(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】感光性組成物とその利用
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20240301BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20240301BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20240301BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240301BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G03F7/004 501
G03F7/027 513
H05K1/09 D
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01F17/00 A
(21)【出願番号】P 2022043605
(22)【出願日】2022-03-18
(62)【分割の表示】P 2020062834の分割
【原出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】高田 重治
(72)【発明者】
【氏名】長江 省吾
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-259421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004
G03F 7/027
H05K 1/09
H01G 4/30
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層を備える電子部品の製造方法であって、
セラミックグリーンシートと感光性組成物とを用意して、該セラミックグリーンシート上に該感光性組成物を付与して乾燥することにより、該感光性組成物の乾燥体からなる導電膜を形成する形成工程;
前記導電膜に開口パターンを有するフォトマスクを被せ、該フォトマスクを介して露光させることによって、前記導電膜を部分的に光硬化させる露光工程;
前記光硬化後の前記導電膜をエッチングして、該導電膜における未露光部分を除去する現像工程;および、
前記現像工程の後の未焼成の状態の前記導電膜が形成された前記セラミックグリーンシートを焼成する焼成工程;
を包含し、
ここで、
前記形成工程では、前記感光性組成物として、
導電性粉末(a)と、有機バインダ(b)と、光重合性モノマー(c)と、光重合開始剤(d)と、を含み、
前記有機バインダ(b)は、
セルロース系化合物(b1)と、
ガラス転移点が55℃以上65℃以下であり、かつ、重量平均分子量が1万~5万である(メタ)アクリル系樹脂(b2)と、を含み、
前記有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、
前記セルロース系化合物(b1)の含有割合が40質量%以上であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合が20質量%以上60質量%以下であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)は、以下の構造:
【化1】
(ここで、R
1は、水素(H)原子またはメチル基であり、
R
2は、水素(H)原子またはメチル基であり、
Xは、水素(H)原子、メチル基、エチル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、またはtert-ブチル基であり、
Yは、水素(H)原子、メチル基、エチル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、またはtert-ブチル基であり、
aおよびbは、独立して0以上の整数である。)
を備えている、感光性組成物が用意され、
前記露光工程では、
前記フォトマスクとして、複数の配線の線幅と、隣接する該配線の間のスペースとがともに20μm以下である配線パターンを形成することができるフォトマスクが用いられることによって、
前記焼成工程において、
複数の配線の線幅と、隣接する該配線の間のスペースとがともに20μm以下である配線を含む導電層が前記セラミックグリーンシートの焼成体上に設けられる、製造方法。
【請求項2】
前記形成工程では、前記有機バインダ(b)として、全量を100質量%としたときに、
前記セルロース系化合物(b1)の含有割合が50質量%以上であり、かつ、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合が50質量%未満である、
有機バインダを含む前記感光性組成物を用意する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記形成工程では、前記有機バインダ(b)として、全量を100質量%としたときに、
前記セルロース系化合物(b1)の含有割合が60質量%以上80質量%以下であり、かつ、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合が20質量%以上40質量%以下である、
有機バインダを含む前記感光性組成物を用意する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記形成工程では、前記有機バインダ(b)として、
さらに前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)とは異なる他の(メタ)アクリル系樹脂(b3)を含み、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b2)のガラス転移点と、前記(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点との差が15℃以上である、
有機バインダを含む前記感光性組成物を用意する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点は、80℃以上である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記形成工程では、前記有機バインダ(b)として、全量を100質量%としたときに、
前記(メタ)アクリル系樹脂(b3)の含有割合が15質量%以下である、
有機バインダを含む前記感光性組成物を用意する、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記形成工程では、前記導電性粉末(a)として銀系粒子を含む導電性粉末を含む前記感光性組成物を用意する、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性組成物とその利用に関する。詳しくは、有機バインダとしてセルロース系化合物と(メタ)アクリル系樹脂とを含む構成の感光性組成物、および該感光性組成物の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性粉末と感光性成分と光重合開始剤とを含む感光性組成物を用いて、フォトリソグラフィ法により基材上に導電層を形成する手法が知られている(例えば特許文献1~3参照)。かかる方法では、例えばまず、基材上に感光性組成物を付与し、乾燥させて、導電膜を成形する(導電膜の成形工程)。次に、上記成形した導電膜に所定の開口パターンを有するフォトマスクを被せ、フォトマスクを介して導電膜を露光する(露光工程)。これによって、導電膜の露光部分を光硬化させる。次に、フォトマスクで遮光されていた未露光部分をアルカリ性の水系現像液で腐食して除去する(現像工程)。そして、所望のパターンとなった導電膜を焼成することで基材に焼き付ける(焼成工程)。以上のような工程を含むフォトリソグラフィ法によれば、従来の各種印刷法に比べて精細な導電層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-007864号公報
