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特許7446276表面増強ラマン分光法を用いたアルデヒドの検出及び分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】表面増強ラマン分光法を用いたアルデヒドの検出及び分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240301BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N21/41 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021500012
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 US2019021778
(87)【国際公開番号】W WO2019178044
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】62/641,529
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520352252
【氏名又は名称】オンダビア、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペーターマン、マーク チャールズ
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0074799(US,A1)
【文献】国際公開第2017/198993(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0053818(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の分析物の量を測定する方法であって、
前記分析物を含む既知体積の水のサンプルを取得するステップと、
既知量の同位体置換体を前記サンプルと混合するステップと、
比色色素を前記サンプルの少なくとも一部と混合するステップと、
前記比色色素を、
(a)前記分析物又は
(b)前記分析物を変換した変換体
と反応させ、化合物を生成するステップと、
ラマン散乱ナノ粒子を前記サンプルと混合し、混合物を生成するステップと、
前記混合物のラマンスペクトルを生成するステップと、
前記ラマンスペクトル内の前記化合物と前記同位体置換体とに対応する前記ラマンスペクトル内のピーク又はバンドのレシオメトリック分析を実行して、前記分析物を定量化するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
サンプルを少なくとも2つの部分に分割し、1つの部分で前記分析物を処理して前記分析物の前記変換体を生成し、前記分析物の前記変換体を前記比色色素と反応させて前記化合物を生成することを行い、別の部分では行わないことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記色素の添加前に、前記サンプル中の自然発生量の前記分析物の前記変換体を反応させて、前記サンプル中に付加物を形成することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記色素を有し、前記分析物の前記変換体を有さない第2サンプルを調製し、前記サンプルのスペクトルから前記第2サンプルのスペクトルを差し引くことを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
メタアルデヒドの濃度を測定するために使用される、請求項1~4のいずれかに記載の方法であって、前記比色色素は、MBTHであり、前記サンプルは、加熱されてメタアルデヒドがアセトアルデヒドに変換され、前記アセトアルデヒドは、前記MBTHと反応して前記化合物を形成する、方法。
【請求項6】
前記サンプル中のアセトアルデヒドのバックグラウンド濃度を測定することを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
MBTHのスペクトルを差し引くことを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記同位体置換体は、前記分析物の同位体置換体又は前記分析物の前記変換体の同位体置換である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により組み込まれる、2018年3月12日に出願された米国特許出願第62/641,529号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、表面増強ラマン分光法を用いた、流体、例えば環境水中の分析物、例えばアルデヒドの検出、スペシエーション及び/又は定量化に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、水サンプル内の微量レベルの多くの分析物の検出及び測定には、複雑な実験装置及び熟練した技術者が必要である。様々な実験技術が存在する。EPAは、重要な化合物について利用可能な承認された技術の一覧を提供する。米国公衆衛生協会、米国水道協会、及び米国水環境連盟は、水分析方法論に関する広範な論文である、「標準水質検査法(Standard Methods for the Examination of Water and Wastewater)」を公開している。様々な分析検出法を水分析で使用することができるが、ほとんどの微量分析は、広く使用されている一般的な、ただし複雑で高価な質量分析法に基づく。
【0004】
ラマン分光法は、微量の分析物検出の潜在的な代替手段である。ラマン分光法は、(反射スペクトルのユニークなピーク構成の形で)化合物の化学的特徴を提供するが、ラマン信号は通常、十億分率の検出には弱すぎる。しかしながら、ラマン信号は、活性表面又はマーカー(通常は金属)の存在によって増強することができ、表面増強ラマン分光法(SERS)をもたらし得る。分析物と表面との間の適切な相互作用と共に、信号の増強によって、非常に低い濃度を検出する機会が生まれる。ピリジンなどの一部の化合物は、金及び銀の表面と自然に強く相互作用する。他のいくつかの場合では、結合化合物が、分析物と金属分子とを十分に密接に接触させることがある。例えば、オクタデシルチオールによる処理は、一部の分析物を含む平面基板上のSERSにうまく使用されている。
