(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサ
(51)【国際特許分類】
H10N 10/852 20230101AFI20240301BHJP
H10N 10/17 20230101ALI20240301BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H10N10/852
H10N10/17 A
G01J1/02 C
G01J1/02 R
(21)【出願番号】P 2021542697
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030154
(87)【国際公開番号】W WO2021039342
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019158253
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒博
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-170766(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043478(WO,A1)
【文献】特開2015-079796(JP,A)
【文献】WENLONG, Mi,Thermoelectric transport of Se-rich Ag2Se in normal phases and phase transitions,Applied Physics Letters,2014年,Vol.104,Page.133903-133903-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/852
H10N 10/17
G01J 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Ag
2S
(1-x)Se
xで表され、
xの値は、0.01よりも大きく、0.6よりも小さい、熱電変換材料。
【請求項2】
xの値は、0.2よりも大きい、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
xの値は、0.5よりも小さい、請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
熱電変換材料部と、
前記熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、
前記熱電変換材料部に接触し、前記第1電極と離れて配置される第2電極と、を備え、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、熱電変換素子。
【請求項5】
前記熱電変換素子は、前記熱電変換材料内に単斜晶および直方晶のうちの少なくともいずれか一方の結晶構造と、立方晶の結晶構造と、が混在する温度域で使用される、請求項4に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の熱電変換素子を含む、熱電変換モジュール。
【請求項7】
光エネルギーを吸収
し、温度が上昇する吸収体と、
前記吸収体に接続され
、前記吸収体により温度差が形成される熱電変換材料部と、を備え、
温度差が形成された前記熱電変換材料部により流れる電流を取り出すことにより光を検出する光センサであって、
前記熱電変換材料部を構成する材料は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱電変換材料である、光センサ。
【請求項8】
板状であって、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱電変換材料から構成され、n型の導電型を有する第1材料部と、
板状であって、前記第1材料部上に配置され、可撓性を有する絶縁性の第2材料部と、
前記第1材料部上であって前記第2材料部と異なる位置に配置され、導電性を有する第3材料部と、
可撓性を有し、前記第2材料部上であって前記第3材料部と接触するように配置され、金属材料およびp型の導電型を有する熱電変換材料のうちの少なくともいずれか一方から構成される第4材料部と、を備える、熱電変換素子。
【請求項9】
前記第2材料部を構成する材料は、Ag
2Sである、請求項8に記載の熱電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサに関するものである。
【0002】
本出願は、2019年8月30日出願の日本出願第2019-158253号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
半導体であるBi2Te3、Bi2Se3またはBi2SexTe3-x(0<x<3)からなるナノワイヤまたはナノチューブを不織布状に集積して形成されたものが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献1)。カルコゲナイト系のナノ粒子の溶液をフレキシブル基板に塗布し、乾燥して得られたフィルムが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献2)。カルコゲナイト系の薄膜をフレキシブル基板上に成膜したものが、熱電変換素子を構成する熱電変換材料部として用いられている(例えば、特許文献3)。また、延性を有する材料としてα-Ag2S(硫化銀)が知られている(例えば、非特許文献1)。また、Ag2SにおけるSをSeに一部置き換えた材料が知られている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/126211号
【文献】特開2016-163039号公報
【文献】特開昭63-102382号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Guodong Li et al.、“Ductile deformation mechanism in semiconductor α-Ag2S”、npj Computational Materials (2018) 44
【文献】Jiasheng Liang et al.、“Flexible thermoelectrics:from silver chalcogenides to full-inorganic devices”、Energy & Environmental Science 2019.12. 2983-2990
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った熱電変換材料は、組成式Ag2S(1-x)Sexで表され、xの値は、0.01よりも大きく、0.6よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。
