(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】顎、口蓋、歯の左右対称性のための歯科用システム
(51)【国際特許分類】
A61C 7/10 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
A61C7/10
(21)【出願番号】P 2022501163
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 US2020041023
(87)【国際公開番号】W WO2021007218
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522010336
【氏名又は名称】ハム,スーザン,イー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】ハム,スーザン,イー.
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-176822(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0085987(KR,A)
【文献】独国特許出願公開第10234376(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0120624(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0270883(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方および垂直移動を提供するための歯科装置であって、
患者の後方歯科構造に付着させ、患者の後方歯科構造によって支持される後方部分と、
前記後方部分に連結され、前記後方部分から分離可能である前方部分であって、前記患者の前方歯科構造に前方移動と垂直移動を同時に提供するように操作可能な前方部分と、
を備え
、
前記後方部分および前記前方部分はワイヤによって連結され、前記ワイヤは前方方向に移動するように操作可能であり、
前記後方部分および前記前方部分は、垂直移動および圧力が前記患者の前方歯科構造に対して適用されるように、前記後方部分および前記前方部分の間に配置されて前記前方部分の回転を可能にするヒンジを有しており、
前記ヒンジが前記ワイヤの周りを旋回する前方ジョイントおよび後方ジョイントを備える、装置。
【請求項2】
前記装置は、前記患者の前記前方歯科構造に前方-側方移動を提供するようにさらに構成される、請求項1に記載の歯科装置。
【請求項3】
前記ヒンジは調節可能かつ係止可能である、請求項
1に記載の装置。
【請求項4】
前記後方部分が第1の後方部分および第2の後方部分を備え、前記前方部分が第1の前方部分および第2の前方部分を備える、請求項1~
3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記ワイヤは、前記第1の後方部分、前記第1の前方部分、前記第2の前方部分、および前記第2の後方部分を連結し、前記ワイヤは、前記第1の前方部分と第2の前方部分との間で調節可能であり、前記患者の前方歯科構造に対して前記第1の前方部分および第2の前方部分の外向き側方移動を提供する、請求項
4に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、前記第1の後方部分と前記第1の前方部分との間に第1のヒンジを備え、前記装置は、前記第2の前方部分と前記第2の後方部分との間に第2のヒンジをさらに備え、前記第1のヒンジおよび前記第2のヒンジは、前記第1の前方部分および第2の前方部分を回転させて、前記患者の前方歯科構造に対する垂直移動および前
方歯科構造に対する圧力を提供するように操作可能である、請求項
4または
5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記患者の前記後方歯科構造が、歯、顎ライン、および口蓋からなる群から選択される、請求項1~
6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、唇支持に加えて、前記患者に顔面の左右対称性を提供するために、少なくとも1つの前方歯科構造に左右対称性を提供する、請求項1~
