(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】細胞培養デバイス及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240301BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240301BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2021524326
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019080127
(87)【国際公開番号】W WO2020089487
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-20
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521190174
【氏名又は名称】マイクロフルイディックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】セジャ,チェザーレ
(72)【発明者】
【氏名】アッラーフ‐アクバリ,エリアール
(72)【発明者】
【氏名】エスピネ,アントワーヌ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0117634(US,A1)
【文献】特開2013-255487(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027832(WO,A1)
【文献】特表2014-510539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面を規定する少なくとも1つの表面部分を有する細胞培養デバイスであって、前記表面部分は、水平支持体上に横たわるように構成されており、
1つ以上の細胞培地入口及び
1つ以上の細胞培地出口を有する少なくとも流体チャネルを含み、前記流体チャネルは、前記
1つ以上の細胞培地入口と前記
1つ以上の細胞培地出口との間に延在する下壁を含み、
当該細胞培養デバイスは、それがさらに以下:
- 複数の細胞を受け入れるように構成された少なくとも1つの凹部、前記凹部は、前記下壁によって形成され、且つ底面を規定する、
- 少なくとも1つの細胞トラップ、前記細胞トラップは、前記流体チャネルに移流された細胞を捕捉するように、次に前記細胞を前記凹部の底面に沈殿させるように構成されている、
を含むことを特徴と
し、前記細胞トラップは、沈降軸を規定する主伸長方向を有する障害物を含み、これは、前記障害物内の細胞の沈降方向に平行であり、且つここで、前記沈降軸は、前記表面部分に垂直である、細胞培養デバイス。
【請求項2】
ここで、前記下壁は、前記凹部の脇に延在する上面をさらに含み、前記障害物は、底面から及び下壁の上面を越えて凹部から延在する、請求項1に記載の細胞培養デバイス。
【請求項3】
ここで、前記流体チャネルはさらに上壁を含み、前記障害物は少なくとも前記上壁から前記凹部まで延在する、請求項1又は2に記載の細胞培養デバイス。
【請求項4】
ここで、各障害物は、アパーチャ
、横断アパーチャ、
又は横断スリットを有し、前記アパーチャ
、前記横断アパーチャ、又は前記横断スリットの幅は3μmから30μmの間、
又は5μmから20μmの間で構成される、請求項1から3のいずれかに記載の細胞培養デバイス。
【請求項5】
ここで、前記流体チャネルの少なくとも一部は、前記
1つ以上の細胞培地入口と前記
1つ以上の細胞培地出口との間に延在する主な流れ方向に従って液体流を受け取るように構成され、且つここで、前記流体チャネルは、細胞トラップのアレイを含み、細胞トラップの前記アレイは、前記平面に平行な平面内で前記主な流れ方向に垂直な方向に沿って延在する、請求項1から4のいずれかに記載の細胞培養デバイス。
【請求項6】
ここで、前記流体チャネルは、前記
1つ以上の細胞培地入
口と前記
1つ以上の細胞培地出
口との間に延在する側面をさらに含み、且つここで、少なくとも凹部は、一方の側方から他方の側方まで、前記流体チャネルの全幅にわたって延在する、請求項1から5のいずれかに記載の細胞培養デバイス。
【請求項7】
ここで、前記下壁は、前記凹部の脇に延在する上面をさらに含み、且つここで、前記流体チャネルは、上壁をさらに含み、ここで、前記流体チャネルの第1の高さは、下壁の上面と上壁との間のより短い距離として定義され、凹部の第2の高さは、下壁の底面と下壁の上面との間のより短い距離として定義され、且つここで、前記第2の高さは、前記第1の高さの0.15から0.85倍の間で、
又は、前記第1の高さの0.20から0.70倍の間で構成される、請求項1から6のいずれかに記載の細胞培養デバイス。
【請求項8】
ここで、前記下壁は、前記凹部の脇に延在する上面をさらに含み、ここで、前記流体チャネルの第2の高さは、下壁の下面と下壁の上面との間のより短い距離として定義され、且つここで、前記第2の高さは、10μmから500μmの間
、15μmから300μmの間、
又は15μmから200μmの間で構成される、請求項1から7のいずれかに記載の細胞培養デバイス。
【請求項9】
少なくとも回収入口及び回収出口を含む、請求項1から8のいずれかに記載の細胞培養デバイスであって、前記回収入口及び前記回収出口は、前記
1つ以上の細胞培地入口及び前記
1つ以上の細胞培地出口とは異なり、前記少なくとも1つの凹部は、回収入口及び回収出口に流体的に直接接続されている、細胞培養デバイス。
【請求項10】
細胞培養の方法であって、以下:
― 前記表面部分が水平支持体上にあるように、請求項1から9のいずれかに記載の細胞培養デバイスを設定すること、
― 細胞を含む培地を注入する播種ステップa)、前記培地は、前記細胞トラップの少なくとも10%以上が少なくとも1つの細胞を捕捉するま
で、前記細胞培養デバイス
の少なくとも1つの流体チャネルの前記
1つ以上の細胞培地入口に注入される、