【
図2】
図2は、熱電変換材料のZTとxの値との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、熱電変換材料の抵抗率と温度との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、熱電変換材料の熱伝導率と温度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、熱電変換材料のゼーベック係数と温度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、熱電変換材料のZTと温度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、熱電変換材料のZTと温度との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)の構造を示す概略図である。
【
図9】
図9は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、赤外線センサの構造の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施の形態5における熱電変換素子を示す概略斜視図である。
【
図12】
図12は、
図11に示す熱電変換素子を線分XII-XIIで切断した場合の概略断面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態5における熱電変換素子に温度差30Kを印加し、電流の量を変化させたときに、発生する電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
熱電変換においては、熱が電気へと直接変換されるため、変換の際に余分な廃棄物が排出されない。熱電変換を利用した発電装置においては、モータなどの駆動部を必要としないため、装置のメンテナンスが容易であるなどの特長がある。
【0009】
熱電変換を実施するための材料(熱電変換材料)を用いた温度差(熱エネルギー)の電気エネルギーへの変換効率ηは以下の式(1)で与えられる。
【0010】
η=ΔT/Th・(M-1)/(M+Tc/Th)・・・(1)
【0011】
ηは変換効率、ΔTはThとTcとの差、Thは高温側の温度、Tcは低温側の温度、Mは(1+ZT)1/2、ZT=α2ST/κ、ZTは無次元性能指数、αはゼーベック係数、Sは導電率、Tは温度、κは熱伝導率である。変換効率はZTの単調増加関数である。ZTを増大させることが、熱電変換材料の開発において重要である。
【0012】
熱電変換における熱源として、室温よりも高い流体を流すパイプや人体を用いることが考えられる。例えば、人体の表面やパイプの表面等の曲面に沿って熱電変換材料から構成される熱電変換材料部を貼り付けることができれば、実用面の観点から好ましい。熱電変換材料に可撓性があれば、熱電変換材料部を曲面に沿って貼り付けることが容易になる。また、熱電変換材料には、高い熱電変換効率も求められる。
【0013】
そこで、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールおよび光センサを提供することを目的の1つとする。
【0014】
[本開示の効果]
上記熱電変換材料によれば、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係る熱電変換材料は、組成式Ag2S(1-x)Sexで表され、xの値は、0.01よりも大きく、0.6よりも小さい。
【0016】
本発明者らは、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現するべく鋭意検討し、組成式Ag2S(1-x)Sexで表される材料が熱電変換材料として機能することを見出した。さらに、S(硫黄)とSe(セレン)の含有比率について検討した結果、組成式Ag2S(1-x)Sexと表した場合に、xの値が0.01以下であれば、熱電変換材料としての機能が不十分であり、xの値が0.6以上であれば、可撓性を確保できないことを見出した。すなわち、組成式Ag2S(1-x)Sexで表され、xの値が0.01よりも大きく、0.6よりも小さい熱電変換材料は、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる。
【0017】
このような熱電性能を発現する理由については定かではないが、例えば以下のように考えることができる。すなわち、熱電性能を発現する理由としては、SとSeとの電気陰性度の差から生じる等電子トラップによるものと考えられる。具体的には、Sの電気陰性度が高いため、Se原子の電子がS原子に引き寄せられる。そして、Se原子側が正に帯電し、Se原子付近に自由電子がトラップされる。その結果、絶縁材料のようなバンドギャップが得られ、ゼーベック係数が高くなると考えられる。また、延性を有するAg2Sの状態密度が支配的となっているため、熱電変換材料の可撓性が確保できていると考えられる。よって、本開示の熱電変換材料によると、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができると考えられる。
【0018】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.2よりも大きくてもよい。このようにすることにより、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換材料を確実に得ることができる。
【0019】
上記熱電変換材料において、xの値は、0.5よりも小さくてもよい。このようにすることにより、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換材料を確実に得ることができる。
【0020】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部と、熱電変換材料部に接触して配置される第1電極と、熱電変換材料部に接触し、第1電極と離れて配置される第2電極と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0021】
本開示の熱電変換素子は、熱電変換材料部を構成する材料が、上記熱電変換材料である。そのため、本開示の熱電変換素子によれば、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる。
【0022】
上記熱電変換素子において、熱電変換素子は、熱電変換材料内に単斜晶および直方晶のうちの少なくともいずれか一方の結晶構造と、立方晶の結晶構造と、が混在する温度域で使用されてもよい。このような温度域で熱電変換素子を使用すると、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが大きくなる。よって、より高い熱電変換効率を実現することができる。