7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記装置は、ネジ基部とネジとをさらに備え、前記ネジは、前記回転が前記前方歯科構造に移動および圧力を提供するように、前記ネジ基部の内外へ回転できるように操作可能である、請求項1~
8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記装置は、取り付け可能なパッドをさらに備え、前記取り付け可能なパッドは、前記前方部分上に配置され、前記取り付け可能なパッドは、前記前方歯科構造に移動および圧力を提供するように操作可能である、請求項1~
9のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、挿入可能かつ調整可能な歯科用拡張装置に関する。特に、本開示の実施形態は、審美的に満足のいく顔面および/または歯科構造を促進するために、歯、顎ライン、および/または口蓋に、前方、上下、および/または前方-側方の移動を提供するための、挿入可能かつ調整可能な歯科用拡張装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用拡張装置は公知であり、一般に、経時的に側方外向きに拡張し、歯の間に適切なスペースがない歯の間にスペースを提供する。例えば、小児および若年成人において、「乳」歯から「永久」歯(大人の歯)に生え変わると、歯は整列から外れたり、密集したり、近くに寄り過ぎた配置になり得る。矯正歯科医が上顎骨および下顎骨と共に歯を真っ直ぐにし、整列させるために歯列矯正器を用いる前に、上顎および下顎に上側および/または下側拡張装置を用いることができる。このような拡張装置は、歯科用セメンテーションを介してある期間半永久的に取り付けられてもよく、またはこのような拡張装置は一般に、患者によって取り外し可能かつ再挿入可能であり、歯および/または口蓋の部分に取り外し可能に固定されてもよい。
【0003】
拡張装置は一般的に、キーで回した歯車により、経時的に側方に拡張する。拡張装置が経時的に拡張するにつれて、既存の歯の間にスペースが提供される。既存の歯の間に十分なスペースが提供されると、拡張装置の使用を中断することができ、例えば、歯列矯正器を用いて歯を整列させ、任意に、他の矯正機構、例えば、ゴムバンドを併用して患者の上顎および下顎を整列させることができる。拡張装置は歯の間にスペースを提供するために適切な側方の移動を提供するが、これらの歯科構造にスペース、左右対称性、および/または支持を提供するために、歯、顎骨、および/または口蓋へ前面(前方)への移動、上下(下方向または上方向)への移動、および/または前方-側方の移動を提供する適切な技術は存在しない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は1つまたは複数の方向への再形成、支持、および拡張を通して、成人および子供における左右対称性および/または審美的に満足のいく顔面構造を促進し、発展させるのに役立つ、歯科用および歯列矯正治療用器具を提示する。特定の実施形態では、歯科用器具が成人および子供における歯科構造移動のための複数の方向(面)における制御された移動を提供することができる。例えば、単一の装置は、前方、前方-側方、および上下(下方向または上方向)の移動(圧力)に対する選択肢を同時に提供し得る。重要なことに、本開示の装置はコンパクトでかさばりを軽減し、同時に、直接の圧力を減少し、24時間の装着およびゆっくりとした制御された移動を可能にする、軟質の表面を提供する。例示された装置は、装着中に発話を妨げない。
【0005】
いくつかの実施形態では、高強度、軽量のプラスチックまたはポリマーなどの繊維含浸材料が使用される。いくつかの実施形態では、アクリルを使用することができる。高強度、軽量の金属やワイヤも使用できる。軽量ワイヤ技術の使用によって、装置の必要な移動および拡張を提供するためのネジまたは歯車の数を減少させることができる。口腔組織、歯肉、および/または歯と接触する装置の1つまたは複数の表面は、任意に、圧力を分配して痛みを伴う圧力点から保護するために、柔らかいゲル状材料の薄いカバーまたはコーティングで覆われる。適切なゲル状材料は、任意の特定の部分に対する過度の圧力を防止するのに十分に柔らかいが、患者の内側前口蓋または患者の前歯の内側などの特定の部分において、経時的に穏やかな圧力/移動を提供するのに十分に硬い。
【0006】