を含む細胞培養の方法。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞培養の方法であって、播種ステップa)に加えて、前記
1つ以上の細胞培地入口に活性培養剤を含む培地を注入する増殖ステップb)をさらに含み、ここで、前記培地は、第1の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の
流量で前記
1つ以上の細胞培地入口に培地を注入する及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞を取り戻す、オプションの回収ステップe)を含み、前記第2の流量が前記第1の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、前記
1つ以上の細胞培地入口に、所定の第5の流量で培地を注入する及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、前記第5の流量は前記第1の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、前記凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、細胞培養の方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の細胞培養の方法であって、播種ステップa)に加えて、前記
1つ以上の細胞培地入口に洗浄培地を注入する洗浄ステップc)をさらに含み、ここで、前記培地は、オプションで、第3の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の流量で前記
1つ以上の細胞培地入口に培地を注入する、及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞を取り戻す、オプションの回収ステップe)をさらに含み、前記第2の流量が前記第3の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、所定の第5の流量で前記
1つ以上の細胞培地入口に培地を注入する、及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、前記第5の流量が前記第3の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、前記凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、細胞培養の方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかに記載の細胞培養の方法であって、播種ステップa)に加えて、前記
1つ以上の細胞培地入口に少なくとも分化因子を含む培地を注入する分化ステップd)をさらに含み、ここで、前記培地は、オプションで、第4の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の流量で前記
1つ以上の細胞培地入口に培地を注入する、及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞を取り戻す
、回収ステップe)をさらに含み、前記第2の流量が前記第4の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、所定の第5の流量で前記
1つ以上の細胞培地入口に培地を注入する、及び前記
1つ以上の細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、前記第5の流量は前記第4の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、前記凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、細胞培養の方法。
【請求項14】
播種ステップa)に加えて、前記
1つ以上の細胞培地入
口に培地を注入する、及び前記
1つ以上の細胞培地出
口から細胞を取り戻す、回収ステップe)をさらに含む、請求項10から13のいずれかに記載の細胞培養の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、細胞培養デバイス、及びそのようなデバイスを使用する細胞培養の方法に関する。当該方法は、デバイス内の細胞の播種、洗浄、サンプリング、分化、形質導入、増殖、及び/又は採取を含む。本発明によるデバイスは、細胞治療のために高スループットで細胞を生産するために、培養細胞をデバイスの異なるチャンバ内又はデバイス外の他の外部チャンバに輸送することなく、同じデバイス内で主要な細胞培養ステップを実行することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞治療は、機能的な細胞が患者に投与されるプロセスである。細胞の生産は、規制当局、製造業者、医療提供者、及びそれらの適用に関与する患者にとって重大な課題を表す。それは、患者からの細胞の抽出、細胞の培養及び/又は再プログラミング、及び患者への細胞の導入を必要とするためである。
【0003】
典型的には、細胞培養物は、少なくともバイオリアクターにおける播種ステップ、処理ステップ(例えば、細胞の形質導入のステップ)、増殖又は増殖ステップ、及び回収ステップを含むことができる。品質管理の目的で、サンプルを定期的に採取する必要がある。従来の方法では、細胞は通常、ペトリ皿、フラスコ、ボトル又はバッグなどの細胞培養皿で培養される。一般に、細胞の細胞密度を生存可能に保つために(通常はコンフルエンス密度よりも低い)、増殖段階で複数の皿を使用する必要がある。細胞培養皿は、分化と拡大を促進する栄養素、代謝物、その他の薬剤(agents)の濃度など、細胞環境の微調整された制御には適合していない。したがって、細胞培養皿を使用する場合、細胞培養の効率とスループットは制限される。さらに、異なる皿間での細胞の取り扱い、及び皿の内外での細胞培地の取り扱いは、細胞培養汚染のリスク及び細胞培養のコストを増加させる。
【0004】