【文献】国際公開2015-152208号
【文献】特開2017-182901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、各種電子機器の小型化や高性能化が急速に進み、電子機器に実装される電子部品(例えばインダクタ部品等)に対しても一層の小型化や高密度化が求められている。これに伴い、電子部品の製造にあたっては、導電層の低抵抗化や細線化(狭小化)が求められている。具体的には、導電層の厚みを増すことや、パターンの解像性を向上して、配線の線幅と隣り合う配線間のスペース(ラインアンドスペース:L/S)が20μm/20μm以下のファインラインを形成することが求められている。
【0005】
ところが、厚膜状あるいはL/Sの小さな導電層は、現像性と解像性とを両立して安定的に形成することが難しい。一例として、導電膜が厚くなると基材に近い深部まで光が届きにくくなる。そのため、光硬化が不十分となり、現像工程で露光部分に剥離や断線が発生しやすくなる。また、L/Sが小さいと現像工程で配線間のスペース部分に水系現像液が供給されにくくなる。そのため、未露光部分が除去されにくくなり、隣り合う配線同士がつながってショート不良を生じることがあった。また、このようなショート不良の発生を抑制するために現像工程の時間を長めに設定すると、露光部分が細って、現像パターン自体の剥離や、パターン一部が剥離し断線等を生じることがあった。
上記のような問題は、現像マージンが短いことによって引き起こされるものと考えられる。ここで、「現像マージン」とは、現像工程において、未露光部分が完全に除去された点(ブレイクポイント(B.P.))から、現像パターンを構成する露光部分に剥離や断線等の不具合が生じるまでの時間の長さを表している。すなわち、現像マージンが十分に確保されていないと、未露光部分が除去された後、直ぐに露光部分に細りや消失が生じる。このため、特にファインラインを形成する場合には、現像マージンが短いため現像工程を終了させるタイミングの見極めが難く、結果、製造での現像工程管理に負担になることがあった。工程管理の上では、現像マージンを長めに確保して、再現性良くファインラインを形成することのできる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる点を鑑みて創出されたものであり、その目的とするところは、感光性組成物の現像性および解像性(解像度)を向上させ、さらに現像マージンを長くする技術を提供することである。
【0007】
本発明者らは、感光性組成物に含まれる有機バインダとして、セルロース系化合物を用いることと、セルロース系化合物とはガラス転移点が異なる有機バインダを併用することとに着目した。そして、セルロース系化合物と、ガラス転移点が所定温度未満の(メタ)アクリル系樹脂とを併用することによって、感光性組成物の現像性および解像性が向上し、現像マージンが長くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示される技術によると、導電性粉末(a)と、有機バインダ(b)と、光重合性モノマー(c)と、光重合開始剤(d)と、を含む感光性組成物が提供される。
上記有機バインダ(b)は、セルロース系化合物(b1)とガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂(b2)とを含む。上記有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、上記セルロース系化合物(b1)の含有割合は40質量%以上;および、上記(メタ)アクリル系樹脂(b2)は60質量%以下;である。
かかる構成の感光性組成物は、有機バインダ(b)として、所定量のセルロース系化合物(b1)、および、ガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂(b2)を含む。このことにより、現像工程において未露光部分が除去され易くなり、現像時間を短縮したり、現像性を向上したりすることができる。また、セルロース系化合物の高いガラス転移点を緩衝することができ、導電性粉末と上記感光性組成物に含まれる有機成分とが馴染み易くなる。そのため、現像工程において未露光部分の導電性粉末がきれいに洗い流され、残渣の発生を低減することができる。さらに、上記の構成は、感光性組成物の現像マージンを長くするのに効果的である。
かかる構成の感光性組成物を使用することによって、線幅や断面形状の安定した精細な導電層を形成することができ、電子部品の電気特性(例えばインダクタ部品の高周波特性)を向上することができる。
【0009】
好ましくは、上記セルロース系化合物(b1)の含有割合は50質量%以上;および、上記(メタ)アクリル系樹脂(b2)は50質量%未満;である。
かかる構成によると、上記の効果に加えて導電膜の剥離強度を向上させることができる。
より好ましくは、上記セルロース系化合物(b1)の含有割合は60質量%以上80質量%以下;および、上記(メタ)アクリル系樹脂(b2)は20質量%以上40質量%以下;である。
かかる構成によると、上記の効果に加えて導電膜の剥離強度を向上させることができ、ファインライン化がより好適に実現し得る。
【0010】
また、好ましい一態様では、上記有機バインダ(b)は、さらに上記(メタ)アクリル系樹脂(b2)とは異なる他の(メタ)アクリル系樹脂(b3)を含む。上記(メタ)アクリル系樹脂(b2)のガラス転移点と、上記(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点との差は、15℃以上である。
かかる構成は、上記の効果に加えて導電膜の剥離強度を向上させることができる。感光性組成物の解像性を向上し、現像マージンを長くするのに、より好適である。
さらに好ましい一態様では、上記(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点は、80℃以上である。
かかる構成によると、上記の効果がより好適に発揮され、ファインライン化を実現することができる。
好ましくは、上記有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、上記(メタ)アクリル系樹脂(b3)の含有割合は15質量%以上である。
かかる構成によると、上記の効果がより好適に発揮され、より好適にファインライン化を実現することができる。上記の構成では、L/Sが12μm/12μmのファインラインの形成を実現することができる。
【0011】
好ましい一態様では、上記導電性粉末(a)は、銀系粒子を含む。
かかる構成によると、コストと低抵抗とのバランスに優れた導電層を実現することができる。
【0012】
また、ここで開示される技術によると、グリーンシートと、上記グリーンシートの上に配置され、上記感光性組成物の乾燥体からなる導電膜と、を備える、複合体が提供される。
かかる構成のグリーンシートでは、ここに開示される技術の効果が好適に発揮され得る。
【0013】
また、本発明により、上記感光性組成物の焼成体からなる導電層を備える電子部品が提供される。上記感光性組成物によれば、L/Sの小さいファインラインの導電層、および/または、厚膜状の導電層を安定して形成することができる。このため、上記感光性組成物を用いることで、小型および/または高密度な導電層を備え、かつ電気特性に優れた電子部品を好適に実現することができる。また、絶縁不良が発生しにくい電子部品を好適に実現することができる。
【0014】
また、本発明により、上記感光性組成物を基材上に付与して、露光、現像した後、焼成して、上記感光性組成物の焼成体からなる導電層を形成する工程を含む、電子部品の製造方法が提供される。かかる製造方法によれば、小型および/または高密度な導電層を備え、かつ電気特性に優れた電子部品を安定して製造することができ、生産性や歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態にかかる積層チップインダクタの模式的な断面図である。
【
図2A】実施例1の解像性の評価試験における、L/Sが20μm/20μmの配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)である。
