(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】デリバリシャフトおよびデリバリシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/962 20130101AFI20240301BHJP
【FI】
A61F2/962
(21)【出願番号】P 2022504900
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009532
(87)【国際公開番号】W WO2021176672
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 正宗
(72)【発明者】
【氏名】須田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大森 雄一
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/028272(WO,A1)
【文献】特表平09-512194(JP,A)
【文献】特表2014-529417(JP,A)
【文献】特表2007-533359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0247213(US,A1)
【文献】特表2001-506902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0030709(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/962
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管治療装置を構成するステントグラフト部を体内の目的部位に搬送するためのデリバリシャフトであって、シャフト本体と、前記シャフト本体の基端側に装着されたグリップと、前記シャフト本体の先端
部分に装着された先端チップとを備えてなり、
前記先端チップは、先端方向に拡径する拡径部と、
前記拡径部の先端に連続して当該拡径部の最大径を直径とする実質的に半球形状の最先端部とを有し、
前記先端チップには、前記ステントグラフト部の縮径状態を解除する操作ワイヤの先端を収容して保持する少なくとも1つの孔が形成されていることを特徴とするデリバリシャフト。
【請求項2】
前記拡径部における最大径D
1が8~20mmであり、前記最先端部における曲率半径Rが0.25D
1~0.75D
1の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のデリバリシャフト。
【請求項3】
前記拡径部における最小径をD
2とし、当該拡径部の軸方向長さをLとするとき、D
1/D
2の値が1.1~10であり、(D
1-D
2)/Lの値が0.07~3であることを特徴とする請求項2に記載のデリバリシャフト。
【請求項4】
前記拡径部の拡径率が軸方向に沿って連続的に変化していることを特徴とする請求項2または3に記載のデリバリシャフト。
【請求項5】
前記拡径部の拡径率が先端に向かって連続的に増加していることを特徴とする請求項4に記載のデリバリシャフト。
【請求項6】
前記シャフト本体および前記先端チップにガイドワイヤルーメンが形成されていることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のデリバリシャフト。
【請求項7】
請求項2に記載のデリバリシャフトの前記シャフト本体に、ステントグラフト部を有する血管治療装置が搭載されてなるデリバリシステムであって、
前記ステントグラフト部は縮径状態に拘束されており、
前記ステントグラフト部の縮径状態の外径をd
61とし、当該ステントグラフト部の拡径状態の内径をD
61とするとき、式:d
61<D
1≦0.8D
61が成立することを特徴とするデリバリシステム。
【請求項8】
前記ステントグラフト部を縮径状態に拘束するスリーブと、
その基端を引張操作することによって、前記スリーブによる前記ステントグラフト部の拘束を解除する操作ワイヤとを備えてなることを特徴とする請求項7に記載のデリバリシステム。
【請求項9】
前記スリーブは、縮径状態の前記ステントグラフト部を包み込むようにして巻回された矩形シートの両側を、前記操作ワイヤにより、軸方向に沿って抜糸可能に縫合することにより形成されていることを特徴とする請求項8に記載のデリバリシステム。
【請求項10】
前記血管治療装置は、前記ステントグラフト部と人工血管部とが縫合により連結されてなり、前記人工血管部は、少なくとも1本の側管が主管から派生している分枝付きの人工血管からなることを特徴とする請求項7~9の何れかに記載のデリバリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管治療装置のデリバリシャフトおよびデリバリシステムに関し、更に詳しくは、血管治療装置を構成するステントグラフト部を体内の目的部位に搬送するためのデリバリシャフト、およびこのデリバリシャフトに、ステントグラフト部を有する血管治療装置が装着されてなるデリバリシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈瘤や大動脈解離など、胸部大動脈における疾患を治療する方法として、人工血管置換術およびステントグラフト内挿術が行なわれている。
【0003】
ここに、大動脈弓部を置換する人工血管置換術に使用する人工血管として、4本の側管が主管から派生してなる分枝付きの人工血管が知られている(下記特許文献1参照)。
他方、ステントグラフト内挿術に使用するステントグラフトとしては種々のものが知られており、例えば、OSG(Open Stent Graft)法による治療の際の利便性を向上させることが可能な構造のステントグラフトが本出願人により提案されている(下記特許文献2参照)。
【0004】
最近、手技の効率化を企図して、4本の側管が主管から派生してなる分枝付き人工血管と、ステントグラフトとが縫合されて一体化された構造の血管治療装置である大動脈治療装置が本出願人により提案されている(下記特許文献3参照)。
【0005】
一方、ステントグラフトを体内の目的部位に搬送するための装置として、自己拡張型のステントグラフトを搭載するカテーテルシャフトと、カテーテルシャフトの先端に固定された先端チップと、カテーテルシャフトに搭載されたステントグラフトを縮径状態に拘束するスリーブとを備えてなるデリバリシャフトが提案されている(下記特許文献4参照)。
【0006】