【0005】
一部のSERS技術では、表面は金属ナノ粒子によって提供される。光の波長よりも小さい金属ナノ粒子がサンプルに導入されると、ナノ粒子に自由電子がある場合、照射電場によって表面共鳴が生成される。ナノ粒子は、例えば、金、銀、又は銅のビーズであり得る。これらの振動する電荷は、特定の方向に沿って増強された局所電場を生成し、その結果、はるかに強いラマン応答が得られる。「ホットスポット」領域が、SERS信号が大幅に増強される場所に生成され得る。これらの領域は、さらに大きな電場増強を生成するナノ粒子の配置又は凝集体が原因である可能性が最も高い。
【0006】
米国特許第8,070,956号明細書、手持ち式マイクロ流体試験装置(Hand-Held Microfluidic Testing Device)は、カートリッジを収容するカートリッジ収容ポートを有する試験装置を記載している。ハウジング内の光学検出システムは、カートリッジのチャネル内のサンプルを分析するために配置されている。いくつかの実施形態では、金ナノ粒子などのマーカーがチャネルに存在し、光学検出システムはラマン分光システムである。いくつかの実施形態では、チャネルは、金ナノ粒子を高密度で捕捉するマイクロ流体分離チャネルに沿った狭い区画を含む。これにより、所定の検出場所でのナノ粒子密度による「ホットスポット」の生成が促進される。
【0007】
一部の研究者らによってSERSを使用した驚くべき検出限界が達成されたが、微量分析物の濃度を測定するためのSERSの使用はあまり開発されていない。一般に、ラマン信号強度は、単位面積あたりの分析物の量に比例する。しかしながら、問題の1つは、ランダムなナノ粒子ホットスポットの生成が、ランダムな信号の増強につながり、信号強度と分析物濃度との相関を妨げることである。別の問題は、分析物の濃度以外の水性サンプル条件、例えばpHが分析物の信号強度を変える可能性があることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8,070,956号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】米国公衆衛生協会、米国水道協会、及び米国水環境連盟著「標準水質検査法(Standard Methods for the Examination of Water and Wastewater)」
【発明の概要】
【0010】
本明細書は、例えば工業又は環境水サンプルなど、様々な分析物の濃度を測定するための表面増強ラマン分光法(SERS)の使用について説明する。少なくともいくつかの場合では、微量化合物の組成は10%以内の精度で測定される。測定方法は、分析物を含む既知体積の水性混合物に添加された既知量の参照化合物の形の内部標準を使用する。参照化合物は調査中の分析物と同様に表面と反応するが、異なるラマンスペクトルを生成する。参照化合物は、例えば、分析物又は分析物に類似した化合物の同位体置換体、異性体、又は鏡像異性体であり得る。参照化合物は、分析物の予想量と同様の量で混合物に添加される。
【0011】
再利用可能で消耗性の構成要素を有する携帯型試験装置が説明される。再利用可能な構成要素には、カートリッジホルダを有するラマン分光装置と、任意選択的に汎用コンピュータに格納されている、ラマン分光装置を操作するソフトウェアとが含まれる。消耗性の構成要素には、カートリッジ、ラマン散乱ナノ粒子の分散、及び調査中の分析物のための1つ以上の試薬が含まれる。典型的には溶液で提供される1つ以上の試薬は、分析物のための参照化合物、及び任意選択的に、分析物とラマン散乱ナノ粒子との間の相互作用を高めることができる1つ以上の化合物を含む。カートリッジは、分析物、ナノ粒子、及び1つ以上の試薬の混合物をラマン分光装置の適切な場所に保持するように適合されたキャビティを有する。いくつかの実施形態では、装置はまた、固相抽出カラム又は他の前処理装置又は化学物質を含み得る。
【0012】
使用に際して、混合物は、調査中の分析物、ナノ粒子、及び1つ以上の試薬を含む水サンプルから調製する。混合物の少なくとも一部をカートリッジに配置する。カートリッジをラマン分光装置に装填する。コンピュータはラマン分光装置を制御して、混合物のラマンスペクトルを生成する。生成されたスペクトルには、分析物及び参照化合物の個別のスペクトルが含まれる。典型的にはソフトウェアで実行される個々のスペクトルのレシオメトリック分析を使用して、分析物の濃度を計算する。
【0013】
いくつかの場合において、参照標準は、分析物の同位体置換体、又は分析物と化学的に類似する化合物の同位体置換体である。「同位体置換体」という言葉を使用する場合、(そうではないことが文脈から明らかでない限り)中性子の数がその化合物の最も一般的な自然発生形態とは異なる化合物の形態を指すことを意味する。厳密に言えば、同位体という言葉は分子ではなく元素と共に使用されるべきであるが、「同位体」という言葉は、簡潔さ又は便宜のために同じ意味で使用される場合もある。化合物の同位体置換体は、化合物の一般的な形態とは異なるラマンスペクトルを有する。例えば、ピリジン分子の水素を重水素に置換すると、本質的に同じ強度であるがシフトしたピークを有するSERSスペクトルが得られる。
【0014】
分子イオンである分析物の場合、化学的に類似した化合物は、同じタイプ及び数の電子受容体が同じタイプの結合によって結合されているが、異なる電子供与体に結合されている別の分子イオンであり得る。アミンなどの、少なくともいくつかの条件下で自然にSERS活性である官能基を有する分析物の場合、化学的に類似した化合物は、同じ官能基を有する化合物であり得る。
【0015】
参照標準によって生成されたラマンスペクトルは、複合スペクトル内の分析物によって生成されたスペクトルと同時に生成及び記録される。既知量(すなわち、濃度)の参照標準に対応する1つ以上のバンドのラマン強度は、分析物に対応する1つ以上のバンドのラマン強度を分析物の量(すなわち、濃度)の測定値に変換するときの基準として使用される。場合によって、同位体の自然発生又は追加された同位体の不純物などの要因に対応するために、任意選択的な調整が行われることがある。参照標準は、対象の分析物と同様に、SERS基板(金ナノ粒子など)と相互作用することが好ましい。したがって、参照標準と分析物との両方は、「ホットスポット」又はサンプル組成の変動により、信号強度に同様の変化を示す。したがって、分析物のラマンスペクトル(すなわち、その特性バンドの1つ以上の強度)を、参照標準のラマンスペクトル(すなわち、その特性バンドの1つ以上の強度)に対してスケーリングすると、正確な定量化が達成される。