本開示のシステムおよび方法は、例えば、口蓋-歯の移動によって得られる最良の比率および左右対称性を有する顔を得るために必要とされる歯/口蓋/顎ラインの移動をもたらすための、特定の患者のための最良の顔面構造比率のコンピュータ生成評価を適用することができる。一実施形態では、歯科専門家が、患者の現在の顔面構造、ならびに歯および口蓋に必要な理想的な移動のコンピュータ生成評価を使用して、適切な結果を招くために歯および口蓋をどのように動かすか、例えば、前上唇または下唇の移動のための上または下の口蓋または歯の前方移動、をそれぞれ決定する。
【0007】
特定の実施形態では、3次元(「3-D」)撮像を使用して、歯および/または顔面構造の比率および/または関係をマッピングし、歯、口蓋、および/または顔面構造の突出移動、ならびにインプラントの配置を補助することができる。顔の特徴および軟組織の位置を示す3次元画像化は、審美的に満足のいく顔の見た目を提供するための移動を計画する際に、歯科サービス提供者の補助となる。本明細書の実施形態に適用される3次元画像化は、顔の見た目に加えて、または顔の見た目の代わりに、歯科構成要素の配置の所望の結果を得るため、ならびに1つの特定の位置での過剰な圧力を回避するため必要な、ストレッサおよび/または圧力の投影を含む。周囲の歯/軟組織に生成される圧力および/または移動は、1つの特定の部分における過剰な圧力のために困難であるかまたは禁忌でさえある、所望の移動を達成するために必要であり得る。本発明の実施形態における3次元撮像は、経時的に複数の面および複数の方向に作成される移動の計画を可能にする。
【0008】
患者の顔にとって所定の最良の比率または左右対称性を得るための、歯、顎ライン、および/または口蓋についての最適な位置が得られると、本開示の装置は、歯科構造の配置を維持し、骨の発達または維持を促すために、最小であるが一定の圧力を提供するように使用され得る。例えば、患者が加齢し、自然な骨の喪失が生じると、本開示の装置は、前方、前方-側方、および/または垂直方向における歯、顎ライン、および/または口蓋の移動を通して、柔らかく、美容的に快適な外観が得られることを可能にする。患者の歯、顎ライン、および/または口蓋の最適な前方ピッチは、患者の加齢とともに唇支持および他の顔面左右対称性を提供することができ、より若々しい見た目を提供する。いくつかの実施形態では、前方移動のみが必要とされ、提供されることができ、他の実施形態では、垂直移動のみが必要とされ、提供されることができる。
【0009】
したがって、本明細書に開示されるのは、前方および垂直移動を提供するための歯科装置であり、本装置は、患者の後方歯科構造に付着させ、患者の後方歯科構造によって支持される後方部分と、後方部分に連結され、後方部分から分離可能である前方部分であって、患者の前方歯科構造に前方移動と垂直移動を提供するように操作可能な前方部分と、を含む。いくつかの実施形態では、本装置は、患者の前方歯科構造に前方-側方移動を提供するようにさらに構成される。さらに他の実施形態では、後方部分および前方部分がワイヤによって連結され、ワイヤは前方方向に移動するように操作可能である。特定の実施形態では、後方部分および前方部分は、垂直移動および圧力が患者の前方歯科構造に対して適用されるように、後方部分および前方部分の間に配置されて前方部分の回転を可能にするヒンジを有する。ある実施形態では、ヒンジは調節可能かつ係止可能である。特定の実施形態では、ヒンジは、ワイヤの周りを旋回する前方ジョイントおよび後方ジョイントを含むか、またはそれらによって生成される。
【0010】
本装置のさらに他の実施形態では、後方部分は、第1の後方部分および第2の後方部分を含み、前方部分は、第1の前方部分および第2の前方部分を含む。特定の実施形態では、ワイヤは、第1の後方部分、第1の前方部分、第2の前方部分、および第2の後方部分を連結し、ワイヤは、第1の前方部分と第2の前方部分との間で調節可能であり、患者の前方歯科構造に対して第1の前方部分および第2の前方部分の外向き側方移動を提供する。
【0011】
さらに他の実施形態では、本装置は、第1の後方部分と第1の前方部分との間に第1の調節可能かつ係止可能なヒンジを備え、本装置は、第2の前方部分と第2の後方部分との間に第2の調節可能かつ係止可能なヒンジをさらに備え、第1および第2のヒンジは、第1および第2の前方部分を回転させて、患者の前方歯科構造に対する垂直移動および患者の前方歯科構造に対する圧力を提供するように操作可能である。さらに他の実施形態では、患者の後方歯科構造は、歯、顎ライン、および口蓋からなる群から選択される。
【0012】