このデリバリシャフトを構成するスリーブは、縮径状態のステントグラフトを包み込むようにしてシートを巻回し、当該シートの両側をワイヤによって抜き取り可能に縫合することにより形成されている。このデリバリシャフトに搭載されたステントグラフトを体内の目的部位に到達させた後、ワイヤの基端を引張して当該ワイヤを抜き取ることにより、スリーブによる拘束が先端から基端に向かって順次解除されてステントグラフトが拡張し、これにより、拡張されたステントグラフトが目的部位に留置される。
【0007】
ところで、特許文献4に開示されているデリバリシャフトを構成する先端チップは砲弾形状を有し、先端チップの最大径(基端の直径)は、縮径状態におけるステントグラフトの外径と同一とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-308330号公報
【文献】特開2017-23464号公報
【文献】特開2019-154666号公報
【文献】特許第6480382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
然るに、上記の特許文献4に記載されたデリバリシャフトにおいては、これを構成する砲弾形状の先端チップが血管の内壁を傷付けたり、血管の内壁に付着しているプラークを剥離したりするおそれがある。
【0010】
このような問題に対して、先端チップのサイズを大きくすることも考えれる。
しかしながら、先端チップのサイズを大きくしたとしても、その先端が尖鋭であるため、上記の問題を解決することはできない。
また、先端チップのサイズ(基端の直径)を、縮径状態のステントグラフトの外径より大きくすると、先端チップの基端縁によって血管の内壁が傷付けられることも考えられる。
【0011】
また、特許文献4に記載されたデリバリシャフトを、目的部位に留置した後のステントグラフトから抜去する際に、砲弾形状の先端チップの基端縁が、ステントグラフトを構成するステントに引っ掛かって、このデリバリシャフトをスムーズに抜去できないおそれがある。
【0012】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、血管治療装置を構成するステントグラフト部の搬送時に先端チップによって血管の内壁が傷付けられたりプラークが剥離されたりすることがなく、目的部位に留置した後のステントグラフト部からスムーズに抜去することができる血管治療装置のデリバリシャフトを提供することにある。
本発明の他の目的は、血管治療装置を構成するステントグラフト部の搬送時に先端チップによって血管の内壁が傷付けられたりプラークが剥離されたりすることがなく、目的部位に留置した後のステントグラフト部からデリバリシャフトをスムーズに抜去することができる血管治療装置のデリバリシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明のデリバリシャフトは、血管治療装置を構成するステントグラフト部を体内の目的部位に搬送するためのデリバリシャフトであって、シャフト本体と、前記シャフト本体の基端側に装着されたグリップと、前記シャフト本体の先端側に装着された先端チップとを備えてなり、
前記先端チップは、先端方向に拡径する拡径部と、
前記拡径部の先端に連続して当該拡径部の最大径を直径とする実質的に半球形状の最先端部とを有していることを特徴とする。
【0014】
このような構成のデリバリシャフトによれば、先端チップの最先端部が拡径部の最大径を直径とする実質的に半球形状を有しているので、当該最先端部が血管の内壁に当接しても当接部位に応力が集中することはなく、最先端部によって血管の内壁が傷付けられたり、血管の内壁に付着しているプラークが剥離されたりすることはない。
【0015】
また、先端チップの最先端部の基端側には、先端方向に拡径する(基端方向に縮径する)拡径部が形成され、最先端部の基端からシャフト本体の先端に至るまでに先端チップの径が急激に変化することがないので、最先端部の基端側に位置する部分によって血管の内壁が傷付けられたりすることもない。
【0016】
また、拡径部の先端に連続して半球形状の最先端部が形成され、拡径部と最先端部との境界には鋭いエッジや段差が存在しないので、この境界部分によって血管の内壁が傷付けられたりすることもない。
【0017】
さらに、拡径部と最先端部との境界に鋭いエッジや段差が存在しないので、目的部位に
留置した後のステントグラフト部からデリバリシャフトを抜去する際に、前記境界部分がステントグラフト部を構成するステントに引っ掛かっるおそれがなく、基端方向に縮径している拡径部のテーパ形状と相まって、先端チップを備えたデリバリシャフトをスムーズに抜去することができる。
【0018】
(2)本発明のデリバリシャフトにおいて、前記拡径部における最大径D1 が8~20mmであり、前記最先端部における曲率半径Rが0.25D1 ~0.75D1 の範囲にあることが好ましい。
【0019】
このような構成のデリバリシャフトによれば、先端チップの最先端部の直径と一致する拡径部の最大径D1 が8mm以上であり、最先端部における曲率半径Rが0.25D1 ~0.75D1 であることにより、最先端部は滑らかな曲面を有する実質的に半球形状となり、最先端部が当接した部位において応力の集中を確実に防止することができる。
また、拡径部の最大径D1 が20mm以下であることにより、目的部位に至る血管(例えば、大動脈下行部)に先端チップを十分に挿通させることができる。
【0020】
(3)本発明のデリバリシャフトにおいて、前記拡径部における最小径をD2 とし、当該拡径部の軸方向長さをLとするとき、D1 /D2 の値が1.1~10であり、(D1 -D2 )/Lの値が0.07~3であることが好ましい。
【0021】
D1 /D2 の値が1.1以上であることにより、拡径部における最大径D1 延いては、最先端部における曲率半径Rを十分に大きくすることができる。
他方、D1 /D2 の値が10以下であることにより、最先端部の実質的形状である半球の直径が過大となることを防止することができる。
また、(D1 -D2 )/Lの値が0.07~3であることにより、本発明の効果を発揮する上で好適なテーパ形状の拡径部を形成することができる。
【0022】
(4)上記(2)または(3)のデリバリシャフトにおいて、前記拡径部の拡径率が軸方向に沿って連続的に変化していることが好ましい。
【0023】
この明細書において「拡径部の拡径率」とは、拡径部における異なる軸方向位置A、Bでの先端チップの外径を、それぞれ、DA 、DB (但し、DB >DA )とするとき、式:〔(DB -DA )/(位置Aと位置Bの離間距離)〕×100(%)で表される値をいう。
【0024】
ここに、拡径率が一定である拡径部は円錐台形状となり、拡径率が軸方向に沿って連続的に変化する拡径部は、中心軸に沿って外側または内側に湾曲した円錐台近似形状となる。
