(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】基材を装飾する方法
(51)【国際特許分類】
G04B 45/00 20060101AFI20240301BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20240301BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240301BHJP
A44C 5/00 20060101ALI20240301BHJP
G04B 29/02 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G04B45/00 V
G04B19/06 P
G04B37/22 M
A44C5/00 502B
G04B29/02 B
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022165234
(22)【出願日】2022-10-14
【審査請求日】2022-10-14
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・リンティメル
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ・ブールメ
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第3339980(EP,A1)
【文献】スイス国特許出願公開第713871(CH,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
A44C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(1)を装飾する方法であって、
基材(1)を用意するステップと、
犠牲材層(2)を前記基材(1)の面上に堆積させるステップと、
前記犠牲材層(2)
に複数の空欠部(4)を形成するように前記犠牲材層(2)を構造化するステップと、
装飾的又は技術的パターン(12、20)を形成するステップと、及び
前記パターン(12、20)が設けられた箇所を除く箇所において前記犠牲材層(2)を除去するステップと、を順次的に行
い、
前記犠牲材層(2)を構造化して前記犠牲材層(2)に前記空欠部(4)を形成した後であって前記パターン(12、20)が設けられた箇所を除く前記基材(1)の面全体にわたって前記犠牲材層(2)を除去する前に、前記犠牲材層(2)上に少なくとも1つの付加的仕上げ層(8)を堆積させる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記付加的仕上げ層(8)は、一又は複数の金属性材料、又はこれらの金属性材料の酸化物、窒化物、炭化物又はカルボキシ窒化物を用いて作られる
ことを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記付加的仕上げ層(8)が作られる金属性材料は、クロム、ジルコニウム、金、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記空欠部(4)の深さが異なることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記犠牲材層(2)に形成される前記空欠部(4)の少なくとも一部は、前記基材(1)まで前記犠牲材層(2)を貫通する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記犠牲材層(2)は、物理的気相成長法、化学的気相成長法、又は前記基材(1)が導電性であるときの電気めっき法によって、前記基材(1)の面上に堆積される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記犠牲材層(2)は、1つ又は複数の金属性材料、又はこの金属性材料の酸化物、窒化物、炭化物又はカルボキシ窒化物を用いて作られる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属性材料は、クロム、ジルコニウム、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記犠牲材層(2)は、100nm~10μmの範囲内の厚みを有する
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記犠牲材層(2)は、500nm~2μmの範囲内の厚みを有する
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記犠牲材層(2)における前記空欠部(4)は、ウェット又はドライ化学エッチング、レーザーアブレーション、又はフォトリソグラフィーによって形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ウェット又はドライ化学エッチングを行い、