【0016】
いくつかの場合において、参照標準として使用される同位体置換体は、例えば、水素同位体(すなわち、重水素)又は酸素同位体(すなわち、18O)で化合物を合成することによって作製してもよい。水素の一部又はすべてを重水素で置換すると、モノエタノールアミン、メチルアミン、ジエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、及びメチルジエタノールアミンなどのアミン、並びにベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレンなどの炭化水素を含む多くの化合物のラマンスペクトルのピークがシフトする。酸素の少なくとも一部、好ましくはすべてを重酸素(通常18O)で置換すると、例えば、多くの分子イオン、ペルクロレート、スルフェート、セレネートイオンのラマンスペクトルのピークがシフトする。
【0017】
一部の分析物は,本質的にSERS活性である可能性があり、すなわち、SERS基板と自然に相互作用して強い信号を生成する。他の場合では、分析物は、結合試薬の添加又はpH若しくはイオン強度などの一般的なサンプル条件の調整によって、SERS基板と相互作用するように作製してもよい。さらに他の場合では、分析物を含む反応を使用して、SERS活性のより高い化合物を生成又は消費する。SERS活性のより高い化合物は、本質的により活性な化合物、又は結合剤を介してより簡単にSERS基板と相互作用させることができる化合物であり得る。反応後のSERS活性のより高い化合物の量を測定し、存在する場合、反応開始前に存在していた、SERS活性のより高い化合物の既知量と比較することができる。SERS活性のより高い化合物の内部標準を使用して、測定の精度を高めることができる。次に、反応で消費又は生成されるSERS活性のより高い化合物量を使用して、反応の式を使用して分析物の濃度を計算することができる。
【0018】
一部の分析物は、比色色素を含む工程で測定することができる。この方法では、分析物を含む既知体積の水のサンプルを取得する。既知量の同位体置換体をサンプルと混合する。比色色素を、サンプルの少なくとも一部と混合する。任意選択的に、分析物を処理して、色素と反応する化合物を形成することができる。ラマン散乱ナノ粒子をサンプルと混合する。混合物のラマンスペクトルを生成する。分析物は、例えば、分析物及び同位体置換体に対応するラマンスペクトル内のピーク及び/又はバンドのラマンスペクトルのレシオメトリック分析を実行することによって定量化し、分析物を定量化する。任意選択的に、分析物はアルデヒドであってもよい。
【0019】
任意選択的に、比色色素を含む方法は、サンプルを少なくとも2つの部分に分割し、分析物を処理して、1つの部分で色素と反応し、別の部分では反応しない化合物を形成することを含み得る。
【0020】
任意選択的に、比色色素を含む方法は、色素の添加前に、サンプル中の色素と反応する自然発生量の化合物を反応させることを含み得る。
【0021】
任意選択的に、比色色素を含む方法は、色素を有し、色素と反応する化合物を有さない第2サンプルを調製し、サンプルのスペクトルから第2サンプルのスペクトルを差し引くことを含み得る。
【0022】
任意選択的に、比色色素を含む方法は、MBTHを使用し、サンプルを加熱してメタアルデヒドをアルデヒドに変換して、メタアルデヒドの濃度を測定するために使用され得る。任意選択的に、サンプル中のアルデヒドのバックグラウンド濃度を測定してもよい。任意選択的に、MBTHのスペクトルを減算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】携帯型SERS分析システムの概略図である。
図2図1のシステムと共に使用するカートリッジの上面図である。
図3】本発明による分析機器内に含まれる例示的な光学システムを示す。
図4】精度、直線性、及び検出範囲を示すジエタノールアミンの検量線である。
図5】精度、直線性、及び検出範囲を示すペルクロレートの検量線である。
図6】精度、直線性、及び検出範囲を示すセレネートの検量線である。
図7】サワー水中のアミンの分析におけるサンプル調製方法を示す。
図8】アルデヒド分析工程を示す。
図9】アルデヒド-MBTH化合物のラマンスペクトルの一部を示す。
図10】重水素化アルデヒド-MBTH化合物のラマンスペクトルの一部を示す。
図11】アルデヒド-MBTH化合物のラマンスペクトルの一部を示す。
図12】異なる濃度のアルデヒド-MBTH化合物のラマンスペクトルの一部を示す。
図13】アルデヒド-MBTH化合物に変換された異なる濃度のメタアルデヒドのラマンスペクトルの一部を示す。
図14】様々なバックグラウンド濃度のアルデヒド及び5-ppbメタアルデヒドを含む水サンプル中のアルデヒド濃度の測定値を、メタアルデヒドを加熱してアルデヒドに変換する場合としない場合とで示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に記載される例示的な水分析システムは、水性サンプルの現場又はフィールド分析を提供するために使用され得る。一般に、技術者は水サンプルを収集し、そのサンプルを分析のために処理してから、サンプルをカートリッジに導入する。カートリッジはラマン分光装置に挿入され、汎用コンピュータによって提供されるインターフェースを介して操作され得る。ラマン分光装置内の光学素子及び電子素子は、サンプルのラマンスペクトルを生成し、これは、例えば汎用コンピュータのソフトウェアで分析され、水サンプル中の調査中の分析物の濃度が決定される。
【0025】
ラマン分光法により、特定の「指紋」、すなわちラマンスペクトルのピークのパターンによって分析物を検出することが可能になる。好ましくは、ラマンスペクトルが生成されるとき、既知量の参照化合物が分析物と共にサンプル中に存在し、分析物の信号強度を比較して正確な定量結果を提供することができる内部較正標準を提供する。ラマン信号の強度は、単位面積あたりに存在する分子の数に応じて増減する(すなわち、比例する)。既知量の較正標準が分析物を含む既知体積のサンプル水溶液に導入された場合、分析物の量は、例えばレシオメトリック法を介して、較正標準の信号強度と分析物の信号強度とを比較することによって決定され得る。