特定の実施形態では、本装置は、唇支持に加えて患者に顔面左右対称性を提供するために、少なくとも1つの前方歯科構造に左右対称性を提供する。
【0013】
本装置のさらに他の実施形態では、本装置は、ネジ基部およびネジを含み、ネジは、回転が前方歯科構造に移動および圧力を提供するように、ネジ基部の内外へ回転できるように操作可能である。ネジおよびネジ基部は、装置内の任意の場所、例えば、装置の前方部分または後方部分、またはその両方に配置することができる。
【0014】
さらに他の実施形態では、本装置は、1つ以上の取り付け可能なパッドを含み、取り付け可能なパッドは本装置の前方部分に配置され、取り付け可能なパッドは前方歯科構造に移動および圧力を提供するように操作可能である。
【0015】
さらに、本明細書に開示されるのは、患者の前方歯科構造に圧力を提供するための方法であって、本方法は、患者にとっての適切なレベルの顔の左右対称性、ならびに唇支持とともに適切なレベルの顔の左右対称性を得るため、歯、口蓋、および/または顎ラインの必要な移動を決定することと、適切なレベルの顔の左右対称性を得るため、歯、口蓋、および/または顎ラインに前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供することと、を含む。本方法のいくつかの実施形態では、前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供するステップは、記載される装置の使用を含む。いくつかの実施形態では、前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供するステップは、記載される装置のワイヤを曲げるステップをさらに含む。いくつかの実施形態では、前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供するステップは、記載される装置のヒンジを調節するステップをさらに含む。いくつかの実施形態では、前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供するステップは、記載される装置のネジ基部からネジを回転させるステップをさらに含む。
【0016】
さらに他の実施形態では、前方、垂直、および/または前方-側方移動を提供するステップは、取り付け可能なパッドを記載された装置に追加するステップをさらに含み、取り付け可能なパッドは、取り付け可能なパッドが前方歯科構造に移動および圧力を提供するように操作可能であるように、前方部分に配置される。
【0017】
いくつかの実施形態では、患者の顔面の左右対称性の適切なレベル、および唇支持とともに顔面の左右対称性の適切なレベルを達成するために必要な歯、口蓋、および/または顎ラインの移動を決定するステップは、コンピュータ生成評価の使用を含む。
【0018】
さらに、本明細書で開示されるのは、患者にとっての適切なレベルの顔面の左右対称性、ならびに唇支持とともに適切なレベルの顔面の左右対称性を得るための、歯、口蓋、および/または顎ラインの必要な移動を決定するステップと、患者の歯の印象を取得するステップと、歯、口蓋、および/または顎ラインに対する前方、垂直、および/または前方-側方移動が適切なレベルの顔面の左右対称性を得られるために提供されるよう、歯科印象を使用して請求項1に記載の歯科用機器を生成するステップとを、含む、歯科用機器の製造方法である。いくつかの実施形態では、本製造方法はまた、ヒンジが適切な量の前方、垂直、および/または前方-側方移動を生成することができるように、ヒンジを歯科装置に取り付けるステップを含む。記載されるいくつかのシステムおよび方法では、顔面の左右対称性について歯科構造を矯正するために、前方移動のみ、または垂直移動のみが提供される。
【0019】
本開示のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下の説明、特許請求の範囲、および添付の図面に関してより良く理解されるであろう。しかし、図面は本開示のいくつかの実施形態のみを示し、したがって、他の等しく有効な実施形態を認めることができるので、本開示の範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の装置の外形を含む患者の顎構造の側面図を示す。
【0021】
【
図2】上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の側面図を示す。
【0022】
【
