IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ペーチ チュードマニゲエテムの特許一覧

特許7446323高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置
<>
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図1
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図2A
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図2B
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図3
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図4
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図5
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図6A
  • 特許-高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置 図6B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】高エネルギテラヘルツパルスを発生させるための反射及び/又は回折ベースの方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/39 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
G02F1/39
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021547958
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 HU2019050048
(87)【国際公開番号】W WO2020188307
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】18203893.5
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19169363.9
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518110741
【氏名又は名称】ペーチ チュードマニゲエテム
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エブリン ヤノス
(72)【発明者】
【氏名】アルマシ ガボル
(72)【発明者】
【氏名】パールファルヴィ ラスロ
(72)【発明者】
【氏名】トス ジョルジュ
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054959(JP,A)
【文献】特開2009-180809(JP,A)
【文献】特表2018-530010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0101085(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0265165(US,A1)
【文献】M. I. BAKUNOV et al.,“Terahertz generation with tilted-front laser pulses in a contact-grating scheme”,Journal of the Optical Society of America B,2014年10月06日,Vol. 31, No. 11,pp. 2549-2557,DOI: 10.1364/JOSAB.31.002549
【文献】J. A. FULOP et al.,“Semiconductor THz source scalable to mJ energy”,2016 41st International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz waves (IRMMW-THz),2016年09月,pp.1-2,DOI: 10.1109/IRMMW-THz.2016.7758390
【文献】J. A. FULOP et al.,“Highly efficient scalable monolithic semiconductor terahertz pulse source”,Optica,2016年09月21日,Vol. 3, No. 10,pp.1075-1078,DOI: 10.1364/OPTICA.3.001075v
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ放射(60)を発生させる方法であって、前記方法は、
平面入口面(51)及び前記入口面(51)に平行な後部境界面(52)を有する、非線形光学特性を有する非線形光学媒質から形成された平面平行光学要素(50)を提供するステップと、
ポンプビーム(12)を前記入口面(51)に垂直に前記入口面(51)を通して前記光学要素(50)内へと結合するステップと、
前記ポンプビーム(12)を第1伝搬方向に沿って、前記光学要素(50)の前記後部境界面(52)に形成された周期的レリーフ構造(53)、及び、付加要素(150)の表面(151)に形成された周期的レリーフ構造(153)のうちの1つまで導くステップであって、前記表面(151)は、前記後部境界面(52)に面し、前記後部境界面(52)に平行に延在して、前記光学要素(50)の前記後部境界面(52)に光結合されている、ステップと、
前記ポンプビーム(12)に反射及び回折のうちの少なくとも1つを受けさせるステップと、
それによって前記ポンプビーム(12)を部分ビーム(121)へと分割するステップであって、前記部分ビーム(121)は、共通の平面包絡線(212)を有する、ステップと、
ポンプビームとしての前記部分ビーム(121)によって、非線形光学相互作用を介して前記非線形光学媒質内にテラヘルツ放射(60)を発生させるステップと、
前記光学要素(50)から前記入口面(51)を通して前記テラヘルツ放射(60)を分離するステップと、
を含み、
前記周期的レリーフ構造(53、153)は、前記第1伝搬方向に垂直で互いに平行である第1区域を少なくとも備え、前記第1区域のそれぞれは、前記第1伝搬方向に沿った平面断面内に対称形V形状を有し、前記V形状の脚部と前記後部境界面(52)とによって形成された角の大きさが、光学媒質内部で次式(1)の速度整合条件を満たすことが必要なパルス面傾斜の角(γ)の半分であり、
p,cscоs(γ)=vTHz,f (1)
関係(1)において、vp,csは、前記ポンプビーム(12)の群速度であり、vTHz,fは、前記テラヘルツ放射(60)の位相速度であり、γは、パルスと前記ポンプビーム(12)の位相面との間に形成された角、すなわち前記パルス面傾斜の角そのものであり、
前記反射及び/又は回折後に、前記部分ビーム(121)は、前記第1伝搬方向に対して角γで伝搬し、前記平面包絡線(212)は、前記光学要素(50)の前記入口面(51)に向かって速度vTHz,fで進行する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ポンプビーム(12)を前記第1伝搬方向に沿って前記周期的レリーフ構造(53、153)まで導くステップと、
前記ポンプビーム(12)に反射を受けさせるステップと、
を更に含み、
前記周期的レリーフ構造(53、153)は、前記第1伝搬方向に垂直で、互いに平行で、前記第1区域の前記対称形V形状を構成する各斜面の間に設けられた第2区域を更に備え、
前記第2区域のそれぞれは、パルス面傾斜につき前記ポンプビーム(12)をもたらす前記後部境界面(52)と角を形成し、