したがって、マイクロフルイディクス技術で製造されたバイオリアクターは、細胞培養スループットを増加させるため、及び/又は各ステップの制御を増加させるため、及び/又は細胞培養ステップの少なくとも1つを研究するために開発された。
【0005】
EP 3029135 A1は、複数の培養ユニットを含む、マイクロ流体細胞培養システムについて説明している。各培養ユニットは、少なくとも培養領域、細胞ローディング入口、及び培地チャネルを含む。培養ユニットは、培地チャネルと培養ユニットとの間に流体接続を提供し、細胞が細胞培養領域から外部に移入されるのを防ぐ構造によって、培地チャネルから分離されている。したがって、細胞をコンパクトな空間で培養することができ、細胞と接触する培地を、異なるバイオリアクター内で細胞を動かすことなく制御することができる。さらに、培養細胞の集合体(aggregate)は、細胞培養領域で維持することができます。ただし、システムは培養細胞の回収には適していない。
【0006】
WO2007024701 A3は、細胞培養モニタリングに適合された細胞培養マイクロ流体デバイスを記載している。デバイスは、マイクロ流体チャネルを含み、ここで前記チャネルは、複数の堰トラップを含む。各堰トラップは、細胞を捕獲するように適合されている。各細胞の付着と分裂は、マイクロ流体チャネル内の培地の動的制御下で監視することができる。ただし、このデバイスは高スループットの細胞生産には適していない: 各堰トラップでの細胞集団の増殖は2つの細胞に制限されている。さらに、細胞の採取は制御できない。
【0007】
Rousset et al. (Rousset, N., Monet, F., & Gervais, T., 2017, Simulation-assisted design of microfluidic sample traps for optimal trapping and culture of non-adherent single cells, tissues, and spheroids. Scientific reports, 7(1), 245)は、非接着細胞培養用のデバイスについて説明する。デバイスは、マイクロ流体チャネルを含み、前記チャネルは、複数の凹部を含む。各凹部は、単一の細胞をトラップするように適合されている。トラップされると、細胞は主な流れで持ち上げられないように凹部によって保護されるが、栄養素や薬物(drugs)は拡散によって主な流れから細胞に供給される。したがって、凹部内の細胞を残りのマイクロ流体チャネルから分離するための構造は必要なく、細胞培養デバイスの製造を簡素化する。ただし、各トラップは単一の細胞をトラップするように適合されているため、デバイスは細胞の拡大又は生成には適合していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の概要
細胞培養デバイスは、先行技術の上記の問題に少なくとも部分的に応答するために開発された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
細胞培養デバイスは、平面を規定する少なくとも1つの表面部分を有し、表面部分は、水平支持体上に横たわるように構成され、少なくとも細胞培地入口及び細胞培地出口を有する少なくとも流体チャネルを含み、前記流体チャネルは、細胞培地入口と細胞培地出口との間に延在する下壁を含み、当該細胞培養装デバイスは、それがさらに以下:
- 複数の細胞を受け入れるように構成された少なくとも1つの凹部、前記凹部は、下壁によって形成され、且つ底面を規定する、
- 少なくとも1つの細胞トラップ、前記細胞トラップは、流体チャネルに移流された細胞を捕捉し、次に細胞を凹部の底面に沈殿させるように構成されている、細胞トラップは、沈降軸を規定する主伸長方向を有する障害物を含み、これは、前記障害物内の細胞の沈降方向に平行であり、且つここで、前記沈降軸は、表面部分に垂直である、
を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のさらなるオプションの態様において:
― 下壁は、凹部の脇に延在する上面をさらに含み、且つ障害物は、底面から、下壁の上面を越えて凹部の外に延在する、
― 流体チャネルはさらに上壁を含み、且つ障害物は少なくとも上壁から凹部まで延在する、
― 障害物は、沈降軸を定義する主な伸長方向を有し、これは、前記障害物内の細胞の沈降方向に平行であり、且つここで、前記沈降軸は表面部分に垂直である、
― 各障害物はアパーチャ、特にトラバースアパーチャと優先的にトラバーススリットを有し、アパーチャの幅は3μmから30μm、優先的には5μmから20μmで構成される、
― 流体チャネルの少なくとも一部は、細胞培地入口と細胞培地出口との間に延びる主な流れ方向に従って液体流を受け取るように構成されて、且つ流体チャネルは、細胞トラップのアレイを含み、細胞トラップの前記アレイは、平面に平行な平面内で主な流れ方向に垂直な方向に沿って延びる。
― 流体チャネルの少なくとも一部は、細胞培地入口と細胞培地出口との間に延びる主な流れ方向に従って液体流を受け取るように構成され、且つ流体チャネルは、細胞トラップのアレイを含み、細胞トラップの前記アレイは、平面に平行な平面内で主な流れ方向に垂直な方向に沿って延在する、
― 流体チャネルは、細胞培地入口と細胞培地出口との間に延在する側面をさらに含み、且つここで、少なくとも1つの凹部は、流体チャネルの幅全体にわたって一方の側方から他方の側方に延在する、
― 下壁は、凹部の脇に延在する上面をさらに含み、且つ流体チャネルは、上壁をさらに含み、流体チャネルの最初の高さは、下壁の上面と上壁との間のより短い距離として定義され、凹部の第2の高さは、下壁の底面と下壁の上面との間のより短い距離として定義され、第2の高さは、第1の高さの0.15から0.85倍の間、優先的には、第1の高さの0.20から0.70倍の間で構成される、
― 下壁はさらに、凹部の脇に延びる上面を含み、流体チャネルの第2の高さは、下壁の下面と下壁の上面との間のより短い距離として定義され、第2の高さは、10μmから500μmの間、特に15μmから300μmの間、及び好ましくは15μmから200μmの間で構成される、