【
図2B】実施例1の解像性の評価試験における、L/Sが15μm/15μmの配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)である。
【
図2C】実施例1の解像性の評価試験における、L/Sが12μm/12μmの配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)である。
【
図3A】解像性の評価試験において、「△」と評価された配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)の例である。
【
図3B】解像性の評価試験において、「×」と評価された配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)の例である。
【
図3C】解像性の評価試験において、「×」と評価された配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)の例である。
【
図3D】解像性の評価試験において、「×」と評価された配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)の例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば感光性組成物の組成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、感光性組成物の調製方法、導電膜や導電層の形成方法、電子部品の製造方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回りかつBを下回る場合を包含する。
【0017】
なお、本明細書において「導電膜」とは、感光性組成物を有機成分の沸点以下の温度(概ね200℃以下、例えば100℃以下)で乾燥させた膜状体(乾燥物)をいう。導電膜は、未焼成(焼成前)の膜状体全般を包含する。また、本明細書において「導電層」とは、感光性組成物を導電性粉末の焼結温度以上で焼成した焼結体(焼成物)をいう。導電層は、配線(線状体)、配線パターン、ベタパターン、を包含する。
【0018】
また、本明細書において「ガラス転移点」とは、示差走査熱量分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)に基づくガラス転移温度(Tg)をいう。また、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した重量基準の平均分子量をいう。また、本明細書において「酸価」とは、単位試料(1g)中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)の含量(mg)である。単位は、mgKOH/gである。
【0019】
≪感光性組成物≫
ここで開示される感光性組成物は、導電性粉末(a)と、有機バインダ(b)と、光重合性モノマー(c)と、光重合開始剤(d)と、を含む。
導電性粉末(a)は、無機成分であり、有機バインダ(b)、光重合性モノマー(c)および光重合開始剤(d)は、有機成分である。ここで開示される感光性組成物は、例えば、L/Sが20μm/20μm以下のファインラインの配線を含む導電層、さらには15μm/15μm以下の超ファインラインの配線を含む導電層の作製に好適に使用し得る。また、厚みが5μm以上、さらには10μm以上のような厚膜状の導電層の作製に好適に使用し得る。以下、各構成成分について順に説明する。
【0020】
<導電性粉末(a)>
導電性粉末は、導電層に電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末の種類は特に限定されず、従来公知のものの中から、例えば用途等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。導電性粉末としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等の金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。合金としては、例えば、銀-パラジウム(Ag-Pd)、銀-白金(Ag-Pt)、銀-銅(Ag-Cu)等の銀合金が挙げられる。
【0021】
好適な一態様では、導電性粉末は銀系粒子を含む。銀は比較的コストが安く、かつ電気伝導度が高い。このため、導電性粉末が銀系粒子を含むことでコストと低抵抗とのバランスに優れた導電層を実現することができる。
なお、本明細書において「銀系粒子」とは、銀成分を含むもの全般を包含する。銀系粒子の一例としては、例えば、銀の単体、上記した銀合金、銀系粒子をコアとするコアシェル粒子、例えば銀-セラミックのコアシェル粒子等が挙げられる。金属-セラミックのコアシェル粒子は、金属材料を含むコア部と、セラミック材料を含み、コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部と、を有する。セラミック製の基材上に導電層を形成してセラミック電子部品を製造する用途では、セラミック基材との一体性を高めることができ、焼成後の導電層の剥離や断線を好適に抑えることができる。
【0022】
特に限定されるものではないが、コアシェル粒子の被覆部を構成するセラミック材料としては、例えば、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化イットリウム(イットリア)、チタン酸バリウム等の酸化物系材料;コーディエライト、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、サイアロン、ジルコン、フェライト等の複合酸化物系材料;窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)等の窒化物系材料;炭化ケイ素(シリコンカーバイド)等の炭化物系材料;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系材料;等が挙げられる。
【0023】
導電性粉末は、その表面に有機表面処理剤が付着していてもよい。有機表面処理剤は、例えば、感光性組成物中における導電性粉末の分散性を向上する、導電性粉末と他の含有成分との親和性を高める、導電性粉末を構成する金属の表面酸化を防止する、のうちの少なくとも1つの目的で使用され得る。有機表面処理剤としては、例えば、脂肪酸等のカルボン酸、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0024】
特に限定されるものではないが、導電性粉末のD50粒径(レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径。以下同じ。)は、概ね0.1~10μmであってもよい。D50粒径を上記範囲とすることで、露光性能を向上して、ファインラインを一層安定的に形成することができる。導電性粉末の凝集を抑制して、感光性組成物中の保存安定性を向上する観点からは、導電性粉末のD50粒径が、例えば、0.5μm以上、1μm以上であってもよい。また、細線形成性を向上したり、導電層の緻密化や低抵抗化を進めたりする観点からは、導電性粉末のD50粒径が、例えば、5μm以下、4.5μm以下、4μm以下、さらには3μm以下であってもよい。
【0025】
特に限定されるものではないが、導電性粉末は、球状または略球状であってもよい。これにより、露光性能を向上して、ファインラインを一層安定的に形成することができる。また、球状または略球状の導電性粉末は、鱗片状のものに比べて、導電膜の表面あるいは内部で転がり移動しやすい。このため、ここに開示される技術の適用が効果的である。なお、本明細書において「球状」とは、平均アスペクト比が1.0であることをいう。また、本明細書において「略球状」とは、平均アスペクト比が1.0を超えて2.0以下、好ましくは1.5以下であることをいう。本明細書において「球状」や「略球状」は、全体として概ね球体(ボール)と見なせる形態であることを示し、楕円状、多角体状、円盤球状等を包含する。また、本明細書において「平均アスペクト比」とは、導電性粉末を構成する複数の導電性粒子を電子顕微鏡で観察し、得られた観察画像から算出されるアスペクト比の算術平均値(長径/短径比)をいう。