前記パルス面傾斜の範囲は、関係(1)の前記速度整合条件を満たすには不十分である、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2区域は、前記後部境界面(52)に実質的に平行である、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2区域の幅(u)は、前記第1区域のの半分(の大きくても5%である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記光学媒質から切り離された後の更なる使用のために、前記ポンプビーム(12)から前記テラヘルツ放射(60)を分離するステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記テラヘルツ放射(60)の経路内にダイクロイックミラーを配列することによって、前記ポンプビーム(12)から前記テラヘルツ放射(60)を分離するステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1伝搬方向に垂直な軸線周りに前記光学要素(50)をわずかに回転させることによって、前記ポンプビーム(12)から前記テラヘルツ放射(60)を分離するステップを更に含む、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記非線形光学媒質は、ニオブ酸リチウム(LN)又はタンタル酸リチウム(LT)である、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記非線形光学媒質は、半導体であり、好ましくは、GaP、ZnTe、GaAsからなる群から選ばれた半導体である、
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポンプビーム(12)は、少なくとも5フェムト秒から多くとも数ピコ秒までの範囲に及ぶパルス長を有する、可視、近赤外線、又は中赤外線範囲内のレーザパルスである、請求項1~9のうちの1項に記載の方法。
【請求項11】
ポンプビーム(12)によってテラヘルツ放射(60)を発生させる光学要素であって、互いに平行な前部境界面と後部境界面(51、52)によって長手方向に囲まれた非線形光学特性を有する媒質から形成されている前記光学要素であって、
周期的レリーフ構造(53)が、前記後部境界面(52)に形成され、
前記レリーフ構造(53)は、前記長手方向に垂直で互いに平行な第1区域を少なくとも備え、
前記第1区域のそれぞれは、前記長手方向に沿った平面断面内に対称形V形状を有し、
前記V形状の脚部と前記後部境界面(52)とによって形成された角の大きさは、光学媒質内部で次式(1)の速度整合条件を満たすのに必要なパルス面傾斜の角(γ)の半分であり、
p,cscоs(γ)=vTHz,f (1)
関係(1)において、vp,csは、前記ポンプビーム(12)の群速度であり、vTHz,fは、前記テラヘルツ放射(60)の位相速度であり、γは、パルスと前記ポンプビーム(12)の位相面との間に形成された角、すなわち前記パルス面傾斜の角そのものである、
ことを特徴とする光学要素。
【請求項12】
ポンプビーム(12)によってテラヘルツ放射(60)を発生させる光学要素であって、互いに平行な前部境界面と後部境界面(51、52)によって長手方向に囲まれた非線形光学特性を有する媒質から形成されている前記光学要素であって、
前記光学要素(50)の前記後部境界面(52)は、付加要素(150)の表面(151)に光結合され、
前記表面(151)は、前記後部境界面(52)に面して前記後部境界面(52)に平行に延在し、
周期的レリーフ構造(153)が、前記表面(151)に形成され、
前記レリーフ構造(153)は、前記長手方向に垂直で互いに平行な第1区域を少なくとも備え、
前記第1区域のそれぞれは、前記長手方向に沿った平面断面内に対称形V形状を有し、
前記V形状の脚部と前記後部境界面(52)とによって形成された角の大きさは、光学媒質内部で次式(1)の速度整合条件を満たすのに必要なパルス面傾斜の角(γ)の半分であり、
p,cscоs(γ)=vTHz,f (1)
関係(1)において、vp,csは、前記ポンプビーム(12)の群速度であり、vTHz,fは、前記テラヘルツ放射(60)の位相速度であり、γは、パルスと前記ポンプビーム(12)の位相面との間に形成された角、すなわち前記パルス面傾斜の角そのものである、
ことを特徴とする光学要素。
【請求項13】
前記付加要素(150)は、金属、好ましくは、ステンレス鋼、又はアルミニウムでできている、
ことを特徴とする請求項12に記載の光学要素。
【請求項14】
金属被覆、好ましくは金層が、前記後部境界面(52)に面する前記付加要素(150)の前記表面(151)に形成された前記周期的レリーフ構造(153)に適用され、
前記金層は、最大数ミクロンの層厚を有する、
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の光学要素。
【請求項15】
屈折率整合媒質(155)は、前記後部境界面(52)と前記後部境界面(52)に面する前記付加要素(150)の前記表面(151)との間に配列されて、前記光結合を提供する、
ことを特徴とする請求項12~14のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項16】
前記屈折率整合媒質(155)は、半導体ナノ結晶エマルジョンである、
ことを特徴とする請求項15に記載の光学要素。
【請求項17】
前記周期的レリーフ構造(53、153)は、ブレーズドレリーフ構造である、
ことを特徴とする請求項11~16のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項18】
前記周期的レリーフ構造(53、153)は、前記長手方向に垂直で、互いに平行で、前記第1区域の前記対称形V形状を構成する各斜面の間に設けられた第2区域を更に含み、
前記第2区域のそれぞれは、パルス面傾斜につき前記ポンプビーム(12)をもたらす前記後部境界面(52)と角を形成し、
前記パルス面傾斜の範囲は、関係(1)の前記速度整合条件を満たすのに不十分である、
ことを特徴とする請求項11~17のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項19】
前記第2区域は、前記後部境界面(52)に実質的に平行である、
ことを特徴とする請求項18に記載の光学要素。
【請求項20】
前記第2区域の幅(u)は、前記第1区域のの半分(w)の大きくても5%である、
ことを特徴とする請求項18又は19に記載の光学要素。
【請求項21】
非線形光学特性を有する前記媒質は、非常に高い非線形光学係数を有する物質でできており、
テラヘルツ領域と可視領域とにおける前記物質の屈折率は、実質的に互いに異なる、
ことを特徴とする請求項11~20のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項22】
非線形光学特性を有する前記媒質は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)又はタンタル酸リチウム(LiTaO3)である、
ことを特徴とする請求項11~21のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項23】
非線形光学特性を有する前記媒質は、半導体であり、好ましくはGaP、ZnTe、及びGaAsからなる群から選択される、
ことを特徴とする請求項11~22のいずれか1項に記載の光学要素。
【請求項24】
ポンプビーム(12)を放出して、それを光路内へと結合するためのポンプ源(10)と、
前記前部及び後部境界面(51、52)が前記テラヘルツ放射(60)を発生させるために前記光路に実質的に垂直であるように前記光路内に配列されている、請求項11~23のいずれか1項に記載の光学要素(50)と、
前記光学要素(50)から出る前記テラヘルツ放射(60)と前記光路内へと結合される前記ポンプビーム(12)とを分離する分離機構と、
を備えることを特徴とするテラヘルツ放射線源(100、100’)。
【請求項25】
前記分離機構は、前記発生させられたテラヘルツ放射(60)の経路内に配列されたダイクロイックミラー(70)の形式で提供されている、
ことを特徴とする請求項24に記載のテラヘルツ放射線源(100、100’)。
【請求項26】
前記分離機構は、傾斜機構の形式で提供され、
前記傾斜機構は、前記前部境界面(51)上に実質的に垂直に衝突する前記ポンプビーム(12)に対して、前記光路内で前記光学要素(50)の前記前部境界面(51)をわずかに傾斜させる、