― 2つの細胞トラップ間の最小距離は、10μmから300μm、特に20μmから150μm、及び優先的には25mから100μmで構成される、
― 細胞培養デバイスは、少なくとも回収入口及び回収出口を含み、回収入口及び回収出口は、細胞培地入口及び細胞培地出口とは異なり、少なくとも1つの凹部は、回収入口及び回収出口に流体的に直接接続されている、
― 細胞培養デバイスは、入口チャネルと出口チャネルを含み、細胞培養デバイスは、それぞれが少なくともそれぞれの細胞培地入口及び細胞培地出口を有する複数の流体チャネルを含み、入口チャネルは各流体チャネルの細胞培地入口を流体的に接続し、且つ出口チャネルは各流体チャネルの細胞培地出口を流体的に接続する。
【0011】
本発明の別の態様は、表面部分が水平支持体上にあるように細胞培養デバイスを設定することを含む、及び細胞を含む培地を注入する播種ステップa)を含む、細胞培養の方法であり、細胞トラップの少なくとも10%以上が少なくとも1つの細胞を捕捉するまで、及び優先的には細胞ラップの大部分以上が少なくとも1つの細胞を捕捉するまで、前記培地は、細胞培養デバイスの少なくとも1つの流体チャネルの細胞培地入口に注入される。
【0012】
本発明のさらなるオプションの態様において:
― 当該方法は、播種ステップa)に加えて、細胞培地入口に活性培養剤を含む培地を注入する増殖ステップb)を含み、ここで、培地は、第1の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の流速で細胞培地入口に培地を注入する及び細胞培地出口から細胞を取り戻す、オプションの回収ステップe)を含み、第2の流量が第1の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、細胞培地入口に、所定の第5の流量で培地を注入する及び細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、第5の流量は第1の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、
― 当該方法は、播種ステップa)に加えて、細胞培地入口に洗浄培地を注入する洗浄ステップc)を含み、ここで、培地は、オプションで、第3の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の流量で細胞培地入口に培地を注入する、及び細胞培地出口から細胞を取り戻す、オプションの回収ステップe)をさらに含み、第2の流量が第3の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、所定の第5の流量で細胞培地入口に培地を注入する、及び細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、第5の流量が第3の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、
― 当該方法は、播種ステップa)に加えて、細胞培地入口に少なくとも分化因子を含む培地を注入する分化ステップd)を含み、ここで、培地は、オプションで、第4の所定の流量で注入され、当該方法は、播種ステップa)に加えて、所定の第2の流量で細胞培地入口に培地を注入する、及び細胞培地出口から細胞を取り戻す、オプションの回収ステップe)をさらに含み、第2の流量が第4の流量よりも厳密に高く、当該方法は、ステップa)に加えて、所定の第5の流量で細胞培地入口に培地を注入する、及び細胞培地出口から細胞のサンプルを取り戻す、オプションのサンプリングステップf)をさらに含み、第5の流量は第4の流量よりも厳密に高く、注入時間と第5のサンプリング流量は、播種ステップa)の前に計算されているため、凹部内の細胞の3分の1未満が取り戻される、
― 当該方法は、播種ステップa)に加えて、細胞培地入口(複数可)に培地を優先的に注入する、及び細胞培地出口(複数可)から細胞の少なくとも80%を取り戻す、回収ステップe)を含む、
― 細胞培養デバイスは、少なくとも回収入口及び回収出口を含み、回収入口及び回収出口は、細胞培地入口及び細胞培地出口とは異なり、少なくとも1つの凹部は、回収入口及び回収出口に流体的に直接接続され、当該方法は、ステップa)に加えて、回収入口(複数可)に培地を注入する、及び回収出口(複数可)から細胞を取り戻す、回収ステップe)をさらに含む、
― 当該方法は、播種ステップa)に加えて、形質導入因子を含む培地を注入する形質導入ステップをさらに含み、前記培地は、第4の所定の流量の0.5から1.5倍の間を含む所定の流量で細胞培地入口に注入される。
【0013】
定義
チャネルの「長さ」という用語は、本明細書では、チャネルを通る流体の主な流れ方向に従ってチャネルのサイズを指定するために使用される。
【0014】
チャネルの「高さ」という用語は、本明細書では、第1の方向におけるチャネルの最小サイズを示すために使用され、前記第1の方向は、主な流れ方向を横切る。
【0015】
チャネルの「幅」という用語は、本明細書では、第1の方向に垂直であり、主な流れ方向に垂直である第2の方向のチャネルの最大サイズを示すために使用される。
【0016】
「マイクロチャネル」又は「マイクロ流体チャネル」という用語は、本明細書では、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を含み、その高さが100nmから1mmの間で構成されるチャネルを示すために使用される。「流体チャネル」という用語はまた、ナノ、マイクロ、ミリ、センチメートルの寸法を包含するがこれらに限定されない範囲の寸法を含む。
【0017】
図面の簡単な説明
本発明は、以下を含む添付の図面を参照して、例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図2は、凹部と細胞トラップを含む流体チャネルの一部を図式的に示している。
【
図4】
図4は、主な流れの方向に沿った流体チャネルのセクションを図式的に示している。
【
図6】
図6は、回収入口と回収出口を含む流体チャネルの上面図である。
【
図7】