前記ウェット又はドライ化学エッチングは、前記犠牲材層(2)の面全体に作用させ、又は前記犠牲材層の上に設けられ輪郭が前記犠牲材層(2)に形成するべき装飾的又は技術的パターン(12、20)に対応するマスクの開口を介して行う
ことを特徴とする請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記フォトリソグラフィーを行い、
前記フォトリソグラフィーは、レーザービームによるアブレーションによって直接、又は前記犠牲材層(2)の上に設けられ前記犠牲材層に形成するべき装飾的又は技術的パターン(12、20)に対応する輪郭を有するマスクの開口を通して光放射を用いて、前記犠牲材層(2)に空欠部(4)を形成することを伴う
ことを特徴とする請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記付加的仕上げ層(8)で被覆された、前記犠牲材層(2)の上に、感光性樹
脂層(18)を堆積させるステップと、
前記犠牲材層(2)に形成するべき装飾的又は技術的パターン(12、20)に対応する箇所において、レーザービームの作用に
対して直接
的に、又
は光放射に
対して選択的に、前記感光性樹脂層(18)
を露出させるステップと、
前記感光性樹脂層(18)と、及び前記感光性樹脂層(18)の
下にあり、前記感光性樹脂層(18)が露出されていない箇所におい
て前記付加的仕上げ層(8)によって被覆されている、前記犠牲材層(2)とを除去するステップと、及び
前記犠牲材層(2)を保持すべき箇所に存在する前記感光性樹脂層(18)を除去するステップを
、前記犠牲材層(2)の構造化の後に、そして
、前記付加的仕上げ層(8)の堆積の後に、行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記基材(1)は、携行型時計ケース又は宝飾品のための外側部品の要素である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記基材(1)は、ブリッジ、プレート、ベゼル、ミドル部、風防、表盤、裏部又はブレスレットリンクである
ことを特徴とする請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記基材(1)は、研磨された外観及び/又は不透明な外観を有する
ことを特徴とする請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を装飾する方法に関する。本発明は、より詳細には、研磨された基材に対して、特に、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の表盤、より一般的にはベゼル、ミドル部、裏部、ブレスレットのリンク又は風防のような計時器の外側部品に対して、マットないしサテン装飾を施すことを可能にする方法に関する。本発明は、さらに、あらゆるタイプの宝飾品、特にブレスレット、に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
携行型時計の表盤のような基材の一部の領域にその基材の面の残りとは異なる外観を与えるために現状用いられている技術として、その領域に対してレーザービームなどを作用させて、その領域を金属化することを伴うものがある。金属化操作を実行することは難しい。なぜなら、特に、レーザービームを用いて彫られる金属化対象の領域は、寸法が小さいことが多く、この領域上に金属化層を正確に堆積させることが困難であるためである。実際に、金属化層が、レーザービームを用いて処理されメタライゼーションが堆積される基材の領域の寸法を超えて、隣接する領域に入ってしまうことがある。逆に、金属化すべき基材の領域を金属化層が完全に覆わず、金属化層よりも下層にてそのような領域が見えてしまうこともありうる。いずれの場合も、このようにして処理された基材の最終的な外観は、満足できるものではなく、このような基材のうちの無視できない部分を廃棄することになる。また、この手法の別の課題として、レーザーエッチング操作によって基材が改質してしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特に、基材を正確に装飾すること、を可能にする方法を提供することによって、上記の問題点及び他の問題点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような状況で、本発明は、基材を装飾する方法であって、
基材を用意するステップと、
犠牲材層を前記基材の面上に堆積させるステップと、
前記犠牲材層に複数の空欠部を形成するように前記犠牲材層を構造化するステップと、
装飾的又は技術的パターンを形成するステップと、及び
前記パターンが設けられた箇所を除く箇所において前記犠牲材層を除去するステップと、を順次的に行う。
【0005】
本発明の特別な実施形態において、複数の深さを有する空欠部がある。