ことを特徴とする請求項24に記載のテラヘルツ放射線源(100、100’)。
【請求項27】
前記ポンプ源(10)は、少なくとも5フェムト秒から多くとも数ピコ秒までの範囲に及ぶパルス長を有する、可視、近赤外線、又は中赤外線範囲内のレーザパルスを放出するように構成されたポンプ源である、
ことを特徴とする請求項24~26のいずれか1項に従うテラヘルツ放射線源(100、100’)。
【請求項28】
帯電粒子を単色化し、同期して加速するために、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によって、又は請求項24~27のいずれか1項に記載の放射線源(100、100’)によって発生させられたテラヘルツ放射(60)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ放射を発生させるための方法及び装置に関する。具体的には、本発明は、反射及び/又は回折ベースの方法及び装置に関し、該方法及び装置は、得られたテラヘルツパルスについてのビーム特性、効率、及びエネルギースケーラビリティの改善を有するテラヘルツパルスを発生させるように別個に調節されるべき結像手段も光学格子もともに備えていない。
【背景技術】
【0002】
現在、帯電粒子、例えば電子又は陽子の加速は、約0.1THzから約10THzまでに及ぶ周波数(契約書のとおり)を有する強いテラヘルツ(THz)パルスについての新たな有望な適用分野である。テラヘルツパルスは、従来、超短光パルス、すなわち数フェムト秒(fs)から数ピコ秒(ps)までの範囲のパルス長を有する光パルスを、一般に結晶内部での光整流によって非線形光学特性を有する結晶内に結合させることによって発生させられた。このために、数百フェムト秒のパルス長を有する可視又は近赤外線領域内のポンプパルスが、典型的に用いられる。
【0003】
効率的なテラヘルツ放射発生を達成するためには、いわゆる速度整合条件が満たされなければならない。したがって、テラヘルツ放射発生に用いられるポンプパルスの群速度は、このように発生させられたTHzパルスの位相速度と等しくなければならない。
【0004】
効率的なテラヘルツ放射発生を達成するには、また、非線形光学特性を有する結晶が大きい2次非線形光学係数を示すことが必要条件である。この条件を満たす(つまり、2次非線形光学係数が、典型的に数十pm/Vよりも大きい)多くの材料について、赤外線及びTHz範囲で測定される材料の屈折率同士の間の差もまた大きい。このことは、リン化ガリウム(GaP)、テルル化亜鉛(ZnTe)、及びガリウムヒ素(GaAs)、並びにニオブ酸リチウム(LN)、及びタンタル酸リチウム(LT)等のいくつかの半導体であって、非常に高い(約160~170pm/V)非線形光学係数を有するものに当てはまる。最後の2つの材料については、赤外線領域内のポンプ周波数での群屈折率とTHz領域内の位相屈折率との比が、2よりも大きい。このことは、条件としての、ポンピングとテラヘルツパルスとの間の上記速度整合を従来技術によるのでは達成不可能にする。それにもかかわらず、傾斜パルス面技術(非特許文献1の論文を参照)がこの問題についての解決策を提供する。これに従うと、テラヘルツ放射の発生が、光パルスによって達成され、該光パルスのパルス面(強度面)が波面に対して所望の角(γ)のところにある。速度整合の条件を満たすために、発生させられたTHzビームが傾斜パルス面に対して垂直に伝搬するとき、テラヘルツ放射伝搬の方向に沿ったポンピング群速度vp,csの射影は、THzビームの位相速度vTHz,fと等しくなければならない、つまり、(1)の関係が満たされなければならない。
p,cscоs(γ)=vTHz,f (1)
特に、近赤外線領域でのポンプ波長について、上記関係が、LNについてはγ≒62°~63°、LTについてはγ≒68°~69°、ZnTeについてはγ≒22°~29°において満たされる。
【0005】
今日では、粒子加速度に適した周波数(すなわち、約0.2~2.0THzの)を有する最高エネルギーTHzパルスは、LN結晶によって及び傾斜パルス面技術(非特許文献2の論文を参照)によって発生させられてもよい。0.43mJのパルスエネルギーを生成する、この発行物に記載された高エネルギーTHz放射源は、常に、非線形光学結晶としてのプリズム形状LN結晶を利用する。一方、これについて理由は、反射損を最小化するためには、ポンプパルスが直角に結晶に入らなければならず、そして、発生させられたTHzパルスが直角にそれからまた出なければならないことである。直角でTHzビームを結合解除することは、また、このようにして発生させられたTHzビームが、更なる利用の観点からの非常に重要な条件である角分散がないことを確実にする。したがって、上記の関係(1)の速度整合条件を満たすために、THz放射源内で用いられるLN結晶の出口面が、その角γにちょうど等しいLN結晶の入口面との明確な楔角を形成しなければならない。以下において、用語「出口面」とは、テラヘルツ源に用いられる非線形光学媒質の実質的に平坦な表面を指し、発生させられたTHzビームがそれを通って媒質を出、一方、用語「入口面」とは、光学媒質の実質的に平坦な表面を指し、ポンプビームがそれを通って上記光学媒質に入ることになる。
【0006】
LN結晶についての楔角の値が大きいので(室温でγ≒63°、100Kでγ≒62°)、高エネルギーを有するテラヘルツ波を発生させるためのプリズム形状媒質の適用は、発生させられたTHzビームの品質に対して非常に有害であり、広範囲ポンプビームについては高エネルギーTHzパルスを発生させることが必要であり、断面内のポンプビームの両側に形成されているTHzパルスが、有意に異なる空間長にわたって発生させられ、それで、LN結晶内で異なる程度にまで吸収及び分散を受け、更に、非線形効果もまた結晶内の上記発生場所で異なる。そのため、ポンプパルスの対称形の対向する空間部分で発生させられたTHzパルスの強度と時間的な電界プロファイルの両方は、有意に異なる、すなわち、低品質で非常に非対称形のTHzビームが得られる。その結果として、THzビームは、強い集束に受け得ず(それの範囲が、回折によって限定された集束の範囲にいずれにしろ対応することになり)、そのため、2つ点で有効な粒子加速の実現を大いに制限する。一方では、大きいサイズの集束ビームに起因して、電界強さ、したがって十分に高い加速度場勾配が、有効な粒子加速について達成され得ず、他方では、大きいサイズの集束スポットが、上記パルスによって加速されるべき粒子とTHzパルスを正確に同期させることを不可能にするが、それは、また、有効な粒子加速についての必要条件である。
【0007】
特許文献1が、いわゆる従来の傾斜パルス面励起方式を開示する。この場合、ポンプビームのパルス面傾斜は、ビーム経路内に配列された(反射又は透過)光学格子上で上記ポンプビームを回折させることによって概して得られる。そのとき、ビームは、結像手段、好ましくはレンズ又はテレスコープを通して、テラヘルツ放射発生についての非線形光学特性を有する結晶内への結像によって案内され、格子の表面上に落ちるビームスポットの像が、結晶内側に生成される。従来の傾斜パルス面THz放射源の結像誤差は、ポンプパルスの歪みを誘発させる、すなわち、上記誤差が、ポンプパルス長の局所的な増大をもたらす。大断面を有するポンプビームの場合(すなわち、広範囲ポンプビームについて)、これは、テラヘルツ放射発生の有効性について非常に有害である。これを改善するために、科学的出版物である非特許文献3が、なんらかの結像光学素子が存在しない、したがって結像光学素子に起因する結像誤差が存在しない、THz放射を発生させるためのいわゆる接触格子方式を提案する。この方式では、パルス面の傾斜が、非線形結晶の表面に(例えば、エッチングによって)直接形成された透過型光学格子上でポンプビームを回折させることによって得られる。(概して、マイクロメートル又はサブマイクロメートル領域において)形成されるべき格子の周期の大きさが、非線形結晶の材料及びポンピングの波長によって決定される。例えば、LNについて、及び典型的に~1μmのポンプ波長を仮定すると、接触格子は、典型的に少なくとも2500~3000(1/mm)の線密度を備えていなければならない(非特許文献4の論文及び非特許文献5の修正論文、並びに非特許文献6の論文を参照)。当面、かかる線密度を有する光学格子の調整が、実際に全く明らかであるというわけではなく、例えば、関係する処理実験が、格子の線密度が閾値(これは、LNについて約2000(1/mm)である)を上回る場合、得られた格子のプロファイルがぼやけることを示している。その結果、得られた格子の回折効率が、理論予測値の背後に大きく外れており、これは、ポンプパルスの大きく低減された結合効率に起因して、テラヘルツ放射発生の効率の大幅な低下をもたらす。