図7は、本発明の可能な実施形態による細胞培養の方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の好ましい側面の詳細な説明
細胞培養デバイスの一般的なアーキテクチャ1
図1を参照すると、細胞培養デバイス1は、水平支持体上に横たわるように構成された平面3を規定する表面部分2を有する。表面部分2は、
図1の細胞培養デバイス1の図示された部分の後ろにある。細胞培養デバイス1の製造方法に応じて、表面部分2は、例えば、スライドガラスの表面、又は網状ポリマーの、例えばPDMSの、平面であり得る。
【0020】
細胞培養デバイス1は、少なくとも流体チャネル4を含む。流体チャネル4は、優先的にはマイクロ流体チャネルである。流体チャネル4は、少なくとも1つの細胞培地入口5を有する。
図1に示される本発明の可能な実施形態によれば、流体チャネル4は、流体チャネル4の一端に均一に分布された8つの細胞培地入口5を有する。したがって、流体チャネル4に均一な濃度の細胞12を注入すること、及び/又は流体チャネル4のセクション全体に同じ速度で液体培地を注入することが可能である。
【0021】
流体チャネル4は、少なくとも1つの細胞培地出口6(
図1には示されていない)を含む。細胞培地出口(複数可)は、流体チャネル4の別の端部にある。
【0022】
第1の方向8は、平面3に垂直に、且つ流体チャネル4から平面3に向かう方向とは反対に定義される。使用中、細胞培養デバイス1は水平支持体上にあり、且つ第1の方向8は重力の方向と反対の方向に対応する。
【0023】
流体チャネル4は、細胞培地入口と細胞培地出口との間に延在する下壁7を含む。
【0024】
図1及び
図2を参照すると、流体チャネル4は、少なくとも1つ、及び好ましくは複数の凹部10を含み、各凹部10は、複数の細胞12を受け入れるように構成されている。凹部10は、下壁7によって形成されている。
図1及び
図2に示される本発明の可能な実施形態によれば、凹部10は、長方形の直方体形状を有し、且つ例えば、これに限定されないが、2段階のフォトリソグラフィ微細加工技術によって製造される。凹部10は、少なくとも底面11を規定する。丸みを帯びた形状の凹部10の場合、底面11は、凹部10全体を規定することができる。底面11は、第1の方向8に対して凹部の最も低い表面である。
【0025】
細胞培養デバイス1は、少なくとも1つ、及び好ましくは複数の細胞トラップ13を含む。各細胞トラップ13は、流体チャネル4内の液体培地の流れによって移流された(advected)細胞12を捕捉するように、及び次いで捕捉された細胞12を凹部10の底面11上に沈殿させるように適合されている。細胞培養ゾーン9は、凹部10及び少なくとも1つの細胞トラップ13を含む。
【0026】
細胞トラップ13
図2を参照すると、下壁7は、凹部10の脇に延在する表面に対応する上面23を含む。細胞トラップ13は、優先的に障害物14である。障害物14は、凹部10と流体チャネル4の残りの部分との間の境界上に配置することができる。優先的に、細胞トラップ13は、底面11から凹部10の外に、下壁7の上面23を超えて延在する障害物14を含む。優先的に、細胞トラップ13は、少なくとも上壁20から凹部10まで延在する障害物14を含む。障害物14は、好ましくは、突起、こぶ又は隆起である。障害物14は、優先的に、前記障害物14内の細胞12の沈降方向に平行である沈降軸を規定する主伸長方向を有し、前記沈降軸は、表面部分2に垂直である。沈降軸は、第1の方向8に対応することができる。障害物14は、軸に対して、流体チャネル4のセクションに沿って、凹部10の底面11から流体チャネル4の上壁20まで優先的に延在する。したがって、障害物14による細胞12の捕捉効率が向上する。
【0027】
細胞12が、例えば主な流れ方向16に流れる液体の流れによって移流されるとき、細胞12は、障害物14に遭遇し、主な流れ方向16への移流を停止することができる。しかしながら、障害物14は、細胞ル12を凹部10内の底面11に沈殿させるように構成されている。細胞12の捕捉及び沈降は、
図2の点線の矢印によって示されている。したがって、細胞12が凹部10に沈降するために、細胞12を含む注入された培地の速度を制限することなく、細胞12を効率的に捕捉することができる。細胞トラップ13と凹部10との組み合わせにより、流体チャネル4内の細胞12を含む液体培地を、沈降を使用して凹部10内の細胞12に播種する一方で、沈降が通常無視される速度で制御することが可能である。細胞12の播種することは、従来技術よりも単純かつ効率的である。
【0028】
障害物14は堰トラップである可能性がある。したがって、障害物14に向けられた細胞培地の流線は、すべてが障害物14を回避するわけではない。流線のいくつかは障害物14を通過する。したがって、細胞12が障害物14を通過する流線内にある場合、細胞12は障害物14によって捕捉され得る。細胞12が捕捉された後、細胞12は、堰トラップの開放領域を部分的に閉塞し、且つ禁止されたトラップを通る流線の割合が減少し、トラップの自己密封につながる。したがって、堰トラップによって捕捉された細胞(複数可)12の数を制御するために、堰トラップの寸法を選択することが可能である。
【0029】
図2及び
図3は、本発明の異なる実施形態による、横断スリット15を有する細胞トラップ13を示す。アパーチャ又はスリット15の幅、すなわち最小寸法は、優先的に3μmから30μmの間で、及び優先的に5μmから20μmの間で構成される。したがって、アパーチャの幅は細胞12のサイズよりも小さくすることができ、アパーチャの幅は流線がアパーチャを通過するのに十分な大きさであるため、細胞トラップ13は堰トラップとなり得る。
【0030】
本発明の別の実施形態によれば、障害物14は、底面から凹部10の外に部分的にのみ延在することができる。したがって、流線は障害物14を通過することができ、その結果、障害物14は細胞を捕捉し、それを沈降させることができる。
【0031】
障害物14、優先的には堰トラップは、U字形、カップ、三日月、穴のあいた三日月(pierced-crescent)、星、半球、3つ以上の頂点を有するいずれの多角形、及び/又は空洞形状を有することができる。