【0023】
本開示の熱電変換モジュールは、上記熱電変換素子を含む。本開示の熱電変換モジュールによれば、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる本開示の熱電変換素子を含むことにより、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換モジュールを得ることができる。
【0024】
本開示の光センサは、光エネルギーを吸収する吸収体と、吸収体に接続される熱電変換材料部と、を備える。熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。
【0025】
本開示の光センサにおいて、熱電変換材料部を構成する材料は、上記熱電変換材料である。そのため、可撓性を有すると共に高感度な光センサを提供することができる。
【0026】
また、本開示の熱電変換素子は、板状であって、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱電変換材料から構成され、n型の導電型を有する第1材料部と、板状であって、第1材料部上に配置され、可撓性を有する絶縁性の第2材料部と、第1材料部上であって第2材料部と異なる位置に配置され、導電性を有する第3材料部と、可撓性を有し、第2材料部上であって第3材料部と接触するように配置され、金属材料およびp型の導電型を有する熱電変換材料のうちの少なくともいずれか一方から構成される第4材料部と、を備える。
【0027】
このような熱電変換素子によると、材料が積層される方向である厚さ方向に可撓性を有するため、厚さ方向に柔軟な熱電変換素子とすることができ、割れや欠けが生じるおそれを低減することができる。また、通常の熱電モジュールの組み立て工程が無いため、製造工程が比較的簡易である。また、通常の熱電モジュールと比較して、容易に熱電対の密度を高くできるため、小型化を図りやすい。
【0028】
本開示の熱電変換素子において、第2材料部を構成する材料は、Ag2Sであってもよい。Ag2Sは、可撓性を有する。また、Ag2Sは、延性を有するため、板状とすることが容易である。よって、このような材料は、上記熱電変換素子に好適に用いられる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の熱電変換材料の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0030】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料の構成について説明する。本開示の実施の形態1に係る熱電変換材料は、組成式Ag2S(1-x)Sexで表され、xの値は、0.01よりも大きく、0.6よりも小さい。
【0031】
実施の形態1に係る熱電変換材料は、例えば以下の製造方法で製造することができる。まずAg(銀)の粉末と、S(硫黄)の粉末と、Se(セレン)の粉末とを準備する。ここで、熱電変換材料を組成式Ag2S(1-x)Sexとして表した場合に、xの値が0.01よりも大きく、0.6よりも小さくなるよう、SおよびSeの配合比率を調整する。これらの粉末を混合してプレスし、ペレット状に固めて圧粉体を得る。次に、得られたペレット状の圧粉体の一部を加熱して結晶化させる。
【0032】
圧粉体の一部の加熱は、例えば抵抗加熱ワイヤといった加熱ヒータを有するチャンバー内で行う。チャンバー内は減圧されている。具体的には、チャンバー内の真空度を例えば1×10-4Pa程度にする。そして、圧粉体を加熱ヒータでおおよそ1秒程度加熱する。結晶化開始温度に達すると圧粉体の一部が結晶化する。圧粉体の一部を結晶化させた後に加熱を停止する。この場合、改めて加熱を行わなくとも、自己発熱により結晶化が促進される。すなわち、結晶化の進行に伴う圧粉体の自己発熱により圧粉体の残部を結晶化させる。このようにして実施の形態1における熱電変換材料を得る。具体的な熱電変換材料の組成として、例えばxの値を0.3としたAg2S0.7Se0.3が挙げられる。
【0033】
図1は、実施の形態1における熱電変換材料の外観を示す概略図である。
図1を参照して、熱電変換材料11は、例えば厚みを有する帯状のバルク体である。熱電変換材料11は、金属製のローラを用いて圧延可能である。具体的には、金属製のローラを用いて熱電変換材料11を引き延ばし、例えば
図1中のZ方向で示す厚みを5mmから1μmの範囲にすることができる。このような熱電変換材料11は、可撓性を有し、圧延の際に砕けることはない。熱電変換材料11は可撓性を有するため、曲面に沿って例えばZ方向に曲げることができる。
【0034】
図2は、熱電変換材料のZTとxの値との関係を示すグラフである。
図2において、横軸はxの値、すなわち、Seの含有割合を示し、縦軸はZTの値を示す。
図2において、xの値を0から1.0まで示している。データ13aは、参照値として示している。データ14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14hは、それぞれ導出したZTの最大値を示している。なお、データ13aは、温度が450Kである時のZTの値を示す。また、データ14aは、温度が395Kである時のZTの値を示す。データ14bは、温度が365Kである時のZTの値を示す。データ14cは、温度が360Kである時のZTの値を示す。データ14dは、温度が350Kである時のZTの値を示す。データ14eは、温度が340Kである時のZTの値を示す。データ14fは、温度が360Kである時のZTの値を示す。データ14gは、温度が395Kである時のZTの値を示す。データ14hは、温度が404Kである時のZTの値を示す。
【0035】
図2を参照して、xの値が0から増加するに従い、ZTの値が上昇する。xの値が0.6となると、ZTの値は、1.0よりも大きくなる。xの値が0.6よりも大きくなると、可撓性を有しない状態となる。実施の形態1における熱電変換材料は、xの値が0.01よりも大きく0.6よりも小さい領域12で示す範囲で、可撓性を有する。なお、可撓性については、
図1に示すブロック状とした熱電変換材料の塊を圧延可能な状態にある場合を、可撓性を有すると判断している。
【0036】
図3は、xの値を0.3とした場合の熱電変換材料の抵抗率と温度との関係を示すグラフである。
図3において、縦軸は抵抗率ρ(mΩ・cm)を示し、横軸は温度(K)を示す。
図4は、xの値を0.3とした場合の熱電変換材料の熱伝導率と温度との関係を示すグラフである。
図4において、縦軸は熱伝導率κ(mWm
-1K
-1)を示し、横軸は温度(K)を示す。
図5は、xの値を0.3とした場合の熱電変換材料のゼーベック係数と温度との関係を示すグラフである。