【0008】
接触格子方式の更なる有意な不利益は、平面平行構造によって効率的にテラヘルツ放射を発生させることが不可能であるという事実にあり、それで、入口及び出口面を互いに対して(LNについては、約30度の角で)傾斜させて、プリズム形状要素の形式でテラヘルツ放射発生のための媒質を利用すること(前出の非特許文献6を参照)が避けられない。
【0009】
非特許論文献7の論文は、接触格子によってテラヘルツパルスを発生させるための方法を開示する。平面平行要素によって提供された非線形光学特性を有する結晶への結合効率を増加させるために、ファブリペロー共振器として作用する二重被覆層が結晶の表面と回折格子との間に形成される。出口面のところで上記平面平行要素から得られたTHzビームを結合解除することは、垂線以外の方向に沿って生じる。数サイクルだけからなり、広帯域幅を有するTHzパルスの場合、このことは非常に不利であり、個々のスペクトル成分の分離は、このようにして得られたTHzパルスの実用的な利用を不可能にする。
【0010】
非特許文献8の論文は、テラヘルツ放射発生のための傾斜パルス面技術を開示し、ポンプビームのパルス面傾斜は、マイクロメートル領域にある周期を有する回折格子の代わりに、大きさが約百マイクロメートルの周期を有する非線形光学特性を有する結晶から所定の距離のところに配列された段階状構造(これは、いわゆる反射エシェル格子に基づく発生のための方式である)での反射を介して達成される。反射されるとき、ポンプビームのパルス面は、平均的傾斜を受け、その範囲は、上記段階状構造のステップの高さと幅の比によって決定される。パルス面は、ステップ状である微細構造を示すであろう。速度整合の条件を満たすことを必要とするパルス面傾斜の範囲は、ポンプパルスの伝搬経路内に配列された結像光学素子によって設定される。このようにして発生させられたテラヘルツ放射は、段階状パルス面の包絡線に垂直な方向に沿って結晶内部を伝搬する。したがって、結晶からのTHz放射の結合解除は、従来の方式におけるのと同じ(例えば、LN結晶について、63°の)楔角を有するプリズムを必要とする(上記を参照)。その結果として、特に高エネルギーテラヘルツ放射発生に必要とされる広範囲ポンプビームを用いるときに、得られたTHz放射は、例えば、粒子加速に対して、非対称であり、したがって、とりわけ不適当である。
【0011】
非特許文献9の論文は、平面平行構造のテラヘルツパルス源(LN又はLTのうちのいずれか、あるいは、それよりも好ましくはない非線形光学特性を有する更なる媒質に本質的に基づいている)を提案する。上記源は、広範囲ポンプビームによってさえ対称形のテラヘルツパルスプロファイルを発生させる。関係(1)に従う速度整合条件を満たすことに基づき、そして高いテラヘルツ発生効率を有する方式において、角分散誘導特性を有する第1光学要素、結像光学素子、及びテラヘルツ放射を発生させるための非線形光学特性を有する媒質が、ポンプビーム源によって放出されるポンプビームの伝搬経路内に配列されている。非線形光学特性を有する媒質は、互いに平行な入口面と出口面とによって画定された(すなわち、結晶は平面平行な形状である)非線形光学特性を有する光透過(すなわち、ポンプビームに透明な)結晶の形式で提供され、入口面は階段構造として形成されている。階段構造の周期は、上記構造に衝突するポンプビームの波長の少なくとも数十倍又は数百倍の大きさである。以降において、構造は、「平面平行エシュロン(又は階段状物/階段)接触格子」と呼ばれる。
【0012】
階段構造を通過するとき、ポンプビームのパルス面は、平均傾斜角によって記述されてもよい区画化構造を達成する。最大効率のものであり、また速度整合条件を満たすかかるテラヘルツ放射発生を達成するために、特定の幾何学的条件が満たされなければならない。一方では、平面平行エシュロン接触格子がポンプビームの伝搬経路内に配列されることにより、個々の階段の長手方向の縁における仮想面(つまり、上記平面平行エシュロン接触格子の包絡線)と、伝搬方向に垂直な平面との間に形成された角γNMは、関係(1)の速度整合条件の角に等しい。他方では、非線形光学特性を有する媒質に入る直前に、上記ポンプビームのパルス面は、平面平行エシュロン接触格子の上記包絡線に平行である。
【0013】
平面平行エシュロン接触格子に基づく方式において発生させられたテラヘルツビームが、前の既知の技術的解決策によって発生させられたテラヘルツビームと比較してより高い対称性によって特徴付けられる。しかし、平面平行エシュロン接触格子に基づく方式が、また、従来のパルス面傾斜(すなわち、角分散要素及び結像光学要素)に基づく光学要素を含むとき、それによって達成されるテラヘルツエネルギーが限定される。更に、傾斜パルス面THz放射源に生じる結像誤差は、ポンプビームの歪み、特に、ポンプビーム長の局所的増加をもたらす。平面平行エシュロン接触格子に基づく方式においては、従来の傾斜パルス面方式のものと比較して、より小さいパルス面(プレ)傾斜が誘導され、それゆえに、ポンプビーム歪の範囲がより小さいけれども、大きいビームサイズの場合には、多くの現実的適用に対して許容できない上記歪みが、有意に増加することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2017/081501号
【非特許文献】
【0015】
【文献】J.Hebling et al.,“Velocity matching by pulse front tilting for large-area THz-pulse generation”;Optics Express;Vol.10,issue 21,pp.1161-1166.(2002)
【文献】J.A.Fulop et al.,“Efficient generation of THz pulses with 0.4mJ energy”;Optics Express;Vol.22,issue 17,pp.20155-20163(2014)
【文献】L.Palfalvi et al.,“Novel setups for extremely high power single-cycle terahertz pulse generation by optical rectification”;Applied Physics Letters,Vol.92,issue 1.,pp.171107-171109(2008)
【文献】Nagashima et al.,“Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation”,Japanese Journal of Applied Physics,vol.49,pp.122504-1 to 122504-5(2010)
【文献】Nagashima et al.,“Erratum:Design of Rectangular Transmission Gratings Fabricated in LiNbO3 for High-Power Terahertz-Wave Generation”,Japanese Journal of Applied Physics,vol.51,p.122504-1(2012)
【文献】Ollmann et al.,“Design of a contact grating setup for mJ-energy THz pulse generation by optical rectification”,Applied Physics B,vol.108,issue 4,pp.821-826(2012)
【文献】Tsubouchi et al.,“Compact device for intense THz light generation: Contact grating with Fabry-Perot resonator”,Conference Proceedings of the “41th International Conference on Infrared,Millimeter and Terahertz Waves(IRMMW-THz)”,25-30,September 2016