【0032】
障害物14の寸法は、培養細胞Dcellの平均直径に関して選択することができる。本明細書全体にわたるそのようなパラメータDcellは、平均培養細胞直径として定義され、細胞12は、本発明の方法を使用するために懸濁状態にある。Dcellは、インピーダンス細胞カウンター検出など、さまざまな手法で測定できる(例えば、米国特許第2,656,508号に記載されているコールター(Coulter)カウンター、又は光学顕微鏡法とそれに続く画像分析による)。細胞の供給源にもよるが、Dcellは典型的には3μmから150μm、特に5μmから50μmで構成される。
【0033】
障害物14の幅Wt、すなわち、主な流れ方向16及び第1の方向8を横切る第2の方向19における障害物14のサイズは、優先的にDcellよりも大きく、特に10μmより大きく、及び優先的に20μmより大きい。
【0034】
凹部10
凹部10の寸法は、細胞12が凹部10内で増殖できるように選択される。凹部10は、複数の細胞12を受け入れるように構成される。本発明の好ましい実施形態によれば、平面3に投影された凹部の面積は、150μm2より大きく、特に250000μm2より大きく、及び優先的に500000μm2より大きい。
【0035】
図3を参照すると、凹部10の形状を設計することができる。そのため、例えば、凹部10の底面11にある凹部10内のセル12は、流体チャネル4内の所定の流量の間、凹部10からの移流によって輸送されることから保護され得る。言い換えれば、凹部10の形状は、事前定義された流量のために、流れが流体チャネル4の上部、すなわち凹部10の外側で発生する間、凹部10内に死水(dead water)を有することを可能にする。「死水」又は「空洞領域」という用語は、本明細書では、細胞12を凹部10から引きずり出すのに十分な大きさではない流量の範囲が存在する、及び優先的に、流れが細胞12をドラッグするのに十分大きくない、液体の体積を示すために使用される。したがって、細胞12を凹部10からドラッグすることなく、洗浄培地及び/又は活性化合物を含む培地を所定の流速で注入することにより、いずれの活性化合物を洗浄するか、又はいずれの活性化合物を凹部10内の細胞12にもたらすことが可能である。したがって、細胞培養デバイス1の製造は、例えば、細胞12を含有する半透膜又は壁の製造が培養培地の流れによって引きずられることを回避することによって、従来技術のデバイスと比較して単純化することができる。
【0036】
凹部は、2.D
cellを超える距離にわたって、特に15μm超にわたって、及び優先的には100μm超にわたって、第2の方向19に優先的に延在する。
図1の本発明の好ましい実施形態によれば、各凹部10は、流体チャネルの幅Wの半分を超えて、優先的には流体チャネルの幅W全体にわたって延在する。流体チャネルは、細胞培地入口(複数可)5と細胞培地出口(複数可)6との間に延在する側面を含むことができる。凹部10は、流体チャネル4の幅全体にわたって、一方の側方から他方の側方に優先的に延在する。
【0037】
優先的に、凹部10は、主な流れ方向16を横切って形成される。したがって、他の凹部10の形状よりも流体チャネル4の流量を大きくするために、凹部10に死水を有することが可能である。優先的には、凹部10の長さLdは、凹部10の幅Wdよりも短く、より優先的には、凹部10の長さLdは、凹部10の幅Wdの5分の1である。
【0038】
流体チャネル4は、第1の方向8に対して上壁20を含む。第1の高さHcは、下壁7の上面23と上壁20との間のより短い距離として定義される。凹部10は、第1の方向8に対して第2の高さHtを優先的に有し、下壁7の底面11と下壁7の上面23との間の第1の方向8に対するより短い距離として定義される。第2の高さHtは、特に、第1の高さHcの0.25から0.85倍の間で構成され、優先的には、第1の高さHcの0.40から0.70倍の間で構成される。凹部10の第2の高さHtが、例えば、第1の高さHcより数倍低い場合、培養中の細胞を保護するために流体チャネル4に液体培地を注入するときに、凹部10に死水ゾーンは生じ得ない。他方において、凹部10の第2の高さHtが流体チャネル4の第1の高さHcより数倍大きい場合、流体チャネル4内の液体培地の流れは、凹部10の外側で起こり、細胞12を凹部10から引きずり出すために、凹部10内に渦を作り出すことを困難にする。凹部10内の液体培地がかなり安定している場合、又は凹部10内で渦が発生する可能性がある場合、本発明の実施形態による高さ比Ht/Hcの好ましい範囲は、流体チャネル4に注入される培地の流量に応じて選択することを可能にする。
【0039】
優先的には、凹部10の第2の高さHtは、10μmから1000μmの間、特に15μmから300μmの間、好ましくは15μmから200μmの間で構成される。
【0040】
細胞トラップの配列13
流体チャネル4は、複数の細胞トラップ13を含む。優先的は、流体チャネル4は、細胞トラップ13の少なくとも1つのアレイ、好ましくは、細胞トラップ13の複数のアレイを含む。細胞トラップ13のアレイは、線形であり得、例えば、第2の方向19に対して、延在し、及び/又は2次元で、例えば、平面3に平行な平面内に延在する。
【0041】
細胞トラップ13アレイのパラメータ及び/又は流体チャネル4内の異なるアレイの配置は、流体チャネル4の各点での細胞捕捉速度を定義する。
【0042】
2つの細胞トラップ13の間、優先的には2つの障害物14の間の最小距離は、流体チャネル4内の細胞12を含む液体培地の灌流中の細胞捕捉速度のパラメータである。2つの障害物14間の最小距離は、障害物14の壁と最も近い障害物14の壁との間の最小距離として定義される。本発明の好ましい実施形態によれば、2つの障害物14間の最小距離は、10μmから300μmの間、特に20μmから150μmの間、優先的には25μmから100μmの間で構成される。したがって、灌流中の細胞12の捕捉は、流体チャネル4の入口での細胞プラグの形成を回避するのに十分に低い間、10分未満、好ましくは1分未満で、流体チャネル4に細胞12を播種するのに十分効率的であり得る。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によれば、障害物14は、規則的な二次元格子に配置され、格子は、主な流れ方向16に対して傾斜している。主な流れ方向16に対して2つの連続する障害物14は、主な流れ方向16がゼロとは異なる格子の傾斜角を定義し、優先的に2°から20°の間、特に2°から10°の間、