図3A】上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の斜視図を示す。
【0023】
【
図3B】前方移動を提供するための例示的なワイヤ移動機構の概略図を示す。
【0024】
【
図3C】上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の上面図を示す。
【0025】
【
図4】上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の例示的な実施形態の上面図を示す。
【0026】
【
図5】上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の例示的な実施形態の上面図を示す。
【0027】
【
図6A】顔面の非対称性を有する患者の前方図を示す。
【0028】
【
図6B】顔面の非対称性を有する患者の前方図を示す。
【0029】
【
図6C】顔面の非対称性を有する患者の前方図を示す。
【0030】
【
図6D】顔面の非対称性を有する患者の前方図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
前方、前方-側方、および/または垂直の歯科構造移動のための装置、システム、および方法の実施形態の特徴および利点、ならびに明らかになるであろう他のものがより詳細に理解され得るように、本明細書の一部を形成する添付の図面に示される、その実施形態を参照することによって、先に簡潔に要約された本開示の実施形態のより詳細な説明がなされ得る。しかしながら、図面は本開示の様々な実施形態のみを示し、したがって、他の有効な実施形態も同様に含むことができるので、本開示の範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。
【0032】
最初に
図1を参照すると、本開示の装置の外形を含む患者の顎構造の側面図が示されている。
図1において、患者の顎構造100は、下顎構造102および上顎構造104を含む。上顎構造104は、複数の上歯108を有する上口蓋106を含む。歯108は、天然歯および人工歯を含むことができる。上顎構造104はまた、後方の既存の歯科構造118を含むことができる。後方の既存の歯科構造118は、上顎構造104に永久的にまたは一時的に組み込むことができる。後方の既存の歯科構造118は、歯などの天然構造、または歯科インプラントなどの人工構造を含むことができる。下顎構造102は、複数の下歯110を含む。上口蓋106内に配置されているのは、歯科装置112の外形であり、これについては
図2~
図5を参照してさらに説明する。歯科装置112は、挿入されて歯科用セメントまたは接着剤を介して半永久的にされ得るか、または患者および/または医師によって取り外し可能および再挿入可能であり得る。例えば、歯科装置112は、歯科装置112が上口蓋106および複数の上歯108内に挟み込んで嵌合するように、上口蓋106および複数の上歯108の患者固有の型に嵌合するようにカスタム製造することができる。歯科装置112からの1つ以上の金属延長部は、複数の上歯108の間、または後方の既存の歯科構造118の間に歯科装置112を固定するのを助けることができる。
【0033】
上前口蓋114および上前歯116は、矢印Aで示されるように、歯科装置112によって加えられる前方移動および圧力を経験する。上前口蓋114および上前歯116はまた、別々にまたは同時に、矢印Vで示されるように、歯科装置112によって加えられる垂直移動および圧力を経験し得る。このような垂直力Vは、1つ以上のヒンジのような機器の回転移動によって生じ得る。回転移動は一般に
図1の矢印Rとして参照され、ヒンジは
図2および
図3に関してさらに説明される。上口蓋106および複数の上歯108を含む上顎構造104の、前方および/または上方への垂直移動(任意選択で側方移動に加える)は、唇支持、骨構造支持、および左右対称性のための患者の顔面の最良の比率によって決定されるような顔面の左右対称性のための上前口蓋114および上前歯116の最適な配置を可能にする。
【0034】
重要なことは、このような前方、垂直、および/または側方の移動と圧力を、患者の口の片側または患者の口の両側に同時に加えることができることである。本明細書全体を通して記載されるように、装置は上顎構造104などの患者の口の上部における移動のために適用されるが、当業者は、このような装置が複数の下歯110を含む下顎構造102に移動を加えるために、患者の口の下部において等しく良好に適用され得ることを理解するであろう。