【文献】Ofori-Okai et al.,“THz generation using a reflective stair-step echelon”,Optics Express,vol.24,issue 5,pp.5057-5067(2016)
【文献】L.Palfalvi et al.,“Numerical investigation of a scalable setup for efficient terahertz generation using a segmented tilted-pulse-front excitation”,Optics Express,vol.25,issue 24,pp.29560-29573(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記を考慮すると、本発明の目的は、実用的分野に適用可能なテラヘルツ放射を発生させるための方法及び装置-以降、技術という-を提供することであり、それらは、(特に、最も重要なビーム特性が関係する限り、対称形ビームプロファイルを有する)優れたビーム特性のテラヘルツパルスの発生を拡大縮小可能な態様で可能にする。本明細書において、以降は、用語「拡大縮小可能な」とは、本発明に従うテラヘルツ放射源に適用されたポンプビームの断面のビームスポットの半径-これは、取得されるべきテラヘルツパルスエネルギーの平方根に比例する-が、発生させられたテラヘルツ放射の優れたビーム特性を維持しながら任意の限度の間で本質的に変化させられてもよいということを指す。好ましくは、ビームスポットの上記半径は、mm領域の値から少なくとも数センチメートルまでで変化させられてもよく、数センチメートルのサイズは、今では生成されてもよい非線形光学特性を有する結晶の寸法に基本的に対応する。
【0017】
本発明の更なる目的は、テラヘルツ放射発生のための技術を提供することであり、該技術によって、今では達成可能なTHzパルスのパルスエネルギーが、更に増加させられ得る。
【0018】
本発明のなお更なる目的は、コンパクトであるTHz放射源を提供することである。このために、基本的には、上記THz放射源内部で用いられる光学要素の数を減少させることが必要である。したがって、本発明の目的は、テラヘルツ放射発生技術に関して用いられる必要がある光学要素の数を最小化することである。
【0019】
本発明のなお更なる目的は、エネルギー内で単色の帯電粒子を生成し、同期された態様で効率的にこの粒子を加速するためのテラヘルツ放射を発生させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的は、請求項1に記載のテラヘルツ放射を発生させるための方法を作成すること、請求項11及び請求項12に記載の光学要素を提供すること、及びかかる光学要素を利用することによって請求項24に記載のテラヘルツ放射源を構成することによって達成される。本発明に従う方法の更なる好ましい変形が、請求項2~10に記載されている。上記光学要素の更なる好ましい実施形態が、請求項13~23に記載されている。本発明に従うテラヘルツ放射源の好ましい実施形態が、請求項25~27に記載されている。
【0021】
更に、請求項28と調和して、本発明に従う方法によって発生させられたテラヘルツ放射又は本発明に従うテラヘルツ放射源が優先的に用いられて、帯電粒子を単色化して、同時に加速してもよい。
【0022】
特に、我々の研究は、上記の目的が、速度整合条件を満たすことに基づくテラヘルツ放射発生のための新規な装置によって達成されてもよく、テラヘルツ放射発生に適した非線形光学特性を有する媒質が、ポンプビーム源によって放出されたポンプビームの伝搬経路内に配列され、媒質は、互いに平行な前部境界面と後部境界面とによって(ポンプビームの第1伝搬方向に沿って)画定され、上記前部境界面は平面であり、上記後部境界面は、(i)周期的レリーフ構造を備えているか、又は(ii)非線形光学特性を有する媒質から離れて配列された別個の更なる要素の部分を形成する周期的レリーフと光結合しているかのいずれかであるという結論に我々を導いた。周期的レリーフ構造は、少なくとも、幅wを有する第1区域を備え、随意に、この第1区域を互いに分離する幅uを有する第2区域を備える。ここで、第1区域は、後部境界面に対して傾斜した平面の形式で提供され、平面は、対になって、ポンプビームの第1伝搬方向に沿った長手方向断面図内でV形状である。第2区域は、前部境界面に平行な平面の形式で提供される。幅uの値は、幅wのゼロから、多くても数%まで、好ましくは幅wの多くても5%までの範囲に及ぶ。テラヘルツ発生中に、ポンプビーム源によって放出されたポンプビームは、前部境界面を通って非線形光学特性を有する媒質に入り、第1伝搬方向に沿って上記媒質を通って進行し、そして、光学媒質の構造化後部境界面、又はこの光学媒質の後部境界面と光結合している別個の更なる要素の構造化表面に到着する。幅wを有するこの第1区域は、入射ポンプビームを(少なくとも反射及び回折のうちの1つによって)複数の部分ポンプビームに分割し、それぞれの部分ポンプビームの伝搬方向は、入射ポンプビームと、又はむしろ上記第1伝搬方向と角γを形成する(本明細書で以降は、入射ポンプビームと形成された角は、常に鋭角である)。角の値γは、関係(1)によって決定される。周期的レリーフ構造の幾何形状及び/又は上記幅wとuの大きさのオーダーは、本発明に従うテラヘルツ放射発生のための装置の様々な実施形態を規定する。これらの実施形態の共通の特徴は、幅wを有する第1区域を形成する平面が、後部境界面の平均(又は、中央)平面とγ/2の角を形成することである。言い換えると、第1区域に起因する部分ポンプビームが、関係(1)に従う適合条件を常に満たし、同時に、第2区域に起因する部分ポンプビームが、関係(1)の適合条件を満たさない。本明細書で以降は、非線形光学特性を有する媒質についての用語後部「平均(又は、中央の)表面/平面」とは、上記光学媒質の平面後部境界面を指し、それは、光学媒質に機械加工を受けさせてこの光学媒質内に上記レリーフ構造を生成する前に、光学媒質内にポンプビームの伝搬方向に沿って光学媒質の(レリーフ構造を有しない)後部境界面を形成する。
【0023】
本発明の解決策の好ましい実施形態は、幅2wの空間周期を有する周期的レリーフ構造によって、随意にu=0の選択に対して特徴付けられ、該空間周期は、ポンプビームの波長の少なくとも数十倍、好ましくは数百倍であり、そして非線形光学特性を有する媒質内に発生させられるべきテラヘルツ放射の波長の多くとも半分である。テラヘルツ発生について、ポンプビーム源によって放出されたポンプビームは、媒質の前部境界面を通って非線形光学特性を有する媒質に入り、この媒質を通って進行し、次いで、レリーフ構造を有する媒質の構造化後部境界面か、又は別個の要素内に形成され、この後部境界面と光結合している表面レリーフのいずれかにおいて反射される。反射の結果として、レリーフ構造に入射するポンプビームは、複数の部分ポンプビームへと分割する。レリーフ構造の固有の幾何形状に起因して、部分ポンプビームの1つの群が、入来するポンプビームに対して関係(1)の速度整合条件に対応する角γで進行し、そして、部分ポンプビームの別の群が、入来するポンプビームに対して角-γで進行する(この場合、入来するポンプビームに対する角は、鋭角である)。
【0024】
それぞれの部分ポンプビームの強度面は、それぞれの部分ポンプビームの位相面に対して傾斜していない。部分ポンプビームの強度面の組が、非線形光学媒質の前部境界面と後部平均(又は、中央)面の両方に平行である平面付近に位置し、媒質の前部境界面の方向に関係(1)に対応する速度vTHz,fで進行する。速度vTHz,fで動くこの平均強度面は、速度整合と調和する態様において非線形光学媒質内でテラヘルツ放射を発生させる。このようにして発生させられたテラヘルツ放射は、非線形光学媒質の前部境界面に向かってそれに垂直に進行し、次いで、この前部境界面に到達すると、それの伝搬方向を変えずに非線形光学媒質から出て、それで、入来するポンプビームから適切に分離された後に、それは、更なる用途に用いられてもよい。本発明に従う本テラヘルツ発生装置における速度整合に必要なパルス面傾斜が、非線形光学媒質の後部境界面に、又はレリーフ構造上に形成された周期的レリーフ構造上での反射の結果であり、該レリーフ構造は、分離要素上に配列され、そしてこの非線形光学媒質の後部境界面と光結合しており、以降において、提案された発明装置は、「後側反射」アセンブリと呼ばれ、一方、かかるアセンブリを組み込むテラヘルツ源は、「後側反射」テラヘルツ源と呼ばれる。