より優先的には2°から5°の間で構成される。
【0044】
本発明の可能な実施形態によれば、障害物は、平面3に投影された障害物14の表面密度が流体チャネルの長さに沿って変化するように、流体チャネル4に配置することができる。優先的に、障害物14の面密度は、主な流れ方向16に対して増加している。したがって、細胞12は、流体チャネル4に沿って均一又は一定の濃度で播種することができる。
【0045】
回収(Harvesting)
図5及び
図6を参照すると、細胞12、特に細胞培養デバイス1の凹部10で培養された細胞12は、例えば、さらなる治療的使用のために回収することができる。
【0046】
図5に示される本発明の実施形態によれば、細胞12は、凹部10を洗い流し、流体チャネル4の細胞培地出口(複数可)6から細胞12を取り戻すことによって回収することができる。
【0047】
図6に示される本発明の別の実施形態によれば、流体チャネル4は、それぞれが細胞培地入口(複数可)5及び細胞培地出口(複数可)6とは異なる、少なくとも1つの回収入口17及び少なくとも1つの回収出口18を含むことができる。回収入口17及び回収出口18は、回収入口17と回収出口18との間で制御された流れが、それらを回収するために、凹部10内の細胞12に移動するように配置される。細胞培地入口5と細胞培地出口6との間で制御される流れとは対照的に、回収入口17と回収出口18との間で制御される流れは、凹部10で死水が発生しないように構成される。
図6に示される本発明の実施形態によれば、回収入口17及び回収出口18は、第2の方向19に対して流れを可能にするように構成され、且つ凹部10は、同じ方向に従って延在する。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、凹部10のそれぞれは、回収入口17及び回収出口18に流体的に接続されている。したがって、回収入口17と回収出口18との間の流れを制御するとき、凹部10内の死水は回避される。凹部10は、同じ共通の回収入口17及び共通の回収出口18に流体的に接続することができ、及び/又は異なる回収入口17及び回収出口18によって個別に接続されている。
【0049】
並列化
細胞培養は細胞治療に適合している、すなわち、細胞培養デバイス1は、105を超える細胞12、特に106を超える細胞12、好ましくは1010を超える細胞12を回収するように適合されている。流体チャネル4を並列化して、細胞培養デバイス1のスループットを高めることができる。本発明の好ましい実施形態によれば、細胞培養デバイス1は、入口チャネル21及び出口チャネル22を含む。入口チャネル21は、細胞培地入口5を流体的に接続し、出口チャネル22は、細胞培地出口6を流体的に接続する。したがって、細胞12の生成を並列化できる。異なる流体チャネル4は、例えば、積み重ねることができる。異なる流体チャネル4は、同じスタックの同じ平面に配置することもできる。
【0050】
表面処理
異なるタイプの細胞12は、細胞培養デバイス1、例えば、付着細胞12又は非付着細胞12で培養することができる。凹部10の底面11、特に凹部10、及び優先的には流体チャネル4の壁の表面は、細胞培養デバイス1で培養される細胞12のタイプに適合した表面処理でコーティングすることができる。典型的には、表面処理は、培養デバイスを介した表面処理に適合された液体培地の注入及び循環のステップを含むことができる。液体培地は、細胞培地入口5及び細胞培地出口6を介して、又は回収入口17及び回収出口18を介して、流体チャネル4に導入することができ、ここで、表面処理は、培養表面、すなわち、凹部10の壁(複数可)、特に底面11に受動的に吸着される。これは特に細胞外マトリックスコーティングに使用される。他のステップは、プラズマ重合及びポリマーグラフト化などの化学的に誘発された吸着を含むことができる、ただしこれに限定されない。
【0051】
細胞培養
上記の細胞培養デバイス1は、例えば細胞治療で使用するために、細胞12を培養するように適合されている。
【0052】
図7は、本発明の実施形態による細胞培養の方法を示している。当該方法は、表面部分2が水平支持体上にあるように細胞培養デバイス1を設定するステップ61を含むことができる。したがって、凹部10は、第1の方向8に対して流体チャネル4の残りの部分の下に配置され、且つ、細胞トラップ13は、細胞12を凹部の底面11に沈殿させるように適合されている。別の方法として、表面部分2は傾けることができ、且つ、流体チャネル4はまた、凹部10が第1の方向8に対して流体チャネル4の残りの部分の下に配置されるように傾斜している。
【0053】
細胞培養の方法は、播種ステップ62を含む。少なくとも1つの細胞12は、細胞トラップ13によって、特に凹部10の大部分、優先的には凹部10の80%を超える凹部10にもたらすことができる。細胞トラップ13の少なくとも10%以上が少なくとも1つの細胞12を捕捉するまで、特にセルトラップ13の3分の1以上が少なくとも1つの細胞12を捕捉するまで、且つ優先的に、細胞トラップ13の大部分が少なくとも1つの細胞12を捕捉するまで、細胞12を含む液体培地は、細胞培地入口に注入される。したがって、細胞12に対する重力の影響とは独立した速度で細胞12を含む培地を注入することにより、細胞12を細胞培養デバイス1に播種することができる。したがって、細胞培養デバイス1は、効率的かつ均一に播種することができる。播種された細胞の数12及び/又は細胞トラップ13によって捕捉された細胞の数12は、従来の顕微鏡法、例えば倒立顕微鏡を使用して流体チャネル4の画像を記録することによって、注射中に測定することができる。次に、捕捉された細胞12は、自動画像処理によって、及び/又は手動でカウントすることができる。
注入時間は事前に定義できる。
【0054】