図5において、縦軸はゼーベック係数α(μVK
-1)を示し、横軸は温度(K)を示す。
図6は、xの値を0.3とした場合の熱電変換材料のZTと温度との関係を示すグラフである。
図7は、xの値を0.4とした場合の熱電変換材料のZTと温度との関係を示すグラフである。
図6および
図7において、縦軸はZTを示し、横軸は温度(K)を示す。
図6においては、300K~370Kの範囲を拡大し、3回測定した3つのZTの測定結果を示している。
図7においては、300K~335Kの範囲を拡大している。
【0037】
まず
図3を参照して、温度が上昇するに従い、抵抗率が減少している。抵抗率の逆数である導電率は、温度が上昇するに従い、増加していることが把握できる。ZT=α
2ST/κの関係を有するため、導電率が上昇すると、ZTが大きくなる。次に
図4を参照して、各温度において熱伝導率は少なくとも0.2(mWm
-1K
-1)よりも大きい値を示している。特に温度が375Kよりも大きくなると、熱伝導率は大きく上昇している。
図5を参照して、ゼーベック係数αは、負の値であって絶対値が大きい。特に390K以下では、ゼーベック係数αの絶対値が100(μVK
-1)以上である。なお、本実施の形態における熱電変換材料として、n型の熱電変換材料が得られる。
【0038】
図6を参照して、zの値を0.3とした熱電変換材料では、
図6に示す範囲において、いずれも温度が上昇するに従いZTの値は大きくなっている。
図7を参照して、zの値を0.4とした場合の熱電変換材料でも、
図7に示す範囲において、いずれも温度が上昇するに従いZTの値は大きくなっている。よって、このような熱電変換材料は、高い熱電変換効率を実現することができる。
【0039】
なお、上記したzの値を0.3とした熱電変換材料において、350Kから380Kまでの温度域では、熱電変換材料内に単斜晶および直方晶のうちの少なくともいずれか一方の結晶構造と、立方晶の結晶構造と、が混在する温度域である。すなわち、この温度域では、熱電変換材料内に単斜晶および直方晶のうちの少なくともいずれか一方の結晶構造と、立方晶の結晶構造と、が共存している状態である。このような温度域では、熱伝導率が大きく上昇したり(
図4における375K付近)、ゼーベック係数の絶対値が大きくなるため(
図5における355K付近)、ZTの値が高い。したがって、熱電変換材料をこのような温度域で使用すると、より高い熱電変換効率を実現することができる。
【0040】
なお、熱電特性については、熱電特性測定装置(オザワ科学株式会社製RZ2001i)で測定した。熱電特性の測定方法は、以下の通りである。まず、一対の石英治具に熱電変換材料を橋架するよう固定し、雰囲気を抵抗加熱炉で加熱する。石英治具の一方を中空にしておき、その中に窒素ガスを流すことで冷却し、熱電変換材料の一方の端部を冷却する。これにより、熱電変換材料に温度差を付与する。熱電変換材料については、白金-白金ロジウム系熱電対(R熱電対)を用いて、熱電変換材料の表面の2点間の温度差を測定する。熱電対に電圧計を繋げることで、2点間の温度差で発生した電圧を測定する。これにより、温度差に対する発生電圧を測定することが可能となり、これから材料のゼーベック係数を見積もることが可能となる。また、抵抗値は、4端子法で測定する。つまり、電圧計が繋がっている2つの白金線の外側に、2つの電線を接続する。その電線に電流を流し、内側の電圧計で、電圧降下量を測定する。このようにして、4端子法により、熱電変換材料の抵抗値を測定する。測定された抵抗値から抵抗率を導出する。
【0041】
なお、上記熱電変換材料において、xの値を、0.2よりも大きくしてもよい。このようにすることにより、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換材料を確実に得ることができる。また、上記熱電変換材料において、xの値を、0.5よりも小さくしてもよい。このようにすることにより、可撓性を有すると共に高い熱電変換効率を実現することができる熱電変換材料を確実に得ることができる。
【0042】
(実施の形態2)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の一実施形態として、発電素子について説明する。
【0043】
図8は、本実施の形態における熱電変換素子であるπ型熱電変換素子(発電素子)21の構造を示す概略図である。
図8を参照して、π型熱電変換素子21は、第1熱電変換材料部であるp型熱電変換材料部22と、第2熱電変換材料部であるn型熱電変換材料部23と、高温側電極24と、第1低温側電極25と、第2低温側電極26と、配線27とを備えている。
【0044】
p型熱電変換材料部22は、導電型がp型である熱電変換材料からなる。n型熱電変換材料部23を構成する熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料である。
【0045】
p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、間隔をおいて並べて配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31からn型熱電変換材料部23の一方の端部32にまで延在するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の両方に接触するように配置される。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22の一方の端部31とn型熱電変換材料部23の一方の端部32とを接続するように配置される。高温側電極24は、導電材料、例えば金属からなっている。高温側電極24は、p型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0046】
第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22の他方の端部33に接触して配置される。第1低温側電極25は、高温側電極24と離れて配置される。第1低温側電極25は、導電材料、例えば金属からなっている。第1低温側電極25は、p型熱電変換材料部22にオーミック接触している。
【0047】
第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23の他方の端部34に接触して配置される。第2低温側電極26は、高温側電極24および第1低温側電極25と離れて配置される。第2低温側電極26は、導電材料、例えば金属からなっている。第2低温側電極26は、n型熱電変換材料部23にオーミック接触している。
【0048】
配線27は、金属などの導電体からなる。配線27は、第1低温側電極25と第2低温側電極26とを電気的に接続する。
【0049】