例えば、先端に向かって拡径率が連続的に減少している拡径部は、
図12に示すように、中心軸に沿って外側に湾曲した円錐台近似形状となり、そのような拡径部と最先端部との境界部分の形状がより滑らかとなり、そのような先端チップを備えたデリバリシャフトであれば、目的部位に留置した後のステントグラフト部からよりスムーズに抜去することができる。
【0025】
(5)上記(4)のデリバリシャフトにおいて、前記拡径部の拡径率が、先端に向かって連続的に増加していることが好ましい。
【0026】
先端に向かって拡径率が連続的に増加している拡径部は、
図13に示すように、中心軸に沿って内側に湾曲した円錐台近似形状(ラッパ状)となり、そのような形状の拡径部を有する先端チップは、ステントグラフト部の先端部とのフィッティング性に優れたものと
なる。
【0027】
(6)本発明のデリバリシャフトにおいて、前記シャフト本体および前記先端チップに、ガイドワイヤルーメンが形成されていることが好ましい。
【0028】
このような構成のデリバリシャフトによれば、ガイドワイヤに沿って血管内に挿通させることができるので、目的部位に至る血管の形状が複雑なものであっても、ステントグラフト部を確実に搬送することができる。
【0029】
(7)本発明のデリバリシステムは、上記(2)のデリバリシャフトの前記シャフト本体に、ステントグラフト部を有する血管治療装置が搭載されてなるデリバリシステムであって、
前記ステントグラフト部は縮径状態に拘束されており、
前記ステントグラフト部の縮径状態の外径をd61とし、当該ステントグラフト部の拡径状態の内径をD61とするとき、式:d61<D1 ≦0.8D61が成立することを特徴とする。
【0030】
このような構成のデリバリシステムによれば、拡径部の最大径D1 がステントグラフト部の縮径状態の外径d61より大きいことにより、縮径状態のステントグラフト部の先端は、拡径部の外周面と接触して血管内壁に直接接触することはないので、ステントグラフト部の先端によって血管の内壁を傷付けることを防止できる。
また、拡径部の最大径D1 が、ステントグラフト部の拡径状態の内径D61の80%以下であることにより、目的部位に留置されたステントグラフト部が血管内壁により圧縮されてある程度縮径している場合であっても、当該ステントグラフト部からデリバリシャフトを確実に抜去することができる。
【0031】
(8)本発明のデリバリシステムにおいて、前記ステントグラフト部を縮径状態に拘束するスリーブと、
その基端を引張操作することによって、前記スリーブによる前記ステントグラフト部の拘束を解除する操作ワイヤとを備えてなることが好ましい。
【0032】
このような構成のデリバリシステムによれば、ステントグラフト部を体内の目的部位に到達させた後、操作ワイヤの基端を引張操作することにより、スリーブによるステントグラフト部の拘束を、先端から基端に向かって順次解除することができる。
【0033】
(9)上記(8)のデリバリシステムにおいて、前記スリーブは、縮径状態の前記ステントグラフト部を包み込むようにして巻回された矩形シートの両側を、前記操作ワイヤにより、軸方向に沿って抜糸可能に縫合することにより形成されており、
前記先端チップには、前記操作ワイヤの先端を収容して保持する少なくとも1つの孔が形成されていることが好ましい。
【0034】
このような構成のデリバリシステムによれば、先端チップに形成されている孔に操作ワイヤの先端が収容されて保持されることにより、操作ワイヤの先端が血管の内壁に直接接触することがなく、操作ワイヤの先端によって血管の内壁が傷付けられることを防止することができる。
【0035】
(10)本発明のデリバリシステムにおいて、前記血管治療装置は、前記ステントグラフト部と人工血管部とが縫合によって連結されてなり、前記人工血管部は、少なくとも1本の側管が主管から派生している分枝付きの人工血管からなることが、手技の効率化を図る観点から好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明のデリバリシャフトによれば、血管治療装置を構成するステントグラフト部の搬送時において、先端チップによって血管の内壁が傷付けられたりプラークが剥離されたりすることがない。また、目的部位に留置した後のステントグラフト部からスムーズに抜去することができる。
本発明のデリバリシステムによれば、血管治療装置を構成するステントグラフト部の搬送時において、先端チップによって血管の内壁が傷付けられたりプラークが剥離したりすることがない。また、目的部位に留置した後のステントグラフト部からデリバリシャフトをスムーズに抜去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一実施形態に係るデリバリシャフトの正面図である。
【
図2】
図1に示したデリバリシャフトの縦断面図である。
【
図3A】
図1に示したデリバリシャフトの端面図(III-III端面図)である。
【
図3B】
図1に示したデリバリシャフトの横断面図(III-III断面図)である。
【
図4A】
図1に示したデリバリシャフトの端面図(IV-IV端面図)である。
【
図4B】
図1に示したデリバリシャフトの横断面図(IV-IV断面図)である。
【
図5】
図1に示したデリバリシャフトの部分拡大正面図(V部詳細図)である。
【
図8】
図1に示したデリバリシャフトを構成する分枝固定具の説明図ある。
【
図9】
図8に示した分枝固定具の断面図(IX-IX断面図)である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るデリバリシステムの正面図である。
【
図11】
図10に示したデリバリシステムを構成する大動脈治療装置の正面図である。
【
図12】先端に向かって拡径率が連続的に減少する拡径部を有する先端チップの形状を示す模式図である。
【
図13】先端に向かって拡径率が連続的に増加する拡径部を有する先端チップの形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<デリバリシャフト>
図1~
図7に示す本実施形態のデリバリシャフト100は、大動脈治療装置(血管治療装置)のステントグラフト部を体内の目的部位に搬送するためのデリバリシャフトであって、シャフト本体10と、このシャフト本体10の基端側に装着されたグリップ20と、シャフト本体10の先端側に装着された先端チップ30と、グリップ20の先端に固定された分枝固定具40とを備えてなり、先端チップ30は、円筒部37と、この円筒部37の先端に連続して先端方向に拡径する拡径部31と、この拡径部31の先端に連続して当該拡径部31の最大径D
1 を直径とする実質的に半球形状の最先端部35とを有している。
【0039】