播種ステップ62の後、当該方法は、増殖(expansion)ステップ65又は増殖(proliferation)ステップ65を含むことができる。適切な培養環境は、細胞12の増殖にとって重要である: 増殖ステップ65は、細胞培地入口に少なくとも1つの活性剤を含む培地の注入を含む。「活性剤」という用語は、本明細書では、細胞12の増殖に強制的又は有益である任意の化学的又は生物学的化合物に使用される。培地の注入は、細胞12を凹部10から引きずり出すことを回避するのに十分に低い流速で制御され、且つ優先的に、凹部10に渦を誘発しない。液体の流れは、本質的に、流体チャネル4の残りの部分で発生する。したがって、活性剤は、流体チャネル4の残りの部分から凹部10への拡散によって、凹部10内で増殖する細胞12を移動又は移流することなく、細胞12に輸送することができる。
【0055】
播種ステップ62の後、当該方法は、洗浄ステップ64をさらに含むことができる。細胞12への化学的又は生物学的処理を正確に制御するために、流体チャネル4の洗浄が必要となる可能性がある。洗浄ステップ64は、洗浄培地の注入を含み、前記洗浄培地は、洗浄される化合物を含まない。洗浄培地の注入は、細胞12を凹部10から引きずり出すことを回避するのに十分に低い流速で制御され、且つ優先的に、凹部10に渦を誘発しないようにする。液体の流れは、本質的に、流体チャネル4の残りの部分で発生する。したがって、化合物は、希釈によって洗浄することができ、又は凹部10内の細胞12を移動又は移流することなく、凹部10から流体チャネル4の残りの部分への拡散によって輸送することができる。
【0056】
播種ステップ62の後、当該方法は、分化ステップ63をさらに含むことができる。分化」という用語は、本明細書では、細胞があまり特殊化されていない細胞型からより特殊化された細胞型に変化するプロセスとして使用される。分化ステップ63は、分化剤を含む液体培地の注入を含む。分化剤を含む培地の注入は、細胞12を凹部10から引きずり出さないように、そして優先的に凹部10に渦を誘発しないように十分に低い流速で制御される。液体の流れは、本質的に、流体チャネル4の残りの部分で発生する。したがって、分化剤は、凹部10内の細胞12を移動又は移流することなく、流体チャネル4の残りの部分から凹部10への拡散によって細胞12に輸送することができる。
【0057】
当該方法は、回収ステップ66をさらに含むことができる。回収ステップ66は、細胞培地入口(複数可)5への培地の注入及び細胞培地出口からの細胞の回収を含み得る。細胞2の回収は、凹部10に渦を発生させ、細胞12の大部分より多くを凹部10から流体チャネル4の残りの部分にドラッグするのに十分高い流速で培地を注入することによって処理することができる。次に、細胞12は、液体培地の流れによって移流され、細胞培地出口6に輸送され、そこでそれらは取り戻され得る。
【0058】
細胞培地入口5と細胞培地出口6との間の閾値流量は、以下を分離する:
― 操作モード、ここで、凹部10内の液体の流れは、感覚的に局所的にゼロ(死水)であり、又は、ここで、凹部10内のセル12に加えられた抗力(drag forces)が、細胞12を凹部10から持ち上げるのに十分でない、及び
― 別の操作モード、ここで、凹部10内の液体の流れは渦に関連しており、細胞12上の渦の抗力は、細胞を凹部10から持ち上げるのに十分に大きい。
【0059】
閾値流量は、例えば分析的に、又は有限要素法を使用するコンピュータシミュレーションを使用することによって、流体チャネル4の形状及び培養細胞12のタイプを考慮して決定することができる。1つの適切な方法は、例えば、細胞培地入口5と細胞培地出口6との間のどの流量で、第1の方向8に対する細胞12への局所抗力(drag forces)が同じセル12への重力を補償できるかを決定することであり得る。回収ステップ66で培地が注入される流量、すなわち第2の流量は、増殖(expansion)ステップ65及び/又は洗浄ステップ64及び/又は分化ステップ63の第1の事前定義された流量よりも大きい。
【0060】
あるいは、回収ステップ66は、回収入口(複数可)17への培地の注入、及び回収出口(複数可)18からの細胞12の取り戻すことを含み得る。
【0061】
当該方法はまた、サンプリングステップ67を含むことができる。細胞培養中、培養細胞12のサンプリングは、例えば、細胞12の活性、効力、生存率、選択性、形態、及び/又はより一般的には異なる特性を決定するために強制的であり得る。サンプリングステップ67は、第1の流量よりも大きい第3の流量で流体チャネル4に培地を注入することを含むことができる。第3の流量は、例えば、閾値流量と閾値流量の1.5倍との間で選択することができる。サンプリングステップ67の間に灌流時間を調整することによって、凹部10内の細胞12の3分の1未満が取り戻され、優先的には、細胞12の10%未満が取り戻される。サンプリングステップ67はまた、細胞培養液及び環境の無菌性及び組成をさらに分析するために、マイクロチャネル4内の液体培地のサンプリングを含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【文献】EP 3029135 A1
【文献】WO 2007024701 A3
【文献】米国特許第2,656,508号
【非特許文献】
【0063】
【文献】Rousset, N., Monet, F., & Gervais, T., 2017, Simulation-assisted design of microfluidic sample traps for optimal trapping and culture of non-adherent single cells, tissues, and spheroids. Scientific reports, 7(1), 245
【符号の説明】
【0064】
1 細胞培養デバイス
2 少なくとも1つの表面部分
3 平面
4 流体チャネル
5 細胞培地入口
6 細胞培地出口
7 下壁
10 凹部
11 底面
12 細胞
13 細胞トラップ
14 障害物
15 横断スリット
16 主な流れ方向
17 回収入口
18 回収出口
20 上壁
23 上面