【0006】
本発明の別の特別な実施形態において、前記犠牲材層に形成される前記空欠部の少なくとも一部は、前記基材まで前記犠牲材層を貫通する。
【0007】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層は、物理的気相成長法、化学的気相成長法、又は前記基材が導電性であるときの電気めっき法によって、前記基材の面上に堆積される。
【0008】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層は、1つ又は複数の金属性材料、又はこの金属性材料の酸化物、窒化物、炭化物又はカルボキシ窒化物を用いて作られる。
【0009】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記金属性材料は、クロム、ジルコニウム、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される。
【0010】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層は、100nm~10μmの範囲内の厚みを有する。
【0011】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層は、500nm~2μmの範囲内の厚みを有する。
【0012】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層における前記空欠部は、ウェット又はドライ化学エッチング、レーザーアブレーション、又はフォトリソグラフィーによって形成される。
【0013】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記ウェット又はドライ化学エッチングを行い、前記ウェット又はドライ化学エッチングは、前記犠牲材層の面全体に作用させ、又は前記犠牲材層の上に設けられ輪郭が前記犠牲材層に形成するべき装飾的又は技術的パターンに対応するマスクの開口を介して行う。
【0014】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記フォトリソグラフィーを行い、
前記フォトリソグラフィーは、レーザービームによるアブレーションによって直接、又は前記犠牲材層の上に設けられ前記犠牲材層に形成するべき装飾的又は技術的パターンに対応する輪郭を有するマスクの開口を通して光放射を用いて、前記犠牲材層に空欠部を形成することを伴う。
【0015】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記犠牲材層を構造化して前記犠牲材層に前記空欠部を形成した後であって前記パターンが設けられた箇所を除く前記基材の面全体にわたって前記犠牲材層を除去する前に、前記犠牲材層上に少なくとも1つの付加的仕上げ層を堆積させる。
【0016】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記付加的仕上げ層は、一又は複数の金属性材料、又はこれらの金属性材料の酸化物、窒化物、炭化物又はカルボキシ窒化物を用いて作られる。
【0017】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記付加的仕上げ層が作られる金属性材料は、クロム、ジルコニウム、金、チタン及びアルミニウムからなる群から選択される。
【0018】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、
- 場合によって前記付加的仕上げ層で被覆された、前記犠牲材層の上に、感光性樹脂の層を堆積させるステップと、
- 前記犠牲材層に形成するべき装飾的又は技術的パターンに対応する箇所において、レーザービームの作用に直接、又はその他の光放射に、前記感光性樹脂層を選択的に露出させるステップと、
- 前記感光性樹脂層と、及び前記感光性樹脂層の下層にあり、前記感光性樹脂層が露出されていない箇所において場合によって前記付加的仕上げ層によって被覆されている、前記犠牲材層とを除去するステップと、及び
- 前記犠牲材層を保持すべき箇所に存在する前記感光性樹脂層を除去するステップを、
前記犠牲材層の構造化の後に、そして、場合によって前記付加的仕上げ層の堆積の後に、行う。
【0019】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記基材は、携行型時計ケース又は宝飾品のための外側部品の要素である。
【0020】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記基材は、ブリッジ、プレート、ベゼル、ミドル部、風防、表盤、裏部又はブレスレットリンクである。
【0021】
本発明の更なる別の特別な実施形態において、前記基材は、研磨された外観を有する。
【0022】