【0035】
ここで
図2を参照すると、上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直方向の移動を提供するための、患者の上顎構造上で使用するための本開示の歯科装置の側面図が示される。歯科装置200は、前方部分202および後方部分204を含む。後方部分204は、後方の既存の歯科構造、例えば後方の既存の歯科構造118に固定することができる。前方部分202は、例えば
図1に示される上前口蓋114および上前歯116のような既存の前方の歯科構成要素に対して、前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供し得る。連結ワイヤ206は、前方部分202を後方部分204に連結し、いくつかの実施形態では最終的に、
図3Cに関してより詳細に記載される、歯科装置の4つの部分を連結する。
【0036】
矢印Aの前方方向における連結ワイヤ206の前方移動は、前方部分202の前方移動を可能にする。前方回転分離構成要素208は、1つ以上の分離装置が前方部分202を後方部分204から分離することを可能にする。例えば、示されるように、前方回転分離構成要素208は、連結ワイヤ206が方向Aに移動するとき、一実施形態ではネジの回転に伴い(
図3Aおよび3Bに関してより詳細に記載される)、方向Aにおける前方移動を可能にし、前方回転分離構成要素208はまた、前方回転分離構成要素208の回転Rによって、矢印Vの方向における前方部分の垂直移動を可能にする。連結ワイヤ206はまた、必要に応じて方向Vにわずかに曲げられて、上前口蓋114および上前歯116に方向Rの回転圧力を提供し得、連結ワイヤ206はまた、わずかに側方外向きに曲げられて、患者の歯のいずれかの側に外向きの側方圧力を提供し得る。
【0037】
前方部分202の前方移動Aおよび垂直移動Vは、歯科装置200が上口蓋106および複数の上歯108を含む上顎構造104に圧力を加えることを可能にし、それにより、唇支持、骨構造支持、および左右対称性のための患者の顔面の最良の比によって決定されるような顔面の左右対称性のための、上前口蓋114および上前歯116の最適な配置が可能になる。
【0038】
図示されるような前方回転分離構成要素208の実施形態では、前方基部210は前方部分202の材料に固定され、後方基部212は後方部分204の材料に固定される。後方ジョイント214および前方ジョイント216は独立して回転することができ、連結ワイヤ206の周りを旋回することを促すことができる。言い換えれば、前方部分202および後方部分204がその周りで屈曲することができるヒンジ点220が作り出される。図示の実施形態では、例えば、後方ジョイント214および前方ジョイント216を回すと、それぞれ後方基部212および前方基部210からのそれらの分離が増加し、前方部分202および後方部分204の下部が分離し、前方移動Aがもたらされる。加えて、後方ジョイント214および前方ジョイント216が回され、それぞれ後方基部212および前方基部210から分離すると、ヒンジ点220の周りの前方部分202の回転、および「V」によって示される前方部分202の持ち上げがもたらされる。このように、後方ジョイント214および前方ジョイント216を回転させることにより、回転R、前方移動A、および垂直移動Vが生じる。いくつかの実施形態では、後方ジョイント214、前方ジョイント216、またはその両方は適所で回転され、したがって、後方基部212および前方基部210からの後方ジョイント214および前方ジョイント216の分離をもたらさず、前方移動Aをほとんどまたは全くもたらさないが、それでも回転Rおよび垂直移動Vをもたらす。結果として生じる前方部分202に加えられる力は、上口蓋106および複数の上歯108を含む上顎構造104に伝達され、唇支持、骨構造支持、および左右対称性のための患者の顔面の最良の比によって決定されるような顔面の左右対称性のための上前口蓋114および上前歯116の最適な配置を可能にする。
【0039】
連結ワイヤ206は、構成要素208、210、212、214、および216を通って延び、構成要素202、204内に固定される。連結ワイヤ206の最前部および最後部は、それぞれ、前方部分202および後方部分204内に配置される。連結ワイヤ206は、前方部分202の内側を滑って動くことができる。この構成は、構成要素208、210、212、214、および216が連結ワイヤ206に沿って軸方向にのみ移動することを可能にし、いくつかの実施形態では側方の分離を防止する。安定化ワイヤ224は、前方部分202および後方部分204を内側に連結して、これらの部分を連結するさらなる支持を提供する。安定化ワイヤ224は、安定化ワイヤ224の曲げによって垂直面または側方面に付加的な力を与えることができる。