【0026】
使用される特定のレシオメトリック法は重要ではない。例えば、サンプル中の参照化合物の濃度は、相関係数を提供するために、参照化合物のスペクトルの最高ピークの強度で割ることができる。この相関係数に分析物のスペクトルの最高ピークの強度を掛けると、分析物の濃度が得られる。あるいは、分析物の信号強度(すなわち、分析物に特徴的な1つ以上のバンド内の強度)を、参照化合物の対応するバンド内の信号強度で割って、倍率を提供することができる。この倍率にサンプル中の参照化合物の既知の濃度を掛けると、分析物の濃度が得られる。任意選択的に、較正標準の純度、又は分析物における較正標準の自然発生などの様々な要因に対して調整を行うことができる。スペクトル曲線を平滑化、又は強度測定前にバックグラウンド信号を差し引くなど、他の通常の調整も行うことができる。
【0027】
参照化合物は、製造中にカートリッジに追加するか、又は分析物がカートリッジに追加される前に、分析物を含むサンプルに追加することができる。同様に、SERS活性金属ナノ粒子(すなわち、マーカー)は、製造中にカートリッジに追加するか、又は分析物がカートリッジに追加される前に、分析物を含むサンプルに追加することができる。任意選択的に、第1のステップとして、又は少なくともサンプルをカートリッジに装入する前に、参照化合物の溶液を分析物を含む水性サンプルと混合することにより、分析物と参照化合物との混合物を、カートリッジに適合する量よりも大きい容量で作成することが可能になる。これは、特に高精度の液体処理装置が利用できないフィールドで測定を行う場合に、混合物中の参照化合物の濃度を正確に計算するのに役立ち得る。参照化合物と分析物サンプルとが一緒に混合されると、混合物の一部がこぼれるなどのその後のエラーは、通常、分析物濃度測定の精度に影響を与えない。
【0028】
参照化合物は、分析物の予想量と同様の量で混合物に添加される。例えば、分析物が0~100ppmの範囲の濃度を有すると予想される場合、分析物サンプルは、25~75ppmの参照化合物を含む等容量の溶液と混合され得る。同様に、分析物が0~100ppbの範囲の濃度を有すると予想される場合、分析物サンプルは、25~75ppbの参照化合物を含む等容量の溶液と混合され得る。混合物中の参照化合物の量は、好ましくは、混合物中の分析物の量の0.1~10倍以内である。
【0029】
任意選択的に、参照化合物は、調査中の分析物の同位体置換体であり得る。同位体置換体は、中性子の数のみが分析物と異なるため、強力な内部較正標準を提供する。参照化合物の化学応答及び反応は、分析物とほぼ同一である。しかしながら、ラマン分光法では、同位体置換体は異なるスペクトルを有する。したがって、未知の分析物を定量化するために複合スペクトルのレシオメトリック分析を使用して、分析物及び同位体置換体のスペクトルを同時に記録することができる。
【0030】
別の選択では、較正標準は、調査中の分析物と化学的に類似している化合物の同位体であり得る。例えば、セレンと硫黄とは、化学的に非常に類似している。セレネートの測定は、スルフェート、セレネート同位体、又は較正標準としてのスルフェート同位体の測定に依存する場合がある。未知の量のスルフェートがサンプルに存在する可能性がある場合、例えば煙道ガス脱硫ブローダウン水を試験する場合、セレネート同位体又はスルフェート同位体の使用が好ましい。スルフェート同位体は、通常、生成が容易である。セレネート又はスルフェート同位体のいずれかを使用する場合、セレネート濃度の測定と同時に、サンプル中のスルフェートの濃度を測定することができる。
【0031】
任意選択的に、1つ以上の追加の化合物をサンプルと混合して、ナノ粒子と、分析物及び参照化合物の両方との間の相互作用を増強することができる。場合によって、追加の化合物は、SERSマーカー、つまりナノ粒子を改変する。任意選択的に、改変は、調査中の分析物及び参照化合物と優先的に、又はそれらとのみ相互作用するように設計された化合物を使用して、分析物の特異性について選択することができる。このアプローチは、信号強度を高めながら干渉を低減する。
【0032】
任意選択的に、追加の化合物としては、チオール、アミン、シラン、ポリマー粒子、金属粒子、クラウンエステル、システアミン、シスタミン、ジエチルアミンエタンチオール、メルカプトプロピオン酸、1-プロパンチオール、オクタンチオール、オクチルデカンチオール、ポリスチレン、鉄、又はシリカから選択される1つ以上の化合物が挙げられる。他の選択では、追加の化合物は、分析物及びナノ粒子を含む混合物のpH又はイオン強度を改変するのに有効な化合物であり得る。一部の分析物は、特定のpH又はイオンの存在下で、SERS基板とより相互作用する。任意選択的に、1つ以上の追加の化合物が、試薬溶液中で参照化合物と予め混合されて提供され得る。
【0033】
図1は分析システム10を示す。分析システム10は、ラマン分光ユニット12、コンピュータ14及びカートリッジ16を含む。コンピュータ14は、図示のように別個のコンピュータであってもよく、あるいはラマン分光ユニット12に組み込むこともできる。コンピュータ14は、好ましくは、携帯型の汎用コンピュータ、例えば、ラップトップ、タブレット又はスマートフォンである。
【0034】
ラマン分光ユニット12は、ハウジング内に光学検出システムを含む。光学検出システムは、照射電場を提供することができ、照射電場を使用して、例えば、ラマン散乱ナノ粒子及び較正溶液を用いて、ラマン分光法を行い、カートリッジ16に投入された試験下のサンプルを分析することができる。ラマン分光ユニット12は、フォーカスリング18を有するレンズ20をさらに含む。フォーカスリング18は、レンズ20をカートリッジ16に含まれるサンプルに集束させることを可能にする。ラマン分光ユニット12は、カートリッジ16を収容するように適合されたカートリッジホルダ22を含む。カートリッジホルダ22は、ねじ24を回すことにより、レンズ20に対して移動させることができる。第2のねじ(図示せず)は、好ましくはねじ24に対して直角に設けられて、試験されるサンプルを見ることができるカートリッジ16の一部をレンズ20と整列させることを可能にする。
【0035】
カートリッジ16は、分析物を含む水性混合物を収容する。カートリッジ16は、サンプルを収容するキャビティ26を有する。カートリッジ16は、プラスチックであってもよい。しかしながら、混合物が透明で、ラマンレーザがキャビティ26の底部まで貫通すると予想される場合、キャビティの底部は、ステンレス鋼などの反射面で裏打ちされてもよい。あるいは、カートリッジ16は、ガラス若しくはプラスチックのバッグ若しくはバイアル、又は他の適切な容器であってもよい。カートリッジ16がカートリッジホルダ22に取り付けられると、キャビティ26はレンズ20と整列する。