デリバリシャフト100を構成するシャフト本体10は、可撓性を有する管状構造体であり、軸方向(長手方向)に沿って延伸する形状となっている。
図2に示すように、シャフト本体10は、軸方向を先端から基端に向かって、先端領域10A、中間領域10Bおよび基端領域10Cを、この順に有している。
【0040】
シャフト本体10の先端領域10Aは、
図11に示す大動脈治療装置(血管治療装置)
60のステントグラフト部61が装着される領域である。先端領域10Aに搭載されたステントグラフト部61は、
図10に示すスリーブ70により縮径状態に拘束される。なお、
図10では、スリーブ70に内包されているステントグラフト部は図示されていない。
【0041】
シャフト本体10の中間領域10Bは、
図11に示す大動脈治療装置60の人工血管部66の主管661が装着される領域である。
【0042】
図2に示すように、シャフト本体10の基端領域10Cは、グリップ20内に収容される領域である。
【0043】
図1および
図2に示すように、先端領域10Aと中間領域10Bとの間には、フレア部16が設けられている。このフレア部16は、先端側に張り出した漏斗状の形状を有している。フレア部16が設けられていることにより、ステントグラフト部61が基端方向にずれることを防止できる。
【0044】
シャフト本体10の長さ(全長)は、通常290~605mmとされ、好ましくは340~505mm、好適な一例を示せば410mmである。
先端領域10Aの長さは、装着されるステントグラフト部の長さに応じて適宜設定することができ、通常20~200mmとされ、好ましくは25~150mm、好適な一例を示せば125mmである。
中間領域10Bの長さは、通常50~300mmとされ、好ましくは100~200mm、好適な一例を示せば140mmである。
【0045】
先端領域10Aの外径は、通常1.0~8.0mmとされ、好ましくは1.5~6.0mm、好適な一例を示せば3.6mmである。
中間領域10Bの外径は、通常2~10mmとされ、好ましくは3~8mm、好適な一例を示せば5.0mmである。
フレア部16の外径(先端における最大径)は、縮径状態のステントグラフト部の径に応じて適宜設定することができ、通常3~15mmとされ、好ましくは5~10mm、好適な一例を示せば9.1mmである。
【0046】
図3Aおよび
図3Bに示すように、シャフト本体10の中間領域10Bは、チューブ部材11と、被覆層12と、芯材13(131,132,133,134)と、補強層14と、樹脂被覆層15とを備えている。
【0047】
図4Aおよび
図4Bに示すように、シャフト本体10の先端領域10Aは、チューブ部材11と、被覆層12と、芯材13(131,132,133,134)とを備えている。
【0048】
シャフト本体10のチューブ部材11は、軸方向に沿って形成されたルーメン11Lを有するシングルルーメン構造のチューブからなる。このルーメン11Lは、シャフト本体10におけるガイドワイヤルーメンとして機能する。
ルーメン11Lの径は、通常0.9~2.5mmとされ、好適な一例を示せば1.12mmである。
【0049】
チューブ部材11の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド等の合成樹脂を挙げることができる。
【0050】
シャフト本体10の被覆層12は、ルーメン11Lの内周面を被覆しており、ルーメン
11Lにガイドワイヤを挿通する際の滑り材として機能する。
被覆層12の厚さは、通常0.03~0.08mmとされる。
被覆層12の構成材料としては、PFA,PTFEなどのフッ素系樹脂などを挙げることができる。
【0051】
シャフト本体10の芯材13は、塑性変形性を有する部材であり、シャフト本体10の内部において、チューブ部材11の軸方向に沿って延在するようになっている。
芯材13は、チューブ部材11内において互いに並行に4本(芯材131,132,133,134)設けられている。
芯材13(131~134)は円柱状の部材であり、シャフト本体10の略全長(先端領域10A、中間領域10Bおよび基端領域10Cの各領域)にわたって設けられている。これにより、シャフト本体10における剛性が十分に確保され、シャフト本体10の操作性が向上するようになっている。
【0052】
芯材13の構成材料としては塑性変形性を有する金属を挙げることができる。
芯材13を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金、クロムモリブデン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、タンタル合金、ジルコニウム合金、金、白金、銅、金銀パラジウム合金などの金属および合金を挙げることができる。
【0053】
シャフト本体10の補強層14は、中間領域10Bおよび基端領域10Cにおける剛性を確保するための補強部材である。この補強層14は、中間領域10Bおよび基端領域10Cにおいて、チューブ部材11の外周面を覆うように配置されている。
補強層14には、1または複数のスリットが形成されていてもよい。
補強層14の厚みは、通常0.1~0.3mmである。
補強層14の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属材料を挙げることができる。
【0054】
シャフト本体10の樹脂被覆層15は、補強層14の外周面を被覆する樹脂層である。樹脂被覆層15の構成材料としては、例えばポリエーテルブロックアミドなどを挙げることができる。
【0055】
本実施形態のデリバリシャフト100を構成するグリップ20は、シャフト本体10の基端側(基端領域10C)に装着されており、デリバリシャフト100の使用時に操作者が掴む(握る)部分である。このグリップ20は、その軸方向に沿って延在する形状となっている。
【0056】
グリップ20の長さは、通常50~200mmとされ、好ましくは60~180mm、好適な一例を示せば130mmである。
グリップ20の外径は、通常3~30mmとされ、好ましくは5~25mm、好適な一例を示せば20mmである。
グリップ20の構成材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂を挙げることができる。
【0057】
本実施形態のデリバリシャフト100を構成する先端チップ30は、シャフト本体10の先端側に装着されている。
具体的には、
図7に示すように、先端チップ30の内部空間30Lにシャフト本体10(チューブ部材11)の先端部分が挿入されることにより、先端チップ30がシャフト本体10の先端側に装着されている。
【0058】
図5~