π型熱電変換素子21において、例えばp型熱電変換材料部22の一方の端部31およびn型熱電変換材料部23の一方の端部32の側が高温、p型熱電変換材料部22の他方の端部33およびn型熱電変換材料部23の他方の端部34の側が低温、となるように温度差が形成されると、p型熱電変換材料部22においては、一方の端部31側から他方の端部33側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。このとき、n型熱電変換材料部23においては、一方の端部32側から他方の端部34側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。その結果、配線27には、矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、π型熱電変換素子21において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。すなわち、π型熱電変換素子21は発電素子である。
【0050】
n型熱電変換材料部23を構成する材料として、例えば、ZTの値が大きい実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、π型熱電変換素子21は高効率な発電素子となっている。
【0051】
ここで、上記熱電変換素子21は、熱電変換材料内に単斜晶および直方晶のうちの少なくともいずれか一方の結晶構造と、立方晶の結晶構造と、が混在する温度域で使用される
ことが好ましい。具体的には上記したように、zの値を0.3とした熱電変換材料において、350Kから380Kまでの温度域で使用されることが好ましい。このようにすることにより、ZTの値が大きい状態での使用となるため、より高い熱電変換効率を実現することができる。
【0052】
上記実施の形態においては、本開示の熱電変換素子の一例としてπ型熱電変換素子について説明したが、本開示の熱電変換素子はこれに限られない。本開示の熱電変換素子は、例えばI型(ユニレグ型)熱電変換素子など、他の構造を有する熱電変換素子であってもよい。
【0053】
(実施の形態3)
π型熱電変換素子21を複数個電気的に接続することにより、熱電変換モジュールとしての発電モジュールを得ることができる。本実施の形態の熱電変換モジュールである発電モジュール41は、π型熱電変換素子21が直列に複数個接続された構造を有する。
【0054】
図9は、発電モジュールの構造の一例を示す図である。
図9を参照して、本実施の形態の発電モジュール41は、p型熱電変換材料部22と、n型熱電変換材料部23と、第1低温側電極25および第2低温側電極26に対応する低温側電極25、26と、高温側電極24と、低温側絶縁体基板28と、高温側絶縁体基板29とを備える。低温側絶縁体基板28および高温側絶縁体基板29は、アルミナなどのセラミックからなる。p型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とは、交互に並べて配置される。低温側電極25、26は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。高温側電極24は、上述のπ型熱電変換素子21と同様にp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触して配置される。p型熱電変換材料部22は、一方側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の高温側電極24により接続される。また、p型熱電変換材料部22は、上記一方側とは異なる側に隣接するn型熱電変換材料部23と共通の低温側電極25、26により接続される。このようにして、全てのp型熱電変換材料部22とn型熱電変換材料部23とが直列に接続される。
【0055】
低温側絶縁体基板28は、板状の形状を有する低温側電極25、26のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側の主面側に配置される。低温側絶縁体基板28は、複数の(全ての)低温側電極25、26に対して1枚配置される。高温側絶縁体基板29は、板状の形状を有する高温側電極24のp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23に接触する側とは反対側に配置される。高温側絶縁体基板29は、複数の(全ての)高温側電極24に対して1枚配置される。
【0056】
直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23のうち両端に位置するp型熱電変換材料部22またはn型熱電変換材料部23に接触する高温側電極24または低温側電極25、26に対して、配線27が接続される。そして、高温側絶縁体基板29側が高温、低温側絶縁体基板28側が低温となるように温度差が形成されると、直列に接続されたp型熱電変換材料部22およびn型熱電変換材料部23により、上記π型熱電変換素子21の場合と同様に矢印Iの向きに電流が流れる。このようにして、発電モジュール41において、温度差を利用した熱電変換による発電が達成される。
【0057】
(実施の形態4)
次に、本開示に係る熱電変換材料を用いた熱電変換素子の他の実施の形態として、光センサである赤外線センサについて説明する。
【0058】
図10は、赤外線センサ51の構造の一例を示す図である。
図10を参照して、赤外線センサ51は、隣接して配置されるp型熱電変換材料部52と、n型熱電変換材料部53とを備える。p型熱電変換材料部52とn型熱電変換材料部53とは、基板54上に形成される。
【0059】
赤外線センサ51は、基板54と、エッチングストップ層55と、n型熱電変換材料層56と、n+型オーミックコンタクト層57と、絶縁体層58と、p型熱電変換材料層59と、n側オーミックコンタクト電極61と、p側オーミックコンタクト電極62と、熱吸収用パッド63と、吸収体64と、保護膜65とを備えている。
【0060】
基板54は、二酸化珪素などの絶縁体からなる。基板54には、凹部66が形成されている。エッチングストップ層55は、基板54の表面を覆うように形成されている。エッチングストップ層55は、例えば窒化珪素などの絶縁体からなる。エッチングストップ層55と基板54の凹部66との間には空隙が形成される。
【0061】
n型熱電変換材料層56は、エッチングストップ層55の基板54とは反対側の主面上に形成される。n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料は、実施の形態1の熱電変換材料である。n+型オーミックコンタクト層57は、n型熱電変換材料層56のエッチングストップ層55とは反対側の主面上に形成される。n+型オーミックコンタクト層57は、例えば多数キャリアであるn型キャリア(電子)を生成させるn型不純物がドープされる。これにより、n+型オーミックコンタクト層57の導電型はn型となっている。