【0025】
γの値が、「後側反射」テラヘルツ源について60°よりも大きい場合、すなわち、例えば、LN-及びLT-ベースの「後側反射」テラヘルツ源の場合、幅wの特定の第1区域から反射された部分ポンプビームの断面の一部分は、幅wの隣接する第1区域へと衝突する。これを回避するために、幅2wの第1区域の対は、好ましくは、幅uの第2区域(この場合、uはゼロでない)によって分離され、該第2区域は、非線形光学媒質の前部境界面に好ましくは平行である。幅uの値は、幅wの値の多くとも数%であり、好ましくは、それの多くとも5%である。
【0026】
本発明の解決策についての別の好ましい実施形態は、ポンプビームの波長の大きさのオーダーにある幅wの空間周期を有する周期的レリーフ構造によって、u=0の選択に対して随意に特徴付けられる。テラヘルツ発生について、ポンプビーム源によって放出されたポンプビームは、媒質の前部境界面を通って非線形光学特性を有する媒質に入り、この媒質を通って進行し、次いで、レリーフ構造を有する媒質の構造化後部境界面、又は別個の要素内に形成されて、この後部境界面と光結合している表面レリーフのいずれかにおいて回析される。このレリーフ構造は、回折において、入来するポンプビームに対して部分ポンプビームが角γで進行する(この場合、入来するポンプビームに対する角は、鋭角である)ように形成される。適用された回折次数において回折効率が大きい値であることが、なお更に必要である。それに対応して、レリーフ構造は、「ブレーズド」構造であり、ブレージングの空間周期は、0.25μmから2.5μmまで、より好ましくは0.5μmから1.5μmまでの範囲に及ぶ。レリーフ構造の幅wの正確な値は、角の値γ、ポンプビームの波長、及び周知の格子式と調和した媒質の光学屈折率によって決定され、d=2w又はd=2w+uが、格子面間隔に対して有効である。
【0027】
回析されたビームの強度面は、その位相面に対して角γで傾斜している。この傾斜強度面は、前部境界面と非線形光学媒質の後部平均(又は、中央)面の両方に平行である平面を形成し、媒質の前部境界面の方向の関係(1)に対応する速度vTHz,fで進行する。速度vTHz,fで動く強度面は、速度整合と調和する態様において非線形光学媒質内でテラヘルツ放射を発生させる。このように発生させられたテラヘルツ放射は、非線形光学媒質の前部境界面に向かってそれに垂直に進行し、次いで、この前部境界面に到達すると、それの伝搬方向を変えずに非線形光学媒質から出る、-したがって、入来するポンプビームから適切に分離された後に、それは更なる用途に用いられてもよい。本発明に従う本テラヘルツ発生装置内での速度整合に必要なパルス面傾斜が、非線形光学媒質の後部境界面に形成された周期的レリーフ構造、又は分離要素上に配列され、この非線形光学媒質の後部境界面と光結合しているレリーフ構造のいずれかにおける回折の結果であるので、以降において、提案された発明装置は、「後側回折」アセンブリと呼ばれ、一方、かかるアセンブリを組み込むテラヘルツ源は、「後側回折」テラヘルツ源と呼ばれる。
【0028】
本発明に従う「後側反射」及び「後側回折」テラヘルツ源の場合、周期的レリーフ構造を形成することの可能な方法は、所望の構造を、ポンプビーム伝搬方向のテラヘルツ放射発生に用いられる非線形光学材料の後部境界面へとフライス削りすることである。金属のマイクロ機械加工が誘電体のそれよりもずっと正確に実行され得るので、所望のレリーフ構造は、また、周期的に機械加工された別個の金属要素として形成されてもよく、該金属要素は、テラヘルツ放射発生に用いられる非線形光学特性を有する材料の完全に平坦な後部境界面に光結合される。かかる場合、この光結合は、屈折率整合媒質を適用することによって実現されてもよい。テラヘルツ放射発生に用いられる非線形光学特性を有する材料がニオブ酸リチウムである場合、好ましくは、金属要素内に形成されたステップの高さに実質的に等しいか、又はそれよりもわずかに大きい層厚を有する半導体ナノ結晶エマルジョンが、屈折率整合媒質として用いられてもよい。
【0029】
発生させられたテラヘルツ放射がポンプビーム源に入ることを防止し、その容易な使用を確実にするために、次の2つの単純な解決策、(i)非線形光学特性を有する媒質の前部境界面が、ポンプビームの第1伝搬方向に正確に垂直に配列されていないことと、(ii)ダイクロイックミラーが、ポンプビームの第1伝搬方向に対してある角で、ポンプビーム源と非線形光学特性を有する媒質との間に置かれ、それによって発生させられたテラヘルツ放射の伝搬方向を修正することと、が用いられてもよい。場合(i)において、非線形光学特性を有する媒質の前部境界面の法線とポンプビームの第1伝搬方向とは、好ましくは、互いに1°と10°との間の角度にある。
【0030】
本発明に従う解決策は、上記の先行技術のテラヘルツ放射発生方式よりも大きい利点を有し、該方式においては、テラヘルツ発生に用いられるLN(又はLT)結晶が、大角プリズムとして設計されている。本発明に従う解決策においては、非線形光学特性を有する(LN、LT、又は半導体)結晶が、平面平行光学要素の形式で用いられてもよく、それで、良好なビーム品質の高効率のテラヘルツ放射発生が達成されてもよい。本発明に従う解決策は、また、先行技術の平面平行エシュロン接触格子よりも有利であり、その理由は、それがパルス面プレ傾斜を必要とせず、それで光学格子及び結像を用いる必要がないからである。その結果として、本発明に従う装置は、より少ない構造要素を含み、したがって、より小さいスペースを占める、すなわちコンパクトである。従来の既知の実用上の及び概念上の解決策と比較した、本発明に従う解決策の更なる大いに有意な長所は、光学結像なしで高エネルギー及び高品質のテラヘルツビーム/パルスを発生させることに適していることである。このことは、結像誤差によって生じるテラヘルツ発生効率の損失を除去する。更に、プレ傾斜に対する必要性が存在せず、非線形光学媒質が平面平行幾何形状と一緒に用いられるので、本発明に従うテラヘルツ発生装置によって得られるテラヘルツビームのスポットサイズ、したがって、本発明に従う方法によって発生させられたテラヘルツパルスのエネルギーは、実際において恣意的に増加させられてもよい。
【0031】
以下において、本発明が次の添付図面を参照して詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】非線形光学特性を有する結晶によって実装された、本発明に従う、テラヘルツ放射を発生させるための後側反射/回折アセンブリの実施形態についての長手方向断面図であり、この図は、また、ポンプビームと、周期的レリーフ構造における反射及び回折のうちの少なくとも1つの後に形成する部分ポンプビームと、所定の瞬間におけるそれぞれの部分ポンプビームのパルス面と、このパルス面の包絡線と、発生させられたテラヘルツ放射と、を表す。
図2A】ポンプビームと発生させられたテラヘルツビームとを分離するための配列の可能な例示的実施形態を概略的に表す図である。
図2B】ポンプビームと発生させられたテラヘルツビームとを分離するための配列の可能な例示的実施形態を概略的に表す図である。
図3】ポンプビームと発生させられたテラヘルツビームとを分離するための可能な代替的な配列を概略的に表す図である。
図4図1及び2に示す後側反射/回折アセンブリの実施形態に用いられる非線形光学媒質の別の可能な実施形態を概略的に表す別の図であり、ここに、反射/回折構造は、非線形光学媒質の後部境界面に面し、それと光結合している別個の要素の表面内/上に形成されている。
図5】比較として、本発明に従う後側反射アセンブリ及びハイブリッドエシュロン配列について、800nmの波長を有する、100フェムト秒及び1ピコ秒のポンプパルスに対する非線形光学媒質の厚さ(L)の関数としてのテラヘルツ放射発生の効率(η)を表す図であり、この場合、2つのポンプパルスに対するポンプビーム強度は、それぞれ、200GW/cm及び40GW/cmであり、一方、温度、ステップ幅、及び半周期は、両ケースにおいて、T=100K及びw=100μmである。