これらの特徴のおかげで、本発明は、特に、基材の面状態を変更又は改質することなく基材を装飾すること、を可能にする方法を提供する。特に、本発明に係る方法が、基材に直接ではなく、基材の上に堆積された材料層にて、装飾的又は技術的パターンを構造化して形成することを伴うことを考えると、時には非常に硬い場合がある、基材を構成する材料の性質に拘束されず、基材の面にパターンが形成された層を作るために幅広い材料を利用可能であることがわかる。また、パターンを形成する空欠部内での外光の多重反射によって、このパターンはマットないしサテン調の外観となり、特に、基材の面が研磨された状態の場合、基材の面の他の部分よりも著しく際立って見える。また、本発明に係る方法は、検討される実施態様にかかわらず、携行型時計の表盤や携行型時計の風防のための基材のように基材を装飾することを望む場合に頻繁に遭遇するポジショニングの精度の問題を克服することを可能にする。
【0023】
添付の図面を参照しながら本発明に係る装飾方法の一実施形態についての以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。この例は、例示的な目的のためにのみ提供されるものであり、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】基材と犠牲材層の断面図であり、基材の面の上に犠牲材層が堆積されている。
【
図2】基材を化学エッチング槽に浸漬させることによって犠牲材層に空欠部を形成する様子を示している。
【
図3】
図1と同様の図であり、犠牲材層に複数の空欠部を形成して装飾的又は技術的パターンを形成するように犠牲材層を構造化するステップを示している。
【
図4】
図3と同様の図であり、犠牲材層の構造化の後に、犠牲材層上に付加的仕上げ層を堆積させるステップを示している。
【
図5】
図4と同様の図であり、付加的仕上げ層上に感光性樹脂層を堆積させるステップを示している。
【
図6】
図5と同様の図であり、感光性樹脂層が照射されていない領域における感光性樹脂層の除去を示している。
【
図7】
図6と同様の図であり、感光性樹脂層が照射されていない領域における犠牲材層と仕上げ層を除去するステップを示している。
【
図8】
図7と同様の図であり、装飾パターンを形成するために残存しなければならない犠牲材層が構造化されている箇所において照射された、残存した感光性樹脂層の除去を示している。
【
図9】第1の感光性樹脂層、犠牲材層及び基材を模式的に示している断面図であり、基材上に犠牲材層が被覆されており、犠牲材層が第1の感光性樹脂層で被覆されている。
【
図10】空欠部を形成するために選択的に照射された感光性樹脂層を示している。
【
図11】照射されていない第1の領域が除去されており照射されていない第2の領域のみが残存するような感光性樹脂層の現像を示している。
【
図12】パターンを形成するように意図された空欠部を犠牲材層に形成した後で、犠牲材層を少なくとも1つの付加的仕上げ層で覆う場合を示している。
【
図13】
図12と同様の図であり、付加的仕上げ層上に第2の感光性樹脂層を堆積させた様子を示しており、露出されていない第1の領域と、レーザービームを用いて直接又はマスクを介して照射されており、犠牲材層に形成すべきパターンに対応する第2の領域とを区別することができる。
【
図14】
図13と同様の図であり、レーザービームを用いて直接又はマスクを介して感光性樹脂層に照射した後の感光性樹脂層の現像の様子を示しており、露出されていない第1の領域は除去されており、所望のパターンに対応する露出された第2の領域のみが存在している。
【
図15】
図14と同様の図であり、露出された感光性樹脂層の部分の除去を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、基材の面状態を変更又は改質することなく、基材の面に装飾的又は技術的パターンを形成することを伴う創造性のある概念に基づいている。このために、本発明は、所望の装飾的又は技術的パターンの形に対応するレイアウトに従って複数の十分に深い空欠部が形成されたいわゆる犠牲材層を基材の面上に堆積させることを提案するものである。場合によって、1つ又は複数の仕上げ層で被覆して、面状態を仕上げ、下層にある犠牲材層の色を調整する。形成された空欠部群は、これらの空欠部に入り込んだ入射環境光の多重反射の作用のおかげで、肉眼で認識することができる所望のパターンを形成する。また、これらの空欠部の数と深さに応じて、得られるパターンはマットないしサテン調の外観となって、このパターンの土台となっている基材の周囲の面に対して、特に基材が研磨された面状態である場合に、顕著に目立つようになる。
【0026】