【0062】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面の中央部に接触するように、n側オーミックコンタクト電極61が配置される。n側オーミックコンタクト電極61は、n+型オーミックコンタクト層57に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上に、例えば二酸化珪素などの絶縁体からなる絶縁体層58が配置される。絶縁体層58は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。
【0063】
n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面には、さらに保護膜65が配置される。保護膜65は、n側オーミックコンタクト電極61から見てp型熱電変換材料部52とは反対側のn+型オーミックコンタクト層57の主面上に配置される。n+型オーミックコンタクト層57のn型熱電変換材料層56とは反対側の主面上には、保護膜65を挟んで上記n側オーミックコンタクト電極61とは反対側に、他のn側オーミックコンタクト電極61が配置される。
【0064】
絶縁体層58のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面上に、p型熱電変換材料層59が配置される。
【0065】
p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上の中央部には、保護膜65が配置される。p型熱電変換材料層59の絶縁体層58とは反対側の主面上には、保護膜65を挟む一対のp側オーミックコンタクト電極62が配置される。p側オーミックコンタクト電極62は、p型熱電変換材料層59に対してオーミック接触可能な材料、例えば金属からなっている。一対のp側オーミックコンタクト電極62のうち、n型熱電変換材料部53側のp側オーミックコンタクト電極62は、n側オーミックコンタクト電極61に接続されている。
【0066】
互いに接続されたp側オーミックコンタクト電極62およびn側オーミックコンタクト電極61のn+型オーミックコンタクト層57とは反対側の主面を覆うように、吸収体64が配置される。吸収体64は、例えばチタンからなる。n側オーミックコンタクト電極61に接続されない側のp側オーミックコンタクト電極62上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。また、p側オーミックコンタクト電極62に接続されない側のn側オーミックコンタクト電極61上に接触するように、熱吸収用パッド63が配置される。熱吸収用パッド63を構成する材料としては、例えばAu(金)/Ti(チタン)が採用される。すなわち、吸収体64とn型熱電変換材料層56とは、熱的に接続されている。吸収体64とp型熱電変換材料層59とは、熱的に接続されている。
【0067】
赤外線センサ51に赤外線が照射されると、吸収体64は赤外線のエネルギーを吸収する。その結果、吸収体64の温度が上昇する。一方、熱吸収用パッド63の温度上昇は抑制される。そのため、吸収体64と熱吸収用パッド63との間に温度差が形成される。そうすると、p型熱電変換材料層59においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてp型キャリア(正孔)が移動する。一方、n型熱電変換材料層56においては、吸収体64側から熱吸収用パッド63側に向けてn型キャリア(電子)が移動する。そして、n側オーミックコンタクト電極61およびp側オーミックコンタクト電極62からキャリアの移動の結果として生じする電流を取り出すことにより、赤外線が検出される。
【0068】
本実施の形態の赤外線センサ51においては、n型熱電変換材料層56を構成する熱電変換材料として、実施の形態1の熱電変換材料が採用される。その結果、赤外線センサ51は、高感度な赤外線センサとなっている。また、熱電変換材料が可撓性を有するため、n型熱電変換材料層56に可撓性が求められる場合に対応することができる。
【0069】
(実施の形態5)
次に、さらに他の実施の形態である実施の形態5について説明する。
図11は、実施の形態5における熱電変換素子を示す概略斜視図である。
図12は、
図11に示す熱電変換素子を線分XII-XIIで切断した場合の概略断面図である。実施の形態5は、熱電変換材料部の形状および配置の状態において実施の形態2の場合とは異なっている。
【0070】
図11および
図12を参照して、実施の形態5における熱電変換素子70は、第1材料部71と、第2材料部72と、第3材料部73と、第4材料部74と、を含む。熱電変換素子70は、第5材料部75と、第6材料部76と、第7材料部77と、第8材料部78と、第9材料部79と、をさらに含む。
図11および
図12において、実施の形態5における熱電変換素子70の厚さ方向は、矢印Uで示す向きまたはその逆の向きで示される。後述する帯状の第3材料部73の延びる方向は、矢印Vで示す向きまたはその逆の向きで示される。後述する帯状の第4材料部74の延びる方向は、矢印Wで示す向きまたはその逆の向きで示される。また、矢印Uで示す向きでU方向における一方が示され、矢印Uで示す向きと逆の向きでU方向における他方が示される。矢印Vで示す向きでV方向における一方が示され、矢印Vで示す向きと逆の向きでV方向における他方が示される。矢印Wで示す向きでW方向における一方が示され、矢印Wで示す向きと逆の向きでW方向における他方が示される。U方向、V方向およびW方向はそれぞれ直交している。
【0071】
第1材料部71は、熱電変換材料部である。第1材料部71は、板状である。第1材料部71は、厚さ方向に見て長方形の形状を有する。第1材料部71の厚さ方向は、矢印Uで示す向きまたはその逆の向きで示される。第1材料部71は、n型の導電型を有する。第1材料部71は、上記した熱電変換材料から構成される。すなわち、第1材料部71は、組成式Ag2S(1-x)Sexで表され、xの値が0.01よりも大きく、0.6よりも小さい熱電変換材料から構成される。具体的には、第1材料部71の材質は、Ag2S0.5Se0.5である。このような第1材料部71は、例えば、実施の形態1における形状の熱電変換材料をZ方向に圧延し、所定の形状に切断することにより得られる。
【0072】
第2材料部72は、板状である。第2材料部72は、第1材料部71の厚さ方向(U方向)に見て長方形の形状を有する。第2材料部72は、可撓性を有する。第2材料部72は、絶縁性である。第2材料部72の材質としては、例えば、Ag2Sが挙げられる。第2材料部72は、第1材料部71上に配置される。具体的には、第1材料部71の厚さ方向の一方の面71aと第2材料部72の厚さ方向の他方の面72bとが向かい合って接触するように、第2材料部72は配置される。第1材料部71の厚さ方向に見て、第2材料部72の面積は、第1材料部71の面積よりも小さい。具体的には、V方向の第2材料部72の長さは、第1材料部71の長さと同じであり、W方向の第2材料部72の長さは、第1材料部71の長さよりも短い。W方向において、第2材料部72のW方向の一方の端部72cと第1材料部71のW方向の一方の端部71cとが揃えられて、第2材料部72は配置される。