【0026】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める導電性粉末(a)の割合は、概ね50質量%以上、典型的には60~95質量%、例えば70~90質量%であってもよい。上記範囲を満たすことで、緻密性や電気伝導性の高い導電層を形成することができる。また、感光性組成物の取扱性や、導電膜を成形する際の作業性を向上することができる。
【0027】
特に限定されるものではないが、導電性粉末は、JIS Z 8781:2013年に基づくL*a*b*表色系において、明度L*が50以上であってもよい。このことにより、露光時に未硬化の導電膜の深部にまで安定して光が届くようになり、例えば、膜厚が5μm以上、さらには10μm以上のような厚膜状の導電層をも安定的に形成することができる。上記観点からは、導電性粉末の明度L*が、概ね55以上、例えば60以上であってもよい。明度L*は、例えば上記した導電性粉末の種類やD50粒径によって調整することができる。なお、明度L*の測定は、例えばJIS Z 8722:2009年に準拠する分光測色計で行うことができる。
【0028】
<有機バインダ(b)>
有機バインダは、基材と導電膜(未硬化物)との接着性を高める成分である。有機バインダは、後述する光重合性モノマー(c)とは異なり、感光性(光によって化学的または構造的な変化を生じる性質をいう。例えば光硬化性。)を有しない。
ここで開示される感光性組成物は、有機バインダ(b)として、セルロース系化合物(b1)と、(メタ)アクリル系樹脂とを含む。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」と「アクリレート」とを包含する用語である。
【0029】
セルロース系化合物(b1)としては、従来公知のものの中から1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において「セルロース系化合物」とは、セルロース、セルロースの誘導体、およびこれらの塩を包含する。セルロース系化合物は、典型的にはセルロースの繰り返し構成単位であるグルコース環に複数の水酸基を有し、良好な水溶性を示すことから、現像工程において水系現像液で容易に除去することができる。セルロース系化合物の一例としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;等が挙げられる。
セルロース系化合物(b1)としては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。市販のセルロース系化合物としては、例えば信越ポリマー株式会社製のものを使用することができる。
【0030】
現像工程でアルカリ性の水系現像液を使用する場合、セルロース系化合物は、アルカリ可溶性の高い構造部分、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エステル結合基、スルホ基、ホスホノ基、ボロン酸基のような酸性基を有していてもよい。例えばカルボキシル基を有していてもよい。セルロース系化合物は、繰り返し構成単位のなかに酸性基を含むことがより好ましい。酸性基は、解離性のプロトンを有し、水中で酸性を示す置換基である。酸性基は一部がエステル化されていてもよい。酸性基は、セルロース系化合物の主鎖(炭素数が最大となる炭素鎖。以下同じ。)の炭素に結合していてもよく、側鎖(主鎖から枝分かれしている炭素鎖。以下同じ。)の炭素に結合していてもよい。アルカリ可溶性の高い構造部分を含むことにより、未露光部分をアルカリ性の水系現像液で一層迅速かつ残渣なく除去し易くなる。
【0031】
<(メタ)アクリル系樹脂>
(メタ)アクリル系樹脂としては、従来公知の感光性を有さない(メタ)アクリル系樹脂の中から1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。このような(メタ)アクリル系樹脂の一例として、アルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーを含む共重合体、およびそれらの変性物が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂は、アルカリ可溶性の高い構造部分、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、エステル結合基、スルホ基、ホスホノ基、ボロン酸基のような酸性基を有していてもよい。例えばカルボキシル基を有していてもよい。アルカリ可溶性の高い構造部分を含むことにより、未露光部分をアルカリ性の水系現像液で一層迅速かつ残渣なく除去し易くなる。また、(メタ)アクリル系樹脂を含むことで、導電層の柔軟性や基材に対する追従性を向上することができ、剥離や断線の発生をより良く抑制することができる。さらに、導電層の耐久性を向上することができる。
【0032】
上記(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、例えば、以下の構造を備えるアクリル系樹脂が挙げられる。
【化1】
ここで、上記式において、
R
1は、水素(H)原子またはメチル基(-CH
3)であり、
R
2は、水素(H)原子またはメチル基(-CH
3)であり、
Xは、水素(H)原子、または以下に示される有機官能基であり、
Yは、水素(H)原子、または以下に示される有機官能基であり、
aおよびbは、独立して0以上の整数である。
【0033】
上記有機官能基としては、メチル(-CH
3)、エチル(-CH
2CH
3)、n-ブチル(-CH
2CH
2CH
2CH
3)、iso-ブチル(-CH
2CH(CH
3)
2)、およびtert-ブチル(-C(CH
3)
3)、ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基等のアルキル基;シクロヘキシル、
【化2】
および、
【化3】
に示されるような環状アルキル基;フェニルメチル(-CH
2-Ph)、フェノキシエチル(-CH
2CH
2-O-Ph)等の芳香環含有基;等が挙げられる。
R
1,R
2,XおよびYを適宜設定することによって、例えば、所望のガラス転移点を有する(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。
【0034】
ここで開示される感光性組成物は、上記(メタ)アクリル系樹脂として、ガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂(b2)を含む。これによって、感光性組成物の解像性を向上させ、現像マージンを長くすることができる。(メタ)アクリル系樹脂(b2)のガラス転移点は、75℃以下、70℃以下、65℃以下であり得る。また、上記ガラス転移点は、50℃以上、55℃以上であり得る。上記ガラス転移点は、55℃以上65℃以下(例えば60℃程度)であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(b2)としては、上記のようなガラス転移点を有するものであればよく、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0035】
ここで開示される感光性組成物は、さらに(メタ)アクリル系樹脂(b2)とは異なる、他の(メタ)アクリル系樹脂(b3)を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点は、(メタ)アクリル系樹脂(b2)のガラス転移点よりも高くてよい。(メタ)アクリル系樹脂(b2)のガラス転移点と、(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点との差は、概ね15℃以上、20℃以上、25℃以上であり得る。また、当該差は、概ね50℃以下、45℃以下、40℃以下であり得る。