図7に示すように、先端チップ30は、実質的に一定の外径を有する円筒部37と、この円筒部37の先端に連続して先端方向に拡径する拡径部31と、この拡径部31の先端に連続して当該拡径部31の最大径を直径とする実質的に半球形状の最先端部35とを有している。
【0059】
図5に示すように、拡径部31の最大径D
1 は、最先端部35の実質的形状である半球の直径と一致し、拡径部31の最小径D
2 は、円筒部37の外径に一致している。
【0060】
最先端部35(半球)の直径と一致する拡径部31の最大径D1 としては、通常8~20mmとされ、好ましくは10~18.4mm、好適な一例を示せば11.96mmである。
最先端部35の曲率半径Rとしては、通常0.25D1 ~0.75D1 とされ、好ましくは0.33D1 ~0.67D1 、好適な一例を示せば0.50D1 である。
【0061】
拡径部31の最大径D1 が8mm以上であり、最先端部における曲率半径Rが0.25D1 ~0.75D1 であることにより、最先端部35は滑らかな曲面を有する実質的に半球形状となり、最先端部35の当接部位において応力の集中を確実に防止することができる。
また、拡径部31の最大径D1 が20mm以下であることにより、目的部位に至る血管(例えば、大動脈下行部)に先端チップ30を十分に挿通させることができる。
【0062】
円筒部37の外径に一致する拡径部31の最小径D2 としては、通常2~7mmとされ、好ましくは3~6mm、好適な一例を示せば4.70mmである。
拡径部31の軸方向長さLとしては、通常6~15mmとされ、好ましくは7~11mm、好適な一例を示せば9.10mmである。
【0063】
拡径部31における最大径と最小径の比(D1 /D2 )は1.1~10であることが好ましく、好適な一例を示せば2.54(11.96mm/4.70mm)である。
D1 /D2 の値が1.1以上であることにより、拡径部31における最大径D1 (最先端部35の実質的形状である半球の直径)、延いては、最先端部35における曲率半径Rを十分に大きくすることができる。
他方、D1 /D2 の値が10以下であることにより、最先端部35の実質的形状である半球の直径が過大となることを防止することができる。
【0064】
拡径部31の軸方向長さLに対する最大径と最小径の差(D1 -D2 )/Lの値は0.07~3であることが好ましく、好適な一例を示せば0.80〔(11.96mm-4.70mm)/9.10mm〕である。
(D1 -D2 )/Lの値が0.07~3であることにより、本発明の効果を発揮する上で好適なテーパ形状の拡径部を形成することができる。
【0065】
図5および
図7に示すように、先端チップ30の拡径部31の拡径率は一定ではなく、先端に向かって連続的に増加している。
これにより、拡径部31は、先端チップ30の中心軸に沿って内側に湾曲した円錐台近似形状(ラッパ状)となる。
【0066】
このような円錐台近似形状の拡径部31を有する先端チップ30は、ステントグラフト部の先端部とのフィッティング性に優れており、ステントグラフト部の先端が拡径部31の先端領域(拡径率の高い領域)の外周面に当接されている状態で当該ステントグラフト部を先端方向に押圧しても、当該ステントグラフト部の先端が、拡径部31と最先端部35との境界を越えるようなことはない。
【0067】
図7に示すように、先端チップ30には、シャフト本体10(チューブ部材11)の先端部分が挿入可能な内部空間30Lと、この内部空間30Lに連通するとともに最先端部35の外周面に開口する貫通孔35Lとが形成されている。先端チップ30の内部空間30Lに挿入されているチューブ部材11のルーメン11Lと、貫通孔35Lとにより先端チップ30におけるガイドワイヤルーメンが形成されている。
【0068】
図4Bおよび
図7に示すように、先端チップ30には、内部空間30Lの周囲に等角度間隔(60°間隔)で6個の非貫通孔38が形成されている。この非貫通孔38は、後述する操作ワイヤ80の先端を収容して保持するための孔である。
【0069】
先端チップ30の構成材料としては、従来公知のデリバリシャフトを構成する先端チップに使用されていた材料をすべて使用するとができ、例えば、軟質ポリウレタン、軟質ポリエーテルブロックアミド、軟質塩化ビニル、軟質ポリオレフィン、スチレン系エラストマー等のエラストマー樹脂を挙げることができる。
更に、従来公知のデリバリシャフトを構成する砲弾形状の先端チップでは使用することができなかった比較的硬質の材料であっても使用することができる。そのような材料として、例えば、硬質ポリウレタン、硬質ポリエーテルブロックアミド、硬質ポリオレフィン、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂、およびチタンやステンレス鋼(SUS)等の金属または合金、もしくはセラミックス等を挙げることができる。
【0070】
図1および
図2に示すように、グリップ20の先端には、分枝固定具40が固定されている。
図10に示すように、本実施形態のデリバリシャフト100を構成する分枝固定具40は、大動脈治療装置60の人工血管部66を構成する4本の側管662~665を、それぞれの先端部を束ねるようにして保持する治具である。
【0071】
図8および
図9に示すように、この分枝固定具40は、グリップ20の先端部を介してシャフト本体10を挿入するための丸穴44と、この丸穴44の一方側(図面の上側)に形成された、側管662~665を挿通するためのカプセル(小判)形の長穴46と、丸穴44の他方側(図面の下側)に形成された、後述する操作ワイヤ80を挿通するための丸穴48とを有している。
【0072】
丸穴44の径は、通常5~25mmとされ、好適な一例を示せば11mmである。
長穴46の径は、4本の側管662~665の先端部を束ねて保持できる程度の大きさであり、長手方向の径が10~41mmとされ、好適な一例を示せば33mmである。短手方向の径が9~40mmとされ、好適な一例を示せば21mmである。
丸穴48の径は、操作ワイヤ80が挿通可能な大きさであり、通常0.25~2mmとされ、好適な一例を示せば0.5mmである。
【0073】
分枝固定具40の構成材料としては、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂を挙げることができる。
【0074】
本実施形態のデリバリシャフトによれば、先端チップ30の最先端部35が、滑らかな曲面を有する実質的に半球形状を有しているので、当該最先端部35が血管の内壁に当接しても、当接部位に応力が集中することはなく、最先端部35によって血管の内壁が傷付けられたり、血管の内壁に付着しているプラークが剥離されたりすることはない。
【0075】