図6A】100フェムト秒のレーザパルスを送出するための、本発明に従う後側反射テラヘルツビーム源によって生成されたテラヘルツパルスの電界強さの時間経過を表す図である。
図6B】1.0ピコ秒のレーザパルスを送出するための、本発明に従う後側反射テラヘルツビーム源によって生成されたテラヘルツパルスの電界強さの時間経過を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明に従ってテラヘルツ放射を発生させるためのいわゆる後側反射/回折型テラヘルツビーム発生装置及び放射源100の好ましい実施形態を表す。ビーム源100は、ポンプビーム12を供給するポンプ源10と、テラヘルツ放射が実際にその中で発生させられる非線形光学特性を有する媒質でできている光学要素50と、を備える。光透過光学要素50は、入口面51を形成する前部境界面と、周期的構造53を有する平行反射/回折後部境界面52とによって囲まれており、その結果、光学要素50は、好ましくは平面平行要素として形成されている。ポンプビーム12が光学要素50を通過するとき、ポンプビーム12と光学要素50との材料の非線形光学相互作用の結果として、好ましくは第2高調波発生又は光整流によって、ポンプビーム12の周波数よりも高い周波数を有する第2高調波放射、及びポンプビーム12の周波数のおよそ数百分の一の周波数を有するテラヘルツ放射が生じる。しかし、位相整合(又は、関係(1)に従う光整流、速度整合に関する)がない場合、2次高調波発生と光整流の両方によって発生させられた放射が、無視可能な強度のものであり、そして、ポンプビーム12は、実質的に不変状態で光学要素50の後部境界面52に到着する。この場合、上記ポンプビーム12は、ポンプビーム12の波長及び周期的レリーフ構造53の周期の大きさに基づいて反射及び/又は回折を受ける。高度な反射を達成するために、随意に、後部境界面52が層54(例えば、金属又は多層誘電体層)によって被覆され、該層は、ポンプビームに関して高反射を提供する。後部境界面52が、2wの空間周期を有する周期的レリーフ構造53を含むとき、図1の平面内で傾斜した方向に沿ったサイズwの複数のポンピング部分ビーム121が、反射及び/又は回折を介してポンプビーム12から発生させられる。この場合、周期的レリーフ構造53は、それの1つの周期が2つの平坦部分から構成されるような態様で、後部境界面52に形成される。上記平坦部分のうちの一方が、時計回りに回転させられ、他方が、後部境界面52の平均平面からγ/2の角度だけ反時計回りに回転させられる。この場合、γは、関係(1)の速度適合条件の角に対応する。反射及び/又は回折された部分ビーム121は、幅wのものであり、該部分ビームにおいて、ポンプビームのパルス長Tiに対応する、幅w及び長さTi×vp,csのパルス面211(いわゆるパルス面区画)が、それの反射及び/又は回折の前のポンプビームの伝搬方向(すなわち、第1伝搬方向)に対して角γの方向に沿って速度vp,csで進行する。したがって、パルス面211は、関係(1)の速度整合条件を個別には満たさない。同時に、パルス面211区画の組によって形成された区画化パルス面の平面包絡線212が、速度vp,cs×cosγで入口面51に向かって(入口面51に垂直に)進行する、すなわち、それは関係(1)の速度整合条件を満たす。したがって、非線形光学相互作用(好ましくは、光学整流又は差周波発生)を介して、区画化パルス面が、かかるテラヘルツ放射60を有効に発生させ、該テラヘルツ放射は、区画化パルス面の伝搬方向に一致する(すなわち、入力面51に垂直である)方向に進行し、そして、それの波長は、光学要素50の個々のパルス面211区画の伝搬方向のサイズw×sinγの少なくとも2倍である。
【0034】
光学要素50内で発生させられたテラヘルツ放射60は、入口面51を通って光学要素50から出て、更なる用途に対して使用可能になる。
【0035】
光学要素50の材料は、高い非線形光学係数を有し、ポンプビームの波長で透明である。かかる材料の例として、LN及びLT、並びにZnTe、GaP、GaAs、GaSe等のいくつかの半導体がある。
【0036】
ポンプ源10は、好ましくは、レーザパルスを放出できるレーザ源、すなわち、少なくとも5フェムト秒のパルス長だが、可視、近赤外線、又は中赤外線範囲内の多くとも数百フェムト秒を有するポンプビーム12、例えば、1030nmの中央波長で放出するダイオード励起Ybレーザ、800nmの中央波長で放出するチタンサファイヤレーザ、又は2050nmの中央波長で放出するHоレーザである。別のレーザ及び光学パラメトリック増幅器が、また、ポンプ源10として用いられてもよい。
【0037】
周期的レリーフ構造53は、図1の拡大部分A及びBに従う、当業者に公知の機械加工プロセス(例えば、マイクロフライス)によって形成される。光学要素50が、ポンプビーム12の波長にかかる屈折率値を有するか、又は関係(1)の速度整合条件が60°未満の角度で満たされている(かかる材料は、ほとんどが半導体である)発生させられたテラヘルツ放射60を有するならば、図1の拡大部分Aに示されるように、単一の周期が、後部境界面52の平均(又は、中心)平面を有する、角度γ/2を交互に時計回りに又は反時計回りに形成する2つの平坦部分によって形成された第1区域から構成される。γが60°よりも大きいならば、部分ビーム121の断面の一部分が、反射後に光学要素50の後部境界面52に衝突するであろう。これを避けるために、反射された部分ビーム121の幅が、図1の拡大部分Bに示されているように、幅uの第2区域が、入口面51に平行である幅wの2つの斜方区域の間にそれぞれのケースで形成されるような態様で限定される。LNについては、例えば、γ=62°であるとき、u/2wは6%にすぎない。
【0038】
ポンプビーム12は、入射角度γ/2を有する光学要素50の後部境界面52に形成されたレリーフ構造53の幅wの要素に到着する。この角度は、LNとLTの両方及びほとんどの半導体(例えば、GaP、ZnTe)についての全反射の限界よりも大きい。したがって、反射効率は、反射効率向上層54を用いなくても高い。そうではなく、反射効率向上層54を用いることが必要であろう。
【0039】
ポンプビーム12に対するLN及びLTの屈折率は、一般に2よりも大きく、ほとんどの半導体の屈折率は、3の値に近づくか、又はそれを上回りさえする。そのため、反射損を低減するために、光学要素50の入口面51上に当業者に周知の無反射被覆を適用することが好ましい(しかし、必要ではない)。
【0040】
光学要素50は、ある材料からできており、該材料は、非常に高い非線形光学係数を有する、すなわちそれの大きさは、好ましくは実際には少なくとも1pm/Vであり、典型的には数十pm/Vよりも大きい。光学要素50は、好ましくはLN又はLT、並びにGaP又はZnTe等の半導体材料であり、これらは、好ましくは、非線形光学プロセス、例えば、光整流によるテラヘルツ放射発生の発生効率に関して最も有利である結晶軸方位を有する。
【0041】
テラヘルツビーム源100に用いられる光学要素50は、平面平行前部及び後部境界面を有し、ポンプビーム12と発生させられたテラヘルツ放射60の両方は、これらの表面に垂直に(反対方向に)伝搬するので、ポンプビーム12とテラヘルツビーム60とを分離する必要が存在する。このことは、周知技術によって実行されてもよい。図2A及び2B、並びに図3は、例として、いくつかの好適な技術及び分離機構を示す。
【0042】
図2Aは、ビームが、ポンプ源10と光学要素50との間に挿入されたダイクロイックミラー70によって分離されるという技術的解決策を表す。図2Aに示される場合には、ダイクロイックミラー70は、ポンプビーム12の波長で高い透過を示し、テラヘルツ放射60の波長で高い反射を示す。例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)層によって被覆された石英のシートは、このように挙動する。図2Bは、ダイクロイックミラー70が、ポンプビーム10の波長で高い反射を示し、テラヘルツ放射60の波長で高い透過を示す配列を表す。例えば、その上に好適な誘電体層構造が適用された石英のシートが、このように挙動する。当業者に知られているように、これらの配列で用いられるダイクロイックミラー70は、発生させられたテラヘルツ放射60とポンプビーム12とをそれらの波長の差に基づいて異なる方向に分離して透過させる。
【0043】