【0040】
前方回転分離構成要素208に加えて、またはそれに代えて、1つ以上の単純な調節可能係止ヒンジを、連結ワイヤ206に加えて、前方部分202と後方部分204との間に配置することができる。このヒンジは、連結ワイヤ206上に位置決めすることができる。調整可能係止ヒンジは、ギア、ネジ、または他の機械的機構を含むことができる。例えば、唇支持、骨構造支持、および左右対称性に対する患者の顔面の最良の比率によって決定される顔面の左右対称性のために、上前口蓋114および上前歯116に対してさらなる移動および圧力が所望される場合、患者または歯科医によって後方部分204と前方部分202との間のヒンジが緩められ、回転方向Rにわずかに拡張されて、前方部分202と後方部分204との間により弧形を提供し、装着のために(例えば、ネジまたはキー機構を用いて)係止され得る。
【0041】
図3Aは、上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために、患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の側面斜視図を示す。後方部分302、前方構成要素306、およびワイヤ304を有する歯科装置300において、ネジ基部21は後方部分302の後部に固定され、ネジ22はネジ基部21の内外への回転を可能にする。ワイヤ304は、ネジ22に位置する一端と、前方構成要素306に埋め込まれる反対端とを有する。ネジ22が回転してネジ基部21から前方方向Aに延びると、ワイヤ304も前方方向Aに移動し、前方構成要素306に移動および圧力を加える。安定化ワイヤ324は、前方構成要素306および後方部分302を連結して、これらの部分を連結するさらなる支持を提供する。前方構成要素306に加えられる結果として生じる力は、上口蓋106を含む上顎構造104に伝達され、複数の上歯108は、唇支持、骨構造支持、および左右対称性のための患者の顔面の最良の比によって決定されるような顔面の左右対称性のための、上前口蓋114および上前歯116の最適な配置を可能にする。ワイヤ304はまた、口蓋または顎構造に対して垂直方向の圧力を提供するために、回転移動においてわずかに曲げられ得る。
【0042】
図3Bは、ワイヤ304と、ネジ基部21およびネジ22の、
図3Aからの拡大概略図を示す。ワイヤ304は、ネジ22に固定されるか、あるいは取り付けることができる。
【0043】
図3Cは、上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために、患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の上面断面図を示す。装置400において、後方部分11、12は、ワイヤ402によって前方部分13、14に連結されて示されている。
図2、
図3A、および
図3Bに関して説明したように、前方方向Aへのワイヤ402の移動は、前方部分13、14のいずれかまたは両方の前方方向Aへの移動を可能にし、それにより、唇支持、骨構造支持、および左右対称性のための患者の顔面の最良の比率によって決定されるような顔面の左右対称性のための、上前口蓋114および上前歯116の最適な配置が可能になる。後方部分11と前方部分13との間の第1ヒンジ404の位置、および後方部分12と前方部分14との間の第2ヒンジ406の位置は、
図2に関して記載されるように、前方部分13、14のいずれかまたは両方の回転/垂直移動を可能にする。
【0044】
図3Cの実施形態では、前方部分13、14の間のワイヤ402内にワイヤループ408が存在し、患者または歯科医はワイヤループ408を広げるまたは狭める調節をして、前方部分13、14の側方移動Lを可能にすることができる。ワイヤ402の調節によって提供される前方および側方移動は、方向ALとして示される前方部分13、14の前方-側方移動を可能にする。
【0045】