また、(メタ)アクリル系樹脂(b3)のガラス転移点は80℃以上であることが好ましく、概ね80~120℃、例えば85~100℃であり得る。(メタ)アクリル系樹脂(b3)としては、上記のようなガラス転移点を有するものであればよく、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
なお、(メタ)アクリル系樹脂(b2)および(メタ)アクリル系樹脂(b3)としては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。例えば、市販されている三菱レイヨン株式会社製、および新中村化学社製のものを使用することができる。
【0036】
有機バインダは、上記したセルロース系化合物および(メタ)アクリル系樹脂のみで構成されていてもよい。ここで開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、上記の有機バインダに加え、従来この種の用途に使用し得ることが知られている他の化合物を含んでもよい。そのような化合物としては、例えば、感光性を有さないフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0037】
有機バインダ(b)の中では、セルロース系化合物(b1)が第1成分(質量基準の含有割合が最も多い成分)である。有機バインダ(b)全体に占めるセルロース系化合物(b1)の割合は、質量基準で、40質量%以上(例えば40質量%超)、好ましくは50質量%以上(例えば50質量%超)である。換言すれば、有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、セルロース系化合物(b1)の含有割合は、40質量%以上、好ましくは50質量%以上である。当該含有割合は、例えば45~90質量%、55~85質量%、60~80質量%であってもよい。
有機バインダ(b)におけるセルロース系化合物を上記所定の含有割合とすることによって、現像時間を短縮することができる。
【0038】
有機バインダ(b)全体に占めるセルロース系化合物以外の化合物の割合は、質量基準で、50質量%未満である。
好適な一態様では、例えば、有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合は、60質量%以下(例えば60質量%未満)、好ましくは50質量%以下(例えば50質量%未満)とすることができる。当該含有割合は、例えば10~55質量%、15~45質量%、20~40質量%であってもよい。有機バインダ(b)として所定の含有割合で(メタ)アクリル系樹脂(b2)を含むことによって、感光性組成物に適度な粘性を与えることができ、剥離や断線の発生を抑制することができる。また、解像性を向上し、現像マージンを長くすることができる。有機バインダ(b)として(メタ)アクリル系樹脂(b3)を含む場合、その含有割合は、15質量%以下、2~12質量%程度であり得る。有機バインダ(b)として(メタ)アクリル系樹脂(b3)を含むことにより、本発明の効果をよりよく実現することができる。
【0039】
特に限定されるものではないが、有機バインダの重量平均分子量は、概ね5千以上、例えば1万以上であってもよい。これにより、基材に対する光硬化前の導電膜の粘着性(タック性)が高まり、現像工程において剥離や断線等の発生を好適に抑制することができる。有機バインダの重量平均分子量は、概ね100万以下、典型的には50万以下、例えば30万以下、20万以下、10万以下であってもよい。セルロース系化合物(b1)の重量平均分子量は、セルロース系化合物以外の化合物よりも大きくてもよい。例えば、セルロース系化合物以外の化合物の2倍以上大きくてもよい。具体的には、セルロース系化合物(b1)の重量平均分子量は、概ね1万~50万、例えば5万~20万であってもよい。また、セルロース系化合物以外の化合物の重量平均分子量は、概ね5千~10万、例えば1万~5万であってもよい。
【0040】
特に限定されるものではないが、有機バインダは酸価を有していてもよい。有機バインダの全体の酸価は、概ね10mgKOH/g以上、例えば20mgKOH/g以上、さらには30mgKOH/g以上であってもよい。これにより、現像工程において水系現像液に対する溶解性が高められ、未露光部分の除去性をより良く向上することができる。有機バインダの全体の酸価は、概ね300mgKOH/g以下、例えば200mgKOH/g以下、さらには150mgKOH/g以下であってもよい。これにより、現像工程において水系現像液に対する溶解性が適度に抑えられ、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。セルロース系化合物(b1)の酸価は、セルロース系化合物以外の化合物よりも小さくてもよい。例えば、セルロース系化合物以外の化合物の1/2倍以下、1/3倍以下であってもよい。具体的には、セルロース系化合物(b1)の酸価は、概ね10~300mgKOH/g、例えば20~200mgKOH/gであってもよい。
【0041】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める有機バインダ(b)の割合は、概ね0.1~20質量%、典型的には0.5~10質量%、例えば2~8質量%であってもよい。有機バインダの割合を所定値以上とすることで、現像工程において、現像性を向上して現像時間を短縮することができる。また、露光部分の基材に対する保持力(耐エッチング性)が高められ、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。さらに、有機バインダの割合を所定値以下とすることで、感光性成分の割合、すなわち後述する光重合性モノマー(c)の割合が相対的に向上し、露光工程において導電膜を安定的に硬化させることができる。
【0042】
<光重合性モノマー(c)>
光重合性モノマーは、後述する光重合開始剤(d)から生じた活性種によって重合反応を生じ、架橋構造を形成する感光性成分である。なお、本明細書において「光重合性モノマー」とは、1分子あたり1つの重合性官能基を有する単官能モノマーと、1分子あたり2つ以上の重合性官能基を有する多官能モノマーと、それらの変性物とを包含する。光重合性モノマーは、典型的には、不飽和結合および/または環状構造を1つ以上有する。
【0043】
光重合性モノマーとしては、従来公知のものの中から1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。光重合性モノマーの一例として、(メタ)アクリロイル基やビニル基のような不飽和結合を1つ以上有するラジカル重合性のモノマーや、エポキシ基のような環状構造を有するカチオン重合性のモノマーが挙げられる。具体例として、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン結合を有するウレタン変性(メタ)アクリレートモノマー、エポキシ変性(メタ)アクリレートモノマー、シリコーン変性(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。なかでも、光重合性モノマーが、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含むとよい。これにより、(メタ)アクリル系樹脂との親和性が高められ、感光性組成物の保存安定性を向上することができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル基」とは、「メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH3)=CH2)」と「アクリロイル基(-C(=O)-CH=CH2)」とを包含する用語である。
【0044】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラエチレングリコールモノアクリレート、テトラエチレングリコールモノメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、テトラペンタエリスリトールノナアクリレート、テトラペンタエリスリトールデカアクリレート等が挙げられる。なかでも、光硬化性を高める観点からは、1分子あたり3つ以上、さらには5つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましい。