【0073】
第3材料部73は、導電性を有する。第3材料部73は、帯状である。第3材料部73は、上記した熱電変換材料から構成される。すなわち、第3材料部73の材質は、第1材料部71の材質と同じである。第1材料部71上であって、第2材料部72と異なる位置に、第3材料部73は配置される。具体的には、第1材料部71の厚さ方向の一方の面71aと第3材料部73の厚さ方向の他方の面73bとが向かい合って接触するように、第3材料部73は配置される。また、W方向において第2材料部72と接触するように、第3材料部73は配置される。具体的には、第2材料部72のW方向の他方の端部72dと第3材料部73のW方向の一方の端部73cとが接触するように、第3材料部73は配置される。W方向において、第3材料部73のW方向の他方の端部73dと第1材料部71のW方向の他方の端部71dとが揃えられて、第3材料部73は配置される。この場合、第3材料部73は、長手方向がV方向となるように配置される。なお、第3材料部73は、段差を有しており、段差面を構成する端部73eは、端部73cよりもW方向において端部73d側に位置する。
【0074】
第4材料部74は、可撓性を有する。第4材料部74は、帯状である。第4材料部74は、金属材料およびp型の導電型を有する熱電変換材料のうちの少なくともいずれか一方から構成される。本実施形態において、第4材料部74は、金属材料、具体的には、クロメルから構成される。クロメルは、Ni(ニッケル)を89質量%、Cr(クロム)を9.8質量%、Fe(鉄)を1質量%、Mn(マンガン)を0.2質量%含む合金である。すなわち、第4材料部74は、帯状としたクロメルから構成されている。第2材料部72上であって、第3材料部73と接触するように、第4材料部74は配置される。具体的には、第2材料部72の厚さ方向の一方の面72aおよび第3材料部73の一部の厚さ方向の一方の面73aと第4材料部74の他方の面74bとが向かい合って接触するように、第4材料部74は配置される。第4材料部74のW方向の他方の端部74dと第3材料部73の一部のW方向の一方の端部73eとが接触するように、第4材料部74は配置される。W方向において、第4材料部74のW方向の一方の端部74cと第2材料部72のW方向の一方の端部72cとが揃えられて、第4材料部74は配置される。第4材料部74は、第2材料部72に埋め込まれるように配置される。なお、第4材料部74は、V方向において、第2材料部72の中央の領域に配置されている。
【0075】
第5材料部75は、板状である。第5材料部75は、第1材料部71の厚さ方向に見て長方形の形状を有する。第5材料部75は、可撓性を有する。第5材料部75は、絶縁性である。第5材料部75の材質としては、例えば第2材料部72と同じ材質、具体的には、Ag2Sを挙げることができる。第3材料部73の一部および第4材料部74の一部の上に、第5材料部75は配置される。具体的には、第3材料部73の厚さ方向の一方の面73fおよび第4材料部74の厚さ方向の一方の面74aの一部と第5材料部75の厚さ方向の他方の面75bとが向かい合って接触するように、第5材料部75は配置される。第4材料部74が配置されている領域を除き、第5材料部75は、第2材料部72上にも配置される。第1材料部71の厚さ方向に見て、第5材料部75の面積は、第1材料部71の面積よりも小さい。具体的には、V方向の第5材料部75の長さは、第1材料部71の長さと同じであり、W方向の第5材料部75の長さは、第1材料部71の長さよりも短い。W方向において、第5材料部75のW方向の他方の端部75dと第3材料部73のW方向の他方の端部73dとが揃えられて、第5材料部75は配置される。第4材料部74の一方の面74aの一部を露出するようにして、第5材料部75は配置される。第5材料部75の厚さ方向の一方の面75aは、露出している。
【0076】
第6材料部76の大きさ、形状および材質等は、第2材料部72と同じである。第6材料部76は、第1材料部71上に配置される。具体的には、第1材料部71の厚さ方向の他方の面71bと第6材料部76の厚さ方向の一方の面76aとが向かい合って接触するように配置される。W方向において、第6材料部76のW方向の他方の端部76dと第1材料部71のW方向の他方の端部71dとが揃えられて、第2材料部72は配置される。
【0077】
第7材料部77、第8材料部78および第9材料部79の大きさ、形状、材質等はそれぞれ、第3材料部73、第4材料部74および第5材料部75と同じである。第1材料部71の厚さ方向の他方の面71bと第7材料部77の厚さ方向の一方の面77aとが向かい合って接触するように、第7材料部77は配置される。また、W方向において第6材料部76と接触するように、第7材料部77は配置される。具体的には、第6材料部76のW方向の一方の端部76cと第7材料部77のW方向の他方の端部77dとが接触するように、第7材料部77は配置される。W方向において、第7材料部77のW方向の一方の端部77cと第1材料部71のW方向の一方の端部71cとが揃えられて、第7材料部77は配置される。この場合、第7材料部77は、長手方向がV方向となるように配置される。なお、第7材料部77は、段差を有しており、段差面を構成する端部77eは、端部77dよりもW方向において端部77c側に位置する。
【0078】
第6材料部76上であって、第7材料部77と接触するように、第8材料部78は配置される。具体的には、第6材料部76の厚さ方向の他方の面76bおよび第7材料部77の一部の厚さ方向の他方の面77bと第8材料部78の一方の面78aとが向かい合って接触するように、第8材料部78は配置される。第8材料部78のW方向の一方の端部78cと第7材料部77の一部のW方向の他方の端部77eとが接触するように、第8材料部78は配置される。W方向において、第8材料部78のW方向の他方の端部78dと第6材料部76のW方向の他方の端部76dとが揃えられて、第8材料部78は配置される。第8材料部78は、第6材料部76に埋め込まれるように配置される。なお、第8材料部78は、V方向において、第6材料部76の中央の領域に配置されている。
【0079】