図4は、上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために、患者の上顎構造上で使用するための、本開示の歯科装置の例示的な実施形態の上面図を示す。装置430は、患者の上歯科構造内で装置430を安定させるための、後方歯アンカー432、434および前方歯アンカー436を含み、拡張ヒンジ438、440は、圧力印加に伴って、前方、側方、および垂直方向に、ゆっくりとした段階的な移動および拡張を可能にする。拡張ヒンジ438および440は、本明細書に開示されるヒンジのいずれかを含むことができる。装置430は、圧力を分配して痛みを伴う圧力点を回避するために、ゲル状物質で作られた軟質パッド442、444、446を含む。軟質パッド442、444、446は、上前口蓋114および上前歯116に沿って分配される付加的な圧力を提供する。追加の軟質パッド442、444、446が追加されると、上前口蓋114および上前歯116に付加的な圧力が提供される。軟質パッドは、パッディングおよび圧力分配を提供できる任意の材料から作ることができる。軟質パッドは歯科装置に取り付けることができ、取り外すことができる。
【0046】
図5は、上顎構造の構成要素に前方、前方-側方、および/または垂直移動を提供するために、患者の上顎構造上で使用するための、本開示の例示的な実施形態の歯科装置530の上面図を示す。歯科装置は、個々の患者の上口蓋構造に適合するように成形され、上前歯と同じ高さに位置する。歯科装置530は、患者の上歯科構造内で歯科装置530を安定させるために、後方歯アンカー532、534および前方歯アンカー536を含み、拡張ヒンジ538、540は、圧力印加に伴って、前方方向A、側方向L、前方-側方向AL、および垂直方向(図示せず)に、ゆっくりとした段階的な移動および拡張を可能にする。拡張ヒンジ538および540は、本明細書に開示されるヒンジのいずれかを含むことができる。いくつかの他の実施形態では、前方移動のみ、または垂直移動のみが、例えば装置のいずれかの側面のみに提供される。
【0047】
図6A、
図6B、
図6C、および
図6Dは、本明細書で開示される装置によって完全にまたは部分的に対処することができる様々な形態の顔面の非対称性を示す。
図6Aは、ほぼ左右対称的な上顎構造および唇、ならびに非対称的な下顎を有する顔面を描写する。下顎構造605の非対称性は、垂直軸601および水平軸602に対して下顎の左右の側面を比較することによって見ることができる。下顎および下顎構造605に前方および下向きの垂直力を与えることにより、顔の左右対称性を改善することができ、その結果、より左右対称的な外観が得られる。
図6Bは、非対称な上顎構造および非対称な唇、ならびに不十分な唇支持を有する顔面を描写する。上顎構造606は、垂直軸601を挟んで非対称である。唇607は垂直軸601を挟んで非対称であり、水平軸602を挟んで非対称に配置されている。前方力を介して十分な唇支持を提供し、上顎構造606の部分にさらなる前方および垂直力を提供することで、唇607および上前口蓋114の再配置をもたらし、適切なレベルの顔面の左右対称性を提供することができる。
図6Cは、非対称な唇および不十分な唇支持を有する顔面を示す。唇607は垂直軸601を挟んで非対称であり、水平軸602を挟んで非対称に配置されている。上歯(図示せず)および上顎構造606上に前方力および垂直力を介して十分な唇支持を提供することにより、適切なレベルの顔面の左右対称性をもたらすことができる。
図6Dは、非対称な唇および非対称な下顎を有する顔面を描写する。下顎および下顎構造605に前方および下向きの垂直力を与えることにより、顔面の左右対称性を改善することができ、その結果、より左右対称的な外観が得られる。前方力を介して十分な唇支持を提供し、上顎構造606および上前口蓋114の部分にさらなる前方力および垂直力を提供することで、適切なレベルの顔面の左右対称性をもたらすことができる。
【0048】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。
【0049】
図面および明細書では、本開示の前方、前方-側方、および/または垂直の歯科構造移動のための装置、システム、および方法の実施形態が開示されており、特定の用語が使用されているが、これらの用語は説明的な意味でのみ使用され、限定の目的ではない。本開示の実施形態は、これらの例示された実施形態を特に参照してかなり詳細に説明されてきた。しかしながら、前述の明細書に記載されているように、本開示の精神および範囲内で様々な修正および変更を行うことができ、そのような修正および変更は、本開示の同等物および一部と見なされるべきであることは明らかであろう。