【0036】
別の選択では、カートリッジ16は、例えば米国特許第8,070,956号明細書で説明されているように、1つ以上のナノ粒子、参照化合物、1つ以上の追加の化合物、ナノ粒子の密度が増加した領域を提供するように構成されたマイクロ流体チャネル、又はマイクロ流体分離チャネルを含むことができる。
【0037】
図3は、ラマン分光ユニット12内に含まれる例示的な光学システム1400を示す。レーザなどの光源1402が示されており、光源1402は、ダイクロイック光学素子1410に反射されるビームエキスパンダーとして配置された一連の光学素子1408を通過する光ビーム1406を投射し、参照光ビーム1411を分光計1412に導いて、モノクロメーター1414での分析及びCCDアレイ1416での記録を行う。ダイクロイック1410は、同時に信号光ビーム1413をカートリッジ1418に向けて、カートリッジ1418内のサンプルから信号を収集し、分析のためにビーム経路に沿って分光計1412及びCCDアレイ1416に信号を反射する。
【0038】
アミンの定量化
重要な分析物カテゴリーの1つは、例えば工業工程におけるアミンのモニタリングである。有機アミンは、pHを上げて腐食性汚染物質を除去する腐食抑制剤として使用される。例えば、モノエタノールアミン(MEA)は、広く使用されている腐食防止剤であり、溶存COを低減し、工業用ボイラー及び原子力発電所のpH制御に役立つ。アミンは、石油及びガスの生産及び処理における硫化水素スカベンジャーとしても効果的である。例えば、MEA-トリアジンは、坑口の硫化水素スカベンジャーとしてよく使用される。MEA又はその他の化合物は、製油所の操作に影響を与えるトランプアミン(tramp amine)としても存在する。例えば製油所、パイプライン、又は坑口でアミンを現場モニタリングすることによって、適切な腐食保護の維持を助けながら、システムの寿命を延ばし、費用のかかる、腐食によるシャットダウン及び故障を回避することができる。
【0039】
上記の分析システム10は、アミンの濃度を測定するために操作され得る。アミンは、金及び銀基板と自然に相互作用する。塩基性pH条件下では、アミン基がナノ粒子に付着し、強いラマン応答が得られる。場合によっては、分析方法が要するのは5分未満であり、フィールドで実行することもできる。場合によっては、ppb範囲のアミンの測定が可能である。しかしながら、工業工程管理では、多くの場合、ppm範囲のアミンの測定が必要である。一般に、アミンの濃度は、参照化合物としてアミンの同位体置換体、好ましくは同じアミン又は類似の分子量及び構造のアミンの同位体置換体を使用して測定することができる。ラマンスペクトルを測定する前に、分析物、同位体置換体及びナノ粒子の混合物を、好ましくは、塩基性pH、例えば、分析物アミンのpKaよりも少なくとも1又は好ましくは少なくとも2高いpHに調整する。
【0040】
一実施形態では、方法は、製油所工程水中のメチルアミンの百万分率の濃度測定を提供する。メチルアミンは、精製工程に悪影響を与えるトランプアミン(tramp amine)である。水溶液中のメチルアミンの検出限界は、20ppb以上である。
【0041】
別の実施形態では、モノエタノールアミン(MEA)の濃度が決定される。モノエタノールアミンの迅速な測定は、製油所の操作管理に役立つ。MEAの好ましい同位体置換体は、モノエタノールアミン-d4である。MEA、同位体置換体及びナノ粒子混合物のpHは、好ましくは12.6~12.9に上げられる。MEA、同位体置換体及びナノ粒子の混合物がカートリッジに追加され、そのラマンスペクトルが決定される。
【0042】
本明細書に記載の方法では、参照化合物がアミン化合物分析物サンプルに添加される。参照化合物は、同じ又は別のアミン化合物の同位体置換体である。一例では、25~75ppmの既知体積のメチルアミン-d溶液が、未知の量のメチルアミン-dを有する既知体積(好ましくは、メチルアミン-d溶液の体積と同じか又は50%以内)のサンプルに添加される。メチルアミン-dは、それに対してメチルアミンdスペクトルが定量化され得る(複合スペクトル内の)参照スペクトルを生成する。このアプローチにより、メチルアミン-dの0~100ppmの範囲で±10%の測定精度が得られる。低濃度のメチルアミン-d溶液を使用すると、低端で精度を向上させることができる。混合物のpHは、そのラマンスペクトルを取得する前に、好ましくは12.6~13.0に調整される。
【0043】
別の例では、ジエタノールアミンの濃度を測定するときに、ジエタノールアミン-dが内部標準として使用される。図4は、内部標準としてジエタノールアミンdを使用して、様々な濃度で調製したジエタノールアミンのサンプルの濃度を測定することによって作成された検量線を示す。応答は0~100ppmにわたって線形であり、測定された濃度の精度は10%以内である。混合物のpHは、好ましくは12.6~13.0に調整される。
【0044】
他の例では、上記のアプローチはトリアジンベースの化合物に適用される。例えば、MEA-トリアジン又はジチアジンの正確なppmレベルの測定は、エタノールアミン-d又はMEA-トリアジン-d12同位体置換体を参照化合物として使用して達成することができる。
【0045】
さらなる例において、1つのアミンを測定する工程は、複数のアミンを測定するために拡張することができる。内部標準は、エタノールアミン-d及びメチルアミン-dなどの物質の混合物であり得る。これら2つの化合物は個別に、エタノールアミン及びメチルアミンの個別の優れた内部標準である。混合物に両方の同位体置換体を含めることにより、サンプル中のエタノールアミン及びメチルアミンの濃度を決定することができる。最初に、スペクトルが870-cm-1のエタノールアミン-dピークにスケーリングされ、エタノールアミン濃度が決定される。次に、同じスペクトルが950-cm-1のメチルアミン-dピークにスケーリングされ、メチルアミン濃度が決定される。さらに、信号対雑音比を改善するために、第2アミンのスペクトルを分析する前に、第1アミンのスペクトルを全体のスペクトルから順次差し引くことができる。例えば、エタノールアミンスペクトルはメチルアミン信号よりも強い。エタノールアミンスペクトルを差し引くことにより、メチルアミン分析の精度を向上させることができる。