第7材料部77の一部および第8材料部78の一部の上に、第9材料部79は配置される。具体的には、第7材料部77の厚さ方向の他方の面77fおよび第8材料部78の厚さ方向の他方の面78bの一部と第9材料部79の厚さ方向の一方の面79aとが向かい合って接触するように、第9材料部79は配置される。第8材料部78が配置されている領域を除き、第9材料部79は、第6材料部76上にも配置される。W方向において、第9材料部79のW方向の一方の端部79cと第7材料部77のW方向の一方の端部77cとが揃えられて、第9材料部79は配置される。第8材料部78の他方の面78bの一部を露出するようにして、第9材料部79は配置される。第9材料部79の厚さ方向の他方の面79bは、露出している。なお、V方向において、第1材料部71の一方の端部、第2材料部72の一方の端部、第3材料部73の一方の端部、第5材料部75の一方の端部、第6材料部76の一方の端部、第7材料部77の一方の端部および第9材料部79の一方の端部は、それぞれ揃えられて配置される。また、V方向において、第1材料部71の他方の端部、第2材料部72の他方の端部、第3材料部73の他方の端部、第5材料部75の他方の端部、第6材料部76の他方の端部、第7材料部77の他方の端部および第9材料部79の他方の端部は、それぞれ揃えられて配置される。
【0080】
なお、このような熱電変換素子70は、例えば以下の工程で製造することができる。まず、第1材料部71として、実施の形態1における熱電変換材料をZ方向に圧延して板状とする。その後、所定の大きさとなるように切断する。同様にして第2材料部72、第3材料部73、第5材料部75、第6材料部76、第7材料部77および第9材料部79を形成する。また、帯状の第4材料部74および第8材料部78を準備する。次に、それぞれの部材を上記した配置となるように積層する。その後、厚さ方向に荷重を加えながら加熱する。すなわち、ホットプレスを行う。例えば厚さ方向に見て縦方向であるV方向の長さが10mm、横方向であるW方向の長さが12mmである長方形の形状の熱電変換素子70を製造する際のホットプレスの条件としては、以下が挙げられる。例えば、ホットプレスの条件として、圧力を400MPaとし、温度を373K(100℃)とし、保持時間を60分とし、雰囲気を空気とする。このようにして、上記構成の熱電変換素子70を製造する。
【0081】
上記熱電変換素子70において、第1材料部71と第4材料部74とは、第3材料部73を介して電気的に接続されている。第1材料部71と第8材料部78とは、第7材料部77を介して電気的に接続されている。上記熱電変換素子70において、n型の導電型を有する第1材料部71は、厚さ方向において絶縁性を有する第2材料部72および第6材料部76をそれぞれ挟み、p型の導電型を有する第4材料部74および第8材料部78のそれぞれとW方向の端部において電気的に接続されている。第4材料部74の一方の面74aのうちの露出している領域に、一方の電極が電気的に接続される。第8材料部78の他方の面78bのうちの露出している領域に、他方の電極が電気的に接続される。そして、W方向において温度差を生じさせると、具体的には例えば、矢印S1で示す領域を高温とし、矢印S2で示す領域を低温とすると、この温度差を電気エネルギーに変換して、電力を発生させることができる。
【0082】
このような構成の熱電変換素子70について、特性を調べた。
図13は、実施の形態5における熱電変換素子に温度差30Kを印加し、電流の量を変化させたときに、発生する電力を示すグラフである。
図13において、縦軸は電力(nW)を示し、横軸は電流(μA)を示す。
図13を参照して、温度差30Kの場合において、1100μA程度の電流が流れ、最大で1030nWの電力が発生している。このように、本実施形態の熱電変換素子70によると、高出力を得ることができる。
【0083】
以上より、このような熱電変換素子70によると、材料が積層される方向である厚さ方向に可撓性を有するため、厚さ方向に柔軟な熱電変換素子とすることができ、割れや欠けが生じるおそれを低減することができる。また、通常の熱電モジュールの組み立て工程が無いため、製造工程が比較的簡易である。また、通常の熱電モジュールと比較して、容易に熱電対の密度を高くできるため、小型化を図りやすい。
【0084】
本実施形態においては、第2材料部72は、Ag2Sである。Ag2Sは、可撓性を有する。また、Ag2Sは、延性を有するため、板状とすることが容易である。よって、このような材料は、上記熱電変換素子70に好適に用いられる。
【0085】
なお、上記した熱電変換素子70は、第1材料部71と第3材料部73、そして第7材料部77が同じ材質であるため、一枚の板状の部材に対して、W方向の位置をずらして、やや小さい第2材料部72および第6材料部76を構成する板状の部材を配置し、ホットプレスすることによっても得られる。すなわち、第1材料部71と第3材料部73と第7材料部77を一体として構成して製造することもできる。
【0086】
なお、本実施形態において、第5材料部75、第6材料部76、第7材料部77、第8材料部78および第9材料部79を含まない構成としてもよい。また、第3材料部73および第7材料部77は、第1材料部71と異なる材質であってもよい。
【0087】
なお、本実施形態において、第3材料部73および第7材料部77は、それぞれ段差を有することとしたが、これに限らない。第3材料部73および第7材料部77のうちの少なくともいずれか一方は、段差を有しない構成としてもよい。この場合、第3材料部73および第7材料部77の少なくともいずれか一方は、例えばW方向において露出してもよい。また、本実施の形態においては、第4材料部74および第8材料部78は、それぞれ帯状であることとしたが、これに限らない。第4材料部74および第8材料部78のうちの少なくともいずれか一方は、例えば板状であってもよい。
【0088】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
11,70 熱電変換材料
12 領域
13a,14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h データ
21 π型熱電変換素子
22,52 p型熱電変換材料部
23,53 n型熱電変換材料部
24 高温側電極
25 第1低温側電極(低温側電極)
26 第2低温側電極(低温側電極)
27,42,43 配線
28 低温側絶縁体基板
29 高温側絶縁体基板
31,32,33,34,71c,71d,72c,72d,73c,73d,73e,74c,74d,75d,76c,76d,77c,77d,77e,78c,78d,79c 端部
41 熱電変換モジュール
51 赤外線センサ
54 基板
55 エッチングストップ層
56 n型熱電変換材料層
57 n+型オーミックコンタクト層
58 絶縁体層
59 p型熱電変換材料層
61 n側オーミックコンタクト電極
62 p側オーミックコンタクト電極
63 熱吸収用パッド
64 吸収体
65 保護膜
66 凹部
71 第1材料部
71a,71b,72a,72b,73a,73b,73f,74a,74b,75a,75b,76a,76b,77a,77b,77f,78a,78b,79a,79b 面
72 第2材料部
73 第3材料部
74 第4材料部
75 第5材料部
76 第6材料部
77 第7材料部
78 第8材料部
79 第9材料部
S1,S2,I 矢印