【0045】
好適な他の一態様では、光重合性モノマーが、ウレタン結合(-NH-C(=O)-O-)を有するウレタン結合含有モノマーを含んでいる。ウレタン結合含有モノマーを含むことで、露光部分の耐エッチング性をより良く向上すると共に、柔軟性や伸縮性に優れた導電層を実現することができる。したがって、基材と導電層との密着性を向上して、剥離や断線の発生を高いレベルで抑制することができる。ウレタン結合含有モノマーとしては、ウレタン結合を含有したウレタン変性(メタ)アクリレートモノマーや、ウレタン変性エポキシモノマー等が挙げられる。
【0046】
特に限定されるものではないが、光重合性モノマーの重量平均分子量は、概ね1万以下、例えば5千以下、3千以下、2千以下であってもよい。光重合性モノマーの重量平均分子量は、セルロース系化合物(b1)よりも小さくてもよく、(メタ)アクリル系樹脂(b2)よりも小さくてもよく、(メタ)アクリル系樹脂(b3)よりも小さくてもよい。
【0047】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める光重合性モノマー(c)の割合は、概ね0.1~50質量%、典型的には1~30質量%、例えば2~10質量%であってもよい。光重合性モノマー(c)の割合は、有機バインダ(b)よりも高くてもよい。光重合性モノマーの割合を所定値以上とすることで、露光工程において、露光時間を短縮することができる。光重合性モノマーの割合を所定値以下とすることで、ポリマー成分の割合、すなわち有機バインダ(b)の割合が相対的に向上し、基材に対する感光性組成物の保持力が高められる。その結果、露光部分の剥離や断線をより良く抑制することができる。
【0048】
<光重合開始剤(d)>
光重合開始剤は、紫外線等の光エネルギーの照射によって分解し、ラジカルや陽イオン等の活性種を発生させて、感光性成分の重合反応を開始させる成分である。光重合開始剤としては、従来公知のものの中から、例えば感光性成分の種類等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤であってもよく、光カチオン重合開始剤であってもよく、光アニオン重合開始剤であってもよい。典型例として、アルキルフェノン系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、等が挙げられる。
【0049】
光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン(2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0050】
特に限定されるものではないが、感光性組成物全体に占める光重合開始剤(d)の割合は、概ね0.01~5質量%、典型的には0.1~4質量%、例えば0.2~3質量%であってもよい。このことにより、より安定して導電層を形成することができる。
【0051】
<有機系分散媒(e)>
感光性組成物は、上記した必須の成分(a)~(d)に加えて、これらの成分を分散または溶解させる有機系分散媒を含有していてもよい。有機系分散媒は、感光性組成物に適度な粘性や流動性を付与して、感光性組成物の取扱性を向上したり、導電膜を成形する際の作業性を向上したりする成分である。有機系分散媒としては、従来公知のものの中から、例えば光重合性モノマー(c)の種類等に応じて、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0052】
有機系分散媒としては、例えば、ターピネオール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;ジプロピレングリコールメチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)等のエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)、イソボルニルアセテート等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン、ナフサ、石油系炭化水素等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット;等の有機溶剤が挙げられる。
【0053】
特に限定されるものではないが、感光性組成物に有機系分散媒(e)を含む場合、感光性組成物全体に占める有機系分散媒(e)の割合は、概ね1~50質量%、典型的には3~30質量%、例えば4~20質量%であってもよい。
【0054】
<その他の添加成分>
感光性組成物は、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した成分に加えて、さらに必要に応じて種々の添加成分を含有することができる。添加成分としては、従来公知のものの中から1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。添加成分の一例としては、例えば、光増感剤、重合禁止剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、湿潤剤、分散剤、消泡剤、帯電防止剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤、顔料、充填剤(有機または無機フィラー)等が挙げられる。
【0055】
特に限定されるものではないが、感光性組成物に添加成分を含む場合、感光性組成物全体に占める添加成分の割合は、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下、例えば2質量%以下、好ましくは1質量%以下であってもよい。
【0056】
ここで開示される感光性組成物では、有機バインダ(b)として、所定の含有割合のセルロース系化合物(b1)と、ガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂(b2)とが、含まれている。即ち、有機バインダ(b)の全量を100質量%としたときに、セルロース系化合物(b1)の含有割合は40質量%以上であり、(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合は60質量%以下である。このことにより、現像工程において未露光部分が除去され易くなり、現像時間を短縮したり、現像性を向上したりすることができる。また、セルロース系化合物の高いガラス転移点を緩衝することができ、導電性粉末と上記感光性組成物に含まれる有機成分とが馴染み易くなる。そのため、現像工程において未露光部分の導電性粉末がきれいに洗い流され、残渣の発生を低減することができる。さらに、かかる構成は、感光性組成物の現像マージンを長くするのに効果的である。その結果、線幅や断面形状の安定した精細な導電層を形成することができ、電子部品の電気特性(例えばインダクタ部品の高周波特性)を向上することができる。
【0057】
≪感光性組成物の用途≫
ここに開示される感光性組成物によれば、ファインラインの導電層や厚膜状の導電層を安定して形成することができる。そのため、ここに開示される感光性組成物は、例えば、インダクタ部品やコンデンサ部品、多層回路基板等の様々な電子部品における導電層の形成に好適に利用することができる。電子部品は、表面実装タイプやスルーホール実装タイプ等、各種の実装形態のものであってよい。電子部品は、積層型であってもよいし、巻線型であってもよいし、薄膜型であってもよい。インダクタ部品の典型例としては、例えば、高周波フィルタ、コモンモードフィルタ、高周波回路用インダクタ(コイル)、一般回路用インダクタ(コイル)、高周波フィルタ、チョークコイル、トランス等が挙げられる。
【0058】