【0046】
中間反応の使用
さらに他の例では、分析物を含む反応を使用して、SERS活性のより高い化合物を生成又は消費する。反応生成物中のSERS活性のより高い化合物の量を測定して、SERS活性の高い化合物が生成又は消費されたかどうかを決定する。SERS活性のより高い化合物の参照化合物を使用して、測定の精度を高めることができる。次に、反応で消費又は生成されるSERS活性のより高い化合物量を使用して、反応の式を使用して分析物の濃度を計算することができる。
【0047】
一例では、ピリジンの消費を使用して、gem-ハロゲン化化合物の濃度を決定する。ある量のピリジンを消費するのに必要なgem-ハロゲン化化合物の量は、ピリジンを使用したgem-ハロゲン化化合物検出のための比色法で通常使用される藤原反応に従って決定することができる。gem-ハロゲン化化合物は、例えば、トリクロロエチレン、トリハロメタン、クロロホルム、又はハロ酢酸であり得る。
【0048】
一例では、gem-ハロゲン化化合物、特にトリクロロエチレン(TCE)の濃度が測定される。TCEがppb範囲で含まれることが疑われる水のサンプルを採取する。藤原反応に必要とされるように、例えば腐食剤を添加することによって、サンプルのpHを12~13に調整する。例えば約100~150ppbの希薄ピリジン溶液をアルカリ性サンプルに1:1又は同様の体積比で添加する。ピリジンとTCEとの反応が進行し、TCEが完全に消費され、ピリジン濃度が低下する。次に、内部標準、例えば既知の濃度及び体積のピリジン-d溶液を反応生成物溶液に添加する。金ナノ粒子などのSERS基板と混合すると、得られるSERS信号は、ピリジン-d信号とピリジン-d信号との組み合わせになる。次に、主要なdピークからスペクトル的にシフトした主要なピリジン-dピークに信号をスケーリングして、残存するピリジン-dの量を決定する。ピリジンの初期量からこの値を引くと、消費されたピリジンの量がわかる。この値を使用して、元のサンプルに存在していたTCEの量を計算することができる。反応後にピリジンが残存していない場合、試験は不確定であり、より多くの初期量のピリジンで繰り返す必要がある。
【0049】
あるいは、ニコチンアミドなどのピリジン誘導体を使用して、gem-ハロゲン化化合物の濃度を決定してもよい。ニコチンアミドは、選択性、使用性、又は安全性などの利点を提供し得る。ピリジン-dはピリジン誘導体と共に内部標準として使用することができ、ピリジン誘導体の同位体置換体も同様である。
【0050】
別の例では、ホルムアルデヒドの濃度は、アミンとホルムアルデヒドとの間の反応によって測定される。システアミンはホルムアルデヒドと反応してチアゾリジンを生成する。システアミンはまた、金基板と強く相互作用するチオールである。ホルムアルデヒドのサンプルを既知量のシステアミンと混合する。反応はホルムアルデヒドとシステアミンの一部とを完全に消費する。次に、この反応生成物溶液をシステアミン同位体置換体及び金ナノ粒子と混合することができる。システアミンに対するシステアミン同位体置換体の比率によって、残存するシステアミンの測定値が得られ、これを使用して、初期ホルムアルデヒド濃度を決定することができる。あるいは、チアゾリジン同位体置換体を反応生成物溶液に添加して、残存するシステアミンの測定値を得ることができ、これを使用して、初期ホルムアルデヒド濃度を決定することができる。いずれの場合も、残存するシステアミンがない場合は失敗であり、より多い量のシステアミンで開始してこの方法を繰り返す必要があることを示す。これらの例では、システアミンの代わりにシスタミンを使用してもよい。
【0051】
イオンの定量化
上記の方法及び装置は、水中のイオン、例えば、分子アニオンの濃度を測定するために採用することもできる。濃度はppb範囲であり得る。参照化合物に加えて、イオンとナノ粒子との間の相互作用を高めるために結合化合物が使用される。結合化合物は、好ましくは窒素原子と硫黄原子との間に3つ以下の炭素原子を有するアミン、例えばチオールであり得る。分析物、同位体置換体、結合化合物及びナノ粒子の混合物は、酸性pH、例えば5.0以下に調整される。好ましいpHは試行錯誤によって決定することができるが、結合化合物のpKaによって異なり、異なるアミンを使用する場合のpKaを反映するように調整された以下の例から推定することができる。
【0052】
一例では、ペルクロレートイオンの濃度が測定される。ペルクロレートは疎水性アニオンである。最初に、SERSナノ粒子、すなわち金ナノ粒子の表面を疎水性カチオン種で修飾することによって、ペルクロレートとナノ粒子との間に表面相互作用を作成する。酸性条件下では、アミンはプロトン化され、カチオン処理として作用して、アニオン種をナノ粒子に引き寄せる。ジメチルアミノエタンチオール又はジエチルアミノエタンチオールのようなチオールベースのアミン化合物は、そのような表面を作成する。疎水性ではないスルフェート又はセレネートのような他のアニオンは、システアミンなどの疎水性の低い化合物の影響下で、SERSナノ粒子、すなわち金ナノ粒子と相互作用する。内部標準としてアニオン性同位体置換体を添加することにより、再現性のある正確な測定が可能になる。
【0053】
ペルクロレート測定の特定の例では、ユーザーは、ペルクロレートを含むと予想される水のサンプル100μlから開始する。このサンプルに、550ppbのペルクロレート-18溶液を10μl添加して、サンプル中のCl18最終濃度を50ppbにする。次に、このサンプルを塩酸を使用してpH1.8~3.0、好ましくは約2.5に調整する。次に、少量のメタノール(10μl)と好ましいチオール化合物(ジメチルアミノエタンチオール)とをサンプルバイアルに添加し、続いて5ulの濃縮金ナノ粒子を添加する。この組み合わされたサンプルは、清潔な鋼基板上で乾燥され、ラマン分光法で分析される。重いペルクロレートは、ペルクロレートスペクトルの強度と比較される内部標準を提供する。得られた検量線を図5に示す。4ppbの検出限界で10%の測定精度が可能である。内部標準としてクロメートの重酸素同位体置換体を使用して、同様のアプローチがクロメートの検出及び定量化に機能する。
【0054】