図3は、ポンプビーム12とテラヘルツ放射60とを互いに分離するための単純な更なる技術的解決策を表す。この場合、光学要素50は、図1又は図2の平面に垂直な平面内で、ポンプビーム12の第1伝搬方向に対するそれの垂直位置からわずかに(典型的には数度だけ、好ましくは1°~10°だけ、より好ましくは5°~10°だけ)傾斜しており、これは、好ましくは、好適な傾斜装置(例えば、光学要素50をポンプビーム12の第1伝搬方向に垂直である軸線周りに小角だけ回転させる装置)によって達成される。このようにして、そしてポンプ源10と光学要素50とを互いから好適な距離のところに配列することによって、ポンプビーム12とテラヘルツ放射60との空間分離が実現される。
【0044】
高効率を有する本発明に従ってテラヘルツ源100を操作するために、光学要素50の周期構造53の半周期wが、光学要素50内部でのテラヘルツ放射60の波長の2分の1未満、好ましくは3分の1未満、より好ましくは4分の1未満であるように選択される。この選択は、パルス面211区画の異なる部分で発生させられたテラヘルツ放射の位相が、互いに有意に異なることがなく、それで、建設的干渉がそれらの間で生じることを確実にする。テラヘルツ発生の長さLは、好ましくはcmのオーダーであり、より好ましくは5~15mmであり、最も好ましくは5~10mmであり、そして、光学媒質自体の材料品質に依存する。
【0045】
図4は、本発明に従うテラヘルツ源内で用いられる、非線形光学特性を有する後側反射型光学要素50についての可能な更なる実施形態を示す。図4に表すテラヘルツ源100’の部分を形成する光学要素50について、周期的レリーフ構造が、別個の(付加)要素150の表面151に形成されたレリーフ構造153として提供され、表面151は、光学要素50の後部境界面52に面し、これに平行に延在し、そして、非線形光学特性を有する上記光学要素50の後部境界面52と光結合している。要素150に形成されたレリーフ構造153の設計(すなわち、パラメータu、w)は、光学要素50の後部境界面52に形成された、上記に詳述されたレリーフ構造53のものと一致する。光学要素50の後部境界面52と、要素150又はむしろ要素150上/内に形成されたレリーフ構造153との間の光学結合が、ポンプビーム及び/又は部分的ポンプビームの円滑な伝搬を確実にするのに役立ち、そして、これらの要素同士の間に配列された屈折率整合媒質155によって提供される。上記媒質155は、好ましくは半導体ナノ結晶エマルジョンであり、半導体ナノ結晶は、好ましくは、例えばGaN及び/又はZnOナノ結晶であり、一方、溶媒は、好ましくは、例えばブタノールであり、本発明に有用な半導体ナノ結晶エマルジョン及びそれらの調整は、当業者に公知であり、ここでは詳述されない。要素150は、概して金属、好ましくはステンレス鋼、又はアルミニウムでできている。レリーフ構造153は、例えば、金金属被覆によって提供され、該金金属被覆は、好適な機械式機械加工手順(好ましくは、マイクロフライス)によって要素150の表面151に前もって形成された所望の表面構造上に蒸着される。被覆の層厚は、好ましくは数ミクロンである。光結合の品質を改善するために、光学要素150のレリーフ構造153の突出部分が、好ましくは、光学要素50の後部境界面52と接触しているか、又は最大数ミクロンの距離のところのすぐ近くに位置している。
【0046】
図5は、理論計算に従うテラヘルツ放射発生の効率が、本発明及び以前に提案された平面平行ハイブリッドエシュロンアセンブリ(L.Paelfalviらによる、Optics Express,vol.25,issue 24,pp.29560-29573(2017)を参照)に従って構成されたテラヘルツ源についての100フェムト秒と1.0ピコ秒のポンピングパルス長での結晶長に依存する態様を表す。100フェムト秒のポンピングの場合(中実の四角形印、丸印を参照)、w=80μmであり、これは、以前に提案された平面平行テラヘルツ放射源について、最大テラヘルツ発生効率がこのwの値と関係しているという事実によって正当化される。1.0ピコ秒(中空の四角形印、丸印を参照)でのポンピングの場合、w=100μmである。見て取れるように、100フェムト秒及び1.0ピコ秒での効率に関して、従来の配列(四角形印を参照)は、本発明に従う(丸印を参照)装置よりも、それぞれ、約3.6倍及び約2.5倍だけより好ましい。しかし、注記すべきは、図6Aを考慮すると明らかであるように、ワイドビームを用いるとき、2つの構成についての発生効率の比が、より短いポンピング長については2未満まで減少することであり、その理由は、従来の配列において、理論的に得られた効率が、ビームの中央においてだけ達成可能であり、ビーム縁では有意に減少するからである。
【0047】
本発明に従う装置に属するより低い発生効率は、それの設計/構成が、従来のテラヘルツ発生方式のものよりも有意により単純であり、そして、装置自体が、有意により少数の要素を含むことにより、よりコンパクトな設計が可能であるという事実によって完全に補償される。更に、本発明に従う装置は、結像要素を全く含まず、したがって、使用時には、当然、結像誤差がなく、それゆえに、関連するポンプパルス伸長が現れない。
【0048】
図6A及び6Bは、本発明の後側反射アセンブリとともに実装されたビーム源100によって発生させられたテラヘルツ放射における、及び以前提案された平面平行構造(更なる詳細については、L.Paelfalviらの、Optics Express,vol.25,issue 24,pp.29560-29573(2017)を参照)によって発生させられたテラヘルツ放射における電界強さの時間経過を表し、これらは、それぞれ、モデル計算によって得られた800nmの中心波長を有する、200GW/cm及び40GW/cmの強度での100フェムト秒及び1.0ピコ秒パルスからなるポンプビーム12についてのものである。例によると、wの値は、それぞれ80μm及び100μmであり、光学要素50は、LNでできており、テラヘルツ発生中にT=100Kの温度まで冷却される。100フェムト秒のポンプパルスについて、従来の配列は、ビームの中央(図6A及びそれの挿入図(b)での点線を参照)におけるよりも、ビームの縁(図6A及びそれの挿入図(b)での破線を参照)においてより小さい振幅及びより小さい周波数のテラヘルツパルスを発生させる。対照的に、本発明に従う放射線源100においては、同じ時間経過を有する電界が、ポンプビーム12の断面内のあらゆる所に発生させられている(図6Aでの実線を参照)。このことは、テラヘルツパルスの多くの用途に対して、特にテラヘルツビームの強い集束が必要とされるときに、非常に有利である。この場合、用語「強い集束」とは、文献と一致して、1に近い値の開口数による集束を指す。
【0049】
図5及び6に示す曲線のそれぞれからの派生物に基づくモデルについての詳細な説明は、本出願の範囲を越えており、それは、発明者によって近い将来に出版される科学的出版物の部分である。しかし、本発明に従う装置を備える放射線源100が、後振動が無い単一サイクルのテラヘルツパルスを発生させるのに適していることが図6Bから明らかである。かかるパルスが、例えば、帯電粒子を加速させるのに有利に用いられてもよい。
【0050】
本発明に従う装置を備える放射線源100が、また、-好適なポンプレーザと一緒に用いるときに-、高効率で多くのマルチサイクルテラヘルツパルスを生成することができることに留意することがまた重要である。
【0051】
(概要)平面前側(入口)及び後側表面によって囲まれた非線形光学媒質の後側表面に形成された周期構造を用いて高エネルギーテラヘルツ放射を発生させるのに適した新規なテラヘルツ発生装置が精巧に作成されてきた。得られた装置の最大の長所は、非線形光学結晶が平行表面を有するユニットとして装置内に用いられてもよいということである。その結果として、優れたビーム品質及び物理的性質を有するテラヘルツビームが、高い発生効率で発生させられてもよい。装置が、結像光学素子又は個々に調節可能な光学格子を含まないので、ポンプビームのサイズ、したがって装置内で発生させられたテラヘルツパルスのエネルギーは、実際には恣意的であってもよい。本発明の装置に基づく本発明に従うテラヘルツ放射源及び方法は、広範囲ポンプビームの使用を必要とする高エネルギーテラヘルツ放射の生成に特に有利である。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B