電子部品の一例として、セラミック電子部品が挙げられる。なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、セラミック材料を用いてなる電子部品全般をいい、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)あるいは結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材を有する電子部品全般を包含する。セラミック電子部品の典型例として、セラミック基材を有する高周波フィルタ、セラミックインダクタ(コイル)、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等が挙げられる。
【0059】
図1は、積層チップインダクタ1の構造を模式的に示した断面図である。なお、
図1における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、図面中の符号X、Yは、それぞれ左右方向、上下方向を表す。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎない。
【0060】
積層チップインダクタ1は、本体部10と、本体部10の左右方向Xの両側面部分に設けられた外部電極20とを備える。積層チップインダクタ1は、例えば、1608形状(1.6mm×0.8mm)、2520形状(2.5mm×2.0mm)等のサイズである。本体部10は、セラミック層(誘電体層)12と内部電極層14とが一体化された構造部分を有する。セラミック層12は、例えば導電性粉末の被覆部を構成し得るものとして上述したようなセラミック材料で構成されている。上下方向Yにおいて、セラミック層12の間には、内部電極層14が配置されている。内部電極層14は、上述の感光性組成物を用いて形成されている。セラミック層12を挟んで上下方向Yに隣り合う内部電極層14は、セラミック層12に設けられたビア16を通じて導通されている。このことにより、内部電極層14は、3次元的な渦巻き形状(螺旋状)に構成されている。内部電極層14の両端はそれぞれ外部電極20と接続されている。
【0061】
積層チップインダクタ1は、例えば、以下の手順で製造することができる。すなわち、まず、原料となるセラミック材料とバインダ樹脂と有機溶剤とを含むペーストを調製し、これをキャリアシート上に供給して、セラミックグリーンシートを形成する。次いで、このセラミックグリーンシートを圧延後、所望のサイズにカットして、複数のセラミック層形成用グリーンシートを得る。次いで、複数のセラミック層形成用グリーンシートの所定の位置に、穿孔機等を用いて適宜ビアホールを形成する。次いで、上述の感光性組成物を用いて、複数のセラミック層形成用グリーンシートの所定の位置に、所定のコイルパターンの導電膜を形成する。一例として、以下の工程:(ステップS1:導電膜の成形工程)感光性組成物をセラミック層形成用グリーンシート上に付与して乾燥することにより、感光性組成物の乾燥体からなる導電膜を成形する工程;(ステップS2:露光工程)導電膜に所定の開口パターンのフォトマスクを被せ、フォトマスクを介して露光して、導電膜を部分的に光硬化させる工程;(ステップS3:現像工程)光硬化後の導電膜をエッチングして、未露光部分を除去する工程;を包含する製造方法によって、グリーンシート上に未焼成の状態の導電膜を形成することができる。なお、グリーンシート上に導電膜を備えた導電膜付きグリーンシートは、複合体の一例である。
【0062】
なお、上記感光性組成物を用いて導電膜を成形するにあたっては、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、(ステップS1)において、感光性組成物の付与は、スクリーン印刷等の各種印刷法や、バーコータ等を用いて行うことができる。感光性組成物の乾燥は、光重合性モノマーおよび光重合開始剤の沸点以下の温度、典型的には50~100℃で行うとよい。(ステップS2)において、露光には、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線のような放射線を発する露光機を用いることができる。一例として、10~500nmの波長範囲の光線を発する露光機、例えば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の紫外線照射灯を用いることができる。(ステップS3)において、エッチングには、典型的には、アルカリ性の水系現像液を用いることができる。例えば、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム等を含む水溶液を用いることができる。アルカリ性の水溶液の濃度は、例えば、0.01~0.5質量%に調整してもよい。
【0063】
次いで、(ステップS4:焼成工程)未焼成の状態の導電膜が形成されているセラミック層形成用グリーンシートを複数枚積層し、圧着する。このことによって、未焼成のセラミックグリーンシートの積層体を作製する。次いで、セラミックグリーンシートの積層体を、例えば600~1000℃で焼成する。これによって、セラミックグリーンシートが一体的に焼結され、セラミック層12と、感光性組成物の焼成体からなる内部電極層14とを備えた本体部10が形成される。そして、本体部10の両端部に適当な外部電極形成用ペーストを付与し、焼成することによって、外部電極20を形成する。以上のようにして、積層チップインダクタ1を製造することができる。
【0064】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0065】
実施例1
(1)感光性組成物の調製
まず、導電性粉末(a)として、銀粉末(D50粒径:2μm)を用意した。また、有機バインダ(b)として、表1に示すセルロース系化合物と、(メタ)アクリル系樹脂2と、(メタ)アクリル系樹脂4とを用意した。また、光重合性モノマー(c)として、ウレタンアクリレートモノマーを用意した。また、光重合開始剤(d)として、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1と2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドを1:3で混合したものを用意した。
【0066】
【0067】
上記のとおり用意した(a)~(d)の成分を有機系分散媒(e)に溶解させて、実施例1にかかる感光性組成物を調製した。このとき、感光性組成物の全体を100質量%として、(a)の成分が75質量%、(b)の成分が5質量%、(c)の成分が6質量%、(d)の成分が1質量%、(e)の成分が13質量%であった。
また、(b)の成分については、(b)の成分の全体を100質量%としたときのそれぞれの含有割合(質量%)は表2に示すとおりであった。
【0068】
(2)配線パターンの作製
まず、市販のセラミックグリーンシート上に、上記調製した感光性組成物を4cm角の大きさでスクリーン印刷した。次に、これを60℃で15分間乾燥させて、グリーンシート上に膜厚8μmで導電膜(ベタ膜)を成形した(導電膜の成形工程)。次に、導電膜の上に、L/S=20μm/20μm、15/15μm、12/12μmの3種類の開口パターンがあるフォトマスクを被せた。そして、導電膜上にフォトマスクを被せた状態で、露光機により、露光照度50mW/cm2、露光量900mJ/cm2の条件で光を照射し、露光部分を硬化させた(露光工程)。露光後、セラミックグリーンシートの表面に、0.1質量%、27℃のNa2CO3水溶液(水系現像液)を、ブレイクポイント(B.P.)に到達するまで吹き付けた(現像工程)。このようにして未露光部分を除去した後、純水で洗浄し、室温で乾燥させた。こうして、セラミックグリーンシート上に、3種類のL/Sの配線パターンを備えた導電膜(乾燥膜)を形成した。
なお、上記現像工程において、セラミックグリーンシート上に、0.1質量%の水系現像液で未露光部分が現像され、目視で未露光部分が無くなったと確認できるまでの時間をB.P.に到達するまでの時間tとして計測した。
【0069】
(3)解像性の評価
上記導電膜の成形工程において、膜厚8μmの導電膜(ベタ膜)を成形した。また、上記現像工程において、現像マージンを考慮し、現像する時間を上記時間tの1.2倍の時間(即ち、1.2t)とした。それ以外は上記配線パターンの形成と同様にして、導電膜を形成した。即ち、ここでは、L/Sが3種類で、合計3パターンの導電膜を形成した。