同位体置換体の作成が過度に高価又は複雑になる場合は、同様のアニオンを参照物質として使用することができる。同様のアニオンは、好ましくは、同じタイプの結合で電子供与体に結合された同じ数及び種類の電子受容体を有する。例えば、セレンと硫黄とは非常に類似した構造を有する。セレネートの検出は、内部標準としてスルフェート又はセレネート同位体置換体(好ましくは4 18O)を使用し、ナノ粒子表面処理化合物としてシステアミン又はシスタミンを共に使用することによって達成することができる。セレネート、同位体置換体、システアミン若しくはシスタミン及びSERS基板(例えば金ナノ粒子)の混合物のpHは、例えばHClを添加することによって、好ましくは約3.5に調整される。しかしながら、スルフェートは一般的な物質であり、スルフェート同位体置換体(S18)は便利な内部標準となっている。さらに、スルフェート同位体置換体を使用することにより、スルフェートとセレネートとの両方を同時に定量化することができる。内部標準としてスルフェート同位体置換体を使用して測定されたセレネートの検量線を図6に示す。
【0055】
分子アニオンの同位体置換体を調製する場合、すべてのO原子を18Oで置き換えることが好ましい。これには反応を完了させる必要があり、それによって、酸素イオンの部分的な置換よりも簡単に、実質的に純粋な同位体置換体が作成される。そのような同位体置換体の自然発生は同様にまれであり、したがって、同位体置換体純度又は自然発生同位体置換体の調整は通常必要ではない。しかしながら、同位体置換体は、自然発生形態に戻すような条件に曝すべきではない。例えば、18Oを含むセレネート同位体置換体は、重酸素が水中の酸素と交換されるため、高酸性水(すなわちpH1.0以下)で長期間保管してはならない。
【0056】
ナノ粒子は、サンプルを添加する前に、チオールなどの追加の化合物で前処理されてもよいが、追加の化合物がサンプルとほぼ同時にナノ粒子と混合されることが好ましい。この工程により、製品の寿命を延ばしながら、応答を向上させる。
【0057】
他の例では、3-メルカプトプロピオン酸などのアニオン性化合物をナノ粒子に添加すると、水中のカチオン性イオンの測定が可能になる。上記のように、カチオン性イオンの内部参照標準もまた、好ましくは添加される。
【0058】
複雑なマトリックスでの定量化
場合によっては、上記の測定方法は、複雑なサンプルマトリックス内の分析物測定に適用することができる。例えば、製油所の工程水は、多くの塩及び炭化水素の存在下でppmレベルのアミンを含み得る。前処理方法によって、分析用にサンプルを調製することができるが、目的の分析物の濃度に影響を与える可能性があるため、前処理は困難な場合がある。このような場合、処理前に参照化合物を追加することによって、前処理によるエラーが低減される。前処理は、例えば、固液分離、イオン交換、強アニオン交換又はイオン抽出であってよい。
【0059】
例えば、製油所のサワー水に含まれるアミンの測定には、大きな課題がある。サワー水は、特有の臭いをもたらす硫化物の存在によって定義される。しかしながら、これらの水サンプルには、例えば、その他の汚染物質であるイオン種、金属、有機酸、炭化水素、及びアミンなども含まれる。例えば、脱塩操作から収集された水は、イオン及びアミンの濃度が高い可能性がある(潜在的に1000ppmを超える)。対照的に、塔頂水の汚染物質濃度は通常、100ppm未満である。
【0060】
複雑なサンプルを分析するには、サンプル前処理の前に、ユーザーはまず同位体置換体などの内部標準をサンプルに導入する。サンプル前処理によって、分析物と内部標準とはほぼ同等に除去され、前処理後の正確な濃度測定が可能になる。前処理は、好ましくは、アニオンを除去するための工程、例えばアニオン交換又はアニオン抽出工程である。分析物と同位体置換体との混合物のpHは、前処理工程で望ましくないアニオンを除去しながら、溶液中の分析物及び同位体置換体を維持するために、必要に応じて低下させることが好ましい。あるいは、分析物及び同位体置換体は、混合物をカチオン抽出ユニットに通過させ、サンプルの残りを廃棄し、次に、カチオン抽出ユニットから分析物及び同位体置換体を溶出することによって捕捉してもよい。
【0061】
サワー水分析について、例示的なサンプル調製方法を図7に示す。アニオンの除去のために設計された固相抽出(SPE)カラムは、最初に0.01MのHCl5mLで洗浄する。500μLのサンプルを、同位体置換体を含む試薬溶液と1:1で混合する。この混合物に1MのHCl10μLを添加し、混合物をSPEカラムに導入する。最初の500μLは廃棄し、残りのサンプルを収集する。残りのサンプルのpHを上方に調整してから、そのラマンスペクトルを測定する。
【0062】
アルデヒド
メタアルデヒドはナメクジ及びカタツムリの餌の有効成分である。英国及びEUの飲料水の上限は100兆分率(ppt)である。河川の水位は、天候、季節、及び地理に依存する。GC/MSを介して分析を行うことができる。
【0063】
メタアルデヒドはアセトアルデヒドの環状四量体である。強酸中又は加熱(70℃以上)すると加水分解し、アルデヒドに変化する。
【0064】
アルデヒド濃度は、比色分析によって推定することができる。MBTH(N-メチルベンゾチアゾリノン-2-ヒドラゾン)は、C1-C3アルデヒド(すなわち、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド(プロパナール))と結合して、溶液中で青色の化合物を形成する。MBTHは、アルデヒドを有することが疑われる水サンプルに添加する。30分間の待機時間の後、Fe3+をサンプルに添加する。15分後、色の濃さを測定する。しかしながら、比色分析は化学種を同定できず、低濃度での検出又は濃度測定はできない。
【0065】
MBTHには、金に結合できる複数の窒素基及び硫黄基が含まれている。以下の方法では、サンプルに金ナノ粒子(すなわち、80nmのコロイド金ナノ粒子)を添加する。これにより、ラマン分光計による分析が可能になる。例示的な分光計は、785nm、100mWのレーザを備え、200~2000cm-1、4cm-1の分解能を有する。
【0066】
アルデヒド分析の方法では、サンプルは比色分析の場合と同様に調製するが、色分析ではなくラマンスペクトルを使用して分析する。例示的な方法では、MBTHをサンプルに添加し、待機し(30分間)、Fe3+を添加し、待機し(15分間)、金ナノ粒子と混合し、ラマンスペクトルを測定する。異なるアルデヒドは、MBTHと組み合わせると同じ色を生成するが、アルデヒド-MBTH化合物のラマンスペクトルは異なる。例えば、MBTHとプロパナール、アセトアルデヒド、及びホルムアルデヒドとの化合物はそれぞれ、800cm-1~900cm-1の範囲に明確なピークを生成し、約1250~1500cm-1の範囲に別の明確なピークを生成する(図9を参照)。
