒活性の成分として、周期律表の8~11族から選択された1種若しくは複数種の遷移金属、例えば、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、又は金(Au)を含み得る。好ましい遷移金属は、ルテニウムである。触媒は、遷移金属の固体支持体をさらに含み得、金属は、ある分布によって、使用される特定の触媒調製技術(例えば、活性金属の溶液の蒸発含浸)によって、例えば、固体支持体の外側表面に優先的に近く、又は他に多孔性の固体支持体の全体に亘って実質的に均一に、固体支持体上に分散されている。好ましくは、活性金属、又は組み合わせたこのような金属は、固体触媒の全重量に対して0.1重量%~15重量%、又は0.5重量%~10重量%の量で存在する。
【0031】
固体触媒の活性金属は、活性金属(例えば、ルテニウム)のモルが、例えば、バッチ式反応の場合、最初の反応器充填組成によって、又は連続反応の場合、定常状態の組成によって、基質のモル数に対して0.1mol%~15mol%、又は0.5mol%~10mol%を表すような量で反応混合物中に存在し得る。固体支持体は好ましくは、反応混合物中及び本明細書に記載されている合成反応条件下で難分解性である。代表的な固体支持体は、1種又は複数種の金属酸化物、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ストロンチウム(ストロンチア)などを含む。好ましい固体支持体は、炭素である。特定の実施形態によると、固体触媒は、炭素支持体上のルテニウムを含み、ルテニウムは、総触媒重量に基づいて上記で示した範囲内、及び/又は基質のモル数に対して上で示した範囲内の量で存在する。
【0032】
本明細書に記載されている方法による2-置換テトラヒドロフラン誘導体及び/又は2-置換フラン誘導体の合成と関連する典型的な反応環境は、不活性又はおそらく酸化性雰囲気を含む。反応は、例えば、適切な気体、例えば、窒素、窒素が濃縮された空気、又は空気、による雰囲気ブランケッティング又は加圧によって得られる0.1メガパスカル(MPa)(14.5psi)~2MPa(290psi)、例えば、0.1MPa(14.5psi)~0.5MPa(73psi)の絶対圧力を含む脱水/環化反応条件下で行い得る。
【0033】
他の脱水/環化反応条件は、一般に、0℃~250℃、典型的には、20℃~150℃、及びしばしば、40℃~100℃の温度を含み得る。反応時間、すなわち、反応混合物が圧力及び温度の条件下で任意の目標値又は上記で示した圧力及び温度の範囲(例えば、0.25MPa(36psi)の目標総圧力値及び50℃の目標温度)のいずれか内の目標サブ範囲に維持される時間は、バッチ式反応の場合、0.5時間~24時間、好ましくは、1時間~5時間である。連続反応について、これらの反応時間は、反応器滞留時間に対応する。連続操作は、例えば、基質の連続供給、並びに2-置換テトラヒドロフラン誘導体及び/又は2-置換フラン誘導体を含む反応混合物の連続回収を伴って上記の圧力及び温度の条件下で行い得る。連続操作は、誘導体の連続精製、変換されていない気体及び/又は液体生成物を含むプロセス流の連続分離、及び/又は合成反応器中に維持される反応混合物へと戻すこのようなプロセス流の1つ若しくは複数の連続再循環をさらに含み得る。再循環操作の場合、上記のような2-置換テトラヒドロフラン誘導体及び/又は2-置換フラン誘導体の収率は、「ワンススルー」又は「通過当たり」収率に対応し、より高い全収率は再循環によって可能である。
【実施例
【0034】
実施例1
グルコン酸ナトリウム(10グラム)を、450立方Hastelloy(登録商標)C2000Parr高圧反応器において100mLの水、及び2.5グラム又は2mol%のメタタングステン酸アンモニウム水和物の形態のタングステートと合わせた。反応器を6.9MPa(1000psi)の窒素で3回、次いで、6.9MPa(1000psi)の水素で3回パージした。第3の水素フラッシュの後、反応器を水素で3.4MPa(500psi)まで加圧し、180摂氏温度への加熱を伴う700rpmでの撹拌を開始した。反応温度に達すると、さらなる水素を加え、13.8MPa(2000psi)の水素を容器へと提供した。2時間後、氷水浴においてクエンチすることによって反応器の内容物を室温に冷却し、反応器を減圧し、内容物を濾過して、触媒を回収し、次いで、ピリジン中のN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)及びトリメチルクロロシラン(TMCS)を使用して試料をGC/MS分析のためにシリル化した。分析は、基質の91.7%の変換を示し、生成物は、15.8重量パーセントの5-ヒドロキシメチル-2-フランカルボン酸(HMFCA、27.4molパーセント収率)を含んだ。
【0035】
実施例2
この実施例について、水素の代わりに1.4MPa(200psi)の窒素を使用したことを除いては、実施例1の装置及びプロトコルを使用した。基質変換は87.3molパーセントであり、生成物は、15.2重量パーセントのHMFCA(26.3molパーセント収率)を含んだ。
【0036】
実施例3
この実施例について、反応は2時間よりむしろ24時間に亘り行い、基質の完全な変換がもたらされたことを除いては、実施例2を繰り返した。生成物は、0.2重量パーセントの乳酸及び9.6重量パーセントのHMFCA(16.6molパーセント収率)を含んだ。
【0037】
実施例4
24時間に亘り140摂氏温度のより低い反応温度であることを除いては、実施例3を繰り返した。変換は、61.6molパーセントへと低下し、HMFCAは、生成物の6.6重量パーセント(11.4molパーセント収率)を構成した。
【0038】
全体的に、本発明の態様は、容易に利用可能であるか、又は簡単に派生される基質から2-置換フラン誘導体及び/又は酸化された2-置換フラン誘導体最終生成物、及び特に、FDCAを生成するための、本明細書に記載されている合成方法の使用に関する。最終生成物は、in situで又はさらに、別々の反応段階において酸化から生成し得る。2-置換フラン誘導体及び/又は最終生成物は、これらの生成物を生成するために使用される基質に対して同じ数の炭素原子を有する。方法は、通常の方法の様々な欠点を有利に取り組み得る。本開示から得た知識を有する当業者は、これら及び他の利点を達成することにおいて、本開示の範囲から逸脱することなく、これらのプロセスに様々な変更を行うことができることを認識する。したがって、本開示の特徴は、本開示の範囲から逸脱することなく修正及び/又は置換を受け入れることができることを理解すべきである。本明細書に例示及び記載されている特定の実施形態は、例示のために過ぎず、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明を限定するものではない。
図1
図2