図1において、全体として参照番号1を割り当てている基材の断面を示している。好ましくは、この基材1は、研磨された面状態を有する。しかし、必ずしもそうでなくてもよい。この基材1は、携行型時計の製造用のあらゆるタイプの部品であることができる。例えば、ブリッジ、プレート、ベゼル、ミドル部、風防、表盤、裏部、ブレスレットのリンクであるが、これに限定されない。また、基材1は、ブレスレット、指輪、ロケット(locket)のような宝飾品の物品であることもできる。より一般的には、本特許出願に関連して、基材は、本発明に係る方法の実装を可能にする任意の支持部分であるものとして理解することができる。
【0027】
本発明によると、
図1に示しているように、基材は、犠牲材層2によって被覆される。この犠牲材層2は、金属性材料を用いて作られ、この金属性材料は、好ましくは、クロム、窒化クロム、オキシ窒化クロム、ジルコニウム、窒化ジルコニウム及びオキシ窒化ジルコニウムからなる群から選択される。この犠牲材層2は、通常100nm~10μmの範囲内、好ましくは500nm~2μmの範囲内、の厚みを有する。当然、犠牲材層2の厚みがこれらの値を超えることもできる。また、犠牲材層2は、少なくとも2つの異なる金属性材料の組み合わせ、又はこれらの金属性材料の酸化物、窒化物、炭化物又はカルボキシ窒化物の組み合わせによって得ることもできる。
【0028】
犠牲材層2は、物理的気相成長、化学的気相成長、又は基材1が導電性であるときの電気めっきのような任意の適切な技術によって、基材1の面上に堆積される。
【0029】
この犠牲材層2は、基材1の面上に堆積した後で、この犠牲材層2に複数の空欠部4を形成するように構造化される。
【0030】
犠牲材層2内における空欠部4の構造化は、任意の適切な技術によって行うことができる。
図2に示している例において、犠牲材層2で被覆された基材1は、化学エッチング槽6内に浸漬され、適切な場合には、犠牲材層2の一部の領域をマスクして、槽6の作用を受けないようにすることができる。このようにして、犠牲材層2の面は、槽6の腐食作用を受ける。この化学エッチングは完全に均一ではなく、その効果は、特に基材1が槽6内に保たれる時間に依存するため、犠牲材層2内に形成された空欠部4の深さがすべて同じとはならない。
【0031】
図3に示しているように、基材1が化学エッチング槽6から除去されると、化学エッチングを経た犠牲材層2の全面にわたって、複数の深さを有する空欠部4が形成される。その空欠部4のうちのいくつかは、基材1まで貫通して犠牲材層2をまたがることもある。
【0032】
図示していない本発明の別の実施形態において、犠牲材層2のウェットエッチングの代わりに、基材1を腐食性ガス雰囲気中に置くことによって、この犠牲材層2のドライエッチングを進めて空欠部4を形成することが可能となる。
【0033】
図示していない本発明の更なる別の実施形態において、犠牲材層2の化学エッチングの代わりに、レーザービームを用いるアブレーションによって、この犠牲材層2を構造化することも可能である。
【0034】
犠牲材層2にて空欠部4を構造化した後、
図4に示しているように、好ましくは、犠牲材層2を少なくとも1つの付加的仕上げ層8で被覆する。なお、これは必ずしも必要ではない。この付加的仕上げ層8は、例えば、物理的又は化学的気相成長によって堆積させることができる。この付加的仕上げ層8は、犠牲材層2と同じ材料によって作ることができる。この付加的仕上げ層8は、任意の、金属性材料、金属性材料のオキシ窒化物又は金属性材料の合金を用いて作られる。付加的仕上げ層8は、特に、金、クロム、ジルコニウム、チタン又はアルミニウムによって作ることができる。この少なくとも1つの付加的仕上げ層8は、面状態を仕上げ、下層にある犠牲材層2の色を調整するように意図されている。
【0035】
図5に示しているように、付加的仕上げ層8の堆積の後に、この付加的仕上げ層8上に感光性樹脂層10を堆積させる。その後に、この感光性樹脂層10に対して、犠牲材層2に形成するべき装飾的又は技術的パターン12に対応する箇所に、光照射を用いて、選択的に照射する。このようにして、感光性樹脂層10において、光照射を受けていない第1の領域10Aと、光照射を受けた所望のパターン12に対応する第2の領域10Bとを区別することができる。感光性樹脂層10は、例えば、コンピューターによって動きが制御されるレーザービームを用いて直接、又は犠牲材層2の保持すべき領域に対応する開口が形成されたマスクを介して紫外線などの光放射をして、選択的に照射して、基材1の面に現れるべき装飾的又は技術的パターン12を形成することができる。
【0036】
感光性樹脂層10に選択的に照射した後に、この感光性樹脂層10を、紫外線に露出されていない第1の領域10Aが除去され、光が照射された所望のパターン12に対応する第2の領域10Bのみが存続するように現像する(
図6参照)。
【0037】
そして、
図7に示しているように、基材1が再び露出されるまで、犠牲材層2及び付加的仕上げ層8のうちの感光性樹脂層10に被覆されていない部分を除去する。
【0038】
最後に、紫外線が照射された感光性樹脂層10の第2の領域10Bが除去される(
図8)。
【0039】