【0067】
同位体置換体内部標準を参照として使用する。同位体置換体は、例えば、重水素化アルデヒドであり得る。同位体置換体は、異なるラマンスペクトルを有し(図10を参照)、既知量でサンプルに添加されると、例えば、サンプルに添加された既知量の同位体置換体に基づくレシオメトリックスケーリング、及び濃度に対するピークの強度のスケーリングによって、濃度測定の精度を高める基準を提供する。例えば、アセトアルデヒドの濃度に対するピークのサイズを図11及び図12に、メタアルデヒド(アルデヒドへの変換後)の濃度に対するピークのサイズを図13に示す。一部のプラスチック(すなわちPET)はアルデヒドを放出するため、サンプルを保持するためにガラス製のバイアル又はトレイなどを使用することが好ましい。
【0068】
MBTHと反応しないアルデヒド、例えばメタアルデヒドを測定するために、分析物をMBTHと反応する形態に変換することができる。メタアルデヒドを測定する例示的な工程では、サンプルにメタアルデヒド-d16などの既知量の同位体置換体を添加し、MBTHをサンプルに添加し、MBTHをサンプルに追加して90℃で60分間待機し、サンプルにFe3+を添加し、30分間待機し、金ナノ粒子と混合し、ラマンスペクトルを測定する。
【0069】
同様のアプローチを使用して、従来比色色素で測定されていた他の汚染物質を測定することができる。ほとんどの比色色素は、アミン基を有する。比色色素で測定される分析物の他の例としては、セレン、アンモニア、塩素化溶媒、鉛、及びアルコールが挙げられ、分析物-比色色素化合物は、ラマンスペクトルによって、好ましくはさらに同位体置換体内部参照標準を使用して測定することができる。
【0070】
メタアルデヒド分析への本明細書のアプローチは、アセトアルデヒドに消化し、次にアセトアルデヒド測定手順を使用することによって進行する。消化手順は、比色指示薬の色素を内部標準と共にサンプルと混合することから開始する。サンプルは約70℃で60分間加熱する。この手順によって、メタアルデヒドは、その構成成分のアルデヒドに分解され、次に、アルデヒドはMTBH色素と反応する。メタアルデヒド分析の好ましい内部標準は、メタアルデヒド-d16であるが、測定がアセトアルデヒドの場合、アセトアルデヒド-dも許容可能である。
【0071】
現実の水サンプルにはアセトアルデヒドが自然に含まれており、発明者らの測定では、河川の水サンプルで約2ppbを示している。このタイプの水サンプルのメタアルデヒド濃度を決定するには、内部標準としてアセトアルデヒド-d4を添加し、続いて色素を添加し、その後、サンプルを2つの部分に分割する。アルデヒドを消化するために1つの部分を加熱する。2つ目の部分は加熱しないため、自然発生のアルデヒドのみが反応する。2つの測定値間の違いによって、メタアルデヒド濃度が決定される。
【0072】
測定の例を図14に示す。サンプルは、0~8ppbのアセトアルデヒドのバックグラウンド濃度で生成した。一部のサンプルには5ppbのメタアルデヒドを追加した。一部のサンプルを加熱した。下側の線の周りに集まった測定値は、加熱なしで0又は5ppbのメタアルデヒドを含むサンプルと、加熱ありでメタアルデヒドを含まないサンプルである。上側の線の周りに集まったサンプルは、加熱ありで5ppbのメタアルデヒドを含むサンプルである。これらの結果は、メタアルデヒドを含むサンプルを加熱すると、添加されたメタアルデヒドの量にほぼ等しいアセトアルデヒドの測定濃度の増加があったことを示す。これは、メタアルデヒドをアセトアルデヒドに変換することによってメタアルデヒドを測定できることと、さらに、サンプル中のアセトアルデヒドのバックグラウンド濃度を非加熱サンプルで測定し、加熱サンプルの測定値から差し引いて、メタアルデヒド-アセトアルデヒド混合物を含むサンプル中のメタアルデヒドの量を決定できることとを示す。
【0073】
アセトアルデヒド干渉を排除する別のアプローチは、バイサルファイトなどの、アルデヒドと付加物を形成する化合物を導入することである。このアプローチは天然のアルデヒドを結合するため、メタアルデヒドのみが色素と反応する。
【0074】
メタアルデヒド濃度を決定するスペクトル分析は、平滑化及びベースライン減算から開始される。次に、スペクトルを815cm-1の内部標準ピークにスケーリングする。内部標準ピークが存在しない場合、ユーザーにエラーメッセージが表示される。スペクトルデータは、多変量適応回帰スプラインアルゴリズムなどの多変量解析方法を介して処理され、最終濃度が決定される。
【0075】
アセトアルデヒドのスペクトル分析は、アセトアルデヒド信号と部分的に重なるMTBHスペクトルのピークによって複雑になる。この余分なピークは、スペクトル減算技術を使用して除去することができる。アセトアルデヒドを含まないサンプルのスペクトルを生データから差し引いて、適切なベースライン信号を得ることができる。その後、この処理されたデータを分析して、分析物の濃度を求めることができる。
【0076】
図8は、前述のアルデヒド分析工程を示す。
【0077】
2014年3月5日に出願された米国特許出願第14/198,163号は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
以上、本発明をいくつかの例示的な実施形態に従って説明したが、これらの実施形態は、限定的ではなく、すべての態様で例示的であることが意図される。したがって、本発明は、詳細な実施において多くの変形が可能であり、これは、当業者によって、本明細書に含まれる説明から導き出すことができる。例えば、同様のアプローチを使用して、多くの追加のアミンを検出することができる。これらのアミンとしては、メチルアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、及びメトキシプロピルアミンが挙げられる。ニトレート、クロメート、チオスルフェート、ホスフェート、及びカルボネートを含む他のアニオンは、ペルクロレート分析のために提示された本方法と同様のアプローチを使用して検出することができる。
【0079】
そのようなすべての変形は、以下の特許請求の範囲及びそれらの法的同等物によって定義される本発明の範囲及び精神内にあると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14