また、先端チップ30の最先端部35の基端側には、先端方向に拡径する(基端方向に縮径する)拡径部31が形成され、最先端部35の基端から円筒部37の先端に至るまでの先端チップ30の径の変化は連続的で緩やかであるので、最先端部35の基端側に位置する部分(拡径部31および円筒部37)によって血管の内壁が傷付けられたり、血管の内壁に付着しているプラークが剥離されたりすることもない。
【0076】
また、拡径部31の先端に連続して半球形状の最先端部35が形成され、拡径部31と最先端部35との境界には鋭いエッジや段差が存在しないので、拡径部31と最先端部35との境界部分によって血管の内壁が傷付けられたり、血管の内壁に付着しているプラークが剥離されたりすることもない。
【0077】
更に、拡径部31と最先端部35との境界に鋭いエッジや段差が存在しないので、目的部位に留置した後の拡径状態のステントグラフト部61からデリバリシャフト100を抜去する際に、前記境界部分がステントグラフト部61を構成するステントに引っ掛かっるおそれがなく、基端方向に縮径している拡径部31のテーパ形状と相まって、先端チップ30を備えたデリバリシャフト100をスムーズに抜去することができる。
【0078】
<デリバリシステム>
図10に示す本実施形態のデリバリシステム300は、上述したデリバリシャフト100と、ステントグラフト部および人工血管部66を有し、デリバリシャフト100のシャフト本体に搭載された大動脈治療装置60と、大動脈治療装置60のステントグラフト部を縮径状態に拘束するスリーブ70と、その基端を引張操作することによって、スリーブ70によるステントグラフト部の拘束を解除する操作ワイヤ80と、操作ワイヤ80の基端81が固定されたクリップ90とを備えてなり、ステントグラフト部の縮径状態の外径をd
61とし、当該ステントグラフト部の拡径状態の内径をD
61とするとき、式:d
61<D
1 ≦0.8D
61が成立する。
【0079】
本実施形態のデリバリシステム300は、上記実施形態のデリバリシャフト100と、大動脈治療装置60と、スリーブ70と、操作ワイヤ80と、クリップ90とを備えている。
【0080】
デリバリシステム300を構成する大動脈治療装置60は、
図11に示すように、4本の側管662~665が主管661から派生してなる人工血管部66と、この人工血管部66の遠位端666に縫合されることにより当該人工血管部66の遠位側に連結されたステントグラフト部61と、人工血管部66の遠位端666から遠位側に延びるように形成され、翻転することによって人工血管部66の遠位端666から近位側に延びるような状態(同図に示す状態)になる、翻転自在なスカート状のカフ部63とを備えている。
【0081】
人工血管部66は、大動脈弓部を置換する部分であり、主管661と、この主管661から派生してなる4本の側管662~665を有してなる。
主管661および側管662~665は、管状編織物から構成されている。
主管661および側管662~665には、横ヒダが形成されており、伸縮や曲がりに強くて耐キンク性に優れ、人体の血管形状にも適合しやすい。
【0082】
主管661の長さ(自由長)は100~400mmであることが好ましく、好適な一例を示せば210mmとされる。
主管661の内径は16~36mmであることが好ましく、好適な一例を示せば26mmとされる。
【0083】
主管661から派生している側管662~665のうち、3本の側管は一群を形成して
おり、この群からずれて1本の側管が配置されている。
【0084】
側管662~665の長さは50~300mmであることが好ましく、好適な一例を示せば210mmとされる。
側孔管662の内径は5~14mmであることが好ましく、好適な一例を示せば11mmとされる。
側孔管663~664の内径は5~12mmであることが好ましく、好適な一例を示せば、それぞれ9mmとされる。
側管665の内径は8~12mmであることが好ましく、好適な一例を示せば9mmとされる。
【0085】
人工血管部66(主管661および側管662~665)を構成する管状編織物としては、熱可塑性樹脂繊維の織物または編物からなる管状物を用いることができ、熱可塑性樹脂繊維の平織物を好適に用いることができる。管状編織物の壁厚としては1mm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.3~0.7mmである。
【0086】
熱可塑性樹脂繊維を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリシクロヘキサンテレフタレート,ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂などを挙げることができる。これらのうち、化学的に安定で耐久性が良好で、組織反応の少ない、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂が好ましく、特に好ましくは、重量平均分子量1万~20万、特に重量平均分子量1.5万~10万のポリエステルである。
【0087】
人工血管部66はコラーゲンやゼラチン等で被覆処理されており、これにより、人工血管部66からの血液漏出を防止することができる。
【0088】
人工血管部66を構成する主管661は、
図2に示したシャフト本体10の中間領域10Bに搭載されている。
【0089】
人工血管部66を構成する側管662~665は、それぞれの先端部が束ねられた状態で分枝固定具40の長穴46に挿通され、これにより、当該側管662~665が保持されている。
【0090】
なお、長穴46に挿通されている側管662~665の先端部は、長穴46から容易に引き抜くことができる。
【0091】
分枝固定具40で側管662~665を保持することにより、従来、手術前後に行っていた煩雑な作業、すなわち、ステントグラフト部の搬送時に、これらの側管を紐で縛り、ステントグラフト部の留置後に、この紐を解くなどの作業を回避することができる。
【0092】
大動脈治療装置60を構成するステントグラフト部61は、自己拡張型のステント611と、このステント611の外周を覆うグラフト612とを備えている。
なお、
図11では、ステントグラフト部61を拡径状態で示している。
また、
図10では、スリーブ70に内包されている縮径状態のステントグラフト部を図示していないが、その外径d
61を図示している。
【0093】
ステントグラフト部61の長さは60~210mmであることが好ましく、好適な一例を示せば110mmとされる。
【0094】
縮径状態におけるステントグラフト部61の外径d61は、デリバリシャフト100を構成する先端チップ30の拡径部31の最大径D1 よりも小さい。