基材1の面に存在する犠牲材層2の領域に形成される空欠部4は、すべてが同じ深さではなく、これによって、これらの空欠部4に侵入する入射光の多重反射の作用のおかげで、空欠部4のネットワークによって形成される装飾的又は技術的パターン12が、特に基材1の面が研磨された面状態を有する場合に、基材1の面の残りの部分をはっきりと目立たせるマットないしサテン調の外観を有するようにされる。実際に、空欠部4の組み合わせによって形成される装飾的又は技術的パターン12は、これらの空欠部4の深さに応じて、犠牲材層2によって被覆されていない基材1の面の残りの部分の発色に対して顕著な視覚的コントラストを発生させるマットないしサテン調の外観を有する。
【0040】
また、好ましくは、空欠部4は、槽6の腐食作用などに犠牲材層2の面を曝露して所望の最終パターン12の寸法よりも大きな寸法を有するネットワークを形成するようにした後に、犠牲材層2において構造化される。次に、基材1に対するパターン12の適切なポジショニングのために、マスクに対するこの基材1の適切なアライメント(整列)のために所定のマージンが設けられ、これは非常に有利である。このマスクには、全体に感光性樹脂層が照射される
【0041】
図9~15に、本発明の他の実施形態を示している。
図9において、基材1は、犠牲材層2で被覆されており、この犠牲材層2上に第1の感光性樹脂層14を堆積させる。
【0042】
その後で、
図10に示しているように、この感光性樹脂層14に選択的に照射して、空欠部4を形成する。この感光性樹脂層14の選択的な照射は、例えば、レーザービームを用いて直接行うことができ、また、犠牲材層2の保持すべき領域に対応する開口が形成されたマスクを介して行うことができる。このようにして、感光性樹脂層14において、選択的な照射を受けていない第1の領域14Aと、選択的照射を受けた犠牲材層2の保持すべき部分に対応する第2の領域14Bとを区別することができる。
【0043】
選択的照射の後に、
図11に示しているように、第1の領域14Aが除去され、照射された第2の領域14Bのみが存続するように、感光性樹脂層14を現像する。そして、再び基材1が露出するまで、化学エッチングによって犠牲材層2のうちの感光性樹脂層14で被覆されていない部分を除去する。最後に、選択的照射された感光性樹脂層14の第2の領域14Bを除去して、犠牲材層2のうちの空欠部4が形成された部分のみを残存させる。
【0044】
その後に、
図12に模式的に示しているように、基材1は、少なくとも1つの付加的仕上げ層16によって被覆され、
図13に示しているように、この付加的仕上げ層16自体が第2の感光性樹脂層18によって被覆される。その後に、この第2の感光性樹脂層18を、例えば、レーザービームを用いて、又は犠牲材層2の保持すべき領域に対応する開口が形成されたマスクを介して、選択的に照射して、基材1の面に形成するべき装飾的又は技術的パターン20を形成する。
【0045】
照射後、感光性樹脂層18において、選択的照射を受けなかった第1の領域18Aと、選択的照射を受けた犠牲材層2及び付加的仕上げ層8の保持すべき部分に対応する第2の領域18Bとを区別することができる。その後に、
図14に示しているように、第1の領域18Aが除去され光照射された第2の領域18Bのみが存続するように、感光性樹脂層18を現像する。
【0046】
その後に、付加的仕上げ層16及び犠牲材層2のうちの感光性樹脂に被覆されていない部分を除去するように基材1に化学エッチングを施す。最後に、
図15に示しているように、一部の領域が露出しており研磨された外観を有する基材1が得られ、この基材1の他の領域は、付加的仕上げ層16で被覆された犠牲材層2によって被覆され、その犠牲材層2において空欠部4が、サテンないしマット調の外観を有する装飾的又は技術的パターン20を形成するように構造化されている。
【0047】
当然、本発明は、上で説明した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱することなく、当業者によって様々な単純な変更及び変異形態を考えることができる。特に、基材1上に堆積される第1の層は、装飾的又は技術的パターン20が構造化される箇所以外は完全に除去されるように意図されているために、犠牲材層2と呼ばれることを理解すべきである。このため、この犠牲材層2は、好ましくは、耐性があり安価な材料によって作られる。また、犠牲材層2が厚いほど、空欠部4の構造化が容易になる。しかし、この犠牲材層2があまりに厚いと、この層に機械的な内部応力が発生して剥離の問題が発生するリスクがあるために、厚くしすぎないようにすることを確実にすることが必要である。また、基材1は、好ましくは、研磨されたものであり、かつ/又は不透明である。
【符号の説明】
【0048】
1 基材
2 犠牲材層
4 空欠部
6 槽
8 付加的仕上げ層
10 感光性樹脂層
10A 第1の領域
10B 第2の領域
12 パターン
14 第1の感光性樹脂層
14A 第1の領域
14B 第2の領域
16 付加的仕上げ層
18 第2の感光性樹脂層
18A 第1の領域
18B 第2の領域
20 パターン