次に、上記作製した各配線パターンについて、レーザー顕微鏡(倍率:500倍)で10視野ずつ観察を行い、配線の欠け、剥離、および配線間の残渣の有無を確認した。さらに、1視野あたりの平均値を算出した。
なお、
図2A~
図2Cに、実施例1の配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)を示す。
図2AはL/Sが20μm/20μmの配線パターン、
図2BはL/Sが15μm/15μmの配線パターン、
図2CはL/Sが12μm/12μmの配線パターン、を示している。
【0070】
上記結果に基づき、下記の指標で解像性を評価した。結果を、表2の「解像度」の欄に示す。
「〇」:配線の剥離、欠け、および線間残渣のいずれも観察されなかった。
「△」:1視野につき2か所以下の配線の欠けおよび/または線間残渣が観察された。
「×」:1視野につき3か所以上の配線の欠けおよび/または線間残渣が観察された。または、配線の剥離が観察された。
なお、解像性の評価試験において、「△」または「×」と評価された配線パターンのレーザー顕微鏡観察画像(500倍)の例を参考として、
図3A~
図3Dに示す。
図3Aは「△」と評価された配線パターンである。
図3B~
図3Dは「×」と評価された配線パターンである。
【0071】
(4)現像マージンの評価
上記導電膜の成形工程において、膜厚8μmの導電膜(ベタ膜)を成形した。また、上記現像工程において、現像する時間を上記時間tの1.3倍の時間(即ち、1.3t)として現像を実施した。それ以外は上記配線パターンの形成と同様にして、導電膜を形成した。即ち、ここでは、L/Sが3種類で、合計3パターンの導電膜を形成した。次に、上記作製した各配線パターンについて、レーザー顕微鏡(倍率:500倍)で10視野ずつ観察を行い、配線の欠け、剥離、および配線間の残渣の有無を確認した。さらに、1視野あたりの平均値を算出し、上記のような「〇」「△」「×」の指標で、(A)現像時間1.3tにおける解像性を評価した。
【0072】
さらに、現像時間を上記時間tの1.3倍の時間(即ち、1.3t)として現像を実施した以外は上記のとおり導電膜を形成してレーザー顕微鏡観察を行い、「〇」「△」「×」の指標で、(B)現像時間1.4tにおける解像性を評価した。
【0073】
そして、(A)現像時間1.3tにおける解像性および(B)現像時間1.4tにおける解像性の評価結果に基づき、下記の指標で現像マージンを評価した。結果を、表2の「現像マージン」の欄に示す。
「〇」:(A)および(B)が、いずれも「〇」である。
「△」:(A)が「〇」で、(B)が△である。または、(A)および(B)が、いずれも「△」である。
「×」:(A)および(B)のうちのいずれか少なくとも一方が「×」である。
【0074】
(5)総合評価
上記(3)解像性、および(4)現像マージンの評価結果に基づいて、表3に示す指標で総合評価を行った。なお、解像性の評価がL/S=20/20μmおよびL/S=15/15μmのいずれか一方が「△」または「×」となった場合は、現像マージンの評価を行わず、総合評価を「×」とした。即ち、表3中の「現像マージンの評価」欄について、「-」とあるのは、評価を行わなかったことを示している。
結果を、表2の「総合評価」の欄に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
実施例2~7
有機バインダ(b)として、表1に示すセルロース系化合物および(メタ)アクリル系樹脂を、表2の該当欄に示す含有割合で使用した以外は実施例1と同様にして感光性組成物を調製し、上記(2)~(5)の評価を行った。実施例2~7の評価結果を、いずれも表2に示した。
【0078】
比較例1~11
有機バインダ(b)として、表1に示すセルロース系化合物および(メタ)アクリル系樹脂を、表2の該当欄に示す含有割合で使用した以外は実施例1と同様にして感光性組成物を調製し、上記(2)~(5)の評価を行った。比較例1~11の評価結果を、いずれも表2に示した。
なお、上記実施例1~7および比較例1~11では、導電性粉末(a)として、D50粒径は2μmで同じであるが、種類が異なる3種類の銀粉末を使用した。
【0079】
比較例について、比較例1~4,8~11は、有機バインダ(b)としてガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂を含まない試験例である。これら比較例では、現像時間t(27秒~47秒)が実施例よりも長かった。また、現像マージンの評価について、比較例1~4,8~10の感光性組成物はL/Sが15μm/15μm以下、比較例11の感光性組成物はL/Sが20μm/20μm以下で欠けや剥離が発生していた。このことから、これら比較例の感光性組成物は、ファインラインを形成するにあたって、現像マージンが十分に長くないことがわかった。
【0080】
比較例5~7は、有機バインダ(b)としてガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂を含むが、その含有割合はセルロース系化合物の含有割合よりも大きい、試験例である。これらの比較例の解像性をみると、セルロース系化合物の含有割合が小さいほど解像性が低下する傾向がある。現像マージンについて、比較例5~7はL/Sが15μm/15μm以下で欠けや剥離が発生した。このことから、これら比較例の感光性組成物は、ファインラインを形成するにあたって、現像マージンが十分に長くないことがわかった。
【0081】
比較例1~11に対して、表2に示すように、実施例1~7について、いずれの実施例でも、総合評価が「〇」以上であった。現像時間tは、20秒~25秒で安定していた。解像度について、L/Sが12μm/12μmであっても、剥離は認められなかった。また、現像マージンについて、L/Sが15μm/15μmでは欠けおよび剥離はいずれも認められなかった。このことから、導電性粉末(a)と、有機バインダ(b)と、光重合性モノマー(c)と、光重合開始剤(d)と、を含む感光性組成物において、有機バインダ(b)としてセルロース系化合物と、ガラス転移点が80℃未満の(メタ)アクリル系樹脂(b1)を含み、有機バインダ(b)全量を100質量%としたときに、セルロース系化合物の含有割合が40質量%以上、(メタ)アクリル系樹脂(b1)の含有割合が60質量%以下である感光性組成物は、解像性および現像マージン優れることが確認された。このことは、ここで開示される感光性組成物が、安定的なファインラインの形成において好適であることを示している。
【0082】
実施例1~5と実施例6,7とを比較すると、実施例1~5のL/Sが12μm/12μmでは、剥離は発生していない。このことから、セルロース系化合物(b1)の含有割合を50質量%以上、および、(メタ)アクリル系樹脂(b2)の含有割合を50質量%未満とすることによって、剥離強度が向上し、好適な解像性および現像マージンが実現されることが確認された。
【0083】
また、実施例1,2と実施例3~5とを比較すると、ガラス転移温度が90℃である(メタ)アクリル系樹脂を含む実施例1,2については、解像性および現像マージンの評価がいずれも「〇」であり、総合評価がいずれも「◎」だった。解像度および現像マージンの評価のいずれにおいても、L/Sが12μm/12μmで欠けおよび剥離のいずれも発生せず、好適なファインラインが形成されたためである。これにより、感光性組成物は、有機バインダ(b)としてさらにガラス転移点が80℃以上の(メタ)アクリル系樹脂(b2)を含むことが、ファインライン化の更なる好適な実現において、特に好ましいことが確認された。
以上の結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0084】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加えうるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 積層チップインダクタ
10 本体部
12 セラミック層
14 内部電極層
16 ビア
20 外部電極