これにより、縮径状態のステントグラフト部61の先端は、先端チップ30の拡径部31の外周面と接触して血管内壁に直接接触することはないので、ステントグラフト部61の先端によって血管の内壁が傷付けられることを防止することができる。
縮径状態におけるステントグラフト部61の外径d61としては9~18mmであることが好ましく、好適な一例を示せば11mmとされる。
ここに、外径d61は、スリーブ70に内包されている縮径状態のステントグラフト部61の外径であり、ステントグラフト部61を内包するスリーブ70の外径より更に小さい。
【0095】
拡径状態におけるステントグラフト部61の内径D61は、デリバリシャフト100を構成する先端チップ30の拡径部31の最大径D1 の80%以下である。
これにより、目的部位に留置されたステントグラフト部61が血管内壁により圧縮されてある程度縮径している場合であっても、当該ステントグラフト部61から、先端チップ30を備えたデリバリシャフト100を確実に抜去することができる。
拡径状態におけるステントグラフト部61の内径D61としては23~39mmであることが好ましく、好適な一例を示せば27mmとされる。
【0096】
ステントグラフト部61を構成するステント611の構造は特に限定されず、ジグザグ状の線材からなる筒状構造体、1または複数の線材の編物、織物または組物、あるいはこれらを複数組み合わせた筒状の構造体、金属製の板状または筒状の構造体をレーザー加工などで加工した筒状構造体などを例示することができる。
【0097】
ステント611を構成する線材および金属製の筒状の構造体の材料としては、ステンレス、タンタル、チタン、白金、金、タングステンなど、Ni-Ti系、Cu-Al-Ni系、Cu-Zn-Al系などの形状記憶合金などの金属線材などを用いることができ、これらの表面に金、白金などをメッキなどの手段で被覆したものであってもよい。
【0098】
ステント611を構成する線材の径は特に限定されないが、0.08~1mmであることが好ましい。
ステント611を構成する金属製の筒状の構造体の厚さは特に限定されないが、0.08~1mmであることが好ましい。
【0099】
ステントグラフト部61を構成するグラフト612としては、熱可塑性樹脂を押出成形、ブロー成形などの成形方法で円筒状に形成したもの、円筒状に形成した熱可塑性樹脂の繊維の編織物、円筒状に形成した熱可塑性樹脂の不織布、円筒状に形成した熱可塑性樹脂のシートや多孔質シートなどを用いることができる。
【0100】
なお、グラフト612には横ヒダが形成されておらず、これにより、血管内壁に対する密着性が十分に確保されている。
【0101】
グラフト612を構成する熱可塑性樹脂としては、人工血管部66(管状編織物)を構成する熱可塑性樹脂繊維を形成するものとして例示した熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0102】
ステントグラフト部61(グラフト612)には、人工血管部66に施された生体適合性材料による被覆処理は施されていない。
被覆処理が施されていないステントグラフト部61は、柔軟であるため縮径しやすく、
血管とのフィッテング性が良好で、生体組織との親和性にも優れている。また、縮径状態で長期間保存した後の拡径動作に悪影響を及ぼすこともない。
【0103】
ステントグラフト部61は、
図2に示したシャフト本体10の先端領域10Aに搭載されている。
【0104】
大動脈治療装置60を構成するカフ部63は、人工血管部66と同一の材料(編織物)により、人工血管部66の遠位端666に連続して形成されている。
すなわち、人工血管部66とカフ部63とは1つの管状編織物によって形成されている。また、ステントグラフト部61は、人工血管部66の遠位端666に縫合されることにより、人工血管部66に連結されている。
これにより、大動脈治療装置60は、人工血管部66とカフ部63との一体性に優れたものとなり、人工血管部66とカフ部63との間からの血液の漏れを確実に回避することができる。
【0105】
大動脈治療装置60を構成するカフ部63は、翻転していない状態では、ステントグラフト部61の近位端部の外周を覆うように、人工血管部66の遠位端666から遠位側に延びており、カフ部63の開口端631は、人工血管部66の遠位端666の遠位側に位置している。
【0106】
カフ部63は、その基端(人工血管部66の遠位端666)の内径より開口端631の内径が大きいスカート状である。
ここに、カフ部63(前記管状編織物の拡径部分)の長さとしては5~30mmであることが好ましく、好適な一例を示せば15mmである。
【0107】
基端におけるカフ部63の内径は、人工血管部66の主管661の内径と同一である。
開口端631におけるカフ部63の内径は16~47mmであることが好ましく、好適な一例を示せば28mmである。
また、カフ部63の基端の内径(人工血管部66の主管661の内径)に対する開口端631の内径の比率は1.05~1.3であることが好ましく、好適な一例を示せば1.08(28mm/26mm)である。
【0108】
内径の比率が1.05以上であることにより、遠位側大動脈の近位端の形状(サイズ)が大きくなっていたとしても容易に縫合を行なうことができる。また、カフ部の翻転操作も容易である。
なお、内径の比率が過大(開口端631の内径>>基端の内径)になると、遠位側大動脈の近位端部との縫合が困難になるが、内径の比率が1.3以下であることにより、遠位側大動脈の近位端部との縫合を容易に行うことができる。
【0109】
カフ部63は、めくれる(内周と外周が逆になる)ように翻転させることができる。
図11は、カフ部63が翻転した状態を示しており、翻転後のカフ部63は、人工血管部66の遠位端666から近位側に延びており、カフ部63の開口端631は、人工血管部66の遠位端666の近位側に位置している。
【0110】
カフ部63は、コラーゲンやゼラチン等で被覆処理されており、これにより、カフ部63からの血液漏出を防止することができる。
【0111】
デリバリシステム300を構成するスリーブ70は、大動脈治療装置のステントグラフト部61を縮径状態に拘束している部材である。
スリーブ70は、縮径状態のステントグラフト部61を包み込むようにして矩形シート
(
図11に示す矩形シート70S)を巻回し、この矩形シートの両側を、操作ワイヤ80により、軸方向に沿って、抜糸可能に縫合(なみ縫い)することによって形成されている。
【0112】
図11に示す矩形シート70Sは、その中心線70CL上における少なくとも一点、好ましくは基端側の一点において、ステントグラフト部61(グラフト612)の外周に縫合により固着されている。これにより、
図10に示したスリーブ70において、ステントグラフト部61の外周に固着されている部分と、矩形シート70Sの両側を操作ワイヤ80で縫合(なみ縫い)してなる部分とは、互いの位相が180°異なっている。
【0113】
この明細書において「位相」とは、デリバリシャフト(デリバリシステム)の周方向における位置(以下、単に「周方向位置」という)を、基準位置に対する角度で示したものをいう。
ここに、側管662~664が派生している人工血管部66の部分を基準位置(0°)としたときには、スリーブ70において、ステントグラフト部61の外周に固着されている前記部分の位相は略0°であり、矩形シート70Sの両側を操作ワイヤ80で縫合(なみ縫い)してなる前記部分の位相は略180°である。
【0114】
デリバリシステム300を構成する操作ワイヤ80は、縮径状態のステントグラフト部を内包するスリーブ70を形成するために、矩形シート70Sの両側を縫合(なみ縫い)している。
操作ワイヤ80による縫合は抜糸可能であり、操作ワイヤ80の基端を引張操作することによって、当該操作ワイヤ80スリーブ70から引き抜くことができる。操作ワイヤ80が完全に引き抜かれることにより、スリーブ70は元の矩形シート70Sとなり、スリーブ70による拘束が解除されたステントグラフト部は拡径状態となる。
【0115】
図10に示すように、操作ワイヤ80は、その基端側において、
図8および
図9に示した分枝固定具40の丸穴48に挿通されている。
分枝固定具40の丸穴48の位相は、矩形シート70Sの両側を操作ワイヤ80で縫合(なみ縫い)してなる前記部分の位相(略180°)と実質的に一致している。
すなわち、操作ワイヤ80は、スリーブ70の先端から、分枝固定具40の丸穴48に挿通されるまで、その位相(周方向位置)が実質的に変化していない。
【0116】
図10では図示していないが、操作ワイヤ80の先端は、先端チップ30に形成されている非貫通孔38(
図4Bおよび
図7参照)の何れかに収容されることにより、引き抜き可能に保持されている。また、操作ワイヤ80の基端81には、クリップ90が固定されている。
【0117】
デリバリシステム300を構成するグリップ90は、
図10に示したデリバリシステム300の使用前の状態において、スリーブ70に嵌挿されてその基端に位置している。
デリバリシステム300の使用時において、グリップ90は、スリーブ70から取り外され、操作ワイヤ80の基端81を引張操作する際の把持部となる。
【0118】
本実施形態のデリバリシステム300の使用方法の一例を示せば、先ず、クリップ90をスリーブ70から取り外し、大動脈治療装置60のカフ部63を翻転させた状態で、スリーブ70によって縮径状態に拘束されているステントグラフト部61を、大動脈弓部切除後の離断部から、遠位側大動脈(大動脈下行部)に挿入し、グリップ20を押し込んで、当該ステントグラフト部61を目的部位に向けて搬送する。
このとき、先端チップ30の拡径部31の最大径D1 が、縮径部態のステントグラフト部61の外径d61より大きいので、このステントグラフト部61の先端が血管内壁に直接
接触することはなく、ステントグラフト部61の先端によって血管の内壁が傷付けられることはない。
【0119】
ステントグラフト部61を目的部位に到達させた後、グリップ20を固定した状態で、クリップ90を把持して操作ワイヤ80の基端を引張操作する。
これにより、先端チップ30の非貫通孔38に収容されていた操作ワイヤ80の先端が当該非貫通孔38から引き抜かれ、その後、操作ワイヤ80は、スリーブ70の先端から基端に向かって当該スリーブ70から順次引き抜かれ、スリーブ70は、その先端から基端に向かって順次展開されてステントグラフト部への拘束を解除し、ステントグラフト部61は、その先端から基端に向かって順次拡径する。この結果、拡径状態のステントグラフト部61が遠位側大動脈に留置される。
【0120】
ここに、操作ワイヤ80の位相(周方向位置)は、スリーブ70の先端から分枝固定具40の丸穴48に挿通されるまで実質的に変化しないため、拡径しようとするステントグラフト部61には、軸方向の引張力のみが作用し、円周方向の力が作用しないので、拡径されたステントグラフト部61が捩じた状態で目的部位に留置されるようなことはない。この結果、捩じれに伴うステントグラフト部61の閉塞や人工血管部の側管が所期の方向に指向されないなどの不具合を防止することができる。
【0121】
次いで、大動脈治療装置60(ステントグラフト部61および人工血管部66)からデリバリシャフト100を抜去する。
このとき、先端チップ30の拡径部31の最大径D1 が、ステントグラフト部61の拡径状態の内径の80%以下であることにより、目的部位に留置されているステントグラフト部61が血管内壁により圧縮されてある程度(例えば、圧縮されずに拡径した場合の20%程度)縮径している場合であっても、当該ステントグラフト部61から、先端チップ30を備えたデリバリシャフト100を確実に抜去することができる。
【0122】
次いで、翻転しているカフ部63の開口端631の位置を遠位側大動脈の近位端の位置と略一致させる。次に、ステントグラフト部61を拡径させて遠位側大動脈に留置させる。その後、遠位側大動脈の近位端部と、カフ部63とを、縫合糸で縫合することによって、遠位側大動脈と人工血管部66とを吻合する。
【0123】
以上、本発明のデリバリシャフトおよびデリバリシステムについての実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、先端チップの拡径部の拡径率が一定であってもよい。
また、デリバリシャフトは分枝固定具を有していなくてもよい。
また、シャフト本体および先端チップにガイドワイヤルーメンが形成されていなくてもよい。
また、デリバリシステムを構成する大動脈治療装置の人工血管部は側管を有してなくてもよい。
また、デリバリシステムを構成する大動脈治療装置はステントグラフトのみからなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0124】
100 デリバリシャフト
10 シャフト本体
10A 先端領域
10B 中間領域
10C 基端領域
11 チューブ部材
11Lルーメン
12 被覆層
13(131~134)芯材
14 補強層
15 樹脂被覆層
16 フレア部
20 グリップ
30 先端チップ
30L 貫通孔
31 先端チップの拡径部
35 先端チップの最先端部
37 先端チップの円筒部
38 非貫通孔
40 分枝固定具
44 丸穴
46 長穴
48 丸穴
300 デリバリシステム
60 大動脈治療装置
61 ステントグラフト部
611 ステント
612 グラフト
63 カフ部
631 カフ部の開口端
66 人工血管部
661 主管
662~665 側管
666 人工血管部の遠位端
70 スリーブ
70S 矩形シート
70CL 矩形シートの中心線
80 操作ワイヤ
90 クリップ